説明

露光装置、露光方法、及び表示用パネル基板の製造方法

【課題】光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布を補正して、パターンの高低差を抑制する。
【解決手段】光ビーム照射装置20からの光ビームにより基板1を走査して、基板1にパターンを描画する。描画制御部71は、パターンを描画するための描画データと、補正用パターンを描画するための補正用データとを、光ビーム照射装置20の駆動回路(DMD駆動回路27)へ供給して、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ装置等の表示用パネル基板の製造において、フォトレジストが塗布された基板へ光ビームを照射し、光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置、露光方法、及びそれらを用いた表示用パネル基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示用パネルとして用いられる液晶ディスプレイ装置のTFT(Thin Film Transistor)基板やカラーフィルタ基板、プラズマディスプレイパネル用基板、有機EL(Electroluminescence)表示パネル用基板等の製造は、露光装置を用いて、フォトリソグラフィー技術により基板上にパターンを形成して行われる。露光装置としては、従来、レンズ又は鏡を用いてマスクのパターンを基板上に投影するプロジェクション方式と、マスクと基板との間に微小な間隙(プロキシミティギャップ)を設けてマスクのパターンを基板へ転写するプロキシミティ方式とがあった。
【0003】
近年、フォトレジストが塗布された基板へ光ビームを照射し、光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置が開発されている。光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを直接描画するため、高価なマスクが不要となる。また、描画データ及び走査のプログラムを変更することにより、様々な種類の表示用パネル基板に対応することができる。
【0004】
光ビームにより基板にパターンを描画する際、光ビームの変調には、DMD(Digital Micromirror Device)等の空間的光変調器が用いられる。DMDは、光ビームを反射する複数の微小なミラーを直交する二方向に配列して構成され、駆動回路が描画データに基づいて各ミラーの角度を変更することにより、光源から供給された光ビームを変調する。空間的光変調器により変調された光ビームは、投影レンズ等の光学部品を含む光ビーム照射装置の照射光学系から基板へ照射される。
【0005】
現在市販されているDMDには、DMD1個当たり数十万〜数百万個のミラーが設けられている。各ミラーの寸法は10〜15μm角程度であり、隣接するミラー間には1μm程度の隙間がある。DMDを光ビームによる基板の走査方向と平行に配置すると、各ミラーの配列方向(直交する二方向)が基板の走査方向と平行及び垂直になるので、隣接するミラー間の隙間と基板とが相対的に平行に移動し、この隙間に対応する箇所ではパターンの描画ができない。そのため、DMDは、特許文献1に記載の様に、光ビームによる基板の走査方向に対して傾けて使用される。そして、特許文献2に記載の様に、1つのミラーで反射された光が基板へ照射される領域と、他のミラーで反射された光が基板へ照射される領域が、光ビームによる基板の走査に伴って部分的に重なる多重露光を行うことにより、DMDのミラーのサイズより小さい分解能でパターンの描画を行うことができる。
【0006】
光ビームによる基板の走査は、基板を支持するチャックと、DMDにより変調された光ビームを基板へ照射するヘッド部を有する光ビーム照射装置とを、相対的に移動して行われる。特許文献3には、光ビーム照射装置のヘッド部の位置ずれによる描画品質の低下を防止するため、ヘッド部の位置ずれを検出し、検出結果に基づき、DMDの駆動回路へ供給する描画データの座標を補正し、補正した座標の描画データを、DMDの駆動回路へ供給する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−353927号公報
【特許文献2】特開2004−12899号公報
【特許文献3】特開2010−102084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光源からDMDへ供給される光ビームの強度分布のばらつき、DMDの各ミラーの平坦度の違いや動作角度の誤差、光ビーム照射装置の照射光学系に含まれる投影レンズ等の光学部品の歪み等が原因で、光ビーム照射装置から照射される光ビームの強度は照射範囲全体で均一にならず、光ビームの強度分布にはばらつきが発生する。光ビーム照射装置から照射される光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する際、光ビームの強度が走査方向と直交する方向において異なると、描画されるパターンには、走査方向と直交する方向において高低差が生じ、その高低差が走査方向に連続するために、表示用パネル基板では、この高低差が走査方向に伸びる筋として人の目で認識され易く、表示品質が劣化する。
