説明

非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物、それを用いた塗膜およびその用途

【課題】無色透明で、かつクラックなどが発生しにくい非晶質酸化チタンを含む塗膜を与えることのできる低コストのコーティング組成物を提供する。
【解決手段】 (A)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物と(B)成分のチタン以外の異種金属化合物を含むコーティング組成物において、
(A)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物が、一般式(I)
TiR1x(OR24-x …(I)
(式中、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドおよび/またはその加水分解・縮合物であり、
(B)成分の異種金属化合物が、非晶質酸化チタンの結晶化阻害化合物としての硝酸アルミニウムまたはその水和物であることを特徴とする非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物、それを用いた塗膜およびその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、結晶化阻害機能を有し、無色透明で、かつ50nm〜5μm程度の長さの微小なクラックが、経時変化によって新たに発生しにくい非晶質酸化チタンを含む塗膜を与えることのできる低コストの非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物、該組成物を用いて得られた塗膜、およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタン膜は優れた耐摩耗性や、耐酸性、耐アルカリ性などの化学的性質を有することから、この化学的性質を利用して基材の表面層保護層として利用されたり、あるいはその光学的性質を利用して紫外線吸収材としても使用されている。
上記酸化チタン膜の製造方法としては、例えば有機基を有するチタン化合物を基材表面に塗布し、空気中で焼成して酸化チタン膜を形成する方法、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法(化学的気相蒸着法)等の気相法により基材表面に酸化チタン膜を形成する方法、チタンアルコキシドに水、触媒を加えて縮重合させて酸化チタン膜を形成する方法、あるいはLPD法(液相析出法)、電着法等の液相法により基材表面に酸化チタン膜を形成する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、この酸化チタンは非常に結晶化しやすい物質であるため、一般的に非晶質の酸化チタン膜を作製し、維持することは困難であった。得られた結晶質の酸化チタン膜は、結晶化によって膜内に空隙や割れといった欠陥が多数発生して白濁したり、あるいは粉体化しやすくなることがあった。このため、結晶質の酸化チタン膜は、上述の酸化チタン本来の物理的、化学的性質が著しく損なわれていた。したがって、結晶化しない非晶質の酸化チタン膜を作製することが強く望まれており、また非晶質にすることで新規な特性も期待されている。
【0004】
非晶質酸化チタン膜に関しては、例えば貴金属の超微粒子を高分子内に分散させてなる複合物と、有機基を有するチタン化合物を含む非晶質酸化チタン膜作製用組成物、および非晶質酸化チタン膜の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
上記組成物は、貴金属微粒子をチタン化合物中に凝集することなく均一に分散させることによって、300℃以上の熱処理においても酸化チタンの結晶化を抑える効果を有する。しかしながら、この場合、酸化チタン中に貴金属超微粒子を凝集することなく分散させるために、まず高分子複合物を真空蒸着法等によって作製し、その上に貴金属膜を真空蒸着法等で積層させ加熱する工程を経たのち、有機基を有するチタン化合物と混合する必要があり、工程が複雑で、高価な貴金属を使用するためコスト高になるのを免れない。
【0005】
さらに、広告看板などにおける基材の表面層保護層などに対しては、無色透明性が要求されるが、表面プラズモン吸収を有する貴金属粒子を使用した上記技術では無色性を発現することは困難であると思われる。その上、これらを使用した膜は貴金属添加量が多い場合には金属光沢を有し、表面反射率が高いと考えられ、例えば、高い透明性が要求される場合においては適用できない可能性が考えられる。
また、この技術では、チタニウム以外の有機基を有する金属化合物(例えば、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Inなど)を添加することもできるが、これら異種金属の添加によって得られる効果は、結晶化阻害ではなく、誘電率や光吸収特性変化である。
【0006】
一方、有機基材上に様々な無機系または金属系材料、例えば光触媒活性材料、導電性材料、ハードコート剤、光記録材料、磁性粉、赤外線吸収材料などからなる層を設け、機能性材料を作製することが広く行われている。
【0007】
有機基材上に、このような無機系または金属系材料層を設ける場合、一般に基材との密着性が不十分であるために、例えば有機基材上に無機系プライマー層を設け、その上に無機系または金属系材料層を形成させる方法が、よく用いられる。しかしながら、この方法においては、無機系プライマー層と無機系または金属系材料層との密着性は良好であるものの、有機基材と無機系プライマー層との密着性は必ずしも十分ではなく、耐熱密着性に劣ったり、あるいは経時により密着性が低下したりするなどの問題があった。
