説明

非水電解質二次電池

【課題】正極活物質にリチウムニッケル複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、高温充電保存時のガスの発生を抑制すること。
【解決手段】正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極極板と、負極極板と、非水溶媒中に電解質塩を含有する非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、正極活物質としてLiNi1−y(0.9<x≦1.2、0<y≦0.7、1.9<z≦2.1、MはAl、Coの内少なくとも一種を含む元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を用い、この正極活物質の粒子表面にセラミックスの粒子を付着させ、且つ、正極合剤層中に結着剤として、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとへキサフルオロプロピレンとの共重合体を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特に正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物を用いた場合でも、高温環境下において充電状態で保存された際のガスの発生が抑制されると共に、負荷特性が向上した非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の携帯電話機、携帯型パーソナルコンピューター、携帯型音楽プレイヤー等の携帯型電子機器の駆動電源として、さらには、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)用の電源として、高エネルギー密度を有し、高容量であるリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
これらの非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiMO(但し、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−y(y=0.01〜0.99)、LiMnO、LiMn、LiCoMnNi(x+y+z=1)、又はLiFePOなどが一種単独もしくは複数種を混合して用いられている。
【0004】
このうち、特に各種電池特性が他のものに対して優れていることから、リチウムコバルト複合酸化物や異種金属元素添加リチウムコバルト複合酸化物が多く使用されている。しかしながら、コバルトは高価であると共に資源としての存在量が少ない。そのため、これらのリチウムコバルト複合酸化物や異種金属元素添加リチウムコバルト複合酸化物を非水電解質二次電池の正極活物質として使用し続けるには非水電解質二次電池のさらなる高性能化が望まれている。
【0005】
このうち、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、従来のリチウムコバルト複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池と比較して、高容量であり、また、比較的安価であるという長所を有している。しかしながら、リチウムニッケル複合酸化物は、電解液との反応性が高いため、特に充電状態で高温環境下に放置した際、活物質の劣化が激しく、ガスが発生し易いという課題を有している。
【0006】
上記の課題を解決するための方法として、ニッケルの一部を異種元素で置換することによって、リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造を変えることが考えられるが、リチウムニッケル複合酸化物は不安定な構造であるため、電池の容量と充電状態で高温環境下に放置した際の安定性を両立させることは困難である。
【0007】
一方、下記特許文献1には、正極活物質としてNiとMnを含むリチウム遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、正極活物質の表面にAlの微粒子を付着させることにより、高温時における充放電サイクルに伴う電池容量の低下を抑制した非水電解質二次電池の発明が開示されている。また、下記特許文献2には、正極活物質としてのリチウムニッケル複合酸化物の表面をアルミナおよびチタニアによって被覆することによって、リチウムニッケル複合酸化物と電解質とが反応することに起因するガスの発生が抑制された非水電解質二次電池の発明が開示されている。
【0008】
また、下記特許文献3には、正極活物質としてLiCoOを用い、結着剤としてフッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)をモノマーとする共重合体であって、かつそのモノマー組成がVdFが45.0〜55.0質量%、HFPが25.0〜35.0質量%、TFEが15.0〜25.0質量%のもの用いた非水電解質二次電池の発明が開示されている。また、下記特許文献4には、正極活物質としてLiCoOを用い、結着剤として引っ張り破壊伸びが400%以上のVdF、HFP及びTFEの共重合体を使用した非水電解質二次電池の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−340056号公報
【特許文献2】特開2009− 16302号公報
