説明

電解質膜、その製造方法、及びそれを含んでなる物品

【課題】機械的安定性及び熱安定性の向上したプロトン交換膜を提供する。
【解決手段】ポリヒドロキシ化合物、芳香族ポリハライド化合物及びアルカリ金属水酸化物を含む混合物を形成する段階と、多孔質基材上に該混合物を配設する段階と、該混合物を反応させて架橋プロトン伝導体を生成する段階と、プロトン伝導体をスルホン化する段階とを含んでなる電解質膜の製造方法、及びその製造方法を用いた多孔質基材と、多孔質基材の細孔中に配設されたスルホン化架橋プロトン伝導体とを含んでなる物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜、その製造方法、及びそれを含んでなる物品に関する。詳しくは、本発明は燃料電池で使用できる電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンな代替電源としての燃料電池への関心は、燃料電池開発の分野における集中的な研究を促した。詳しくは、輸送用途並びに固定及び携帯用途での使用のためにプロトン交換膜(PEM)燃料電池が現在開発中である。課題の1つは、自動車用途及び携帯用途の両方に関する商業的性能目標を満足すること、並びにPEM燃料電池の製造に関連するコストを削減することにある。
【0003】
現在商業的に入手できる燃料電池では、Nafion(登録商標)その他のペルフルオロスルホン酸ポリマー膜がポリマー電解質として使用されている。これらの材料は、燃料電池で見られる湿潤条件下で良好なプロトン伝導性並びに良好な化学的及び機械的安定性を有している。しかし、これらの材料の広汎な使用はコスト及び長期性能によって制限されてきた。長期PEM性能の達成を妨げる主な課題の1つは、膜の機械的強度及び熱安定性の向上である。
【0004】
膜が過度の湿潤又は乾燥条件によって特徴づけられるサイクルに暴露された場合、商業的に入手できる膜は、特にそれが膨潤又は収縮を受けやすければ顕著な寸法変化を示す。これらの寸法変化はしばしば膜の構造破壊を引き起こし、これが膜の亀裂、裂け目その他の変形の発生をもたらす。このような構造破壊は燃料電池の早期故障を引き起こすことがある。
【0005】
したがって、機械的安定性及び熱安定性の向上したプロトン交換膜に対するニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0160960号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0100131号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0142614号明細書
【特許文献4】国際公開第2008/009102号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書には、電解質膜の製造方法であって、ポリヒドロキシ化合物、芳香族ポリハライド化合物及びアルカリ金属水酸化物を含む混合物を形成する段階と、多孔質基材上に該混合物を配設する段階と、該混合物を反応させて架橋プロトン伝導体を形成する段階と、プロトン伝導体をスルホン化する段階とを含んでなる方法が開示される。
【0008】
本明細書にはまた、トリス(ヒドロキシフェニル)エタンを脱プロトン化して脱プロトン化トリス(ヒドロキシフェニル)エタンを生成する段階と、下記反応(I)に示すように、多孔質基材の細孔中で脱プロトン化トリス(ヒドロキシフェニル)エタンをスルホン化ジフルオロジフェニルスルホンと反応させて架橋ポリエーテルスルホンを生成する段階と、
【0009】
【化1】

【0010】
下記反応(II)に示すように、架橋ポリエーテルスルホンをスルホン化して多孔質基材の細孔中にスルホン化架橋ポリエーテルスルホンを生成する段階と
【0011】
【化2】

