説明

非水電解質二次電池

【課題】長期信頼性および出力特性を向上させる非水系二次電池を提供する。
【解決手段】集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極と、集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極とが電解質層を介して積層されてなる単電池層を含む電池要素を有する非水電解質二次電池であって、前記負極活物質層に使用される電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力が、前記正極活物質層に使用される電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力より小さい、非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池、ならびに当該電池を用いた組電池および車両に関するものである。特に、本発明は、長期信頼性および出力特性に優れた非水電解質二次電池、ならびに当該電池を用いた組電池および車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれており、自動車業界も例外ではない。電気自動車やハイブリッド電気自動車の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質等を正極集電体に塗布した正極および負極活物質等を負極集電体に塗布した負極が、液体または固体状電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池において、開発動向として電池の高エネルギー密度化および高出力が要請されており、その方策として薄型の電池の開発が進んでいる。このような薄型軽量の電池を得る手法として、溶液であった電解質部分を固体状にし、薄型化を図ったポリマー電池がある。
【0005】
一方、このようなポリマー電池では、電極活物質として合金系材料や炭素質材料などが用いられている。しかし、充放電反応に伴い、電極活物質がリチウムイオンの吸蔵放出に伴い膨張収縮する。例えば、グラファイトのような炭素系負極活物質を用いた場合には、層間距離に対して約10%の、また、合金系活物質では、電極体積に対して200%近くの体積変化を伴う。そして、これらの電極に、高分子固体電解質や電解液成分を含むゲル電解質を用いた場合には、充放電サイクルを繰り返していくうちに、界面のコンタクトが低下したり、電極の膨張収縮が電解質層に圧力として作用する。このため、電解液が局所的に不足したり、電解液が滲み出したりして、電池の長期信頼性の低下が起こる。また、高分子固体電解質や電解液成分を含むゲル電解質を用いることで、拡散が低下し、電解液のみを用いる非水系二次電池に比較して、出力特性が低下するという問題もある。
【0006】
このような問題を解決すべく、例えば、特許文献1では、一定の機械的強度を有する構造体にゲル状電解質を含有させた電解質層を用いることが報告されている。特許文献1によると、ゲル電解質中に含まれる電解液の保持性を向上することで、出力特性を向上さている。
【特許文献1】特開平11−354160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、負極側でのガス発生に対する機構を設けていないため、負極の膨張収縮に対して負極界面の剥離が生じ、長期信頼性に問題がある。その上、特許文献1では、ゲル電解質の電導度が低いため、目的の出力特性が低いという問題もある。
【0008】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、長期信頼性および出力特性を向上させる非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行なった結果、負極活物質層が正極活物質層に比してやわらかくなるような電解質を用いた非水電解質二次電池により、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負極で発生するガスを効率よく逃がすことで、負極界面での剥離を抑制・防止できる。このため、長期信頼性および出力特性が向上した非水系二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極と、集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極とが電解質層を介して積層されてなる単電池層を含む電池要素を有する非水電解質二次電池であって、前記負極活物質層に使用される電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力が、前記正極活物質層に使用される電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力より小さい、非水電解質二次電池を提供する。
【0012】
リチウムイオン二次電池をはじめとする非水電解質二次電池では、電池要素をパッケージする際に内部に入り込んだ空気や負極の細孔内に残って吸着していた空気より、初回充放電時に、気泡が発生する。また、非水系とはいっても、少量(ppmオーダー)の水が電池内に存在するため、特に負極活物質に炭素系材料を用いたリチウムイオン二次電池では、組み立てた後に最初の充電を行うと、電池内部での反応により、水が分解して、水素や酸素を発生する。さらに、負極表面の被膜形成時に、電気抵抗が増大して電解液の分解(例えば、電解質塩であるリチウム塩の加水分解)などにより、炭化水素、炭素酸化物(例えば、二酸化炭素)などのガスが発生する。従来のポリマー電池では、負極活物質層と電解質層との界面の柔軟性が低いため、ガスが移動しにくい。このようなガスを電池内部に放置すると、電池が膨らみ、または電池内圧が上昇して、ガスが活物質層を押し上げて電極からの剥離等が起こるなど、積層構造に悪影響を与える。すなわち、ガスの電池内での存在は、充放電特性や電池寿命等の特性が低下する原因となりうる。また、このようにガスが発生した部分では、リチウムイオンの移動が阻害されるため、電池特性低下を引き起こす原因ともなりうる。上記したように、負極界面で生じるガスによる諸問題を解決しうる手段を講じる必要がある。
【0013】
これに対して、本発明では、負極活物質層では、50%歪み時の圧縮応力の低い電解質(1)が使用される。このように負極活物質層に形態変化の大きい柔軟性を付与することにより、負極界面にガスが発生しても、ガスが発生場所にとどまることなく、容易に移動でき、反応部位外に逃げる。ゆえに、このような構造をとることによって、ガス発生による諸問題を低減することができる。
【0014】
また、上述したように、高分子固体電解質や電解液成分を含むゲル電解質を用いたポリマー電池では、充放電反応に伴い、電極活物質がリチウムイオンの吸蔵放出に伴い膨張収縮する。このような状態で充放電サイクルを繰り返していくと、界面のコンタクトが低下したり、電極の膨張収縮が電解質層に圧力として作用したりする。このため、電解液が局所的に不足したり、電解液が滲み出したりして、電池の長期信頼性の低下が起こる。特に、負極活物質にケイ素(Si)を使用する場合には、充電に伴い、Liとの合金化により活物質中のリチウム量が増加し、Li15Si組成までは、いわゆるアモルファス状態であり、体積変化が比較的小さく、安定領域である。更に充電がなされると、Li15Si組成を超えてリチウム量が増大して、アモルファス状態から結晶状態に変化し、不安定領域に達し、その際に大幅な体積の膨張が生じ、放電時には、逆に大きな体積の収縮が生じる。こうした膨張収縮により粒子の崩壊(微細化)が起こり、電極の劣化が進行することになる。即ち、膨張収縮による活物質粒子の崩壊により、活物質の一部が集電体への電子の流れから切断されるため電池反応に寄与し得なくなる。
【0015】
これに対して、本発明では、50%歪み時の圧縮応力の低い電解質(1)を負極に使用して、負極活物質層に形態変化の大きい柔軟性を付与する。これにより、電極、特に負極で膨張収縮が起きても、負極活物質層が軟らかいため、ここで膨張収縮を吸収することができる。このため、本発明は電池性能の低下の抑制・防止に有効である。
【0016】
一方、本発明では、正極活物質層では、負極活物質層に比して、50%歪み時の圧縮応力の高い電解質(2)が使用される。上述したように、正極側では、負極に比して、ガスがあまり発生しないため、ガス発生や膨張収縮による諸問題が起こりにくい。逆に、このように正極活物質層を形態変化の小さい硬い構造とすることにより、ゲル電解質の活物質層での保持性を高めることができる。このため、液漏れや短絡を抑制・防止して、電池の寿命を延ばして、長期信頼性を確保することができる。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明のリチウムイオン電池の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
まず、本発明に係る非水電解質二次電池は、容量が大きく、長期信頼性や出力特性に優れることから、車両の駆動電源用等として好適に利用できる。この他にも、小型で高容量化が強く求められる携帯電話やノート型パソコンなどの携帯・モバイル機器向けの非水電解質二次電池にも十分に適用可能である。
【0019】
