説明

電解質グリーンシート焼成するためのスペーサー用セラミックシートおよびその製造方法

【課題】本発明は、電解質グリーンシート中の有機成分分解ガスが均一放散できる孔を有しつつ、スペーサー用のセラミックシートとして当該グリーンシートの焼成前工程の機械化にも対応できる強度を有し、粘着テープによる積層体の固定が確実にでき、しかも焼成工程中に周縁部がたれる現象を緩和でき、且つ上記有機成分分解ガスが均一放散できる有孔性のスペーサーシートおよびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係わるセラミックシートは、固体酸化物形燃料電池用の電解質グリーンシートを焼成する工程でスペーサーとして用いるセラミックシートであって、当該セラミックシート基体の相対密度が95%以上であり、上記電解質グリーンシートとの接触面に複数の略円状の貫通孔を有し、当該貫通孔の平均断面積が0.00005mm以上2.0mm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質グリーンシートを焼成する際にスペーサーとして用いるセラミックシートおよびその製造方法に関するものである。より詳しくは、固体酸化物形燃料電池の電解質膜となる電解質シートを製造する工程において、電解質グリーンシートとスペーサーを交互に積み重ねて積層体とした状態で前記電解質グリーンシートを焼成する際に、スペーサーとして好適に用いられるセラミックシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックシート等のセラミック成形体は、タイル、レンガ、壁材などの建築材、セッター、スペーサーや棚板等の焼成用治具の他、近年では固体酸化物形燃料電池の電解質膜やセパレータとしても利用されている。特に、固体酸化物形燃料電池は発電効率が高く、炭酸ガス削減効果を高め国際的な低炭素社会実現するための環境エネルギー技術であることから、家庭用や業務用のクリーンな電力源として期待され、固体酸化物形燃料電池用電解質膜として電解質シートの需要が拡大しつつある。
【0003】
電解質シートは、電解質セラミック粒子、バインダー、可塑剤、分散剤などを含む電解質グリーンシートを焼成し、グリーンシート中のこれら有機成分を蒸散・燃焼させ、電解質セラミック粒子をシート状に焼結させることにより製造される。かかる焼成の際には、特開平8−151275号公報(特許文献1)に記載の技術のように、未焼成の電解質グリーンシート間に焼成済みの多孔質シートをスペーサーとして電解質グリーンシートの周縁部が多孔質シートからはみ出ない様に挟み、電解質グリーンシートと多孔質シートが交互に積み重なった積層体状にしている。かかる多孔質シートは、電解質グリーンシートからの有機成分分解ガスの放散を均一にして電解質シートの反りやうねりを低減し、電解質シート同士の接合を抑制し、電解質シートの生産性を向上するといった効果を有する。
【0004】
また、通常、未焼成の電解質グリーンシートと焼成済みのスペーサー用多孔質シートでは、前記電解質グリーンシート焼成時における収縮度合いが異なるために、両シート間の摩擦が大きいと焼成によりキズ等の表面欠陥が生じることがある。そこで、電解質グリーンシートと多孔質シートとの間にコーンスターチなどの微粉末を散布することにより両シート間の摩擦を低減することが行われている。
【0005】
上記のような電解質グリーンシートと多孔質シートの積み重ねや微粉末散布等の焼成工程の準備段階(以下、焼成前工程とも記載する)では、従来、人的作業で行われているのが実情であった。
【0006】
しかし、人的作業では近年の需要に対応できなくなってきているので、特開2009−215102号公報(特許文献2)に記載の技術のように、電解質グリーンシートと多孔質シートの積み重ねや微粉末を散布する焼成前工程を機械化する検討がなされている。
【0007】
人的作業では、多くの場合手で持ち運ぶため多孔質シート割れの問題がほとんどなかったが、積み重ねの機械化にあたっては多孔質シートの移動による振動や積み重ねによる衝撃等を直接、間接に受けやすくなり、それらに耐えうるに十分な強度を多孔質シートが有していないために割れが発生する問題が新たに生じ、電解質シートの生産性にも影響を与えるようになっている。
【0008】
また、量産化にあたっては生産性を上げるために、電解質グリーンシートと多孔質シートの積み重ね枚数を、グリーンシートで従来の数枚レベルから10枚以上、さらには15枚以上、20枚以上と増加させて必要がある。電解質グリーンシートと多孔質シートが交互に積み重なった積層枚数の多い積層体中では、上記振動や衝撃により、電解質グリーンシートと多孔質シートにズレが生じやすくなり、極端な場合電解質グリーンシートの周縁部が多孔質シートからはみ出て反りやうねりが発生しやすくなるので、電解質グリーンシートのズレ防止のための粘着テープ等による積層体自体の固定が必要になっている。
【0009】
さらに、上記のように電解質グリーンシート間に多孔質シートをスペーサーとして上記電解質グリーンシートの周縁部が多孔質シートからはみ出ない様に挟み、電解質グリーンシートと多孔質シートが交互に積み重なった積層体状にして焼成する場合、上記電解質グリーンシートが載置されておらず非接触状態となる多孔質シート周縁端部が下方向にたれる現象がみられることを発明者らは観察している。そのため、多孔質シートは電解質グリーンシート焼成のために何回も繰り返し使用するが、このたれる程度は多孔質シートを使用回数ごとに徐々に大きくなって、多孔質シート自体に反りが発生して使用できなく問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−151275号公報
