説明

非水電解質二次電池

【課題】本発明は、リン酸鉄リチウムを正極活物質、黒鉛を負極活物質とする非水電解質二次電池において、低コスト、高エネルギー密度で、ハイレート特性に優れ、また高温においても良好なサイクル特性を示す非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】リン酸鉄リチウムを含む正極活物質と導電剤とを有する正極活物質含有層が正極集電体表面に形成された正極1と、炭素材料を含む負極2と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、上記非水電解質には、ビニレンカーボネートが含まれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸鉄リチウムを含む正極活物質と導電剤とを有する正極活物質含有層が正極集電体表面に形成された正極と、炭素材料を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型化等が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、非水電解質を使用し、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにしたものであり、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池の具体的構成としては、一般に、正極にLiCoOを用いると共に、負極にリチウム金属やリチウム合金やリチウムの吸蔵・放出が可能な炭素材料を用い、また非水電解液として、エチレンカーボネートやジエチルカーボネート等の有機溶媒にLiBFやLiPF等のリチウム塩からなる電解質を溶解させたものが使用されている。
【0004】
しかしながら、Coは埋蔵量が限られており、希少な資源であるため、生産コストが高くなる。また、LiCoOを用いた電池の場合、充電状態の電池が通常の使用状態では考えられないほど高温となると、熱安定性が低くなるという課題もある。
【0005】
このため、LiCoOに代わる正極材料として、LiMnやLiNiO等の利用が検討されているが、LiMnを用いた場合には、十分な放電容量が期待できず、しかも、電池温度が高くなるとマンガンが溶解する等の問題点を有している。一方、LiNiOを用いた場合には、放電電圧が低くなる等の問題点を有している。
【0006】
そこで近年、LiFePO等のオリビン型リン酸リチウムが、LiCoOに変わる正極材料として注目されている。
上記オリビン型リン酸リチウムは、一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウム複合化合物であり、核となる金属元素Mの種類によって作動電圧が異なる。したがって、Mの選択により電池電圧を任意に選定でき、また、理論容量も140mAh/g〜170mAh/g程度と比較的高いので、単位質量あたりの電池容量を大きくすることができるという利点がある。更に、一般式におけるMとして、産出量が多く、安価である鉄を選択することができるので、生産コストを大幅に低減させることができるという利点を有し、大型電池や高出力電池の正極材料として適している。
【0007】
しかしながら、リン酸鉄リチウムを非水電解質二次電池の正極活物質として使用するには未だ解決すべき問題がある。Amineらは正極活物質にLiFePO、負極に黒鉛、電解液にエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒にLiPFを溶解させたものを用い、55℃でサイクル試験をした場合、正極活物質から鉄が溶出し、著しく容量が劣化することを報告している(下記非特許文献1参照)。大型電池や高出力電池の場合、大電流で電池を充放電することが多く、その場合、電池の温度は上昇することが予想されるため、高温で著しく容量が劣化するということは大きな問題である。
【0008】
この問題を解決するため、同文献においてAmineらは電解質塩をLiPFからLiB(C〔リチウム−ビス(オキサラト)ボレート〕に変更することにより、55℃におけるサイクル特性が向上すると報告している。
しかしながら、上記LiB(Cは合成が困難であり、これを電解質塩として用いた場合には、電池の製造コストが高くなるという課題がある。加えて、リン酸鉄リチウムは電池充放電時の挿入、離脱反応が遅く、しかも、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、或いはマンガン酸リチウム等と比較して電子伝導性が非常に低い。このため、リン酸鉄リチウムを用いた電池では、特にハイレート放電時に抵抗過電圧や活性化過電圧が増大するため、顕著に電池特性が劣化するという課題がある。この課題を解決するために、平均表面粗さRaが0.026を超える正極集電体を使用し、且つ、導電剤のBET比表面積を15m/gとし、しかも、正極活物質含有層の充填密度を1.7g/cm以上とすることを提案している(下記特許文献1参照)
