説明

電解用電極及びその製造方法

【課題】高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ、耐久性に優れた電解用電極及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層とを有する電解用電極において、触媒層が、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、酸化スズ及び酸化アンチモンが含有する層の表面に二酸化鉛層とからなることを特徴とする電解用電極及びその製造方法。本発明の電解用電極は、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ、耐久性に優れるため、各種用途に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的化学反応において使用される電解用電極に関するものであり、より詳しくは、電解液中における金属イオンを酸化するための電解用電極、有機物を酸化処理するための電解用電極、オゾン及び/又は酸素を生成するための電解用電極、ハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するための電解用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、爆薬原料等となる過塩素酸ナトリウムに代表される過ハロゲン酸塩類、塩素酸塩類やヨウ素酸塩類等その他酸化剤原料の製造、水電解によるオゾンの生成、あるいは有機合成又は水処理用等の工業電解用陽極として、チタン製芯材の表面に二酸化鉛を電着した電解用電極が使用されていた。
【0003】
二酸化鉛を用いた電解用電極は、金属導電性を有する化合物であり、電着法により比較的容易に製造できる等から、広範囲な用途に長年使用されてきた。しかしながら、二酸化鉛を用いた電解用電極は、高い酸素発生電位を有するが、電解において徐々に消耗していくため、耐久性に劣る点が問題視されている。
【0004】
また、特許文献1に開示されているように、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層を有する電解用電極も使用されている。
製造方法としては、金属基材の表面に、スズ化合物及びアンチモン化合物を溶解させた溶媒を塗布、乾燥、熱分解で、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層を有する電解用電極を製造することができる。
【0005】
該電解用電極は、緻密なバルク構造を得られるものの、焼成製膜過程における収縮や基体材料との熱膨張差などからひび割れが生じやすく、クラック部位から基体表面が露出し、触媒性能に大きく影響を与えるため、酸化能力と耐久性に劣る欠点があった。
【0006】
以上より、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ、耐久性に優れた電解用電極及びその製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−033285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ、耐久性に優れた電解用電極及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑みてなされたものであり、金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層とを有する電解用電極において、触媒層が、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、酸化スズ及び酸化アンチモンが含有する層の表面に二酸化鉛層とからなることを特徴とする電解用電極が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0011】
第一の発明は、金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層とを有する電解用電極において、
触媒層が、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、その表面に二酸化鉛層とからなることを特徴とする電解用電極である。
【0012】
第二の発明は、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層が、酸化スズを99.5〜80モル%、酸化アンチモンを0.5〜20モル%含有することを特徴とする第一の発明に記載の電解用電極である。
【0013】
第三の発明は、二酸化鉛層における二酸化鉛の目付け量が、0.05〜5.0g/mである第一又は第二の発明に記載の電解用電極である。
【0014】
第四の発明は、金属基体が、チタン、ジルコニウム、ニオブ、鉄、タンタル及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属又はそれらの金属を主成分とする合金からなる金属であることを特徴とする第一から第三の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0015】
第五の発明は、用途が電解液中における金属イオンを酸化するためであることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0016】
