説明

非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法及び炭酸ジエステルの製造方法

【課題】トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造するに当たり、副生成物の生成を抑制して、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを高収率、高選択率で製造する。
【解決手段】ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む反応液に、トリアリールホスフィンを分割又は連続的に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法に関するものであり、詳しくは、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造するに当たり、副生成物の生成を抑制して、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを高収率、高選択率で製造する方法に関する。
本発明はまた、この方法で製造された非対称テトラアリールホスホニウムハライドを触媒として用いる炭酸ジエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラアリールホスホニウムハライドは、各種反応における相間移動触媒、重合触媒、ハロゲン化合物のハロゲン交換反応触媒などとして工業的に有用な化合物である。
【0003】
テトラアリールホスホニウムハライドは、一般的に、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールを原料として、下記反応式に従って製造される。
【0004】
【化1】

【0005】
(上記式中、Ar、Ar、Ar、Arはアリール基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【0006】
特許文献1には、このようなテトラアリールホスホニウムハライドの製造方法として、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させる方法が提案されている。
【0007】
この特許文献1の方法であれば、水溶性高沸点溶媒を用いるため、反応の際には触媒及び生成物を溶解させることができ、生成物の分離の際には反応物や蒸留残渣を固化させることがなく、更に、生成物を分離した後の分離残渣から得られる、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含有する溶液を反応に再使用することもできるといった利点が得られ、高圧下での反応、水蒸気蒸留や溶媒抽出という煩雑な分離操作、固形物の取扱い、金属ハロゲン化合物含有廃液の生成、といった従来法の問題を解決して、工業的に有利にテトラアリールホスホニウムハライドを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−328492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1で提案される方法は、温和な反応条件下で目的物を製造することができ、目的物の分離も容易であるなどの利点を有するものであるが、目的とするテトラアリールホスホニウムハライドによっては、反応中の副生成物が多く、目的物の選択率が低いためにテトラアリールホスホニウムハライド純分の収率が低いという欠点があった。
【0010】
本発明は、この問題点を解決し、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造するに当たり、副生成物の生成を抑制して、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを高収率、高選択率で製造する方法を提供することを課題とする。
本発明はまた、この方法で製造された非対称テトラアリールホスホニウムハライドを触媒として用いて、シュウ酸ジエステルから炭酸ジエステルを効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させる際に副生する反応副生成物は、反応液中のトリアリールホスフィン濃度が高い場合に、トリアリールホスフィンと金属ハロゲン化合物触媒とが容易に反応して塩を形成し、このトリアリールホスフィンと金属ハロゲン化合物触媒との塩に、ハロゲン化アリールが過剰に反応してトリアリールホスフィン:ハロゲン化アリール=1:1で反応した目的物ではなく、トリアリールホスフィン:ハロゲン化アリール=1:2で反応した副生成物が生成することが原因であること、この副生成物の生成は、反応液中のトリアリールホスフィン濃度を制御して、所定濃度以下とすることにより抑制することができること、反応液中のトリアリールホスフィン濃度を制御するためには、反応に供するトリアリールホスフィンの全量を一括添加するのではなく、複数回に分けて逐次的に又は少量を連続的に反応液にトリアリールホスフィンを添加すればよいこと、を見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とするものである。
【0013】
[1] トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造する方法において、ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む液に、トリアリールホスフィンを分割又は連続的に添加することを特徴とする非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【0014】
[2] 反応に供する全トリアリールホスフィン量の1/2以下ずつの量のトリアリールホスフィンを2回以上分割添加することにより前記トリアリールホスフィンの添加を行うことを特徴とする[1]に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【0015】
[3] トリアリールホスフィンを反応液に添加してから、次にトリアリールホスフィンを添加するまでの時間間隔は、直前のトリアリールホスフィンの添加により上昇した反応液温度が、上昇温度分の90%が低下する時間以上とする[2]に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【0016】
[4] 前記トリアリールホスフィンの添加が、連続的であることを特徴とする[1]に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【0017】
[5] 前記ハロゲン化アリールが、ブロモアリール又はヨードアリールであることを特徴とする[1]乃至[4]の何れかに記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【0018】
[6] トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて、生成した非対称テトラアリールホスホニウムハライドの存在下に、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造する方法において、下記(1)〜(3)の条件を満たす操作を行うことを特徴とする非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
