説明

非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】高効率で、且つ高容量の非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備え、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体の上に形成された負極活物質含有層とを含み、前記負極活物質含有層は、ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を含み、前記酸素の前記負極活物質中での含有量は、前記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下であり、前記負極活物質を構成する水素は、前記負極活物質を構成する酸素と結合していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを吸蔵・放出可能な物質を負極活物質に用いた非水電解質二次電池に係り、特に低い不可逆容量で高い充放電容量が得られるシリコン系材料を負極活物質に用いた非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、非水系溶媒にリチウム塩からなる溶質を溶解させた非水系電解液を用いて、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電するリチウムイオン二次電池が主流を占めるようになってきた。これらリチウムイオン二次電池の負極活物質には、金属リチウムや、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な黒鉛、コークス、有機物焼成体等の炭素材料が用いられてきた。負極活物質として金属リチウムを用いた場合には、電極電位が最も卑であるため、電池の電圧が最も高くなり、エネルギー密度も高く好ましい。しかし、負極活物質として金属リチウムを用いると、充放電によって負極表面にデンドライトや不働体化合物が生成し、充放電による負極の劣化が大きく、充放電サイクル寿命が短いという問題があった。これに対し、負極活物質に炭素材料を用いた場合には、充放電によって負極界面で非水電解液が分解したり、あるいは炭素材料が負極集電箔から脱離して、次第に充放電容量が低下する等の問題があった。また、炭素材料は、結晶層間や格子間隙間にリチウムイオンをインターカレーション又はデインターカレーションするものであるから、原理的に炭素原子6個にリチウムイオンを1個しか吸蔵・放出できないため、エネルギー密度を十分に高めることができない課題もあった。
【0003】
一方、これらの課題に対して、ゲルマニウムイ(Ge)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)等のリチウム(Li)と合金化する材料を負極活物質に使用する試みがなされてきた。とりわけ、Siは、地球上に豊富に存在する材料であって、電極電位も低く、単位質量当たりの理論容量は炭素材料の1桁以上の向上が見込めるなど、有望な負極材料として注目されている。
【0004】
しかし、Si等のリチウムと合金化する材料は、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積の膨張・収縮(体積変化)が大きく、充放電サイクルによって粒子の微細化が生じて充放電容量の低下(充放電サイクル特性の劣化)を招くことが知られている。これを防ぐため、粒子のナノサイズ化や炭素材料との複合化、更に遷移金属との複合化等が検討されているが、実用化に至っていない。
【0005】
一方、Siとその酸化物とをナノサイズで複合化したSiOxは充放電サイクル特性が大幅に向上することが報告されて、非水電解質二次電池に適用され始めている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−213825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケイ素と酸化ケイ素との複合酸化物(SiOx)を負極活物質に用いることにより、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積の膨張・収縮が抑制されて充放電サイクル特性は大幅に改善される。しかしながら、上記負極活物質は充電容量に対する放電容量の比(クーロン効率)が低いという問題があった。特に、初回充放電時のクーロン効率がケイ素単独の場合に比べ大幅に低く、即ち不可逆容量が大きく、高効率の二次電池を構成する上での問題となっていた。