説明

静電変換装置およびこの静電変換装置を搭載する容量検知機器

【課題】対向する電極間の接触による動作不良を防止し、動作信頼性の向上した静電変換装置およびこの静電変換装置を搭載する容量検知機器を提供する。
【解決手段】静電変換装置には、複数のエレクトレット電極5および平板状のエレクトレット電極6を表面に有する可動基板4と、エレクトレット電極5に対向する対向電極2aおよびエレクトレット電極6に対向する対向電極2bを表面に有する固定基板1とが互いに所定間隔dを隔てて配置される。そして、エレクトレット電極5と対向電極2bとの間において静電誘導を利用して発電を行う発電部8bと、エレクトレット電極6と対向電極2aとの間において発電部8bの電極間の接触を防止する斥力発生部8aとが構成される。対向電極2aには所定電荷(たとえば、エレクトレット膜6bと同電荷)Qが印加され、可動基板4はエレクトレット電極6と対向電極2aとの間に斥力が発生する状態で移動するよう制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電変換装置およびこの静電変換装置を搭載する容量検知機器に関し、特にエレクトレットを用いた静電誘導型の静電変換装置およびこうした静電変換装置を搭載する容量検知機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可変容量の電極に電荷を与え、その電荷により対向電極間にクーロン引力を働かせ、このクーロン引力に抗して振動子が振動することにより仕事をしたエネルギーを電気エネルギーに変換することによって、振動エネルギーにより発電を行う小型の静電誘導型発電装置(静電変換装置)が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
図9は特許文献1に開示された従来の静電誘導型発電装置の概略断面図である。従来の静電誘導型発電装置(エレクトレット発電装置)は、複数のエレクトレット材料領域409を備えた第2の基板405と、複数の導電性表面領域411を備えた第1の基板407とが互いに所定の間隔を隔てて配置されている。エレクトレット材料領域409を含む第2の基板405は固定され、導電性表面領域411を含む第1の基板407は固定構造417にバネ419を介して連結されている。バネ419は第1の基板407の両側面に接続されており、このバネ419により第1の基板407は所定の方向(矢印421で示される方向)の運動を行い、定位置に戻ることができる。この第1の基板407が所定の方向に振動することにより、電荷を保持しているエレクトレット材料領域409とこれに対向する導電性表面領域411との間で両者が重なる面積の増減が生じ、導電性表面領域411に電荷の変化が生じる。この電荷の変化を取り出すことにより発電が行える。
【特許文献1】特表2005−529574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような静電誘導型発電装置では、発電動作中に所定の方向に対して垂直な方向の外力(導電性表面領域411とエレクトレット材料領域409との間隔が狭くなる方向の外力)が加わり、導電性表面領域411がエレクトレット材料領域409に接触すると、少なくともその接触部分で運動エネルギーが損失され、発電効率が低下するという問題がある。さらに、導電性表面領域411がエレクトレット材料領域409に接触し、そのまま張り付いて元の状態に戻らなくなると、発電装置として機能しなくなってしまうという極めて重大な問題となる。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、対向する電極間の接触による動作不良を防止し、動作信頼性の向上した静電誘導装置およびこうした静電変換装置を搭載する容量検知機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る静電変換装置は、固定部とこの固定部と対向する可動部とを備え、可動部の移動により固定部との間で静電容量を変化させて電気エネルギーに変換する静電変換装置であって、固定部と可動部の一方に設けられた電荷を保持する第1の膜と、固定部と可動部の他方に第1の膜と対向して設けられた第1の電極と、第1の電極と第1の膜との間に斥力を発生させる斥力発生手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る容量検知機器は、上記の静電変換装置を搭載
することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対向する電極間の接触による動作不良を防止し、動作信頼性の向上した静電変換装置およびこうした静電変換装置を搭載する容量検知機器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具現化した実施形態について図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の静電変換装置の一例である静電誘導型の発電装置について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る発電装置の構成を示す概略断面図であり、図2は図1の発電装置における電極形状を示す概略上面図である。なお、図1は図2中のX−X線に沿った断面に相当する。
【0011】
第1実施形態における発電装置には、図1に示すように、複数のエレクトレット電極5および平板状のエレクトレット電極6を表面に有する可動基板4と、エレクトレット電極5に対向する対向電極2bおよびエレクトレット電極6に対向する対向電極2aを表面に有する固定基板1とが互いに所定の間隔dを隔てて配置されている。そして、エレクトレット電極5と対向電極2bとの間において静電誘導を利用して発電(振動エネルギーを電気エネルギーに変換)を行う発電部8bと、エレクトレット電極6と対向電極2aとの間において発電部8bの電極間の接触を防止する斥力発生部8aとが構成されている。この斥力発生部8aは、発電動作中、対向電極2aに所定の電荷Qを印加することにより、対向電極2aとエレクトレット電極6との間に斥力を発生させており、発電装置の斥力発生手段として機能している。
【0012】
エレクトレット電極5の形状は、図2に示すように、所定の方向(矢印Fで示される方向)に直交するように櫛状に細分化されて設けられ、可動基板4上においてその一端が共通配線で接続されている。このように細分化することで、小さな振動に対しても大きな面積変化を生じさせることができるので、所定の方向(矢印Fで示される方向)の振動に対する発電効率を向上させることができる。また、エレクトレット電極6の形状は平板状に加工されている。そして、図2に示すように、櫛状に細分化されたエレクトレット電極5の中央部分に、エレクトレット電極5とは電気的に絶縁された状態で配置されている。また、対向電極2aおよび対向電極2bの形状はそれぞれエレクトレット電極5およびエレクトレット電極6の形状に対応して同じに加工されている。
【0013】
エレクトレット電極5は、アルミニウム合金などの金属からなる固定電極5aと、その表面に形成された電荷保持材料であるエレクトレット膜5bとによって構成されている。このエレクトレット膜としては、たとえば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル重合体)、PP(ポリプロピレン)、及びPET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂材料、あるいはシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの無機材料が採用される。ここで、エレクトレット膜5bにはコロナ放電などにより電荷注入がなされ、その表面電位はマイナス200Vに達するように調整されている。エレクトレット電極5を構成する固定電極5aは接地されている。エレクトレット電極6は、エレクトレット電極5と同様の構成であり、固定電極6aと、その表面に形成されたエレクトレット膜6bとからなっている。エレクトレット膜6bの表面電位はエレクトレット膜5bと同じマイナス200Vに達するように調整され、エレクトレット電極6を構成する固定電極6aは接地されている。本実施形態では、エレクトレット電極5とエレクトレット電極6とは同一の工程で同時に形成されている。なお、エレクトレット膜5bおよびエレクトレット膜6bの表面電位はエレクトレット膜の材料やエレクトレット膜への電荷注入条件などにより容易に調整することが可能である。
【0014】
可動基板4にはその表面(下面側)の所定の位置にエレクトレット電極5およびエレクトレット電極6が設けられている。可動基板4は固定基板1の周縁上に設けられた支持台3にバネ駆動体7を介して連結されている。すなわち、可動基板4にはバネ駆動体7が可動基板4の対向する両側面にそれぞれ接続され、可動基板4はバネ駆動体7により所定方向(矢印Fで示される方向)の水平方向の運動を行い、定位置に戻ることができるように構成されている。
【0015】
