説明

静電アクチュエーター、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び静電デバイス

【課題】静電アクチュエーターの高密度化に対応するためにリード配線間の距離が短くなっても、マイグレーション等の発生を防ぎ、信頼性を維持することができる静電アクチュエーター等を得る。
【解決手段】可動電極となる振動板22と、電極基板上に形成された固定電極となる電極12の個別電極部12Aとを備え、振動板22と個別電極部12Aとの間に電圧を印加して静電気力を発生させて振動板22を駆動する静電アクチュエーターであって、電極基板10は、ドライバーIC50と電気的に接続するための端子部12C、個別電極部12Aと端子部12Cとを電気的に接続するリード配線部12B及び複数のリード配線部12Bを被覆して絶縁を行うための絶縁膜15をさらに有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工素子において、加わった力により可動部が変位等し、動作(駆動)等を行う静電アクチュエーター、液滴吐出ヘッド等の静電駆動デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコン等を加工して微小な素子等を形成する微細加工技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)が急激な進歩を遂げている。微細加工技術により形成される微細加工素子の例としては、例えば液滴吐出方式のプリンターのような記録(印刷)装置で用いられている液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)、マイクロポンプ、光可変フィルター、モーターのような静電アクチュエーター等がある。
【0003】
ここで、微細加工素子の一例として静電アクチュエーター(電気−機械エネルギー変換素子)を利用した液滴吐出ヘッドについて説明する。液滴吐出方式の記録(印刷)装置は、家庭用、工業用を問わず、あらゆる分野の印刷に利用されている。液滴吐出方式とは、例えば複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを対象物との間で相対移動させ、対象物の所定の位置に液滴を吐出させて印刷等の記録をするものである。この方式は、液晶(Liquid Crystal)を用いた表示装置を作製する際のカラーフィルター、有機化合物等の電界発光(ElectroLuminescence )素子を用いた表示パネル(OLED)、DNA、タンパク質等、生体分子のマイクロアレイ等の製造にも利用されている。
【0004】
液滴吐出ヘッドにおいて、流路の一部に液体を溜めておく複数の吐出室を備え、吐出室の少なくとも一面の壁(ここでは、底部の壁とし、以下、この壁のことを振動板ということにする)を撓ませて(駆動させて)形状変化により吐出室内の圧力を高め、連通する各ノズルから液滴を吐出させる方法がある。静電アクチュエーターを液滴吐出ヘッドに利用する場合、可動部位である振動板を変位させる力(エネルギー)として、例えば、振動板を可動電極とし、振動板と一定距離を空けて個別に対向する固定電極(以下、個別電極という)との間に発生する静電気力(ここでは特に静電引力を用いている。以下、静電力という)を利用している。
【0005】
そして、例えば駆動制御を行う制御手段の指示による電荷供給により、振動板と個別電極との間に電位差を生じさせ(電圧を印加し)、静電力を発生させて、振動板を個別電極に引きつけて変位させ当接させる。その後、静電力を弱める、停止させる等すると、形状変化した吐出室(変位した振動板)が元に戻って平衡状態になろうとする復元力(弾性力)の方が大きくなるため、振動板が個別電極から離間して変位し、元の位置に戻る。これらを繰り返すことで振動板を変位駆動させる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−058288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、液滴吐出ヘッドに関しては、近年、高精細な印刷等が要求されており、その要求に対応するためにノズルの高密度化が進んでいる。それに伴い、静電アクチュエーターを構成する、各ノズルに対応する個別電極等の幅も狭くなり、各個別電極に電荷を供給する配線等の密度が高くなる。このため、外部から各個別電極に電荷供給するための各リード配線間の距離も短く、配線が細くなる場合もある。
【0007】
また、高密度化することで例えば吐出室の幅が狭くなる。そのため、振動板が変位しても吐出室の容積の変化量が少なくなり、吐出できる液体の量が減ってしまう。このため、振動板と個別電極の間の空間(以下、ギャップという)を広くして、振動板の変位を大きくすることができるが、印加する電圧が高くなってしまう。