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するもので、SiOxからなる負極活物質の不可逆容量の低減を図り、高効率で、且つ高容量の非水電解質二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを含む非水電解質二次電池であって、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体の上に形成された負極活物質含有層とを含み、前記負極活物質含有層は、ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を含み、前記酸素の前記負極活物質中での含有量は、前記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下であり、前記負極活物質を構成する水素は、前記負極活物質を構成する酸素と結合していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の非水電解質二次電池の第1の製造方法は、ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を用いた非水電解質二次電池の製造方法であって、ケイ素と、酸素とを含み、前記酸素を、前記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下の割合で含む負極活物質前駆体を製造する工程と、前記負極活物質前駆体を、300℃以上1000℃以下の水素ガス中で熱処理する工程とを含み、前記熱処理により、前記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の非水電解質二次電池の第2の製造方法は、ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を用いた非水電解質二次電池の製造方法であって、ケイ素と、酸素とを含み、前記酸素を、前記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下の割合で含む負極活物質前駆体を製造する工程と、前記負極活物質前駆体を、150℃以上600℃以下で、2気圧以上300気圧以下の水蒸気中で高圧水蒸気処理する工程とを含み、前記高圧水蒸気処理により、前記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高効率で、且つ高容量の非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、Oの未結合手をHで終端したSiOx粒子の模式部分断面図であり、図1(b)は、H終端したマトリックス(SiO2)部の分子構造を示す図である。
【図2】SiOx粒子の模式部分断面図である。
【図3】図3(a)はLi吸蔵後のSiOxの模式部分断面図であり、図3(b)はLi放出後のSiOxの模式部分断面図である。
【図4】Li吸蔵前のマトリックス(SiO2)部の分子構造を示す図である。
【図5】Li吸蔵後のマトリックス(SiO2)部の分子構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来のケイ素と酸化ケイ素との複合酸化物(SiOx)は、図2に示すようにSiO2のマトリックス中にSiの微結晶が点在する構造となっている。
【0015】
また、SiOxのLiの吸蔵・放出メカニズムは、図3に示すように概略次のように説明できる。先ず、充電(Li吸蔵)時には、SiO2マトリックスとLiとが反応してリチウムシリケートが生成すると共に、Si微結晶とLiとが反応してSiLi合金が生成する〔図3(a)〕。また、放電(Li放出)時は、SiLi合金からLiがイオンとなって溶出すると共にSiが析出て再結晶化する〔図3(b)〕。即ち、SiとLiとの反応は可逆的に生ずる。一方、充電時に生成したリチウムシリケートは、電気化学的に安定な物質であって放電時にもその構造を維持する。即ち、SiO2とLiとは不可逆な反応となり、これが不可逆容量となってしまう。従って、不可逆容量の低減はリチウムシリケートの生成を抑制すればよいことが分かる。
【0016】
本発明者等は、充電時の上記リチウムシリケートの生成過程を分析及びシミュレーション技術を用いて詳細に調べた結果、充電後のマトリックス(SiO2)部は、Li4SiO4及びLi2SiO3を主組成とするリチウムシリケートと未反応のSiO2との複合酸化物からなることが判明した。その反応過程については、SiO2中のO−Si−Oネットワークにおける結合欠陥(Oの未結合手)にLiが結合することで、上記リチウムシリケートの生成反応が進行することが分かった。即ち、図4に示すように、Li吸蔵前のマトリックス(SiO2)部には、SiO2中のO−Si−Oネットワークにおける結合欠陥(Oの未結合手)が存在している。また、図5に示すように、Li吸蔵後のマトリックス(SiO2)部では、上記結合欠陥(Oの未結合手)にLiが結合して吸蔵されている。このため、SiO2中のOの未結合手を減らすか、あるいは予め別イオンでOの未結合手を終端させておくことで、SiO2とLiとの反応を抑制できると考えられる。本発明者等は鋭意検討の結果、SiOxの負極材料に水素(H)原子を添加することで、SiO2中のOの未結合手をHで終端できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
図1(a)は、Oの未結合手をHで終端したSiOx粒子の模式部分断面図であり、図1(b)は、H終端したマトリックス(SiO2)部の分子構造を示す図である。H終端されてSi−O−H結合を有するSiO2は、電気化学的に安定であって、Liとの反応を生じることもなく、Si微結晶のLiの吸蔵・放出にも何ら影響を及ぼさないことも確認した。従って、上記H終端SiOxを負極活物質に用いると、高容量を維持したまま、不可逆容量を激減できることが分かる。
【0018】