【0012】
を含んでなる方法も開示される。
【0013】
本明細書にはまた、電解質膜の製造方法であって、第1の溶媒、アルカリ金属水酸化物及び次の式(V)の化合物を含む第1の混合物を形成する段階と、
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R16、R17及びR18の各々は水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、n、o及びpは各々独立に1〜約4の整数である。)
第1の混合物に次の式(VI)の化合物を添加する段階と、
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Xはハロゲンであり、R19及びR20は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、q及びrは各々独立に1〜3の整数である。)
第1の混合物に、イソプロパノール及びジメチルスルホキシドを含む第2の溶媒を添加して第2の混合物を形成する段階と、延伸ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質基材上に第2の混合物を配設する段階と、第2の混合物を反応させることで、多孔質基材と一体化した架橋プロトン伝導体を生成して電解質膜を形成する段階と、架橋プロトン伝導体をスルホン化剤でスルホン化してスルホン化架橋プロトン伝導体を生成する段階とを含んでなる方法も開示される。
【0018】
本明細書にはまた、多孔質基材と、多孔質基材の細孔中に配設されたスルホン化架橋プロトン伝導体とを含んでなる物品も開示される。
【0019】
開示される実施形態の上記その他の特徴、態様及び利点は、以下の説明及び特許請求の範囲を参照することで一層よく理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
冠詞“the”、“a”及び“an”は数量の限定を意味するわけではなく、記載されたものの1以上が存在することを意味する。本明細書で使用される接尾辞“(s)”は、それが修飾する語の単数形及び複数形の両方を包含し、それによってその語が意味するものの1以上を包含するものである(例えば、colorant(s)は1種以上の着色剤を包含する)。特記しない限り、本明細書で使用する技術的及び科学的用語は、当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。本明細書で使用される「第1」、「第2」などの用語はいかなる順序又は重要度も表すわけではなく、ある構成要素を別の構成要素から区別するために使用される。
【0021】
本明細書で使用される概略表現用語は、それが関係する基本機能の変化を生じることなしに変動し得る任意の数量表現を修飾するために適用できる。したがって、「約」及び「実質的に」のような用語で修飾された値は、場合によっては明記された厳密な値に限定ないことがある。少なくとも若干の場合には、概略表現用語は値を測定するための計器の精度に対応することがある。このように、数量に関して使用される「約」という修飾語は記載された値を含むと共に、(例えば、特定の数量の測定に関連する誤差の程度を含め)前後関係から指示される意味を有する。
【0022】
「±10%」という表記は、表示される測定結果が記載値の−10%の量から+10%の量までであることを意味する。さらに、本明細書に開示されるすべての範囲は端点を含むと共に独立に結合可能である。同一の成分又は性質に関するすべての範囲の端点は包含されかつ独立に結合可能である(例えば、「約25wt%以下、さらに詳しくは約5〜約20wt%」という範囲は端点を含むと共に、「約5〜約25wt%」などの範囲内のすべての中間値を含む)。
【0023】
「任意の」又は「任意には」という用語は、その用語に続いて記載された事象又は状況が起きても起きなくてもよいことを意味しており、かかる記載はその事象が起こる場合及びその事象が起こらない場合を包含する。引用された特許、特許出願及びその他の参考文献はすべて、援用によって本明細書の内容の一部をなす。本明細書では、単数形又は複数形の「基材」は単数形又は複数形の「表面」と互換的に使用されることがある。
【0024】
本明細書には、電解質膜の製造方法が開示される。本方法は、多孔質基材上に架橋プロトン伝導体を配設する段階と、架橋プロトン伝導体をスルホン化する段階とを含んでいる。例示的な実施形態では、プロトン伝導体はトリス(ヒドロキシフェニル)エタンとスルホン化ジハロフェニルスルホンとの反応から導かれるポリエーテルスルホンである。反応後、プロトン伝導体には後スルホン化が施される。プロトン伝導体を多孔質基材上に配設することにより、プロトン伝導体を多孔質基材の細孔中及び細孔間に形成して電解質膜を製造することができる。かくして、電解質膜の細孔中で後スルホン化を行わせることができる。例示的な実施形態では、多孔質基材は延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である。
【0025】
架橋プロトン伝導体の使用は水溶性を抑制する。これは電解質膜の寸法安定性を増大させる。架橋はまた、電解質の溶解も防止する。
【0026】
多孔質基材は有機ポリマーからなる。多孔質支持体は、脂肪族又は芳香族炭化水素から導かれるポリマーを包含する。多孔質支持体の生成に有用なポリマーには、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリベンゾニトリル、ポリアミドスルホン、ポリアミドベンゾニトリル、ポリチオエーテルスルホン、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレン、ポリアリーレンエーテル、ポリアクリロニトリル、多糖類、セルロース及びセルロースエステルやセルロースエーテル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、セルロース系ポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリレート、コポリエーテルエステル、コポリエーテルアミド、フルオロポリマーなど、或いは上述の有機ポリマーの1種以上を含む組合せがある。
【0027】
例示的なポリマーはフルオロポリマーである。好適なフルオロポリマーの例は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレンオキシド−コ−ジフルオロメチレンオキシド)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル))など、或いは上述のフルオロポリマーの1種以上を含む組合せである。
【0028】
例示的なフルオロポリマーは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン、特に延伸多孔質PTFE(時にはePTFEといわれる)の膜である。多孔質ポリテトラフルオロエチレンは、一般にシートの形態で使用される。
【0029】
多孔質ポリテトラフルオロエチレンシートは、商業的プロセス、例えば延伸又は伸長プロセス、製紙プロセス、充填材をPTFE樹脂と混和し、続いてそれを除去して多孔質構造を残すプロセス、又は粉末焼結プロセスによって製造できる。一実施形態では、多孔質ポリテトラフルオロエチレンシートは、相互連結されたノード及びフィブリルからなる構造を有する多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレンシートである。ノード及びフィブリルは、垂直方向では表面から表面まで膜を貫通しかつ横方向では縁端から縁端まで膜を貫通する相互連結された通路及び経路の三次元網目構造を有する内部構造を画成し得る。
【0030】
多孔質基材は、約3〜約1000μm、詳しくは約5〜約500μm、さらに詳しくは約10〜約200μmの厚さを有する。多孔質基材は、多孔質基材の総体積を基準にして約20〜約98体積%、詳しくは約30〜約95体積%、さらに詳しくは約50〜約90体積%の多孔度を有する。加えて、多孔質基材は約0.01〜約20μm、詳しくは約0.05〜約15μm、さらに詳しくは約0.1〜約10μmの平均細孔径を有する。多孔質基材の厚さは約10〜約500μm、詳しくは約20〜約150μm、さらに詳しくは約25〜約50μmである。
【0031】
延伸多孔質PTFEからなる多孔質基材は、General Electric社からQM702の商標で商業的に入手できる。
【0032】
上述の通り、多孔質基材上にプロトン伝導体を配設することで電解質膜が形成される。プロトン伝導体は、それの主鎖上に芳香族基を有するポリマーである。芳香族基は耐熱性、耐酸化性、たわみ性及び膜形成能を与える。プロトン伝導体はまた、容易にプロトンを交換し得るプロトン酸基も含んでいる。
【0033】
例示的な実施形態では、プロトン伝導体はプロトン酸含有芳香族ポリマーである。好適なプロトン酸含有芳香族ポリマーの例は、プロトン酸含有芳香族ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテル、ポリフェニレンエーテル、ポリベンゾイミタゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリチアゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリオキサチアゾール、ポリテトラザピザレン、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリピロリドンなど、或いは上述のプロトン酸含有芳香族ポリマーの1種以上を含む組合せである。
【0034】
別の実施形態では、プロトン酸含有ポリエーテルケトン、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンエーテル、ポリベンゾイミタゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリチアゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリオキサチアゾール、ポリテトラザピザレン、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリピロリドンなどのスルホン化誘導体、或いは上述のプロトン酸含有ポリマーのスルホン化誘導体の1種以上を含む組合せを多孔質基材上に配設できる。例示的なプロトン伝導体は、プロトン酸と反応させたポリエーテルスルホンである。
【0035】
プロトン伝導体として使用するための芳香族ポリマーは、ポリヒドロキシ又はポリメルカプト化合物と芳香族ポリハライド化合物との反応によって製造できる。好適なポリヒドロキシ又はポリメルカプト化合物は、次の式(I)に示す構造を有する。
【0036】
【化5】