【0008】
ここで、印加する電圧を高くしようとすると、リード配線を流れる電荷により発生する電界の強度が高くなってしまう。リード配線間の距離が短く、電界強度が高い状態で長期的に駆動することで、リード配線にマイグレーション等が生じ、他の配線への干渉、短絡、断線等が発生する可能性があり、静電アクチュエーターの信頼性が低下してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、静電アクチュエーターの高密度化に対応するためにリード配線間等の距離が短くなっても、マイグレーション等の発生を防ぎ、信頼性を維持することができる静電アクチュエーター等を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る静電アクチュエーターは、可動電極と、電極基板上に形成された固定電極とを備え、可動電極と固定電極との間に電圧を印加して静電気力を発生させて可動電極を駆動する静電アクチュエーターであって、電極基板は、駆動装置と電気的に接続するための端子、個別電極と端子とを電気的に接続するリード配線及び複数のリード配線を被覆して絶縁を行うための絶縁膜をさらに有するものである。
本発明によれば、複数のリード配線を被覆する絶縁膜を有し、リード配線における電気的な絶縁をはかるようにし、例えば端子等だけを露出させるようにすることで、露出部分(絶縁されない部分)の距離を広げ、電極間の距離を実質的に広げることができる。そのため、可動電極と固定電極との間に高い電圧を印加しても、電界強度が高くなって、他のリード配線を断線させたり、干渉させたりすることがなく、例えば高密度で構成するようにしても、長寿命で信頼性の高い静電アクチュエーターを得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る静電アクチュエーターは、絶縁膜を固定電極にも被覆させるものである。
本発明によれば、絶縁膜を固定電極へも被覆させるようにしたので、可動電極と固定電極との間の絶縁も実現することができる。このとき、リード配線を覆う絶縁膜と同一工程において同一形成を行うことができるので、工程を増加させることなく、被覆を実現することができる。
【0012】
また、本発明に係る静電アクチュエーターにおいて、絶縁膜は、積層した複数の膜からなり、最表面の膜はドライエッチングによるガスへの耐性を有する膜である。
本発明によれば、複数の膜を積層して絶縁膜を構成し、最表面の膜については異方性ドライエッチングに係るガスに耐性をもたせるようにしたので、製造工程において行われる異方性ドライエッチングにおける膜の損傷等を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記の静電アクチュエーターを有し、液体が充填される吐出室の少なくとも一部分を可動電極として、可動電極の変位により吐出室と連通するノズルから液滴を吐出させる。
本発明によれば、上記の静電アクチュエーターを液滴吐出ヘッドの液体加圧手段として利用するようにしたので、複数のリード配線を覆う絶縁膜により、マイグレーション等を防ぎ、長寿命で信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
本発明によれば、上記の液滴吐出ヘッドを搭載するようにしたので、長寿命で信頼性の高い液滴吐出装置を得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る静電駆動デバイスは、上記の静電アクチュエーターを搭載したものである。
本発明によれば、上記の静電アクチュエーターを静電駆動デバイスに搭載するようにしたので、長寿命で信頼性の高い静電駆動デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。図1は液滴吐出ヘッドの一部を示している。本実施の形態では、例えば静電方式で駆動する静電アクチュエーターを用いるデバイスとなるフェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドについて説明する。(なお、構成部材を図示し、見やすくするため、図1を含め、以下の図面では各構成部位(部材)の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図における上側を上とし、下側を下として説明する)。また、厚さ、深さ等における具体的な数値は一例である。
【0017】
