説明

電線配索構造及び電線配索方法

【課題】ハウジングからの引出電線がグロメット内で切断されるのを防止する。
【解決手段】電線配索構造では、回転嵌合式LIFコネクタが備える第1のハウジング3から引き出された電線6が、グロメット5で下方に屈曲されて案内されている。回転嵌合式LIFコネクタには、パネル11に取り付けられてパネル11を貫通したブラケット2と、ブラケット2に回動自在に支持された第1のハウジング3と、第1のハウジング3と共に回動して第1のハウジング3に嵌合する第2のハウジング13とが備えられている。第1のハウジング3と第2のハウジング13とは、パネル11を通して嵌合させられている。第1のハウジング3は、電線6が引き出される後端側が上方に回動されて第2のハウジング13に装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネルを通してハウジング同士を嵌合させ、一方のハウジングから引き出された電線を屈曲させてグロメット内に収容する電線配索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1では、内側パネルと外側パネルとの間に橋渡部材を設け、内側パネルの開口部から外側に引き出した第1ワイヤーハーネスを橋渡部材に固定して外側パネルの開口部に挿通し、外側パネルの外側で第2ワイヤーハーネス側コネクタに結合している。第2ワイヤーハーネス側コネクタが第1ワイヤーハーネスに結合された後、外側パネルに取り付けられると、内側パネルと外側パネルとの間に第1ワイヤーハーネスの余長部分が溜まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−132091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、回転嵌合式LIF(Low Insertion Force)コネクタ(例えば特開2009−252429号公報)が備えるハウジングからの引出電線をグロメット内に収容する場合にも、グロメット内に余長電線が溜まる虞があった。図9に示す回転嵌合式LIFコネクタは、雄ハウジング3をブラケット2に回動自在に支持して構成されている。図9(a)に示すように、雄ハウジング3に仮嵌合させた雌ハウジング14が上方に回動操作されると、雌ハウジング14のボスがブラケット2のガイド溝にガイドされてブラケット2内に雌ハウジング14が引き込まれ、図9(b)に示すように、雄ハウジング3に雌ハウジング14が完全嵌合する。仮嵌合された雌ハウジング14が回動操作されると、雄ハウジング3からの引出電線6が両ハウジング3,14の回動に併せて下方に移動させられる。これに伴い、図9(b)に示すように、グロメット5内に引出電線6が溜まって余長電線が生じる。このため、余長電線がグロメット5内で回動することで、引出電線6が切断される虞があった。
【0005】
本発明は斯かる課題に鑑みてなされたもので、グロメット内の引出電線が切断されるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明のコネクタは、パネルに取り付けられて前記パネルを貫通したブラケットと、前記ブラケットに回動自在に支持された第1のハウジングと、前記第1のハウジングと共に回動して前記第1のハウジングに嵌合する第2のハウジングとが備えられ、前記パネルを通して前記第1のハウジングが前記第2のハウジングに嵌合させられる回転嵌合式LIFコネクタと、前記第1のハウジングから引き出された電線を一方向に屈曲させて案内するグロメットとを有し、前記回転嵌合式LIFコネクタは、前記第1のハウジングが前記電線が引き出される側が前記一方向と反対方向に回動して前記第2のハウジングに装着されるように構成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記グロメット内で電線の余長部分を支持する電線支持部材が設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記電線支持部材が、前記第1のハウジングの回動前における前記第1のハウジングからの前記電線の引出部位よりも前記反対方向側に位置していることを特徴とする。
また、本発明は、前記電線支持部材から前記ブラケットの前記反対方向側の内壁面までの高さが、前記第1のハウジングの回動に伴う前記引出部位の前記一方向側から前記反対方向側への変位高さよりも大きいことを特徴とする。