(1)ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む反応液に、反応に供するトリアリールホスフィンを2回以上に分割して添加する。
(2)トリアリールホスフィンの1回の添加量は、反応に供する全トリアリールホスフィン量の1/2以下とする。
(3)トリアリールホスフィンを反応液に添加してから、次にトリアリールホスフィンを添加するまでの時間間隔は、直前のトリアリールホスフィンの添加により上昇した反応液温度が、上昇温度分の90%が低下する時間以上とする。
【0019】
[7] [1]乃至[6]の何れかに記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法により製造した非対称テトラアリールホスホニウムハライドを、前記非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子とは異なるハロゲン原子のイオンと接触させることにより、前記非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子を置換することを特徴とする非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【0020】
[8] シュウ酸ジエステルから炭酸ジエステルを製造する方法であって、[1]乃至[7]の何れかに記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法により製造した非対称テトラアリールホスホニウムハライドを触媒として用いることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造するに当たり、原料トリアリールホスフィンを、複数回に分けて分割して又は少量を連続的に反応液に添加することにより、反応中の副生成物の生成を抑制して、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを高選択率かつ高収率で得ることができる。
また、製造された非対称テトラアリールホスホニウムハライドを触媒として用いて、シュウ酸ジエステルから炭酸ジエステルを効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法及び炭酸ジエステルの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
[非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法]
本発明においては、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造する。
この方法において、下記反応式に従ってトリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとから非対称テトラアリールホスホニウムハライドを得ることができる。
【0024】
【化2】

【0025】
(上記式中、Ar、Ar、Ar、Arはフェニル基、ナフチル基などのアリール基を表し、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。)
【0026】
このような反応において、反応液中のトリアリールホスフィン濃度が高いと、トリアリールホスフィンと金属ハロゲン化合物触媒とで塩が形成され易くなり、形成された塩にハロゲン化アリールが過剰に反応し、以下のようにトリアリールホスフィン:ハロゲン化アリール=1:2で反応した副生成物が生成する。
【0027】
【化3】

【0028】
Ar〜Arがすべて同一のアリール基である場合には、上記のPArArArAr・Xは、目的物と同一物質となるため、副生成物とはならないが、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを目的物とする場合には、PArArArAr・XとPArArArAr・Xとが異なるものとなり、副生成物の問題が生じる。即ち、本発明において、製造目的とする非対称テトラアリールホスホニウムハライドとは、PArArArAr・XとPArArArAr・Xとが異なるものとなるPArArArAr・Xに該当する。
【0029】
本発明においては、このような副生成物の生成を、トリアリールホスフィンを分割又は連続的に添加することにより抑制する。
即ち、本発明では、トリアリールホスフィンの必要量を少量ずつ添加するため、反応液中のトリアリールホスフィン濃度を常に低く維持して、上記のような副反応を抑制することができる。
【0030】
本発明において、前記反応式に表されるトリアリールホスフィンのAr〜Arのアリール基と、ハロゲン化アリールのArのアリール基としては、フェニル基;メチル基、エチル基等の炭素数1〜12のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基、又はフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子などの置換基を有する置換フェニル基;ナフチル基などが挙げられる。なお、置換基としてのアルキル基やアルコキシ基は更に置換基を有していてもよく、その置換基としてはハロゲン原子などが挙げられる。
【0031】
トリアリールホスフィンのアリール基のAr〜Arは互いに同一であっても異なっていてもよく、また互いに結合していても架橋されていても差し支えないが、本発明において、ハロゲン化アリールが有するアリール基のArは、トリアリールホスフィンのアリール基Ar〜Arのすべてと異なるものであることにより、非対称のテトラアリールホスホニウムハライドが製造され、前述の如く、ハロゲン化アリールのアリール基Arが2個導入されたテトラアリールホスホニウムハライドが副生成物となる。なお、ここで、異なるアリール基とは、アリール基自体が異なるものに限らず、アリール基が同一であっても、アリール基の置換基の有無や置換基の種類や置換位置が異なるものも、「異なるアリール基」に含まれる。
【0032】
なお、前記置換フェニル基は各種異性体を含む。これら異性体としては、例えば、2−(又は3−、4−)メチルフェニル基、2−(又は3−、4−)エチルフェニル基、2,3−(又は3,4−)ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル基又はハロゲン化アルキル基がフェニル基に結合しているアルキルフェニル基;3−メトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基等の炭素数1〜12のアルコキシ基がフェニル基に結合しているアルコキシフェニル基;3−(又は4−)クロロフェニル基、3−フルオロフェニル基等のハロゲン原子がフェニル基に結合しているハロフェニル基が挙げられる。
【0033】
本発明で用いることができるトリアリールホスフィンとしては、例えば次のようなものが挙げられる。
