説明

青魚の加工方法

【課題】煮たり焼いたりして常食としても飽きのこない食味とすることで、食料事情の改善に寄与する青魚の加工方法を提供する。
【解決手段】活動状態または仮死状態にあるアジ1の頸動脈を、鰓蓋2を広げて頸骨とともに切断し、更に、尾3の付け根部分の尾部動脈(切断線C)を切断して血抜きを行う。そして、血抜きは、尾3を下向きにして行うことで短時間で血抜きを行うことができる。このようにして常食の阻害要因である血液を抜いたアジ1を調理することで、常食しても飽きのこない食味とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イワシや、サバや、アジなどの背が青緑色を帯びた青魚の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食に対する問題は様々である。例えば、世界的な規模での人口の増加により、将来的に食料不足となることが予想されている。また、畜産や魚の養殖においては病気などの予防のために抗生物質を餌に混ぜるなど食に対する安全の問題や、海面養殖では餌の残りや糞による環境汚染の問題などを上げることができる。このような様々な食に対する問題で食料事情の悪化は徐々に進行していくことが懸念されている。
【0003】
食料として魚は日頃から食されるものの一つではあるが、養殖された魚には上述したような問題を抱えるものも少なくない。従って、天然の魚を食するのが好ましいが、天然物のタイやヒラメなどは高級魚と呼ばれるように漁獲量も少なく高価である。それと比較して、イワシや、サバや、アジなどの青魚は、大衆魚と呼ばれ、漁獲量も高く安価に家庭に提供されているため、この青魚が常食できれば、食料事情の改善に大きく寄与するものと思われる。
【0004】
このような青魚を食するに色々な加工方法や、食品が提案されている(例えば、特許文献1または2参照。)。例えば、特許文献1では、イワシ、サバ、このしろ等の臭いを消すと共に小骨を軟らかくして風味を良くすることができる青魚の加工方法が記載されている。また特許文献2では、青魚の臭みがマスクされ、肉質も、骨までとろけるようなソフトで柔らかい仕上げとした青魚の缶詰が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−9928号公報
【特許文献2】特開平5−328892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
魚料理は、刺身で食されることもあるが、煮たり、焼いたりして食されることが多い。青魚を煮たり、焼いたり、または特許文献1に記載の加工方法や、または特許文献2に記載の缶詰としても、青魚は、独特の食味を有しているので、毎日食べると飽きがくるものであり、青魚を常食するに阻害要因となっている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、煮たり焼いたりして常食としても飽きのこない食味とすることで、食料事情の改善に寄与する青魚の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、青魚を煮付けたり、焼き魚にしたりして常食としたときに飽きの原因となるものについて研究した結果、青魚の血液がその原因であることを確認し、本発明を完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、活動状態または仮死状態にある青魚の頸動脈と尾の付け根部分の尾部動脈とを切断して、血抜きを行うことを特徴とする。
【0010】
青魚の血液は、死後直後から凝固が始まるので、血管の中から大部分の血液を短時間に排出させる必要がある。従って、心臓が停止した状態では排出させることができなくなってしまうので、活動状態または仮死状態にある青魚に対して加工を行うことで、心臓の鼓動とともに切断した頸動脈の切断箇所から血液を排出させることができる。
【0011】
また、頸動脈とともに、青魚の尾の付け根の尾部動脈を切断することで、背大動脈から尾部動脈にかけての両端が切断された状態となるので、鰓の後側からしりびれまでの胴部と、しりびれから尾までの尾部の血管にある血液を、背大動脈から尾部動脈にかけての両端の切断箇所から排出させることができる。
【0012】
ここで、青魚とは、イワシ、サバや、アジなどの他に、サンマ、ニシンなど背が青緑色を帯びた魚類を指す。また、頸動脈とは、心臓から頭部に向けて流れ、鰓の付け根に位置する動脈である。
【0013】
前記頸動脈を切断するときに、頸骨とともに切断するのが望ましい。頸動脈のみを切断するのは、細く、かつ鰓に隠れているので切断しにくい。頸動脈は、頭蓋骨と背骨との接続部部分である頸骨の傍に位置するので、頸骨を切断するように鰓蓋を開けて刃を差し込むことで、頸動脈を容易に切断することができる。
【0014】
