説明

電離真空計

【課題】電子刺激離脱(EDS)によるガス放出量を一層低減することができる電離真空計を提供する。
【解決手段】軸状のイオンコレクタ1と、イオンコレクタ1の径方向の周囲に設けられたコイル状のグリッド2と、グリッド2の外側に設けられた熱電子放出フィラメント3と、グリッド2と導通を確保しつつ支持する支柱部6とを有する電離真空計であって、イオンコレクタ1の径方向において、グリッド2及びフィラメント3に対向する支柱部6の表面を被覆し、フィラメント3よりも低い電位に保たれるコーティング16aを備えることで、支柱部6の表面からのEDSによるガス放出を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空容器内の圧力を測定する電離真空計に係り、特に、測定感度をさらに向上させた電離真空計に関する。
【背景技術】
【0002】
軸状のイオンコレクタを円筒状に取り囲む様に配置されたグリッドとグリッドの外側に熱電子放出フィラメントを有する電離真空計(例えば、特許文献1,2)が従来から知られている。これらの電離真空計では、熱フィラメント等の熱電子放出フィラメントはグラウンド電位より高い電位に設定される一方、グリッドの電位は熱電子放出フィラメントに対して高く設定され、また、イオンコレクタの電位は熱電子放出フィラメントの電位よりも低く設定されている。グリッドは格子状又はコイル状の隙間の多い構造となっている。
【0003】
熱電子放出フィラメント等の熱電子放出フィラメントから放出された電子は熱電子放出フィラメントより高い電位の格子状又はコイル状のグリッドへと引き付けられるが、グリッドは隙間が多いために電子の多くはグリッドを通過してグリッドの内側に入る。グリッド内のイオンコレクタは熱電子放出フィラメントより電位が低いためにグリッドの内側に入った電子はイオンコレクタに衝突することなく、再びグリッドに引き寄せられる。
【0004】
グリッドは隙間が多いために電子の多くはグリッドを通過し、グリッドの外側へと向かうが電子が当初放出された熱電子放出フィラメントの電位はグラウンド電位よりも高いために、電子は熱電子放出フィラメントの電位より低いグラウンド側に向かうこと無く再びグリッドへと引き寄せられる。このため、電子はグリッド電極を挟んで振動するが、電子が気体分子と衝突することによる運動量の損失、電子のグリッドへの直接の衝突等により、殆どはグリッドに流れ込むことになる。
【0005】
このように、電子がグリッドを挟んで何度も振動を行うために、最終的に電子がグリッドに流れ込むに至る電子の走行距離は長くなり、電子が気体分子と衝突する確率が大きい、感度の高い真空度の測定することができるように構成されている。
【0006】
ここで、電子は最終的にグリッド電極に衝突して流れ込むが、グリッド表面には気体分子が吸着している。そのため、この吸着気体分子が電子の衝突により表面から飛び出す電子刺激脱離(ESD; Electron Stimulated Desorption)という現象が生じる。
【0007】
この現象は過剰なガス放出による圧力増加として測定される。すなわち、グリッドの表面積が大きい程、電子の衝突位置に気体分子の吸着量が多く、この電子刺激脱離による圧力増加が大きくなる。そのため、通常、細い線材を使用してグリッドを作り、グリッドの表面積を小さくすることが行われる。グリッドの表面積を小さくすると、グリッド表面への気体分子の衝突頻度が減少するが電子の衝突頻度は減らない。そのため、定常状態においてグリッド表面に吸着している気体分子の密度を低下させて、電子刺激脱離による圧力増加を減少させることができる。
【0008】
このように、グリッド電極の表面積を極力小さくすることが感度を大きくするためと電子刺激脱離の影響を減らすために有効ではある。しかし現実的には、表面積の小さい細いグリッドを配置するためには、強度が不足したグリッドを太い支柱等で支える構造とし、同支柱等を熱電子放出フィラメントから離した位置とすることが通例であった。例えば、特許文献1,2に開示されている構造では、コイル状のグリッドの両端をハーメチック端子のピンとピンを延長した支柱で支えている。この場合、このピンとピンを延長した支柱はグリッド電極の電位となっており、コイル状のグリッドより太く強度のあるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−66170号公報
