電解洗浄装置及び電解洗浄方法
【課題】本発明は、洗浄効果を低下させることなく、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる電解洗浄装置及び電解洗浄方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法は、陽極10と洗浄対象物Mを保持する陰極20とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極10及び陰極20間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄装置1及び電解洗浄方法であって、前記陽極10は、陰極20に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部11,11を備え、前記複数の陽極部11,11のうち一部の陽極部11Aにおける前記陰極20との通電量が、他の陽極部11Bにおける前記陰極20との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御する。
【解決手段】本発明に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法は、陽極10と洗浄対象物Mを保持する陰極20とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極10及び陰極20間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄装置1及び電解洗浄方法であって、前記陽極10は、陰極20に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部11,11を備え、前記複数の陽極部11,11のうち一部の陽極部11Aにおける前記陰極20との通電量が、他の陽極部11Bにおける前記陰極20との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解洗浄装置及び電解洗浄方法に関し、より詳しくは、Feや鋼、ステンレス鋼、Ni、Ti、希金属類を材質とする精密金型等の金属部品を腐食又は溶解させることなく、樹脂、ガラス、ゴム、研磨剤、スマット等の付着汚れや、錆、酸化皮膜等の金属酸化物、変色等の汚れを好適に除去することのできる電解洗浄装置及び電解洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いて高温・高圧下で樹脂成形を繰り返すと、金型に樹脂や添加剤が熱分解して発生したガスが焼きついたり、焼けただれた樹脂が付着したりし、場合によっては腐食性物質を含む酸化皮膜が形成されることがある。これを適切な方法でメンテナンスせずに放置すると、金型が腐食して破損してしまうこともある。従来、これらの汚れが付着した金型等の金属部品は、手作業で磨いて取り除くといった方法や超音波洗浄によりメンテナンスされることが多かった。しかし、これらの方法は、作業が面倒であり、しかも、結合力の強い汚れは充分に除去することが出来なかった。
【0003】
そこで、このような結合力の強い汚れをも効果的に除去することのできる洗浄方法として、電解を利用した洗浄方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0004】
電解洗浄は、電解洗浄液を電解したときに発生するガスによって汚れを押し上げて剥離することが基本原理となっている。また、一般的に、電解洗浄液にはキレート剤等の添加剤が加えられており、これら添加剤が電解洗浄液中に溶解した金属イオンを配位して封鎖することで、金属イオンが洗浄対象物に焼けや変色等の損傷を与えるのを防止している。
【0005】
ところが、これら添加剤は、電解反応によって徐々に分解・消耗されていくものであり、一定量以上洗浄液成分が分解・消耗すると、上述したような金属イオンを封鎖する機能が急速に失われ、洗浄対象物に損傷が生じるようになる。従って、使用前の状態からこの状態になるまでの期間が電解洗浄液の寿命となる。なお、電解洗浄液の寿命と通電量は、ファラデーの電気分解の法則に従い、反比例の関係にあることが知られている(例えば、非特許文献1)。即ち、通電量を増やせば寿命は短くなり、逆に通電量を減らせば寿命は長くなる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−128853号公報
【特許文献2】特開平7−214570号公報
【特許文献3】特開平9−164533号公報
【非特許文献1】「プラスチックス」 日本プラスチックス工業連盟、58巻(2007年12月号)、p55−57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、現在まで、洗浄効果と通電量とは比例関係にあると考えられてきた。従って、洗浄効果を高めるために、通電量を増加させる方法が採られ、その結果寿命が短くなることを余儀なくされていた。
【0008】
しかしながら、電解洗浄液は、一般に高価である上にランニングコストに占める割合が高いため、寿命が短いとランニングコストが高くなってしまうという問題がある。また、使用済みの電解洗浄液を頻繁に廃棄しなければないことは、廃液量が増えることによって環境負荷を増大させるため好ましくない。さらに、交換頻度が高いと、電解洗浄全体の作業効率が低下するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、洗浄効果を低下させることなく、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる電解洗浄装置及び電解洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電解洗浄装置は、陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄装置であって、前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る電解洗浄方法は、陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄方法であって、前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御することを特徴とする。
【0012】
上記構成からなる電解洗浄装置及び電解洗浄方法によれば、陽極及び陰極間に常時一様に通電する従来の電解洗浄装置及び電解洗浄方法の場合と同程度の洗浄効果を維持できつつも、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。或いは、同じ量の電解洗浄液を用いて、より多くの洗浄対象を洗浄することができる。かかる効果が発揮される理由の一つとしては、特定の陽極部と陰極との通電量が常時変化することで、陰極に保持された洗浄対象物における気体の発生状態が常時変化するため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物に付着した汚れに対して効果的に加えることができることが考えられる。また、複数の陽極部は異なる位置に位置するため、最も通電量の多い陽極部が時間によって変化すると、洗浄作用が加えられる方向が時間的に変動することとなり、洗浄作用を洗浄対象物に付着した汚れに対して効果的に加えることができることも理由の一つとして考えられる。しかも、電解洗浄液の寿命は通電量に反比例することから、陽極及び陰極間に常時一様に通電する(すなわち配置された全ての陽極部に対して常時一定に通電する)従来の電解洗浄に比べて通電量を抑えることができ、その分電解洗浄液の寿命を長くできる。
【0013】
また、上記構成においては、前記通電量は、前記各陽極部及び陰極間に印加する電圧によって制御される構成が好ましい。
【0014】
このようにすれば、通電量の制御を電圧の制御によって行うことができるため、通電量の制御が容易となる。
【0015】
また、上記構成においては、前記一部の陽極部及び陰極間に印加される電圧がそれ以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部とは別の陽極部及び陰極間に印加される電圧が該別の陽極部以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成されることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、一部の陽極部及び陰極間と別の陽極部及び陰極間にそれぞれ異なるタイミングで高い電圧が印加されるため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物に付着した汚れに対してより効果的に加えることができる。
【0017】
具体的には、前記陽極は、二つの陽極部によって構成され、一方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成されることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、常時、各陽極部及び陰極間のうちのいずれかにしか電圧が印加されない状態となるため、単位時間当たりの通電量を好適に減少させることができる。
【0019】
また、前記各陽極部及び陰極間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加される構成が好ましい。
【0020】
また、その電解洗浄方法としては、前記各陽極部及び陰極間に、所定時間毎に一定の大きさの電圧を交互に印加する構成が好ましい。
【0021】
このようにすれば、各陽極部及び陰極間の総通電量が同じになるため、洗浄対象物を全体的に均一に電解洗浄することができる。
【0022】
また、前記陽極は、Fe,Pt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金を用いて形成される構成が好ましい。
【0023】
或いは、前記陽極は、Tiからなる陽極本体をPt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金によって被覆して形成される構成であってもよい。
【0024】
また、前記電解洗浄装置は、前記電解洗浄液を超音波振動させる超音波発生器を備える構成が好ましい。
【0025】
このようにすれば、電解洗浄液が超音波振動することにより洗浄対象物に付着した汚れの剥離を促進することができる。
【0026】
また、前記電解洗浄液は、電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有し、界面活性剤として、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有する構成が好ましい。
【0027】
また、上記電解洗浄方法においては、電解洗浄中に前記電解洗浄液中に補充液を補充することを含み、該補充液は、電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有する構成が好ましい。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、洗浄効果を低下させることなく、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。従って、長時間に亘って電解洗浄液を使用することが可能であるので、ランニングコストを低減でき、また、廃液の発生頻度を少なくして環境への負荷をも低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0030】
第一実施形態に係る電解洗浄装置1は、図1及び図2に示すように、陽極10と洗浄対象物Mを保持する陰極20とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極10及び陰極20間に電流を流して洗浄対象物Mを電解洗浄するものである。以下では、まず、電解洗浄装置1自体の構成について概略的な説明を行う。前記電解洗浄装置1は、前記陽極10及び陰極20の他、筐体2と、該筐体2の上部に配置され、電解洗浄液を収容する洗浄槽3と、電極(陽極10及び陰極20)に給電する電源4を筐体2の内部に備える。
【0031】
前記陽極10は、後述する金属の放電部分12aが洗浄槽3の内部に位置するように設けられ、電解洗浄の際には前記放電部分12aが電解洗浄液に浸漬される。具体的には、図2に示すように、前記陽極10は、洗浄槽3の上端の開口部から吊り下げられる。また、陽極10は、異なる電圧を別々に印加可能な複数(例えば、二つ)の陽極部11,11を備える。これによって、前記陽極10は、陰極20に対して異なる通電量で通電可能となる。(なお、以下では、二つの陽極部11を区別して記載する必要がある場合には、陽極部11A,11Bといったように、A,Bの添え字を付けて記載することとする。)
【0032】
各陽極部11は、前記放電部分12aが水平面に沿う平面上に位置するように配置され、具体的には、前記放電部分12aを有する陽極体12と、該陽極体12を支持する支持体13とを備えて構成される。また、前記陽極部11は、図3(A)にも示されるような部材であり、陽極体12を複数(例えば、4〜10個)有する。陽極体12としては、円形状の平面部分を有する円盤状金属(直径36mm)が用いられる。なお、陽極体12は、二つ一組で設けられる。また、陽極体12は、図3(b)に示すように、前記放電部分12aを除き、電解洗浄液と接触する部分は外面を樹脂等の絶縁体12bによって被覆される。