図1に示すように本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板10、キャビティー基板20、リザーバー基板30及びノズル基板40の4つの基板が下から順に積層されて構成される。ここで本実施の形態では、電極基板10とキャビティー基板20とは陽極接合により接合する。また、キャビティー基板20とリザーバー基板30、リザーバー基板30とノズル基板40とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する。
【0018】
第1の基板となる電極基板10は、例えば硼珪酸系の耐熱硬質ガラス等の基板を主要な材料としている。本実施形態では、ガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。電極基板10の表面には、後述するキャビティー基板20に形成される吐出室21となる凹部に合わせて、例えば深さ約0.3μmを有する複数の凹部11が形成されている。また、キャビティー基板20の各吐出室21(振動板22)と対向する凹部11の内側(特に底部)には、電極12が設けられている。電極12は固定電極となる個別電極部12A、リード配線部12B及び端子部12Cを有し、端子部12Cを介して、駆動装置となるドライバーIC50と電気的に接続され、ドライバーIC50から電圧印加(電荷供給)等が行われる。この電極12は、例えばスパッタリングにより、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を0.1μmの厚さで凹部11の内側に成膜することで形成される。そして、振動板22と電極12の個別電極部12Aとの間は、凹部11により振動板22が撓む(変位する)ことができる一定のギャップ(凹部11等に囲まれた空間、空隙室)が形成される。
【0019】
図2は電極12間のリード配線部12B、端子部12Cの関係を表す図である。本実施の形態の液滴吐出ヘッドは、端子部12Cと駆動装置となるドライバーIC50の端子とを直接接続するように構成するため、端子部12CはドライバーIC50の端子の配列に合わせて形成する。本実施の形態ではドライバーIC50の端子は片側2列の4列で構成しているものとし、図2に示すように、ドライバーIC50の端子の配列に対応して、例えば異方性導電材料を構成する導電粒子の粒子径等を考慮した所定の面積で端子部12Cを電極基板10に形成している。一方、個別電極部12Aについては、ノズル41に合わせた配列を行い、液滴吐出ヘッドの長手方向に沿って片側一列になるように所定の面積で形成している。このように端子部12C、個別電極部12Aは、配列、面積等に制約があるため、リード配線部12Bによる配線が複雑になり、従来、図2に示すように、電極12間における最小隣接距離が狭くならざるを得ないことがある。
【0020】
そのため、本実施の形態では、リード配線部12Bにおける電界発生により、マイグレーション等、他の電極12への干渉等を防止するために、リード配線部12Bと他の電極12との間を絶縁する絶縁膜15を成膜する。これにより、各電極12における露出部分は端子部12Cだけとなる。端子部12C間の距離は従来の最小隣接距離よりも広く、面積等も大きいため、断線等が発生することなく、長期間、静電アクチュエーターの信頼性を維持することができる。ここで、本実施の形態においては、個別電極部12Aにおいても振動板22との間で絶縁を行うため、絶縁膜15は、リード配線部12を形成している部分だけでなく、各電極12の個別電極部12Aも同一成膜して覆うようにしている。また、ここでは、絶縁膜15を単層の膜とするが、複数の膜を積層して成膜するようにしてもよい。絶縁膜15の厚さについては特に限定しないが、電極12間において発生する電界の影響を互いに受けないようにする厚さにする必要がある。
【0021】
また、凹部11には、後述するFPC51からドライバーIC50に、各個別電極部12Aにそれぞれ個別の電荷供給制御する信号となるSEG信号を送信するための信号配線13が設けられている。信号配線13は、ドライバーIC50が収容されたときに、ドライバーIC50の直下となる部分に配される。また、電極基板10には、他にも外部のタンク(図示せず)から供給された液体を取り入れる流路となる液体取り入れ口14となる貫通穴が設けられている。
【0022】
キャビティー基板20は、シリコン単結晶基板(以下、シリコン基板という)を主要な材料としている。本実施の形態では、例えば厚さ約50μmで表面が(110)面方位のシリコン基板であるものとする。キャビティー基板20には、吐出室21となる凹部(底壁がボロンドープ層で形成され、可動電極となる振動板22となっている)が形成されている。また、キャビティー基板20の下面(電極基板10と対向する面)には、絶縁膜15と同様に、振動板22と個別電極部12Aとの間を電気的に絶縁するための絶縁膜23が成膜されている。ここで、絶縁膜23は、例えばTEOS(Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン(珪酸エチル))を用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition :TEOS−pCVDともいう)法により成膜した酸化シリコンの膜(以下、TEOS膜という)であるものとする。ここでは絶縁膜23をTEOS膜としているが、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))を用いてもよい。
