説明

非水電解質電池

【課題】 高い安全性および優れた電池性能を有する非水電解質電池を、容易に提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも正極、負極、セパレータ、およびリチウム塩を含有する非水電解質とを備えた非水電解質電池において、前記非水電解質が、一般式2で示される骨格を有するイミダゾリウムカチオン等の四級アンモニウムカチオンを有する常温溶融塩を主構成成分として含有し、かつ、前記セパレータが、多孔性基材の表面もしくは孔内の少なくとも一部に有機ポリマー層が形成されており、かつ、前記孔から多孔性基材内部への気体の侵入を許容するように形成された構造を有する非水電解質電池。


ただし、R、R:C2n+1、n=1〜6R:H or C2n+1、n=1〜6

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は非水電解質電池に関するもので、さらに詳しくは、常温溶融塩を電解質に含有する非水電解質電池のセパレータの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、高性能化、小型化が進む電子機器用電源、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源などとして、高エネルギー密度が得られる種々の非水電解質を用いた非水電解質電池が注目されている。
【0003】一般に、非水電解質電池には、正極にリチウム金属酸化物、負極にリチウム金属やリチウム合金、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料を用い、電解質として常温で液体の有機溶媒にリチウム塩を溶解させた電解液が用いられている。使用される有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、プロピオラクトン、バレロラクトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタンなどが挙げられる。
【0004】しかし、上記の有機溶媒は一般に揮発しやすく、引火性も高いため、可燃性物質に分類されるものである。従って、特に電力貯蔵用電源、電気自動車用電源などの用途に用いるような比較的大型の非水電解質電池では、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下における安全性に問題点があった。
【0005】そこで、安全性に優れた非水電解質電池として、正極にリチウム金属酸化物、負極にリチウム金属やリチウム合金、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料を用い、電解質としてリチウム塩を含有するポリマー電解質を用いたリチウムポリマー二次電池が開発され、電子機器用電源として一部実用化されている。なお、ここでいうポリマー電解質とは、少なくともリチウム塩とポリマー骨格を含むものであり、一般にはさらに有機溶媒を含んだゲル状のものが広く開発されている。前記ポリマー骨格としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0006】しかし、このようなリチウムポリマー二次電池は、サイクル特性や充放電効率特性に劣るという欠点があった。この原因として、以下のような要因が挙げられる。すなわち、電解質が固体状のため、リチウムイオン伝導度は液体状の電解質に比較して低く、一般に1×10-3S/cmオーダーを確保することは困難である。そのため、サイクル特性や充放電効率特性が低下するものと考えられる。また、有機溶媒をポリマー電解質に含んだゲル状のものについては、なお、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下における安全性に問題点があった。
【0007】また、有機溶媒などの可燃性物質を主成分とせず、さらに安全性に優れた非水電解質電池として、正極にリチウム金属酸化物、負極にリチウム金属やリチウム合金、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料を用い、電解質としてリチウム塩と四級アンモニウム有機物カチオンを有する常温溶融塩を用いた非水電解質電池が特開平4−349365号公報、特開平10−92467号公報、特開平11−86905号公報、特開平11−260400号公報等に提案されている。ここで提案されている四級アンモニウム有機物カチオンを有する常温溶融塩は、常温で液状でありながら揮発性がほとんどなく、かつ、難燃性もしくは不燃性を有するため、安全性に優れている。
【0008】しかし、このような非水電解質電池に用いられている非水電解質には、次のような問題があった。すなわち、常温溶融塩は常温で液状ではあるが、従来の有機溶媒を用いた非水電解質に比較して粘性が高く、セパレータや電極材料に対する濡れ性が低いため、充分な量の電解質を保持させるのが困難である。また、特開平4−349365号公報記載の非水電解質には、次のような問題があった。すなわち、ハロゲン化アルミニウムを含有しているので、ハロゲン化アルミニウムイオン(例えばAlCl4-)の腐食性により、非水電解質電池に用いた場合に電池性能を劣化させてしまう。また、ハロゲン化アルミニウムは、一般に、激しい反応性を有するので、取り扱いが困難である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、高い安全性および優れた電池性能を有する非水電解質電池を、容易に提供することを目的としたものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、少なくとも正極、負極、セパレータ、およびリチウム塩を含有する非水電解質とを備えた非水電解質電池において、前記非水電解質が、常温溶融塩を主構成成分として含有し、かつ、前記セパレータが、多孔性基材の表面もしくは孔内の少なくとも一部に有機ポリマー層が形成されており、かつ、前記孔から多孔性基材内部への気体の侵入を許容するように形成された構造を有するものであることを特徴とする非水電解質電池である。