【0037】
式中、Bは水素、アルキル基、アリール基又はプロトン酸含有基であり、プロトン酸含有基はスルホネート基(−SO3H)、カルボキシレート基(−COOH)、ホスフェート基(−PO32)、アルキルスルホネート基(−(R4nSO3H)、スルファモイルスルホニルアルキル基又はスルファモイルスルホニルアリール基(−SO2NHSO2R(式中、Rはアルキル又はアリールである。))、ペルフルオロアルキルスルホネート基((CF2nSO3H)、スルホニルアルキルスルホネート基(SO2(R4nSO3H)、スルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2(CF2)SO3H)、スルファモイルスルホニルアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(R4nSO3H)、スルファモイルスルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(CF2nSO3H)、アルキルカルボキシレート基(−(R4nCOOH)、ペルフルオロアルキルカルボキシレート基((CF2nCO2H)、アルキルホスホネート基(−(R4nPO32)、ペルフルオロアルキルホスホネート基或いはこれらのそれぞれの共役塩のようなものであり、共役塩は周期表I族からの金属陽イオンを有する。R1及びR2は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基又はC6-50アリール基である。q及びrは独立に1〜約4の整数である。式(I)において、R3は水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-50アリール基又はハロゲン置換C6-50アリール基であり、R4はアルキル基、アリール基又はペルフルオロアルキル基である。Wは以下の基からなる群から選択される。
【0038】
【化6】

【0039】
式中、Rc及びRdは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環状炭化水素基を表し、Reは二価炭化水素基、酸素又は硫黄である。式(I)において、XはO、S又はSO2である。
【0040】
例示的なポリヒドロキシ化合物は、次の式(II)に示す構造を有する。
【0041】
【化7】

【0042】
式中、R5、R6、R7及びR8は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-50アリール基又はハロゲン置換C6-50アリール基であり、n、o及びpは各々独立に1〜約4の整数である。一実施形態では、R5、R6、R7及びR8は各々独立に水素原子又はハロゲン原子であり、n、o及びpは各々独立に1〜約4の整数である。別の実施形態では、R5、R6、R7及びR8は各々がハロゲン原子であり、n、o及びpは各々独立に1〜約4の整数である。例示的な実施形態では、R5、R6、R7及びR8は各々が水素原子である。
【0043】
芳香族ポリハライド化合物は、次の式(III)に示す構造を有する。
【0044】
【化8】

【0045】
式中、Xはハロゲンであり、R9及びR10は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、s及びtは各々独立に1〜4の整数である。R11は以下の基の1つを表し、
【0046】
【化9】

【0047】
Cはプロトン酸含有基であり、プロトン酸含有基はスルホネート基(−SO3H)、カルボキシレート基(−COOH)、ホスフェート基(−PO32)、アルキルスルホネート基(−(R12nSO3H)、スルファモイルスルホニルアルキル基又はスルファモイルスルホニルアリール基(−SO2NHSO2R(式中、Rはアルキル又はアリールである。))、ペルフルオロアルキルスルホネート基((CF2nSO3H)、スルホニルアルキルスルホネート基(SO2(R12nSO3H)、スルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2(CF2)SO3H)、スルファモイルスルホニルアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(R12nSO3H)、スルファモイルスルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(CF2nSO3H)、アルキルカルボキシレート基(−(R12nCOOH)、ペルフルオロアルキルカルボキシレート基((CF2nCO2H)、アルキルホスホネート基(−(R12nPO32)、ペルフルオロアルキルホスホネート基或いはこれらの共役塩のようなものであり、共役塩は周期表I族からの金属陽イオンを有する。R12はアルキル基、アリール基又はペルフルオロアルキル基である。
【0048】
例示的な実施形態では、芳香族ジハライド化合物は次の式(IV)に示す構造を有する。
【0049】
【化10】

