説明

非侵襲性深部筋肉筋電図検査法

非侵襲で深部筋肉の筋電図検査を行うための方法および装置を提供する。適切な表面筋電図検査の電極(3)のアレイは、検査される深部筋肉(c)が位置する人体の一部を取り囲む1つ以上の環に配置されている。アレイにおいて、共通の基準電極(単極)および他の電極(双極)から選択される別の電極に対して、少なくとも選択された電極の電位が記録され、そのデータは、検査される少なくとも深部筋肉によってなされる寄与を(必要に応じて、近似値またはアルゴリズム、あるいはそれら両方を用いて)決定するために、選択された電極の少なくとも一部の記録された電位に関して処理される。典型的には、これは、適切な技術を用いて筋電図検査シグナルをそれらの構成成分に分解することによって数学的になされる。好ましくは、これは、取り囲まれた筋肉の静的X線断層写真を得るために、同じ電極を用い得る静的筋肉撮像装置と統合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ、生体力学調査、理学療法、および神経−筋肉に関する臨床診断法を含む様々な異なる領域において筋肉の機能を調べるために、筋肉の電気的活動を記録するために用いられる非侵襲性深部筋肉筋電図検査法(EMG)に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、2つのカテゴリーの筋電図検査の記録が存在する。1つは、非侵襲性の表面筋電図検査法(sEMG)であり、これは、検査中に接着型の生体用電極が筋肉の上のすぐ上の肌表面に配置されるものである。従ってこのカテゴリーは、肌表面に近い浅層の筋肉に用いるのに限られる。
【0003】
2つ目のカテゴリーは、検査中にいわゆる深部筋肉に伝わるために、物理的に肌に突き刺す細いワイヤまたは針を用いての筋電図検査の記録を得るための侵襲性の手段である。この技術は侵襲性であるので、主要な血管、神経、および内臓近くに位置する一部の深部筋肉は、患者の安全性の理由から、そのような技術によって検査されるべきではない。そのような確立された侵襲性のEMG技術は、「Needle electromyography」と題されたJasper R DaubeおよびDevon I Rubinによる非特許文献1の科学論評記事に記載されている。
【0004】
侵襲性の筋電図検査は、患者に対してのさらなる外傷による痛みの可能性や感染症の可能性といった多くのリスクを伴う。従ってこのようなリスクがあるので、そのような手段の結果として能力低減のリスクを負ってしまう場合があったり、または生活に差し支えるような怪我または感染症のリスクを負ってしまう場合がある、特に一流のアスリートにとって、スポーツパフォーマンステストおよびトレーニングにおいては常用されない。
【0005】
深部筋肉を非侵襲的に調べるための企てが以前から存在している。特許文献1には、被験者の深部筋肉の機能を調べるための方法および装置を記載しており、ここで、当該深部筋肉を可視化するために患者用のテーブル、力変換器、および超音波装置が用いられる。コンピュータが変換器および超音波装置に接続されてよく、評価セッションが行われている間に被験者にシグナル(cue)を送り、そのセッションから得られる情報を分析する。その装置はまた、被験者の足を支えるための1つ以上のスリングを含んでもよい。
【0006】
特許文献2においては、関節を安定化する深部筋肉の機能を調べるための方法および装置が記載されており、ここで、浅層の筋肉は、正しく行われた場合に、安定化深部筋肉の主に保養回復(recruitment)を必要とするとして知られる活動が行われている間、筋電図検査を用いてモニタリングされる。深部筋肉が十分に機能している場合、浅層の筋肉の活動はほとんどない。逆に、深部筋肉の機能が不十分である場合、浅層の筋肉の活動が増加する。筋電図検査を用いる浅層の筋肉のモニタリングは、超音波画像診断および/または圧力バイオフィードバックを用いて、関節を安定化する深部筋肉のモニタリングと組み合わされてよい。この装置は、表面筋電図検査装置、超音波装置、圧力バイオフィードバック装置、およびバイタログラフ(Vitalograph)を、これらの機器からのデータを分析し、機能についての目安を与えるようにプログラミングされたコンピュータと組み合わせた形で、備えている。
【0007】
5つの特定の深部筋肉のsEMGは、腰筋、方形筋、腰腸肋筋、内外腹斜筋、および腹横筋を記録しているMcGillら(非特許文献2)により証明されているように、従来のsEMG方法を用いると、15%〜20%の誤差にて表面上において記録される場合もある。しかしながら、これはそれらの特定の筋肉にのみ適用可能であり、全ての深部筋肉に対して一般化可能ではない。
【0008】