【0011】請求項1記載の発明によれば、非水電解質が常温溶融塩を主構成成分として含有することにより、常温溶融塩の、高いリチウムイオン伝導性により、優れた電池性能を保持しながら、常温で液状でありながら揮発性がほとんどなく、かつ、難燃性もしくは不燃性を有する性質のため、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下における安全性に優れた非水電解質リチウム二次電池を得ることが可能となる。
【0012】また、セパレータが、多孔性基材の表面もしくは孔内の少なくとも一部に有機ポリマー層が形成されており、かつ、前記孔から多孔性基材内部への気体の侵入を許容するように形成された構造を有するものとすることで、非水電解質中のイオンがセパレータの多孔内を容易に通過するため、上記常温溶融塩の優れた特性を保持しながら良好な充放電性能が得られるだけでなく、非水電解質に対して高い濡れ性を示すため、非水電解質をセパレータに吸収させやすくすることができ、高い液保持力を示すようになる。よって、充放電性能に優れ、さらに安全性に優れた非水電解質電池を容易に得ることが可能となる。
【0013】さらに、セパレータが、非水電解質に対して高い濡れ性を有し、かつ非水電解質の侵入を許容する微孔が、セパレータの少なくとも表面近傍に形成された構造を有するものとなるので、前記微孔の毛管吸収作用によって非水電解質を極めて吸収しやすいセパレータとすることができる。すなわち、セパレータの有機ポリマー層は、濡れ層としての効果を示し、有機ポリマーが一旦非水電解質を吸収することによって、前記有機ポリマー層の濡れ性ではなく、吸収された非水電解質による強い濡れ性を有するようになる。この非水電解質による強い濡れ性は、前記微孔の内面が、実質、非水電解質とほぼ同じ表面張力となることによるものと考えられる。よって、非水電解質の量を制限することができ、特に、高い液漏れ防止能を有する非水電解質電池を得ることができる。また非水電解質がセパレータの微孔内部にまで確実に吸収されるので、イオンの通過経路を確実に確保でき、特に、優れた電池特性を有する非水電解質電池を得ることができる。
【0014】ここで、本発明における常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいう。常温とは、電池が通常作動すると想定される温度範囲である。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が100℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限が−50℃程度、場合によっては−20℃程度である。例えば、溶融塩・熱技術研究会.溶融塩・熱技術の基礎.東京,アグネ技術センター,1993,313p.(ISBN 4750708291)に記載されているような、各種電析などに用いられるLi2CO3−Na2CO3−K2CO3などの無機系溶融塩は、融点が300℃以上のものが大半であり、通常電池が作動すると想定される温度範囲内で液状を呈するものではなく、本発明における常温溶融塩には含まれない。
【0015】非水電解質を構成するリチウム塩としては、一般に非水電解質電池に使用される広電位領域において安定であるリチウム塩が使用できる。例えば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23、LiC(C25SO23などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0016】非水電解質中のリチウムイオンの含有量は、0.1〜3mol/lの範囲であることが望ましい。リチウムイオンの含有量が0.1mol/l未満になると、電解質抵抗が大きすぎ、電池の充放電効率が低下する。逆にリチウムイオンの含有量が3mol/lを越えると、非水電解質の融点が上昇し、常温で液状を保つのが困難となる。以上の点で、さらに言うならば、非水電解質中のリチウムイオンの含有量は、0.5〜2mol/lの範囲であることが望ましい。
【0017】本発明における非水電解質は、リチウム塩と常温溶融塩の他、高分子を複合化させることにより、ゲル状に固体化してもよい。ここで、前記高分子としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、各種アクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、アリル系モノマー、スチレン系モノマーの重合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0018】本発明における非水電解質は、リチウム塩と常温溶融塩の他、常温で液状である有機溶媒を添加して使用してもよい。ここで、前記有機溶媒としては、一般に非水電解質電池用電解液に使用される有機溶媒が使用できる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、γ−ブチロラクトン、プロピオラクトン、バレロラクトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、これらの有機溶媒は前述したとおり引火性があるため、添加量が多すぎると非水電解質が引火性を帯び、充分な安全性が得られなくなる可能性があり、好ましくない。また、一般に非水電解質電池用電解液に添加される難燃性溶媒である、リン酸エステルを使用することもできる。例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0019】請求項2記載の発明は、前記非水電解質が、(化1)で示される骨格を有する四級アンモニウム有機物カチオンを有する常温溶融塩を含有するものであることを特徴とする非水電解質電池である。
【0020】
【化1】