【0050】
式中、Xはハロゲンであり、R13及びR14は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、q及びrは各々独立に1〜3の整数である。R15は以下の基の1つを表し、
【0051】
【化11】

【0052】
式中、Rc及びRdは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環状炭化水素基を表し、Reは二価炭化水素基、酸素又は硫黄である。Mは周期表I族からの金属陽イオンを表す。例示的な実施形態では、Mはナトリウム又はカリウムである。例示的な実施形態では、芳香族ジハライドは芳香族スルホン化ジハライドである。
【0053】
式(IV)に関して述べれば、例示的な実施形態では、R13及びR14は各々独立に水素原子又はハロゲン原子であり、Mはナトリウムであり、Xはフッ素であり、q及びrは各々独立に1〜3の整数である。
【0054】
一実施形態では、架橋ポリエーテルスルホンは、次の式(V)のトリスヒドロキシ化合物と次の式(VI)の芳香族ジハライド化合物とを反応させることで製造される。
【0055】
【化12】

【0056】
【化13】

【0057】
式(V)において、R16、R17及びR18の各々は水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、n、o及びpは各々独立に1〜約4の整数である。別の実施形態では、R16、R17及びR18は各々独立に水素原子である。
【0058】
式(VI)において、Xはハロゲンであり、R19及びR20は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、q及びrは各々独立に1〜3の整数である。
【0059】
例示的な実施形態では、式(V)の化合物はトリス(ヒドロキシフェニル)エタンである一方、式(VI)の化合物はスルホン化ジフルオロジフェニルスルホンである。一実施形態では、プロトン伝導体は、最初はメタノール中において塩基触媒を用いてトリス(ヒドロキシフェニル)エタンを脱プロトン化することで得られる。次いで、メタノールを蒸留によって除去し、脱プロトン化トリス(ヒドロキシフェニル)エタンを水に溶解する。この水溶液にスルホン化ジフルオロスルホン化合物を添加する。スルホン化ジフルオロスルホン化合物を室温で水溶液に溶解する。イソプロパノール(IPA)中のチタンテトライソプロポキシド(TIP)を添加して保水性を高めることができる。得られた溶液をePTFE上に塗布し、モノマーをインサイチュで硬化させれば、ePTFEの細孔中に架橋ポリエーテルスルホンが得られる。次いで、フィルムをクロロスルホン酸溶液中にソークしてさらに多くのスルホン酸基を追加する。
【0060】
次に、架橋ポリエーテルスルホンを生成するための式(V)の化合物と式(VI)の化合物との反応及びその結果としての電解質膜の製造の詳細を以下に示す。架橋ポリエーテルスルホンを生成するためのトリス(ヒドロキシフェニル)エタン(式(V)の化合物)とスルホン化ジフルオロジフェニルスルホン(式(VI)の化合物)との例示的な反応を以下の反応(I)に示す。
【0061】
【化14】

