説明

非線形特性再現装置、非線形抵抗再現装置、および非線形特性再現プログラム記憶媒体

【課題】本発明は、状態量に非線形変換を施して出力する非線形特性再現装置に関し、製品や部品の非線形な挙動や振る舞いをモデル化して再現する。
【解決手段】入力状態量の、次期標本化時期における推定観測量を入力して、次期標本化時期における出力状態量の推定値が推定観測量で規格化されてなる規格化推定値を求める非線形特性再生部と、非線形特性再生部で求められた規格化推定値に基づく非線形演算により、次期標本化時期における入力状態量を次期標本化時期における出力状態量に変換する状態量変換部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態量に非線形変換を施して出力するシミュレーションを行なう非線形特性再現装置、およびコンピュータを非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
設計開発の対象であり目的である製品や部品の大半は、その内部に非線形な性質を含み、企画から設計を経て試作試験に至る製品開発の全過程を通して、避けることができない課題である。しかし、この製品開発の全域に影響を及ぼす非線形性には、製品開発にとって障害になる面と有益な2通りの面があり、大変重要な意味を持っている。まず障害となる面には、不確定現象の原因となり、それが製品の機能に影響して性能と信頼性を悪化させることが多く、このような非線形性は極力排除するか製品への影響を回避しなければならない。次に有益な面は、非線形ばね・半導体・リンク機構・クラッチ機構など、線形特性からは得られない機能と特性の創生と実現の手段として積極的に利用されることも多く、このような場合には非線形性の存在が不可欠であり、その活用が機能実現と性能達成の鍵となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
モデル化に当たっては、この実体が持つ非線形性を忠実に再現する必要がある。しかし、有限要素法を始めとする従来のモデル化手法の大部分は、元来線形な系を対象に発達したので、それによる非線形性の扱いは一般には困難かつ面倒であった。そのために従来の製品モデルにおいては、非線形性を最初から省略するか近似または平均化された等価線形性として扱われるのが普通であった。そして、非線形性が性能に大きく影響する場合や非線形性を利用して必要機能を実現する場合には、複雑で一般性のない数値処理法を用いるか、あるいは熟練技術者の勘と経験に頼り個別に対応せざるを得なかった。このことがモデル化を困難にし、製品開発のコンピュータ援用を阻害する要因の一つにもなっていた。しかし、実際の製品には種々雑多な非線形性があり、これを全て共通の理論を導いて解くことは困難である。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑み、製品や部品の非線形な挙動や振る舞いをシミュレーション上で再現する非線形特性再現装置、およびコンピュータをそのような非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明の非線形特性再現装置のうちの第1の非線形特性再現装置は、所定の第1の状態量を入力し入力された第1の状態量に非線形変換処理を施すことにより第2の状態量を生成して出力する非線形特性再現装置において、
設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に、各標本化時期ごとに線形変換する状態量変換部と、
上記第1の状態量および上記第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における変換のための変換パラメータを求めて、求めた変換パラメータを、状態量変換部に設定する非線形特性再生部とを備えたことを特徴とする。
【0006】
ここで、上記本発明の第1の非線形特性再現装置において、上記非線形特性再生部は、上記推定観測量を入力するとともに1つ以上の変数を入力し、これら入力された推定観測量および1つ以上の変数に基づいて、上記変換パラメータを求めるものであってもよい。
【0007】
あるいは、1つの変数に基づいて複数の第2の状態量を求めるものであってもよい。
【0008】
また、上記本発明の第1の非線形特性再現装置において、上記非線形特性再生部は、次期標本化時期における第2の状態量の推定値が上記推定観測量で規格化されてなる規格化推定値を、上記変換パラメータとして求めるものであることが好ましく、この場合、さらに、上記非線形特性再生部は、次期標本化時期における第2の状態量の推定値を上記推定観測量の絶対値で除算又は微分することにより、上記変換パラメータとしての上記推定観測量を求めるものであることが好ましい。
【0009】
また、上記本発明の第1の非線形特性再現装置は、非線形バネの特性を再現する装置であって、
上記状態量変換部は、非線形バネ両端の速度差と、その非線形バネの荷重変化との間の変換を行なうものであり、
上記非線形特性再生部は、非線形バネ両端の速度差の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における、特性再現対象の非線形バネ両端の速度差とその非線形バネの荷重変化との間の変換を行なうための変換パラメータを求めて、求めた変換パラメータを上記状態量変換部に設定するものであることが好ましい形態の1つである。
【0010】
あるいは、上記本発明の第1の非線形特性再現装置は、空気バネの特性を再現する装置であって、
上記状態量変換部は、空気バネの変形速度と、その空気バネの内部圧力変化との間の変換を行なうものであり、
上記非線形特性再生部は、空気バネの変形速度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における、特性再現対象の空気バネの変形速度とその空気バネの内部圧力変化との間の変換を行なうための変換パラメータを求めて、求めた変換パラメータを上記状態量変換部に設定するものであることも好ましい形態である。
【0011】
さらには、上記本発明の第1の非線形特性再現装置は、リンク機構の特性を再現する装置であって、
上記状態量変換部は、リンク機構の支点部の速度あるいは角速度の値を変換するものであり、
上記非線形特性再生部は、リンク機構の支点部に加わる速度あるいは角速度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における、特性再現対象のリンク機構の支点部の速度あるいは角速度の値を変換するための変換パラメータを求めて、求めた変換パラメータを上記状態量変換部に設定するものであることも好ましい形態である。
【0012】
この場合に、上記状態量変換部は、上記非線形特性再生部により設定された、リンク機構の支点部の速度あるいは角速度の値の変換に用いる変換パラメータと同一の変換パラメータを用いて、その支点部の速度あるいは角速度の値を変換するとともに、その支点部に加わる力あるいはトルクの値を変換するものであってもよい。
【0013】
さらには、上記本発明の第1の非線形特性再現装置は、摩擦を伴って移動する物体の特性を再現する装置であって、
上記状態量変換部は、物体に加わる力とその物体の移動速度との間の変換を行なうものであり、
上記非線形特性再生部は、物体の移動速度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、その次期標本化時期における、特性再現対象の物体に加わる力とその物体の移動速度との間の変換を行なうための変換パラメータを求めて、求めた変換パラメータを上記状態量変換部に設定するものであることも好ましい形態である。
【0014】
この場合に、上記非線形特性再生部は、上記物体に加わる摩擦力を変換パラメータとして求めて状態量変換部に設定するものであり、上記状態量変換部は、その物体に加わる力から状態量変換部により設定された摩擦力を減じた力を摩擦力の作用が無視された物体に加えた場合の、その力とその物体の移動速度との間の変換を行なうものであってもよく、
この場合にさらに、上記非線形特性変換部は、物体の移動速度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における、特性再現対象の物体に加わる静摩擦力を求める動摩擦生成部と、物体に加わる力の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における、特性再現対象の物体に加わる静摩擦力を求める静摩擦生成部と、物体の移動速度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、動摩擦生成部で生成された動摩擦力と上記静摩擦生成部で生成された静摩擦力とのうちの一方の摩擦力を選択して、選択した摩擦力を状態量変換部に設定する摩擦力切替部とを有するものであってもよい。
【0015】
さらにこの場合に、上記動摩擦生成部は、物体の移動速度の次期標本化時期の推定観測量に応じて値の異なる動摩擦力を求めるものであってもよい。
【0016】
また、上記本発明の第1の非線形特性再現装置は、角速度に応じて慣性モーメントが変化する可変慣性モーメント機構の特性を再現する装置であって、
上記状態量変換部は、可変慣性モーメント機構に加わるトルクとその可変慣性モーメント機構の角速度との間の変換を行なうものであり、
上記非線形特性再生部は、可変慣性モーメント機構の角速度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における、特性再現対象の可変慣性モーメント機構に加わるトルクとその可変慣性モーメント機構の角加速度との間の変換を行なうための変換パラメータを求めて、求めた変換パラメータを上記状態量変換部に設定するものであることも好ましい形態である。
【0017】
この場合に、特性再現対象の可変慣性モーメント機構が、遠心力に応じて半径方向に並進する並進部材を有するものであって、
上記非線形特性再生部は、その可変慣性モーメント機構の角速度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、上記並進部材に加わる遠心力を求める回転並進変換部と、回転並進変換部で求められた遠心力による並進部材の並進運動を再現する並進運動再現部とを備え、並進運動再現部により再現された並進部材の並進運動に応じた変換パラメータを求めて状態量変換部に設定するものであってもよい。
【0018】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現装置のうちの第2の非線形特性再現装置は、線形系の特性を再現する線形モデル部と、その線形モデル部から、相互に非線形変換の関係にある第1の状態量および第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量を取得して、上記第1の状態量と上記第2の状態量との間の、次期標本化時期における線形変換に用いられる変換パラメータを求める非線形モデル部とを備え、非線形モデル部における次期標本化時期の変換パラメータを求める演算と、線形モデル部における、非線形モデル部で求められた次期標本化時期の変換パラメータを用いた第1の状態量と上記第2の状態量との間の線形変換を含む線形演算とを交互に繰り返すことを特徴とする。
【0019】
ここで、上記本発明の第2の非線形特性再現装置において、上記非線形モデル部は、相互に非線形変換の関係にあるとともに少なくとも一方の状態量の種類が異なる第1の状態量および第2の状態量に関し、それら第1の状態量および第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量を取得して、第1の状態量と第2の状態量の間の、次期標本化時期における線形変換に用いられる変換パラメータを求める、複数の非線形変換部を有するものであってもよい。
【0020】
上記本発明の第2の非線形特性再現装置は、ゼネバ機構の特性を再現する装置であって、
上記線形モデル部は、ゼネバ機構の主部と従部との間の角速度どうしの線形変換とそのゼネバ機構の主部と従部との間のトルクどうしの線形変換とを含む線形変換を行なうものであり、
上記非線形モデル部は、ゼネバ機構の主部の角度の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における、ゼネバ機構の主部と従部との間の角速度どうしの変換とゼネバ機構の主部と従部との間のトルクどうしの変換との双方の線形変換に用いられる、次期標本化時期においてゼネバ機構の主部と従部とが連結されているか否かの情報を含む変換パラメータを求める非線形変換部を有するものであることが好ましい形態の1つである。
【0021】
また、上記本発明の第2の非線形特性再現装置は、ランプとサーミスタとが直列に接続された液体残量警告灯の特性を再現する装置であって、
上記線形モデル部は、ランプに印加される電圧とそのランプに流れる電流との間の変換と、サーミスタに印加される電圧とサーミスタに流れる電流との間の変換とを含む線形変換を行なうものであり、
上記非線形モデル部は、ランプに印加される電圧の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期におけるランプの抵抗を求める第1の非線形変換部と、サーミスタの消費電力の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期におけるサーミスタの抵抗を求める第2の非線形変換部とを有するものであることも好ましい形態の1つである。
【0022】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現装置のうちの第3の非線形特性再現装置は、1つ以上の変数を入力し、入力された1つ以上の変数に基づいて、複数の離散的な値の中から選択される、次期標本化時期における論理値を求める論理判定部と、
所定の入力状態量を入力し、次期標本化時期において、入力状態量と出力状態量との関係が論理判定部で求められた次期標本化時期における論理値に応じた関係に切り替えられてなる出力状態量を出力する状態量切替部とを備えたことを特徴とする。
【0023】
ここで、上記の「複数の離散的な値」は、例えば2値(‘0’と‘1’)であってもよく、3値(‘0’と‘1’と‘−1’)であってもよく、このような複数の値をいう。
【0024】
また、上記の「第1の状態量を切り替えて」とは、論理値が2値で表わされる場合における、例えば、第1の状態量の通過と切断とを切り替えたり、第1の状態量の流れを逆方向に切り替えたりすることや、論理値が3値で表わされる場合における、例えば、第1の状態量の正方向への流れと、逆方向への流れと、流れの停止とを切り替えたりすることなど、第1の状態量を様々な状態に切り替えること等をいう。
【0025】
上記本発明の第3の非線形特性再現装置において、上記状態量切替部は、次期標本化時期において、入力状態量と出力状態量との接続関係が論理判定部で求められた次期標本化時期における論理値に応じた接続関係に切り替えられてなる出力状態量を出力するものであってもよく、あるいは、
上記状態量切替部は、入力状態量を積分して出力状態量として出力するものであって、論理判定部で求められた次期標本化時期における論理値が所定の論理値であった場合に、次期標本化時期において、初期値に切り替えられてなる出力状態量を出力するものであってもよく、さらには、
上記論理判定部は、複数の入力状態量の次期標本化時期における推定観測量に基づいて、複数の離散的な値の中から選択される次期標本化時期における論理値を求めるものであり、上記状態量切替部は、上記複数の入力状態量を入力して、次期標本化時期において、論理判定部で求められた次期標本化時期における論理値に応じて選択された入力状態量を出力状態量として出力するものであってもよい。
【0026】
上記本発明の第3の非線形特性再現装置は、相対移動可能状態と相対移動不能状態とを有する2つの部材を含む機構の特性を再現する装置であって、
上記論理判定部が、それら2つの部材の相対位置もしくその相対位置から導かれる状態量の、次期標本化時期における推定観測量に基づいて、それら2つの部材が相対移動可能状態にあるか相対移動不能状態にあるかを表わす論理値を求めるものであり、
上記状態量切替部が、それら2つの部材の、相対移動速度と力の配分との関係を切り替えるものであることが好ましい形態の1つである。
【0027】
また、上記本発明の第3の非線形特性再現装置は、相対的に滑った滑り状態と相互に接続された接続状態とを有する2つの部材を含むクラッチ機構の特性を再現する装置であって、
上記論理判定部が、それら2つの部材の相対角速度の次期標本化時期における推定観測量に基づいて、それら2つの部材が滑り状態にあるか接続状態にあるかを表わす論理値を求めるものであり、
上記状態量切替部が、それら2つの部材の相対角速度とトルクの配分との関係を切り替えるものであることも好ましい形態の1つである。
【0028】
さらには、上記本発明の第3の非線形特性再現装置は、駆動軸に制動エネルギーを加えるブレーキ機構の特性を再現する装置であって、
上記論理判定部が、ブレーキが駆動軸から受けているトルクの次期標本化時期の推定観測量に基づいて、駆動軸が回転状態にあるか静止状態にあるかを表わす論理値を求めるものであり、
上記状態量切替部が、駆動軸に与える制動トルクを切り替えるものであることも好ましい形態であり、
上記本発明の第3の非線形特性再現装置は、可動部材にバネを作用させてその可動部材への外力の付加が解除されたときにその可動部材がそのバネの作用により初期状態に自動復帰するとともにその可動部材の可動範囲を制限するストッパが設けられてなる自動復帰機構の特性を再現する装置であって、
上記論理判定部が、上記可動部材の移動位置の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、上記可動部材がストッパに干渉したか否かを表わす論理値を求めるものであり、
上記状態量切替部が、上記可動部材の速度もしくは角速度とその可動部材に加わる力もしくはトルクとの関係を切り替えるものであることも好ましい形態である。
【0029】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現装置のうちの第4の非線形特性再現装置は、所定の第1の状態量を入力し、入力した第1の状態量が所定状態にあるか否かに応じて非線形に切り替えられた第2の状態量を出力する非線形特性再現装置において、
上記第1の状態量の、現在の標本化時期から次期標本化時期に至る間の状態量変動幅を予測する状態変動推定部と、