また、本発明の電線配索方法は、コネクタの第1のハウジングと第2のハウジングとをパネルを通して嵌合させ、前記第1のハウジングから引き出された電線をグロメットで一方向に屈曲させて案内する電線配索方法であって、前記第1のハウジングが前記パネルに取り付けられたブラケットに回動自在に支持され、前記第2のハウジングが前記第1のハウジングと共に回動して前記第1のハウジングに嵌合される回転嵌合式LIFコネクタを前記コネクタとして用い、前記電線を一方向に屈曲させて前記グロメット内に収容した後、前記第1のハウジングの前記電線が引き出される側を前記一方向と反対方向に回動させて前記第2のハウジングに前記第1のハウジングを装着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、グロメット内の余長電線を引き延ばした状態で保持して、グロメット内で引出電線が切断されるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態の雄コネクタが車両パネルを通して雌コネクタのハウジングに嵌合する配索構造を上方から見た分解斜視図である。
【図2】図1の雄ハウジングに癖付補強部材が装着された状態を後方から見た斜視図である。
【図3】図1の雄ハウジングに癖付補強部材が装着された状態を拡大して示す左側面図である。
【図4】図1の癖付補強部材を示す図であり、(a)は右方からの斜視図,(b)は上方からの斜視図である。
【図5】図1の雄ハウジングに癖付補強部材が装着された状態を示す図であり、(a)は背面図,(b)は右側面図,(c)は平面図である。
【図6】(a)は図3のD−D矢視断面図,(b)はC−C矢視断面図である。
【図7】(a)は癖付補強部材で引出電線を支持した状態,(b)は雌コネクタのハウジングに雄ハウジングが嵌合した状態を示す図である。
【図8】雄ハウジングの動作を示す図であり、(a)は仮嵌合時,(b)は完全嵌合時を示している。
【図9】回転嵌合式LIFコネクタが備えるハウジングからの引出電線がグロメット内に溜まる状態を示す図であり、(a)は仮嵌合時,(b)は完全嵌合時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
以下の説明で用いる上下,前後,左右の各方向は説明に用いる各図に示しており、前後方向は車両パネル11の開口12にブラケット2が挿通される方向となっている。この上下,前後,左右は説明のために記載したもので、実際の配置と異なってよいことはもちろんである。
【0010】
図1に示すコネクタは、回転嵌合式LIFコネクタであり、端子収容室を備えた雄ハウジング3と、雄ハウジング3を車両パネル11に回動自在に支持するブラケット2と、雄ハウジング3に嵌合される雌ハウジング14とを備えている。
【0011】
図2,3に示すように、ブラケット2は、略円筒状を呈して前後方向に延びた本体21と、本体21の後縁から上下及び左右の外方に延びたフランジ部21aとを有しており、雄ハウジング3を収容する収容室20を本体21内に備えている。本体21の後縁部には、挿通孔21b及び係止片21cが設けられている。挿通孔21bは、本体21の左右の側壁に2つずつ設けられている。本体21の左側壁の挿通孔21bと右側壁の挿通孔21bとは、互いに対向する位置に配置されている。係止片21cは、本体21の周方向に沿って複数設けられている。フランジ部21aには、雄ハウジング3からの引出電線6を保護するグロメット5が装着される。
【0012】
図1に示すように、雄ハウジング3は、収容室20の左右の内壁面に上下方向に回動自在に支持されている(図8も参照)。雄ハウジング3は、雌ハウジング14との接続面を前方に向けて収容室20内に支持されており、雄ハウジング3の端子収容室からの引出電線6が後端面から引き出されている。雄ハウジング3には、引出電線6をグロメット5内に支持する癖付補強部材4が装着されている。
【0013】
雌ハウジング14は、雄ハウジング3に仮嵌合した状態で回動操作されることで、雌ハウジング14のボスがブラケット2のガイド溝にガイドされて、雄ハウジング3の後端側が上方に回動するように雄ハウジング3と共に回動しながら、ブラケット2の後方に引き込まれて雄ハウジング3に完全嵌合する。なお、雌ハウジング14を雄ハウジング3と共に回動させながらブラケット2の後方に引き込む機構としては、特開2009−252429号公報のLIFコネクタ等で用いられている機構等を採用することができる。
【0014】