【0009】
【非特許文献1】K.Amine et al. Electrochemistry Communications7(2005)669−673
【0010】
【特許文献1】WO2005/086260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記提案では、ハイレート放電特性は改善できるとはいうものの、高温でのサイクル特性が悪化するという課題を有していた。
本発明は、このようなリン酸鉄リチウムを正極活物質、黒鉛を負極活物質とする非水電解質二次電池において、低コスト、高エネルギー密度で、ハイレート特性に優れ、また高温においても良好なサイクル特性を示す非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、リン酸鉄リチウムを含む正極活物質と導電剤とを有する正極活物質含有層が正極集電体表面に形成された正極と、炭素材料を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、上記非水電解質には、ビニレンカーボネート及び/又はその誘導体が含まれていることを特徴とする。
【0013】
一般に、ビニレンカーボネート(以下、VCと略すときがある)は黒鉛から成る負極表面で反応し、負極表面に良好なSEI(Solid Electrolyte Interface、固体電解質界面)被膜を形成することにより、充放電を繰り返し行なった場合の負極の改善効果、特に高温で充放電を繰り返し行なった場合の負極の改善効果は大きいが、充放電を繰り返し行なった場合に正極での改善効果は発揮されないことが知られている。D.Aurbachらはマンガン酸リチウム(LiMn)やニッケル酸リチウム(LiNiO)を正極活物質に用い、黒鉛を負極活物質に用いた場合、VCは正極表面と負極表面の両方で反応し、インピーダンスの増加を抑制するものの、正極のサイクル特性において改善効果がないことを報告している〔D.Aurbach et al. Electrochemica Acta47(2002)1423〕。
【0014】
ここで、正極活物質として、上記マンガン酸リチウム等ではなく、リン酸鉄リチウム(LiFePO)を用いた場合には、当該リン酸鉄リチウム中の鉄が電解液中に溶出し、この溶出した鉄イオンは負極上へ析出する結果、析出した鉄が負極の容量を減少させ、結果として電池の容量減少を招くという問題が生じる。
【0015】
しかしながら、上記構成の如く、非水電解質にVC及び/又はその誘導体が含まれていれば、VCは正極表面でリン酸鉄リチウムと反応し、リン酸鉄リチウムの表面で良好な被膜を形成するため、鉄が電解液中に溶出するのが抑制される。したがって、鉄イオンが負極上へ析出するのを抑制することができるので、負極の容量減少を抑え、結果として電池のサイクル特性、特に高温サイクル特性が飛躍的に向上する。
【0016】
加えて、VCはLiB(Cに比べて合成が容易であるので、電池の製造コストが高くなるのを抑制でき、且つ、リン酸鉄リチウムを正極活物質として用いることができるので、電池の高エネルギー密度化が達成でき、しかも、VCは正極表面と負極表面の両方で反応し、インピーダンスの増加を抑制できるので、ハイレート特性の向上を図ることができる。
【0017】
ここで、非水電解質に含まれるVC及び/又はその誘導体の含有量が、上記リン酸鉄リチウム1gあたり4mg以上であることが望ましい。
このように規制するのは、VC添加量がリン酸鉄リチウム1gあたり4mg未満である場合には、添加量が少な過ぎるため、正極活物質表面全体を良好な被膜で被うことができず、高温サイクル特性を十分に向上させることができない場合があるからである。
【0018】
また、非水電解質に含まれるVC及び/又はその誘導体の含有量が、上記リン酸鉄リチウム1gあたり40mg以下であることが望ましい。
このように規制するのは、VC添加量がリン酸鉄リチウム1gあたり40mgより多い場合には、高温サイクル特性は向上するものの、正負両極を被う被膜が厚くなり過ぎて、抵抗が増大するために、負荷特性が低下するからである。
【0019】
更に、前記正極活物質含有層における充填密度が1.7g/cm以上3.15g/cm以下であることが好ましく、その範囲のなかでも1.7g/cm以上2.7g/cm以下、特に2.0g/cm以上2.3g/cm以下であることが望ましい。