【0009】
本発明の課題は、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布を補正して、パターンの高低差を抑制することである。また、本発明の課題は、高品質な表示用パネル基板を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の露光装置は、フォトレジストが塗布された基板を支持するチャックと、光ビームを変調する空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する光学部品を含む照射光学系を有する光ビーム照射装置と、チャックと光ビーム照射装置とを相対的に移動する移動手段とを備え、移動手段によりチャックと光ビーム照射装置とを相対的に移動し、光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置であって、パターンを描画するための描画データと、補正用パターンを描画するための補正用データとを、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給して、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画させる描画制御手段を備えたものである。
【0011】
また、本発明の露光方法は、フォトレジストが塗布された基板をチャックで支持し、チャックと、光ビームを変調する空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する光学部品を含む照射光学系を有する光ビーム照射装置とを、相対的に移動し、光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光方法であって、パターンを描画するための描画データと、補正用パターンを描画するための補正用データとを、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給して、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画するものである。
【0012】
走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画するので、補正用パターンにより、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布が補正されて、描画するパターンの高低差が抑制される。補正用パターンは、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化するので、描画するパターンの走査方向に重ねて描画したとき、人の目で認識されにくい。
【0013】
さらに、本発明の露光装置は、補正用パターンが、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布に応じ、光ビームの強度が所定値以下の所に配置されたものである。また、本発明の露光方法は、補正用パターンを、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布に応じ、光ビームの強度が所定値以下の所に配置するものである。光ビームの強度が所定値以下の所で、配置された補正用パターンにより、光ビームの光量不足が改善される。
【0014】
さらに、本発明の露光装置は、補正用パターンの幅又は位置の走査方向における変化が、隣接する走査領域で異なるものである。また、本発明の露光方法は、補正用パターンの幅又は位置の走査方向における変化を、隣接する走査領域で異ならせるものである。補正用パターンの幅又は位置の走査方向における変化を、隣接する走査領域で異ならせるので、走査方向と直交する方向において、補正用パターンが不規則に現れて人の目で認識されにくい。
【0015】
本発明の表示用パネル基板の製造方法は、上記のいずれかの露光装置又は露光方法を用いて基板の露光を行うものである。上記の露光装置又は露光方法を用いることにより、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布が補正されて、パターンの高低差が抑制されるので、高品質な表示用パネル基板が製造される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の露光装置及び露光方法によれば、パターンを描画するための描画データと、補正用パターンを描画するための補正用データとを、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給して、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画することにより、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布を補正して、パターンの高低差を抑制することができる。
【0017】
