説明

電解液および電池

【課題】 サイクル特性を向上させることができる電解液および電池を提供する。
【解決手段】 セパレータ23には電解液が含浸されている。電解液には4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどのハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、フランあるいはイソオキサゾールなどの環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含んでいる。これにより、電解液の分解反応が抑制され、サイクル特性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体を含む電解液およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ),デジタルスチルカメラ,携帯電話,携帯情報端末あるいはノート型コンピュータ等のポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。それに伴い、電子機器のポータブル電源として、電池、特に二次電池について、エネルギー密度を向上させるための研究開発が活発に進められている。中でも、負極に炭素材料を用い、正極にリチウムと遷移金属との複合材料を用い、電解液に炭酸エステルを用いたリチウムイオン二次電池は、従来の鉛電池およびニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるため広く実用化されている。
【0003】
また最近では、携帯用電子機器の高性能化に伴い、更なる容量の向上が求められており、負極活物質として炭素材料に代えてスズ(Sn)あるいはケイ素(Si)などを用いることが検討されている。スズの理論容量は994mAh/g、ケイ素の理論容量は4199mAh/gと、黒鉛の理論容量の372mAh/gに比べて格段に大きく、容量の向上を期待できるからである。特に、スズあるいはケイ素の薄膜を集電体上に形成した負極は、リチウムの吸蔵および放出によっても、負極活物質が微粉化することなく、比較的大きな放電容量を保持できることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第WO01/031724号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リチウム(Li)を吸蔵したスズ合金あるいはケイ素合金は活性が高いので、電解液に従来より用いられている炭酸エステルなどを用いると、これらが分解されてしまい、しかもリチウムが不活性化されてしまうという問題があった。そこで、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体を用いることにより、負極における溶媒の分解反応を抑制し、サイクル特性を向上させることが検討されている。しかし、電解液の分解反応を抑制する効果は十分ではなく、サイクル特性の更なる向上が望まれていた。
【0005】
ところで、負極活物質として炭素材料を用いた場合でも、電池電圧を高くすることで放電容量が向上することが知られているが、この場合にも、電解液が分解されやすくなるので、充放電効率が低下してしまい、サイクル特性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることができる電池およびそれに用いる電解液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電解液は、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含むものである。
【0008】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解液を備えたものであって、電解液は、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電解液によれば、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含むようにしたので、電解液の分解反応を抑制することができる。よって、この電解液を用いた本発明の電池によれば、サイクル特性を向上させることができる。
【0010】
特に、電解液における複素環芳香族化合物の含有量を0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0011】
また、負極に構成元素としてスズおよびケイ素のうちの少なくとも一方を含む負極材料を含有するようにした場合において、あるいは満充電状態における開回路電圧が、4.25V以上である場合において、高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0014】
溶媒は、比誘電率が30以上の高誘電率溶媒を含んでいる。これによりリチウムイオンの数を増加させることができるからである。
【0015】
高誘電率溶媒は、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体を含んでいる。溶媒の分解反応を抑制することができるからである。このような環式炭酸エステル誘導体について具体的に例を挙げれば、化1(1)に示した4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1, 3−ジオキソラン−2−オン、4−ジフルオロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、化2(2)に示した4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、特に4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが望ましい。より高い効果を得ることができるからである。環式炭酸エステル誘導体には1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0016】
【化1】

