説明

静電容量型電極を用いた筋電の計測装置および計測方法

【課題】生体と電極間の静電容量値が変化しても計測信号が影響を受けない、静電容量型電極を用いた筋電の計測装置および方法を提供すること。
【解決手段】
生体の皮膚に誘電体を介して装着される導電性の第1電極(7)と、
生体の皮膚に誘電体を介さずに装着される導電性の第2電極(8)と、
ハイパスフィルタ構成部(2)とを備え、
第1電極が、前記ハイパスフィルタ構成部の信号入力端に接続され、
第2電極が、前記ハイパスフィルタ構成部の接地端に接続され、
第1電極が前記生体の皮膚に誘電体を介して装着された場合に、生体および第1電極間に形成される静電容量(C)と、生体の体内インピーダンスと、ハイパスフィルタ構成部(2)とによって、所定のカットオフ周波数のハイパスフィルタが形成されるように、ハイパスフィルタ構成部(2)を構成する抵抗素子(R)の抵抗値および容量素子(C)の容量値が決定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型電極を用いて生体の筋電(筋収縮時に発生する活動電位)を計測する装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の筋電を計測する場合、皮膚に電極を取り付けて皮膚表面に発生する電位を計測する。一般的に使用されている表面電極(以下、単に電極とも記す)では、電極を皮膚に取り付ける場合、電極と皮膚との間に導電性ペースト(以下、単にペーストとも記す)を介在させる。そのため、ペーストの経時変化によるノイズや長時間貼り付けることによる皮膚のかぶれなどの問題がある。
【0003】
そのような問題を解決する方法として、静電容量型電極を用いた計測手法が知られている(下記非特許文献1、2参照)。
【非特許文献1】丸山敏弘,塩沢成弘,牧川方昭,非接地容量結合型電極による心電図計測,生体医工学シンポジウム2005
【非特許文献2】梶谷勇,樋口哲也,絶縁物電極を用いた筋電センサの開発,信学技法,WIT2006-13,pp71-76,2006
【非特許文献3】木塚朝博,増田正,木竜徹,佐渡山亜兵,表面筋電図,東京電機大学出版局,2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記非特許文献1、2に開示された計測方法では、電極を取り付けた生体部位が動くことにより、電極と生体間の静電容量値が変化すると、計測される信号波形はその影響を受ける。
【0005】
そのため、非特許文献2には、遮断周波数が高周波のハイパスフィルタを用いて計測を行うことが開示されている。しかし、高性能のハイインピーダンス入力(非特許文献2には1000GΩ、1000TΩの値が開示されている)のオペアンプが必要であり、高価であり、設計および使用が容易ではなかった。
【0006】
従って、本発明は、電極と生体間の静電容量値が変化しても計測信号が影響を受けず、高価なオペアンプを使用する必要のない、静電容量型電極を用いた筋電の計測装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、鋭意研究を行った結果、従来では、測定対象の生体を考慮せずに計測する機器側のみで計測装置が設計されていたが、生体と電極間の容量値を含めてフィルタ回路を構成することに思い至った。そして、生体と電極間の容量値の変化をフィルタ回路のカットオフ周波数の変化とすることによって、出力波形への影響を低減できることを見出した。本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0008】
即ち、本発明に係る筋電の計測装置は、生体の筋電を計測する計測装置であって、
前記生体の皮膚に誘電体を介して装着される導電性の第1電極(7)と、
前記生体の皮膚に誘電体を介さずに装着される導電性の第2電極(8)と、
第1ハイパスフィルタ構成部(2)とを備え、
前記第1電極が、前記第1ハイパスフィルタ構成部の信号入力端に接続され、
前記第2電極が、前記第1ハイパスフィルタ構成部の接地端に接続され、
