説明

非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池及び非フッ素化または部分フッ素化された膜の製造方法

本発明は、非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池に関する。本発明の、非フッ素化または部分フッ素化された膜は、非フッ素化または部分フッ素化されたポリマーと、形成される遊離基からポリマーを保護することを可能にする酸化防止剤とを含むことを特徴とする。また本発明は、膜の流し込み工程の前に、ポリマーに酸化防止剤が混合されることを特徴とする、非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する、燃料電池の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の分野に関し、特に非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池、及び非フッ素化または部分フッ素化された膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般にセルの組立体から形成され、その中央部に膜と電極の組立体(「MEA」すなわち「膜・電極組立体(Membrane Electrode Assembly)」)を含む。この組立体の膜は、1つの電極から他の電極への陽子の移送における重要な役割を提供する。従って、このような膜の特性が燃料電池の特性を決定する。また、この膜は、多くの機械的及び物理化学的な評価基準(例えば、イオン伝導率、電池に使用されるガスの低透過性、ガスの有効な分離、熱安定性)と、経済的及び環境上の評価基準に合致する必要がある。
【0003】
使用されている多くの膜は、酸基を含む過フッ素化された膜である。これらの過フッ素化タイプの膜は、一般に、大部分の技術的評価基準に合致することを可能にするが、90℃以上の温度における機能には問題が残っている。また、過フッ素化された膜の合成は多くの場合複雑であり、安全装置の使用を必要とする。更に、現在の過フッ素化された膜のリサイクルにも問題がある。
【0004】
そこで、例えば特許出願US 5,985,942に記載されているような、非フッ素化または部分フッ素化されたポリマーの膜を開発することが提案されている。
【0005】
近年では、燃料電池に使用するための多くの非フッ素化された膜が開発されている。例えば、特許出願EP 0 574 791には、スルホン化芳香族ポリエーテルケトン(sulfonated aromatic polyetherketon)からなる膜が記載されている。しかしながら、化学構造が炭素を含んだポリマー鎖(polymer chains)からなるこの種の膜の問題は、燃料電池媒質の中における安定性が限られていることである。これは、この媒質は高温を有し、カソードにおける酸素の存在によって、膜を酸化させやすいためである。
【0006】
この結果、燃料電池媒質の中で使用される膜は、機械的特性と物理化学的特性の少なくとも一方を失い、亀裂や破断を生じやすい傾向を有し、燃料電池の効率の低下、更に機能停止をもたらす。
【0007】
したがって、経済的及び環境上の評価基準を満たしながら、充分な機械的及び物理化学的特性を有する膜を提供する必要性が現実に存在する。
【特許文献1】US 5,985,942
【特許文献2】EP 0 574 791
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの目的は、燃料電池の中における安定の問題を解決することを可能にする、新しい非フッ素化または部分フッ素化された膜を提供することにある。
【0009】
本発明の他の1つの目的は、低コストで、環境に配慮され、充分な機械的及び物理化学的特性を有する膜を含み、これらの特性が燃料電池の中で、長時間(5000時間)の使用中維持される、燃料電池を得ることにある。
【0010】
通常、鎖(chain)の解裂には、ポリマー鎖における遊離基(free radicals)の形成が先行する。本発明の更に他の1つの目的は、遊離基の形成を抑制することによって、鎖の解裂を制限または妨げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、非フッ素化または部分フッ素化されたポリマーと、上記ポリマーに存在する遊離基の作用からポリマー鎖を保護することを可能にする酸化防止剤とを含む、非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のその他の利点と特徴は、非限定的な例として示される、実施の形態と実施方法の詳細な説明を検討することによって明らかとなるであろう。
【0013】
非飽和ポリマー膜の劣化プロセスにおける主要な反応の1つは、芳香族の環(aromatic rings)、特に、例えばオルト(ortho)位置にあるアルキル(alkyl)またはアルコキシ(alkoxy)基に対するHO・遊離基(HO・radicals)の付加である。HO・遊離基は、−C−O−C−結合のような結合の切断を開始させる可能性がある。
【0014】
本発明の枠内において、膜は、HO・遊離基に敏感な化学構造を有し、スルホンアリル(arylsulfonic)基を有するポリ芳香族ポリマー(polyaromatic polymer)からなる、化学構造が炭素を含んだ、スルホン化された膜であることが望ましい。このようなポリマーの例として、以下のものを挙げることができる。すなわち:
−式(II)の単位を含む、スルホン化ポリエーテルケトン(PEK)(sulfonated polyetherketon)型のポリマー。ここにnは20〜500の整数を表す;
【0015】
【化7】