以下、本発明の非水電解質二次電池について説明する。本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備えている。
【0019】
先ず、本発明に係る負極について説明する。本発明に係る負極は、負極集電体と、上記負極集電体の上に形成された負極活物質含有層とを備えている。
【0020】
上記負極活物質含有層は、ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を含み、上記酸素の上記負極活物質中での含有量は、上記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下であり、上記負極活物質を構成する水素は、上記負極活物質を構成する酸素と結合している。
【0021】
上記負極活物質を構成する酸素は水素と結合しているため、負極活物質のマトリックス(SiO2)部には、SiO2中のO−Si−Oネットワークにおける結合欠陥(Oの未結合手)がほとんど存在しないと考えられる。このため、充電時においてSiO2とLiとの反応によるリチウムシリケートの生成を抑制でき、負極活物質の不可逆容量を低減できる。これにより、本発明の非水電解質二次電池の初回のクーロン効率を85%以上にすることができる。
【0022】
また、上記負極活物質は、SiOx:H(0.5≦x≦1.5)と表現でき、少なくとも充電前の初期状態(リチウム吸蔵前)においては、非晶質のSiO2マトリックス中にSi微結晶が点在し、H原子がSiO2中に存在する結合欠陥(Oの未結合手)と結合して、SiO2はSi−O−H結合を有する形態を成している。上記負極活物質におけるSiとOとの典型的な原子比は、1:1であり、SiOx:H(x=1)と表現できる。
【0023】
上記負極活物質含有層は、上記負極集電体の上に、成分元素をスパッタリング法、真空蒸着法等の物理的気相成長(PVD)法、又は化学的気相成長(CVD)法等の方法により、上記負極活物質の単一結晶層を積層させて薄膜状の形態で形成できる。
【0024】
また、上記負極活物質含有層は、微粉化された上記負極活物質と、更にバインダとを含む形態であってもよい。この形態では、充放電時のSiの体積変化に伴う応力緩和の効果があり、充放電サイクル特性の更なる向上が図れる。また、本形態では、前述のPVD法又はCVD法により負極活物質含有層を形成する場合に比べて、簡易な設備で実施可能なため、大量生産に適しており、製造コストの低減化も可能である。上記微粉化された負極活物質の間の電子伝導性を補助するために、上記負極活物質含有層は、更に電子伝導助剤を含んでいてもよい。本形態の負極活物質含有層は、上記負極活物質と上記バインダと上記電子伝導助剤と溶剤とを混合した負極活物質含有スラリーを上記負極集電体の上に塗布する塗布法により形成できる。
【0025】
上記バインダとしては、例えば、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース等の多糖類及びそれらの変成体;ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドイミド、ポリアミド等の熱可塑性樹脂及びそれらの変成体;ポリイミド;エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム、ポリブタジエン、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド等のゴム状弾性を有するポリマー及びそれらの変成体;等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
上記電子伝導助剤としては、非水電解質二次電池内において化学変化を起こさないものであれば特に限定されず、例えば、カーボンブラック(サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等)、炭素繊維、金属粉(銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、銀粉等)、金属繊維、ポリフェニレン誘導体(特開昭59−20971号公報に記載のもの)等の材料を、1種又は2種以上用いることができる。これらの中でも、カーボンブラックを用いることが好ましく、ケッチェンブラックやアセチレンブラックがより好ましい。
【0027】
また、上記電子伝導助剤を使用する代わりに、上記負極活物質を導電性材料で被覆してもよい。上記導電性材料としては、例えば、カーボンブラック等の炭素材料、又は銅等の金属材料が使用できる。
【0028】
上記負極活物質含有スラリーに用いる溶剤については特に限定されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤が使用できる。
【0029】
上記微粉化された負極活物質の粒子径は特に限定されず、例えば0.1〜10μmの粒子径の微粒子を用いればよい。上記微粒子の粒子径は、レーザー散乱粒度分布計を用いて測定できる。
【0030】
上記負極集電体としては、銅又は銅合金からなる箔等を用いることができる。上記負極集電体の厚さは特に限定されないが、強度と体積効率を考慮して5〜30μmの範囲で設定される。また、上記負極集電体の表面には、深さが1μm以下程度の凹凸があってもよく、その材質には、Cu/Ni/Cu等のクラッド材を使用してもよい。
【0031】
