説明

非水電解質二次電池

【課題】サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】帯状の正極芯体に正極活物質層が形成された正極板と、帯状の負極芯体に負極活物質層が形成された負極板と、前記正極板と前記負極板を離隔するセパレータと、が巻回されてなる巻回電極体と、非水溶媒及び電解質塩を有する非水電解質と、が有底円筒形の外装体内に収納された非水電解質二次電池において、前記正極活物質層と前記負極活物質層の少なくともいずれか一方の活物質層上には、無機粒子を有する多孔質層が形成され、前記多孔質層の巻回中心側端部における厚みをx、前記多孔質層の巻回終端側端部における厚みをyとするとき、3≦x≦5、且つ、1≦y<xが成立し、前記多孔質層の厚みは、巻回中心側端部から巻回終端側端部に向かって小さくなっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の移動情報端末の高機能化・小型化および軽量化が急速に進展している。これらの端末の駆動電源として、高いエネルギー密度を有し、高容量であるリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池は、さらなる高容量化が求められており、この要望に応えるため、正極や負極の活物質充填密度を高めることがなされている。しかしながら、活物質充填密度を高めると、その分電極内の空隙体積が減少し、電極内に保持される非水電解質量が減少する。電極内で非水電解質量不足が生じると、非水電解質量が不足する部位において充放電がスムースに進行せず、且つ、非水電解質量が不足していない部位において局所的に大きな電流が流れることになる。このように、極板内で電流のアンバランスが生じると、極板表面にリチウムが析出し易くなったり、活物質が劣化し易くなったりするので、充放電サイクル特性が低下するという問題がある。
【0004】
ここで、非水電解質電池に関する技術としては、下記特許文献1〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-38016号公報
【特許文献2】特開2006-12703号公報
【特許文献3】特開平9-180704号公報
【特許文献4】特開2007-172880号公報
【0006】
特許文献1は、長尺状の芯材と、その上に形成された合剤層と、芯材の長手方向に平行な一方の辺に沿って設けられた芯材の露出部を有する電極板において、芯材の露出部の少なくとも合剤層の端面付近および合剤層に、多孔質膜が形成する技術である。この技術によると、振動などによって正極と負極との位置のずれが発生した場合にも、高い信頼性を維持できる非水電解質二次電池が得られるとされる。
【0007】
特許文献2は、合剤層の厚みが電極群の内側より外側が大きく、かつ、合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一である正、負極板を用い、集電タブを電極群の端面から集電体の一定長さに対して1つずつ導出された電極群を用いる技術である。この技術によると、高出力及び高容量を両立可能な二次電池が得られるとされる。
【0008】
特許文献3は、正極シート、負極シートの少なくともひとつの電極シートの少なくともひとつの面に塗布された電極材料量が電極シート長さ方向で変化させる技術である。この技術によると、高容量かつサイクル特性が良好で、安全性の高い電池が得られるとされる。
【0009】
特許文献4は、正極板および負極板において合剤層に、ともに短辺に平行な断面においてその幅方向の一端側には他端側に比べてその厚みを厚くした厚肉部を形成し、かつ、正極板と負極板とは厚肉部が互いに反対側に位置するように配する技術である。この技術によると、正極板と負極板の巻きずれを防止できるとされる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜4にかかる技術では、サイクル特性を十分に高めることはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記に鑑みなされたものであって、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、帯状の正極芯体に正極活物質層が形成された正極板と、帯状の負極芯体に負極活物質層が形成された負極板と、前記正極板と前記負極板を離隔するセパレータと、が巻回されてなる巻回電極体と、非水溶媒及び電解質塩を有する非水電解質と、が有底円筒形の外装体内に収納された非水電解質二次電池において、前記正極活物質層と前記負極活物質層の少なくともいずれか一方の活物質層上には、無機粒子を有する多孔質層が形成され、前記多孔質層の巻回中心側端部における厚みをx、前記多孔質層の巻回終端側端部における厚みをyとするとき、3≦x≦5、且つ、1≦y<xが成立し、前記多孔質層の厚みは、巻回中心側端部から巻回終端側端部に向かって小さくなっていることを特徴とする。
【0013】
巻回電極体を用いる電池の場合、巻き終わり側(巻回終端側)よりも巻き始め側(巻回中心側)に大きな巻回圧が加わり、巻回圧により活物質層の空隙がさらに小さくなるので、上述した非水電解質不足は巻き始め側においてより起き易い。
【0014】
ここで、正極や負極の活物質層表面に多孔質層を形成すると、当該多孔質層が良好に非水電解質を保持し、保持した非水電解質を活物質層に供給する作用を有するので、非水電解質不足を防止できる。この多孔質層は、厚みが厚いほど保持できる非水電解質量が増加するが、多孔質層自体は充放電反応に直接関与しないため、厚みを厚くしすぎると、放電容量が低下する。