【0008】
また、有機基板上に複数の接着層を介して、段階的に無機物質に対する接着性を向上させていく方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法においては、操作が煩雑である上、透明性が損なわれるおそれがある。
したがって、有機基材上に無機系または金属系材料層を密着性よく形成する技術の開発が望まれていた。
【0009】
このような事情のもとで、本発明者らは、先に、新規な機能性材料として種々の用途、例えば塗膜や、有機材料と無機または金属材料との接着剤、有機基材と光触媒塗膜との間に設けられ、有機基材の劣化を防止する中間膜や、有機基材と無機系または金属系材料層との密着性を向上させる中間膜などの用途に有用な、厚さ方向に組成が連続的に変化する有機−無機複合傾斜材料を見出した(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
この有機−無機複合傾斜材料は、有機高分子化合物と金属系化合物との化学結合物を含有する有機−無機複合材料であって、該金属系化合物の含有率が材料の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造(開放面が100%近い金属系化合物膜)を有し、上記の各種用途に極めて有用な新規な材料である。
【0011】
このような有機−無機複合傾斜材料において、前記金属系化合物が酸化チタンである場合、前述のように結晶化しやすいため、材料表面の酸化チタン膜は、通常結晶質となり、クラックが経時変化によって新たに発生しやすく、かつ透明性が悪くなるなどの問題が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−242423号公報
【特許文献2】WO97/00134号公報
【特許文献3】特開2000−336281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような事情のもとで、無色透明で、かつ50nm〜5μm程度の長さの微小なクラックが新たに発生しにくい非晶質酸化チタンを含む塗膜を与えることのできる低コストのコーティング組成物、該組成物を用いて得られた塗膜、およびその用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、非晶質酸化チタン形成用化合物と、結晶化阻害化合物として、チタン以外の特定の異種金属化合物を含むコーティング組成物が、無色透明の非結晶酸化チタン複合塗膜を形成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)(A)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物と(B)成分のチタン以外の異種金属化合物を含むコーティング組成物において、
(A)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物が、一般式(I)
TiR1x(OR24-x …(I)
(式中、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドおよび/またはその加水分解・縮合物であり、
(B)成分の異種金属化合物が、非晶質酸化チタンの結晶化阻害化合物としての硝酸アルミニウムまたはその水和物であることを特徴とする非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物、
(2)さらに、(C)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含み、かつ基材上に塗膜を設けた場合に、非晶質酸化チタン成分の含有率が、該塗膜の表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性を有する(1)に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物、
(3)さらに、(D)光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子を含む(1)または(2)に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物、
(4)(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物を用いて得られたことを特徴とする非晶質酸化チタン複合塗膜、
(5)基材と、その上に形成された(4)に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜を有することを特徴とする物品、
(6)非晶質酸化チタン複合塗膜が、有機系材料層と、無機系または金属系材料層の中間層として形成されてなる(5)に記載の物品、