【0017】
高誘電率溶媒には、これらの環式炭酸エステル誘導体に加えて、他の高誘電率溶媒を混合して用いてもよい。他の高誘電率溶媒としては、例えば、炭酸エチレン,炭酸プロピレン、炭酸ブチレン,炭酸ビニレンあるいはビニル炭酸エチレンなどの環式炭酸エステル、γ−ブチロラクトンあるいはγ−バレロラクトンなどのラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなどのラクタム、N−メチル−2−オキサゾリジノンなどの環式カルバミン酸エステル、テトラメチレンスルホンなどのスルホン化合物が挙げられる。他の高誘電率溶媒には、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0018】
また、高誘電率溶媒には、粘度が1mPa・s以下の低粘度溶媒を混合して用いることが好ましい。これにより高いイオン伝導性を得ることができるからである。低粘度溶媒としては、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの鎖式炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチルなどの鎖式カルボン酸エステル、N,N−ジメチルアセトアミドなどの鎖式アミド、N,N−ジエチルカルバミン酸メチル、N,N−ジエチルカルバミン酸エチルなどの鎖式カルバミン酸エステル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソランなどのエーテルが挙げられる。低粘度溶媒には1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0019】
電解質塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 ),四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 ),六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 ),六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6 ),過塩素酸リチウム(LiClO4 ),四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4 )などの無機リチウム塩、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CF3 SO3 Li),リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド((CF3 SO2 2 NLi),リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミド((C2 5 SO2 2 NLi),リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホン)メチド((CF3 SO2 3 CLi)などのパーフルオロアルカンスルホン酸誘導体のリチウムリチウム塩が挙げられる。電解質塩には1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0020】
この電解液は、更に、添加剤として、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物を含んでいる。電解液の分解反応を更に抑制することができるからである。
【0021】
このような複素環芳香族化合物としては、例えば、フラン環,オキサゾール環あるいはイソオキサゾール環を有する化合物が挙げられ、中でも、化2,化3あるいは化4に示した化合物、フラン環を有する縮合環化合物、オキサゾール環を有する縮合環化合物またはイソオキサゾール環を有する縮合環化合物が挙げられる。
【0022】
【化2】

(式中、R1,R2,R3およびR4は、−Cg 2g+1h または−Cj 2j-1k を表す。g,h,jおよびkの値は、0≦g≦4、0≦h≦g、1≦j≦4、0≦k≦j、2≦j+kを満たす正の整数を表す。R1,R2,R3およびR4は同一のものがあってもよいし、すべてが異なっていてもよい。)
【0023】
【化3】

(式中、R5,R6およびR7は、−Cm 2m+1n または−Cp 2p-1q を表す。m,n,pおよびqの値は、0≦m≦4、0≦n≦m、1≦p≦4、0≦q≦p、2≦p+qを満たす正の整数を表す。R5,R6およびR7は同一のものがあってもよいし、すべてが異なっていてもよい。)
【0024】
【化4】

(式中、R8,R9およびR10は、−Cr 2r+1s または−Ct 2t-1u を表す。r,s,tおよびuの値は、0≦r≦4、0≦s≦r、1≦t≦4、0≦u≦t、2≦t+uを満たす正の整数を表す。R8,R9およびR10は同一のものがあってもよいし、すべてが異なっていてもよい。)
【0025】
フラン環を有する化合物について具体的に例を挙げれば、化5(1)に示したフラン、または化5(2)に示したフルフラールなどのアルデヒド基による置換体、または化5(3)に示した2−フランカルボン酸メチルあるいは化5(4)に示した3−フランカルボン酸メチルなどのエステル、または2−メチルフラン、3−メチルフランあるいは2,3−ジメチルフランなどのアルキル基による置換体、またはフルフリルアルコールなどのアルコール、またはフルフリルメチルエーテルなどのエーテル、またはベンゾフランあるいはジベンゾフランなどの縮合環化合物などがある。また、オキサゾール環を有する化合物について具体的に例を挙げれば、化5(5)に示したオキサゾール、または2,4,5−トリメチルオキサゾールなどのアルキル基による置換体、またはベンゾオキサゾールなどの縮合環化合物などがある。イソオキサゾール環を有する化合物について具体的に例を挙げれば、化5(6)に示したイソオキサゾール、またはベンゾオキサゾールなどの縮合環化合物などがある。
【0026】
【化5】