本発明の対象となるリチウムイオン電池は、例えば、形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
【0020】
また、リチウムイオン電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、双極型でない(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。これらのうち、双極型電池は、積層型電池に比して一層の高出力密度および高電圧を有しうる利点があるため好ましい。積層型電池は正極および負極のそれぞれからリード線をとり、当該リード線を介して隣の電池と接続される。このため、リード線の長さに相当して電子の伝導パスが長くなり、電池の出力が低くなる。これに対して双極型電池は、集電体を介して縦方向(電極の積層方向)に電流が流れるため、電子の伝導パスを短くでき、高出力になる。これにより、電池電圧の高い電池が構成できる。
【0021】
リチウムイオン電池内の電解質の種類で区別した場合には、電解質に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれの電解質のタイプにも適用し得るものである。電解質に高分子電解質を用いたポリマー電池に好ましく適用される。該ポリマー電池は、更に高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。このうち、ポリマー電池、なかでも固体高分子(全固体)型電池は、液漏れが生じないので、液絡の問題が無く信頼性が高く、かつ簡易な構成で出力特性に優れた電池を形成することができる点で有利である。
【0022】
以下の説明では、本発明の双極型でない(内部並列接続タイプ)リチウムイオン電池及び双極型(内部直列接続タイプ)のリチウムイオン電池につき図面を用いて説明するが、決してこれらに制限されるべきものではない。
【0023】
図1は、本発明のリチウムイオン電池の代表的な一実施形態である、双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池(以下、単にリチウムイオン電池ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素(電池要素)21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートシートを電池の外装として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素21を収納し密封した構成を有している。
【0025】
発電要素21は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、正極、電解質層および負極がこの順に積層されている。
【0026】
これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19の外周には、隣接する正極集電体11と負極集電体12との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)(図示せず;後述する図4の符号31を参照)が設けられていてもよい。発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層12が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。なお、図3とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面のみに負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0027】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0028】
図2は、本発明のリチウムイオン電池の他の代表的な他の一実施形態である双極型の積層型リチウムイオン二次電池(以下、単に双極型リチウムイオン電池とも称する)の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。しかし、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0029】
図2に示す本実施形態の双極型電池10’は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素(電池要素;積層体)21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
【0030】
図2に示すように、本実施形態の双極型電池10’の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、前記集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極を有する。各双極型電極は、電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、電解質層17は、基材としてのセパレータの面方向中央部に電解質が保持されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極および電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15との間に電解質層17が挟まれて配置されている。
【0031】
隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層(=電池単位ないし単セル)19を構成する。したがって、双極型電池10’は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層17からの電解液の漏れによる液絡を防止する目的で、単電池層19の外周部にはシール部31が配置されている。該シール部31を設けることで、隣接する集電体11間を絶縁し、隣接する電極間の接触による短絡を防止することもできる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。ただし、正極側の最外層集電体11aの両面に正極活物質層13が形成されてもよい。同様に、負極側の最外層集電体11bの両面に負極活物質層13が形成されてもよい。
【0032】
さらに、図2に示す双極型二次電池10’では、正極側最外層集電体11aに隣接するように正極集電板25が配置され、これが延長されて電池外装材であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bに隣接するように負極集電板27が配置され、同様にこれが延長されて電池の外装であるラミネートシート29から導出している。
【0033】
図2に示す双極型電池10’においては、通常、各単電池層19の周囲にシール部31が設けられる。このシール部31は、電池内で隣り合う集電体14どうしが接触したり、発電要素21における単電池層19の端部の僅かな不揃いなどに起因する短絡が起こったりするのを防止する目的で設けられる。かようなシール部31の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質の双極型電池10’が提供されうる。
【0034】
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型電池10’では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型電池10’でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装材であるラミネートシート29に減圧封入し、正極集電板25及び負極集電板27をラミネートシート29の外部に取り出した構造とするのがよい。
【0035】
リチウムイオン電池10と双極型電池10’の各構成要件および製造方法に関しては、双方の電池内の電気的な接続形態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。よって、上記したリチウムイオン電池10の各構成要件を中心に、以下説明する。ただし、双極型電池10’の各構成要件および製造方法に関しても、同様の構成要件及び製造方法を適宜利用して構成ないし製造することができることは言うまでもない。また、本発明のリチウムイオン電池10および/または双極型電池10’を用いて、組電池や車両を構成することもできる。
【0036】
本発明において、負極活物質層は、50%歪み時の圧縮応力が小さい電解質(1)が使用される。また、正極活物質層は、負極活物質層に比して50%歪み時の圧縮応力の大きい電解質(2)が使用される。このように、負極活物質層を軟らかい構造とすることにより、負極側で発生するガスを効率よく反応部位から逃がし、また、膨張収縮を有効に吸収することができる。また、正極活物質層を硬い構造とすることにより、液漏れや短絡を有効に抑制・防止できる。これにより、大きな容量、優れた出力特性を達成しうる。なお、本発明では、負極活物質層は積層構造を有していてもよい。このような場合には、少なくとも電解質層と負極活物質層との界面には、本発明に係る50%歪み時の圧縮応力の低い電解質(1)が使用される。これにより、本発明による効果は十分達成できる。また、負極活物質層が積層構造を有する場合の電解質層と接しない他の層は、従来と同様の負極活物質層とすることができる。同様にして、正極活物質層は積層構造を有していてもよい。このような場合には、少なくとも電解質層と正極活物質層との界面には、本発明に係る50%歪み時の圧縮応力の大きい電解質(2)が使用される。これにより、本発明による効果は十分達成できる。また、正極活物質層が積層構造を有する場合の電解質層と接しない他の層は、従来と同様の正極活物質層とすることができる。