第六の発明は、用途が有機物を酸化処理するためであることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0017】
第七の発明は、用途が水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成するためであることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0018】
第八の発明は、用途が電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するためであることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかに記載の電解用電極である。
【0019】
第九の発明は、金属基体の表面に耐食中間層を形成する工程と、耐食中間層の表面に触媒層を形成する工程を有する電解用電極の製造方法において、
耐食中間層の表面に触媒層を形成する工程が、
アルコール溶媒中に、スズ化合物及びアンチモン化合物を溶解させて塗布液を作製し、耐食中間層表面に該塗布液を塗布、乾燥、熱分解し、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層を形成する工程と、
酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層の表面に、二酸化鉛層を電着法により形成する工程と、
を含むことを特徴とする電解用電極の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金属基体表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層を有する電解用電極において、触媒層が、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、前記層の表面に二酸化鉛層からなる電解用電極を用いることで、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ耐久性に優れた電解用電極を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明は、金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層とを有する電解用電極において、触媒層が、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、その表面に二酸化鉛層とからなることを特徴とする電解用電極である。
【0023】
<金属基体>
本発明の電解用電極において、使用される環境は強酸性や酸化性雰囲気であることが多く、また排水処理等では金属の腐食速度を加速するような有機物やフッ素化合物を含有することも多いため、金属基体としては、チタン、ジルコニウム、ニオブ、鉄、タンタル、バナジウム及びそれらの金属を主成分とする合金からなる金属等、その表面に不動態層を形成して防食性を高める金属が好ましく挙げられ、これらの中でも特にチタンが好ましく挙げられる。この金属基体と酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層との密着性を強化するため、前処理として該金属基体表面を、ブラスト処理やエッチング処理等を行い、表面積拡大、表面粗化を行ったものを使用することが好ましい。
【0024】
ブラスト処理後、表面のエッチングを行い清浄化及び活性化を行うことが望ましく挙げられる。この清浄化における酸洗浄として代表的なものは、硫酸、塩酸及びフッ酸等に前記金属基体を浸漬し表面の一部を溶解することにより活性化を行うことができる。
【0025】
<耐食中間層>
本発明に用いる耐食中間層としては、貴金属又はその合金からなる耐食中間層、又は貴金属酸化物等を挙げることができる。貴金属としては、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、金、銀、パラジウム、白金が挙げられ、合金としては、前記貴金属を二種類以上混合したものが挙げられる。貴金属酸化物としては酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化パラジウムなどが挙げられ、その他耐食性材料として公知のタンタル、酸化タンタル、酸化チタン等が挙げられ、これらの中でも特に白金が好ましく挙げられる。
【0026】
耐食中間層の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の電解用電極の製造方法において、耐食中間層を形成する方法としては、気相中におけるスパッタ法、イオンプレーティング法等の方法のほか、液相中におけるめっき法によってもよく、塗布液を用いて成膜後、熱分解法によっても良い。
一例として、塗布液を用いた熱分解法としては、アルコール溶媒中に白金塩を溶解させて塗布液を作製し、金属基体の表面に該塗布液を塗布、熱分解し、白金からなる耐食中間層を形成する工程を有することが好ましく挙げられる。
【0028】
上記アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0029】
塗布液の塗布方法としては、スプレー塗布法、刷毛塗り法、噴霧法、カーテンフローコート法、ドクターブレード法、ディップ法が挙げられる。
【0030】