上記負極活物質含有層の厚さは、負極活物質含有層の組成や形成方法により異なり、特に限定されないが、例えば、スパッタリング法では0.1〜10μm、塗布法では1〜100μmとすればよい。
【0032】
次に、本発明に係る正極について説明する。本発明に係る正極は、正極集電体と、上記正極集電体の上に形成された正極活物質含有層とを備えている。
【0033】
上記正極は、正極活物質と電子伝導助剤とバインダと溶剤とを混合した正極活物質含有スラリーを上記正極集電体の上に塗布する塗布法により形成できるが、他の方法で形成してもよい。
【0034】
上記正極活物質としては、例えば、リチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有バナジウム酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有鉄酸化物、リチウム含有クロム酸化物、リチウム含有チタン酸化物等のリチウム含有遷移金属酸化物、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
【0035】
上記電子伝導助剤、上記バインダ及び上記溶剤は、負極で用いる電子伝導助剤、バインダ及び溶剤と同様のものを使用できる。また、正極で用いる電子伝導助剤としては、更に天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛等も用いることができる。
【0036】
上記正極集電体としては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる箔等を用いることができる。上記正極集電体の厚さは特に限定されないが、強度と体積効率を考慮して5〜30μmの範囲で設定される。
【0037】
上記正極活物質含有層の厚さは、正極活物質含有層の組成や形成方法により異なり、特に限定されないが、例えば、塗布法では1〜100μmとすればよい。
【0038】
次に、本発明に係る非水電解質について説明する。本発明に係る非水電解質としては、下記の溶媒中に下記の無機イオン塩を溶解させることにより調製した電解液が使用できる。
【0039】
溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、燐酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン等の非プロトン性有機溶媒を、1種又は2種以上用いることができる。
【0040】
無機イオン塩としては、Li塩、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸Li、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランLi、四フェニルホウ酸Li等を、1種又は2種以上用いることができる。
【0041】
本発明の非水電解質二次電池は、上記負極、上記正極及び上記非水電解質等を備えていればよく、その他の構成要素や構造等については制限されない。例えば、セパレータとしては、強度が十分で、且つ電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、厚さが10〜50μmで開口率が30〜70%の、ポリエチレン、ポリプロピレン、又はエチレン−プロピレン共重合体を含む微多孔フィルムや不織布等が好ましい。
【0042】
また、本発明の非水電解質二次電池では、その形状等についても特に制限はない。例えば、コイン形、ボタン形、シート形、積層形、円筒形、偏平形、角形、電気自動車等に用いる大型のものなど、何れであってもよい。
【0043】
次に、本発明の非水電解質二次電池の製造方法について説明する。
【0044】
本発明の非水電解質二次電池の第1の製造方法は、ケイ素と、酸素とを含み、上記酸素を、上記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下の割合で含む負極活物質前駆体を製造する工程と、上記負極活物質前駆体を、300℃以上1000℃以下の水素ガス中で熱処理する工程とを含み、上記熱処理により、上記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合することを特徴とする。
【0045】
上記熱処理により、上記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合し、SiO2中のOの未結合手をHで終端でき、不可逆容量の低い負極活物質を得ることができる。
【0046】
上記熱処理温度は、300℃以上1000℃以下の範囲である必要があり、Oの未結合手へのHの終端反応効率の点からは400℃以上700℃以下がより好ましい。熱処理温度が300℃未満では、水素のH−H結合を切断するエネルギーが不足する傾向があり、熱処理温度が1000℃を超えると、Si−OとHとの結合よりも、Si−O−H結合からのHの離脱反応が支配的になると考えられるからである。
【0047】
上記熱処理の時間は、1時間以上12時間以下が好ましい。上記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合反応をより確実に行なうためである。
【0048】