【0037】
本明細書において、「電解質」とは、溶媒中に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質を意味する。なお、下記に詳述するが、電解質が全固体電解質である場合には、「電解質(1)」または「電解質(2)」は、全固体型電解質のみを意味する。また、電解質がゲル電解質である場合には、「電解質(1)」または「電解質(2)」は、マトリックスポリマー中に電解液を保持させたゲル電解質(高分子ゲル電解質)を意味する。
【0038】
本発明において、電解質(1)と電解質(2)との50%歪み時の圧縮応力の大小関係は、上記効果を達成しうるものであれば特に制限されない。具体的には、負極活物質層の電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力に対する、正極活物質層の電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力の比が、1を超えて100以下であることが好ましい。このような範囲であれば、長期信頼性および出力特性を向上することができる。より好ましくは、負極活物質層の50%歪み時の圧縮応力に対する、正極活物質層の50%歪み時の圧縮応力の比が、1を超えて50以下、特に好ましくは1を超えて10以下である。なお、本明細書において、「50%歪み時の圧縮応力」とは、電解質の荷重−歪−応力を測定することにより測定され、下記実施例で測定される値を意味する。
【0039】
また、負極活物質層に使用される電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力は、上記したように、発生したガスを逃がし、また膨張収縮を適宜吸収することができれば特に制限されない。好ましくは、電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力は、0.01〜2.5MPa、より好ましくは0.01〜1.3MPaである。このような50%歪み時の圧縮応力を有する電解質(1)を負極活物質層に用いることにより、発生したガスを十分逃がし、膨張収縮を効率よく吸収することができ、優れた出力特性及び長期信頼性を達成することができる。
【0040】
正極活物質層に使用される電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力は、上記したように、液漏れや短絡を抑制・防止することができれば特に制限されない。好ましくは、電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力は、0.02〜3.0Mpa、より好ましくは0.05〜1.8Mpaである。このような50%歪み時の圧縮応力を有する電解質(2)を正極活物質層に用いることにより、液漏れや短絡を十分抑制・防止することが可能である。
【0041】
以下、本発明に係る非水電解質二次電池の各構成要素について説明する。
【0042】
<正極/負極活物質層>
本発明において、負極活物質層および正極活物質層で使用される電解質の形態は特に制限されず、電解質は、液体、ゲル、または固体のいずれの形態であってもよい。電池が破損した際の安全性や液絡の防止を考慮すると、電解質は、ゲル電解質、全固体電解質のような固体高分子電解質であることが好ましい。すなわち、電解質(1)および(2)の少なくとも一方は、固体高分子電解質であることが好ましい。電解質として固体高分子電解質を用いることにより漏液を防止することが可能となる。ひいては、液絡を防ぎ信頼性の高いリチウムイオン電池を構成できるからである。ここで、「固体高分子電解質」とは、詳しくは、後述するが、高分子ゲル電解質、固体高分子型電解質、無機固体型電解質すべてを含めるものとする。
【0043】
電解質としては、具体的には、従来公知の材料として、(a)ゲル電解質(高分子ゲル電解質)、(b)全固体高分子電解質(高分子固体電解質、無機固体型電解質)、(c)液体電解質(電解液)などが好ましく挙げられる。以下、これらの電解質について詳述する。
【0044】
(a)ゲル電解質(高分子ゲル電解質)
ゲル電解質(高分子ゲル電解質)とは、マトリックスポリマー(ホストポリマー)中に電解液を保持させたものをいう。電解質としてゲル電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、集電体への電解質の流出をおさえ、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。
【0045】
上記ゲル電解質(高分子ゲル電解質)は、下記に詳述するように、PEO、PPOなどの全固体型高分子電解質に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を含ませることにより作製される。また、PVdF、PAN、PMMAなど、リチウムイオン伝導性をもたない高分子の骨格中に、電解液を保持させたものも、ゲル電解質(高分子ゲル電解質)に含まれる。ゲル電解質を構成するポリマーと電解液との比率は、特に限定されない。ポリマー100%を全固体高分子電解質、電解液100%を液体電解質とすると、その中間体はすべてゲル電解質(高分子ゲル電解質)の概念に含まれる。また、セラミックなどの無機固体などイオン伝導性を持つ無機固体型電解質も全固体型電解質にあたる。よって、上記高分子ゲル電解質、固体高分子型電解質、無機固体型電解質すべてを含めて固体電解質とする。
【0046】
ゲル電解質として用いるマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PEO)、ポリプロピレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVdF−HFP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルアクリレート)(PMA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)などが挙げられる。また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらのうち、PEO、PPOおよびそれらの共重合体、PVdF、PVdF−HFPを用いることが望ましい。
【0047】
また、電解液(可塑剤)としては通常リチウムイオン電池に用いられる電解液を用いることが可能である。かかる電解液とは、電解質塩を溶媒に溶かしたものであり、電解質塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiSbF、LiAlCl、Li10Cl10、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(CSONとも記載)等の有機酸陰イオン塩などが挙げられる。これらの電解質塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、スルホラン、アセトニトリルなどが挙げられる。これらのうち、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらの溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、電解液中のリチウム塩の濃度は、特に制限されないが、通常、0.5〜2.5モル/リットル程度が好ましい。
【0048】
本発明におけるゲル電解質中の電解液の割合としては、特に制限されるべきものではないが、上記したような電解質(1)及び(2)の所望の50%歪み時の圧縮応力によって適宜調節しうる。なお、電解質(1)及び(2)の50%歪み時の圧縮応力は、マトリックスポリマーや電解液の種類によって異なる。通常、マトリックスポリマーの含量は、マトリックスポリマーと電解液との合計に対して、0.1〜50質量%であり、より好ましくは1〜30質量%である。特に、PVdFをマトリックスポリマーとして使用する場合には、PVdFの含量は、マトリックスポリマーと電解液との合計に対して、1〜20質量%であり、より好ましくは1〜15質量%である。
【0049】
また、50%歪み時の圧縮応力は、活物質層に使用される電解質の種類や量を制御することなどによって制御できる。以下、好ましい制御方法を記載するが、本発明は下記形態に限定されるものではない。一般的に、50%歪み時の圧縮応力は電解質の量に比例する。このため、活物質層内に含まれる電解質と電解液の量を規定することによって、50%歪み時の圧縮応力を適宜制御することができる。例えば、電解質(1)がゲル電解質層である場合には、マトリックスポリマー中に、ゲルポリマー電解質の質量(=マトリックスポリマーおよび電解質液の合計質量)に対して、50〜99.9質量%程度の電解液を保持させることが好ましい。より好ましくは、マトリックスポリマー中に、ゲルポリマー電解質の質量(=マトリックスポリマーおよび電解質液の合計質量)に対して、70〜97質量%程度の電解液を保持させることが好ましい。また、電解質(2)がゲル電解質層である場合には、マトリックスポリマー中に、ゲルポリマー電解質の質量(=マトリックスポリマーおよび電解質液の合計質量)に対して、50〜95量%程度の電解液を保持させることが好ましい。より好ましくは、マトリックスポリマー中に、ゲルポリマー電解質の質量(=マトリックスポリマーおよび電解質液の合計質量)に対して、70〜95質量%程度の電解液を保持させる。このようにしてマトリックスポリマー中の電解液の保持量を適宜調節することによって、50%歪み時の圧縮応力を所望のレベルに制御できる。