上記第1の状態量の、現在の標本化時期における値と、その第1の状態量が所定状態にあるか否かを判定するための判定値との偏差を求める状態偏差検出部と、
状態変動推定部で予測された状態量変動幅と状態偏差検出部で求められた偏差との大小に基づいて次期標本化時期における非線形変化を予測した、複数の離散的な値の中から選択される論理値を求める安定状態判定部と、
安定状態判定部で求められた論理値に基づいて切り替えられた第2の状態量を出力する状態量切替部とを備えたことを特徴とする。
【0030】
ここで、上記第4の非線形特性再現装置において、上記状態偏差検出部は、上記第1の状態量の現在の標本化時期における値と、その第1の状態量が所定の状態にあるか否かを判定するための、上記状態変動推定部で予測された状態量変動幅の正負に応じて異なる判定値との偏差を求めるものであってもよい。
【0031】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現装置のうちの第5の非線形特性再現装置は、設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に線形変換する状態量変換部を含む、線形系の特性を再現する線形モデル部と、上記線形モデル部から、所定の第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量を取得しその推定観測量に基づいて変換パラメータを生成して上記状態量変換部に設定する非線形モデル部とを備え、
上記非線形モデル部が、
線形モデル部から上記第1の観測状態量と同一もしくは異なる所定の第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測値を取得し、その第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、相対的に緩慢な挙動変化を示す第1の非線形系の特性が反映された緩慢変化状態量を生成する緩慢変化再生部と、
上記線形モデル部から取得した上記第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量と、上記緩慢変化再生部で生成された上記緩慢変化状態量とに基づいて、相対的に急激な挙動変化を示す第2の非線形系の特性が反映された変換パラメータを生成して上記状態量変換部に設定する特性生成部とを有するものであることを特徴とする。
【0032】
この場合において、上記緩慢変化再生部は、
上記第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、上記緩慢変化状態量の、上記線形モデル部の状態が現状のまま継続したとした場合の無限時間経過後の定常値を求める定常値設定部と、
上記定常値設定部で求められた上記緩慢変化状態量の定常値と、既知の、上記第1の非線形系における上記緩慢変化状態量の、正規化された時間変化特性とに基づいて、その第1の非線形系の特性が反映された、上記特性生成部に渡す緩慢変化状態量を生成する正規化応答部とを備えたものであることが好ましい。
【0033】
この場合に、この第5の非線形特性再現装置が、温度変化に応じて抵抗値が変化する素子を有する系の特性を再現する装置であって、
上記状態量変換部は、抵抗値を表わす変換パラメータが設定されその抵抗値を持つ素子に印加された電圧とその素子に流れる電流との間の変換を行なうものであり、
上記定常値設定部は、上記素子で消費されるエネルギーの、次期標本化時期における推定観測量に基づいて、その素子の温度の、その素子で消費されるエネルギーが現状のまま継続したとした場合の無限時間経過後の定常値を求めるものであり、
上記正規化応答部は、上記定常値設定部で求められた、上記素子の温度の定常値と、既知の、上記素子で消費されるエネルギー変化に対するその素子の温度の時間変化を表わす正規化されたステップ応答曲線とに基づいて、上記素子の温度を求めるものであり、
上記特性生成部が、上記正規化応答部で求められた温度に基づいて上記素子の抵抗値を表わす変換パラメータを生成して上記状態量変換部に設定するものであることが好ましい態様の1つである。
【0034】
この場合に、上記正規化応答部は、さらに周囲温度の観測量にも基づいて、上記素子の温度を求めるものであってもよい。
【0035】
尚、例えば速度と角速度あるいは力とトルクは、再現対象の機構等が並進系であるか回転系であるかに応じて定まるものであり、したがって上記本発明のいずれにおいても、明示的に表現されていない場合であっても、力はトルクを含む概念であり、トルクは力を含む概念であり、速度は角速度を含む概念であり、角速度は速度を含む概念であり、位置は回転角度を含む概念であり、他の物理量も同様に解釈される。
【0036】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体のうちの第1の非線形特性再現プログラム記憶媒体は、コンピュータを、所定の第1の状態量を入力し入力された第1の状態量に非線形変換処理を施すことにより第2の状態量を生成して出力する非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体において、
設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に、各標本化時期ごとに線形変換する状態量変換部と、
上記第1の状態量および上記第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における変換のための変換パラメータを求めて、求めた変換パラメータを、状態量変換部に設定する非線形特性再生部とを有する非線形特性再現プログラムが記憶されてなることを特徴とする。
【0037】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体のうちの第2の非線形特性再現プログラム記憶媒体は、コンピュータを、非線形系を含む系の特性を再現する非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体において、
線形系の特性を再現する線形モデル部と、その線形モデル部から、相互に非線形変換の関係にある第1の状態量および第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量を取得して、上記第1の状態量と上記第2の状態量との間の、次期標本化時期における線形変換に用いられる変換パラメータを求める非線形モデル部とを有し、
非線形モデル部における次期標本化時期の変換パラメータを求める演算と、線形モデル部における、非線形モデル部で求められた次期標本化時期の変換パラメータを用いた上記第1の状態量と上記第2の状態量との間の線形変換を含む線形演算とを交互に繰り返す非線形特性再現プログラムが記憶されてなることを特徴とする。
【0038】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体のうちの第3の非線形特性再現プログラム記憶媒体は、コンピュータを、非線形系を含む系の特性を再現する非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体において、
1つ以上の変数を入力し、入力された1つ以上の変数に基づいて、複数の離散的な値の中から選択される、次期標本化時期における論理値を求める論理判定部と、
所定の入力状態量を入力し、次期標本化時期において、入力状態量と出力状態量との関係が論理判定部で求められた次期標本化時期における論理値に応じた関係に切り替えられてなる出力状態量を出力する状態量切替部とを有する非線形特性再現プログラムが記憶されてなることを特徴とする。
【0039】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体のうちの第4の非線形特性再現プログラム記憶媒体は、コンピュータを、所定の第1の状態量を入力し、入力した第1の状態量が所定状態にあるか否かに応じて非線形に切り替えられた第2の状態量を出力する非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体において、
上記第1の状態量の、現在の標本化時期から次期標本化時期に至る間の状態量変動幅を予測する状態変動推定部と、
上記第1の状態量の、現在の標本化時期における値と、その第1の状態量が所定状態にあるか否かを判定するための判定値との偏差を求める状態偏差検出部と、
状態変動推定部で予測された状態量変動幅と上記状態偏差検出部で求められた偏差との大小に基づいて次期標本化時期における非線形変化を予測した、複数の離散的な値の中から選択される論理値を求める安定状態判定部と、
安定状態判定部で求められた論理値に基づいて切り替えられた第2の状態量を出力する状態量切替部とを有する非線形特性再現プログラムが記憶されてなることを特徴とする。
【0040】
また、上記目的を達成する本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体のうちの第5の非線形特性再現プログラム記憶媒体は、コンピュータを、非線形系を含む系の特性を再現する非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体において、
設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に線形変換する状態量変換部を含む、線形系の特性を再現する線形モデル部と、
上記線形モデル部から、所定の第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量を取得しその推定観測量に基づいて上記変換パラメータを生成して上記状態量変換部に設定する非線形モデル部とを有し、
非線形モデル部が、
上記線形モデル部から上記第1の観測状態量と同一もしくは異なる所定の第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測値を取得し、その第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、相対的に緩慢な挙動変化を示す第1の非線形系の特性が反映された緩慢変化状態量を生成する緩慢変化再生部と、
上記線形モデル部から取得した上記第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量と、上記緩慢変化再生部で生成された上記緩慢変化状態量とに基づいて、相対的に急激な挙動変化を示す第2の非線形系の特性が反映された変換パラメータを生成して上記状態量変換部に設定する特性生成部とを有するものである非線形特性再現プログラムを記憶してなることを特徴とする。
【0041】
尚、ここでは本発明の第1〜第5の非線形特性再現プログラム記憶媒体について、それぞれ基本的な形態について述べたが、本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体に記憶された非線形特性再現プログラムには、本発明の第1〜第5の非線形特性再現装置の全ての形態を実現する態様が全て含まれる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、製品や部品の非線形な挙動や振る舞いをモデル化して再現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、非線形性および本発明の基本的な考え方に関する説明と、それに続き本発明の実施形態について説明する。
【0044】
非線形性は、この世で実用されているシステム・機械・構造物のすべてに含まれると言っても過言ではないほど、一般的な性質である。
【0045】
例えば、モデルの特性や状態量に関連する非線形には、以下のようなものがあり、その存在場所・発生要因・依存因子・現象や振る舞いは種々雑多であり、全体として捕え所のない扱いにくく厄介な物でもある。
【0046】
1)存在場所については、材料内・部品同士の結合部や接触部・はめあい・軸受け・歯車・電磁石・半導体など、いたる所に存在する。
【0047】
2)発生要因については、物質や媒体と機構や構造に大別され、前者には剛性・減衰・電気抵抗・磁気などの非線形な特性、後者には自在継手・すきま・がた・摩擦などの構造的な非線形が含まれる。
【0048】
3)依存因子については、走行抵抗や空気ばねのように変位・速度・電流・電圧などの状態量に依存するもの、温度や湿度のような環境に依存するもの、揺動機構のように幾何学的構造に依存するもの、がたや開閉器のように構造的な分離・結合に依存するものに分けられる。
【0049】
これらの多岐に渡る非線形については、これまで過去から先人が努力と研究を重ね、解明されている非線形理論やモデルが数多くある。この発明は、この解明された非線形理論やモデルを製品や部品のモデルに融合させる方法を提示するものである。
【0050】
非線形系を含む製品や部品のモデルは、当然のこととして線形と非線形のモデルで構成される。このうち、線形のモデル化は線形理論に基づいてモデル化し、線形代数で扱える数学モデルで表すことが条件になる。これに対し非線形な機能は、これらの線形性を考慮した上で、次の2つの面からモデル化して再現する必要がある。
【0051】
一つは、製品や部品の機構や物理現象などの特徴と細部を機能として明らかして行く過程で、特性・係数・側負荷(パラメータ)の値が線形な定数から状態量の影響を受けた、非線形な振る舞いのモデル化をすることである。この非線形は、系が受ける気圧や温度などの外部環境の影響も対象となる。ここでは、このような非線形を非線形パラメータと呼ぶ。
【0052】
今一つは、圧縮ばねが底付きして剛体になる構造上の非線形や、自動車用クラッチの締結時はエンジンと車体が一体となり、開放時は両者が別々に運動する構造上の非線形など、製品や部品の構造や機構に起因する非線形である。この非線形は、モデル内部の状態量を直接接続・開放して、パラメータやモデル自身を切替えるモデル構造の非線形である。ここでは、この非線形を、構造非線形と呼ぶ。
【0053】
以上から、非線形モデルは、状態量でパラメータ値が変化する非線形パラメータと、状態量を接続・開放してモデル構造を変える構造非線形に集約できる。
【0054】
(非線形のモデル化手法)
(1)機構モデル
非線形のモデル化には、特性の決定過程を部分的にモデル化する機構モデルを組み込み、結果を線形モデルのパラメータに代入することで、モデルの非線形化が実現可能である。非線形パラメータ値を変える機構モデルは、線形のモデルから独立した部分モデルとし、その数学モデルも独立させる必要がある。そして、非線形パラメータは、線形モデル上ではあくまでも線形パラメータとして扱い、線形理論の適用を可能にしておく。また、非線形モデルは、使用目的により精度や再現性が異なるので、同じ非線形でも複数のモデルを使い分ける必要がある。従って、機構モデルは入れ子方式による組み替えを可能にして置く必要がある。
(2)スイッチ要素
構造非線形のモデル化については、モデルの中に状態量の接続・開放操作を行うスイッチの働きをする要素を組み込むことで実現できる。このスイッチ要素は、モデルの状態量を直接操作することから、モデルの性質を決めるパラメータの1つと考えることができる。当然、このスイッチ要素は、線形の数学モデルの中に無単位量の0または1の値を持つ係数と同じ変数として扱われ、値が1の時に状態量を接続し、0の時に開放する働きをする。
【0055】
また、このスイッチ要素は、次の状態量を予測してスイッチを操作する条件判定(式)の機構モデルを必要とする。この判定は、次の標本化時期におけるモデル内部の状態を推定する推定観測量から0又は1の操作量を生成してスイッチ要素を操作(代入)する。この操作によりモデルの実行前に内部接続を組み替えておく。従って、モデルが構造非線形であっても、系全体とその数学モデルは、あくまでも線形として扱える。
(3)非線形を含むモデル
以上から非線形のモデル化手法は、次のようになる。線形モデルには、包含するパラメータに機構モデルを組み込み、非線形な振る舞を行うモデルに変える。このモデルの過渡特性は、連続的に変化する非線形パラメータによって、系の固有値は連続性を持ち、応答も連続的に変化することである。また、スイッチ要素を包含する構造非線形のモデルには、次の状態を予測する機構モデルを組み込み、モデルの構造を非線形にする方法である。このモデルの過渡特性は、スイッチ要素によるモデル構造の接続・開放によって、系の固有値が不連続となり、応答に跳躍現象が現れることである。
【0056】
以上のことから機構モデルは、線形・非線形を問わず全て線形モデルとして、部品から製品および内部の物理現象までモデル化し、精密で再現性の良いモデル化が可能となる。また、機構モデルは、線形理論を適用するモデルから独立するので、統計モデルや回帰モデル・実験式・ファジーモデル・ニュウラルネットワークなど、これまでの製品開発で利用されている多くのモデルが組み込み可能となる。このように非線形のモデル化は、製品・部品に共通する構造・機構や物理現象・支障内容など、過去から解明されて来た非線形理論・工学理論・モデル・蓄積技術などを横断的に適用する汎用性の高いモデル化を可能とする。当然、これらの内容は、全てコンピュ−タ上で実行して再現することが可能である。
(4)パラメータの非線形化
自動車の走行風による損失特性C0は、速度vdの2乗に比例した走行抵抗力fvを持つことが知られている。これを式で表すとfv=C0d2となる。この式を速度vdの積で表すと、fv=Cvdの線形式と速度vdに比例する非線形な損失特性Cv=C0dに分けることができる。この関係は、前者が系全体を線形で表す式、後者が非線形な損失特性を表す式となり、両者は、vdを観測した観測量vi=vdと、CをCvに代入する結合条件式C=Cvで関係付けができる。以上の関係を、機能・機構モデルで表すと図8となる。
【0057】
図1は、走行速度v1・v2と駆動抵抗力f1・f2の入出力状態量に走行風の損失特性Cを持つ機能モデルを表し、この四角い枠に観測量viを入力して非線形損失特性Cvを生成する機構モデルをグラフとモデルで表現している。同図(a)は、速度の観測量viの絶対値に比例する非線形損失特性Cvの関係を、横軸(X軸)を速度vi、縦軸(Y軸)を非線形損失特性Cで表したグラフである。また同図(b)は、同じ内容を図78と図79の記号で非線形損失特性Cvをモデル化して表した例である。この両モデルは、非線形損失特性Cvの機構モデルを除くと、線形の位差損失特性の基本機能要素そのものである。尚、ここでは、推定観測量については触れない、詳しくは後の事例で述べる。
【0058】
図1の機能モデルと機構モデルを組み込む結合条件は、次の数学モデルとなる。
【0059】
【数1】