また、本発明の非水電解質二次電池の第2の製造方法は、ケイ素と、酸素とを含み、上記酸素を、上記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下の割合で含む負極活物質前駆体を製造する工程と、上記負極活物質前駆体を、150℃以上600℃以下で、2気圧以上300気圧以下の水蒸気中で高圧水蒸気処理する工程とを含み、上記高圧水蒸気処理により、上記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合することを特徴とする。
【0049】
上記高圧水蒸気処理により、高圧水蒸気により発生するH原子による還元作用よってSiO2中のOの未結合手をHで終端できる。更に、高圧水蒸気によりO原子も生じ、このO原子による酸化作用によってSiO2中のOの未結合手を削減できる。このため、不可逆容量の低い負極活物質を得ることができる。
【0050】
上記高圧水蒸気処理において、温度は150℃以上600℃以下の範囲である必要があり、150℃以上400℃以下が好ましく、圧力は2気圧以上300気圧以下の範囲であることが必要であり、5気圧以上260気圧以下が好ましい。温度150℃未満、圧力2気圧未満では、H原子による還元作用及びO原子による酸化作用が低くなる傾向があり、温度600℃、圧力300気圧を超えると、酸化作用が支配的になり、可逆容量部のSi微粒子の酸化が進行するため放電容量が低下すると考えられるからである。
【0051】
上記高圧水蒸気処理の時間は、1時間以上12時間以下が好ましい。上記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合反応をより確実に行なうためである。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
負極は次のように作製した。先ず、Si結晶基板とSiO2基板とを用意した。これらの基板をターゲット材として用いて、2源同時スパッタリング法より、SiとOとの原子比が約1:1のSiO膜を作製した。これを一旦薄膜片として回収し、SiO2のマトリックス中に数〜10nm程度の粒子径のSi微結晶が点在した態様のSiO片とした。このSiO片をボールミルで粉砕し、フィルターで濾過することで、粒子径5μm以下のSiO微粉体を作製した。その後、このSiO微粉体を600℃の水素ガス中で3時間の熱処理を行なった。
【0054】
次に、このSiO微粉体を72質量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)と、バインダとしてポリアミドイミド8質量%と、電子伝導助剤としてケッチェンブラック(平均粒子径0.05μm)20質量%と、溶媒としての脱水NMPとを混合して負極活物質含有スラリーを調製した。続いて、ブレードコーターを用いて、この負極活物質含有スラリーを厚みが10μmの銅箔からなる集電体の両面に塗布し、100℃で乾燥した後ローラープレス機により圧縮成形して、片面当たりの厚みが15μmの負極活物質含有層を形成した。その後、この負極活物質含有層付き集電体を真空中、100℃で15時間乾燥させた。その後、この負極活物質含有層付き集電体を幅37mmに裁断して短冊状の負極を得た。
【0055】
一方、正極は次のようにして作製した。先ず、正極活物質としてLi1.0Ni0.94Mn0.03Mg0.032を96質量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)と、電子伝導助剤としてケッチェンブラック(平均粒子径0.05μm)2質量%と、バインダとしてPVDF2質量%と、溶媒としての脱水NMPとを混合して得た正極活物質含有スラリーを、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥後プレスして、片面当たりの厚みが70μmの正極活物質含有層を形成した。その後、この正極活物質含有層付き集電体を幅36mmに裁断して短冊状の正極を得た。
【0056】
次に、上記負極と上記正極とを、微孔性ポリエチレンフィルム製のセパレータ(厚み18μm、開口率50%)を介して重ね合わせてロール状に巻回した後、正極及び負極にそれぞれ端子を溶接し、厚み4mm、幅34mm、高さ43mmのアルミニウム製電池缶に挿入し、蓋を溶接して取り付けた。その後、蓋の注液口よりEC:DEC=3:7(体積比)の溶媒にLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させて調製した電解液(非水電解質)2.5gを上記電池缶内に注入し、上記注液口を封口して、本実施例の角形非水電解質二次電池を得た。
【0057】
(実施例2)
SiO微粉体に対する水素ガス中での熱処理に替えて、ステンレス鋼製の内容量240cm3の高圧容器中にSiO微粉体30gと、水(H2O)2.86gとを入れて密閉し、温度250℃、圧力約27気圧で3時間、高圧水蒸気処理を行なった以外は、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を用いた以外は実施例1と同様にして本実施例の角形非水電解質二次電池を作製した。
【0058】
(比較例1)
SiO微粉体に対する水素ガス中での熱処理を行なわなかった以外は、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を用いた以外は実施例1と同様にして本比較例の角形非水電解質二次電池を作製した。