【特許文献3】特開2000−058067号公報
【特許文献4】特開2005−174833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に開示されている非水電解質二次電池によれば、ガス発生の抑制について一定の効果は見られるが、Mnを含まないリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた場合には、ガスが発生し易いことに変わりはなく、しかも、負荷特性については何も示されていない。また、上記特許文献2に開示されている非水電解質二次電池においては、リチウムニッケル複合酸化物を被覆するセラミックスとしてアルミナやチタニアを単独で用いても高温におけるガス発生の抑制効果は得られないし、しかも、負荷特性については何も示されていない。
【0011】
なお、上記特許文献3に開示されている発明によれば、製造時にひび割れが生じることなく、非水電解液に対する膨潤性が少なく、極板の膨れや充放電特性の低下が抑制された非水電解質二次電池が得られることが示されているが、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた場合の高温充電保存時のガス発生に関しては何も示されていない。更に、上記特許文献4に開示されている発明によれば、正極極板の折り曲げに対する破断を防止して充放電性能を向上し、更に、高温環境下での放電容量の低下を抑制することができることが示されているが、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた場合の高温充電保存時のガス発生に関しては何も示されていない。
【0012】
本発明者は、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、電池の容量が大きく、しかも、充電時に高温環境下に放置した際にガスの発生が少ない非水電解質二次電池を得るべく鋭意研究を重ねた。その結果、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物を用い、結着剤として、現在一般的に用いられているポリフッ化ビニリデン(PVdF)に替えてVdF、TFE及びHFPの共重合体を用いると、正極活物質と電解液との反応が大幅に抑制され、高温充電保存時のガスの発生が抑制されることを見出した。
【0013】
しかしながら、単にVdF、TFE及びHFPの共重合体を正極活物質合剤の結着剤として用いた非水電解質二次電池は、高温充電保存時のガスの発生が抑制されるが、結着剤としてPVdFを用いたものよりも負荷特性が低下してしまうことが判明した。
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために、更に検討を重ねた結果、VdF、TFE、HFPの共重合体を結着剤として用いると共に、正極活物質としてのリチウムニッケル複合酸化物をアルミナ等のセラミックス粒子で被覆することにより、高温充電保存時のガスの発生を抑制することができるだけでなく、負荷特性が向上した非水電解質二次電池が得られることを見出し、本発明を完成させるに至ったのである。
【0015】
すなわち本発明は、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質に用いた場合でも、高温充電保存時の正極と非水電解質との間の反応に起因するガス発生が抑制された非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池は、
正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極極板と、負極極板と、非水溶媒中に電解質塩を含有する非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、
前記正極活物質はLiNi1−y(0.9<x≦1.2、0<y≦0.7、1.9<z≦2.1、MはAl、Coの内少なくとも一種を含む元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物であり、
前記正極活物質の粒子表面にはセラミックスの粒子が付着しており、
且つ、前記正極合剤層中にVdFとTFEとHFPとの共重合体を含有することを特徴とする。
【0017】
本発明の非水電解質二次電池においては、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物を用いているとともに、正極合剤層中にVdFとTFEとHFPとの共重合体を含有させている。VdFとTFEとHFPとの共重合体は、正極活物質の表面を緻密に被覆する。そのため、結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いると、PVdFを用いた場合よりも、正極活物質と非水電解液との接触面積が少なくなるので、高温充電保存時の非水電解液の分解によるガス発生が少なくなる。
【0018】
しかも、本発明の非水電解質二次電池では、リチウムニッケル複合酸化物LiNi1−yからなる正極活物質の表面にはセラミックス粒子が付着されている。なお、セラミックス粒子の粒径は、リチウムニッケル複合酸化物LiNi1−yからなる正極活物質よりも粒径が小さいものであれば、任意であるが、0.5μm以下であることが好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物LiNi1−yからなる正極活物質の表面にセラミックス粒子を付着させるには、リチウムニッケル複合酸化物LiNi1−yとセラミックス粒子とを混合した後、焼成することによって容易に得ることができる。