前記第1電極が前記生体の皮膚に誘電体を介して装着された場合に、前記生体および前記第1電極間に形成される静電容量(C)と、前記生体の体内インピーダンスと、前記第1ハイパスフィルタ構成部(2)とによって、所定のカットオフ周波数のハイパスフィルタが形成されるように、前記第1ハイパスフィルタ構成部(2)を構成する抵抗素子(R)の抵抗値および容量素子(C)の容量値が決定されていることを特徴としている。
【0009】
上記の筋電の計測装置は、
前記生体の皮膚に誘電体を介して装着される導電性の第3電極と、
第2ハイパスフィルタ構成部と、
差動増幅部とをさらに備え、
前記第3電極が、前記第2ハイパスフィルタ構成部の信号入力端に接続され、
前記第2電極が、前記第2ハイパスフィルタ構成部の接地端に接続され、
前記第1ハイパスフィルタ構成部の出力信号と第2ハイパスフィルタ構成部の出力信号とが、前記差動増幅部に入力され、
前記第3電極が前記生体の皮膚に誘電体を介して装着された場合に、前記生体および前記第3電極間に形成される静電容量と、前記生体の体内インピーダンスと、前記第2ハイパスフィルタ構成部とによって、所定のカットオフ周波数のハイパスフィルタが形成されるように、前記第2ハイパスフィルタ構成部を構成する抵抗素子の抵抗値および容量素子の容量値が決定されていることができる。
【0010】
また、前記ハイパスフィルタは電圧ソース型ハイパスフィルタであることができる。
【0011】
また、前記第1ハイパスフィルタ構成部(2)は、オペアンプ(9)と、第1抵抗素子(R)と、第2抵抗素子(R)と、第1容量素子(C)とを備え、
前記第1容量素子(C)の一端は前記オペアンプの非反転入力端に接続され、
前記第1容量素子(C)の他端は前記第1電極に接続され、
前記第1抵抗素子の一端は、前記第1容量素子の前記一端に接続され、
前記第1抵抗素子の他端は、前記オペアンプの出力端に接続され、
前記第2抵抗素子の一端は、前記オペアンプの非反転入力端に接続され、
前記第2抵抗素子の他端は、接地され、
前記オペアンプの出力端は、反転入力端に接続されていることができる。
【0012】
また、前記第1容量素子の容量値は200pF以上であり、前記第1抵抗素子および前記第2抵抗素子の抵抗値は、それぞれ500MΩ以上であることができる。
【0013】
また、前記第1電極及び第2電極が内部に配置された、前記生体の一部に装着されるサポータをさらに備えていることができる。
【0014】
本発明に係る筋電の計測方法は、上記の計測装置を用いて、生体の筋電を計測する方法であって、前記第1電極及び第2電極を前記生体の皮膚に誘電体を介した状態で、前記第1ハイパスフィルタ構成部の出力信号を計測することを特徴としている。
【0015】
また、前記誘電体が布である、または、前記誘電体の少なくとも一部が水であることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生体と電極を含めてハイパスフィルタ回路を構成することにより、従来の静電容量型電極を用いた筋電計測において問題となっていた、生体と電極との間に形成される静電容量の大きさが出力波形へ及ぼす影響を低減することができる。これにより、静電容量型電極を用いた場合でも、体動などによる容量値の変化の影響を受けることなく筋電位信号筋電図計測を行うことができるので、手軽な筋電図計測を実現することができる。
【0017】
また、本発明の計測装置では、生体と電極間の容量値の大きさが影響するのはハイパスフィルタ(例えば、電圧ソース型ハイパスフィルタ)のカットオフ周波数である。よって、従来の静電容量型電極を用いた計測のように高性能で高価なハイインピーダンスをもったオペアンプを用いる必要性が無く、生体と電極間の容量値により決まるカットオフ周波数が、必要な周波数以下となるようにハイパスフィルタを構成する抵抗値を調整するだけでよい。
【0018】
また、本発明の計測装置では、生体と電極との間に布などの誘電体を介した状態で筋電を計測することができるので、生体に密着させて使用されるサポータなどの内部に電極を配置すれば、生体への電極の着脱が非常に容易である。
【0019】
また、生体と電極との間に介在させる誘電体は水でもよいので、水中で生体の筋電を計測する場合でも、従来のように電極に対する防水処置を行う必要がなく、計測が容易である。
【0020】
