説明

非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池

【課題】過充電時のガスの発生量の減少を防ぎつつ出力特性を向上させることができる非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、電池1の製造方法において、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して焼成したものであってタングステンが添加された焼成物を生成する焼成工程と、前記の焼成物を水洗いする水洗い工程と、前記の焼成物を水洗いした後に得られるタングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子を含む正極活物質層をアルミニウム箔に形成することにより正極板10を作成する正極板作成工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子を含む正極活物質層を備える正極板を有する非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車、電気自動車などの車両や、ノート型パソコン、ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器の駆動用電源に、充放電可能な電池が利用されている。このような電池として、例えば、電流遮断機構(安全機構)を備え、電解液にシクロヘキシルベンゼンなどのガス発生剤を含んだ非水電解質二次電池(密閉型電池)が存在する。この非水電解質二次電池では、過充電時に、正極や電解液中に添加されたガス発生剤の分解反応を起点として、電池ケースの内圧が上昇することにより、電流遮断機構が作動する。
【0003】
ここで、特許文献1には、非水電解質二次電池用の電極において、正極活物質粒子の表面にタングステンを添加することにより、電池の出力特性を向上させようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−251716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電流遮断機構を備える非水電解質二次電池では、ガス発生剤が正極上で分解・重合反応を起こしてプロトンを放出し、放出されたプロトンが拡散、泳動して負極上で電子を受け取ることにより、ガスを発生する。そして、電池ケースの内圧が所定の圧力値以上に上昇したときに、電流遮断機構が電極体を流れる電流の遮断(安全確保動作)を行って、電池の充電(過充電)を停止させる。
【0006】
そのため、特許文献1の技術を前記の電流遮断機構を備える非水電解質二次電池に適用すると、正極活物質粒子の表面に添加したタングステンの濃度が高いので、ガス発生剤と正極との反応場が減少し、ガスが発生し難くなる。したがって、過充電時に発生するガス量が減少して、電池ケースの内圧が上昇し難くなる。ゆえに、過充電時に電流遮断機構が安定して作動しないおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、過充電時のガスの発生量の減少を防ぎつつ出力特性を向上させることができる非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、正極板と、負極板と、電解液と、過充電時にガスを発生させるガス発生剤と、過充電時に発生する前記ガスにより電池ケースの内圧が上昇したときに充電を停止させる電流遮断機構と、を有する非水電解質二次電池の製造方法において、遷移金属化合物とリチウム化合物とを混合して焼成したものであってタングステンが添加された焼成物を生成する焼成工程と、前記焼成物を水洗いする水洗い工程と、前記焼成物を水洗いした後に得られる前記タングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子を含む正極活物質層を正極集電体に形成することにより前記正極板を作成する正極板作成工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
この態様によれば、正極板に形成される正極活物質層に含まれる正極活物質粒子の表面において、タングステンの濃度を低減できる。そのため、ガス発生剤と正極板との反応場の減少を抑制することができる。したがって、非水電解質二次電池の過充電時において、ガス発生剤が正極板上で分解・重合反応を起こしてプロトンが放出されることが促進され、放出されたプロトンが拡散、泳動して負極板上で電子を受け取ることにより発生するガスの量が増加する。また、正極活物質粒子はタングステンを添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなるものであるので、非水電解質二次電池の出力特性(放電特性など)が向上する。以上のようにして、非水電解質二次電池の過充電時におけるガス発生剤と正極板との分解反応を起点として発生するガスの量の減少を防ぎつつ、非水電解質二次電池の出力特性を向上させることができる。そして、非水電解質二次電池の過充電時に電池ケースの内圧が上昇したときに、安定して電流遮断機構により充電を停止させることができる。
【0010】
非水電解質二次電池の製造方法における上記態様においては、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率は0.8mol%以下であり、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率と、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面から0.2nmの深さでのタングステンのモル分率との比は0.98〜1.02であること、が好ましい。
【0011】