これは、正極活物質含有層における充填密度が1.7g/cm未満の場合は正極におけるエネルギー密度が低下すると共に、正極活物質と導電剤、及び正極活物質と正極集電体との密着性が低くなり、正極内での電子伝導性が不十分となることにより、ハイレート放電時の放電特性が低下する。一方、正極活物質含有層における充填密度が3.15g/cmを超えると正極内の空間が狭くなりすぎ、電極内へ含浸される電解液の量が少なくなって、電池の放電容量が低下するという理由による。
【0020】
加えて、前記リン酸鉄リチウムの表面に炭素をコーティングし、且つ、リン酸鉄リチウムの量に対する炭素の量が0.5質量%以上5質量%以下とするのが望ましい。
このように、リン酸鉄リチウムの表面に炭素をコーティングするのは、以下に示す理由による。即ち、リン酸鉄リチウムは電子伝導性が低く、固体内でのリチウム拡散速度が遅いため、ハイレート特性が低いという課題がある。そこで、上記構成の如く、リン酸鉄リチウムの表面に炭素をコーティングし、リン酸鉄リチウムの電子伝導性の低下を抑制することにより、ハイレート特性の飛躍的な向上を図るためである。
【0021】
尚、正極作製時に炭素から成る導電剤を加えることも考えられるが、このような方法を用いたとしても、正極活物質粒子表面からの導電パスを作るのみであるため、正極活物質粒子内の導電パスが確保できない。したがって、正極活物質の利用率はさほど向上せず、ハイレート特性の飛躍的な向上は図れない。
【0022】
リン酸鉄リチウムの量に対する炭素の量(以下、炭素コート量と称するときがある)を0.5質量%以上に規制するのは、炭素コート量が0.5質量%未満の場合、コート量が少な過ぎるため、リン酸鉄リチウムの低い電子伝導性を十分に補うことができないからである。一方、炭素コート量を5質量%以下に規制するのは、炭素コート量が5質量%を超える場合には、正極における正極活物質の充填性が低下し、電池としてのエネルギー密度が低下するからである。
【0023】
また、リン酸鉄リチウムのレーザー回折式粒度分布測定装置で測定したメディアン径(d50)は3.5μm以下であることが望ましい。
このように、リン酸鉄リチウムのメディアン径を3.5μm以下とするのは、リン酸鉄リチウムは上述の如く固体内でのリチウム拡散速度が低いが、リン酸鉄リチウムのメディアン径を小さくすれば、固体内でのリチウム拡散距離を短くすることができるので、リチウム拡散速度の低下を補うことができるからである。このような観点からすれば、リン酸鉄リチウムのメディアン径は小さい程好ましく、特に、0.9μm以下であることが好ましい。
【0024】
更に、リン酸鉄リチウムのBET比表面積は10m/g以上、特に、16m/g以上であることが望ましい。
これは、リン酸鉄リチウムのBET比表面積を大きくすることにより、反応面積が増えるため、固体内での低いリチウム拡散速度を補うことができるからである。
【0025】
また、導電剤のBET比表面積は15m/g以上であることが望ましい。
これは、導電剤のBET比表面積が15m/g未満の場合には、導電剤の粒径が大きくなって、正極活物質であるリン酸鉄リチウムの表面上に十分な量の導電剤を分散させることができないため、リン酸鉄リチウム表面と導電剤との接触面積が小さくなって、電極内の電子伝導性が低下するからである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、低コスト、高エネルギー密度で、ハイレート特性に優れ、また高温においても良好なサイクル特性を示す非水電解質二次電池を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明に係る非水電解質二次電池を、図1及び図2に基づいて説明する。なお、この発明における非水電解質二次電池は、下記の形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0028】
〔正極の作製〕
先ず、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた溶液中に、正極活物質と、導電剤としてのアセチレンブラック(BET比表面積:39m/g)とを、正極活物質と導電剤と結着剤との質量比が90:5:5の比率になるようにして加えた後に混練して、正極スラリーを作製した。次に、この正極スラリーを正極集電体としてのアルミニウム箔上に塗布した後、乾燥し、その後圧延ローラーを用いて圧延し、更に集電タブを取り付けることで、正極集電体上に正極活物質含有層が形成された正極を作製した。尚、上記リン酸鉄リチウムにおいては、BET比表面積は16m/g、メディアン径は0.84μmであり、しかも、その表面には炭素がコーティングされており、且つ、リン酸鉄リチウムの量に対する炭素の量(以下、炭素コート量と略すときがある)が2.2質量%となっている。また、作製した正極中に含まれる正極活物質(LiFePO)の量は4gであった。更に、上記圧延が行なわれた後における正極活物質含有層の充填密度は2.0g/cmであった。