(7)非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層であり、かつ光触媒機能を発現する(5)に記載の物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、結晶化阻害機能を有し、無色透明で、かつ50nm〜5μm程度の長さの微小なクラックが新たに発生しにくい非晶質酸化チタンを含む塗膜を与えることができる低コストの非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物、該組成物を用いて得られた塗膜、および該塗膜を有する物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例9で得られた塗膜のXPS測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物(以下、単にコーティング組成物ということがある。)は、非晶質酸化チタンとそれ以外の異種金属化合物を含み、無色であって透明性に優れた耐結晶性を有する非晶質酸化チタン複合塗膜を形成することができる。本発明のコーティング組成物は、400〜800nmの波長域における全光線透過率が90%以上である厚さ2mmのガラス板上に、厚さ400〜550nmの範囲で塗膜を形成した場合に、400〜800nmの波長域における該塗膜の全光線透過率が90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上である。
【0019】
また、400〜800nmの波長域における全光線透過率が90%以上である厚さ2mmのガラス板上に、厚さ400〜550nmの範囲で塗膜を形成した場合に、400〜800nmの波長域における該塗膜の極小吸光度が0.02以下であって、その極大値と極小値の差が0.05以下であることが好ましい。
【0020】
本発明におけるコーティング組成物によって形成される塗膜の耐結晶性は、耐結晶値で表すことができる。その耐結晶値は、下記の方法に従って算出される。
耐結晶値の算出方法;
500〜700μmの厚みのシリコンウエハー上に、0.1μm厚みで形成した塗膜を85℃の温水に24時間浸漬した前後の2θ=25.5°における正味のX線回折強度の差から、下記計算式(i)に従って耐結晶値を算出する。
耐結晶値 = 正味のX線回折強度の差(cps)/〔非晶質酸化チタンのチタン原子(mol)/(非晶質酸化チタンのチタン原子(mol)+異種金属化合物の金属原子(mol))〕・・・・・・計算式(i)
本発明の非晶質酸化チタン形成用コーティング組成物は、85℃の温水に24時間浸漬条件下における耐結晶値が100cps以下、又は500℃で1時間焼成条件下における耐結晶値が400cps以下の耐結晶性を有する塗膜を形成することができる。また前記2つの条件下における耐結晶値を共に満たす塗膜が最も好ましい。
【0021】
本発明においては、このような性状を有するコーティング組成物は、(A)非晶質酸化チタン形成用化合物と、(B)無機塩類、有機塩類およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種のチタン以外の異種金属化合物を含むことにより、得ることができる。
【0022】
前記(A)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物としては、例えば一般式(I)
TiR1x(OR24-x …(I)
(式中、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドおよび/またはその加水分解・縮合物を用いることができる。
【0023】
前記一般式(I)において、R1は非加水分解性基であって、そのうちのアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、また、アルケニル基およびアルキニル基は、炭素数2〜20のものが好ましい。アリール基は、炭素数6〜20、アラルキル基は、炭素数7〜20のものが好ましい。さらに、アシル基としては、炭素数2〜20の脂肪族アシル基や、炭素数7〜20の芳香族アシル基(アロイル基)を好ましく挙げることができる。
【0024】
一方、OR2は加水分解性基であって、R2で示される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。xは0〜2の整数であり、R1が複数ある場合、各R1はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、またOR2が複数ある場合、各OR2はたがいに同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
この一般式(I)で表されるチタンアルコキシドの中ではチタンテトラアルコキシドが好ましく、該チタンテトラアルコキシドの例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドなどが好ましく挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明においては、(A)成分として、前記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドをそのまま含むものであってもよいし、その加水分解・縮合物を含むものであってもよく、あるいはその両方を含むものであってもよいが、加水分解・縮合物が好ましい。この際、用いる溶媒としては、アルコール類が好ましく、炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類が、加水分解−縮合反応の制御および縮合物の安定化の点からさらに好ましい。この炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、チタンアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
