説明

非接触式被処理物回転処理装置

【課題】超伝導を利用した非接触式のスピンコータの回転ヘッド部の安定的回転を実現し、非接触式での回転力の伝達を効率的に行い、同時にスピンコータの鉛直方向における短尺化により、半導体ウエハ工場内の容積効率向上を実現する。
【解決手段】回転ヘッド部10を、突出部を持つ密閉容器60内に収容し、前記突出部の周囲を覆うようにリング状の浮上機構20を設置し、前記密閉容器外部から非接触で前記回転ヘッド部を回転させる回転機構30を設置し、前記浮上機構は第二種超伝導体であるピン止め体21と冷却手段24を具備し、前記冷却手段でピン止め体を臨界温度以下に冷却し、円板状部材11に設置された永久磁石14との間に磁気的ピン止め力を発生させて前記回転ヘッド部を所定の位置に磁気浮上させ、前記回転機構30によって発生した回転力により前記回転ヘッド部に対応して回転力を追従発生させて前記回転ヘッド部を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶等の製造において、薄板状物、特に基板を回転させ、その表面に処理液を滴下、分散させて薄膜を形成し、又は表面を洗浄、乾燥する装置であるいわゆるスピンコータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶等の製造においては、半導体ウエハやガラス板等の基板の表面にフォトレジストの薄膜を形成し、あるいは表面を洗浄又は乾燥する作業工程があるが、そこでは回転ヘッド部上に載置された基板を高速で回転させる装置が用いられている。
【0003】
例えば、薄膜形成工程においては、フォトレジスト等の処理液が滴下された基板を高速回転させることにより、処理液を遠心力で拡げて薄膜を形成する、表面処理装置であるスピンコータが用いられている。ここで、スピンコータは半導体製造工場内のクリーンルーム中で使用される。
【0004】
図11に従来型スピンコータの構造を示す。従来型スピンコータ50は、水平に置かれた腕状、矩形状若しくは円盤状の基板支持部材51と、その下面中心から下方に伸びる回転ヘッド部58と、その回転ヘッド部58の下方にドライブベルト72によって接続される駆動モータ71を具備しており、前記回転ヘッド部58はベアリング59を介して回転可能に支持部材53に支持されている。基板支持部材51の上面には被処理物である基板(ウエハ57)が載置され、その上方には処理液55をウエハ57に滴下する吐出ノズル54が配置され、前記ウエハ57の周囲にはウエハ57に滴下された処理液55の飛散を防止する飛散防止壁52が設けられている。また、ウエハ57上面処理と同時に、下面処理を行うための下部ノズル56が、前記回転ヘッド部58内に導かれている。
【0005】
以下に従来型スピンコータ50の動作を説明する。まず、前工程から移送されたウエハ57は、基板支持部材51上に真空チャッキング等により載置される。次に駆動モータ71により回転ヘッド部58を介して基板支持部材51とともにウエハ57を、例えば2000rpmや6000rpm等の高速に回転させる。
【0006】
そして、回転するウエハ57の表面に上方の吐出ノズル54から処理液55を滴下すると、処理液55は遠心力によりウエハ57の表面に拡がり薄膜を形成する。なお、この薄膜の形成に寄与しなかった余分の処理液55は、ウエハ57表面より振り飛ばされて、飛散防止壁52に衝突することにより捕集され下部から回収される。
【0007】
このような薄膜形成工程は、通常、薄膜への不純物の混入を避けるため、クリーンルーム内で行われ、特に図11に示したウエハ処理を行う密閉容器内であるA側は、密閉容器外であるB側に比べクリーンに維持されるよう構成されている。
【0008】
しかし、従来型スピンコータ50においては、シール材(例えばベアリング59等)の部分から微粒子状の異物が発生して密閉容器内のA側のクリーン環境を汚染してしまうことを完全に防止することができず、処理後のウエハ57の品質低下を招くという問題があった。
【0009】