トリフェニルホスフィン;トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(2−エチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−エチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−エチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,3−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,4−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6−トリメチルフェニル)ホスフィンや、ジフェニル(2−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニル(3−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニル(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3−クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4−クロロフェニル)ホスフィン、トリス(3−フルオロフェニル)ホスフィン、トリ(1−ナフチル)ホスフィン、トリ(2−ナフチル)ホスフィン。
【0034】
一方、本発明で用いることができるハロゲン化アリールとしては、次のようなものが挙げられる。
ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、1−クロロナフタレン、1−ブロモナフタレン、1−ヨードナフタレン、2−クロロナフタレン、2−ブロモナフタレン、2−ヨードナフタレン等の置換基をもたないハロゲン化アリール;4−クロロトルエン、2−ブロモトルエン、3−ブロモトルエン、4−ブロモトルエン、2−ヨードトルエン、3−ヨードトルエン、4−ヨードトルエン、2−ブロモエチルベンゼン、4−ブロモエチルベンゼン、2−ヨードエチルベンゼン、4−ヨードエチルベンゼン、1−ブロモ−4−ブチルベンゼン、1−ヨード−4−ブチルベンゼン、2,3−ジメチルクロロベンゼン、2,4−ジメチルクロロベンゼン、3,4−ジメチルクロロベンゼン、2,5−ジメチルクロロベンゼン、2,3−ジメチルブロモベンゼン、2,4−ジメチルブロモベンゼン、3,4−ジメチルブロモベンゼン、2,5−ジメチルブロモベンゼン等の炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有するハロゲン化アリール;3−クロロアニソール、3−ブロモアニソール、3−ヨードアニソール等の炭素数1〜6のアルコキシ基を置換基として有するハロゲン化アリール;2−ブロモビフェニル、4−ブロモビフェニル、2−ヨードビフェニル、4−ヨードビフェニル、4,4’−ジブロモビフェニル等の炭素数6〜12のアリール基を置換基として有するハロゲン化アリール;4−ブロモジフェニルエ−テル等の炭素数6〜12のアリールオキシ基を置換基として有するハロゲン化アリール;1,2−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、1,2−ジブロモベンゼン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、4−クロロブロモベンゼン、4−クロロヨードベンゼン等のハロゲン原子を置換基として有するハロゲン化アリール。
【0035】
得られる非対称テトラアリールホスホニウムハライドの有用性から、トリアリールホスフィンとしては特に、トリフェニルホスフィン、トリ(1−ナフチル)ホスフィン等が好ましく、特にトリフェニルホスフィンが好ましい。
また、ハロゲン化アリールとしては、1−ブロモ−4−ブチルベンゼン、4−ヨードトルエン、4−クロロトルエン、1−ヨード−4−ブチルベンゼン等のハロゲンを1つのみ含み、炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有するハロゲン化アリールが好ましく、特に、1−ブロモ−4−ブチルベンゼン、1−ヨード−4−ブチルベンゼン等が好ましい。
なお、トリアリールホスフィン、ハロゲン化アリールはそれぞれ2種以上を用いることもできるが、一般的にはそれぞれ1種のみを用いて反応が行われる。
【0036】
本発明において、ハロゲン化アリールは、トリアリールホスフィンに対して、通常0.8〜2倍モル、好ましくは0.9〜1.5倍モル、更に好ましくは1.0〜1.3倍モル使用される。
【0037】
金属ハロゲン化合物触媒としては、周期表の第7族、8族、9族、10族、11族又は12族に属する金属元素、好ましくは第4周期の金属元素のハロゲン化合物が使用される。
【0038】
周期表第7族金属のハロゲン化合物としては、例えば、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン等のマンガンのハロゲン化合物が挙げられる。周期表第8族金属のハロゲン化合物としては、例えば、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄等の鉄のハロゲン化合物が挙げられる。周期表第9族金属のハロゲン化合物としては、例えば、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト等のコバルトのハロゲン化合物が挙げられる。周期表第10族金属のハロゲン化合物としては、例えば、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル等のニッケルのハロゲン化合物が挙げられる。周期表第11族金属のハロゲン化合物としては、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等の銅のハロゲン化合物が挙げられる。周期表第12族金属のハロゲン化合物としては、例えば、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等の亜鉛のハロゲン化合物が挙げられる。これらの金属ハロゲン化合物触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
金属ハロゲン化合物の中では、周期表の第9族、10族、11族又は12族に属する金属元素のハロゲン化合物が好ましく、その中でも塩化物や臭化物が好ましい。これらの中では、ニッケルのハロゲン化合物(塩化ニッケル、臭化ニッケル等)、コバルトのハロゲン化合物(塩化コバルト、臭化コバルト等)、銅のハロゲン化合物(塩化銅、臭化銅等)、亜鉛のハロゲン化合物(塩化亜鉛、臭化亜鉛等)が特に好ましく、更にはニッケルのハロゲン化合物(塩化ニッケル、臭化ニッケル等)が最も好ましい。
【0040】
金属ハロゲン化合物は無水物でも水和物でも差し支えない。水和物を用いる場合は、予め水溶性高沸点溶媒に水和物を溶解して反応前に蒸留により水を除去して反応を行ってもよく、水を除去せずに水和物のままで反応を行ってもよい。また、金属ハロゲン化合物は前記のトリアリールホスフィンやハロゲン化アリールを配位子として有していてもよい。
【0041】
金属ハロゲン化合物触媒の使用量は、反応に供するトリアリールホスフィンに対して、通常0.1〜40モル%、好ましくは1〜30モル%である。
【0042】
水溶性高沸点溶媒としては、分子内に少なくとも1つの水酸基をもつ、常圧における沸点が150℃以上、特に150〜314℃の反応に不活性な水溶性の溶媒が好ましく用いられる。このような水溶性高沸点溶媒を使用することによって、反応の際には触媒及び生成物を溶解させることができ、生成物の分離の際には反応物や蒸留残渣を固化させることがなく、更に、生成物を分離した後の分離残渣から得られる金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含有する溶液を反応に再使用することもでき、工業的に有利である。ここで、沸点が150℃以上の水溶性の溶媒を用いると、常圧下でも高温反応させることにより反応速度を速くすることができるため好ましい。