さらに、本発明の露光装置及び露光方法によれば、補正用パターンを、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布に応じ、光ビームの強度が所定値以下の所に配置することにより、光ビームの強度が所定値以下の所で、光ビームの光量不足を改善することができる。
【0018】
さらに、本発明の露光装置及び露光方法によれば、補正用パターンの幅又は位置の走査方向における変化を、隣接する走査領域で異ならせることにより、走査方向と直交する方向において、補正用パターンが規則的に現れて人の目で認識されるのを防止することができる。
【0019】
本発明の表示用パネル基板の製造方法によれば、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布を補正して、パターンの高低差を抑制することができるので、高品質な表示用パネル基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態による露光装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態による露光装置の側面図である。
【図3】本発明の一実施の形態による露光装置の正面図である。
【図4】光ビーム照射装置の概略構成を示す図である。
【図5】DMDのミラー部の一例を示す図である。
【図6】レーザー測長系の動作を説明する図である。
【図7】描画制御部の概略構成を示す図である。
【図8】本発明の一実施の形態による露光方法を説明する図である。
【図9】本発明の一実施の形態による露光方法を説明する図である。
【図10】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図11】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図12】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図13】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図14】液晶ディスプレイ装置のTFT基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図15】液晶ディスプレイ装置のカラーフィルタ基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態による露光装置の概略構成を示す図である。また、図2は本発明の一実施の形態による露光装置の側面図、図3は本発明の一実施の形態による露光装置の正面図である。露光装置は、ベース3、Xガイド4、Xステージ5、Yガイド6、Yステージ7、θステージ8、チャック10、ゲート11、光ビーム照射装置20、リニアスケール31,33、エンコーダ32,34、レーザー測長系、レーザー測長系制御装置40、ステージ駆動回路60、及び主制御装置70を含んで構成されている。なお、図2及び図3では、レーザー測長系のレーザー光源41、レーザー測長系制御装置40、ステージ駆動回路60、及び主制御装置70が省略されている。露光装置は、これらの他に、基板1をチャック10へ搬入し、また基板1をチャック10から搬出する基板搬送ロボット、装置内の温度管理を行う温度制御ユニット等を備えている。
【0022】
なお、以下に説明する実施の形態におけるXY方向は例示であって、X方向とY方向とを入れ替えてもよい。
【0023】
図1及び図2において、チャック10は、基板1の受け渡しを行う受け渡し位置にある。受け渡し位置において、図示しない基板搬送ロボットにより基板1がチャック10へ搬入され、また図示しない基板搬送ロボットにより基板1がチャック10から搬出される。チャック10は、基板1の裏面を真空吸着して支持する。基板1の表面には、フォトレジストが塗布されている。
【0024】
基板1の露光を行う露光位置の上空に、ベース3をまたいでゲート11が設けられている。ゲート11には、複数の光ビーム照射装置20が搭載されている。なお、本実施の形態は、8つの光ビーム照射装置20を用いた露光装置の例を示しているが、光ビーム照射装置の数はこれに限らず、本発明は1つ又は2つ以上の光ビーム照射装置を用いた露光装置に適用される。
【0025】
図4は、光ビーム照射装置の概略構成を示す図である。光ビーム照射装置20は、光ファイバー22、レンズ23、ミラー24、DMD(Digital Micromirror Device)25、投影レンズ26、及びDMD駆動回路27を含んで構成されている。光ファイバー22は、レーザー光源ユニット21から発生された紫外光の光ビームを、光ビーム照射装置20内へ導入する。光ファイバー22から射出された光ビームは、レンズ23及びミラー24を介して、DMD25へ照射される。DMD25は、光ビームを反射する複数の微小なミラーを直交する二方向に配列して構成された空間的光変調器であり、各ミラーの角度を変更して光ビームを変調する。DMD25により変調された光ビームは、投影レンズ26を含む照射光学系のヘッド部20aから照射される。DMD駆動回路27は、主制御装置70から供給された描画データに基づいて、DMD25の各ミラーの角度を変更する。