チタンテトラアルコキシドの加水分解・縮合物を用いる場合、チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、チタンテトラアルコキシドに対し、好ましくは4〜20倍モル、より好ましくは5〜12倍モルの前記アルコール類と、好ましくは0.5以上4倍モル未満、より好ましくは1〜3.0倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性触媒の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行われる。酸性触媒は、チタンテトラアルコキシドに対し、通常0.1〜1.0倍モル、好ましくは0.2〜0.7倍モルの範囲で用いられる。
【0028】
一方、(B)成分であるチタン以外の異種金属化合物は、非晶質酸化チタンの結晶化阻害化合物として機能するものであり、効果の点から、無機塩類、有機塩類およびアルコキシド類の中から選ばれる化合物、具体的には、硝酸、酢酸、硫酸、塩化アルミニウムならびにジルコニウムの各塩類、ならびに、これら無機塩類の水和物、アルミニウムトリアセチルアセトナートなどのアルミニウムキレート類、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの金属アルコキシド類、ならびにこれら化合物の加水分解物、あるいは、その縮合物を挙げることができる。これらの中で、異種金属がアルミニウムであるもの、特に硝酸アルミニウムならびにその水和物が好適である。前記異種金属化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
この(B)成分である異種金属化合物は、前記(A)成分を含む液にそのまま添加すればよく、その添加順序については特に制限はない。
本発明においては、(B)成分であるチタン以外の異種金属化合物の使用量は、チタン原子に対して、通常5〜50モル%の範囲で選定される。使用量が5モル%以上であれば、良好な結晶化阻害効果が得られ、また50モル%以下では非晶質酸化チタンが本来有する物理的性質が良好に発揮される。異種金属化合物として硝酸アルミニウムを用いる場合の特に好ましい使用量は10〜30モル%の範囲である。
【0030】
このようにして得られた本発明のコーティング組成物は、前述した性状を有するものであり、その固形分濃度は、通常0.1〜30質量%程度、好ましくは0.5〜20質量%程度である。このコーティング組成物を、所望の基材上に、乾燥厚さが0.01〜2μm程度、好ましくは0.02〜0.7μmになるように塗布し、例えば常温乾燥することにより、あるいは所望により、さらに加熱処理することにより、無色で透明性に優れ、50nm〜5μm程度の長さの微小なクラックなどが新たに発生しにくい非晶質酸化チタン複合塗膜を形成することができる。前記基材は、無機、有機のいずれであってもよい。
【0031】
本発明のコーティング組成物は、さらに、(C)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含ませることにより、有機基材上に塗膜を設けた場合に、非晶質酸化チタン成分の含有率が、該塗膜の表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性を有する塗膜とすることができる。
【0032】
この(C)成分である非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分としては、例えば(a)金属を含まないエチレン性不飽和単量体と、(b)カップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体とを共重合させることにより得られる有機高分子化合物を好ましく挙げることができる。
【0033】
上記(C)(a)成分である金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(II)
【0034】
【化1】

(式中、R3は水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(II−a)
【0035】
【化2】

(式中、R3は水素原子またはメチル基、R4は一価の炭化水素基またはエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体を一種または二種以上混合して使用しても良い。
【0036】
上記一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R4で示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。エポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、これらの基、原子若しくは結合を有する炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子等が挙げられる。
【0037】
この一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、前記一般式(II)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなど、さらにはエチレン性不飽和基を有する重合性高分子用安定剤、例えばエチレン性不飽和基を有する、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
一方、(C)(b)成分であるカップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(III)
【0040】
【化3】

(式中、R5は水素原子またはメチル基、Aは炭素数1〜4のアルキレン基、R6はメチル基又はエチル基を示す。)