【0033】
前記陽極体12は、支持体13に対する高さ位置を調整可能に構成され、任意の高さ方向位置で固定される。また、陽極体12は、金属の放電部分12aと洗浄対象物Mの上端面との間隔が20〜50mmとなるように配置され、特に、30mmが好ましい。このようにすると、洗浄対象物Mに焼けや変色等の損傷を発生されることなく、好適に電解洗浄を行うことができる。
【0034】
また、前記陽極10の陽極体12は、前記陰極20のうち洗浄対象物Mが載置される部分を、従来の電解洗浄装置(例えば、図5,図7参照)に比べて広い範囲に亘って覆うように配置される。具体的には、前記陽極体12は、図1に示すように、前記陰極20の面積に対して若干狭い領域を少なくとも覆うように設けられる。即ち、陽極体12が被洗浄面を全体的に覆うように配置される。例えば、複数の陽極体12,12…によって画定される陽極10の仮想的な外形線L1と、洗浄対象物Mが載置される部分によって画定される陰極20の外形線L2とを二次元的に重ね合わせた状態(上面視)において、前記二つの外形線の間にできる隙間の領域Sは、陽極体12を配置することができない程度の大きさに設定される。即ち、前記隙間の領域Sの幅は、前記陽極体12以下の大きさに形成される。
【0035】
なお、前記陽極10(即ち、陽極体12)は、Feを用いて形成される。Feは、安価なため、電解洗浄装置1のコストダウンを図ることができる。ただし、電解洗浄液中に金属イオンが蓄積すると、酸化物などに変化して洗浄対象物Mに吸着する可能性が高まるため、これを防止する観点からは、陽極10(即ち、陽極体12)は、Pt,Pd,Ir,Ru等のイオン化傾向が小さい白金族金属、若しくはこれらの合金を用いて形成することが好ましい。さらに、前記陽極体12は、Tiからなる陽極本体をPt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金によって被覆して形成したものであってもよい。このようにすれば、高価な白金族金属の使用量を少なくすることができるため、経済的である。
【0036】
前記陰極20は、図2に示すように、洗浄対象物Mと電気的に接続した状態で該洗浄対象物Mを支持する支持部材21と、該支持部材21を吊り下げる吊下部材22とを備えて構成される。また、前記支持部材21は、洗浄対象物Mと接触するように構成される金属の導電部分21aを有する。具体的には、支持部材21は、ステンレス等の金属製のトレイとして設けられる。ただし、陰極としては、上述のものに限定されず、ステンレス等の金属製のかごとして設けられるものであってもよい。また、前記支持部材21には、該支持部材21の両面間を連通する空間部が形成される。このようにすれば、電解洗浄液が前記支持部材21に形成された空間部を流通することができるため、洗浄対象物Mとの隙間に電解によって分解した洗浄液が蓄積することなく、常に新鮮な洗浄液を供給することができるため、分解した洗浄液成分が洗浄対象物に焼き付いたりするような問題を引き起こすことなく好適に洗浄することができる。具体的には、前記支持部材21は、複数のパンチ孔が形成されたいわゆるパンチングメタルを用いて形成される。なお、前記支持部材21は、開口上端部を樹脂等の絶縁体21bによって縁取りされている。また、また、吊下部材22は、支持部材21との接続部分22a及び電源4との接続部分22bを除き、樹脂等の絶縁体22cによって被覆されている。
【0037】
前記電解洗浄装置1には、電解洗浄以外にも前記電解洗浄液を超音波振動させて洗浄対象物の超音波洗浄を行うための超音波発生器(図示しない)が備えられている。該超音波発生器は、前記洗浄槽3の下部に設けられる。超音波洗浄は、電解洗浄と同時に又は交互に行うことができるが、電解洗浄と同時に行われるのが好ましい。
【0038】
このようにすれば、電解洗浄液が超音波振動することにより洗浄対象物Mに付着した汚れの剥離を促進することができる。具体的には、超音波振動によってキャビテーションが発生し、これによって汚れの剥離が促進されるとともに、電解反応が活性化される。従って、陽極体12と対面していない箇所や、凹んだ部分に対しても洗浄効果を高く発揮することができる。
【0039】
また、前記電解洗浄装置1は、前記電解洗浄液を加熱する加熱装置(図示しない)を備える構成が好ましい。なお、電解洗浄を行う液温は、20〜70℃が好ましく、この場合には、洗浄対象物Mが焼けや変色を生じることなく好適に洗浄を実施することができる。さらに、液温が50〜60℃の場合には、金属酸化皮膜、錆、樹脂付着物、ガス焼けなどの比較的結合の強い金型汚れに対しても、洗浄対象物Mに損傷を与えることなく短時間で最も効率よく洗浄することができる。
【0040】
また、前記電解洗浄装置1は、電解洗浄液を洗浄槽3から排出し、夾雑物を除去し、再度洗浄槽3内に投入する循環機構(図示しない)を備える。ここで、循環機構について具体的に説明する。前記洗浄槽3は、底部分から電解洗浄液が供給されるように構成されており、洗浄槽3が満杯となると、所定の高さ位置に設けられた排出部から電解洗浄液がオーバーフローするようになっている。電解洗浄の際には、洗浄対象物Mから剥離した付着物などの夾雑物や泡が発生するものであるが、電解洗浄液をオーバーフローさせることで、これら夾雑物や泡も電解洗浄液とともに洗浄槽3から排出される。排出された電解洗浄液は、例えばフィルターによる濾過等の周知の方法によって浄化処理され、浄化された電解洗浄液は再度前記洗浄槽3に供給される。
【0041】
なお、前記電解洗浄装置1によって洗浄される洗浄対象物Mは、例えば、フラットパネルディスプレイの導光板やシート状光学レンズ、携帯電話の超小型精密なカメラレンズ、車両用リフレクター等を射出成型する金型である。
【0042】
電解洗浄液としては、電解質と、キレート剤と、界面活性剤とを含有するものが用いられる。電解質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有するものが好ましい。キレート剤としては、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤を含有するもの、及び、グルコン酸塩が好ましい。界面活性剤としては、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有するものが好ましく、特に、両性界面活性剤が好ましい。また、電解洗浄液は、pHが8〜14のアルカリ性水溶液であり、この範囲では、pH値が高いほど洗浄効果が高くなる。また、このpH範囲で洗浄を行えば、Feや鋼、ステンレス鋼、Ni、Ti、希金属類を材質とする洗浄対象物の腐食は無視できる。
【0043】
上記電解洗浄液において、キレート剤は、電解洗浄液中に溶解した金属イオンを配位して封鎖するため、金属イオンに由来する洗浄対象物の変色を好適に防止することができる。また、界面活性剤は、電解洗浄液の表面張力を小さくするため、汚れの隙間に対する浸透性を高めて洗浄効果を高めることができる。また、界面活性剤によって電解洗浄液の液面に泡が発生するため、電解洗浄によって発生した気体が液面で弾けるときに発生するアルカリ性のミストが飛散するのを好適に防止することができる。
【0044】
さらに、長時間に亘って電解洗浄を行うと、電解洗浄液の蒸発や水の電気分解によって液量が減少するため、電解洗浄開始時の液量を維持すべく、補充液を適宜補充する。補充液は、水であってもよいが、電解質とキレート剤とグルコン酸塩とを含有するものが好ましく、界面活性剤を含有するものがさらに好ましい。なお、上述の電解洗浄液と同様に、電解質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有するものが好ましい。キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤を含有するものが好ましい。界面活性剤としては、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有するものが好ましく、特に、両性界面活性剤が好ましい。
【0045】
次に、本実施形態に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法の特徴的部分である電圧(通電量)の制御について説明する。
【0046】
前記電解洗浄装置1は、図4に示すように、前記複数の陽極部11,11のうち一部の陽極部11Aにおける前記陰極20との通電量が、他の陽極部11Bにおける前記陰極20との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成される。
【0047】
具体的には、前記通電量は、前記陽極部及び陰極間に印加する電圧によって制御される。即ち、前記電解洗浄装置1は、前記複数の陽極部11,11及び陰極20間の電圧のうち一部の陽極部11A及び陰極20間の電圧が他の陽極部11B及び陰極20間の電圧に比べて高い状態と低い状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成される。
【0048】
また、前記電解洗浄装置1は、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧がそれ以外の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部11Aとは別の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧が該別の陽極部11B以外の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成される。なお、印加される電圧が約2V(いわゆる過電圧)を下回ると電流が流れなくなり電解ガスを発生させることができない状態となるため、一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧が他の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧に比べて高い状態とする際には、一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧は少なくとも過電圧以上の電圧とされる。
【0049】
また、前記陽極10は、二つの陽極部11,11のうち、一方の陽極部11A及び陰極20間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部11B及び陰極20間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成される。具体的には、前記陽極10は、二つの陽極部11,11のうち、一方の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間、他方の陽極部11B及び陰極20間には電圧が印加されず、他方の陽極部11B及び陰極20間に電圧が印加される間、一方の陽極部11A及び陰極20間には電圧が印加されない。
【0050】
また、前記各陽極部11及び陰極20間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加される。例えば、各陽極部11A,11B及び陰極20間に対して30秒周期で(即ち、15秒毎に)5Vの直流電圧を交互に印加する。
【実施例1】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例のみの記載に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更することができる。まず、以下の実施例1,2及び比較例1,2において、電解洗浄液の寿命を検証した。
【0052】
<実施例1>
実施例1では、図1及び図2に示す電解洗浄装置1を使用した。陽極10は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な陽極部11を二つ備え、各陽極部11は、それぞれ円盤状の陽極体12(直径36mm)を4個備える。また、陰極20は、複数の小孔が形成されたステンレス製のトレイを支持部材21として用いた。また、洗浄対象物Mとしては、金型や金属部品の素材に利用される鋼材(幅30mm、長さ30mm、高さ10mm)を用いた。なお、測定には洗浄対象物Mを一つ用いた。そして、上記洗浄対象物Mを前記支持部材21上に並べてセットした。前記陽極10は、金属の放電部分と洗浄対象物Mの上端面との間隔が30mmとなるように配置した。
【0053】
電解洗浄液としては、4.5重量%水酸化ナトリウム、5重量%エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム、2重量%グルコン酸ナトリウム、及び微量(例えば、1重量%以下)の両性界面活性剤を含むアルカリ性水溶液からなる電解洗浄液(pH13.6)を用いた。なお、電解洗浄装置1の洗浄槽3は10Lの容量を有するものであり、この電解洗浄液を前記洗浄槽3に9L投入した。
【0054】
なお、電解洗浄中に電解洗浄液が減少するため、補充液として水を適宜補充した。測定が終了するまでに補充した補充液の量は約2200mLであった。
【0055】
そして、前記陽極に対して30秒周期で(即ち、15秒毎に)5Vの直流電圧を交互に印加して電解洗浄を行った(電流30〜45A/平方デシメートル)。また、電解洗浄と同時に40kHzの超音波を照射した。なお、液温は45〜60℃に維持した。