【0062】
上記の反応(I)では、R1=SO3NaかつR2=SO3Hである。式(V)の化合物と式(VI)の化合物とのモル比は、約1:1〜約1:10、詳しくは約1:1.1〜約1:2、さらに詳しくは約1:1.3〜約1:1.8である。例示的な実施形態では、式(V)の化合物と式(VI)の化合物とのモル比は約1:1.5である。
【0063】
上述の通り、式(V)の化合物の脱プロトン化はアルカリ金属水酸化物を用いて実施される。好適なアルカリ金属水酸化物の例は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなど、或いは上述のアルカリ金属水酸化物の1種以上を含む組合せである。例示的な実施形態では、アルカリ金属水酸化物は水酸化カリウムである。
【0064】
一実施形態では、まず、式(V)のトリスヒドロキシ化合物をアルカリ金属水酸化物と共に加熱することで、式(VI)の脱プロトン化化合物を含む反応混合物を形成すればよい。かかる混合物を加熱還流する。次いで、式(VI)の化合物を反応混合物に添加する。
【0065】
式(V)の化合物とアルカリ金属水酸化物とのモル比は、約1:1〜約1:10、詳しくは約1:1.1〜約1:7、さらに詳しくは約1:2〜約1:5である。例示的な実施形態では、式(V)の化合物とアルカリ金属水酸化物とのモル比は1:3である。
【0066】
式(V)の化合物と式(VI)の化合物との反応は、適当な溶媒の存在下で実施できる。かかる溶媒は第1の溶媒及び第2の溶媒を含み得る。一実施形態では、式(VI)の化合物の添加に先立ち、式(V)の化合物及びアルカリ金属水酸化物を第1の溶媒と共に加熱することができる。加熱後、式(VI)の化合物の添加に先立って第1の溶媒を除去することができる。
【0067】
第1の溶媒は親水性有機溶媒である。第1の溶媒は、アルコール、アミド、ケトン、ニトリル、スルホキシド、スルホン、チオフェン、エステル、アミドなど、或いは上述の溶媒の1種以上を含む組合せからなる。第1の溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホン、テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシドなど、或いは上述の溶媒の1種以上を含む組合せである。例示的な実施形態では、第1の溶媒はメタノールである。
【0068】
第2の溶媒は極性溶媒である。第2の溶媒は、アルコール、水、液体二酸化炭素、ケトン、ニトリル、スルホキシド、スルホン、チオフェン、酢酸エステル、アミドなど、或いは上述の溶媒の1種以上を含む組合せである。第2の溶媒は、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシドなど、或いは上述の溶媒の1種以上を含む組合せである。例示的な実施形態では、第2の溶媒は水とジメチルスルホキシドとの組合せである。
【0069】
理論によって束縛されることはないが、第2の溶媒は、架橋ポリエーテルスルホンを生成するために使用されるモノマーからなるモノマー混合物による多孔質基材の濡れを容易にする。かくして、モノマーは多孔質支持体の細孔のすべてを実質的に満たすと考えられる。多孔質基材の内部で起こると考えられるモノマーの重合後にはポリエーテルスルホンポリマーが生成され、これを架橋させることで、多孔質支持体と一体化したプロトン伝導性網目構造が形成される。一実施形態では、多孔質基材の表面上でのモノマー混合物の広がりを容易にするために界面活性剤を使用することもできる。
【0070】
一実施形態では、機械的安定性を向上させると共に導電性の管理を容易にするため、例えばチタンイソプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、テトラエチルオルトシリケート、テトラメチルオルトシリケートなどの金属アルコキシドを反応混合物に添加することができる。
【0071】
反応混合物に式(VI)の化合物及び第2の溶媒を添加した後、混合物を適当な温度に一晩加熱する。例示的な実施形態では、反応混合物を約70〜約90℃の温度に約3〜約10時間加熱する。次いで、モノマーを含む反応混合物を多孔質基材の両面上に配設する。モノマーは多孔質基材の細孔に浸透する。次いで、モノマーの架橋を促進してプロトン伝導体(架橋ポリエーテルスルホン)を生成するのに有効な温度に多孔質基材を加熱する。
【0072】
基材上への反応混合物の配設は、吹付け塗り、スピンコーティング、浸し塗り、ロールコーティング(ニップロールを用いるコーティング)などによって実施できる。一実施形態では、電解質膜は、電解質膜の総重量を基準にして約0.5〜約50wt%、詳しくは約5〜約40wt%、さらに詳しくは約10〜約30wt%のプロトン伝導体を含む。
【0073】
一実施形態では、その上にモノマーが配設された多孔質基材を約120〜約175℃の第1の温度に加熱し、次いで約220〜約300℃の第2の温度に加熱する。加熱は、ポリマーの架橋を容易にするために実施される。別の実施形態では、その上にモノマーが配設された多孔質基材を約140〜約160℃の第1の温度に加熱し、次いで約240〜約360℃の第2の温度に加熱する。多孔質基材は第1の温度に約0.5〜約4時間加熱され、第2の温度に約0.5〜約4時間加熱される。第1の温度での加熱及び第2の温度での加熱は、いずれも不活性雰囲気中で実施される。
【0074】
ポリマーの架橋後、その上に架橋ポリマーが配設された多孔質基材に後スルホン化が施される。後スルホン化は、酸密度及びプロトン伝導度を高めるために実施される。イオン交換容量も後スルホン化によって増加する。後スルホン化は一般に、その上に架橋プロトン伝導体が配設された多孔質基材をスルホン化剤中に浸漬することで実施される。スルホネート基を導入するために使用できる例示的なスルホン化剤には、濃硫酸、発煙硫酸、クロロ硫酸、無水硫酸複合体など、或いは上述のスルホン化剤の1種以上を含む組合せがある。
【0075】
好適なプロトン酸の例は、例えばスルホネート基(−SO3H)、カルボキシレート基(−COOH)、ホスフェート基(−PO32)、アルキルスルホネート基(−(R15nSO3H)、スルファモイルスルホニルアルキル基又はスルファモイルスルホニルアリール基(−SO2NHSO2R(式中、Rはアルキル又はアリールである。))、ペルフルオロアルキルスルホネート基((CF2nSO3H)、スルホニルアルキルスルホネート基(SO2(R15nSO3H)、スルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2(CF2)SO3H)、スルファモイルスルホニルアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(R15nSO3H)、スルファモイルスルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(CF2nSO3H)、アルキルカルボキシレート基(−(R15nCOOH)、ペルフルオロアルキルカルボキシレート基((CF2nCO2H)、アルキルホスホネート基(−(R15nPO32)、ペルフルオロアルキルホスホネート基、フェノール性ヒドロキシル基(−Ph−OH)などのプロトン酸基、或いは上述のプロトン酸基の1種以上を含む組合せを含有するものである。R15はアルキル基、アリール基又はペルフルオロアルキル基を表す。
【0076】
上述のアルキルスルホネート基、アルキルカルボキシレート基及びアルキルホスフェート基では、nは約1〜約10である。例示的な実施形態では、スルホン化を容易にするために多孔質基材がクロロスルホン酸中に浸漬される。クロロスルホン酸によるポリエーテルスルホンの後スルホン化を下記反応(II)に示す。
【0077】
【化15】

