説明

電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物

【課題】ポリエチレン系樹脂電線被覆絶縁材料における電気的特性を、異物の生成・混入の抑止によって充分に向上させ、併せて、押出成形性や耐熱性及び機械的強度や製品外観などもバランスよく改良させる。
【解決手段】クロム化合物を無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合することにより得られる、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であって、
(a)密度0.91g/cm〜0.94g/cm
(b)メルトフローレイト0.1g/10分〜5g/10分
(c)直径0.1mm〜0.3mmのフィッシュアイが70個/g以下
直径0.3mmを超えるフィッシュアイが10個/g以下
の性状を満たす直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)99〜40質量%及びポリオレフィン系樹脂(B成分)1〜60質量%からなる電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物に関し、詳しくは、樹脂組成物の主成分にフィッシュアイやブツなどの異物が少ない直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を用いて、電気的特性や耐ストレスクラック性に優れ、押出成形性や耐熱性及び機械的強度ないしは製品外観などが改良された、電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物及びその組成物を用いた電線と電力ケーブルに係るものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系樹脂材料は、その優れた絶縁特性や機械的物性及び易成形性や経済性などからして、従来の油浸紙やゴム材料に代わり、電線・電力ケーブルなどの被覆層や絶縁層として電線材料の用途に広く用いられている。
このような用途では、ポリエチレン系樹脂材料として、機械的強度や耐熱性を向上させるために架橋性ポリエチレンや複合材料としてのポリエチレン系樹脂組成物が主として用いられ、これらは主に絶縁体として電圧や電界が印加されて使用されるため、高い絶縁破壊強度や長期使用時の耐久性の指標である耐トリー性などが要求される。
【0003】
電線材料としてのポリエチレン系樹脂材料の絶縁破壊強度や耐久性についてはこれまでに詳細な研究がなされており、主として、ポリエチレン系樹脂中の異物を起点として、それが要因となって、電気的な物性の劣化(絶縁破壊やトリーの発生)が進行することが知られている(非特許文献1を参照)。当文献の電力ケーブル(CVケーブル)に関する解説では、異物の大きさと破壊電界強度との相関関係が報告されており、電力ケーブルの電気性能の劣化が絶縁樹脂層における異物や突起に起因し、それらのレベルの制御によって電力ケーブルの性能が向上することが示されている。
一般に、ポリエチレン系樹脂材料を被覆した絶縁電線及び電力ケーブルは、湿潤雰囲気で高温度でしかも高電圧下などで長期間使用すると、樹脂材料中の異物や突起などの耐高電界欠陥部に水分が凝集し、その凝集した水分によりポリエチレン系樹脂被覆絶縁層内に湿気によるトリー状浸蝕が発生し、それらが進行すると電気絶縁性能が劣化してしまう。
【0004】
電線被覆用又は絶縁用樹脂材料においては、その材料性能として高い絶縁破壊強度や長期使用時の耐トリー性などが厳しく要求されるため、ポリエチレン系樹脂電線材料における異物や突起の混入と生成をできるだけ減少させ、それらによる電気的性能の劣化を抑止することが重要となり、それを目指す非常に多数の研究開発が多観点からなされ提示されている。
【0005】
代表的な改良手法として、電線被覆成形の観点からして、クリーンルームを備えた電力ケーブル被覆成形設備を用いることにより、空気中に浮遊する塵や埃などの微小異物の被覆樹脂層への混入を避ける方法(特許文献1)、多段の押出機を用いて、第1段押出機で異物を除去し、第2段押出機でベース樹脂に架橋剤や老化防止剤及び架橋助剤を混練し、絶縁破壊の起点となる焼けと呼ばれる微小異物の生成を抑制する方法(特許文献2)、押出機に多段のスクリーン部材を設けて、ポリエチレン樹脂中に存在する異物を除去する装置(特許文献3)、押出機にスクリーン部材を設けて異物を除去し、早期架橋の防止によりスクリーン部材の目詰りを低減する方法(特許文献4)などが提示されている。
【0006】
ポリエチレン系樹脂材料の改良の観点からしては、代表的な提案として、絶縁体中に異物やボイドなどが存在しても水トリーの発生を抑止することを目的として、ポリエチレン系樹脂にスチレン・マレイン酸共重合体を配合させる樹脂組成物(特許文献5)、ポリ塩化ビニルをグラフトしたポリオレフィン系樹脂成分にメチルメタクリレート系と二塩基酸グリコールとの縮合物及びタルクを配合した、電線シース表面にフィッシュアイが生じない難燃性樹脂組成物(特許文献6)、絶縁層中に異物やボイドなどが存在しても耐トリー性を向上させるために、ポリエチレン系樹脂にスチレン・無水マレイン酸・アリルエーテル共重合体を配合させる樹脂組成物(特許文献7)、絶縁体中の異物やボイドなどを減少させて水トリーを減少させることを目的とした、エチレンとヘキセン−1の共重合体で融点が120℃以上の直鎖状ポリエチレンを主体とする樹脂組成物(特許文献8)、などが提示されている。
【0007】
樹脂材料における充填剤の凝集による異物化を避ける観点から、添加する無機絶縁粉末としての充填剤に、ビニル系シランカップリング剤による表面処理を施して充填剤の凝集を避ける方法の対応もなされている(特許文献9)。
【0008】
さらに、ポリエチレン系樹脂の触媒残渣が異物として残存する時も電気的特性に悪影響を与えることが知られており、特に、直鎖状低密度ポリエチレンは、高圧法低密度ポリエチレンに比較して引張強度や耐衝撃性などの機械物性及びクリープ性や耐ストレスクラック性などの耐久性に優れているにも関わらず、その製造工程上、触媒残渣を必ず含みその異物により電気的特性が低下し、電線・電力ケーブルには用途が広がらない問題を抱えている。
この問題が存在しているとしても、比較的分子量分布が広く電線・電力ケーブルなどの押出成形に好適であるといえる、クロム系触媒を担持した担体が使用され、担体の粒径を選択した気相重合法で製造される直鎖状低密度ポリエチレンは、古くから知られ(特許文献10及び11)、特に、クロム系触媒により製造される一部の直鎖状低密度ポリエチレンは、有機過酸化物や有機シラン化合物を用いて架橋され、水トリー性抑止剤を使用して、電線又はケーブル用として利用されている(特許文献12及び13)。
しかし、従来のクロム含有触媒を用いた気相重合による直鎖状低密度ポリエチレンは、かなり大きな粒径の無機酸化物多孔体からなる担体(シリカ担体など)を用いているため、担体が触媒残渣として残存し、フィッシュアイの生成の要因となり、電線及び電力ケーブル用途に使用する場合には、異物として影響するために、電気的特性が劣化してしまう。
なお、触媒残渣を低減させるために、シングルサイト触媒を利用して、低密度ポリエチレンとシングルサイト触媒を用いて共重合したエチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体及び/又はシングルサイト触媒を用いて共重合したエチレン・αオレフィン共重合体を成分とする樹脂組成物も提案されている(特許文献14)。
【0009】
触媒残渣を低減するには、段落0005に前記した、押出機におけるスクリーン部材による残渣の捕集も効果的であると考えられるが、残渣量が極めて多くなるため、押出機の押出負荷が大きくなり、スクリーンメッシュの目詰まりの頻発や押出性の低下など、成形工程での別の問題点が解決されない。
又、ポリエチレン系樹脂中の触媒残渣を低減する方法については、触媒活性を高めることによる結果的な触媒残渣の低減の方法もあるが、既に実用化されているチタン系のチーグラー・ナッタ触媒及びクロム系のフィリップス触媒さらには実用段階に入っているメタロセン触媒においては、生産性がほぼ確定されており、今後における触媒活性の大幅な向上は期待ができないのが現状である。
【0010】
【非特許文献1】神永建二:電気学会論文誌B 114巻10号 平成6年 964−968頁
【特許文献1】特開平7−95712号公報(要約)
【特許文献2】特開平5−67406号公報(要約、特許請求の範囲請求項1)
【特許文献3】特開平7−240123号公報(要約)
【特許文献4】特開平8−298032号公報(要約、段落0008)
【特許文献5】特開平5−325652号公報(要約)
【特許文献6】特開平9−52998号公報(要約)
【特許文献7】特開2001−256833号公報(要約)
【特許文献8】特開2002−289043号公報(要約)
【特許文献9】特開平5−314818号公報(要約、段落0007〜0008)
【特許文献10】特開昭46−3446号公報(特許請求の範囲)
【特許文献11】特開昭51−112891号公報(特許請求の範囲の1.)
