説明

静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、静電アクチュエータの製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】静電アクチュエータとして駆動耐久特性を確保しつつ、酸化物系の対向電極などに水素化アモルファスカーボン(a−C:H)膜を形成することができる静電アクチュエータ等を提供する。
【解決手段】振動板20と、振動板20にギャップGを隔てて対向する対向電極30とを備え、振動板20の対向電極30との対向面に絶縁膜21が形成された静電アクチュエータであって、振動板20の絶縁膜21と対向電極30とのいずれか一方の面上に、保護膜101が形成されるとともに、保護膜101の上に水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)100が形成され、保護膜101が酸素原子を含まない誘電体の保護膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電アクチュエータ、それを利用した液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、静電アクチュエータの製造方法、及び液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタにおけるインク吐出方法として、駆動手段に静電気力を利用した、いわゆる静電駆動方式のインクジェットプリンタが知られている。このようなインクジェットプリンタは、振動板と対向電極との間に電圧を印加、遮断することにより、振動板を対向電極に吸引、隔離させ、それによって生じる圧力変化を利用してインクを吐出する。従って、振動板と対向電極とはインクが貯えられた圧力室の圧力を変動させる静電アクチュエータとして作用する。
【0003】
このような静電アクチュエータの駆動耐久特性を確保するために、対向電極の上に高硬度で潤滑性の高い膜、例えばDLC(ダイヤモンドライクカーボン、Diamonmd Like Carbon)膜を形成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−136856号公報(第6頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DLC膜は、一般に、膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン(a−C:H)膜と、膜中に水素をほとんど含まないアモルファスカーボン(a−C)膜とに分類される。膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン(a−C:H)膜を酸化物系の対向電極、例えばITO(Indium Tin Oxide)からなる電極の上に形成すると、下地となる対向電極がエッチングされてしまうことがあった。
これを防止するために、特許文献1記載の技術においては、酸化物系の対向電極の上に保護膜を設け、その上に水素化アモルファスカーボン(a−C:H)膜を形成しているが、保護膜はいずれも酸素を含むものであり、アクチュエータ特性が悪化してしまう等の問題があった。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、静電アクチュエータとして駆動耐久特性を確保しつつ、酸化物系の対向電極などに水素化アモルファスカーボン(a−C:H)膜を形成することができる静電アクチュエータ、それを利用した液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、静電アクチュエータの製造方法、及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に静電アクチュエータは、振動板と、振動板にギャップを隔てて対向する対向電極とを備え、振動板の対向電極との対向面に絶縁膜が形成された静電アクチュエータであって、振動板の絶縁膜と対向電極とのいずれか一方の面上に、保護膜が形成されるとともに、保護膜の上に水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)が形成され、保護膜が酸素原子を含まない誘電体の保護膜である。
水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)は高硬度で潤滑性が高いので、静電アクチュエータに、優れた駆動耐久特性を付与することができる。また、表面膜が膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)であっても、保護膜は酸素原子を含まないので、アクチュエータ特性が悪化することはない。