熱分解させる方法としては、まず、塗布液を塗布した金属基体を50〜120℃で10分程度乾燥させた後、200〜650℃の範囲で熱処理を行うことにより、貴金属からなる耐食中間層を形成させることができる。
【0031】
耐食中間層の厚さは、30〜10000nmが好ましく挙げられ、50〜5000nmがより好ましく挙げられ、100〜5000nmが特に好ましく挙げられる。30nm未満では、耐久性及び導電性を維持することができず、10000nm超では、電極コストが高くなる問題がある。
耐食中間層の厚さは、電極断面観察から計測した。
【0032】
<触媒層>
本発明の触媒層は、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、その表面に二酸化鉛層とからなることを特徴としている。好ましい触媒層の組成割合は、酸化スズ99.5〜80モル%、酸化アンチモン0.5〜20モル%が高い導電性を得る観点から好ましい。
【0033】
二酸化鉛は、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層におけるクラック又は膜構造が疎な部分に析出させることで、クラック又は疎な部分を導電性及びシーリング性に優れる二酸化鉛を析出及び充填することにより、下地中間層の露出を補修すると同時に、触媒層の導電性を補助する効果も有するために、高い触媒性能と高い耐久性を賦与することができる。この目的から析出量としては0.1〜5.0g/mが好適である。
【0034】
触媒層を形成する工程としては、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層を形成する工程と、その表面に二酸化鉛層を形成する工程とを含んでいる。
【0035】
まず、スズ化合物及びアンチモン化合物をアルコール溶媒に溶解させた塗布液を作製する。その塗布液を金属基体の耐食中間層の表面に塗布し、乾燥して、熱分解することで、酸化スズ及び酸化アンチモンが含有する層を得ることができる。
【0036】
上記スズ化合物としては金属アルコキシド、塩化物、酢酸塩、有機金属化合物があり、具体的な例としては、スズ(IV)−t−ブトキシド、スズ(II)エトキシド、スズ(IV)イソプロポキシド、スズ(II)メトキシド、スズ(IV)−t−ブトキシド、スズ(IV)−n−ブドキシド、ジアリルジブチルスズ、ビス(イソオクチルマレイン酸)ジブチルスズ、二酢酸ジブチルスズ、ビス(アセチルアセトナート)ジ−n−ブチルスズ、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)ジブチルスズ、二酢酸ジブチルスズ、二塩化ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、二臭化ジシクロヘキシルスズ、二臭化ジシクロヘキシルスズ、ジエチルアミノトリメチルスズ、二塩化ジエチルスズ、ジラウリン酸ジメチルスズ、ジメチルジフェニルスズ、二臭化ジメチルスズ、二塩化ジメチルスズ、ビス(2−エチルヘキサン酸)ジ−n−ブチルスズ、ジ−n−オクチルジクロロスズ、酸化ジオクチルスズ、二塩化ジフェニルスズ、二塩化ビニルスズ、酸化フェンブタスズ、ヘキサブチル二スズ、ヘキサメチル二スズ、ヘキサフェニル二スズ、三塩化メチルスズ、三塩化フェニルスズ、塩化アンモニウム第二スズ、テトラアリルスズ、テトラシクロヘキシルスズ、テトラ−n−プロピルスズ、四フェニルスズ、臭化トリエチルスズ、塩化トリベンジルスズ、臭化トリ−n−ブチルスズ、塩化トリブチルスズ、水素化トリ−n−ブチルスズ、塩化トリエチルスズ、臭化トリメチルスズ、塩化トリメチルスズ、塩化トリ−n−ブチルスズ、トリ−n−ブチル(トリメチルシルイルエチニル)スズ、酢酸トリ−n−プロピルスズ、塩化トリ−n−プロピルスズ、塩化トリフェニルスズ、オレニルトリ−n−ブチルスズ、アリルトリ−n−ブチルスズ、ヘキサクロロスズ(IV)酸アンモニウム、ビス(アセトキシジメチルスズ)オキシド、ビス(トリメチルスズ)アセチレン、ビス(トリフェニルスズ)オキシド、n−ブチルスズトリクロリド、cis−トリ−n−ブチル(1−プロペニル)スズ、ビス(2,4−ペンタンジオン酸)ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズマレイン酸塩、ジクロロジフェニルスズ、ジメチルスズオキサイド、二酢酸ジ−n−ブチルスズ、二塩化ジ−n−ブチルスズ、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ、ジ−n−ブチルスズオキシド、ジ−n−ブチルスズビス(アセチルアセトナート)、ジ−n−ブチルスズビス(2−エチルヘキサノアート、ジ−n−オクチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド、二塩化ジ−t−ブチルスズ、ビニルスズジクロリド、エチニルトリ−n−ブチルスズ、酸化フェンブタスズ、ヘキサブチル二スズ、ヘキサ−n−ブチル二スズ、メタリルトリ−n−ブチルスズ、メチルスズトリクロリド、三塩化−n−ブチルスズ、フェニルスズトリクロリド−1−プロピニルトリ−n−ブチルスズ、塩化第二スズ五水和物、塩化第一スズ二水和物、テトラエチルスズ、テトラ−iso−プロピルスズ、テトラメチルスズ、テトラ−n−ブチルアンモニウムジフルオロトリフェニルスズ、四フェニルスズ、テトラビニルスズ(IV)、酢酸スズ(IV)、臭化スズ(IV)、塩化スズ(IV)、ビス(2,4−ペンタンジオン酸)塩化スズ(IV)、ふっ化スズ(IV)、よう化スズ(IV)、trans−1,2−ビス(トリ−n−ブチルスズ)エチレン、トリ−n−ブチル(3−メチル−2−ブテニル)スズ、トリ−n−ブチルスズアセテート、トリ−n−ブチル(ビニル)スズ、2−エチルヘキサン酸スズ(IV)、酢酸トリ−n−プロピルスズ、塩化トリ−n−プロピルスズ、酢酸トリフェニルスズ(IV)、塩化トリフェニルスズ、トリフェニルスズフルオリド等が挙げられるが、塗布液の保存安定性、環境負荷及びコストの観点から、好ましくは塩化スズが好ましく挙げられる。