【0050】
ここで、電解質(1)または(2)がゲル電解質である場合に、ゲル電解質を含む活物質層の形成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、(ア)冷却によってゲル化可能なポリマーが含有された電解液を加温状態で使用して常温までポリマーを冷却する方法、(イ)モノマーが含有された電解液を使用してモノマーを重合させる方法などを採用することができる。
【0051】
上記方法のうち、(ア)の方法では、通常、活物質層表面に電解液を塗付して適度の時間放置するだけで十分であるが、活物質層の空隙に電解液が含浸する速度を高めるため、圧入や真空含浸などの操作を行ってもよい。ゲル電解質は、活物質層内の空隙を完全に充填して形成されることが好ましいが、ある程度の空隙が残留しても電池特性に大きな支障はない。電池特性が低下する程の空隙が生じる場合は、上述の様な含浸速度を高める方法を採用するのが好ましい。なお、上記(ア)で使用されるゲル化可能なポリマーは、上記マトリックスポリマーから適宜選択される。具体的には、PMMA、PEMA、PMA、PEA、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、PVdF、PVdF−HFP、PANなどが挙げられる。
【0052】
また、上記(イ)の方法は、電解液の粘度が低いため、活物質層の空隙中に電解液を含浸させるのが容易である。活物質層の厚さは通常1mm以下であるため、電解液の含浸は速やかに完了する。また、いずれの方法による場合も塗膜にカレンダー処理を加えることにより、塗膜を圧密し活物質の充填量を高めることができる。なお、上記(イ)で使用されるモノマーは、所望のゲル電解質の種類によって適宜選択される。重合の制御が容易で且つ重合時に副生成物が発生しない付加重合により生成される高分子が好適である。特に、反応性不飽和基含有モノマーの付加重合により生成される高分子は、その生産性にも優れる。具体的には、反応性不飽和基含有モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロニトリル等が挙げられる。また、上記モノマーの重合方法としては、熱、紫外線、電子線などによる公知の方法が適用できる。生産性の観点から紫外線による方法が好ましい。この場合、反応を効果的に進行させるため、電解液に紫外線に反応する重合開始剤を配合することも出来る。紫外線重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンジル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ビアセチル、ベンゾイルパーオキザイド等が挙げられる。
【0053】
より具体的には、溶媒に電解質塩を溶解させて、電解液を調製する。この電解液に、マトリクスポリマーおよび重合開始剤を添加して、電解質前駆体溶液を調製する。次に、活物質層を上記電解質前駆体溶液に浸漬した後、余分な電解質前駆体溶液を除去することにより、含浸活物質層を得る。さらに、含浸活物質層の電解質を重合する。ここで、活物質層の電解質前駆体溶液への浸漬条件は、活物質層に電解質前駆体溶液が十分染み込むような条件であれば特に制限されない。具体的には、活物質層を、電解質前駆体溶液中に、15〜60℃、より好ましくは20〜50℃の温度で、1〜120分間、より好ましくは5〜60分間、浸漬することが好ましい。また、所定条件で浸漬した後は、余分な電解質前駆体溶液を除去するが、この際に使用できる方法としては、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、電解質前駆体溶液が染み込んだ活物質層を、履形フィルムで挟んだ後、ロールなどで軽くしごく方法;電解質前駆体溶液が染み込んだセパレータ基材を軽く絞る方法などが好ましく使用できる。
【0054】
(b)全固体型電解質(高分子固体電解質、無機固体型電解質)
電解質として全固体型電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、集電体層への電解質の流出がなくなり各層間のイオン伝導性を遮断することが可能になる点で優れている。
【0055】
全固体型電解質としては、例えば、PEO、PPO、これらの共重合体などの公知の高分子固体電解質、セラミックなどのイオン伝導性を持つ無機固体型電解質が挙げられる。高分子固体電解質中には、イオン伝導性を確保するためにリチウム塩が含まれる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiSbF、LiAlCl、Li10Cl10、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(CSONとも記載)等の有機酸陰イオン塩などが挙げられる。好ましくは、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SOが使用できる。なお、上記リチウム塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0056】
(c)液体電解質(電解液)
電解液とは、電解質塩を溶媒に溶かしたものが挙げられる。ここで、電解質塩としては、特に制限されない。具体的には、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiSbF、LiAlCl、Li10Cl10、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(CSONとも記載)等の有機酸陰イオン塩などが挙げられる。これらの電解質塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、溶媒もまた、特に制限されない。具体的には、溶媒としては、EC、PC、GBL、DMC、DECなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0057】
本発明に係る正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一方は、網目構造または空孔構造を有することが好ましい。電解質(1)または(2)が液体電解質である場合には、一般的に、積層体の面に沿った方向から注液する場合には、各層の中央部付近に一番液が浸透しにくいため、各工程で液体電解質を注液しても液体電解質が十分浸透しない部分が生じる虞がある。しかし、このような構造をとると、面方向への電解液の浸透を促進でき、リチウムイオンを取り込みやすい。なお、面の深さ(厚み)方向は液の浸透距離が短いので、十分に浸透することができると共に、イオン伝導性を十分確保できる。ここで、正極活物質層および負極活物質層はいずれか一方あるいは双方ともが、上記したような構造を有することが好ましいが、より好ましくは少なくとも負極活物質層が上記構造を有することが好ましい。活物質層が網目構造または空孔構造を有する場合には、活物質層の空隙率は、電解液の浸透を促進でき、イオン伝導性を十分確保できる値であれば特に制限されない。正極活物質層および負極活物質層の空隙率は、それぞれ、10〜40%であることが好ましい。ここで、正極活物質層および負極活物質層の空隙率は、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。各層の空隙率が、10%以上であれば十分な空隙を確保することができ液状物質を十分量行き渡らせることができる。逆に、40%以下であれば二次電池として十分な容量を確保できる。また、正極活物質層の空隙率と負極活物質層の空隙率との関係は、特に制限されな。好ましくは、負極活物質層の空隙率に対する正極活物質層の空隙の割合が、80〜120%とするのがよい。なお、上記空隙率は、正極層および負極層が1層である場合には当該1層の空隙率を、および2層以上の積層体である場合においては各層の空隙率を、それぞれ、意味する。
【0058】
上述したように、活物質層は、集電体上に形成され、充放電反応の中心を担う活物質を含む層である。上述したように、負極活物質層は、50%歪み時の圧縮応力の低い電解質(1)を含む。また、正極活物質層は、50%歪み時の圧縮応力の高い電解質(2)を含む。また、各活物質層は、活物質を含む。すなわち、正極活物質層は正極活物質を含む。負極活物質層は負極活物質を含む。
【0059】
