説明

非水電解質電池とその製造方法

【課題】電池の充放電を繰り返しても、負極層と固体電解質層との接合を維持することができ、放電容量の低下し難い非水電解液電池を提供する。
【解決手段】非水電解質電池は、正極層13と、Liを含有する負極層14と、これら両層の間でリチウムイオンの伝導を媒介する固体電解質層15とを備える。負極層14は、その厚さ方向の固体電解質層側に界面部14Bを有する。この界面部14Bは、周期律表第14族元素と負極層14に含まれる活物質材料とが混在され、固体電解質層側がその反対側よりも周期律表第14族元素の含有量が多い。この界面部14Bにより、充電時に負極層/固体電解質層界面にLiが析出し難く、充放電を繰り返しても負極層14と固体電解質層15との接合が良好に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電サイクル特性に優れる非水電解質電池とその製造方法に関する。特に、充放電を繰り返しても固体電解質層と負極層とが剥離し難いリチウムイオン二次電池(以下、単にリチウム電池という)に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に非水電解質電池が利用されている。この非水電解質電池の代表例として、正負極においてリチウムイオンの吸蔵・放出反応を利用したリチウム電池が挙げられる。
【0003】
このリチウム電池は、正極層と負極層の間で電解質層を介してリチウム(Li)イオンをやり取りすることによって、充放電を行う電池である。近年、有機電解液に代えて不燃性の無機固体電解質を電解質層に用いた全固体リチウム電池の研究が行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1では、正極層、負極層及び固体電解質層を気相法(例えば蒸着法)により形成した薄膜タイプの電池が提案されている。この電池は、さらに負極層と固体電解質層との間にSiからなる界面層を備えている。この界面層は、リチウム電池の充電時に正極層から固体電解質層を経て移動してきたLiイオンを吸蔵して、負極層内部に拡散させる機能を持つ。それにより、負極層/固体電解質層界面にLiが析出し難く、負極層と固体電解質層との接合を良好に維持させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-277381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、リチウム電池の充放電サイクル特性は、一層高いレベルが求められており、その要求に対応すべく、特許文献1に開示されるリチウム電池よりも、さらに負極層と固体電解質層との接合性を改善したリチウム電池の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、電池の充放電を繰り返しても、負極層と固体電解質層との接合を維持することができ、放電容量の低下し難い非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の非水電解質電池は、正極層と、Liを含有する負極層と、これら両層の間でリチウムイオンの伝導を媒介する固体電解質層とを有する非水電解質電池である。前記負極層は、その厚さ方向の固体電解質層側に界面部を有する。そして、この界面部は、周期律表第14族元素と前記負極層に含まれる活物質材料とが混在され、前記固体電解質層側がその反対側よりも周期律表第14族元素の含有量が多いことを特徴とする。
【0009】
この非水電解質電池では、周期律表第14族元素を含有する界面部が、充電時に正極層から固体電解質層を経て移動してきたLiイオンを吸蔵して、Liイオンを負極層内部に拡散させる。特に、負極構成材料と周期律表第14族元素が混在した界面部を負極層の固体電解質層側に有すると、第14族元素のみからなる界面層を有する従来の電池に比べて、第14族元素のLiイオンの吸蔵による体積変化を電池全体として小さくすることができ、固体電解質層と負極層との界面に作用する応力を緩和できる。従って、本発明の構成によれば、充電時に負極層/固体電解質層界面にLiが析出し難く、両層の界面が押し広げられることを抑制することができる。その結果、充放電を繰り返しても負極層と固体電解質層との接合が良好に維持され、電池容量が低下し難い。