【0023】
また、キャビティー基板20にも液体取り入れ口14となる貫通穴が設けられている(電極基板10に設けられた貫通穴と連通する)。さらに、外部の電力供給手段(図示せず)から基板(振動板22)に個別電極部12Aと反対の極性の電荷を供給する際の端子となる共通電極端子25を備えている。また、ドライバーICを収容するためのドライバー収容部26となる貫通穴を有している。
【0024】
リザーバー基板30は例えばシリコン基板を主要な材料とする。リザーバー基板30には、各吐出室21に液体を供給するリザーバー(共通液室)31となる凹部が形成されている。この凹部の底面にも、液体取り入れ口14となる貫通穴(電極基板10に設けられた貫通穴と連通する)が設けられている。また、凹部の底面には、リザーバー31から各吐出室21に液体を供給するための供給口32が各吐出室21の位置に合わせて形成されている。そして、各吐出室21とノズル基板40に設けられたノズル41との間の流路となり、吐出室21で加圧された液体がノズル41に移送する流路となる複数のノズル連通孔33が各ノズル(各吐出室21)に合わせて設けられている。また、ドライバーIC50を収容するためのドライバー収容部26となる貫通穴(キャビティー基板20に設けられた貫通穴と連通する)を有している。
【0025】
ノズル基板40についても、例えばシリコン基板を主要な材料とする。ノズル基板40には、複数のノズル41が形成されている。各ノズル41は、各ノズル連通孔33から移送された液体を液滴として外部に吐出する。本実施の形態のノズル基板40は、2段で形成されたノズル41を複数有しているものとする。ノズル41を複数段で形成すると、液滴を吐出する際の直進性向上が期待できる。ここで、振動板22によりリザーバー31側の液体に加わる圧力を緩衝するためのダイヤフラムを設けるようにしてもよい。ここで、ノズル基板40が蓋となって、ドライバー収容部26に収容したドライバーIC50が保護される。
【0026】
ドライバーIC50は、液滴吐出ヘッドにある複数の個別電極部12Aに対して、それぞれ独立して電圧を印加し、電荷供給、維持、放電等を行うための手段である。本実施の形態では、2つのドライバーIC50を収容するようにしているが、この数について限定するものではない。また、FPC(Flexible Print Circuit)51は、駆動制御手段(図示せず)からの信号を液滴吐出ヘッド側に送信するための配線が設けられている。配線は、共通電極端子25を介して液滴吐出ヘッド内の全振動板22に対して共通した電荷供給制御を行うためのCOM信号を送信する配線と信号配線13を介してドライバーIC50に前述したSEG信号を送信する配線からなる。
【0027】
図3は液滴吐出ヘッドの断面図である。振動板22と個別電極部12Aとの間に形成されたギャップ(空間、空隙)は、封止材24による封止により、ドライバー収容部26の空間と連通することなく、外気と遮断されている。
【0028】
例えば、ドライバーIC50に選択された個別電極部12Aに所定の電圧が印可され、正に帯電する。このとき、振動板22は相対的に負に帯電する(例えば、FPC等、共通電極端子25を介してキャビティー基板20には負の極性を有する電荷が供給される)。そのため、選択された個別電極部12Aと振動板22との間では静電力が発生し、個別電極部12Aに引き寄せられて撓む。これにより吐出室21の容積は広がる。そして電荷供給を止めると振動板22は元に戻ろうとする。そのとき吐出室21の容積も元に戻り、その圧力で加圧された液体がノズル41から液滴として吐出する。この液滴が例えば記録紙に着弾することによって印刷等が行われる。
【0029】
図4、図5及び図6は本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図である。図4〜図6に基づいて液滴吐出ヘッドの製造手順について説明する。なお、ここではウェハ単位で複数個分の液滴吐出ヘッドの部位等を同時形成するが、図4〜図6ではその一部分だけを示している。
【0030】
シリコン基板61の片面(電極基板10との接合面側となる)を鏡面研磨し、例えば220μmの厚さの基板(キャビティー基板20となる)を作製する。次にシリコン基板61の接合面側にボロンドープ層(図示せず)を形成する。また、ボロンドープ層を形成した面に対し、上述したように例えばプラズマCVD法により、TEOS膜である絶縁膜23を成膜する(図4(a))。