【0043】
前記の水溶性高沸点溶媒としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリン、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の炭素数2〜12の脂肪族多価アルコール;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等の炭素数5〜14の脂肪族多価アルコールのモノエーテル;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等の炭素数6〜7の芳香族アルコール;n−吉草酸、i−吉草酸、ピバリン酸等の炭素数5〜6の脂肪族カルボン酸;などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記の水溶性高沸点溶媒の中では、前記の脂肪族多価アルコール及び芳香族アルコールが好ましく、特にはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリン、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びフェノールが好ましい。
【0045】
水溶性高沸点溶媒の使用量は、トリアリールホスフィン(反応に用いる全トリアリールホスフィン量)1gに対して、通常0.2〜8g、好ましくは0.3〜5gである。
【0046】
本発明における反応において、反応温度は原料化合物や溶媒により異なるが、150℃以上で反応混合物が還流する温度以下、特に160℃以上で反応混合物が還流する温度以下であることが好ましい。反応時間は原料化合物、溶媒及び反応温度により異なるが、通常0.5〜30時間程度である。反応圧力は常圧であることが好ましい。
【0047】
本発明においては、ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む液に、トリアリールホスフィンを分割又は連続的に添加することを特徴とする。以下、トリアリールホスフィンを分割して添加する場合を「分割添加方式」と称し、トリアリールホスフィンを連続的に添加する場合を「連続添加方式」と称す場合がある。
【0048】
分割添加方式において、トリアリールホスフィンを分割して添加する回数(以下、トリアリールホスフィンの分割添加回数を「R」で表す場合がある。)は、トリアリールホスフィンの使用量によっても異なり、目的とする反応成績や反応操作性により、適宜決定される。即ち、分割添加回数は、副生成物の生成抑制の点では多いことが好ましく、反応操作の簡便性の点では少ないことが好ましい。一般的には、分割添加回数Rは、2〜100回、特に2〜10回の分割添加とすることが好ましい。
【0049】
また、分割添加方式において、1回に添加するトリアリールホスフィン量は、反応に供する全トリアリールホスフィン量(以下、反応に供する全トリアリールホスフィン量を「T」で表す場合がある。)の1/2以下とすることが好ましい。分割添加方式において、1回に添加するトリアリールホスフィン量、及び、分割添加方式又は連続添加方式において一定時間内に添加するトリアリールホスフィン量は、トリアリールホスフィンを分割して又は連続的に添加を行うことにより、反応液中のトリアリールホスフィン濃度を下げて副生成物の生成を抑制する本発明の効果を十分に得やすいことから、少ないことが好ましい。分割添加方式の場合に1回に添加するトリアリールホスフィン量は、上記分割添加回数Rに対して、T/Rの50〜150%の範囲とすることが好ましい。なお、各回に添加するトリアリールホスフィン量及び一定時間内に添加するトリアリールホスフィン量は、すべて同一又は一定であってもよく、添加回数毎又は添加時点毎に増減してもよい。ただし、添加操作を簡便に行いやすいことから、一般的には、1回当たり、T/RのトリアリールホスフィンをR回で分割添加する又は一定の添加量ずつを連続添加ことが好ましい。即ち、添加する全トリアリールホスフィン量が均等に添加されるような速度で連続的に添加する方法も好ましい。連続添加方式の場合、単位時間あたりのトリアリールホスフィンの添加量は少ないことが好ましく、全トリアリールホスフィン量をT、全反応時間をH(時間)とした場合、T/Hに近い添加速度で添加することが更に好ましく、T/Hで添加することが特に好ましい。
【0050】
なお、分割添加方式において、1回に添加するトリアリールホスフィン量としては、反応開始時に添加された反応液中のハロゲン化アリール量に対して0.01モル倍以上とすることが好ましく、0.1モル倍以上とすることが更に好ましく、また、一方、0.5モル倍以下とすることが好ましい。
【0051】
本発明における反応は、一般的には、ハロゲン化アリールと金属ハロゲン化合物触媒と水溶性高沸点溶媒とを含む反応液を所定の反応温度に加熱昇温した後、トリアリールホスフィンの添加を開始するが、分割添加方式の場合、トリアリールホスフィンの分割添加の第1回分として、予め昇温前の反応液に添加しておいてもよい。トリアリールホスフィンを含む反応液を昇温して、これにトリアリールホスフィンを連続的に添加して連続添加方式を行っても良い。また、反応に供するトリアリールホスフィンを少量ずつ添加するのであれば、分割添加方式と連続添加方式を交互に行うなどしても構わない。
【0052】
分割添加方式におけるトリアリールホスフィンの分割添加の時間間隔としては、反応液にトリアリールホスフィンを添加することにより、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとの反応による反応熱で昇温した反応液温度が、その上昇温度分の90%が低下した時間以上とすることが好ましい。即ち、予め設定した反応液の温度をt、トリアリールホスフィンの分割添加で、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとが反応して生じた反応熱で昇温した反応液の最高温度をtとした場合、反応液の温度が{t+(t−t)×0.9}以下となった時以降に次回のトリアリールホスフィンの分割添加を行うことが好ましい。この分割添加の間隔が長いと、前回に添加したトリアリールホスフィンの反応液中における残存量が少ない状態で次のトリアリールホスフィンの添加を行うこととなり、反応液中のトリアリールホスフィン濃度を抑えて副生成物の生成を抑制する本発明の効果を十分に得やすい。一方、分割添加の時間間隔が短いと、反応を短時間で行うことが可能となり、生産効率に優れる。そこで、1回当たりの分割添加の時間間隔は、全反応時間の1/200〜1/4とし、トリアリールホスフィンの分割添加を行う時間を全反応時間の1/400〜1/8とし、トリアリールホスフィンの分割添加終了後、即ち全トリアリールホスフィン量を反応液に添加した後、全反応時間の1/100〜1/2の時間反応を継続して反応を終了することが好ましい。
【0053】
即ち、本発明においては、分割添加方式の場合、下記(1)〜(3)の条件を満たす操作を採用して反応を行うことが好ましい。
(1)ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む反応液に、反応に供するトリアリールホスフィンを2回以上に分割して添加する。
(2)トリアリールホスフィンの1回の添加量は、反応に供する全トリアリールホスフィン量の1/2以下とする。
(3)トリアリールホスフィンを反応液に添加してから、次にトリアリールホスフィンを添加するまでの時間間隔は、直前のトリアリールホスフィンの添加により上昇した反応液温度が、上昇温度分の90%が低下する時間以上とする。
