静電塗装装置および静電塗装方法
【課題】塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる静電塗装装置を提供すること。
【解決手段】クリア塗装設備は、塗料を供給する塗料供給管41およびギアポンプ43と、溶剤を供給する溶剤供給管42および溶剤押出装置44と、塗料供給管41およびギアポンプ43から供給された塗料と、溶剤供給管42および溶剤押出装置44から供給された溶剤とを混合するスタティックミキサ45と、スタティックミキサ45で混合された塗料および溶剤を噴霧する塗装ガン30と、これらを制御する制御装置50と、を備える。制御装置50は、溶剤押出装置44を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整する。
【解決手段】クリア塗装設備は、塗料を供給する塗料供給管41およびギアポンプ43と、溶剤を供給する溶剤供給管42および溶剤押出装置44と、塗料供給管41およびギアポンプ43から供給された塗料と、溶剤供給管42および溶剤押出装置44から供給された溶剤とを混合するスタティックミキサ45と、スタティックミキサ45で混合された塗料および溶剤を噴霧する塗装ガン30と、これらを制御する制御装置50と、を備える。制御装置50は、溶剤押出装置44を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装装置および静電塗装方法に関する。詳しくは、被塗装面を静電塗装する静電塗装装置および静電塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車体を塗装する手法として、3コート3ベーク方式が知られている。3コート3ベーク方式とは、電着塗装、焼付け、中塗り塗装、焼付け、ベース塗装、クリア塗装、焼付けの順に処理する方式である。
以上の塗装工程では、塗装装置として、例えば回転霧化式塗装装置が用いられている。この回転霧化式塗装装置は、回転霧化頭に高電圧を印加しつつ回転させ、この状態で、回転霧化頭に液体塗料を供給する。これにより、液体塗料を帯電させて霧化し、回転霧化頭の先端縁から噴霧して、静電塗装を行う。
【0003】
ところで、高級車では、車両の外観に高い平滑性が要求される。そのため、高級車の車体を塗装する場合には、中塗り塗装工程の後に水研ぎ工程を実施するのが一般的である。この水研ぎ工程は、車体に水をかけつつ、人手によりサンダー等で研磨する工程である。
【0004】
しかしながら、水研ぎ工程を実施すると、作業員の習熟に時間がかかるうえに、作業員を配置するコストがかかってしまい、自動車の製造コストが高くなる、という問題がある。
【0005】
ここで、塗装面の仕上がりを保つ手法が提案されている。すなわち、塗料温度、塗料粘度、ブース温度に応じて、塗料に各種溶剤を添加することで、塗装面の仕上がりを一定に保持する手法が提案されている(特許文献1参照)。具体的には、シンナータンクに溶剤を収容しておき、ポンプで溶剤を塗料タンクに圧送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−277574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記文献のように容量の大きい塗料タンクについては、溶剤を供給する手段として汎用ポンプの供給精度で十分間に合うが、塗料タンクは循環配管を介して塗装ブースから離れた場所に設置されているので、シンナーで調整された大量の塗料では、塗装ブースの環境の変化に対して瞬時に追従できない。
そこで、例えば、塗装ガン近傍で塗料のシンナー調整を行う手法が考えられる。この場合、各塗装ガンに供給される塗料は少量であり、その塗料に対して混合されるシンナー量も極少量となる。よって、上記汎用ポンプでは、極少量のシンナーを供給制御することが困難となる。すなわち、シンナー量が多過ぎるとタレが発生し、塗装欠陥となり、シンナー量が少な過ぎると、塗料粒子が被塗装面になじむ前に流動性を失い、塗装面に凹凸が残る場合がある。
【0008】
特に、車体の側面を塗装する場合、この問題が顕著となる。すなわち、ボンネットやルーフなどの車体の上面を塗装する場合には、塗料粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じても、重力は被塗装面に垂直に作用するため、表面張力および重力により、塗料粒子が被塗装面の形状になじみやすい。ところが、フェンダーやドアパネルなどの車体の側面を塗装する場合には、塗料の粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じると、重力は被塗装面に沿って作用するので、重力により塗料粒子が被塗装面の形状になじみにくくなる。
【0009】
本発明は、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる静電塗装装置および静電塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の静電塗装装置(例えば、後述のクリア塗装設備10)は、塗料を供給する塗料供給手段(例えば、後述の塗料供給管41およびギアポンプ43)と、溶剤を供給する溶剤供給手段(例えば、後述の溶剤供給管42および溶剤押出装置44)と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段(例えば、後述のスタティックミキサ45)と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置(例えば、後述の塗装ガン30)と、これらを制御する制御手段(例えば、後述の制御装置50)と、を備える静電塗装装置であって、前記制御手段は、前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面(例えば、後述のボディ20)に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする。
【0011】
ここで、供給する溶剤としては、塗料を希釈するために用いられる希釈溶剤でもよいが、高沸点溶剤の方が、より少量で高い効果が得られるため、好ましい。
【0012】
また、NV(Non Volatile:塗料の不揮発分)値とは、例えば、以下の式で表される。
NV=(乾燥後の塗料質量)/(乾燥前の塗料質量)×100
【0013】
この発明によれば、溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整した。塗膜のNV値が所定範囲内に収まるようにすることで、混合した塗料の性質を管理できるので、被塗装面に塗着した塗料の流動性を確保でき、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる。