【0026】
なお、本実施の形態では、投影レンズ26を用いて、DMD25により変調された光ビームを照射しているが、本発明はこれに限らず、プリズムや凹面鏡等の他の光学部品を用いて、DMD25により変調された光ビームを照射してもよい。
【0027】
図2及び図3において、チャック10は、θステージ8に搭載されており、θステージ8の下にはYステージ7及びXステージ5が設けられている。Xステージ5は、ベース3に設けられたXガイド4に搭載され、Xガイド4に沿ってX方向へ移動する。Yステージ7は、Xステージ5に設けられたYガイド6に搭載され、Yガイド6に沿ってY方向へ移動する。θステージ8は、Yステージ7に搭載され、θ方向へ回転する。Xステージ5、Yステージ7、及びθステージ8には、ボールねじ及びモータや、リニアモータ等の図示しない駆動機構が設けられており、各駆動機構は、図1のステージ駆動回路60により駆動される。
【0028】
θステージ8のθ方向への回転により、チャック10に搭載された基板1は、直交する二辺がX方向及びY方向へ向く様に回転される。Xステージ5のX方向への移動により、チャック10は、受け渡し位置と露光位置との間を移動される。露光位置において、Xステージ5のX方向への移動により、各光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射された光ビームが、基板1をX方向へ走査する。また、Yステージ7のY方向への移動により、各光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射された光ビームによる基板1の走査領域が、Y方向へ移動される。図1において、主制御装置70は、ステージ駆動回路60を制御して、θステージ8のθ方向へ回転、Xステージ5のX方向への移動、及びYステージ7のY方向への移動を行う。
【0029】
図5は、DMDのミラー部の一例を示す図である。光ビーム照射装置20のDMD25は、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査方向(X方向)に対して、所定の角度θだけ傾いて配置されている。DMD25を、走査方向に対して傾けて配置すると、直交する二方向に配列された複数のミラー25aのいずれかが、隣接するミラー25a間の隙間に対応する箇所をカバーするので、パターンの描画を隙間無く行うことができる。
【0030】
なお、本実施の形態では、Xステージ5によりチャック10をX方向へ移動することによって、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査を行っているが、光ビーム照射装置20を移動することにより、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査を行ってもよい。また、本実施の形態では、Yステージ7によりチャック10をY方向へ移動することによって、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査領域を変更しているが、光ビーム照射装置20を移動することにより、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査領域を変更してもよい。
【0031】
図1及び図2において、ベース3には、X方向へ伸びるリニアスケール31が設置されている。リニアスケール31には、Xステージ5のX方向への移動量を検出するための目盛が付けられている。また、Xステージ5には、Y方向へ伸びるリニアスケール33が設置されている。リニアスケール33には、Yステージ7のY方向への移動量を検出するための目盛が付けられている。
【0032】
図1及び図3において、Xステージ5の一側面には、リニアスケール31に対向して、エンコーダ32が取り付けられている。エンコーダ32は、リニアスケール31の目盛を検出して、パルス信号を主制御装置70へ出力する。また、図1及び図2において、Yステージ7の一側面には、リニアスケール33に対向して、エンコーダ34が取り付けられている。エンコーダ34は、リニアスケール33の目盛を検出して、パルス信号を主制御装置70へ出力する。主制御装置70は、エンコーダ32のパルス信号をカウントして、Xステージ5のX方向への移動量を検出し、エンコーダ34のパルス信号をカウントして、Yステージ7のY方向への移動量を検出する。
【0033】
図6は、レーザー測長系の動作を説明する図である。なお、図6においては、図1に示したゲート11、及び光ビーム照射装置20が省略されている。レーザー測長系は、公知のレーザー干渉式の測長系であって、レーザー光源41、レーザー干渉計42,44、及びバーミラー43,45を含んで構成されている。バーミラー43は、チャック10のY方向へ伸びる一側面に取り付けられている。また、バーミラー45は、チャック10のX方向へ伸びる一側面に取り付けられている。
【0034】
レーザー干渉計42は、レーザー光源41からのレーザー光をバーミラー43へ照射し、バーミラー43により反射されたレーザー光を受光して、レーザー光源41からのレーザー光とバーミラー43により反射されたレーザー光との干渉を測定する。この測定は、Y方向の2箇所で行う。レーザー測長系制御装置40は、主制御装置70の制御により、レーザー干渉計42の測定結果から、チャック10のX方向の位置及び回転を検出する。
