説明

非水電解質空気電池

【課題】 高容量で、かつ大電流放電に対応可能な非水電解質空気電池を提供する。
【解決手段】 正極と、負極と、非水電解質と、前記正極に酸素を供給するための空気孔を備えるケースとを具備した非水電解質空気電池において、前記正極が組成の異なる2つの層からなり、空気穴側に少なくとも酸素還元能を有する層、負極側に少なくともリチウムイオン吸蔵能を有する層が、それぞれ配置されることを特徴とする非水電解質空気電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に正極活物質に酸素を、電解質に非水系電解質を用いた非水電解質空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年携帯機器の小型化は急速に進んでおり、携帯機器用電源も高エネルギー密度化が要求されている。さらに、携帯機器はデジタル化が進行しつつあり、パルス形状の大電流放電能が要求され始めている。正極活物質に空気中の酸素を用いる空気電池は、他の密閉型電池と比較して高容量で、次世代電源として有望である。特に負極活物質にリチウムを用いる非水電解質空気電池(空気リチウム電池)は、すでに実用化されている空気亜鉛電池を上回るエネルギー密度が実現可能な電池であり、例えば米国特許第5510209号明細書(特許文献1)には、正極に触媒として二酸化マンガンを担持した空気リチウム電池が公開されている。
【特許文献1】米国特許第5510209号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の様に、従来の空気リチウム電池には、大電流放電を行うと電池の寿命が短くなる、という問題点があった。前述したように、空気リチウムは放電時に空気中の酸素を用いるが、酸素と同時に空気中の水分が電池内部に取り込まれ、負極活物質であるリチウムを加水分解してしまう。流れる電流が小さい場合は、必要な酸素量も少ないために電池内部に侵入する水分量も小さくなり、寿命が長くなる。しかし、大電流放電に対応するためには酸素を大量に電池内部に取り入れる必要があり、放電時に酸素と同時に大量の水分が電池内部に侵入して負極を速やかに加水分解し、電池寿命を短くしてしまう。常に大電流で電池を使用する場合は、使用時間が短かくなるために空気中の水分による寿命低下は大きな問題にはならないが、デジタル機器のように定常状態では低電流放電を、定期的にパルス形状の大電流放電を行う場合には、大電流放電の際に必要な酸素量を確保するために電池外部から正極への空気の大きな流路が必要であり、定常状態の低電流放電を行う間に対流によって大気中の水分が電池内部に侵入し、電池の寿命が短くなってしまう。この問題を解決するために、酸素を通し水分を遮断する酸素選択的透過膜の検討も行われているが、酸素透過速度が充分でないために、大電流放電に十分に対応することができない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の請求項1の非水電解質空気電池は、正極と、負極と、この正極及び負極の間に形成された非水電解質と、前記正極に酸素を供給するための空気孔を備えるケースとを具備した非水電解質空気電池において、前記正極が組成の異なる2つの層からなり、空気穴側に少なくとも酸素還元能を有する層、負極側に少なくともリチウムイオン吸蔵能を有する層がそれぞれ配置され、前記リチウムイオン吸蔵能を有する層は、リチウムイオンを2.0V以上2.9V以下(vs.Li)で吸蔵する能力を有する活物質と、導電剤と、結着剤からなることを特徴とする。即ち、本発明の構成では、一つの電池ケース内に、空気電池と通常のリチウムイオン二次電池が背中合わせに張り合わされた様な構造を採用している。これによって、空気取り入れ量を少なくして空気中の水分の入り込みを抑えた構造にすることで空気電池に供給される空気量が少なくなっても、もう一つの電池である通常のリチウムイオン二次電池で電力を供給できるため急激な負荷変動に対しても柔軟に対応できる。
【0005】
請求項2の非水電解質空気電池は、請求項1において、前記リチウムイオンを吸蔵する能力を有する活物質がリチウムイオンの可逆な吸蔵・放出能を有することを特徴とする。
【0006】
請求項3の非水電解質空気電池は、請求項2において、前記リチウムイオンを吸蔵放出する活物質が、マンガン酸化物(MnO2)、五酸化バナジウム(V25)、酸化銅(CuO)、V25/TeO、V25/P25、V25/B2、CuV2、Cu2、Cr25、Cr、TiS2、LiFeO、クロム酸化物(Cr38,CrO2)、三酸化モリブデン(MoO3)、二酸化チタン(TiO2)、マンガン複合酸化物(MnTi、MnAl、MnCa、MnZn)より選ばれる遷移金属酸化物である。
【0007】
請求項4の非水電解質空気電池は、請求項1において、前記リチウムイオンの吸蔵能を有する活物質が70重量%以上含有されることを特徴とする。
【0008】