【0019】
セラミックス粒子は、絶縁物であり、電極反応には関与しない。そのため、リチウムニッケル複合酸化物LiNi1−yからなる正極活物質の表面が緻密に被覆されるが、セラミックス粒子の表面には形成されないため、ミクロ的にセラミックス粒子の存在している箇所の近傍で正極活物質と結着剤の間に空隙が形成され、この空隙には非水電解液が存在している状態となる。
【0020】
そのため、本発明の非水電解質二次電池によれば、結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いたことにより正極活物質と非水電解液との接触が少なくなっても、正極活物質の表面にはセラミックス粒子が付着されているため、正極活物質と非水電解液とが直接接触している部分が存在しているので、電池の内部抵抗が小さくなり、負荷特性が大きく向上する。
【0021】
また、本発明の非水系二次電池で使用し得る負極活物質としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及び易黒鉛化性炭素などの炭素原料、LiTiO及びTiOなどのチタン酸化物、ケイ素及びスズなどの半金属元素、又はSn−Co合金等が挙げられる。
【0022】
また、本発明の非水系二次電池において使用し得る非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などの環状炭酸エステル、フッ素化された環状炭酸エステル、γ−ブチルラクトン(BL)、γ−バレロラクトン(VL)などの環状カルボン酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、ジブチルカーボネート(DBC)などの鎖状炭酸エステル、フッ素化された鎖状炭酸エステル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、メチルイソブチレート、メチルプロピオネートなどの鎖状カルボン酸エステル、N、N'−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノンなどのアミド化合物、スルホランなどの硫黄化合物、テトラフルオロ硼酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムなどの常温溶融塩などが例示できる。これらは2種以上混合して用いることが望ましい。これらの中では、特に誘電率が大きく、非水電解液のイオン伝導度が大きい環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルが好ましい。
【0023】
また、本発明の非水系二次電池で使用するセパレータとしては、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン材料から形成された微多孔膜からなるセパレータが選択できる。セパレータのシャットダウン応答性を確保するために、融点の低い樹脂を混合してもよく、更には、耐熱性を得るために高融点樹脂との積層体や無機粒子を担持させた樹脂としてもよい。
【0024】
なお、本発明の非水系二次電池で使用する非水電解質中には、電極の安定化用化合物として、更に、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチルカーボネート(VEC)、無水コハク酸(SUCAH)、無水マイレン酸(MAAH)、グリコール酸無水物、エチレンサルファイト(ES)、ジビニルスルホン(VS)、ビニルアセテート(VA)、ビニルピバレート(VP)、カテコールカーボネート、ビフェニル(BP)などを添加してもよい。これらの化合物は、2種以上を適宜に混合して用いることもできる。
【0025】
また、本発明の非水系二次電池で使用する非水溶媒中に溶解させる電解質塩としては、非水系二次電池において一般に電解質塩として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が特に好ましい。前記非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0026】
更に、本発明の非水系二次電池においては、非水電解質は液状のものだけでなく、ゲル化されているものであってもよい。
【0027】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記セラミックス粒子の付着量は、前記正極活物質量に対して1.5mol%以上3.5mol%以下であることが好ましい。
【0028】
セラミックス粒子の付着量が1.5mol%から減少するに従って負荷特性が低下していくので、1.5mol%以上が好ましい。また、セラミックス粒子の付着量が正極活物質量に対して3.5mol%を超えると、セラミックス粒子は電極反応に関与しないため、単位体積当りの電池容量が低下するので好ましくない。
【0029】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記セラミックスは、アルミナ及びチタニアから選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