図4に示すように、癖付補強部材4は、主面を向き合わせて左右に並んだ一対の側壁41の後縁部間に後壁42を架け渡した形状を有しており、両側壁41間には円柱状の電線支持部材43が延びている。側壁41の左右の外面には、支持片41a及び係止片41bがそれぞれ設けられている。支持片41aは、側壁41の外面から左右の外方に延びており、側壁41の前縁部に沿って形成されている。係止片41bは、側壁41の上下の端部に、側壁41の前端から後方に延びるスリットを側壁41に設けて形成されている。係止片41bの前端部の左右の外面からは、係止凸部41b1が突出している。後壁42の上下方向の中央部には、後壁42を貫通した貫通孔42aが形成されている。
【0015】
図5,6に示すように、癖付補強部材4は、左右の側壁41の前縁部を収容室20内に進入させて、フランジ部21aの後面に支持片41aの前面を当接させ、係止片41bの係止凸部41b1が内側からブラケット2の挿通孔21bに挿通されて挿通孔21bに係止され、ブラケット2に装着される。
【0016】
図8に示すように、ブラケット2に装着された癖付補強部材4は、電線支持部材43の中心からブラケット2の下側の内壁までが高さc、上側の内壁までが高さcよりも長い高さdとなるように配置されている。本実施形態では、雄ハウジング3における引出電線6の引出部位が、雄ハウジング3の回動に伴い電線支持部材43の下側で変位することから、電線支持部材43からブラケット2の上側の内壁面までの高さdは、雄ハウジング3の回動前後での雄ハウジング3における引出電線6の引出部位の変位高さaよりも大きくなる。この結果、ブラケット2内の引出電線6の上端部の雄ハウジング3の回動に伴う変位高さが、雄ハウジング3の回動前における引出電線6の上端部からブラケット2の上側の内壁面までの高さbよりも小さくなる。
【0017】
次に、雄ハウジング3からの引出電線6の配策方法について説明する。図7は雄ハウジング3に雌ハウジング14を嵌合させる手順を示す図,図8は雌ハウジング14を嵌合させる際の雄ハウジング3の動作を示す図である。
【0018】
引出電線6を配策する際には、まず、図7(a)に示すように、雄ハウジング3の後端面から引き出された引出電線6を、癖付補強部材4の電線支持部材43と後壁42との間を通して下方に屈曲させる。続いて、ブラケット2の本体21を車両パネル11の開口12に挿通させて係止片21cを開口12の周縁部に係止させ、ブラケット2を車両パネル11に取り付ける。
【0019】
次に、ブラケット2から引き出された引出電線6をグロメット5の電線挿通部52に装着部51側から挿通させて、装着部51の嵌合部51aをフランジ部21aの外周縁部に嵌め合わせる。これにより、図7(b)に示すように、車両パネル11に取り付けられたブラケット2の後端開口部が、ブラケット2からの引出電線6と共にグロメット5で覆われる。その後、図7(b)に示すように、雄ハウジング3に雌ハウジング14が接続される。
【0020】
図8(a)に示すように、ブラケット2が車両パネル11に取り付けられた状態では、雄ハウジング3は、前端側が上方に回動して雌ハウジング14に仮嵌合するように、接続面を上方に向けてブラケット2に支持されている。ブラケット2から引き出された引出電線6は、ブラケット2の下側から上方に向けて延びながら装着部51内に進入し、装着部51内で電線支持部材43を支点として下方に屈曲した後、電線挿通部52内を下方に延びている。引出電線6の電線支持部材43を支点として上下方向に屈曲した箇所は、引出電線6の余長部分となっており、雄ハウジング3の回動に合わせて上下動する。
【0021】
その後、雌ハウジング14がブラケット2の前端開口部からブラケット2内に挿入されて雄ハウジング3に仮嵌合した後、雄ハウジング3が雌ハウジング14と共に回動して雄ハウジング3の後端側が上方に回動するように雌ハウジング14が操作されると、ブラケット2内に雌ハウジング14が引き込まれる。これにより、雌ハウジング14が雄ハウジング3に完全嵌合する。雄ハウジング3の後端側が上方に回動すると、引出電線6は、癖付補強部材4でU字状に屈曲させられた状態を保って装着部51内を上方に移動し、図8(b)に示すように、グロメット5内の引出電線6が上方に引き延ばされる。
【0022】
本実施形態によれば、雄ハウジング3からの引出電線6を下向に屈曲させてグロメット5内に収容した後、雄ハウジング3の後端側を上方に回動させて雌ハウジング14に嵌合させることで、グロメット5内の余長電線を引き延ばした状態で保持し、グロメット5内での引出電線6の回動を抑えることができる。従って、グロメット5内で余長電線が回動して引出電線6が切断されるのを防止できる。
【0023】