【0008】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、保護膜と水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)とが振動板の絶縁膜の上に形成され、対向電極の上に対向電極側絶縁膜がさらに形成されたものである。
振動板と対向電極の両側に絶縁膜を有してもアクチュエータ特性が悪化することがなく、優れた駆動耐久性を有する。
【0009】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、対向電極が酸化物系の電極であり、絶縁膜が酸化膜である。
対向電極が酸化物系の電極であり、絶縁膜が酸化膜であっても、保護膜は酸素原子を含まないので、水素化アモルファスーボン膜(a−C:H膜)が対向電極や絶縁膜にダメージを与えることがなく、良好な電気特性を示す。
【0010】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、保護膜がSiN膜である。
表面膜が膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)であっても、保護膜は酸素原子を含まないSiN膜であるので、対向電極や絶縁膜へのダメージがなく、アクチュエータ特性が悪化することはない。
【0011】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、保護膜がa−SiC膜及びa−BN膜のいずれかである。
表面膜画が膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)であっても、保護膜は酸素原子を含まないa−SiC膜またはa−BN膜であるので、対向電極や絶縁膜へのダメージがなく、アクチュエータ特性が悪化することはない。
【0012】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、対向電極がITO電極である。
保護膜は酸素原子を含まないので、水素化アモルファスーボン膜(a−C:H膜)が酸化物系のITO電極にダメージを与えることはない。
【0013】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、絶縁膜が、酸化シリコンからなる酸化膜、酸化シリコンより比誘電率が高い酸化膜、及びこれらの膜が積層して形成された酸化膜のいずれかである。
絶縁膜として、酸化シリコンからなる酸化膜のみならず、これよりも比誘電率が高い酸化膜、またはこれらの膜が積層して形成された酸化膜を用いたので、アクチュエータ能力を向上させることができる。
【0014】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかの静電アクチュエータを備えたものである。
駆動耐久特性に優れ、高い吐出能力を備えた液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0015】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
駆動耐久特性に優れ、高い吐出能力を備えたた液滴吐出ヘッドを搭載した高性能の液滴吐出装置を提供することができる。
【0016】
本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、シリコン基板の表面に絶縁膜を形成する工程と、電極基板に溝を形成してその溝内に対向電極を形成する工程と、シリコン基板の絶縁膜と電極基板の対向電極のいずれか一方の面上に保護膜を形成し、保護膜の上に水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)を形成する工程と、絶縁膜と対向電極とをギャップを隔てて対向させて、シリコン基板と電極基板とを接合する工程と、シリコン基板と電極基板間に形成されたギャップ内の水分を除去してギャップを封止する工程と、シリコン基板に振動板を形成する工程とを有する。
駆動耐久特性に優れ、高い吐出能力を備えた液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0017】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のいずれかの静電アクチュエータの製造方法を適用して、液滴吐出ヘッドのアクチュエータ部分を形成するものである。
駆動耐久特性に優れ、高い吐出能力を備えた液滴吐出ヘッドを搭載した高性能の液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
実施の形態1(静電アクチュエータ)
図1は本発明の実施の形態1に係る静電アクチュエータの縦断面図である。静電アクチュエータは、一方の電極として作用する可撓性を有する振動板(可動電極)20と、振動板20とギャップGを隔てて対向する対向電極(固定電極)30が形成された電極基板3と、振動板20と対向電極30にパルス電圧を印可する駆動回路50とを備えている。