【0060】
式(1)は、1行目が機能モデルの支配方程式、2行目が観測量の結合条件式、3行目が損失特性を代入する結合条件式である。
機能モデルに組み込む機構モデルは、次の数学モデルとなる。
【0061】
【数2】

【0062】
式(1)1行目の支配方程式には、2行目と3行目の結合条件式を介して、式(2)の非線形パラメータを決定する機構モデルの数学モデルを組み込むことができる。
(5)非線形理論からのモデル化
これまで述べた非線形パラメータのモデル化について更に考察する。図1の例では、式(12)の速度viに比例する非線形損失特性Cvを機構モデルとし、走行風の損失が速度の2乗に比例することを利用して式を分けた。しかし、このような例は、現実の非線形モデルでは少なく、従来から明らかにされている非線形モデルから直接機構モデルに変換する、一般的な方法が望まれる。その考え方としては、計算の実行前に非線形パラメータに加えられる状態量で非線形モデルを除算または微分すれば、機構モデルのモデル化が可能である。例として、図1のモデルをこの方法で表すと、その機構モデルは図2となる。尚、同図下側のタイヤの動摩擦力FTについては、後で説明する。
【0063】
図2の上側に示す枠内の機構モデルは、(a)が数式表現、(b)がモデル表現で、両モデルには、速度vdの次期標本化時期の推定観測量vi_入力されている。図2(a)の走行風抵抗の式fv=C0i_2を一般化して関数fv=fnc(Vi_)で表すと、同図(a)・(b)の走行風抵抗力fvは、次の数学モデルで表せる。
【0064】
【数3】

【0065】
式(3)は、上側が関数で表した走行風抵抗力fvでカッコ内の式が機構モデル、下側が速度vdの推定観測量vi_の式である。推定観測量vi_は、現在の標本化時期の速度をvd(k)と前回の標本化時期の速度vd(k-1)から求めた速度差を使って、次回の標本化時期の速度vd(k+1)を推定する離散系による近時値である。推定速度vi_の絶対値は、非線形損失特性Cの入力速度vdの推定観測量vi_である。式(3)の変換が適用できるのは、特性・係数・側負荷に限られる。また、図2の機構モデルに、複数の状態量が入力されても方法は同じである。
【0066】
図2の機能モデルは、次の数学モデルで表すことが出来る。
【0067】
【数4】