対向電極2bは、固定電極5aと同じアルミニウム合金などの金属から構成され、エレクトレット電極5と対向するように固定基板1の表面(上面側)に形成されている。そして、対向電極2bは接地され、エレクトレット電極5との間において静電誘導を利用して発電(振動エネルギーを電気エネルギーに変換)を行う発電部8bが構成されている。この発電部8bでは、外部から振動が加わり可動基板4が移動することにより電荷を保持しているエレクトレット電極5とこれに対向する対向電極2bとの間で両者が重なる面積の増減が生じ、対向電極2bに電荷の変化が生じる。この電荷の変化を取り出すことにより発電される。また、この発電部8bでは、このようにして対向する電極間の相対移動の際に生じる静電誘導を利用して発電しているので、出力インピーダンスが非常に小さく、小さな形状でも高電圧(たとえば、200V程度)を出すことができる。さらに、エレクトレット電極5を構成するエレクトレット膜5bへの初期電荷注入量を増加させることで、容易に出力電圧の高電圧化を図ることができる。
【0016】
対向電極2aは、固定電極6aと同じアルミニウム合金などの金属から構成され、エレクトレット電極6と対向するように固定基板1の表面(上面側)に形成されている。そして、エレクトレット電極6と対向電極2aとの間において発電部8bの電極間の接触を防止するための斥力発生部8aが構成されている。この斥力発生部8aには、対向電極2aに接続されるスイッチSW1をオン(閉路状態)にすることにより、エレクトレット電極6を構成するエレクトレット膜6bとの間に斥力が発生する所定の電荷(たとえば、エレクトレット膜6bと同じ電荷)Qが印加される。本実施形態では、スイッチSW1をオンにし、対向電極2aに所定の電荷Qが印加された状態としている。このため、発電動作中に発電部8bのエレクトレット電極5と対向電極2bとの間隔dが狭くなる方向の外力が加わっても、斥力発生部8aのエレクトレット電極6と対向電極2aとの間に斥力(反発力)が作用しているので、可動基板4のエレクトレット電極5が固定基板1の対向電極2bと接触することが防止される。
【0017】
なお、対向電極2aを有する固定基板1は本発明の「固定部」、エレクトレット電極6を有する可動基板4は本発明の「可動部」、エレクトレット電極6は本発明の「電荷を保持する第1の膜」、対向電極2aは本発明の「第1の電極」、エレクトレット電極5は本発明の「電荷を保持する第2の膜」、及び対向電極2bは本発明の「第2の電極」の一例である。
【0018】
以上説明した本発明の第1実施形態に係る発電装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0019】
(1)発電動作中に発電部8bのエレクトレット電極5と対向電極2bとの間隔dが狭くなる方向の外力が加わっても、斥力発生部8aのエレクトレット電極6と対向電極2aとの間に斥力(反発力)が作用する状態となっているので、エレクトレット電極5が対向電極2bと接触することを防止することができる。このため、発電装置の動作信頼性を向上させることができる。
【0020】
(2)発電部8bと斥力発生部8aとを別々に設けたことで、斥力発生部8aにおける斥力発生能力(発生させる斥力の強弱)に関する設計自由度が向上する。このため、発電部8bの電極の大きさやレイアウトに影響されることなく、発電装置の動作信頼性を安定して、且つ、効果的に向上させることができる。
【0021】
(3)発電装置の製造過程においてエレクトレット電極5と対向電極2bとが接着することがあっても、エレクトレット電極6と対向電極2aとの間に斥力(反発力)を作用させることで、両者を引き離して正常な状態に戻すことができる。これにより、発電装置の製造歩留まりが向上するので、発電装置の低コスト化を図ることができる。
【0022】
(4)発電部8b(エレクトレット電極5、対向電極2b)の形成工程をそのまま利用し、新たな装置や工程を追加することなく斥力発生部8a(エレクトレット電極6、対向電極2a)を形成することができるので、動作信頼性を向上させることが可能な発電装置を、コスト増加を招くことなく製造することができる。
【0023】
(第2実施形態)
図3は本発明の第2実施形態に係る発電装置の構成を示す概略断面図であり、図4は図3の発電装置における電極形状を示す概略上面図である。なお、図3は図4中のX−X線に沿った断面に相当する。第1実施形態と異なる箇所は、斥力発生部を発電部と共通化して設け、エレクトレット電極が対向電極に接触した場合に、対向電極に印加する電荷を切り替えて電極間に斥力(反発力)が発生するように構成したことである。それ以外については、先の第1実施形態と同様である。
【0024】