JesingerおよびStonic(非特許文献3)は、深部筋肉の活動から浅層の活動を判別するための、逆有限要素モデル(FEM)を提案した。しかしながら、この方法は、身体セグメントのマルチスライスMRI画像等の先験的な情報を必要とする。このような逆FEMモデルは、多数(100以上)の測定点がなければ、固有の数学的な解答を提供せず、1996年から導入されてはいるものの、今日まで、この方法が深部筋肉の活動から浅層の活動を判別することが実際に可能であるといった臨床的な証拠は存在しない。ここでいわゆる「computed myography(コンピュータ筋運動記録法)」(多数の数学的近似法と共にではあるが)といった同様のアプローチを用いて、van den Doelら(非特許文献4)は、二頭筋、上腕筋、および三頭筋の活動を判別しようと企てたが、それらの仮定していた上腕筋部分が二頭筋と同一の反応を示したため、二頭筋、三頭筋の活動の判別を首尾良く証明しているのみである。しかしながら、三頭筋および二頭筋はいずれにせよ標準のsEMGを用いて、容易に記録されかつ識別される、両方の対立する浅層の筋肉である。この逆FEM法は、それゆえ、実行可能な臨床での検査ツールとは対照的に、学術用のコンピュータシミュレーションでの実験により適しているようである。
【0009】
要するに、出願人が認識している限りでは、5つの特定の深部筋肉(非特許文献2)に加え、深部筋肉の活動は、現在のところ、既に確立された侵襲性の筋電図検査技術、ならびに、深部筋肉の活動を幅変化の超音波画像に関連させること、および、上述で概説したコアゴニスト(co−agonist)浅層筋肉EMGをモニタリングすることによって、深部筋肉の活動の間接的な推測を含む非侵襲性の特許によって示唆される上の2つの前提の(hypothesised)技術を用いて実際に記録され得ているのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO2004107976パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,185,451号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Muscle & Nerve 39,no.2:244−270ページ、2009年
【非特許文献2】J.Biomechanics,29(11),1503−1507ページ、1996年
【非特許文献3】IEEE DSP Workshop Proc,57−60ページ、1994年
【非特許文献4】Inverse Problems,24,1−17ページ、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、非侵襲で、深部筋肉の筋電図検査を行うための方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、非侵襲で深部筋肉の筋電図検査を行う方法であって、適切な表面筋電図検査の電極(3)のアレイを患者の肌に適用することと、少なくとも1つの他の電極に対して、選択された電極の電位を記録することとを含み、前記方法は、前記電極のアレイが、検査される深部筋肉(c)が位置する人体の一部を取り囲む1つ以上の環に配置されており、前記アレイにおいて、共通の基準電極(単極)および他の電極(双極)から選択される別の電極に対して、少なくとも選択された電極の電位を記録することと、検査される少なくとも前記深部筋肉によってなされる寄与を(必要に応じて、近似値またはアルゴリズム、あるいはそれら両方を用いて)決定するために、前記選択された電極の少なくとも一部の前記記録された電位を処理することを特徴とする、方法が提供される。
【0014】
本発明のさらなる特徴は、深部および浅層の筋肉の両方の筋電図検査の波形を引き出すために、独立成分分析(ICA)あるいは、任意の他の適切な非混合またはマトリクス反転技術から選択される技術を用いて、筋電図検査シグナルをそれらの構成成分に分解することによって、浅層の筋肉を含む取り囲まれた筋肉の各々に起因する前記電極の電位への寄与が、典型的に、数学的に決定されることを提供する。深部筋肉は、従来の(sEMGまたは針/細いワイヤ)技術によって筋肉を識別するために用いられる手順に類似し得る特定の動きの手順を選択することによって識別され得る。
【0015】
本発明のさらなる特徴は、方法の結果が、取り囲まれた筋肉の静的X線断層写真を得るために、同じ電極を用い得る静的筋肉撮像装置の結果と統合されることと、静的X線断層写真が、ICA−sEMGの波形の、双極子の分解あるいは、任意の他の適切な2Dまたは3Dの電気的ソースの局所化技術と共に登録されることとを提供する。静的筋肉撮像装置は、電気インピーダンストモグラフィ装置、超音波装置、コンピュータ断層撮影装置(CT)、または磁気共鳴撮像装置(MRI)から選択され得る。
【0016】