【特許文献2】特開2009−215102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した様に、固体酸化物形燃料電池の実用化に向けた電解質シート量産化という要求に応えるべく、焼成工程中に電解質グリーンシート中のバインダー、可塑剤、分散剤などの有機成分分解ガスを均一に放散するための気孔を有しつつ、ベルトコンベアーなどを用いてスペーサー用セラミックシートと電解質グリーンシートを交互に一定速度で移動させつつ、スペーサー用セラミックシートと電解質グリーンシートと交互に積み重ねる焼成前工程の機械化においてクラック発生や割れに対して十分耐え得る強度特性を有するとともに、繰り返し使用してもシート周縁部がたれる現象が起こりにくく、積層枚数を多くしても簡便にズレ防止が出来る形状特性も有するスペーサー用セラミックシート(以下、スペーサーシートと記載することもある)が電解質シート量産化のために求められている。
【0012】
しかしながら、有機成分分解ガスを均一に放散するための気孔を有しつつ、上記強度特性と形状特性を有するものは得られていない。
【0013】
そこで本発明が解決すべき課題は、上記有機成分分解ガスが均一放散できる孔を有しつつ、スペーサーシートとして焼成前工程の機械化にも対応できる強度を有し、粘着テープによる積層体の固定が確実にでき、しかも焼成工程中に周縁部がたれる現象を緩和でき、且つ上記有機成分分解ガスが均一放散できる有孔性のスペーサーシートおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、焼成前工程でのスペーサー用多孔質シートが割れ方を観察すると、ほとんどの場合、端面クラックが発生し、そのクラック先端が他の端面に進行して2つ破片にきれいに割れていたことから、多孔質セラミックシートをスペーサーとして用いるには強度に本質的な問題であると認識した。
【0015】
そこで、相対密度が95%以上の緻密質基体に上記有機成分分解ガスが均一放散できる貫通孔を設けたセラミックシートをスペーサーシートとすることによって、積層枚数が多い積層体でも確実に粘着テープで固定されてズレを防止でき、量産化時の焼成前工程や焼成工程においても十分な強度を有し、周縁部のたれる現象も緩和できて繰り返し利用にも優れることを見出して本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明のセラミックシートは、固体酸化物形燃料電池用の電解質グリーンシートを焼成する工程でスペーサーとして用いるセラミックシートであって、当該セラミックシート基体の相対密度が95%以上であり、上記電解質グリーンシートとの接触面に複数の略円状の貫通孔を有し、当該貫通孔の平均断面積が0.00005mm以上2.0mm以下であることを特徴とする。
【0017】
前記スペーサー用セラミックシートの端面から少なくとも1mmの間隔には略円状貫通孔が無いことが、ハンドリング強度が向上し、周縁部のたれる現象が著しく緩和できるので好ましい。また、積層体を粘着テープで固定する場合に、スペーサー用セラミックシートの外周端部は緻密質になっているので、粘着テープが多孔質シートの場合のような点接着や線接着ではなく、スペーサー用セラミックシートの外周端部と面で接着されるので固定がより確実になされて、グリーンシート積層枚数を10枚以上にしてもズレが起こりにくくなる効果がある。
【0018】
また、前記スペーサー用セラミックシートの複数の略円状貫通孔の間隔が0.05mm以上、3.0mm以下であることが、各貫通孔を通して有機成分分解ガスがより均一に放散されるので好ましい。
【0019】
さらに、前記スペーサー用セラミックシートが、アルミナ、マグネシア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが、焼成時に電解質シート成分との固相反応を防止する上で好ましい。
【0020】
また、本発明に係わるスペーサー用セラミックシートの製造方法は、
(1)ドクターブレード法によりアルミナ、マグネシア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むグリーンシートを成形する工程、
(2)当該グリーンシートに複数の略円状の貫通孔を形成する工程、
(3)略円状の貫通孔が形成されたグリーンシートを、最高温度が1500〜1600℃の範囲で1〜10時間保持して焼結する工程、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスペーサー用セラミックシートを用いることにより、スペーサーシートと電解質グリーンシートと交互に積み重ねる焼成前工程等を機械化しても、スペーサーシートの割れが大幅に低減できるようになった。また、本発明のセラミックシートは、スペーサーとして繰り返し使用してもその周縁部が焼成工程中にたれる現象が緩和される形状保持性を有しているので、電解質グリーンシートの焼成に用いるスペーサーとして耐久性に優れたものである。
【0022】
しかも、積層体中の電解質グリーンシートの枚数を10枚以上に多くしてもグリーンシートのより確実に位置ズレ防止ができるので、反りやうねりの少ない平坦性に優れた高品質の電解質シートを大量に製造することが出来ようになり、コスト低減に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明方法を実施するためのシステムを表す模式図である。
【図2】焼成炉内における電解質グリーンシート−スペーサー用セラミックシート積層体、棚板および支柱の配置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0024】
1:シート移動装置(ベルトコンベア)、 2:電解質グリーンシート、 3:スペーサー用セラミックシート、 4:ホッパー、 5:接合抑制粉体、 6:電気集塵機、 7:シート運搬装置、8:可動式積層体ストッパー、 9:積層体移送装置、 10:電解質グリーンシートとスペーサー用セラミックシートからなる積層体、11:棚板、 12:支柱、 13:接合抑制粉体溜め
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のスペーサーシートは、電解質グリーンシートを焼成する工程でスペーサーとして用いるセラミックシートであって、当該セラミックシート基体の相対密度が95%以上であり、上記電解質グリーンシートとの接触面に複数の略円状の貫通孔を有し、当該貫通孔の平均断面積が0.00005mm以上2.0mm以下である。