そこで、超伝導を利用しシール材の存在しないスピンコータの発明が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明によれば、密閉容器内に回転ヘッド部を収納し、前記密閉容器外部より磁力を利用して回転ヘッド部を上昇させ、回転力を伝達するように構成することで、微粒子状の異物が発生する箇所(例えばベアリング、モータ等の回転部分)を密閉容器外に設置可能としている。このように構成された発明により、密閉容器内に設置された回転ヘッド部を密閉容器外から非接触状態で浮上させて回転操作することができる。
【0010】
また、回転ヘッド部の浮上には、第二種超伝導体を利用することで回転する位置を維持することを可能としている。なお、第二種超伝導体とは、磁場の強さがある値を超えると材料内部に超伝導と常伝導の部分が混在しはじめる材料を言い、第二種超伝導体を通過する外部磁束が、材料内部の常伝導部分に保持されることにより生じる復元力である磁気的ピン止め力により、回転ヘッド部の回転する位置を維持することが可能となっている。
【0011】
そのため、密閉容器内の回転ヘッド部に駆動部分がなくなり保守・修理の必要はほとんどなく、密閉容器内のクリーンな環境を維持したまま薄膜形成を行うことができ、薄板状物、特に半導体基板(ウエハ)などの被処理物の品質を向上させることができる。
【特許文献1】特開2007−160282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のスピンコータでは、回転ヘッド部の回転時に前記磁気的ピン止め力が回転位置を維持するよう作用するものの、位置のずれが生じてしまう問題点があった。特にスピンコータの回転ヘッド部は例えば2000rpmから6000rpmの高速で回転させるため、慣性力が大きく、少しの傾きや回転中心のずれであっても、回転の安定性が容易に失われる。ここで、回転ヘッド部の安定性が失われると、被処理物であるウエハの処理が適切に行えなくなり、不良品となってしまい、歩留を著しく下げることとなる。そのため、ウエハの生産性向上のためには、回転ヘッド部の安定的回転の確保が極めて重要な課題となっている。
【0013】
また、半導体ウエハの製造においては、近年ウエハの直径が200mmから300mmへの移行が始まり、大型化の一途を辿っている。それに伴い回転ヘッド部の大型化が必要となっているため、安定的回転の実現はさらに重要な課題となっている。
【0014】
さらに、回転ヘッド部に対して非接触で回転力を伝達する際、回転力を送信する側と受信する側の永久磁石の間の距離が大きい(例えば20mm程度)ため、回転力の伝達効率が悪く、例えば2000rpmから6000rpmの高速回転を行った後の急停止が困難であった。
【0015】
本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、超伝導を利用した非接触式のスピンコータの回転ヘッド部の安定的回転を実現し、非接触式での回転力の伝達を効率的に行い、同時にスピンコータの鉛直方向における短尺化により、半導体ウエハ工場内の容積効率向上を実現することにある。
【0016】
なお、本発明は、JSTの委託開発課題「超伝導体利用半導体製造用スピン処理装置」に関する新技術開発を実施する過程において、その成果として得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するための本発明に係る非接触式被処理物回転処理装置は、円板状部材の下面中心に軸部材を固定した回転ヘッド部を、前記軸部材に対応した突出部を持つ密閉容器内に収容し、前記突出部の周囲を覆うようにリング状の浮上機構を設置し、前記密閉容器外部から非接触で前記回転ヘッド部を回転させる回転機構を設置し、前記浮上機構は第二種超伝導体であるピン止め体と冷却手段を具備し、前記冷却手段でピン止め体を臨
界温度以下に冷却し、前記円板状部材に設置された永久磁石との間に磁気的ピン止め力を発生させて前記回転ヘッド部を所定の位置に磁気浮上させ、前記回転機構によって発生した回転力により前記回転ヘッド部に対応して回転力を追従発生させて前記回転ヘッド部を回転させるように構成したことを特徴とする。
【0018】
上記の非接触式被処理物回転処理装置において、前記軸部材の側壁の永久磁石と対向するピン止め体により回転ヘッド部の水平方向の位置を保持し、前記円板状部材の下面の永久磁石と対向するピン止め体により回転ヘッド部の垂直方向の位置を保持するよう構成したことを特徴とする。
【0019】