【特許文献2】特開平8−240503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1,2の電離真空形は、グリッドの両端を支持する支柱部が、グリッドの周囲に導電性の表面をむき出した状態で配置された構造を有している。本願発明者は、グリッドの周囲を往復している電子の一部がこの支柱部の表面部分にも流れ込み、そのことが原因となって測定感度が低下しているのではないかと考えた。さらに本願発明者は、この支柱部の表面においても電子刺激脱離(ESD)が発生しており、このESDによるガス放出によって電離真空計内部の圧力が増加し測定下限値が高くなると考えた。
【0011】
本発明は、上述した仮説に基づいた実験の結果になされたものであり、より高い測定感度を有し、電子刺激離脱によるガス放出量を一層低減することができる電離真空計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電離真空計は、軸状のイオンコレクタと、イオンコレクタの径方向の周囲に設けられたコイル状のグリッドと、グリッドの外側に設けられたフィラメントと、グリッドと導通を確保しつつ支持する支柱部と、を有する電離真空計であって、イオンコレクタの径方向において、グリッド及びフィラメントに対向する支柱部の表面を被覆するシールド部を備え、シールド部の表面において、フィラメントから放出された電子との間に電気的な斥力を生じさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、上述のようにグリッドを支持する支柱部の表面を電気的に被覆したため、熱電子放出フィラメントから放出された電子の殆どはグリッド電極を支持する支柱部へ向かうことはなく、グリッドを挟んで振動した後にグリッドに衝突して流れ込む。このため、グリッドを支持する支柱部に電子が衝突し電子刺激脱離ESDが生じることによる圧力の上昇が減少し、グリッドを支持する支柱部に電子が衝突して流れ込むことによる感度の損失が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電離真空計の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る電離真空計での測定結果である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る電離真空計の概略構成図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る電離真空計の概略構成図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る電離真空計の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の各実施形態に係る電離真空計について以下に説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変できることは勿論である。
【0016】
(第1の実施形態)
図1に本発明の第1の実施形態に係る電離真空計の構成概略図を示す。電離真空計Aは、イオンコレクタ1、グリッド2、熱放出フィラメント3,4(フィラメント)を必須構成部材として少なくとも有している。なお、図1(a)はイオンコレクタの軸方向に垂直な方向の断面図(横断面図)、図1(b),(c)はイオンコレクタの軸方向の断面図(縦断面図)であり、特に、図1(b)は、熱放出フィラメント3,4が重なる方向から見た図、図1(c)、熱放出フィラメント3,4が両側に見える方向から見た図である。
【0017】
イオンコレクタ1は、例えば、軸状のタングステン線から構成されており、ハーメチック端子ピン10に支持されている。グリッド2は、例えば、モリブデン線にプラチナが被覆されたプラチナクラッドモリブデン線などから構成されており、ハーメチック端子ピン7と支柱6に両端がそれぞれ支持されている。なお、支柱6はハーメチック端子ピン5に取り付けられている。ハーメチック端子ピン5,7の上端部と支柱6の表面には、シールド部として絶縁材料からなるコーティング16a,17aが形成されている。熱放出フィラメント3,4は、例えば、イリジュウム線にイットリアをコーティングしたイットリアコートイリジュウム線から構成されており、ハーメチック端子ピン8a,8b,9a,9bに支持されている。
【0018】
全てのハーメチック端子ピン(5,7,8a,8b,9a,9b,10)は絶縁材料部12を気密に貫通した状態で固定されている。絶縁材料部12はケース14の内側に一体に配設された封入皿13に気密に固定されている。なお、ケース14には真空容器に気密に接続するためのフランジ15が一体に形成されている。また、上記ハーメチック端子ピンには、絶縁材料部12と所定の間隔を有する位置に遮蔽板11が取り付けてある。
【0019】
ハーメチック端子ピン(5,7,8a,8b,9a,9b,10)、遮蔽板11、封入皿13はコバール合金、絶縁材料部12はコバールガラス、ケース14とフランジ15はSUS304から作られている。