第2実施形態における発電装置には、図3に示すように、複数のエレクトレット電極15を表面に有する可動基板4と、エレクトレット電極15に対向する対向電極12を表面に有する固定基板1とが互いに所定の間隔d1を隔てて配置されている。エレクトレット電極15は、第1実施形態と同様の構成であり、固定電極15aとその表面に形成されたエレクトレット膜15bからなっている。エレクトレット電極15と対向電極12には、同一形状の電極が採用され、図4に示すように、所定の方向(矢印F1で示される方向)に直交するように櫛状に細分化されて設けられ、対応する各基板上においてその一端が共通配線で接続されている。そして、対向電極12は、発電装置の正常動作時には接地され、エレクトレット電極15が対向電極12に接触した場合には、エレクトレット電極15を構成するエレクトレット膜15bとの間に斥力が発生する所定の電荷(たとえば、エレクトレット膜15bと同じ電荷)Qが印加される。具体的には以下の通りである。まず、発電装置の正常動作時には、スイッチSW1をオフ(開路状態)の状態でスイッチSW2をオン(閉路状態)にすることにより、対向電極12を接地状態としている。これに対し、エレクトレット電極15と対向電極12と接触した場合には、スイッチSW2をオフ(開路状態)にし、スイッチSW1をオン(閉路状態)にすることにより、対向電極12に所定の電荷Qが印加された状態としている。そして、エレクトレット電極15が対向電極12から離れた場合には、各スイッチを正常動作時の状態に戻す。こうしたスイッチの切り替えは、エレクトレット電極15と対向電極12との接触時に生じる発電量の異常変動(正常値→異常値、あるいは異常値→正常値)を制御回路部(図示せず)で判定することにより制御している。
【0025】
なお、対向電極12を有する固定基板1は本発明の「固定部」、エレクトレット電極15を有する可動基板4は本発明の「可動部」、エレクトレット電極15は本発明の「電荷を保持する第1の膜」、及び対向電極12は本発明の「第1の電極」の一例である。
【0026】
以上説明した本発明の第2実施形態に係る発電装置によれば、上記(3)および(4)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0027】
(5)可動基板4が移動して、可動基板4のエレクトレット電極15が固定基板1の対向電極12と接着した場合に、エレクトレット電極15と対向電極12との間に斥力(反発力)を作用させることで、両者を引き離すことができる。このため、発電動作中にエレクトレット電極15と対向電極12との間隔d1が狭くなる方向の外力が加わる場合でも、こうした発電装置の動作信頼性を向上させることができる。
【0028】
(6)エレクトレット電極15と対向電極12からなる発電部をそのまま利用し、対向電極12に対してエレクトレット電極15との間に斥力が発生する電荷Qを印加して斥力発生部として機能するようにしたことで、こうした斥力発生部を別途設ける場合に比べて、発電装置の大型化を抑制することができる。
【0029】
(7)エレクトレット電極15と対向電極12からなる発電部をそのまま利用し、対向電極12に対してエレクトレット電極15との間に斥力が発生する電荷Qを印加できるようにするだけの変更で、エレクトレット電極15と対向電極12との間での接着による動作不良を防止することができるようになる。このため、動作信頼性の向上した好適な発電装置を容易に製造することができる。
【0030】
(第3実施形態)
本発明の静電変換装置の一例である静電誘導型のセンサ装置(加速度センサ装置)について説明する。図5は本発明の第3実施形態に係るセンサ装置の構成を示す概略断面図である。
【0031】
第3実施形態のセンサ装置には、平板状のエレクトレット電極25および平板状のエレクトレット電極26を表面に有する可動基板24と、エレクトレット電極25に対向する対向電極22bおよびエレクトレット電極26に対向する対向電極22aを表面に有する固定基板1とが互いに所定の間隔d2を隔てて配置されている。そして、エレクトレット電極25と対向電極22bとの間において静電容量を変化させるための静電容量部28bと、エレクトレット電極26と対向電極22aとの間において静電容量部28bの電極間の接触を防止するための斥力発生部28aとが構成されている。
【0032】
エレクトレット電極25は、アルミニウム合金などの金属からなる固定電極25aと、その表面に形成された電荷保持材料であるエレクトレット膜25bとによって構成されている。このエレクトレット膜としては、たとえば、第1実施形態と同様の材料が採用される。エレクトレット電極25(固定電極25aおよびエレクトレット膜25b)は平板状に加工されている。固定電極25aは接地され、エレクトレット膜25bにはコロナ放電などにより電荷注入がなされ、その表面電位はマイナス200V程度に達するように調整されている。エレクトレット電極26は、エレクトレット電極25と同じ構成および同じ形状であり、平板状の固定電極26aと、その表面に形成されたエレクトレット膜26bとからなっている。固定電極26aは接地され、エレクトレット膜26bの表面電位はエレクトレット膜25bと同じマイナス200Vに達するように調整されている。本実施形態では、エレクトレット電極25とエレクトレット電極26とは同一の工程で同時に形成されている。