上記の非接触式被処理物回転処理装置において、前記浮上機構がリング状の断熱容器内の内側壁面内部に前記ピン止め体を円周状に設置し、さらに上面内部に前記ピン止め体を設置し、前記ピン止め体を冷却材で同時に冷却することを特徴とする。
【0020】
上記の非接触式被処理物回転処理装置において、前記浮上機構を中心に外周側にリング状に設置された前記回転機構は、上面に極性が交互となるように設置された送信側回転用永久磁石を具備し、前記円板状部材下面に前記送信側回転用永久磁石に対向する受信側回転用永久磁石を具備したことを特徴とする。
【0021】
上記の非接触式被処理物回転処理装置において、前記回転ヘッド部の中央に貫通孔を具備し、被処理物の下面処理を可能としたことを特徴とする。
【0022】
上記の非接触式被処理物回転処理装置において、前記軸部材に対向する外周方向に、前記回転ヘッド部の回転軸に対する傾きを制御するための制御機構を設置したことを特徴とする。
【0023】
上記の非接触式被処理物回転処理装置において、前記制御機構が電磁石と磁性体を有した制御型磁気軸受けと、前記回転ヘッド部の傾きを検出するギャップセンサを具備し、前記ギャップセンサで得られた信号を基に、前記電磁石に印加して前記制御型磁気軸受けの制御を行うよう構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
密閉容器内に収容された回転ヘッド部の位置制御を、第二種超伝導体でピン止め体である浮上用バルクに加え位置制御用バルクを用い、また非接触式被処理物回転処理装置全体を鉛直方向に短尺に構成したため、回転ヘッド部の回転時の安定性が飛躍的に向上した。
【0025】
また、回転ヘッド部の位置制御精度の上昇に伴い、回転ヘッド部を浮上させた際の密閉容器との隙間を従来の20mm程度から10mm程度まで小さくすることが可能となり、そのため、回転ヘッド部に設置する浮上用永久磁石を小さくでき、その結果、回転ヘッド部全体を軽く構成することが可能となった。さらに、回転ヘッド部の浮上する高さが低くなったため、回転力を伝達するための回転用永久磁石同士の距離が近くなるため、回転力の伝達効率が上昇を実現した。
【0026】
前記浮上用バルクと位置制御用バルクを共通の断熱容器内に収容し、同時に冷却する浮上機構としたことで、新たに位置制御用バルクを追加したにも関わらず、装置の複雑化及び大型化を回避することが可能となった。
【0027】
非接触式の回転機構を前記浮上機構の外周側に設置することで、小さなトルクで回転ヘッド部を回転させることが可能となり、回転ヘッド部の高速回転及び急停止を実現した。
【0028】
前記回転ヘッド部の中央に貫通孔を設けることで、被処理物(ウエハ等)の下面処理を可能とし、そのため例えば半導体ウエハ製造等における歩留が上昇した。
【0029】
前記非接触式被処理物回転処理装置に、回転ヘッド部の傾きをアクティブに制御する例えば電磁石を利用した制御型磁気軸受け等を設置することにより、回転ヘッド部の位置制御の精度が飛躍的に向上し、回転ヘッド部を安定的に回転させることで、ウエハ製造における歩留向上が実現された。
【0030】
さらに、位置制御精度上昇に伴い、密閉容器の内壁に接触する危険性が低くなるため、回転ヘッド部の浮上する高さを低くすることができ、そのため、回転ヘッド部に設置される浮上用永久磁石の小型化が可能となり、回転ヘッド部全体を軽く構成することが可能となった。前記回転ヘッド部の軽量化により、回転ヘッド部の高速回転、急停止時に作用する慣性力が小さくなるため、回転機構で必要となる動力を小さくすることが可能となった。
【0031】
以上より、本発明に係る非接触式被処理物回転処理装置によれば、超伝導を利用した非接触式のスピンコータの回転ヘッド部の安定的回転を実現し、非接触式での回転力の伝達を効率的に行い、同時にスピンコータの鉛直方向における短尺化により、半導体ウエハ工場内の容積効率向上を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る実施の形態の非接触式被処理物回転処理装置(超伝導体利用半導体用スピン処理装置、以下スピンコータ)について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
(スピンコータの構造)