【0014】
この場合、前記溶剤供給手段は、サーボモータ(例えば、後述のサーボモータ443)で駆動されるピストン(例えば、後述のピストン442)が内設されたシリンダ型の溶剤押出装置(例えば、後述の溶剤押出装置44)を含んで構成されることが好ましい。
【0015】
従来のように塗料循環タンクのような大容量のタンク内で塗料と各種溶剤とを混合するには問題ないが、大量に希釈塗料を調製するため、ブース温度等の変化に迅速に追随させるのが難しい。そこで、ブース内の塗装装置の近傍で溶剤と希釈塗料とを混合することが考えられる。この場合、少量の溶剤で塗料の性質が十分に変化するため、少量の溶剤を定量的に吐出するポンプが必要になる。定量的に塗料を供給するポンプとしては、ギアポンプが存在するが、このギアポンプで極少量の溶剤を定量的に供給するのは困難である。
【0016】
すなわち、ギアポンプでは、構造上、吐出量が少なくなると、この吐出量を高い精度で制御することは困難である。そのため、塗料の性質を無駄なく迅速に管理することが難しく、塗装面の外観について所望の平滑性を得ることができない場合があった。
【0017】
そこで、この発明によれば、サーボモータで駆動されるピストンが内設されたシリンダ型の溶剤押出装置を用いて溶剤を供給した。溶剤押出装置は少ない吐出量を高精度で制御できる構造であるので、塗料の性質を確実に管理することができる。
また、供給する溶剤を高沸点溶剤としても、溶剤押出装置は低吐出制御できるので、問題がない。
【0018】
本発明の静電塗装方法は、塗料を供給する塗料供給手段と、溶剤を供給する溶剤供給手段と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置と、を用いて静電塗装する静電塗装方法であって、前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする。
【0019】
この場合、前記溶剤供給手段を、サーボモータ(例えば、後述のサーボモータ443)で駆動されるピストン(例えば、後述のピストン442)が内設されたシリンダ型の溶剤押出装置を含んで構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶剤押出装置を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整した。塗膜のNV値が所定範囲内に収まるようにすることで、混合した塗料の性質を管理できるので、被塗装面に塗着した塗料の流動性を確保でき、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置が適用された塗装ラインの一部の平面図である。
【図2】前記実施形態に係る塗装ラインを構成するクリア塗装設備の斜視図である。
【図3】前記実施形態に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【図4】ギアポンプおよび溶剤押出装置について吐出量の指令値と実測値との関係を示す図である。
【図5】クリア塗装設備の動作を説明するための第1の模式図である。
【図6】クリア塗装設備の動作を説明するための第2の模式図である。
【図7】クリア塗装設備の動作を説明するための第3の模式図である。
【図8】クリア塗装設備の動作を説明するための第4の模式図である。
【図9】クリア塗装設備の動作を説明するための第5の模式図である。
【図10】クリア塗装設備の動作を説明するための第6の模式図である。
【図11】回転霧化頭の回転数とNV値との関係を示す図である。
【図12】回転霧化頭の回転数とLW値との関係を示す図である。
【図13】本発明の変形例に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る静電塗装方法が適用された塗装ライン1の一部の概略を示す平面図である。
塗装ライン1は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)を行う。
図1には塗装ライン1の一部が示されており、この塗装ライン1には、自動車のボディ20が搬送される搬送路2に沿って、ベース塗装設備3、フラッシュオフ設備4、静電塗装装置としてのクリア塗装設備10、焼き付け設備5の順に、設けられている。
【0023】
ベース塗装設備3は、塗装面としてのボディ20に中塗り塗装の上にベース塗装を行う設備であり、フラッシュオフ設備4は、ベース塗装の後にフラッシュオフを行う設備である。また、クリア塗装設備10は、フラッシュオフを行った後にボディ20にクリア塗装を行う設備であり、焼き付け設備5は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)の焼き付けを行う設備である。
【0024】
図2は、クリア塗装設備10の斜視図である。
クリア塗装設備10は、搬送路2の両側に設けられた6台の塗装ロボット11〜16と、各塗装ロボット11〜16のそれぞれに塗料を供給する塗料供給手段としての塗料供給管41と、これら塗料供給管41のうち塗装ロボット13〜16に接続されるものに溶剤を供給する溶剤供給手段としての溶剤供給管42と、を備える(図1参照)。
塗装ロボット11、12は、最上流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の上面を塗装する上面塗装ロボットである。
塗装ロボット13、14は、塗装ロボット11、12の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
塗装ロボット15、16は、塗装ロボット13、14の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
【0025】
各塗装ロボット11〜16は、塗料を噴霧する回転霧化式塗装装置としての塗装ガン30と、この塗装ガン30の3次元空間上の位置を調整するロボットアーム40と、を備える。
【0026】
図3は、クリア塗装設備10の塗装ロボット13〜16の詳細な構造を示す模式図である。
クリア塗装設備10は、塗料を供給する塗料供給手段としてのギアポンプ43と、溶剤を供給する溶剤供給手段としての溶剤押出装置44と、ギアポンプ43から供給された塗料と溶剤押出装置44から供給された溶剤とを混合する混合手段としてのスタティックミキサ45と、これらを制御する制御手段としての制御装置50と、を備える。
【0027】
上述の塗料供給管41は、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30に接続されており、ギアポンプ43およびスタティックミキサ45は、この塗料供給管41の途中に設けられている。