この態様によれば、1つの正極活物質粒子における粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率は、当該正極活物質粒子の表面の位置と当該正極活物質粒子の表面から0.2nmの深さの位置において、ほぼ同等である。このように、正極活物質粒子の表面と同様に、正極活物質粒子の表面から0.2nmの深さにおいてもタングステンの濃度が低い。そのため、ガス発生剤と正極板との反応場が十分に確保されるので、非水電解質二次電池の過充電時において、ガスの発生量がより確実に増加する。
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の態様は、正極板と、負極板と、電解液と、過充電時にガスを発生させるガス発生剤と、過充電時に発生する前記ガスにより電池ケースの内圧が上昇したときに充電を停止させる電流遮断機構と、を有する非水電解質二次電池において、前記正極板は、タングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子を含む正極活物質層を正極集電体に形成されたものであり、前記タングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属化合物とリチウム化合物とを混合して焼成したものであってタングステンが添加された焼成物を水洗いした後に得られたものであること、を特徴とする。
【0013】
この態様によれば、正極板に形成される正極活物質層に含まれる正極活物質粒子の表面において、タングステンの濃度を低減できる。そのため、ガス発生剤と正極板との反応場の減少を抑制することができる。したがって、非水電解質二次電池の過充電時において、ガス発生剤が正極板上で分解・重合反応を起こしてプロトンが放出されることが促進され、放出されたプロトンが拡散、泳動して負極板上で電子を受け取ることにより発生するガスの量が増加する。また、正極活物質粒子はタングステンを添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなるものであるので、非水電解質二次電池の出力特性(放電特性など)が向上する。以上のようにして、非水電解質二次電池の過充電時におけるガス発生剤と正極板との分解反応を起点として発生するガスの量の減少を防ぎつつ、非水電解質二次電池の出力特性を向上させることができる。そして、非水電解質二次電池の過充電時に電池ケースの内圧が上昇したときに、安定して電流遮断機構により充電を停止させることができる。
【0014】
非水電解質二次電池における上記態様においては、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率は0.8mol%以下であり、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率と、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面から0.2nmの深さでのタングステンのモル分率との比は0.98〜1.02であること、が好ましい。
【0015】
この態様によれば、1つの正極活物質粒子における粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率は、当該正極活物質粒子の表面の位置と当該正極活物質粒子の表面から0.2nmの深さの位置において、ほぼ同等である。このように、正極活物質粒子の表面と同様に、正極活物質粒子の表面から0.2nmの深さにおいてもタングステンの濃度が低い。そのため、ガス発生剤と正極板との反応場が十分に確保されるので、非水電解質二次電池の過充電時において、ガスの発生量がより確実に増加する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池によれば、過充電時のガスの発生量の減少を防ぎつつ出力特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施例の非水電解質二次電池の斜視図である。
【図2】正極活物質粒子の各深さにおけるモル分率の評価結果を示す図である。
【図3】正極活物質粒子の各深さにおける表面タングステン比を示す図である。
【図4】正極活物質粒子の表面の位置におけるタングステンの濃度を、正極活物質粒子の表面から深さ0.2nmの位置におけるタングステンの濃度で除算することにより算出された指数を示す図である。
【図5】非水電解質二次電池の放電特性の評価結果を示す図である。
【図6】非水電解質二次電池の放電特性の評価結果を示す図である。
【図7】過充電時における電流遮断装置の作動に関する評価結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
〔非水電解質二次電池〕
まず、本実施例の非水電解質二次電池(以下、主に「電池」と表記する)について説明する。最初に、本実施例の電池1の構成について説明する。本実施例の電池1は、図1に示すように、正極板10及び負極板12を含む電極体14と、シクロヘキシルベンゼンからなるガス発生剤を含有する電解液16と、これら電極体14及び電解液16を収容してなる電池ケース18とを有する密閉型のリチウムイオン二次電池である。また、この電池1は、負極端子構造体20と、正極端子構造体22と、この正極端子構造体22に、電極体14を流れる電流の遮断(安全確保動作)を行う電流遮断装置SD(電流遮断機構(CID:Current Interrupt Device))を備える。
【0020】
正極板10は、帯状のアルミニウム箔の両面に正極活物質層(不図示)を備えている。そして、この正極活物質層に含まれるリチウムニッケル複合酸化物(リチウム遷移金属複合酸化物の一例)からなる正極活物質粒子にタングステンを添加している。このように正極活物質粒子にタングステンを添加することにより、電池1は良好な出力特性を維持することができる。なお、本実施例では、後述するように正極活物質粒子を製造する際に水洗いをしている。これにより、正極活物質粒子の表面(正極活物質の二次粒子表面)におけるタングステンの濃度を低減している。
【0021】