【0054】
なお、本発明においては、このように、トリアリールホスフィンの分割又は連続添加を行っている間に、反応液中に非対称テトラアリールホスホニウムハライドが連続的に生成し、生成した非対称テトラアリールホスホニウムハライドの存在下で更に非対称テトラアリールホスホニウムハライドが生成することが、不純物の生成が抑制される点で好ましい。
【0055】
上記の反応終了後は、反応液又はその蒸留残渣に水を加えて、目的物である非対称テトラアリールホスホニウムハライドを析出させて分離するという簡単な操作で生成物の分離を行うことができる。反応液を蒸留する場合は、蒸留残渣中に仕込みトリアリールホスフィン1gに対して0.1ml以上の水溶性高沸点溶媒が残存するように蒸留を行い、水溶性高沸点溶媒やハロゲン化アリール(ハロゲン化アリールの沸点が水溶性高沸点溶媒の沸点より低い場合)を除去するのが好ましい。得られる蒸留残渣は、通常、攪拌が容易な、均一なスラリー状のものである。この蒸留残渣に、仕込みトリアリールホスフィン1gに対して、通常0.5〜30ml、好ましくは1〜20mlの水を加えることによって、この蒸留残渣水溶液から、濾過性の良好な結晶又は分別の容易な油状物として、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを分離することができる。
【0056】
このように水溶性高沸点溶媒を使用して蒸留残渣に水溶性高沸点溶媒を残存させることによって、非対称テトラアリールホスホニウムハライドの固化を引き起こすことなく、攪拌が容易な、均一なスラリー状の蒸留残渣を得ることができると共に、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを濾過又は分取等により容易に分離することができる。水溶性高沸点溶媒の残存量が少ない場合は、蒸留残渣全体が固化して攪拌が非常に困難になる。なお、回収された水溶性高沸点溶媒やハロゲン化アリールは反応に再使用するのが好ましい。
【0057】
反応液を蒸留しない場合は、反応液に、仕込みトリアリールホスフィン1gに対して通常0.5〜30ml、好ましくは1〜20mlの水を加えることによって、濾過性の良好な結晶又は分別の容易な油状物として、反応液から非対称テトラアリールホスホニウムハライドを分離することができる。このように反応液に水溶性高沸点溶媒を存在させることによって、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを濾過又は分取等により容易に分離することができる。
【0058】
上記のように分離された非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、通常、結晶の場合は水洗されるか、又は水洗した後に必要に応じて有機溶媒で洗浄される。また、油状物の場合は、通常、攪拌下で油状物を有機溶媒に滴下するか又は有機溶媒を油状物に滴下することによって結晶化させた後、有機溶媒で洗浄される。ここで使用される有機溶媒は非対称テトラアリールホスホニウムハライドの溶解性が低いものであればよい。例えば、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等)、脂肪族カルボン酸エステル(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)の1種又は2種以上を使用することができる。
【0059】
前記のように蒸留残渣水溶液又は反応液から非対称テトラアリールホスホニウムハライドが分離された分離残渣は金属ハロゲン化合物触媒、水溶性高沸点溶媒及び水を含んでいるが、この分離残渣から蒸留等で水を除くことにより、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含有する溶液を容易に得ることができる。このようにして、分離残渣から水を除いて得られる、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含有する溶液は、触媒として再使用することができる。
【0060】
前記のようにして製造された非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、前記非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子(以下「ハロゲン原子X」と称す場合がある。)とは異なるハロゲン原子(以下「ハロゲン原子X」と称す場合がある。)のイオンと接触させることにより、前記非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子Xをハロゲン原子Xに置換させても良い。
【0061】
この置換反応は、非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子Xとは異なるハロゲン原子Xのイオンと接触させることにより、非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子Xを異なるハロゲン原子Xに置換させることができればどのように行っても良い。具体的には、例えば、以下の方法が、簡便に効率よく、高純度な非対称テトラアリールホスホニウムハライドを得ることができることから好ましい。
【0062】
すなわち、原料となる非対称テトラアリールホスホニウムハライド、例えば、非対称テトラアリールホスホニウムブロマイド、非対称テトラアリールホスホニウムヨーダイドと、塩素イオン等のハロゲン原子のイオンを水−有機溶媒の不均一混合溶媒系において接触させることにより、イオン交換された非対称テトラアリールホスホニウムクロライドを含む組成物を製造し、蒸留により溶媒を除去した後、非対称テトラアリールホスホニウムクロライド等のイオン交換された非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有機溶媒に対し飽和溶解度未満となる状態で濾過することにより、非対称テトラアリールホスホニウムクロライド等のイオン交換された非対称テトラアリールホスホニウムハライドを得る方法が好ましい。ここで、非対称テトラアリールホスホニウムクロライド等のイオン交換された非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、濾過後に析出させることにより取り出すことが更に好ましい。この析出は、非対称テトラアリールホスホニウムクロライド等のイオン交換された非対称テトラアリールホスホニウムハライドに対する貧溶媒と接触させる又は蒸留による有機溶媒除去により行うことが好ましい。
【0063】
上記のイオン交換に使用されるハロゲン原子Xのイオンを生成させる化合物としては、例えば、ハロゲン原子Xが塩素原子である場合についての具体例としては、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム等のアルカリ金属塩、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属塩等を用いることができる。
【0064】
[炭酸ジエステルの製造方法]
本発明の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法により製造された非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、ハロゲン原子を交換したものも含め、シュウ酸ジエステルから炭酸ジエステルを製造するときの触媒などの用途に利用可能である。