上述の溶剤供給管42は、スタティックミキサ45に接続されており、溶剤押出装置44は、この溶剤供給管42の途中に設けられている。また、溶剤供給管42の溶剤押出装置44の上流側および下流側には、バルブ421、422が設けられている。
上述の塗装ガン30は、スタティックミキサ45で混合された塗料および溶剤を噴霧する。
【0028】
塗装ガン30は、図示しない本体と、この本体に回転可能に設けられた回転霧化頭32と、を備える。
【0029】
本体は、円筒形状であり、回転霧化頭32に塗料を供給する塗料供給管41、塗料供給管41に溶剤を供給する溶剤供給管42のほか、コンプレッサから圧送された空気により回転霧化頭32を回転させる図示しないエアモータや、塗料を帯電させる図示しない高電圧発生装置を備える。
回転霧化頭32には、噴射方向に向かって拡開する拡開面321が形成されている。
塗料供給管41は、回転霧化頭32の中心軸に沿って延びて拡開面321の中央に到達している。
【0030】
溶剤押出装置44は、円筒形状のシリンダ441と、このシリンダ441に内設されて摺動可能に設けられたピストン442と、このピストン442をシリンダ441の軸方向に進退させるサーボモータ443と、を備える。
ピストン442は、シリンダ441の内周面に当接する円盤状のピストン本体444と、このピストン本体444に設けられてサーボモータ443に接続された棒状のシャフト445と、を備える。
このピストン442は、送りねじ機構であり、サーボモータ443が回転駆動することで、ピストン442のシリンダ441内の位置を高精度で調整できるようになっている。
【0031】
図4は、ギアポンプおよび溶剤押出装置について、吐出量の指令値と実測値との関係を示す図である。
図4より、溶剤押出装置の実際の吐出量は、指令値に対してほぼ正確に対応していることが判る。
これに対し、ギアポンプの実際の吐出量は、指令値に対して少なくなっており、また、指令値がある程度少なくなると、吐出できなくなることが判る。
【0032】
制御装置50は、ギアポンプ43、溶剤押出装置44、塗装ガン30を制御して、塗装ガン30から塗料を噴霧する。
【0033】
次に、塗料を溶剤と混合して静電塗装する場合の塗装ロボット13〜16の動作について、説明する。
まず、制御装置50により、バルブ422を閉じ、バルブ421を開いて、この状態で、図示しない溶剤供給源から溶剤を溶剤供給管42に供給し、溶剤押出装置44のシリンダ441内に溶剤を充填する。
次に、ギアポンプ43を駆動して、塗料供給管41を通して、スタティックミキサ45に塗料を供給する。
【0034】
そして、回転霧化頭の高回転(標準塗装条件よりも高い)および/または少量の塗料供給(標準塗装条件よりも少ない)等により、塗膜のNV値が所定の範囲を外れる場合には、塗料を塗料供給管41に供給すると同時に、バルブ421を閉じ、バルブ422を開いて、溶剤押出装置44を駆動し、塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を溶剤供給管42に供給し、スタティックミキサ45にて塗料と溶剤とを混合する。
【0035】
回転霧化頭32は回転しているので、吐出された塗料と溶剤との混合物には遠心力が作用し、この混合物は、回転霧化頭32の回転によりさらに混合されつつ、拡開面321の表面に沿って周縁部に向かって移動する。この混合した塗料が拡開面321の周縁部に接近すると、回転霧化頭32が高速で回転しているので、この塗料に作用する遠心力はかなり大きくなり、塗料は多数の微細な液滴に分離され、霧状となる。この霧状の塗料は、拡開面321の周縁部から飛散し、ボディ20の表面に塗着する。
【0036】
以下、クリア塗装設備10の動作を、図5〜図10を参照しながら説明する。
このクリア塗装設備10には、2種類のボディ20A、20Bが混在して上流から搬送されるものとする。ボディ20Bには、ボディ20Aよりも高い平滑性が要求されているものとする。
まず、図5に示すように、クリア塗装設備10は、ボディ20A、20Bの塗装を行っている。具体的には、塗装ロボット13〜16により、ボディ20Aの側面を塗装している。また、塗装ロボット11、12により、ボディ20Bのフロント側の上面を塗装している。ここで、塗装ロボット11〜16には、塗料のみが供給される。
【0037】
図5に示す状態から1タクト進むと、図6に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、ボディ20Aのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、ボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13、14によりボディ20Bのフロント側の側面を塗装するため、塗装ロボット13、14の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13、14には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0038】
図6に示す状態から1タクト進むと、図7に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Aが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Bが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入された下流側のボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入された上流側のボディ20Bのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0039】
図7に示す状態から1タクト進むと、図8に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、下流側のボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により上流側のボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0040】
図8に示す状態から1タクト進むと、図9に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Bが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Aが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入されたボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入されたボディ20Aのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0041】