【特許文献12】特開昭54−129042号公報(特許請求の範囲(1))
【特許文献13】特開昭54−129382号公報(特許請求の範囲(1))
【特許文献14】特開2000−53815号公報(要約、段落0006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
背景技術として段落0002〜0003に前述したように、ポリエチレン系樹脂材料は、その優れた絶縁特性や機械的物性などにより、電線・電力ケーブルの被覆絶縁材料に重用されているが、その用途においては、高い絶縁破壊強度や耐トリー性などが非常に重要であって、これらの性能は主として樹脂材料中に生成・混入される異物に起因して低下するため、異物の生成・混入を抑止する多数の改良技術が、電線被覆成形やポリエチレン系樹脂材料の改良などの観点から開示され、絶縁破壊強度や耐トリー性などを向上させるのに寄与している。
しかし、ポリエチレン系樹脂被覆絶縁材料については、段落0005〜0009に記述した従来技術において、異物の生成・混入の抑止による絶縁破壊強度や耐トリー性などの電気的特性の向上が、なお充分に成されているとはいえず、それらの性能に併せて、同様に重要な性能というべき成形性や機械物性などの性能までも改良されるには至っていないといえる現状を鑑みて、本発明は、ポリエチレン系樹脂被覆絶縁材料における絶縁破壊強度や耐トリー性などの電気的特性を、異物の生成・混入の抑止によって充分に向上させ、併せて、押出成形性や耐熱性及び機械的強度や製品外観などの他の性能もバランスよく改良させることを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる発明の課題の解決を目指して、本発明者らは、ポリエチレン系樹脂被覆絶縁材料における、樹脂材料や組成物成分要素ないしはポリエチレンの重合条件や重合触媒あるいは押出被覆成形条件や異物の生成混入の原因などに至るまで、詳細に勘案考察し実験的に試行検討を行った。
それらの過程において、クロム系触媒を担持した担体の粒径を選択して気相重合法で製造される直鎖状低密度ポリエチレンは、触媒残渣による異物の問題が存在しているとしても、比較的分子量分布が広く電線・電力ケーブルなどの押出成形に好適であるといえ、さらに高圧法低密度ポリエチレンに比較して引張強度や耐衝撃性などの機械物性及びクリープ性や耐ストレスクラック性などの耐久性に優れているので、かかる直鎖状低密度ポリエチレンを改良することを検討し、その製造工程上、触媒残渣を必ず含みその異物により電気的特性が低下する問題を解決する手法を探求し、直鎖状低密度ポリエチレン中の触媒残渣の性状を追究した。併せて、ポリエチレン系樹脂中の異物の生成混入の抑止をなすために、微小異物や、いわゆる樹脂焼けと称される不純物(樹脂の熱劣化による炭化物の凝集体)などの生成原因と混入経路などの検討をも行った。
【0013】
それらの結果として、(1)電気的性能に大きな影響を与える樹脂中の異物については樹脂中のフィッシュアイと密接に関連し、そのフィッシュアイを生起させる大きな要因が触媒残渣あるいは樹脂焼けや工程上で混入してくる微小異物さらには生成ゲルなどに起因することに着目し、特に、平均粒径を制御した触媒担体を用いることにより、フィッシュアイの大きさと生成量を特定量以下に制御でき、フィッシュアイを低減してその大きさと存在量とを規定すれば、樹脂中の不純物を減少させ得ることができること、又、(2)触媒担体の平均粒径を制御すれば、スクリーンメッシュなどにより成形工程などで触媒残渣を低減することができること、さらに、(3)クロム系触媒を担持した担体による気相重合法で製造される直鎖状低密度ポリエチレンを主成分として密度などの物性を適切に規定し、又、高・低密度ポリエチレンやポリプロピレン樹脂などの他の適切な樹脂を選択し組み合わせて樹脂組成物とすれば、押出成形性や耐熱性及び機械的強度や製品の表面平滑性などの他の性能もバランスよく改良させ得ることなどを知見することができ、本発明の基本構成を形成するに至った。
【0014】
この様な多観点からの構成要素を組み合わせて新規な発明構成を形成し、ポリエチレン系樹脂被覆絶縁材料における絶縁破壊強度や耐トリー性などの電気的特性を、異物の生成・混入の抑止によって充分に向上させ、併せて、押出成形性や耐熱性及び機械的強度や製品外観などの他の性能もバランスよく改良させることができるのは、顕著な改良手法といえるものであり、この様な複合的な着想は、段落0005〜0009に記述した従来技術としての各先行文献の記載からは何ら示唆もされないものである。
【0015】
本発明の構成は、基本的には、無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いた、気相重合で得られる直鎖状低密度ポリエチレンにおいて、その担体の平均粒径を特定範囲に制御した触媒を用いることにより、フィッシュアイの大きさと生成量を特定量以下に制御し、ポリエチレン中の異物であるフィッシュアイの大きさおよび存在量を大幅に低減させた直鎖状低密度ポリエチレン(A成分)と、他のポリオレフィン系樹脂(B成分)とからなる樹脂組成物であって、具体的には、技術的な考察や実験的検討により、後述する各実施例及び各比較例のデータなどに基いて形成されたものであり、ポリエチレン系樹脂としては、少なくともクロム化合物を無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合で得られる、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体を採用し、密度やメルトマスフローレイト(MFR)及びフィッシュアイの大きさと存在量を数値的に規定し、樹脂組成物としての樹脂材料や組成比及び密度やメルトマスフローレイト(MFR)をも特定し、さらに、共重合体のモノマー比やモノマー成分、あるいは共重合体中の灰分や触媒担体の平均粒径、共重合体の平均粒径や組成物構成樹脂の成分比、さらには、架橋剤や架橋法まで選定するものである。
【0016】
以上においては、本発明が創作される背景及び経緯と、本発明の基本的な構成及び特徴について概括的に記述したので、ここで本発明の全体を俯瞰すると、本発明は次の発明単位群から構成されるものであって、[1]の発明を基本発明として、[2]以下の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。なお、[1]〜[12]の発明群全体をまとめて「本発明」という。
【0017】
[1]少なくともクロム化合物を無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合することにより得られる、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であって、
(a)密度0.91g/cm〜0.94g/cm
(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分
(c)直径0.1mm〜0.3mmのフィッシュアイが70個/g以下、かつ
直径0.3mmを超えるフィッシュアイが10個/g以下
の性状を満たす直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)99〜40質量%及びポリオレフィン系樹脂(B成分)1〜60質量%からなる組成物であり、その組成物が
(i)密度0.91g/cm〜0.94g/cm
(ii)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分である性状を有することを特徴とする電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[2]エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体が、エチレン70〜99質量%と炭素数3〜20のα−オレフィン1〜30質量%を共重合した共重合体であることを特徴とする、[1]における電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[3]α−オレフィンが短鎖分岐α−オレフィンであり、架橋性コモノマーがさらに共重合されたことを特徴とする、[2]における電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[4]直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)中の灰分が0.03%以下であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[5]少なくともクロム化合物を、平均粒径が10μm以上50μm未満であり、100μm以上の粒径が10%未満である無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合することを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[6]少なくともクロム化合物を、平均粒径が10μm以上50μm未満であり、20μm以下の粒径が30%未満である無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[7]直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂が、平均粒径0.2mm〜1.5mmの粉粒形状であることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[8]ポリオレフィン系樹脂(B成分)が、ポリエチレン系樹脂(B1)及び/又はポリプロピレン系樹脂(B2)1〜60質量%であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[9][1]〜[8]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物100質量部に対して、カーボンブラックを0.1〜5質量部配合してなることを特徴とする、電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[10][1]〜[9]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物に、不飽和アルコキシシラン化合物と有機過酸化物及び必要によりシラノール縮合触媒を配合してなることを特徴とする、電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[11][10]における電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物を有機過酸化物の分解温度以上に加熱して製造されたことを特徴とする、水架橋性の電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
[12][1]〜[11]のいずれかにおける電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物を被覆層及び/又は絶縁層に用いたことを特徴とする、電線ないしは電力ケーブル。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用い、気相重合で得られる直鎖状低密度ポリエチレンにおいて、異物としてのフィッシュアイの大きさ及び生成量を大幅に低減させ、他のポリオレフィン系樹脂(B成分)とからなる樹脂組成物として、電線・電力ケーブルを被覆することにより、電線・電力ケーブルにおいて、絶縁破壊強度や耐トリー性などの電気的性能及び耐ストレスクラック性に優れ、押出特性や耐熱性及び機械的強度や製品表面の平滑性などもバランスよく改良される。