【0065】
以下に本発明の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法により製造された非対称テトラアリールホスホニウムハライド(以下、「本発明の非対称テトラアリールホスホニウムハライド」と称す場合がある。)を触媒としてシュウ酸ジエステルから炭酸ジエステルを製造する本発明の炭酸ジエステルの製造方法について説明する。
本発明の炭酸ジエステルの製造方法は、例えば、シュウ酸ジフェニル等のシュウ酸ジアリールから、炭酸ジフェニル等の炭酸ジアリールの製造に有用であり、製造された炭酸ジフェニルはビスフェノールAとエステル交換反応によるポリカーボネートの製造原料として有用である。
【0066】
以下に、シュウ酸ジアリールの脱カルボニル化反応による炭酸ジアリールの製造方法を例示して本発明の炭酸ジエステルの製造方法を説明するが、本発明の炭酸ジエステルの製造方法は、炭酸ジアリールに限らず、炭酸ジアルキル等の炭酸ジエステルの製造にも有効である。
【0067】
本発明による炭酸ジアリールの製造では、下記反応式(I)によるシュウ酸ジアリールの脱カルボニル化反応による炭酸ジアリールの製造にあたり、触媒として、本発明の非対称テトラアリールホスホニウムハライドを用いる。
【0068】
【化4】

【0069】
原料のシュウ酸ジアリールのアリール基としては、置換基を有していても良いフェニル基、置換基を有していても良いナフチル基等が挙げられ、好ましくは置換基を有していても良いフェニル基、より好ましくはフェニル基である。
フェニル基、ナフチル基に置換する置換基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜12のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。
【0070】
置換フェニル基や置換ナフチル基は、置換基の位置により各種の異性体が存在するが、原料のシュウ酸ジアリールはこれらのいずれであっても良い。例えば、置換フェニル基の異性体として、2−,3−または4−メチルフェニル基、2−,3−または4−エチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル基を有する2−,3−または4−アルキルフェニル基、2−,3−または4−メトキシフェニル基、2−,3−または4−エトキシフェニル基等の炭素数1〜12のアルコキシ基を有する2−,3−または4−アルコキシフェニル基、2−,3−または4−ニトロフェニル基、2−,3−または4−フルオロフェニル基、2−,3−または4−クロロフェニル基等のハロゲン原子を有する2−,3−または4−ハロフェニル基などが挙げられるが、これらのいずれであっても良い。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0072】
〔4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの製造〕
[実施例1]
500ml容のガラス製3つ口フラスコに、エチレングリコール51.2g、塩化ニッケル・6水和物0.5g(0.002モル)とt−ブチルブロモベンゼン50.0g(0.235モル)を加えて内温190℃まで加熱した。反応液が190℃に到達した後、反応に用いる全量の1/4のトリフェニルホスフィン12.8g(0.049モル)を添加して撹拌した。反応による発熱(最高温度196℃)が終了し、反応液の内温が189〜191℃になった後、トリフェニルホスフィン12.8gを添加した(2回目)。この操作をあと2回繰り返し、合計4回に分割してトリフェニルホスフィンを添加し(ここまでの反応時間は2.0時間)、その後、反応液の内温を190℃に維持して、2時間撹拌しながら反応させた。
【0073】
反応終了後、120〜145℃、95〜23mmHgで反応液を減圧蒸留してエチレングリコール、t−ブチルブロモベンゼンを合わせて43.2g回収した。次いで反応液の温度を80℃にし、撹拌下で蒸留残渣に水40mlを滴下した。この蒸留残渣水溶液を90℃で撹拌し、均一溶液とし、室温まで冷却して、析出した結晶を吸引濾過により集めた。得られた結晶を水60mlで洗浄した後、150℃で5時間減圧乾燥して、粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶を89.5g(トリフェニルホスフィンを基準とする収率96.5%)得た。得られた粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶の純度を調べるために、島津製作所製液体クロマトグラフィーにて分析を行ったところ、液体クロマトグラフィーの面積百分率(Area%)で、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイドの面積を100%としてそれぞれの面積比率を計算すると、テトラフェニルホスホニウムブロマイド0.05%、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド99.74%、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイド0.21%であった。
【0074】
[実施例2]
500ml容のガラス製3つ口フラスコに、エチレングリコール51.2g、塩化ニッケル・6水和物0.5g(0.002モル)とt−ブチルブロモベンゼン50.0g(0.235モル)を加えて内温190℃まで加熱した。反応液が190℃に達した後、反応に用いる全トリフェニルホスフィン量の1/2のトリフェニルホスフィン25.1g(0.100モル)を添加して撹拌を行った。反応による発熱(最高温度194℃)が終了し、反応液の内温が189〜191℃になった後、トリフェニルホスフィン25.1g(0.100モル)を添加した(2回目)。合計2回に分割してトリフェニルホスフィンを添加し(ここまでの反応時間は2時間)、その後、反応液の内温を190℃に維持して、2時間撹拌しながら反応させた。
【0075】
反応終了後、120〜145℃、95〜23mmHgで反応液を減圧蒸留してエチレングリコール、t−ブチルブロモベンゼンをあわせて38.9g回収した。次いで反応液の温度を80℃にし、撹拌下で蒸留残渣に水40mlを滴下した。この蒸留残渣水溶液を90℃で撹拌し、均一溶液とし、室温まで冷却して、析出した結晶を吸引濾過により集めた。得られた結晶を水60mlで洗浄した後、150℃で5時間減圧乾燥して、粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶を88.7g(トリフェニルホスフィンを基準とする収率95.7%)得た。得られた粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶の純度を調べるために、島津製作所製液体クロマトグラフィーにて分析を行ったところ、液体クロマトグラフィーの面積百分率(Area%)で、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイドの面積を100%としてそれぞれの面積比率を計算すると、テトラフェニルホスホニウムブロマイド0.15%、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド99.34%、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイド0.52%であった。