また、本実施形態によれば、グロメット5内で引出電線6の余長部分を電線支持部材43により支持することで、グロメット5内の引出電線6を雄ハウジング3の回動に合わせて上方に移動させられることから、雌ハウジング14が雄ハウジング3に完全嵌合するまで、雄ハウジング3を確実に回動させることができる。
【0024】
また、本実施形態によれば、電線支持部材43によってグロメット5内での引出電線6の位置を規定できることから、雄ハウジング3の回動時に引出電線6がグロメット5の内壁に当接して撓んでグロメット5内に溜まることを防止できる。
【0025】
なお、上記実施形態では、ブラケット2を車両パネルに取り付けた場合について説明したが、ブラケット2を取り付けるパネルは車輌パネルには限定されない。雄ハウジング3がブラケット2に対して回動して雌ハウジング14に嵌合するのであれば、雄ハウジング3に対する雌ハウジング14の嵌合方法は任意である。
【0026】
また、上記実施形態では、左右の側壁41間に電線支持部材43を架け渡した場合について説明したが、グロメット5内の引出電線6を引出電線6の長さ方向に移動自在に支持できるのであれば、電線支持部材の構成は任意である。例えば、ブラケット2又はグロメット5に電線支持部材が設けられていてもよい。
【0027】
また、引出電線6が下方に屈曲してグロメット5内に収容された後、雄ハウジング3の後端側が上方に回動して雌ハウジング14が雄ハウジング3に嵌合するのであれば、雄ハウジング3に対する雌ハウジング14の嵌合方法は任意である。
【符号の説明】
【0028】
1 イニシエータ
11 車両パネル
13 電線
14 雌ハウジング
2 ブラケット
20 収容室
21 本体
21a フランジ部
21b 挿通孔
21c 係止片
3 雄ハウジング
4 癖付補強部材
41 側壁
41a 支持片
41b 係止片
41b1 係止凸部
42 後壁
42a 貫通孔
43 電線支持部材
5 グロメット
6 引出電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルに取り付けられて前記パネルを貫通したブラケットと、前記ブラケットに回動自在に支持された第1のハウジングと、前記第1のハウジングと共に回動して前記第1のハウジングに嵌合する第2のハウジングとが備えられ、前記パネルを通して前記第1のハウジングが前記第2のハウジングに嵌合させられる回転嵌合式LIFコネクタと、
前記第1のハウジングから引き出された電線を一方向に屈曲させて案内するグロメットとを有し、
前記回転嵌合式LIFコネクタは、前記第1のハウジングの前記電線が引き出される側が前記一方向と反対方向に回動して前記第2のハウジングに装着されるように構成されていることを特徴とする電線配索構造。
【請求項2】
前記グロメット内で電線の余長部分を支持する電線支持部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電線配索構造。
【請求項3】
前記電線支持部材は、前記第1のハウジングの回動前における前記第1のハウジングからの前記電線の引出部位よりも前記反対方向側に位置していることを特徴とする請求項2に記載の電線配索構造。
【請求項4】
前記電線支持部材から前記ブラケットの前記反対方向側の内壁面までの高さは、前記第1のハウジングの回動に伴う前記引出部位の前記一方向側から前記反対方向側への変位高さよりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の電線配索構造。
【請求項5】
コネクタの第1のハウジングと第2のハウジングとをパネルを通して嵌合させ、前記第1のハウジングから引き出された電線をグロメットで一方向に屈曲させて案内する電線配索方法であって、
前記第1のハウジングが前記パネルに取り付けられたブラケットに回動自在に支持され、前記第2のハウジングが前記第1のハウジングと共に回動して前記第1のハウジングに嵌合される回転嵌合式LIFコネクタを前記コネクタとして用い、
前記電線を一方向に屈曲させて前記グロメット内に収容した後、前記第1のハウジングの前記電線が引き出される側を前記一方向と反対方向に回動させて前記第2のハウジングに前記第1のハウジングを装着することを特徴とする電線配索方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−84429(P2012−84429A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230550(P2010−230550)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】