又、ポリエチレン系樹脂中のフィッシュアイが少なく、かつ小さいので、押出成形機のスクリーンメッシュの交換頻度も低減され、電線などの被覆ないし絶縁成形における操業運転を長期に安定的にできるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明については、その課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って概括的に前述したが、以下においては、前述した本発明群の発明の実施の形態を具体的に詳しく説明する。
【0020】
(1)直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)
i)基本要件
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂としては、比較的分子量分布が広く電線・電力ケーブルなどの押出成形に好適であるといえ、さらに高圧法低密度ポリエチレンに比較して引張強度や耐衝撃性などの機械物性及びクリープ性や耐ストレスクラック性などの耐久性に優れている、クロム系触媒を担持した担体の粒径を選択して気相重合法で製造される直鎖状低密度ポリエチレンを採用する。
当樹脂の耐熱性や機械的な強度あるいは架橋性などを向上させるために、本発明においては、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を他のα−オレフィンとの共重合体として使用する。
なお、本明細書においては、電線・電力ケ−ブルを総称して電線と表記し、樹脂組成物を被覆層及び/又は絶縁層に用いた電線を総称して被覆絶縁電線と表記することがある。
【0021】
ii)共重合体
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン(A成分)は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であって、好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィンが選択される。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられ、これらのコモノマーから1種又は2種以上のコモノマーを選ぶことができる。
好ましい共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体などの、二元又は三元共重合体が使用できる。
さらに、本発明の樹脂組成物の被覆・絶縁層を架橋する際に、架橋剤による架橋効率を高めるために、特に短鎖分岐のα−オレフインの場合には、ブタジエン、ジビニルベンゼン、ペンタジエンのような架橋モノマーをコモノマーとして導入することも可能であり、高度な架橋により耐熱性や絶縁性が向上し電線用被覆材料としての有用性を高めることになる。
【0022】
これらのコモノマーの含有量は、エチレン70〜99質量%に対してコモノマーの量を1〜30質量%、好ましくは、エチレン75〜98質量%に対してコモノマーの量を2〜25質量%、より好ましくはエチレン80〜97質量%に対してコモノマーの量を3〜20質量%を共重合する。
【0023】
コモノマーの種類及び導入量(含有量)は、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体の密度及びMFRに大きく影響する。コモノマーの量が多くなれば、それに比例をして、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体の密度などが低下するので、本発明で規定するコマノマーの密度及びMFRの範囲を維持するために、コモノマーの種類及び重合条件などを考慮して、コモノマーの導入量を調整する必要があるが、慣用の重合技術を調整すれば、これは容易に設計することができる。
密度については、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンと炭素数が多くなれば、短鎖分岐が長くなるので、密度が単調に低下する傾向にある。このような微妙な変化に対応して、特定の担持触媒及び気相重合を用いて、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体の所要の密度及びMFRのものを重合することができる。
【0024】
iii)共重合体の密度
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体においては、電線・電力ケーブル被覆絶縁層における樹脂組成物としての機械的強度や耐熱性及び柔軟性や可撓性を向上させるために、密度は0.91g/cm〜0.94g/cmに特定される。
密度は、JIS K6922−1(1997)、JIS K6922−2(1997)により水中置換法で測定される。
上記の密度は、好ましくは0.915〜0.935g/cmである。場合によっては、密度が0.921g/cm、0.928g/cmのような、密度0.92g/cm〜0.93g/cm程度の範囲のものを使用することも何ら支障とならない。
密度が0.91g/cm未満では、機械的強度や耐熱性などが低下する惧れが生じる。密度が0.94g/cmを超えると、柔軟性や可撓性あるいは低温特性などが劣るものとなる惧れが生じる。
【0025】
iv)共重合体のメルトマスフローレート(MFR)
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体においては、電線・電力ケーブル被覆絶縁層を成形加工する際に、樹脂組成物としての押出成形性や溶融張力の観点から、MFRは0.1g/10分〜5g/10分に特定される。
MFRは、JIS K6922−2(1997)、条件D(190℃、21.18N)で測定される。
上記のMFRは、好ましくは0.1〜3g/10分、さらに好ましくは、0.5〜2g/10分の範囲である。MFRが0.1g/10分未満では、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体の特有の性質である、成形加工時の押出性が悪化し、5g/10分を超える場合には、成形加工時の溶融張力が低下する惧れが生じる。
本発明の共重合体において、特定の密度を有すると共に、MFRも特定化されていることは、着色性や押出成形性を含めた、電線被覆材料という特定の用途に供するにおいて、一体となった必須の要件である。
【0026】
v)共重合体のフィッシュアイ
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体においては、電線・電力ケーブル被覆絶縁層としての樹脂組成物における、異物をできるだけ低減して電気的特性を高めるために、共重合体のフィッシュアイについて規定される。
フィッシュアイとは、ポリエチレンなどの樹脂において、ゲル又は異物を核として凝集した粗大ポリマー粒子としてよく知られ、ポリマーを成膜したときにフィルム中に異物として残り、フィルム性能を悪化させるものであるが、電線・電力ケーブル被覆絶縁層としての直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂における電気特性と関連付けては従来に検討はされていない。(なお、段落0006に前記したように、特許文献6では、電線シース表面にフィッシュアイが生じない難燃性樹脂組成物が開示されているが、外観向上のためにフィッシュアイを生じせしめないことを指向しているだけで、それとの電気特性の関連は具体的に記載されていない。)
本発明においては、電気的性能に大きな影響を与える樹脂中の異物については樹脂中のフィッシュアイが密接に関連し、そのフィッシュアイを生起させる大きな要因が触媒担体や触媒残渣あるいは樹脂焼けや工程上で混入してくる微小異物さらには生成超高分子ゲルなどに起因することに着目し、主として、その担体の平均粒径を制御した触媒を用いることにより、フィッシュアイの大きさと生成量を特定以下に制御でき、その結果として、フィッシュアイを低減して大きさと存在量とを規定すれば、樹脂中の不純物を減少させ得ることができることを認知して、発明の主要な構成要件とするものである。
【0027】
本発明の共重合体におけるフィッシュアイについては、電線・電力ケーブル被覆絶縁層としての樹脂組成物における、異物をできるだけ低減して電気的な特性を高めるために、実施例と比較例などの実験データを基にして、直径0.1mm〜0.3mmのフィッシュアイ(FE)が70個/g以下、かつ直径0.3mmを超えるFEが10個/g以下と規定される。ここで直径とは、フィッシュアイを円形ないしはほぼ円形と見なしての直径ないしは大略の直径を意味する。
FEが上記の個数を超える場合には、電線・電力ケーブルの電気的特性の品質低下を招くことになり、又、押出機内に設けたメッシュが詰まり易くなり、連続運転性が低下することにもなる。
好ましくは、直径0.1mm〜0.3mmのFEが60個/g以下、かつ直径0.3mmを超えるFEが7個/g以下、さらに好ましくは直径0.1mm〜0.3mmのFEが50個/g以下、例えば40個以下、30個以下、10個以下、かつ直径0.3mmを超えるFEが5個/g以下、例えば、4個、3個、2個、1個、場合によっては、0個のような、いずれの直径のFEもできる限り低い状態にするのが理想的ではある。しかし、あまりに限りなく少なくすることには技術的に限界がある。
【0028】
本発明のフィッシュアイ(FE)の測定方法は、口径40〜50mm及びL/D20〜26の単軸押出機を用い、シリンダー温度160〜200℃、ダイス温度180〜220℃の成形温度で、圧縮比2.5〜3.5のフルフライトスクリューにて回転数60〜80rpm以下の条件で、ブロー比2〜3及び厚み20〜30μmのインフレーションフィルムを成形した後、1,000〜2,000cmの面積に含まれる直径0.1mm〜0.3mm、及び0.3mmを超える異物の個数をそれぞれ測定し、測定フィルム質量(g)当りの個数で表す。
【0029】
vi)共重合体の灰分
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体中の灰分は、JIS K2272(1998)により測定され、0.03%以下であることが好ましい。より好ましく0.025%以下、さらに好ましくは0.02%以下である。
灰分が0.03%を超えると、押出機にスクリーンメッシュを用いた場合の押出性が低下し、電気的性能も低下する傾向にある。灰分を下げる方法は、一般には重合活性を上げることで達成できる。
【0030】
(2)直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)の製造
i)製造方法
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の共重合体と同義である)は、少なくともクロム化合物を無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて、重合温度は30〜110℃、好ましくは75〜95℃の範囲で選択され、圧力は5〜70atm、好ましくは10〜50atmの範囲で選択される重合条件で気相重合により製造される。
そして、以下に詳述する重合方法や重合条件及び重合触媒や触媒担体を組み合わせて使用することにより、「(a)密度0.91g/cm〜0.94g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)直径0.1mm〜0.3mmのフィッシュアイが70個/g以下、かつ直径0.3mmを超えるフィッシュアイが10個/g以下」の性状を満たす、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体を製造することができる。