【0020】
ハーメチック端子ピン5,7の上端部と支柱6の表面に形成されたコーティング16a,17a(シールド部)は、アルミナ等のセラミックス、又は、ガラス等の絶縁性の材料から構成されている。このコーティング16a,17aは、例えば、アルミナをコーティングするには市販されている耐熱性無機接着剤を塗布し加熱して焼結させる、又、ガラス等をコーティングするにはスピンオンガラスとして公知のコーティング剤を塗布し加熱して焼結させて形成することができる。
【0021】
上述した各部材についてさらに詳しく説明する。ハーメチック端子ピン10はイオンコレクタ1と接続されており、イオンコレクタ1の電位をグラウンド電位としている。ハーメチック端子ピン8a,8bは熱電子放出フィラメント3の両端に電気的に接続されており、熱電子放出フィラメント3の通電加熱と約45Vの電位供給に使用される。ハーメチック端子ピン9a,9bは熱電子放出フィラメント4の両端に電気的に接続されてあり、熱電子放出フィラメント4の通電加熱と約45Vの電位供給に使用される。ここでは熱電子放出フィラメントを2本実装している例を示してあるが(符号3と4)、熱電子放出フィラメントは1本であっても構わない。通常の動作では、1本の熱電子放出フィラメントに熱電子放出のための通電が行われる。
【0022】
ハーメチック端子ピン5は支柱6(支柱部)とスポット溶接等により、電気的及び機械的に接続されている。グリッド2はその両端部において、支柱6とハーメチック端子ピン7と接続されており、グリッド2の電位を約180Vとしている。シールド11、ケース14、フランジ15はグラウンド電位である。
【0023】
イオンコレクタ1は中心に配置され、その周囲を取り囲むようにグリッド2が配置され、熱電子放出フィラメント3,4はグリッド2の外側に配置されている。グリッド用の支柱6とハーメチック端子ピン7は、熱電子放出フィラメント3,4から離れた位置としてある。
【0024】
ここで、上述した構成の電離真空計A内における電子の動きについて説明する。熱電子放出フィラメント3から放出された電子は、熱電子放出フィラメント3より高い電位の格子状又はコイル状のグリッド2へと引き付けられるが、グリッド2は隙間が多いために電子の多くはグリッド2を通過してグリッド2の内側に入る。グリッド2内のイオンコレクタ1は熱電子放出フィラメント3より電位が低いためにグリッド2の内側に入った電子はイオンコレクタ1に衝突することなく、再びグリッド2に引き寄せられる。
【0025】
グリッド2は隙間が多いために電子の多くはグリッド2を通過し、グリッド2の外側へと向かうが電子が当初放出された熱電子放出フィラメント3の電位はグラウンド電位よりも高いために、電子は熱電子放出フィラメントの電位より低いグラウンド側のシールド11、ケース14に向かうことなく再びグリッド2へと引き寄せられる。このため、電子はグリッド2を挟んで振動するが、電子が気体分子と衝突することによる運動量の損失、電子のグリッド2への直接の衝突等によりグリッド2に流れ込むことになる。
【0026】
このとき、グリッド2と同じ電位の支柱部6とハーメチック端子ピン7の表面には絶縁性のコーティング16a,17aが施されているために、電子が支柱部6とハーメチック端子ピン7に衝突して流れ込むことはない。すなわち、コーティング16a,17aは絶縁材料から構成されているため、電子が衝突すると帯電(チャージアップ)する、そのため、接近する電子に対して斥力を及ぼし、それ以上の電子の接近及び衝突を抑制する。従って、熱電子放出フィラメント3からの電子のほとんどは、グリッド2を挟んで振動した後にグリッド2に衝突して流れ込むこととなる。
【0027】
図2は、本実施形態に係る電離真空計Aでの測定結果を示すものであり、本実施形態に係る電離真空計Aと従来の電離真空計Oでの測定値を比較した。電離真空計Oはコーティング16a,17aを有さない従来構造の電離真空計である。図2において横軸は、電離真空計A,Oの圧力表示に比例する値であり、正確には、スピニングロータゲージの表示圧力からオフセット値を引いた値である。
【0028】
一方、図2の縦軸は、電離真空計A,Oの各表示圧力から真空チャンバーへのガス導入を行っていないときの各電離真空計A,Oの表示圧力をそれぞれ差し引いた値をスピニングロータゲージ(SRG)で示される圧力で割った値であり、感度を表す指数(感度と比例した値)である。なお、オフセット値とは、この真空計の測定限界よりも十分に低い圧力にしたときの、この真空計の読み値のことである。
【0029】
