説明

静電型アクチュエータ、その製造方法、液滴吐出ヘッド、液体カートリッジ、画像形成装置、マイクロポンプおよび光学デバイス

【課題】コスト上昇を招くことなく、エッチング時の水素ガス発生による振動板破壊を防いだ精度の高い静電型アクチュエータなどを提供すること。
【解決手段】ベース基板上に変形可能な振動板とこれに所定のギャップを介して対向する電極とを備え、前記振動板を静電力により変形させる静電型アクチュエータにおいて、前記ギャップは、前記ギャップと略同じ高さに形成された梁で囲まれ、前記梁は複数の層からなる静電型アクチュエータを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電型アクチュエータ、その製造方法、液滴吐出ヘッド、液体カートリッジ、画像形成装置、マイクロポンプおよび光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録時の騒音が極めて小さいこと、高速印字が可能であること、インクの自由度が高く安価な普通紙を使用できることなど多くの利点を有している。この中でも記録が必要な時にのみインク液滴を吐出する、いわゆるインク・オン・デマンド方式が、記録に不要なインク液滴の回収を必要としないため、現在主流となってきている。
このようなインクジェット記録装置として、たとえば、ベース基板上に電極を電極分離溝で分離して設け、電極分離溝は絶縁膜で埋め込んで平坦化し、更に犠牲層を形成し、振動板を形成した後、犠牲層をエッチング除去してギャップを形成することでアクチュエータ基板を構成し、アクチュエータ基板の振動板側表面を略平坦面に形成した静電型アクチュエータなどの発明が知られている(特許文献1参照)。
この発明によって特性のバラツキが小さく、信頼性の高いアクチュエータなどの発明が得られるようになった。
【0003】
また液吐出室の少なくとも一方の壁を構成する振動板と、該振動板に対してギャップを介して対向配置された対向電極を有する静電駆動式液滴吐出ヘッドにおいて、前記振動板の前記対向電極面に振動板自体の一部が突起している突起部を形成し、振動板と対向電極との接触面を小さくする発明も知られている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−098506公報
【特許文献2】特開2004−255759公報
【0005】
このような特許文献1〜2に示される静電型アクチュエータでは、後に除去することを前提として犠牲層を個別電極材料や振動板材料と同様に積層膜として成膜し、除去孔からこの犠牲層を除去してギャップを形成することが提案されている。犠牲層としてはポリシリコンが用いられ、除去方法として、SFによるドライエッチングやアルカリ水溶液によるウェットエッチングがあげられている。このようなシリコン材料を用いた犠牲層のアルカリエッチングを行なうと、大量の水素が発生し、この工法を採用すると発生したガスの放出が追いつかないという問題がある。その結果、内部の圧力上昇を招き、最悪の場合には振動板が破壊されてしまうという問題が発生する。
このため、大量のガスの発生を抑止する為にエッチングスピードを遅くすると、大幅なスループットの低下を招き、コストアップにつながりかねない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、コスト上昇を招くことなく、エッチング時の水素ガス発生による振動板破壊を防いでギャップを形成した、精度の高い静電型アクチュエータ、及びその静電型アクチュエータの製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、液滴吐出ヘッドを一体化したインクカートリッジ、及びこの液滴吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を提供することを目的とする。更にまた、本発明は前記のアクチュエータを構成するアクチュエータを備えたマイクロポンプ、光学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、以下の解決手段を有する。
(1) ベース基板上に変形可能な振動板とこれに所定のギャップを介して対向する電極とを備え、前記振動板を静電力により変形させる静電型アクチュエータにおいて、前記ギャップは前記ギャップと略同じ高さにエッチングにより形成された梁で囲まれ、前記梁は複数の層からなることを特徴とする静電型アクチュエータ。
(2) 上記(1)に記載の静電型アクチュエータにおいて、前記梁は複数の層からなる積層構造であり、その主成分がシリコンであることを特徴とする。