請求項2記載の発明によれば、非水電解質にリチウム塩と(化1)で示される骨格を有するカチオンを有する常温溶融塩を含有するものを用いることにより、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下における安全性を充分に得ることができる上、上記作用を効果的に得ることが可能となる。
【0021】(化1)で示される骨格を有する四級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンなどのイミダゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、アルキルピラゾリウムイオン、アルキルピロリウムイオン、アルキルピロリニウムイオン、アルキルピロリジニウムイオン、アルキルピペリジニウムイオンなどが挙げられる。
【0022】前記テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】また前記アルキルピリジニウムイオンとしては、N−メチルピリジニウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン1−エチル−2−メチルピリジニウム、1−ブチル−4−メチルピリジニウム、1−ブチル−2,4−ジメチルピリジニウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】請求項3記載の発明は、前記非水電解質が、(化2)で示される骨格を有するイミダゾリウムカチオンを有する常温溶融塩を含有するものであることを特徴とする非水電解質電池である。
【0025】
【化2】


請求項3記載の発明によれば、非水電解質にリチウム塩と(化2)で示される骨格を有するイミダゾリウムカチオンを有する常温溶融塩を含有するものを用いることにより、非水電解質中のリチウムイオンの移動度を充分に得ることができる上、上記作用を効果的に得ることが可能となる。
【0026】前記イミダゾリウムカチオンとしては、例えば、ジアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンなどが、トリアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0028】請求項4記載の発明は、前記有機ポリマー層が、分子量が170〜50,000の範囲である架橋性モノマーを用いて形成されたことを特徴とする非水電解質電池である。
【0029】請求項4記載の発明によれば、有機ポリマー層が、分子量が170以上の架橋性モノマーを用いて形成されており、有機ポリマー層の架橋密度が高すぎないので、非水電解質を有機ポリマー層に確実に吸収させることができる。よって、非水電解質に対するセパレータの濡れ性を向上できる。また、有機ポリマー層が、分子量が50,000以下の架橋性モノマーを用いて形成されており、架橋性モノマーの粘度が高すぎないので、架橋性モノマーを多孔性基材の内部に確実に浸み込ませて架橋反応を起こすことができる。よって、有機ポリマー層が多孔性基材の内部に確実に形成されることによって、非水電解質をセパレータ内部に確実に吸収させることができる。従って、上記作用をさらに効果的に得ることが可能となり、優れた電池特性と高い液漏れ防止能とを有する非水電解質電池を得ることができる。
【0030】なお、架橋性モノマーの分子量が170より少なくなると、有機ポリマー層の架橋密度が高すぎ、非水電解質に対する濡れ性が不十分となって、非水電解質が有機ポリマー層に吸収されにくい。よって、優れた電池特性を確実に得るためには非水電解質の量を抑えることができなくなるので、非水電解質電池の液漏れ防止能を向上させることが難しくなる。
【0031】逆に、架橋性モノマーの分子量が50,000を超えると、架橋性モノマーの粘度が高すぎるので、架橋性モノマーを多孔性材料の内部に確実に浸み込ませることが困難となり、さらに架橋反応を起こすことによって、多孔性基材の内部に有機ポリマー層を形成することが困難となる。よって、非水電解質は、セパレータ内部に吸収されにくく、非水電解質電池に優れた電池特性と高い液漏れ防止能とを付与することが難しくなる。また、有機ポリマー層がフィルム化して微孔を塞ぎやすく、正極と負極との間の電気抵抗が高くなり、これによっても、優れた電池特性の非水電解質電池が得られにくくなる。よって、有機ポリマー層のフィルム化を確実に防止することによって、優れた電池特性を得るために、架橋性モノマーの分子量は、30,000以下であることがより好ましく、架橋性モノマーの粘度を抑えることによって、優れた電池特性と高い液漏れ防止能とを確実に得るために、架橋性モノマーの分子量は、2,000以下であることがさらに好ましい。
【0032】請求項5記載の発明は、前記架橋性モノマーが、不飽和結合を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマーおよびイソシアナート基を有するモノマーの少なくとも一種であることを特徴とする非水電解質電池である。
【0033】請求項5記載の発明によれば、架橋性モノマーとして、不飽和結合を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマーおよびイソシアナート基を有するモノマーの少なくとも一種を使用し、公知の架橋方法によって、有機ポリマー層を形成すれば、前記目的を容易に達成できる。
【0034】不飽和結合を有するモノマーとしては、二官能以上の不飽和モノマーが好適に挙げられ、より具体例には、二官能(メタ)アクリレート{エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、重合度2以上のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、重合度2以上のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体のジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等}、3官能(メタ)アクリレート{トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンのエチレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンのプロピレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンのエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等}、4官能以上の多官能(メタ)アクリレート{ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンヘキサ(メタ)アクリレート等}、下記(化3)〜(化7)で示されるモノマー等が挙げられる。これらのモノマーを単独もしくは、併用して用いることができる。
【0035】
【化3】