【0037】
上記アンチモン化合物としては金属アルコキシド、塩化物、酢酸塩、有機金属化合物があり、具体的な例としては、アンチモン(III)ブトキシド、アンチモン(III)エトキシド、アンチモン(III)イソプロポキシド、アンチモン(III)メトキシド、アンチモンペンタフルオリド、アンチモントリ−n−ブチル、アンチモントリ−α−ナフチル、しゅう酸アンチモン、三よう化アンチモン、トリフェニルアンチモン、テトラフルオロアンチモン酸(III)アンモニウム、酢酸アンチモン(III)、臭化アンチモン(III)、塩化アンチモン(III)、ふっ化アンチモン(III)、よう化アンチモン(III)、ヘキサフルオロアンチモン酸六水和物、ヘキサフルオロアンチモン酸−1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、トリフェニルアンチモン、二臭化トリフェニルアンチモン、トリス(ジメチルアミノ)アンチモン等が挙げられるが、塗布液の保存安定性、環境負荷、経済的な観点から、好ましくはアルコキシド又は塩化物であるアンチモン化合物が好ましく、特に塩化アンチモンが好ましく挙げられる。
【0038】
上記アルコール溶媒としては具体的にはメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールが挙げられ、好ましくはプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノールが挙げられる。
【0039】
また、塗布液には、触媒層の導電性を高めるため、添加剤を加えてもよく、例えば、白金、アンチモン、インジウム、鉛、チタン、ビスマス、モリブデン、タングステンやホウ酸又はリン等を含有する化合物、フッ素又は塩素等のハロゲンが挙げられる。
【0040】
塗布工程は、スプレー塗布法、噴霧法、刷毛塗り法、カーテンフローコート法、ドクターブレード法、ディップ法により塗布し、塗布膜を得ることができる。
乾燥工程は、常温における風乾でもよいが、50〜120℃の加熱下で10分程度行うのが好ましく挙げられる。
熱分解工程は、200〜650℃の温度で、10分から6時間の焼成時間で行うのが好ましいが、400〜650℃の温度で、10分から1時間で行うのがより好ましく挙げられる。
【0041】
上記酸化アンチモンは、三酸化アンチモン(Sb)、四酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)等の形態で存在し、上記酸化スズは、二酸化スズ(SnO)の形態で存在する。但し、組成及び焼成工程によっては酸素が過剰又は不足することも考えられ、酸化アンチモン及び酸化スズはそれぞれSbO、SnOの形で表せる。
【0042】
二酸化鉛層は、公知の方法により形成することができるが、特に電着法により形成する方法が特に好ましく挙げられる。
【0043】
電着法とは、硝酸鉛浴を電解浴とし、その中に電極を入れ、電解により二酸化鉛層を形成する方法である。
【0044】
触媒層の厚みは、0.2μm未満ではピンホールやクラック等が発生し易く電解液から金属基体を保護するには不十分である上、耐食中間層である白金族金属層及び/又はその酸化物が熱拡散により酸化スズ層表面にまで達して電極触媒活性を大きく低下させる恐れがある。逆に、20μm以上では酸化スズ層自身の抵抗が大きくなり、電解電圧が異常に高くなり電極として機能させることが困難となるため、0.2〜20μmの範囲が好ましいが、導電性の観点から0.75〜5μmの範囲がより好ましく挙げられる。塗布工程、乾燥工程、熱分解工程を繰り返すことで、所望の膜厚にすることができる。
【0045】
また、あらかじめ金属基体にプレス加工等の曲げ加工、切削加工、エッチング加工等の機械加工後に、貴金属からなる耐食中間層を、次いで、その表面に触媒層の形成を行うことによって、複雑な形状の基体形成時にも触媒層を損傷することなく、酸化スズの触媒活性、耐食中間層による基体保護機能、高い導電性が確実に得ることができる。
【0046】
酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層には、クラックが入ってしまうため、十分な性能が得られない欠点があった。そこで、本発明では、そのクラック部位に二酸化鉛を用いて埋めることで、高い酸素発生電位を維持しつつ、高い酸化能力と耐久性に優れた電極を得ることができる特徴を有している。
【0047】
本発明である電解用電極の用途としては、電解液中の金属イオンを酸化する用途、有機物を酸化処理する用途、水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成させる用途、電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成させる用途が挙げられる。
【0048】
用途が電解液中における金属イオンを酸化するためである電解用電極について説明する。