−式(III)の単位を含む、部分フッ素化型のポリマーに該当する、放射線グラフト共重合体(FEP−g−PSSA)型のポリマー。ここにmは5〜10整数を表し、pは3〜10の整数を表す;
【0016】
【化8】

−式(IV)の単位を含む、スルホン化ポリイミド(PI)型のポリマー。ここにXは1〜9整数を表し、比X/Yは2/8〜6/4である;
【0017】
【化9】

−式(V)のk単位を含む、スルホン化ポリアリレン エーテル スルホン(PSU)(sulfonated polyarylene ether sulfone)型のポリマー。ここにkは20〜500の整数を表す;
【0018】
【化10】

−式(VI)の単位を含む、ポリスチレン−ジビニルベンゼン スルホン酸(polystyrene−divinylbenzene sulfonic acid)型のポリマー;
【0019】
【化11】

本発明においては、膜の中に存在する破壊に対して敏感な基は、例えばヒンダード アミン ライト スタビライザー(hindered anine light stabilizers)(HALS)から選ばれた、酸化防止剤の作用によって保護される。
【0020】
ライト スタビライザーは、多分、酸化防止メカニズムを介して作用する。これらの立体インダード アミン(srerically hindered amines)は容易に酸化し、陽イオン アミン遊離基(cationic amine radicals)の形成をもたらすからである。これらの中間物は、酸素の存在の下に、様々なペルオキシル遊離基(peroxyl radicals)を介して、ニトロキル遊離基(nitroxyl radicals)に変換される。特に長命なこれらの遊離基は、中和剤として、膜のポリマーの中に存在する遊離基と有効に反応する。このことは、ポリマー鎖の遊離基による酸化を妨げ、多数の鎖の解裂によってもたらされる劣化に対してポリマー鎖を保護するという効果を有する。
【0021】
ヒンダード アミン ライト スタビライザーの安定化能力は、それらの化学構造と分子量に依存する。それらの形態は、遊離基が存在する場所への接近性、すなわち遊離基を安定化する能力を定める。したがって、使用するべきスタビライザーの型は、ポリマーの構造と性質に依存する。スタビライザーとポリマーとの対の性能は、例えば燃料電池媒質中における経時劣化テストによって実験的に決定される。
【0022】
ヒンダード アミン ライト スタビライザーは、例えば次式(I)の化合物である:
【0023】
【化12】

ここに、R基は、水素原子、アルキル遊離基(alkyl radical)、アシル遊離基(acyl radical)またはアルコキシ遊離基(alkoxy radical)を表わし、水素原子またはメチル遊離基(methyl radical)が望ましい。
【0024】
これらのアミンは、遊離基を捕捉する役割を果たす、テトラメチルピペリジン(tetramethylpiperidine)系の共通の特徴を有する。−N−R基は、ニトロキシル遊離基(nitroxyl radical)NO・になり、次いで、「デニソフ(Denisov)」サイクルと呼ばれるサイクルの間に、これらの遊離基は、その環境に露出しているポリマーの中に形成された遊離基と反応する。
【0025】
ライト スタビライザーは、例えば300〜600g/molの分子量を有する、低分子量のものが望ましい。このライト スタビライザーは、ポリマーの重量に対して0.5〜1%の重量の比率で存在する。
【0026】
本発明による燃料電池は、様々な構造の膜を含むことができる。
【0027】
例えば、酸化防止剤は、膜を形成することを可能にする流し込み工程の前にポリマー溶液に混合される。この場合、酸化防止剤は膜全体に存在し、このことは、膜の全体が保護されることを可能にする。
【0028】
他に可能な方法は、例えば、ポリマーに混合された酸化防止剤を含む薄い被覆層(薄層)を、乾燥中の膜の面の1つ(カソードに対向して配置する面)に載置することである。酸化防止剤の付加は、追加の面間抵抗を、少ししか、あるいは全くもたらさない。酸化防止剤とポリマーからなる被覆層(薄層)は、2〜10μmの厚さを有する。本発明のこの実施の形態の利点は、酸化防止剤の量が制限され、膜の最終コストが減少されることにある。
【実施例】
【0029】
スルホン化ポリイミド型の膜の合成
スルホン化ポリイミドのブロックの合成を、同じ反応装置において、2工程で実行した。
【0030】
第1工程は、ジアン水素化物(dianhydride)のスルホン化ジアミン(sulfonated diamine)との重縮合によって親水性のブロックを合成することからなる。イミド化(imidization)は、180℃における15時間の熱処理によって実行した。使用されたジアミンは、酸の形にはなかった。
【0031】
疎水性のブロックの合成は、疎水性のジアミンと、第1工程で使用されたものと同じ水素化合物(hydride)とを導入して、第2工程において実行された。熱イミド化は、180℃において20時間、実行された。ポリマーのブロックは、合成溶剤の中の溶液の形で得られた。溶剤の選択は、合成の際に使用されるモノマーの性質と様々な構造に依存する。使用可能な溶剤の例は、例えば、フェノール(phenol)、3−クロロフェノール(3−chlorophenol)、またはホルムアミド(formamide)を含む。ポリマーの溶液の温度が室温に戻ったときに、ポリマーの溶液は粘性体になった。
【0032】
一般に、合成を妨げないように、ポリマーの合成が実行された後で、酸化防止剤を導入することが望ましい。酸化防止剤は、例えば、液体の形で、撹拌しながら85℃に加熱された溶液の形のポリマーの中へ導入される。
【0033】
選択される酸化防止剤は、例えばHALS(CIBA)のような、合成に使用される溶剤の中へ溶解可能なものである必要がある。酸化防止剤は、ポリマーの重量に対して0.5〜1%の比率を保つように導入される。
【0034】
次いで、得られた均質な溶液は、例えば加熱、次いで流し込んで乾燥させることによって成形される。成形条件は既知であり、使用されるポリマーの性質に依存する。
【0035】
このようにして、燃料電池の作動条件において、骨格構造の破壊の開始から膜を保護することを可能にする、全体が酸化防止剤とポリマーから構成される膜、または膜の面に載置される、より薄い被覆層(薄層)を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池において、上記膜は、非フッ素化または部分フッ素化されたポリマーと、形成される遊離基から上記ポリマーを保護することを可能にする酸化防止剤とを含むことを特徴とする、非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項2】
上記酸化防止剤は、ヒンダード アミン型のライト スタビライザーであることを特徴とする、請求項1に記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項3】
上記ライト スタビライザーは、下記の一般式(I)の化合物:
【化1】

