説明

非導電性基板表面のエッチング方法

【課題】本発明は、金属層の形成の前に、非導電性基板表面のエッチング、特にポリアミドまたはABSプラスチック表面をエッチングするための方法及びエッチング溶液に関する。
【解決手段】本発明においては、被エッチング表面を、Na、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca及びZnからなる群から選択された少なくとも1つの金属を含むハロゲン化物及び/または硝酸塩を有するエッチング溶液で処理する。本発明の利点はいかなるクロム酸塩も使用することがない点にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層の形成(metallization)前に、非導電性基板表面を前処理して接着強度を高めるために、前記表面をエッチングする方法、及び前記方法に使用するエッチング溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、プラスチック表面のような非導電性基板表面を金属を用いてコーティングすることで、該基板の多様な表面特性を形成する。
【0003】
上記表面に金属層を形成(metallization)することで、例えば電気的導体となり、集積回路、印刷回路または電気若しくは電子部品の製造分野で広く使用することができる。さらに、上記表面は、目的の光学特性または触覚特性を備えた金属層を用いて、装飾的用途でコーティングする。
【0004】
原理的には、基板表面に電気めっき(galvanically)か、または自己触媒作用(autocatalytically)にて金属層を析出させることができる。電着(galvanic deposition)する前には、金属層を形成するプラスチック表面を適当な前処理によって導電性としなければならない。この非導電性基板表面に導電性を与える前処理は、自己触媒作用により金属層を析出させる場合には必要ない。
【0005】
上記表面の電気めっきまたは自己触媒作用による金属層の形成とは別に、基板表面を粗面化して基板表面に形成する金属層の接着性を改善しなければならない。この粗面化は、機械的処理または膨張剤(swelling agent)若しくはエッチング液といった適当な化学的処理にて行うことができる。
【0006】
エッチング方法として、従来技術として本発明とは異なった方法が知られている。特許文献1には、非導電性基板表面の直接電解(direct electrolytic)による金属層の形成方法において、酸性の過マンガン酸塩溶液を用いて、被コーティングプラスチック表面を処理することが開示されている。
【0007】
特許文献2には、非導電性表面部の金属層の形成方法において、被コーティング表面を過酸化水素を含有した酸性エッチング液で前処理するエッチング方法が開示されている。上記過酸化水素の他に、リン酸のような酸またはプロパン‐2‐オール若しくはp‐フェノールスルホン酸といった有機化合物も含有するエッチング液も開示されている。
【0008】
特許文献3には、非導電材料基板の選択的または部分的な電解による金属層の形成方法において、硫酸が含有したクロム酸のエッチング液を用いて、被コーティング基板表面を前処理することが開示されている。もう一つの方法として、エッチング液としてアルカリ性の過マンガン酸塩溶液が開示されている。
【0009】
特許文献4には、非導電性表面部を含む基板の金属層の形成方法において、過酸化水素を主成分とした酸洗い溶液またはエッチング溶液を用いて、金属層を形成する表面を前処理することが開示されている。上記エッチング溶液には、さらに、リン酸、メタンスルホン酸または酢酸が含まれていてもよく、その結果、水素イオン濃度は最大0.5mol/kg溶液であることが記載されている。
【0010】
特許文献5にも、コーティングする表面、特にアクリルニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS共重合体)表面及び上記共重合体の混合物表面の化学的金属層形成法に用いる溶液を含むクロム酸塩イオンにより、この基板表面を前処理としてエッチングする方法が開示されている。上記溶液には、三酸化クロムと濃硫酸を含有していることが必要である。
【0011】
全エッチング法を通じて、基板表面を分解することが重要であり、その結果、金属層が析出するのに必要な接着性を有する表面が形成する。
【0012】
コーティングする基板には、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどのプラスチックがある。
【0013】
しかし、特に、ポリアミドを主成分とした基板に対して、表面の前処理に、クロム酸‐硫酸混合物、アルカリ性溶液または酸を用いたエッチングのような従来技術を使用するのには、問題がある。なぜなら、上記の前処理方法が、ポリアミド表面の不可逆的劣化の原因となるからである。
【0014】
この問題の解決方法として、非特許文献1で開示している表面エッチング法があり、三酸化クロムを大幅に低減させた溶液を使用している。これまでに、従来技術として、約400g/lの三酸化クロムを使用しているが、上記刊行物には、約80g/lの三酸化クロムを用いて前処理する方法が記載されている。