【0010】
(2)本発明の非水電解質電池において、前記界面部は、周期律表第14族元素の含有量が連続的に厚み方向に変化する傾斜組成であることが好ましい。
【0011】
上記傾斜組成の界面部とすることで、Liイオンの負極層内部への拡散能を確保しつつ、第14族元素自体のLiイオン吸蔵による体積変化で負極層/固体電解質層界面に作用する応力を一層緩和し、負極層と固体電解質層との接合を一層良好にすることができる。
【0012】
(3)本発明の非水電解質電池において、前記周期律表第14族元素がSiであることが好ましい。
【0013】
界面部がSiを含有することで、より一層、充放電サイクル特性に優れる非水電解質電池とすることができる。
【0014】
(4)本発明の非水電解質電池の製造方法は、正極層を形成する工程と、固体電解質層を形成する工程と、Liが含まれる負極層を気相法で形成する工程とを有する非水電解質電池の製造方法である。前記負極層を気相法で形成する工程は、負極層の厚さ方向の固体電解質層側に界面部を形成する過程を含む。そして、この界面部を形成する過程は、周期律表第14族元素と前記負極層を構成する活物質材料とを蒸着材料に用い、周期律表第14族元素と前記活物質材料の各蒸着量を調整して、前記活物質材料と周期律表第14族元素とを混在させ、前記固体電解質層側がその反対側よりも周期律表第14族元素の含有量が多くなるようにすることを特徴とする。
【0015】
この方法によれば、気相法で負極層を形成する際に、負極層の活物質材料と周期律表第14族元素の各蒸着量を調整することで、負極層の活物質材料と周期律表第14族元素とが混在した界面部を容易に形成することができる。
【0016】
(5)本発明の非水電解質電池の製造方法は、正極層を形成する工程と、固体電解質層を形成する工程と、Liが含まれる負極層を形成する工程とを有する非水電解質電池の製造方法である。この製造方法において、前記負極層を形成する工程は、前記固体電解質層の上に、周期律表第14族元素が含まれる予備界面層を形成する過程と、この予備界面層の上に、負極層の活物質材料を含む負極前駆体層を形成する過程と、この予備界面層と負極前駆体層とを加熱して、周期律表第14族元素を予備界面層から負極前駆体層内に拡散させた界面部を形成する過程とを含む。そして、前記界面部は、その厚さ方向の固体電解質側がその反対側よりも周期律表第14族元素の含有量が多いことを特徴とする。
【0017】
この方法によれば、予備界面層と負極前駆体層との加熱により、予備界面層に含まれる周期律表第14族元素を負極前駆体層に拡散させ、負極層の活物質材料と周期律表第14族元素とが混在した界面部を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の非水電解質電池は、負極層の少なくとも一部に、負極層の活物質材料と周期律表第14族元素とが混在する界面部を形成することで、充放電の繰り返しに伴う負極層と固体電解質層との剥離を防止することができる。その結果、充放電を繰り返しても、電池容量が低下し難く、優れた充放電サイクル特性を実現できる。また、本発明の非水電解質の製造方法によれば、周期律表第14族元素の含有量が厚さ方向に変化する界面部を持った非水電解質電池を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の非水電解質電池の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
[全体構成]
図1は、本実施の形態におけるリチウム電池の縦断面図である。このリチウム電池1は、正極集電体層11の上に、正極層13、中間層17、固体電解質層(SE層)15、負極層14、負極集電体層12の順に積層した積層構造である。負極層14は、負極集電体層12側に基部14Aを、SE層15側に界面部14Bを備える。以下、各構成を詳細に説明する。
【0022】
[各構成部材]
(正極集電体層)