(3) ベース基板上に変形可能な振動板とこれに所定のギャップを置いて対向する電極とを備え、前記振動板を静電力で変形させる静電型アクチュエータの製造方法において、複数の層からなる犠牲層を成膜する工程と、前記犠牲層の積層方向に所定の大きさに分離してギャップにする部と梁とを形成し、前記犠牲層の表面と前記分離部とにエッチング液に対して耐エッチング性を有する膜で被覆する工程と、前記ギャップとする部を前記エッチング液で除去するエッチング工程とを有し、前記エッチング工程において前記ギャップ部の1層を他の層よりも早くエッチングするようにしたことを特徴とする。
(4) 上記(3)に記載の静電型アクチュエータの製造方法において、前記犠牲層は、その成膜温度を調整して膜状に2層以上積層させその主成分がシリコンとなるように形成することを特徴とする。
(5) 上記(3)または(4)に記載の静電型アクチュエータの製造方法において、前記犠牲層は前記エッチング工程で他の層よりも早くエチッチングされる層を前記犠牲層の中央部に設けることを特徴とする。
(6) 液滴を吐出するノズルが連通する加圧液室内の液体を静電型アクチュエータに加圧して前記液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドにおいて、上記(1)又は(2)に記載の静電型アクチュエータを構成するアクチュエータ基板と前記加圧液室を形成する流路形成部材とを備えている液滴吐出ヘッドを特徴とする。
(7) 液滴を吐出する液滴吐出ヘッドとこの液滴吐出ヘッドに液体を供給する液体タンクを一体化した液体カートリッジにおいて、前記液滴吐出ヘッドが上記(6)に記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とする。
(8) 上記(6)に記載の液滴吐出ヘッド、もしくは上記(7)に記載の液体カートリッジを搭載した画像形成装置を特徴とする。
(9) 流路の液体を静電型アクチュエータで加圧して前記液体を輸送するマイクロポンプにおいて、上記(1)又は(2)に記載の静電型アクチュエータを構成するアクチュエータ基板と前記流路を形成する流路形成部材とを備えていることを特徴とするマイクロポンプ。
(10) 光を反射するミラーを静電型アクチュエータで変形させて前記光の反射方向を変化させる光学デバイスにおいて、上記(1)又は(2)に記載の静電型アクチュエータを構成するアクチュエータ基板を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ギャップの梁を多層膜としたので、アルカリエッチング時に発生する水素ガスにより引き起こされるギャップ内の圧力上昇に起因する振動板破壊を防ぐことにより精度の高い、高品質な静電駆動式アクチュエータを提供することが出来る。このようなアクチュエータを有する本発明の液滴吐出ヘッドは、大幅にエッチングスピードを低下させる必要が無い為、スループットの低下によりコスト上昇を防ぐことが出来、低コストなヘッドを製造できるため、このようなヘッドを用いたインクカートリッジ、インクジェット記録装置を提供することができ、また、このような関連発明を応用して低コストで信頼性の高いマイクロポンプ、光学デバイスなどを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明のアクチュエータなどの発明を、実施形態により詳細に説明する。
<第1の実施形態:アクチュエータ>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの一部断面を示す分解斜視図である。
本第1の実施形態では、インク液滴を基板面に設けたノズル孔から吐出させるサイドシュータタイプのアクチュエータの例を示す。図2は組み立てられた装置の全体の断面図であり、図2(a)は図1のX−X’線における断面図であり、図2(b)は図1のY−Y’線における断面図であり、図2(c)は図1のZ−Z’線における断面図である。便宜上図2では、2つの吐出室のみを示してある。また図2ではインクが満たされている状態を示している。図2において、本実施形態のアクチュエータを有するインクジェットヘッドは、図1に示すように、以下に詳述する構造の第1基板〜第3基板の3枚からなる積層構造体となっている。
【0010】