【0015】
しかし、クロム酸塩が原因の環境汚染問題から、三酸化クロムを使用することは困難になっている。
【特許文献1】独国特許第101 24 631 号
【特許文献2】独国特許第197 40 431 号
【特許文献3】独国特許出願公開第195 10 855 号
【特許文献4】国際特許出願公開第9913696号
【特許文献5】独国特許出願公開第100 54 544 号
【非特許文献1】metalloberflache volume59(2005)No4、55ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記内容を考慮して、本発明の目的は、非導電性基板表面、特にポリアミド表面を前処理して金属層との接着強度を高めるために、該表面をエッチングする方法を提供することである。本方法により、従来技術の不利益を回避して、いかなるクロム酸塩も使用することなく基板表面の十分な粗面化を達成することができる。さらに、本発明の目的は上記方法に使用するエッチング溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した本発明の課題は、金属層の形成前にプラスチック表面をエッチングする方法を用いることで解決でき、このエッチング方法は、被エッチング表面を、Na、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca及びZnからなる群から選択された少なくとも1つの金属を含むハロゲン化物並びに/または硝酸塩を含有するエッチング溶液と接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
非導電性基板表面に析出した金属層は、しっかりと基板表面に接着させる方法を用いることで、この表面と結合している。本発明に係るエッチング溶液を用いたエッチング方法により有益なエッチング処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、塩化物をハロゲン化物として使用する点が有益である。特に、塩化物としてはFeCl3、FeCl2、TiCl3、CuCl2、CrCl3、ZnCl2、MgCl2、CaCl2、MnCl2及びCuCl2が、硝酸塩としてはCr(NO3)3が、適している。
【0020】
さらに、上記エッチング溶液にフッ化物が含まれていてもよい。一般式M(HF2)で表されるフッ化物の配位化合物が、特に適している。ここで、Mの例としてNH4基を挙げることができる。しかし、他のすべての可溶性フッ化物も同様に適している。
【0021】
本発明に係る方法では、エッチング溶液は、Na、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca及びZnからなる群から選択された少なくとも1つの金属を含むハロゲン化物並びに/または硝酸塩であって、その濃度が0.1mol/lから溶解限度の間のものを使用する。このエッチング溶液には、上記した金属塩を含有する溶液を使用し、金属塩の濃度は0.5〜10mol/l程度が好ましく、より好ましくは2〜4mol/l程度である。
【0022】
本発明に係る方法において使用するエッチング溶液は、可溶性フッ化物を含有していてもよく、その濃度は0.05〜10mol/l程度であり、0.25〜3.6mol/l程度が好ましく、より好ましくは0.3〜1.8mol/l程度である。
【0023】
さらに、本発明に係る方法において使用するエッチング溶液は、酸を含有していてもよい。ここでは、pK値が5以下の有機酸及び無機酸の両方を使用することができる。
【0024】
本発明に係る方法において使用するエッチング溶液に含まれている酸の濃度は、0.01〜10mol/l程度であり、0.1〜5mol/l程度が好ましく、より好ましくは0.5〜3.0mol/l程度である。
【0025】
コーティング処理する基板表面のぬれ性(moistening)を改善するために、本発明に係る方法において使用するエッチング溶液に湿潤剤(wetting agent)を添加してもよい。酸性媒質中で安定な湿潤剤が好ましい。本発明に係る方法で使用するエッチング溶液に含有している湿潤剤の濃度は、0.0001〜1.0mol/l程度であり、0.001〜0.5mol/l程度が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1mol/l程度である。
【0026】
少量の貴金属または貴金属化合物を、本発明に係る方法において使用するエッチング溶液に添加してもよい。例えば、エッチング溶液に75ppmのPd2+を添加して、パラジウムコロイドの溶解性(absorption)と被コーティング基板表面へのパラジウムの付着性を改善する。
【0027】
本発明では、被エッチングプラスチック表面を、0.1〜20分間程度、好ましくは1.0〜10分間程度エッチング溶液と接触させる。エッチング溶液の温度は、15〜65℃程度であり、25〜35℃程度が好ましい。
【0028】
本発明に係るエッチング溶液とエッチング方法では、
ハロゲン化物及び/または硝酸塩含有したエッチング液で、基板表面をエッチングする工程と、