【0036】
【化4】


【0037】
【化5】


【0038】
【化6】


【0039】
【化7】


前記例示した二官能以上の不飽和モノマーには、物性調整などの目的で一官能モノマーを添加することもできる。添加できる一官能モノマーの例としては、不飽和カルボン酸{アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、ビニル安息香酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、メチレンマロン酸、アコニット酸等}、不飽和スルホン酸{スチレンスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等}またはそれらの塩(Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩等)、またこれらの不飽和カルボン酸をC1〜C18の脂肪族または脂環式アルコール、アルキレン(C2〜C4)グリコール、ポリアルキレン(C2〜C4)グリコール等で部分的にエステル化したもの(メチルマレート、モノヒドロキシエチルマレート、など)、およびアンモニア、1級または2級アミンで部分的にアミド化したもの(マレイン酸モノアミド、N−メチルマレイン酸モノアミド、N,N−ジエチルマレイン酸モノアミドなど)、(メタ)アクリル酸エステル[C1〜C18の脂肪族(メチル、エチル、プロピル、ブチル、2−エチルヘキシル、ステアリル等)アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、またはアルキレン(C2〜C4)グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等)およびポリアルキレン(C2〜C4)グリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)と(メタ)アクリル酸とのエステル];(メタ)アクリルアミドまたはN−置換(メタ)アクリルアミド[(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等];ビニルエステルまたはアリルエステル[酢酸ビニル、酢酸アリル等];ビニルエーテルまたはアリルエーテル[ブチルビニルエーテル、ドデシルアリルエーテル等];不飽和ニトリル化合物[(メタ)アクリロニトリル、クロトンニトリル等];不飽和アルコール[(メタ)アリルアルコール等];不飽和アミン[(メタ)アリルアミン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等];複素環含有モノマー[N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン等];オレフィン系脂肪族炭化水素[エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、(C6〜C50)α−オレフィン等];オレフィン系脂環式炭化水素[シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、ノルボルネン等];オレフィン系芳香族炭化水素[スチレン、α−メチルスチレン、スチルベン等];不飽和イミド[マレイミド等];ハロゲン含有モノマー[塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン等]等が挙げられる。
【0040】前記エポキシ基を有する架橋性モノマーの例としては、グリシジルエーテル類{ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテル等}、グリシジルエステル類{ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等}、グリシジルアミン類{トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノフェニルメタン等}、線状脂肪族エポキサイド類{エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等}、脂環族エポキサイド類{3,4エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等}等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独もしくは硬化剤を添加して硬化させて使用することができる。
【0041】前記エポキシ樹脂を硬化させるのに使用する硬化剤の例としては、脂肪族ポリアミン類{ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、3,9−(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトロオキサスピロ[5,5]ウンデカン等}、芳香族ポリアミン類{メタキシレンジアミン、ジアミノフェニルメタン等}、ポリアミド類{ダイマー酸ポリアミド等}、酸無水物類{無水フタル酸、テトラヒドロメチル無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水メチルナジック酸}、フェノール類{フェノールノボラック等}、ポリメルカプタン{ポリサルファイド等}、第三アミン類{トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等}、ルイス酸錯体{三フッ化ホウ素・エチルアミン錯体等}等が挙げられる。
【0042】前記イソシアナート基を有する架橋性モノマーの例としては、トルエンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナート、2,2,4(2,2,4)−トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、3,3'−ジメチルジフェニル4,4’−ジイソシアナート、ジアニシジンジイソシアナート、m−キシレンジイソシアナート、トリメチルキシレンジイソシアナート、イソフォロンジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、trans−1,4−シクロヘキシルジイソシアナート、リジンジイソシアナート等が挙げられる。