【0015】
上記本発明の構成では、多孔質層の厚みが、巻回中心側端部>巻回終端側端部であり、且つ、巻回終端側端部に向かって厚みが小さくなっている構成となっており、巻回中心から巻回終端にかけての非水電解質の供給量のバランスが良好に保たれる。これにより、多孔質層の総体積を大きくしすぎることなく極板内での電流のアンバランスを防止できる。すなわち、放電容量を犠牲にすることなくリチウムの析出や活物質の劣化を抑制し、サイクル特性を顕著に高めることができる。
【0016】
ここで、巻回圧が大きく作用する巻回中心側において十分な量の非水電解質を保持するためには、巻回中心側端部における多孔質層の厚みを3μm以上とする。また、作用する巻回圧が小さい巻回終端側において十分な量の非水電解質を保持するためには、巻回終端側端部における多孔質層の厚みを1μm以上とする。また、放電容量低下を防止する観点から、多孔質層の厚みの上限は5μmとする。
【0017】
なお、正極側に設けた多孔質層は、保持した非水電解質を正極側のみではなく、対向配置された負極側にも供給し、負極側に設けた多孔質層は、保持した非水電解質を負極側のみではなく、正極側にも供給する。よって、多孔質層は正負電極板のいずれに設けてもよく、双方に設けてもよい。双方に設けたときは、双方に設けられた多孔質の合計が5μm以下であることが好ましい。
【0018】
また、多孔質層の厚み分布は、連続的に厚みが変化していてもよく、不連続に厚みが変化していてもよい。
【0019】
多孔質層には、無機粒子が必須成分として含まれるが、これに加えて結着剤やその他の添加剤を含んでいてもよい。また、多孔質層を構成する材料が全て絶縁性材料であると、セパレータに加えて多孔質層もまた正負電極間の短絡を防止するように作用するので好ましい。
【0020】
無機粒子としては、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、ジルコニウム酸化物、ケイ素酸化物からなる群より選択された少なくとも一種を含むことが好ましい。より具体的にはアルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、シリカ等を用いることができる。無機粒子の平均粒径は、0.1〜1.0μmとすることが好ましい。
【0021】
また、多孔質層が良好に非水電解質を保持するために、多孔質層の空隙率は30〜80%とすることが好ましい。
【0022】
また、放電容量を高めるために正極の充電電位を高めると、放電容量当たりの非水電解質量が不足し易くなる。しかしながら、本発明の構成を採用することにより、非水電解質不足を防止できるので、本発明を正極板の充電時の電位が、リチウム基準で4.35〜4.45Vである電池に適用することにより、放電容量が大きくサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を実現できる。
【0023】
また、このような高電位充電を行う電池においては、負極活物質として、リチウム基準での充電電位が約0.1Vである炭素材料を用いると、電力量の大きい電池を実現できるため、好ましい。
【0024】
炭素系材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、あるいはこれらの焼成体等の炭素質物等を用いることができる。
【0025】
一方で、黒鉛よりもリチウム基準の電位が高いケイ素やすず、その他合金や酸化物を含む負極活物質を用いる非水電解質二次電池は、電池電圧を高めるために正極活物質を高い電位まで用いることがある。そのため、このような非水電解質二次電池であっても炭素系材料を負極活物質に用いたものと同様に本発明の効果が得られる。
【0026】
また、本発明は、X線回折法により算出される活物質の真密度の70%以上の充填密度で充填されるような高密度充填の(非水電解質不足が起き易い)非水電解質二次電池に適用すると、その効果がより顕著に発揮される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、巻回電極体の非水電解質保持量を均一化し、これによりサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を実施するための形態を、実施例を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
<正極の作製>
炭酸コバルトを550℃で熱分解反応させて、四酸化三コバルト(Co)を得た。これに、リチウム源としての炭酸リチウム(LiCO)を、CoとLiとのモル比が1:1となるように混合し、空気雰囲気で850℃で20間焼成して、コバルト酸リチウム(LiCoO)を得た。これを乳鉢で平均粒径が15μmとなるように粉砕した。
【0030】
上記コバルト酸リチウムと、導電剤としての炭素粉末と、結着剤としてのポリビニリデンフルオライド(PVdF)とを、質量比96:2:2の割合で混合し、これらをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質スラリーを調製した。
【0031】
次に、ドクターブレードを用いて、帯状のアルミニウム箔(厚さが15μm)からなる正極芯体の両面に、この正極活物質スラリーを均一な厚みで塗布した。このとき、活物質塗布部分の長さを550mm、活物質未塗布部分の長さを75mmとした。この極板を乾燥機内に通して、スラリー調製時に用いた有機溶媒(NMP)を除去し、乾燥極板を作製した。この乾燥極板を、ロールプレス機を用いて厚みが160μmとなるように圧延し、所定のサイズに裁断して、正極板を得た。