正極集電体層11は、所定の厚さを有する金属製の薄板であり、後述する各層を支持する基板の役割を兼ねている。正極集電体層11としては、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、これらの合金、ステンレスから選択される1種が好適に利用できる。その他、絶縁性の基板の上に金属膜を形成して正極集電体層としても良い。金属膜からなる集電体層11は、PVD法(物理的気相蒸着法)やCVD法(化学的気相蒸着法)により形成することができる。PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法が、CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法などが挙げられる。
【0023】
(正極層)
正極層13は、リチウムイオンの吸蔵及び放出を行う活物質を含む層である。正極活物質としては、Mn,Fe,Co,Niから選択される少なくとも一種以上の元素とリチウムとの酸化物が好適に利用可能である。例えば、LiCoO2やLiNiO2、LiMnO2、LiNi0.5Mn0.5O2、LiCo0.5Fe0.5O2などを挙げることができる。
【0024】
正極層13は、さらに導電助剤を含んでいても良い。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラックといったカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウムやニッケルなどの金属繊維からなるものが利用できる。特に、カーボンブラックは、少量で高い導電性を確保できて好ましい。
【0025】
上述した正極層13の形成方法としては、PVD法やCVD法などの乾式法あるいは塗布法やスクリーン印刷法などの湿式法を使用できる。湿式法を利用するのであれば、正極層に結着剤を含有させて、活物質同士、或いは、活物質と活物質以外の物質(電解質粒子や導電助剤)などを結着するようにしても良い。このような結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などを使用することができる。
【0026】
(固体電解質層)
固体電解質層(SE層)15は、リチウムイオン伝導度(20℃)が10−5S/cm以上あり、かつリチウムイオン輸率が0.999以上であることが好ましい。特に、リチウムイオン伝導度が10−4S/cm以上あり、かつリチウムイオン輸率が0.9999以上であれば良い。また、SE層15は、電子伝導率が10−8S/cm以下であることが好ましい。SE層15の材質としては、酸化物(例えば、Li-P-O-N)や、硫化物(例えば、Li-P-S-OやLi-P-S)のアモルファス膜あるいは多結晶膜などで構成することが好ましい。特に、Li2SとP2S5とからなるLi-P-Sは、優れたリチウムイオン伝導度を有するので、SE層に採用した場合、電池の性能を向上させることができる。
【0027】
SE層15の形成方法としては、固相法や気相蒸着法を使用することができる。固相法としては、例えば、メカニカルミリング法を使用して原料粉末を作製し、この原料粉末を焼結して形成することが挙げられる。一方、気相蒸着法としては、例えば、PVD法、CVD法が挙げられる。気相蒸着法によりSE層15を形成した場合、固相法によりSE層を形成した場合よりも、SE層15の厚さを薄くすることができる。
【0028】
(負極層)
《基部》
負極層14は、リチウムイオンの吸蔵及び放出を行う活物質を含む基部14Aを備える。基部14Aの構成材料には、例えばLi金属、或いはLi合金(例えば、Li-Al、Li-Mn-Alなど)が利用でき、実質的に周期律表第14族元素は含まない。基部14Aの厚みは、必要とする電池容量が得られる活物質を含有していれば、薄く形成した方が電池の薄膜化の点で好ましい。基部14Aの形成方法は、PVD法やCVD法などの気相蒸着法を利用する。気相蒸着法を利用することで、金属箔で負極層14を形成するよりも、負極層14の厚さを薄くでき、SE層15に対する接触を十分に確保することができる。また、この基部14Aは、金属材料を用いた場合、負極層14自体に集電体としての機能を持たせることができる。そのため、後述する負極集電体12を省略することもできる。
【0029】
《界面部》
さらに、負極層14は、基部14Aの他に界面部14Bをも備える。この界面部14Bは、SE層15と後述する負極層14との接合を確保する役割を果たし、基部14Aの構成材料(負極活物質材料)と周期律表第14族元素との混合材料から構成される。周期律表第14族元素は、充電時に正極層13からSE層15を経て移動してきたLiイオンを吸蔵して、Liイオンを負極層14内部に拡散させる。具体的には、Siが好適に利用できる。