【0043】前記イソシアナート基を有するモノマーを架橋する活性水素を有する化合物の例としては、ポリオール類およびポリアミン類[2官能化合物{水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等}、3官能化合物{グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエタノールアミン等}、4官能化合物{ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド等}、5官能化合物{2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、ジエチレントリアミンなど}、6官能化合物{ソルビトール、マンニトール、ズルシトール等}、8官能化合物{スークロース等}]、およびポリエーテルポリオール類{前記ポリオールまたはポリアミンのプロピレンオキサイドおよび/またはエチレンオキサイド付加物}、ポリエステルポリオール[前記ポリオールと多塩基酸{アジピン酸、o,m,p−フタル酸、コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、リシノール酸}との縮合物、ポリカプロラクトンポリオール{ポリε−カプロラクトン等}、ヒドロキシカルボン酸の重縮合物等]等が挙げられる。
【0044】前記イソシアナート基を有するモノマーと活性水素を有する化合物を反応させるための触媒の例としては、有機スズ化合物類、トリアルキルホスフィン類、アミン類[モノアミン類{N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等}、環状モノアミン類{ピリジン、N−メチルモルホリン等}、ジアミン類{N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル1,3−ブタンジアミン等}、トリアミン類{N,N,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン等}、ヘキサミン類{N,N,N’N’−テトラ(3−ジメチルアミノプロピル)−メタンジアミン等}、環状ポリアミン類{ジアザビシクロオクタン(DABCO)、N,N’−ジメチルピペラジン、1,2−ジメチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)等}等、およびそれらの塩類等が挙げられる。
【0045】前記架橋体には強度や物性制御の目的で、架橋体の形成を妨害しない範囲の物性調整剤を架橋性モノマーに配合して使用することができる。物性調整剤の例としては、無機フィラー類{酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩}、ポリマー類{ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなど}が挙げられる。これらの物性調整剤の添加量は、架橋性モノマーに対して通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。
【0046】請求項6記載の発明は、前記多孔性基材が、ポリオレフィンを主成分とすることを特徴とする非水電解質電池である。
【0047】請求項6記載の発明によれば、ポリオレフィンは、電解質の溶剤に対して高い耐性を示すので、特に、非水電解質電池に耐久性を付与できる。また、ポリオレフィンを主成分とする多孔性基材の孔は、高温下で収縮しやすく、電池が高温となった時に、シャットダウン効果が確実に発現されるので、非水電解質電池の安全性を向上できる。
【0048】多孔性基材としては、一般に液系の各種電池用セパレータとして使用される微多孔膜や不織布、織布などがそのまま使用できる。多孔性基材の材質は、溶媒や非水電解質に対して化学的に安定であり、且つ電気化学的に安定であるものが使用できる。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを主原料とするものや、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルを主原料とするもの、セルロースを主原料とするものなどが挙げられるが、前述の理由により、特にポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンが適しており、なかでも特に、ポリエチレンを主原料とするものが適している。ここで、ポリエチレンとしては、高密度、中密度、低密度の各種直鎖ポリエチレン、文枝ポリエチレンなど何れのポリエチレンも使用できる。電池内温度の上昇に伴って、多孔性基材のポリエチレンが溶融し熱閉塞することで、シャットダウン特性が発現する。従って、適切な温度範囲でシャットダウン特性を発現するために、このポリエチレンの融点は120〜150℃、より好ましくは120〜140℃の温度範囲にあることが望ましい。
【0049】このとき、多孔性基材は、厚さ35μm以下であり、かつ、開孔率40%以上の微多孔膜であることが望ましく、さらに言えば、厚さ5〜25μm、開孔率45〜80%であることが望ましい。多孔性基材の厚さが35μm以上、あるいは、開孔率40%未満では、本来電気絶縁性である多孔性基材の電気抵抗が大きく、このような電池用セパレータを用いた電池では、各種電池性能を良好に保つことが困難となり、好ましくない。このことから、厚さ35μm以下、かつ、開孔率40%以上であり、さらに好ましくは、厚さ25μm以下、あるいは、開孔率45%以上である多孔性基材、特に微多孔膜を用いることにより、多孔性基材の電気抵抗が充分に低く押さえられる。しかし、厚さ5μm以下、あるいは、開孔率80%以上の多孔性基材を用いた場合には、機械的強度に劣ったり、ハンドリングが困難となる。さらに、電池電極間の微小短絡が発生しやすくなるだけでなく、シャットダウン開始温度を超えて電池の内部温度が上昇した場合に、セパレータが収縮や破損し、正負極が直接接触して内部短絡を引き起こし、熱暴走する可能性が高くなり、好ましくない。
【0050】請求項7記載の発明は、前記有機ポリマー層が、電離性放射線照射により架橋されたことを特徴とする非水電解質電池である。
【0051】請求項7記載の発明によれば、有機ポリマー層を電離性放射線照射により架橋することにより、硬化剤などの添加剤を用いずに有機ポリマー層を形成することが可能となり、かつ、適切に架橋された有機ポリマー層を短時間で容易に得ることが可能となる。
【0052】有機ポリマー層は、前記例示した架橋性モノマーを含有し、必要に応じて溶剤および硬化剤が混合されたモノマー液を、前記例示した多孔性基材に含浸、または塗布、もしくはキャストし、加熱、紫外線照射、電子線照射、ガンマ線照射などの電離性放射線照射などによりモノマーを架橋させた後、必要に応じて溶剤を乾燥して行うことにより、形成できるが、前述の理由により、特に電離性放射線照射による架橋が好ましい。