【0056】
そして、1時間ごとに、洗浄対象物Mに損傷(具体的には、焼けや変色)が発生しているか否かの検証を行い、洗浄対象物Mに損傷が確認されるまでの時間を測定した。検証としては、洗浄対象物Mを電解洗浄装置から取り出し、流水で水洗して電解洗浄液を取り除いた後、アルゴンガスを吹き付けて乾燥させ、照明等のある明るい環境下で肉眼及び光学顕微鏡を用いて損傷(具体的には、焼けや変色)の有無を調べる作業を行った。その結果、43時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0057】
<比較例1>
比較例1は、陽極の構成及び陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例1と同様である。比較例1では、図5に示すような、陽極60が一つの陽極部61で構成され、該陽極部61は、陽極体62を6個有する電解洗浄装置51を用いた。なお、比較例1に係る電解洗浄装置51のうち、実施例1に係る電解洗浄装置1と同様の構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。そして、印加する電圧を変化させることなく、5Vの直流電圧を常時印加した。測定が終了するまでに補充した補充液(水)の量は、約1500mLであった。その結果、29時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0058】
<実施例2>
実施例2は、補充液を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例1と同様である。実施例2では、補充液として、2.5%水酸化ナトリウム、1%エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム(EDTA‐4Na)、1重量%以下の微量の両性界面活性剤を含むアルカリ性水溶液(pH13.6)を用いた。また、測定が終了するまでに補充した補充液の量は約5000mLであった。その結果、57時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0059】
<比較例2>
比較例2は、陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例2と同様である。比較例2では、図1に示すような陽極10に対して各陽極部11,11及び陰極20間に印加する電圧を変化させることなく、8個の陽極体12の全てに対して5Vの直流電圧を常時印加した。測定が終了するまでに補充した補充液(アルカリ性水溶液)の量は約1500mLであった。その結果、16時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
上記測定の結果、電解洗浄液の寿命は、実施例1,2の方が比較例1,2に比べて長いことが確認された。
【0062】
次に、以下の実施例3,4及び比較例3,4において、電解洗浄の効果を検証した。
【0063】
<実施例3>
実施例3では、洗浄対象物Mとして、上記各例と同様の材質及び寸法を有し、表面に赤錆が発生した鋼材を用いた。かかる洗浄対象物Mは、鋼材をエタノールで脱脂した後、塩水を噴霧して、室温で5日間放置することで作製した。
【0064】
電解洗浄装置1としては、実施例1で用いたものと同様な構成のものを用いた。また、液温が55〜60℃である点を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例1と同様である。
【0065】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時の検証では赤錆が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0066】
<比較例3>
比較例3は、陽極の構成及び陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例3と同様である。また、比較例3では、比較例1で用いたものと同様の図5に示す構成の陽極60を用いた。
【0067】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時の検証では赤錆が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0068】
<実施例4>
実施例4は、洗浄対象物Mを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例3と同様である。実施例4では、洗浄対象物Mとして、上記各例と同様の材質及び寸法を有し、表面に酸化皮膜が形成された鋼材を用いた。かかる洗浄対象物Mは、鋼材を空気中において電熱器で加熱することによって作製され、具体的には、表面の状態が本来の金属色から褐色に変化し、さらに褐色から紫色に変化し始めるまで加熱した後(10分程度)に放冷することにより、褐色と紫色が混在した酸化皮膜が表面に形成された洗浄対象物Mを作製した。
【0069】
かかる洗浄対象物Mを用いて測定を行った結果、5分経過時の検証では酸化皮膜が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0070】
<比較例4>
比較例4は、陽極の構成及び陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例4と同様である。また、比較例4では、比較例1で用いたものと同様の図5に示す構成の陽極60を用いた。
【0071】
かかる洗浄対象物Mを用いて測定を行った結果、5分経過時の検証では酸化皮膜が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
<実施例5>
実施例5は、陽極の構成と洗浄対象物Mの個数を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例3と同様である。実施例5では、図6に示すような、陽極10が異なる陽極部11を二つ備え、各陽極部11は、それぞれ円盤状の陽極体12を10個有するものを用いた。また、測定には洗浄対象物Mを6個用いた。
【0074】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時の検証では赤錆が全ての洗浄対象物Mにおいて一部残存していたが、10分経過時の検証では全ての洗浄対象物Mにおいて消滅したことが確認された。これらを表3に示す。
【0075】
<比較例5>
比較例5は、陽極の構成及び配置と洗浄対象物の個数を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例5と同様である。比較例5では、図7に示すような、陽極60が一つの陽極部61で構成され、該陽極部61は、それぞれ陽極体62(直径50mm)を8個有するものを用いた。また、中央の二つの洗浄対象物Mは陽極と対向する配置であったが、左右の4個の洗浄対象物Mは、陽極と対向しない配置となった。
【0076】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時及び10分経過時の検証において、電極を挟んで左右に配置された洗浄対象物Mにおいて、一部赤錆が残存していることが確認された。これらを表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例3,4と比較例3,4とを比較すると、実施例3,4においては、特定の陽極に電圧が常時印加されるものではなかったにもかかわらず、電圧が常時印加されるものである比較例3,4と洗浄効果が同程度であることが確認された。このことから、上述のように印加される電圧を制御した場合には、少ない通電量で同等の洗浄効果を奏することが確認された。
【0079】
また、実施例1,2における比較及び実施例3,4における比較を考慮すると、本実施例に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法によれば、従来と同程度の洗浄効果を奏しつつも寿命を長く維持できることが確認できた。
【0080】
また、実施例5と比較例5との比較から、陽極10及び陰極20によって挟まれる領域に配置された洗浄対象物Mは電解洗浄を好適に行うことができるが、陰極と対向した位置に陽極が存在しない領域に配置された洗浄対象物Mは電解洗浄を十分に行うことができないことが確認された。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法によれば、洗浄効果を低下させることなく、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。従って、長時間に亘って電解洗浄液を使用することが可能であるので、ランニングコストを低減でき、また、廃液の発生頻度を少なくして環境への負荷をも低減することができる。
【0082】
即ち、本実施形態に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法によれば、陽極及び陰極間に常時一様に通電する従来の電解洗浄装置及び電解洗浄方法の場合と同程度の洗浄効果を維持できつつも、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。かかる効果が発揮される理由の一つとしては、特定の陽極部11と陰極20との通電量が常時変化することで、陰極20に保持された洗浄対象物Mにおける気体の発生状態が常時変化するため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物Mに付着した汚れに対して効果的に加えることができるということが考えられる。また、複数の陽極部11は異なる位置に位置するため、最も通電量の多い陽極部11が時間によって変化すると、洗浄作用が加えられる方向が時間的に変動することとなり、洗浄作用を洗浄対象物Mに付着した汚れに対して効果的に加えることができることも理由の一つとして考えられる。
【0083】
さらに、通電量が多い状態から少ない状態に変化すると気体の発生が抑制される。ここで、電解洗浄液は、前記循環手段による流れや、超音波振動による振動や、温度差によって発生する対流や、気体の上昇によって発生する対流等によって、常時撹拌される状態となっている。従って、気体の発生が抑制されている間に電解洗浄液の撹拌によって洗浄対象物Mの表面から気体が除去されるため、洗浄対象物Mの表面に電解洗浄液を好適に供給することができ、電解洗浄効果がさらに高まる。
【0084】
しかも、常時一定の電圧を印加する場合に比べて通電量を抑えることができ、その分電解洗浄液の寿命を長くできる。また、通電量が減少することにより、陽極10からの発熱量が小さくなることで電解洗浄液の急速な温度上昇を抑えることができる。従って、電解洗浄液の温度制御を容易に行うことができるとともに、電解洗浄液に添加されている界面活性剤による泡が過剰に発生することも好適に防止することができる。
【0085】
また、前記通電量は、前記陽極部11及び陰極20間に印加する電圧によって制御されるため、通電量の制御を電圧の制御によって行うことができるため、通電量の制御が容易となる。
【0086】
また、前記電解洗浄装置1は、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧がそれ以外の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部11Aとは別の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧が該別の陽極部11B以外の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成される。従って、一部の陽極部11A及び陰極20間と別の陽極部11B及び陰極20間に対してそれぞれ異なるタイミングで高い電圧が印加されるため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物Mに付着した汚れに対してより効果的に加えることができる。
【0087】
また、前記陽極10は、二つの陽極部11,11のうち、一方の陽極部11A及び陰極20間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部11B及び陰極20間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成される。従って、常時、各陽極部11A,11B及び陰極20間のうちのいずれかにしか電圧が印加されない状態となるため、通電量を好適に減少させることができる。
【0088】
また、前記各陽極部11及び陰極20間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加される。従って、各陽極部11及び陰極20間の総通電量が同じになるため、洗浄対象物Mを全体的に均一に電解洗浄することができる。
【0089】