【0029】
〔負極の作製〕
先ず、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースを水に溶かした水溶液中に、負極活物質としての人造黒鉛と、結着剤としてのスチレン−ブタジエンゴムとを、負極活物質と結着剤と増粘剤の質量比が95:3:2の比率になるようにして加えた後に混練して、負極スラリーを作製した。次に、この負極スラリーを負極集電体としての銅箔上に塗布した後、乾燥し、その後圧延ローラーを用いて圧延し、更に集電タブを取り付けることで負極を作製した。
【0030】
〔電解液の調製〕
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比3:7で混合した溶媒に、1モル/リットルのLiPFを溶解させ、さらに電解液の全質量に対して2.0質量%となるようにビニレンカーボネート(VC)を加えて、3.2gの電解液を調製した。
【0031】
〔電池の作製〕
先ず、上記正極と上記負極とをセパレータを介して対向するように重ね合わせた後、これを巻き取り、更に扁平に押し付けて電極体を作製し、この電極体を、真空中105℃で20時間乾燥させた。次に、アルゴン雰囲気下のグローボックス中にて、厚み0.11mmのアルミニウムラミネートからなる外装体の袋内に挿入し、電解液を3.2g注入した後アルミニウムラミネートを封止することにより作製した。
【0032】
ここで、上記電池においては、上述の如く、電解液の質量は3.2gであり、電解液中のVC量は2.0質量%であるので、VCの絶対量は下記(1)式で表される。
3.2×2.0×0.01×1000=64(mg)…(1)
また、上述の如く、正極活物質の質量は4gであるということから、正極活物質1gあたりのVC添加量は、下記(2)式で表される。
64÷4=16(mg)…(2)
【0033】
上記非水電解質二次電池の具体的な構造は、図1及び図2に示すように、正極1と負極2とセパレータ3とから成る扁平渦巻き状の電極体10が、周縁同士がヒートシールされた閉口部7を備えるアルミラミネートから成る外装体6の収納空間内に配置されている構造であり、また、正極集電タブ4と負極集電タブ5とが外方に突出配置されて、二次電池としての充電及び放電が可能な構造となっている。尚、電池サイズは、厚み4.0mm×幅35mm×長さ62mmである。
【実施例】
【0034】
〔第1実施例〕
(実施例1)
実施例1の電池としては、上記発明を実施するための最良の形態で説明した電池と同様に作製したものを用いた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A1と称する。
【0035】
(実施例2)
電解液中のVC量を0.2質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A2と称する。
【0036】
ここで、上記本発明電池A3においては、電解液の質量は3.2gであり、電解液中のVC量は0.2質量%であるので、VCの絶対量は下記(3)式で表される。
3.2×0.2×0.01×1000=6.4(mg)…(3)
また、上述の如く、正極活物質の質量は4gであるということから、正極活物質1gあたりのVC添加量は、下記(4)式で表される。
6.4÷4=1.6(mg)…(4)
【0037】
(実施例3)
電解液中のVC量を0.5質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A3と称する。
【0038】
ここで、上記本発明電池A3においては、電解液の質量は3.2gであり、電解液中のVC量は0.5質量%であるので、VCの絶対量は下記(5)式で表される。
3.2×0.5×0.01×1000=16(mg)…(5)
また、上述の如く、正極活物質の質量は4gであるということから、正極活物質1gあたりのVC添加量は、下記(6)式で表される。
16÷4=4(mg)…(6)
【0039】
(実施例4)
電解液中のVC量を1.0質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A4と称する。
【0040】
ここで、上記本発明電池A4においては、電解液の質量は3.2gであり、電解液中のVC量は1.0質量%であるので、VCの絶対量は下記(7)式で表される。