本発明によれば、筋電の計測が非常に容易になるので、医学、医療、運動学的な計測に限らず、筋電をパワーアシストの制御信号として使用する分野など、種々の産業分野に適用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付した図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る筋電の計測装置の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、本計測装置1は、第1ハイパスフィルタ構成部2と、第1増幅部3と、第2ハイパスフィルタ部4と、第2増幅部5と、第3ハイパスフィルタ部6と、導電性の第1電極7及び第2電極8とを備えている。ここで、第1ハイパスフィルタ構成部2は、第1電極7及び第2電極8と共に、例えば電圧ソース型ハイパスフィルタを構成する。第2ハイパスフィルタ部4はカットオフ周波数が20(Hz)の1次のハイパスフィルタであり、第3ハイパスフィルタ部6は、カットオフ周波数が20(Hz)の4次のハイパスフィルタである。第1増幅部3の増幅率は、例えば20dB、第2増幅部5の増幅率は、例えば40dBである。第1電極7及び第2電極8は、生体の表面に直接接して装着されるのではなく、誘電体(空気よりも誘電率が大きい誘電体であればよく、例えば衣服の布)を介して生体に装着される。
【0023】
第1ハイパスフィルタ構成部2の具体的な回路の一例を、図2に示す。以下、図2を参照して、計測装置1の動作およびこれを用いた計測方法に関して説明する。図2は、生体の体内インピーダンスおよび生体と電極間の容量値を含めた電圧ソース型ハイパスフィルタの等価回路を示す回路図である。即ち、オペアンプ9を用いた、2次のハイパスフィルタとして機能する回路である。そのカットオフ周波数は、周囲に配置した抵抗値、容量値によって決まる。なお、図2の電圧ソース型ハイパスフィルタは公知であるので、その詳細説明は省略する。ここで、重要な点は、生体と電極間の容量値も、電圧ソース型ハイパスフィルタの回路構成要素になっている点である。
【0024】
まず、第1電極7及び第2電極8が、上記したように、生体に誘電体を挟んで装着される。第1電極7は、図2の破線で囲んだ領域中の上側のコンデンサの一方の電極、即ち、第1ハイパスフィルタ構成部2側の電極に対応する。また、第2電極8は、図2の破線で囲んだ領域中の下側のコンデンサの、第1ハイパスフィルタ構成部2側の電極に対応し、第1ハイパスフィルタ構成部2側で接地されている。
【0025】
図2のように、生体と電極間の静電容量C、体内インピーダンスRを含めて電圧ソース型ハイパスフィルタを構成すると、伝達関数は(1)式のように表される。
【0026】
【数1】

ここで、Vは生体内の変動する電圧、Voutは第1ハイパスフィルタ構成部2からの出力電圧、ωは信号の角周波数、jは虚数である。R、Cは、図2に示す各抵抗及びキャパシタ(静電容量)を表すと共に、それらの抵抗値及び容量値をも表す。(1)式より、静電容量Cが変化すると電圧ソース型ハイパスフィルタのカットオフ周波数が変化することが分かる。
【0027】
この電圧ソース型ハイパスフィルタは、カットオフ周波数を筋電計測においてあまり重要ではない20Hz以下の周波数になるように、抵抗値R、容量値Cが設定されている。ここで、20Hzよりも低い周波数成分が、筋電計測においてあまり重要ではないことは、例えば、上記非特許文献3に記載されている(第35ページには、フィルタで20Hz以下をカットしても、主な筋電位成分を損なうことがない旨記載されている)。
【0028】
そして、生体の電位変動Vsは、図1に示したように、第1ハイパスフィルタ構成部2を通過し、第1増幅部3によって増幅された後、前段のフィルタとして第2ハイパスフィルタ部4(カットオフ周波数20(Hz)の1次のハイパスフィルタ)を通過し、第2増幅部5によってさらに増幅され、後段のフィルタとして第3ハイパスフィルタ部6(4次のハイパスフィルタ)を通過し、筋電信号として出力される。
【0029】
図2の回路において、仮に静電容量Cが減少した場合、電圧ソース型ハイパスフィルタのカットオフ周波数が増加するが、そのカットオフ周波数が後段のハイパスフィルタ(第2ハイパスフィルタ部4、第3ハイパスフィルタ部6)のカットオフ周波数以下であれば、出力波形に影響を受けることなく筋電を計測することができる。即ち、抵抗値R、容量値Cが適切に設定されていれば、生体の動作によって、第1電極7と生体表面(皮膚)との位置関係が変動し、静電容量Cが変化したとしても、十分な強度の筋電信号を観測することができる。従って、オペアンプ9には、例えばTL071(テキサスインスツルメンツ社製)などの安価なリニアICを使用することができる。
