説明

非水電解液二次電池

【課題】電池特性を低下させることなく、過充電時におけるガスの発生量を増加させることが可能な非水電解液二次電池を提供することである。
【解決手段】本発明にかかる非水電解液二次電池は、正極および負極と、過充電時に正極において分解反応することでガスを発生するガス発生添加剤を含む非水電解液と、発生したガスに応じて電流を遮断する電流遮断部と、を備える。正極は、活物質と、第1導電材と、当該第1導電材を分散させるポリビニルアセタール系の分散剤と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池(例えば、リチウム二次電池)の安全性を向上させるための技術の一つに、CID(Current Interrupt Device)機構がある。一般的に、リチウム二次電池を過充電した場合、電解液が電気分解されてガスや熱が発生する。CID機構は、過充電時に発生したガスや熱を検知することで、リチウム二次電池の充電を停止する機構である。
【0003】
特許文献1には、過充電防止効果が高く、高温保存特性に優れた非水電解液、およびそれを用いた過充電時の安全性を高めたリチウム二次電池に関する技術が開示されている。特許文献1に開示されているリチウム二次電池に用いられている非水電解液は、塩素原子置換ビフェニル、塩素原子置換ナフタレン、塩素原子置換フルオレン、塩素原子置換ジフェニルメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩素原子置換芳香族化合物と、スルホニル基を有する化合物、その他の非水溶媒およびリチウム含有電解質とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−87168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
背景技術で説明したように、CID機構は、過充電時に発生したガスや熱を検知することで、リチウム二次電池の充電を停止する機構である。例えば、過充電時に発生したガスを検知することで充電を停止するCID機構では、CID機構を適切に動作させるために、過充電時におけるガスの発生量を増加させる必要がある。このため、電解液に所定の量のガス発生添加剤を添加する必要がある。
【0006】
しかしながら、ガス発生添加剤は電池抵抗の増加や耐久性の劣化など電池特性を低下させるため、ガス発生添加剤の添加量は可能な限り少なくする必要がある。一方、ガス発生添加剤の添加量を少なくすると、過充電時におけるガスの発生量が少なくなり、適切にCID機構が動作しなくなるという問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み本発明の目的は、電池特性を低下させることなく、過充電時におけるガスの発生量を増加させることが可能な非水電解液二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる非水電解液二次電池は、正極および負極と、過充電時に前記正極において分解反応することでガスを発生するガス発生添加剤を含む非水電解液と、前記発生したガスに応じて電流を遮断する電流遮断部と、を備える非水電解液二次電池であって、前記正極は、活物質と、第1導電材と、当該第1導電材を分散させるポリビニルアセタール系の分散剤と、を含む。
【0009】
前記非水電解液二次電池において、前記第1導電材は鱗片状黒鉛であってもよい。
【0010】
前記非水電解液二次電池において、前記第1導電材は、粒径が2.0〜20.0μmであり、且つアスペクト比が10〜1000であってもよい。
【0011】
前記非水電解液二次電池において、前記正極は更に第2導電材を有していてもよい。
【0012】
前記非水電解液二次電池において、前記第2導電材は、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、前記第1導電材は、前記活物質間を直接または前記第2導電材を介して接続していてもよい。
【0013】
前記非水電解液二次電池において、前記第2導電材はアセチレンブラックであってもよい。
【0014】
前記非水電解液二次電池において、前記アセチレンブラックの粒径は1.0〜2.0μmであってもよい。
【0015】
前記非水電解液二次電池において、前記ガス発生添加剤は、シクロヘキシルベンゼンおよびビフェニルの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、電池特性を低下させることなく、過充電時におけるガスの発生量を増加させることが可能な非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態にかかるリチウム二次電池の正極の構造を説明するための図である。
【図2】リチウム二次電池の正極に析出物が析出した状態を説明するための図である。
【図3】実施例にかかるリチウム二次電池の正極の材料と組成を示す表である。
【図4】実施例にかかるリチウム二次電池の正極の構造を示す断面図である。
【図5】発生したガスの量を測定する方法を説明するための図である。
【図6】正極の分散剤と過充電時のガス発生量との関係を示すグラフである。