図1乃至3に本発明に係る実施の形態のスピンコータ1の構成を示す。図1はスピンコータ1の全体及びその周辺に設置されている部材の概略図を示している。スピンコータ1は、円板状部材11の下面中心に軸部材12を固定した回転ヘッド部10を、前記軸部材12に対応した突出部を持つ密閉容器60内に収容し、前記突出部の周囲を覆うようにリング状の浮上機構20を設置し、前記密閉容器60外部から非接触で前記回転ヘッド部10を回転させる回転機構30を設置し、前記浮上機構20は第二種超伝導体であるピン止め体(浮上用バルク21)と冷却手段(冷却材24)を具備し、前記冷却手段でピン止め体を臨界温度以下に冷却し、前記円板状部材11に設置された永久磁石(浮上用永久磁石14)との間に磁気的ピン止め力68を発生させて前記回転ヘッド部10を所定の位置に磁気浮上させ、前記回転機構30によって発生した回転力により前記回転ヘッド部10に対応して回転力を追従発生させて前記回転ヘッド部10を回転させるように構成している。
【0034】
また、スピンコータ1は、前記軸部材12の側壁の永久磁石(位置制御用永久磁石15)と対向するピン止め体(位置制御用バルク22)により回転ヘッド部10の水平方向の位置を保持し、前記円板状部材11の下面の永久磁石(浮上用永久磁石14)と対向するピン止め体(浮上用バルク21)により回転ヘッド部10の垂直方向の位置を保持する構成としている。
【0035】
また、支持部材53上にスピンコータ1が固定されており、被処理物である半導体ウエハ57上面に吐出ノズル54から処理液55を滴下し、薄膜を形成し、下面は下部ノズル56により処理液を噴射し洗浄を行ったり、又は他の下部ノズル56より吸引し、ウエハ57を基板支持部材51に固定したりするように構成することが可能である。
【0036】
図2は前記スピンコータ1の分解図を示している。スピンコータ1は、支持部材53に
回転機構30を固定し、前記回転機構30の内側には浮上機構20を設置し、前記浮上機構20の上部は密閉容器60を設置し、前記密閉容器60内に回転ヘッド部10を載置するよう構成している。
【0037】
(回転ヘッド部の構造)
前記回転ヘッド部10は図3の斜視図にも示すように円板状部材11の下部に円柱状の軸部材12を固定し、中央部に貫通した貫通孔13を備え、円板状部材11の上面にはウエハ57(基板)を固定するための腕状、矩形状若しくは円板状の基板支持部材51を固定している。前記貫通孔13は図1に示す下部ノズル56を貫通させるためのものである。
【0038】
前記円板状部材11にはリング状の浮上用永久磁石14を設置しており、前記浮上用永久磁石14は鉛直方向に磁化されている。この浮上用永久磁石14は回転ヘッド部10を密閉容器60から浮上させるために設置されている。
【0039】
前記浮上用永久磁石14の外周方向には、回転用永久磁石(受信側)16を設置している。この回転用永久磁石(受信側)16は図6に示すように、リング状磁石を複数個に割ったように構成されており、鉛直方向に磁化された磁石をN極とS極が交互になるように鉄片等の磁性体17を介して、エポキシ等の合成樹脂でリング状に固めて作成する。
【0040】
ここで、回転用永久磁石(受信側)16は6分割されているが、分割個数はその都度の設計に応じて変更することが可能である。また、浮上用永久磁石14を外周に、回転用永久磁石(受信側)16を内周に設置することも可能であるが、回転ヘッド部10の回転を安定させるためには、より重量の重い方を内周側に設置することが望ましい。
【0041】
さらに、回転用永久磁石(受信側)16を外周方向に設置することで、対応する回転機構30の回転用永久磁石(送信側)31との磁気的な吸引力が小さくても、回転ヘッド部10に十分な回転力を伝達することを可能とした。
【0042】
円柱状の前記軸部材12には水平方向の移動を拘束し、回転中心がずれないための位置制御用永久磁石15を設置している。前記位置制御用永久磁石15は図7に示すように鉛直方向の磁束61により磁化し、例えば上面がS極、下面がN極となるように鉛直方向に磁化されている。
【0043】
前記位置制御用永久磁石15は、鉛直方向に磁化された円板状又はリング状の永久磁石であって、互いに反発するように少なくとも2つの永久磁石が、鉄片等の磁性体17を介して固定されている。この磁石の発生する磁界を利用して、回転ヘッド部10の水平方向の移動を拘束する。