【0032】
<負極の作製>
負極活物質としての黒鉛粉末と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴムと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとを、質量比97.5:1.5:1の割合で混合し、これらを水と混合し、負極活物質スラリーを調製した。
【0033】
次に、ドクターブレードを用いて、帯状の銅箔(厚さが10μm)からなる負極芯体の両面に、この負極活物質スラリーを均一な厚さで塗布した。このとき、活物質塗布部分の長さを590mm、活物質未塗布部分の長さを60mmとした。この極板を乾燥機内に通して、スラリー調製時に用いた水分を除去し、乾燥極板を作製した。その後、この乾燥極板を、ロールプレス機により厚みが145μmとなるように圧延し、所定のサイズに裁断して、負極板を得た。
【0034】
なお、黒鉛の充電時の電位はリチウム基準で約0.1Vであり、正極板及び負極板の活物質量は、設計基準となる正極活物質の電位(本実施例ではリチウム基準で4.40V)において、正極と負極の充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)を、1.1となるように調整した。ここで、上記充電容量比は、1.0〜1.1の範囲内とすることが好ましい。
【0035】
<多孔質層の形成>
酸化アルミニウム(住友化学製AKP3000)と、カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業製#1380)と、純水と、を質量比30.0:0.5:69.5で混錬機(PRIMIX社製ハイビスミクス)内に投入し、混錬した。得られたスラリーを、ビーズミル(浅田鉄工製ナノミル分散装置)を用いて分散させた。分散条件は、内容積0.3L、ビーズ直径0.5mm、スリット0.15mm、ビーズ充填量90%、周速40Hz,処理流量1.5kg/minとした。こののち、酸化アルミニウムの質量に対して3.75質量%のアクリル系ゴムバインダーと、純水とを、酸化アルミニウムの質量割合が30質量%となるように加え、上記混錬機で混錬した。
【0036】
上記正極板の正極活物質層上に、上記分散スラリーをディップコート方式により塗布した。このとき、巻き始めから100mmまでの領域はディップ回数を5回、100〜200mmまでの領域はディップ回数を4回、200〜300mmまでの領域はディップ回数を3回、300〜400mmまでの領域はディップ回数を2回、400mmから巻き終わりまでの領域はディップ回数を1回とし、且つ、多孔質層の厚みは、巻き始めで3μm、巻き終わりで1μmとなるようにした。
【0037】
<電極体の作製>
多孔質層が形成された正極板にアルミニウム製のリードを、上記負極板にニッケル製のリードを、それぞれ溶接した。こののち、正極板と負極板とポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータ(厚み22μm)とを重ね合わせ、巻き取り機により巻回し、絶縁性の巻き止めテープを設けて、巻回電極体を完成させた。
【0038】
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比3:7の割合(1気圧、25℃と換算した場合における)で混合した非水溶媒に、電解質塩としてのLiPFを1.0M(モル/リットル)の割合で溶解して非水電解質となした。
【0039】
<電池の組み立て>
上記巻回電極体の上下面にそれぞれ絶縁板を配置し、有底円筒形の外装缶内に上記電極体を挿入し、正極リードを封口板に、負極リードを外装缶にそれぞれ溶接した。こののち、Arを満たしたグローボックス内で、上記非水電解質を外装缶内に注液した。こののち、封口板を絶縁ガスケットを用いてカシメ固定し、直径18mm、高さ65mm、設計容量が2.2Ahである実施例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0040】
(実施例2)
上記多孔質層の厚みを、巻き始めで4μm、巻き終わりで1μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2に係る電池を作製した。
【0041】
(実施例3)
上記多孔質層の厚みを、巻き始めで5μm、巻き終わりで1μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3に係る電池を作製した。
【0042】
(実施例4)
多孔質層を設けていない正極板を用い、且つ、以下に示す方法で負極活物質層上に多孔質層を形成した負極板を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例4に係る電池を作製した。
【0043】
<多孔質層の形成>
酸化アルミニウム(住友化学製AKP3000)と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、を質量比30.0:69.5:0.5で混錬機(PRIMIX社製ハイビスミクス)内に投入し、混錬した。得られたスラリーを、ビーズミル(浅田鉄工製ナノミル分散装置)を用いて分散させた。分散条件は、内容積0.3L、ビーズ直径0.5mm、スリット0.15mm、ビーズ充填量90%、周速40Hz,処理流量1.5kg/minとした。