【0026】
従来の電解質グリーンシートを焼成するためのスペーサーとして用いるセラミック多孔質シートは貫通孔は無いが気孔率が30%から85%の範囲、多くは50%から70%の範囲であるので、多孔質スペーサーとしての相対密度も30%から85%の範囲に相当する。従って、セラミック多孔質シートはスペーサーとしての強度、特にハンドリング強度が不十分と言う本質的な欠点を有している。
【0027】
それに対して本発明のスペーサーシートは、上記のようにセラミックシート基体、つまりスペーサーとして貫通孔が無い場合の緻密質セラミックシート本体の相対密度が95%以上であるので優れた強度を有している。ここで言う相対密度とは以下の式1により求められる値のことである。
【0028】
相対密度(%)=かさ密度(g/cm)/理論密度(g/cm)X100・・式1
上記式中のかさ密度とは、JIS R1634に規定される焼結体の質量を焼結体の外形容積で除した値であり本発明の場合、複数の略円状の貫通孔のない焼結体シートの乾燥質量(W)、水中質量(W),飽水質量(W)を測定し、水の密度(ρ)として以下の式2で算出されるかさ密度(ρ)を用いた。
【0029】
ρ=W×ρ/(W−W)・・・・・式2
また、理論密度とは、結晶の単位格子の体積と単位格子に含まれる質量の総和から計算によって求められる密度のことであって、例えばアルミナの場合は4.0g/cm、マグネシアは3.6g/cm、ムライトは3.5g/cmとした。また、これらどうしの複合系やこれらにジルコニア等が添加された複合系の場合は、それぞれの組成の理論密度と配合質量比との積の総和とした。ジルコニアが添加された場合、3モル%イットリア安定化ジルコニアの理論密度はで6.1g/cm、8モル%イットリア安定化ジルコニアで6.0g/cmとなる。
【0030】
相対密度が95%を下回ると、セラミックシート基体の強度が低下する結果、セラミックシート基体に複数の略円状の貫通孔を有するスペーサーシートの曲げ強度や圧縮強度などの機械的特性に及ぼす気孔の影響が大きくなり、特にスペーサーシートとしてのハンドリング強度が著しく低下するので好ましくない。相対密度はより好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0031】
さらに、本発明のスペーサーシートはグリーンシートとの接触面に独立した複数の略円状の貫通孔を有し、当該貫通孔の平均断面積が0.00005mm以上2.0mm以下であることを必須とする。この貫通孔はスペーサーシートの一方の面から他方の面に厚さ方向に直線状に連続して形成された孔で、電解質グリーンシート中のバインダー、可塑剤、分散剤などが熱により分解、焼成した有機成分分解ガスを積層体から飛散・放出させることができ、各貫通孔の面積は全て同一であっても、それぞれ異なる断面積であっても貫通孔の平均断面積の範囲が0.00005mm以上3.0mm以下であればよい。
【0032】
ここで、本発明で貫通孔内の断面積を0.00005mm以上2.0mm以下と特定しているのは、電解質グリーンシートからの有機成分分解ガスを複数の貫通孔になるべく分散して均一に放散できるようにするためである。有機成分分解ガスはある特定温度で急激に発生することが多く、多量に発生した分解ガスを外部に均一に飛散・放出するためであって、平均断面積が0.00005mm未満であると均一に飛散・放出するためにはセラミックシート全面に極微小貫通孔を多数形成する必要があり、スペーサーシートの製造工程が煩雑になる。一方、平均断面積が2.0mmを超えると貫通孔付近のグリーンシートからの有機成分分解ガスは飛散・放出されやすいが、貫通孔から離れた箇所の接触面からの有機成分分解ガスは飛散・放出されにくくなり、積層体全体として有機成分分解ガスを均一に飛散・放出することが困難となるからである。より好ましい貫通孔の平均断面積は0.00008mm以上、さらに好ましくは0.0001mm以上、特に好ましくは0.0002mm以上であり、より好ましい貫通孔の平均断面積は1.0mm以下であり、さらに好ましくは0.5m以下、特に好ましくは0.07m未満である。
【0033】
貫通孔の形状は具体的には円形、楕円形、各頂点部がアールをもった多角形のような略円状である。貫通孔が角形の場合は、ハンドリング時にスペーサーに何らかの応力や衝撃がかった場合、頂点部がクラックの起点となって割れやすくなるからである。また、貫通孔エッジ部は上記電解質グリーンシートとの接触することになるので、グリーンシートが脱脂される温度域や焼結される温度域で収縮する時にエッジ部にこすれて電解質シートにキズがつくことがある。そこで、貫通孔エッジ部にはテーパーをつけることも可能である。
【0034】
略円状の貫通孔の平均断面積は、貫通孔のSEM(走査型電子顕微鏡)やレーザー顕微鏡等で複数の貫通孔を写真撮影し、その写真像から任意の10個の貫通孔の断面積の平均値とした。貫通孔が円形の場合は、通常貫通孔はその深さ方向に一定の直径を有するので、その写真像の任意の10個の貫通孔の直径を測定してその平均値を断面積とした。
【0035】
また、本発明のスペーサーシートの端面から少なくとも1mmの間隔には略円状貫通孔が無いことが好ましい。これは端面から少なくとも1mmの間隔の箇所には孔がなく緻密質になっていることを示しており、多孔質スペーサーシートに比べて格段にハンドリング強度が優れ、焼成前工程等のハンドリング時に割れが発生しやすい端面からのクラック発生を大幅に低減でき、耐久性に優れたものになる。スペーサーシート端面から略円状貫通孔の間隔は少なくとも1.5mmがさらに好ましく、少なくとも2mmが特に好ましい。
【0036】
しかしながら、間隔が5mmを超えると端面からのクラック発生はほとんどなくなるが、グリーンシートからはみ出た分がタレやすくなってスペーサー用セラミックシート平坦性が損なわれることになり繰り返し使用に問題が生じるようになる。
【0037】
なお、上記スペーサーシートの端面とはスペーサーシート厚さ方向の周縁側面のことであり、スペーサーシートの端面からの間隔とはスペーサーシート端面と貫通孔の周縁側面との最短距離のことである。