【0031】
電極基板10については、上記図4(a)とは別工程で作製する。約1mmのガラスの基板の一方の面に対し、所定の深さの凹部11を形成する。凹部11を形成した後、例えばフォトリソグラフィー法、スパッタリング法を用いて、凹部11内の所望する位置に、電極12(個別電極部12A、リード配線部12B、端子部12C)及び信号配線13(図示せず)を同時に形成する。さらに、フォトリソグラフィー法、スパッタリング法を用いて、個別電極部12A及びリード配線部12Bを覆うように絶縁膜15を成膜する。ここで、絶縁膜15については、前述したように複数の膜を積層するようにしてもよい。このとき、最表面の膜について、後の工程で異方性ドライエッチングを行うような場合には、エッチング用のガスに対して耐性のある材料で成膜するようにすることが望ましい。例えば、SF6 (六フッ化硫黄)、CHF3 (トリフルオロメタン)、CF4 (四フッ化メタン)をガスとして用いる場合にはダイヤモンドライクカーボン(DLC)を材料とする膜を最表面とする。SF6 、CF4 の場合には、Al23(酸化アルミニウム(アルミナ))、HfO2 (酸化ハフニウム)を材料としてもよい。そして、最後に液体取り入れ口14となる穴をサンドブラスト法または切削加工等により所定の形状で形成する。これにより、電極基板10を作製する(図4(b))。
【0032】
そして、シリコン基板61と電極基板10を360℃に加熱した後、電極基板10に負極、シリコン基板61に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合を行う(図4(c))。
【0033】
陽極接合後の接合済み基板(以下、接合済み基板という)に対し、シリコン基板61の厚さが例えば約60μmになるまでシリコン基板61表面の研削(研磨)加工を行って薄板化を行う。その後、加工変質層を除去する為に、32w%の濃度の水酸化カリウム溶液により、シリコン基板61に対して約10μmのウェットエッチングを行う。これによりシリコン基板61の厚さを約50μmにする(図4(d))。
【0034】
次に、ウェットエッチングを行った面に対し、TEOS膜によるハードマスク(以下、TEOSハードマスクという)62をプラズマCVD法により成膜する。TEOSハードマスク62を成膜した後、吐出室21、ドライバー収容部26、液体取り入れ口14となる部分のTEOSハードマスク62をエッチングするため、レジストパターニングを施す。そして、フッ酸水溶液を用いてTEOSハードマスク62が無くなるまで、それらの部分をエッチングしてTEOSハードマスク62をパターニングし、それらの部分について、シリコン基板61を露出させる。エッチングした後にレジストを剥離する。
【0035】
そして、接合済み基板を35wt%の濃度の水酸化カリウム(KOH)水溶液に浸し、吐出室21、ドライバー収容部26、液体取り入れ口14となる部分の厚さが約10μmになるまでウェットエッチングを行う。さらに、接合済み基板を3wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、ボロンドープ層が露出し、エッチングの進行が極度に遅くなるエッチングストップが十分効いたものと判断するまでウェットエッチングを続ける(図4(e))。
【0036】
ドライバー収容部26、液体取り入れ口14となる部分のボロンドープ層を除去するため、ドライバー収容部26となる部分が開口したシリコンマスク63を、接合済み基板のシリコン基板61側の表面に取り付ける。そして、例えば、RIEドライエッチング(異方性ドライエッチング)を行い、ドライバー収容部26、液体取り入れ口14となる部分にプラズマを当てて、開口する(図5(f))。
【0037】
さらに共通電極端子25となる部分を開口したマスク64を、接合済み基板のシリコン基板61側の表面に取り付ける。そして、共通電極端子25となる部分のTEOSハードマスク62を除去した後、さらに、例えばプラチナ(Pt)をターゲットとしてスパッタ等を行い、共通電極端子25を形成する(図5(g))。
【0038】
さらに、例えば、ギャップへの水分透過等を防ぐために、TEOSを用いたプラズマCVD、蒸着、スパッタ等により、封止材24を堆積させて封止を行う。堆積させる封止材24の厚さについては、特に限定しないが、ギャップの幅が約0.2μmであることから、例えば最薄部分で約2〜3μm又はそれ以上、他の基板との接合に影響しない範囲で堆積できればよい。以上のようにして、キャビティー基板20の作製等を行い、キャビティー基板20と電極基板10とが接合された接合済み基板を作製する(図5(h))。
【0039】
