説明

非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法と、それを用いた電気探査方法若しくは電磁探査方法

【課題】 坑道やトンネルのような壁面や地質路頭のような大きく傾斜した岩盤或いは地盤において、高精度な比抵抗法探査およびIP法探査の高密度測定やそのモニタリングを可能とする非分極性電極の設置方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、非分極性電極に使用している塩と同じ塩、或いは環境に無害な塩を混ぜた石膏を用いて、非分極性電極を岩盤或いは地盤に接着して設置し、非電極性電極およびその周辺に生じる分極反応や電気化学反応を抑えて、電位を測定する。この非分極性電極の設置は、該非分極性電極の外径より少し大きめの穴を穿孔し、そこに石膏を流し込んで電極を固定させることにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法と、それを用いた電気探査方法若しくは電磁探査方法に関し、特に、岩盤や地盤の電気的物性を求めるために実施される各種探査法において、電位電極或いは電流電極として用いる非分極性電極の岩盤や地盤への設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
比抵抗法電気探査では図1のように電気探査装置の送信器(直流電源)を大地上に設置した一対の電流電極に接続し、受信器(電圧計)を別の一対の電位電極に接続し、電流電極から流す直流電流の値と、それによって電位電極の間に形成される電位差を計測することで行われる。電流電極と電位電極の間隔(電極間隔)が小さいときは、測定されるデータには浅部地層の比抵抗が反映されており、電極間隔が大きくなるにつれてデータに深部地層の比抵抗の影響が含まれるようになる。したがって、電極間隔をいろいろと変えて測定することで、地層の深度方向の比抵抗変化を知ることができる。比抵抗は水や塩分や粘土鉱物の存在に敏感であり、温度変化の影響を受けるパラメータであるので、比抵抗法電気探査は金属・地熱などの資源探査、地下水などの調査や環境モニタリング、断層や岩盤調査などの土木調査に利用される。
【0003】
また、IP(Induced Polarization)法電気探査は比抵抗法電気探査と同様に一対の送信電極と一対の電位電極を用いる。ただし測定法が異なり、それには大別して時間領域測定法と周波数領域測定法がある。前者は電流電極間に電流を一定時間流して大地内に電位差を形成させ、電流遮断後に残留する減衰電圧の変化を電位電極で測定し、通電中に発生していた電位差との比を求める。後者では異なる周波数の電流を流し、周波数によって測定される電位差の違いを測定する。IP法電気探査は地層の持つ電気的な充電(分極)効果を測定する方法であり、大きな充電率を示す金属鉱物や粘土鉱物を含む地層の探査に用いられる。
【0004】
自然電位法では二つ以上の電極を大地上に設置させ、ある電極を基準とした電極間の直流電位差を測定し、自然状態での大地の電位分布を把握する。図1において、電流電極を使用しない測定をすることに相当する。
【0005】
CSMT(Controlled Source Magneto-Telluric)法のように電場を測定する電磁探査では図2のように、遠方から送信した人工電磁波或いは自然界の電磁波が大地内に浸透することで誘導される電流によって生じる交流電場を、地面に設置した一対或いは複数の対の電極間に生じる交流電位差として測定し、同時に測定する磁場の測定値或いは他の方法で測定する電磁波の強さを使用し、大地の比抵抗を求める。
【0006】
比抵抗法電気探査の電位電極には、通常はステンレス棒や銅棒のような金属電極が使用される。しかし、金属電極は分極を起こしやすく、微小でも電流が流れると大地との接触電位差(電極電位)が変わる。この変化は電位測定の際のノイズとなるので、測定電位が小さく高精度の電位測定が必要な場合は、金属電極の代わりに銀-塩化銀、銅-硫酸銅電極、鉛-硫化鉛電極のような安定的な非分極性電極を使用する必要がある。