ここでは、タングステンの濃度として、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率を例として挙げる。すると、本実施例では、一例として、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率を0.8mol%以下としている。そして、正極活物質粒子の表面の位置におけるタングステンの濃度と正極活物質粒子の表面から深さ0.2nmの位置におけるタングステンの濃度とを、ほぼ同等とする。詳しくは、一例として、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面から深さ0.2nmの位置でのタングステンのモル分率を分母に、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面の位置でのタングステンのモル分率を分子にとった指数(モル分率の比)を0.98〜1.02とすることが望ましい。
【0022】
また、負極板12は、帯状の銅箔の両面に負極活物質層(不図示)を備えている。また、電解液16は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比でEC:EMC=3:7に調整した混合有機溶媒に、溶質としてLiPF6を添加し、リチウムイオンを1.0mol/lの濃度とした有機電解液である。そして、この電解液16には、ガス発生剤であるシクロヘキシルベンゼンが添加されている。本実施例では、一例として、電解液16にシクロヘキシルベンゼンが3wt%添加されている。シクロヘキシルベンゼンは、電池1の過充電時に、正極板10上で分解・重合反応を起こし、プロトンを放出する。そして、放出されたプロトンは拡散、泳動して負極板12上で電子を受け取り、水素ガスを発生する。これにより、電池ケース18の内圧が上昇する。
【0023】
電極体14は、帯状の正極板10及び負極板12が、ポリエチレンからなる帯状の多孔質セパレータ(不図示)を介して扁平形状に捲回されてなる。また、正極板10は正極端子構造体22と接合しており、負極板12は負極端子構造体20と接合している。
【0024】
電池ケース18は、開口を含むケース本体部材24及び封口蓋26を有する。このうち封口蓋26は、矩形板状であり、ケース本体部材24の開口を閉塞して、このケース本体部材24に溶接されている。
【0025】
また、電流遮断装置SDは、電池1の過充電時に電池ケース18の内圧が所定の圧力値以上に上昇したときに、電極体14を流れる電流の遮断(安全確保動作)を行って、電池1の充電(過充電)を停止させる。
【0026】
〔非水電解質二次電池の製造方法〕
次に、本実施例の電池1の製造方法について説明する。まず、正極板10に備わる正極活物質層(不図示)に含まれるリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質粒子について、その製造方法について説明する。本実施例の正極活物質粒子の製造方法は、ニッケル化合物調製工程、焼成工程、水洗い工程、乾燥工程を有する。
【0027】
(ニッケル化合物調製工程)
まず、ニッケル化合物調製工程では、主成分としてニッケルを、かつ副成分として他の遷移金属元素、2族元素、または13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有するニッケル水酸化物またはニッケルオキシ水酸化物を調製する。または、得られたニッケル水酸化物またはニッケルオキシ水酸化物を、引き続き焙焼してニッケル酸化物を調製する。このようにして、ニッケル水酸化物、ニッケルオキシ水酸化物またはニッケル酸化物から選ばれるニッケル化合物を用意する。
【0028】
ここで、ニッケル水酸化物またはニッケルオキシ水酸化物としては、晶析法を経由して得られるものが好ましい。また、ニッケル酸化物としては、特に晶析法で得られたニッケル水酸化物やニッケルオキシ水酸化物を焙焼して得られるニッケル酸化物であることが好ましい。
【0029】
なお、ニッケル水酸化物を晶析法で得るには、例えば、40〜60℃に加温した反応槽中に、主成分としてニッケルを、かつ副成分として他の遷移金属元素、2族元素、または13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを滴下し、その際、反応溶液をアルカリ性に、好ましくはpHを10〜14に保持するのに十分な量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を所望に応じて適宜滴下して調製する。一方、ニッケルオキシ水酸化物を晶析法で得るには、前記のニッケル水酸化物が生成した水溶液に、次亜塩素酸ソーダや過酸化水素水等の酸化剤をさらに添加して調製する。
【0030】
また、ニッケル酸化物を得るための焙焼条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、大気雰囲気下、好ましくは500〜1100℃、より好ましくは600〜900℃の温度で焙焼することが望ましい。
【0031】
(焼成工程)
次に、焼成工程では、前記のニッケル化合物中のニッケルと副成分の合計量に対してリチウム化合物中のリチウム量がモル比で1.00〜1.15になるように、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合した後、酸素雰囲気下、最高温度が650〜850℃の範囲で焼成する。
【0032】
この焼成工程では、前記のニッケル化合物とリチウム化合物とを混合し、得られた混合物を酸素雰囲気下で焼成する。ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合する際には、Vブレンダー等の乾式混合機または混合造粒装置等を使用する。また、得られた混合物を酸素雰囲気下で焼成する際には、酸素雰囲気、除湿及び除炭酸処理を施した乾燥空気雰囲気等の酸素濃度20重量%以上のガス雰囲気に調整した電気炉、キルン、管状炉、プッシャー炉等の焼成炉を使用する。
【0033】