【0027】
これらの複素環芳香族化合物の含有量は、電解液全体に対して、0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。この範囲内で高い効果が得られるからである。
【0028】
この電解液は、例えば、次のようにして二次電池に用いられる。
【0029】
(第1の二次電池)
図1は、本実施の形態に係る電解液を用いた第1の二次電池の断面構成を表すものである。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12, 13がそれぞれ配置されている。
【0030】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0031】
巻回電極体20の中心には例えばセンターピン24が挿入されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0032】
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aと、正極集電体21Aの両面に設けられた正極活物質層21Bとを有している。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電剤およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。
【0033】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、あるいはこれらを含む固溶体(Li(Nix Coy Mnz )O2 ))(x,yおよびzの値は0<x<1,0<y<1,0<z<1,x+y+z=1である。)、またはマンガンスピネル(LiMn2 4 )あるいはその固溶体(Li(Mn2-v Niv )O4 )(vの値はv<2である。)などのリチウム複合酸化物、またはリン酸鉄リチウム(LiFePO4 )などのオリビン構造を有するリン酸化合物が好ましい。高いエネルギー密度を得ることができるからである。また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン,酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物、二硫化鉄,二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0034】
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。負極集電体22Aは、例えば、銅(Cu),ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。
【0035】
負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、スズまたはケイ素を構成元素として含む材料が挙げられる。スズおよびケイ素はリチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0036】
このような負極材料としては、具体的には、スズの単体,合金,あるいは化合物、またはケイ素の単体,合金,あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0037】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素,ニッケル,銅,鉄,コバルト(Co),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),インジウム(In),銀(Ag),チタン(Ti),ゲルマニウム(Ge),ビスマス(Bi),アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ,ニッケル,銅,鉄,コバルト,マンガン,亜鉛,インジウム,銀,チタン,ゲルマニウム,ビスマス,アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0038】
スズの化合物あるいはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、スズまたはケイ素に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0039】
中でも、この負極材料としては、スズと、コバルトと、炭素とを構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、かつスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合Co/(Sn+Co)が30質量%以上70質量%以下であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において高いエネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるからである。
【0040】
このCoSnC含有材料は、必要に応じて更に他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素,鉄,ニッケル,クロム,インジウム,ニオブ(Nb),ゲルマニウム,チタン,モリブデン(Mo),アルミニウム,リン(P),ガリウム(Ga)またはビスマスが好ましく、2種以上を含んでいてもよい。容量またはサイクル特性を更に向上させることができるからである。
【0041】
なお、このCoSnC含有材料は、スズと、コバルトと、炭素とを含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、このCoSnC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はスズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化を抑制することができるからである。
【0042】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。XPSでは、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、CoSnC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、CoSnC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合している。
【0043】
なお、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとCoSnC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、CoSnC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0044】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また例えば、リチウムと合金を形成可能な他の金属元素または他の半金属元素を構成元素として含む材料を用いることもできる。このような金属元素あるいは半金属元素としては、マグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム,ガリウム,インジウム,ゲルマニウム,鉛(Pb),ビスマス,カドミウム(Cd),銀,亜鉛,ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)が挙げられる。
【0045】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また例えば、黒鉛,難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化性炭素などの炭素材料を用いてもよく、また、これらの炭素材料と、上述した負極材料とを共に用いるようにしてもよい。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少なく、例えば上述した負極材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができ、更に導電剤としても機能するので好ましい。
【0046】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどよりなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多硬質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0047】
セパレータ23には、本実施の形態に係る電解液が含浸されている。
【0048】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0049】
まず、例えば、正極集電体21Aに正極活物質層21Bを形成し正極21を作製する。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質の粉末と導電剤と結着剤とを混合して正極合剤を調製したのち、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し乾燥させ、圧縮成型することにより形成する。また、例えば、正極21と同様にして、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成し負極22を作製する。
【0050】
次いで、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。続いて、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟み電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1,2に示した二次電池が完成する。
【0051】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。その際、電解液にはハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とが含まれているので、電解液の分解反応が抑制される。
【0052】
このように本実施の形態によれば、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含むようにしたので、電解液の分解反応を抑制することができ、サイクル特性を向上させることができる。
【0053】
特に、電解液における複素環芳香族化合物の含有量を0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0054】
また、負極22に構成元素としてスズおよびケイ素のうちの少なくとも一方を含む負極材料を含有するようにした場合において、高い効果を得ることができる。
【0055】
(第2の二次電池)
第2の二次電池は、負極の構成が異なることを除き、他は第1の二次電池と同様の構成および作用を有しており、同様にして製造することができる。よって、図1および図2を参照し、対応する構成要素には同一の符号を付して同一の部分の説明は省略する。
【0056】