アルミナ及びチタニアは、共にリチウムとの反応性が低く、非水電解質二次電池内での安定性に優れ、さらにコスト的にも安価である。そのため、本発明の非水電解質二次電池によれば、上記効果を奏する非水電解質二次電池が安価に得られるようになる。
【0031】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記正極極板中に含有される前記VdFとTFEとHFPとの共重合体の含有量は、前記正極活物質量に対して2.3質量%以上2.9質量%以下であることが好ましい。
【0032】
VdFとTFEとHFPとの共重合体の含有量は、正極活物質量に対して2.3質量%未満であると、正極活物質の付着性が低下すると共に負荷特性も低下するので好ましくなく、また、2.9質量%を超えて添加しても、その分だけ単位体積当たりの電池容量が低下してしまうため、好ましくない。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池を例示するものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0034】
[正極活物質の作製]
実施例1〜5、比較例2及び4〜6の非水電解質二次電池で使用する正極活物質としては、リチウムニッケル複合酸化物LiNi0.80Co0.15Al0.05(平均粒径=20μm)からなる正極活物質に、アルミナ粒子(平均粒径=0.5μm以下)を正極活物質量に対して所定量混合し、焼成することで、リチウムニッケル複合酸化物表面にアルミナ粒子を付着させた正極活物質を調製した。また、比較例1及び3の非水電解質二次電池で使用するため、別途アルミナ粒子を付着させない上記組成のリチウムニッケル複合酸化物LiNi0.80Co0.15Al0.05(平均粒径=20μm)からなる正極活物質を用意した。
【0035】
[正極の作製]
上述の各正極活物質が90質量部、導電剤としての炭素粉末が5質量部、結着剤としてVdFが70質量部とTFEが20質量部とHFPが10質量部からなる共重合体を活物質質量の2.3〜3.5質量部となるように混合(実施例1〜5、比較例1及び4〜6)、又は、結着剤としてPVdFが2.6質量部となるよう混合(比較例2及び3)し、これをN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム製の集電体の片面にドクターブレード法により塗布して、正極集電体上に活物質層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて圧縮し所定の大きさに切り出して、実施例1〜5及び比較例1〜6の非水電解質二次電池で使用する正極極板を作製した。なお、各正極極板の結着剤の種類及び添加量、正極活物質の表面に付着させたアルミナ量は表1〜表3に纏めて示した。
【0036】
負極極板としては、黒鉛粉末からなる負極活物質95質量部と、カルボキシメチルセルロース(CMC)からなる増粘剤3質量部と、スチレンブタジエンゴム(SBR)からなる結着剤2質量部とを、適量の水と混合してスラリーとした。このスラリーを厚さ10μmの銅製集電体の両面にドクターブレード法により塗布して活物質層を形成し、その後、乾燥機中を通過させて乾燥した後、圧縮ローラーを用いて圧縮し、所定の大きさに切り出し、実施例1〜5及び比較例1〜6の非水電解質二次電池で共通して使用する負極極板を作製した。
【0037】
なお、黒鉛の電位はLi基準で0.1Vである。また、正極極板及び負極極板の活物質充填量は、設計基準となる正極活物質の電位において、正極と負極の充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)を1.1となるように調整した。
【0038】
[巻回電極体の作製]
上記のようにして作製された正極極板と負極極板とをポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して円筒状に巻回した後、押し潰すことによって偏平渦巻状の電極体を作製した。
【0039】
[非水電解液の調製]
非水電解液としては、エチレンカーボネ一ト(EC)とメチルエチルカーボネ一ト(MEC)との30:70(体積比)混合溶媒にLiPFを1mol/Lとなるように溶解し、実施例1〜5及び比較例1〜6の非水電解質二次電池で共通して使用する非水電解液とした。
【0040】
[電池の作製]
上記のようにして作製した電極体を、予めラミネートフィルムをカップ状(凹形状)に成形したアルミニウムラミネート外装体に挿入し、ラミネートフィルムを折り返して底部を形成し、底部と交わる両側辺を熱溶着して封止部を形成した。次いで、開口部から上記電解液を注液し、開口部を封止して、電池規格サイズとして、厚み3.6mm×幅3.5cm×長さ6.2cmの実施例1〜5及び比較例1〜6の非水電解質二次電池を得た。なお、この非水電解質二次電池の設計容量は800mAhである。
【0041】
[負荷特性試験]
負荷特性は、上述のようにして作製された実施例1〜4、比較例1〜3及び6の各非水電解質二次電池の各10個ずつについて、25℃の恒温槽中で以下のようにして求めた。最初に、1It=800mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに電池電圧が4.2Vに達した後は、4.2Vの定電圧で電流値が(1/50)It=16mAになるまで充電した後、2It=1600mAの定電流で電池電圧が2.75Vになるまで放電し、このときの放電容量の平均値を大電流放電容量として求めた。
【0042】