【0033】
可動基板24にはその表面(下面側)の所定の位置にエレクトレット電極25およびエレクトレット電極26が設けられている。可動基板24は、固定基板21上の支持台23を介して一方の端側が固定され、固定基板21に平行な状態で対向電極22bの位置まで延在している。可動基板24に外力(加速度)が加わると、可動基板24のもう一方の端側が矢印F2で示される方向に移動する。
【0034】
固定基板21上には、斥力発生部28aのエレクトレット電極26と対向する対向電極
22aと、静電容量部28bのエレクトレット電極25と対向する対向電極22bとが形成されている。対向電極22aおよび対向電極22bは、固定電極25aなどと同じアルミニウム合金などの金属から構成され、それぞれ対向するエレクトレット電極25およびエレクトレット電極26と同じ大きさの平板状に加工されている。
【0035】
エレクトレット電極25と対向電極22bとの間には、対向電極22b接地され、静電容量を変化させるための静電容量部28bが構成されている。そして、エレクトレット電極26と対向電極22aとの間には、静電容量部28bの電極間の接触を防止するための斥力発生部28aが構成されている。この斥力発生部28aには、対向電極22aに接続されるスイッチSW1をオン(閉路状態)にすることにより、エレクトレット電極26を構成するエレクトレット膜26bとの間に斥力が発生する所定の電荷(たとえば、エレクトレット膜26bと同じ電荷)Qが印加される。本実施形態では、スイッチSW1をオンにし、対向電極22aに所定の電荷Qが印加された状態としている。このため、センシング動作中に静電容量部28bのエレクトレット電極25と対向電極22bとの間隔d2が狭くなる方向の外力が加わっても、斥力発生部28aのエレクトレット電極26と対向電極22aとの間に斥力(反発力)が作用しているので、可動基板24のエレクトレット電極25が固定基板21の対向電極22bと接触することが防止される。
【0036】
なお、対向電極22aおよび対向電極22bを有する固定基板21は本発明の「固定部」、エレクトレット電極25およびエレクトレット電極26を有する可動基板24は本発明の「可動部」、エレクトレット電極26は本発明の「電荷を保持する第1の膜」、対向電極22aは本発明の「第1の電極」、エレクトレット電極25は本発明の「電荷を保持する第2の膜」、及び対向電極22bは本発明の「第2の対向電極」の一例である。
【0037】
こうしたセンサ装置では、固定基板21上の対向電極22bと可動基板24上のエレクトレット電極25とによりその間にキャパシタが形成されている。センサ装置に外力(加速度)が加わると、可動基板24が矢印F2で示される方向に移動し、この移動によるエレクトレット電極25と対向電極22bとの間隔の変化(間隔の増減)に起因して静電容量が変化する。そして、静電容量の変化に伴う2電極間の電圧の変化を電気的に読み取ることで、加わった加速度成分の大きさを得ることができる。
【0038】
以上説明した本発明の第3実施形態に係るセンサ装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0039】
(8)静電容量部28bとは別に斥力発生部28aを設けたことで、エレクトレット電極26と対向電極22aとの間に斥力(反発力)が作用する状態でセンシングすることができる。このため、動作中にエレクトレット電極25と対向電極22bとの間隔d2が狭くなる方向の外力が加わっても、エレクトレット電極26と対向電極22aとの間に斥力(反発力)が作用しているので、可動基板24のエレクトレット電極25が固定基板21の対向電極22bと接触することが防止される。この結果、センサ装置の動作信頼性を向上させることができる。
【0040】
(9)静電容量部28bとは別に斥力発生部28aを設けたことで、斥力発生部28aにおける斥力発生能力(発生させる斥力の強弱)に関する設計自由度が向上する。このため、静電容量部28bの電極の大きさやレイアウトに影響されることなく、センサ装置の動作信頼性を安定して、且つ、効果的に向上させることができる。
【0041】
(10)可動基板24が移動して、静電容量部28bのエレクトレット電極25が対向電極22bと接着した場合に、斥力発生部28aのエレクトレット電極26と対向電極22aとの間に斥力(反発力)を作用させることで、両者を引き離すことができる。このため、センサ装置の使用中に極端に大きな外力(大きな運動量の加速度)が加わる場合でも、こうしたセンサ装置の動作信頼性を向上させることができる。