【0044】
上記負極板に、上記分散スラリーをディップコート方式により塗布した。このとき、巻き始めから100mmまでの領域はディップ回数を5回、100〜200mmまでの領域はディップ回数を4回、200〜300mmまでの領域はディップ回数を3回、300〜400mmまでの領域はディップ回数を2回、400mmから巻き終わりまでの領域はディップ回数を1回とし、且つ、多孔質層の厚みは、巻き始めで3μm、巻き終わりで1μmとなるようにした。
【0045】
(実施例5)
上記多孔質層の厚みを、巻き始めで4μm、巻き終わりで1μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、実施例5に係る電池を作製した。
【0046】
(実施例6)
上記多孔質層の厚みを、巻き始めで5μm、巻き終わりで1μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、実施例6に係る電池を作製した。
【0047】
(比較例1)
多孔質層を設けていない正極板を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1に係る電池を作製した。
【0048】
(比較例2)
上記多孔質層の厚みを、巻き始めで1μm、巻き終わりで3μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2に係る電池を作製した。このとき、巻き始めから100mmまでの領域はディップ回数を1回、100〜200mmまでの領域はディップ回数を2回、200〜300mmまでの領域はディップ回数を3回、300〜400mmまでの領域はディップ回数を4回、400mmから巻き終わりまでの領域はディップ回数を5回とした。
【0049】
(比較例3)
上記多孔質層の厚みを、全ての領域で2μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例3に係る電池を作製した。このとき、ディップ回数は全ての領域で3回とした。
【0050】
(比較例4)
上記多孔質層の厚みを、巻き始めで1μm、巻き終わりで3μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、比較例4に係る電池を作製した。このとき、巻き始めから100mmまでの領域はディップ回数を1回、100〜200mmまでの領域はディップ回数を2回、200〜300mmまでの領域はディップ回数を3回、300〜400mmまでの領域はディップ回数を4回、400mmから巻き終わりまでの領域はディップ回数を5回とした。
【0051】
(比較例5)
上記多孔質層の厚みを、全ての領域で2μmとなるようにしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、比較例5に係る電池を作製した。このとき、ディップ回数は全ての領域で3回とした。
【0052】
〔充放電サイクル試験〕
上記実施例1〜6、比較例1〜5と同じ条件で電池を作製し、これらの電池を下記条件で充放電し、下記式により容量残存率を算出した。なお、この充放電は全て25℃条件で行った。この結果を下記表1に示す。なお、この充放電は全て25℃条件で行った。
【0053】
充電:定電流0.5It(1.1A)で電圧が4.3Vとなるまで、その後定電圧4.3Vで電流が0.02It(44mA)となるまで
放電:定電流1It(2.2A)で電圧が3.0Vとなるまで
容量維持率(%)=500サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100
【0054】
【表1】

【0055】
上記表1から、多孔質層の厚みが、巻き始めで3〜5μm、巻き終わりで1μmである実施例1〜6は、500回の充放電サイクル後の容量維持率が75〜80%であるのに対し、多孔質層を設けていない比較例1、巻き始めにおける多孔質層の厚みが1〜2μmである比較例2〜5は、容量維持率が45〜55%と、実施例1〜6のほうが優れていることがわかる。
【0056】
このことは、次のように考えられる。活物質に十分な量の非水電解質が供給されない場合、非水電解質量が不足する部位において充放電がスムースに進行せず、他の部位において局所的に大きな電流が流れることになる。これにより負極表面にリチウムが析出し易くなり、且つ、活物質が劣化し易くなる。巻回電極体においては、巻回圧が巻き始め(巻回中心)側により大きく作用し、巻き始め側の非水電解質量が、巻き終わり(巻回終端)側よりも少なくなるので、巻き始め側において特に非水電解質不足が起きやすい。ここで、正極や負極の表面に形成された多孔質層は、良好に非水電解質を保持する性質があり、多孔質層に保持された非水電解質が電極に供給されるので、非水電解質不足を防止する効果がある。
【0057】
実施例1〜6のように、多孔質層の厚み分布が、巻き始め端部>巻き終わり端部、且つ、巻き始めから巻き終わりに向かって厚みが小さくなっている構成に規制されていれば、電極内の非水電解質の供給量バランスが良好に保たれるので、充放電サイクルがスムースに進行し、その後の容量維持率を顕著に高めることができる。なお、多孔質層の厚みが、巻き始め≦巻き終わりである比較例2〜5や、多孔質層を形成しない比較例1では、巻き始めから巻き終わりにかけての非水電解質の供給量がアンバランスとなるので、容量維持率を十分に向上できない。
【0058】