図9に示す状態から1タクト進むと、図10に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、既に搬入されたボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、新たに搬入されたボディ20Aのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット15、16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット15、16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット15、16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0042】
[実施例および比較例]
上述のクリア塗装設備に塗料および溶剤を供給し、塗料に対する溶剤の割合とNV値およびLW値との関連を調べた。
【0043】
図11は、回転霧化頭の回転数とNV値との関係を示す図である。図12は、回転霧化頭の回転数とLW値との関係を示す図である。
図12中、LW(Long Wave)とは、Wavescan(BYK Gardner社製)と呼ばれる測定器で測定された、塗膜の平滑度を表す指標である。具体的には、この測定器からレーザ光を塗膜表面に照射して、塗膜表面の反射光強度を検出し、塗膜表面の光学プロファイルを検出する。そして、この光学ファイルを数学的フィルターにかけ、塗膜表面のストラクチャーを波長毎に分離し、測定した波長がある程度長いものを抽出して数値化したものである。LW値が低いほど表面が平滑であり、外観が良好である、といえる。
【0044】
塗料に溶剤を添加しない場合、NV値が所定の範囲(図11中t1からt2までの範囲)から外れて高く、LW値も高くなっている。
すなわち、回転霧化頭の回転数を上昇させると、塗料粒子が微粒化されるため、塗料粒子の比表面積が増大して、塗料中の溶剤分の揮発量が多くなり、塗膜のNV値も上昇してゆく。その結果、塗膜の流動性が低下し、被塗装面に塗着した塗料のレベリングが不十分となり、LW値も上昇傾向となる。
【0045】
これに対し、回転霧化頭の回転数を上昇させるとともに塗料に溶剤を添加した場合には、NV値が所定の範囲内に収まっており、LW値が低くなる。
すなわち、回転霧化頭の回転数を上昇させると、塗料粒子が微粒化されて塗料粒子の比表面積が増大するが、溶剤が添加されているため、塗膜中の不揮発分の割合がそれほど高くならず、NV値の上昇を抑えることができる。よって、被塗装面に塗着した塗料が流動性を失うことなくレベリングできるので、塗膜表面の凹凸が抑えられることになり、LW値が下降傾向となる。
【0046】
以上より、塗膜のNV値が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭32の回転数を上昇させて塗料粒子を微粒化することで、LW値を低下させて、外観を良好にできることが判る。
【0047】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)溶剤押出装置44を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整した。塗膜のNV値が所定範囲内に収まるようにすることで、混合した塗料の性質を管理できるので、被塗装面に塗着した塗料の流動性を確保でき、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる。
【0048】
(2)サーボモータ443で駆動されるピストン442が内設されたシリンダ型の溶剤押出装置44を用いて溶剤を供給した。溶剤押出装置は少ない吐出量を高精度で制御できる構造であるので、塗料の性質を確実に管理することができる。
【0049】
(3)スタティックミキサ45と回転霧化頭32との組合せにより、塗装ガン30の近傍で塗料と溶剤とを混合したので、塗料循環タンク内での塗料と溶剤とを混合した場合に比べて、所望のNV値の塗料をタイムラグなく供給できる。
【0050】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、静電塗装装置および静電塗装方法をクリア塗装設備10に適用したが、これに限らない。すなわち、中塗り塗装設備に適用してもよいし、オーバーコートクリア塗装設備(クリア塗装の上に施されるプレミアムなクリア塗装)のような、上塗り塗装設備のうちベース塗装設備を除いた設備に適用してもよい。また、これらの設備のうちの1つに適用してもよいし、複数に適用してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、溶剤と塗料とを回転霧化頭32に供給する前にスタティックミキサ45にて混合したが、塗装の途中で塗料の種類を変更する場合、スタティックミキサ45から塗装ガン30までの混合した塗料を廃棄しなければならない。そこで、例えば、図13に示すように、塗料供給管41にスタティックミキサを設けず、溶剤供給管42をスタティックミキサではなく塗装ガン30に接続してもよい。このような回転霧化頭によるベル先混合においても、上述の(1)、(2)と同様の効果がある。
【符号の説明】
【0052】
10 クリア塗装設備(静電塗装装置)
20 ボディ(被塗装面)
41 塗料供給管(塗料供給手段)
42 溶剤供給管(溶剤供給手段)
43 ギアポンプ(塗料供給手段)
44 溶剤押出装置(溶剤供給手段)
45 スタティックミキサ(混合手段)
50 制御装置(制御手段)
442 ピストン
443 サーボモータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装装置および静電塗装方法に関する。詳しくは、被塗装面を静電塗装する静電塗装装置および静電塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車体を塗装する手法として、3コート3ベーク方式が知られている。3コート3ベーク方式とは、電着塗装、焼付け、中塗り塗装、焼付け、ベース塗装、クリア塗装、焼付けの順に処理する方式である。
以上の塗装工程では、塗装装置として、例えば回転霧化式塗装装置が用いられている。この回転霧化式塗装装置は、回転霧化頭に高電圧を印加しつつ回転させ、この状態で、回転霧化頭に液体塗料を供給する。これにより、液体塗料を帯電させて霧化し、回転霧化頭の先端縁から噴霧して、静電塗装を行う。
【0003】