さらに、上記実施形態に係る電解洗浄装置1は、二つの陽極部11,11及び陰極20間に交互に電圧が印加され、いずれか一方の陽極部11及び陰極20間に電圧が印加される間は他方の陽極部11及び陰極20間には電圧が印加されないものである。従って、陽極10全体としての単位時間当たりの通電面積が電極面積に比べて小さくなるように制御できるため、電極面積を多く確保することができる。即ち、陽極体12を従来よりも多く設けることができるため、陽極体12を局所的にではなく分散させて配置することも可能となる。従って、前記洗浄槽3の深さ方向に沿う断面の領域を満遍なく網羅することができ、比較的大きな洗浄対象物Mに対しても、ムラなく均一に電解洗浄を行うことができる。また、複数の洗浄対象物Mを同時に洗浄する場合にも、洗浄対象物ごとのムラなく均一に電解洗浄を行なうことができる。
【0090】
なお、従来は、前記洗浄槽3の深さ方向に沿う断面の領域を満遍なく網羅するように多数の陽極体12を配置すると、その分電極面積が増加してしまい、通電量が過大となるため、電解洗浄液の寿命を縮めるだけでなく、洗浄対象物Mに過大な電流が局所的に流れることで洗浄対象物を損傷させるおそれがあった。この点、上述のような電圧の制御方法によって電解洗浄を行うことで、電解洗浄液の寿命を長く維持できる上に、過大な電流によって洗浄対象物Mが損傷するのを好適に防止することができる。
【0091】
また、例えば洗浄対象物Mが小さい場合等、複数の陽極部11のうちの一部の陽極部11で網羅される範囲内で電解洗浄を行いたい場合には、一部の陽極部11及び陰極20間のみに電圧を(常時又はオンオフの繰り返しで断続的に)印加し、他には電圧を常時印加しないようにしてもよい。すなわち、配置された陽極部11の全てを使用せずに、洗浄対象物Mを設置した箇所に対面する陽極部11及び陰極20間のみに通電することよって電解洗浄を行い、洗浄対象物Mを設置していない箇所の陽極部11及び陰極20間には通電しないようにして、無駄に洗浄液が消耗しないようにしてもよい。
【0092】
なお、本発明に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0093】
例えば、前記陽極10を構成する陽極部11は、複数の陽極体12,12…を有するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、陽極部11は、平坦な形状の放電部分を有し、該放電部分が水平面に沿う平面上に位置するように配置される陽極体を備えるものであってもよい。
【0094】
具体的には、例えば、図8に示すように、陽極体32に該陽極体32の両面間を連通する空間部33が形成されるものが考えられる。この陽極体32は、網状(ラス状)を有する部材、即ち、網状体として構成される。一般に、電解電流は電極の縁部に集中して流れる性質を有するものである。この場合、かかる網状の陽極体32であれば、縁部を多く確保することができるため、電流分布が偏ってしまうことを好適に防止でき、洗浄対象物Mを均一に洗浄することができる。
【0095】
また、両面間を連通する空間部33が形成される陽極体32であれば、電解洗浄の際に発生する気体が前記空間部33を通って抜けるため、陽極体32より鉛直方向下方で気体が発生したとしても、上昇してきた気体を該陽極体32が溜めてしまうことなく好適に逃がすことができる。この観点からは、前記空間部33が複数設けられることが好ましい。ただし、図9に示すように、上述のような空間部を有しない平板状を有する陽極体42であってもよい。
【0096】
また、前記電解洗浄装置1は、陽極10が陽極部11を3個以上備えるものであってもよい。この場合には、各陽極部11が順番に若しくはランダムに電圧を印加されるものであってもよい。そして、例えば陽極部が3個ある場合には、これらに順次異なる電圧を印加するものであってもよく、これら陽極部を二つと一つの二組に分け、それぞれに対して異なる電圧を印加するものであってもよい。
【0097】
また、上記実施形態においては、複数の陽極部を二つに分けて通電量を制御するものであったが、これに限定されるものではなく、図10の概略図に示すように、3つ以上に分けて通電量を制御するものであってもよい。陽極10が4つの陽極部71(71A〜71D)を備え、これらを陽極部71A,71Bの組と、陽極部71Cと、陽極部71Dとの3つに分けて通電量を制御する場合について、図10を用いて説明すると、一部の陽極部71A,71B(これらをグループG1で示す)及び陰極20間に対してそれ以外の陽極部71C,71D(これらをグループG2で示す)及び陰極20間よりも高い電圧を印加する状態と、前記一部の陽極部71A,71B(G1)とは別の陽極部71C及び陰極20間に対して該別の陽極部71C以外の陽極部71A,71B,71D(これらをグループG3とする)及び陰極20間よりも高い電圧を印加する状態とを切替可能に構成される。なお、陽極部71A,71B同士は陰極に対する通電量が同じとなるように設定される。
【0098】
また、複数の陽極部のうち、一部の陽極部及び陰極間のみ印加される電圧が変動するように制御され、他の陽極部及び陰極間には、常時一定の電圧が印加され、その電圧値は、前記一部の陽極部及び陰極間に印加される電圧の最大値と最小値との間となるように設定されるものであってもよい。さらに、前記一部の陽極部及び陰極間と他の陽極部及び陰極間に印加される電圧とで、印加される電圧の最大値とが異なるものであってもよい。
【0099】
また、前記複数の陽極部11及び陰極20間は、それぞれ同じ時間に亘って電圧が印加されるものであったが、これに限定されるものではなく、印加時間が陽極部11によって適宜異なるものであってもよい。
【0100】
また、前記陽極10は、一方の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間、他方の陽極部11B及び陰極20間には電圧が印加されず、他方の陽極部11B及び陰極20間に電圧が印加される間、一方の陽極部11A及び陰極20間には電圧が印加されないものであったが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、一部の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加されるタイミングと前記一部の陽極部11A及び陰極20間とは別の陽極部11B及び陰極20間に電圧が印加されるタイミングとが部分的に重複するものであってもよい。換言すると、前記一部の陽極部11A及び陰極20間及びそれとは別の陽極部11B及び陰極20間に同時に電圧が印加される状態が存在するものであってもよい。また、図11に示すように、いずれの陽極部11A,11B及び陰極20間にも電圧が印加されない状態が存在するものであってもよい。
【0101】
また、前記図11及び図12に示したように、印加される電圧値は、一定のものに限られず、低い状態から高い状態まで連続的に変動するものであっても良い。また、印加される電圧は時間的に連続的に変動するものに限られず、不連続に変動するものであってもよい。
【0102】
また、前記陽極10は、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間、それとは別の陽極部11B及び陰極20間には電圧が印加されないものであったが、これに限定されるものではなく、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間にも、それとは別の陽極部11B及び陰極20間には前記一部の陽極部11A及び陰極20間よりも小さい電圧が印加されるものであってもよい。
【0103】
また、上記実施形態においては、超音波洗浄を併せて行い、電解洗浄液を循環し、電解洗浄液を濾過し、電解洗浄中に補充液を補充するものであったが、これに限定されるものではなく、これらの付随的な操作は、電解洗浄の際に行われないものであってもよく、これらの付随的な操作の中の一部が行われるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施形態に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図2】同実施形態に係る電解洗浄装置の断面図を示す。
【図3】同実施形態に係る電解洗浄装置の陽極を構成する陽極部を示し、(A)は、陽極部全体の斜視図を示し、(B)は、陽極部の陽極体の斜視図を示す。
【図4】同実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、各陽極部及び陰極間に印加される電圧の波形のグラフを示す。
【図5】比較例に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図6】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図7】他の比較例に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図8】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置において用いられる陽極を構成する陽極部の斜視図を示す。
【図9】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置において用いられる陽極を構成する陽極部の斜視図を示す。
【図10】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、複数の陽極部に対して通電量を制御する場合における陽極部の区分を説明する概略図を示す。
【図11】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、各陽極部及び陰極間に印加される電圧の波形のグラフを示す。
【図12】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、各陽極部及び陰極間に印加される電圧の波形のグラフを示す。
【符号の説明】
【0105】
1…電解洗浄装置、2…筐体、3…洗浄槽、4…電源、10…陽極、11(11A,11B)…陽極部、12…陽極体、12a…放電部分、12b…絶縁体、13…支持体、20…陰極、21…支持部材、21a…導電部分、21b…絶縁体、22…吊下部材、22a…支持部材との接続部分、22b…電源との接続部分、22c…絶縁体、32…陽極体、33…空間部、42…陽極体、51…電解洗浄装置、60…陽極、61…陽極部、62…陽極体、71(71A,71B,71C,71D)…陽極部、L1…外形線、L2…外形線、M…洗浄対象物、S…隙間の領域、G1,G2,G3…グループ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解洗浄装置及び電解洗浄方法に関し、より詳しくは、Feや鋼、ステンレス鋼、Ni、Ti、希金属類を材質とする精密金型等の金属部品を腐食又は溶解させることなく、樹脂、ガラス、ゴム、研磨剤、スマット等の付着汚れや、錆、酸化皮膜等の金属酸化物、変色等の汚れを好適に除去することのできる電解洗浄装置及び電解洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いて高温・高圧下で樹脂成形を繰り返すと、金型に樹脂や添加剤が熱分解して発生したガスが焼きついたり、焼けただれた樹脂が付着したりし、場合によっては腐食性物質を含む酸化皮膜が形成されることがある。これを適切な方法でメンテナンスせずに放置すると、金型が腐食して破損してしまうこともある。従来、これらの汚れが付着した金型等の金属部品は、手作業で磨いて取り除くといった方法や超音波洗浄によりメンテナンスされることが多かった。しかし、これらの方法は、作業が面倒であり、しかも、結合力の強い汚れは充分に除去することが出来なかった。
【0003】
そこで、このような結合力の強い汚れをも効果的に除去することのできる洗浄方法として、電解を利用した洗浄方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0004】
電解洗浄は、電解洗浄液を電解したときに発生するガスによって汚れを押し上げて剥離することが基本原理となっている。また、一般的に、電解洗浄液にはキレート剤等の添加剤が加えられており、これら添加剤が電解洗浄液中に溶解した金属イオンを配位して封鎖することで、金属イオンが洗浄対象物に焼けや変色等の損傷を与えるのを防止している。
【0005】
ところが、これら添加剤は、電解反応によって徐々に分解・消耗されていくものであり、一定量以上洗浄液成分が分解・消耗すると、上述したような金属イオンを封鎖する機能が急速に失われ、洗浄対象物に損傷が生じるようになる。従って、使用前の状態からこの状態になるまでの期間が電解洗浄液の寿命となる。なお、電解洗浄液の寿命と通電量は、ファラデーの電気分解の法則に従い、反比例の関係にあることが知られている(例えば、非特許文献1)。即ち、通電量を増やせば寿命は短くなり、逆に通電量を減らせば寿命は長くなる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−128853号公報
【特許文献2】特開平7−214570号公報
【特許文献3】特開平9−164533号公報
【非特許文献1】「プラスチックス」 日本プラスチックス工業連盟、58巻(2007年12月号)、p55−57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、現在まで、洗浄効果と通電量とは比例関係にあると考えられてきた。従って、洗浄効果を高めるために、通電量を増加させる方法が採られ、その結果寿命が短くなることを余儀なくされていた。
【0008】