前記エッチングした表面を貴金属コロイドを含有した活性剤溶液(activator solution)またはイオノゲン性(ionogenic)貴金属活性剤溶液と接触させる工程と、
前記活性化させた表面を析出促進剤溶液(accelerator solution)と接触させる工程と、
自己触媒めっき浴(autocatalytic metallization bath)または電解めっき浴(direct metallization bath)にて前記処理表面に金属層を形成する工程と
を含むことを特徴とする基板表面に金属層を形成する方法も提供する。
【0029】
非導電性基板表面に析出した金属層は、しっかりと基板表面に接着させる方法を用いることで、この表面と結合している。本発明に係るエッチング溶液を用いたエッチング方法により、上述したような有益なエッチング処理を行うことができる。
【0030】
以下、本発明に係るエッチング方法及びエッチング溶液について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
エッチング溶液。
【0032】
500g/lFeCl3、50ml/l濃塩酸、10g/lNH4HF2、5ml/l湿潤剤を含有したエッチング溶液を用いた。
【0033】
エッチング方法。
【0034】
エッチング方法としては、まず、ポリアミド製の射出成形部品を50℃にて4分間、前記エッチング溶液に接触させた。次に、この射出成形部品を、次工程である自己触媒めっきによる金属層の形成前に、洗浄した。
【0035】
金属層の形成工程全体。
【0036】
上記ポリアミド製の射出成形部品を下記のように処理した。
【0037】
ポリアミド製の射出成形部品を、50℃にて4分間、上記FeCl3含有エッチング液に接触させた。この部品の洗浄を行った後、26℃にて2分間、活性剤溶液であるエントーン社製Udique 879Wにてこの部品を処理した。部品の洗浄後、室温にて2分間、析出促進剤溶液であるエントーン社製Enplate Accelerator 860に、この部品を接触させた。部品の洗浄を行ってから、前記処理した部品表面を、pH9.0、30℃にて10分間Udique NI 891に接触させて、ニッケルめっきを行った。このめっきした部品の洗浄後、さらに金属層の形成を行った。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係るエッチング方法は、多くのABSプラスチックの金属層形成用の既存ラインに適合できる点でも有益である。このエッチング方法により、プラスチック表面のより均一な粗面化とその促進が可能となり、さらに、例えば自己触媒ニッケルめっきにおいて、上述した欠点のない、よりはやい金属層の形成が可能となる。得られた結果は、優れた再現性を有し、実験室規模における金属層形成の工程に習熟している必要はない。さらに、エッチング工程後の金属層形成において、安定剤成分を適合させる必要もない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層形成前に、非導電性基板表面を、Na、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca及びZnからなる群から選択された少なくとも1つの金属を含むハロゲン化物並びに/または硝酸塩を含有するエッチング溶液と接触させることを特徴とする、エッチング方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化物並びに/または硝酸塩が、FeCl3、FeCl2、TiCl3、CuCl2、CrCl3、ZnCl2、MgCl2、CaCl2、MnCl2、CuCl2及びCr(NO3)3からなる群から選択された金属塩であることを特徴とする、請求項1記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記エッチング溶液が、可溶性フッ化物を含有することを特徴とする、請求項1または2記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記可溶性フッ化物が、一般式M(HF2)で表される配位化合物であることを特徴とする、請求項3記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記一般式M(HF2)のMが、NH4基であることを特徴とする、請求項4記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化物並びに/または硝酸塩の濃度が、0.1mol/lから溶解限度の間であることを特徴とする、請求項1または2記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記可溶性フッ化物の濃度が、0.05〜10mol/lであることを特徴とする、請求項3ないし5の何れか1項に記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記エッチング溶液が、酸を含有することを特徴とする、請求項1ないし7の何れか1項に記載のエッチング方法。