【0038】
さらに、本発明のスペーサーシートの複数の略円状貫通孔の間隔は0.05mm以上、5mm以下であることが好ましい。貫通孔は電解質グリーンシート中の有機成分分解ガスが200〜500℃の範囲、特に250〜400℃の限られた温度範囲で飛散していく通路であるので、スペーサーシートと電解質グリーンシートとの積層体からの分解ガスの均一飛散のためにはその間隔が重要な因子となる。
【0039】
複数の略円状貫通孔の間隔を前記範囲に制御することで、スペーサーシート自体の曲げ強度等の強度特性が向上する観点から、量産時のハンドリング強度を十分保つことができるため好ましい。
略円状貫通孔の間隔のより好ましい範囲は0.08mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.1mm以上3mm以下である。なお、貫通孔の間隔とは隣り合う2つの貫通孔の周縁側面間の最短距離を言う。
【0040】
本発明のスペーサーシートは、後述するように、積層に用いる電解質グリーンシートの面積から勘案して53cm以上810cm以下であるので、スペーサーシートには200個以上、1000万個以下の貫通孔を有していることが好ましい。より好ましくは1000個以上、さらに好ましくは3000個、特に好ましくは1万個以上であり、より好ましくは900万個以下、さらに好ましくは800万個、特に好ましくは600万個以下である。
【0041】
本発明では、5枚以上の電解質グリーンシート、好ましくは10枚以上、より好ましくは12枚以上を積層するためのスペーサーシートを対象とし、その厚さは50μm以上500μm以下である。スペーサーシートの厚さが50μm未満では、セラミックシート基体の強度が十分でないためスペーサーシートのハンドリング強度が十分でなく、また、厚さが500μmを超えると、ハンドリング強度は十分であるが電解質グリーンシートからの有機成分分解ガスが効率よく均一に放散されにくくなり、電解質シートに反りやうねりが発生しやすくなる。また、スペーサーシートの自重のために上下側の電解質グリーンシートの収縮率に差異が生じて寸法精度が低下する問題も生じる。従って、より好ましい厚さは80μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは100μm以上300μm以下、特に好ましくは120μm以上200μm未満である。
【0042】
また、スペーサーシートの面積は電解質グリーンシートの面積よりも若干大きく、電解質グリーンシートの周縁がスペーサーシートからはみ出ないようにすることが好ましい。本発明では、表面積が50cm以上750cm以下の電解質グリーンシートを対象とし、例えば形状が正方形の場合は1辺が71mm以上、274mm以下であるので、本発明のスペーサーシートの表面積は54cm以上810cm以下、例えば形状が正方形の場合は1辺が73mm以上、284mm以下である。より好ましくは55cm以上800cm以下である。上記寸法の中で、電解質グリーンシートの周縁部からスペーサーシートがはみ出る寸法は1〜5mmの範囲が好ましく、さらに好ましくは1.5〜4mmの範囲になるような寸法形状のスペーサーシートを選択すればよい。
【0043】
また、スペーサー用セラミックシート形状は、目的とする電解質シートの形状から特定される電解質グリーンシートの形状に基づいて決定される。このとき、電解質グリーンシートはスペーサーシートとの交互に積み重ねられた状態で焼成されるので、電解質グリーンシートにかかる荷重が均一になるようする必要がある。そのためには、電解質グリーンシートとスペーサーシートとは同形状で相似形が好ましく円形、楕円形、角形やR(アール)をもった角形など何れでもよく、これらのシート内に、円形、楕円形、角形やR(アール)をもった角形などの穴を有するものであってもよい。
【0044】
前記スペーサーシートは、アルミナ、マグネシア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むセラミックシートからなる。これらの材料は電解質材料との熱膨張の整合性に好ましく、また、高温雰囲気下で電解質材料との反応性が低いためである。さらには、耐クリープ性、耐スポーリング性、耐サーマルショック性、熱伝導性にも優れている。また、スペーサーシート基体の強度を高めるために、上記アルミナ、マグネシア、ムライトに3モル%酸化イットリウムで安定化された正方晶系ジルコニアを2〜40質量%、分散強化剤として添加することが好ましい。
【0045】
本発明の多スペーサー用セラミックシートの製造方法は、アルミナ、マグネシア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むスラリーをドクターブレード法によりグリーンシートを成形する工程、得られたグリーンシートにレーザー、パンチング用ピン、ドリル等で複数の略円状の貫通孔を形成する工程、貫通孔が形成されたグリーンシートを相対密度が95%以上になるように、最高温度が1500〜1600℃の範囲で1〜10時間保持して焼結する工程を含む。
【0046】
本製造方法で用いるスラリーは、特許文献1の多孔質シート基体を製造する時に用いたスラリーをそのまま使用することも可能である。具体的には、上記スラリーには、原料セラミック粉末としてアルミナ、マグネシア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。上記のアルミナは、α−アルミナやγ−アルミナ粉末のいずれでもよく、マグネシア、ムライトは電融品でもよいが98%以上の高純度粉末が好ましい。
【0047】