【0044】
(密閉容器の構造)
前記回転ヘッド部10を内包し、回転機構30から隔離するように密閉容器60は設置されている。密閉容器60は開閉部を設けており、被処理物であるウエハ57等を出し入れ可能に構成している。
【0045】
また、側方は飛散防止壁52の役割も担っており、回転しているウエハ57に処理液55を滴下し、余分な処理液55が遠心力によりウエハ57の外周方向に飛散した際、前記飛散防止壁52に処理液55を衝突させ、密閉容器60の下部に設置された図示しない回収ラインから処理液55を回収するよう構成している。さらに密閉容器60の底面には前記下部ノズル56のための貫通孔13を設けることも可能である。
【0046】
(回転機構の構造)
回転機構30は、円板状又はリング状の底板及び側壁からなり、前記側壁の内側に例えばベアリング34等の支持部材を介してリング状のロータ磁石32が回転可能に設置されており、前記ロータ磁石32に対向する内周方向にリング状のステータコイル33が底板に固定されており、前記ロータ磁石32及びステータコイル33によりモータを構成している。
【0047】
前記ロータ磁石32の上面には回転用永久磁石(送信側)31が設置されており、前記回転ヘッド部10に設置された回転用永久磁石(受信側)16と対向するように設置されている。前記回転用永久磁石(送信側)31は回転用永久磁石(受信側)16と同様に鉛直方向に磁化されたリング状で分割された永久磁石を、N極とS極が交互になるように鉄片等の磁性体17を介してエポキシ等の合成樹脂で固定して作成している。
【0048】
前記ステータコイル33に電流を流し、ロータ磁石32の回転に伴い前記回転用磁石(送信側)31を回転させることで、磁力を介して密閉容器60内の回転用永久磁石(受信側)16に回転力が非接触で伝達され、前記回転ヘッド部10が回転するように構成されている。
【0049】
(浮上機構の構造)
図4の前記浮上機構20の一部を切り出した斜視図に示すように、浮上機構20はリング状の断熱容器23の中心側内壁に沿って第二種超伝導体であるリング状又は複数個に分割された位置制御用バルク22を設置し、断熱容器23の上側内壁面に沿って浮上用バルク21を設置し、断熱容器23の内部は液体窒素や液体ヘリウム等の冷却材24が充填されており、図示しない冷却機構で第二種超伝導体の臨界温度以下まで冷却するように構成されている。
【0050】
ここで、浮上用バルク21は図3に示すように複数個を前記断熱容器23内部の上面に沿って並べてもよく、またリング状の一体となった浮上用バルク21を使用してもよい。
【0051】
また、第二種超伝導体の材料は、イットリウム系(Y−Ba−Cu−O)、ガドリニウム系(Ga−Ba−Cu−O)、ネオジム系(Nd−Ba−Cu−O)、又はユーロピウム系(Eu−Ba−Cu−O)の酸化物からなるものであることが望ましい。
【0052】
前記浮上機構20は、浮上を行う浮上用バルク21と水平方向の位置制御を行う位置制御用バルク22を同一の断熱容器23内に設置し、冷却することで位置制御用バルク22を追加したにも関わらず、浮上機構20が複雑になることを回避し、省スペース化を可能にした。
【0053】
(回転ヘッド部浮上原理)
回転ヘッド部10が密閉容器60内で浮上する原理について、図8に基づき詳細に説明する。図8は、回転ヘッド部10のリング状の浮上用永久磁石14と浮上機構20の第二種超伝導体(浮上用バルク21)との関係を表した模式図である。
【0054】
まず、図8(A)のように、水平方向に対称な形状を有する永久磁石62(回転ヘッド部10のリング状の浮上用磁石14に相当)を、同じく水平方向に対称な第二種超伝導体64(浮上機構20の浮上用バルク21に相当)から上方に所定の距離dだけ離して拘束手段63により保持する。なお、永久磁石62はN極が第二種超伝導体64に対向するように磁化されている。
【0055】
この状態においては、永久磁石62から発生する磁束61は、第二種超伝導体64の内
部を単に通過するだけである。
【0056】
次に図8(B)のように、第二種超伝導体64を断熱容器67内に充填した液体窒素等の冷却材66に浸すなどして臨界温度以下まで冷却する。超伝導状態になった第二種超伝導体64内では、永久磁石62からの磁束61が量子化されて、内部に存在する常伝導部分にあたかもピンで止めたかのように捕捉・保持されるというピンニング効果が生じる。このとき、永久磁石62と第二種超伝導体64からなる系のポテンシャルエネルギーは安定状態となる。