請求項5の非水電解質空気電池は、請求項1において、前記酸素還元能を有する層は、少なくとも比表面積が600m/g以上の炭素質物と、結着剤からなることを特徴とする。
【0009】
本発明によって提供される非水電解質空気電池は、低電流放電時には正極中の酸素還元能を有する層が機能して空気中の酸素を用いて空気リチウム電池として駆動し、一方大電流放電時には正極中のリチウムイオン吸蔵能を有する層が機能して空気中の酸素を用いることなくリチウム電池として駆動する。これにより、大電流放電時であっても酸素を大量に消費する必要が無くなり、空気中の水分が酸素と同時に電池内部に侵入することを抑制することができる。すなわち、高容量でかつパルス状の大電流放電に対応可能な非水電解質空気電池を実現できる。
【0010】
さらに、本発明による非水電解質空気電池においては、前記正極中の酸素還元能を有する層に含まれる活物質が、リチウムイオンの可逆な吸蔵・放出能を有することが好ましい。本発明による非水電解質空気電池は、大電流放電時には正極中の酸素還元能を有する層に含まれる活物質にリチウムイオンが吸蔵されて放電反応が進行し、低電流放電時に空気電池として作動する際に電圧が上昇し、大電流放電時に放電した活物質を再度充電することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
以上詳述したように本発明によれば、高容量でかつパルス放電特性に優れた水電解質空気電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る正極、非水電解質、負極、収納ケースについて説明する。
【0013】
1)正極
正極は、正極集電体と、この正極集電体に担持された正極層とを含む。正極層は、各々組成の異なる2つの層からなり、空気穴側に少なくとも酸素還元能を有する層、負極側に少なくともリチウムイオン吸蔵能を有する層が、それぞれ配置されている。
【0014】
前記酸素還元能を有する層は、比表面積が600m/g以上の炭素質物と、結着剤からなるものを用いることができ、炭素質物と結着剤とを混合し、この混合物をフィルム状に圧延して製膜し、乾燥することで形成することができる。あるいは、例えば炭素質物と結着剤とを溶媒中で混合し、これを集電体に塗布し、乾燥・圧延して形成することができる。また、この炭素質物の表面に微粒子状の触媒を担持させることが好ましく、これにより酸素の還元反応の効率を高めることが可能となる。
【0015】
前記炭素質物としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、ファーネスブラック、活性炭、活性炭素繊維、木炭類等を挙げることができる。また、導電性の低い活性炭類に対しては、活性炭にアセチレンブラックなどの高導電性炭素質物を添加し、正極層の導電性を高めることが好ましい。
【0016】
前記触媒としては、コバルトフタロシアニン、コバルトポルフィリン、酸化セリウム(CeO)、アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化銀(AgO)、タングステン酸リチウム(LiWO)、モリブデン酸リチウム(LiMoO)、マンガンコバルト酸リチウム(LiMnCo)、ランタンカルシウムコバルト複合酸化物(LaCaCoO3−z)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LaSrCoO3−z)、ランタンマンガン酸ナトリウム(NaLaMnO)、ランタンマンガン酸カリウム(KLaMnO3−z)、ランタンマンガン酸ルビジウム(RbLaMnO3−z)、銅マンガン複合酸化物(CuMn)、マンガン酸化物(MnO)などを挙げることができる。
【0017】
前記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)などを用いることができる。
【0018】
一方、前記リチウムイオン吸蔵能を有する層は、リチウムイオンを2.0V以上2.9V以下(vs.Li)で吸蔵する能力を有する活物質と、導電剤と、結着剤からなるものを用いることができ、活物質と導電剤と結着剤とを混合し、この混合物をフィルム状に圧延して製膜し、乾燥することで形成することができる。あるいは、活物質と導電剤と結着剤とを溶媒中で混合し、これを集電体に塗布し、乾燥・圧延して形成することができる。前記リチウムイオンを吸蔵する能力を有する活物質は、前記リチウムイオン吸蔵能を有する層中に70重量%以上含有されることが望ましい。また、前記活物質はリチウムイオンの可逆な吸蔵・放出能を有することが望ましい。
【0019】
前記正極活物質としては、例えば、マンガン酸化物(MnO2)、五酸化バナジウム(V25)、酸化銅(CuO)、V25/TeO、V25/P25、V25/B2、CuV2、Cu2、Cr25、Cr、TiS2、LiFeO、クロム酸化物(Cr38,CrO2)、三酸化モリブデン(MoO3)、二酸化チタン(TiO2)等の金属酸化物を用いることができる。