【0053】モノマー液に用いる溶剤としては、架橋性モノマーを溶解できる溶剤であれば、これらを制限なく使用でき、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、トルエン、アセトニトリル、ヘキサン等の汎用的に用いられる化学的に安定な溶剤が挙げられる。また、架橋性モノマーによっては水を使用してもよい。さらに、先に詳述した非水電解質を構成する有機溶媒と同種のものも使用できるが、これらに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0054】前記モノマー液中のモノマー濃度としては、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。10重量%を越えると多孔性基材の孔を有機ポリマー層が閉塞しやすく、正極と負極との間の電気抵抗が高くなることによって電池特性が低下する傾向がある。多孔性基材の孔の閉塞を確実に抑え、電気抵抗の増大を確実に抑えるために、モノマー液中のモノマー濃度は、5重量%以下であることがより好ましく、多孔性基材の孔を殆ど塞ぐことなく、また、非水電解質に対する濡れ性を確実に付与できることから、3重量%以下であることがさらに好ましい。
【0055】請求項8記載の発明は、金属樹脂複合材料を外装材とすることを特徴とする非水電解質電池である。
【0056】請求項8記載の発明によれば、金属樹脂複合材料は、金属よりも軽く、また、薄型形状に容易に成形できるので、非水電解質電池の小型軽量化が可能である。金属樹脂複合材料としては、例えば公知のアルミラミネートフィルムを例示できる。
【0057】本発明における非水電解質電池は、例えば、正極、負極、セパレータから構成される発電要素を、外装材からなる電池用パッケージの内に入れ、次いで電池用パッケージの内に非水電解質を注液し、最終的に封止することによって得られる。また、例えばコイン型電池のように、正極,負極,セパレータを、正極収納部,負極収納部,セパレータ収納部を有する電池用パッケージの各収納部にそれぞれ独立して収納し、次いで外装材からなる電池用パッケージ内に非水電解質を注液し、最終的に封止することによって得られても良い。
【0058】本発明における非水電解質電池に用いられる正極は、正極活物質を主要構成成分としており、リチウムイオンがインターカレート・デインターカレート可能な酸化物が好適に挙げられる。前記酸化物は、リチウムを含む複合酸化物であることが好ましく、例えばLiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiV25、Lim[Ni2-nn4](Mは1種以上のNiを除くの遷移金属元素。例えば、Mn、Co、Zn、Fe、Vなど。0≦m≦1.1、0.75≦n≦1.80。)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。酸化物は、平均粒径が1〜40ミクロン程度の粉末であることが好ましい。
【0059】本発明における非水電解質電池に用いられる負極は、負極活物質を主要構成成分としており、炭素系材料(メソフェーズカーボンマイクロビーズ、天然または人造黒鉛、樹脂焼成炭素材料、カーボンブラック、炭素繊維など)、金属リチウム、リチウム合金、WO2、MoO2、TiS2、Li4/3Ti5/34、LixTi5/3-yy4(Lは1種以上のTi及びOを除く2〜16族の元素。例えば、Be、B、C、Mg、Al、Si、P、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ba、La、Ta、W、Au、Hg、Pbなど。4/3≦x≦7/3、0≦y≦5/3。)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0060】以上、正極活物質および負極活物質について詳述したが、正極および負極は、主要構成成分である前記活物質の他に、導電剤および結着剤を構成成分として作製されるのが好ましい。
【0061】導電剤としては、電池特性に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0062】これらの中で、導電剤としては、導電性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2重量%〜30重量%が好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0063】結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデン,ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレンジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマー、カルボキシメチルセルロース等の多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることができる。また、多糖類の様にリチウムと反応する官能基を有する結着剤をリチウム電池の用いる場合には、例えばメチル化するなどしてその官能基を失活させておくことが望ましい。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0064】正極活物質または負極活物質、導電剤および結着剤をトルエン等の有機溶剤あるいは水を添加して混練し、電極形状に成形して乾燥することによって、それぞれ正極および負極を好適に作製できる。
【0065】なお、正極が正極用集電体に密着し、負極が負極用集電体に密着するように構成されるのが好ましく、例えば、正極用集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等の他に、接着性、導電性および耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。負極用集電体としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。これらの材料については表面を酸化処理することも可能である。
【0066】集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群の形成体等が用いられる。厚みの限定は特にないが、1〜500μmのものが用いられる。これらの集電体の中で、正極用集電体としては、耐酸化性に優れているアルミニウム箔が、負極用集電体としては、還元場において安定であり、且つ導電性に優れ、安価な銅箔、ニッケル箔、鉄箔、およびそれらの一部を含む合金箔を使用することが好ましい。さらに、粗面表面粗さが0.2μmRa以上の箔であることが好ましく、これにより正極および負極と集電体との密着性は優れたものとなる。よって、このような粗面を有することから、電解箔を使用するのが好ましい。特に、ハナ付き処理を施した電解箔は最も好ましい。