そして、本実施例では、この焼成工程において、タングステンを塩として添加して焼成することにより、タングステンが添加された焼成物を生成する。あるいは、この焼成工程において、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して焼成して得られた焼成物とタングステンを含む被着材とを固相混合し、得られた混合物をベーキング処理することにより、タングステンが添加された焼成物を生成する。
【0034】
(水洗い工程)
次に、水洗い工程では、前記の焼成工程で得られた焼成物を水洗いする。この水洗い工程では、一例として、水洗い後に得られる正極活物質粒子について、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率が0.8mol%以下となるように水洗い条件を選定する。例えば、焼成物を水洗いする際のスラリー濃度を1000g/Lとし、攪拌下で1時間保持する。
【0035】
(乾燥工程)
次に、乾燥工程では、前記の水洗い工程で水洗いした焼成物を濾過、乾燥してリチウムニッケル複合酸化物の粉末を得る。例えば、水洗いした焼成物を濾過して取り出した粉末を80℃で10時間保持しながら真空乾燥を行う。ここで、前記のように焼成工程で生成された焼成物にはタングステンを添加しているので、水洗い工程と乾燥工程を経て得られたリチウムニッケル複合酸化物にはタングステンが添加されている。
【0036】
そして、このようにして得られたリチウムニッケル複合酸化物は、その表面の位置におけるタングステンの濃度とその表面から深さ0.2nmの位置におけるタングステンの濃度とを、ほぼ同等とする。詳しくは、一例として、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面から深さ0.2nmの位置でのタングステンのモル分率を分母に、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面の位置でのタングステンのモル分率を分子にとった指数(モル分率の比)を0.98〜1.02とすることが望ましい。
【0037】
ここまでが、正極活物質粒子の製造方法の説明である。以上のようにして、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質粒子を製造する。
【0038】
そして、アルミニウム箔の両面に、前記のように製造したリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質粒子と導電材と結着剤とを含む正極ペーストを塗布し、その後に乾燥させ、これをプレスする(正極板作成工程)。このようにして、前記の正極ペーストからなる正極活物質層をアルミニウム箔に形成することにより、正極板10を形成する。なお、アルミニウム箔は、本発明における「正極集電体」の一例である。
【0039】
本実施例では、正極板10を形成するに際して、正極ペーストに含まれる導電材としてアセチレンブラックを採用し、正極ペーストに含まれる結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を採用する。そして、正極活物質粒子とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとをプラネタリーミキサー内に投入して混合し、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)で粘度調整することにより、正極ペーストを作成する。ここで、混合する割合は、一例として、正極活物質粒子を91wt%とし、アセチレンブラックを6wt%とし、PVDFを3wt%とする。また、正極ペーストの密度は、一例として、ロールプレスにて3.0g/ccに調整する。
【0040】
一方、銅箔の両面に、天然黒鉛からなる負極活物質粒子と導電材と結着剤とを含む負極ペーストを塗布し、その後乾燥、プレスして、負極板12を形成する。
【0041】
本実施例では、負極板12を形成するに際して、負極ペーストに含まれる増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を採用し、負極ペーストに含まれる結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を採用する。そして、負極活物質粒子とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとを混合し、水で粘度調整することにより、負極ペーストを作成する。ここで、混合する割合は、一例として、正負極活物質粒子を98wt%とし、カルボキシメチルセルロースを1wt%とし、スチレンブタジエンゴムを1wt%とする。また、負極ペーストの密度は、一例として、ロールプレスにて1.6g/ccに調整する。
【0042】
そして、このように作製した正極板10と負極板12との間に、ポリエチレンからなる帯状の多孔質セパレータ(図示しない)を介在させて捲回し、電極体14を作成する。
【0043】
次に、このように作成した電極体14を封口蓋26に接続する。このとき、正極板10を正極端子構造体22に接合し、負極板12を負極端子構造体20に接合する。次に、電極体14をケース本体部材24に収容し、封口蓋26でケース本体部材24を封口する。次に、封口蓋26の注液孔(不図示)から電解液16を注液し、その注液孔を封止して、電池1を完成させる(図1参照)。以上が、本実施例の電池1の製造方法についての説明である。
【0044】
〔水洗いによる正極活物質粒子内のタングステンの濃度変化についての評価〕