ところで、高級車では、車両の外観に高い平滑性が要求される。そのため、高級車の車体を塗装する場合には、中塗り塗装工程の後に水研ぎ工程を実施するのが一般的である。この水研ぎ工程は、車体に水をかけつつ、人手によりサンダー等で研磨する工程である。
【0004】
しかしながら、水研ぎ工程を実施すると、作業員の習熟に時間がかかるうえに、作業員を配置するコストがかかってしまい、自動車の製造コストが高くなる、という問題がある。
【0005】
ここで、塗装面の仕上がりを保つ手法が提案されている。すなわち、塗料温度、塗料粘度、ブース温度に応じて、塗料に各種溶剤を添加することで、塗装面の仕上がりを一定に保持する手法が提案されている(特許文献1参照)。具体的には、シンナータンクに溶剤を収容しておき、ポンプで溶剤を塗料タンクに圧送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−277574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記文献のように容量の大きい塗料タンクについては、溶剤を供給する手段として汎用ポンプの供給精度で十分間に合うが、塗料タンクは循環配管を介して塗装ブースから離れた場所に設置されているので、シンナーで調整された大量の塗料では、塗装ブースの環境の変化に対して瞬時に追従できない。
そこで、例えば、塗装ガン近傍で塗料のシンナー調整を行う手法が考えられる。この場合、各塗装ガンに供給される塗料は少量であり、その塗料に対して混合されるシンナー量も極少量となる。よって、上記汎用ポンプでは、極少量のシンナーを供給制御することが困難となる。すなわち、シンナー量が多過ぎるとタレが発生し、塗装欠陥となり、シンナー量が少な過ぎると、塗料粒子が被塗装面になじむ前に流動性を失い、塗装面に凹凸が残る場合がある。
【0008】
特に、車体の側面を塗装する場合、この問題が顕著となる。すなわち、ボンネットやルーフなどの車体の上面を塗装する場合には、塗料粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じても、重力は被塗装面に垂直に作用するため、表面張力および重力により、塗料粒子が被塗装面の形状になじみやすい。ところが、フェンダーやドアパネルなどの車体の側面を塗装する場合には、塗料の粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じると、重力は被塗装面に沿って作用するので、重力により塗料粒子が被塗装面の形状になじみにくくなる。
【0009】
本発明は、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる静電塗装装置および静電塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の静電塗装装置(例えば、後述のクリア塗装設備10)は、塗料を供給する塗料供給手段(例えば、後述の塗料供給管41およびギアポンプ43)と、溶剤を供給する溶剤供給手段(例えば、後述の溶剤供給管42および溶剤押出装置44)と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段(例えば、後述のスタティックミキサ45)と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置(例えば、後述の塗装ガン30)と、これらを制御する制御手段(例えば、後述の制御装置50)と、を備える静電塗装装置であって、前記制御手段は、前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面(例えば、後述のボディ20)に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする。
【0011】
ここで、供給する溶剤としては、塗料を希釈するために用いられる希釈溶剤でもよいが、高沸点溶剤の方が、より少量で高い効果が得られるため、好ましい。
【0012】
また、NV(Non Volatile:塗料の不揮発分)値とは、例えば、以下の式で表される。
NV=(乾燥後の塗料質量)/(乾燥前の塗料質量)×100
【0013】
この発明によれば、溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整した。塗膜のNV値が所定範囲内に収まるようにすることで、混合した塗料の性質を管理できるので、被塗装面に塗着した塗料の流動性を確保でき、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる。
【0014】
この場合、前記溶剤供給手段は、サーボモータ(例えば、後述のサーボモータ443)で駆動されるピストン(例えば、後述のピストン442)が内設されたシリンダ型の溶剤押出装置(例えば、後述の溶剤押出装置44)を含んで構成されることが好ましい。
【0015】
従来のように塗料循環タンクのような大容量のタンク内で塗料と各種溶剤とを混合するには問題ないが、大量に希釈塗料を調製するため、ブース温度等の変化に迅速に追随させるのが難しい。そこで、ブース内の塗装装置の近傍で溶剤と希釈塗料とを混合することが考えられる。この場合、少量の溶剤で塗料の性質が十分に変化するため、少量の溶剤を定量的に吐出するポンプが必要になる。定量的に塗料を供給するポンプとしては、ギアポンプが存在するが、このギアポンプで極少量の溶剤を定量的に供給するのは困難である。
【0016】
すなわち、ギアポンプでは、構造上、吐出量が少なくなると、この吐出量を高い精度で制御することは困難である。そのため、塗料の性質を無駄なく迅速に管理することが難しく、塗装面の外観について所望の平滑性を得ることができない場合があった。
【0017】
そこで、この発明によれば、サーボモータで駆動されるピストンが内設されたシリンダ型の溶剤押出装置を用いて溶剤を供給した。溶剤押出装置は少ない吐出量を高精度で制御できる構造であるので、塗料の性質を確実に管理することができる。
また、供給する溶剤を高沸点溶剤としても、溶剤押出装置は低吐出制御できるので、問題がない。
【0018】
本発明の静電塗装方法は、塗料を供給する塗料供給手段と、溶剤を供給する溶剤供給手段と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置と、を用いて静電塗装する静電塗装方法であって、前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする。
【0019】