しかしながら、電解洗浄液は、一般に高価である上にランニングコストに占める割合が高いため、寿命が短いとランニングコストが高くなってしまうという問題がある。また、使用済みの電解洗浄液を頻繁に廃棄しなければないことは、廃液量が増えることによって環境負荷を増大させるため好ましくない。さらに、交換頻度が高いと、電解洗浄全体の作業効率が低下するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、洗浄効果を低下させることなく、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる電解洗浄装置及び電解洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電解洗浄装置は、陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄装置であって、前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る電解洗浄方法は、陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄方法であって、前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御することを特徴とする。
【0012】
上記構成からなる電解洗浄装置及び電解洗浄方法によれば、陽極及び陰極間に常時一様に通電する従来の電解洗浄装置及び電解洗浄方法の場合と同程度の洗浄効果を維持できつつも、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。或いは、同じ量の電解洗浄液を用いて、より多くの洗浄対象を洗浄することができる。かかる効果が発揮される理由の一つとしては、特定の陽極部と陰極との通電量が常時変化することで、陰極に保持された洗浄対象物における気体の発生状態が常時変化するため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物に付着した汚れに対して効果的に加えることができることが考えられる。また、複数の陽極部は異なる位置に位置するため、最も通電量の多い陽極部が時間によって変化すると、洗浄作用が加えられる方向が時間的に変動することとなり、洗浄作用を洗浄対象物に付着した汚れに対して効果的に加えることができることも理由の一つとして考えられる。しかも、電解洗浄液の寿命は通電量に反比例することから、陽極及び陰極間に常時一様に通電する(すなわち配置された全ての陽極部に対して常時一定に通電する)従来の電解洗浄に比べて通電量を抑えることができ、その分電解洗浄液の寿命を長くできる。
【0013】
また、上記構成においては、前記通電量は、前記各陽極部及び陰極間に印加する電圧によって制御される構成が好ましい。
【0014】
このようにすれば、通電量の制御を電圧の制御によって行うことができるため、通電量の制御が容易となる。
【0015】
また、上記構成においては、前記一部の陽極部及び陰極間に印加される電圧がそれ以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部とは別の陽極部及び陰極間に印加される電圧が該別の陽極部以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成されることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、一部の陽極部及び陰極間と別の陽極部及び陰極間にそれぞれ異なるタイミングで高い電圧が印加されるため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物に付着した汚れに対してより効果的に加えることができる。
【0017】
具体的には、前記陽極は、二つの陽極部によって構成され、一方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成されることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、常時、各陽極部及び陰極間のうちのいずれかにしか電圧が印加されない状態となるため、単位時間当たりの通電量を好適に減少させることができる。
【0019】
また、前記各陽極部及び陰極間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加される構成が好ましい。
【0020】
また、その電解洗浄方法としては、前記各陽極部及び陰極間に、所定時間毎に一定の大きさの電圧を交互に印加する構成が好ましい。
【0021】
このようにすれば、各陽極部及び陰極間の総通電量が同じになるため、洗浄対象物を全体的に均一に電解洗浄することができる。
【0022】
また、前記陽極は、Fe,Pt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金を用いて形成される構成が好ましい。
【0023】
或いは、前記陽極は、Tiからなる陽極本体をPt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金によって被覆して形成される構成であってもよい。
【0024】
また、前記電解洗浄装置は、前記電解洗浄液を超音波振動させる超音波発生器を備える構成が好ましい。
【0025】
このようにすれば、電解洗浄液が超音波振動することにより洗浄対象物に付着した汚れの剥離を促進することができる。
【0026】
また、前記電解洗浄液は、電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有し、界面活性剤として、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有する構成が好ましい。
【0027】
また、上記電解洗浄方法においては、電解洗浄中に前記電解洗浄液中に補充液を補充することを含み、該補充液は、電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有する構成が好ましい。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、洗浄効果を低下させることなく、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。従って、長時間に亘って電解洗浄液を使用することが可能であるので、ランニングコストを低減でき、また、廃液の発生頻度を少なくして環境への負荷をも低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0030】
第一実施形態に係る電解洗浄装置1は、図1及び図2に示すように、陽極10と洗浄対象物Mを保持する陰極20とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極10及び陰極20間に電流を流して洗浄対象物Mを電解洗浄するものである。以下では、まず、電解洗浄装置1自体の構成について概略的な説明を行う。前記電解洗浄装置1は、前記陽極10及び陰極20の他、筐体2と、該筐体2の上部に配置され、電解洗浄液を収容する洗浄槽3と、電極(陽極10及び陰極20)に給電する電源4を筐体2の内部に備える。
【0031】
前記陽極10は、後述する金属の放電部分12aが洗浄槽3の内部に位置するように設けられ、電解洗浄の際には前記放電部分12aが電解洗浄液に浸漬される。具体的には、図2に示すように、前記陽極10は、洗浄槽3の上端の開口部から吊り下げられる。また、陽極10は、異なる電圧を別々に印加可能な複数(例えば、二つ)の陽極部11,11を備える。これによって、前記陽極10は、陰極20に対して異なる通電量で通電可能となる。(なお、以下では、二つの陽極部11を区別して記載する必要がある場合には、陽極部11A,11Bといったように、A,Bの添え字を付けて記載することとする。)
【0032】
各陽極部11は、前記放電部分12aが水平面に沿う平面上に位置するように配置され、具体的には、前記放電部分12aを有する陽極体12と、該陽極体12を支持する支持体13とを備えて構成される。また、前記陽極部11は、図3(A)にも示されるような部材であり、陽極体12を複数(例えば、4〜10個)有する。陽極体12としては、円形状の平面部分を有する円盤状金属(直径36mm)が用いられる。なお、陽極体12は、二つ一組で設けられる。また、陽極体12は、図3(b)に示すように、前記放電部分12aを除き、電解洗浄液と接触する部分は外面を樹脂等の絶縁体12bによって被覆される。
【0033】
前記陽極体12は、支持体13に対する高さ位置を調整可能に構成され、任意の高さ方向位置で固定される。また、陽極体12は、金属の放電部分12aと洗浄対象物Mの上端面との間隔が20〜50mmとなるように配置され、特に、30mmが好ましい。このようにすると、洗浄対象物Mに焼けや変色等の損傷を発生されることなく、好適に電解洗浄を行うことができる。
【0034】
また、前記陽極10の陽極体12は、前記陰極20のうち洗浄対象物Mが載置される部分を、従来の電解洗浄装置(例えば、図5,図7参照)に比べて広い範囲に亘って覆うように配置される。具体的には、前記陽極体12は、図1に示すように、前記陰極20の面積に対して若干狭い領域を少なくとも覆うように設けられる。即ち、陽極体12が被洗浄面を全体的に覆うように配置される。例えば、複数の陽極体12,12…によって画定される陽極10の仮想的な外形線L1と、洗浄対象物Mが載置される部分によって画定される陰極20の外形線L2とを二次元的に重ね合わせた状態(上面視)において、前記二つの外形線の間にできる隙間の領域Sは、陽極体12を配置することができない程度の大きさに設定される。即ち、前記隙間の領域Sの幅は、前記陽極体12以下の大きさに形成される。
【0035】
なお、前記陽極10(即ち、陽極体12)は、Feを用いて形成される。Feは、安価なため、電解洗浄装置1のコストダウンを図ることができる。ただし、電解洗浄液中に金属イオンが蓄積すると、酸化物などに変化して洗浄対象物Mに吸着する可能性が高まるため、これを防止する観点からは、陽極10(即ち、陽極体12)は、Pt,Pd,Ir,Ru等のイオン化傾向が小さい白金族金属、若しくはこれらの合金を用いて形成することが好ましい。さらに、前記陽極体12は、Tiからなる陽極本体をPt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金によって被覆して形成したものであってもよい。このようにすれば、高価な白金族金属の使用量を少なくすることができるため、経済的である。
【0036】
前記陰極20は、図2に示すように、洗浄対象物Mと電気的に接続した状態で該洗浄対象物Mを支持する支持部材21と、該支持部材21を吊り下げる吊下部材22とを備えて構成される。また、前記支持部材21は、洗浄対象物Mと接触するように構成される金属の導電部分21aを有する。具体的には、支持部材21は、ステンレス等の金属製のトレイとして設けられる。ただし、陰極としては、上述のものに限定されず、ステンレス等の金属製のかごとして設けられるものであってもよい。また、前記支持部材21には、該支持部材21の両面間を連通する空間部が形成される。このようにすれば、電解洗浄液が前記支持部材21に形成された空間部を流通することができるため、洗浄対象物Mとの隙間に電解によって分解した洗浄液が蓄積することなく、常に新鮮な洗浄液を供給することができるため、分解した洗浄液成分が洗浄対象物に焼き付いたりするような問題を引き起こすことなく好適に洗浄することができる。具体的には、前記支持部材21は、複数のパンチ孔が形成されたいわゆるパンチングメタルを用いて形成される。なお、前記支持部材21は、開口上端部を樹脂等の絶縁体21bによって縁取りされている。また、また、吊下部材22は、支持部材21との接続部分22a及び電源4との接続部分22bを除き、樹脂等の絶縁体22cによって被覆されている。
【0037】
前記電解洗浄装置1には、電解洗浄以外にも前記電解洗浄液を超音波振動させて洗浄対象物の超音波洗浄を行うための超音波発生器(図示しない)が備えられている。該超音波発生器は、前記洗浄槽3の下部に設けられる。超音波洗浄は、電解洗浄と同時に又は交互に行うことができるが、電解洗浄と同時に行われるのが好ましい。
【0038】
このようにすれば、電解洗浄液が超音波振動することにより洗浄対象物Mに付着した汚れの剥離を促進することができる。具体的には、超音波振動によってキャビテーションが発生し、これによって汚れの剥離が促進されるとともに、電解反応が活性化される。従って、陽極体12と対面していない箇所や、凹んだ部分に対しても洗浄効果を高く発揮することができる。
【0039】
また、前記電解洗浄装置1は、前記電解洗浄液を加熱する加熱装置(図示しない)を備える構成が好ましい。なお、電解洗浄を行う液温は、20〜70℃が好ましく、この場合には、洗浄対象物Mが焼けや変色を生じることなく好適に洗浄を実施することができる。さらに、液温が50〜60℃の場合には、金属酸化皮膜、錆、樹脂付着物、ガス焼けなどの比較的結合の強い金型汚れに対しても、洗浄対象物Mに損傷を与えることなく短時間で最も効率よく洗浄することができる。
【0040】
また、前記電解洗浄装置1は、電解洗浄液を洗浄槽3から排出し、夾雑物を除去し、再度洗浄槽3内に投入する循環機構(図示しない)を備える。ここで、循環機構について具体的に説明する。前記洗浄槽3は、底部分から電解洗浄液が供給されるように構成されており、洗浄槽3が満杯となると、所定の高さ位置に設けられた排出部から電解洗浄液がオーバーフローするようになっている。電解洗浄の際には、洗浄対象物Mから剥離した付着物などの夾雑物や泡が発生するものであるが、電解洗浄液をオーバーフローさせることで、これら夾雑物や泡も電解洗浄液とともに洗浄槽3から排出される。排出された電解洗浄液は、例えばフィルターによる濾過等の周知の方法によって浄化処理され、浄化された電解洗浄液は再度前記洗浄槽3に供給される。