ここで、水洗いによる正極活物質粒子内のタングステンの濃度変化の評価を行った。当該評価では、水洗いを行った正極活物質粒子と、水洗いを行わなかった正極活物質粒子とを用意した。そして、X線光電子分光(XPS)により、各々の正極活物質粒子の表面から深さ方向に分布するタングステンの濃度を評価した。その評価結果を図2に示す。図2は、横軸を正極活物質粒子の表面からの深さ(単位nm)とし、縦軸をモル分率(詳しくは、1つの正極活物質粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率)としている。すると、図2に示すように、水洗いを行った正極活物質粒子は、その内部まで、水洗いを行わなかった正極活物質粒子よりもタングステンの濃度が減少していることが明らかになった。なお、図2と以降の図3〜図7とで示す評価結果においては、水洗いを行った場合を「水洗あり」と表わし、水洗いを行わなかった場合を「水洗なし」と表わす。
【0045】
そこで、正極活物質粒子の表面からの各深さについての表面タングステン比を、図3に示す。ここで、表面タングステン比とは、正極活物質粒子の表面からの各深さの位置におけるタングステンの濃度(1つの正極活物質粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率)を、正極活物質粒子の表面の位置におけるタングステンの濃度(1つの正極活物質粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率)で割った値である。なお、図3は、横軸を正極活物質粒子の表面からの深さ(単位nm)とし、縦軸を表面タングステン比としている。また、図3では、正極活物質粒子の表面からの深さが0〜0.6nmの範囲について示している。そして、図3では水洗いを行わなかった場合と水洗いを行った場合とで、それぞれ2つずつ評価結果を示している。
【0046】
すると、図3に示すように、水洗いを行わなかった正極活物質粒子は、正極活物質粒子の表面からの深さが0.2nmの位置でのタングステンの濃度が正極活物質粒子の表面の位置でのタングステンの濃度よりも増加している。これに対し、水洗いを行った正極活物質粒子は、正極活物質粒子の表面からの深さが0.2nmの位置でのタングステンの濃度が正極活物質粒子の表面の位置でのタングステンの濃度と同等となった。
【0047】
また、正極活物質粒子の表面からの深さが0.2nmの位置におけるタングステンの濃度(1つの正極活物質粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率)を分母とし、正極活物質粒子の表面の位置におけるタングステンの濃度(1つの正極活物質粒子全体の全金属量に対するタングステンのモル分率)を分子として算出した指数を図4に示す。なお、図4では、水洗いを行わなかった場合と水洗いを行った場合とで、それぞれ2つずつ評価結果を示している。すると、図4に示すように、水洗いを行った正極活物質粒子は、水洗いを行わなかった正極活物質粒子よりも、当該指数が明らかに大きくなることが分かった。
【0048】
〔電池性能の評価〕
次に、水洗いの有無による電池性能への影響についての評価を行った。そこで、水洗いを行った場合と水洗いを行わなかった場合とにおける、電池1の放電特性の評価結果を図5と図6に示す。図5と図6は、横軸を時間(単位sec)とし、縦軸を電圧(単位V)としている。なお、ここでは、水洗いを行った場合と水洗いを行わなかった場合とで、各々2つの電池1について評価した。
【0049】
すると、図5と図6に示すように、水洗いを行ったことによる電池1の出力特性の低下はみられないことが分かった。なお、図5は条件1の放電特性(25℃の条件下で電池のSOCを20%として放電電流値を20Cとしたときの放電特性)を示し、図6は条件2の放電特性(25℃の条件下で電池のSOCを60%として放電電流値を20Cとしたときの放電特性)を示している。なお、図6においては、水洗いを行った場合と水洗いを行わなかった場合とで、ほぼ等しい評価結果が得られたことを示している。また、SOCは、State Of Charge(充電状態、充電率)の略である。さらに、「20C」の放電電流値は、SOC100%の電池を0.05時間でSOC0%まで定電流放電(パルス放電)できる大きさの電流値に相当する。
【0050】
〔過充電評価〕
次に、室温(25℃)の状態下で放電電流値を1Cとしたときに、水洗いの有無による電池1の過充電時のガスの発生量について評価を行った。そこで、その評価結果を図7に示す。すると、図7に示すように、水洗いを行わなかった場合は、電池1の過充電時のガスの発生量が所定値に達しなかったため、電流遮断装置(CID)SDは作動しなかった。これに対し、水洗いを行った場合は、電池1の過充電時のガスの発生量が所定値に達したため、電流遮断装置(CID)SDは作動した。
【0051】
このように水洗いを行ったことにより電池1の過充電時のガスの発生量が増加した要因としては、以下のように推定される。水洗いを行ったことにより、正極活物質粒子の界面上のタングステンが除去されて、ガス発生剤の拡散性が向上して反応性が向上したためと考えられる。あるいは、水洗いを行ったことにより、正極活物質粒子の表面のタングステンの形態が変化して(例えば、膜状から粒子状に変化などして)、反応性が向上したためと考えられる。あるいは、水洗いを行ったことにより、正極活物質粒子の遷移金属の表面積の増加によって反応性が向上したためと考えられる。
【0052】
以上のような本実施例によれば、焼成工程にて、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して焼成したものであってタングステンが添加された焼成物を生成する。そして、水洗い工程にて前記の焼成物を水洗いして、その後に、タングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物を得る。そして、正極板作成工程にて、前記のタングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子を含む正極活物質層をアルミニウム箔に形成して、正極板10を作成する。これにより、正極板10に形成される正極活物質層に含まれる正極活物質粒子の表面において、タングステンの濃度を低減できる。そのため、シクロヘキシルベンゼン(ガス発生剤)と正極板10との反応場の減少を抑制することができる。したがって、電池1の過充電時において、シクロヘキシルベンゼンが正極板10上で分解・重合反応を起こしてプロトンが放出されることが促進され、放出されたプロトンが拡散、泳動して負極板12上で電子を受け取ることにより発生する水素ガスの量が増加する。また、正極活物質粒子はタングステンを添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなるものであるので、電池1の出力特性(放電特性など)が向上する。以上のようにして、電池1の過充電時におけるガス発生剤と正極板との反応を起点として発生する水素ガスの量の減少を防ぎつつ、電池1の出力特性を向上させることができる。そして、電池1の過充電時に電池ケース18の内圧が上昇したときに、安定して電流遮断装置SDにより充電を停止させることができる。
