説明

非水二次電池の製造方法

【課題】固溶体正極を用い、4.5Vを超える充電を行うことなく、高容量を発現させることのできる非水二次電池を提供する。
【解決手段】主要な正極活物質が下記化学式1で表される非水二次電池において、負極が、初充電前から放電可能以上にLiを有しており、正極がリチウム参照電極基準で1.5V以下の電位まで放電前処理されることを特徴とする非水二次電池の製造方法である。


前記式中、0<a<1、w+x+y+z=1、0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、Aは金属元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車やハイブリッド電気自動車の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用電池としては、比較的高い理論エネルギーを有するリチウムイオン電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン電池は、一般に、バインダーを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダーを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0004】
環境・エネルギー問題の解決へ向けて、こうしたリチウムイオン電池を搭載した種々の電気自動車の普及が期待されている。しかしながら、広く普及するためには電池を高性能にして、より安くする必要がある。また、電気自動車については、一充電走行距離をガソリンエンジン車の一給油当たりの走行距離に近づける必要があり、より高エネルギー密度の電池が望まれている。電池を高エネルギー密度にするためには、正極と負極の単位質量当たり蓄えられる電気容量を大きくする必要がある。
【0005】
この要請に応えられる可能性のある正極材料として、いわいる固溶体系の正極活物質を用いた正極(単に固溶体系正極ともいう)が検討されている。なかでも、電気化学的に不活性の層状のLiMnOと、電気化学的に活性な層状のLiMO(ここでMは、Co、Niなどの遷移金属)の固溶体は、200mAh/gを超える大きな電気容量を示しうるものとして期待されている。例えば、特許文献1には、式(a)Li[M(1−b)Mn]Oまたは(b)Li[M(1−b)Mn]O1.5+cを有するリチウムイオンバッテリー用カソード組成物が記載されている。前記式中、0≦y<1、0<b<1、および0<c<0.5であり、そしてMは、1種以上の金属元素を表す。ただし、(a)の場合、Mは、クロム以外の金属元素である。そして、該カソード組成物をリチウムイオンバッテリーに組み込んでサイクル動作を行ったときにスピネル結晶構造への相転移を起こさないO3結晶構造を有する単一相の形態であるカソード組成物であることが記載されている。ここで、前記サイクル動作は、30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の完全充放電サイクルのサイクル動作を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−538610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の式(a)(b)のようなLi過剰の既存の固溶体系正極について、高容量を発現させるためには、少なくとも初回の充電電圧がLi参照電極基準で4.5Vを超える必要があった。しかしながら、電池でこれを行うと従来の電解液やセパレータの電池では、電池が劣化する恐れがある。けれども、この電圧(Li参照電極基準で4.5V)を超える初期充電を実施しないと、200mAh/g程度の大きな放電容量を発現させることができなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、固溶体系正極を用い、4.5Vを超える充電を行うことなく、容量とサイクル耐久性が改善できる非水二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった。その結果、4.5Vを超える充電を行う代わりに、固溶体系正極と、電池組立後の初充電前でも放電可能な負極とを用い、少なくとも電池の初期放電時に、正極が所定電位以下まで放電前処理されることで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち本発明は、主要な正極活物質が下記化学式1で表される非水二次電池の製造方法において、負極が初充電前から放電可能以上にLiを有しており、正極がLi参照電極基準で1.5V以下の電位まで放電前処理されることを特徴とするものである。
【0011】
【化1】

【0012】
ここで、上記式中、0<a<1、w+x+y+z=1、0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、Aは金属元素である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放電前処理により、層状構造の固溶体系正極では、構造が部分的に変化し、更に多くのLiイオンを収容できるようになる。充電時にはその過程で再度構造変化し、可逆的な構造変化が可能となる。その結果4.5Vを下回る4.4V−2.0Vの電位範囲で反応できなかったものがよく反応できるようになり、大きな放電容量を発現できる。更に不可逆的な構造変化が抑制されサイクル耐久性が改善され、高エネルギー密度の電池を製造できる。また電池が使用される状態の初充電前でも放電可能な負極内には過剰のLiを有するため、電池が高温になって容量劣化しても容量劣化しやすい負極の容量が過剰にあるので、劣化による影響を出にくくでき、よりサイクル耐久性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)の非双極型リチウムイオン二次電池の基本構成を示す概略図である。
【図2】Li[Li1/3Mn2/3]O(a)とLiMO(b)との結晶構造の関係を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態である積層型電池の外観を模式的に表した斜視図である。
【図4】実施例で得られた正極活物質の粉末X線回折法による回折パターンである。
【図5】実施例1の電池を用いて放電前処理(1回目放電)を行った後、通常の充放電(1回目充電、2回目放電)を行った際の充放電曲線を示すグラフである。
【図6】実施例2の電池を用いて放電前処理(1回目放電)を行った後、通常の充放電(1回目充電、2回目放電)を行った際の充放電曲線を示すグラフである。
【図7】比較例1の電池を用いて放電前処理を行うことなく、通常の充放電(1回目充電、1回目放電)を行った際の充放電曲線を示すグラフである。
【図8】実施例1、3の電池を用い、それぞれの条件で放電前処理(実施例1の電池;1回の放電前処理のみ、実施例3の電池;段階的放電前処理)を行った後、通常の充放電サイクル試験を行った際のサイクル数に対する放電容量の変化を表したグラフである。
【図9】実施例4の電池を用いて、比較例1に示した4.4V−2.0V間での充放電後(1回目充電、1回目放電の途中まで;)、更に初期の放電を連続して2.0V−1.0V間まで続けた(1回目放電の途中から最後まで;放電前処理になる)。その後、4.4Vまで充電(2回目充電)してから次の放電時に2.0Vを下回って1.0Vまで放電(2回目放電;放電前処理)したときの充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態につき説明する。
【0016】
本実施形態は、主要な正極活物質が下記化学式1で表される電池の製造方法において、負極が初充電前から放電可能以上にLiを有しており、正極がLi参照電極基準で1.5V以下の電位まで放電前処理されることを特徴とする非水二次電池の製造方法である。
【0017】
【化2】

【0018】
前記式中、0<a<1、w+x+y+z=1、0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、Aは金属元素である。以下、0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1を、単に、0≦w,x,y,z≦1で表す。
【0019】
本実施形態では、主要な正極活物質が、上記化学式1で表される、いわゆるLi過剰の固溶体系の正極材料を用いるものであり、4.5Vを超える充電を行うことなく、高容量が発現できるものである。
【0020】
上記化学式1で表される、いわいる固溶体系の正極材料についても、上記特許文献1などの既存の固溶体系の正極材料と同様に、高容量を発現させるためには、少なくとも初回の充電電位をLi参照電極基準で4.5Vを超える必要があった。しかしながら、電池でこれを行うと従来の電解液やセパレータの電池では、電池が劣化する恐れがある。本実施形態では、4.5Vを超える充電を行う代わりに、初期に所定電位以下まで放電を行う(放電前処理を行う)ことにより、高容量を発現できることを見出したものである。特に4.5Vを超える充電を行う代わりに、初期に所定電位以下まで放電を行うことにより、Niが多くない固溶体正極も高容量を発現できることを見出したものである。詳しくは、初期に行う放電の下限電位を1.5V以下として(具体的には正極がLi参照電極基準で1.5V以下の電位まで)放電前処理されることにより、大きな放電容量を発現できることを見出したものである。その結果、高エネルギー密度の電池を作製できるものである。このようなことが起きるメカニズムはまだよく解明できていないが、次のように考えている。4.5Vを超える充電を行う代わりに、初期に放電することにより、Mn(IV)が還元されてそれに対応して電気的中性を保つためにリチウムイオンが注入される。このとき、層状構造のこの種の正極では、Li層の6配位サイトはすでにリチウムイオンで占有されているので(図2参照)、構造が少なくとも部分的に変化することにより更に多くのリチウムイオンを収容できるようになると考えられる。充電時にはリチウムイオンが放出されるが、そのプロセスで再度構造変化して、その結果4.4V〜2.0Vの電位範囲で反応できなかったものが反応できるようになると考えられる。ただし、このようなメカニズムによって材料の特性が向上する形態に限定されるわけではない。
【0021】
また、本実施形態では、上記したように4.5Vを超える充電を行う代わりに、初期に行う放電の下限電位を1.5V以下として、放電前処理を行うことにより、大きな放電容量を発現させ、高エネルギー密度の電池を作製できることを見出したものである。本実施形態の電池の製法によりこの構成を可能にするためには、上記した固溶体系の正極材料を用いた正極(を含む電池)を放電前処理するだけでなく、負極側でも、該負極の容量が大きくしかも初期に負極に放電できるLiを含むようにすれば可能であることを見出したものである。本実施形態の電池の製法により、この構成とすることにより、電池が使用される状態で、負極内に過剰のLiがあるので、電池が高温になって容量劣化しても容量劣化しやすい負極の容量が過剰にあるので、劣化による影響を出にくくできるというメリットもある。