【図7A】CV測定用の正極を示す図である。
【図7B】CV測定用の負極を示す図である。
【図7C】CV測定用の参照極を示す図である。
【図8】CV測定用の試験用セルを示す図である。
【図9】CV測定結果を示す図である(ガス発生添加剤なし)。
【図10】CV測定結果を示す図である(ガス発生添加剤あり)。
【図11】ポリビニルアセタール系分散剤の構造式である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態にかかる非水電解液二次電池(以下、リチウム二次電池)について説明する。本実施の形態にかかるリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解液、および電流遮断部を少なくとも備える。
【0019】
<正極>
正極は、活物質(正極活物質)と、第1導電材と、当該第1導電材を分散させるポリビニルアセタール系の分散剤とを少なくとも含む。
【0020】
正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。例えば、これらの材料を等しい割合で混合したLiNi1/3Co1/3Mn1/3を用いることができる。正極活物質としては、例えば粒径が4.0〜7.0μm(D50:メジアン径)の材料を用いることができる。なお、本明細書に記載してある粒径は、日機装社製マイクロトラックMT3000IIを用いて、レーザ回折・散乱法により測定した。また、正極活物質はこれらの材料に限定されることはなく、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であればどのような材料であってもよい。
【0021】
第1導電材としては、アスペクト比が高い導電性の材料を用いることができる。例えば、第1導電材として鱗片状黒鉛を用いることができる。第1導電材の粒径(二次粒径)は、例えば2.0〜20.0μm(D50:メジアン径)である。また、第1導電材のアスペクト比は、例えば10〜1000である。
【0022】
分散剤としては、例えばポリビニルアセタール系の分散剤(バインダー型の分散剤)を用いることができる。ポリビニルアセタール系の分散剤は、分散剤自体が分解することがなく(分解したとしても少量である)、また正極に析出しないため(析出したとしても少量である)、分散剤の析出による電池特性の低下を抑制することができる。図11は、ポリビニルアセタール系分散剤の構造式である。l、m、nの値は任意に決定することができる。Rは任意のアルキル基である。ポリビニルアセタール系の分散剤としては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルベンザール、ポリビニルフェニルアセタール、およびこれらの共重合体等を挙げることができる。
【0023】
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池の正極は、第2導電材を含んでいてもよい。第2導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック等のカーボンブラックを用いることができる。例えば、アセチレンブラックの一次粒径は30〜50nmであり、二次粒径は1.0〜2.0μmである。
【0024】
本実施の形態にかかるリチウム二次電池の正極は、正極活物質と、第1導電材と、第2導電材(第2導電材を含む場合)と、分散剤と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の合剤を正極集電体上に塗布し乾燥することによって作製することができる。
【0025】
ここで、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。また、正極集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。
【0026】
<負極>
負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。そして、正極と同様に、負極活物質と、分散剤と、バインダーとを混練し、混練後の合剤を負極集電体上に塗布し乾燥することによって負極を作製することができる。ここで、負極集電体として、例えば銅やニッケルあるいはそれらの合金を用いることができる。
【0027】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0028】
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池の非水電解液は、過充電時に正極において分解反応することでガスを発生するガス発生添加剤を含む。ここで、ガス発生添加剤としては、例えばシクロヘキシルベンゼン(CHB)、ビフェニル(BP)、またはこれらの混合物を用いることができる。なお、ガス発生添加剤はこれらの材料に限定されることはなく、過充電時に正極において分解反応することでガスを発生する材料であればどのような材料であってもよい。
【0029】
<セパレータ>