【0019】
振動板20はシリコン基板からなり、対向電極30に対向する側の面には絶縁膜21が形成されている。絶縁膜21は例えばSi02 (酸化シリコン)からなり、振動板20の駆動時に、振動板20と対向電極30との間での絶縁破壊やショートを防止する。絶縁膜21は、Si02 の比誘電率(3.2)より大きな比誘電率を有する、Al2 3 (酸化アルミニウム)、HfO2 (酸化ハフニウム)、HfSiN(窒化ハフニウムシリケート)、HfSiON(酸窒化ハフニウムシリケート)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0020】
電極基板3はホウ珪酸ガラスからなり、その溝内に複数の対向電極30が形成されている。対向電極30は酸化物系の電極からなり、例えばITO(Indium Tin Oxide)をスパッタすることにより形成する。
【0021】
対向電極30の上には、酸素原子を含まない誘電体の保護膜(以下、保護膜ともいう)101が形成され、その上に表面膜100が形成されている。
表面膜100はダイヤモンドライクカーボン(Diamonmd Like Carbon、以下、DLCという)からなる膜である。DLC膜は、一般に、膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン(以下、a−C:Hともいう)膜と、膜中に水素をほとんど含まないアモルファスカーボン(以下、a−Cともいう)膜とに分類されるが、本願発明に係るDLC膜はa−C:H膜である。
保護膜101は、SiN(窒化シリコン)からなる膜であるが、a−SiCからなる膜、あるいはa−BNからなる膜であってもよい。SiN膜等の保護膜101は膜中に酸素原子を含まないため、そのうえにa−C:Hからなる表面膜100を形成した場合であっても、対向電極30へのダメージがなく、良好な電気特性を示す。
【0022】
次に、静電アクチュエータの動作について説明する。
駆動回路50を制御して、振動板20と対向電極30の間に電圧の印加、遮断を行うことにより、振動板20を撓ませて対向電極30に接触させる動作と、振動板20を対向電極30から離して元の位置に戻す動作を行わせる。振動板20のこのような動作を利用した静電アクチュエータは、各種の装置やデバイスに適用することができる。
【0023】
上記の静電アクチュエータによれば、対向電極30の表面膜100は、a−C:Hからなる膜であり、高硬度で潤滑性に優れ、駆動耐久特性を高めるのに寄与する。そして、下地の対向電極30が酸化物系の電極であっても、あいだにSiNのような酸素原子を含まない誘電体の保護膜101を介在させているので、対向電極30にダメージを与えることがない。また、振動板20の絶縁膜21として、Si02 よりも大きな比誘電率を有するAl2 3 等からなる膜、もしくはこれらを積層した膜を形成することもでき、この場合は、酸化膜換算厚み(EOT)を薄くして絶縁耐圧を確保することができる。
【0024】
実施の形態2(静電アクチュエータ)
図2は本発明の実施の形態2に係る静電アクチュエータの縦断面図である。
本実施の形態2では、振動板20はシリコン基板からなり、対向電極30に対向する側の面には絶縁膜21が形成されている。絶縁膜21の上には酸素原子を含まない誘電体の保護膜101が形成され、その上に表面膜100が形成されている。
その他の構成、作用、効果は、実施の形態1に示した場合と実質的に同様なので説明を省略する。
【0025】
実施の形態3(液滴吐出ヘッド及びその製造方法)
次に、実施の形態1に係る静電アクチュエータを適用した液滴吐出ヘッドについて説明する。図3は本発明の実施の形態3に係る液滴吐出ヘッドの一部を断面で示した分解斜視図、図4は図3を組み立てた状態の要部を示す縦断面図、図5は図4の液滴吐出ヘッドの向きを90度変えた方向からみた圧力室付近の断面図、図6は図4のA部を拡大した説明図である。
液滴吐出ヘッド1は、キャビティ基板2、電極基板3、及びノズル基板4を積層して接合されており、キャビティ基板2に形成された可撓性を有する振動板(可動電極)20と、電極基板3に形成された対向電極(固定電極)30とが静電アクチュエータを構成している。
【0026】
キャビティ基板2は単結晶シリコンからなり、底壁が振動板20として形成され、吐出液を貯えて吐出させる圧力室(吐出室)22となっている凹部220が複数形成されている。圧力室22は紙面手前側から紙面奥側にかけて平行に並んで形成されており(図3、図4参照)、圧力室22の底面を構成する振動板20は、シリコン基板の表面からボロン(B)を拡散させたボロンドープ層として形成されている。また、キャビティ基板2には、各圧力室22にインク等の液滴を供給するためのリザーバ23となる凹部230と、このリザーバ23と各圧力室22を連通する細溝状のオリフィス24となる凹部240が形成されている。なお、リザーバ23は単一の凹部230から形成されており、オリフィス24は各圧力室22に対して1つずつ形成されている。