本発明はまた、上で規定された方法を実行するための装置であって、使用の際に、人体の肌に固定される複数の電極を有する1つ以上の環によって取り囲まれた少なくとも1つの深部筋肉の筋電図検査の波形を提供するために、記録された電極の電位について、独立成分分析、あるいは、任意の他の適切な非混合またはマトリクス反転技術を実行するように適合された記録手段および計算手段を電極に各々接続する可撓性導体を有する、複数の表面筋電図検査の電極を備える、装置を提供する。
【0017】
本発明に係る方法および装置のさらなる特徴は、本発明の以下のさらなる記載、および現在想定される実施からさらに明らかとなり、その記載は添付の図面を参照してなされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、様々な電極の一般的な位置を示す人間の腕の概略的な側面図である。
【図2a】図2aは、腕の上腕筋部位によってとられた概略的断面図であり、腕を囲む単一の環状電極を示す。
【図2b】図2bは、腕の上腕筋部位によってとられた同じ概略的断面図であり、腕を囲む2つの間隔を置いた環状電極を示す。
【図3】図3は、従来技術の動作と比較した本発明の動作の概略図である。
【図4】図4は、処理装置によって結像された静的電気インピーダンストモグラフィの図である。
【図5】図5は、コンピュータ計算による双極子で共に登録された図2および図4の人間の腕の断面に対応する静的電気インピーダンストモグラフィ(EIT)の図である。
【図6】図6は、予備臨床結果のために、浅層の活動(二頭筋)から深部(上腕筋)筋肉の活動を分けるために用いられる動きの手順の5つの連続した段階の図である。
【図7】図7は、1つの環に6つの電極を有する2つの環を用い、5kgのバーベルを用いた図6に示す動きの手順の後の、予備臨床結果からの、未処理の単極のsEMGの記録を示す。
【図8】図8は、予備臨床結果から、図7からのsEMG記録から導き出された第1の6つのICA−sEMG成分を示す。
【図9】図9は、5つの動きの段階の各々の間の、図8のICA−sEMG成分の実効値(RMS)の値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施態様において、実験室の設定において、実際の人間の被験者に適用された場合の、上腕(2)の深部筋肉上腕筋の筋電図検査の例を示す。本発明のこの実施態様において、適切な表面筋電図検査の電極(3)の2つのアレイは患者の肌に適用されており、電極は、上腕筋の関連部位に位置する上腕の適切な部分における一群の筋肉を取り囲む2つの環に配置されている。
【0020】
この特定の例において、電極の2つのアレイは、腕の周囲に略等しく間隔を置いて配置された各環に6つの電極を有するトータル12個の電極を備える。2つの環の回りを順に時計回りに、ローマ数字(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII)によって図3に示す電極が、通常の方法で、可撓性の導体(5)により、処理ユニット(4)に接続される。
【0021】
図3が関連する限りでは、一対の導体のみが電極および処理ユニットに接続されて示されており、関連の電極がローマ数字Iで示されている。共通の基準電極もまた、環の外側、例えば、図1の数字(3a)で示される肘の骨部分上に置かれているが、共通の基準電極として環状電極の1つを用いることが適切であり得る場合もある。接地電極は、検査中の筋肉に対して、適切なsEMG接地点(例えば、肘、手首等)上に配置される。この図示の方法は、図示を簡略化する目的のために用いられている。
【0022】
共通の基準電極に対する全ての電極の単極の電位は、差動増幅器(6)の対応するセットのうちの1つに供給され、その出力は、独立成分分析(ICA)または任意の他の適切な非混合(un−mixing)またはマトリックス反転技術を計算するためにプログラミングされたパーソナルコンピュータまたはプログラム可能なマイクロコントローラ等のコンピューティング装置(7)に全て供給される。これは、近似値またはアルゴリズム、あるいはそれら両方を用い、典型的には、Medical&Biological Engineering&Computing 47,no.4(4月、2009年):413−423ページの、「Independent component analysis: comparison of algorithms for the investigation of surface electrical brain activity」と題された記事で、Klemm、Matthias、Jens Haueisen、およびGalina Ivanovaによって記載されたICAのための一般的な行に沿って、または、任意の他の適切な非混合またはマトリックス反転技術なされ得る。ICAのアルゴリズムの一部を実施する「EEGLAB」と呼ばれるオープンソースのソフトウェアもまた適切に用いられてよい。