代表的な非分極性電極の例を図3に示す。非分極性電極は一般に金属電極と特定の塩(イオン)を含む溶液の組み合わせで構成され、大地との間の電気伝導は溶液中で移動するイオンによって行われる。電極に電流が流れても、溶液中のイオンによって金属電極表面およびその周辺の分極が抑えられ、電極電位はほとんど変化しないので、ノイズが少ないという特長がある。非分極性電極は金属電極の周囲を溶液で浸すと同時に、溶液と大地との間に電気伝導がある状態を保持する必要があるので、溶液を入れる容器の接地面を素焼きの陶器やガラスフィルターなど多孔質の物質にする方法や、溶液を石膏や寒天のような保水性物質で固める方法で作成される。一般に銅-硫酸銅電極には底面を素焼きとした陶器が使用され(図3a)、銀-塩化銀電極には底面を多孔質ガラスフィルターとした容器が用いられている(図3b)。また、鉛-塩化鉛電極は、塩化鉛に覆われた鉛棒の周辺が水と塩化鉛粉末と塩化ナトリウム(或いは塩化カリウム)を混合した石膏で覆われている(図3c)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IP法の電位電極やCSMT法などの電場を測定する電磁探査では、比抵抗法電気探査より測定電位が小さく、精密な測定を必要とするので、ほとんどの場合、電位電極には非分極性電極が使用されている。自然電位法の測定でも、安定した電位を測定するため、必ず非分極性電極が使用される。
【0008】
非分極性電極は接地面に多孔質物質や保水性物質を用いているので、金属電極と比較すると機械的な強度が弱く、金属電極のように固い岩盤や地盤中に打ち込むことはできない。したがって、非分極性電極の設置場所はこれまでほぼ水平な面に限られていた。坑道やトンネルの壁面や切り立った地質路頭のように大きく傾斜した岩盤や地盤では、測定中に人が非分極性電極を押さえている必要があるので、測定効率が悪く、作業労力が大きいという問題があった。そして、このような場所では、一度に多くの非分極性電極を使用する高密度測定や非分極性電極を長期に設置しておく必要があるモニタリングは、ほとんど実施されていないのが現状である。
【0009】
また、比抵抗法或いはIP法電気探査では電流電極には金属電極が使用されてきた。これは、金属電極は大地中に深く打ち込んで接地抵抗を低くすることが可能なため、大きな電流を流しやすいからである。また、非分極性電極を電流電極にして大きな電流を流すと、金属表面の平衡を壊し、非分極の性質を破壊してしまうという問題も起こる。そのため、非分極性電極を用いる電気探査では、常に2種類の電極が使用されてきた。しかし、2極法配置やダイポール・ダイポール配置など通常の電極配置の測定では、電位電極の位置が電流電極の位置になることが多く、電位電極と電流電極の設置を切り替える数が増えるほど測定能率は落ちる。また、通常、両者の電極の接地面積や設置する深さが異なることから、厳密には同じ位置に電流電極と電位電極を置くことはできない。電流電極と電位電極の位置の違いはそのまま測定誤差になり、この誤差は特に坑内やトンネルの壁面評価を目的とするような精密測定や電極間隔の小さい測定では無視できないため、探査結果の信頼性の低下をもたらすことになる。
【0010】
そこで、本発明は、係る問題点を解決して、坑道やトンネルのような壁面や地質路頭のような大きく傾斜した岩盤或いは地盤において、高精度な比抵抗法探査およびIP法探査の高密度測定やそのモニタリングを可能とする非分極性電極の設置方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法は、岩盤或いは地盤を対象とする電気探査或いは電磁探査に使用するものである。この設置方法は、非分極性電極に使用している塩と同じ塩、或いは環境に無害な塩を混ぜた石膏を用いて、非分極性電極を岩盤或いは地盤に接着して設置し、非電極性電極およびその周辺に生じる分極反応や電気化学反応を抑えて、電位を測定する。この非分極性電極の設置は、当該非分極性電極の外径より少し大きめの穴を穿孔し、そこに石膏を流し込んで電極を固定させることにより行う。
【0012】
また、本発明の比抵抗法或いはIP法による電気探査方法は、非分極性電極を電位電極としてだけではなく、電流電極としても設置する。
また、本発明の電気探査方法は、このようにして設置された非分極性電極を用いて、自然電位法により電気探査を行う。
また、本発明の電磁探査方法は、このようにして設置された非分極性電極を用いて電場を測定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、坑道やトンネルのような壁面や地質路頭のような大きく傾斜した岩盤或いは地盤において、高精度な比抵抗法探査およびIP法探査の高密度測定やそのモニタリングが可能となる。本発明によれば、ノイズの少ない安定的な非分極性電極を確実にしかも非常に簡単・安価に設置できるので、これまでほとんど実施されていなかった急傾斜の岩盤或いは地盤での電気探査や電磁探査の適用が進む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