ここで、巻回圧が大きく作用する巻き始め側において十分な量の非水電解質を保持するためには、巻き始めにおける多孔質層の厚みを3μm以上とする。また、作用する巻回圧が小さい巻き終わり側において十分な量の非水電解質を保持するためには、巻き終わりにおける多孔質層の厚みを1μm以上とする。また、多孔質層の厚みが5μm以上となると、非水電解質保持量の増加による容量維持率向上効果がほぼ上限に達するとともに、リチウムイオンの吸蔵・脱離に直接寄与しない多孔質層体積の増加により体積エネルギー密度が低下する。よって、多孔質層の厚みの上限は、5μmとする。
【0059】
また、正極側に多孔質層を設けた実施例1〜3と、負極側に多孔質層を設けた実施例4〜6とにおいて、容量維持率に大きな差がないことが分かる。よって、正極側、負極側のいずれに設けたとしても、容量維持率を高めることができることがわかった。
【0060】
(追加事項)
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物、オリビン構造を有するリチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物や、これらの化合物に含まれる遷移金属元素の一部を他の金属元素(Zr,Mg,Ti,Al等)に置換した化合物が好ましい。また、オリビン構造を有するリチウム遷移金属リン酸化合物としては、リン酸鉄リチウムが好ましい。これらを単独で用いることができ、又は複数種混合して用いることもできる。
【0061】
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジノルマルブチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、メチルイソブチレート、メチルプロピオネート等のカルボン酸エステル類、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類、N,N’−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン等のアミド類、スルホラン等の含硫黄化合物等を一種又は複数種混合して用いることが好ましい。
【0062】
電解質塩としては、LiClO、LiCFSO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO等を一種又は複数種混合して用いることが好ましい。また、電解質塩の濃度は、0.5〜2.0M(モル/リットル)とすることが好ましい。
【0063】
セパレータ材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンやこれらの複合材料等のポリオレフィンを用いることができる。また、厚みは10〜22μm、空孔率は30〜60%であることが好ましい。
【0064】
また、本発明をポリマー電解質二次電池に適用することもできる。ポリマー電解質としては、ゲル状ポリマー電解質が好ましい。また、ポリマー電解質に用いるポリマー成分としては、アルキレンオキシド系高分子や、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のようなフッ素系高分子等が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明によると、巻回電極体の正負電極板が保持する非水電解質量を均一化でき、これによりサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を実現できる。よって、産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極芯体に正極活物質層が形成された正極板と、帯状の負極芯体に負極活物質層が形成された負極板と、前記正極板と前記負極板を離隔するセパレータと、が巻回されてなる巻回電極体と、非水溶媒及び電解質塩を有する非水電解質と、が有底円筒形の外装体内に収納された非水電解質二次電池において、
前記正極活物質層と前記負極活物質層の少なくともいずれか一方の活物質層上には、無機粒子を有する多孔質層が形成され、
前記多孔質層の巻回中心側端部における厚みをx、前記多孔質層の巻回終端側端部における厚みをyとするとき、3≦x≦5、且つ、1≦y<xが成立し、
前記多孔質層の厚みは、巻回中心側端部から巻回終端側端部に向かって小さくなっている、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記無機粒子が、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、ジルコニウム酸化物、ケイ素酸化物からなる群より選択された少なくとも一種を含む、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池において、
前記多孔質層の空隙率が、30〜80%である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の非水電解質二次電池において、
前記正極板の電位が、リチウム基準で4.35〜4.45Vである、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2012−160292(P2012−160292A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18093(P2011−18093)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】