【0023】
この方法において、記録された電極の電位は、検査中である少なくとも上述の深部筋肉と、電極のアレイによって取り囲まれた筋肉のほぼ各々によってなされる寄与を決定するために処理される。コンピューティング装置はまた、差分信号を分解し、データをアーカイブに入れる等の他のルーチンのソフトウェア機能を実行してよい。
【0024】
この装置は、典型的には、対応する筋電図検査の波形を表示できるコンピュータモニタ等のディスプレイ装置(8)を備える。
【0025】
本発明の筋電図装置は、従って、文字(a、b、d、e)で示す浅層の筋肉および深部上腕部筋肉(c)の両方に対応する筋電図検査を同時に導くために用いられてよい。
【0026】
文字(a)で示す筋肉等の浅層の筋肉の従来の(非侵襲の)表面筋電図検査においては、ローマ数字(I)および(II)で示す2つの隣接する電極間の電位が測定されることに留意されたい。
【0027】
他方で、深部筋肉(c)の従来の侵襲性の針筋電図検査が数字(9)で概略的に示されており、ここで、深部筋肉の電位は表面基準電極に対して測定される。
【0028】
しかしながら、本発明を使用するにあたり、各筋肉(a、b、c、d、e)の電気的な活動は同時に測定されてよい。これらの電気的な活動は、Ma、Mb、Mc、Md、およびMeで表されてよく、これらの例において、各々の単極のチャネルは、各(浅層および深部の)筋肉のソースからの成分の加重和を含み、すなわち、以下である。sEMG(l)=Al.Ma+BI.Mb+CI.Mc+DI.Mc+El.MdsEMG(ll)=All.Ma+BIIMb+CIIMc+DII.Mc+EII.MdsEMG(lll)=AIII.Ma+BIIIMb+CIIIMc+DIIIMc+EIIIMdsEMG(IV)=AIV.Ma+BIV.Mb+CIV.Mc+DIV.Mc+EIV.MdsEMG(V)=AV.Ma+BV.Mb+CV.Mc+DV.Mc+EV.MdsEMG(VI)=AVI.Ma+BVIMb+CVIMc+DVI.Mc+EVIMdsEMG(VII)=AVII.Ma+BVIIMb+CVIIMc+DVIIMc+EVIIMdsEMG(VIII)=AVIII.Ma+BVIIIMb+CVIIIMc+DVIIIMc+EVIIIMdsEMG(IX)=AIX.Ma+BIX.Mb+CIX.Mc+DIX.Mc+EIX.MdsEMG(X)=AX.Ma+BX.Mb+CX.Mc+DX.Mc+EX.MdsEMG(XI)=AXIMa+BXIMb+CXI.Mc+DXI.Mc+EXI.MdsEMG(XII)=AXII.Ma+BXII.Mb+CXII.Mc+DXII.Mc+EXII.Md。
【0029】
各々の筋肉の活性化が統計的に独立している(以下の独立成分分析(ICA)の制限の議論を参照)場合、ICAは、5つの未知の成分のために12の等式のシステムを解くように適用されてよい。類似のICA成分(例えば、相関によって計算されるように)が共に加えられてよく、図8における4つの二頭筋ICA(ICI−ICIII、ICVI)を用いてなされてよいように、単一の成分を形成してよく、この処理は、理想的には、以下、ICA−sEMG(a)=MaICA−sEMG(b)=MbICA−sEMG(c)=McICA−sEMG(d)=MdICA−sEMG(e)=Meとなるように、12の等式を非混合(unmix)することに留意されたい。
【0030】
隣接する筋肉と、検査中の深部筋肉とを区別するように設計された、前もって決定された動きの手順を用いた、これらのICA−sEMG波形の時間的変動は、筋肉の識別を決定するのに十分である。
【0031】
この一例は図6の動きの手順を用いて提供され、ここでその並びが示されており、(A)で示すように、腕を伸ばした状態で始まり;(B)で示すように腕を曲げて、回内位置になり;(C)で示すように手を回転させて回外位置になり;(D)で示すように回内位置に戻り;そして、(E)で示すように腕をもう一度伸ばす。各々の動きは、約3秒間とるべきであり、(A)から(B)への動きは、二頭筋よりも上腕筋を活性化し;(B)から(C)への動きは二頭筋を活性化し、かつ上腕筋を低減し;(C)から(D)への動きは上腕筋を活性化し、かつ二頭筋を低減し;(D)から(E)への動きは三頭筋を活性化する。
【0032】
図7は、図2bに示すように配置された2つの環からの単極のsEMG(電圧(ミリボルト)対時間(秒))の予備記録を示し、ここで各々の環はほぼ等しく間隔を置いた電極を有する。動きの手順は図6を参照して記載されたものと同じである。これらの単極のsEMGの波形は、二頭筋の活動が主であり(回外の間が最も如実である)、互いに類似することに留意されたい。
【0033】