フィッシュアイの具体的な制御法は、段落0034に記述され、密度とMFRは段落0023の記載のように、また、分子量調整などの通常の方法にて制御される。
【0031】
ii)クロム含有触媒
クロム含有触媒は、少なくともクロム化合物を含有し、クロム化合物を必須とする担持触媒であって、例えば、クロム化合物とチタン化合物及び/又はフッ素化合物を乾燥担体に担持させ、ついで生じた複合組成物を不活性ガス又は乾燥空気中で100〜300℃の温度で乾燥することにより形成され、乾燥空気又は乾燥酸素中で250〜1,000℃の温度で約6時間程度で活性化させた後に使用されるものである。
クロム化合物としては、酸化クロム、クロムアセチルアセトナト、硝酸第二クロム、酢酸第二クロム、塩化第二クロム、硫酸第二クロム及びクロム酸アンモニウム、さらにはビス(シクロペンタジエニル)クロム(II)、これらのマグネシウム−チタン複合体などが例示される。
【0032】
iii)気相重合法
気相重合法としては、特に限定されるものではなく、通常のポリオレフィンにおける重合法を使用すればよいが、好ましくは、前記した特許文献11及び特開昭61−106610号などの各公報に示されているクロム含有触媒を用いた重合方法を利用できる。
気相重合法にクロム含有触媒を用いることにより、チタン系触媒やメタロセン系触媒による重合と比較して、分子量分布が広く電線・電力ケーブルの押出成形性の良好な直鎖状低密度ポリエチレンが得られ、かつ、触媒活性が高いため異物の原因となる担体シリカの含量を減らすことができる。
このような触媒の選定が、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の電線用材料としての有用性を著しく高めている。
【0033】
iv)担体
本発明の重合方法における、上記のクロム化合物を担持する担体としては、無機酸化物多孔体が使用され、平均粒径が10μm以上50μm未満、かつ100μm以上の粒径が10%未満の担体の使用が好ましく、より好ましくは平均粒径が20μm以上50μm未満、かつ100μm以上の粒径が5%未満の担体であり、さらに好ましくは、20μm未満の粒径が30%未満のものである。
詳細には、平均粒径が10μm以上50μm未満において、例えば、好ましくは20〜50μm、30〜50μmのような範囲のものであり、かつ100μm以上という大きい粒径が10%未満、8%未満、6%未満、5%未満、具体的には0〜4%以下、より好ましくは90μm以上という大きい粒径が10%未満、特に好ましくは80μm以上という大きい粒径が10%未満というように、非常に少なくすることが適正であるが、そのような粒径範囲を有するものを得ることは技術的には難しい。
【0034】
担体の平均粒径が10μm未満では、担体として微細すぎるので取り扱いが容易ではなく、気相重合における流動床での対流が困難で、重合安定性が損なわれる惧れがある。又、実質的にスクリーンメッシュで取り去ることが難しくなり、全ての担体がすり抜けて製品中に混入し、その結果電気的性能が低下する惧れがある。
担体の平均粒径が50μmを超えると、フィッシュアイの大きさと存在量が大きくなり、被覆絶縁層の電気的性能が低下するので好ましくなく、押出機にスクリーンメッシュを用いた場合の押出負荷が高くなって、押出性能も低下する惧れがある。100μm以上の粒径が10%を超えると、同様に電気的性能や押出性が低下する惧れがある。20μm未満の粒径が30%を超えると、同様に担体がスクリーンメッシュをすり抜け易く、電気的性能が低下する惧れがある。
なお、該無機酸化物多孔体は、比表面積が50〜1,000m/g、細孔直径が50〜500Å、細孔容積が0.5〜3.0cc/gの範囲のものを選択することが好ましい。
ところで、前述したように、一般にポリエチレンのフィッシュアイは、当該ポリエチレンを製造する際に発生する超高分子量のゲル成分や酸化劣化物のヤケあるいは触媒担体の無機酸化物多孔体などを核として生じるが、これら核のうち、特に無機酸化物多孔体に起因するフィッシュアイの大きさと生成量が電気的性能に最も影響を与えるものと考えられるので、本発明のフィッシュアイは、主として無機酸化物多孔体を核とするものを制御することが特に好ましい。本発明の電線用直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂のフィッシュアイを制御するためには、前記無機酸化物多孔体の担体の平均粒径が10μm以上50μm未満、かつ100μm以上の粒径が10%未満である担体を選択して、容易にフィッシュアイの大きさと存在量を制御することが可能である。
【0035】
無機酸化物多孔体としての、担体の具体例としては、タルク、シリカ、チタニア、アルミナ、マグネシア、シリカチタニア、シリカアルミナ、シリカマグネシア、シリカクロミア、シリカクロミアチタニア、シリカチタニアアルミナ、トリア、ジルコニア、シラン化シリカ、リン酸アルミニウムゲル及びこれと類似のその他の無機酸化物多孔体、さらにこれら担体の混合物などが挙げられ、上記の性状を有する範囲で特に制約はないが、より具体的には、例えばグレース・ジャパン社製のシリカ担体のサイロポール948などの微粒子タイプを篩分けにより平均粒径50μm以下にして、かつ100μm以上の粒径のものをできるだけ削減させることが好ましい。一般的に、クロム系触媒で製造される直鎖状低密度ポリエチレンの気相重合法に好適に使用されているサイロポール952は、平均粒径が100μmを超え、大きすぎて好ましくない。又、これを篩分けしたとしても、平均粒径10μm以上50μm未満、かつ100μm未満の粒径が90%以上のものを得るのは難しい。
【0036】
これらシリカの平均粒径の測定法は、古くは篩分け法、光学顕微鏡法、コールタ−カウンター法、最近ではレーザー回折法などの測定方法によって得られているが、平均粒径は、質量平均径や長さ平均径であってそれぞれ大きく異なる値となる。又、シリカ担体の粒子形状は、必ずしも球状ではなく不定形であるために平均粒径の測定値はばらつくこととなるが、一般的に気相流動床の安定化のためには粒径の粗い担体を使用する必要がある。上記SYLOPOL952、EP20などの粒径はかなり大きいものである。
本発明の無機酸化物多孔体の平均粒径の測定方法は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定器を用いて粒径分布を求め、算術平均径を得る。古くから用いられる篩分け法により求められる質量平均径は、最近ではマイクロシーブによる精度の向上が図られているが、一般には50μm以下の平均粒径の測定には適しない。
【0037】
v)粉粒形状の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂共重合体
上記の製造方法で得られる直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂共重合体は、平均粒径0.2mm〜1.5mmの粉粒形状を製造することができる。気相法による直鎖状低密度ポリエチレンは、通常は平均粒径0.2〜1.5mm程度の粉粒状のグラニュールで重合槽から取り出されるが、一般的には、その後に直ちに押出機によるペレット化工程を経てペレット化し市販されている。
ペレットの場合には、押出機でのペレット化工程において、溶融混練時の剪断による担体の破壊と微細化により担体の平均粒径は低下するため、例えばフィルム用途においては、ポリエチレン樹脂中の触媒残渣や超高分子量として存在するゲル成分を押出機の剪断を大きくすることにより練り潰して微細化することが、フィッシュアイを低減する手法として一般的である。
しかしながら、電線被覆絶縁ポリエチレン系樹脂材料においては、通常には、架橋処理され、そのために粉粒形状が必要であるので、ペレット化工程を受けず、ペレット化工程を経ない粉粒形状の場合、押出機の剪断を受けないのでフィッシュアイは低減されない。
【0038】
(3)ポリオレフィン系樹脂(B成分)
i)基本要件
本発明における、ポリオレフィン系樹脂(B成分)は、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂共重合体(A成分)と共に樹脂組成物を形成するものであり、本発明の電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物において、押出成形性や耐熱性及び機械的強度や製品外観などの他の性能もバランスよく改良させるために使用されるものである。なお、フィッシュアイなどの異物が可及的に少ない材料を選択するのが好ましいことは当然のことである。
その観点からして、A成分を99〜40質量%及びB成分を1〜60質量%とする組成比にて使用される。
本発明のポリオレフィン系樹脂(B)としては、低、中、高圧法によるチーグラー系触媒、フィリップス系触媒、メタロセン系触媒などの遷移金属触媒の存在下において製造される、密度0.94〜0.97g/cmの高密度ポリエチレン、密度0.91〜0.94g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン、密度0.86〜0.91g/cmの超低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴムなどが挙げられる。又、高圧ラジカル法による密度0.910〜0.935g/cmの低密度ポリエチレン、エチレンとビニルエステルとの共重合体、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体などのエチレン系共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体などのポリプロピレン系樹脂、α−オレフィンの単独重合体又はそれらの相互共重合体などが例示される。
【0039】
ii)ポリエチレン系樹脂(B1)
イ.高密度ポリエチレン
本発明に用いられる高密度ポリエチレン(HDPE)とは、密度0.94〜0.97g/cm、好ましくは0.945〜0.965g/cm、より好ましくは、0.95〜0.96g/cmの範囲、MFR0.01〜50g/10分、好ましくは0.05〜10g/10分、より好ましくは0.1〜5g/10分の範囲である、エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体である。
α−オレフィンとしては、炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜10の範囲であって、具体的にはプロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1などを挙げることができる。これらのα−オレフィンの含有量は、0〜2モル%の範囲で選択されることが好ましい。上記密度が0.94g/cm未満では、本発明の意図する耐熱性が得られない惧れが生じる。又、密度0.970g/cmを超えるものは、可撓性や耐ストレスクラック性及び耐衝撃性などが劣るものになる可能性が生じる。又、MFRが0.01g/10分未満では加工性に問題が生じる可能性があり、MFRが50g/10分を超えると機械的強度が劣るものとなる可能性が生じる。
【0040】
ロ.直鎖状低密度ポリエチレン
直鎖状低密度ポリエチレンとしては、密度0.91〜0.94g/cm、好ましくは0.91〜0.935g/cm、より好ましくは0.91〜0.930g/cmの範囲、MFR0.01〜50g/10分、好ましくは0.05〜10g/10分、より好ましくは0.1〜5g/10分の範囲である、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体である。