非分極性電極に含まれる同じ塩(イオン)と水を混ぜた石膏を作成し、図4に示すようにその石膏によって電極を岩盤・地盤に接着する。この際、非分極性電極に石膏型の鉛-塩化鉛電極を用い、それに使用されている石膏と同じものを用いれば、非分極性電極と石膏とが一体化し、電極およびその周辺に生じる分極反応や電気化学反応が起こらないので、最も安定した電位の測定が可能となる。しかし、石膏自体は保水性と接着性があるだけで、他の塩(イオン)との化学反応はほとんどないので、他の非分極性電極との接着に用いても原理的な問題はほとんどない。なお、非分極性電極に含まれる塩が周囲の環境に影響を与えると判断される場合は、安定度の多少の低下は予想されるが、無害な塩で代替させることも可能である。
【0015】
非分極性電極を傾斜の大きい面へ確実に設置したい場合は、電極の外径よりやや大きめの穴を5〜数10mm深ほど穿孔し、そこに石膏を流し込んで電極を接着させるとよい。塩水を含んだ石膏による岩盤や地盤への接着は接地抵抗の低減にも貢献するので、この電極を電流電極としても使用できる。非分極性電極を使い捨てと考え、2極法、3極法、ダイポール・ダイポール配置において設置した非分極性電極を電位電極として使用した後に電流電極として使用する測定手順を用いれば、高精度な比抵抗法電気探査やIP法電気探査が可能となる。
【実施例】
【0016】
本発明の効果を検証をするため、セリサイト粘土を産出する粘土鉱山の坑道で実証実験を行った。坑道の断面形状はほぼ長方形であり、高さは約2m、幅は約2.2mである。本実験では壁面の高さ1mの位置に、坑道の方向に沿って長さ25mの測線を設置し、1m間隔に26個の電極を設置した。図5に坑道周辺の地質平面図と電極位置を示す。測線の中央にはセリサイト粘土脈があり、その両側は安山岩で覆われる。安山岩は緻密であるが、粘土脈とほぼ平行に伸びる節理や割れ目があり、その周辺は熱水変質を受けている。安山岩の外側には凝灰岩が露出している。周辺の安山岩と比較すると粘土脈は低比抵抗であり、また粘土脈および熱水変質を受けた安山岩は高い充電率を示すことが知られている。
【0017】
今回の実験では、非分極性電極には石膏型の鉛-塩化鉛(市販品)を使用した。この電極は直径28mmの塩ビの筒に鉛電極を入れ、周囲を塩化鉛粉末、塩化ナトリウム、水を混合させた石膏で覆っている。電極の上面となる片側からは鉛電極と結ぶリード線が出て、その周囲は前縁物でシールしている。もう片側の石膏面は露出しており、そこを岩盤に接地する。
【0018】
非分極性電極の岩盤への接着には、大型のハンマードリルを用いて所定の位置に径30mmの穴を10〜20mmほど穿孔し、そこに石膏を流し込むことで行った。この際に用いた石膏は、非分極性電極に用いられている石膏と同じものとした。現地で所定の割合で塩化鉛粉末、塩化ナトリウム、水、石膏を混ぜ、ゲル状の状態の石膏によって非分極性電極を岩盤へ設置し、石膏が固まるまで約2時間待ち、その後に比抵抗法およびIP法の測定を開始した。
【0019】
測定はダイポール・ダイポール配置で実施した。電極間隔aは1mであり、電極隔離係数nは1〜5とした。この測定では、まず電流番号1番と2番の対から電流を流し、その右側の3番と4番の対で電位を測定した。次に電流電極の対は同じで、電位電極の対を4番と5番、5番と6番、6番と7番、7番と8番と順次右側に移動して、同様の測定を繰り返した。そして、電流電極の対を2番と3番とし、電位電極の対を4番と5番にし、同様の測定を繰り返し、一つの電流電極の対に対して五つの電位電極の対の測定が終われば、電流電極の対を一つ右側に移動した。非分極性電極に電流を流すと化学的な平衡状態が壊れることで非分極の性質が失われ、電位測定に際してノイズが発生すると予想されるが、上述の手順でダイポール・ダイポール配置による測定を実施することにより、電流電極として使用した後に電位電極として使用する電極はないので、問題はない。
測定は時間領域測定で行い、電流送信中の電位差を測定することで見掛比抵抗(単位:Ωm)を求め、電流遮断後の電位差の積分値を送信中の電位差で割って見掛充電率(単位:mV/V)を求めた。
【0020】
図6に見掛比抵抗擬似断面図と見掛充電率断面図を示す。図の下が壁面にあたり、図の上が壁面の奧となる。この図からわかるように、粘土脈に対応して低比抵抗が検出され、また熱水変質を受けた安山岩に対応して高い充電率が検出された。この結果は、本発明による測定によって、垂直な岩盤での比抵抗電気探査やIP法電気探査ができることを示唆している。