【0022】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態のみには制限されない。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0023】
以下、本実施形態の非水二次電池の製造方法につき説明する。具体的には、非水二次電池の代表的な実施形態として、非双極型(内部並列接続タイプ)の積層型リチウムイオン二次電池(以下、積層型電池と略記する。)の場合を例に挙げて説明する。ただし、本実施形態の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0024】
[非水二次電池の製造方法の特徴部分]
本実施形態の非水二次電池の製造方法は、下記(1)〜(3)の特徴部(要件)を有するものである。
【0025】
(1)主要な正極活物質が上記化学式1で表される固溶体系の正極活物質を用いた正極である。
【0026】
(2)負極が初充電前から放電可能以上にLiを有してなる(=負極が電池組立後、初充電前から放電可能である)ものである。言い換えれば、負極が電池製造時(好ましくは電池組立後)に放電可能である。
【0027】
(3)正極がLi参照電極基準で1.5V以下の電位まで放電前処理されるものである。
【0028】
以下、上記(1)〜(3)の特徴部(要件)につき、詳しく説明する。
【0029】
1.上記(1)の特徴部(要件)について
[正極]
本実施形態の製造方法に用いられる正極は、主要な正極活物質が下記化学式1で表される固溶体系の正極活物質を用いてなることを特徴とするものである。
【0030】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極集電体上に形成され、充放電反応の中心を担う正極活物質を含む層である。正極活物質層は、正極活物質を含み、必要に応じて、導電助剤、バインダ、導電結着材(導電助剤とバインダの双方の機能を有するもの)、電解質・支持塩等をさらに含んで構成される。
【0031】
正極活物質層中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、非水二次電池、特にリチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、正極活物質層の厚さについても特に制限はなく、非水電解質二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、正極活物質層の厚さは、2〜200μm程度である。
【0032】
(正極活物質)
本実施形態の製造方法では、主要な正極活物質として下記化学式1で表される、いわゆる固溶体系の正極活物質を含むものである。必要に応じて他の正極活物質を併用してもよい。
【0033】
ここで、主要な正極活物質は、下記化学式1で表されるものである。
【0034】
【化3】

【0035】
ここで、前記式中、0<a<1、w+x+y+z=1、0≦w,x,y,z≦1、Aは金属元素である。
【0036】
本実施形態の上記化学式1で表される正極活物質は、少なくとも初期状態での空間群が2θが21から25°の超格子ピークを除いてR−3mの層状構造である。かような構造は、上記正極活物質の電子線回折または粉末X線回折(2θで現れるピーク)から確認することができる(実施例1の図4参照のこと)。
【0037】
図2は、Li[Li1/3Mn2/3]O(a)と、LiMO(ここで、Mは、[NiCoMn]の略称である)(b)との結晶構造の関係を示す模式図である。図2(a)および図2(b)のそれぞれについて、右側の図は左側の構造を矢印の方向から見た原子の配置およびこれに隣接する格子の原子の配置を記載した図である。図2(a)に示すように、Li[Li1/3Mn2/3]Oの結晶構造は、遷移金属(Mn)およびリチウム(Li)からなる金属層を含む。金属層においては、リチウムがa軸方向およびb軸方向に3つおきに規則配列して二次元平面を形成している。
【0038】
【化4】

【0039】
この金属層中に規則配列したリチウム(Li)は、[Li1/3Mn2/3]OのLi1/3に起因するものである。かようなリチウムの周期配列構造は、電子線回折または粉末X線回折データから確認することができる。
【0040】
一方、LiMOの結晶構造においては、金属層内のリチウムの3倍周期の配列は生じない。
【0041】
上記化学式1中のaは、0<a<1を満たす数であればよい。好ましくは、0.4<a<0.9であり、より好ましくは0.5≦a≦0.8であり、さらに好ましくは0.6≦a≦0.75である。aの値が0.4より大きければ、結晶内でのLiMnOの成分の比率が大きくなり、大きな容量を発現できる。また、aの値が0.9より小さければ、十分な反応性が得られ、大きな容量が得られうる。充放電反応メカニズムがまだ解明されているとはいえないので、リチウム量をどこまで使用できるかはまだ確実にはわからないといえる。しかしながら、結晶内でLiMnO成分が多いと大きな容量を期待できる理由は、もし結晶内のLi層のリチウムがすべて可逆容量に寄与できるとすると344mAh/gの容量となる。さらに、組成式内のLiがすべて可逆容量に寄与できるとすると459mAh/gという大きな値になるからである。これに比べてLiMOでは、理論容量でも275mAh/g程度である。
【0042】
上記化学式1中、w,x,y,zはいずれも、w+x+y+z=1、かつ0≦w,x,y,z≦1を満たす数であればよい。
【0043】
上記化学式1中、Aは金属元素(但し、Li、Mn、Ni、Coを除く)であればよく、好ましくは周期表の3族〜11族の遷移金属ないし12族〜13族(ボロン;Bを含む)の金属元素、および14族〜16族の金属元素である。具体的には、例えば、Al、Ti、Zr、Ga、In、Bなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0044】
次に、上記化学式1:aLi[Li1/3Mn2/3]O・(1−a)Li[NiCoMn]Oで表される正極材料(正極活物質)の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の作製方法を適宜利用して行うことができる。例えば、後述する実施例に示すように、スプレードライ法(スプレードライ装置)を用いて以下のように行うことができる。
【0045】
出発物質として上記化学式1中のLi、Mn、Ni、Co、更に必要に応じてA元素(金属元素)の各酢酸(金属)塩、硝酸(金属)塩などを使用し、所定の量を秤量し、これら(金属)塩と等モルのクエン酸を加え溶液を調製する。Li、Mn、Ni、Co、更に必要に応じてA元素(金属元素)の各酢酸(金属)塩、硝酸(金属)塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸チタン、酢酸ジルコニウム、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウム、硝酸インジウム、ボロンニトラート(boron nitrate)などが挙げられる。ただし、これらに制限されるものではない。次に、調製した溶液をスプレードライ法(スプレードライ装置)を用いて粉体とした後、熱処理(仮焼成)により前駆体を得る。熱処理としては、大気下で、359〜500℃で5〜10時間熱処理すればよいが、かかる範囲に制限されるものではない。次に、熱処理で得られた前駆体は、焼成温度850〜1000℃、保持時間3〜20時間、大気下で焼成(本焼成)する事で、上記化学式1で表される固溶体系の正極活物質を作製することができる。焼成後、液体窒素等を用いて急冷(クエンチ)するのが、反応性及びサイクル安定性のために好ましい。
【0046】
なお、上記固溶体系の正極活物質の同定は、電子線回折、X線回折(XRD)、誘導結合プラズマ(ICP)元素分析を用いて分析することができる(実施例1の図4、表1等参照)。
【0047】
また、正極活物質としては、上記した主要な正極活物質として上記化学式1で表される、いわゆる固溶体系の正極活物質を単独で使用してもよいほか、さらに必要に応じて、従来公知の他の正極活物質を併用してもよい。本実施形態の効果を顕著に発揮するために、上述の主要な正極活物質を正極活物質中に、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%含むのが望ましい。
【0048】
また、正極活物質としては、上記した主要な正極活物質として上記化学式1で表される、いわゆる固溶体系の正極活物質以外に、必要に応じて、他の正極活物質として、例えば、リチウム−遷移金属複合酸化物などを併用してもよい。
リチウム−遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物やLiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0049】
正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点から、通常は0.1〜100μm程度であり、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは1〜20μmである。ただし、これらの範囲を外れる形態もまた、採用されうる。なお、本願において活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0050】
また、正極活物質層における活物質の含有量は、好ましくは活物質層の合計質量に対して70〜98質量%であり、より好ましくは80〜98質量%である。活物質の含有量が前記範囲であれば、エネルギー密度を高くすることができるため好適である。
【0051】
正極活物質層の厚さは、好ましくは、20〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmであり、さらに好ましくは20〜150μmである。
【0052】
正極活物質層にはその他の物質が含まれてもよく、例えば、バインダ、導電助剤(導電助剤ともいう)、導電結着材(導電助剤とバインダの双方の機能を有するもの)、電解質・支持塩等が含まれうる。
【0053】
正極活物質、バインダ、導電助剤、導電結着材、電解質・支持塩等の正極材料の成分の配合比は、特に限定されず、非水二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0054】
(導電助剤)
導電助剤(導電剤とも称されている)とは、導電性を向上させるために配合される導電性の添加物をいう。本実施形態で使用しうる導電助剤は特に制限されず、従来公知のものを利用することができる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上、電解液の保液性の向上による信頼性向上に寄与しうる。特に、リチウムと合金化する材料のように導電性を持たない負極活物質を用いる場合に有効に利用される。
【0055】
(バインダ)