【0030】
この界面部14Bにおける周期律表第14族元素の含有量は、界面部14BにおけるSE層15側ほど多く、その反対側ほど少なくなるようにする。このような第14族元素の分布により、Liイオンの負極層内部への拡散能を確保しつつ、第14族元素自体のLiイオン吸蔵による体積変化で負極層/固体電解質層界面に応力が作用することを緩和する。この第14族元素の含有量は、界面部14Bの厚み方向に段階的変化していても良いが、連続的に変化する傾斜組成とすることが好ましい。傾斜組成の界面部14Bとすることで、上記拡散能の確保と応力緩和を一層バランスよく実現することができる。
【0031】
界面部14Bの厚さは、0.05μm以上1μm以下とすることが好ましい。下限値以上の厚みとすることで、界面部14Bとして負極層14とSE層15との接合を向上させることに寄与し、上限値以下の厚みとすることで、界面部14Bの基部14AへのLiイオン拡散能よりも界面部14B自身のLiイオン吸蔵性が勝り、界面部14Bの体積変化が大きくなって、負極層/SE層界面の接合が破壊されることを抑制する。
【0032】
《界面部の製造方法》
界面部14Bの製造方法については、大別して、(A)基部14Aの構成材料と周期律表第14族元素との蒸着量を調整する方法と、(B)予め基部14Aの構成材料からなる層と周期律表第14族元素からなる層とを形成し、その後、熱処理による両層間の元素の拡散を利用する方法とがある。以下、前者(A)を蒸着量調整型、後者(B)を熱処理型と呼ぶ。
【0033】
蒸着量調整型では、基部14Aの構成元素と周期律表第14族元素とからなる2つの蒸発源を利用し、各蒸発源からの蒸発量を調整する。具体的には、各蒸発源と基板(例えば負極層を形成するSE層15)との間に開閉式のシャッターを設け、このシャッターを間欠的に開閉して、その開閉周期を調整したり、シャッターの開き度合いを調整したりすることが挙げられる。
【0034】
(1)間欠的なシャッターの開閉を行う場合、カメラの絞り状のシャッターを用い、例えば、基部用のシャッターと界面部用のシャッターとを交互に開閉して、各シャッターの開放時間を変えることで、基板への蒸着量を調整することができる。より具体的には、界面部14Bの形成初期は、周期律表第14族元素用のシャッターの開放時間を長く、基部用のシャッターの開放時間を短くして両蒸発源で交互に蒸着を行い、界面部14Bの形成終期に至るに伴って、両シャッターの開放時間を逆転させることが挙げられる。両シャッターの一回に開放する合計開放時間を短くすることで、周期律表第14族元素の含有量が厚み方向に実質的に連続的に変化する傾斜組成の界面部14Bを形成することができる。
【0035】
(2)シャッターの開閉度合いを調整する場合、例えば、細い扇状の開口部が周方向に複数並列されたシャッターを用い、その開口部の開き度合いを変えることで、基板への蒸着量を変えることが挙げられる。この場合、シャッターの軸と基板の中心とを一致させ、基板又はシャッターを回転させることが好ましい。より具体的には、界面部14Bの形成初期は、周期律表第14族元素用のシャッターの開口部を大きく、基部用のシャッターの開口部を小さく開いて両蒸発源で同時に蒸着を行い、界面部14Bの形成終期に至るに伴って、両シャッターの開き具合を逆転させることが挙げられる。
【0036】
(3)別の蒸着量調整型の方法としては、蒸発源の加熱温度又は蒸発源の加熱出力を調整し、一方の蒸発源の温度(加熱出力)を上げて蒸発量を増やしたり、一方の蒸発源の温度(加熱出力)を下げて蒸発量を減らしたりすることも利用できる。より具体的には、界面部14Bの形成初期は、周期律表第14族元素用の蒸発源の温度(加熱出力)を高く、基部用の蒸発源の温度(加熱出力)を低くして両蒸発源で同時に蒸着を行い、界面部14Bの形成終期に至るに伴って、両蒸発源の温度(加熱出力)を逆転させることが挙げられる。この温度(加熱出力)変化が連続的であれば、傾斜組成の界面部14Bを容易に形成することができる。
【0037】