そして、放電特性(%)は、結着剤としてPVdFを正極活物質量に対して2.6質量%となるように添加し、また、正極活物質の表面にアルミナ粒子を1.5mol%付着させた比較例2の電池の放電負荷率を基準として規格化し、相対値として求めた。結果をまとめて表1に示した。
【0043】
[高温充電保存後のガス発生量の測定]
高温充電保存後のガス発生量は以下のとおりにして測定した。各電池を25℃において、1It=800mAの定電流で充電し、電池電圧が4.2Vに達した後は4.2Vの一定電圧で充電電流が(1/50)It=16mAとなるまで充電し、満充電状態とした。その後、70℃に維持された恒温槽中に300時間保存した。その後、各電池を25℃になるまで冷却し、25℃においてアルミラミネート外装体の一部を切り取り、水置換法によって発生したガスの体積を平均値として測定した。このガスの体積は、比較例2の電池のガスの体積を基準として規格化し、相対値として求めた。結果をまとめて表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示した結果から、以下のことが分かる。すなわち、比較例2の電池は、比較例3の電池に対して正極活物質の表面をアルミナ粒子で被覆したものであるが、比較例3の電池と比べて、ガスの発生量の抑制効果がある程度見られるが、負荷特性は低下している。
【0046】
また、比較例1の電池は、比較例3の電池に対して正極の結着剤としてPVdFに替えてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いたものであるが、ガスの発生量は大幅に抑制されていると共に、負荷特性が比較例2の電池以上に低下している。この比較例1の電池の負荷特性の低下は、VdFとTFEとHFPとの共重合体の活物質との結着状態がPVdF単独の場合と比べて異なっていることを示している。
【0047】
一般的に、VdFとTFEとHFPとの共重合体は、正極活物質の表面を緻密に被覆する。そのため、正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いると、PVdFを用いた場合よりも、正極活物質と非水電解液との接触面積が少なくなるので、高温充電保存時の非水電解液の分解によるガス発生が少なくなると共に負荷特性の低下に至ったものと考えられる。
【0048】
また、実施例2の電池は、正極活物質を比較例3の電池の場合と同様にアルミナ粒子で被覆し、かつ、正極の結着剤を比較例1と同様にPVdFに替えてVdFとTFEとHFPとの共重合体に替えたものである。実施例2の電池では、比較例1の電池よりもガスの発生が抑制されてガス発生量が著しく低減されており、更に負荷特性の向上効果が見られる。
【0049】
また、実施例1、3及び4の電池は、実施例2の電池に対して結着剤としてのVdFとTFEとHFPとの共重合体の添加量を変化させたものであるが、いずれも実施例2の電池の場合と同様に、ガス発生抑制効果及び負荷特性向上効果が得られている。
【0050】
すなわち、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物からなるものを用い、正極活物質の表面にアルミナ粒子を付着させ、かつ、正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いることで、充電時高温環境下で保存した場合のガス発生が抑制され、かつ、負荷特性が向上した非水電解質二次電池が得られる。前者のガス発生抑制効果は、単に正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いただけの場合と比べて顕著なものであり、また、後者の負荷特性向上効果は、正極活物質の表面にアルミナ粒子を付着させただけのもの、及び、正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いただけのものでは、達成できないものである。
【0051】
[初期容量の測定]
実施例5及び比較例4の電池は、正極活物質の表面に付着させるアルミナ粒子の付着量を正極活物質量に対して3.5mol%(実施例5)及び5mol%(比較例4)とした以外は実施例2の電池と同様の構成を備えている。そして、比較例1、実施例2、実施例5及び比較例4の電池のそれぞれ10個ずつについて以下のようにして初期容量を測定した。
【0052】
各実施例及び比較例の電池のそれぞれに対し、25℃の恒温槽中で、1It=800mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、更に電池電圧が4.2Vに達した後は、4.2Vの定電圧で電流値が(1/50)It=16mAになるまで充電した。その後、1It=800mAの定電流で電池電圧が2.75Vになるまで放電した。このときの放電容量の平均値を初期容量として求めた。なお、初期容量は、アルミナ添加量が0mol%である比較例1の電池の初期容量を100%として規格化し、相対値で求めた。結果をまとめて表2に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示した結果から以下のことが分かる。すなわち、正極活物質の表面に付着させるアルミナ量が多くなるに従って初期容量が低下している。正極活物質の表面に正極活物質量の5.0mol%付着させると、初期容量はアルミナを付着させない比較例1の電池の場合の95%まで低下してしまう。これはアルミナ粒子は電極反応に関与しないため、正極活物質の表面に付着されたアルミナ粒子が多過ぎると、その分だけ正極活物質量が減少するため、単位体積当りの容量が低下することを意味する。