【0068】
式(4)は、上側が支配方程式を示し、下側が機能モデルと機構モデル間の結合条件式である。式(3)の上側で表した関数の機構モデルは、次の数学モデルになる。
【0069】
【数5】

【0070】
(6)構造非線形のモデル化
次に、図2の下側にあるタイヤ動摩擦力FTのモデルは、動摩擦力FT0の側負荷を条件判定SWTが推定観測量vi_から車の停止と走行を予測してスイッチ要素SWTを操作する構造非線形のモデルである。この構造非線形は、速度がvi_=0のときは条件判定SWT=1となりスイッチ要素SWTをOffにして側負荷FT0を開放する、逆に速度がvi_=0のときは接続する。その結果は、タイヤの動摩擦力FTとして走行風抵抗力fv、に加算される。
図2の条件判定式とタイヤの動摩擦力は、次のようになる。
【0071】
【数6】

【0072】
式(6)は、上側が条件判定式、下側がタイヤの動摩擦力で式(4)の上側の式に組み込まれているものと同じである。
【0073】
ここで、式(13)の零速度の判定を例に条件判定の方法を補足しておく。条件判定には、状態量の零値や指定値を設けて判定することが多くある。計算誤差を含む実際のシミュレーションでは、この判定を数学的に判定することは難しく、判定に失敗すると状態量が標本化周期に同期して振動を起こすことがある。例えば式(6)において、計算誤差を避けるために一定範囲内の速度を零としても、標本化周期の変更や加速度の大小によっては振動現象が発生する。これを避ける方法の一つに、現在(k)の速度vd(k)、前回の標本化周期(k−1)との速度差Δvd、次回の標本化時期(K+1)の速度vd(k+1)から、速度零への安定を予測して判定する方法がある。この条件判定を示すと、次のようになる。
【0074】
【数7】

【0075】
式(7)は、上側が前回との速度差、下側が条件判定式である。同式の各変数は、vd(k)が現在の速度、VTHが判定基準値、vd(k-1)が前回の標本化時期の速度、Δvが前回との速度差である。同式の下側のSWTが速度0の判定条件で、条件を満たせばSWT=1となり、その他はSWT=0となる。尚、零速度の判定基準値をVTH=0とすればよい。判定のアルゴリズムは、速度差Δvが判定基準値VTHを現在の速度vd(k)と次の標本化時期の速度Vd(k+1)が跨いだ状態を判定する。すなわち、速度差Δvを判定基準幅にして、現在の速度vd(k)がその範囲内にあることを判定する。従って、速度停止や目標値への収束状態を判定しながらスイッチ要素を操作する条件判定などでは、判定幅を順次減少させながら収束するので、判定基準値と被判定状態量間の残差が少ない収束状態を得ることが可能であり、また、判定値を境に標本化周期に同期して起こる振動を収束させることもできる。
【0076】
また、条件判定には、判定基準値に幅を持たして判定結果を安定にする方法が良く用いられる。式(7)の下側の条件判定に判定基準幅を持たすと、次の式になる。
【0077】
【数8】

【0078】
式(8)は、VSHが判定基準の上限、VSLが判定基準の上限である。その他は式(7)と同じである。同式の判定結果は、速度が判定基準の上限VSH以下(速度上昇)の時に上限値VSH以上になると判定結果をSWT=1とし、速度が判定基準の下限VSL以上(速度下降)の時に下限値VSL以下になると判定結果をSWT=0とする。
(7)不適切なモデル表現
次に非線形パラメータの好ましくないモデル化例について検討する。
【0079】
図3は、図1で示す非線形損失特性Cを機能モデルの状態量で直接非線形にするモデル化例である。このモデルの支配方程式は、次のようになる。
【0080】
【数9】

【0081】
図3の機能モデルは、状態量を直接操作する式(9)となり一般性のない走行抵抗固有の非線形性を表す数学モデルとなり、線形の支配方程式で表現することは困難である。また、非線形性を固有の機能として数多く持つ製品や部品は、この物理現象の練成を直接数学モデルで解くことは不可能に近く、従来の非線形モデルの限界とも考えられる。
【0082】
例えば、式(1)・式(2)と式(9)を比較すると、同一モデルでも式(1)・式(2)は、非線形性の式と線形の式に分かれ、複数の線形式の各状態量を互いに代入して解くことができる。しかし、式(9)の線形式と非線形式が混在した式からは、各非線形式の状態量を互いに代入して解くことは困難である。
【0083】
このように非線形のモデル化には、同じ機能や挙動でも表現する方法が幾通りもあるが、線形モデルに非線形モデルを融合させるには、モデル化に際して制約を受けることが判る。その制約とは、機能モデルとその支配方程式は線形でモデル化し、これに組み込む非線形性は独立した機構モデルに分けてモデル化することが重要となる。この制約を満たさないモデル化には、以下のような問題が発生する。
【0084】
1)複数の非線形を持つ製品や部品を数学的に解くことが困難。
【0085】
2)支配方程式に線形理論が適用出来ない。
【0086】
3)非線形パラメータのモデルを入れ子方式で組み替られない。
【0087】
4)機能モデルと非線形パラメータのモデルが標準化できない。
以上のことから、図10(a)・(b)は、機能モデルとしては不適切なモデル化の例といえる。
【0088】
ただし、図3(a)・(b)の表現法は、これを処理するソウフトウエアー上の配慮があれば、以下のような用法が可能である。
【0089】
1)複雑な系を簡素化し、全体を視覚的に理解する為の系統図や説明図用。
【0090】
2)開発現場で繰り返し使用する機能モデルを簡素化するための表現手段。
【0091】
3)非線形を含む機能モデルやパラメータをシンボル化するための記号。
(8)車両の走行抵抗モデル
次に図2で示す機能モデルは、図1の非線形損失特性Cvに動摩擦力FTの構造非線形モデルを追加して走行抵抗の精度向上を図った例である。図2の非線形損失特性Cvとタイヤの動摩擦力FTは、車の走行性能や燃費などを決める上で重要な走行負荷である。これを更に詳細にすると次式で表すことができる。
【0092】
【数10】

【0093】
式(10)は、ρが空気密度、Cdが空気抵抗係数、Aが前面投影面積、μmがこがり抵抗係数、Wmが車両重量、θが傾斜角である。同式の前の項は走行風による力fv、中の項がタイヤの動摩擦力FT、後の項が重量による登降坂の力を表している。式(10)の前と中の項を式(3)に倣って速度vdの絶対値で整理して、全体を等価非線形損失特性CTとして一つの機構モデルにまとめ、これに車の質量Wm/gを付加した機能・機構モデルは、図4となる。尚、同図の、vdは車の速度、fdは駆動力、fTは走行抵抗力、xmは内部状態量である。
【0094】
図4は、下位に展開された階層化構造を包含関係で表した、等価非線形損失特性CTの機構モデルである。このモデルには、走行風荷重fvとタイヤ動摩擦力FTの位差量を再現する機構モデルが下位に組み込まれ、このfvとFTを加算して上位に統合し式(10)に倣って変換した等価非線形損失特性CTをCに代入する機構モデルとなっている。図4の機構モデルは、上下左右に展開されて体系的にモデル化されていることが判る。
【0095】
図4の機能モデルの支配方程式と結合条件式は、次式となる。
【0096】
【数11】