で表される化合物を好ましく挙げることができる。前記一般式(III)において、3つのR6はたがいに同一でも異なっていてもよい。
この一般式(III)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、2−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
この(b)成分のカップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
前記(a)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体と、(b)成分のカップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合させることにより、(C)成分の成分として用いられるカップリング性ケイ素含有基を有する有機高分子化合物が得られる。
【0042】
本発明においては、このようにして得られた(C)成分であるカップリング性ケイ素含有基を有する有機高分子化合物をアルコール、ケトン、エーテルなどの適当な溶剤中に溶解させた溶液と、前述の(A)成分であるチタンアルコキシドの加水分解・縮合物と、(B)成分の異種金属化合物単体および/またはそれを含む反応液を必要により希釈した溶液とを混合することにより、前記有機高分子化合物中のカップリング性ケイ素含有基が加水分解し、(A)成分の反応液におけるチタンアルコキシドの加水分解縮合物と選択的に反応し、有機−無機複合傾斜膜形成用のコーティング組成物が得られる。なお、この際、用いるチタンアルコキシドの加水分解縮合物を含む反応液の希釈溶媒としては、前述した理由により炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を含む溶媒を使用することが望ましい。
【0043】
このようなコーティング組成物を用いることにより、有機基材に塗布、乾燥した際に、実質上有機基材側が有機高分子化合物成分で、その反対側が非晶質酸化チタン成分であって、両者の含有割合が膜厚方向に連続的に変化する良好な成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜膜を、安定して形成することができる。
【0044】
この複合傾斜膜は無機成分として非晶質酸化チタン成分を含むことにより、促進耐候試験下に曝露されても、無機成分の結晶化が抑えられるため、機械的特性の低下、クラックの発生、透明性の低下などが抑制される。
【0045】
有機基材上に、複合傾斜膜を形成させるには、このようにして得られた本発明のコーティング組成物を、乾燥塗膜の厚さが、通常5μm以下、好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.02〜0.7μmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗布し、溶媒を揮散させて塗膜を形成させる。
【0046】
上記有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
【0047】
これらの有機基材は、本発明に係る複合傾斜膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0048】
なお、本発明における有機基材は、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
【0049】
また、塗膜の傾斜構造の確認は、例えば塗膜表面にスパッタリングを施して膜を削っていき、経時的に膜表面の炭素原子とチタン原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、行うことができる。
【0050】
この複合傾斜膜における金属成分の含有量としては特に制限はないが、金属酸化物換算で、通常5〜98重量%、好ましくは20〜98重量%、特に好ましくは50〜95重量%の範囲である。有機高分子化合物の重合度や分子量としては、製膜化しうるものであればよく特に制限されず、高分子化合物の種類や所望の傾斜膜材料の物性などに応じて適宜選定すればよい。
【0051】
本発明のコーティング組成物においては、さらに、(D)光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子を含むことができる。
前記光触媒機能を有する微粒子としては、アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン粒子を用いることができる。
前記アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン微粒子(以下、アナターゼ結晶酸化チタン粒子と称すことがある。)は、光触媒粒子であり、少量のルチル型結晶が混在していてもよく、また、窒化チタンや低次酸化チタン等を一部含む可視光応答型の光触媒粒子も使用することができる。このアナターゼ結晶酸化チタン粒子の平均粒子径は、1〜500nmの範囲が好ましく、1〜100nmの範囲がより好ましく、1〜50nmの範囲が優れた光触媒機能を有するために最も好ましい。上記平均粒子径は、レーザー光を利用した散乱法によって測定することができる。
【0052】