【0076】
[実施例3]
500ml容のガラス製3つ口フラスコに、エチレングリコール51.2g、塩化ニッケル・6水和物0.5g(0.002モル)とt−ブチルブロモベンゼン50.0g(0.235モル)を加えて内温190℃まで加熱した。反応液が190℃に達した後、反応に用いるトリフェニルホスフィン51.23g(0.200モル)を100℃に加熱して溶解させ、保温した滴下ロートを用いて17.1g/hrの速度で連続添加して撹拌を行った。反応による発熱は殆ど見られずフラスコ内部の温度は、187〜190℃となった。3時間かけて全てのトリフェニルホスフォニウムを添加し、その後、反応液の内温を190℃に維持して、更に1時間撹拌しながら反応させた。
【0077】
反応終了後、120〜145℃、95〜23mmHgで反応液を減圧蒸留してエチレングリコール、t−ブチルブロモベンゼンをあわせて17.3g回収した。次いで反応液の温度を80℃にし、撹拌下で蒸留残渣に水40mlを滴下した。この蒸留残渣水溶液を90℃で撹拌し、均一溶液とし、室温まで冷却して、析出した結晶を吸引濾過により集めた。得られた結晶を水60mlで洗浄した後、150℃で5時間減圧乾燥して、粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶を90.4g(トリフェニルホスフィンを基準とする収率97.6%)得た。得られた粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶の純度を調べるために、島津製作所製液体クロマトグラフィーにて分析を行ったところ、液体クロマトグラフィーの面積百分率(Area%)で、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイドの面積を100%としてそれぞれの面積比率を計算すると、テトラフェニルホスホニウムブロマイド0.13%、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド99.63%、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイド0.24%であった。
【0078】
[比較例1]
100ml容のガラス製3つ口フラスコに、エチレングリコール102.45g、塩化ニッケル・6水和物0.93gとトリフェニルホスフィン102.45g(0.39モル)を加えて内温190℃まで加熱した。反応液が190℃に到達した後、反応に用いる全t−ブチルブロモベンゼン量の1/4のt−ブチルブロモベンゼン25.0g(0.12モル)を添加して撹拌した。反応による発熱(最高温度196℃)が終了し、反応液の内温が189〜191℃になった後、t−ブチルブロモベンゼン1.30gを添加した(2回目)。この操作をあと2回繰り返し、合計4回に分割してt−ブチルブロモベンゼンを添加し(ここまでの反応時間は2.0時間)、その後、反応液の内温を190℃に維持して、2時間撹拌しながら反応させた。
【0079】
反応終了後、120〜145℃、95〜23mmHgで反応液を減圧蒸留してエチレングリコール、t−ブチルブロモベンゼンを合わせて108.32g回収した。次いで反応液の温度を80℃にし、撹拌下で蒸留残渣に水40mlを滴下した。この蒸留残渣水溶液を90℃で撹拌し、均一溶液とし、室温まで冷却して、析出した結晶を吸引濾過により集めた。得られた結晶を水60mlで洗浄した後、150℃で5時間減圧乾燥して、粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶を175.89g(トリフェニルホスフィンを基準とする収率94.87%)得た。得られた粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶を実施例1と同様に分析したところ、テトラフェニルホスホニウムブロマイド0.28%、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド94.93%、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイド4.79%であった。
【0080】
[比較例2]
100ml容のガラス製3つ口フラスコに、エチレングリコール51.2g、塩化ニッケル・6水和物0.5gとトリフェニルホスフィン51.2gとt−ブチルブロモベンゼン50.0gを加え、反応液の内温を190℃に維持して3時間撹拌しながら反応させた。
【0081】
反応終了後、120〜145℃、95〜23mmHgで反応液を減圧蒸留してエチレングリコール、t−ブチルブロモベンゼンを合わせて45.23g回収した。次いで反応液の温度を80℃にし、撹拌下で蒸留残渣に水40mlを滴下した。この蒸留残渣水溶液を90℃で撹拌し、均一溶液とし、室温まで冷却して、析出した結晶を吸引濾過により集めた。得られた結晶を水60mlで洗浄した後、150℃で5時間減圧乾燥して、粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶を87.6g(トリフェニルホスフィンを基準とする収率94.5%)得た。得られた粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの結晶を実施例1と同様に分析したところ、テトラフェニルホスホニウムブロマイド0.25%、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド99.13%、ジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイド0.62%であった。
【0082】
実施例1〜3及び比較例1、2の結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から明らかなように、トリフェニルホスフィンを全体の1/4量又は1/2量ずつ、該添加により発生した熱が低下してから添加することを4回又は2回繰り返した実施例1,2や、トリフェニルホスフィンを少量ずつ連続添加した実施例3では、粗4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド結晶中に含まれる副生成物であるジ4−t−ブチルフェニルジフェニルホスホニウムブロマイドが、トリフェニルホスフィンではなくt−ブチルブロモベンゼンを分割添加した比較例1や、原料を一括添加した比較例2に比べて低下しており、本発明によれば、反応の副生成物を抑制して、高純度の非対称テトラアリールホスホニウムハライドを高収率で得ることができることが分かる。
【0085】
〔4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドのイオン交換〕
[実施例4]
300mlのナス型フラスコに、実施例1で合成した4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド40.5g及び1−オクタノール108.1gを入れ、撹拌しながら80℃まで加熱し、均一溶液を得た。この溶液を300mlのガラス製分液ロートに移し入れ、塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム49.6g+イオン交換水141.1g)を加え激しく振盪し、得られた溶液(2層から成る)から下層(水層)を除去した。残った有機層について、同様に塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム49.6g+イオン交換水141.1g)を加えて振盪後に得られた水層を除去する操作を更に4回繰り返した。ディーンシュターク装置を用いて、残った有機層を共沸脱水することにより、水11gを抜き出すと共に塩化ナトリウム及び臭化ナトリウムを析出させた。