ここに、R基は、水素原子、アルキル遊離基、アシル遊離基またはアルコキシ遊離基を表す;
であることを特徴とする、請求項2に記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項4】
上記R基は、水素原子またはメチル遊離基を表すことを特徴とする、請求項3に記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項5】
ヒンダード アミン型の上記ライト スタビライザーは、300〜600g/molの分子量を有することを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1つに記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項6】
非フッ素化または部分フッ素化された上記ポリマーの重量に対して0.5〜1%の重量の上記酸化防止剤が存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項7】
非フッ素化または部分フッ素化された上記ポリマーは、スルホンアリル基を含むポリ芳香族ポリマーであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項8】
非フッ素化または部分フッ素化された上記ポリマーは、以下のもの:
−式(II)の単位を含む、スルホン化ポリエーテルケトンのポリマー、ここにnは20〜500の整数を表す;
【化2】

−式(IV)の単位を含む、スルホン化ポリイミド(PI)型のポリマー、ここにXは1〜9整数を表し、比X/Yは2/8〜6/4である;
【化3】

−式(V)のk単位を含む、スルホン化ポリアリレン エーテル スルホン(PSU)型のポリマー、ここにkは20〜500の整数を表す;
【化4】

−式(VI)の単位を含む、ポリスチレン−ジビニルベンゼン スルホン酸型のポリマー;
【化5】

から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項9】
部分フッ素化された上記ポリマーは、式(III)の単位を含む、放射線グラフト共重合体(FEP−g−PSSA)型のポリマー、ここにmは5〜10整数を表し、pは3〜10の整数を表す;
【化6】

であることを特徴とする、請求項7に記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項10】
上記膜の全体が、上記ポリマーと上記酸化防止剤との混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項11】
上記膜は、上記膜の一方の面に、上記ポリマーと上記酸化防止剤との混合物の薄膜を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項12】
上記ポリマーと上記酸化防止剤との上記混合物の上記薄膜は、2〜10μmの厚さを有することを特徴とする、請求項11に記載の非フッ素化または部分フッ素化された膜を有する燃料電池。
【請求項13】
膜の流し込み工程の前に、ポリマーに酸化防止剤が混合されることを特徴とする、燃料電池の製造方法。
【請求項14】
上記ポリマーと上記酸化防止剤との混合物の薄膜が、乾燥工程中に上記膜に載置されることを特徴とする、請求項13に記載の燃料電池の製造方法。

【公表番号】特表2008−516384(P2008−516384A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535219(P2007−535219)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050816
【国際公開番号】WO2006/037929
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】