更に、血抜きは、尾を下向きにするか、または尾を半径方向外向きにして魚体を回転させて行うのが望ましい。頭部を下向きにすると切断された頸動脈側が下になる。そうなると、切断された頸動脈から排出する血液は、頭部の鰓蓋が血液の受けとなり血液が溜まり排出の阻害となる。尾を下向きにすると、鰓蓋は、下向きに開口した状態となるので鰓蓋内の血液は排出されやすい。また尾を下向きにすることで背大動脈から尾部動脈にかけての血管が上下方向となるので、背大動脈および尾部動脈と、その背大動脈および尾部動脈につながる他の血管とに流れる血液を、切断された尾の付け根部分の血管の切断箇所から、滴下するように排出させることができる。
【0015】
また、尾を半径方向外向きにして魚体を回転させれば、鰓蓋内の溜まった血液は、半径方向外向きに開口した鰓蓋から遠心力により排出させることができる。また、同様に、切断された尾の付け根部分の血管の切断箇所から、両端が開放となった背大動脈および尾部動脈や、その背大動脈および尾部動脈につながる他の血管を流れる血液を、遠心力で吸い出すように排出させることができるので、更に効率よく血抜きを行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の青魚の加工方法によれば、以下の効果を奏する。
(1)活動状態または仮死状態にある青魚の頸動脈と尾の付け根部分の尾部動脈とを切断して、血抜きを行うことにより、凝固の早い青魚の血抜きを短時間に行うことができるので、血抜きを済ませた青魚は、青魚独特の食味を消すことができる。よって、青魚を煮たり焼いたりして、常食としても飽きのこない料理とすることができるので、食料事情を改善することができる。
(2)前記頸動脈を切断するときに、頸骨とともに切断することで、容易に頸動脈を切断することができるので、活動状態または仮死状態の青魚に対して、短時間で血抜き作業を行うことができる。
(3)前記血抜きは、前記尾を下向きにするか、または前記尾を半径方向外向きにして魚体を回転させて行うことにより、重力や遠心力により更に効率よく血抜きを行うことができるので、血抜きの作業時間を更に短縮できるとともに、残留する血液の量を少ないものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係る青魚の加工方法を、アジを例に図1および図2に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る青魚の加工方法を、アジを例に説明する図である。図2は、本発明の実施の形態に係る青魚の加工方法を説明する図であり、血管を切断したアジを吊した状態の図である。なお、本発明の実施の形態に係る青魚の加工方法は、アジの他に、イワシ、サバ、サンマ、ニシンなど背が青緑色を帯びた魚類であれば用いることができる。
【0018】
図1に示すように、青魚のアジ1は、活動状態または仮死状態の標準的な体長25cm程度のものである。活動状態および仮死状態とは、活発に動く動かないの如何に関わらず心臓が鼓動している状態をいう。包丁などを用いて手操作で加工を行う場合では、仮死状態の方が正確に作業を行うことができるので望ましい。
【0019】
この心臓が鼓動している状態のアジ1の鰓蓋2を開けて、包丁などで頸骨を切断するようにして頸動脈を切断する。その際には、頸骨と頸動脈とともに、頸静脈も同時に切断してもよい。頸骨を切断するように鰓蓋2を開けて刃を差し込むことで、頸動脈を容易に切断することができる。
【0020】
そして切断線Cに沿って、尾3の付け根の尾部動脈を切断する。尾3の付け根の尾部動脈を切断するように包丁を入れると、尾部動脈だけでなく尾部静脈も切断することができる。
【0021】
この鰓蓋2を広げての切断と、尾3の付け根部分の切断とを行う間隔は、数秒以内で行うのが望ましい。それは、青魚の血液は、死後直後から凝固が始まるので、血管の中から大部分の血液を短時間で排出させる必要がある。従って、素早く2ヵ所を切断することで、血抜きの作業全体を短時間に終了することができる。
【0022】
図2に示すように、次に鰓蓋2を開けての切断と、尾3の付け根部分の切断とを行ったアジ1を、略S字状に形成された吊り下げ具5の一端を口4に引っかけて、吊り下げ棒6に吊り下げて血抜きを行う。
【0023】
吊り下げ具5の一端を口4に引っかけて、吊り下げ棒6に吊り下げることで、尾3を下向きにすることができる。尾3を下向きとすることで、鰓蓋2が下向きに開口した状態となるので、心臓の鼓動ともに心臓から圧送された血液が、切断された頸動脈または頸静脈から流れ出て、鰓蓋2に溜まることなく外へ排出される。そして、背大動脈から尾部動脈にかけての血管および尾部静脈が上下方向となるので、背大動脈および尾部動脈と、その背大動脈と、尾部動脈と、尾部静脈とにつながる他の血管とに流れる血液を、切断された尾の付け根部分の血管の切断箇所から、滴下するように排出させることができる。