正極活物質層はバインダを含んでもよい。バインダは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で活物質層に添加される。
【0056】
バインダとしては、以下に制限されることはない。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリアクリロニトリル(PAN)及びアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂及びユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系材料が挙げられる。
【0057】
(導電結着材)
導電結着材は、導電助剤とバインダの双方の機能を有するものである。具体的には、既に市販されてなるTAB−2等が挙げられる。該TAB−2は、Teflonized acetylene black(テフロン(商標)加工されたアセチレンブラック)である。
【0058】
(電解質・支持塩)
電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、それらの共重合体などのリチウム塩を含むイオン伝導性ポリマー(固体高分子電解質)などが挙げられるが、これらに制限されることはない。すなわち、後述する[電解質層]の項で説明する液体電解質(電解液)、ゲルポリマー電解質、および真性(全固体)ポリマー電解質を特に制限なく用いることができる。液体電解質、ゲルポリマー電解質、および真性ポリマー電解質の具体的な形態については、後述する(電解質層)の項で説明するため、詳細はここでは省略する。これらの電解質は1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、後述する電解質層に用いた電解質と異なる電解質を用いてもよいし、同一の電解質を用いてもよい。
【0059】
支持塩(リチウム塩)としては、以下に制限されないが、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩;LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩が挙げられる。これらの支持塩は、単独で使用されてもまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0060】
(正極集電体)
正極集電体は、導電性材料から構成される。集電体を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、鉄、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金、ステンレス鋼(SUS)およびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種の集電体材料が好ましく用いられうる。中でも、電子伝導性、電池作動電位という観点からは、正極集電体としてはアルミニウムが好ましく用いられうる。
【0061】
正極集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度、好ましくは10〜20μmである。ただし、上記範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。集電板についても、集電体と同様の材料で形成することができる。
【0062】
なお、正極集電体は、上記材料を用いた箔のほか、積層型電池では、上記材料を用いたメッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタルなどから構成されるものを用いてもよい。メッシュの目開き、線径、メッシュ数などは、特に制限されず、従来公知のものが使用できる。
【0063】
2.上記(2)の特徴部(要件)について
[負極]
本実施形態の製造方法に用いられる負極は、電池組立後、初充電前から放電可能以上にLiを有してなることを特徴とするものである。言い換えれば、本実施形態の製造方法に用いられる負極は、電池製造時(好ましくは電池組立後)に放電可能であることを特徴とするものである。
【0064】
負極活物質層は、負極集電体上に形成され、充放電反応の中心を担う負極活物質を含む層である。負極活物質の他に、導電助剤、バインダ、導電結着材(導電助剤とバインダの双方の機能を有するもの)等をさらに含んで構成される。そして、本実施形態の負極は、電池組立後、初充電前から放電可能以上にLiを有してなることを特徴とするものである。言い換えれば、本実施形態の負極が電池製造時(好ましくは電池組立後)に放電可能である。
【0065】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極集電体上に形成され、充放電反応の中心を担う負極活物質およびLiを含む層である。ただし、負極活物質にリチウム金属ないしリチウム合金を用いる場合には、別途、Liを含む必要はない。負極活物質のリチウム金属ないしリチウム合金が必要量のLiを含有している為である。負極活物質層は、負極活物質およびLiを含み、必要に応じて、導電助剤、バインダ、導電結着材(導電助剤とバインダの双方の機能を有するもの)、電解質・支持塩などをさらに含んで構成される。
【0066】
負極活物質層中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、非水二次電池、特にリチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、負極活物質層の厚さについても特に制限はなく、非水電解質二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、負極活物質層の厚さは、2〜200μm程度である。
【0067】
(負極活物質)
負極活物質は、Liを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、Liと合金化する材料、Li合金及びLi金属が好ましい。Liと合金化する材料としては、Liと合金化する元素の単体、これらの元素を含む酸化物、炭化物、及びLiと合金化する元素を含む合金等が挙げられる。
【0068】
Liと合金化する材料を用いることにより、炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量の電池を得ることが可能となる。
【0069】
上記のLiと合金化する元素としては、以下に制限されることはない。具体的には、Si、Ge、Sn、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、負極活物質は、Si、Ge、Sn、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。より好ましくは、SiまたはSnの元素を含むことがより好ましく、Siを含むことが特に好ましい。上記のリチウムと合金化する元素を含む酸化物としては、一酸化ケイ素(SiO)、SiO(0<x<2)、二酸化スズ(SnO)、SnO(0<x<2)、SnSiOなどを用いることができる。また、上記のリチウムと合金化する元素を含む炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)などを用いることができる。これらは1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
以上のことから、負極(負極活物質層)の主要な負極活物質は、Si、SiO、Sn、SiやSnを含む合金、およびこれらの複合体、リチウム合金及びリチウム金属から選ばれたものであることが望ましい。これは、高容量電池の構成には、上記固溶体系の正極活物質とすると共に、主要負極活物質として、Si、SiO、Sn、SiやSnを含む合金及びこれらの複合体、リチウム合金、リチウム金属から選ばれたものとすることにより高容量電池を作製できるためである。Si、SiO、Sn、SiやSnを含む合金の複合体としては、Si、SiO、Sn、SiやSnを含む合金の表面をカーボン(炭素材料)やセラックスでコーティングしたものや、Si、SiO、Sn、SiやSnを含む合金を樹脂で固めてなるもの等が挙げられる。ただし、これらに制限されるものではない。
【0071】
即ち、Si(シリコン)系負極、Sn系負極は理論エネルギー密度が大きく、充放電電位もリチウム金属に近いので、負極が大幅に過剰の容量比とすることで、過剰に含めてもエネルギー密度の大きな電池を構成できる。したがって負極にはリチウム金属の他、これらの高容量負極を過剰に用いて予めこれらが電池組立後、初充電前から放電可能以上にLiを収容した構成にすることによって、高容量で、高エネルギー密度の電池を作製できるのである。その結果、高エネルギー密度の電池を構成できる。
【0072】
負極に、初充電前から放電可能以上にLiを予め収容させる方法(予め負極に充放電(充放電前処理)できるLiを収容させる方法)としては、(1)リチウムの薄い箔を負極に重ねて電池を構成してから電解液を注入すればよい。(2)また、安定なLi粒子(Liパウダ)を負極内に混ぜてなる電池を構成して電解液を注入すればよい。(3)あるいは安定なLi粒子(Liパウダ)を負極表面に配置して電池を構成して電解液を注入すればよい。(4)この他にも予め部分的に充電状態にしてから電池を組む方法もある。これらの方法については、後述する「(v)負極の作製」の項で、より詳しく説明するため、ここでのより詳しい説明は省略する。
【0073】
また、上記した主要な負極活物質以外の他の負極活物質としては、充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素材料も負極活物質として好適に使用可能である。該炭素材料としては、例えば、高結晶性カーボンであるグラファイト(天然グラファイト、人造グラファイト等)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル等が挙げられる。また、高容量電池を作製する上で好ましい負極活物質の例としては、例えば、高結晶性で配向性が高く充放電容量が理論容量の372mAh/gに近く、初期の不可逆容量が小さい種類の黒鉛も含まれる。また、炭素材料は、Liと合金化する元素を含む材料に比べて、Liの収容(プレドープ)時に急激な発熱反応を起こし難く、発熱量も低い。そのため、負極活物質層内のバインダ等が熱融解する恐れがないので、負極の作製時に負極内または表面に収容させるのが望ましい。この他にも、従来同様に、初充電時に予備吸蔵させてもよいし、電池作製後、放電前処理前(初放電前)ないし初充電前にエージングする工程を設けて予備吸蔵させてもよいなど、任意の時期に負極内または表面に収容(予備吸蔵)させることができる点で優れている。
【0074】
負極活物質としては、上記Liと合金化する材料、リチウム金属及びリチウム合金、中でも上記した主要な負極活物質を単独で使用してもよいほか、さらに必要に応じて、従来公知の他の正極活物質を併用してもよい。他の負極活物質としては、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0075】