第1の基板(振動板基板)1はシリコン基板上に積層膜により個別電極4と、ギャップ14を介して振動板5が形成されている。ギャップ14はエッチング処理して除去するためのギャップ部を含む犠牲層を、個別電極材料や振動板材料と同様に積層膜として成膜し、エッチング処理により除去孔21から犠牲層のギャップ部を除去することによって形成する。第1の基板1の上面に接合される第2の基板(液室基板)2には、振動板5を底壁とする吐出室6、6、・・・と、各吐出室6にインクを供給するための共通液室10及び共通液室10と吐出室6を連通させる流体抵抗となる溝9を有する。また、第2の基板2の上面に接合される第3の基板(ノズル基板)3には、厚さ30ミクロンのニッケル基板を用い、第2の基板2の面に、吐出室6と連通するようにそれぞれ設けられるノズル孔8を有する。
【0011】
上記したように構成される液滴吐出ヘッドの動作について説明する。吐出室6内がインクで満たされた状態で個別電極4に発振回路により40Vのパルス電圧が印加される。この電圧印加により個別電極4の表面がプラスに帯電すると、電極である振動板5と個別電極4との間に静電気の吸引作用が働いて振動板5が下方へ撓み、共通液室10より流体抵抗溝9を介して吐出室6へインクが流入する。その後個別電極4へのパルス電圧が0Vになると、この静電気力により下方へ撓んだ振動板5が自身の剛性により復元力が働き、元に戻ろうとする。その結果、吐出室6内の圧力が急激に上昇し、ノズル孔8よりインク液滴が記録紙に向けて吐出される。以上のことを繰り返すことにより、インクが連続的に吐出される。なお振動板5と個別電極4との間に働く静電力Fは、F=εSV/(2d)で与えられ、電極間距離d(ギャップ間隙)の2乗に反比例して大きくなる。低電圧で駆動するためには個別電極4と振動板5のギャップ14の間隔(ギャップ長)を狭く形成することが重要である。なお上記式中、Fは電極間に働く力であり、εは誘電率であり、Sは電極に対向する面の面積であり、dはギャップ間隙であり、Vは印加電圧である。
【0012】
次にアクチュエータ、インクジェットなどの作製方法、構成など実施例をあげて詳細に説明する。
【0013】
(実施例:アクチュエータの製造方法)
本実施例を、図3を参照しながらそのアクチュエータの製造方法について説明する。本実施例ではシリコン基板1に振動板材料及び電極材料を成膜していくことによって本発明のアクチュエータを作成していく。
まず、<100> シリコン基板300の表面に絶縁膜となる熱酸化膜7をウェット酸化法により1.0μmの厚み程度に形成する。次に個別電極4となるPドープポリシリコンを0.4μmの厚さ程度に成膜する。リソエッチ法により個別電極分離溝15を形成後、絶縁膜13としてHTO(High Temperature Oxide(s):SiO2)を0.25μm成膜する(図3(a))。ここで個別電極分離溝15の幅は絶縁膜13成膜後に埋め込まれ表面が平坦となる様な溝の幅に設計する。
【0014】
更に犠牲層20としてポリシリコンを0.5μm成膜するが、成膜処理中に処理温度を変化させて膜質を変えて犠牲層として多層膜を成膜する。たとえば成膜の初期には800℃程度の温度でポリシリコン20aの成膜を行う。その後、途中で温度を低下させ、たとえば450℃程度の温度で非晶質に近い膜で成膜20bを行い、成膜後半には、たとえば再度温度を上昇させて800℃程度の温度でポリシリコン20cの成膜を行う(図3(b))。これにより膜質の異なる3層膜を連続的に成膜することができる。さらにリソエッチ法(リソグラフィー・エッチング法)により犠牲層分離溝17を形成し、さらに絶縁膜5cとしてHTOを0.1μm成膜する(図3(c))。
【0015】
ここで犠牲層分離溝17の幅は、絶縁膜5c及び後に成膜する共通電極5b及び酸化膜5aで埋め込まれる溝の幅に設計しておく。この幅は絶縁膜や共通電極の膜厚によるが、2.0μm以下の溝幅とすることが望ましい。具体的には本実施例の場合、0.5μm程度とした。また分離溝を狭くすると異物やパターン欠陥に起因するパターニング不良によってショートする可能性が有る為、前記個別電極分離溝15、前記犠牲層分離溝17共に複数の分離溝により分離しておく方が良い。
【0016】
共通電極5bとなるPドープポリシリコンを0.2μm成膜し、リソエッチ法により不要な部分を取り除く。次いで振動板保護膜となる酸化膜5aを0.3μm、更にシリコン窒化膜5dを0.3μm成膜する(図3(d))。なお共通電極5bはAsドープポリシリコンなどを用いることもできる。
その後リソエッチ法により犠牲層除去孔21を犠牲層除去後には隔壁となる領域にオーバーサイズしたパターン状に形成し、シリコン窒化膜5d、酸化膜5a、ポリシリコン5bの順にエッチングを行なう。その後、酸化によりポリシリコン5b表面に犠牲層除去孔21の側面に露出した酸化膜を形成する。
【0017】