【0020】
前記炭素質物としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどの炭素質物などを挙げることができる。
【0021】
前記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)などを用いることができる。
【0022】
尚、前述した酸素還元能を有する層およびリチウムイオン吸蔵能を有する層は、接合部分でそれぞれの組成が混合していてもよい。
【0023】
前記集電体としては、酸素の拡散を速やかに行わせるために多孔質の導電性基板(メッシュ、パンチドメタル、エクスパンディドメタル等)を用いることが好ましい。前記導電性基板の材質としては、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタンなどを挙げることができる。なお、前記集電体は、酸化を抑制するために表面に耐酸化性の金属または合金を被覆しても良い。
【0024】
2)非水電解質
非水電解質液としては、従来よりリチウムイオン二次電池の電解液として用いられる各種非水電解液を用いることができる。例えば、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機溶媒系非水電解液や、常温溶融塩に支持電解質を溶解した常温溶融塩系非水電解液や、あるいは高分子材料と有機溶媒系/常温溶融塩系非水電解液からなるゲル状電解液などを使用することができる。
【0025】
前記有機溶媒系非水電解液に用いる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、イソプロピオメチルカーボネートなどの炭酸エステル類を用いることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。混合物として用いる場合は、前記炭酸エステル以外にプロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコージジエチルエーテルなどのエーテル類、および前記化合物に置換基を導入した各種溶媒からなる群より選択される溶媒を用いることができる。前記混合溶媒の好ましい組成としては、ECとPC、ECとPCとVC、ECとVC、ECとDEC、ECとDECとVC、ECとPCとDEC、ECとPCとDECとVC、ECとγ−BL、VCとγ−BL、ECとγ−BLとVC、ECとγ−BLとDEC、ECとγ−BLとDECとVC、ECとPCとγ−BL、ECとPCとγ−BLとVC、ECとPCとγ−BLとDEC、ECとPCとγ−BLとDECとVCを挙げることができる。各混合溶媒では、PCが含まれていることが望ましい。より好ましいPCの体積比率は、10〜80%の範囲にすることが好ましい。また、ECの体積比率を10〜80%の範囲内にすることが好ましい。より好ましいPCおよびECの体積比率は、各々25〜65%の範囲である。
【0026】
前記支持電解質としては、具体的にはLiPF,Li[PF(C)]、Li[PF(CF)]、LiBF,Li[BF(CF)]、Li[BF(C)]、Li[BF(CF)]、Li[BF(C)]、Li[B(COOCOO)](LiBOB)、LiCFSO(LiTf)、LiCSO(LiNf)、Li[(CFSO)N](LiTFSI)、Li[(CSO)N](LiBETI)、Li[(CFSO)(CSO)N]、Li[(CN)N](LiDCA)、Li[(CFSO)C]、Li[(CN)C]などを用いることができる。前記支持電解質の濃度は、0.1〜4モル/Lとすることが望ましい。より望ましい濃度は、0.5〜2モル/Lである。
【0027】
また、前記常温溶融塩系非水電解質に用いる常温溶融塩としては、イミダゾリウムイオン、アンモニウムイオンなどのカチオンと、各種アニオンで構成されるものを挙げることができる。
【0028】
前記カチオンとして具体的には、N,N,N−トリメチルブチルアンモニウムイオン、N−エチル−N,N−ジメチルプロピルアンモニウムイオン、N−エチル−N,N−ジメチルブチルアンモニウムイオン、N,N−ジメチル−N−プロピルブチルアンモニウムイオン、N−(2−メトキシエチル)−N,N−ジメチルエチルアンモニウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3,4−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3,4−トリメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3,5−トリメチルイミダゾリウムイオン、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムイオン、N−ブチル−N−メチルピロリジニウムイオン、N−sec−ブチル−N−メチルピロリジニウムイオン、N