ただし、本実施形態の効果を顕著に発揮するためには、上記Liと合金化する材料、リチウム金属及びリチウム合金、中でも上記した主要な負極活物質を多く負極活物質中に含むことが好ましい。具体的には、負極活物質中、Liと合金化する材料、Li金属及びLi合金、特に主要な負極活物質を50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%を含むのがよい。
【0076】
該Liと合金化する材料、特に主要な負極活物質のSi、SiO、Snおよびこれらの複合体が充放電により大きく膨脹収縮することを勘案し、これらの負極活物質に、炭素材料を適量加えて膨脹収縮を抑制するようにしてもよい。本実施形態では、Liと合金化する材料、特に主要な負極活物質のSi、SiO、Snおよびこれらの複合体の膨脹収縮を抑制する手段として、例えば、セパレータに膨脹収縮を吸収できる柔軟性ないしゴム弾性を有する材料を採用することなどができる。
【0077】
負極活物質の平均粒径は特に制限されないが、高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点から、通常は0.1〜100μm程度であり、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは1〜20μmである。ただし、これらの範囲を外れる形態もまた、採用されうる。なお、本願において活物質の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0078】
負極活物質層にはその他の物質が含まれてもよく、例えば、導電助剤、バインダ、導電結着材、電解質・支持塩等が含まれうる。導電助剤、バインダ、導電結着材および電解質・支持塩は、上記正極活物質層の欄で例示したものを同様に使用できる。
【0079】
また、負極活物質、Li(粒子又は箔)、バインダ、導電助剤、導電結着材、電解質・支持塩等の負極材料の成分の配合比は、特に限定されず、非水二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0080】
(リチウムの粒子又は箔)
Li(粒子又は箔)は、電池組立後、初充電前から放電可能以上に有していればよい。上記した負極に、初充電前から放電可能以上にLiを予め収容させる上記(1)〜(4)等の方法により、活物質にリチウム(粒子又は箔)を初充電前から放電可能とするのに必要なLi供給源として、負極活物質層内部に混合又は表面に配置し得るものである。これにより、電池が使用される状態で、負極内に過剰のLiがあるので、電池が高温になって容量劣化しても容量劣化しやすい負極の容量が過剰にあるので、劣化による影響を出にくくできるというメリットもある。
【0081】
上記Li粒子又は箔は、Li金属粒子又は箔の単体であってもよいし、表面コートされたLi金属粒子又は箔を用いてもよい。Li粒子又は箔としては、市販品として入手可能なFMC社製のSLMPやアルドリッチ社製のリチウムパウダー等がある。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0082】
Li粒子の負極活物質層内の含有量は、電池組立後、初充電前から放電可能以上に有していればよい。よって、負極に電池組立後、初充電前から放電可能以上にLiを予め収容させる上記(1)〜(4)等の方法により、負極活物質にLi(粒子又は箔)を初充電前から放電可能とするのに必要なLi含量を、負極活物質層内部に混合又は表面に配置し得るものであればよい。Li粒子の最適な含有量は、負極活物質の量や材質によって変化し、含有量が多すぎると反応に関与しない未反応なリチウムが増加し、電池の体積効率が減少するおそれがある。従って、最適なLi粒子の含有量は別途に負極活物質層の初期効率を求めてから定めることが好ましく、また、電池設計における負極活物質層の厚み(使用量)に応じて適宜決定すればよい。
【0083】
(負極集電体)
負極集電体は、導電性材料から構成される。集電体を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金、ステンレス鋼(SUS)およびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種の集電体材料が好ましく用いられうる。中でも、負極集電体としては銅が好ましい。
【0084】
負極集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度、好ましくは10〜20μmである。ただし、上記範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。集電板についても、集電体と同様の材料で形成することができる。
【0085】
なお、負極集電体は、上記材料を用いた箔のほか、積層型電池では、上記材料を用いたメッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタルなどから構成されるものを用いてもよい。メッシュの目開き、線径、メッシュ数などは、特に制限されず、従来公知のものが使用できる。
【0086】
3.上記(3)の特徴部(要件)について
[放電前処理]
本実施形態の製造方法では、電池組立後、正極がリチウム参照電極基準で1.5V以下、好ましくは1.0V以上1.5V以下の間の電位まで(電池の)放電前処理されることである。
【0087】
本実施形態の製造方法では、電池組立後、正極がLi参照電極基準で1.5V以下の電位になるまで(組み立てた電池につき、4.5Vを超える充電を行うことなく、放電、更には放充電サイクルを行う)放電前処理がなされている必要がある。好ましくは、該正極が、リチウム参照電極基準で1.0V以上1.5V以下の電位まで放電前処理がなされているのが望ましい。放電前処理が、1.5V以下の電位まで行われる場合には、実施例1〜4(図5、6、8、9)の通り、高容量を得ることができる。一方、放電前処理が、1.5V以下を超える電位までしか行われない場合には、図7(比較例1参照)の通り、容量を大きくできない。なお、放電前処理の下限電位の下限値は特に制限されるものではないが、1.0V以上とするのが望ましい。放電前処理が、1.0V以上の電位にて行われる場合には、電池の劣化を抑制することができる(実施例1〜4参照)。一方、放電前処理が、1.0V未満の低電位まで行われる場合には、電池の劣化が早くなる恐れがある。また、初期の放電の下限電位を0.9V以下で放電前処理を行うと、構造が大きく変化して、充電時に可逆的に再度構造変化できなくなるが、1.0V以上とすることで、そうした結晶構造が必要以上に傷まないように変化し得るので、電池が劣化するのを抑制できる。その結果、高エネルギー密度の電池を作製できる。
【0088】
放電前処理の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば、下記(a)〜(c)の形態などが挙げられる。ただし、放電前処理は、これらの形態に制限されるものではない。
【0089】
(a)電池組立後、4.5Vを超える充電を行うことなく、初充電前に、正極がLi参照電極基準で1.0V以上1.5V以下の間の電位になるまで、組み立てた電池につき、初放電(1回目の放電)を行う形態がある。(実施例1、2の図5、6及び表2参照)。
【0090】
(b)前記放電前処理の充放電時の放電時において、放電下限電位を徐々に下げて充放電を繰り返して行う形態がある。(実施例3の図8参照)。
【0091】
(c)電池組立後に、4.5Vを超える充電を行うことなく、充電上限電位4.4V以下、放電下限電位1.6V以上の間で充放電を行った後、Li参照電極基準で1.0V以上1.5V以下の電位まで放電を行う形態などが挙げられる。(実施例4の図9参照)。
【0092】
上記(a)の放電前処理の形態としては、特に制限されるものではない。例えば、電池を構成した状態(電池組立後)にて、初充電前に、正極がLi参照電極基準で1.5V以下、好ましくは1.0V以上、1.5V以下の電位になるまで、当該電池の初放電(1回目の放電)を行う形態が有効である(実施例1、2参照)。これにより、高容量、特に大きな放電容量で、なおかつサイクル耐久性がよく、高エネルギー密度の電池を製造できる。
【0093】
この放電前処理の形態では、上記初放電後、引き続き4.5Vを超える充電を行うことなく、充電上限電位4.4V以下、放電下限電位1.0V以上1.5V以下(例えば、4.4V−1.2V)の間で充放電を繰り返し行うようにして放電前処理を行ってもよい。この際、充電上限電位と放電下限電位は、共に一定の値(例えば、4.4V−1.2Vの間)で充放電を繰り返してもよい。あるいは、後述する(b)の放電前処理の形態のように、放電下限電位を1.0V以上1.5V以下の間で徐々に下げて充放電を繰り返して行うようにしてもよい。このように、初期充放電時の放電時において放電下限電位を徐々に下げて充放電を繰り返して行うことにより、より大きな容量を安定に保持できるようになる。放電前処理を徐々に進めることによって、より大きな容量を安定に保持できるようになるが、これは、放電前処理が構造変化を伴うので、変化を少しずつ進めて結晶構造が傷まないようにしているためと推察される。これにより、容量と耐久性か改善された高エネルギー密度のリチウムイオン電池を製造できる。
【0094】
また、充電上限電位も4.4V以下であればよく、例えば、4.3V−1.2Vの間で放充電を繰り返して放電前処理を行ってもよい。但し、充電上限電位が、例えば、3.9Vを下回るようになると、充電容量が相対的に小さくなる為、そこから取り出せる放電容量も制限を受ける(小さくなる)傾向があるため、好ましくは4.4V近傍が最も効率がよいと言える。
【0095】
なお、放電前処理で行う放充電サイクルの繰り返し回数は、1〜30サイクル、好ましくは1〜10サイクル程度とするのが望ましい。上記範囲内で放充電サイクルによる放電前処理を行うことにより、高容量でサイクル耐久性がよく、ひいては高エネルギー密度の電池を製造できる。
【0096】
その後の通常の電池使用(充放電)に関しても、4.5Vを超える充電を行うことなく、充電上限電位4.4V以下、放電下限電位1.6V以上2.5V以下の間、例えば、4.4V−2.0V間で充放電サイクルを行う使用形態が望ましい。(実施例3の図8参照)。
【0097】
上記(b)の放電前処理の形態としては、特に制限されるものではない。例えば、放電前処理の充放電時の放電時において、放電下限電位を1.0V以上、1.5V以下の間で、徐々に下げて充放電を繰り返して行う形態(実施例3)である。初期充放電時の放電時において放電下限電位を徐々に下げて充放電を繰り返して行うことにより、より大きな容量を安定に保持できるようになる。放電前処理を徐々に進めることによって、より大きな容量を安定に保持できるようになるが、これは、放電前処理が構造変化を伴うので、変化を少しずつ進めて結晶構造が傷まないようにしているためと推察される。これにより、容量と耐久性か改善された高エネルギー密度のリチウムイオン電池を製造できる。