これらアルミナ、マグネシア、ムライト粉末は、平均粒子径が0.2〜60μmのものを使用できるが、平均粒子径が0.2〜1.0μmと微細なものを用いることが緻密質セラミックシート基体を作製する上で好ましい。平均粒子径は粒度分布から求められるメジアン径、すなわち50体積%径(D50)である。また、上記セラミック粉末としては、粒径分布の小さいものが好適である。具体的には、平均粒子径が0.3〜1.0μmであり、かつ、90体積%径(D90)が2.0μm以下であるものが好ましく、より好ましくは平均粒子径が0.3〜0.8μmであり、かつ90体積%径が1.5μm以下である。これら平均粒子径と90体積%径は、堀場製作所製のLA−920などのレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、0.2質量%メタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒として測定した粒度分布から求めることができる。
【0048】
さらに、分散強化剤としてアルカリ土類元素の酸化物や希土類元素の酸化物で安定化されたジルコニア粉末、好ましくは3〜10モル%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア粉末、特に好ましくは正方晶系の3モル%酸化イットリウム安定化ジルコニア粉末を2〜40質量%、好ましくは3〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%添加することが好ましい。
【0049】
本発明のスペーサーシートを作製する際に用いられるバインダーの種類に格別の制限はなく、従来から知られた有機質バインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチルセルロース等のセルロース類、ワックス類等が例示される。これらの有機バインダーは単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。特に好ましいのはイソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルメタクリレートを、50質量%以上を含むモノマーの共重合体で、数平均分子量が20,000〜250,000、より好ましくは50,000〜200,000のメタクリレート共重合体が推奨される。
【0050】
バインダーの含有量は、固形物換算でセラミック粉末100質量部に対して10〜25質量部が好ましい。バインダー量が10質量%未満の場合は、グリーンシートに貫通孔を形成する際に割れや欠けが発生しやすくなる問題が生じ、また、バインダー量が25質量%を超えると貫通孔形状や寸法の精度が低下、焼成後のスペーサーシートに反りやウネリが発生して平坦性が悪くなる等の問題が生じる。より好ましいバインダーの含有添加量は12〜20質量部である。
【0051】
上記スラリーの製造に使用される溶媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が適宜選択して使用される。これらの溶媒も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用することができる。これら溶媒の使用量は、グリスラリーの粘度を加味して適当に調節する。
【0052】
上記スラリーは、上記セラミック原料粉末、バインダー、溶媒を適量混合することにより調製する。その際、セラミック粉末の粉砕、またセラミック粉末の粒子径を均一化し、これらがより均一に分散するボールミルやビーズミル等を使用してミリングしてもよい。なお、混合においては、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0053】
上記スラリーの調製に当たっては、セラミックス原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質、クエン酸、酒石酸等の有機酸、イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩、ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等からなる分散剤、グリーンシートに柔軟性を付与するためのフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類、プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類からなる可塑剤など、更には界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0054】
得られたスラリー中の溶媒を揮発除去することによって、スラリー粘度が3Pa・s以上60Pa・s以下に調製する。粘度調整後のスラリーをシート状に成形する方法は特に制限されないが、薄膜グリーンシートを製造するためにはドクターブレード法を用いるのが好適である。そして、シート状に成形したスラリー中の上記溶媒を蒸発・飛散させることによって、スペーサー用セラミックグリーンシートとする。乾燥条件は特に制限されず、バッチ式乾燥機を用いて例えば80〜150℃の温度範囲で1〜12時間熱風を循環させて乾燥させる方法、トンネル式乾燥機を用いて例えば80℃、120℃、150℃の設定された乾燥ゾーンを1〜100cm/分の速度で移動させながら乾燥させる方法が例示される。当該グリーンシートの厚さは適宜調整すればよいが、スペーサーとして使用する際の好ましい厚さは50μm以上500μm以下にするためには60μm以上、750μm以下の厚さのグリーンシートに成形する。
【0055】
次いで、グリーンシートにはグリーンシート焼成時の焼結によって約60〜90%の範囲、通常は65〜85%の範囲に収縮すること考慮して、例えば貫通孔が円形の場合、直径0.009mmφ以上、1.3mmφ以下の径、断面積としては0.00006mm以上、4.6mm以下の貫通孔を有するような条件で複数の貫通孔を形成する。その方法には制限がなく、所要の箇所にレーザー光を照射する方法、丸型のピンやパンチなどで打抜き加工する方法、ドリル等で孔索する方法等があるが、貫通孔の寸法精度、位置精度の観点からレーザー照射による方法が好ましい。
【0056】
レーザー照射による貫通孔の形成では、チップインコンダクタ等の高密度積層部品や高密度セラミック配線基板を製造するときに、その最上層表面と最下層の下面とを電気的に接続するためにグリーンシートに貫通孔(ビアホール)を形成する孔加工をレーザー照射で行う方法・条件を転用できる。