【0055】
また、アルミナ付着量が少ないと、表1に示した比較例1の電池の結果から明らかなように、負荷特性が大幅に低下してしまう。そのため、高容量の電池が得られるというリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質に用いた非水電解質二次電池の特長を活かすためには、アルミナ付着量は正極活物質量に対して1.5mol%以上3.5mol%以下とすることが好ましいことがわかる。
【0056】
[密着率の測定]
比較例5及び比較例6の電池は、正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を活物質質量に対して2質量%(比較例5)及び3.5質量%(比較例6)とした以外は、実施例1の電池と同様の構成を備えている。そして、実施例1〜4、比較例2、5及び6の正極極板のそれぞれ10個ずつについて以下のようにして正極合剤の密着率を測定した。なお、比較例6の正極極板は、実施例1の場合と同様にして非水電解質二次電池を作製した後、負荷特性を測定した。
【0057】
密着率は、一定幅の粘着テープを、一定長さ、一定圧力で正極極板の表面に押圧することにより付着させ、この粘着テープを正極極板に対して垂直方向に引き上げることにより正極合剤を剥離させ、正極合剤が剥離したときの力を求め、比較例2の正極極板の剥離強度を100%として規格化し、密着率として相対値で求めた。結果をまとめて表3に示した。
【0058】
【表3】

【0059】
表3に示した結果から以下のことが分かる。すなわち、正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いた場合でも、この共重合体の含有量が正極活物質量に対して2質量%(比較例5)と少ないと、密着率が極めて低くなっている。正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いた場合、その添加量が2.3質量%〜2.9質量%まで(実施例1〜4)は、PVdFを用いた場合(比較例2)よりも密着率は劣っているが、負荷特性は非常に良好である。しかしながら、正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を正極活物質量に対して3.5質量%(比較例6)添加すると、負荷特性が極めて悪化している。
【0060】
以上の負荷特性及び密着率の測定結果によれば、正極の結着剤としてVdFとTFEとHFPとの共重合体を用いる場合、正極活物質量に対して2.3%以上2.9質量%以下含有していることが好ましいことが分かる。
【0061】
なお、上記実施例1〜5ではセラミックスとして全てアルミナを用いた例を示したが、リチウムに対して安定であり、しかも非水電解質二次電池内での安定性に優れているものであれば使用できるが、コスト的にも安価な点も考慮すると、アルミナ以外にはチタニアも使用できる。又、上記実施例1〜5では正極活物質としてLiNi0.80Co0.15Al0.05を用いた例を示したが、これに限らず、LiNi1−y(0.9<x≦1.2、0<y≦0.7、1.9<z≦2.1、MはAl、Coの内少なくとも一種を含む元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物であれば同様の効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極極板と、負極極板と、非水溶媒中に電解質塩を含有する非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、
前記正極活物質はLiNi1−y(0.9<x≦1.2、0<y≦0.7、1.9<z≦2.1、MはAl、Coの内少なくとも一種を含む元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物であり、
前記正極活物質の粒子表面にはセラミックスの粒子が付着しており、
且つ、前記正極合剤層中にフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとへキサフルオロプロピレンとの共重合体を含有することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記セラミックス粒子の付着量は、前記正極活物質量に対して1.5mol%以上3.5mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記セラミックスは、アルミナ及びチタニアから選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記正極極板中に含有される前記フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとへキサフルオロプロピレンとの共重合体の含有量は、前記正極活物質量に対して2.3質量%以上2.9質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2011−181386(P2011−181386A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45494(P2010−45494)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】