【0067】
【発明の実施の形態】以下に、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの記述により限定されるものではない。
【0068】(実施例1)本発明における非水電解質電池の断面図を図1に示す。本発明における非水電解質電池は、正極1、負極2、およびセパレータ3からなる極群4と、非水電解質と、金属樹脂複合フィルム5から構成されている。正極1は、正極合剤11が正極集電体12上に塗布されてなる。また、負極2は、負極合剤21が負極集電体22上に塗布されてなる。非水電解質は極群4に含浸されている。金属樹脂複合フィルム5は、極群4を覆い、その四方を熱溶着により封止されている。
【0069】次に、上記構成の非水電解質電池の製造方法を説明する。
【0070】正極1は次のようにして得た。まず、LiCoO2と、導電剤であるアセチレンブラックを混合し、さらに結着剤としてポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液を混合し、この混合物をアルミ箔からなる正極集電体12の片面に塗布した後、乾燥し、正極合剤11の厚みが0.1mmとなるようにプレスした。以上の工程により正極1を得た。
【0071】負極2は、次のようにして得た。まず、TiO2とLiOH・H2Oを混合し、900℃の酸化雰囲気下で10時間熱処理し、負極活物質であるLi4/3Ti5/34を得た。次に、得られたLi4/3Ti5/34と、導電剤であるケッチェンブラックを混合し、さらに結着剤としてポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液を混合し、この混合物をアルミ箔からなる負極集電体22の片面に塗布した後、乾燥し、負極合剤21厚みが0.1mmとなるようにプレスした。以上の工程により負極2を得た。
【0072】セパレータ3は、次のようにして得た。まず、(化3)で示される構造を持つ2官能アクリレートモノマーを3重量パーセント溶解するエタノール溶液を作製し、多孔性基材であるポリエチレン微孔膜(平均孔径0.1ミクロン、開孔率50%、厚さ23ミクロン、重量12.52g/m2、透気度89秒/100ml)に塗布した後、電子線照射によりモノマーを架橋させて有機ポリマー層を形成し、温度60℃で5分間乾燥させた。以上の工程により、セパレータ3を得た。なお、得られたセパレータ3は、厚さ24ミクロン、重量13.04g/m2、透気度103秒/100mlであり、有機ポリマー層の重量は、多孔性材料の重量に対して約4重量%、架橋体層の厚さは約1ミクロンで、多孔性基材の孔がほぼそのまま維持されているものであった。
【0073】極群4は、正極合剤11と負極合剤21とを対向させ、その間にセパレータ3を配し、正極1、セパレータ3、負極2の順に積層することにより、構成した。非水電解液は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン(EMI+)とテトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)からなる常温溶融塩(EMIBF4)1リットルに、1モルのLiBF4を溶解させることにより得た。次に、非水電解質中に極群4を浸漬させることにより、極群4に非水電解質を含浸させ、た。さらに、金属樹脂複合フィルム5で極群4を覆い、その四方を熱溶着により封止した。
【0074】以上の製法により得られた電池を本発明電池Aとする。なお、本発明電池Aの設計容量は、10mAhである。
【0075】(実施例2)非水電解液として、N−ブチルピリジニウムイオン(BPy+)とBF4-からなる常温溶融塩(BPyBF4)1リットルに、1モルのLiBF4を溶解したものを用いた以外、本発明電池Aと同一の原料および製法により非水電解質電池を得た。これを本発明電池Bとする。
【0076】(実施例3)また、負極活物質としてグラファイトを用いた以外、本発明電池Aと同一の原料および製法により非水電解質電池を得た。これを本発明電池Cとする。
【0077】(比較例1)非水電解質として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒1リットルに、1モルのLiBF4を溶解したものを用いた以外、本発明電池Aと同一の原料および製法により非水電解質電池を得た。これを比較電池Dとする。
【0078】(比較例2)また、セパレータ3として、有機ポリマー層を有しない以外は本発明電池Aに用いたセパレータ3と同様の材質であるポリエチレン微孔膜を用いた以外、本発明電池Aと同一の原料および製法により非水電解質電池を得た。これを比較電池Eとする。
【0079】(充放電サイクル特性試験)本発明電池A、B、Cおよび比較電池D、Eについて、充放電サイクル試験を行った。試験温度は20℃とした。充電は、電流1mA、本発明電池A、Bおよび比較電池D、Eの終止電圧2.7V、本発明電池Cの終止電圧4.2Vで、定電流充電とした。放電は、電流1mA、本発明電池A、Bおよび比較電池D、Eの終止電圧1.2V、本発明電池Eの終止電圧2.7Vで、定電流放電とした。電池設計容量との比率を放電容量(%)とした。本発明電池A、B、Cおよび比較電池D、Eの充放電サイクル特性を図2に示す。
【0080】図2から、比較電池Eでは、初期放電容量は設計容量のほぼ80%しか得られず、充放電効率も85%程度しか得られなかった。これに対し、本発明電池A、B、Cおよび比較電池Dでは放電容量は設計容量のほぼ100%が得られ、充放電効率もほぼ100%が得られることが分かった。
【0081】さらに、図2から、比較電池Eでは、充放電サイクルを経過すると急激に容量が低下し、100サイクル目には設計容量の60%を下回った。これに対し、本発明電池A、B、Cおよび比較電池Dでは、200サイクル経過後も設計容量の80%以上が保持されることが分かった。
【0082】(高温保存試験)本発明電池A、B、Cおよび比較電池D、Eについて、高温保存試験を行った。前述の充放電サイクル試験同様の条件で、初期容量の確認を行った電池を、前述した条件で充電後、100℃で3時間保存後室温で21時間保存する高温保存サイクルを30日間繰り返し、前述した条件で保存後の放電容量を測定し、自己放電率を求めると共に、電池厚さの変化を測定した。なお、自己放電率および電池厚さ変化は(式1)および(式2)により算出した。結果を表1に示す。
【0083】
【式1】