図2によれば、絶縁性材料のコーティング16a,17aを有する電離真空計Aは、コーティング16a,17aがない電離真空計Oに対して高い感度を有していることがわかる。具体的には、測定された全圧力域に渡り、電離真空計Aの縦軸の値は電離真空計Oよりも約5割高い値を示している。
【0030】
すなわち本実施形態による電離真空計Aによれば、支柱部6及びハーメチック端子ピン5,7に衝突して損失される電子がほとんどないため高感度の真空度測定をすることができる。また、電子刺激脱離(ESD)による圧力上昇の影響を抑えることができるためより測定下限値の低い測定をすることができる。
【0031】
(第2の実施形態)
図3に基づいて、本発明に係る第2の実施形態を説明する。図3(a),(b),(c)は、本実施形態の電離真空計をそれぞれ図1(a),(b),(c)と同様の方向から見た図である。上述した第1の実施形態と同様の構成や部材には同じ符号を付して詳細な説明を省略した。本実施形態に係る電離真空計Bは、第1の実施形態におけるコーティング16a,17aに相当する部分(チューブ16b,17b)が相違した構成を有するため、この部分ついて主に説明する。
【0032】
シールド部としてのチューブ16b,17bは絶縁性の材料からなるチューブ状部材であり、例えば、アルミナ、ガラス等の絶縁性の材料からなる。電離真空計Bの組み立て工程においては、端子ピン5と支柱部6をスポット溶接等により接続した後に、チューブ16bが端子ピン5と支柱6に被せられ、同様に、ハーメチック端子ピン7にチューブ17bが被せられる。その後、グリッド2の両端が支柱6の先端部とハーメチック端子ピン7の先端部にスポット溶接等により接続されて構成される。
【0033】
支柱部6とハーメチック端子ピン7の電位はグリッド2と同じであるが、絶縁性の材料からなるチューブ16b,17bで覆われているために、例えば、熱電子放出フィラメント3から放出された電子は支柱6とハーメチック端子ピン7に衝突して流れ込むことはない。すなわち、チューブ16b,17bは絶縁材料から構成されているため、電子が衝突すると帯電(チャージアップ)し、それ以上の電子の接近及び衝突を抑制する。従って、熱電子放出フィラメント3からの電子のほとんどは、グリッド2を挟んで振動した後にグリッド2に衝突して流れ込むこととなり、支柱部6とハーメチック端子ピン7に衝突して損失する電子がほとんどないため、感度の高い電離真空計を得ることができる。
【0034】
なお、支柱部6とハーメチック端子ピン7を絶縁性の材料からなるチューブ16b,17bは、第1の実施形態の電離真空計Aに用いられている絶縁材料のコーティング16a,17aとほとんど同じ効果を示し、電離真空計の感度を増加させると共に電子刺激脱離(ESD)による圧力上昇を抑制することができる。
【0035】
(第3の実施形態)
図4に基づいて、本発明に係る第3の実施形態を説明する。図4(a),(b),(c)は、本実施形態の電離真空計をそれぞれ図1(a),(b),(c)と同様の方向から見た図である。上述した第1の実施形態と同様の構成や部材には同じ符号を付して詳細な説明を省略した。本実施形態に係る電離真空計Cは、第1の実施形態におけるコーティング16a,17aに相当する部分(チューブ16c,17c)が相違した構成を有するため、この部分ついて主に説明する。
【0036】
シールド部としてのチューブ16c,17cは、導電性材料からなるチューブ状部材であり、端面をグラウンド電位(接地電位)のシールド11にスポット溶接されるとともに、ハーメチック端子ピン5と支柱部6、及び、ハーメチック端子ピン7を非接触に取り囲んでいる。導電性材料のチューブ16c,17cの材質としてはステンレスなどの金属が望ましい。
【0037】
支柱部6とハーメチック端子ピン7の電位はグリッド2と同じであるが、グラウンド電位のチューブ16c,17cで非接触に覆われているために、例えば、グラウンド電位より高い電位の熱電子放出フィラメント3から放出された電子はグラウンド電位のチューブ16c,17cに向かうことはなく、支柱6とハーメチック端子ピン7に衝突して流れ込むことはない。従って、熱電子放出フィラメント3からの電子の殆どは、グリッド2を挟んで振動した後にグリッド2に衝突して流れ込むこととなる。本実施形態に係る電離真空計Cでは、支柱部6とハーメチック端子ピン7に衝突して損失する電子が殆どないため、感度の高い電離真空計を得ることができる。
【0038】
なお、支柱部6とハーメチック端子ピン7をグラウンド電位のチューブ16c,17cで非接触に覆った本実施形態の電離真空計Cは、上述した電離真空計Aに用いられている絶縁性材料のコーティング16a,17a、若しくは電離真空計Bに用いられている絶縁性材料のチューブ16b,17bとほとんど同じ効果を示し、電子刺激脱離(ESD)による圧力上昇を抑制することができる。
【0039】