【0041】
なお、前記電解洗浄装置1によって洗浄される洗浄対象物Mは、例えば、フラットパネルディスプレイの導光板やシート状光学レンズ、携帯電話の超小型精密なカメラレンズ、車両用リフレクター等を射出成型する金型である。
【0042】
電解洗浄液としては、電解質と、キレート剤と、界面活性剤とを含有するものが用いられる。電解質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有するものが好ましい。キレート剤としては、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤を含有するもの、及び、グルコン酸塩が好ましい。界面活性剤としては、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有するものが好ましく、特に、両性界面活性剤が好ましい。また、電解洗浄液は、pHが8〜14のアルカリ性水溶液であり、この範囲では、pH値が高いほど洗浄効果が高くなる。また、このpH範囲で洗浄を行えば、Feや鋼、ステンレス鋼、Ni、Ti、希金属類を材質とする洗浄対象物の腐食は無視できる。
【0043】
上記電解洗浄液において、キレート剤は、電解洗浄液中に溶解した金属イオンを配位して封鎖するため、金属イオンに由来する洗浄対象物の変色を好適に防止することができる。また、界面活性剤は、電解洗浄液の表面張力を小さくするため、汚れの隙間に対する浸透性を高めて洗浄効果を高めることができる。また、界面活性剤によって電解洗浄液の液面に泡が発生するため、電解洗浄によって発生した気体が液面で弾けるときに発生するアルカリ性のミストが飛散するのを好適に防止することができる。
【0044】
さらに、長時間に亘って電解洗浄を行うと、電解洗浄液の蒸発や水の電気分解によって液量が減少するため、電解洗浄開始時の液量を維持すべく、補充液を適宜補充する。補充液は、水であってもよいが、電解質とキレート剤とグルコン酸塩とを含有するものが好ましく、界面活性剤を含有するものがさらに好ましい。なお、上述の電解洗浄液と同様に、電解質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有するものが好ましい。キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤を含有するものが好ましい。界面活性剤としては、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有するものが好ましく、特に、両性界面活性剤が好ましい。
【0045】
次に、本実施形態に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法の特徴的部分である電圧(通電量)の制御について説明する。
【0046】
前記電解洗浄装置1は、図4に示すように、前記複数の陽極部11,11のうち一部の陽極部11Aにおける前記陰極20との通電量が、他の陽極部11Bにおける前記陰極20との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成される。
【0047】
具体的には、前記通電量は、前記陽極部及び陰極間に印加する電圧によって制御される。即ち、前記電解洗浄装置1は、前記複数の陽極部11,11及び陰極20間の電圧のうち一部の陽極部11A及び陰極20間の電圧が他の陽極部11B及び陰極20間の電圧に比べて高い状態と低い状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成される。
【0048】
また、前記電解洗浄装置1は、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧がそれ以外の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部11Aとは別の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧が該別の陽極部11B以外の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成される。なお、印加される電圧が約2V(いわゆる過電圧)を下回ると電流が流れなくなり電解ガスを発生させることができない状態となるため、一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧が他の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧に比べて高い状態とする際には、一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧は少なくとも過電圧以上の電圧とされる。
【0049】
また、前記陽極10は、二つの陽極部11,11のうち、一方の陽極部11A及び陰極20間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部11B及び陰極20間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成される。具体的には、前記陽極10は、二つの陽極部11,11のうち、一方の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間、他方の陽極部11B及び陰極20間には電圧が印加されず、他方の陽極部11B及び陰極20間に電圧が印加される間、一方の陽極部11A及び陰極20間には電圧が印加されない。
【0050】
また、前記各陽極部11及び陰極20間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加される。例えば、各陽極部11A,11B及び陰極20間に対して30秒周期で(即ち、15秒毎に)5Vの直流電圧を交互に印加する。
【実施例1】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例のみの記載に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更することができる。まず、以下の実施例1,2及び比較例1,2において、電解洗浄液の寿命を検証した。
【0052】
<実施例1>
実施例1では、図1及び図2に示す電解洗浄装置1を使用した。陽極10は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な陽極部11を二つ備え、各陽極部11は、それぞれ円盤状の陽極体12(直径36mm)を4個備える。また、陰極20は、複数の小孔が形成されたステンレス製のトレイを支持部材21として用いた。また、洗浄対象物Mとしては、金型や金属部品の素材に利用される鋼材(幅30mm、長さ30mm、高さ10mm)を用いた。なお、測定には洗浄対象物Mを一つ用いた。そして、上記洗浄対象物Mを前記支持部材21上に並べてセットした。前記陽極10は、金属の放電部分と洗浄対象物Mの上端面との間隔が30mmとなるように配置した。
【0053】
電解洗浄液としては、4.5重量%水酸化ナトリウム、5重量%エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム、2重量%グルコン酸ナトリウム、及び微量(例えば、1重量%以下)の両性界面活性剤を含むアルカリ性水溶液からなる電解洗浄液(pH13.6)を用いた。なお、電解洗浄装置1の洗浄槽3は10Lの容量を有するものであり、この電解洗浄液を前記洗浄槽3に9L投入した。
【0054】
なお、電解洗浄中に電解洗浄液が減少するため、補充液として水を適宜補充した。測定が終了するまでに補充した補充液の量は約2200mLであった。
【0055】
そして、前記陽極に対して30秒周期で(即ち、15秒毎に)5Vの直流電圧を交互に印加して電解洗浄を行った(電流30〜45A/平方デシメートル)。また、電解洗浄と同時に40kHzの超音波を照射した。なお、液温は45〜60℃に維持した。
【0056】
そして、1時間ごとに、洗浄対象物Mに損傷(具体的には、焼けや変色)が発生しているか否かの検証を行い、洗浄対象物Mに損傷が確認されるまでの時間を測定した。検証としては、洗浄対象物Mを電解洗浄装置から取り出し、流水で水洗して電解洗浄液を取り除いた後、アルゴンガスを吹き付けて乾燥させ、照明等のある明るい環境下で肉眼及び光学顕微鏡を用いて損傷(具体的には、焼けや変色)の有無を調べる作業を行った。その結果、43時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0057】
<比較例1>
比較例1は、陽極の構成及び陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例1と同様である。比較例1では、図5に示すような、陽極60が一つの陽極部61で構成され、該陽極部61は、陽極体62を6個有する電解洗浄装置51を用いた。なお、比較例1に係る電解洗浄装置51のうち、実施例1に係る電解洗浄装置1と同様の構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。そして、印加する電圧を変化させることなく、5Vの直流電圧を常時印加した。測定が終了するまでに補充した補充液(水)の量は、約1500mLであった。その結果、29時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0058】
<実施例2>
実施例2は、補充液を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例1と同様である。実施例2では、補充液として、2.5%水酸化ナトリウム、1%エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム(EDTA‐4Na)、1重量%以下の微量の両性界面活性剤を含むアルカリ性水溶液(pH13.6)を用いた。また、測定が終了するまでに補充した補充液の量は約5000mLであった。その結果、57時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0059】
<比較例2>
比較例2は、陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例2と同様である。比較例2では、図1に示すような陽極10に対して各陽極部11,11及び陰極20間に印加する電圧を変化させることなく、8個の陽極体12の全てに対して5Vの直流電圧を常時印加した。測定が終了するまでに補充した補充液(アルカリ性水溶液)の量は約1500mLであった。その結果、16時間経過時の検証において、洗浄対象物Mに損傷が確認された。これらを表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
上記測定の結果、電解洗浄液の寿命は、実施例1,2の方が比較例1,2に比べて長いことが確認された。
【0062】
次に、以下の実施例3,4及び比較例3,4において、電解洗浄の効果を検証した。
【0063】
<実施例3>
実施例3では、洗浄対象物Mとして、上記各例と同様の材質及び寸法を有し、表面に赤錆が発生した鋼材を用いた。かかる洗浄対象物Mは、鋼材をエタノールで脱脂した後、塩水を噴霧して、室温で5日間放置することで作製した。
【0064】
電解洗浄装置1としては、実施例1で用いたものと同様な構成のものを用いた。また、液温が55〜60℃である点を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例1と同様である。
【0065】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時の検証では赤錆が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0066】
<比較例3>
比較例3は、陽極の構成及び陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例3と同様である。また、比較例3では、比較例1で用いたものと同様の図5に示す構成の陽極60を用いた。
【0067】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時の検証では赤錆が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0068】
<実施例4>
実施例4は、洗浄対象物Mを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例3と同様である。実施例4では、洗浄対象物Mとして、上記各例と同様の材質及び寸法を有し、表面に酸化皮膜が形成された鋼材を用いた。かかる洗浄対象物Mは、鋼材を空気中において電熱器で加熱することによって作製され、具体的には、表面の状態が本来の金属色から褐色に変化し、さらに褐色から紫色に変化し始めるまで加熱した後(10分程度)に放冷することにより、褐色と紫色が混在した酸化皮膜が表面に形成された洗浄対象物Mを作製した。
【0069】