【0035】
一方、レーザー干渉計44は、レーザー光源41からのレーザー光をバーミラー45へ照射し、バーミラー45により反射されたレーザー光を受光して、レーザー光源41からのレーザー光とバーミラー45により反射されたレーザー光との干渉を測定する。レーザー測長系制御装置40は、主制御装置70の制御により、レーザー干渉計44の測定結果から、チャック10のY方向の位置を検出する。
【0036】
図4において、主制御装置70は、光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ描画データを供給する描画制御部を有する。図7は、描画制御部の概略構成を示す図である。描画制御部71は、メモリ72,80、バンド幅設定部73、中心点座標決定部74、座標決定部75、DMD傾斜演算部77、データシフト回路78、及び光量補正制御部81を含んで構成されている。メモリ72は、各光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給する描画データを、そのXY座標をアドレスとして記憶している。
【0037】
バンド幅設定部73は、メモリ72から読み出す描画データのY座標の範囲を決定することにより、光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射される光ビームのY方向のバンド幅を設定する。
【0038】
レーザー測長系制御装置40は、露光位置における基板1の露光を開始する前のチャック10のXY方向の位置を検出する。中心点座標決定部74は、レーザー測長系制御装置40が検出したチャック10のXY方向の位置から、基板1の露光を開始する前のチャック10の中心点のXY座標を決定する。図1において、光ビーム照射装置20からの光ビームにより基板1の走査を行う際、主制御装置70は、ステージ駆動回路60を制御して、Xステージ5によりチャック10をX方向へ移動させる。基板1の走査領域を移動する際、主制御装置70は、ステージ駆動回路60を制御して、Yステージ7によりチャック10をY方向へ移動させる。図7において、中心点座標決定部74は、エンコーダ32,34からのパルス信号をカウントして、Xステージ5のX方向への移動量及びYステージ7のY方向への移動量を検出し、チャック10の中心点のXY座標を決定する。
【0039】
座標決定部75は、中心点座標決定部74が決定したチャック10の中心点のXY座標に基づき、各光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給する描画データのXY座標を決定する。メモリ72は、座標決定部75が決定したXY座標をアドレスとして入力し、入力したXY座標のアドレスに記憶された描画データを出力する。
【0040】
DMD傾斜演算部77は、DMD25の傾きに応じて、描画データを走査方向と直交する方向に補正する補正量を計算する。データシフト回路78は、メモリ72から読み出した描画データの座標を、DMD傾斜演算部77が計算した補正量だけ走査方向と直交する方向に補正して、各DMD駆動回路27へ供給する。
【0041】
以下、本発明の一実施の形態による露光方法について説明する。図8及び図9は、本発明の一実施の形態による露光方法を説明する図である。図8(a)は、DMDの描画用エリアを示す図である。複数のミラーが二方向に配列されたDMD25の表面は、通常描画用エリア25bと、補正描画用エリア25cとに分割されている。通常描画用エリア25bにある各ミラー25aは、メモリ72からデータシフト回路78を介して供給される描画データに基づき、通常のパターンの描画に使用される。補正描画用エリア25cにある各ミラー25aは、後述する補正用パターンの描画に使用される。
【0042】
図8(b)は、光ビームの強度分布の一例を示す図である。図8(b)は、DMD25の通常描画用エリア25bから照射される光ビームの強度を灰色の濃淡で示しており、灰色の濃い部分が光ビームの強度が大きいことを表している。レーザー光源ユニット21から光ビーム照射装置20へ供給される光ビームの強度分布のばらつき、DMD25の各ミラー25aの平坦度の違いや動作角度の誤差、光ビーム照射装置20の照射光学系のヘッド部20aに含まれる投影レンズ26等の光学部品の歪み等が原因で、DMD25の通常描画用エリア25bから照射される光ビームの強度は照射範囲全体で均一にならず、光ビームの強度分布にはばらつきが発生する。
【0043】
図9(a)は、図8(b)に示す強度分布の光ビームにより描画されるパターンの一例を示す図である。図9(a)は、パターンを描画するために照射される光ビームの光量を灰色の濃淡で示しており、灰色の濃い部分が光ビームの光量が多いことを表している。図8(b)に示す様に、光ビームの強度が走査方向と直交する方向において異なると、図9(a)に示す様に、パターンを描画するために照射される光ビームの光量には、走査方向と直交する方向においてむらが発生する。そのため、描画されるパターンには、走査方向と直交する方向において高低差が生じ、その高低差が走査方向に連続するために、表示用パネル基板では、この高低差が走査方向に伸びる筋として人の目で認識され易く、表示品質が劣化する。