【0057】
このような状態から図4(C)のように永久磁石62の拘束手段63を解除すると、永久磁石62は第二種超伝導体64に向かって重力により落下するため両者間の距離はdよりも小さくなるが、このことはピン止めされた位置65から磁束61がずれて系のポテンシャルエネルギーが不安定になることを意味する。そのため、ポテンシャルエネルギーを安定させる方向、つまり図4(B)の状態に戻るように永久磁石64には重力と反対の軸方向にピン止め力68が生じるため、第二種超伝導体64から距離dの位置において永久磁石62が浮上することとなる。
【0058】
この現象は、図4(D)のように永久磁石62が水平方向に移動した場合においても同様であり、系のポテンシャルエネルギーが安定する系方向にピン止め力68が生じる。
【0059】
なお、上記の所定の距離dは、永久磁石62と第二種超伝導体64の形状及び永久磁石62の磁力の強さなどから一義的に定まるものである。
【0060】
(水平方向拘束の原理)
図5は回転ヘッド部10の軸部材12と、浮上機構20の拡大図を示しており、軸部材12の下端には位置制御用永久磁石15と鉄片等の磁性体17を交互に並べ、エポキシ等の樹脂で固めて固定して構成しており、前記位置制御用永久磁石15の外周には浮上機構20に設置された位置制御用バルク22が空間を隔てて設置されている。ここで、本来は図1に示すように位置制御用永久磁石15と位置制御用バルク22の間には密閉容器60が存在しているが、ここでは、簡単のため図示していない。
【0061】
前記位置制御用永久磁石15は円板状やリング状であった、図7に示すように鉛直方向に磁化されており、例えばN極とN極が向かい合うように磁性体17を介して固定されている。ここで、位置制御用永久磁石15は少なくとも2つの磁石であり、必要に応じて個数を増加することは可能である。その際、すべての磁石の向かい合う面が反発するよう構成する必要がある。ここで、位置制御用永久磁石15は鉄片等の磁性体17を介して、エポキシ等の樹脂で固定して、反発する面を向かい合わせに構成する。
【0062】
図5ではN極を向かい合わせた2つの磁石を示している。それぞれの磁石から発せられた磁束61は衝突し側方に広がっていき、その広がった磁束61が位置制御用バルク22を通過して再び位置制御用永久磁石15に戻るよう構成されており、前述したピンニング効果によって回転ヘッド部10の軸部材12は図5の位置を維持しようと水平方向及び垂直方向にピン止め力68が作用する。
【0063】
従来の浮上用バルク21のみを使用していた場合と比較し、位置制御用バルク22を付加したことで、回転ヘッド部10の位置ずれが抑制され、より安定的に回転させることが可能となった。
【0064】
また、共通した断熱容器23内に浮上用バルク21と位置制御用バルク22を設置したため、新たな断熱容器23を追加することなく、バルクを追加可能とし、回転ヘッド部1
0の位置制御をより強力に行うことを可能とした。
【0065】
(スピンコータを含めたユニット)
図11に示す従来型スピンコータ50は、高さが約600mmであり、駆動モータ71や吐出ノズル54等の取り合いを含めるとユニットの高さは約1800mmとなり、このユニットを半導体製造工場のクリーンルーム内に設置している。
【0066】
これに対して、図12は本発明のスピンコータ1を半導体製造工場内に設置する際のユニット73に対応させた概略図を示しており、前記スピンコータ1の薄型化を実現したため、図12に示すように複数のスピンコータ1を1つのユニット73に組み込むことが可
能となった。即ち、回転機構30を偏平に構成したことで、スピンコータ1全体の鉛直方向の高さを低く構成することを可能とし、工場内における容積効率を向上させることができた。
【0067】
前記スピンコータ1は高さを80mmから120mm程度とし、吐出ノズル54の取り合いを含めても高さが250mmから350mm程度に収めて構成することが可能となったため、工場で使用する高さ約1800mmのユニット73に2段又はそれ以上重ねてスピンコータ1を設置することが可能となり、工場内の容積効率が向上し、半導体製造工場内の限られたクリーンルームの中に、従来以上の台数のスピンコータ1を設置することが可能となるので、生産効率の飛躍的な向上が実現した。