【0030】
望ましい値の一例を示せば、R=5(GΩ)、C=220(pF)である。生体内部のインピーダンスRは200MΩ、生体と電極との間の静電容量値Cは220pF、カットオフ周波数を20Hzとした。R、Cがこれらの値の場合、理論上は、静電容量Cが220pFから2pFまで小さくなったとしても、出力波形に殆ど影響は出ない。
【0031】
なお、抵抗Rの値は大きければ大きいほど、出力波形は静電容量Cの変化による影響を受け難いと考えられるので、抵抗Rの値は5GΩよりも大きくてもよい。
【0032】
また、静電容量Cの変動を何らかの手段によって小さく抑制することが可能である場合には、抵抗Rの値は5GΩよりも小さくてもよい。例えば、R=1(GΩ)のときには、静電容量Cの減少が10pFまでであれば、出力波形に殆ど影響は出ない。また、R=500(MΩ)のときには、静電容量Cの減少が20pFまでであれば、出力波形に殆ど影響は出ない。
【0033】
このように、抵抗値Rは、後段のフィルタのカットオフ周波数などを考慮して、適宜設定することができる。
【0034】
なお、Cは、Rの値及びカットオフ周波数から決定されるものであるが、数百pF(例えば200pF)以上であれば十分である。
【0035】
上記では、図2の回路を構成する2つの抵抗素子Rの抵抗値が等しいとしたが、異なる抵抗値であってもよい。また、抵抗素子R、容量素子Cの各々が、複数の素子を組み合わせ構成されてもよい。
【0036】
また、第1ハイパスフィルタ構成部2の回路として、図2に示した電圧ソース型ハイパスフィルタを用いる場合を説明したが、これに限定されず、種々のハイパスフィルタ回路(回路要素としてオペアンプを含まない回路でもよい)を使用することができる。その場合にも、カットオフ周波数が、後段のハイパスフィルタのカットオフ周波数(例えば20Hz)よりも小さくなるように、生体と第1電極7との間の静電容量Cを、電圧ソース型ハイパスフィルタを構成する回路要素として、電圧ソース型ハイパスフィルタ内部の各抵抗値及び容量値を決定すればよい。
【0037】
また、静電容量Cを含んで構成されるハイパスフィルタのカットオフ周波数は20Hzに限定されず、10Hzなどのより低い周波数であっても、より高い周波数であってもよい。
【0038】
また、ノイズの影響を低減するには図3に示したように、2つのハイパスフィルタ構成部を(第1ハイパスフィルタ構成部2、第2ハイパスフィルタ構成部2’)備え、それらの出力信号を差動増幅部3’によって差動増幅してもよい。この場合、第1電極は2つになるが、第2電極は共通でよい。第1ハイパスフィルタ構成部2及び第2ハイパスフィルタ構成部2’の内部回路は、何れも図2の回路と同様であり、回路要素の抵抗値及び容量値は上記と同様に決定されていればよい。
【0039】
上記では、生体と電極との間に介在させる誘電体の一例として衣服を示したが、これに限定されず、空気よりも誘電率の高い物質であればよい。誘電体は、例えば、広く一般的な布に形成される繊維や、シリコンゴムなどであってもよい。また、誘電体は水であってもよく、従って、電極をそのまま水中で使用することができ、本発明の計測装置は水中での筋電計測に適している。
【0040】
なお、生体には人以外の動物も含まれる。
【実施例1】
【0041】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0042】
具体的には、2つの静電容量型絶縁電極を用い、差動増幅をすることで筋電計測を行った(図3参照)。静電容量型絶縁電極(図1の第1電極7と誘電体に対応)には、アルミ板をアルマイトで絶縁したものを使用した。使用した静電容量型絶縁電極と、人体に装着した状態を図4に示す。
【0043】
生体と電極間の容量値の大きさが出力波形に影響を及ぼさないことを検証するために、面積の異なる2種類の静電容量型絶縁型電極を使用した。即ち、寸法が40H×10W×5D(mm)の直方体の電極(以下電極Lと記す)と、寸法が20H×10W×5D(mm)の直方体の電極(以下電極Sと記す)とを使用した(図4の(a)参照)。