【0044】
図7において、描画制御部71のメモリ80には、補正用パターンを描画するための複数の補正用データが記憶されている。光量補正制御部81は、メモリ80に記憶された複数の補正用データの内の1つを選択して、データシフト回路78へ供給する。このとき、光量補正制御部81は、座標決定部75が決定したXY座標の変化に伴い、選択する補正用データを所定時間毎に変更する。選択する補正用データは、規則的に順番に変更してもよく、また不規則に順序をばらばらに変更してもよい。データシフト回路78は、光量補正制御部81から供給された補正用データの座標を、DMD傾斜演算部77が計算した補正量だけ走査方向と直交する方向に補正して、各DMD駆動回路27へ供給する。
【0045】
図8(c)〜図8(f)は、補正用データにより照射される光ビームの強度分布の例を示す図である。図8(c)〜図8(f)は、DMD25の補正描画用エリア25cから照射される光ビームの強度を灰色の濃淡で示しており、灰色の濃い部分が光ビームの強度が大きいことを表している。本実施の形態では、描画制御部71のメモリ80に、図8(c)〜図8(f)に示す強度分布の光ビームをそれぞれ照射させる各補正用データが記憶されている。本実施の形態では、各補正用データにより、DMD25の補正描画用エリア25cから、複数の楕円形の光をそれぞれ照射させており、図8(c)〜図8(f)に示す様に、楕円形の光の照射位置及び楕円形の角度が、補正用データ毎に異なっている。
【0046】
図9(b)は、図8(c)〜図8(f)に示す強度分布の光ビームにより描画されるパターンの一例を示す図である。図9(b)は、補正用パターンを描画するために照射される光ビームの光量を灰色の濃淡で示しており、灰色の濃い部分が光ビームの光量が多いことを表している。光量補正制御部81が選択する補正用データを所定時間毎に変更することにより、補正用データにより描画される補正用パターンは、図9(b)に示す様に、走査方向と直交する方向の幅及び位置が、走査方向において所定の周期で変化する。
【0047】
図9(c)は、本発明により描画されるパターンの一例を示す図である。図9(c)は、本発明により照射される光ビームの光量を灰色の濃淡で示しており、灰色の濃い部分が光ビームの光量が多いことを表している。図9(b)に示す補正用パターンを、図9(a)に示す描画するパターンの走査方向に重ねて描画するので、補正用パターンにより、光ビーム照射装置20から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布が補正されて、描画するパターンの高低差が抑制される。補正用パターンは、走査方向と直交する方向の幅又は位置が、走査方向において変化するので、描画するパターンの走査方向に重ねて描画したとき、人の目で認識されにくい。
【0048】
さらに、図8(b)に示すDMD25の通常描画用エリア25bから照射される光ビームの強度分布を予め測定し、補正用パターンを、光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布に応じ、光ビームの強度が所定値以下の所に配置すると、光ビームの強度が所定値以下の所で、配置された補正用パターンにより、光ビームの光量不足が改善される。
【0049】
さらに、補正用パターンの幅又は位置の走査方向における変化を、隣接する走査領域で異ならせると、走査方向と直交する方向において、補正用パターンが不規則に現れて人の目で認識されにくい。
【0050】
また、本実施の形態では、図8(c)〜図8(f)に示す様に、複数の楕円形の光をそれぞれ照射させる複数の補正用データを用い、複数の楕円形の光の照射位置及び楕円形の角度を補正用データ毎に異ならせることにより、走査方向と直交する方向の幅及び位置が走査方向において変化する補正用パターンを描画するための補正用データを、容易に作成することができる。しかしながら、本発明における補正用パターンは、図9(b)に示した例に限らず、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化し、描画するパターンの走査方向に重ねて描画したとき、人の目で認識されにくいものであればよい。
【0051】
図10〜図13は、光ビームによる基板の走査を説明する図である。図10〜図13は、8つの光ビーム照射装置20からの8本の光ビームにより、基板1のX方向の走査を4回行って、基板1全体を走査する例を示している。図10〜図13においては、各光ビーム照射装置20のヘッド部20aが破線で示されている。各光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射された光ビームは、Y方向にバンド幅Wを有し、Xステージ5のX方向への移動によって、基板1を矢印で示す方向へ走査する。
【0052】