(4)さらに別の蒸着量調整型の方法としては、両蒸発源を対向位置に配置し、その中間に回転式の基板ホルダを設けた蒸着装置を利用することも挙げられる。より具体的には、蒸着装置の水平方向に対向して各蒸発源を設け、その中間に、垂直方向の回転軸をもつ基板ホルダを設ける。この基板ホルダは、回転により一方の蒸発源に基板を対向させることができる。そのため、基板ホルダを間欠的に回転して、基板と対向する蒸発源から交互に蒸着を行えばよい。例えば、界面部14Bの形成初期は、基板を周期律表第14族元素用の蒸発源に長く対向させ、基部用の蒸発源には短く対向させて両蒸発源で交互に蒸着を行い、界面部14Bの形成終期に至るに伴って、各蒸発源への基板の対向時間を逆転させることが挙げられる。
【0038】
その他、界面部14Bの形成は、上述したシャッターの開閉と蒸発源の温度調整とを組み合わせて行っても良い。
【0039】
一方、熱処理型では、先に周期律表第14族元素のみからなる予備界面層と基部14Aの構成材料のみからなる負極前駆体層とを形成しておいて、後の熱処理により、周期律表第14族元素を予備界面層から負極前駆体層に拡散することが挙げられる。例えば、基板となるSE層15の上に予備界面層、負極前駆体層を順に形成する。次に、この予備界面層と負極前駆体層とを加熱して、予備界面層の周期律表第14族元素を負極前駆体層に拡散させる。負極前駆体層のうち、周期律表第14族元素の拡散した領域が界面部14Bとなり、同元素が拡散しない領域が基部14Aとなる。
【0040】
予備界面層の厚みは、界面部14Bを構成するのに必要な厚みで、かつ熱処理後に予備界面層が不必要な厚みで残存しない程度、具体的には0.05μm〜1μm程度とすることが好ましい。より好ましい予備界面層の厚みは0.05μm〜0.5μmである。
【0041】
熱処理条件は、周期律第14族元素の拡散が効率的に可能で、かつ他の電池構成材料を熱的に劣化させない程度の温度、保持時間とすることが好ましい。具体的には、熱処理温度は150〜300℃程度、保持時間は1〜60分程度が好ましい。より好ましい熱処理温度は200〜250℃、保持時間は3〜30分である。
【0042】
(負極集電体層)
負極集電体層12は、負極層14に給電するための金属膜である。負極集電体層12としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、及びこれらの合金から選択される1種が好適に利用できる。この負極集電体層12も、正極集電体層11の場合と同様に、PVD法やCVD法で形成することができる。なお、既に述べたように、負極集電体層12は省略することができる。
【0043】
(その他)
本実施形態では、正極層13とSE層15との間に、これら両層の界面近傍におけるリチウムイオンの偏りを緩衝する中間層17を設けている。リチウムイオンの偏在が生じると、その位置での電気抵抗が増加し、リチウム電池の放電容量が低下する。中間層17としては、例えば、リチウムイオン伝導性酸化物、具体的には、LixLa(2-x)/3TiO3(x=0.1〜0.5)、Li4Ti5O12、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43、Li1.8Cr0.8Ti1.2(PO43、LiNbO3、LiTaO3、Li1.4In0.4Ti1.6(PO4)3などを挙げることができる。この中間層17は、SE層15が硫化物系固体電解質の場合に有効であるが、必須ではなく、なくても構わない。
【0044】
(界面層)
さらに、図示していないが、界面部14BとSE層15との間に、負極活物質材料を含まず、実質的に周期律表第14族元素だけからなる界面層を有しても良い。基部14Aの構成元素と周期律表第14族元素が混在する界面部14Bの他に、実質的に周期律表第14族元素だけからなる界面層があっても、その厚みが薄ければ、界面層がなく界面部14Bのみを有する場合と遜色ない充放電サイクル特性が得られる。
【0045】
この界面層の厚みは、50nm以下が好ましい。界面層の厚さを50nm超とした場合、界面層の負極層14へのLiイオン拡散能よりも界面層自身のLiイオン吸蔵性が勝り、界面層の体積変化が大きくなって、負極層/固体電解質層界面の接合が破壊される虞がある。好ましい界面層の厚さは、20nm以下、さらに好ましい厚さは10nm以下である。
【0046】