負極22は、第1の二次電池と同様に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。負極活物質層22Bは、例えば、スズまたはケイ素を構成元素として含む負極活物質を含有している。具体的には、例えば、スズの単体,合金,あるいは化合物、またはケイ素の単体,合金,あるいは化合物を含有しており、それらの2種以上を含有していてもよい。
【0057】
また、負極活物質層22Bは、例えば、気相法,液相法,溶射法あるいは焼成法、またはそれらの2以上の方法を用いて形成されたものであり、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとが界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。具体的には、界面において負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに、または負極活物質の構成元素が負極集電体22Aに、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。充放電に伴う負極活物質層22Bの膨張・収縮による破壊を抑制することができると共に、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとの間の電子伝導性を向上させることができるからである。なお、焼成法というのは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させ、塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。
【0058】
(第3の二次電池)
図3は、第3の二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型といわれるものであり、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。
【0059】
正極リード31および負極リード32は、それぞれ、外装部材40の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0060】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0061】
なお、外装部材40は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0062】
図4は、図3に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体30は、正極33と負極34とをセパレータ35および電解質層36を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0063】
正極33は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有している。負極34は、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層34Bと正極活物質層33Bとが対向するように配置されている。正極集電体33A,正極活物質層33B,負極集電体34A,負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、上述した第1あるいは第2の二次電池における正極集電体21A,正極活物質層21B,負極集電体22A,負極活物質層22Bおよびセパレータ23と同様である。
【0064】
電解質層36は、本実施の形態に係る電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物あるいはアクリレート系高分子化合物、またはポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体が挙げられ、これらのうちのいずれか1種または2種以上が混合して用いられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ化ビニリデンの重合体などのフッ素系高分子化合物を用いることが望ましい。
【0065】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0066】
まず、正極33および負極34のそれぞれに、電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層36を形成する。次いで、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ37を接着して巻回電極体30を形成する。そののち、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間には密着フィルム41を挿入する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0067】
また、この二次電池は、次のようにして作製してもよい。まず、上述したようにして正極33および負極34を作製し、正極33および負極34に正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ37を接着して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材40に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着して密封する。そののち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層36を形成し、図3,4に示した二次電池を組み立てる。
【0068】
この二次電池の作用および効果は、上述した第1あるいは第2の二次電池と同様である。
【0069】
(第4の二次電池)
第4の二次電池は、完全充電時の開回路電圧(すなわち電池電圧)を4.25V以上とできるようにしたことを除き、他は第1ないし第3の二次電池と同様の構成を有しており、同様にして製造することができる。
【0070】
この二次電池では、完全充電時における開回路電圧が4.20Vの電池よりも、同じ正極活物質であっても、単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなるので、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整されている。これにより高いエネルギー密度が得られるようになっている。
【0071】
負極活物質としては、リチウム金属、あるいはリチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料が好ましい。これらは充放電電位が低いので電池のエネルギー密度を容易に向上させることができるからである。
【0072】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。ここでは、充電時の電池電圧が4.25V以上となっているので、電解液が分解されやすくなっているが、上述したようにハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とが含まれているので、電解液の分解反応が抑制される。
【0073】
この二次電池の効果は、第1ないし第3の二次電池と同様である。
【実施例】
【0074】
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0075】
(実施例1−1〜1−7)
図5に示したコイン型の二次電池を作製した。この二次電池は、正極51と、負極52とを電解液を含浸させたセパレータ53を介して積層し、外装缶54と外装カップ55との間に挟み、ガスケット56を介してかしめたものである。まず、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )94質量部と、導電剤としてグラファイト3質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合したのち、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを添加し正極合剤スラリーを得た。次いで、得られた正極合剤スラリーを、厚み20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体51Aに均一に塗布し乾燥させて厚み70μmの正極活物質層51Bを形成した。そののち、正極活物質層51Bが形成された正極集電体51Aを直径15mmの円形に打ち抜き、正極51を作製した。
【0076】
また、厚み15μmの銅箔よりなる負極集電体52Aの上にスパッタ法により厚み5μmのケイ素よりなる負極活物質層52Bを形成した。そののち、負極活物質層52Bが形成された負極集電体52Aを直径16mmの円形に打ち抜き、負極52を作製した。
【0077】
次いで、正極51と負極52とを厚み25μmの微多孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ53を介して積層したのち、セパレータ53に電解液0.1gを注液して、これらをステンレスよりなる外装カップ55と外装缶54との中に入れ、それらをかしめることにより、図5に示した二次電池を得た。電解液は、高誘電率溶媒としてハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、低粘度溶媒として炭酸ジメチルと、電解質塩として六フッ化リン酸リチウムとを、環式炭酸エステル誘導体:炭酸ジメチル:六フッ化リン酸リチウム=42:42:16の質量比で混合し、更に、添加剤として環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物を1質量%となるように添加して調製した。その際、環式炭酸エステル誘導体は、実施例1−1では、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとし、実施例1−2〜1−7では、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとした。また、複素環芳香族化合物は、実施例1−1,1−2ではフランとし、実施例1−3ではイソオキサゾールとし、実施例1−4ではフルフラールとし、実施例1−5では2−フランカルボン酸メチルとし、実施例1−6では3−フランカルボン酸メチルとし、実施例1−7ではオキサゾールとした。
【0078】
実施例1−1〜1−7に対する比較例1−1として、高誘電率溶媒を炭酸エチレンとし、添加剤をフランとしたことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。また、比較例1−2,1−3として、電解液に添加剤を添加しなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。その際、高誘電率溶媒は、比較例1−2では4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとし、比較例1−3では4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとした。更に比較例1−4として、電解液に添加剤として化6に示したピロールを添加したことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。その際、高誘電率溶媒は4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとした。なお、ピロールは環内に酸素原子を有しない複素環芳香族化合物である。
【0079】
【化6】