【0097】
図4の機構モデルは、次の数学モデルで表すことができる。
【0098】
【数12】

【0099】
式(12)は、1行目が次期標本化時期の推定速度vi、2行目が入力された推定速度viを下位機構モデルに分配する結合条件式、3行目が走行風抵抗力fvを再現する式、4行目がタイヤの動摩擦力FTを再現する式、5行目が等価非線形損失特性CTである。同式の変数は、viが速度vdの観測量、SWTが式(6)の上側の条件判定、vivが下位に展開された走行風抵抗の機構モデルに入力される速度、viTが下位に展開されたタイヤ摩擦抵抗の機構モデルに入力される速度である。
【0100】
図4で示すように機構モデルは、スイッチ要素を含む構造非線形も含めて、1個の機構モデルにまとめることができる。これは、同一機能の非線形であれば、これを1つの系と見なして、全体から細部まで垂直展開して体系化できることを示している。
【0101】
以下、本発明の実施形態について説明する。
以下の実施形態は、コンピュータと、そのコンピュータを本発明の一実施形態としての非線形特性再現装置として動作させるためのプログラムとから構成されており、以下先ずコンピュータ自体について説明し、次いで、そのコンピュータに実現された本発明の実施形態としての非線形特性再現装置の機能について説明する。
【0102】
図5は、本発明の実施形態としての非線形特性再現装置が実現されたコンピュータの外観斜視図である。
【0103】
コンピュータ10は、CPU、主記憶装置、ハードディスク、通信用ボード等が内蔵された本体部11、本体部11からの指示により表示画面12a上に画像や文字列を表示する表示部12、コンピュータ10にユーザの指示を入力するためのキーボード13、表示画面12a上の任意の位置を指定することにより、その指定時にその位置に表示されていたアイコン等に応じた指示を入力するマウス14を備えている。
【0104】
また、各コンピュータ10の本体部11には、さらに外観上、フロッピィディスク、CDROM(図5には図示せず:図6参照)が装填されるFD装填口11a;CDROM装填口11bを有しており、それらの内部には、それらの装填口11a,11bから装填されたフロッピィディスクやCDROMをドライブしてアクセスする、フロッピィディスクドライブ、CDROMドライブも内蔵されている。
【0105】
ここでは、コンピュータ10に装填されるCDROMに本発明にいう非線形特性再現プログラムが記憶されており、このCDROMがCDROM装填口11bから本体部11内に装填され、CDROMドライバによりそのCDROMに記憶された非線形特性再現プログラムがコンピュータ10のハードディスク内にインストールされる。このコンピュータ10のハードディスク内にインストールされた非線形特性再現プログラムが起動されると、コンピュータ10は、本発明の非線形特性再現装置の一実施形態として動作する。
【0106】
従って、非線形特性再現プログラムが記憶されたCDROMは、本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態に相当する。
【0107】
また、このCDROMに記憶された非線形特性再現プログラムは、上記のようにしてコンピュータ10のハードディスク内にインストールされるが、その非線形特性再現プログラムがインストールされた状態のハードディスクも、本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態に相当する。
【0108】
さらに、その非線形特性再現プログラムがフロッピィディスク等にダウンロードされるときは、そのダウンロードされた非線形特性再現プログラムを記憶した状態にあるフロッピィディスク等も、本発明の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態に相当する。
【0109】
図6は、図5に示すコンピュータのハードウェア構成図である。
【0110】
ここには、中央演算処理装置(CPU)111、RAM112、ハードディスクコントローラ113、フロッピィディスクドライブ114、CDROMドライブ115、マウスコントローラ116、キーボードコントローラ117、およびディスプレイコントローラ118が備えられており、それらはバス110で相互に接続されている。
【0111】
フロッピィディスクドライブ114、CDROMドライブ115は、図5を参照して説明したように、フロッピィディスク51、CDROM520が装填され、装填されたフロッピィディスク51、CDROM52をアクセスするものである。
【0112】
また、ここには、ハードディスクコントローラ113によりアクセスされるハードディスク53、マウスコントローラ116により制御されるマウス14、キーボードコントローラ117により制御されるキーボード13、およびディスプレイコントローラ118により制御される表示部12も示されている。
【0113】
図7〜図11は、記憶媒体に記憶された非線形特性再現プログラムの構成を示す概要図である。
【0114】
これら図7〜図11において、各記憶媒体200,300,400,500,600は、いずれも、前述したCDROMやハードディスク、フロッピィディスク等を代表的に示すものである。
【0115】
図7は、本発明の第1の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態を示すものであり、この記憶媒体200には、状態量変換部220と非線形特性再生部230とを有する非線形特性再現プログラム210が記憶されている。この非線形特性再現プログラム210は、コンピュータを、所定の第1の状態量を入力し入力された第1の状態量に非線形変換処理を施すことにより第2の状態量を生成して出力する非線形特性再現装置として動作させるものである。
【0116】
ここで、状態量変換部220は、設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に、各標本化時期ごとに線形変換するものであり、また非線形特性再生部230は、上記第1の状態量および上記第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量に基づいて、次期標本化時期における変換のための変換パラメータを求め、求めた変換パラメータを、状態量変換部220に設定するものである。また、非線形特性再生部230は、上記推定観測量を入力するとともに1つ以上の変数を入力し、これら入力された推定観測量および1つ以上の変数に基づいて、変換パラメータを求める場合もある。
【0117】
この非線形特性再生部230では、具体的には、次期標本化時期における第2の状態量の推定値が上記推定観測量で規格化されてなる規格化推定値が、変換パラメータとして求められ、さらに具体的には、この非線形特性再生部230では、次期標本化時期における第2の状態量の推定値が上記推定観測量の絶対値で除算又は微分され、これにより、上記変換パラメータとしての推定観測量が求められる。
【0118】
この非線形特性再現プログラム200は、後述するように、例えば非線形バネの特性の再現、空気バネの特性の再現、リンク機構の特性の再現、摩擦を伴って移動する物体の特性の再現、および角速度に応じて慣性モーメントが変化する可変換性モーメント機構の特性の再現などに好適に用いられる。
【0119】
図8は、本発明の第2の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態を示すものであり、この記憶媒体300には、線形モデル部320と非線形モデル部330とを有する非線形特性再現プログラム310が記憶されている。この非線形特性再現プログラム310を構成する非線形モデル部330は、その形態に応じた数の非線形変換部331a,331b,…,331nを有する。この非線形変換部はその態様に応じては1つのみの場合もあるが、図8には一般的に複数の非線形変換部が示されている。
【0120】
この非線形特性再現プログラム310は、コンピュータを、非線形系を含む系の特性を再現する非線形特性再現装置として動作させるものであり、線形モデル部320は線形系の特性を再現する部分、非線形モデル部330は、線形モデル部320から、相互に非線形変換の関係にある第1の状態量および第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量を取得して、上記第1の状態量と上記第2の状態量との間の、次期標本化時期における線形変換に用いられる変換パラメータを求めるものである。非線形モデル部330における次期標本化時期の変換パラメータを求める演算と、線形モデル部320における、前記非線形モデル部330で求められた次期標本化時期の変換パラメータを用いた第1の状態量と第2の状態量との間の線形変換を含む線形演算は、交互に繰り返される。
【0121】
非線形モデル部330を構成する非線形変換部331a,331b,…,331nは相互に非線形変換の関係にあるとともに少なくとも一方の状態量の種類が異なる第1の状態量および第2の状態量を取り扱う部分であって、非線形変換部331a,331b,…,331nのそれぞれは、その非線形変換部で取り扱われる第1の状態量および第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいはその状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量を取得して、それら第1の状態量と第2の状態量の間の、次期標本化時期における線形変換に用いられる変換パラメータを求めるものである。
【0122】
この非線形特性再現プログラム310は、後述するように、例えばゼネバ機構の特性の再現や、ランプとサーミスタとが直列に接続された液体残量警告灯の特性の再現等に好適に用いられる。
【0123】
図9は、本発明の第3の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態を示すものであり、この記憶媒体400には、論理判定部420と状態量切替部430とを有する非線形特性再現プログラム410が記憶されている。この非線形特性再現プログラムは、コンピュータを、非線形系を含む系の特性を再現する非線形特性再現装置として動作させるものである。
【0124】
論理判定部420には、1つ以上の変数が入力され、この論理判定部420では、入力された1つ以上の変数に基づいて、複数の離散的な値の中から選択される、次期標本化時期における論理値が求められる。
【0125】
また、状態量切替部430には、所定の入力状態量が入力され、この状態量切替部430では、次期標本化時期において、入力状態量と出力状態量との関係が論理判定部420で求められた次期標本化時期における論理値に応じた関係に切り替えられてなる出力状態量が出力される。
【0126】
ここで状態量切替部430は、その態様によっては、次期標本化時期において、入力状態量と出力状態量との接続関係が論理判定部420で求められた次期標本化時期における論理値に応じた接続関係に切り替えられてなる出力状態量を出力するものであり、あるいは、状態量切替部430は、その態様によっては、入力状態量を積分して出力状態量として出力するものであって、論理判定部420で求められた次期標本化時期における論理値が所定の論理値であった場合に、その次期標本化時期において、初期値に切り替えられてなる出力状態量を出力するものである。
【0127】
また、その態様によっては、前記論理判定部420では、複数の入力状態量の次期標本化時期における推定観測量に基づいて、複数の離散的な値の中から選択される次期標本化時期における論理値が求められ、状態量切替部430では、上記複数の入力状態量を入力して、次期標本化時期において、論理判定部420で求められた次期標本化時期における論理値に応じて選択された入力状態量が出力状態量として出力される。
【0128】
この非線形特性再現プログラム410は、後述するように、例えば相対移動可能状態と相対移動不能状態とを有する2つの部材を含む機構の特性の再現、相対的に滑った滑り状態と相互に接続された接続状態とを有する2つの部材を含むクラッチ機構の特性の再現、駆動軸に制動エネルギーを加えるブレーキ機構の特性の再現、および可動部材にバネを作用させて該可動部材への外力の付加が解除されたときに該可動部材が該バネの作用により初期状態に自動復帰するとともに該可動部材の可動範囲を制限するストッパが設けられてなる自動復帰機構の特性の再現等に好適に適用される。
【0129】
図10は、本発明の第4の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態を示すものであり、この記憶媒体500には、状態変動推定部520、状態偏差検出部530、安定状態判定部540、および状態量切替部550を有する非線形特性再現プログラム510が記憶されている。
【0130】
この非線形特性再現プログラムは、コンピュータを、所定の第1の状態量を入力し、入力した第1の状態量が所定状態にあるか否かに応じて非線形に切り替えられた第2の状態量を出力する非線形特性再現装置として動作させるものである。
【0131】
ここで、状態変動推定部520では、上記第1の状態量の、現在の標本化時期から次期標本化時期に至る間の状態量変動幅の予測が行なわれ、
状態偏差検出部530では、上記第1の状態量の、現在の標本化時期における値と、その第1の状態量が所定状態にあるか否かを判定するための判定値との偏差が求められ、
安定状態判定部540では、状態変動推定部520で予測された状態量変動幅と状態偏差検出部530で求められた偏差との大小に基づいて次期標本化時期における非線形変化を予測した、複数の離散的な値の中から選択される論理値が求められ、
状態量切替部550では、安定状態判定部540で求められた論理値に基づいて切り替えられた第2の状態量が出力される。
【0132】
ここで、その具体的態様によっては、状態偏差検出部530では、上記第1の状態量の現在の標本化時期における値と、その第1の状態量が所定の状態にあるか否かを判定するための、状態変動推定部520で予測された状態量変動幅の正負に応じて異なる判定値との偏差が求められる。
【0133】
図11は、本発明の第5の非線形特性再現プログラム記憶媒体の一実施形態を示すものであり、この記憶媒体600には、線形モデル部620と非線形モデル部630と有する非線形特性再現プログラム610が記憶されている。この非線形特性再現プログラム610は、コンピュータを、非線形系を含む系の特性を再現する非線形特性再現装置として動作させるものである。
【0134】
線形モデル部620は、線形系の特性を再現するものであり、この線形モデル部620には、設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に線形変換する状態量変換部621が含まれている。
【0135】
また、非線形モデル部630は、線形モデル部620から、所定の第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量を取得しその推定観測量に基づいて変換パラメータを生成して状態量変換部621に設定するものであり、この非線形モデル部630は、緩慢変化再生部631と特性生成部632とからなり、本実施形態ではさらに、緩慢変化再生部631は、定常値設定部631aと正規化応答部631bとからなる。
【0136】
緩慢変化再生部631では、線形モデル部620から上記第1の観測状態量と同一もしくは異なる所定の第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測値が取得され、その第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、相対的に緩慢な挙動変化を示す第1の非線形系の特性が反映された緩慢変化状態量が生成される。
【0137】
この緩慢変化再生部631のうち、定常値設定部631aでは、上記第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、上記緩慢変化状態量の、線形モデル部620の状態が現状のまま継続したとした場合の無限時間経過後の定常値が求められ、正規化応答部631bでは、定常値設定部631aで求められた緩慢変化状態量の定常値と、既知の、第1の非線形系における緩慢変化状態量の正規化された時間変化特性とに基づいて、その第1の非線形系の特性が反映された、特性生成部632に渡す緩慢変化状態量が生成される。
【0138】
また、特性生成部632では、線形モデル部620から取得した上記第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量と、緩慢変化再生部631で生成された緩慢変化状態量とに基づいて、相対的に急激な挙動変化を示す第2の非線形系の特性が反映された変換パラメータが生成されて状態量変換部621に設定される。
【0139】
この非線形特性再現プログラム610は、例えば温度変化に応じて抵抗値が変化する素子を有する系の特性の再現等に好適に用いられる。
【0140】
次に、図5に示すコンピュータに、図7〜図11に示す非線形特性再現プログラムがインストールされることによりそのコンピュータ内に実現された、本発明の非線形特性再現装置としての各種の機能について説明する。
【0141】
尚、以下において説明する機能ブロックでは、図7〜図11に示したソフトウェア上の各機能ブロック(ソフトウェア部品)と同一の名称が使われているが、以下に説明する非線形特性再現装置としての機能ブロックは、その機能を実現するためのソフトウェア上の機能ブロックとハードウェア上の構成要素との複合を指し、図7〜図11に示したソフトウェア上の機能ブロックは、その機能を実現する要素のうちの、ハードウェアやOS(オペレーションシステム)などを除いたソフトウェア(アプリケーションソフトウェア)を指している。
【0142】
図12は、本発明の第1の非線形特性再現装置の原理的な一実施形態を示す説明図である。尚、この図12は、本発明の第1の非線形特性再現装置の原理を解り易く説明するための図であり、本発明の第1の非線形特性再現装置は、この図12およびその図12の説明に限定されるものではない。
【0143】
図12の右側は、状態変換部Rが抵抗係数・電気容量・質量・リンク伝達係数などの特性値、入出力状態量v・fが電圧・速度・力・電流・などの状態量である。この状態変換部Rは、入力状態量vを出力状態量fに変換する。また、同図の右側の非線形特性再生部には、状態量変換部に加えられている入力状態量vの次期標本化時期における推定観測量v_(白抜きの半円記号)と、その他の外部状態量v1・f1や外部信号S1が入力される。これらの入力状態量によって非線形特性再生部内部には、次期標本化時期の出力状態量の推定値f_=(v_,v1,S1,f1)が生成される。この出力状態量f_を前記の推定観測量v_で除算又は微分して、次期標本化時期における状態変換部の特性Rpの予測値を生成する。このRpを状態変換部Rに代入(点線の矢印)した後に、状態量変換部が組み込まれた全系モデルの計算を実行する。この操作を標本化時期毎に繰り返し実行することで、製品や部品の非線形な物理現象や振る舞いを時刻暦データとして再現できる。
(事例説明)
1.流動蓄積要素(円錐バネ)
(1)機能モデル
図13は、線形の流動蓄積要素(基本機能要素)に、変形量と共に変化するバネのこわさをグラフ表現した機構モデルの例である。同図は、速度v1とv2・外力f1とf2・内部状態量xの線形機能モデルである。また、viはバネの変形速度差を示す。また、同図に組み込まれている機構モデルは、バネのこわさKdが変形量δの関数になっていることを示すグラフである。このグラフにより線形のバネから非線形バネまで表すことができる。尚、図中のδ0はオフセット荷重を生成する撓み量である。
【0144】
図13の流動蓄積特性は、下記の支配方程式と結合条件式で表わすことができる。
【0145】
【数13】