図10は、1回目の走査を示し、X方向への1回目の走査により、図10に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われる。1回目の走査が終了すると、Yステージ7のY方向への移動により、基板1がY方向へバンド幅Wと同じ距離だけ移動される。図11は、2回目の走査を示し、X方向への2回目の走査により、図11に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われる。2回目の走査が終了すると、Yステージ7のY方向への移動により、基板1がY方向へバンド幅Wと同じ距離だけ移動される。図12は、3回目の走査を示し、X方向への3回目の走査により、図12に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われる。3回目の走査が終了すると、Yステージ7のY方向への移動により、基板1がY方向へバンド幅Wと同じ距離だけ移動される。図13は、4回目の走査を示し、X方向への4回目の走査により、図13に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われ、基板1全体の走査が終了する。
【0053】
複数の光ビーム照射装置20からの複数の光ビームにより基板1の走査を並行して行うことにより、基板1全体の走査に掛かる時間を短くすることができ、タクトタイムを短縮することができる。
【0054】
なお、図10〜図13では、基板1のX方向の走査を4回行って、基板1全体を走査する例を示したが、走査の回数はこれに限らず、基板1のX方向の走査を3回以下又は5回以上行って、基板1全体を走査してもよい。
【0055】
以上説明した実施の形態によれば、パターンを描画するための描画データと、補正用パターンを描画するための補正用データとを、光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給して、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画することにより、光ビーム照射装置20から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布を補正して、パターンの高低差を抑制することができる。
【0056】
さらに、補正用パターンを、光ビーム照射装置20から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布に応じ、光ビームの強度が所定値以下の所に配置することにより、光ビームの強度が所定値以下の所で、光ビームの光量不足を改善することができる。
【0057】
さらに、補正用パターンの幅又は位置の走査方向における変化を、隣接する走査領域で異ならせることにより、走査方向と直交する方向において、補正用パターンが規則的に現れて人の目で認識されるのを防止することができる。
【0058】
本発明の露光装置又は露光方法を用いて基板の露光を行うことにより、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布を補正して、パターンの高低差を抑制することができるので、高品質な表示用パネル基板を製造することができる。
【0059】
例えば、図14は、液晶ディスプレイ装置のTFT基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。薄膜形成工程(ステップ101)では、スパッタ法やプラズマ化学気相成長(CVD)法等により、基板上に液晶駆動用の透明電極となる導電体膜や絶縁体膜等の薄膜を形成する。レジスト塗布工程(ステップ102)では、ロール塗布法等によりフォトレジストを塗布して、薄膜形成工程(ステップ101)で形成した薄膜上にフォトレジスト膜を形成する。露光工程(ステップ103)では、露光装置を用いて、フォトレジスト膜にパターンを形成する。現像工程(ステップ104)では、シャワー現像法等により現像液をフォトレジスト膜上に供給して、フォトレジスト膜の不要部分を除去する。エッチング工程(ステップ105)では、ウエットエッチングにより、薄膜形成工程(ステップ101)で形成した薄膜の内、フォトレジスト膜でマスクされていない部分を除去する。剥離工程(ステップ106)では、エッチング工程(ステップ105)でのマスクの役目を終えたフォトレジスト膜を、剥離液によって剥離する。これらの各工程の前又は後には、必要に応じて、基板の洗浄/乾燥工程が実施される。これらの工程を数回繰り返して、基板上にTFTアレイが形成される。
【0060】
また、図15は、液晶ディスプレイ装置のカラーフィルタ基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。ブラックマトリクス形成工程(ステップ201)では、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、剥離等の処理により、基板上にブラックマトリクスを形成する。着色パターン形成工程(ステップ202)では、染色法や顔料分散法等により、基板上に着色パターンを形成する。この工程を、R、G、Bの着色パターンについて繰り返す。保護膜形成工程(ステップ203)では、着色パターンの上に保護膜を形成し、透明電極膜形成工程(ステップ204)では、保護膜の上に透明電極膜を形成する。これらの各工程の前、途中又は後には、必要に応じて、基板の洗浄/乾燥工程が実施される。