α−オレフィンとしては、炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜10の範囲であって、具体的にはプロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1などを挙げることができる。これらα−オレフィンの含有量は1〜20モル%の範囲で選択されることが好ましい。
上記の密度とMFRがこの範囲であると、可撓性や引張強伸度などの機械的強度を本発明の意図する範囲内に適切に制御することができる。
【0041】
ハ.超低密度ポリエチレン
超低密度ポリエチレン(VLDPE)としては、密度が0.86〜0.91g/cm、好ましくは0.88〜0.905g/cm、MFRは0.1〜50g/10分、好ましくは0.5〜30g/10分、より好ましくは1〜20g/10分の範囲で選択される。超低密度ポリエチレン(VLDPE)は、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とエチレン・α−オレフィン共重合体ゴム(EPR及びEPDMなど)との中間の性状を有しており、好ましくは密度0.86〜0.91g/cm、示差走査熱量測定法(DSC)による最大ピーク温度(Tm)が60℃以上、かつ、好ましくは沸騰n−ヘキサン不溶分10質量%以上の性状を有する特定のエチレン・α−オレフィン共重合体であり、直鎖状低密度ポリエチレンが示す高結晶部分とエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムが示す非晶部分とを合わせ持つ樹脂であって、直鎖状低密度ポリエチレンの特徴である機械的強度と耐熱性などと、共重合体ゴムの特徴であるゴム状弾性と耐低温衝撃性などがバランスよく共存している。
α−オレフィンとしては、炭素数3〜12、好ましくは3〜10の範囲であって、具体的にはプロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1などを挙げることができる。これらのα−オレフィンの含有量は3〜40モル%の範囲で選択されることが好ましい。
【0042】
ニ.エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム
エチレン・α−オレフィン共重合体ゴムとしては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴムなどが挙げられる。これらのゴムは、本発明の組成物に適宜配合され、製品の柔軟性や表面光沢などを向上させることができる。
【0043】
ホ.低密度ポリエチレン
低密度ポリエチレン(LDPE)は、高圧ラジカル重合法によって製造されることを特徴とし、密度0.91〜0.935g/cm、好ましくは、0.915〜0.930g/cmの範囲であり、MFRは0.1〜50g/10分、好ましくは0.3〜10g/10分、さらに好ましくは0.5〜5g/10分の範囲である。
低密度ポリエチレンは、長鎖分岐を有し、溶融張力が高く、成形加工性が良好であるために、本発明の組成物に配合されることにより、押出成形時の高速化や表面光沢、製品の表面平滑性の向上が望める。溶融張力は3〜25g、好ましくは5〜20gの範囲であることが好ましい。
溶融張力は、バレル径9.50mmのキャピログラフを用い、キャピラリー長さ8.00mm、内径2.095mm、試験温度190℃、溶融樹脂の押出速度10mm/分、引取速度4m/分で測定される。
【0044】
ヘ.エチレン系共重合体
エチレン系共重合体としては、以下に具体例を挙げるが、エチレンとビニルエステル、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体、酸無水物、ビニルシランなどのコモノマーから選ばれる1種又は2種以上とのランダム、ブロック、ないしはグラフト共重合体、およびこれらの混合物などが挙げられる。これら共重合体のMFRは、0.1〜50g/10分、好ましくは0.3〜10g/10分、より好ましくは0.5〜5g/10分の範囲である。これら共重合体を要求に応じて適宜配合することにより、水トリー性、ボウタイトリー性、耐絶縁破壊性などの電気特性や柔軟性、接着性、架橋特性などの物性を向上させることができる。
【0045】
エチレン・ビニルエステル共重合体としては、高圧ラジカル重合法で製造されるエチレンを主成分とする、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体との共重合体である。これらの中でも特に好ましいものとしては、酢酸ビニル(EVA)を挙げることができる。エチレン50〜99.5質量%、ビニルエステル0.5〜50質量%、他の共重合可能な不飽和単量体0〜49.5質量%からなる共重合体も好ましく、特にビニルエステル含有量は3〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の範囲である。
【0046】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体の代表的な共重合体としては、エチレン・(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル共重合体が挙げられ、これらのコモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどを挙げることができる。又、これらエチレン・α,β−不飽和カルボン酸共重合体に金属塩を付与したアイオノマーなども挙げられる。
【0047】
エチレン・酸無水物共重合体としては、エチレンを主成分とする酸無水物との共重合体が挙げられ、具体的なコモノマーには無水マレイン酸などが挙げられる。
【0048】
エチレン・ビニルシラン共重合体としては、エチレンを主成分とする、ビニル構造を有する不飽和アルコキシシランとの共重合体が挙げられ、具体的にはビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0049】
ト.ポリプロピレン系樹脂
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン)、プロピレンと他のα−オレフィン(例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなど)、ビニルエステル(例えば、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなど)、芳香族ビニル単量体(例えば、スチレンなど)、ビニルシラン(例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメチルシランなど)との二元以上のブロック、ランダム、ないしはグラフト共重合体、およびこれらの混合物などが挙げられる。具体的には、プロピレンとエチレン及び/又は1−ブテンとのブロック、又はランダム共重合体、第1工程で結晶性ポリプロピレンを第2工程でプロピレン−エチレン共重合体エラストマーを製造する、いわゆるブロックタイプのリアクターTPOなどが挙げられる。
これらのポリプロピレン系樹脂のMFR(JIS K6921−2(1997)、230℃、21.18Nで測定)は、0.1〜100g/10分、好ましくは0.2〜50g/10分、より好ましくは0.5〜10g/10分の範囲であり、耐熱性や表面平滑性などの性能を向上させることができる。
【0050】
(4)電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物
i)組成比
本発明の電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物は、前記特定の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)99〜40質量%と他のポリオレフィン系樹脂(B成分)1〜60質量%とからなる樹脂組成物であり、好ましくは(A成分)95〜50質量%と(B成分)5〜50質量%、より好ましくは(A成分)95〜60質量%と(B成分)5〜40質量%である。具体的には(B)成分のポリエチレン系樹脂(B1)及び/又はポリプロピレン系樹脂(B2)1〜60質量%である。さらに、好ましくは(A成分)95〜50質量%と(B1)5〜50質量%、特に好ましくは(A成分)90〜60質量%と(B1)10〜40質量%である。又、(A成分)とポリプロピレン系樹脂(B2)との配合割合は、(A成分)99〜40質量%と(B2)1〜60質量%、好ましくは97〜70質量%と3〜30質量%、より好ましくは95〜80質量%と5〜20質量%の範囲である。
【0051】
ii)密度
本発明の上記組成物の密度は、0.91〜0.94g/cmの範囲、好ましくは0.915〜0.935g/cmの範囲で選択される。上記密度が0.91g/cm未満では、耐熱性が低下したものとなる惧れが生じ、0.94g/cmを超えるものは、ESCRや可撓性が悪くなり、施工性が劣るものとなる惧れが生じる。
【0052】
iii)メルトマスフローレイト(MFR)
本発明の組成物のMFRは、0.1g/10分〜5g/10分の範囲、好ましくは、0.5g/10分〜4g/10分の範囲で選択される。この範囲であると、成形加工性や機械的強度及び表面外観などが非常に良好な製品が得られるものとなる。
【0053】
iv)組成物の実施態様
本発明の好ましい具体的な実施態様を以下に示す。
イ.第1の実施態様
高圧ラジカル法低密度ポリエチレンとの組成物であり、密度0.91〜0.94g/cm、好ましくは0.912〜0.935g/cmの範囲の高圧法低密度ポリエチレンを1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%を配合することにより、押出成形性や架橋して製造される場合の架橋性が向上する。又、柔軟性や難燃剤などの無機物の保持性も向上させることができる。60質量%を超えると耐熱性が低下する惧れがある。
【0054】
ロ.第2の実施態様
高密度ポリエチレンとの組成物であり、密度0.940〜0.970g/cmの高密度ポリエチレンを1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%含むことにより、耐熱性や絶縁破壊強度が向上する。60質量%を超えると可撓性や耐ストレスクラック性が低下する惧れがある。
【0055】
ハ.第3の実施態様
直鎖状低密度ポリエチレンとの組成物であり、密度0.91〜0.94g/cmの直鎖状低密度ポリエチレンを1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%含むことにより、機械的強度や耐ストレスクラック性が向上する。60質量%を超えると押出特性や絶縁破壊強度が低下する惧れがある。
【0056】
ニ.第4の実施態様
ポリプロピレン系樹脂との組成物であり、ポリプロピレン系樹脂を1〜60質量%、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜25質量%含むことにより、耐熱性や製品表面の平滑性が向上する。60質量%を超えると、可撓性や銅害防止性能が低下する惧れがある。
【0057】
v)組成物の製造
本発明の樹脂組成物は、前記の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)と他のポリオレフィン系樹脂(B成分)を前記の配合割合で任意の順番に配合して、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーなど通常の混練機を用いて混練、造粒することによって得られる。又、A成分、B成分を製品成形時前にドライブレンドにより予め混合させた後、成形時に押出機内で溶融・混練して製品として得られる。