【0027】
キャビティ基板2の電極基板3が接合される側の面には、DryOx からなる絶縁膜21が形成されている。一方、キャビティ基板2のノズル基板4が接合される側の面には、耐吐出液保護膜25が形成されている。耐吐出液保護膜25は、圧力室22やリザーバ23の内部の吐出液によりキャビティ基板2がエッチングされるのを防止する。
【0028】
電極基板3はホウ珪酸ガラスからなり、その溝部がキャビティ基板2の振動板20に対向するようにして接合されている。電極基板3の溝部内には、振動板20とギャップGを隔てて対向する複数の対向電極30が形成されている。対向電極30は、対応する圧力室22ごとに形成されているため個別電極とも称される。なお、ギャップGは封止材60によって封止されている。対向電極30は酸化物系の電極からなり、例えばITO(Indium Tin Oxide)をスパッタすることにより形成される。
【0029】
対向電極30の上には酸素原子を含まない誘電体の保護膜101が形成され、その上に表面膜100が形成されている。この表面膜100は膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン(a−C:H)からなり、高硬度で潤滑性が高く、優れた駆動耐久特性を有する。保護膜101はSiNからなる膜である。保護膜101は膜中に酸素原子を含まないため、そのうえにa−C:Hからなる表面膜100を形成しても、膜へのダメージがなく、良好な電気特性を示す。
【0030】
電極基板3には、リザーバ23と連通する吐出液供給口61が設けられている。この吐出液供給口61はリザーバ23の底壁に設けられた孔と繋がっており、リザーバ23にインク等の吐出液を供給する。
【0031】
ノズル基板4は圧力室22に対応した複数のノズル40を備えた基板であり、キャビティ基板2の電極基板3が接合された側の面と反対側の面に接合されている。ノズル基板4はシリコン基板からなり、そのノズル40は、例えば円筒状の第1のノズル孔と、第1のノズル孔と連通し第1のノズル孔よりも径の大きい円筒状の第2のノズル孔とからなる。
【0032】
図6に示すように、振動板20の対向電極30との対向面の上に形成された絶縁膜(DryOx 膜)21の膜厚、対向電極30の上に形成された保護膜(SiN膜)101の膜厚、及び保護膜(SiN膜)101の上に形成された表面膜(a−C:H膜)100の膜厚は、絶縁膜21が例えば110nm、保護膜101が例えば10nm、表面膜100が例えば10nmであり、絶縁耐圧に優れたDryOx 膜の厚み割合を大きくしてある。そして、振動板20の幅と各対向電極30の幅はほぼ等しく設定し、表面膜100の幅は振動板20の幅よりも狭く設定し、表面膜100の大きな膜応力により振動板20が撓む不具合を解消するようにしてある(図5参照)。
【0033】
上記のように構成された液滴吐出ヘッド1の作用について説明する。
キャビティ基板2と個々の対向電極30には駆動回路50が接続されている。駆動回路50により、キャビティ基板2と対向電極30の間にパルス電圧が印加されると、振動板20が対向電極30に引き寄せられて、対向電極30の表面膜100に吸着される。これによって圧力室22の内部に負圧が発生し、リザーバ23の内部に溜まっているインク等の液体が圧力室22に流れ込む。流れ込んだ液体により圧力室22の内部の圧力が上昇に向かうタイミングで、キャビティ基板2と対向電極30の間に印加されていた電圧が解除されると、振動板30が元の位置に戻って圧力室22の内部の圧力が更に上昇して高くなるため、ノズル40から吐出液が吐出される。
【0034】
次に、液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。なお、以下に示す数値はその一例を示すもので、これに限定するものではない。
図7は液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。
(a)ホウ珪酸ガラス基板を用意し、このガラス基板に金・クロムのエッチングマスクを施し、フッ酸水溶液等でエッチングして溝部を形成し、溝部内にスパッタ等によりITOからなる対向電極30を形成する(ステップS−1)。
【0035】
(b)ガラス基板の対向電極30の上に、ECRスパッタ法により、SiN膜を10nm全面形成する(ステップS−2)。
【0036】
(c)SiN膜の上に、RF−CVD法により、a−C:H膜を10nm全面形成する(ステップS−3)。
【0037】
(d)レジストを全面塗布し、ITO電極部以外のレジストを除去し、a−C:H膜をRIEでO2 を用いたアッシングで除去し、SiNをCF4 を用いたエッチングで除去して、それぞれ表面膜100、及び保護膜101を形成する(ステップS−4)。
【0038】
(e)ガラス基板にドリルなどによって穴をあけ、吐出液供給口61を形成する(ステップS−5)。こうして、電極基板3が完成する。