ここで、正極活物質は、放電時にイオンを吸蔵し、充電時にイオンを放出する組成を有する。好ましい一例としては、遷移金属とリチウムとの複合酸化物であるリチウム−遷移金属複合酸化物が挙げられる。具体的には、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMnなどのLi・Mn系複合酸化物、LiFeOなどのLi・Fe系複合酸化物およびこれらの遷移金属の一部を他の元素により置換したものなどが使用できる。これらリチウム−遷移金属複合酸化物は、反応性、サイクル特性に優れ、低コストな材料である。そのためこれらの材料を電極に用いることにより、出力特性に優れた電池を形成することが可能である。この他、前記正極活物質としては、LiFePOなどの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V、MnO、TiS、MoS、MoOなどの遷移金属酸化物や硫化物;PbO、AgO、NiOOHなど、を用いることもできる。上記正極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。正極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、正極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、二次電池は、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。なお、正極活物質が2次粒子である場合には該2次粒子を構成する1次粒子の平均粒子径が10nm〜1μmの範囲であるのが望ましいといえるが、本発明では、必ずしも上記範囲に制限されるものではない。ただし、製造方法にもよるが、正極活物質が凝集、塊状などにより2次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる正極活物質の粒径および1次粒子の粒径は、レーザー回折法を用いて得られたメディアン径使用できる。なお、正極活物質の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。
【0060】
また、負極活物質は、放電時にイオンを放出し、充電時にイオンを吸蔵できる組成を有する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSnなどの金属、或いはTiO、Ti、TiO、もしくはSiO、SiO、SnOなどの金属酸化物、Li4/3Ti5/3もしくはLiMnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などが好ましく挙げられる。また、負極活物質は、リチウムと合金化する元素を含むことが好ましい。リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量及び優れた出力特性の電池を得ることが可能となる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0061】
上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、炭素材料、ならびに/またはSi、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましく、炭素材料、Si、またはSnの元素を含むことが特に好ましい。これらは1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
負極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、負極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、二次電池は、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。なお、負極活物質が2次粒子である場合には該2次粒子を構成する1次粒子の平均粒子径が10nm〜1μmの範囲であるのが望ましいといえるが、本発明では、必ずしも上記範囲に制限されるものではない。ただし、製造方法にもよるが、負極活物質が凝集、塊状などにより2次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる負極活物質の粒径および1次粒子の粒径は、レーザー回折法を用いて得られたメディアン径使用できる。なお、負極活物質の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。
【0063】
活物質層には、必要であれば、その他の物質が含まれてもよい。例えば、導電助剤、バインダ等が含まれうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0064】
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)等の種々の炭素繊維、膨張黒鉛などが挙げられる。しかし、導電助剤がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0065】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド、PTFE、SBR、合成ゴム系バインダ等が挙げられる。しかし、バインダがこれらに限定されないことはいうまでもない。また、バインダとゲル電解質として用いるマトリックスポリマーとが同じ場合には、バインダを使用する必要はない。
【0066】
活物質層に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0067】
活物質層の厚さについても特に制限はなく、非水電解質二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、活物質層の厚さは、好ましくは10〜100μm程度であり、より好ましくは20〜50μmである。活物質層が10μm程度以上であれば、電池容量が充分に確保されうる。一方、活物質層が100μm程度以下であれば、電極深部(集電体側)にリチウムイオンが拡散しにくくなることに伴う内部抵抗の増大という問題の発生が抑制されうる。
【0068】
<集電体>
本発明において、集電体の材質は、特に限定されないが、具体的な例としては、例えば、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種類の集電体材料、より好ましくはアルミニウム、チタン、銅、ニッケル、銀、またはステンレス(SUS)よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種類の集電体材料などが好ましく挙げられ、これらは単層構造(例えば、箔の形態)で用いてもよいし、異なる種類の層で構成された多層構造で用いてもよいし、これらで被覆されたクラッド材(例えば、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材)を用いてもよい。あるいは、これらの集電体材料の組み合わせのめっき材なども好ましく使える。また、上記集電体材料である金属(アルミニウムを除く)表面に、他の集電体材料であるアルミニウムを被覆させた集電体であってもよい。また、場合によっては、2つ以上の上記集電体材料である金属箔を張り合わせた集電体を用いてもよい。上述の材質は、耐食性、導電性、または加工性などに優れる。集電体の一般的な厚さは、5〜50μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。
【0069】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。大型の電池に用いられる大型の電極を作製するのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。小型の電極を作製するのであれば、面積の小さな集電体が用いられる。
【0070】
集電体表面上への正極層(または負極層)の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が同様にして使用できる。例えば、上記したように、正極活物質(または負極活物質)、ならびに必要であれば、イオン伝導性を高めるための電解質塩、電子伝導性を高めるための導電助剤、および結着剤を、適当な溶剤に分散、溶解などして、正極活物質液(または負極活物質液)を調製する。これを集電体上に塗布、乾燥して溶剤を除去した後、プレスすることによって、正極層(または負極層)が集電体上に形成される。この際、溶剤としては、特に制限されないが、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサンなどが用いられうる。結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を採用する場合には、NMPを溶媒として用いるとよい。
【0071】
上記方法において、正極活物質液(または負極活物質液)を集電体上に塗布・乾燥した後、プレスする。この際、プレス条件を調節することにより、正極層(または負極層)の空隙率が制御されうる。
【0072】
プレス処理の具体的な手段やプレス条件は特に制限されず、プレス処理後の正極層(または負極層)の空隙率が所望の値となるように、適宜調節されうる。プレス処理の具体的な形態としては、例えば、ホットプレス機やカレンダーロールプレス機などが挙げられる。また、プレス条件(温度、圧力など)も特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0073】