【0080】
得られた実施例1−1〜1−7および比較例1−1〜1−4の二次電池について、1.77mAで4.2Vを上限として12時間充電し、その後10分間休止して1.77mAで2.5Vに達するまで放電するという充放電を繰り返し、50サイクル目の放電容量維持率を求めた。50サイクル目の放電容量維持率は、(50サイクル目の放電容量/初回放電容量)×100(%)として計算した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1から分かるように、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを用いた実施例1−1、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを用いた実施例1−2〜1−7によれば、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物を用いていない比較例1−2、または比較例1−3,1−4よりも、それぞれ放電容量維持率について高い値が得られ、更に、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いていない比較例1−1よりも、高い放電容量維持率が得られた。
【0083】
すなわち、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0084】
(実施例2−1〜2−7,3−1〜3−7)
実施例2−1〜2−7として、負極活物質にスズを用い、厚み15μmの銅箔よりなる負極集電体52Aの上に蒸着法により厚み5μmのスズよりなる負極活物質層52Bを形成したことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
【0085】
実施例3−1〜3−7として、負極活物質にインジウムとチタンとを含むCoSnC含有材料粉末を用い、このCoSnC含有材料粉末94質量部と、導電剤である黒鉛3質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部とを、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させたのち、厚み15μmの銅箔よりなる負極集電体52Aに均一に塗布し乾燥させて厚み70μmの負極活物質層52Bを形成したことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
【0086】
その際、CoSnC含有材料粉末は、スズ−コバルト−インジウム−チタン合金粉末と、炭素粉末とを混合し、メカノケミカル反応を利用して合成した。得られたCoSnC含有材料について組成の分析を行ったところ、スズの含有量は48.0質量%、コバルトの含有量は23.0質量%、インジウムの含有量は5.0質量%、チタンの含有量は2.0質量%、炭素の含有量は20.0質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合Co/(Sn+Co)は32質量%であった。なお、炭素の含有量は、炭素・硫黄分析装置により測定し、スズ,コバルト,インジウムおよびチタンの含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析により測定した。また、得られたCoSnC含有材料についてX線回折を行ったところ、回折角2θ=20°〜50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。更に、このCoSnC含有材料についてXPSを行ったところ、図6に示したようにピークP1が得られた。ピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、ピークP2よりも低エネルギー側にCoSnC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、CoSnC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0087】
これらの実施例に対する比較例2−1〜2−4,3−1〜3−4として、比較例1−1〜1−4と同様の電解液を用いたことを除き、他は実施例2−1〜2−7,3−1〜3−7と同様にして二次電池を作製した。
【0088】
得られた実施例2−1〜2−7,3−1〜3−7および比較例2−1〜2−4,3−1〜3−4の二次電池についても、実施例1−1〜1−7と同様にして50サイクル目の放電容量維持率を求めた。結果を表2,3に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
表2,3から分かるように、実施例1−1〜1−7と同様に、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを用いた実施例2−1,3−1、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを用いた実施例2−2〜2−7,3−2〜3−7によれば、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物を用いていない比較例2−2,3−2、または比較例2−3,2−4,3−3,3−4よりも、それぞれ放電容量維持率について高い値が得られ、更に、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いていない比較例2−1,3−1よりも、それぞれ高い放電容量維持率が得られた。
【0092】
すなわち、他の負極活物質を用いた場合にも、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0093】
(実施例4−1〜4−7)
負極活物質に黒鉛を用い、この黒鉛97質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合し、N−メチル−2−ピロリドンを添加して、厚み15μmの銅箔よりなる負極集電体52Aに均一に塗布し乾燥させることにより厚み70μmの負極活物質層52Bを形成したことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
実施例4−1〜4−7に対する比較例4−1〜4−4として、比較例1−1〜1−4と同様の電解液を用いたことを除き、他は実施例4−1〜4−7と同様にして二次電池を作製した。
【0095】
得られた実施例4−1〜4−7および比較例4−1〜4−4の二次電池についても、実施例1−1〜1−7と同様にして50サイクル目の放電容量維持率を求めた。結果を表4に示す。なお、充電は4.5Vを上限として行った。
【0096】
【表4】