【0057】
次いで、上記のように貫通孔が形成されたグリーンシートを焼成するが、得られたスペーサーシートの相対密度が95%以上になるような最高焼成温度条件にする以外は特に制限されない。例えば、セラミック棚板の上に1枚もしくは複数枚、好ましくは5〜50枚のグリーンシートを積層して載置し、バッチ式焼成炉もしくはトンネル式の連続式焼成炉を用いて最高温度1500〜1600℃の範囲で1〜10時間、好ましくは1520〜1580℃で2〜8時間焼成する方法が例示される。焼成後のスペーサーシートに反り、ウネリ等があり平坦性が不十分の場合は、反り、ウネリを修正するための再焼成を行うことが好ましい。
【0058】
上記焼成によって、本発明のセラミックシート基体の相対密度が95%以上であり、電解質グリーンシートとの接触面に複数の略円状の貫通孔を有し、当該貫通孔内の平均断面積が0.00005mm以上2.0mm以下であるスペーサー用セラミックシートが得られる。
【0059】
なお、本発明のスペーサー用セラミックシートを用いて焼成される電解質グリーンシートは、電解質材料として酸素イオン伝導性を有するセラミックであれば本発明の電解質シートを構成する材料としては特に制限されないが、好ましくはジルコニア、セリアおよびランタンガレート酸化物からなる群から選択される少なくとも1種である。すなわち、前記電解質シートは、ジルコニウム、セリウム、ランタンおよびガリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有することが好ましい。
【0060】
上記ジルコニアを用いる場合には、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化イッテルビウム等で安定化されたジルコニア;上記セリアを用いる場合にはイットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア;ランタンガレート酸化物を用いる場合には、ランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部が、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物等を使用することができる。
【0061】
特に、3モル%以上10モル%以下の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、さらに、8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムおよび0.5モル%以上2.5モル%以下の酸化セリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上15モル%以下の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニアを用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニア等を焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
(ジルコニア電解質グリーンシートの製造)
8モル%酸化イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、商品名「HSY−8」、平均粒子径:0.4μm、比表面積:8.5m/g)100質量部、溶媒であるトルエン/イソプロパノール混合液(トルエン/イソプロパノール質量比=3/2)50質量部、および分散剤であるソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部との混合物を、ボールミルを用いて粉砕しつつ混合した。当該混合物へ、バインダーとしてメタクリレート系共重合体(数平均分子量:100,000、ガラス転位温度:−8℃、固形分濃度:50%)を固形分換算で18質量部と、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を添加し、さらにボールミルにより混合してスラリーとした。
【0064】
得られたスラリーを、碇型の攪拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、攪拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度:40℃で減圧(約4〜21kPa)下に濃縮脱泡し、25℃での粘度を4Pa・sに調整し、塗工用スラリーとした。
【0065】
この塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移し、ドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工し、塗工部に続く乾燥機(50℃、80℃、110℃の3ゾーン)中を0.2m/分の速度で通過させて乾燥した。さらに乾燥機出口外に設置したスリッターで幅95cmのグリーンシートを連続的に走向方向に切断して、幅125mm、長さ200m、厚さ320μmの長尺ジルコニアグリーンシートを得た。
【0066】
この長尺グリーンシートをさらに125mm間隔で切断して、125mm角のジルコニア電解質グリーンシートを得た。
【0067】
(アルミナ/ジルコニアスペーサーシートの製造)
平均粒子径が1.6μmの低ソーダアルミナ粉末(昭和電工社製、商品名「AL−160SG」)80質量部と、分散強化剤としての3モル%酸化イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、商品名「HSY−3」、平均粒子径:0.4μm、比表面積:8.5m/g)20質量部に対し、ジルコニア電解質グリーンシートの場合と同様の溶媒40質量部、分散剤2.5質量部を添加して粉砕しつつ混合した。さらに同様のバインダー15質量部、可塑剤2質量部を混合してスラリーとした。
【0068】