正極層および負極層の厚さは、特に制限されないが、10〜200μm、特に20〜100μmとするのがよい。この際、正極層および負極層の厚さは、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
【0074】
また、正極層および負極層は、それぞれ、1層であってもあるいは2層以上の積層体であってもよい。正極層および負極層が積層体である場合の積層数は、特に制限されず、下記に詳述される液状電解質の注液のしやすさやイオン伝導性などを考慮すると、1〜3層であることが好ましい。
【0075】
正極層および負極層が積層体である場合において、正極層および負極層は、負極層の厚み方向に対して空孔率の異なる複数の層からなることが好ましい。ここで、正極層および負極層はいずれか一方あるいは双方ともが、上記したような負極層の厚み方向に対して空孔率の異なる複数の層からなる構造を有していてもよいが、好ましくは少なくとも負極層が上記構造を有することが好ましい。また、このような構造は、上記と同様の方法を用いて、正極層および負極層をそれぞれ繰り返し形成することによって達成される。
【0076】
<電解質層>
本発明の非水電解質二次電池においては、正極と負極との間に電解質層が設けられる。ここで、電解質層は、セパレータを有することが好ましく、この際、セパレータは、正極活物質層で使用される電解質(2)より50%歪み時の圧縮応力の小さい電解質が含浸されてなることが好ましい。ここで、負極活物質層で使用される電解質(1)がセパレータに含浸されてなることがより好ましい。このように50%歪み時の圧縮応力の低い軟らかい構造体を電解質層として設けることにより、電解質層側にガスが移動してもこのガスを容易に逃がすことができ、また、負極での膨張収縮をより効果的に吸収することができる。さらに、負極活物質層で使用される電解質(1)を電解質層に使用することにより、出力特性が向上できる。
【0077】
また、セパレータの構造は特に制限されず、1層のみ(セパレータ自体が電解質層を構成する)であっても、あるいは2層以上の積層体であってもよい。後者の場合、上記50%歪み時の圧縮応力の小さい電解質が含浸されてなるセパレータは、少なくとも負極活物質層と接するように配置されることが好ましく、負極活物質層及び正極活物質層双方と接するように配置されることがより好ましい。負極活物質層側に50%歪み時の圧縮応力の小さい電解質が含浸されてなるセパレータを配置することによって、負極側の膨張収縮を、負極活物質層に加えて、電解質層でも吸収することができる。また、このような場合には、負極表面の被膜形成時に生成したガスが電解質層側に移動した場合であっても、電解質層が軟らかいため、ガスが単電池層の外方に容易に移動しうる。
【0078】
ここで、セパレータとしては、特に制限されず、公知のセパレータ基材が使用できる。例えば、微孔性ポリエチレンフィルム、微孔性ポリプロピレンフィルム、微孔性エチレン−プロピレンコポリマーフィルムなどのポリオレフィン系樹脂、ならびにアラミド、ポリイミド、セルロースなどの多孔膜または不織布、これらの積層体などが挙げられる。これらは、電解質(電解液)との反応性を低く抑えることができるという優れた効果を有する。他に、ポリオレフィン系樹脂不織布またはポリオレフィン系樹脂多孔膜を補強材層に用い、前記補強材層中にフッ化ビニリデン樹脂化合物を充填した複合樹脂膜なども挙げられる。
【0079】
セパレータ基材の厚さは、使用用途に応じて適宜決定すればよいが、自動車等のモータ駆動用二次電池などの用途においては、1〜100μm程度とすればよい。また、セパレータ基材の多孔度、大きさなどは、得られる二次電池の特性を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、セパレータ基材の空孔率は、好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜70%である。また、セパレータ基材の曲路率は、好ましくは1.2〜2.8である。このような多孔度を有するセパレータ基材であれば、電解液及びセパレータ層の電解質を十分量導入することができ、かつセパレータ層の強度も十分維持できる。
【0080】
また、セパレータに含浸する電解質は、特に制限されず、公知の電解質が使用できるが、上記したような電解質(2)より小さい50%歪み時の圧縮応力を有するものが好ましい。具体的な電解質としては、上記負極/正極活物質層で記載したのと同様のものが使用できるため、ここでは説明を省略する。
【0081】
また、セパレータに、電解質(2)より50%歪み時の圧縮応力の小さい電解質を含浸する方法や条件は特に制限されない。ここで、セパレータの電解質に対する電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力の比は、特に制限されないが、1を超えて100以下であることが好ましい。具体的には、上記した電解質(1)または(2)を用いて活物質層を形成する方法や条件と同様の方法や条件が使用できる。より具体的には、溶媒に電解質塩を溶解させて、電解液を調製する。この電解液に、マトリクスポリマーおよび重合開始剤を添加して、電解質前駆体溶液を調製する。次に、セパレータ基材を上記電解質前駆体溶液に浸漬した後、余分な電解質前駆体溶液を除去することにより、含浸セパレータを得る。さらに、含浸セパレータの電解質を重合する。ここで、セパレータ基材の電解質前駆体溶液への浸漬条件は、セパレータ基材に電解質前駆体溶液が十分染み込むような条件であれば特に制限されない。具体的には、セパレータ基材を、電解質前駆体溶液中に、15〜60℃、より好ましくは20〜50℃の温度で、1〜120分間、より好ましくは5〜60分間、浸漬することが好ましい。また、所定条件で浸漬した後は、余分な電解質前駆体溶液を除去するが、この際に使用できる方法としては、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、電解質前駆体溶液が染み込んだセパレータ基材を、履形フィルムで挟んだ後、ロールなどで軽くしごく方法;電解質前駆体溶液が染み込んだセパレータ基材を軽く絞る方法などが好ましく使用できる。なお、含浸セパレータの電解質を重合する際、含浸セパレータを正極活物質層と負極活物質層との間に挟みこんだ状態で、上記重合反応を行なうことにより、正極活物質層、セパレータ(電解質層)および負極活物質層を密着してもよい。
【0082】
<リチウムイオン二次電池の外観構成>
図3は、本発明に係るリチウムイオン電池の代表的な実施形態である積層型の扁平な非双極型あるいは双極型のリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0083】
図3に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素(電池要素)57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素(電池要素)57は、正極タブ58及び負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素(電池要素)57は、先に説明した図1あるいは図2に示す非双極型あるいは双極型のリチウムイオン二次電池10、10’の発電要素(電池要素)21に相当するものであり、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0084】
なお、本発明のリチウムイオン電池は、図1、2に示すような積層型の扁平な形状のものに制限されるものではなく、巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素(電池要素)がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0085】
また、図3に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではなく、正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0086】
本発明のリチウムイオン電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0087】
<組電池>
本発明の組電池は、本発明のリチウムイオン二次電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。なお、本発明の組電池では、本発明の非双極型リチウムイオン二次電池と双極型リチウムイオン二次電池を用いて、これらを直列に、並列に、または直列と並列とに、複数個組み合わせて、組電池を構成することもできる。
【0088】
また、図4は、本発明に係る組電池の代表的な実施形態の外観図であって、図4Aは組電池の平面図であり、図4Bは組電池の正面図であり、図4Cは組電池の側面図である。
【0089】
図4に示すように、本発明に係る組電池300は、本発明のリチウムイオン二次電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の組電池250を形成し、この装脱着可能な小型の組電池250をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池300を形成することもできる。図4Aは、組電池の平面図、図4Aは正面図、図4Cは側面図を示しているが、作成した装脱着可能な小型の組電池250は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続し、この組電池250は接続治具310を用いて複数段積層される。何個の非双極型ないし双極型のリチウムイオン二次電池を接続して組電池250を作製するか、また、何段の組電池250を積層して組電池300を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0090】