又、後述する不飽和アルコキシシラン、有機過酸化物、シラノール縮合触媒、カーボンブラック、その他の添加剤などの第3成分との混練性、分散性を向上させるため、A成分、及び/又はB成分の粉粒状物を用いてもよい。又、これら第3成分を予め高濃度にA成分、B成分に練り込んだいわゆるマスターバッチとしたものを、混練・造粒時や製品成形時に希釈して用いることもできる。
【0058】
vi)組成物の架橋
本発明の樹脂組成物の使用分野である電線・電力ケーブルにおいては、耐熱性を要求される用途では、被覆絶縁樹脂層は、一般に架橋して使用されている。
段落0037に記載したように、架橋剤の液状体の浸透性を高めて架橋特性を向上させるために、樹脂組成物はペレットではなく粉粒状のグラニュールが広く用いられている。特にシラン架橋物を得るためには、シラン化合物が液体のため、シラン化合物の分散浸透性を良くし、架橋反応を均一化させるために粉粒状体が好ましい。
したがって、前記した気相重合法で製造された粉粒状体をそのまま使用できるが、特に本発明の粒径の小さい担体を用いて得られる平均粒径0.2mm〜1.5mmの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の粉粒体が、フィッシュアイが小さく、少量であることから、電気性能が良好で有効に活用できる。
【0059】
具体的な架橋方法としては電子線架橋方法、有機過酸化物架橋方法、水架橋方法などが挙げられるが、これらの中でも水架橋方法が、均一な架橋と後架橋が可能であること、及び設備費が安価であることなどから最も好ましい。
水架橋方式とは、ポリエチレンにビニルトリメトキシシランなどのシラン基を有すビニル化合物を混ぜ合わせた樹脂組成物を、グラフトさせてシラングラフトポリエチレンを形成し、これにシラノール触媒などを混合させながら導体上に押出し被覆し、冷却した後、温水あるいは水蒸気などの水分の存在下で架橋させるようにしたものである。
【0060】
イ.水架橋性樹脂組成物
本発明の水架橋性樹脂組成物は、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)とポリオレフィン系樹脂(B成分)とで構成される樹脂組成物に、不飽和アルコキシシラン化合物及び有機過酸化物、必要によりシラノール縮合触媒を配合してなる電線用樹脂組成物である。
又、他の水架橋性樹脂組成物の態様は、上記の樹脂組成物に、不飽和アルコキシシラン化合物及び有機過酸化物、必要によりシラノール縮合触媒を配合してなる電線用樹脂組成物を、有機過酸化物の分解温度以上に加熱して製造される水架橋性電線用樹脂組成物である。
【0061】
水架橋方法としては、不飽和アルコキシシラン化合物及び有機過酸化物を樹脂組成物と共に有機過酸化物の分解温度以上の温度で押出成形して、不飽和アルコキシシラングラフト樹脂組成物として、別にシラノール縮合触媒と樹脂組成物と混合させた後に押出成形して混練したシラノール縮合触媒を含む水架橋性樹脂組成物とを、電線・電力ケーブルの被覆成形時に適当に混合してケーブル製品を得る方法(2工程Sioplas法)、不飽和アルコキシシラン化合物と有機過酸化物及びシラノール縮合触媒を樹脂組成物に同時に混合させた組成物とし、有機過酸化物の分解温度以上の温度で電線・電力ケーブルに被覆成形してケーブル製品を得る方法(1工程Monosil法)がある。
又、水架橋方法は、上記の本発明の水架橋性直鎖状低密度ポリエチレン樹脂組成物を用いて、有機過酸化物の分解温度以上に加熱して製造されるものであれば、混合方法は特に限定されず、例えば、事前に不飽和アルコキシシラン化合物と有機過酸化物及び直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂組成物を混合させた後に押出機に投入し、その後サイドフィーダーでシラノール縮合触媒と直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂組成物の混合物を投入し同一押出機で成形する方法、あるいは、不飽和アルコキシシラン化合物と有機過酸化物及び直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂組成物を混合させた後に押出機に投入し、不飽和アルコキシシラングラフト直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂組成物を得た後、続いて当該組成物を、シラノール触媒と直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂組成物の混合物と共に第二の押出機を用いて溶融混練し成形する方法などが使用できる。
又、水架橋の際には、酸化防止剤やメヤニ防止剤などの公知の添加剤を混合させることにより、電線・電力ケーブルの熱老化性や成形加工性を向上させることができる。
【0062】
ロ.不飽和アルコキシシラン化合物
本発明で使用する不飽和アルコキシシラン化合物としては、以下のものが挙げられる。
γ−メタアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、ジアリルジメトキシシラン、アリルフェニルジエトキシシラン、メトキシビニルジフェニルシラン、ドデセニルジプロポキシシラン、ジデセニルジメトキシシラン、ジドデセニルメトキシシラン、シクロヘキセニルトリメトキシシラン、ヘキセニルヘキソキシジメトキシシラン、ビニル−トリ−n−ブトキシシラン、ヘキセニル−トリ−n−ブトキシシラン、ビニル−トリス(n−ブトキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ペントキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ヘキソキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ヘプトキシ)シラン、ビニル−トリス(n−オクトキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ドデシルオキソ)シラン、ビニル−ビス(n−ブトキシ)メチルシラン、ビニル−ビス(n−ペントキシ)メチルシラン、ビニル−ビス(n−ヘキソキシ)メチルシラン、ビニル−(n−ブトキシ)ジメチルシラン、ビニル−(n−ペントキシ)ジメチルシラン、アリルジペントキシシラン、ブテニルジデコキシシラン、デセニルジデコキシシラン、ドデセニルトリオクトキシシラン、ヘプテニルトリヘプキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジアリル−ジ−n−ブトキシシラン、ペンテニルトリプロポキシシラン、アリル−ジ−n−ブトキシシラン、s−ブテニルトリエトキシシラン、β−メタクリルオキシエチル−トリス(n−ブトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(n−ドデシル)シランなどである。
なお、不飽和アルコキシシランは、樹脂組成物100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜3質量部配合される。
【0063】
ハ.有機過酸化物
本発明で使用する有機過酸化物としては、グラフト反応条件下でポリオレフィン系樹脂に遊離ラジカル部位を生成することができ、反応温度において6分より短い半減期、好ましくは1分よりも短い半減期を有する任意の化合物を使用でき、代表的なものとしては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3などが挙げられる。
有機過酸化物は、樹脂組成物100質量部に対して0.01〜0.75質量部、好ましくは0.02〜0.3質量部配合される。
【0064】
ニ.シラノール縮合触媒
本発明で使用するシラノール縮合触媒としては、シリコーンのシラノール間の脱水縮合を促進する触媒として使用されるものであり、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオリテート、酢酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、カプリル酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸鉄、チタン酸エステル、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ−イソプロピルチタン−エチルアミン、ヘキシルアミン、ジブチルアミン、ピリジンなどが挙げられる。
シラノール縮合触媒の配合量は、樹脂組成物100質量部に対して0.001〜10質量部程度であり、0.05〜5質量部が好ましい。
【0065】
(5)添加剤
本発明の組成物には、用途に応じてポリエチレンに一般的に使用されている酸化防止剤、スリップ剤、中和剤、耐光剤、紫外線吸収剤、メヤニ防止剤、銅害防止剤、帯電防止剤、着色顔料、充填剤などを適宜混合することができる。
例えば、本発明の樹脂組成物の100質量部に、耐熱老化性を付与する場合、フェノール系酸化防止剤を0.01〜2質量部、好ましくは0.03〜1質量部混合することにより耐熱老化性が向上する。又、本発明の組成物を電線・電力ケーブルの被覆層として屋外で用いる場合には、カーボンブラックを0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜4質量部、より好ましくは1〜3質量部混合することにより耐侯性が向上する。具体的なカーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられるが、少量の添加で高い耐侯性を得るためには平均粒径が10〜50nmのファーネスブラックなどを用いることが特に好ましい。さらに、長期にわたる成形時の押出安定性を確保するために、脂肪族アミド、脂肪酸金属塩、フッ化ビニリデン系添加剤、シリコーン系添加剤などのスリップ剤、12ヒドロキシ高級脂肪酸金属塩、フッ素エラストマーなどのメヤニ防止剤を0.01〜1質量部、好ましくは0.03〜0.5質量部混合することにより押出安定性が向上する。
カーボンブラックや着色顔料、充填剤などを混合する場合には、凝集により電気的特性に影響を与えることが懸念されるので、格別の注意が必要となる。具体的には、カーボンブラックなどを混合する場合には、分散が悪い場合にはポリエチレン系ワックスや脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩などを分散剤として使用し、本発明の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)、又は他のポリオレフィン系樹脂(B成分)に、場合によってはこれらの重合パウダーや粉砕などによる粉粒状物を用いて予め10質量%以上、場合によっては20質量%以上、25質量%以上の高濃度に配合した後ヘンシェルミキサーなどを用いて均一に混合し、続いて二軸押出機などを用いて溶融混練・造粒してマスターバッチとし、製品成形時にA成分、又はB成分と共に適当に希釈して押出機で溶融混練するなどの方法が好ましい。
【0066】
(6)電線・電力ケーブル
i)電線・電力ケーブルの態様
本発明の電線・電力ケーブルとは、本発明の樹脂組成物の粉粒体又はペレットを用いて電線・電力ケーブルの絶縁層及び/又は被覆層を形成することを特徴とするものである。
ii)他の電線・電力ケーブルの態様
他の電線・電力ケーブルの態様は、前記の水架橋性樹脂組成物を絶縁層及び/又は被覆層に用いて、水架橋したことを特徴とする電線・電力ケーブルである。
iii)その他の態様