図8は、図7に示される予備記録のICA転換を示しており、最初の6つのICA成分(電圧(ミリボルト)対時間(秒))を示す。上腕筋の部分は、肘屈曲部(曲げ)および前腕の回内運動(回内)で活性化し、前腕の回外運動(回外)で低減することに留意されたい。二頭筋は共に加えられてよい4つの成分(ICI−ICIII、ICVI)からなり、それら全ては、屈曲部(曲げ)で活性を示し、前腕の回外運動(回外)でより活性し、かつ前腕の回内運動(回内)で活性が低減する。三頭筋の部分は伸びの状態で活性を示す。
【0034】
図8は、従って、回外と回内との間の差が、上腕筋(図8のICV)および二頭筋(ICI−ICIII、ICVI)を区別するために用いられてよいことを示す。同様に、肘屈曲した状態(曲げ、回外、回内)と、伸び状態との間の差が、三頭筋(図8のICIV)を識別するために用いられてもよい。
【0035】
補完的な筋肉識別情報が必要とされる場合、sEMGの環と同じ電極を用いる筋肉電気インピーダンストモグラフィ(EIT)等の公知の静的筋肉撮像装置(static muscle imaging device)は、それから、筋肉の静的X線断層写真(static tomogram)を得るために適用されてよい。そして、図4に示すように、この静的X線断層写真は、上述(図5を参照)で記載したように、かつ以下でさらに記載されるように導き出されるICA−sEMGの波形の、双極子の分解(dipole decomposition)または電気的ソースの局所化と共に登録(co−registered)されてよい。
【0036】
ICA−sEMG波形は、電気双極子分析(electrical dipole analysis)を用いて、それらの対応する空間的位置に(すなわち、環状の電極環または複数の環状の電極環内に)変換されてよく、それは、出願人が認識している限りでは、JesingerおよびStonic(1994年)またはvan den Doel(2008年)によって実施された技術を含む、筋電図検査または標準の電気的ソースの局所化(electrical source localisation)技術には以前に適用されていないものである。これにより、ICA−sEMGを表す筋肉の双極子または電気的ソースが、断面におけるある位置にタグ付けされることが可能となる。双極子または電気的ソースの断面は、筋肉EITと共に登録されてよく、ICA−sEMGソースの位置を識別でき、それゆえまた、深部筋肉の識別を可能にする。
【0037】
図9は、予備臨床結果からの、5つの動きの段階の各々の間の、ICA−sEMG成分の実効値(RMS)の値を示す。これらの値は、ICI−III、VIで表される二頭筋、ICVで表される上腕筋、およびICIVで表される三頭筋と、同様の活性および低減パターンを共有する。
【0038】
別個の筋電図を結像するために記載された装置はそのままで一つの装置であってよく、ここでICA−sEMGは、所定の動きの手順を介して特定の筋肉に関連されてよく、すなわち、特定の深部筋肉を活性することが知られている手順もまた、それゆえ、その動きの間の筋肉の活性を模倣する対応のICA−sEMG波形の結果となることに留意されたい。
【0039】
また、この装置が電子画像装置と共に用いられる場合、撮像装置等の上述したようなEIT装置が、上述した技術等の他の静的画像形成技術によって代わられてもよい。これらの技術の少なくとも一部は、EITよりもさらに詳細な画像を提供することが想定され得るが、機能的な筋肉の研究に典型である、動きを必要とする環境においての使用では扱いにくい場合がある。
【0040】
あらゆる新たな医療コンピューティング技術と同様に、本発明は、その精度が確証された特定の領域における使用のために利用可能となり得るか、または、少なくとも認可され得るものである。
【0041】
ICAは、結果として、統計的に独立したチャネルとなるが、他方で、ICA−sEMGの成分と特定の筋肉との間の1対1の関係が必ずしも存在するわけではないことにも留意されたい。ICA−sEMGチャネル単独では、1つのソースを空間的に局所化する(それゆえ、個々の筋肉を識別する)のに必ずしも十分であり得るわけではなく、というのも、その活性は、2つ以上のICA−sEMGの成分に含まれ得るからである。
【0042】
この潜在的な制限を克服するための選択肢は、相関または任意の他の数学的に等価である技術を用いることによって、類似する(上述したように)ICA−sEMGの成分を組み合わせること;EEGに適用されているような、複数の双極子の局所化を適用して、各ICAの成分が単一または複数のソースに空間的に局所化されることができるようにすること;二次元または三次元の電気的ソースの局所化技術、を含む。それゆえ、特定の空間的位置(すなわち特定の筋肉)から調達されたEMGは、例えば、検査中の領域の断面X線断層写真の上に重ね合わせられる、ICA、あるいは任意の他の適切な非混合またはマトリクス反転技術、複数の双極子ソースの局所化または任意の他の電気的ソース技術の組み合わせを用いて再構成されてもよい。