【0039】
(f)シリコン基板を用意し、その両面を鏡面研磨し、片側表面にボロンをドープしてボロンドーブ層(のちに振動板20となる)を形成する。次に、ボロンドーブ層が形成されている表面に、TEOSプラズマCVD法によって、SiO2 よりなる絶縁膜21を形成する(ステップS−6)。
【0040】
(g)ステップS−1〜ステップS−5の工程が終了した電極基板3と、ステップS−6の工程が終了したシリコン基板とを、これらの表面膜100が形成された面と絶縁膜21が形成された面とを対向させて、陽極接合する(ステップS−7)。ここでは、電極基板3を例えば360℃に加熱し、シリコン基板に陽極、電極基板3に陰極を接続して、800V程度の電圧を印加して接合する。
【0041】
(h)電極基板3に接合されたシリコン基板の全体を、例えば、機械研削によって薄板化する。機械研削を行った後、加工変質層を除去するため、水酸化カリウム水溶液等でライトエッチングする(ステップS−8)。
【0042】
(i)シリコン基板の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面に、TEOSプラズマCVD法によってSiO2 膜を形成する。そして、このSiO2 膜に、圧力室22となる凹部220、リザーバ23となる凹部230、及びオリフィス24となる凹部240となる部分を形成するためのレジストをパターニングし、この部分の酸化シリコン膜をエッチングして除去する。次に、シリコン基板を水酸化カリウム水溶液等で異方性ウェットエッチングして、圧力室22となる凹部220、リザーバ23となる凹部230及びオリフィス24となる凹部240を形成し、酸化シリコン膜を除去する。このウェットエッチングでは、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用する2段階のエッチングを実施する。以上のエッチング処理においては、先に形成していたボロンドープ層がエッチストップとして作用し、残ったボロンドープ層が振動板20として形成される。シリコン基板の圧力室22となる凹部220等が形成された面に、例えばCVD法によって、酸化シリコン等からなる耐吐出液保護膜25を形成する。こうして、シリコン基板からキャビティ基板2が完成する(ステップS−9)。
【0043】
(j)キャビティ基板2と電極基板3との間に形成されているギャップG内の水分を除去し、ギャップGを封止する(ステップS−10)。
【0044】
(k)ICP(Inductively Coupled Plasma)放電によるドライエッチング等によって、ノズル40が形成されたノズル基板4を、キャビティ基板2の電極基板3が接合されている側と反対側の面に接着剤等により接合する(ステップS−11)。こうして、接合基板が完成する。
【0045】
(l)キャビティ基板2、電極基板3、及びノズル基板4が接合された接合基板をダイシング(切断)により分離して、液滴吐出ヘッド1が完成する(ステップS−12)。
【0046】
上記の液滴吐出ヘッドの製造工程によれば、ガラス基板の対向電極(ITO電極)30の上に酸素原子を含まない誘電体の保護膜(SiN膜)101を形成し、その上に表面膜(a−C:H膜)100を形成するので、対向電極(ITO電極)30へのダメージがなく、良好な電気特性を示す。
【0047】
実施の形態4(液滴吐出ヘッド及びその製造方法)
図8は本発明の実施の形態4に係る液滴吐出ヘッドの要部を示す縦断面図、図9は図8の液滴吐出ヘッドの向きを90度変えた方向からみた圧力室付近の断面図、図10は図8のA部を拡大した説明図である。
実施の形態3では、対向電極30側に保護膜101と表面膜100を設けたが、本実施の形態4では、振動板20側に保護膜101と表面膜100を設けたものである。
電極基板3の溝内には、複数の対向電極30が設けられている。対向電極30は酸化物系の電極からなり、例えばITO(Indium Tin Oxide)をスパッタすることにより形成する。キャビティ基板2の電極基板3が接合される側の面には、振動板20の面上にTEOS−SiO2 からなる絶縁膜21が形成されている。絶縁膜21の上には酸素原子を含まない誘電体の保護膜101が形成され、その上に表面膜100が形成されている。表面膜100は膜中に水素を含む水素化アモルファスカーボン(a−C:H)からなる膜である。保護膜101はSiNからなる膜である。
【0048】
それぞれの膜厚は、絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21が例えば110nm、保護膜(SiN膜)101が例えば10nm、表面膜(a−C:H膜)100が例えば10nmとし、絶縁耐圧に優れた酸化シリコン膜の厚み割合を大きくしてある。
上記のように、TEOS−SiO2 からなる絶縁膜21の上にa−C:Hからなる表面膜100を積層する場合であっても、SiNを保護膜101として使用しているので、絶縁膜21へのダメージがなく、良好な電気特性を示す。