そして、ドライバーIC50を電極基板10に載置し、例えばACF(Anisotropic Conductive Film )、ACP(Anisotropic Conductive Paste)等の異方性導電材料等を用いて、ドライバーIC50が有する端子と各電極12の端子部12Cとを電気的に接続する(図6(i))。
【0040】
また、あらかじめ別工程で作製していたリザーバー基板30を、例えばエポキシ系接着剤により、接合済み基板のキャビティー基板20側から接着し、接合する(図6(j))。さらに別工程で作製していたノズル基板40についても同様に、例えばエポキシ系接着剤により、接合したリザーバー基板30側から接着し、接合する。そして、ダイシングラインに沿ってダイシングを行い、個々のチップに切断し、液滴吐出ヘッドが完成する(図6(k))。
【0041】
以上のように実施の形態1によれば、電極基板10のリード配線部12Bを絶縁するために絶縁膜15で覆うようにしたので、リード配線部12Bを露出させないようにし、リード配線部12Bに発生する電界の影響を他の電極12に及ぼさないようにすることで、マイグレーション等を防止することができる。このため、例えばノズル41等を高密度化するために、吐出室22、個別電極部12A等を合わせて高密度で構成しても、長寿命で信頼性の高い静電アクチュエーターを得ることができる。また、絶縁膜15が各個別電極部12Aも覆うようにしたので、個別電極部12Aと振動板22との絶縁をはかることができる。このとき、リード配線部12Bを覆う膜と同一の膜とすることで、工程を増加させることなく、各個別電極部12Aへの絶縁膜15の被覆を実現することができる。また、絶縁膜15(絶縁膜15が複数の膜の場合は最表面の膜)をドライエッチングによるガスへの耐性を有する膜とすることで、製造工程においてドライエッチングが行われた際に、絶縁膜15がエッチングされてしまうことを防ぎ、有効に絶縁をはかることができる。
【0042】
実施の形態2.
図7は本発明の実施の形態2に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図である。本実施の形態は、液滴吐出ヘッドを製造する際の絶縁膜15の成膜に係る手順が実施の形態1において説明した手順と異なる。実施の形態1においては、絶縁膜15を成膜した後に、キャビティー基板20となるシリコン基板61を接合し、加工を行うようにした。本実施の形態では、電極基板10にシリコン基板61を接合した後に、リード配線部12Bに対して絶縁膜15を成膜するようにしたものである。このため、個別電極部12A上には絶縁膜15が成膜されない。ただ、振動板22と個別電極部12Aとの絶縁性については、振動板22の下面に成膜した絶縁膜23により担保することができる。
【0043】
図7に基づいて、実施の形態2に係る製造方法について説明する。ここで、図5(h)に示す封止材24を形成するまでの工程については、基本的に実施の形態1で説明したことと同様である(図7(a))。ただし、本実施の形態では、図4(b)において電極基板10に成膜した絶縁膜15については成膜を行っていない。ここで、封止材24は、基本的には酸化シリコン等の絶縁材料で構成しており、封止材24によっても電極12間の絶縁を図ることができる。そして、封止材24と絶縁膜15とを同じ材料で構成することができる。ただ、次の工程で行うレジスト71を形成するためにギャップ内の保護をはかる必要があるため、封止材24の形成と同一の工程で絶縁膜15の成膜を行うことができず、封止材24を形成した後に行う必要がある。
【0044】
例えば、端子部12C、信号配線13等、絶縁膜15を成膜しない部分を保護するため、フォトリソグラフィー法を用い、レジスト膜(フォトレジスト)となる感光剤を、例えばスプレーコート法によりドライバー収容部26に吹き付けて塗布する。そして、露光、現像により、パターニングを行って、レジスト71を形成する(図7(b))。
【0045】
そして、スパッタリング法等により絶縁膜15を堆積させる(図7(c))。ここで、吐出室21となる凹部等については、絶縁膜15が堆積しないようにシリコンマスク72等で保護する。
【0046】
絶縁膜15の成膜が終了すると、レジスト71を剥離する(図7(d))。そして、実施の形態1で説明したように、ドライバーIC50を電極基板10に載置し、リザーバー基板30及びノズル基板40を接合してダイシングを行い、液滴吐出ヘッドが完成する。
【0047】
以上のように、実施の形態2によれば、レジスト71を形成した後にスパッタリング等により絶縁膜15を堆積させて成膜するようにして液滴吐出ヘッドの製造を行うようにしたので、実施の形態1以外の他の製造方法によっても、リード配線部12Bを覆う絶縁膜15を成膜することができる。
【0048】
実施の形態3.