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池は、セパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することができる。
【0030】
<リチウム二次電池>
上述のように作製した正極および負極の間にセパレータを介在させて積層した後、当該積層体を扁平に捲回された形態(捲回電極体)とする。そして、当該捲回電極体を収容し得る形状の容器に捲回電極体を収容する。容器は、上端が開放された扁平な直方体状の容器本体と、その開口部を塞ぐ蓋体とを備える。容器を構成する材料としては、アルミニウム、スチール等の金属材料を用いることができる。また、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形した容器を用いてもよい。 容器の上面(つまり、蓋体)には、捲回電極体の正極と電気的に接続される正極端子および当該捲回電極体の負極と電気的に接続される負極端子が設けられている。また、容器の内部には、非水電解液が収容されている。
【0031】
<電流遮断部>
電流遮断部は、過充電時にガス発生添加剤が正極において分解反応することで発生したガスに応じて電流を遮断する。つまり、電流遮断部は、過充電時に発生したガスによってリチウム二次電池内部の圧力が所定値以上になると、リチウム二次電池の充電を停止する。電流遮断部としては、例えば、リチウム二次電池の内部圧力が上昇した際にリチウム二次電池の容器が変形することで、リチウム二次電池に供給される電流を遮断する機構を用いることができる。このような機構としては、例えば、リチウム二次電池の容器が変形することで、リチウム二次電池の正極および負極の少なくとも一方に電流を供給する配線が切断して充電が停止する機構を用いることができる。また、リチウム二次電池の容器の変形を検知するセンサと、このセンサの測定結果に応じて充電を停止する回路とを設け、センサで容器の変形を検知した際にリチウム二次電池の充電を停止するように構成してもよい。また、リチウム二次電池の容器の内部圧力を検知する圧力センサと、この圧力センサの測定結果に応じて充電を停止する回路とを設け、容器の内部圧力が所定の圧力以上になった場合にリチウム二次電池の充電を停止するように構成してもよい。
【0032】
以上で説明した本実施の形態にかかるリチウム二次電池により、電池特性を低下させることなく、過充電時におけるガスの発生量を増加させることが可能なリチウム二次電池を提供することができる。
【0033】
背景技術で説明したように、過充電時に発生したガスを検知することでリチウム二次電池の充電を停止するCID機構では、CID機構を適切に動作させるために過充電時におけるガスの発生量を増加させる必要がある。このため、電解液に所定の量のガス発生添加剤を添加する必要があった。
【0034】
しかしながら、ガス発生添加剤は電池抵抗の増加や耐久性の劣化など電池特性を低下させるため、ガス発生添加剤の添加量は可能な限り少なくする必要があった。一方、ガス発生添加剤の添加量を少なくすると、過充電時におけるガスの発生量が少なくなり、適切にCID機構が動作しなくなるという問題があった。
【0035】
また、図2に示すように、例えば顔料誘導体型の分散剤を用いた場合は、時間が経過するにつれて分散剤に起因する析出物22が正極21に析出する。比較的析出物22が少ない場合(図2の左図)、ガス発生添加剤(例えば、シクロヘキシルベンゼン(CHB))は、正極21において酸化分解することでガスを発生する。しかし、析出物22が次第に増加し、正極21の表面が析出物22によって覆われると(図2の右図)、析出物22自体は導電性が比較的低いため、シクロヘキシルベンゼン(CHB)の酸化分解反応が阻害される。つまり、シクロヘキシルベンゼン(CHB)から正極21への電子の受け渡しが妨げられるため、シクロヘキシルベンゼン(CHB)の酸化分解反応が阻害される。このため、正極21に析出する性質を持つ分散剤を用いた場合は、ガス発生添加剤の正極における酸化分解反応が阻害され、このため過充電時におけるガスの発生量が少なくなるという問題があった。
【0036】
このような課題を解決するために、本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、正極の分散剤にポリビニルアセタール系の分散剤を用いている。このように、ポリビニルアセタール系の材料を分散剤として用いることで、第1導電材の分散度合いを向上させることができ、正極におけるガス発生添加剤の酸化分解反応を促進することができる。また、ポリビニルアセタール系の分散剤は、分散剤自体が分解することがなく(分解したとしても少量である)、また正極に析出しないため(析出したとしても少量である)、分散剤の析出による電池特性の低下を抑制することができる。また、正極に分散剤が析出しないため、ガス発生添加剤の正極における酸化分解反応が阻害されることもなく、したがって、過充電時におけるガスの発生量が減少することを抑制することができる。
【0037】
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、第1導電材として鱗片状黒鉛を用いてもよい。このように、比較的アスペクト比が高い材料(例えば、10〜1000)を用いることで、第1導電材の分散度合いが向上したことに起因する正極活物質間の導電パスの減少を抑制することができる。