さらにリソエッチ法により犠牲層除去孔21のパターニングを行ない酸化膜5cをエッチング除去し、TMAH([Me]OH-:テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、KOHなどのアルカリエッチング液を用いたウェットエッチングにより犠牲層20を除去する(図3(e))。このエッチング処理の際に下記化学反応式(1)
Si + 2OH-
+ H2O → SiO32- + 2H2↑ ・・・(1)
により大量の水素が発生する。
【0018】
上記化学反応式(1)に従って、狭いギャップとなる領域のシリコン原子1モルから、2モルの水素分子が発生する。この水素の発生により、三千倍を越す体積膨張が起きる。より具体的には、金属シリコンの比重は2.33であるので、この金属シリコンを基準にして考察すると、次のようになる。
シリコンの原子量を28とすると、シリコン1モルの体積は12cm程度であり、これが全て反応して2モルの水素分子が0℃1気圧下に発生することになる。この水素分子が理想気体の状態方程式に従うものとすると、シリコン1モルから、22.4リットル×2=44.8リットルの水素が発生するものとなり、よって12cm程のSiにより、44800cm程の水素分子が発生し、これは44800÷12≒3700倍と、なってしまう。
【0019】
そして犠牲層(そのギャップとなる部分)が単層の膜で構成される場合には、化学反応式(1)による反応がいっせいに起こり、これによりギャップ内圧が急上昇して、犠牲層20の上下にある振動板酸化膜5aおよび振動板共通電極5cに耐圧を越える大きな負荷がかかる。このように犠牲層が単層の膜で構成される場合には、この振動板酸化膜5a、振動板共通電5cがエッチング処理の結果、水素発生により剥がれてしまうという問題が生じる。このような内圧上昇を防ぐためエッチングスピードを大幅に低下(1/5〜1/10程度)させて水素ガスを放散させる必要があり、このままではスループットの低下が避けられない。
【0020】
本実施例では、この点を勘案し、犠牲層を単層構成とせずに多層(2層以上:図4等では3層)からなる膜構成とし、たとえば本発明ではこの犠牲層の中心層20bの膜質をエッチングスピードが最も速い膜質のものを採用することにしている(図4(a)(b))。好ましくは、犠牲層のギャップ部における中心近傍の層20bが先にエッチングされ、このギャップ部が上下の層に分けられる。これによってギャップ部が一斉に反応することが阻害され、この一斉反応による内圧上昇による力が解放されず抑制されて、振動板酸化膜5a、振動板共通電5cが剥がれるなどによる振動板の破壊がされることが有効に防止される(図4(c))。このように本構成では犠牲層分離溝17で分離された犠牲層20で構成される梁部24は、犠牲層のギャップ部がエッチング処理によりギャップスペーサ14となり、残存する梁部24は最終形態において犠牲層20の層構成のままであるので、犠牲層がどの様な状態(構成)であったかを確認できる。また残された梁部24を上記したエッチング液で処理し、その反応状態を観察すれば犠牲層の層構成が単層構成なのか積層構成であるのかを見分けることができる。すなわち中央近傍をエッチング液に対して最速のエッチング速度の層であるので、この中央近傍の層からエッチング反応が開始され、この中央近傍の層が消失後に他の層に反応が広がるのを観察することができ、またエッチング処理の途中でエッチング処理を停止すると図4(a)〜(c)のように反応が進行していくので、これによって単層構成かどうかを判断することができる。
【0021】
その後、基板表面(多層膜振動板の表面)にインクに対する保護膜として、スピンコート法によりポリイミド膜5eをたとえば1.0μmに塗布しベーク処理する。このとき基板表面の濡れ性や塗布材料の粘度をコントロールすることにより犠牲層除去孔21内に塗布材料は入り込まず穴を封止するようにしている(図3(f))。
【0022】
次いで、液室(吐出室)6、流体抵抗溝9、共通液室10を形成した液室基板2を接着剤で振動板基板1と貼り合わせる。振動板基板1の表面は略平坦に作成されている為、容易に接着が可能である。最後にノズル板3を液室基板2の表面に張り合わせると、静電型液滴吐出ヘッドが完成する。
【0023】
本実施例において、振動板基板1表面のインクに対する保護膜5eは基板表面が略平坦に作られている為、本実施例で示した様にスピンコート法による形成でも均一に成膜することができるが、他に、真空蒸着法によるポリイミド形成、あるいはポリパラキシリレン(パリレン)のような樹脂膜を形成する方法を採用することにより形成しても構わない。
【0024】