この場合、前記溶剤供給手段を、サーボモータ(例えば、後述のサーボモータ443)で駆動されるピストン(例えば、後述のピストン442)が内設されたシリンダ型の溶剤押出装置を含んで構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶剤押出装置を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整した。塗膜のNV値が所定範囲内に収まるようにすることで、混合した塗料の性質を管理できるので、被塗装面に塗着した塗料の流動性を確保でき、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置が適用された塗装ラインの一部の平面図である。
【図2】前記実施形態に係る塗装ラインを構成するクリア塗装設備の斜視図である。
【図3】前記実施形態に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【図4】ギアポンプおよび溶剤押出装置について吐出量の指令値と実測値との関係を示す図である。
【図5】クリア塗装設備の動作を説明するための第1の模式図である。
【図6】クリア塗装設備の動作を説明するための第2の模式図である。
【図7】クリア塗装設備の動作を説明するための第3の模式図である。
【図8】クリア塗装設備の動作を説明するための第4の模式図である。
【図9】クリア塗装設備の動作を説明するための第5の模式図である。
【図10】クリア塗装設備の動作を説明するための第6の模式図である。
【図11】回転霧化頭の回転数とNV値との関係を示す図である。
【図12】回転霧化頭の回転数とLW値との関係を示す図である。
【図13】本発明の変形例に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る静電塗装方法が適用された塗装ライン1の一部の概略を示す平面図である。
塗装ライン1は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)を行う。
図1には塗装ライン1の一部が示されており、この塗装ライン1には、自動車のボディ20が搬送される搬送路2に沿って、ベース塗装設備3、フラッシュオフ設備4、静電塗装装置としてのクリア塗装設備10、焼き付け設備5の順に、設けられている。
【0023】
ベース塗装設備3は、塗装面としてのボディ20に中塗り塗装の上にベース塗装を行う設備であり、フラッシュオフ設備4は、ベース塗装の後にフラッシュオフを行う設備である。また、クリア塗装設備10は、フラッシュオフを行った後にボディ20にクリア塗装を行う設備であり、焼き付け設備5は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)の焼き付けを行う設備である。
【0024】
図2は、クリア塗装設備10の斜視図である。
クリア塗装設備10は、搬送路2の両側に設けられた6台の塗装ロボット11〜16と、各塗装ロボット11〜16のそれぞれに塗料を供給する塗料供給手段としての塗料供給管41と、これら塗料供給管41のうち塗装ロボット13〜16に接続されるものに溶剤を供給する溶剤供給手段としての溶剤供給管42と、を備える(図1参照)。
塗装ロボット11、12は、最上流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の上面を塗装する上面塗装ロボットである。
塗装ロボット13、14は、塗装ロボット11、12の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
塗装ロボット15、16は、塗装ロボット13、14の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
【0025】
各塗装ロボット11〜16は、塗料を噴霧する回転霧化式塗装装置としての塗装ガン30と、この塗装ガン30の3次元空間上の位置を調整するロボットアーム40と、を備える。
【0026】
図3は、クリア塗装設備10の塗装ロボット13〜16の詳細な構造を示す模式図である。
クリア塗装設備10は、塗料を供給する塗料供給手段としてのギアポンプ43と、溶剤を供給する溶剤供給手段としての溶剤押出装置44と、ギアポンプ43から供給された塗料と溶剤押出装置44から供給された溶剤とを混合する混合手段としてのスタティックミキサ45と、これらを制御する制御手段としての制御装置50と、を備える。
【0027】
上述の塗料供給管41は、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30に接続されており、ギアポンプ43およびスタティックミキサ45は、この塗料供給管41の途中に設けられている。
上述の溶剤供給管42は、スタティックミキサ45に接続されており、溶剤押出装置44は、この溶剤供給管42の途中に設けられている。また、溶剤供給管42の溶剤押出装置44の上流側および下流側には、バルブ421、422が設けられている。
上述の塗装ガン30は、スタティックミキサ45で混合された塗料および溶剤を噴霧する。
【0028】
塗装ガン30は、図示しない本体と、この本体に回転可能に設けられた回転霧化頭32と、を備える。
【0029】
本体は、円筒形状であり、回転霧化頭32に塗料を供給する塗料供給管41、塗料供給管41に溶剤を供給する溶剤供給管42のほか、コンプレッサから圧送された空気により回転霧化頭32を回転させる図示しないエアモータや、塗料を帯電させる図示しない高電圧発生装置を備える。
回転霧化頭32には、噴射方向に向かって拡開する拡開面321が形成されている。
塗料供給管41は、回転霧化頭32の中心軸に沿って延びて拡開面321の中央に到達している。
【0030】
溶剤押出装置44は、円筒形状のシリンダ441と、このシリンダ441に内設されて摺動可能に設けられたピストン442と、このピストン442をシリンダ441の軸方向に進退させるサーボモータ443と、を備える。
ピストン442は、シリンダ441の内周面に当接する円盤状のピストン本体444と、このピストン本体444に設けられてサーボモータ443に接続された棒状のシャフト445と、を備える。
このピストン442は、送りねじ機構であり、サーボモータ443が回転駆動することで、ピストン442のシリンダ441内の位置を高精度で調整できるようになっている。
【0031】
図4は、ギアポンプおよび溶剤押出装置について、吐出量の指令値と実測値との関係を示す図である。
図4より、溶剤押出装置の実際の吐出量は、指令値に対してほぼ正確に対応していることが判る。
これに対し、ギアポンプの実際の吐出量は、指令値に対して少なくなっており、また、指令値がある程度少なくなると、吐出できなくなることが判る。
【0032】
制御装置50は、ギアポンプ43、溶剤押出装置44、塗装ガン30を制御して、塗装ガン30から塗料を噴霧する。
【0033】
次に、塗料を溶剤と混合して静電塗装する場合の塗装ロボット13〜16の動作について、説明する。