【0024】
一般的にブリなどの中型魚では、鰓から包丁を刺して頸動脈を1ヵ所切断することで活き絞めと呼ばれる血抜きが行われる。しかし、青魚の場合では、頸動脈を1ヵ所切断しただけでは、血液の排出の速度が遅いので血液が抜けきる前に、徐々に凝固していき血液が残留する量が多くなってしまう。従って、本実施の形態の青魚の加工方法では、尾3を下向きにしているので、頸動脈から血液を排出させるだけでなく、頸動脈と尾の付け根部分の尾部動脈を切断することで、背大動脈から尾部動脈にかけての血管の両端が切断されることになるので、背大動脈から尾部動脈にかけての血管のみならず、背大動脈および尾部動脈につながる血管を流れる血液を排出させることができる。従って、凝固の早い青魚の血抜きを短時間で行うことができる。
【0025】
活動状態および仮死状態にて、青魚の血抜きを行うので、活動状態で放置した場合のアジと比較して、アデノシン三リン酸(ATP)の消費が少なくいので、死後硬直が急速に起こりにくく、変色を抑制することができる。従って、鮮度低下を防止することができるので、歯ごたえのよいアジ1とすることできる。
このように血抜きを行ったアジ1を、煮たり焼いたりして常食としても、飽きのこない料理とすることができるので、食料事情を改善することができる。
【0026】
次に本発明の他の実施の形態の青魚の加工方法を説明する。図2においては、アジ1を尾を下向きにして吊すことで、血抜きを促進させたが、他の実施の形態では、尾を半径方向外向きにして魚体を回転させて行うことで、更に血抜きの速度を促進させるものである。
【0027】
平面視矩形状の箱体の底面にモータを備えた血抜き装置を準備し、活動状態または仮死状態にある青魚の頸動脈と尾の付け根部分の尾部動脈とを切断した状態のアジを、その箱体に収納して回転させる。この血抜き装置は、魚体の重心となる箱体の底面にモータの回転軸を接続するようにしてもよいが、魚体の重心より頭部側にずれた箱体の底面の位置にモータの回転軸を接続することで、アジの尾を半径方向外向きとなるような回転とすることができる。これにより遠心力は頭部から尾の方向へ向かうように作用する。
【0028】
従って、尾を半径方向外向きとなるようにして魚体を回転さることで、鰓蓋内の溜まった血液は、半径方向外向きに開口した鰓蓋から遠心力により排出させることができる。また、同様に、切断された尾の付け根部分の血管の切断箇所から、両端が開放となった背大動脈および尾部動脈や、その背大動脈および尾部動脈につながる他の血管を流れる血液を、遠心力で吸い出すように排出させることができるので、更に効率よく血抜きを行うことができる。従って、血抜きの作業時間を短縮できるとともに、残留する血液の量を少ないものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、イワシや、サバや、アジなどの背が青緑色を帯びた青魚の血抜きに好適であり、この加工方法で血抜きを行った青魚は、煮たり焼いたりするだけでなく、生食や、揚げ物としたり、炒めたりして、常食としても飽きのこない料理とすることができる。また短時間で血抜きができるので、青魚以外の魚類でも新鮮度を損なわないので好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る青魚の加工方法を、アジを例に説明する図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る青魚の加工方法を説明する図であり、血管を切断したアジを吊した状態の図である。
【符号の説明】
【0031】
1 アジ
2 鰓蓋
3 尾
4 口
5 吊り下げ具
6 吊り下げ棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活動状態または仮死状態にある青魚の頸動脈と尾の付け根部分の尾部動脈とを切断して、血抜きを行うことを特徴とする青魚の加工方法。
【請求項2】
前記頸動脈を切断するときに、頸骨とともに切断することを特徴とする請求項1記載の青魚の加工方法。
【請求項3】
前記血抜きは、前記尾を下向きにするか、または前記尾を半径方向外向きにして魚体を回転させて行うことを特徴とする請求項1または2記載の青魚の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−280327(P2006−280327A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107938(P2005−107938)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(395010598)丸三食品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】