【0038】
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池の正極に、第1導電材に加えて、アセチレンブラック等の第2導電材を用いてもよい。つまり、アセチレンブラック等の第2導電材が正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、鱗片状黒鉛等の第1導電材が正極活物質間を直接または第2導電材を介して接続されるようにしてもよい。
【0039】
図1は、本実施の形態にかかるリチウム二次電池の正極の構造を説明するための図である。図1に示すように、リチウム二次電池の正極は、正極活物質11、第1導電材12、および第2導電材13を含む合剤が正極集電体15上に塗布されている。本実施の形態では、ポリビニルアセタール系の分散剤を用いているので、第1導電材12の分散度合いが向上している。これにより、正極を構成する正極活物質11や第1導電材12の互いの距離を離すことができ(つまり、正極に空隙を形成することができ)、発生したガスを正極から容易に放出することができるようになる。
【0040】
また、図1に示すように、本実施の形態では、正極活物質11の表面に第2導電材13を付着させ、且つ第1導電材として鱗片状黒鉛を用いることで、第1導電材12の分散度合いを向上させつつ、正極活物質11の間、正極活物質11と第2導電材13との間、および第2導電材13の間の導電パスを確保することができる。よって、正極における電子の受け渡し場所を増加させることができるので、電解液中のガス発生添加剤の酸化分解反応を促進させることができる。よって、ガス発生添加剤の添加量を増加させることなく、過充電時におけるガスの発生量を増加させることができる。
【0041】
以上で説明した本実施の形態にかかるリチウム二次電池により、電池特性を低下させることなく、過充電時におけるガスの発生量を増加させることが可能なリチウム二次電池を提供することができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例について説明する。
<リチウム二次電池の作製>
まず、正極の作製方法について説明する。図3に正極の作製に用いた材料とその組成を示す。正極活物質として90.8重量%のLiNi1/3Co1/3Mn1/3を、第1導電材として3.0重量%の黒鉛系材料(鱗片状黒鉛)を、第2導電材として3.0重量%のアセチレンブラック(AB)(電気化学工業株式会社製:HS100)を、バインダーとして3.0重量%のポリフッ化ビニリデン(PVdF)(株式会社クレハ製:#1300)を、分散剤として0.2重量%のポリビニルアセタール(PVA)系材料(積水化学工業株式会社製:BX−L)を、それぞれ用いた。
【0043】
まずNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液にバインダー(PVdF)と分散剤(PVA)とを加えて混合した。その後、アセチレンブラック(AB)と黒鉛系材料を更に加えて混練して正極合剤ペーストを作製した。正極合剤ペーストの固形分比率NVは60〜75重量%とした。なお、正極合剤ペーストの混練は、予めアセチレンブラック(AB)と黒鉛系材料とを混合し、その後、バインダー(PVdF)と分散剤(PVA)とを加えたNMP溶液を添加して混練してもよい。
【0044】
その後、正極集電体であるアルミニウム箔(12〜15μm)上に、上記のようにして作製した正極合剤ペーストを塗布した。正極合剤ペーストを塗布した後、温度150℃、風速5m/secの条件で乾燥させた。以上で説明した方法により、図4に示すような、12〜15μmのアルミニウム箔上に50〜100μmの厚さの正極合剤層を有する正極を作製した。
【0045】
次に、負極の作製方法について説明する。まず、天然黒鉛粉末と、SBR(スチレンブタジエンゴム)と、CMC(カルボキシメチルセルロース)とを、これらの材料の質量比が98.6:0.7:0.7となるように水に分散させて負極合剤ペーストを作製した。その後、この負極合剤ペーストを厚さ10μmの銅箔(負極集電体)に塗布して乾燥することにより、負極を作製した。
【0046】
上記の方法で作製した正極および負極を2枚のセパレータ(多孔性ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)を介して積層し、この積層体を非水電解液と共に電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。非水電解液としては、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを使用した。また、ガス発生添加剤として、2重量%のシクロヘキシルベンゼン(CHB)および2重量%のビフェニル(BP)を添加した。このようにして、試験用のリチウム二次電池を作製した。
【0047】
<発生したガスの測定>