【0084】
【式2】


【0085】
【表1】


表1から、比較電池Dでは自己放電率が高いだけでなく、電池厚さが大きく変化した。これに対し、本発明電池A、B、Cおよび比較電池Eでは自己放電率が比較的低いだけでなく、電池厚さの変化もほとんどないことが分かった。ただし、比較電池Eは、高温保存前の放電容量がすでに低いため、自己放電率としては低くなるが、高温保存後の放電容量は本発明電池A、B、Cに比較して低くなった。
【0086】(燃焼試験)さらに、これらの本発明電池A、B、Cおよび比較電池D、Eについて、燃焼試験を行った。前述の充放電サイクル試験同様の条件で、初期容量の確認を行った電池を、10mAで9時間強制的に過充電後、ガスバーナー上約2cmの位置で燃焼させた。
【0087】その結果、比較電池Dはアルミラミネートフィルムが燃焼すると共に、電解質に引火して爆発的に燃焼したが、本発明電池A、B、Cおよび比較電池Eでは、アルミラミネートフィルムは燃焼したが、電解質の燃焼は発生しなかった。
【0088】(結果の考察)以上3つの試験結果が得られた原因として、以下の要因が考えられる。
【0089】まず、比較電池Eでは、有機ポリマー層が形成されていないセパレータを用いているため、粘性が高い常温溶融塩を主構成成分とする非水電解質と、ポリエチレンからなるセパレータに対する濡れ性が低く、良好な電池充放電特性を維持するのに充分な量の非水電解質を保持できておらず、その結果、サイクル特性や充放電効率が低下すると考えられる。
【0090】これに対し、本発明電池A、B、Cおよび比較電池Dでは、セパレータに形成された有機ポリマー層が、濡れ層としての効果を示すことにより非水電解質に対して高い濡れ性を示すため、粘性が高い常温溶融塩を主構成成分とする非水電解質をもセパレータに吸収させやすくすることができ、高い液保持力を示し、良好な電池充放電特性を維持するのに充分な量の非水電解質を保持することができるものと考えられる。その結果良好なサイクル特性や充放電効率特性が得られるものと考えられる。
【0091】また、比較電池Dでは、非水電解質として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒1リットルに、1モルのLiBF4を溶解したものをゲル化したものを用いているが、これらの有機溶媒は揮発しやすく、非水電解質とした場合でも、高温保存により容易に気体となるため、自己放電率が高いだけでなく、電池厚さが大きく変化する原因になっているものと考えられる。さらに、これらの有機溶媒は引火性も高いため、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下における安全性も充分ではない。
【0092】これに対し、本発明電池A、B、Cおよび比較電池Eでは、非水電解液として、EMIBF4やBPyBF4といった、常温溶融塩を用いており、これらの常温溶融塩は、常温で液状でありながら揮発性がほとんどなく、高温保存によっても気体化することはほとんどないため、自己放電率が比較的低いだけでなく、電池厚さの変化もほとんどない原因になっているものと考えられる。さらに、これらの常温溶融塩は難燃性もしくは不燃性を有するため、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下における安全性にも優れている。
【0093】以上の効果を相乗的に得ることができるため、本発明電池A、B、Cは比較電池D、Eに比較して、良好な電池性能を得ることができたものと考えられる。
【0094】
【発明の効果】請求項1記載の発明によれば、非水電解質が常温溶融塩を主構成成分として含有しているので、優れた電池性能を保持しながら、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下において、高い安全性を発揮できる。
【0095】また、セパレータが、非水電解質に対して高い濡れ性を有し、かつ非水電解質の侵入を許容する微孔が、セパレータの少なくとも表面近傍に形成された構造を有するものであるので、非水電解質がセパレータの微孔内部にまで確実に吸収され、イオンの通過経路を確実に確保でき、特に、優れた電池特性と高い液漏れ防止能を発揮できる。
【0096】請求項2記載の発明によれば、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下において、より高い安全性を発揮できる。
【0097】請求項3記載の発明によれば、過充電、過放電やショートなどのアブユース時や高温環境下において、より高い安全性を発揮でき、さらに、非水電解質中のリチウムイオンの移動度を充分に得ることができる。
【0098】請求項4記載の発明によれば、より優れた電池特性と高い液漏れ防止能を発揮できる。
【0099】請求項5記載の発明によれば、公知の架橋方法によって、有機ポリマー層を形成すれば、前記効果を容易に得ることができる。
【0100】請求項6記載の発明によれば、非水電解質電池に耐久性を付与できるだけでなく、より高い安全性を付与できる。
【0101】請求項7記載の発明によれば、適切に架橋された有機ポリマー層を短時間で容易に得ることが可能となる。
【0102】請求項8記載の発明によれば、非水電解質電池の小型軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の非水電解質リチウム二次電池の断面図である。
【図2】本発明電池A、B、Cおよび比較電池D、Eの充放電サイクル特性を示す図である。
【符号の説明】
1 正極
11 正極合剤
12 正極集電体
2 負極
21 負極合剤
22 負極集電体
3 セパレータ
4 極群
5 金属樹脂複合フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも正極、負極、セパレータ、およびリチウム塩を含有する非水電解質とを備えた非水電解質電池において、前記非水電解質が、少なくとも常温溶融塩を主構成成分として含有し、かつ、前記セパレータが、多孔性基材の表面もしくは孔内の少なくとも一部に有機ポリマー層が形成されており、かつ、前記孔から多孔性基材内部への気体の侵入を許容するように形成された構造を有するものであることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】 前記非水電解質が、(化1)で示される骨格を有する四級アンモニウム有機物カチオンを有する常温溶融塩を含有するものであることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【化1】


【請求項3】 前記非水電解質が、(化2)で示される骨格を有するイミダゾリウムカチオンを有する常温溶融塩を含有するものであることを特徴とする請求項1および2記載の非水電解質電池。
【化2】


【請求項4】 前記有機ポリマー層が、分子量が170〜50,000の範囲である架橋性モノマーを用いて形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質電池。
【請求項5】 前記架橋性モノマーが、不飽和結合を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマーおよびイソシアナート基を有するモノマーの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質電池。
【請求項6】 前記多孔性基材が、ポリオレフィン類を主成分とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質電池。
【請求項7】 前記有機ポリマー層が、電離性放射線照射により架橋されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質電池。
【請求項8】 金属樹脂複合材料を外装材とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2002−324579(P2002−324579A)
【公開日】平成14年11月8日(2002.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−127905(P2001−127905)
【出願日】平成13年4月25日(2001.4.25)
【出願人】(000006688)株式会社ユアサコーポレーション (21)
【Fターム(参考)】