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムイオン、N−(2−エトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムイオン、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムイオン、N−ブチル−N−メチルピペリジニウムイオン、N−sec−ブチル−N−メチルピペリジニウムイオン、N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピペリジニウムイオン、N−(2−エトキシエチル)−N−メチルピペリジニウムイオンなどを挙げることができる。中でも、N,N,N−トリメチルブチルアンモニウムイオン、N−エチル−N,N−ジメチルプロピルアンモニウムイオン、N−エチル−N,N−ジメチルブチルアンモニウムイオン、N−(2−メトキシエチル)−N,N−ジメチルエチルアンモニウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムイオン、N−ブチル−N−メチルピロリジニウムイオン、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムイオン、N−ブチル−N−メチルピペリジニウムイオンなどが好ましい。
【0029】
前記アニオンとして具体的には、PF,[PF(C)、[PF(CF)、BF,[BF(CF)、[BF(C)、[BF(CF)]、[BF(C)]、[B(COOCOO)](BOB)、CFSO(Tf)、CSO(Nf)、[(CFSO)N](TFSI)、[(CSO)N](BETI)、[(CFSO)(CSO)N]、[(CN)N](DCA)、[(CFSO)C]、[(CN)C]などを用いることができる。
【0030】
特に、BF,[BF(CF)]、[BF(C)]、BOB、TFSIおよびBETIが好ましい。これらのアニオンを用いた場合は特に溶融塩の粘度が低く、かつ耐熱性が高く、電気化学的に耐酸化性が高いためである。
【0031】
前記支持電解質としては、前述した有機溶媒系非水電解液に用いる支持電解質と同じものを用いることができる。前記支持電解質を構成するアニオンは、前記常温溶融塩を構成するアニオンと同じであっても異なっていても良い。前記支持電解質の濃度は、0.1〜4モル/Lとすることが望ましい。より望ましい濃度は、0.5〜2モル/Lである。
【0032】
前記ゲル状電解質は、前述した有機溶媒系非水電解液や常温溶融塩系非水電解質と高分子材料を混合したものを使用することができる。前記高分子材料としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、PVdF、ポリメタクリル酸類、ポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリアクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0033】
3)負極
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体に担持される負極層とを含む。前記負極層は、負極活物質と結着剤からなるものを用いることができる。負極活物質は、少なくともリチウムイオン放出能を備えていれば良く、前記負極活物質としては、従来よりリチウム一次電池およびリチウムイオン二次電池の負極材料として用いられる各種負極活物質を用いることができる。
【0034】
前記負極活物質としては、例えば金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、リチウム金属、リチウム合金、リチウム複合酸化物、炭素質物よりなる群から選択される少なくとも1種類の材料を用いることが望ましい。
【0035】
前記金属酸化物としては、例えば、スズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などを挙げることができる。
【0036】
前記金属硫化物としては、例えば、スズ硫化物、チタン硫化物などを挙げることができる。
【0037】
前記金属窒化物としては、例えば、リチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物などを挙げることができる。
【0038】
前記リチウム合金としては、例えば、リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金などを挙げることができる。
【0039】
前記炭素質物としては、リチウムイオンを吸蔵させた炭素質物を用いることができ、例えば黒鉛、コークス、炭素繊維、球状炭素などの黒鉛質材料もしくは炭素質材料、熱硬化性樹脂、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ、メソフェーズピッチ系炭素繊維、メソフェーズ小球体などに500〜3000℃で熱処理を施すことにより得られる黒鉛質材料または炭素質材料にリチウムイオンを吸蔵させたものを挙げることができる。