さらに、同様にしてこのスラリーを濃縮脱泡して粘度を12Pa・sに調整し、ドクターブレード法により塗工して、幅155mmの長尺グリーンシートを得た。さらに上記ジルコニアグリーンシートの製造と同様に当該グリーンシートを約160mm角に切断した。
【0069】
このグリーンシートに炭酸ガスレーザを用いて直径2.78mmのマスクにより整形し集光したレーザー光を1ケ所当たり、パルスエネルギー15.2mJ/パルス、パルス幅40μs、3パルスを当該グリーンシートの周縁部から3mm幅の領域は除いて、グリーンシート全面に1mm間隔で照射して各孔の面積が約0.09mm(直径約0.34mmφに相当)の孔加工を行った。
【0070】
得られたグリーンシートを、表面を研磨したアルミナ板上に10枚重ねて載せ、その上に厚さ1.5mmのアルミナ板(三井金属工業社製「Y−1」、気孔率:約26%、重さ:約0.5g/cm)を載せた。この状態で大気雰囲気下に500℃で脱脂した後、1580℃で2時間バッチ式焼成炉を用いて焼成することにより、130mm角で、厚さは0.2mmのアルミナ/ジルコニアスペーサーシート(A)を得た。当該スペーサーシートには、平均断面積が0.062mm(直径0.14mmφに相当)の貫通孔が0.08mm間隔で端面から2.5mmの間隔を除く領域に存在するものであった。
【0071】
同様に、当該グリーンシートに直径0.93mmφの円形超硬ハンチピンを用いて孔加工した後、上記と同様に焼成して、平均断面積が1.0mm(直径0.56mmφに相当)の貫通孔が2.0mm間隔で端面から2.5mmの間隔を除く領域に存在する同寸法のアルミナ/ジルコニアスペーサーシート(B)を得た。
【0072】
なお、孔加工していないグリーンシートも同様に焼成してアルミナ/ジルコニアスペーサーシートを得、JIS R1634に基づいて測定した当該スペーサーシートのかさ密度と、理論密度から算出した相対密度は99%であり、アルミナ/ジルコニアスペーサーシート基体の相対密度も99%とした。
【0073】
(ムライトスペーサーシートの製造)
平均粒子径が0.8μm、比表面積が8.5m/gの高純度ムライト粉末(共立マテリアル社製、商品名「KM」)100質量部に対し、上記ジルコニアグリーンシートの製造で用いたバインダー17.5質量部、分散媒であるトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒45質量部、および分散剤であるソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2.5質量部の混合物を、ボールミルで粉砕しつつ混合してスラリーとした。
【0074】
さらに、上記ジルコニアグリーンシートの製造と同様にしてこのスラリーを濃縮脱泡して粘度を10Pa・sに調整した。ドクターブレード法により幅155mmの長尺グリーンシートを得た。さらに上記ジルコニアグリーンシートの製造と同様に当該グリーンシートを145mm角に切断した。
【0075】
同様に、炭酸ガスレーザを用いて当該グリーンシートに孔加工を行い1550℃で5時間焼成して、厚さが0.15mm、130mm角で、平均断面積が0.00008mm(直径0.005mmφに相当)の貫通孔が2.0mm間隔で端面から2.5mmの間隔を除く領域に存在するムライトスペーサーシート(C)と、平均断面積が0.00008mm(直径0.005mmφに相当)の貫通孔が2.0mm間隔で端面から2.5mmの間隔を除く領域に存在するムライトスペーサーシート(D)を得た。
【0076】
また、アルミナ/ジルコニアスペーサーシートの場合と同様にしてムライトスペーサーシート基体の相対密度は97%であった。
【0077】
(スペーサー用アルミナ多孔質シートの製造)
平均粒子径が55μmの低ソーダアルミナ粉末(昭和電工社製、商品名「AL−13」)100質量部に対し、上記ジルコニアグリーンシートの製造で用いたバインダー12質量部、可塑剤であるジブチルフタレート2質量部、分散媒であるトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒30質量部、および分散剤であるソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤1質量部との混合物を、ボールミルで粉砕しつつ混合してスラリーとした。
【0078】
さらに、上記ジルコニアグリーンシートの製造と同様にしてこのスラリーを濃縮脱泡して粘度を12Pa・sに調整し、ドクターブレード法により幅155mmの長尺グリーンシートを得た。さらに上記ジルコニアグリーンシートの製造と同様に当該グリーンシートを150mm角に切断した。
【0079】
得られたグリーンシートを、同様にして1560℃で3時間バッチ式焼成炉を用いて焼成することにより、アルミナ多孔質スペ−サーシートを得た。当該多孔質スペーサーは130mm角、厚さは0.2mmであり、相対密度は57%であった。このアルミナ多孔質スペーサーシートには、貫通孔は確認できなかった。
【0080】
結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
(上記スペーサーシートおよびアルミナ多孔質シートを使用した焼成前工程の消耗率確認試験)
図1に示すように、幅250mmのウレタンゴム製ベルトを備えたシート移動装置(ベルトコンベアー)の上部に、小型振動機(神鋼電機社製、型式「V−4C」)付ホッパーを設置した。当該ホッパーは30mm×200mmの排出口を有し、当該排出口には150メッシュのフィルターが設けられていた。当該ホッパーへ、直径10mmのジルコニアボール(東レ社製)270gを投入した。さらに、アクリル樹脂製の球状微粒子(日本触媒製、粒子径:3μm、製品名「エポスター(登録商標)MA」)を投入した。
【0083】
ベルトコンベアー上へ、前記で作製したアルミナ/ジルコニアスペーサーシート(A)1600枚とジルコニア系グリーンシート1500枚を50cm間隔で交互に供給し、6m/分の速度で移動させた。
【0084】
また、小型振動機付ホッパーを振動数120Hzで振動させ、シート上にアクリル樹脂製球状微粒子を散布した。平均の散布量は、シート100cm当たり2.5mgであった。またベルト上に散布されたアクリル樹脂製球状微粒子は、電気集塵機により回収し、再利用した。