【0146】
図13のバネのこわさの機構モデルは、下記の数学モデルで表すことができる。
【0147】
【数14】

【0148】
式(14)は、1行目が速度差を積分したバネの撓みδを表し、2行目にfnc(a)が非線形バネのこわさKdを決める関数である。
(2)機構モデル(非線形バネモデル)
非線形バネの代表的な例に、円錐バネがある。図14(a)に等ピッチに巻かれた円錐バネの構造を示し、同図(b)は撓みδと荷重Fの関係を表すグラフである。図中の記号は、H0が自由長、R1が小さい側の有効半径、R2が大きい側の有効半径、dがコイルの径、Pがコイルのピッチを表している。またバネは、自由長の巻数をn、横弾性係数をGとする。
【0149】
図14(a)において円錐バネは、径の大きい側のねじりモーメントが大きく撓み易いことから、コイル同士の接触が径の大きい側から順次始まる。同図(b)において、バネ特性としては、接触前の0〜A間では撓みδと荷重Fの関係が比例し、接触後のA〜B間では有効巻数が減少して撓みδに対する荷重Fが増加する。最後にB点では小さい径側が接触して底突きを起こし剛体となる。
【0150】
この円錐バネについては、良く知られているので参考文献から関係式を引用する。荷重Fと撓みδには、次の関係がある。
<接触前のバネ荷重と撓み(線形域)>
【0151】
【数15】

【0152】
<接触後のバネ荷重と撓み(非線形域)>
【0153】
【数16】

【0154】
式(16)は接触後の非線形域を表し、1行目がR2側からn’番目のコイルが接触した時の平均半径Rの近似式、2行目が接触したコイル間の上下方向の中心距離d’、3と4行目が荷重Fと撓みδの関係を表す。式(15)・式(16)の円錐バネの式から図13に組み込む機構モデルについて、モデル化を行う。
【0155】
式(16)の各式を整理して式(15)の線形式を荷重比Φで非線形化する式は、次のようになる。
【0156】
【数17】

【0157】
【数18】

【0158】
【数19】

【0159】
式(17)は円錐バネの荷重−撓み特性を表す式である。線形域のバネのこわさKは、式(18)のRがR2となり、同式の荷重比がΦ=1となる。また、非線形域では、式(16)の1行目から接触するコイル毎に順次有効半径Rを求め、これを式(18)と(19)のRに代入して求める。この方法で求めた荷重Fと撓みδの関係は、事前に計算しておき、推定速度vd_を積分した撓みδ検索して求めたバネのこわさKdを機能モデルのKに代入する。この関係を表した機能・機構モデルを図15に示す。
【0160】
図15は、図13の機能モデルに円錐バネの機構モデルを組み替えたものであり、式(14)の2行目の関数がが撓みδからバネのこわさKを検索する関数に置き換わる。
【0161】
2.空気ばねのモデル化例
流体系の例として、図16に示す自動車用エンジンの圧縮・膨張工程を模擬した空気圧シリンダのモデル化を行う。尚、圧縮・膨張に伴う内部エネルギー(温度エネルギー)のモデル化は省略する。
【0162】
図16は、p0が大気圧・Sがシリンダ断面積を表し、Mがピストン質量、Cが粘性抵抗係数、Kが空気ばね剛性、Dが内部減衰係数、fがピストン外力、vがピストン速度、Pがシリンダー内圧、Vがシリンダー容積である。同図は、ピストンには、外力fの作用して、ピストン速度vとこれに伴うシリンダ容積変化ΔVpが生じ、シリンダ内圧pを発生する。このシリンダ内圧pは、空気ばねの剛性Kとしてピストンの反力として作用する。また、この内圧上昇は、シリンダ内の温度上昇を招き熱膨張した体積増加成分が内圧上昇成分の一部となる。この温度上昇は、内部減衰係数Dによって放熱されて、熱膨張した体積増加成分を減少させる働きをする。また、シリンダーの断熱と放熱は内部減衰係数Dが行なう。尚、シリンダー容積の初期状態は、内圧pが大気圧p0と等しい状態のシリンダ容積V0をとする。
(1)機能モデル
この関係をまとめたピストンの圧縮・膨張工程は、図17で示す機能モデルとなる。シリンダーの断熱と放熱は、内部減衰係数Dが行う。図17の機能モデル派、流動蓄積要素(基本機能要素)に空気バネの機構モデルが組み込まれたものである。尚、温度上昇の機構モデルは省略する。
【0163】
図17は、Pがシリンダー内圧の観測量、VP_の2重の積分記号がピストン移動距離xaaのシリンダー容積(推定累積観測量)を求める。
【0164】
図17の支配方程式・結合条件・推定観測量は、上から順に次式となる。
【0165】
【数20】

【0166】
式(20)の上側は、1〜2行目が状態方程式、3行目が蓄積観測量の状態方程式でxaaがピストン移動距離(蓄積位差量)、4行目が入出力方程式、5行目がシリンダー圧力の観測量pの式を表す。下側は、機構モデルと接続する結合条件式で、Ksが機構モデル側の空気ばね剛性、同様にVi_がピストン移動距離の体積である。
(2)機構モデル(空気ばねモデル)
図17の機構モデルについてモデル化すると、以下のようになる。
【0167】
まず、同図のピストンの移動量で決まるシリンダー容積Vは、次のようになる。
【0168】
【数21】

【0169】
式(21)は、上側が容積変化の推定蓄積観測量、下側がシリンダーの体積の推定観測量である。尚、tsmpは標本化周期である。
【0170】
次に、圧縮前の状態から圧縮された状態の圧力pと容積Vの関係をポリトローブ変化として表すと次式となる。式中のnは、指数である。
【0171】
【数22】

【0172】
式中のポリトローブ変化を決める指数nは、以下の値にすることで空気バネ剛性Ksが多様に変換する。
【0173】
n = 0: 等圧変化
1: 等温変化
κ: 断熱変化(κは比熱比)
∞: 等容変化
式(22)を変換した非線形パラメータは、次式のようになる。
【0174】
【数23】

【0175】
式(23)は、上側がシリンダ圧力変動Δpと容積変化ΔVp_の関係を空気バネ剛性Kで表わした線形式、下側が式(22)から容積Vにおける空気バネ剛性Kの非線形式である。この両式によってモデルは、線形と非線形を分離して互いが独立した関係となる。
【0176】
空気バネ剛性Kは、式(23)を体積変化で微分して求めることができる。数値計算としては、同式を直接使用する方法、テーラー展開する方法などがあり、前者はPとP間の圧力変化が少ないときの便法で、後者は変動が大きいときの近似式に適する。前者について、現在を(k)とし次期標本化時期を(k+1)とする離散化式で表すと、式(23)は次のようになる。
【0177】
【数24】

【0178】
式(24)は、V(k+1)が推定容積、ΔVp(k+1)_が容積変化である。同式をテーラ展開した式は、次のようになる。
【0179】
【数25】

【0180】
ここで、jは展開の次数で0・1・2・3…とする。
【0181】
(3) シミュレーション結果
図17の機能モデルを表1の各特性値で行ったシミュレーション結果を、図18と図19に示す。尚、空気のバネ剛性Kは、式(25)を適用した。
【0182】
【表1】

【0183】
図18は各状態量の時刻暦変化を示し、図19はシリンダー容積Vに対する圧力pと速度vの関係を表すP−V線図とv−V線図である。両式は、実線が内部減衰係数をD=0とした断熱状態、点線がD=3×10[N/(m/sec)]とした放熱状態である。シミュレーションは、3000[N]の外力fをステップ状に与えた結果で、非線形減衰振動が収束する過程について行った。図18は、一番上側がシリンダーの内圧p[pa]、次がピストン速度v[m/sec]、一番下がシリンダー容積V[m]の応答特性を表す。各特性に共通して、空気のバネ剛性K[p/m]の非線形性により減衰振動波形に歪みがあることが判る。また、放熱状態では、シリンダー容積V[m]から熱収縮による体積変化が現れている。
【0184】
図19の上側は、シリンダ容積V[m]とピストン速度v[m/sec]の収束過程の関係を表し、渦巻状に収束した中心が定常状態である。下側は、シリンダ容積V[m]とシリンダー内圧p[p]の関係を表わし、空気のバネ剛性Kが非線形特性であることを表す。また、放熱状態では、圧力に関係無く熱収縮による体積変化を起こすことが判る。
【0185】
3.係数要素(揺動機構)
非線形係数要素の代表例として、リンク機構がある。この非線形係数のモデル化は、係数要素(基本機能要素)の係数を非線形にする機構モデルの組み込みで実現できる。そのモデル化の例として図20に示す回転運動を揺動運動に変換する揺動機構について検討する。
【0186】
図20は、回転節A1と揺動節A2から成る揺動機構の構造モデルである。ここで、Rは節長(半径)・θは回転角・fは連結点の作用力・vは連結点の速度・Tはトルク・ωは角速度である。添字1と2は、それぞれの回転節と揺動節を意味する。L0は回転中心間の距離である。また、R1は一定であるが、R2は運動と共に変化する。尚、両節は剛体とし、慣性モーメントと回転抵抗は無視する。
(1)機能モデル
モデル化にあたり、基本機能要素の係数を非線形伝達係数Φとする機能モデルは、次式となる。
【0187】
【数26】