かかる洗浄対象物Mを用いて測定を行った結果、5分経過時の検証では酸化皮膜が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0070】
<比較例4>
比較例4は、陽極の構成及び陽極に印加する電圧に関するものを除いて、各種の条件は基本的に上記実施例4と同様である。また、比較例4では、比較例1で用いたものと同様の図5に示す構成の陽極60を用いた。
【0071】
かかる洗浄対象物Mを用いて測定を行った結果、5分経過時の検証では酸化皮膜が残存していたが、10分経過時の検証では消滅したことが確認された。これらを表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
<実施例5>
実施例5は、陽極の構成と洗浄対象物Mの個数を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例3と同様である。実施例5では、図6に示すような、陽極10が異なる陽極部11を二つ備え、各陽極部11は、それぞれ円盤状の陽極体12を10個有するものを用いた。また、測定には洗浄対象物Mを6個用いた。
【0074】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時の検証では赤錆が全ての洗浄対象物Mにおいて一部残存していたが、10分経過時の検証では全ての洗浄対象物Mにおいて消滅したことが確認された。これらを表3に示す。
【0075】
<比較例5>
比較例5は、陽極の構成及び配置と洗浄対象物の個数を除いて、各種の条件は基本的に上記実施例5と同様である。比較例5では、図7に示すような、陽極60が一つの陽極部61で構成され、該陽極部61は、それぞれ陽極体62(直径50mm)を8個有するものを用いた。また、中央の二つの洗浄対象物Mは陽極と対向する配置であったが、左右の4個の洗浄対象物Mは、陽極と対向しない配置となった。
【0076】
そして、洗浄対象物Mの表面に発生した赤錆が電解洗浄によって消滅したことが確認される時間を測定した。その結果、5分経過時及び10分経過時の検証において、電極を挟んで左右に配置された洗浄対象物Mにおいて、一部赤錆が残存していることが確認された。これらを表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例3,4と比較例3,4とを比較すると、実施例3,4においては、特定の陽極に電圧が常時印加されるものではなかったにもかかわらず、電圧が常時印加されるものである比較例3,4と洗浄効果が同程度であることが確認された。このことから、上述のように印加される電圧を制御した場合には、少ない通電量で同等の洗浄効果を奏することが確認された。
【0079】
また、実施例1,2における比較及び実施例3,4における比較を考慮すると、本実施例に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法によれば、従来と同程度の洗浄効果を奏しつつも寿命を長く維持できることが確認できた。
【0080】
また、実施例5と比較例5との比較から、陽極10及び陰極20によって挟まれる領域に配置された洗浄対象物Mは電解洗浄を好適に行うことができるが、陰極と対向した位置に陽極が存在しない領域に配置された洗浄対象物Mは電解洗浄を十分に行うことができないことが確認された。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法によれば、洗浄効果を低下させることなく、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。従って、長時間に亘って電解洗浄液を使用することが可能であるので、ランニングコストを低減でき、また、廃液の発生頻度を少なくして環境への負荷をも低減することができる。
【0082】
即ち、本実施形態に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法によれば、陽極及び陰極間に常時一様に通電する従来の電解洗浄装置及び電解洗浄方法の場合と同程度の洗浄効果を維持できつつも、電解洗浄液の寿命を長く維持することができる。かかる効果が発揮される理由の一つとしては、特定の陽極部11と陰極20との通電量が常時変化することで、陰極20に保持された洗浄対象物Mにおける気体の発生状態が常時変化するため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物Mに付着した汚れに対して効果的に加えることができるということが考えられる。また、複数の陽極部11は異なる位置に位置するため、最も通電量の多い陽極部11が時間によって変化すると、洗浄作用が加えられる方向が時間的に変動することとなり、洗浄作用を洗浄対象物Mに付着した汚れに対して効果的に加えることができることも理由の一つとして考えられる。
【0083】
さらに、通電量が多い状態から少ない状態に変化すると気体の発生が抑制される。ここで、電解洗浄液は、前記循環手段による流れや、超音波振動による振動や、温度差によって発生する対流や、気体の上昇によって発生する対流等によって、常時撹拌される状態となっている。従って、気体の発生が抑制されている間に電解洗浄液の撹拌によって洗浄対象物Mの表面から気体が除去されるため、洗浄対象物Mの表面に電解洗浄液を好適に供給することができ、電解洗浄効果がさらに高まる。
【0084】
しかも、常時一定の電圧を印加する場合に比べて通電量を抑えることができ、その分電解洗浄液の寿命を長くできる。また、通電量が減少することにより、陽極10からの発熱量が小さくなることで電解洗浄液の急速な温度上昇を抑えることができる。従って、電解洗浄液の温度制御を容易に行うことができるとともに、電解洗浄液に添加されている界面活性剤による泡が過剰に発生することも好適に防止することができる。
【0085】
また、前記通電量は、前記陽極部11及び陰極20間に印加する電圧によって制御されるため、通電量の制御を電圧の制御によって行うことができるため、通電量の制御が容易となる。
【0086】
また、前記電解洗浄装置1は、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧がそれ以外の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部11Aとは別の陽極部11B及び陰極20間に印加される電圧が該別の陽極部11B以外の陽極部11A及び陰極20間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成される。従って、一部の陽極部11A及び陰極20間と別の陽極部11B及び陰極20間に対してそれぞれ異なるタイミングで高い電圧が印加されるため、剥離作用等の洗浄作用を洗浄対象物Mに付着した汚れに対してより効果的に加えることができる。
【0087】
また、前記陽極10は、二つの陽極部11,11のうち、一方の陽極部11A及び陰極20間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部11B及び陰極20間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成される。従って、常時、各陽極部11A,11B及び陰極20間のうちのいずれかにしか電圧が印加されない状態となるため、通電量を好適に減少させることができる。
【0088】
また、前記各陽極部11及び陰極20間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加される。従って、各陽極部11及び陰極20間の総通電量が同じになるため、洗浄対象物Mを全体的に均一に電解洗浄することができる。
【0089】
さらに、上記実施形態に係る電解洗浄装置1は、二つの陽極部11,11及び陰極20間に交互に電圧が印加され、いずれか一方の陽極部11及び陰極20間に電圧が印加される間は他方の陽極部11及び陰極20間には電圧が印加されないものである。従って、陽極10全体としての単位時間当たりの通電面積が電極面積に比べて小さくなるように制御できるため、電極面積を多く確保することができる。即ち、陽極体12を従来よりも多く設けることができるため、陽極体12を局所的にではなく分散させて配置することも可能となる。従って、前記洗浄槽3の深さ方向に沿う断面の領域を満遍なく網羅することができ、比較的大きな洗浄対象物Mに対しても、ムラなく均一に電解洗浄を行うことができる。また、複数の洗浄対象物Mを同時に洗浄する場合にも、洗浄対象物ごとのムラなく均一に電解洗浄を行なうことができる。
【0090】
なお、従来は、前記洗浄槽3の深さ方向に沿う断面の領域を満遍なく網羅するように多数の陽極体12を配置すると、その分電極面積が増加してしまい、通電量が過大となるため、電解洗浄液の寿命を縮めるだけでなく、洗浄対象物Mに過大な電流が局所的に流れることで洗浄対象物を損傷させるおそれがあった。この点、上述のような電圧の制御方法によって電解洗浄を行うことで、電解洗浄液の寿命を長く維持できる上に、過大な電流によって洗浄対象物Mが損傷するのを好適に防止することができる。
【0091】
また、例えば洗浄対象物Mが小さい場合等、複数の陽極部11のうちの一部の陽極部11で網羅される範囲内で電解洗浄を行いたい場合には、一部の陽極部11及び陰極20間のみに電圧を(常時又はオンオフの繰り返しで断続的に)印加し、他には電圧を常時印加しないようにしてもよい。すなわち、配置された陽極部11の全てを使用せずに、洗浄対象物Mを設置した箇所に対面する陽極部11及び陰極20間のみに通電することよって電解洗浄を行い、洗浄対象物Mを設置していない箇所の陽極部11及び陰極20間には通電しないようにして、無駄に洗浄液が消耗しないようにしてもよい。
【0092】
なお、本発明に係る電解洗浄装置1及び電解洗浄方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0093】
例えば、前記陽極10を構成する陽極部11は、複数の陽極体12,12…を有するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、陽極部11は、平坦な形状の放電部分を有し、該放電部分が水平面に沿う平面上に位置するように配置される陽極体を備えるものであってもよい。
【0094】
具体的には、例えば、図8に示すように、陽極体32に該陽極体32の両面間を連通する空間部33が形成されるものが考えられる。この陽極体32は、網状(ラス状)を有する部材、即ち、網状体として構成される。一般に、電解電流は電極の縁部に集中して流れる性質を有するものである。この場合、かかる網状の陽極体32であれば、縁部を多く確保することができるため、電流分布が偏ってしまうことを好適に防止でき、洗浄対象物Mを均一に洗浄することができる。
【0095】
また、両面間を連通する空間部33が形成される陽極体32であれば、電解洗浄の際に発生する気体が前記空間部33を通って抜けるため、陽極体32より鉛直方向下方で気体が発生したとしても、上昇してきた気体を該陽極体32が溜めてしまうことなく好適に逃がすことができる。この観点からは、前記空間部33が複数設けられることが好ましい。ただし、図9に示すように、上述のような空間部を有しない平板状を有する陽極体42であってもよい。
【0096】
また、前記電解洗浄装置1は、陽極10が陽極部11を3個以上備えるものであってもよい。この場合には、各陽極部11が順番に若しくはランダムに電圧を印加されるものであってもよい。そして、例えば陽極部が3個ある場合には、これらに順次異なる電圧を印加するものであってもよく、これら陽極部を二つと一つの二組に分け、それぞれに対して異なる電圧を印加するものであってもよい。
【0097】
また、上記実施形態においては、複数の陽極部を二つに分けて通電量を制御するものであったが、これに限定されるものではなく、図10の概略図に示すように、3つ以上に分けて通電量を制御するものであってもよい。陽極10が4つの陽極部71(71A〜71D)を備え、これらを陽極部71A,71Bの組と、陽極部71Cと、陽極部71Dとの3つに分けて通電量を制御する場合について、図10を用いて説明すると、一部の陽極部71A,71B(これらをグループG1で示す)及び陰極20間に対してそれ以外の陽極部71C,71D(これらをグループG2で示す)及び陰極20間よりも高い電圧を印加する状態と、前記一部の陽極部71A,71B(G1)とは別の陽極部71C及び陰極20間に対して該別の陽極部71C以外の陽極部71A,71B,71D(これらをグループG3とする)及び陰極20間よりも高い電圧を印加する状態とを切替可能に構成される。なお、陽極部71A,71B同士は陰極に対する通電量が同じとなるように設定される。
【0098】
また、複数の陽極部のうち、一部の陽極部及び陰極間のみ印加される電圧が変動するように制御され、他の陽極部及び陰極間には、常時一定の電圧が印加され、その電圧値は、前記一部の陽極部及び陰極間に印加される電圧の最大値と最小値との間となるように設定されるものであってもよい。さらに、前記一部の陽極部及び陰極間と他の陽極部及び陰極間に印加される電圧とで、印加される電圧の最大値とが異なるものであってもよい。
【0099】
また、前記複数の陽極部11及び陰極20間は、それぞれ同じ時間に亘って電圧が印加されるものであったが、これに限定されるものではなく、印加時間が陽極部11によって適宜異なるものであってもよい。
【0100】