また電極材料としてポリシリコンを用いているがこれ以外に金属とシリコンの化合物である化合物(シリサイド)や高融点金属を用いる事もできる。
また、アクチュエータ基板(振動板基板)1の表面が平坦であるので、スピンコート法により塗布された感光性ポリイミドやドライフィルムレジストで液室(吐出室)6を作成する事も可能である。これらも本発明に含まれる。なお本実施例で記載した数値は例であり、本発明はこれらの数値に限定されて解釈されるものではない。
【0025】
<第2実施形態:インクカートリッジに係る実施形態>
次に、本発明に係るインクカートリッジについて図5を参照して説明する。
図5に示すインクカートリッジは、前記したアクチュエータを有するインクジェットヘッド61と、このインクジェットヘッド61に対してインクを供給するインクタンク62とを一体化したものである。
このインクタンク一体型のヘッドの場合、ヘッドの低コスト化、信頼性向上は、ただちにインクカートリッジ全体の低コスト化、信頼性向上につながるので、上述したように低コスト化、高信頼性化、製造不良を大幅に低減できるので、インクカートリッジの歩留まり、信頼性が向上し、ヘッド一体型インクカートリッジのさらなる低コスト化を図ることができる。
【0026】
<第3実施形態:インクジェット記録装置に係る実施形態>
次に、本発明に係るインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置の例について図6及び図7を参照して説明する。なお、図6はインクジェット記録装置の斜視説明図であり、図7はインクジェット記録装置の機構部の側面説明図である。
図7に示すインクジェット記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した本発明のインクジェットヘッドからなる記録ヘッド94、記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部82等を収納し、装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
【0027】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェットヘッドからなる記録ヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドにインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0028】
ここで、キャリッジ93は図6に示すように、後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0029】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83をヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0030】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115,116とを配設している。
【0031】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0032】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0033】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0034】
このように、このインクジェット記録装置においては本発明を実施したインクジェットヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
なお、上記実施形態においては、液滴吐出ヘッドとしてインクジェットヘッドに適用した例で説明したが、インクジェットヘッド以外の液滴吐出ヘッドとして、例えば、液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッド(スポッタ)などの他の液滴吐出ヘッドにも適用することができる。
【0035】
<第4実施形態:マイクロポンプの実施例>
本実施形態は、本発明の構成をマイクロポンプに応用したものである。本実施形態のエネルギー(圧力)発生素子として、本発明の静電型アクチュエータを採用した場合の動作原理を、図8を基にして説明する。
このマイクロポンプは、流動基板202と本発明に係る静電型アクチュエータを構成するアクチュエータ基板201とを有している。