3.2×1.0×0.01×1000=32(mg)…(7)
また、上述の如く、正極活物質の質量は4gであるということから、正極活物質1gあたりのVC添加量は、下記(8)式で表される。
32÷4=8(mg)…(8)
【0041】
(実施例5)
電解液中のVC量を5.0質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A5と称する。
【0042】
ここで、上記本発明電池A5においては、電解液の質量は3.2gであり、電解液中のVC量は5.0質量%であるので、VCの絶対量は下記(9)式で表される。
3.2×5.0×0.01×1000=160(mg)…(9)
また、上述の如く、正極活物質の質量は4gであるということから、正極活物質1gあたりのVC添加量は、下記(10)式で表される。
160÷4=40(mg)…(10)
【0043】
(実施例6)
電解液中のVC量を7.0質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A6と称する。
【0044】
ここで、上記本発明電池A6においては、電解液の質量は3.2gであり、電解液中のVC量は7.0質量%であるので、VCの絶対量は下記(11)式で表される。
3.2×7.0×0.01×1000=224(mg)…(11)
また、上述の如く、正極活物質の質量は4gであるということから、正極活物質1gあたりのVC添加量は、下記(12)式で表される。
224÷4=56(mg)…(12)
【0045】
(実施例7)
電解液中のVC量を10.0質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A7と称する。
【0046】
ここで、上記本発明電池A7においては、電解液の質量は3.2gであり、電解液中のVC量は10.0質量%であるので、VCの絶対量は下記(13)式で表される。
3.2×10.0×0.01×1000=320(mg)…(13)
また、上述の如く、正極活物質の質量は4gであるということから、正極活物質1gあたりのVC添加量は、下記(14)式で表される。
320÷4=80(mg)…(14)
【0047】
(比較例)
電解液中にVCを添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Zと称する。
【0048】
(実験)
上記本発明電池A1〜A7及び比較電池Zを、下記の充放電条件で充放電を繰り返し行い、各電池の高温サイクル特性を調べたので、その結果を表1に示す。尚、高温サイクル特性試験における評価項目は、50サイクル後の容量維持率、サイクル中の平均充放電効率、50サイクル後の負極活物質1gあたりに含まれるFe量であり、各評価項目の算出方法、又は測定方法は下記の通りである。
【0049】
〔充放電条件〕
・充電条件
55℃において、600mAの定電流で電池電圧が4.0Vに達するまで充電するという条件
・放電条件
55℃において、600mAの定電流で電池電圧が2.5Vに達するまで放電するという条件
そして、上記充放電時に、各電池の充放電容量を測定した。
【0050】
〔50サイクル後の容量維持率の算出方法〕
上記条件で充放電を行い、50サイクル後の容量維持率を測定した。尚、50サイクル後の容量維持率は、下記(15)式を用いて算出した。
50サイクル後の容量維持率(%)
=(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100…(15)
【0051】
〔サイクル中の平均充放電効率の算出方法〕
nサイクル目の充放電効率Eを、下記(16)式から算出した。
=(nサイクル目の放電容量/nサイクル目の充電容量)×100…(16)
その後、1〜50サイクルの平均値(平均充放電効率)Eを、下記(17)式から算出した。
E=(E+E+E・・・・・+E49+E50)/50…(17)
【0052】
〔50サイクル後の負極活物質含有層1gあたりに含まれるFe量の測定方法〕
50サイクル後に上記高温サイクル特性評価を行なった各電池を解体し、負極集電体から負極活物質含有層を剥離した後、ICP発光分析法を用いて負極活物質含有層上に存在するFe量を測定した。
【0053】
【表1】

【0054】
上記表1から明らかなように、VCが添加された本発明電池A1〜A7は、VCが添加されていない比較電池Zに比べて、50サイクル後の容量維持率(55℃での充放電)及びサイクル中の平均充放電効率が高くなっていることが認められる。これは、本発明電池A1〜A7の如く非水電解質にVCが含まれていれば、VCは正極表面で正極活物質であるリン酸鉄リチウムと反応し、リン酸鉄リチウムの表面で良好な被膜を形成するため、表1に示すように、鉄が電解液中に溶出するのが抑制される。この結果、鉄イオンが負極上へ析出するのを抑制することができるので、負極の容量減少を抑えることができるという理由によるものと考えられる。尚、この理由については、第3実施例の実験2で、より詳しく述べる。