【0078】
後スルホン化は、Nafion 112(登録商標)のような商業的に入手できる比較膜に比べ、約80℃の温度で電解質膜の伝導度を100〜約1000%高める。一実施形態では、後スルホン化は、Nafion 112(登録商標)のような商業的に入手できる比較膜に比べ、約80℃の温度で電解質膜の伝導度を200〜約800%高める。さらに別の実施形態では、後スルホン化は、Nafion 112(登録商標)のような商業的に入手できる比較膜に比べ、約80℃の温度で電解質膜の伝導度を250〜約600%高める。
【0079】
後スルホン化はまた、後スルホン化が施されていないポリエーテルスルホンを含む比較電解質膜に比べ、約80℃の温度で電解質膜の伝導度を100〜約2000%高める。一実施形態では、後スルホン化は、後スルホン化が施されていないポリエーテルスルホンを含む比較電解質膜に比べ、約80℃の温度で電解質膜の伝導度を200〜約800%高める。さらに別の実施形態では、後スルホン化は、後スルホン化が施されていないポリエーテルスルホンを含む比較電解質膜に比べ、約80℃の温度で電解質膜の伝導度を250〜約600%高める。
【0080】
本明細書に開示された電解質膜は、比較電解質膜に比べていくつかの有利な性質を有している。酸性化前に熱重量分析(TGA)で評価した場合、本明細書に開示された電解質膜は約563℃までの温度に対して安定である。酸性化後にTGAで評価した場合、開示された電解質膜は約285℃までの温度に対して安定である。一実施形態では、酸性化前にTGA分析で評価した場合、電解質膜は約400℃まで、詳しくは約500℃まで、さらに詳しくは約600℃まで安定である。一実施形態では、酸性化後にTGA分析で評価した場合、電解質膜は約200℃まで、詳しくは約225℃まで、さらに詳しくは約250℃まで安定である。
【0081】
開示された電解質膜はまた、優れた寸法安定性を示す。電解質膜を(25℃の)水中に約24時間浸漬した場合、浸漬前後におけるその面積変化率は約20%以下、詳しくは約10%以下、さらに詳しくは約3%以下である。面積変化率が約20%以下であれば、触媒層への電解質膜表面の密着性を向上させると共に、電解質膜と触媒層との界面抵抗を最小にすることができる。
【0082】
架橋構造を有する電解質膜の使用がもたらす追加の利益は、電解質膜中に一層多数の酸基が導入されることである。商業的に入手できる電解質膜では、ポリマー鎖当たりの酸基の数は、酸基の存在下での水溶性及び膨潤のために制限される。しかし、本明細書に開示されたように、電解質を架橋させることで多孔質基材と一体化した網目構造が形成した場合には、ポリエーテルスルホンの溶解度レベルを実質的に減少させることができる。
【0083】
開示された電解質膜はまた、耐薬品性も示す。開示された電解質膜は高い耐酸化性を有することができ、電解質膜の内部で発生し得る過酸化水素のような酸化剤に対して抵抗性を有する。
【0084】
約3重量%の過酸化水素及び約5ppmのFeSO4を含む溶液中に電解質膜を約80℃で約1時間浸漬した場合、浸漬前後における重量変化は約10%以下、詳しくは約5%以下、又は約2%以下である。重量変化が約10%以下であれば、開示された電解質膜を使用する電気化学セルは長期安定性を示し得る。
【0085】
約80℃及び約50%湿度でのプロトン伝導度は、約0.001S/cm以上、詳しくは約0.01S/cm以上、さらに詳しくは約0.1S/cm以上である。
【0086】
これらのポリマー中にはアリールスルホン酸以外のスルホン酸も組み込むことができると予想される。例えば、ペルフルオロフェニルスルホン酸はペンダント官能基として、或いはポリマー主鎖の一部として組み込むことができる。ペルフルオロアルキルスルホン酸もまた、ペンダント官能基として組み込むことができよう。より多くの酸官能基を組み込むことは、ポリマーのプロトン伝導度を高めるものと期待される。
【0087】
こうして得られた電解質膜は、燃料電池、バッテリー、触媒担体又は触媒において使用できる。それは、水精製システムにおいて、ポリマー触媒として、或いは所望ならば触媒担体として使用できる。(スルホン酸塩のような)塩基性形態では、これらの材料はNa、Liなどのイオンを輸送するための陰イオン輸送媒体として役立ち得る。
【0088】
以下の非限定的な実施例によって本発明をさらに例示する。
【実施例1】
【0089】
本実施例は、プロトン伝導体のスルホン化及びそれに伴うイオン伝導度の向上を実証するために実施した。凝縮器を備えたフラスコにトリス(ヒドロキシフェニル)エタン(THPE)(2.75g、8.98mmol)を加えた。このフラスコにKOH(1.51g、27.0mmol)及びメタノール(85ml)を加えた。混合物を40分間加熱還流することで脱プロトン化反応を進めた。メタノールの除去後、スルホン化ジフルオロジハロフェニルスルホン(SDFDPS)(6.18g、13.5mmol)をフラスコに加えた。混合物を水(38ml)及びジメチルスルホキシド(3.4ml)に溶解した。混合物を室温まで冷却し、その時点でePTFE基材(QM702、General Electric社)の濡れを高めるために15mlのイソプロパノール及び1.3mlのジメチルスルホキシドを混合物に添加した。溶解を容易にするため、混合物を80℃で10分間加熱した。室温まで冷却した後、IPA(39ml)中のチタンイソプロポキシド(0.383g、1.35mmol)を溶液に添加した。0.75gの1%KOH溶液を室温で添加した。混合物を80℃で一晩加熱した。プラスチックフープ上に支持したでePTFE(QM702、BHA)の両面上に溶液を流延した。フィルムをN2中において150℃で1時間乾燥した後、フィルムをN2中において250℃で1時間加熱した。
【0090】
フィルムを窒素流下においてクロロスルホン酸の0.9M 1,2−ジクロロエタン溶液中に一晩ソークした。得られた溶液を水洗し、次いで1.0M H2SO4溶液中に一晩ソークしてナトリウム塩をスルホン酸に転化させた。フィルムを脱イオン水で洗い、室温で乾燥した後、電解質膜を得た。後スルホン化後、イオン交換容量は2.0から3.6に増加した。
【0091】
フィルムを脱イオン水で洗い、次いで室温で乾燥した後、ACインピーダンスを用いてフィルムのプロトン伝導度を測定した。フィルムの厚さは45μmであった。伝導度測定は、60℃、80℃、100℃及び120℃の温度並びに50%、75%及び100%の相対湿度で実施した。比較用としてNafion 112フィルムを使用した。第2の比較試料として、スルホン化を施さない架橋ポリエーテルスルホンを使用した。50%の制御相対湿度並びに60℃、80℃、100℃及び120℃の温度におけるプロトン伝導度試験の結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に示す通り、実施例1の材料(スルホン化架橋ポリエーテルスルホン)のプロトン伝導度は、Nafion 112及び80℃での架橋ポリエーテルスルホンより優れている。
【0094】
80℃の制御温度並びに25%、50%、75%及び100%の相対湿度レベルにおけるフィルムのプロトン伝導度に関する結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
80℃の温度では、試験した相対湿度レベルの各々において、スルホン化架橋ポリエーテルスルホンはNafion 112及び(後スルホン化を施さない)架橋ポリエーテルスルホンより優れたプロトン伝導度を実証している。
【実施例2】
【0097】
本実施例は、スルホン化プロトン伝導体の加水分解安定性を実証するために実施した。上記実施例に開示したスルホン化架橋ポリエーテルスルホンフィルムを、100℃に加熱した水中に2時間浸漬した。100℃の水中での2時間後にも浸出は認められなかった。高い架橋密度が材料の浸出を防止した。また、これらのフィルムの寸法安定性を室温で調べた。これらのフィルムの寸法安定性を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
これらの値は、1.5のイオン交換容量を有する線状ポリエーテルスルホンに匹敵している。結果は、高い架橋密度が膜中での高い酸濃度を許しながら水の吸収及び寸法変化を抑制することを実証している。
【0100】
以上、本明細書には例示的な実施形態を記載したが、当業者であれば、開示された実施形態の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更及び同等物による構成要素の置換を行い得ることが理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。したがって、本発明はこの発明を実施するために想定される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の製造方法であって、
ポリヒドロキシ化合物、芳香族ポリハライド化合物及びアルカリ金属水酸化物を含む混合物を形成する段階と、
多孔質基材上に該混合物を配設する段階と、
該混合物を反応させて架橋プロトン伝導体を形成する段階と、
プロトン伝導体をスルホン化する段階と
を含んでなる方法。
【請求項2】
芳香族ポリハライド化合物が芳香族スルホン化ジハライドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリヒドロキシ化合物が次の式(I)に示す構造を有する化合物である、請求項1記載の方法。
【化1】