【0098】
放電下限電位を1.0V以上、1.5V以下の間で、徐々に下げて充放電を繰り返して行う場合、例えば、実施例3のように、放電下限電位を1.0V−1.5Vの間で段階的に下げてもよい。具体的には、1.5V−4.4V、1.4V−4.4V、1.3V−4.4V、1.2V−4.4V、1.1V−4.4V、1.0V−4.4Vと段階的に下げて2サイクルづつ電池の放充電を行うようにして、放電前処理を行ってもよい。あるいは、放電下限電位を1.0V−1.5Vの間で略連続的に下げてもよい。具体的には、1.30V−4.4V、1.29V−4.4V、1.28V−4.4V、1.27V−4.4V、1.26V−4.4V、1.25V−4.4Vというように略連続的に下げて1〜2サイクルづつ電池の放充電を行うようにして、放電前処理を行ってもよい。
【0099】
また、充電上限電位は、4.4V以下であればよく、例えば、充電上限電位を4.2Vとし、放電下限電位を1.0V以上1.5Vの間で徐々に下げて充放電を繰り返して放電前処理をおこなってもよい。但し、充電上限電位が、例えば、3.9Vを下回るようになると、充電容量が相対的に小さくなる為、そこから取り出せる放電容量も制限を受ける(小さくなる)傾向があるため、好ましくは4.4V近傍が最も効率がよいと言える。
【0100】
(b)の放電前処理の形態でも、その後の通常の電池使用(充放電)に関しては、4.5Vを超える充電を行うことなく、充電上限電位4.4V以下、放電下限電位1.6V以上2.5V以下の間、例えば4.4V−2.0V間で充放電使用を行うのが望ましい。(実施例3の図8参照)。
【0101】
上記(c)の放電前処理の形態としては、特に制限されるものではない。例えば、比較例1のように、正極のLi参照電極基準で4.4V以下、1.6V以上(例えば、4.4V−2.0V)の間で充放電(初充電⇒初放電)を行う。その後、実施例4のように、引き続き初放電の続きを連続して行って、正極のLi参照電極基準で1.5V以下、好ましくは1.0V以上1.5V以下の電位(例えば、2.0V−1.0V)になるまで電池の初放電を行う形態(実施例4参照)がある。
【0102】
この放電前処理の形態でも、上記初充放電後、引き続き4.5Vを超える充電を行うことなく、充電上限電位4.4V以下、放電下限電位1.0V以上1.5V以下(例えば、4.4V−1.2V)の間で充放電を繰り返し行うようにして放電前処理を行ってもよい。この際、充電上限電位と放電下限電位は、共に一定の値(例えば、4.4V−1.0Vの間)で充放電を繰り返してもよい。あるいは、上記(b)の放電前処理の形態のように、放電下限電位を1.0V以上1.5V以下の間で徐々に下げて充放電を繰り返して行うようにしてもよい。このように、初期充放電時の放電時において放電下限電位を徐々に下げて充放電を繰り返して行うことにより、より大きな容量を安定に保持できるようになる。放電前処理を徐々に進めることによって、より大きな容量を安定に保持できるようになるが、これは、放電前処理が構造変化を伴うので、変化を少しずつ進めて結晶構造が傷まないようにしているためと推察される。これにより、容量と耐久性か改善された高エネルギー密度のリチウムイオン電池を製造できる。
【0103】
また、充電上限電位も4.4V以下であればよく、例えば、4.2V−1.0Vの間で充放電を繰り返して放電前処理をおこなってもよい。但し、充電上限電位が、例えば、3.9Vを下回るようになると、充電容量が相対的に小さくなる為、そこから取り出せる放電容量も制限を受ける(小さくなる)傾向があるため、好ましくは4.4V近傍が最も効率がよいと言える。
【0104】
その後の通常の電池使用(充放電)に関しては、4.5Vを超える充電を行うことなく、充電上限電位4.4V以下、放電下限電位1.6V以上2.5V以下の間、例えば、4.4V−2.0V間で充放電サイクルを行う使用形態が望ましい。(実施例3の図8参照)。
【0105】
更に上記(a)〜(c)の形態を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0106】
上記放電前処理として充放電する際の電池の温度(周辺温度)としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、任意に設定することができる。経済性の観点からは、特段の加熱冷却を要しない室温下で行うのが望ましい。一方、より大きな容量を発現でき、なおかつ短時間の充放電処理によりサイクル耐久性が向上し得る点からは、室温より高い温度で行うのが望ましい。
【0107】
上記放電前処理を適用する工程(時期)としては、電池を構成した状態にて、行うことができる。すなわち、電池を組んでからの適用する必要がある。電池を構成した状態の場合には、個々の電極ごとに行うよりも、一度にまとめて多くの電極の放電前処理が行える点で優れている。
【0108】
以上が、本実施形態の積層型電池の製造方法の特徴的な構成要件に関する説明であり、他の構成要件に関しては特に制限されるものではない。よって、以下では、本発明の非水二次電池の代表的な実施形態である積層型電池の製造方法の特徴的な構成要件以外の他の構成要件に関し、以下説明する。ただし、積層型電池以外の電池、例えば双極型電池の製造方法の各構成要件に関しても、積層型電池製造方法の各構成要件を適宜利用して製造することができることは言うまでもない。
【0109】
[非水二次電池の製造方法の概要]
本発明の非水二次電池の代表的な実施形態である積層型電池の製造方法としては、上記にて説明した(1)〜(3)の特徴部分の製造方法以外は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
【0110】
よって、以下では、上記にて説明した(1)から(3)の特徴部分の製造方法以外の積層型電池の製造方法につき説明する。ただし、本実施形態の製造方法は、これらに何ら制限されるものでない。
(I)電解質が電解液の電池の作製の場合
(a)正極の作製
正極は、上記(1)で得られた主要な正極活物質や導電助材などの電極材料を含む電極組成物を、混練法を用いてペレットに成形し、集電体上に載せて圧着し、真空下、乾燥させて正極を作製する(混練法)。あるいは、上記(1)で得られた主要な正極活物質や導電助材などの電極材料を含む電極スラリーを集電体両面に塗布(コーティング)、乾燥させて正極を作製してもよい(塗布法)。
【0111】
(b)負極の作製
負極は、負極活物質や導電助材などの電極材料を含む電極組成物を、塗布法、転写法等により集電体両面にコーティングすると共に、上記(2)の初充電前から放電可能以上にLiを含有し得るように、適時適量のLiを収容(プレドープ)することで負極を作製する。但し、負極活物質がリチウム合金、並びにリチウム金属を用いることで上記(2)の要件を満足する。そのため、特にLiの収容(プレドープ)を行うことなく、従来同様に負極活物質や導電助材などの電極材料を含む電極組成物を集電体両面に塗布法、転写法等により作製し負極を得ることができる。あるいはリチウム合金、並びにリチウム金属からなる負極活物質単独もしくは該負極活物質と集電体とを接合、圧着等により組み合わせることで負極とすることもできる。
【0112】
(c)積層体の作製
上記により得られた正極と負極から、少し負極を大きくして切り出し、それぞれを適当な乾燥温度(例えば90℃程度)の真空乾燥機にて適当な期間(例えば、1日程度)乾燥して用いる。
【0113】
正極と負極の間に、適当な厚さ(例えば、25μm程度)のポリプロピレン等の多孔質膜を介して最外側が負極になるようにして正極と負極を交互に積層して、各正極と負極を束ねてリードを溶接して積層体を形成する。
【0114】
(d)電池組立
この積層体を正負極のリードを取り出した構造にて、アルミニウムのラミネートフィルムバック等の外装材に収めて、注液機により電解液を注液して、減圧下シールをして電池を組み立てる(従来は、この段階で所望の非水二次電池としていた)。
【0115】
(e)非水二次電池の作製
本実施形態では、その後、上記(3)の放電前処理を行うことで、所望の非水二次電池とする。
(II)電解質が電解液の電池以外の電池の作製の場合
電解質が電解液の電池の他、電解質がゲルの電池、全固体ポリマーの電池、及び電解質を用いた双極型電池の作製も、電解質が電解液の電池と同様に、上記(1)〜(3)の特徴部分の製造方法を適宜適用する以外は、公知になった我々の技術により実施できる。よって、ここでの説明は省略する。
【0116】
以下、上記(I)の電解質が電解液の電池の作製を例に挙げ、上記(1)〜(3)の特徴部分の製造方法で説明したもの以外につき各工程ごとに簡単に説明する。
【0117】
(i)正極用組成物の調製
正極用組成物は、集電体上に圧着ないし塗布される。
【0118】
正極用組成物は、上記(1)で得られた主要な正極活物質を含む。更に他成分として、他の正極活物質、導電助剤、バインダ、導電結着材(導電助剤とバインダの双方の機能を有するもの)などが任意で含まれる。
【0119】
正極用組成物は、例えば、混練法では、上記(1)で得られた主要な正極活物質を含む全ての正極活物質(単に正極活物質という)や導電結着材等の電極材料を含む電極組成物を混練装置に入れて混練し、プレスしてペレットに成形することで得られる。塗布法では、正極用組成物として、通常、正極用スラリーが用いられる。該正極用スラリーは、上記(1)で得られた主要な正極活物質を含む全ての正極活物質(単に正極活物質という)を溶媒中に添加する。更にバインダ、導電助剤あるいは導電結着材等を添加し、ホモミキサー等で攪拌することで得られる。
【0120】
上記正極活物質、導電助剤、バインダ、導電結着材等に関しては、上記「正極活物質層」の中で説明した内容と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0121】
上記正極用スラリーを調製する際に必要に応じて用いられる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのスラリー粘度調製用溶媒が挙げられ、上記正極用スラリーの種類に応じて適宜選択して用いる。
【0122】
正極活物質、導電助剤、バインダあるいは導電結着材等の添加量は、得られる積層型電池が所定の関係を満たすように適宜決定すればよい。
【0123】
(ii)正極(正極活物質層)の作製
(混練法)
正極は、例えば、混練法では、上記(1)で得られた主要な正極活物質や導電結着材などの電極材料を含む電極組成物を混練装置を用いて混練し、プレスしてペレットに成形する。該ペレットを、集電体上に載せ、適当な圧力(例えば、0.99ton/cm程度)で圧着し、真空下、適当な乾燥条件(例えば、120℃程度で4時間)乾燥させて正極を作製する。
【0124】
上記混練法では、上記した電極組成物を混練し、ペレットに形成する手法は、特に制限されるものではなく、通常の混練装置を用いて十分に混練し、これを適当な型枠に入れて型押してペレットを成形するなど公知の方法により行えばよい。好ましくは集電体上に均一かつスムーズにペレットを載せることができるように、集電体サイズに合せたペレット形状に成形するのが望ましい。
【0125】