【0021】
また、この測定の前に、非分極性電極の10cm上方に径8mmの穴を開け、径6mmの鉛電極を打ち込んだものを電流電極として測定した。これは従来のように、電流電極に金属棒を使うことに相当する。電流電極と電位電極の位置が高さ方向でずれているので、上述の結果と定量的な結果は比較できないが、見掛比抵抗および見掛充電率ともほぼ同じ傾向の分布が得られた。また、石膏を用いた非分極性電極の接地抵抗は金属電極の接地抵抗とほぼ同等であり、非分極性電極を電流電極に使うことができることも確かめられた。
【0022】
さらに、測定後には、塩化鉛粉末を混合せずに塩化ナトリウムと水だけを混合した石膏による非分極性電極の設置も2点で行ったが、塩化鉛粉末を混合したときと同じ結果が得られ、今回は接地抵抗やノイズの問題は起きなかった。これが全ての場合に適用できるかの判断はできないが、環境に配慮する場合は、石膏に混ぜる塩を無害なもので代替することも可能と考えられる。
なお、石膏で固定した非分極性電極は測定後に人の力で簡単に外すことができた。また、岩盤に付着した石膏を削り落とすことは容易であり、同じ位置に同様に新しい非分極性電極を設置することができるので、本発明の設置方法は電気探査や電磁探査の繰り返し測定にも適している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は坑内やトンネル内の壁面や切り立った地質路頭のように大きく傾斜した岩盤或いは地盤において比抵抗法電気探査、IP法電気探査、自然電位電気探査、CSMTのような電場を測定する電磁探査を可能とする。これらの調査で岩盤や地盤内の比抵抗分布、充電率分布、自然電位分布を求めることができる。比抵抗や充電率や自然電位という電気化学的物性は水の存在や粘土・金属粒子の存在に敏感なパラメータであるので、土木分野においては坑道やトンネルの坑壁における緩み領域や軟弱層の検出などの防災や、資源分野においては金属鉱床や粘土鉱床の探査に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】比抵抗法電気探査およびIP法電気探査の測定方法の模式図。
【図2】CSMT法のように電場を測定する電磁探査の測定方法の模式図。
【図3】代表的な非分極性電極の模式図。
【図4】非分極性電極の傾斜した岩盤・地盤への設置方法。
【図5】実証実験場所の坑道の地質平面図と測線位置。図の数字が非分極性電極の設置位置を示す。
【図6】実証実験結果。上が見掛比抵抗擬似断面図、下が見掛充電率擬似断面図を示す。電極番号を表示している方が壁面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤或いは地盤を対象とする電気探査或いは電磁探査に使用する非分極性電極の設置方法において、
前記非分極性電極に使用している塩と同じ塩、或いは環境に無害な塩を混ぜた石膏を用いて、前記非分極性電極を岩盤或いは地盤に接着して設置し、
前記非電極性電極およびその周辺に生じる分極反応や電気化学反応を抑えて、電位を測定することを特徴とする非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法。
【請求項2】
前記非分極性電極の設置は、該非分極性電極の外径より大きめの穴を穿孔し、そこに石膏を流し込んで電極を固定させる請求項1記載の非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法により、前記非分極性電極を電位電極としてだけではなく、電流電極としても使用する比抵抗法或いはIP法による電気探査方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法により、非分極性電極を設置した自然電位法による電気探査方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の非分極性電極の岩盤或いは地盤への設置方法により、設置された非分極性電極を用いて電場を測定する電磁探査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−284519(P2006−284519A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108200(P2005−108200)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】