【0042】
(11)センサ装置の製造過程において静電容量部28bのエレクトレット電極25が対向電極22bに接着することがあっても、斥力発生部28aのエレクトレット電極26と対向電極22aとの間に斥力(反発力)を作用させることで、両者を引き離して正常な状態に戻すことができる。これにより、センサ装置の製造歩留まりが向上するので、センサ装置の低コスト化を図ることができる。
【0043】
(第4実施形態)
図6は本発明の第4実施形態に係るセンサ装置の構成を示す概略断面図であり、図7は同センサ装置の対向する電極が接触した状態を示す概略断面図である。第3実施形態と異なる箇所は、斥力発生部を静電容量部と共通化して設け、エレクトレット電極が対向電極に接触した場合に、対向電極に印加する電荷を切り替えて電極間に斥力(反発力)が発生するように構成したことである。それ以外については、先の第3実施形態と同様である。
【0044】
第4実施形態におけるセンサ装置には、エレクトレット電極35を表面に有する可動基板24と、エレクトレット電極35に対向する対向電極32を表面に有する固定基板21とが互いに所定の間隔d3を隔てて配置されている。エレクトレット電極35(固定電極35aおよびエレクトレット膜35b)と対向電極32には同一の大きさの平板状の電極が採用されている。そして、対向電極32は、センサ装置の正常動作時には接地され、図7に示すようなエレクトレット電極35が対向電極32に接触した場合には、エレクトレット電極35を構成するエレクトレット膜35bとの間に斥力が発生する所定の電荷(たとえば、エレクトレット膜35bと同じ電荷)Qが印加される。具体的な電荷印加の制御方法は第2実施形態と同様である。
【0045】
なお、対向電極32を有する固定基板21は本発明の「固定部」、エレクトレット電極35を有する可動基板24は本発明の「可動部」、エレクトレット電極35は本発明の「電荷を保持する第1の膜」、及び対向電極32は本発明の「第1の電極」の一例である。
【0046】
以上説明した本発明の第4実施形態に係るセンサ装置によれば、上記(10)および(11)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0047】
(12)エレクトレット電極35と対向電極32からなる静電容量部をそのまま利用し、対向電極32に対してエレクトレット電極35との間に斥力が発生する所定の電荷Qを印加して斥力発生部として機能するようにしたことで、こうした斥力発生部を別途設ける場合に比べて、センサ装置の大型化を抑制することができる。
【0048】
(13)エレクトレット電極35と対向電極32からなる静電容量部をそのまま利用し、対向電極32に対してエレクトレット電極35との間に斥力が発生する所定の電荷Qを印加できるようにするだけの変更で、エレクトレット電極35と対向電極32との間での接着による動作不良を防止することができるようになる。このため、動作信頼性の向上した好適なセンサ装置を容易に製造することができる。
【0049】
(第5実施形態)
本発明のセンサ装置が搭載された運動量検知機器(たとえば、盗難防止センサ装置や侵入防止センサ装置)について説明する。図8は本発明の第5実施形態に係るセンサ装置を備える運動量検知機器の構成を示す概略図である。
【0050】
第5実施形態の運動量検知機器は、上述のセンサ装置が設けられたセンサ部110と、センサ部110を動作させるための発電部120と、発電部120で発電した電力を蓄える蓄電部130と、センサ部110への電力供給を切り替えるスイッチ140と、各部の
動作を制御する制御回路部150と、を備える。この運動量検知機器では、発電部120として、対向する電極間の相対移動に伴って発生するエネルギーを電気エネルギーに変換して発電を行う静電誘導型の発電デバイスを採用している。これにより、発電部120が外部から加わる振動により自己発電するため、センサ部110を動作させる電池などの電源を必要とせずに使用することができる。なお、センサ部110は本発明の「静電変換装置」および運動量検知機器は本発明の「容量検知機器」の一例である。
【0051】
こうした運動量検知機器では、発電部120で自己発電した電力を蓄電部130に蓄え、この蓄電部130の電力を用いて制御回路部150を動作させ、そして制御回路部150の制御情報に基づいてスイッチ140を切り替えてセンサ部110を動作させる。センサ部110において電極間の接着による動作不良が生じた場合には、センサ部110から静電容量の異常値を反映させてスイッチ140を切り替え、蓄電部130に蓄えられた電力を用いてセンサ部110のエレクトレット膜と同電荷となるように電圧を印加し、センサ部110の電極間に斥力を発生させ、センサ部110を正常状態に復帰させている。