【0188】
次に式(26)の非線形伝達係数Φに組み込む機構モデルのモデル化を行う。揺動機構の機構モデルは、その係数を決定する回転角を回転節A1の回転角θ1または揺動節A2の回転角θ2にするかで非線形伝達係数Φが異なり、回転角θ1・θ2に対応した非線形伝達係数Φa・Φbは互いに逆数関係となる。
(2)機構モデル1(回転節入力の揺動モデル)
まず図21は、揺動節A2の角速度ω2で非線形伝達係数Φaを決める機構モデルが組み込まれた機能モデルである。尚、機構モデルのω_は推定角速度、θ2_は推定角度である。
【0189】
図21の支配方程式と結合条件式は、次式となる。
【0190】
【数27】

【0191】
図21の非線形伝達係数Φaは、次のようになる。
【0192】
【数28】

【0193】
式(28)は、上側が揺動節A2の推定回転角θ2_、下側が非線形伝達係数Φaである。尚、同式の下側は、全てのパラメータが形状を表すので、図21では形状モデルの8角形の枠となっている。また、式(28)の右辺分母が0の時は、揺動節A2が最大揺動回転角θ2_maxとなり非線形伝達係数Φaは∞となる。この最大揺動回転角θ2_maxは次式となる。
【0194】
【数29】

【0195】
尚、この時の揺動節長R2は次式となり、上側が回転節A1の回転角θ1・下側が揺動節の回転角θ2で表した式となる。
【0196】
【数30】

【0197】
式(28)・(30)は、図20で示す機構の幾何学的関係と連結点の荷重と速度ベクトルから、簡単に導くことができる。
(3)機構モデル2(揺動節入力の揺動モデル)
次に、回転節A1の角速度ω1を観測量にする非線形伝達係数Φbを組み込んだ機能モデルを図22に示す。尚、同図は、図21と双対関係となる。図22は、駆動側の回転節A1に慣性モーメントJを、負荷側の揺動節A2に抵抗係数Cの付加機能を接続している。また外部からはトルクTiを慣性モーメントJに与えて角速度ωiを出力している。
【0198】
図22の機能モデルは、次の支配方程式と結合条件式で表すことができる。
【0199】
【数31】

【0200】
式(31)は、1〜2行目が状態方程式と入出力方程式、3〜4行目が観測方程式、5〜6行目が回転角θ1を推定観測方程式である。尚、式中のx’BBとxBBは、角速度ω1の内部蓄積観測量である。図42の非線形伝達係数Φbの機構モデルは、次式となる。
【0201】
【数32】

【0202】
式(32)の下側は、式(28)と同様に形状モデルである。
(4)シミュレーション結果
次に、図22の機能モデルに表2の揺動機構の特性値を与えた時のシミュレーション結果を、図23と図24に示す。
【0203】
【表2】

【0204】
図23は、外部から0.05[Nm]のトルクTiをステップ状に加えた時の各状態量の応答特性で、上側が回転節の角速度ω1[rad/sec]、次が揺動節の角速度ω2[rad/sec]、最後が揺動節のトルクT2[Nm]である。各状態量とも、非線形係数Φbによって歪みを持った波形となっている。
【0205】
図24は、非線形係数Φbの角度に対する伝達特性の線図で、図23の状態量の歪みは、この線図が示す伝達特性によって決定されている。図中の矢印は、回転節A1が反時計方向に回転した時の非線形伝達係数Φbの変化方向を表しており、当然、時計方向の回転では矢印が逆方向になる。
4.摩擦のモデル化例
非線形な側負荷の代表的な例に摩擦がある。質量Mに摩擦力Fvが作用する摩擦の機構モデルを図25で示す。図25は、外力f1・f2が摩擦力Fvを受けながら面上を速度v1・v2で移動する質量Mの構造モデルを示す。この摩擦力Fvは、定数となる静摩擦力Fsと速度の関数となる動摩擦力FMから成り立つものとする。
(1)機能モデル
図26は、位差蓄積要素の質量Mに摩擦力を発生する側負荷Fvを加えた機能モデルとして表されている。そして、この側負荷Fvには、摩擦力を生成する機構モデルが組み込まれている。図26の機構モデルは、質量Mの速度(内部状態量x)と加速力faの推定観測量から生成した摩擦力Ffを生成する。また、出力速度v2側には、坑力f2を発生する抵抗係数Cを負荷として追加している。
【0206】
図26から求めた機能モデルの支配方程式と結合条件式は、次のようになる。
【0207】
【数33】

【0208】
式(33)は上から順に、1行目が支配方程式、2行目が入出力方程式、3〜4行目が抵抗係数の坑力f2と加速力fa_の推定観測方程式である。同式下側の結合条件式は、1行目が速度の観測量、2行目が質量に加わる推定加速力、3行目が摩擦力である。
【0209】
図26の機構モデルは、下側が静摩擦力Fsを生成するモデル、上側中央が動摩擦力FMを生成するモデル、左端が静摩擦力Fsと動摩擦力FMを切替えて代入量Ffを出力するモデルである。右端には、速度に依存する動摩擦力FMの特性がグラフ表現で組み込まれ、動摩擦力FMが速度vに無関係に一定値となる場合は、グラフは不要となる。また、この摩擦特性のグラフは、高い静摩擦力から低い動摩擦力に変化することを示し、摩擦面のステック現象や微速度領域の摩擦変化を負抵抗と見なした振動現象が再現できる。
(2)機構モデル(摩擦モデル)
静摩擦力Fsと動摩擦力FMの切り替えは、速度vの判定条件Swvによって切り替える。切り替えは、Swv=0を停止状態として静摩擦力Fsを選択し、Swv=1を移動状態として動摩擦力FMを選択する。機構モデルは、次式となる。
【0210】
【数34】

【0211】
式(34)2行目は、FMiが動摩擦力、FMとFsiが静摩擦力、Fsとvsが速度vである。また、スイッチ変数の添え字0と1は、切替スイッチのNOスイッチ側とNCスイッチ側を示す。式(34)の上側の判定条件式を零速度に収束させる判定法で表すと次のようになる。
【0212】
【数35】

【0213】
式(35)は、vS(k)が現在の速度、vS(k-1)が標本化周期1つ前の速度、Δvがこれから求めた速度変化幅である。条件判定SWVの判定結果は、式(34)と同じである。
【0214】
次に、静摩擦力Fsを生成する数学モデルを導く。静摩擦力Fsには、2つの振る舞いがあり、一つは加速力fsが静摩擦力Fs以下の時には、静摩擦力Fsに釣り合った静摩擦力Fsを反力として質量Mに与えて停止状態にしておくこと。今一つは静摩擦力Fs以上の加速力fsが加えられた瞬間、動摩擦力FMに切替え質量Mを起動させることである。この瞬間は、質量Mが停止状態なので動摩擦力FMの方向(符号)は加速力fsと同一方向(符号)とし、質量Mへは側負荷Fvを負の値にして反力にする。この両者の切り替えは、加速力fsと側負荷Fs0の差Yf=|fs|−Fs0の条件判定SWYで操作する。切り替えは、停止の釣り合い状態をSWY=0として加速力fs側を選択し、動く瞬間をSWY=1として静摩擦力の側負荷FS0側を選択する。この機構モデルは、次式となる。
【0215】
【数36】

【0216】
式(36)2行目の加速力fsを|fs|で除算しているのは、摩擦の方向(符号)を決める。最後に動摩擦FMを生成する機構モデルについてモデル化する。動摩擦力FMは、動摩擦力の側負荷FM0に速度vvの符号を加えて生成する。この機構モデルは、次のような式になる。
【0217】
【数37】

【0218】
式(36)の静摩擦力FS0と式(37)の動摩擦力FM0は、速度vによるグラフ検索で求めるソフトウエアーまたは数学モデルを必要とする。
【0219】
以上の各機構モデルは、次の結合条件式で結合する。
【0220】
【数38】

【0221】
(3)シミュレーション結果
図26の機能モデルを表3で示す各特性値で行ったシミュレーション結果を図27に示す。尚、速度v=0の判定は式(35)で行い、動摩擦力FM0は一定値とした。
【0222】
【表3】

【0223】
シミュレーションは、単位時間当たり0.5[N/sec]で上昇する外力fを1[N]まで与え、4[sec]からは同じ変化率で逆に−1[N]までの外力を与えて、10[sec]で外力を除いた。図27は、一番上が外力f1[N]、2番目が速度v1、3番目が側負荷で与えた摩擦力Fv[N]・4番目が抵抗係数Cの坑力f2である。尚、摩擦力Fvと坑力f2は、観測量である。
【0224】
図27において、外力f1をゆっくり加えると静摩擦力Fvが発生して外力f1を打ち消し質量Mが動かない。1[sec]の点から、外力f1が摩擦力Fvを上回り質量Mが動き始め一定の動摩擦力Fvが発生して定常状態に達する。4[sec]の点からは外力f1をゆっくり低下させ、6[sec]前後で再び静摩擦力Fvが発生し一旦質量Mは停止する。更に、逆方向に外力f1を加えると、質量Mは逆方向に動き始め動摩擦力Fvが発生する。最後に、外力f1を除くと、質量Mは速度v1を低下させて停止する。停止の際は、質量Mの慣性力による速度が抵抗係数Cを介して坑力f2として現われ、これに対する静摩擦力Fvが発生し、しばらくして停止する。停止後は、摩擦力Fvが無くなる。
5.位差蓄積要素(可変慣性モーメント)
慣性モーメントが非線形になる機構として、遠心ガバナーおよび遠心クラッチなどの機械要素がある。図28は、このような機構要素の例を表した図である。
【0225】
図28は、図示方向を正回転とするトルクT1が作用して角速度ω1を発生している。同図の回転系は、移動可能な可動質量Mmが遠心力を受けて並進する系を組み合わせた構造モデルである。この可動質量Mmは、半径Rmの円周上を回転し、遠心力Feが作用して外側に速度Veで移動する機構となっている。この回転系は、トルクT1を受けて角速度ω1回転するとき、可動質量Mmの円周方向の速度をVm・円周方向の慣性力をFmとする。可動質量Mmの回転半径Rmの下限(停止位置)はR0である。並進系は、可動質量Mmが回転することにより遠心力Feが生じ、バネのこわさKmに抗して粘性抵抗係数Cmの抵抗力を受けながら、速度VeでLmだけ移動して回転半径Rmになる。この回転半径Rmの変化は、回転系の慣性モーメントJを変化させる。可動質量Mmは半径RSまで移動すると剛性KSのストッパーに接触し、移動しなくなる。尚、可動質量Mmを除く支持腕の慣性モーメントをJとし、バネのこわさKmは質量を有しないものとする。尚、停止位置R0の剛性は考慮しない。
(1)機能モデル
この可変慣性モーメント機構の特徴は、質量Mが遠心力Feによって慣性モーメントJを変化させることである。従って、機能モデルの基本構成は、位差蓄積要素(基本機能要素)の慣性モーメントJに、回転系の推定角速度ω1_の観測量による遠心力Feで移動した可動質量Mmの移動距離Lmの変動分を加えた慣性モーメントJmを代入する機構モデルを有する。そして、遠心力Feにより移動する可動質量Mmの機能モデルが、この機構モデルの中に包含される。この関係を表した回転軸の機能・機構モデルを、図29に示す。尚、図29には、位差蓄積要素の基本要素に粘性抵抗係数Cが追加されている。また、図中の質量Mmの出力位差系には、移動速度Vmの位差量と回転半径Rmの蓄積位差量が包含されている。
【0226】
図29で示す機能モデルの支配方程式と結合条件は以下のようになる。
【0227】
【数39】