【0055】
また、リン酸鉄リチウム1gあたりのVCの含有量が4mg以上の本発明電池A1、A3〜A7では、50サイクル後の容量維持率及びサイクル中の平均充放電効率が極めて高くなっていることが認められる。これは、VC添加量がリン酸鉄リチウム1gあたり4mg未満である場合(本発明電池A2の場合)には、VC添加量が少な過ぎるため、正極活物質表面全体を良好な被膜で被うことができないという理由によるものと考えられる。
【0056】
但し、リン酸鉄リチウム1gあたりのVCの含有量は40mg以下であることが望ましい。これは、表1には示していないが、リン酸鉄リチウム1gあたりのVCの含有量が40mgを超えると、正極、負極を被う被膜が厚くなり過ぎて、正負両極における抵抗が増大するために、負荷特性が低下するからである。
これらのことから、本発明電池A1、A3〜A5の如く、リン酸鉄リチウム1gあたりのVCの含有量は4mg以上40mg以下であることが最も望ましい。
【0057】
〔第2実施例〕
(実施例1〜4)
正極活物質含有層の充填密度を、それぞれ、1.5g/cm、1.7g/cm、1.9g/cm、2.2g/cmとしたこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。尚、正極活物質含有層の充填密度は、正極スラリーを正極集電体上に塗布、乾燥した後に、圧延ローラーを用いて圧延する際の圧力を調整することにより変化させた。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明電池B1〜B4と称する。
【0058】
(実験)
上記本発明電池B1〜B4及び前記本発明電池A1を、下記の充放電条件で充放電を繰り返し行い、各電池の放電容量比を調べたので、その結果を表2に示す。尚、放電容量比は、下記(18)〜(21)式を用いて算出した。
【0059】
〔充放電条件〕
・充電条件
25℃において、120mAの定電流で電池電圧が4.0Vに達するまで充電するという条件
・放電条件
25℃において、各々、120mA、600mA、1200mA、1800mA、3000mAの定電流で電池電圧が2.5Vに達するまで放電するという条件
そして、上記充放電時に、各電池の充放電容量を測定した。
【0060】
〔放電容量比の算出方法〕
・600mA放電時の放電容量比(%)
(600mA放電時の放電容量/120mA放電時の放電容量)×100…(18)
・1200mA放電時の放電容量比(%)
(1200mA放電時の放電容量/120mA放電時の放電容量)×100…(19)
・1800mA放電時の放電容量比(%)
(1800mA放電時の放電容量/120mA放電時の放電容量)×100…(20)
・3000mA放電時の放電容量比(%)
(3000mA放電時の放電容量/120mA放電時の放電容量)×100…(21)
【0061】
【表2】

【0062】
上記表2から明らかなように、正極活物質含有層における充填密度が1.7g/cm未満の本発明電池B1では、電流値が1200mA以上である場合に放電することができない。また、正極活物質含有層における充填密度が1.7g/cmの本発明電池B2では、電流値が3000mAである場合に放電することができず、且つ、電流値が1800mAである場合に放電容量比が極めて小さくなっている。更に、正極活物質含有層における充填密度が1.9g/cmの本発明電池B3では、電流値が3000mAである場合に放電容量比が78.6と小さくなっている。これに対して、正極活物質含有層における充填密度が2.0g/cm以上の本発明電池A1、B4では、何れの電流値であっても放電容量比が大きくなっていることが認められる。したがって、正極活物質含有層における充填密度は1.7g/cm以上であることが好ましく、その範囲のなかでも2.0g/cm以上であることが一層好ましい。
【0063】
これは、正極活物質含有層における充填密度が2.0g/cm未満(特に、1.7g/cm未満)の場合は正極におけるエネルギー密度が低下すると共に、正極活物質と導電剤、及び正極活物質と正極集電体との密着性が低くなり、正極内での電子伝導性が不十分となるという理由によるものと考えられる。
【0064】