上記混練法では、上記したペレットを集電体上に載せる手法は、集電体と同じ略サイズのペレットの場合には、適当な治具等を用いて位置ズレが生じないようにして積載すればよい。
【0126】
上記混練法では、積載したペレットにつき、表面の平滑性および厚さの均一性を向上させるために適当な圧力で圧着を行うのが望ましい。
(塗布法)
一方、正極は、塗布法では、上記(1)で得られた主要な正極活物質や導電結着材等の電極材料を含む正極スラリーを集電体上に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去させて正極を作製してもよい。具体的には、正極用スラリーをダイコータ等で集電体の両面にまたは片面に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去する。片面塗布の形態では、乾燥後、正極用スラリーをダイコータ等で集電体のもう一方の片面に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去する。更に必要に応じて、所望の膜厚になるようにプレスを行ってもよい。
【0127】
スラリーの塗布手法は、コーター、スクリーン印刷法など公知の方法により行えばよいが、好ましくはダイコータによる塗布または、インクジェット式等による塗布である。以下、正極及び負極の各種スラリーの塗布手法も上記と同様であるため、以後の説明は省略する。
【0128】
電極の乾燥には、真空乾燥機など従来公知の装置を用いることができる。乾燥条件は塗布した正極用スラリーに応じて決定すればよい。以下、正極及び負極の各種電極の乾燥も上記と同様であるため、以後の説明は省略する。
【0129】
作製した正極活物質層は、表面の平滑性および厚さの均一性を向上させるためにプレス操作を行うのがよい。以下、いずれの正極物質層及び負極物質層も同様の理由でのプレス操作を行うのがよいため、以後の説明は省略する。
【0130】
また、上記のいずれも方法で得られた正極についても、電極部サイズよりも大きなものを作製しておき、その後、電極部サイズとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極としてもよい。
【0131】
(iii)負極用組成物およびLiスラリーの調製
負極用組成物は、集電体上に塗布ないし転写される。Li含有組成物は、負極(負極活物質層)上に塗される。
【0132】
負極用組成物は、上記(2)で挙げられた主要な負極活物質を含む。更に他成分として、他の負極活物質、導電結着材あるいは導電助剤、バインダ等が任意で含まれる。
【0133】
負極用組成物は、以下の2種の負極用スラリーが用いられる。該負極用スラリーとしては、上記(2)の初充電前から放電可能以上のLiを含有させる為のLiを含む負極用スラリー(Li含有負極用スラリーという)と、上記(2)のLiを含まない負極用スラリー(負極用スラリーという)とが用いられる。
【0134】
上記負極用スラリーは、上記(2)で挙げられた主要な負極活物質を含む全ての負極活物質(単に負極活物質という)を溶媒中に添加する。更に導電結着材あるいはバインダ、導電助剤等を添加し、ホモミキサー等で攪拌することで得られる。
【0135】
上記Li含有負極用スラリーは、負極活物質、上記(2)のLi粉末(パウダー)を溶媒中に添加する。更に、導電結着材あるいはバインダ、導電助剤等を添加し、ホモミキサー等で攪拌することで得られる。
【0136】
上記負極用スラリー、Li含有負極用スラリーを調製する際に必要に応じて用いられる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのスラリー粘度調製用溶媒が挙げられる。該溶媒は、上記負極用スラリー、Li含有負極用スラリーのそれぞれの種類に応じて適宜選択して用いるのが望ましい。
【0137】
上記負極用スラリー、Li含有負極用スラリーにそれぞれ添加される、負極活物質、上記(2)のLi粉末、導電助剤、バインダ、導電結着材等の各添加量は、得られる積層型電池が所定の関係を満たすように適宜決定すればよい。
【0138】
(iv)負極(負極活物質層)の作製
(負極用スラリーとLi含有負極用スラリーの2段階塗布法)
負極は、負極用スラリーとLi含有負極用スラリーの2段階塗布法では、負極活物質や導電結着材等の電極材料を含む負極用スラリーを集電体上に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去させて負極を得る。次に得られた負極上にLi含有負極用スラリーを塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去させて、上記(2)の要件を満足する負極を作製してもよい。かかる方法では、負極表面側にLiを配置できるため、上記(3)の放電前処理時に、負極の容量が大きくしかも、特に初期に負極に充放電できるLiを供給しやすい形態にすることができる。また、負極表面側にLiを配置した構成とする場合でも、電池が使用される状態で、負極表面側に過剰のリチウムがある。そのため電池が高温になって容量劣化しても容量劣化しやすい負極の容量が過剰にあるので、劣化による影響を出にくくできるというメリットもある。
【0139】
具体的には、負極用スラリーをダイコータ等で集電体の両面にまたは片面に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去して、集電体の両面にまたは片面に負極を得る。集電体の片面に塗布の場合では、引き続き、ダイコータ等で集電体のもう一方の片面に負極用スラリーを塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去して集電体の両面に負極を得る。次に、得られた負極の両面にまたは片面にLi含有負極用スラリーをダイコータ等で塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去して上記(2)の要件を満足する負極を得る。片面に塗布の場合では、引き続き、得られた負極のもう一方の片面にダイコータ等でLi含有負極用スラリーを塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去して、上記(2)の要件を満足する負極を得る。更に必要に応じて、所望の膜厚になるようにプレスを行ってもよい。
(負極用スラリーの塗布法で形成した負極にLiの薄い箔を重ねる方法)
負極は、負極用スラリーの塗布法により、負極活物質や導電結着材等の電極材料を含む負極用スラリーを集電体上に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去させて負極を得る。次に得られた負極上にLiの薄い箔を重ねることで、上記(2)の要件を満足する負極を作製してもよい。かかる方法では、負極表面にLi箔を配置できるため、上記(3)の放電前処理時に、負極の容量が大きくしかも、特に初期に負極に充放電できるLiを供給しやすい形態にすることができる。また、負極表面にLi箔を配置した構成とする場合でも、電池が使用される状態で、負極表面に過剰のリチウムがある。そのため電池が高温になって容量劣化しても容量劣化しやすい負極の容量が過剰にあるので、劣化による影響を出にくくできるというメリットもある。
【0140】
負極は、負極用スラリーの塗布法により、負極活物質や導電結着材等の電極材料を含む負極用スラリーを集電体上に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去させて負極を得る。次に得られた負極(作用極)と、適当な対極を用いて積層型電池を組む前に予め部分的に充電を行うことで、上記(2)の要件を満足する負極を作製してもよい。かかる方法では、予め部分的に充電状態にすることで負極内にLiを挿入(プレドープ)できるため、上記(3)の放電前処理時に、負極の容量が大きくしかも、特に初期に負極に充放電できるLiを供給しやすい形態にすることができる。また、負極を予め部分的に充電状態とした場合でも、電池が放電前処理(及び使用)される状態で、負極内に過剰のリチウムがある。そのため電池が高温になって容量劣化しても容量劣化しやすい負極の容量が過剰にあるので、劣化による影響を出にくくできるというメリットもある。
【0141】
具体的には、負極用スラリーをダイコータ等で集電体の両面にまたは片面に塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去して、集電体の両面にまたは片面に負極を得る。集電体の片面に塗布の場合では、引き続き、ダイコータ等で集電体のもう一方の片面に負極用スラリーを塗布した後、乾燥して含まれる溶媒を除去して集電体の両面に負極を得る。次に、得られた負極(作用極)と、適当な対極(例えば、Li金属等)を用いて積層型電池を組む前に予め部分的に充電を行うことで、上記(2)の要件を満足する負極を得る。更に必要に応じて、予め部分的に充電を行う前に、所望の膜厚になるようにプレスを行ってもよい。
【0142】
(v)積層体(発電要素)の作製
上述の通りに作製した正極及び負極を所望のサイズに切り出し、セパレータを介して複数枚積層して積層体を作製する。
【0143】
セパレータとしては、微孔性ポリエチレンフィルム、微孔性ポリプロピレンフィルム、微孔性エチレン−プロピレン−コポリマーフィルム、不織布セパレータなど一般的に用いられているものが挙げられる。積層体を構成する各電極とセパレータの積層数は、積層型電池に求められる電池特性を考慮して決定される。
【0144】
また、積層体において、最外層には、最外層負極集電体上に負極層のみを形成した電極が配置されるようにしてもよい。あるいは、積層順を変えて、最外層には、最外層集電体上に正極層のみを形成した電極を配置するような構成としてもよい。
【0145】
なお、積層体を作製する際には、電池内部に水分等が混入するのを防止する観点から、湿度の低いドライルーム等で行うことが好ましい。
【0146】
本実施形態において、電解質層は、好ましくは電解液をセパレータに含浸させてなるものである。ただし、本実施形態の電解質層は、かような構成に限定されず、電解液に変えてゲルや全固体ポリマーを用いた従来公知の電解質層を用いてもよい。
【0147】
(vi)タブの接続
積層体の全ての正極及び負極(のタブ部)を、正極端子リード、負極端子リードを介して、電池の出力端子部である正極集電板(正極用タブ)及び負極集電板(負極用タブ)と接合し、電気的に接続する。正極集電板(正極用タブ)及び負極集電板(負極用タブ)の接合方法としては、接合温度の低い超音波溶接等が好適に利用し得るものである。ただし、これに限定されるべきものではなく、従来公知の方法を適宜利用することができる。
【0148】
(vii)積層型電池の組立
積層体(発電素子)全体を、外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、電池外装材ないし電池ケースで一部を除いて封止する。未封止部分より電解液を真空注液(注入)する。その後、減圧下で未封止(開封)部分を封止することで、電池を組み立てる。好ましくは、放電前処理後、あるいは更に充放電を1サイクル〜数サイクル行った後に、封止部に一部を再度開封する。開封部より、電池外装材ないし電池ケース内に充放電により発生したガスを抜き取った後に、当該未封止(開封)部分を封止することで、電池を組み立てるのが望ましい。