【0068】
(水平方向のアクティブ制御)
前述した浮上用バルク21及び位置制御用バルク22により、回転ヘッド部10は密閉容器60内を浮上し、安定的に回転することが可能となっており、この時の安定性は第二種超伝導体(21,22)を利用したピンニング効果によるものである。このピンニング効果は、回転ヘッド部10の大型化や回転速度の高速化に対しても安定的に制御することが可能となっており、この制御は所謂パッシブ制御である。
【0069】
ここで、図9は本発明のスピンコータ1の回転ヘッド部10の更なる安定性、精密な位置制御を実現するために、アクティブ制御機構である制御型磁気軸受け40を本発明のスピンコータ1に付加した際の概略図を示している。
【0070】
密閉容器60の外側で浮上機構20の下方にあたる位置に、ギャップセンサ41を設置し距離Lを検知するよう構成している。距離Lを監視することで回転ヘッド部10の傾きを検知することが可能となっている。
【0071】
前記ギャップセンサ41で検知した距離Lを、制御型磁気軸受け40により制御することで回転ヘッド部10の傾きをアクティブに制御することを可能としている。前記ギャップセンサ41は図10に示すように、回転ヘッド部10の軸部材12の周囲を囲むように複数個設置されており、望ましくは偶数個のギャップセンサ41を円周状に均一に設置する。
【0072】
前記制御型磁気軸受け40は磁性体43を挟むように2つの電磁石42を設置して構成されており、磁束44は図10に示すように発生している。ここで、距離Lの監視から回転ヘッド部10の傾きを検知した際、前記電磁石42に印加することで発生する磁束44の強さを変化させ、軸部材12を引き寄せる制御を行うことで、軸部材12の中心が維持されるようアクティブに制御を行う。
【0073】
そのため、回転ヘッド部10の精密な位置制御を可能とし、回転ヘッド部10の安定性向上を実現した。さらに、回転ヘッド部10の安定性向上に伴い、回転ヘッド部10を超
伝導により浮上させた際の密閉容器60との隙間を小さくしても、前記密閉容器60と接触することがないため、回転ヘッド部10を浮上させる高さを従来の20mm程度から10mm程度まで低くすることが可能となった。
【0074】
前記回転ヘッド部10の浮上する高さを低くすることで、必要となる浮上用永久磁石14の大きさが小さくなり、回転ヘッド部10全体の大きさを小さく構成することを可能とした。さらに、回転用永久磁石(送信側)31と回転用永久磁石(受信側)16の距離が近くなるため伝達する力が大きくなり、従来問題となっていた回転力の伝達効率の向上を実現し、例えば2000rpmから6000rpmの高速回転からの急停止を可能とした。
【0075】
また、回転用永久磁石が回転ヘッド部10の外周方向に設置されているため、前記永久磁石間に発生する磁力が小さくても、回転ヘッド部10には大きなトルクがかかるため、急停止を可能とし、回転力を伝達する際にも効率が上昇する効果を得ることができた。
【0076】
以上、本発明の非接触式被処理物回転処理装置により、超伝導を利用した非接触式スピンコータの回転ヘッド部10の安定的回転を実現し、非接触式での回転力の伝達を効率的に行い、同時にスピンコータの鉛直方向における短尺化により、半導体ウエハ工場内の容積効率向上を実現した。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る実施の形態の非接触式被処理物回転処理装置の概略図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の非接触式被処理物回転処理装置の分解断面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の非接触式被処理物回転処理装置の分解斜視図である。
【図4】浮上機構の一部を切り出した斜視図である。
【図5】位置制御用永久磁石及びバルクの働きを示した概略図である。
【図6】回転用永久磁石(送信側及び受信側)の概略図である。
【図7】位置制御用磁石の磁化の様子を示した概略図である。
【図8】磁気浮上の原理を示す模式図である。
【図9】アクティブ制御機構の概略図である。