尚、正極活物質含有層における充填密度の上限に関しては、上記実験では示していないが、正極活物質含有層における充填密度は3.15g/cm以下であることが好ましく、2.7g/cm以下、特に2.3g/cm以下であることが好ましい。これは、正極活物質含有層における充填密度がこれらの値を超えると、正極内の空間が狭くなり過ぎ、電極内へ含浸される電解液の量が少なくなって、電池の放電容量が低下するからである。
【0065】
〔第3実施例〕
(実施例)
正極活物質として、炭素コート量が2.0質量%、BET比表面積が16m/g、メディアン径が0.76μmのものを用いたこと以外は、前記第1実施例の実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池Cと称する。
【0066】
(比較例)
電解液中にVCを添加しなかったこと以外は、上記実施例と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Yと称する。
【0067】
(実験1)
上記本発明電池C及び比較電池Yを、前記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電を繰り返し行い、各電池の高温サイクル特性を調べたので、その結果を表3に示す。尚、高温サイクル特性試験における評価項目、各評価項目の算出方法、及び測定方法は、前記第1実施例の実験と同様である。
【0068】
【表3】

【0069】
上記表3から明らかなように、VCが添加された本発明電池Cは、VCが添加されていない比較電池Yに比べて、50サイクル後の容量維持率(55℃での充放電)及びサイクル中の平均充放電効率が高くなっていることが認められる。これは、前記第1実施例の実験で示した理由と同様の理由によるものと考えられる。
【0070】
(実験2)
上記本発明電池C及び比較電池Yを、前記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電を10回繰り返し行った後、電池を解体して電解液と負極活物質含有層とを回収し、更に、これら電解液と負極活物質含有層とをICP発光分析装置で分析することにより、電解液中と負極活物質含有層中とに含まれるFe量を測定したので、その結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
上記表4から明らかなように、VCが添加された本発明電池C及びVCが添加されていない比較電池Yを比較すると、高温10サイクル後の電解液に含まれるFe量については両者に大差ないが、高温10サイクル後の負極活物質含有層に含まれるFe量については、比較電池Yは本発明電池Cに比べて格段に多くなっていることが認められる。尚、充放電前の負極と電解液とにはFeは殆ど含まれていないことを確認している。
【0073】
以上のことから、高温サイクル後に負極上に存在するFeは、正極からFeが溶出するということに起因するものと考えられ、電解液にVCを添加することにより、VCが正極に作用し、正極からのFe溶出を抑制するものと考えられる。電解液にVCを添加すれば、Feが負極上に析出することに伴う副反応を抑制できるので、高温におけるサイクル特性が向上する。
【0074】
〔第4実施例〕
(実施例)
正極活物質として、炭素コート量が1.2質量%、BET比表面積が18m/g、メディアン径が3.5μmのものを用い、且つ、正極活物質含有層の充填密度を2.2g/cmとしたこと以外は、前記第1実施例の実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池Dと称する。
【0075】
(比較例)
電解液中にVCを添加しなかったこと以外は、上記実施例と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Xと称する。
【0076】
(実験)
上記本発明電池D及び比較電池Xを、前記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電を繰り返し行い、各電池の高温サイクル特性を調べたので、その結果を表5に示す。尚、高温サイクル特性試験における評価項目、各評価項目の算出方法、及び測定方法は、前記第1実施例の実験と同様である。
【0077】
【表5】

【0078】
上記表5から明らかなように、VCが添加された本発明電池Dは、VCが添加されていない比較電池Xに比べて、50サイクル後の容量維持率(55℃での充放電)及びサイクル中の平均充放電効率が高くなっていることが認められる。これは、前記第1実施例の実験で示した理由と同様の理由によるものと考えられる。
【0079】
〔第5実施例〕
(実施例)