【0061】
図14に示したTFT基板の製造工程では、露光工程(ステップ103)において、図15に示したカラーフィルタ基板の製造工程では、ブラックマトリクス形成工程(ステップ201)及び着色パターン形成工程(ステップ202)の露光処理において、本発明の露光装置又は露光方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 基板
3 ベース
4 Xガイド
5 Xステージ
6 Yガイド
7 Yステージ
8 θステージ
10 チャック
11 ゲート
20 光ビーム照射装置
20a ヘッド部
21 レーザー光源ユニット
22 光ファイバー
23 レンズ
24 ミラー
25 DMD(Digital Micromirror Device)
26 投影レンズ
27 DMD駆動回路
31,33 リニアスケール
32,34 エンコーダ
40 レーザー測長系制御装置
41 レーザー光源
42,44 レーザー干渉計
43,45 バーミラー
60 ステージ駆動回路
70 主制御装置
71 描画制御部
72,80 メモリ
73 バンド幅設定部
74 中心点座標決定部
75 座標決定部
77 DMD傾斜演算部
78 データシフト回路
81 光量補正制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトレジストが塗布された基板を支持するチャックと、
光ビームを変調する空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する光学部品を含む照射光学系を有する光ビーム照射装置と、
前記チャックと前記光ビーム照射装置とを相対的に移動する移動手段とを備え、
前記移動手段により前記チャックと前記光ビーム照射装置とを相対的に移動し、前記光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置であって、
パターンを描画するための描画データと、補正用パターンを描画するための補正用データとを、前記光ビーム照射装置の駆動回路へ供給して、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画させる描画制御手段を備えたことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記補正用パターンは、前記光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布に応じ、光ビームの強度が所定値以下の所に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記補正用パターンは、幅又は位置の走査方向における変化が、隣接する走査領域で異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
フォトレジストが塗布された基板をチャックで支持し、
チャックと、光ビームを変調する空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する光学部品を含む照射光学系を有する光ビーム照射装置とを、相対的に移動し、
光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光方法であって、
パターンを描画するための描画データと、補正用パターンを描画するための補正用データとを、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給して、走査方向と直交する方向の幅又は位置が走査方向において変化する補正用パターンを、描画するパターンの走査方向に重ねて描画することを特徴とする露光方法。
【請求項5】
補正用パターンを、光ビーム照射装置から照射される光ビームの走査方向と直交する方向の強度分布に応じ、光ビームの強度が所定値以下の所に配置することを特徴とする請求項4に記載の露光方法。
【請求項6】
補正用パターンの幅又は位置の走査方向における変化を、隣接する走査領域で異ならせることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の露光方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の露光装置を用いて基板の露光を行うことを特徴とする表示用パネル基板の製造方法。
【請求項8】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の露光方法を用いて基板の露光を行うことを特徴とする表示用パネル基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−54262(P2013−54262A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193555(P2011−193555)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】