【0052】
以上説明した本発明のセンサ装置を搭載した運動量検知機器によれば、以下の効果を得ることができる。
【0053】
(14)センサ部110における対向する電極間の接着による動作不良が防止され、その動作信頼性が向上するので、こうしたセンサ部110を搭載する運動量検知機器の信頼性が向上する。
【0054】
(15)静電誘導型の発電部120を採用したことにより、運動量検知機器自体を振動させることでセンサ部110を動作させる電源(たとえば、電池)を必要とせずに運動量検知機器を使用することができ、さらにそうした運動量検知機器の動作信頼性を向上させることができる。
【0055】
(16)センサ部110の容量検出部と同じ静電誘導型の発電部120を採用したことにより、センサ部110の対向電極にエレクトレット膜と同程度の電荷(高電圧)を容易に供給できる。このため、昇圧回路を別途設ける必要がないので、運動量検知機器が大型化することを抑制することができる。
【0056】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0057】
上記第1〜第4実施形態では、エレクトレット電極を可動基板に設け、対向電極を固定基板に設けた静電変換装置(発電装置およびセンサ装置)の例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、エレクトレット電極を固定基板に設け、対向電極を可動基板に設けてもよい。この場合にも同様に上記効果を享受することができる。
【0058】
上記第1および第3実施形態では、斥力発生部におけるエレクトレット電極および対向電極の形状を同じ大きさの平板状とした例を示したが、本発明はこれに限らない。互いに異なる大きさであってもよいし、形状も平板状に限らず所定のL/Sパターン(たとえば、一方向に櫛状に細分化され、その一端が共通接続されたパターン)に加工してもよい。この場合にも同様に上記効果を享受することができる。
【0059】
上記第1または第3実施形態では、斥力発生部における対向する電極間の隙間(間隔)と、発電部または静電容量部における対向する電極間の隙間(間隔)とを同じにした例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、斥力発生部と発電部または容量検出部における対向する電極間の隙間(間隔)をそれぞれで異なるようにしてもよい。この場合に
もそれぞれ同様に上記効果を享受することができる。
【0060】
上記第1または第3実施形態では、斥力発生部を一箇所に設けた例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、2箇所以上の複数の位置に配置するようにしてもよい。特に発電部または静電容量部の周囲の複数箇所に配置することで、斥力発生部にて斥力(反発力)を作用させて両者を引き離すことがより効果的にできるようになる。
【0061】
上記第1および第3実施形態では、発電部または静電容量部のエレクトレット電極および斥力発生部のエレクトレット電極を可動基板に設けた例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、発電部または静電容量部のエレクトレット電極を可動基板に設け、斥力発生部のエレクトレット電極を固定基板に設けてもよい。あるいはこの逆であってもよい。これらの場合にも同様に上記効果を享受することができる。
【0062】
上記第1および第3実施形態では、エレクトレット電極と対向電極とを組み合わせて斥力発生部を構成した例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、エレクトレット電極に換えて永久磁石を採用してもよい。あるいは、2つの永久磁石を対向させて斥力発生部を構成してもよい。これらの場合にも同様に上記効果を享受することができる。
【0063】
上記第3実施形態では、斥力発生部のエレクトレット電極と静電容量部のエレクトレット電極とを互いに同じ大きさの平板状に加工した例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、互いに異なる大きさであってもよいし、互いに異なる加工形状であってもよい。この場合にも同様に上記効果を享受することができる。
【0064】
上記第3および第4実施形態では、可動基板の一方の端側を支持台上に固定した例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、可動基板の両方の端を固定するようにしてもよい。また、可動基板の外周縁を固定し、コンデンサ型マイクロフォンにおけるダイアフラムのように構成してもよい。この場合にも同様に上記効果を享受することができる。