(式中、Bは水素、アルキル基、アリール基又はプロトン酸含有基であり、プロトン酸含有基はスルホネート基(−SO3H)、カルボキシレート基(−COOH)、ホスフェート基(−PO32)、アルキルスルホネート基(−(R4nSO3H)、スルファモイルスルホニルアルキル基又はスルファモイルスルホニルアリール基(−SO2NHSO2R)(式中、Rはアルキル又はアリールである。)、ペルフルオロアルキルスルホネート基((CF2nSO3H)、スルホニルアルキルスルホネート基(SO2(R4nSO3H)、スルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2(CF2)SO3H)、スルファモイルスルホニルアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(R4nSO3H)、スルファモイルスルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(CF2nSO3H)、アルキルカルボキシレート基(−(R4nCOOH)、ペルフルオロアルキルカルボキシレート基((CF2nCO2H)、アルキルホスホネート基(−(R4nPO32)、ペルフルオロアルキルホスホネート基或いはこれらの共役塩であり、共役塩は金属陽イオンを有し、R1及びR2は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基又はC6-50アリール基であり、q及びrは独立に1〜約4の整数であり、R3は水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-50アリール基又はハロゲン置換C6-50アリール基であり、R4はアルキル基、アリール基又はペルフルオロアルキル基であり、XはO、S又はSO2であり、Wは以下の基からなる群から選択される。
【化2】

(式中、Rc及びRdは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環状炭化水素基を表し、Reは二価炭化水素基、酸素又は硫黄である。))
【請求項4】
ポリヒドロキシ化合物が次の式(II)に示す構造を有する、請求項1記載の方法。
【化3】

(式中、R5、R6、R7及びR8は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-50アリール基又はハロゲン置換C6-50アリール基であり、n、o及びpは各々独立に1〜約4の整数である。)
【請求項5】
芳香族ポリハライド化合物が次の式(III)に示す構造を有する、請求項1記載の方法。
【化4】