【0040】
負極集電体としては、例えば、多孔質構造の導電性基板、無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス、またはニッケルから形成することができる。多孔質構造の導電性基板としては、メッシュ、パンチドメタル、エクスパンディドメタル等を用いたり、あるいは金属箔に負極活物質含有層を担持させた後、前記金属箔に孔を開けたものを多孔質構造の導電性基板として用いることができる。
【0041】
前記結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンープロピレンーブタジエンゴム(EPBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。
【0042】
4)容器(収納ケース)
この容器は、例えば、金属板、樹脂層を有するシート等から形成することができる。
【0043】
前記金属板は、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムから形成することができる。
【0044】
前記シートとしては、金属層と、前記金属層を被覆する樹脂層とから構成されることが好ましい。前記金属層は、アルミニウム箔から形成することが好ましい。一方、前記樹脂層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂から形成することができる。前記樹脂層は、単層もしくは多層構造にすることができる。
【0045】
本発明に係る非水電解質電池の一例を図1に示す。例えばラミネート加工されたフィルムないし薄板で形成された収納ケース1内には、電極群2が収納されている。
【0046】
電極群2は、例えば多孔性導電性基板からなる正極集電体に正極層が担持された構造を有する正極と、例えば導電性基板からなる負極集電体に負極活物質層が担持された構造を有する負極と、正極及び負極の間に介在するセパレータから構成される。なお、常温溶融塩を主成分とする非水電解質非水電解液は、正極とセパレータと負極に保持されている。
【0047】
正極集電体および負極集電体には、それぞれ正極端子3および負極端子4の一端が接続されており、正極端子3および負極端子4の他端は、それぞれ収納ケース1外部へ延出されている。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を図面を参照してさらに詳細に説明する。
【0049】
(実施例1)
以下の実施例の電池は、当然ながら上述した図1の電池を実現しているのであって、ここでは、図1の説明で紹介できなかった詳細な説明を中心に説明している。
【0050】
酸素還元能を有する層の原料としてケッチェンブラック(比表面積1200m/g)80重量%、コバルトフタロシアニン10重量%、PTFE10重量%を混合し、縦横30mm角の型へ投入した。さらに、リチウムイオン吸蔵能を有する層の原料として二酸化マンガン80重量%、アセチレンブラック10重量%、PTFE10%を混合し、前述した縦横30mm角へ投入した。この合剤をプレス、切断することにより、組成の異なる2つの層からなる、厚さ200μmのシート状正極層を得た。得られた正極層のリチウムイオン吸蔵能を有する面に正極集電体であるステンレス製メッシュを圧着し、正極を作製した。さらに得られた正極の正極集電体が露出した部分に正極端子の一端を接続した。
【0051】
次に、負極端子の一端が接続され、金属リチウム箔をニッケル製メッシュに圧着した負極、グラスフィルターからなるセパレータ、ポリプロピレン製不織布及びPTFE製多孔質膜からなる空気拡散層を準備した。
【0052】
1Mの割合でLiClOをEC/PC混合溶媒へ溶解し、非水電解質とした。前記非水電解質を前記セパレータに含浸させた後、負極、セパレータ、正極及び空気拡散層を順次積層した。この積層物を収納容器用のラミネートフィルム内に収納した。なお、このラミネートフィルムには空気孔が設けられており、この空気孔が空気拡散層上に配置されるように収納した。さらに、この空気孔にシールテープを貼付して閉塞した。また、正極端子及び負極端子の他端はラミネートフィルムの開口部から延出させた。
【0053】
この非水電解質空気電池の大気中での放電容量を以下の条件で測定した。
【0054】
非水電解質空気電池からシールテープを除去した後、温度20℃の条件で、放電電流0.01mAで放電、さらに10秒毎に0.1mA0.1秒のパルス放電を実施、電圧が2.0Vとなるまで放電し、放電容量時間を測定したところ、放電時間は150時間であった。
【0055】
(実施例2)