また、前記陽極10は、一方の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間、他方の陽極部11B及び陰極20間には電圧が印加されず、他方の陽極部11B及び陰極20間に電圧が印加される間、一方の陽極部11A及び陰極20間には電圧が印加されないものであったが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、一部の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加されるタイミングと前記一部の陽極部11A及び陰極20間とは別の陽極部11B及び陰極20間に電圧が印加されるタイミングとが部分的に重複するものであってもよい。換言すると、前記一部の陽極部11A及び陰極20間及びそれとは別の陽極部11B及び陰極20間に同時に電圧が印加される状態が存在するものであってもよい。また、図11に示すように、いずれの陽極部11A,11B及び陰極20間にも電圧が印加されない状態が存在するものであってもよい。
【0101】
また、前記図11及び図12に示したように、印加される電圧値は、一定のものに限られず、低い状態から高い状態まで連続的に変動するものであっても良い。また、印加される電圧は時間的に連続的に変動するものに限られず、不連続に変動するものであってもよい。
【0102】
また、前記陽極10は、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間、それとは別の陽極部11B及び陰極20間には電圧が印加されないものであったが、これに限定されるものではなく、前記一部の陽極部11A及び陰極20間に電圧が印加される間にも、それとは別の陽極部11B及び陰極20間には前記一部の陽極部11A及び陰極20間よりも小さい電圧が印加されるものであってもよい。
【0103】
また、上記実施形態においては、超音波洗浄を併せて行い、電解洗浄液を循環し、電解洗浄液を濾過し、電解洗浄中に補充液を補充するものであったが、これに限定されるものではなく、これらの付随的な操作は、電解洗浄の際に行われないものであってもよく、これらの付随的な操作の中の一部が行われるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施形態に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図2】同実施形態に係る電解洗浄装置の断面図を示す。
【図3】同実施形態に係る電解洗浄装置の陽極を構成する陽極部を示し、(A)は、陽極部全体の斜視図を示し、(B)は、陽極部の陽極体の斜視図を示す。
【図4】同実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、各陽極部及び陰極間に印加される電圧の波形のグラフを示す。
【図5】比較例に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図6】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図7】他の比較例に係る電解洗浄装置の平面図を示す。
【図8】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置において用いられる陽極を構成する陽極部の斜視図を示す。
【図9】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置において用いられる陽極を構成する陽極部の斜視図を示す。
【図10】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、複数の陽極部に対して通電量を制御する場合における陽極部の区分を説明する概略図を示す。
【図11】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、各陽極部及び陰極間に印加される電圧の波形のグラフを示す。
【図12】本発明の他の実施形態に係る電解洗浄装置及び電解洗浄方法において、各陽極部及び陰極間に印加される電圧の波形のグラフを示す。
【符号の説明】
【0105】
1…電解洗浄装置、2…筐体、3…洗浄槽、4…電源、10…陽極、11(11A,11B)…陽極部、12…陽極体、12a…放電部分、12b…絶縁体、13…支持体、20…陰極、21…支持部材、21a…導電部分、21b…絶縁体、22…吊下部材、22a…支持部材との接続部分、22b…電源との接続部分、22c…絶縁体、32…陽極体、33…空間部、42…陽極体、51…電解洗浄装置、60…陽極、61…陽極部、62…陽極体、71(71A,71B,71C,71D)…陽極部、L1…外形線、L2…外形線、M…洗浄対象物、S…隙間の領域、G1,G2,G3…グループ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄装置であって、
前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、
前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成されることを特徴とする電解洗浄装置。
【請求項2】
前記通電量は、前記各陽極部及び陰極間に印加する電圧によって制御されることを特徴とする請求項1に記載の電解洗浄装置。
【請求項3】
前記一部の陽極部及び陰極間に印加される電圧がそれ以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部とは別の陽極部及び陰極間に印加される電圧が該別の陽極部以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成されることを特徴とする請求項2に記載の電解洗浄装置。
【請求項4】
前記陽極は、二つの陽極部によって構成され、
一方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成されることを特徴とする請求項2又は3に記載の電解洗浄装置。
【請求項5】
前記各陽極部及び陰極間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加されることを特徴とする請求項4に記載の電解洗浄装置。
【請求項6】
前記陽極は、Fe,Pt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金を用いて形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解洗浄装置。
【請求項7】
前記陽極は、Tiからなる陽極本体をPt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金によって被覆して形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解洗浄装置。
【請求項8】
前記電解洗浄液を超音波振動させる超音波発生器を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解洗浄装置。
【請求項9】
陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄方法であって、
前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、
前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御することを特徴とする電解洗浄方法。
【請求項10】
前記陽極は、二つの陽極部によって構成され、
前記各陽極部及び陰極間に、所定時間毎に一定の大きさの電圧を交互に印加することを特徴とする請求項9に記載の電解洗浄方法。
【請求項11】
前記電解洗浄液は、
電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、
キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有し、
界面活性剤として、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする請求項9又は10に記載の電解洗浄方法。
【請求項12】
電解洗浄中に前記電解洗浄液中に補充液を補充することを含み、
該補充液は、
電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、
キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の電解洗浄方法。
【請求項1】
陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄装置であって、
前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、
前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御可能に構成されることを特徴とする電解洗浄装置。
【請求項2】
前記通電量は、前記各陽極部及び陰極間に印加する電圧によって制御されることを特徴とする請求項1に記載の電解洗浄装置。
【請求項3】
前記一部の陽極部及び陰極間に印加される電圧がそれ以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態と、前記一部の陽極部とは別の陽極部及び陰極間に印加される電圧が該別の陽極部以外の陽極部及び陰極間に印加される電圧よりも高い状態とを切替可能に構成されることを特徴とする請求項2に記載の電解洗浄装置。
【請求項4】
前記陽極は、二つの陽極部によって構成され、
一方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態と、他方の陽極部及び陰極間のみに電圧が印加される状態とを切替可能に構成されることを特徴とする請求項2又は3に記載の電解洗浄装置。
【請求項5】
前記各陽極部及び陰極間には、所定時間毎に交互に一定の大きさの電圧が印加されることを特徴とする請求項4に記載の電解洗浄装置。
【請求項6】
前記陽極は、Fe,Pt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金を用いて形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解洗浄装置。
【請求項7】
前記陽極は、Tiからなる陽極本体をPt,Pd,Ir,Ru若しくはこれらの合金によって被覆して形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解洗浄装置。
【請求項8】
前記電解洗浄液を超音波振動させる超音波発生器を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解洗浄装置。
【請求項9】
陽極と洗浄対象物を保持する陰極とを電解洗浄液中に浸漬し、陽極及び陰極間に電流を流して洗浄対象物を電解洗浄する電解洗浄方法であって、
前記陽極は、陰極に対して異なる通電量で通電可能な複数の陽極部を備え、
前記複数の陽極部のうち一部の陽極部における前記陰極との通電量が、他の陽極部における前記陰極との通電量に比べて多い状態と少ない状態とで交互に切り替わるように制御することを特徴とする電解洗浄方法。
【請求項10】
前記陽極は、二つの陽極部によって構成され、
前記各陽極部及び陰極間に、所定時間毎に一定の大きさの電圧を交互に印加することを特徴とする請求項9に記載の電解洗浄方法。
【請求項11】
前記電解洗浄液は、
電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、
キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有し、
界面活性剤として、中性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする請求項9又は10に記載の電解洗浄方法。
【請求項12】
電解洗浄中に前記電解洗浄液中に補充液を補充することを含み、
該補充液は、
電解質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウムの少なくともいずれか一つを含有し、
キレート剤として、カルボキシレート基(COO−)及び窒素(N)原子で金属イオンを配位するキレート剤と、グルコン酸塩とを含有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の電解洗浄方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−242930(P2009−242930A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94551(P2008−94551)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(593047415)ソマックス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(593047415)ソマックス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
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