(式中、Xはハロゲンであり、R9及びR10は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、s及びtは各々独立に1〜4の整数であり、R11は以下の基の1つを表し、
【化5】

Cはプロトン酸含有基であり、プロトン酸含有基はスルホネート基(−SO3H)、カルボキシレート基(−COOH)、ホスフェート基(−PO32)、アルキルスルホネート基(−(R12nSO3H)、スルファモイルスルホニルアルキル基又はスルファモイルスルホニルアリール基(−SO2NHSO2R)(式中、Rはアルキル又はアリールである。)、ペルフルオロアルキルスルホネート基((CF2nSO3H)、スルホニルアルキルスルホネート基(SO2(R12nSO3H)、スルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2(CF2)SO3H)、スルファモイルスルホニルアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(R12nSO3H)、スルファモイルスルホニルペルフルオロアルキルスルホネート基(SO2NHSO2(CF2nSO3H)、アルキルカルボキシレート基(−(R12nCOOH)、ペルフルオロアルキルカルボキシレート基((CF2nCO2H)、アルキルホスホネート基(−(R12nPO32)、ペルフルオロアルキルホスホネート基或いはこれらの共役塩であり、共役塩は金属陽イオンを有し、R12はアルキル基、アリール基又はペルフルオロアルキル基である。)
【請求項6】
芳香族ポリハライド化合物が次の式(IV)に示す構造を有する、請求項1記載の方法。
【化6】

(式中、Xはハロゲンであり、R13及びR14は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、q及びrは各々独立に1〜3の整数であり、R15は以下の基の1つを表し、
【化7】

(式中、Rc及びRdは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環状炭化水素基を表し、Reは二価炭化水素基、酸素又は硫黄である。)、q及びrは各々独立に1〜3の整数であり、Mは周期表I族からの金属陽イオンを表す。)
【請求項7】
トリス(ヒドロキシフェニル)エタンを脱プロトン化して脱プロトン化トリス(ヒドロキシフェニル)エタンを生成する段階と、
下記反応(I)に示すように、多孔質基材の細孔中で脱プロトン化トリス(ヒドロキシフェニル)エタンをスルホン化ジフルオロジフェニルスルホンと反応させて架橋ポリエーテルスルホンを生成する段階と、
【化8】

下記反応(II)に示すように、架橋ポリエーテルスルホンをスルホン化して多孔質基材の細孔中にスルホン化架橋ポリエーテルスルホンを生成する段階と
【化9】

を含んでなる方法。
【請求項8】
電解質膜の製造方法であって、
第1の溶媒、アルカリ金属水酸化物及び次の式(V)の化合物を含む第1の混合物を形成する段階と、
【化10】

(式中、R16、R17及びR18の各々は水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、n、o及びpは各々独立に1〜約4の整数である。)
第1の混合物を加熱する段階と、
第1の混合物に次の式(VI)の化合物を添加する段階と、
【化11】

(式中、Xはハロゲンであり、R19及びR20は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、ハロゲン置換C1-10アルキル基、C6-10アリール基又はハロゲン置換C6-10アリール基であり、q及びrは各々独立に1〜3の整数である。)
第1の混合物に、イソプロパノール及びジメチルスルホキシドを含む第2の溶媒を添加して第2の混合物を形成する段階と、
延伸ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質基材上に第2の混合物を配設する段階と、
第2の混合物を反応させることで、多孔質基材と一体化した架橋プロトン伝導体を生成して電解質膜を形成する段階と、
架橋プロトン伝導体をスルホン化剤でスルホン化してスルホン化架橋プロトン伝導体を生成する段階と
を含んでなる方法。
【請求項9】
多孔質基材と、多孔質基材の細孔中に配設されたスルホン化架橋プロトン伝導体とを含んでなる物品。
【請求項10】
多孔質基材が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレンオキシド−コ−ジフルオロメチレンオキシド)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル))、及び上述のフルオロポリマーの1種以上を含む組合せからなる群から選択されるフルオロポリマーからなる、請求項9記載の物品。
【請求項11】
スルホン化架橋プロトン伝導体がプロトン伝導体をスルホン化及び架橋することで得られ、プロトン伝導体がポリエーテルケトン、ポリアリールエーテル、ポリフェニレンエーテル、ポリベンゾイミタゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリチアゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリオキサチアゾール、ポリテトラザピザレン、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール又はポリピロリドン、或いはポリエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリベンゾイミタゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリチアゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリオキサチアゾール、ポリテトラザピザレン、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール又はポリピロリドンのスルホン化誘導体、或いは上述のプロトン伝導体の1種以上を含む組合せである、請求項9記載の物品。
【請求項12】
架橋プロトン伝導体が、ポリヒドロキシ化合物、芳香族ポリハライド化合物及びアルカリ金属水酸化物を反応させることで得られる、請求項9記載の物品。
【請求項13】
スルホン化架橋プロトン伝導体が下記反応(II)によって生成される、請求項9記載の物品。
【化12】

【請求項14】
当該物品が燃料電池、バッテリー、触媒担体又は触媒である、請求項9記載の物品。

【公開番号】特開2010−92839(P2010−92839A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−157370(P2009−157370)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】