【0059】
次に、実施例1、実施例2及び比較例1の電池を用いて充放電特性の評価を行った。充放電条件は次のとおりとした。即ち、充電は、電流を0.5Cとして定電流で行い、充電電圧が4.2Vに達した後、電流が1/10となるまで定電圧で行った。また、放電は、電流を0.5Cとして定電流で行い、放電終止電圧は2.5Vとした。
【0060】
表1に初回充電容量、初回放電容量、及びクーロン効率を示した。充電容量及び放電容量は、いずれも負極活物質の単位質量当たりの電気容量である。クーロン効率は、下記計算式から算出した。
【0061】
クーロン効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100
【0062】
【表1】

【0063】
表1から実施例1及び実施例2の電池では、いずれも初回のクーロン効率が85%以上と高率であることが分かる。また、上記と同様の充放電条件により2サイクル目のクーロン効率も測定したが、いずれも99%以上の高率であった。一方、比較例1の電池では、初回のクーロン効率が約62%と低く、2サイクル目のクーロン効率も低かった。これは、実施例1及び実施例2の電池では、負極活物質のSiO2マトリックス中のOの未結合手をHで終端できたため、充電時にリチウムシリケートの生成を抑制できたためと考えられる。一方、比較例1の電池では、負極活物質のSiO2マトリックス中のOの未結合手が終端できていないため、充電時にリチウムシリケートの生成を抑制できなかったものと考えられる。
【0064】
また、実施例2は実施例1よりも高い初回のクーロン効率を示したが、これは高圧水蒸気処理では、水蒸気の分解で生成したO原子(又はOイオン)とH原子(又はHイオン)によって酸化と還元とが同時に起こると考えられ、このため、SiO2の結合欠陥(Oの未結合手)を酸化によって低減しつつ、残された未結合手が効率よく還元されてHにより終端されたためであると考えられる。
【0065】
以上のように、本発明の実施例1及び実施例2の電池では、不可逆容量を大幅に低減できたことが分かる。また、これにより、正極容量の利用率を高めることができるので、二次電池としても高効率且つ高容量化が図れた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように本発明は、高効率で、且つ高容量の非水電解質二次電池を提供でき、かかる非水電解質二次電池は、さまざまな電源として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質とを含む非水電解質二次電池であって、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体の上に形成された負極活物質含有層とを含み、
前記負極活物質含有層は、ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を含み、
前記酸素の前記負極活物質中での含有量は、前記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下であり、
前記負極活物質を構成する水素は、前記負極活物質を構成する酸素と結合していることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、SiO2と、Siとを含み、前記SiO2は、Si−O−H結合を有する請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記ケイ素と前記酸素との原子比が、1:1である請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を用いた非水電解質二次電池の製造方法であって、
ケイ素と、酸素とを含み、前記酸素を、前記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下の割合で含む負極活物質前駆体を製造する工程と、
前記負極活物質前駆体を、300℃以上1000℃以下の水素ガス中で熱処理する工程とを含み、
前記熱処理により、前記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項5】
ケイ素と、酸素と、水素とを構成元素として含む負極活物質を用いた非水電解質二次電池の製造方法であって、
ケイ素と、酸素とを含み、前記酸素を、前記ケイ素に対して原子比で0.5以上1.5以下の割合で含む負極活物質前駆体を製造する工程と、
前記負極活物質前駆体を、150℃以上600℃以下で、2気圧以上300気圧以下の水蒸気中で高圧水蒸気処理する工程とを含み、
前記高圧水蒸気処理により、前記負極活物質前駆体を構成する酸素と、水素とが結合することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素と前記酸素との原子比が、1:1である請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−164481(P2012−164481A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22991(P2011−22991)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】