【0044】
計測は健常成人男性5名(22.5±0.5歳)を対象に、面積の異なる2種類の静電容量型絶縁電極(電極S、電極L)を用いて筋電計測を行った。
【0045】
また、電圧ソース型ハイパスフィルタの効果を比較するために、比較実験として、電極L、電極Sを使用したが、電圧ソース型ハイパスフィルタを介さずに筋電計測を行った。
【0046】
電極の設置方法としては、電極と肌の密着性を向上させるために、上腕にサポータを装着し、サポータと肌との間に電極L、電極Sを挿入した(図4の(b)参照)。接地用の電極(図1の第2電極8に対応)は、前腕にサポータを装着し、肌に密着させた(図4の(c)参照)。なお、商用電源に原因する60Hzの雑音などの影響を除去するために、シールド室内で計測を行った。
【0047】
計測結果を図5〜9に示す。図5、6は、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介して電極L、Sを使用した際の等尺性収縮(関節の角度が変わらない状態での筋肉収縮を意味する)時の筋電図波形である。図7、8は、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介さず電極L、Sを使用した際の等尺性収縮時の筋電図波形である。図9は、体動成分の影響をみるために、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介して電極L、Sを使用した際の屈曲運動(筋肉収縮によって関節の角度が変化する状態)時の筋電図を示す。
【0048】
図5、6から分かるように、電極Lを用いた場合も電極Sを用いた場合も同等レベルの筋電信号を計測することができた。このことから、電極面積の影響を受けることなく筋電信号を計測できたことが分かる。
【0049】
一方、図7、8では、電極Lを用いた場合には筋電信号を計測することができた(図7)が、電極Sを用いた場合には筋電信号を計測することはできなかった(図8)。このことは、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを使用しなければ、電極面積によっては、筋電信号を計測できない場合が生じることを意味する。これは、従来技術の問題として説明したものである。
【0050】
また、図9から、屈曲運動時も体動の影響をうけることなく筋電信号を計測できていることが分かる。
【0051】
このように、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを使用することにより、生体と電極間の容量値による影響を受けることなく、常に良好な信号レベルの筋電信号を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態に係る計測装置の概要を示すブロック図である。
【図2】生体の体内インピーダンスおよび生体と電極間の容量値を含めた電圧ソース型ハイパスフィルタの等価回路を示す回路図である。
【図3】本発明の別の実施の形態に係る計測装置の概要を示すブロック図である。
【図4】実験に使用した電極およびそれを人体に装着した状態を示す写真である。
【図5】電極Lを使用し、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介して計測した等尺性収縮時の筋電図波形を示すグラフである。
【図6】電極Sを使用し、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介して計測した等尺性収縮時の筋電図波形を示すグラフである。
【図7】電極Lを使用し、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介さずに計測した等尺性収縮時の筋電図波形を示すグラフである。
【図8】電極Sを使用し、本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介さずに計測した等尺性収縮時の筋電図波形を示すグラフである。
【図9】本発明の電圧ソース型ハイパスフィルタを介して計測した屈曲運動時の筋電図波形を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 計測装置