本発明の電線・電力ケーブルは、上記の本発明の樹脂組成物を用いた電線・電力ケーブルであれば、特に限定されず、i)及びii)を組み合わせたものでもよいし、絶縁層を介して、半導電層などが設けられていてもよい。例えば、絶縁層を未架橋体の樹脂組成物とし、被覆層を架橋体とした電線・電力ケーブル、又、逆に絶縁層を架橋体の樹脂組成物とし、被覆層を未架橋体とした電線・電力ケーブルなどが挙げられる。又、本発明の電線・電力ケーブルが屋外で使用される場合には、本発明の樹脂組成物100質量部にカーボンブラックを0.1〜5質量部配合して被覆層及び/又は絶縁層とした電線・電力ケーブルなどが挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下においては、本発明をさらに具体的に説明するために、実施例及び対照する比較例を掲げて記述し、本発明の構成及び効果をより明確にして、本発明の構成の有意性と本発明の卓越性を明瞭にする。
【0068】
[実施例−1]
(直鎖状低密度ポリエチレンの製造)
1.固体触媒成分の製造
市販の多孔質シリカ(グレースジャパン(株)、サイロポール948)をASTMD1921(1996)−TEST METHOD Aの方法によりNo.230(目開き63μm)メッシュの篩で分級し、通過した微粒子側のシリカ(SiO−1)を使用した。本SiO−1の平均粒径を、堀場製作所社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA−920を用い、分散溶媒を蒸留水、屈折率1.0、形状係数1.0の条件で測定した結果、算術平均径での平均粒径は45μmであり、100μm以上の粒子は0%であった。
3リットル・ガラスフラスコに上記で得た分級シリカSiO−1を400g導入し、次いでCrO4gを2リットルの蒸留水に溶解して加えて15分間攪拌した。次いで、上澄みを除去した後、過熱しつつ窒素ガスを導入し、粉粒状になった時点で、150℃まで昇温し、さらに4時間乾燥し、クロム担持シリカ(Cr−SiO−1)を得た。その結果、この担持シリカにはクロムが0.2質量%含まれていた。
次いで、この乾燥担体400gを、3リットルのフラスコに導入し、イソペンタン1リットル、チタン酸イソプロピルを100g導入し、50℃で2時間攪拌した後、イソペンタンを留去した。さらに、(NHSiFを1g加えて、150℃で1時間窒素ガス流通下で乾燥した。室温に戻した後、窒素下で焼成管に移し、焼成炉で窒素下150℃でさらに1時間乾燥した後、窒素から乾燥空気にガスを切り替えて、350℃で2時間、さらに750℃で4時間焼成した。焼成終了後、窒素ガスに切り替えた後、ゆっくり室温に戻し、クロムとチタンの担持された固体触媒(CAT−1)を得た。この触媒中には、チタンが3.5質量%含まれていた。
【0069】
2.直鎖状低密度ポリエチレンの重合
固体触媒CAT−1を用いて、エチレンと1−ブテンの混合ガス(1−ブテン/(エチレン+1−ブテン)=7.5モル%)流体中で酸素を0.10ppmの濃度を保持しつつ、温度90℃、全圧力20気圧、滞留時間3.5時間で重合し、MFR0.72g/10分、密度0.922g/cm、平均粒径0.6mm、灰分0.020%の粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン(エチレン−1−ブテン共重合体)を得た。
【0070】
(フィッシュアイの評価)
得られた粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレンを、口径40mm、L/D24の単軸押出機、圧縮比3.0のフルフライトスクリューを用い、シリンダー温度180℃、ダイス温度200℃、スクリュー回転数60rpmで、外径75mm、リップ幅3mmのスパイラルダイより押し出し、ブロー比2.0で空冷インフレーション成形して厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムの1,600cmの面積に含まれる直径0.1〜0.3mm、及び0.3mmを超える異物の個数をそれぞれ測定し、測定フィルム重量(g)当りの個数に換算した結果、直径0.1〜0.3mmのフィッシュアイが50個/g、直径0.3mm以上のフィッシュアイが4.5個/g存在した。
【0071】
(ポリオレフィン樹脂のブレンド)
続いて、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン70質量%に、MFR1.0g/10分、密度0.920g/cmの高圧法低密度ポリエチレンペレット30質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)IRGANOX 1076)を0.05重量部を配合した後、口径20mm、L/D20の単軸押出機、圧縮比3.0のフルフライトスクリューを用い、樹脂温度180℃及びスクリュー回転数60rpmで溶融混練しペレット化して、ポリエチレン樹脂組成物を得た。
【0072】
(押出性の評価)
当該ポリエチレン樹脂組成物を、口径20mm、L/D20の単軸押出機及び圧縮比3.0のフルフライトスクリューを用い、ブレーカプレートにNo.80,120,500,120,80(目開き180,125,25,125,180μm)のスクリーンメッシュを順に装着し、樹脂温度230℃及びスクリュー回転数60rpmで直径3mmのダイスより押出し、押出量とブレーカプレート手前の樹脂圧力を測定した。押出開始から1時間後の結果を表1に示す。
【0073】
(絶縁破壊の強さの測定)
前記ポリエチレン樹脂組成物を、JIS K6922−2(1997)の条件に従って、圧力5MPaにおいて平押し金型を用いて厚み1mmの圧縮成形シートを作成した。得られたシートを用いて、下記の条件で絶縁破壊の強さを測定した。結果を表1に示す。
規格番号:JIS C2110(1994) 短時間破壊試験
評価条件:油中 上部球電極 下部25mmφ電極
試験片:圧縮成形シートより、100mm角の試験片を切り出し
【0074】
(耐熱性の評価)
前記ポリエチレン樹脂組成物を、JIS K6922−2(1997)の条件に従って、圧力5MPaにおいて平押し金型を用いて厚み4mmの圧縮成形シートを作成した。得られたシートを用いて、下記の条件で耐熱性の評価をした。結果を表1に示す。
測定項目:ビカット軟化温度
規格番号:JIS K7206(1999)
A 50法(試験荷重10N、昇温速度50℃/時)
試験片:圧縮成形シートより、約10mm角の試験片を切り出し
測定機:全自動HDT測定機(東洋精機製作所製)
【0075】
[実施例−2]
実施例−1で得た粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合して、口径50mm及びL/D28の単軸押出機を用い、樹脂温度200℃及び回転数80rpmで混練した後ペレット化し、MFR0.68g/10分及び密度0.922g/cmの直鎖状低密度ポリエチレンペレットを得た。
得られた直鎖状低密度ポリエチレンペレットを、実施例−1と同様にしてフィルムのフィッシュアイの個数の測定を行った。結果を表1に示す。
続いて、当該直鎖状低密度ポリエチレンペレット70質量%に、MFR1.0g/10分、密度0.920g/cmの高圧法低密度ポリエチレンペレット30質量%を配合した後、実施例−1と同様にしてポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−1と同様にして押出性の評価、絶縁破壊の強さの測定及び耐熱性の評価をした。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例−1]
実施例−1において、市販の多孔質シリカ担体(グレースジャパン(株)、サイロポール952)を用いた(SiO−4)。本SiO−4の平均粒径は129μm、100μmの粒径は73%であった。
本SiO−4を用い、実施例−1と同様にして条件を適宜調整してクロムとチタンの担持された固体触媒を得、続いて実施例−1と同様にして条件を適宜調整してMFR0.67g/10分、密度0.920g/cm、平均粒径0.6mm、灰分0.023%の粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレンを得た。
得られた粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレンを、実施例−1と同様にしてフィルムのフィッシュアイの個数の測定を行った。結果を表1に示す。
続いて、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン70質量%に、実施例−1と同様にしてMFR1.0g/10分、密度0.920g/cmの高圧法低密度ポリエチレンペレット30質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合した後、実施例−1と同様にしてポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−1と同様にして、押出性の評価、絶縁破壊の強さの測定及び耐熱性の評価をした。結果を表1に示す。
【0077】
[比較例−2]
比較例−1で、高圧法低密度ポリエチレンペレットを混合せずポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−1と同様にして押出性の評価、絶縁破壊の強さの測定及び耐熱性の評価をした。結果を表1に示す。
【0078】
[比較例−3]
実施例−1において、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン10質量%に、MFR1.0g/10分、密度0.920g/cmの高圧法低密度ポリエチレンペレット90質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合した後、実施例−1と同様にしてポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−1と同様にして押出性の評価、絶縁破壊の強さの測定及び耐熱性の評価をした。結果を表1に示す。
【0079】
[参考例−1]
実施例−1において、高圧法低密度ポリエチレンペレットを混合せずにポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−1と同様にして押出性の評価、絶縁破壊の強さの測定及び耐熱性の評価をした。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例−3]
実施例−1において、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン80質量%に、MFR0.7g/10分、密度0.953g/cmの高密度ポリエチレンペレット20質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合した後、実施例−1と同様にしてポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−1と同様にして絶縁破壊の強さ及び耐熱性の評価をした。結果を表2に示す。
【0081】
(柔軟性の評価)
前記ポリエチレン樹脂組成物を、JIS K6922−2(1997)の条件に従って、圧力5MPa及び平押し金型を用いて厚み4mmの圧縮成形シートを作成した。得られたシートを用いて、下記の条件で柔軟性の評価をした。結果を表2に示す。
測定項目:曲げ弾性率
規格番号:JIS K6922−2(1997)
試験片:圧縮成形シートより、80mm×10mmの試験片を切り出し
試験速度:2mm/分
測定機:オートグラフ(島津製作所製)
【0082】
[実施例−4]