また、当該酸化チタン粒子の内部および/またはその表面に、第二成分として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、PtおよびAuの中から選ばれる少なくとも1種の金属および/または金属化合物を含有させると、一層高い光触媒機能を有するため好ましい。前記の金属化合物としては、例えば、金属の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、さらには金属イオンなどが挙げられる。第二成分の含有量はその物質の種類に応じて適宜選定される。
【0053】
このアナターゼ結晶酸化チタン粒子は、従来公知の方法によって製造することができるが、塗工液中に均質に分散させるために酸化チタンゾルの形態で用いるのが有利である。該酸化チタンゾルを製造するには、例えば粉末状のアナターゼ結晶酸化チタンを酸やアルカリの存在下で解こうさせてもよいし、粉砕によって粒子径を制御してもよい。また、硫酸チタンや塩化チタンを熱分解あるいは中和分解して得られる含水酸化チタンを物理的、化学的な方法で結晶子径、粒子径の制御を行ってもよい。さらにゾル液中での分散安定性を付与するために、分散安定剤を使用することができる。
【0054】
一方、コロイダルシリカは光触媒膜に、暗所保持時においても超親水維持性能を発現させる作用を有している。
光触媒は、紫外線などの光の照射によって、その表面に存在する有機物質を分解する性質や、超親水化を発現するが、暗所では、一般にこのような光触媒機能が発現されない。しかし、本発明のように、光触媒膜中にコロイダルシリカを含有させることにより、該光触媒膜は、暗所でも超親水維持性能を発現する。
このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO2)を水またはアルコール系溶剤に分散させてコロイド状にした製品であって、平均粒子径は、通常1〜200nm、好ましくは5〜50nmの範囲である。シリコンアルコキシドの加水分解・縮合物では、反応が終結していないので、水で溶出されやすく、それを含む光触媒膜は耐水性に劣る。一方、コロイダルシリカは、反応終結微粒子であるため、水で溶出されにくく、それを含む光触媒膜は、耐水性が良好なものとなる。
このコロイダルシリカは、その他に塗膜の強度や硬度を向上させる作用の他に、表面を凹凸化させる作用も発現させる場合がある。
【0055】
本発明の光触媒機能を有するコーティング組成物は、前記(A)成分であるチタンアルコキシドの加水分解・縮合物と(B)成分である異種金属化合物単体および/またはその反応液を含む液に、所定量のアナターゼ結晶酸化チタンゾルと場合によりコロイダルシリカを加え、均質に分散させることにより、調製することができる。
【0056】
このようにして調製された光触媒機能を有するコーティング組成物を適当な基材上に、公知の方法、例えばディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより塗布し、成膜したのち、自然乾燥または加熱乾燥することにより、所望の光触媒膜が得られる。加熱乾燥する場合は、200℃以下の温度を採用することができる。このように、成膜したのち、低温での保持処理により、形成された光触媒膜は、十分な光触媒機能を発現し得るので、基材としては、例えばセラミックス、ガラス、金属、合金などの耐熱性に優れる無機基材の他に、耐熱性に劣る有機基材も好適に用いることができる。
【0057】
このように、光触媒膜のバインダー成分として、非晶質酸化チタンを用いることにより、促進耐候試験下に曝露されても、バインダー成分の結晶化が抑えられるため、機械的特性の低下、クラックの発生および透明性の低下などが抑制される。
【0058】
本発明はまた、前述の本発明の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物を用いて得られた非晶質酸化チタン複合塗膜、および基材と、その上に形成された前記非晶質酸化チタン複合塗膜を有する物品をも提供する。
【0059】
前記物品としては、非晶質酸化チタン複合塗膜が、有機系材料層と、無機系または金属系材料層の中間層として形成されているものが好ましく、特に、該中間層の非晶質酸化チタン複合塗膜が、有機−無機複合傾斜膜であることが好ましい。
【0060】
本発明のコーティング組成物を用いて形成された有機−無機複合傾斜膜は、機能性膜として様々な用途に用いることができるが、特に有機基材と光触媒膜との間に介在させる中間膜として好適に用いられる。
有機−無機複合傾斜膜上に光触媒膜を設けるには、前述の光触媒機能を有する本発明のコーティング組成物を、該傾斜膜上に塗布、成膜したのち、200℃以下の温度で保持処理して、光触媒膜を設けることができる。この光触媒膜の厚みは、通常10nm〜5μmの範囲で選定される。この厚みが10nm未満では光触媒機能が十分に発揮されないし、5μmを超えると厚みの割には光触媒機能の向上効果が認められず、むしろクラックが生じたりする原因となる。好ましい厚みは20nm〜2μmであり、特に20nm〜1μmの範囲が好ましい。
【0061】
このようにして形成された光触媒膜は、特に超親水性、暗所での超親水性維持性能などの光触媒機能に優れると共に、耐水性や機械的強度が良好であって、上記機能を長期間にわたって保持し得る良好な耐久性を有している。
さらに、本発明の物品としては、非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層であり、かつ光触媒機能を発現するものも好ましく挙げることができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における塗膜の性状は、以下に示す要領に従って求めた。
(1)結晶化の状態
下記の装置、測定条件により、結晶化の有無を判断した。
装置名; (株)Max Science「MXP18AV」