その他の、構成、作用は、実施の形態2と同様なので、説明を省略する。
【0049】
次に、液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。
図11は液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。
(a)ホウ珪酸ガラス基板を用意し、このガラス基板に金・クロムのエッチングマスクを施し、フッ酸水溶液等でエッチングして溝部を形成し、溝部内にスパッタ等によりITOからなる対向電極30を形成する(ステップS−1)。
【0050】
(b)ガラス基板にドリルなどによって穴をあけ、吐出液供給口61を形成する(ステップS−1a)。こうして、電極基板3が完成する。
【0051】
(c)シリコン基板を用意し、その両面を鏡面研磨し、片側表面にボロンをドープしてボロンドーブ層(のちに振動板20となる)を形成する。次に、ボロンドーブ層が形成されている表面に、熱酸化法によってSiO2 熱酸化膜を110nm全面成膜する(ステップS−6)。
【0052】
(d)SiO2 熱酸化膜の上に、ECRスパッタ法により、SiN膜を10nm全面成膜する(ステップS−6a)。
【0053】
(e)SiN膜の上に、RF−CVD法により、a−C:H膜を全面成膜する(ステップS−6b)。
【0054】
(f)レジストを全面塗布し、電極基板接合面以外のレジストを除去し、a−C:H膜をRIEでO2 を用いたアッシングで除去し、SiNをCF4 を用いたエッチングで除去して、それぞれ表面膜100、及び保護膜101を形成する(ステップS−6c)。
【0055】
(g)ステップS−1〜ステップS−1aの工程が終了した電極基板3と、ステップS−6〜ステップS−6cの工程が終了したシリコン基板とを、対向電極30と振動板20とを対向させて、陽極接合する(ステップS−7)。
それ以降の製造工程は、実施の形態3で示した製造工程と実質的に同様なので、説明を省略する。
【0056】
上記の液滴吐出ヘッドの製造工程によれば、振動板20の絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21の上に酸素原子を含まない誘電体の保護膜(SiN膜)101を形成し、その上に表面膜(a−C:H膜)100を形成するので、絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21へのダメージがなく、良好な電気特性を示す。
【0057】
実施の形態5(液滴吐出ヘッド及びその製造方法)
図12は本発明の実施の形態5に係る液滴吐出ヘッドの要部(図8のA部に相当)を拡大した説明図である。実施の形態4では、振動板20の上に絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21、そのうえに保護膜(SiN膜)101、そのうえに表面膜(a−C:H膜)100を形成し、振動板20(振動板20の表面膜100)を対向電極(ITO電極)30に対向させたが、本実施の形態5では、対向電極30の上に対向電極側絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)31を形成して、この膜31を振動板20(振動板20の表面膜100)に対向させたものである。
【0058】
それぞれの膜厚は、振動板20の上に形成した絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21が例えば80nm、保護膜(SiN膜)101が例えば10nm、表面膜(a−C:H膜)100が例えば10nmとし、対向電極(ITO電極)30の上に形成した対向電極側絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)31を例えば30nmとしてある。
その他の、構成、作用は、実施の形態4と同様なので、説明を省略する。
本発明に係る液滴吐出ヘッド1は、振動板20と対向電極30の両側に、絶縁膜21と対向電極側絶縁膜31を有するアクチュエータに対しても、適用することができる。
【0059】
実施の形態6(液滴吐出ヘッド及びその製造方法)
図13は本発明の実施の形態6に係る液滴吐出ヘッドの要部(図8のA部に相当)を拡大した説明図である。実施の形態5では、振動板20の上にTEOS−SiO2 膜からなる絶縁膜21を形成したが、本実施の形態6では、振動板20の上にAl2 3 膜を形成し、そのうえにさらにTEOS−SiO2 膜を形成して、これらの2層によって絶縁膜21を形成したものである。なお、絶縁膜21の上に保護膜(SiN膜)101を形成し、そのうえに表面膜(a−C:H膜)100を形成することは、実施の形態5に示した場合と同様である。
【0060】