【0065】
上記第3および第4実施形態では、エレクトレット電極と対向電極との間隔の変化に起因して静電容量を変化させるセンサ装置の例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、エレクトレット電極を対向電極との間で所定の間隔を保持しながら水平移動させ、この移動による面積(両者が重なる面積)の変化に起因して静電容量を変化させるセンサ装置であってもよい。この場合にも同様に上記効果を享受することができる。
【0066】
上記運動量検知機器では、発電部として静電容量型の発電デバイスを採用した例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、化学電池やこれと昇圧装置を組み合わせた電源部を採用してもよい。この場合、少なくとも上記(14)の効果を享受することができる。また、発電部として第1または第2実施形態に係る発電装置を採用してもよい。この場合には、上記(14)〜(16)の効果に加え、発電装置における電極間の接触による動作不良が防止されるので、こうした発電装置を搭載した運動量検知機器の動作信頼性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発電装置の構成を示す概略断面図。
【図2】図1の発電装置における電極形状を示す概略上面図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る発電装置の構成を示す概略断面図。
【図4】図3の発電装置における電極形状を示す概略上面図。
【図5】本発明の第3実施形態に係るセンサ装置の構成を示す概略断面図。
【図6】本発明の第4実施形態に係るセンサ装置の構成を示す概略断面図。
【図7】図6のセンサ装置の対向する電極が接触した状態を示す概略断面図。
【図8】本発明のセンサ装置を搭載した運動量検知機器の構成を示す概略図。
【図9】従来の静電誘導型発電装置の構成を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0068】
1 固定基板、2a 対向電極、2b 対向電極、3 支持台、4 可動基板、5 エレクトレット電極、5a 固定電極、5b エレクトレット膜、6 エレクトレット電極、6a 固定電極、6b エレクトレット膜、7 バネ駆動体、8a 斥力発生部、8b 発電部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部とこの固定部と対向する可動部とを備え、前記可動部の移動により前記固定部との間で静電容量を変化させて電気エネルギーに変換する静電変換装置であって、
前記固定部と前記可動部の一方に設けられた電荷を保持する第1の膜と、前記固定部と前記可動部の他方に前記第1の膜と対向して設けられた第1の電極と、
前記第1の電極と前記第1の膜との間に斥力を発生させる斥力発生手段と、を備えたことを特徴とする静電変換装置。
【請求項2】
前記斥力発生手段は、前記第1の電極に電荷を印加することにより、前記第1の電極と前記第1の膜との間に斥力を発生させることを特徴とした請求項1に記載の静電変換装置。
【請求項3】
前記固定部と前記可動部の一方に設けられ、前記第1の膜とは異なる、電荷を保持する第2の膜と、前記固定部と前記可動部の他方に前記第2の膜と対向して設けられた第2の電極をさらに備えることを特徴とした請求項1または2に記載の静電変換装置。
【請求項4】
前記斥力発生手段は、前記第2の膜と前記第2の電極とが接触したときに、前記第1の電極と前記第1の膜との間に斥力を発生させることを特徴とする請求項3に記載の静電変換装置。
【請求項5】
前記第1の電極には、前記第1の膜との間でキャパシタを構成するための第1の電荷が印加され、
前記斥力発生手段は、前記可動部が前記固定部に接触したときに、前記第1の電極に前記第1の膜との間に斥力を生じさせる第2の電荷を印加して、前記第1の電極と前記第1の膜との間に斥力を発生させることを特徴とした請求項1に記載の静電変換装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の静電変換装置を搭載する容量検知機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−278607(P2008−278607A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117976(P2007−117976)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】