【0149】
上記電池外装材ないし電池ケース内を封止する際には、電池の出力端子部となる正極集電板(正極用タブ)及び負極集電板(負極用タブ)の一部を、電池外装材ないし電池ケースで封止した状態を保持したままで、電池外部(電池外装材ないし電池ケースよりも外部)に取り出す。
【0150】
上記電池外装材ないし電池ケースの材質は、内面がポリプロピレンフィルム等の絶縁体で被覆された金属(アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅など)あるいは、外面も有機フィルムで絶縁された金属箔が好適である。
【0151】
(viii)電池組立後の放電前処理
上記(3)において説明した通りであるので、ここでは説明を省略するが、電池組立後に当該放電前処理を行うことで、本実施形態の積層型電池を製造(完成)することができるものである。
【0152】
以上が、本実施形態の積層型電池の製造方法の説明である。
【0153】
以下、本実施形態の製造方法により得られてなる非水二次電池の基本的な構成を図面を用いて説明する。
【0154】
[電池の全体構造]
本実施形態の製造方法により得られる非水二次電池は、初充電前から放電可能以上にLiを有してなる負極(=初充電前から放電可能である負極)、及び固溶体系の正極活物質を用いた正極が適用され、充放電前処理が行われてなるものであればよい。よって、他の構成要件に関しては特に制限されない。また、上記(1)〜(3)の特徴部(要件)については、本実施形態の製造方法で既に説明したので、以下の電池の基本的な構成の説明では、これらについての説明は省略する。
【0155】
上記非水二次電池を形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
【0156】
また、非水二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。ここで、非双極型電池では、バインダなどを用いて正極活物質または負極活物質等を正極用集電体または負極用集電体にそれぞれ塗布して電極(正極または負極)を構成する。双極型の電池の場合には、集電体の一方の面に正極活物質等を塗布して正極活物質層を、反対側の面に負極活物質等を塗布して負極活物質層を積層して双極型電極を構成する。
【0157】
以下の説明では、非水二次電池の代表的な実施形態として、非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池の場合を例に挙げて説明する。ただし、本実施形態の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0158】
図1は、本発明の一実施形態である、扁平型(積層型)の非双極型リチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の基本構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された負極と、電解質層17と、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された正極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの負極活物質層13とこれに隣接する正極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
【0159】
これにより、隣接する負極、電解質層および正極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、本実施形態の積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層負極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面または両面に正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0160】
負極集電体11および正極集電体12は、各電極(負極および正極)と導通される負極集電板25および正極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。負極集電板25および正極集電板27はそれぞれ、必要に応じて負極リードおよび正極リード(図示せず)を介して、各電極の負極集電体11および正極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0161】
以下、本実施形態の電池を構成する部材について、詳細に説明する。
【0162】
[正極(正極活物質)]
正極(正極活物質)については、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(1)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0163】
(導電助剤)
導電助剤についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(1)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0164】
(バインダ)
バインダについても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(1)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0165】
(導電結着材)
導電結着材についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(1)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0166】
(電解質・支持塩)
電解質・支持塩についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(1)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0167】
(正極集電体)
正極集電体についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(1)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0168】
[負極(負極活物質)]
負極(負極活物質)については、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(2)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0169】
(導電助剤)
導電助剤についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(2)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0170】
(バインダ)
バインダについても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(2)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0171】
(導電結着材)
導電結着材についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(2)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0172】
(電解質・支持塩)
電解質・支持塩についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(2)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0173】
(負極集電体)
正極集電体についても、「本実施形態の非水二次電池の製造方法の(1)〜(3)の特徴部」のうちの当該(2)の特徴部において、詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0174】
[電解質層]
電解質層は、非水電解質を含む層である。電解質層に含まれる非水電解質(具体的には、リチウム塩)は、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。非水電解質としてはかような機能を発揮できるものであれば特に限定されないが、液体電解質(電解液)またはポリマー電解質が用いられうる。
【0175】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0176】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0177】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されない。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。ここで、上記のイオン伝導性ポリマーは、活物質層において電解質として用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。電解液(電解質塩および可塑剤)の種類は特に制限されず、上記で例示したリチウム塩などの電解質塩およびカーボネート類などの可塑剤が用いられうる。
【0178】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。従って、電解質として真性ポリマー電解質を用いることで電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0179】
なお、電解質層が液体電解質やゲルポリマー電解質や真性ポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いる。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0180】
電解質層の厚さは、内部抵抗を低減させるには薄ければ薄いほどよいといえる。電解質層の厚さは、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μm、とするのがよい。
【0181】
[外装体]
リチウムイオン二次電池では、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、発電要素全体を外装体に収容するのが望ましい。外装体としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができほか、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた発電要素を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0182】