発生したガスの量の測定は次の方法で行った。まず、電池容器としてのラミセルの中に、上記の方法で作製した正極、負極、およびセパレータの積層体と、非水電解液とを収容し、収容後のラミセルの体積(初期値:Va)を測定した。ラミセルの体積の測定は次の方法で行った。図5に示すように、ビーカー25にフッ素系液体26(3M社製フロリナート(登録商標))を所定量注いだ。そして、積層体および非水電解液を収容したラミセル27をフッ素系液体26が入ったビーカーに沈めて、ラミセル27を入れた際に増加したフッ素系液体28の重さを測定した。測定したフッ素系液体28の重さとフッ素系液体の密度を用いて、ラミセル27の体積を算出した。
【0048】
そして、上記の方法で作製したリチウム二次電池を過充電状態にして所定の時間保持し、ガスを発生させた。その後、上記の方法を用いてラミセルの体積(Vb)を測定し、ガス発生後のラミセルの体積(Vb)からラミセルの体積の初期値(Va)を減算することで、発生したガスの量を求めた。
【0049】
図6は、正極の分散剤と過充電時のガス発生量の関係を示すグラフである。比較例および実施例の測定に用いた試験装置は分散剤のみが異なり、これ以外の装置構成、材料組成等は同一である。図6に示すように、分散剤にトリアジン誘導体を用いた場合(比較例)は、過充電時のガス発生量が45cc/Ahであった。一方、分散剤にポリビニルアセタール(PVA)系の材料を用いた場合(本実施例)は、過充電時のガス発生量が82cc/Ahであった。よって、分散剤にポリビニルアセタール系の材料を用いた場合(本実施例)のほうが、分散剤にトリアジン誘導体を用いた場合(比較例)よりも、過充電時のガス発生量が約2倍程度多いことがわかった。
【0050】
これは、本実施例では、分散剤にポリビニルアセタール系の材料を用いているので、第1導電材料や第2導電材料の分散度合いが向上し、ガス発生添加剤の電子の受け渡し場所が増加し、ガス発生添加剤の酸化分解反応を促進させることができたためであると考えられる。
【0051】
<ポリビニルアセタール系の分散剤が分解しないことの確認>
3極式のサイクリックボルタンメタリー測定(以下、CV測定と記載する)を用いて、分散剤であるポリビニルアセタール系の材料が分解しないことを確認した。CV測定用の装置は以下のようにして作製した。
【0052】
まず、正極の作製方法について説明する。NMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液にバインダー(PVdF:株式会社クレハ製:#1300)と分散剤(PVA:積水化学工業株式会社製:BX−L)とを加えて、プライミクス株式会社T.K.ロボミックス(登録商標)を用いて2000rpmで10分間混合した。その後、アセチレンブラック(AB:電気化学工業株式会社製、HS100)を更に加えて、3000rpmで10分間混練し、正極合剤ペーストを作製した。
【0053】
その後、正極集電体であるアルミニウム箔上に、上記のようにして作製した正極合剤ペーストを塗布した。合剤ペーストの塗布には、アプリケーター(RK Print Coat Instruments社製K101)を用いた。合剤ペーストを塗布した後、温度100℃の環境で10分間乾燥させた。
【0054】
そして、図7Aに示すように、上記の方法により作製した正極を所定の冶具を用いて10mm×70mmに切断し、10mm×10mmの反応面31以外の正極合剤層を剥離した。その後、反応面31と端子接続部33以外をポリイミドテープ32で絶縁した。つまり、図5Aに示す正極の反応面31は正極合剤層が露出しており、端子接続部33はアルミニウム箔が露出している。
【0055】
次に、負極の作製方法について説明する。図7Bに示すように、ニッケル箔を所定の冶具を用いて15mm×70mmに切断し、15mm×15mmのリチウム貼り付け面(符号41に対応)をサンドペーパー(800#)で研磨した。その後、研磨後のニッケル箔をエタノールに浸して15分間超音波洗浄した。次に、15mm×15mmに切断したリチウム箔をニッケル箔の研磨面(符号41に対応)に圧着した。そして、反応面41と端子接続部43以外をポリイミドテープ42で絶縁した。つまり、図7Bに示す負極の反応面41はリチウム箔が露出しており、端子接続部43はニッケル箔が露出している。
【0056】
次に、セパレータとして、多孔性ポリエチレン膜を所定の冶具で15mm×30mmに切断した。その後、切断した材料を半分に折り返し、両端を半田ごてを用いて溶着した。
【0057】
上記正極、負極、セパレータの作製はドライルームで行った。また、CV測定用装置を組み立てるための試験用セル容器をアセトンで洗浄した。その後、正極、負極、セパレータ、ガラス容器を60℃で10時間真空乾燥した。
【0058】
次に、下記の手順により、グローボックス内でCV測定用装置を組み立てた。
まず、図7Cに示すように、参照極50として用いるリチウム箔を所定の冶具を用いて5mm×70mmに切断した。その後、負極40の反応面41の裏面に参照極50を貼り付けた。そして、図8に示すように、正極(WE:Working Electrode)30、セパレータ60、負極(CE:counter electrode)40、参照極(RE:reference electrode)50の順に重ね合わせてガラス板で拘束して試験用セルを作製した。このとき、正極の反応面31と負極の反応面41が共にセパレータ60側になるように配置した。その後、ガラス容器に試験用セルを入れて固定した。更に、ガラス容器に非水電解液65を試験用セルの反応面が完全に浸漬する程度に注入し、60kRaの条件で5回含浸処理を実施した。非水電解液としては、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを使用した。そして、ガラス容器と試験用セルを試験用セル容器に収納し、クランプを締めてリーク弁を閉じて完全に密封した。