それぞれの膜厚は、振動板20の上に形成した絶縁膜21のうちAl2 3 膜が例えば40nm、TEOS−SiO2 膜が例えば50nmとし、保護膜(SiN膜)101が例えば10nm、表面膜(a−C:H膜)100が例えば10nmとし、対向電極(ITO電極)30の上に形成した絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)31を例えば30nmとしてある。
その他の、構成、作用は、実施の形態4と同様なので、説明を省略する。
【0061】
本発明に係る液滴吐出ヘッド1によれば、絶縁膜21の種類によらず、例えば、SiO2 膜とこれよりも比誘電率が高いAl2 3 膜が積層された絶縁膜21に対しても適用することができる。SiO2 よりも比誘電率が高いAl2 3 のような誘電材料を用いることによってアクチュエータ能力を向上させることができるため、高い吐出能力を有する液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0062】
実施の形態7(液滴吐出ヘッド及びその製造方法)
図14は本発明の実施の形態7に係る液滴吐出ヘッドの要部(図8のA部に相当)を拡大した説明図である。実施の形態5では、振動板20の上に絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21、そのうえに酸素原子を含まない誘電体の保護膜(SiN膜)101、そのうえに表面膜(a−C:H膜)100を形成したが、本実施の形態7では、保護膜101をa−SiC膜としたものである。
a−SiCからなる保護膜101は、モノメチルシランを原料ガスに用いたRF−プラズマCVD法によって形成する。
それぞれの膜厚は、振動板20の上に形成した絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21が例えば80nm、酸素原子を含まない誘電体の保護膜(a−SiC膜)101が例えば10nm、表面膜(a−C:H膜)100が例えば10nmとし、対向電極(ITO膜)30の上に形成した対向電極側絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)31を例えば30nmとしてある。
その他の、構成、作用は、実施の形態5と同様なので、説明を省略する。
【0063】
実施の形態8(液滴吐出ヘッド及びその製造方法)
図15は本発明の実施の形態8に係る液滴吐出ヘッドの要部(図8のA部に相当)を拡大した説明図である。実施の形態5では、振動板20の上に絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21、そのうえに酸素原子を含まない誘電体の保護膜(SiN膜)101、そのうえに表面膜(a−C:H膜)100を形成したが、本実施の形態8では、保護膜101をa−BN膜としたものである。
a−BNからなる保護膜101は、ボロンをターゲットとした反応性ECRスパッタ法によって形成する。
それぞれの膜厚は、振動板20の上に形成した絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)21が例えば80nm、酸素原子を含まない誘電体の保護膜(a−BN膜)101が例えば10nm、表面膜(a−C:H膜)100が例えば10nmとし、対向電極(ITO膜)30の上に形成した対向電極側絶縁膜(TEOS−SiO2 膜)31を例えば30nmとしてある。
その他の、構成、作用は、実施の形態5と同様なので、説明を省略する。
【0064】
実施の形態9(液滴吐出装置)
図16は本発明の実施形態9に係る液滴吐出装置の斜視図である。液滴吐出装置500は、実施の形態3〜8に係る液滴吐出ヘッド1を搭載したもので、液滴としてインクを吐出するインクジェットプリンタである。
液滴吐出装置500は、液滴吐出ヘッド1の振動板20側もしくは対向電極30側に形成された表面膜100が高硬度で潤滑性の高い膜からなり、しかも保護膜101によって保護されて下地となる絶縁膜21もしくは対向電極30にダメージを与えることがないため、安定した駆動による高精度のインク吐出が可能となる。
なお、実施の形態2〜8に示した液滴吐出ヘッド1は、ここに示したインクジェットプリンタの他に、吐出する液滴を種々変更することで、カラーフィルタのマトリクスパターンの形成、有機EL表示装置の発光部の形成、生体液体試料の吐出等を行う液滴吐出装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1に係る静電アクチュエータの縦断面図。
【図2】本発明の実施の形態2に係る静電アクチュエータの縦断面図。
【図3】本発明の実施の形態3に係る液滴吐出ヘッドの一部を断面で示した分解斜視図。
【図4】図3を組み立てた状態の要部の縦断面図。
【図5】図4の液滴吐出ヘッドの圧力室付近の断面図。
【図6】図4の要部を拡大した説明図。
【図7】実施の形態3に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャート。