[電池の外観]
図3は、本発明の一実施形態である積層型電池の外観を模式的に表した斜視図である。図3に示すように、積層型電池10は、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、電池10の外装体29によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は負極集電板25および正極集電板27を引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素21は、図1に示す積層型電池10の発電要素21に相当し、負極(負極活物質層)13、電解質層17および正極(正極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0183】
なお、本実施形態のリチウムイオン電池は、図1に示すような扁平な形状(積層型)のものに制限されるわけではない。例えば、巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよい。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートシートを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよく、特に制限はない。
【0184】
また、図3に示す集電板25、27の取り出しに関しても、特に制限されず、負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよい。また、巻回型の双極型二次電池では、集電板に代えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0185】
本実施形態によれば、大きな放電容量を発現できる。更にサイクル耐久性が改善され、高エネルギー密度の電池を製造できる。よって、本実施形態の製造方法により得られた非水二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、好適に利用することができる。また高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源にも好適に利用することができる。
【実施例】
【0186】
本実施形態の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本実施形態の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0187】
1.固溶体系正極活物質の合成
固溶体系正極活物質Li[Ni0.183Li0.200Co0.033Mn0.583]O(これは0.6Li[Li1/3Mn2/3]O・0.4Li[Ni0.4575Co0.0825Mn0.4575]Oと表現できる)は、次のようにクエン酸法により合成した。
【0188】
(CHCOO)Ni・4HO、(CHCOO)Mn・4HO、(CHCOO)Co・4HO、CHCOOLi・2HOをそれぞれ上記固溶体系正極活物質中の各金属元素のモル比(原子比)となるように正確に量り取った。次に、正確に量り取った上記金属塩(4種類の合計量):クエン酸=1:1(モル比)となるように正確に量り取った。これらを試料ビーカーに入れ、超純水に溶解させ、水溶液とした後、スプレードライ装置にかけ(スプレードライ法により)、粉体の混合前駆体を得た。得られた混合前駆体(試料)をるつぼに入れ、大気下、450℃で10時間仮焼成した後、乳鉢に入れて45分間粉砕しハンドプレスを用いて3トンの圧力をかけペレット状に形成した。ペレット状にした試料を昇温時間7時間、焼成温度900℃で12時間、大気下で焼成を行った後、液体窒素を用いてクエンチ(急冷)を行い、目的の正極材料である固溶体系正極活物質(試料)を得た。
【0189】
2.試料(固溶体系正極活物質)の分析
(1)元素分析:得られた試料の組成比については、誘導結合プラズマ(ICP)元素分析を用いて組成を確認し、得られた試料が表1に示す組成となっていることを確認した。
【0190】
(2)粉末X線回折:また、得られた試料について、粉末X線回折法により結晶構造を調べ、回折パターンを図4に示す。得られた試料は、図4の2θが21から25°の超格子ピークを除いてR−3mで指数付け可能で、目的の化合物が得られたことが確認できた。さらに、得られた試料の格子定数(a、c)、格子体積、格子定数比(c/a)、強度比(I003/I104)は、表1のようになった。a=2,856Å、c=14.233Åであった。
【0191】
【表1】

【0192】
3.評価用セル(コイン電池)の作製
電極は、上記1で得られた表1のサンプル(固溶体系正極活物質)を20mg、導電結着材としてTAB−2を12mg量り取り、混練法を用いて、メノウ乳鉢に入れ、混練し、直径16mmのペレットに成形した。これを同径のステンレスメッシュ(集電体)上に載せ、2トン(0.99ton/cm)の圧力で圧着し、真空下、120℃で4時間乾燥させて電極(作用極)を作製した。上記導電結着材のTAB−2は、Teflonized acetylene black(テフロン(商標)加工されたアセチレンブラック)である。
【0193】
評価用セル(コイン電池)は、作用極に作製した上記電極(正極)を、対極に直径15mmの金属リチウム箔(負極)を用い、セパレータとしてガラスろ紙を用いてセルを組んだ。電解液にはLiPFを含むEC:DMC=1:2(体積比)の混合溶媒を使用して乾燥アルゴン雰囲気のグローブボックス内で評価用セル(コイン電池)を作製した。
【0194】
作製したコイン電池の充放電(試験条件)は、室温にて、実施例ごとに電圧範囲を変更しながら、電流密度0.2mA/cmで行った。
実施例1
電池の充放電方法:作製したコイン電池を定電流にて、下限電圧が1.2Vになるまで放電(1回目放電)して放電前処理を行った後、上限電圧が4.4Vになるまで初期充電(1回目充電)してから、2.0Vまで初期放電(2回目放電)した。そのときの充放電曲線を図5に示す。このときの放電容量としては正極の質量基準で195mAh/gであった。この電池について、その後、4.4V(上限充電電位)と2.0V(放電下限電位)との間(単に、4.4V−2.0V間とも記す)にてサイクル試験を行った。
実施例2
最初の放電時(放電前処理の放電時(1回目放電時))の下限電圧を1.0Vにした以外は実施例1と同様にして新しい電池(上記1〜3により作製したコイン電池)にて充放電を行った。そのときの充放電曲線を図6に示す。このときの放電容量としては正極の質量基準で240mAh/gであった。
比較例1
新しい電池(上記1〜3により作製したコイン電池)を用いて、実施例1、2とは異なり、最初の放電前処理を行わないで、4.4Vまで充電後2.0Vまで放電した。このときの充放電曲線を図7に示す。このときの放電容量は、正極の質量基準で102mAh/gであった。
【0195】
得られたデータを表2にまとめて示した。
【0196】
【表2】

【0197】
表2からわかるように、放電前処理を行っていない比較例1では電池正極として望ましい4.5Vを超えない電位領域(4.4V−2.0Vの間)での使用できる容量は、102mAh/gに過ぎない。しかしながら、1.5V以下の電圧まで放電前処理を行うことにより、実施例1、2で示されたように倍近い容量を使用できるようになることが示された。
実施例3
次に、実施例2と同じ放電下限電位であるが、放電前処理の下限電位を一気に1.2Vまでせずに、1.5V−4.4V、1.4V−4.4V、1.3V−4.4V、1.2V−4.4Vと段階的に2サイクルづつ放電前処理を行った。その後、4.4V−2.0V間で充放電サイクル試験を行い結果を、実施例1の結果とあわせて図8に示した。
【0198】
図8からわかるように、放電前処理の放電下限電位を徐々に下げて放電前処理を行うことにより、より大きな容量を維持できるようになる。
実施例4
図9には、比較例1に示した4.4V−2.0V間での充放電後、更に初期の放電を連続して2.0V−1.0V間まで続けた後、4.4Vまで充電してから次の放電時に2.0Vを下回って1.0Vまで放電したときの充放電曲線を示した。
【0199】
ここで有効な放電前処理は、電池の充放電のはじめに行うのが好ましいが、電池の用途に応じて比較例1に対応する容量のみを使ってから本実施形態の放電前処理を行ってもよく、更に2.0Vより低い電位の容量を使用してもよい。
【符号の説明】
【0200】
10 積層型電池、
11 負極集電体、
12 正極集電体、
13 負極活物質層(負極)、
15 正極活物質層(正極)、
17 電解質層、
19 単電池層(単セル)、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 外装体(ラミネートシート)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要な正極活物質が下記化学式1で表される非水二次電池の製造方法において、
負極が初充電前から放電可能以上にLiを有しており、
正極がリチウム参照電極基準で1.5V以下の電位まで放電前処理されることを特徴とする非水二次電池の製造方法:
【化1】

(0<a<1、w+x+y+z=1、0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、Aは金属元素である。)。
【請求項2】
前記正極がリチウム参照電極基準で1.0V以上1.5V以下の電位まで放電前処理されることを特徴とする請求項1に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項3】
負極の主要活物質がSi、SiO、Snおよびこれらの複合体、リチウム合金、並びにリチウム金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項1または2記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記放電前処理の充放電時の放電時において、放電下限電位を徐々に下げて充放電を繰り返して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水二次電池の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−204563(P2011−204563A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72366(P2010−72366)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代自動車用高性能蓄電システム/技術開発要素技術開発/高容量電池の研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】