図8に示すように、電極4が設けられた振動板5が複数設けられ、流路33の中を流体が流れる構造となっている。図8では省略しているが振動板5は図2等に示されるように電極材料が絶縁膜に挟まれた積層構造になっている。
振動板5を図8に示す矢印で指し示したように、図中右側から左に順次駆動することによって流路33内の流体は図6の矢印方向へ流れが生じ、流体の輸送が可能となる。本第4実施形態では、振動板を複数設けた例を示したが、振動板は一つでも良く、また輸送効率を上げるために流路の途中に弁などを設けても良い。このように、本発明では、電極間に働く静電力によって前記振動板を変形させるので、小型な低消費電力のマイクロポンプが実現できる。
【0036】
<第5実施形態:光学デバイスへの応用例>
本実施形態は、本発明の構成を光学デバイスに応用したものである。図9に示すように、電極4が設けられた振動板30が複数配列され、振動板30はミラー36(反射手段)をかねる。振動板30の表面は反射率を増加させるため、誘電体多層膜や金属膜を用いて形成されていると良い。光源31からの出射光はレンズ34を通過後、ミラー36に照射される。ミラー36が駆動されていない場合、照射光は入射角と同じ角度で反射される。ミラー36を駆動した場合、凹面ミラー30となって図5に示すようにその反射光は発散光となる。このように本発明の静電型アクチュエータを用いた光学デバイスにより、光変調デバイスが実現できる。
【0037】
この光学デバイスを応用した例を、図9及び図10を用いて説明する。図9に示すように、光源31からの光はレンズ34を介してミラー36に照射され、ミラー36を駆動していないところに入射した光は、投影用レンズ32へ入射する。一方電極4に電圧を印加してミラー36を変形させているところは凹面ミラー30となるので光は発散し投影用レンズ32にほとんど入射しない。投影用レンズ32に入射した光はスクリーン(図示しない)などに投影される。この構造を図10に示すように2次元に配列し、それぞれのミラー36を独立に駆動することによって、スクリーン等に画像を表示することができる。図10では例として4×4の配列を示したが、さらに多数の配列を実現することも可能であり、個数はこれに限らない。このように、本発明では電極間に働く静電力によって前記振動板を変形させるので、小型で低消費電力の光変調デバイスが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のアクチュエータの分解斜視図である。
【図2】組み立てられた装置の全体の断面図であり、(a)は図1のX−X’線における断面図であり、(b)は図1のY−Y’線における断面図であり、(c)は図1のZ−Z’線における断面図である。
【図3】アクチュエータの製造方法について説明するための図である。
【図4】図3におけるアクチュエータの製造方法における犠牲層のエッチング液によってギャップが形成されていく様子を説明するための図である。
【図5】本発明に係るインクカートリッジの概略構成を示す図である。
【図6】インクジェット記録装置の斜視説明図である。
【図7】インクジェット記録装置の機構部の側面説明図である。
【図8】本発明の構成をマイクロポンプに応用した、そのポンプの動作原理を説明するための図である。
【図9】本発明の構成を光学デバイスに応用したそのデバイスの動作原理を説明するための図である。
【図10】光学デバイスに応用したそのデバイスの応用例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・第1基板(振動板基板、アクチュエータ基板)、
2・・・第2基板(液室基板)、
3・・・第3基板(ノズル基板)、
4・・・個別電極、5・・・振動板、5a・・・酸化膜、5b・・・共通電極、
5c・・・絶縁膜、5d・・・シリコン窒化膜、5e・・・ポリイミド膜、
6・・・吐出室、7・・・熱酸化膜、8・・・ノズル孔、9・・・流体抵抗溝、
10・・・共通液室、12・・・吐出したインク滴、13・・・絶縁膜、
14・・・ギャップ、15・・・個別電極分離溝、17・・・犠牲層分離溝、
21・・・犠牲層
21・・・犠牲層除去孔、22・・・流路形成部材、24・・・梁、
30・・・凹面ミラー、31・・・光源、32・・・投影用レンズ、
33・・・流路、34・・・レンズ、36・・・ミラー、
40・・・印刷媒体(印刷紙)、61・・・インクジェットヘッド、
62・・・インクタンク
81・・・装置本体、82・・・印字機構部、83・・・用紙、
84・・・給紙カセット、85・・・手差しトレイ、86・・・排紙トレイ、
91・・・主ガイドロッド、92・・・従ガイドロッド、
93・・・キャリッジ、94・・・記録ヘッド、
95・・・インクカートリッジ、97・・・主走査モータ