上記金属イオンとしては、各種金属イオンが挙げられる。本発明の電解用電極は、金属イオンを酸化させる酸化能力に優れるため、特に三価クロムイオンを六価クロムイオンに酸化するために用いられ、めっき工程等へ応用される。
【0049】
めっき工程への応用としては、三価クロムを所定の濃度に調整した溶液に、陽極として本発明の電解用電極を用い、三価クロムを六価クロムへ電解酸化して、樹脂基体の表面をエッチングする用途や、陰極側に設置された被めっき体表面をクロムめっきする用途等を挙げることができる。本発明の電解用電極を用いることで、めっき電流密度が所定の範囲内に維持できる上に、全体としては高電流密度でめっきすることができ、生産効率を上げることができる。
【0050】
用途が有機物を酸化処理するためである電解用電極について説明する。
本発明の電解用電極は、排水中の有機物を分解することで、化学的酸素要求量(COD)を低減することができる。これにより排水処理、冷却回路への微生物付着の防止等に用いることができる。
【0051】
用途が水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成するためである電解用電極について説明する。
酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、その表面に二酸化鉛層を積層した構造である触媒層を有する電解用電極を用いることで、酸化スズのみ又は二酸化鉛のみを用いた場合よりも、導電性付与効果が得られ、電極全体に導電性を付与し、大電流での電解が可能となる。
【0052】
用途が電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するためである電解用電極について説明する。
上記ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオンとしては、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、ヨウ素酸イオン、過ヨウ素酸イオン等が挙げられる。
本発明の電解用電極は、優れた酸化能力を有するため、爆薬原料となる過塩素酸ナトリウムに代表される過ハロゲン酸塩類等の製造に用いることができる。
【0053】
本発明の電解用電極は、金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層とを有する電解用電極であって、触媒層が、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、その表面に二酸化鉛層の積層構造からなることを特徴としており、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ高い電流密度での使用ができるため、耐久性に優れる特徴を有する。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。なお、本発明に用いた電解用電極の組成を表1にまとめた。
【0055】
(実施例1)
金属基体として10×150mm、厚さ0.5mmのチタン基体(JIS 2種)を、ショットブラスト処理した後に3N塩酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、純水による洗浄後120℃5分間乾燥し、電極形成用基体とした。
中間層形成用塗布液として、ブタノール250mlにヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物10g、ポリエチレングリコール(平均分子量200)1gを溶解した液を得た。
触媒層形成用塗布液として、ブタノール250mlに塩化スズ(IV)五水和物28.4g、塩化アンチモン(III)1.6gを溶解した液を得た。
【0056】
前記電極形成用基体に、前記中間層形成用塗布液を塗布し、乾燥(120℃、10分)、熱分解(550℃、1時間)することで、白金からなる耐食性中間層を形成した。耐食中間層の表面に、触媒層形成用塗布液を塗布し、乾燥(120℃、10分)、熱分解(550℃、1時間)することで、酸化スズ及び酸化アンチモンからなる層を形成し、その表面に硝酸鉛水溶液を入れた電解槽にて電解することにより、二酸化鉛層を析出させて、電解用電極(電極1)を作製した。組成及び二酸化鉛の目付け量を表1に示す。
【0057】
(実施例2〜8、比較例1〜3)
塗布液成分を調整し、表1に記載の電極組成及び目付け量となるようにして、実施例1と同様の操作で実施例2〜8、比較例1〜3の電解用電極(電極2〜11)を作製した。
【0058】
<電解用電極における電極分析と電極性能評価の方法>
なお、実施例1〜8及び比較例1〜3は、上記電極1〜11を用いて、電極分析と電極性能を評価した。電解用電極の電極分析方法と電極性能評価の方法は以下の通りである。
【0059】
(電極分析方法)
成分分析は、主に蛍光X線分析装置による元素含有量評価を行い、補足評価としてX線光電子分光分析装置(XPS)による評価、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)による評価、及びX線回折分析装置による評価を行い、酸化スズ及び酸化アンチモンの含有量を評価した。また、電極断面構造の観察は、専用の観察用試料作製機により電極の断面をスライスして透過型電子顕微鏡(TEM)、又は電極断面を研磨して走査型電子顕微鏡(SEM)により行った。
【0060】
(電極性能評価方法)
(1)酸素過電圧測定(酸素発生電位(V)の測定)
1Mの硫酸溶液中で参照電極である飽和カルメル電極により電流密度1A/dmと10A/dm時のアノード電位を測定し、酸素発生電位(V)とした。