<車両>
本発明の車両は、本発明のリチウムイオン電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を搭載したことを特徴とするものである。本発明では、長期信頼性及び出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。言い換えれば、本発明のリチウムイオン電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池は、車両の駆動用電源として用いられうる。本発明のリチウムイオン電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0091】
図5は、本発明の組電池を搭載した車両の概念図である。
【0092】
図5に示したように、組電池300を電気自動車400のような車両に搭載するには、電気自動車400の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池300を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームでも良い。以上のような組電池300を用いた電気自動車400は高い耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。本発明の組電池を搭載した車両としては、図5に示すような電気自動車のほか、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などに幅広く適用できるものである。
【実施例】
【0093】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0094】
なお、電解質の50%歪み時の圧縮応力は、下記方法に従って測定した。
【0095】
<電解質の50%歪み時の圧縮応力の測定方法>
常温にてゲル電解質の荷重−歪−応力を以下のようにして測定した。
【0096】
電解質膜を、下記のとおり、作製した。詳細には、まず、シャーレに溶媒を含むゲル電解質を流し込む。次に、このシャーレをドライな環境下で加熱することにより余剰な電解分を揮発させて、ゲル電解質を得る。ここで、得られたゲル電解質の確認は、マイクロメーターで厚みを測定しながら4端子法でインピーダンス測定することにより得られた電気伝導度より確認した。
【0097】
なお、セパレーター(ポリオレフィン、厚み:100μm)を用いた以外は、上記方法と同様にして、ゲル電解質を得る。このようにして得られたゲル電解質についても、上記方法により電気伝導度を測定し、ゲル電解質の精度を確認した。
【0098】
得られた電解質膜について、圧縮特性を、下記条件にて、評価した。荷重面積:12φmm、圧縮変位:0.01mm/secの条件で変位させた際の圧縮荷重(N)、圧縮ひずみ(%、圧縮変位を元にアンビル高さで規格化した値)、圧縮応力(MPa)を、0.5secごとに検出した。圧縮歪みが50%になった時点で測定を終了し、この際の圧縮応力(MPa)を、「50%歪み時の圧縮応力」とした。
【0099】
実施例1
(1)負極の作製
負極活物質として、ハードカーボン(平均粒子径20μm)(85wt%)、導電助剤として、アセチレンブラック(5wt%)、バインダとして、PVdF(10wt%)を混合した。前記混合物に対して、溶媒としてNMPを加えて十分に撹拌してスラリーを調製した。このようにして得られたスラリーを、負極集電体としての15μmの銅(Cu)箔上に、最終の負極活物質層の厚みが25μmとなるように、塗布・乾燥してプレスし、負極とした。
【0100】
このようにして作製した負極に加熱ロールプレスを加え、負極が膜を突き破らない程度に、加熱プレスを行う。その後、作製した負極を、90×90mmに切断した。
【0101】
(2)電解質(1)の含浸
電解液は支持塩として1M/LのLiPFを含むEC:PC(1:1体積%)(90wt%)、ホストポリマーとしてPVdF−HFP(10wt%)を混合し、前記混合物に対して、溶媒としてジメチルカーボネート(DMC)を加えて十分に撹拌し、ゲル電解質(1)を得た。このゲル電解質(1)を、上記(1)で作製した負極に塗布しDMCを乾燥させることで、ゲル電解質(1)を負極に含浸させた。なお、ここで使用したゲル電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力は、0.171MPaであった。
【0102】
(3)正極の作製
正極活物質として、LiMn(平均粒子径20μm)(85wt%)、導電助剤として、アセチレンブラック(5wt%)、バインダとして、PVdF(10wt%)を混合した。前記混合物に対して、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて十分に撹拌してスラリーを調製した。このようにして得られたスラリーを、正極集電体としての厚さが20μmの集電体であるアルミニウム(Al)箔上に、最終の正極活物質層の厚みが20μmとなるように、塗布してプレス後、乾燥し、正極とした。
【0103】
このようにして作製した正極に加熱ロールプレスを加え、正極が膜を突き破らない程度に、加熱プレスを行う。その後、作製した正極を、90×90mmに切断した。
【0104】
(4)電解質(2)の含浸
電解液として支持塩として1M/LのLiPFを含むEC:PC(1:1体積%)(87wt%)、ホストポリマーとしてPVdF−HFP(13wt%)を混合し、前記混合物に対して、溶媒としてDMCを加えて十分に撹拌し、ゲル電解質(2)を得た。このゲル電解質(2)を、上記(3)で作製した正極に塗布しDMCを乾燥させることで、ゲル電解質(2)を正極に含浸させた。なお、ここで使用したゲル電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力は、0.484MPaであった。
【0105】
(5)ゲルポリマー電解質層の作製
95×95mmのセパレータ(ポリオレフィン製微多孔膜、厚さ:20μm)に、上記(2)で作製したゲル電解質(1)を塗布しDMCを乾燥させることで、ゲル電解質を負極に含浸させて、ゲルポリマー電解質層を作製した。
【0106】
(6)双極型二次電池の作製
上記(2)で作製した負極、上記(5)で作製したゲルポリマー電解質層、および上記(4)で作製した正極を積層し、その周りに幅12mmのPE製フィルムをおき、シール材とした。このような双極型電極を3層積層したのちにシール部を上下からプレス(プレス条件:0.2MPa、160℃、5s)をかけ融着し各層をシールした。
【0107】
双極型電池要素の投影面全体を覆うことのできる130mm×80mmの100μmのAl板の一部が電池投影面外部まで伸びている部分がある強電端子を作製した。この端子で双極型電池要素を挟み込み、これらを覆うようにアルミラミネートで真空密封し、双極型電池要素全体を大気圧で両面を押すことにより加圧され強電端子−電池要素間の接触が高められた双極型電池が完成した。
【0108】
実施例2
(1)負極の作製
上記実施例1(1)と同様にして、負極を作製した。
【0109】
(2)電解質(1)の含浸
上記実施例1(2)と同様にして、上記(1)で作製した負極にゲル電解質(1)を含浸させた。
【0110】
(3)正極の作製
上記実施例1(3)と同様にして、正極を作製した。
【0111】
(4)電解質(2’)の含浸
電解液として支持塩として1M/LのLiPFを含むEC:PC(1:1体積%)(85wt%)、ホストポリマーとしてPVdF−HFP(15wt%)を混合し、前記混合物に対して、溶媒としてDMCを加えて十分に撹拌し、ゲル電解質(2’)を得た。このゲル電解質(2’)を、上記(3)で作製した正極に塗布しDMCを乾燥させることで、ゲル電解質(2’)を正極に含浸させた。なお、ここで使用したゲル電解質(2’)の50%歪み時の圧縮応力は、0.628MPaであった。
【0112】
(5)ゲルポリマー電解質層の作製
上記実施例1(5)と同様にして、ゲルポリマー電解質層を作製した。
【0113】
(6)双極型二次電池の作製
上記実施例1(6)と同様にして、双極型二次電池を作製した。
【0114】
比較例1
(1)負極の作製
上記実施例1(1)と同様にして、負極を作製した。
【0115】
(2)正極の作製
上記実施例1(3)と同様にして、正極を作製した。
【0116】
(3)双極型二次電池の作製
上記(1)で作製した負極、95×95mmのセパレータ(ポリオレフィン製微多孔膜、厚さ:20μm)、および上記(2)で作製した正極を積層し、その周りに幅12mmのPE製フィルムをおき、シール材とした。このような双極型電極を3層積層したのちにシール部を上下からプレス(プレス条件:0.2MPa、160℃、5s)をかけ融着し各層をシールした。
【0117】