【図10】アクティブ制御機構の断面図である。
【図11】従来型スピンコータの概略図である。
【図12】本発明の非接触式被処理物回転処理装置を適応したユニットの概略図である。
【符号の説明】
【0078】
1 非接触式被処理物回転処理装置(スピンコータ)
10 回転ヘッド部
11 円板状部材
12 軸部材
14 浮上用永久磁石
15 位置制御用永久磁石
16 回転用永久磁石(受信側)
17 磁性体
20 浮上機構
21 浮上用バルク
22 位置制御用バルク
23 断熱容器
24 冷却材
30 回転機構
31 回転用永久磁石(送信側)
32 ロータ磁石
33 ステータコイル
40 制御型磁気軸受け
41 ギャップセンサ
42 電磁石
43 磁性体
44 磁束
73 ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状部材の下面中心に軸部材を固定した回転ヘッド部を、前記軸部材に対応した突出部を持つ密閉容器内に収容し、前記突出部の周囲を覆うようにリング状の浮上機構を設置し、前記密閉容器外部から非接触で前記回転ヘッド部を回転させる回転機構を設置し、前記浮上機構は第二種超伝導体であるピン止め体と冷却手段を具備し、前記冷却手段でピン止め体を臨界温度以下に冷却し、前記円板状部材に設置された永久磁石との間に磁気的ピン止め力を発生させて前記回転ヘッド部を所定の位置に磁気浮上させ、前記回転機構によって発生した回転力により前記回転ヘッド部に対応して回転力を追従発生させて前記回転ヘッド部を回転させるように構成したことを特徴とする非接触式被処理物回転処理装置。
【請求項2】
前記軸部材の側壁の永久磁石と対向するピン止め体により回転ヘッド部の水平方向の位置を保持し、前記円板状部材の下面の永久磁石と対向するピン止め体により回転ヘッド部の垂直方向の位置を保持するよう構成したことを特徴とする請求項1に記載の非接触式被処理物回転処理装置。
【請求項3】
前記浮上機構がリング状の断熱容器内の内側壁面内部に前記ピン止め体を円周状に設置し、さらに上面内部に前記ピン止め体を設置し、前記ピン止め体を冷却材で同時に冷却することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非接触式被処理物回転処理装置。
【請求項4】
前記浮上機構を中心に外周側にリング状に設置された前記回転機構は、上面に極性が交互となるように設置された送信側回転用永久磁石を具備し、前記円板状部材下面に前記送信側回転用永久磁石に対向する受信側回転用永久磁石を具備したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の非接触式被処理物回転処理装置。
【請求項5】
前記回転ヘッド部の中央に貫通孔を具備し、被処理物の下面処理を可能としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の非接触式被処理物回転処理装置。
【請求項6】
前記軸部材に対向する外周方向に、前記回転ヘッド部の回転軸に対する傾きを制御するための制御機構を設置したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の非接触式被処理物回転処理装置。
【請求項7】
前記制御機構が電磁石と磁性体を有した制御型磁気軸受けと、前記回転ヘッド部の傾きを検出するギャップセンサを具備し、前記ギャップセンサで得られた信号を基に、前記電磁石に印加して前記制御型磁気軸受けの制御を行うよう構成したことを特徴とする請求項6に記載の非接触式被処理物回転処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−155216(P2010−155216A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335180(P2008−335180)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構の新技術委託開発契約において、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(593118645)株式会社エムテーシー (13)
【Fターム(参考)】