【0086】
ここで、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド40.5gの全ブロマイドイオンがクロライドイオンに交換された場合、共沸脱水後の有機層には4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドが36.7g生成するので、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの1−オクタノールに対する濃度は27.1重量%となる。80℃における4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの1−オクタノールに対する飽和溶解度は31.5重量%以上であるため、共沸脱水後の有機層においては4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは1−オクタノールに対して飽和溶解度未満の濃度になっている。なお、共沸脱水後の有機層の含水率は11ppmであった。
【0087】
析出した塩化ナトリウム及び臭化ナトリウムを80℃に加熱した桐山ロートを用いて除いた。
濾液を11mmHg、140℃の条件で蒸留することにより、1−オクタノールを97.1g留去した。ジイソプロピルエーテル200mlを加えることにより、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドを析出させ、これを濾過して得た結晶を25℃常圧で6時間乾燥させることにより、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド35.7gを得た。4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドに対する収率は97%であった。4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドを原始吸光法により分析した結果、塩化ナトリウムの含有率は61ppmであった。また、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドをフラスコ燃焼法によるイオンクロマトグラフィーにより分析したが、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドは検出されなかった。
【0088】
〔炭酸ジフェニルの製造〕
[実施例5]
ガラス製フラスコに、実施例4で得られた4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド0.19g、クロロホルム0.026g及びシュウ酸ジフェニル5.0を入れ、撹拌下で230℃に昇温した。常圧下で、発生する一酸化炭素を系外に除去しながら1時間脱カルボニル反応を行った。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、液体クロマトグラフィーにより分析したところ、シュウ酸ジフェニルの転化率84.0%、炭酸ジフェニルの選択率99.7%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造する方法において、ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む液に、トリアリールホスフィンを分割又は連続的に添加することを特徴とする非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【請求項2】
反応に供する全トリアリールホスフィン量の1/2以下ずつの量のトリアリールホスフィンを2回以上分割添加することにより前記トリアリールホスフィンの添加を行うことを特徴とする請求項1に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【請求項3】
トリアリールホスフィンを反応液に添加してから、次にトリアリールホスフィンを添加するまでの時間間隔は、直前のトリアリールホスフィンの添加により上昇した反応液温度が、上昇温度分の90%が低下する時間以上とする請求項2に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【請求項4】
前記トリアリールホスフィンの添加が、連続的であることを特徴とする請求項1に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化アリールが、ブロモアリール又はヨードアリールであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【請求項6】
トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールとを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させて、生成した非対称テトラアリールホスホニウムハライドの存在下に、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを製造する方法において、下記(1)〜(3)の条件を満たす操作を行うことを特徴とする非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
(1)ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む反応液に、反応に供するトリアリールホスフィンを2回以上に分割して添加する。
(2)トリアリールホスフィンの1回の添加量は、反応に供する全トリアリールホスフィン量の1/2以下とする。
(3)トリアリールホスフィンを反応液に添加してから、次にトリアリールホスフィンを添加するまでの時間間隔は、直前のトリアリールホスフィンの添加により上昇した反応液温度が、上昇温度分の90%が低下する時間以上とする。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法により製造した非対称テトラアリールホスホニウムハライドを、前記非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子とは異なるハロゲン原子のイオンと接触させることにより、前記非対称テトラアリールホスホニウムハライドが有するハロゲン原子を置換することを特徴とする非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法。
【請求項8】
シュウ酸ジエステルから炭酸ジエステルを製造する方法であって、請求項1乃至7の何れか1項に記載の非対称テトラアリールホスホニウムハライドの製造方法により製造した非対称テトラアリールホスホニウムハライドを触媒として用いることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。

【公開番号】特開2013−82695(P2013−82695A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−211891(P2012−211891)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】