【0059】
次に、上記の方法で作製した試料についてCV測定を実施した。測定条件は、設定温度25℃(恒温槽)、掃引速度0.06mV/s、掃引範囲2.0〜4.3V vs Li/Li(2サイクルまたは5サイクル)とした。
【0060】
図9は、非水電解液にガス発生添加剤(CHB、BP)を添加していない場合のCV測定結果(2サイクル)である。図9に示すように、非水電解液にガス発生添加剤(CHB、BP)を添加していない場合は、掃引範囲2.0〜4.3Vにおいて電流の値がほぼ一定となった。特に、4.0V以上の過充電領域においても、電流の値が大幅に増加することなくほぼ一定となった。よって、図9に示すCV測定結果より、正極に含まれる分散剤(ポリビニルアセタール系の材料)は過充電領域においても分解しないことがわかった。よって、分散剤が分解して正極に析出することがないため(析出したとしても少量である)、分散剤の析出による電池特性の低下を抑制することができる。
【0061】
図10は、非水電解液にガス発生添加剤(CHB、BP)を添加した場合のCV測定結果(5サイクル)である。図10に示す測定結果は、ガス発生添加剤として、非水電解液にCHBおよびBPをそれぞれ2重量%ずつ添加した場合を示している。図10に示すように、非水電解液にガス発生添加剤(CHB、BP)を添加した場合においても、掃引範囲が2.0〜4.0Vの範囲において電流の値がほぼ一定となった。一方、掃引範囲が4.0V以上の過充電領域では、電流の値が急激に増加した。つまり、図10に示すCV測定結果より、過充電領域では、非水電解液に添加したガス発生添加剤(CHB、BP)が正極において酸化分解反応し、Hガスが発生することがわかった。このとき、正極に分散剤が析出しないため、ガス発生添加剤の正極における酸化分解反応が阻害されることもなく、したがって、過充電時におけるガスの発生量が減少することを抑制することができる。
【0062】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
11 正極活物質
12 第1導電材
13 第2導電材
15 正極集電体
21 正極
22 析出物
30 正極
31 反応面
32 ポリイミドテープ
33 端子接続部
40 負極
41 反応面
42 ポリイミドテープ
43 端子接続部
50 参照極
60 セパレータ
65 非水電界液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と、
過充電時に前記正極において分解反応することでガスを発生するガス発生添加剤を含む非水電解液と、
前記発生したガスに応じて電流を遮断する電流遮断部と、を備える非水電解液二次電池であって、
前記正極は、活物質と、第1導電材と、当該第1導電材を分散させるポリビニルアセタール系の分散剤と、を含む、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記第1導電材は鱗片状黒鉛である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記第1導電材は、粒径が2.0〜20.0μmであり、且つアスペクト比が10〜1000である、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記正極は更に第2導電材を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記第2導電材は、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、
前記第1導電材は、前記活物質間を直接または前記第2導電材を介して接続している、
請求項4に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記第2導電材はアセチレンブラックである、請求項4または5に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記アセチレンブラックの粒径は1.0〜2.0μmである、請求項6に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
前記ガス発生添加剤は、シクロヘキシルベンゼンおよびビフェニルの少なくとも一つを含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−93109(P2013−93109A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232686(P2011−232686)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】