2 第1ハイパスフィルタ構成部
3 第1増幅部
4 第2ハイパスフィルタ部
5 第2増幅部
6 第3ハイパスフィルタ部
7 第1電極
8 第2電極
9 オペアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の筋電を計測する計測装置であって、
前記生体の皮膚に誘電体を介して装着される導電性の第1電極と、
前記生体の皮膚に誘電体を介さずに装着される導電性の第2電極と、
第1ハイパスフィルタ構成部とを備え、
前記第1電極が、前記第1ハイパスフィルタ構成部の信号入力端に接続され、
前記第2電極が、前記第1ハイパスフィルタ構成部の接地端に接続され、
前記第1電極が前記生体の皮膚に誘電体を介して装着された場合に、前記生体および前記第1電極間に形成される静電容量と、前記生体の体内インピーダンスと、前記第1ハイパスフィルタ構成部とによって、所定のカットオフ周波数のハイパスフィルタが形成されるように、前記第1ハイパスフィルタ構成部を構成する抵抗素子の抵抗値および容量素子の容量値が決定されていることを特徴とする筋電の計測装置。
【請求項2】
前記生体の皮膚に誘電体を介して装着される導電性の第3電極と、
第2ハイパスフィルタ構成部と、
差動増幅部とをさらに備え、
前記第3電極が、前記第2ハイパスフィルタ構成部の信号入力端に接続され、
前記第2電極が、前記第2ハイパスフィルタ構成部の接地端に接続され、
前記第1ハイパスフィルタ構成部の出力信号と第2ハイパスフィルタ構成部の出力信号とが、前記差動増幅部に入力され、
前記第3電極が前記生体の皮膚に誘電体を介して装着された場合に、前記生体および前記第3電極間に形成される静電容量と、前記生体の体内インピーダンスと、前記第2ハイパスフィルタ構成部とによって、所定のカットオフ周波数のハイパスフィルタが形成されるように、前記第2ハイパスフィルタ構成部を構成する抵抗素子の抵抗値および容量素子の容量値が決定されていることを特徴とする請求項1に記載の筋電の計測装置。
【請求項3】
前記ハイパスフィルタが電圧ソース型ハイパスフィルタであることを特徴とする請求項1又は2に記載の筋電の計測装置。
【請求項4】
前記第1ハイパスフィルタ構成部が、オペアンプと、第1抵抗素子と、第2抵抗素子と、第1容量素子とを備え、
前記第1容量素子の一端が前記オペアンプの非反転入力端に接続され、
前記第1容量素子の他端が前記第1電極に接続され、
前記第1抵抗素子の一端が、前記第1容量素子の前記一端に接続され、
前記第1抵抗素子の他端が、前記オペアンプの出力端に接続され、
前記第2抵抗素子の一端が、前記オペアンプの非反転入力端に接続され、
前記第2抵抗素子の他端が、接地され、
前記オペアンプの出力端が、反転入力端に接続されていることを特徴とする請求項3に記載の筋電の計測装置。
【請求項5】
前記第1容量素子の容量値が、200pF以上であり、
前記第1抵抗素子および前記第2抵抗素子の抵抗値が、それぞれ500MΩ以上であることを特徴とする請求項4に記載の筋電の計測装置。
【請求項6】
前記第1電極及び第2電極が内部に配置された、前記生体の一部に装着されるサポータをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の筋電の計測装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の計測装置を用いて、生体の筋電を計測する方法であって、
前記第1電極及び第2電極を前記生体の皮膚に誘電体を介して装着した状態で、前記第1ハイパスフィルタ構成部の出力信号を計測することを特徴とする筋電の計測方法。
【請求項8】
前記誘電体が布である、または、
前記誘電体の少なくとも一部が水であることを特徴とする請求項7に記載の筋電の計測方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−261735(P2009−261735A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116423(P2008−116423)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】