酸素還元能を有する層の原料としてケッチェンブラック80重量%、La0.6Ca0.4CoO10重量%およびPTFE10重量%を用い、リチウムイオン吸蔵能を有する層の原料として五酸化バナジウム80重量%、アセチレンブラック10重量%およびPTFE10重量%を用い、さらに非水電解質としてEMITFSIに1M/Lの割合でLiTFSIを溶解した常温溶融塩系非水電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様の手法により非水電解質空気電池を作製した。得られた電池を実施例1と同じ条件で放電試験を実施したところ、放電時間は120時間であった。
【0056】
(実施例3)
酸素還元能を有する層の原料としてアセチレンブラック(比表面積650m/g)80重量%、Rb0.2La0.8MnO10重量%およびPTFE10重量%を用い、リチウムイオン吸蔵能を有する層の原料としてLiFeO80重量%、アセチレンブラック10重量%およびPTFE10重量%を用い、さらに非水電解質としてEMIBFに1M/Lの割合でLiBOBを溶解した常温溶融塩系非水電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様の手法により非水電解質空気電池を作製した。得られた電池を実施例1と同じ条件で放電試験を実施したところ、放電時間は110時間であった。
【0057】
(比較例1)
正極として、ケッチェンブラック80重量%、コバルトフタロシアニン10重量%、PTFE10重量%を混合し、厚さ200μmのシート状に形成した。前記シートを用いて正極を作成したこと以外は、実施例1と同様の手法により非水電解質空気電池を作製した。得られた電池を実施例1と同じ条件で放電試験を実施したところ、放電時間は1分であった。パルス放電時に電圧が2Vを下回ったのが原因と考えられる。
【0058】
(比較例2)
正極として、二酸化マンガン80重量%、アセチレンブラック10重量%、PTFE10%を混合し、厚さ200μmのシート状に形成した。前記シートを用いて正極を作成したこと以外は、実施例1と同様の手法により非水電解質空気電池を作製した。得られた電池を実施例1と同じ条件で放電試験を実施したところ、放電時間は40時間であった。空気電池としての容量が少ないことが原因と考えられる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る非水電解質電池の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0061】
1…収納容器、
2…電極群、
3…正極端子、
4…負極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、この正極及び負極の間に形成された非水電解質と、前記正極に酸素を供給するための空気孔を備えるケースとを具備した非水電解質空気電池において、前記正極が組成の異なる2つの層からなり、空気穴側に少なくとも酸素還元能を有する層、負極側に少なくともリチウムイオン吸蔵能を有する層がそれぞれ配置され、前記リチウムイオン吸蔵能を有する層は、リチウムイオンを2.0V以上2.9V以下(vs.Li)で吸蔵する能力を有する活物質と、導電剤と、結着剤からなることを特徴とする非水電解質空気電池。
【請求項2】
前記リチウムイオンを吸蔵する能力を有する活物質がリチウムイオンの可逆な吸蔵・放出能を有することを特徴とする、請求項1記載の非水電解質空気電池。
【請求項3】
前記リチウムイオンを吸蔵放出する活物質が、マンガン酸化物(MnO2)、五酸化バナジウム(V25)、酸化銅(CuO)、V25/TeO、V25/P25、V25/B2、CuV2、Cu2、Cr25、Cr、TiS2、LiFeO、クロム酸化物(Cr38,CrO2)、三酸化モリブデン(MoO3)、二酸化チタン(TiO2)、マンガン複合酸化物(MnTi、MnAl、MnCa、MnZn)より選ばれる遷移金属酸化物であることを特徴とする請求項2記載の非水電解質空気電池。
【請求項4】
前記リチウムイオンの吸蔵能を有する活物質が前記リチウムイオン吸蔵能を有する層中に70重量%以上含有されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質空気電池。
【請求項5】
前記酸素還元能を有する層は、少なくとも比表面積が600m/g以上の炭素質物と、結着剤からなることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質空気電池。


【図1】
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【公開番号】特開2006−286414(P2006−286414A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105172(P2005−105172)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】