【0053】
また、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率は0.8mol%以下である。さらに、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率と、1つの正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面から0.2nmの深さでのタングステンのモル分率との比は0.98〜1.02である。これにより、正極活物質粒子の表面と同様に、正極活物質粒子の表面から0.2nmの深さにおいてもタングステンの濃度が低い。そのため、シクロヘキシルベンゼンと正極板10との反応場が十分に確保されるので、電池1の過充電時において、水素ガスの発生量がより確実に増加する。
【0054】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【0055】
例えば、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質粒子の代わりに、その他のリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子としてもよい。その他のリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、LiCoO、LiMnO、LiFeOなどが候補として挙げられる。
【符号の説明】
【0056】
1 電池
10 正極板
12 負極板
14 電極体
16 電解液
18 電池ケース
20 負極端子構造体
22 正極端子構造体
24 ケース本体部材
26 封口蓋
SD 電流遮断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、過充電時にガスを発生させるガス発生剤と、過充電時に発生する前記ガスにより電池ケースの内圧が上昇したときに充電を停止させる電流遮断機構と、を有する非水電解質二次電池の製造方法において、
遷移金属化合物とリチウム化合物とを混合して焼成したものであってタングステンが添加された焼成物を生成する焼成工程と、
前記焼成物を水洗いする水洗い工程と、
前記焼成物を水洗いした後に得られる前記タングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子を含む正極活物質層を正極集電体に形成することにより前記正極板を作成する正極板作成工程と、
を有することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1の非水電解質二次電池の製造方法において、
1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率は0.8mol%以下であり、
1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率と、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面から0.2nmの深さでのタングステンのモル分率との比は0.98〜1.02であること、
を特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
正極板と、負極板と、電解液と、過充電時にガスを発生させるガス発生剤と、過充電時に発生する前記ガスにより電池ケースの内圧が上昇したときに充電を停止させる電流遮断機構と、を有する非水電解質二次電池において、
前記正極板は、タングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子を含む正極活物質層を正極集電体に形成されたものであり、
前記タングステンが添加されたリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属化合物とリチウム化合物とを混合して焼成したものであってタングステンが添加された焼成物を水洗いした後に得られたものであること、
を特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項3の非水電解質二次電池において、
1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率は0.8mol%以下であり、
1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面でのタングステンのモル分率と、1つの前記正極活物質粒子における当該粒子全体の全金属量に対する当該粒子の表面から0.2nmの深さでのタングステンのモル分率との比は0.98〜1.02であること、
を特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−110037(P2013−110037A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255610(P2011−255610)
【出願日】平成23年11月23日(2011.11.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】