【0043】
様々な変形が、本発明の範囲から逸脱することなく、上述した方法および装置になされてもよい。特に、電極の環の数は最低1つから変更可能であることに留意されたい。また、各電極の電位は参照電極に対して測定される必要はなく、電極は、電極の電位が正反対の対極の電極等の他のアクティブな電極に対して測定される双極のシステムにおいて用いられることができる。様々な他の変形がなされてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非侵襲で深部筋肉の筋電図検査を行う方法であって、適切な表面筋電図検査の電極(3)のアレイを患者の肌に適用することと、少なくとも1つの他の電極に対して、選択された電極の電位を記録することとを含み、前記方法は、前記電極のアレイが、検査される深部筋肉(c)が位置する人体の一部を取り囲む1つ以上の環に配置されており、前記アレイにおいて、共通の基準電極(単極)および他の電極(双極)から選択される別の電極に対して、少なくとも選択された電極の電位を記録することと、検査される少なくとも前記深部筋肉によってなされる寄与を(必要に応じて、近似値またはアルゴリズム、あるいはそれら両方を用いて)決定するために、前記選択された電極の少なくとも一部の前記記録された電位を処理することを特徴とする、方法。
【請求項2】
深部および浅層の筋肉の両方の筋電図検査の波形を引き出すために、独立成分分析(ICA)および、任意の他の適切な非混合またはマトリクス反転技術から選択される技術を用いて、筋電図検査シグナルをそれらの構成成分に分解することによって、浅層の筋肉(a、b、d、e)を含む取り囲まれた筋肉(a、b、c、d、e)の各々に起因する前記電極の電位への寄与が、典型的に、数学的に決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記深部筋肉は、特定の動きの手順を選択することによって識別される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記動きの手順は、従来の(sEMGまたは針/細いワイヤ)技術によって筋肉を識別するために用いられる手順に類似する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記方法の結果は、取り囲まれた筋肉の静的X線断層写真を得るために、同じ電極を用い得る静的筋肉撮像装置の結果と統合される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記静的X線断層写真は、ICA−sEMGの波形の、双極子の分解あるいは、任意の他の適切な2Dまたは3Dの電気的ソースの局所化技術と共に登録される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記静的筋肉撮像装置は、電気インピーダンストモグラフィ装置、超音波装置、コンピュータ断層撮影装置(CT)、および磁気共鳴撮像装置(MRI)から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法を実行するための装置であって、使用の際に、人体の肌に固定される複数の電極を有する1つ以上の環によって取り囲まれた少なくとも1つの深部筋肉の筋電図検査の波形を提供するために、記録された電極の電位について、独立成分分析、あるいは、任意の他の適切な非混合またはマトリクス反転技術を実行するように適合された記録手段および計算手段(4)に電極を各々接続する可撓性導体(5)を有する、複数の表面筋電図検査の電極(3)を備える、装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−500108(P2013−500108A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522271(P2012−522271)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001876
【国際公開番号】WO2011/012988
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(504425406)ユニバーシティ・オブ・ケープ・タウン (9)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF CAPE TOWN
【出願人】(511314555)サウス アフリカン メディカル リサーチ カウンシル (1)
【Fターム(参考)】