【請求項9】
前記酸が、pK値が5以下の有機酸または無機酸であることを特徴とする、請求項8記載のエッチング方法。
【請求項10】
前記酸の濃度が、0.01〜10mol/lであることを特徴とする、請求項8または9記載のエッチング方法。
【請求項11】
前記エッチング溶液が、湿潤剤を含有することを特徴とする、請求項1ないし10の何れか1項に記載のエッチング方法。
【請求項12】
前記湿潤剤が、酸に対して加水分解安定性を有していることを特徴とする、請求項11記載のエッチング方法。
【請求項13】
前記湿潤剤の濃度が、0.0001〜1.0mol/lであることを特徴とする、請求項11または12記載のエッチング方法。
【請求項14】
前記被エッチング基板表面を、前記エッチング溶液に0.1〜20分間接触させることを特徴とする、請求項1ないし13の何れか1項に記載のエッチング方法。
【請求項15】
前記被エッチング基板表面を、前記エッチング溶液に15〜65℃の温度で接触させることを特徴とする、請求項1ないし14の何れか1項に記載のエッチング方法。
【請求項16】
前記被エッチング基板が、ポリエステル、ポリエーテル、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリエーテルイミドからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1ないし15のいずれか1項に記載のエッチング方法。
【請求項17】
ハロゲン化物及び/または硝酸塩を含有する腐食剤を用いてプラスチック表面をエッチングする工程と、
該エッチングした表面を貴金属コロイドを含有する活性剤溶液またはイオノゲン性貴金属活性剤溶液と接触させる工程と、
該活性化した表面を析出促進剤溶液と接触させる工程と、
自己触媒めっき浴または電解めっき浴にて該処理表面に金属層を形成する工程と
を含むことを特徴とする、プラスチック表面に金属層を形成する方法。
【請求項18】
前記プラスチック表面を、25〜35℃の温度でエッチングすることを特徴とする、請求項17記載のプラスチック表面に金属層を形成する方法。
【請求項19】
前記プラスチック表面を、1.0〜10分間エッチングすることを特徴とする、請求項17または18記載のプラスチック表面に金属層を形成する方法。
【請求項20】
前記プラスチック表面が、ポリアミドの表面またはABSの表面であることを特徴とする、請求項17ないし19の何れか1項に記載のプラスチック表面に金属層を形成する方法。
【請求項21】
Na、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca及びZnからなる群から選択された少なくとも1つの金属を含むハロゲン化物並びに/または硝酸塩を含有することを特徴とする、被めっきプラスチック表面を前処理するためのエッチング溶液。
【請求項22】
前記ハロゲン化物の濃度が、0.1mol/lから溶解限度の間であることを特徴とする、請求項21記載のエッチング溶液。
【請求項23】
可溶性フッ化物を含有することを特徴とする、請求項21または22記載のエッチング溶液。
【請求項24】
前記可溶性フッ化物の濃度が、0.05〜10mol/lであることを特徴とする、請求項23記載のエッチング溶液。
【請求項25】
前記ハロゲン化物が、塩化第一鉄または塩化第二鉄であることを特徴とする、請求項21または22記載のエッチング溶液。
【請求項26】
前記可溶性フッ化物が、一般式M(HF2)で表される配位化合物であって、MはNH4基であることを特徴とする、請求項23または24記載のエッチング溶液。
【請求項27】
前記可溶性フッ化物が、フッ化水素アンモニウムであることを特徴とする、請求項26記載のエッチング溶液。
【請求項28】
酸を含有することを特徴とする、請求項21ないし27の何れか1項に記載のエッチング溶液。
【請求項29】
前記酸が、pK値が5以下の有機酸または無機酸であることを特徴とする、請求項28記載のエッチング溶液。
【請求項30】
前記酸の濃度が、0.01〜10mol/lであることを特徴とする、請求項28または29記載のエッチング溶液。
【請求項31】
湿潤剤を含有することを特徴とする、請求項21ないし30の何れか1項に記載のエッチング溶液。
【請求項32】
前記湿潤剤の濃度が、0.0001〜1.0mol/lであることを特徴とする、請求項31記載のエッチング溶液。
【請求項33】
前記湿潤剤が、酸加水分解に対する耐性を有することを特徴とする、請求項31または32記載のエッチング溶液。
【請求項34】
貴金属または貴金属化合物をふくむことを特徴とする、請求項21ないし33の何れか1項に記載のエッチング溶液。


【公開番号】特開2007−119919(P2007−119919A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290925(P2006−290925)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(505319072)エントーン インク. (7)
【氏名又は名称原語表記】Enthone Inc.
【Fターム(参考)】