【図8】本発明の実施の形態4に係る液滴吐出ヘッドの要部を拡大した縦断面図。
【図9】図8の液滴吐出ヘッドの圧力室付近の断面図。
【図10】図8の要部を拡大した説明図。
【図11】実施の形態4に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャート。
【図12】本発明の実施の形態5に係る液滴吐出ヘッドの要部を拡大した説明図。
【図13】本発明の実施の形態6に係る液滴吐出ヘッドの要部を拡大した説明図。
【図14】本発明の実施の形態7に係る液滴吐出ヘッドの要部を拡大した説明図。
【図15】本発明の実施の形態8に係る液滴吐出ヘッドの要部を拡大した説明図。
【図16】本発明の実施の形態9に係る液滴吐出装置の斜視図。
【符号の説明】
【0066】
1 液滴吐出ヘッド、2 キャビティ基板、3 電極基板、4 ノズル基板、20 振動板、21 絶縁膜、22 圧力室、23 リザーバ、24 オリフィス、30 対向電極、31 対向電極側絶縁膜、40 ノズル、50 駆動回路、60 封止材、61 吐出液供給口、100 表面膜(水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜))、101 保護膜(SiN膜、a−SiC膜、a−BN膜)、500 液滴吐出装置、G ギャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、前記振動板にギャップを隔てて対向する対向電極とを備え、前記振動板の前記対向電極との対向面に絶縁膜が形成された静電アクチュエータであって、
前記振動板の絶縁膜と前記対向電極とのいずれか一方の面上に、保護膜が形成されるとともに、前記保護膜の上に水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)が形成され、
前記保護膜が酸素原子を含まない誘電体の保護膜であることを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項2】
前記保護膜と前記水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)とが前記振動板の絶縁膜の上に形成され、前記対向電極の上に対向電極側絶縁膜がさらに形成されたことを特徴とする請求項1記載の静電アクチュエータ。
【請求項3】
前記対向電極が酸化物系の電極であり、前記絶縁膜が酸化膜であることを特徴とする請求項1または2記載の静電アクチュエータ。
【請求項4】
前記保護膜がSiN膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
前記保護膜がa−SiC膜及びa−BN膜のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項6】
前記対向電極がITO電極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項7】
前記絶縁膜が、酸化シリコンからなる酸化膜、前記酸化シリコンより比誘電率が高い酸化膜、及びこれらの膜が積層して形成された酸化膜のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の静電アクチュエータを備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項8記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項10】
シリコン基板の表面に絶縁膜を形成する工程と、
電極基板に溝を形成してその溝内に対向電極を形成する工程と、
前記シリコン基板の絶縁膜と前記電極基板の対向電極のいずれか一方の面上に保護膜を形成し、前記保護膜の上に水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H膜)を形成する工程と、
前記絶縁膜と前記対向電極とをギャップを隔てて対向させて、前記シリコン基板と前記電極基板とを接合する工程と、
前記シリコン基板と前記電極基板間に形成されたギャップ内の水分を除去して前記ギャップを封止する工程と、
前記シリコン基板に振動板を形成する工程と、
を有することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の静電アクチュエータの製造方法を適用して、液滴吐出ヘッドのアクチュエータ部分を形成することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−159747(P2009−159747A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335950(P2007−335950)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】