双極型電池要素の投影面全体を覆うことのできる130mm×80mmの100μmのAl板の一部が電池投影面外部まで伸びている部分がある強電端子を作製した。次いで、当該蓄電素子を、蓄電素子のサイズに成形されたアルミラミネートフィルムの外装の内部に入れ、電解液を注液する1辺を残し、残り3辺を熱融着して袋状にした。その内部に、所定量の電解液を注入して含浸させた後、残りの1辺を真空封止して、双極型電池を作製した。なお、電解液は、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをPC:EC:DEC=1:1:2(体積比)で混合した液にリチウム塩であるLiPFが1Mの濃度に溶解した溶液を用いた。
【0118】
比較例2
(1)負極の作製
上記実施例1(1)と同様にして、負極を作製した。
【0119】
(2)電解質(2’)の含浸
上記実施例2(4)と同様にして、ゲル電解質(2’)を調製した。さらに、上記実施例2(4)と同様にして、このゲル電解質(2’)を、上記(1)で作製した負極に含浸させた。
【0120】
(3)正極の作製
上記実施例1(3)と同様にして、正極を作製した。
【0121】
(4)電解質(2’)の含浸
上記実施例2(4)と同様にして、ゲル電解質(2’)を調製した。さらに、上記実施例2(4)と同様にして、このゲル電解質(2’)を、上記(3)で作製した正極に含浸させた。
【0122】
(5)ゲルポリマー電解質層の作製
上記実施例1(5)と同様にして、ゲルポリマー電解質層を作製した。
【0123】
(6)双極型二次電池の作製
上記(2)で作製した負極、上記(5)で作製したゲルポリマー電解質層、および上記(4)で作製した正極を使用する以外は、上記実施例1(6)と同様にして、双極型二次電池を作製した。
【0124】
比較例3
(1)負極の作製
上記実施例1(1)と同様にして、負極を作製した。
【0125】
(2)電解質(1”)の含浸
電解液として支持塩として1M/LのLiPFを含むEC:PC(1:1体積%)(76wt%)、ホストポリマーとしてPVdF−HFP(24wt%)を混合し、前記混合物に対して、溶媒としてDMCを加えて十分に撹拌し、ゲル電解質(1”)を得た。このゲル電解質(1”)を、上記(1)で作製した負極に塗布しDMCを乾燥させることで、ゲル電解質(1”)を負極に含浸させた。なお、ここで使用したゲル電解質(1”)の50%歪み時の圧縮応力は、1.988MPaであった。
【0126】
(3)正極の作製
上記実施例1(3)と同様にして、正極を作製した。
【0127】
(4)電解質(1”)の含浸
上記(2)と同様にして調製したゲル電解質(1”)を、上記(3)で作製した正極に塗布しDMCを乾燥させることで、ゲル電解質(1”)を正極に含浸させた。
【0128】
(5)ゲルポリマー電解質層の作製
上記実施例1(5)と同様にして、ゲルポリマー電解質層を作製した。
【0129】
(6)双極型二次電池の作製
上記(2)で作製した負極、上記(5)で作製したゲルポリマー電解質層、および上記(4)で作製した正極を使用する以外は、上記実施例1(6)と同様にして、双極型二次電池を作製した。
【0130】
(評価)
上記実施例1〜2、および比較例1〜3で得られた双極型二次電池について、充放電効率および長期信頼性を評価した。
【0131】
充放電試験を下記の順序で行なった;
1:定電流充電(所定の電流で所定の電圧まで充電する。その後、その電圧で充電時間のトータルが8時間になるように保持する。)
2:休止(10分間休止)
3:定電圧放電(所定の電流で所定の電圧まで放電)
4:休止(10分間休止)とした。なお、充電電流:0.2C、充電電圧:4.2V、放電電圧:2Vである。ここで、1Cとは、その電流値で1時間充電すると、ちょうどその電池が満充電(100%充電)状態になる電流値のことである。例えば、2Cとは1Cの2倍の電流値であり、30分で電池を満充電にできる電流値である。また、放電は、1サイクル目の放電電流が0.2C、2サイクル目は0.5C、3サイクル目以降は1Cとなるようにした。
【0132】
放電効率は、液状電解液のみを電解質として使用し、0.2Cで充電、0.2Cで放電した時の放電容量を100%としたときの、ポリマー電解質を使用した時の放電容量の割合{即ち、放電効率(%)=[(ポリマー電解質を使用した時の放電容量)/(液状電解液のみを電解質として使用した時の放電容量)」×100}とした。
【0133】
結果を下記表1に示す。下記表1において、長期信頼性における充放電効率は、各サイクルにおける比較例1を100%とした。
【0134】
【表1】

【0135】
上記表1の結果から、本願発明の電池は、優れた充放電効率および長期信頼性を示すことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明のリチウムイオン電池の代表的な一実施形態である積層型の扁平な非双極型リチウムイオン二次電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図2】本発明のリチウムイオン電池の代表的な他の一実施形態である積層型の扁平な双極型リチウムイオン二次電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図3】本発明に係るリチウムイオン電池の代表的な実施形態である積層型の扁平なリチウムイオン二次電池の外観を模式的に表した斜視図である。
【図4】本発明に係る組電池の代表的な実施形態を模式的に表した外観図であって、図4Aは組電池の平面図であり、図4Bは組電池の正面図であり、図4Cは組電池の側面図である。
【図5】本発明の組電池を搭載した車両の概念図である。
【符号の説明】
【0137】
10…リチウムイオン二次電池、
11…正極集電体、
11a…最外層正極集電体、
12,32…正極(正極活物質層)、
13,35…電解質層、
14…負極集電体、
15,33…負極(負極活物質層)、
16,36…単電池層(=電池単位ないし単セル)、
17,37,57…電池要素(発電要素;積層体)、
18,38,58…正極タブ、
19,39,59…負極タブ、
20,40…正極端子リード、
21,41…負極端子リード、
22,42,52…電池外装材、
30…双極型リチウムイオン電池、
31…集電体、
31a…正極側の最外層集電体、
31b…負極側の最外層集電体、
34…双極型電極、
34a,34b…最外層に位置する電極、
43…シール部(絶縁層)、
50…リチウムイオン電池、
250…小型の組電池、
300…組電池、
310…接続治具、
400…電気自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極と、集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極とが電解質層を介して積層されてなる単電池層を含む電池要素を有する非水電解質二次電池であって、
前記負極活物質層に使用される電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力が、前記正極活物質層に使用される電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力より小さい、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記電解質(1)および(2)の少なくとも一方は、固体高分子電解質である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力に対する、前記電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力の比が、1を超えて100以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記電解質(1)の50%歪み時の圧縮応力が、0.01〜2.5MPaである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記電解質層は、セパレータを有し、
前記セパレータは、50%歪み時の圧縮応力が正極活物質層で使用される電解質(2)の50%歪み時の圧縮応力以下である電解質で含浸される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記セパレータは、負極活物質層で使用される電解質(1)が含浸されてなる、請求項5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質層は、活物質として、リチウム−遷移金属複合酸化物を含み、
前記負極活物質層は、活物質として、炭素材料、Al、Si、Ge、Sn、Pb、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
双極型二次電池である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池を用いた組電池。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池、または請求項9記載の組電池をモータ駆動用電源として搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−135265(P2010−135265A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312333(P2008−312333)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】