測定条件; 管電流:200mA、管電圧:40kV、真空度:2×10-6torr、X線入射角度:5°、データ範囲:20〜60deg、スキャン速度:5.0deg/min、サンプリングピッチ:0.04deg、スリット幅:発散0.2mm,散乱4.00mm,受光4.00mm、X線源:Cu、スキャン法:連続
測定サンプル;酸化被膜がないように表面を鏡面状に研磨した500〜700μmの厚みの25mm角シリコンウエハー上に、約0.1μmの厚みで塗膜を形成する。次いで500℃に昇温してある炉中に、空気雰囲気下で1時間焼成後、炉から取り出し室温で放冷、もしくは85℃の温水中に24時間浸漬する。
耐結晶値の算出方法;酸化チタンのアナターゼ晶に由来する2θ=25.5°の回折ピークから、前記の温水浸漬もしくは燃成前後の正味のX線回折強度(ベースラインを作成し、その分を差引した後の強度)の差を得て、下記計算式(i)に従って耐結晶値を算出する。
耐結晶値 = 正味のX線回折強度の差(cps)/〔非晶質酸化チタンのチタン原子(mol)/(非晶質酸化チタンのチタン原子(mol)+異種金属化合物の金属原子(mol))〕・・・・・・計算式(i)
【0063】
(2)クラック発生
JIS K 7350に準拠し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に厚さ0.1μmに形成した塗膜について、下記の装置、測定条件により、クラック発生の有無を調べた。
装置名; スガ試験機(株) 「サンシャインウエザーメーターS300」
測定条件; 照度:255±25W/m2、サイクル:照射102分間、照射+降雨18分間の2時間1サイクル、BPT:63±3℃、相対湿度:55±5%RH
装置名; 日本電子(株)製 電解放射走査電子顕微鏡「JSM−6700F」
判断基準; サンシャインウエザーメーターの試験前後にそれぞれ10000倍観察写真を5枚撮影した中から平均的な1枚を選択し、50nm〜5μm長さの微小なクラックの量について、その変化の有無を観察した。
表中の「有」は、クラックの量が明らかに増えていることを示し、「無」はそれ以外の場合を示す。
(3)塗膜の全光線透過率
JIS K7361−1に準拠し、下記の装置、測定サンプルを用いて、塗膜の全光線透過率を測定した。
装置名; 日本電色(株)製 Haze Mater NDH2000
測定サンプル; 厚さ2mm、全光線透過率が92.5%の朝日テクニグラス(株)製のパイレックスガラスにて標準合わせを行い、その後、同パイレックスガラスに400〜550nmの厚みで成膜したサンプルに置き換え、塗膜の全光線透過率を測定した。
(4)塗膜の吸光度
下記の装置、測定条件、測定方法によって塗膜の吸光度を測定した。
装置名;(株)島津製作所製、紫外可視分光光度計「UV−2100」。
積分球反射装置「ISR−210」を装着。
測定条件; 測光値:吸光度、測定波長範囲:400〜800nm、スリット幅:5nm、試料面への入射角:8°
測定方法; 反射試料位置の試料光束側、対照光束側それぞれに厚さ2mm、全光線透過率が92.5%の朝日テクニグラス(株)製のパイレックスガラスを設置し、その両背面にBaSO4標準白板を設置して標準合わせを行った後、試料光束側のパイレックスガラスを同パイレックスガラスに400〜550nmの厚みで成膜したサンプルに置き換え、塗膜の吸光度を測定した。
【0064】
実施例1
チタンテトライソプロポキシド35.55gをエチルセルソルブ70.02gに溶解した溶液に、60質量%硝酸5.94g、水2.14gとエチルセロソルブ27.39gの混合溶液を攪拌しながらゆっくりと滴下し、その後30℃で4時間攪拌し混合溶液(a)を得た。
次いで、上記混合溶液(a)とエチルセルソルブおよび異種金属化合物として硝酸アルミニウムを用いて、硝酸アルミニウムの添加量がTi原子に対して15モル%、溶液全体の固形分濃度が5質量%になるように調製し、目的の複合金属化合物の溶液(b)を得た。
次に、シリコンウエーハ上に、上記溶液(b)をスピンコートし、厚さ0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜を加熱処理(85℃温水中に24時間浸積)または500℃で1時間焼成した後、薄膜XRDを測定し耐結晶値を計算式(i)を用いて算出した。その結果、耐結晶値は85℃温水中24時間浸漬条件下が42cps、500℃で1時間焼成条件下が99cpsであった。また溶液(b)を耐候剤層付きのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レTP−60)にスピンコートし、厚さ0.1μmの塗膜を形成した。これらをサンシャインウェザーメータ(SWM)で300時間促進耐候試験を行い微小なクラックの発生の有無を確認したが、微小なクラックの発生は確認されなかった。
また、前記溶液(b)を、厚さ2mm、全光線透過率が92.5%の朝日テクニグラス(株)製のパイレックスガラス上にスピンコートし、60℃で一晩乾燥させた。該塗膜の厚みは460nmであった。該塗膜の全光線透過率を測定したところ97.2%であった。また、400〜800nmの波長間における該塗膜の吸光度を測定したところ、極小吸光度が0.001、吸光度の極大値が0.013、極大値と極小値の差は0.012であった。
【0065】
実施例2〜8および比較例1
実施例1において、表1に示す種類と量の異種金属化合物を用い、実施例1と同様に実施した。その結果を、実施例1の結果と共に表1に示す。
【0066】
【表1】

実施例9