正極活物質として、炭素コート量が5.0質量%、BET比表面積が13m/g、メディアン径が4.0μmのものを用い、且つ、正極活物質含有層の充填密度を1.9g/cmとしたこと以外は、前記第1実施例の実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池Eと称する。
【0080】
(比較例)
電解液中にVCを添加しなかったこと以外は、上記実施例と同様の方法で非水電解質二次電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Wと称する。
【0081】
(実験)
上記本発明電池E及び比較電池Wを、前記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電を繰り返し行い、各電池の高温サイクル特性を調べたので、その結果を表6に示す。尚、高温サイクル特性試験における評価項目、各評価項目の算出方法、及び測定方法は、前記第1実施例の実験と同様である。
【0082】
【表6】

【0083】
上記表6から明らかなように、VCが添加された本発明電池Eは、VCが添加されていない比較電池Wに比べて、50サイクル後の容量維持率(55℃での充放電)及びサイクル中の平均充放電効率が高くなっていることが認められる。これは、前記第1実施例の実験で示した理由と同様の理由によるものと考えられる。
【0084】
以上、第4実施例及び第5実施例に示したように、炭素コート量、BET比表面積、メディアン径、正極活物質含有層の充填密度等を変化させた場合であっても、本発明の構成であれば高温でのサイクル特性に優れていることがわかる。
【0085】
(その他の事項)
上記実施例では、非水電解質に含まれるものとしてVCを用いたが、これに限定するものではなく、VCの誘導体、又は、VCとVCの誘導体との混合物であっても良いことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の最良の形態に係る電池の正面図である。
【図2】図1のA−A線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1:正極
2:負極
3:セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウムを含む正極活物質と導電剤とを有する正極活物質含有層が正極集電体表面に形成された正極と、炭素材料を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、
上記非水電解質には、ビニレンカーボネート及び/又はその誘導体が含まれていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記非水電解質に含まれるビニレンカーボネート及び/又はその誘導体の含有量が、上記リン酸鉄リチウム1gあたり4mg以上である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記非水電解質に含まれるビニレンカーボネート及び/又はその誘導体の含有量が、上記リン酸鉄リチウム1gあたり40mg以下である、請求項2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質含有層における充填密度が1.7g/cm以上である、請求項1〜3記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質含有層における充填密度が3.15g/cm以下である、請求項4記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記リン酸鉄リチウムの表面には炭素がコーティングされており、且つ、リン酸鉄リチウムの量に対する上記炭素の量が0.5質量%以上5質量%以下である、請求項1〜5記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記リン酸鉄リチウムのレーザー回折式粒度分布測定装置で測定したメディアン径が3.5μm以下である、請求項1〜6記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記リン酸鉄リチウムのBET比表面積が10m/g以上である、請求項1〜7記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−213961(P2007−213961A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32352(P2006−32352)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】