【0085】
スペーサーシート(A)とジルコニア系グリーンシートは1枚ずつシート運搬装置に移動し、シート移動が完了すると、シート運搬装置は可動式積層体ストッパーの位置で停止して、最下段と最上段はスペーサーシート(A)になるようにして、16枚のスペーサーシートと15枚のジルコニアグリーンシートを交互に自動的に積み重ねた。所定のアルミナ/ジルコニアスペーサーシート−ジルコニアグリーンシート積層体が得られると、自動的にストッパーが倒れ、当該積層体が自動的に運搬され、次の積層体が得られるようにした。
【0086】
この焼成前工程中のスペーサーシート(A)の割れを目視で観察し、割れた場合は新規なスペーサーシート(A)と差し替えた。また、上記積層体は解体して、差し替え以外のスペーサーシート(A)の割れを目視で観察し、割れ枚数の合計からスペーサーシート(A)の消耗率を求めた。アルミナ/ジルコニアスペーサーシート(B)、ムライトスペーサーシート(C)、ムライトスペーサーシート(D)、アルミナ多孔質スペーサーシートを用いた場合も同様にして消耗率を求めた。
【0087】
結果を表1に示す。
【0088】
(ジルコニアグリーンシートの焼成)
上記のようにして得られたアルミナ/ジルコニアスペーサーシート(A)、アルミナ/ジルコニアスペーサーシート(B)、ムライトスペーサーシート(C)、ムライトスペーサーシート(D)、およびアルミナ多孔質スペーサーシートを用いた積層体それぞれ100組を、図2のように、厚さ10mmの280mm角アルミナ製棚板に載せ、当該棚板を、支柱を介して積み重ね、バッチ式焼成炉へ挿入し、1450℃で3時間焼成し、約100mm角で厚さが280μmのジルコニアシートを得た。
【0089】
得られた各1500枚のジルコニア電解質シートの隙間通過による反りやウネリ高さが
100μm以上のシートの数を求めた。
【0090】
また、上記焼成で使用したアルミナ/ジルコニアスペーサーシート(A)、アルミナ/ジルコニアスペーサーシート(B)、ムライトスペーサーシート(C)、ムライトスペーサーシート(D)、およびアルミナ多孔質スペーサーシートから各16枚を無作為に選び出し、16枚のアルミナシートと15枚のジルコニアグリーンシートを交互に人手で積み重ねて、各1組ずつの積層体とした。これらの積層体を上記と同様に焼成後、再度使用して焼成することを4回繰り返し、計5回使用後の各シート端面部のたれ長さを測定し、それぞれの厚さを基準としてたれ率を算出しその平均値を求めた。
【0091】
結果を表1に合わせて示す。
【0092】
表1から、本発明のスペーサーシートは、セラミックシート基体の相対密度が95%以上の緻密体であり、貫通孔の平均断面積が0.00005mm以上2.0mm以下であるのでジルコニア電解質シートを量産するために必要な焼成前工程を機械化しても割れは少なく、その消耗率は大きく低減していることが明らかになった。
【0093】
また、スペーサーシートの端面から少なくとも1mmの間隔には略円状貫通孔が無い場合は、繰り返し使用しても端面部のたれ具合も大きく低減されて周縁部形状が保持されていることから本発明のスペーサーシートは耐久性をも兼ね備えていることが明らかになった。
【0094】
さらに、スペーサーシートの複数の略円状貫通孔の間隔が0.05mm以上、3.0mm以下である場合は、本発明のスペーサーシートを用いてそり・ウネリ高さが100μm超になったジルコニア電解質シートの割合も低減していることから、本発明のスペーサーシートは、電解質シートの反り・うねり高さの表面形状に対しても従来の多孔質シートに比較して、優れた表面性状の電解質シートが得られるものであることが明らかになった。
【0095】
以上から、本発明のスペーサーシートは、有機成分分解ガスが均一放散できる十分な貫通孔を有し、繰り返し使用にも耐える形状保持性を有し、機械化による量産にも好適に使用されるセラミックシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用の電解質グリーンシートを焼成する工程でスペーサーとして用いるセラミックシートであって、当該セラミックシート基体の相対密度が95%以上であり、上記電解質グリーンシートとの接触面に複数の略円状の貫通孔を有し、当該貫通孔の平均断面積が0.00005mm以上2.0mm以下であることを特徴とするスペーサー用セラミックシート。
【請求項2】
前記スペーサー用セラミックシートの端面から少なくとも1mmの間隔には略円状貫通孔が無い請求項1に記載のスペーサー用セラミックシート。
【請求項3】
前記スペーサー用セラミックシートの複数の略円状貫通孔の間隔が0.05mm以上、3.0mm以下である請求項1または2いずれかに記載のスペーサー用セラミックシート。
【請求項4】
前記スペーサー用セラミックシートが、アルミナ、マグネシア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれかに記載のスペーサー用セラミックシート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスペーサー用セラミックシートは、
(1)ドクターブレード法によりアルミナ、マグネシア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むグリーンシートを成形する工程、
(2)当該グリーンシートに複数の略円状の貫通孔を形成する工程、
(3)略円状の貫通孔が形成されたグリーンシートを、最高温度が1500〜1600℃の範囲で1〜10時間保持して焼結する工程、
を含むことを特徴とするスペーサー用セラミックシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188324(P2012−188324A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53963(P2011−53963)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】