1Lセパラブルフラスコに窒素雰囲気下でメチルイソブチルケトン424.0g、メタクリル酸メチル200.0g、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン23.5gを添加し、60℃まで昇温した。この混合溶液にアゾビスイソブチロニトリル1.9gを溶かしたメチルイソブチルケトン溶液を滴下し重合反応を開始し、30時間攪拌し有機成分溶液(d)を得た。
次いで、上記溶液(d)1.46g、メチルイソブチルケトン47.15g、エチルセルソルブ19.01g、実施例1記載の溶液(b)29.60gおよびコロイダルシリカ分散液2.78gを混合し、15分間攪拌した。その後5〜10℃で一晩保管し、有機―無機成分傾斜溶液(e)を得た。
次に、実施例1と同様に、各評価を行った。さらに、これを耐候剤層付きのPETフィルム(東レTP−60)にスピンコートしたのち、下記のXPS測定法により、成分傾斜性を調べたところ、有機成分と無機成分の成分傾斜が確認された。XPS測定結果を図1に示す。
〈XPS測定法〉
XPS装置「PHI−5600」[アルバックファイ(株)製]を用い、アルゴンスパッタリング(4kV)を3分間隔で施して膜を削り、膜表面の炭素原子と各金属原子の含有率を、X線光電子分光法により測定し、傾斜性を調べた。
【0067】
実施例10
エチルセルソルブ40.63g、1−プロパノール44.50gの混合溶媒に、60質量%硝酸0.34g、水6.84g、光触媒分散液(チタン工業社製「PC−201、固形分濃度20.7重量%」)0.483gおよびコロイダルシリカ分散液(日産化学社製「スノーテックスIPA−ST、固形分濃度30重量%」)2.167gを添加し、さらに実施例1記載の溶液(b)5.00gを加え、全体の固形分濃度が1質量%になるように調製し、光触媒液(c)を作製した。
次に、実施例1と同様に、各評価を行った。さらに、上記溶液(c)をシリコンウエーハ上にスピンコートした。次いで、1mW/cm2の紫外線を24時間照射したのち、水に対する接触角を測定したところ、5°未満の超親水化状態であることが確認された。
【0068】
実施例11
耐候剤層付きのPETフィルム(東レTP−60)に、実施例9の溶液(e)を塗布し、厚さが100nmの塗膜を形成したのち、その上に実施例10の光触媒液(c)を塗布し、厚さが40nmの塗膜を形成し、積層体を作製した。この積層体をSWMで300時間促進耐候試験を行い微小なクラックの発生の有無を確認したが、微小なクラックの発生は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物は、低コストであって、結晶化阻害機能を有し、無色透明で、かつクラックなどが発生しにくい、非晶質酸化チタンを含む塗膜を形成することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物と(B)成分のチタン以外の異種金属化合物を含むコーティング組成物において、
(A)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物が、一般式(I)
TiR1x(OR24-x …(I)
(式中、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドおよび/またはその加水分解・縮合物であり、
(B)成分の異種金属化合物が、非晶質酸化チタンの結晶化阻害化合物としての硝酸アルミニウムまたはその水和物であることを特徴とする非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項2】
さらに、(C)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含み、かつ基材上に塗膜を設けた場合に、非晶質酸化チタン成分の含有率が、該塗膜の表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性を有する請求項1に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項3】
さらに、(D)光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子を含む請求項1または2に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜形成用コーティング組成物を用いて得られたことを特徴とする非晶質酸化チタン複合塗膜。
【請求項5】
基材と、その上に形成された請求項4に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜を有することを特徴とする物品。
【請求項6】
非晶質酸化チタン複合塗膜が、有機系材料層と、無機系または金属系材料層の中間層として形成されてなる請求項5に記載の物品。
【請求項7】
非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層であり、かつ光触媒機能を発現する請求項5に記載の物品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−68900(P2011−68900A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254665(P2010−254665)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【分割の表示】特願2004−157464(P2004−157464)の分割
【原出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】