【0097】
表4から分かるように、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを用いた実施例4−1、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを用いた実施例4−2〜4−7によれば、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物を用いていない比較例4−2、または比較例4−3,4−4よりも、それぞれ放電容量維持率について高い値が得られ、更に、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いていない比較例4−1よりも、高い放電容量維持率が得られた。
【0098】
すなわち、充電時の電池電圧を高くした場合にも、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0099】
(実施例5−1〜5−6,6−1〜6−6,7−1〜7−6,8−1〜8−6)
電解液におけるフランまたはイソオキサゾールの含有量を2.5質量%,1質量,または0.1質量%となるようにしたことを除き、他は実施例1−2,1−3,2−2,2−3,3−2,3−3,4−2,4−3と同様にして二次電池を作製した。
【0100】
これら実施例の二次電池についても、実施例1−1〜1−7と同様にして50サイクル目の放電容量維持率を求めた。結果を表5〜8に示す。なお、実施例8−1〜8−6においては充電は4.5Vを上限として行った。
【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
【表7】

【0104】
【表8】

【0105】
表5〜8から分かるように、電解液におけるフランまたはイソオキサゾールの含有量が0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内において、いずれも高い放電容量維持率が得られた。
【0106】
すなわち、電解液における環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物の含有量は、0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内であることが好ましいことが分かった。
【0107】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電解質として電解液を用いる場合について説明し、更に上記実施の形態では、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合についても説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したもの、または他の無機化合物と電解液とを混合したもの、またはこれらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものが挙げられる。
【0108】
また、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる電池について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他のアルカリ金属、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、またはアルミニウムなどの他の軽金属を用いる場合についても、本発明を適用することができる。その際、負極には、上記実施の形態で説明した負極活物質、例えばスズまたはケイ素を構成元素として含む材料、あるいは炭素材料などを同様にして用いることができる。
【0109】
更に、上記実施の形態または実施例では、円筒型,ラミネートフィルム型あるいはコイン型の二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明はボタン型、あるいは角型などの他の形状を有する二次電池、または積層構造などの他の構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。また、本発明は、二次電池に限らず、一次電池などの他の電池についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電解液を用いた第1の二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る電解液を用いた第3の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のI−I線に沿った構成を表す断面図である。
【図5】実施例において作製した二次電池の構成を表す断面図である。
【図6】実施例で作製したCoSnC含有材料に係るX線光電子分光法により得られたピークの一例を表すものである。
【符号の説明】
【0111】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,51…正極、21A,33A,51A…正極集電体、21B,33B,51B…正極活物質層、22,34,52…負極、22A,34A,52A…負極集電体、22B,34B,52B…負極活物質層、23,35,53…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含む
ことを特徴とする電解液。
【請求項2】
前記複素環芳香族化合物は、フラン環,オキサゾール環およびイソオキサゾール環からなる群のうちの少なくとも1種を有することを特徴とする請求項1記載の電解液。
【請求項3】
前記環式炭酸エステル誘導体として、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載の電解液。
【請求項4】
前記複素環芳香族化合物を0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内で含むことを特徴とする請求項1記載の電解液。
【請求項5】
正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、
前記電解液は、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、環内に酸素原子を有する複素環芳香族化合物とを含む
ことを特徴とする電池。
【請求項6】
前記複素環芳香族化合物は、フラン環,オキサゾール環およびイソオキサゾール環からなる群のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5記載の電池。
【請求項7】
前記環式炭酸エステル誘導体として、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項5記載の電池。
【請求項8】
前記電解液における前記複素環芳香族化合物の含有量は、0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項5記載の電池。
【請求項9】
前記負極は、構成元素としてスズ(Sn)およびケイ素(Si)のうちの少なくとも一方を含む負極材料を含有することを特徴とする請求項5記載の電池。
【請求項10】
満充電状態における開回路電圧が、4.25V以上であることを特徴とする請求項5記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−294374(P2006−294374A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112053(P2005−112053)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】