なお、導電性材料のチューブ16c,17cをフローティングにする構成としても、同様の効果を得ることができる。この場合、フローティングとされた導電性材料のチューブは電子の衝突により帯電するため、電子が衝突すると帯電(チャージアップ)し、それ以上の電子の接近及び衝突を抑制する。従って、熱電子放出フィラメント3からの電子のほとんどは、グリッド2を挟んで振動した後にグリッド2に衝突して流れ込むこととなる。このため、上述した電離真空計Bに用いられている絶縁性材料のチューブ16b,17bとほとんど同じ効果を示し、電子刺激脱離(ESD)による圧力上昇を抑制することができる。
【0040】
(第4の実施形態)
図5に基づいて、本発明に係る第4の実施形態を説明する。図5(a),(b),(c)は、本実施形態の電離真空計をそれぞれ図1(a),(b),(c)と同様の方向から見た図である。上述した第1の実施形態と同様の構成や部材には同じ符号を付して詳細な説明を省略した。本実施形態に係る電離真空計Cは、第1の実施形態におけるコーティング16a,17aに相当する部分(カバー16d,17d)が相違した構成を有するため、この部分ついて主に説明する。
【0041】
本実施形態では、電子刺激脱離(ESD)を抑制する部材(シールド部)として、カバー16d,17dが用いられている。カバー16d,17dは、導電性材料のチューブの一部を切り欠いて、グリッドと支柱の間の位置に配設した湾曲形状のシールド部である。なお、カバー16d,17dはグラウンド電位としてもフローティング電位としてもよい。
すなわち、カバー16d,17dは、グリッド及びフィラメントに面する側を被覆するシールド材であり、グリッドやフィラメントから飛来する電子に起因する電子刺激脱離(ESD)を抑制することができる。
【0042】
カバー16d,17dは、長手方向(コレクタ1の軸方向)の一部を切り欠いて、断面C字状に形成されているが、グリッド及びフィラメントに面する側を被覆する形状であればよく、断面V字やU字であってもよいことはもちろんである。なお、カバー16d,17dの切り欠かれた部分を切り欠き部とする。
【0043】
カバー16d,17dを用いる効果としては、グリッドをスポットして取り付けた後からも取り付けることが可能となる等、組み立てが容易となる。また、カバー16d,17dは側面の一部が切り欠かれているため、カバーの内部に水分等が吸着している場合にも、切り欠きから容易に抜くことができる。
【符号の説明】
【0044】
A,B,C 電離真空計
O 従来の電離真空計
1 イオンコレクタ(コレクタ)
2 グリッド
3,4 熱電子放出フィラメント(フィラメント)
5 グリッド用ハーメチック端子ピン
6 支柱部
7 グリッド用ハーメチック端子ピン
8a,8b,9a,9b 熱電子放出フィラメント用のハーメチック端子ピン
10 イオンコレクタ用のハーメチック端子ピン
11 遮蔽板
12 ハーメチック端子の絶縁材料部
13 封入皿
14 ケース
15 フランジ
16a,17a コーティング(シールド部)
16b,17b チューブ(シールド部)
16c,17c チューブ(シールド部)
16d,17d カバー(シールド部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のイオンコレクタと、
前記イオンコレクタの径方向の周囲に設けられたコイル状のグリッドと、
前記グリッドの外側に設けられたフィラメントと、
前記グリッドと導通を確保しつつ支持する支柱部と、を有する電離真空計であって、
前記イオンコレクタの径方向において、前記グリッド及び前記フィラメントに対向する 前記支柱部の表面を被覆するシールド部を備え、
前記シールド部の表面において、前記フィラメントから放出された電子との間に電気的な斥力を生じさせることを特徴とする電離真空計。
【請求項2】
前記シールド部は、絶縁性のコーティングであることを特徴とする請求項1に記載の電離真空計。
【請求項3】
前記シールド部は、絶縁性のチューブであることを特徴とする請求項1に記載の電離真空計。
【請求項4】
前記シールド部は、グラウンド電位とされた導電性材料のチューブであることを特徴とする請求項1に記載の電離真空計。
【請求項5】
前記シールド部は、フローティング電位とされた導電性材料のチューブであることを特徴とする請求項1に記載の電離真空計。
【請求項6】
前記導電性材料のチューブは、長手方向に形成された切り欠き部を有していることを特徴とする請求項4又は5に記載の電離真空計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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