この界面層は、上述した予備界面層のうち、周期律表第14族元素の一部が基部14Aに拡散した後の残存部で構成することや、界面部14Bの形成前に、SE層15上に周期律表第14族元素だけからなる層を所定厚み分形成することにより得られる。
【実施例】
【0047】
以下、実施形態において説明した構成のコインセル型の全固体リチウム二次電池(試料1〜3)を作製し、充放電サイクル特性を調べた。このリチウム二次電池は、負極集電体を省略し、負極層自体に集電体の機能を持たせている。
【0048】
<試料の作製>
《正極層〜SE層》
正極集電体層11として、厚さ100μmのSUS316Lからなる薄板を用意した。この薄板は、電池1の各層を支持する基板の役割も兼ねる。
【0049】
電子ビーム蒸着法により、正極集電体層11の上にLiCoO2からなる正極層13を形成した。正極層13の膜厚は、1μmであった。
【0050】
エキシマレーザーアブレーション法により、正極層13の上に、LiNbO3を蒸着することで中間層17を形成した。中間層の厚さは、0.02μm(20nm)であった。
【0051】
エキシマレーザーアブレーション法により、中間層17の上に、Li−P−S組成のSE層15を形成した。SE層15の形成の際は、硫化リチウム(Li2S)及び五硫化リン(P2S5)を原料とし、SE層15におけるLi/Pのモル比が2.0となるように調整した。SE層15の厚さは、5μmであった。
【0052】
《界面層〜負極層》
(製法I:試料1)
Si蒸発源とLi蒸発源を備える真空蒸着装置を用い、各蒸発源の直上に設けられたシャッターを操作して、Siのみから構成される界面層、並びに基部14A及び界面部14Bを有する傾斜組成の負極層14を形成した。まず、Si蒸発源側のシャッターのみを開いて、上記SE層の上にSiのみからなる界面層を形成した。界面層の厚さは10nmである。界面層形成の直後に、Li蒸発源側のシャッターも開いて、Liからなる負極層14の成膜を開始した。負極層の成膜開始と同時に、Si蒸発源の温度を低下させて、Siの蒸発量を低下させる。この操作により、SE層側ほどSi含有量が多い傾斜組成の界面部14Bが形成される。界面部14Bの形成後は、Si蒸発源側のシャッターを閉じて、Liのみを界面部上に蒸着して基部14Aを形成する。負極層14の厚さは1μmで、そのうち界面部14Bの厚みは約0.9μmであった。
【0053】
(製法II:試料2)
製法Iと同様の真空蒸着装置を用い、Si蒸発源側のシャッターのみを開いて、上記SE層の上にSiのみからなる予備界面層を形成した。予備界面層の厚さは0.1μmである。次に、Si蒸発源側のシャッターのみを開いて、予備界面層の上にLiを蒸着することで負極前駆体層を形成した。負極前駆体層の厚さは1μmである。負極前駆体層を形成後に、試料全体を200℃〜250℃の温度で15分間アニールする。このアニールにより、予備界面層のSiが負極前駆体層のLi金属中に拡散して、SE層側ほどSi含有量が多い傾斜組成の界面部14Bが形成され、負極前駆体層のうちSiの拡散が到達しなかった領域が基部14Aとなる。本例では、予備界面層のSiの一部は負極前駆体層に拡散されて界面部14Bを構成し、残部は実質的にSiのみで構成される界面層を構成している部分もある。本例の界面部14Bの厚みは約0.8μm、界面層の厚みは0〜0.01μm程度であった。
【0054】
(製法III:試料3)
上記製法IIにおいて、アニールが無い条件にて電池を作製した。この場合、製法IIにおける予備界面層が製法IIIにおける界面層に、製法IIにおける負極前駆体層が製法IIIにおける負極層に相当する。
【0055】
<傾斜組成の分析>
FIB(集束イオンビーム)を用いて界面層又は界面部14Bから負極層14(基部14A)にかけての断面試料を作製し、オージェ電子分光法にてSiの分布を調査した。その結果、試料1と試料2では、Siの濃度は界面層から基部14A又は界面部14Bから基部14Aにかけて低下していることが確認された。一方、試料3では、界面層と負極層の構成元素は独立しており、試料1や2のようにSiの分布が厚さ方向に変化する界面部は見られなかった。
【0056】
<充放電試験>
上述した試料1〜3のリチウム電池を使用して、充放電サイクル試験を実施した。具体的には、充放電電流密度を0.05mA/cm2として、4.2Vまで充電した後、3.0Vまで放電する作業を1サイクルとする充放電サイクル試験を100サイクル行い、各電池の容量維持率を求めた。容量維持率は、次式により求められる。