98・・・駆動プーリ、99・・・従動プーリ、
100・・・タイミングベルト、101・・・給紙ローラ、
102・・・フリクションパッド、103・・・ガイド部材、
104・・・搬送ローラ、105・・・搬送コロ、106・・・先端コロ、
109・・・印写受け部材、111・・・搬送コロ、112・・・拍車、
113・・・排紙ローラ、114・・・拍車、
115、116・・・ガイド部材、117・・・回復装置、
201・・・アクチュエータ基板、202・・・流路基板(流路形成部材)、
300・・・シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基板上に変形可能な振動板とこれに所定のギャップを介して対向する電極とを備え、前記振動板を静電力により変形させる静電型アクチュエータにおいて、
前記ギャップは前記ギャップと略同じ高さにエッチングにより形成された梁で囲まれ、前記梁は複数の層からなることを特徴とする静電型アクチュエータ。
【請求項2】
前記複数の層からなる梁の主成分がシリコンであることを特徴とする請求項1に記載の静電型アクチュエータ。
【請求項3】
ベース基板上に変形可能な振動板とこれに所定のギャップを置いて対向する電極とを備え、前記振動板を静電力で変形させる静電型アクチュエータの製造方法において、
複数の層からなる犠牲層を成膜する工程と、
前記犠牲層の積層方向に所定の大きさに分離してギャップにする部と梁とを形成し、前記犠牲層の表面と前記分離する部分にエッチング液に対して耐エッチング性を有する膜で被覆する工程と、
前記ギャップにする部を前記エッチング液で除去するエッチング工程とを有し、
前記エッチング工程において前記ギャップ部の1層を他の層よりも早くエッチングするようにしたことを特徴とする静電型アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記犠牲層は、その成膜温度を調整して膜状に2層以上積層させその主成分がシリコンとなるように形成することを特徴とする請求項3に記載の静電型アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
前記犠牲層は前記エッチング工程で他の層よりも早くエッチングされる層を前記犠牲層の中央部に設けることを特徴とする請求項3または4に記載の静電型アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
液滴を吐出するノズルが連通する加圧液室内の液体を静電型アクチュエータにより加圧して前記液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドにおいて、請求項1又は2に記載の静電型アクチュエータを構成するアクチュエータ基板と前記加圧液室を形成する流路形成部材とを備えていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
液滴を吐出する液滴吐出ヘッドとこの液滴吐出ヘッドに液体を供給する液体タンクを一体化した液体カートリッジにおいて、前記液滴吐出ヘッドが請求項6に記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とする液体カートリッジ。
【請求項8】
請求項6に記載の液滴吐出ヘッド、もしくは請求項7に記載の液体カートリッジを搭載したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
流路の液体を静電型アクチュエータで加圧して前記液体を輸送するマイクロポンプにおいて、請求項1又は2に記載の静電型アクチュエータを構成するアクチュエータ基板と前記流路を形成する流路形成部材とを備えていることを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項10】
光を反射するミラーを静電型アクチュエータで変形させて前記光の反射方向を変化させる光学デバイスにおいて、請求項1又は2に記載の静電型アクチュエータを構成するアクチュエータ基板を備えていることを備えていることを特徴とする光学デバイス。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−17917(P2010−17917A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179558(P2008−179558)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】