まず、制御装置50により、バルブ422を閉じ、バルブ421を開いて、この状態で、図示しない溶剤供給源から溶剤を溶剤供給管42に供給し、溶剤押出装置44のシリンダ441内に溶剤を充填する。
次に、ギアポンプ43を駆動して、塗料供給管41を通して、スタティックミキサ45に塗料を供給する。
【0034】
そして、回転霧化頭の高回転(標準塗装条件よりも高い)および/または少量の塗料供給(標準塗装条件よりも少ない)等により、塗膜のNV値が所定の範囲を外れる場合には、塗料を塗料供給管41に供給すると同時に、バルブ421を閉じ、バルブ422を開いて、溶剤押出装置44を駆動し、塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を溶剤供給管42に供給し、スタティックミキサ45にて塗料と溶剤とを混合する。
【0035】
回転霧化頭32は回転しているので、吐出された塗料と溶剤との混合物には遠心力が作用し、この混合物は、回転霧化頭32の回転によりさらに混合されつつ、拡開面321の表面に沿って周縁部に向かって移動する。この混合した塗料が拡開面321の周縁部に接近すると、回転霧化頭32が高速で回転しているので、この塗料に作用する遠心力はかなり大きくなり、塗料は多数の微細な液滴に分離され、霧状となる。この霧状の塗料は、拡開面321の周縁部から飛散し、ボディ20の表面に塗着する。
【0036】
以下、クリア塗装設備10の動作を、図5〜図10を参照しながら説明する。
このクリア塗装設備10には、2種類のボディ20A、20Bが混在して上流から搬送されるものとする。ボディ20Bには、ボディ20Aよりも高い平滑性が要求されているものとする。
まず、図5に示すように、クリア塗装設備10は、ボディ20A、20Bの塗装を行っている。具体的には、塗装ロボット13〜16により、ボディ20Aの側面を塗装している。また、塗装ロボット11、12により、ボディ20Bのフロント側の上面を塗装している。ここで、塗装ロボット11〜16には、塗料のみが供給される。
【0037】
図5に示す状態から1タクト進むと、図6に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、ボディ20Aのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、ボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13、14によりボディ20Bのフロント側の側面を塗装するため、塗装ロボット13、14の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13、14には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0038】
図6に示す状態から1タクト進むと、図7に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Aが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Bが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入された下流側のボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入された上流側のボディ20Bのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0039】
図7に示す状態から1タクト進むと、図8に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、下流側のボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により上流側のボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0040】
図8に示す状態から1タクト進むと、図9に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Bが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Aが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入されたボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入されたボディ20Aのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0041】
図9に示す状態から1タクト進むと、図10に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、既に搬入されたボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、新たに搬入されたボディ20Aのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット15、16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット15、16の塗装ガン30の回転霧化頭32は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも高回転となり、同時に、これら塗装ロボット15、16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0042】
[実施例および比較例]
上述のクリア塗装設備に塗料および溶剤を供給し、塗料に対する溶剤の割合とNV値およびLW値との関連を調べた。
【0043】
図11は、回転霧化頭の回転数とNV値との関係を示す図である。図12は、回転霧化頭の回転数とLW値との関係を示す図である。
図12中、LW(Long Wave)とは、Wavescan(BYK Gardner社製)と呼ばれる測定器で測定された、塗膜の平滑度を表す指標である。具体的には、この測定器からレーザ光を塗膜表面に照射して、塗膜表面の反射光強度を検出し、塗膜表面の光学プロファイルを検出する。そして、この光学ファイルを数学的フィルターにかけ、塗膜表面のストラクチャーを波長毎に分離し、測定した波長がある程度長いものを抽出して数値化したものである。LW値が低いほど表面が平滑であり、外観が良好である、といえる。
【0044】
塗料に溶剤を添加しない場合、NV値が所定の範囲(図11中t1からt2までの範囲)から外れて高く、LW値も高くなっている。
すなわち、回転霧化頭の回転数を上昇させると、塗料粒子が微粒化されるため、塗料粒子の比表面積が増大して、塗料中の溶剤分の揮発量が多くなり、塗膜のNV値も上昇してゆく。その結果、塗膜の流動性が低下し、被塗装面に塗着した塗料のレベリングが不十分となり、LW値も上昇傾向となる。