容量維持率(%)=(各サイクル時の放電容量/最大放電容量)×100
充放電サイクル試験の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
この表から明らかなように、界面部14Bを有する試料1、2は、界面部を持たない試料3に比べて充放電サイクル特性に優れることがわかる。
【0059】
なお、本発明の実施形態は、上述したものに限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、界面部や界面層の構成元素として、Si以外の周期律表第14族元素であるC、Ge、Sn及びPbなどを利用することもできる。これら周期律表第14族元素は、電池の充電時に正極層から移動してきたLiを吸蔵し、そして負極層に拡散させることができるという共通の性質を有するので、界面部又は界面層と同様の機能を発揮することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の非水電解質電池は、携帯機器などの電源として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 リチウム電池
11 正極集電体層 13 正極層
12 負極集電体層 14 負極層 14A 基部 14B 界面部
15 固体電解質層(SE層)
17 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、Liを含有する負極層と、これら両層の間でリチウムイオンの伝導を媒介する固体電解質層とを有する非水電解質電池であって、
前記負極層は、その厚さ方向の固体電解質層側に界面部を有し、
この界面部は、
周期律表第14族元素と前記負極層に含まれる活物質材料とが混在され、
前記固体電解質層側がその反対側よりも周期律表第14族元素の含有量が多いことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
前記界面部は、周期律表第14族元素の含有量が連続的に厚み方向に変化する傾斜組成であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記周期律表第14族元素がSiであることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
正極層を形成する工程と、固体電解質層を形成する工程と、Liが含まれる負極層を気相法で形成する工程とを有する非水電解質電池の製造方法であって、
前記負極層を気相法で形成する工程は、負極層の厚さ方向の固体電解質層側に界面部を形成する過程を含み、
この界面部を形成する過程は、
周期律表第14族元素と前記負極層を構成する活物質材料とを蒸着材料に用い、
周期律表第14族元素と前記活物質材料の各蒸着量を調整して、前記活物質材料と周期律表第14族元素とを混在させ、前記固体電解質層側がその反対側よりも周期律表第14族元素の含有量が多くなるようにすることを特徴とする非水電解質電池の製造方法。
【請求項5】
正極層を形成する工程と、固体電解質層を形成する工程と、Liが含まれる負極層を形成する工程とを有する非水電解質電池の製造方法であって、
前記負極層を形成する工程は、
前記固体電解質層の上に、周期律表第14族元素が含まれる予備界面層を形成する過程と、
この予備界面層の上に、負極層の活物質材料を含む負極前駆体層を形成する過程と、
この予備界面層と負極前駆体層とを加熱して、周期律表第14族元素を予備界面層から負極前駆体層内に拡散させた界面部を形成する過程とを含み、
前記界面部は、その厚さ方向の固体電解質側がその反対側よりも周期律表第14族元素の含有量が多いことを特徴とする非水電解質電池の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−79522(P2012−79522A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222899(P2010−222899)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】