上述の実施の形態では、フェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドについて説明したが、例えば側面から液滴吐出を行うエッジイジェクト型の液滴吐出ヘッドにも適用することができる。また、上述の実施の形態は、4つの基板を積層して構成する液滴吐出ヘッドについて説明したが、積層する基板の数を4つに限定するものではない。例えばリザーバーをキャビティー基板20に形成することで、リザーバー基板30を有していない3層の液滴吐出ヘッドについても適用することができる。
【0049】
実施の形態4.
図8は上述の実施の形態で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置(プリンター100)の外観図である。また、図9は液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図8及び図9の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図9において、被印刷物であるプリント紙110が支持されるドラム101と、プリント紙110にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド102とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド102にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙110は、ドラム101の軸方向に平行に設けられた紙圧着ドライバー103により、ドラム101に圧着して保持される。そして、送りネジ104がドラム101の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド102が保持されている。送りネジ104が回転することによって液滴吐出ヘッド102がドラム101の軸方向に移動するようになっている。
【0050】
一方、ドラム101は、ベルト105等を介してモーター106により回転駆動される。また、プリント制御手段107は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ104、モーター106を駆動させ、また、ここでは図示していないが、発振駆動回路を駆動させて振動板4を振動させ、制御をしながらプリント紙110に印刷を行わせる。
【0051】
ここでは液体をインクとしてプリント紙110に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルターとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルター用の顔料を含む液体、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids :デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【0052】
実施の形態5.
上述の実施の形態は、液滴吐出ヘッドを例として説明したが、本発明は液滴吐出ヘッドだけに限定されず、他の微細加工による静電アクチュエーターを複数に配置した静電型の駆動デバイスの外部電源との接続にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。
【図2】電極12間のリード配線部12B、端子部12Cの関係を表す図である。
【図3】液滴吐出ヘッドの断面を表す図である。
【図4】実施の形態1の液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図(その1)である。
【図5】実施の形態1の液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図(その2)である。
【図6】実施の形態1の液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図(その3)である。
【図7】実施の形態2の液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図である。
【図8】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。
【図9】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 液滴吐出ヘッド、10 電極基板、11 凹部、12 電極、12A 個別電極部、12B リード配線部、12C 端子部、13 信号配線、14 液体取り入れ口、15 絶縁膜、20 キャビティー基板、21 吐出室、22 振動板、23 絶縁膜、24 封止材、25 共通電極端子、26 ドライバー収容部、30 リザーバー基板、31 リザーバー、32 供給口、33 ノズル連通孔、40 ノズル基板、41 ノズル、50 ドライバーIC、51 FPC、61 シリコン基板、62 TEOSハードマスク、63 シリコンマスク、64 マスク、100 プリンター、101 ドラム、102 液滴吐出ヘッド、103 紙圧着ドライバー、104 送りネジ、105 ベルト、106 モーター、107 プリント制御手段、110 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動電極と、電極基板上に形成された固定電極とを備え、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧を印加して静電気力を発生させて前記可動電極を駆動する静電アクチュエーターであって、
前記電極基板は、駆動装置と電気的に接続するための端子、前記個別電極と前記端子とを電気的に接続するリード配線及び複数のリード配線を被覆して絶縁を行うための絶縁膜をさらに有することを特徴とする静電アクチュエーター。
【請求項2】
前記絶縁膜を前記固定電極にも被覆させることを特徴とする請求項1記載の静電アクチュエーター。
【請求項3】
前記絶縁膜は、積層した複数の膜からなり、最表面の膜はドライエッチングによるガスへの耐性を有する膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の静電アクチュエーター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエーターを有し、
液体が充填される吐出室の少なくとも一部分を前記可動電極として、前記可動電極の変位により前記吐出室と連通するノズルから液滴を吐出させることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエーターを搭載したことを特徴とする静電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−142016(P2010−142016A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315722(P2008−315722)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】