【0045】
これに対し、回転霧化頭の回転数を上昇させるとともに塗料に溶剤を添加した場合には、NV値が所定の範囲内に収まっており、LW値が低くなる。
すなわち、回転霧化頭の回転数を上昇させると、塗料粒子が微粒化されて塗料粒子の比表面積が増大するが、溶剤が添加されているため、塗膜中の不揮発分の割合がそれほど高くならず、NV値の上昇を抑えることができる。よって、被塗装面に塗着した塗料が流動性を失うことなくレベリングできるので、塗膜表面の凹凸が抑えられることになり、LW値が下降傾向となる。
【0046】
以上より、塗膜のNV値が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭32の回転数を上昇させて塗料粒子を微粒化することで、LW値を低下させて、外観を良好にできることが判る。
【0047】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)溶剤押出装置44を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整した。塗膜のNV値が所定範囲内に収まるようにすることで、混合した塗料の性質を管理できるので、被塗装面に塗着した塗料の流動性を確保でき、塗装面の外観について高い平滑性を得ることができる。
【0048】
(2)サーボモータ443で駆動されるピストン442が内設されたシリンダ型の溶剤押出装置44を用いて溶剤を供給した。溶剤押出装置は少ない吐出量を高精度で制御できる構造であるので、塗料の性質を確実に管理することができる。
【0049】
(3)スタティックミキサ45と回転霧化頭32との組合せにより、塗装ガン30の近傍で塗料と溶剤とを混合したので、塗料循環タンク内での塗料と溶剤とを混合した場合に比べて、所望のNV値の塗料をタイムラグなく供給できる。
【0050】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、静電塗装装置および静電塗装方法をクリア塗装設備10に適用したが、これに限らない。すなわち、中塗り塗装設備に適用してもよいし、オーバーコートクリア塗装設備(クリア塗装の上に施されるプレミアムなクリア塗装)のような、上塗り塗装設備のうちベース塗装設備を除いた設備に適用してもよい。また、これらの設備のうちの1つに適用してもよいし、複数に適用してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、溶剤と塗料とを回転霧化頭32に供給する前にスタティックミキサ45にて混合したが、塗装の途中で塗料の種類を変更する場合、スタティックミキサ45から塗装ガン30までの混合した塗料を廃棄しなければならない。そこで、例えば、図13に示すように、塗料供給管41にスタティックミキサを設けず、溶剤供給管42をスタティックミキサではなく塗装ガン30に接続してもよい。このような回転霧化頭によるベル先混合においても、上述の(1)、(2)と同様の効果がある。
【符号の説明】
【0052】
10 クリア塗装設備(静電塗装装置)
20 ボディ(被塗装面)
41 塗料供給管(塗料供給手段)
42 溶剤供給管(溶剤供給手段)
43 ギアポンプ(塗料供給手段)
44 溶剤押出装置(溶剤供給手段)
45 スタティックミキサ(混合手段)
50 制御装置(制御手段)
442 ピストン
443 サーボモータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を供給する塗料供給手段と、溶剤を供給する溶剤供給手段と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置と、これらを制御する制御手段と、を備える静電塗装装置であって、
前記制御手段は、前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
請求項1に記載の静電塗装装置において、
前記溶剤供給手段は、サーボモータで駆動されるピストンが内設されたシリンダ型の溶溶剤押出装置を含んで構成されることを特徴とする静電塗装装置。
【請求項3】
塗料を供給する塗料供給手段と、溶剤を供給する溶剤供給手段と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置と、を用いて静電塗装する静電塗装方法であって、
前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする静電塗装方法。
【請求項4】
請求項3に記載の静電塗装方法において、
前記溶剤供給手段を、サーボモータで駆動されるピストンが内設されたシリンダ型の溶溶剤押出装置を含んで構成することを特徴とする静電塗装方法。
【請求項1】
塗料を供給する塗料供給手段と、溶剤を供給する溶剤供給手段と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置と、これらを制御する制御手段と、を備える静電塗装装置であって、
前記制御手段は、前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
請求項1に記載の静電塗装装置において、
前記溶剤供給手段は、サーボモータで駆動されるピストンが内設されたシリンダ型の溶溶剤押出装置を含んで構成されることを特徴とする静電塗装装置。
【請求項3】
塗料を供給する塗料供給手段と、溶剤を供給する溶剤供給手段と、前記塗料供給手段から供給された塗料と前記溶剤供給手段から供給された溶剤とを混合する混合手段と、混合手段で混合された塗料および溶剤を噴霧する回転霧化式塗装装置と、を用いて静電塗装する静電塗装方法であって、
前記溶剤押出手段を駆動して、被塗装面に形成された塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤の供給量を調整することを特徴とする静電塗装方法。
【請求項4】
請求項3に記載の静電塗装方法において、
前記溶剤供給手段を、サーボモータで駆動されるピストンが内設されたシリンダ型の溶溶剤押出装置を含んで構成することを特徴とする静電塗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−188234(P2010−188234A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33086(P2009−33086)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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