実施例−1において、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン50質量%に、MFR0.9g/10分及び密度0.928g/cmの、チタン系触媒を用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレンペレット50質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合した後、実施例−1と同様にしてポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−1と同様にして絶縁破壊の強さの評価をした。結果を表2に示す。
【0083】
(強度の評価)
当該ポリエチレン樹脂組成物を、JIS K6922−2(1997)の条件に従って、圧力5MPaにおいて平押し金型を用いて厚み2mmの圧縮成形シートを作成した。得られたシートを用いて、下記の条件で強度の評価をした。結果を表2に示す。
測定項目:引張強さ 伸び
規格番号:JIS C3005(2000) 4.16(絶縁体及びシースの引張り)
試験片:圧縮成形シートより、ダンベル状3号を打抜いた
引張速度:200mm/分
試験機:テンシロンUTM−III−100(東洋ボールドウィン製)
【0084】
(成形品外観の評価)
前記ポリエチレン樹脂組成物を、下記の条件で単軸押出機を用いてダイスより押出しながら引き取り、押出された溶融ストランドを水槽で冷却固化して直径約1.5〜2mmのストランド状成形品を作成した。得られた成形品の外観を下記の条件で評価した。結果を表2に示す。
押出機仕様:口径20mm L/D20 単軸押出機 圧縮比3.0 フルフライトスク リュー ダイス径3mm
溶融条件:樹脂温度200℃ スクリュー回転数80rpm
評価項目:目視による成形品表面の表面平滑性
○ 表面に光沢があり、平滑性が高い
△ 表面が荒れてはいないが光沢が無く、平滑性が低い
× 表面がシャークスキン状に荒れており、平滑ではない
【0085】
[実施例−5]
実施例−1において、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン95質量%に、測定温度230℃及び荷重21.18NでのMFR1.1g/10分、密度0.89g/cmの粉粒状プロピレン−エチレンランダム共重合体5質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合して、口径50mm及びL/D28の単軸押出機を用い、樹脂温度200℃及び回転数80rpmで混練した後ペレット化し、ポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−3と同様にして絶縁破壊の強さ及び柔軟性の評価をした。結果を表2に示す。
続いて、当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−4と同様にして成形品外観の評価をした。結果を表2に示す。
【0086】
[比較例−4]
実施例−3において、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン30質量%に、MFR0.7g/10分、密度0.953g/cmの高密度ポリエチレンペレット70質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合した後、実施例−1と同様にしてポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−3と同様にして絶縁破壊の強さ、耐熱性及び柔軟性の評価をした。結果を表2に示す。
【0087】
[比較例−5]
実施例−4で、粉粒状の直鎖状低密度ポリエチレン30質量%に、MFR0.9g/10分、密度0.928g/cmのチタン系触媒を用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレンペレット70質量%を混合した樹脂組成物100質量部に対して、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.05質量部を配合した後、実施例−1と同様にしてポリエチレン樹脂組成物を得た。
当該ポリエチレン樹脂組成物を、実施例−4と同様にして絶縁破壊の強さ、強度及び成形品外観の評価をした。結果を表2に示す。
【0088】
[参考例−2]
参考例−1のポリエチレン樹脂組成物を用い、実施例−3、4、5と同様にして絶縁破壊の強さ、耐熱性、柔軟性、強度及び成形品外観の評価をした。結果を表2に示す。
【0089】
[実施例と比較例との対照による考察]
実施例−1は、篩分けにより平均粒径45μm、100μm以上の粒径のものが無いシリカ担体を用い、高圧法低密度ポリエチレンを30質量%混合しているので、スクリーンメッシュ挿入時の押出性及び電気特性に優れている。
実施例−2は、実施例−1の粉粒状の直鎖状低密度ポリチレンを、さらに押出機にて混練し剪断によりシリカ担体を破砕して微細化しているので、さらに押出性及び電気特性に優れている。
比較例−1は、直径0.1〜0.3mmのフィッシュアイが70個/gを超え、さらに、平均粒径が50μmを超えて100μm以上の粒径のものが10%を超えるシリカ担体を用いているので、電気特性に劣り、スクリーンメッシュ挿入時の押出性にも劣っている。
比較例−2は、比較例−1のポリエチレン組成物に高圧法低密度ポリエチレンを混合していないので、電気特性及び押出性が比較例−1と同様に劣っている。
比較例−3は、高圧法低密度ポリエチレンの配合比が60質量%を超えて、組成物の主成分の量が不足しているので、耐熱性に劣っている。
参考例−1は、実施例−1において高圧法低密度ポリエチレンを配合していない。したがって、押出性が低下している。
実施例−3は、高密度ポリエチレンを20質量%混合しているので、電気特性及び耐熱性に優れている。
実施例−4は、チタン系触媒を用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレンを50質量%混合しているので、特に強度に優れている。
実施例−5は、プロピレン−エチレンランダム共重合体を5質量%混合しているので、特に製品の表面平滑性に優れている。
比較例−4は、高密度ポリエチレンの配合比が60質量%を超えて、組成物の主成分の量が不足し、組成物の密度も高すぎるので、柔軟性に劣っている。
比較例−5は、チタン含有触媒を用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレンの配合比が60質量%を超えて、組成物の主成分の量が不足しいるので、電気特性と製品の表面平滑性に劣っている。
参考例−2は、実施例3〜5で用いたポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂を配合していないので、耐熱性と強度及び製品の表面平滑性の改良効果が認められない。
以上における、各実施例と各比較例及び各参考例の結果を対照して考察すれば、本発明の構成における各規定を満たす、本発明の各実施例における電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物は、電気特性に優れ、併せて押出性や耐熱性及び柔軟性や機械的強度さらには成形品外観までおしなべて良好であることが明白である。そして、本発明の電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物における構成要件の各規定が合理的であり実験データにより確証されていることも明らかである。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともクロム化合物を無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合することにより得られる、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であって、
(a)密度0.91g/cm〜0.94g/cm
(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分
(c)直径0.1mm〜0.3mmのフィッシュアイが70個/g以下、かつ
直径0.3mmを超えるフィッシュアイが10個/g以下
の性状を満たす直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)99〜40質量%及びポリオレフィン系樹脂(B成分)1〜60質量%からなる組成物であり、その組成物が
(i)密度0.91g/cm〜0.94g/cm
(ii)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分である性状を有することを特徴とする電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体が、エチレン70〜99質量%と炭素数3〜20のα−オレフィン1〜30質量%を共重合した共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
α−オレフィンが短鎖分岐α−オレフィンであり、架橋性コモノマーがさらに共重合されたことを特徴とする、請求項2に記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(A成分)中の灰分が0.03%以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
少なくともクロム化合物を、平均粒径が10μm以上50μm未満であり、100μm以上の粒径が10%未満である無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
少なくともクロム化合物を、平均粒径が10μm以上50μm未満であり、20μm以下の粒径が30%未満である無機酸化物多孔体の担体に担持したクロム含有触媒を用いて気相重合することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項7】
直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂が、平均粒径0.2mm〜1.5mmの粉粒形状であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項8】
ポリオレフィン系樹脂(B成分)が、ポリエチレン系樹脂(B1)及び/又はポリプロピレン系樹脂(B2)1〜60質量%であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物100質量部に対して、カーボンブラックを0.1〜5質量部配合してなることを特徴とする、電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物に、不飽和アルコキシシラン化合物と有機過酸化物及び必要によりシラノール縮合触媒を配合してなることを特徴とする、電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物を有機過酸化物の分解温度以上に加熱して製造されたことを特徴とする、水架橋性の電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれかに記載された電線被覆用又は絶縁用樹脂組成物を被覆層及び/又は絶縁層に用いたことを特徴とする、電線ないしは電力ケーブル。


【公開番号】特開2006−111668(P2006−111668A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298280(P2004−298280)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】