(2)電極耐久性試験(電極寿命(h)の測定)
耐久性試験は、電解面積0.1dmの電極を用い、対チタン電極間5mmとし50℃の1Mの硫酸溶液1L中で電流密度20A/dmで電解を実施した。電解電圧が初期から+2.0V上昇した時点を電極寿命(h)とした。
(3)電解酸化試験(三価クロムの濃度(g/L)の測定)
クロム酸(VI)、三価クロム及び硫酸を含む電解液を用い、液温40℃、極間距離10mm、電解液100ml、隔膜なし、陰極をチタン金属、陽極を対象金属、電流密度10A/dmの条件下、30時間後の三価クロムの濃度を評価した。電極の酸化能力が高い場合、三価クロムが減少し、六価クロムが増加することとなる。
(4)過塩素酸ナトリウム製造電極としての評価(電解時間(h)の測定)
隔膜電解法により過塩素酸ナトリウムの製造を実施した。陽極電解液として600g/L塩素酸ナトリウム250ml、陰極電解液として100g/L硫酸250ml、各電解液温度を35℃以下に保持しながら、陽極に各電解用電極、陰極に白金電極として用い、電流密度40A/dmの条件下において塩素酸濃度が0g/Lになるまで電解を行った時に所要した電解時間(h)を測定した。電解時間が短いほど、酸化能力に優れていることとなる。
(5)オゾン発生電極としての評価(電流変換効率(%)の測定)
PTFE製の固体電解質電解層内に、陰極にはステンレス焼結多孔質電極(φ50mm、厚さ1mm)、陽極には各電解用電極、陽極室には温度を25℃に保持した超純水を循環させながら、100A/dmの条件下で電解を1000時間実施した。その際陽極室で発生するオゾンガスを、ヨウ化カリウム溶液中に一定時間通して硫酸酸性にした後、0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準溶液を用いた間接滴定法によりオゾン濃度を求め、各電極における1000時間後におけるオゾン濃度の電流変換効率(%)を測定した。
【0061】
実施例1〜8及び比較例1〜3の評価結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表2より、比較例より実施例の方が高い酸素発生電位と酸化能力であり、電極寿命も3000時間以上であるため、耐久性に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の電解用電極は、高い酸素発生電位と酸化能力を有し、かつ、耐久性に優れるため、各種用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体の表面に耐食中間層と、耐食中間層の表面に触媒層とを有する電解用電極において、
触媒層が、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層と、その表面に二酸化鉛層とからなることを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層が、酸化スズを99.5〜80モル%、酸化アンチモンを0.5〜20モル%含有することを特徴とする請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
二酸化鉛層における二酸化鉛の目付け量が、0.05〜5.0g/mである請求項1又は2に記載の電解用電極。
【請求項4】
金属基体が、チタン、ジルコニウム、ニオブ、鉄、タンタル及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属又はそれらの金属を主成分とする合金からなる金属であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項5】
用途が電解液中における金属イオンを酸化するためであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項6】
用途が有機物を酸化処理するためであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項7】
用途が水電解によりオゾン及び/又は酸素を生成するためであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項8】
用途が電解によりハロゲン酸イオン及び/又は過ハロゲン酸イオンを生成するためであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項9】
金属基体の表面に耐食中間層を形成する工程と、耐食中間層の表面に触媒層を形成する工程を有する電解用電極の製造方法において、
耐食中間層の表面に触媒層を形成する工程が、
アルコール溶媒中に、スズ化合物及びアンチモン化合物を溶解させて塗布液を作製し、耐食中間層表面に該塗布液を塗布、乾燥、熱分解し、酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層を形成する工程と、
酸化スズ及び酸化アンチモンを含有する層の表面に、二酸化鉛層を電着法により形成する工程と、
を含むことを特徴とする電解用電極の製造方法。

【公開番号】特開2012−251195(P2012−251195A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124018(P2011−124018)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】