【0228】
(2)機構モデル(遠心力モデル)
図29の機構モデルは、回転系と並進系を結合する回転並進変換、可動質量Mmの並進運動、可動質量Mmの回転半径Rmを決める、可動質量Mmのストッパーの機能で構成されている。
【0229】
まず、回転並進変換の機構モデルは以下の数学モデルとなる。
【0230】
【数40】

【0231】
式(40)は、上側が回転系による可動質量Mmの遠心力Fe、下側が遠心力で変動する慣性モーメントJmである。
【0232】
次に遠心力Feで可動質量Mmが並進運動する機能モデルは、次の支配方程式となる。
【0233】
【数41】

【0234】
式(41)の上側は、並進運動の支配方程式で図29のKmとKSを積分量の加算結合で統合している。同式の下側は、可動質量Mmの蓄積位差を移動距離Lmで表した推定観測量である。尚、tsmpは標本化周期である。
【0235】
同式から回転半径Rmの推定観測量は、次式となる。
【0236】
【数42】

【0237】
最後に、可動質量Mmの移動を制限するストッパーは、次式となる。
【0238】
【数43】

【0239】
式(43)のストッパーに接触した時の条件判定は、非接触状態をSWS=0とし、接触状態をSWS=1とする。
【0240】
これらの機構モデルを全体機構モデルとして組み立てる結合条件は次式となる。
【0241】
【数44】

【0242】
(3)シミュレーション結果
図29の機能モデルについて、表4で示す特性値を使って行なったシミュレーション結果を図30に示す。
【0243】
【表4】

【0244】
図30において、シミュレーションは、最初に入力トルクT1=20[N]を加え、0.4[sec]後に逆方向にT1=−20[N]を加えて逆回転させ、再び0.9[sec]後に正方向にT1=20[N]を加え、約1.45[sec]付近でストッパーに接触した。図30の結果は、上から順に回転系の角速度ω1[rad/sec]・可動質量Mmに作用する遠心力Fe[N]・移動速度Ve[m/sec]・バネとストッパー剛性力FS[N]、最後が可動質量Mmの回転半径Rm[m]である。
【0245】
シミュレーション結果は、入力トルクT1の切替えで可動質量Mmの遠心力Feが瞬間0になり、再び復帰する。また移動速度Veは切り替えの瞬間に低下するが復帰し移動を継続し、回転方向に無関係なことを示している。そして回転半径Rmが0.5[m]になった所でストッパーに接触している。接触状態では、衝突による反発から移動速度Veとストッパー剛性のKSの力FSに減衰振動が発生している。この時のFSの減衰振動波形は、下側が平坦になっている。これは、可動質量Mmがストッパーに接触した瞬間の反発力であることが判る。
【0246】
図31は、本発明の第2の非線形特性再現装置の原理説明的な一実施形態を示す図である。尚、この図31は、本発明の第2の非線形特性再現装置の原理を解り易く説明するための図であり、本発明の第2の非線形特性再現装置は、この図31およびその図31の説明に限定されるものではない。
【0247】
この図31には、本発明の第1の非線形特性再現装置の考え方を全体の系に適用する時のモデル構成を示す。従来の非線形のモデル化では、各特性や係数など出力状態量が入力状態量の指数・対数・2乗などの関数値に支配されるため、複数の非線形な物理現象を数学的にモデル統合して解くことは困難であった。しかし、この方法を利用すると、各非線形な物理現象を生成するパラメ−タ(特性・係数・側付加)が、計算を実行する前に状態量変換部R1・R2・R3の予測値を求めてセットアップするので、全系モデルを実行する瞬間では、状態量変換部R1・R2・R3の特性値を線形と見なして計算することができる。
(事例説明)
6.ゼネバ機構
(1)基本機能
揺動リンク機構を応用した機械要素の一つに、送り装置などの間欠動作を行うゼネバ機構がある。ゼネバ機構は主部と従部からなり、主部は揺動リンク機構の回転節が対応し、従部には揺動節に対応して円周側に開いた溝があり、主部の連結軸が従部の溝と勘合して、主部の回転により従部が停止と回転運動を間欠的に行う。このゼネバ機構を、図32に示す。
【0248】
図32のゼネバ機構は、主部と従部にトルクTp・Tsと角速度ω・ωが与えられ、慣性モーメントJp・Jsと粘性抵抗係数Cp・Csを持っている。また、同図のLzは節間の距離、Rpは連結軸の回転半径である。主部に回転トルク入力Tを与えると、従部連結溝の連結角−αの位置に主部連結軸の回転角度βwがきたとき、両者は噛み合い従部を駆動する。そして、従部が連結角2αまで回転すると連結が外れて従部は停止する。この停止状態では、従部の半円形の切欠きと主部の円弧形状が噛み合い、従部は回転できない構造になっている。尚、主部の1回転に対する従部の間欠動作数は、従部に設けられた連結溝数Nによって決まる。
(2)機能モデル(ゼネバモデル)
図32の構造をモデル化した機能・機構モデルを図33に示す。同図のTpとωが主部の駆動トルクと回転角速度で、Tsとωsが従部の駆動トルクと回転角速度、θsの観測量は従部の回転角である。図33の機能モデルは、主部に慣性モーメントJp・粘性抵抗係数Cpを持ち、従部にも慣性モーメントJs・粘性抵抗係数Csを持っている。この主部の角速度ωpは、伝達係数φを介して非線形剛性Kに加えられ、トルクに変換して従部に伝えられる。また、このトルクは伝達係数φを介して主部に負荷トルクとして返される。図33の機能モデルの支配方程式は、次のようになる。尚、図中のxは内部状態量を示す。
【0249】
【数45】

【0250】
図33の機構モデルは、構造非線形なので主部の回転角βwを推定観測量として求め、慣性モーメントJpの出力位差量に包含させる。回転角βwは、次式となる。
【0251】
【数46】

【0252】
機能モデルに機構モデルを入れ子にする結合条件式は、次のようになる。
【0253】
【数47】

【0254】
(3)機構モデル(間歇運動モデル)
図33に組み込まれている機構モデルには、主部の回転角βwを決めて従部との連結を判定する結合条件Swsの機能、連結した時の連結剛性Kzを決める機能、主部と従部間の伝達係数φzを決める機能が包含されている。これらの各下位機構モデルは、次の結合条件式で水平展開される。
【0255】
【数48】

【0256】
(a)機構モデル(連結判定モデル)
式(47)の結合条件式から、式(46)の推定回転角βw_は、機構モデルに推定回転角θB_として入力される。この推定回転角θB_は、従部の回転角度として0〜2πの角度範囲に変換できる。そして、この回転角βは、式(48)によって各機構モデルに入力される。
【0257】
【数49】

【0258】
式(49)の中のint(a)は、aの値の小数部を切り捨てて整数部を取り出す関数である。図32の構造モデルにおいて、主部の回転に対する従部の連結を連結角αは、主部の連結軸に対する従部の連結溝数Nによって決まる、式は次のようになる。
【0259】
【数50】

【0260】
式(50)の従部の連結角αに対する主部の連結角αpは、図32の幾何学的構造から次式を導くことができる。
【0261】
【数51】

【0262】
式(51)連結角±αpの範囲内に主部の回転角βがある時、主部と従部は、連結される。従って連結状態を判定する条件判定Swsは、次式となる。
【0263】
【数52】

【0264】
式(52)は、Sws=1が連結状態・Sws=0が非連結状態である。
(b)機構モデル(伝達係数モデル)
次に連結状態における主部と従部間の伝達係数φzは、揺動機構と同じリンク機構の式となり、主部と従部の軸間距離Lz・主部の連結軸の回転半径Rpと主部の回転角βから求まる。数学モデルは、次のようになる。
【0265】
【数53】

【0266】
式(53)の伝達係数φzは、非連結時に図33で示すスイッチ変数Swが0になって主部と従部を切り離す。
(c)機構モデル(伝達剛性モデル)
最後に主部と従部間の非線形剛性Kは、主部の剛性・従部の剛性・接触の剛性を合わせたものである。連結時の非線形剛性Kは、主部の連結軸と従部の連結溝を介した剛性となり、主部の回転角βwの関数で表せる。また非連結時には従部の連結溝の先端と主部の円弧形状と接触点の剛性になる。剛性が高いときは、定数として扱える。
(4)シミュレーション結果
図33の機能・機構モデルに表5の特性を使ってシミュレーションした結果を、図34と図35に示す。
【0267】
【表5】

【0268】
図34は時刻暦で表わした結果を示し、図35は横軸を主部の回転角βwで表してある。図34は、上から順にωp・ωs[red/sec]が主部と従部の角速度、xK[Nm]が非線形剛性Kのトルク、Swが条件判定である。また、図35は、横軸を主部の回転角βw[rad]で表し、縦軸は上側のωp・ωs[red/sec]が図34と同じ角速度を示し、下側のθs[rad]が従部の回転角を示している。そして、シミュレ―ションは、主部の駆動トルクTpに2.7[Nm]をステップ状に加え従部には負荷トルクTsを加えない場合の結果である。
【0269】
図34において、スイッチ変数Swが1で連結したときは主部が従部を駆動し主部の角速度ωpは従部が負荷となって落ち込みが激しくなる。この時、従部の角速度ωsは急激に立ち上がるが、主部の落ち込みにより従部の角速度ωsも落ち込み、非線形剛性KのトルクxKは連結の衝撃でわずかに振動を発生している。また、連結終了時の条件判定Sw=0で従部は停止しするが、停止の衝撃でトルクxKに少し振動が発生している。
【0270】
図35は、従部の回転角θsは主部の1回転(2π)毎にπ/2単位で間欠的に動作し、非連結の時は回転角を維持していることが判る。
7.残量警告灯のモデル化
一般の製品や部品の複雑な系では、緩慢な過渡応答を定常特性(静特性)がゆっくり変化する非線形と見なし、近似的に機構モデルに置き換えて、高速応答する線形機能モデルに組み込むことができる。その例に負特性抵抗素子の無接点スイッチ機能を利用した残量警告灯がある。
(1)液位検出の原理
残量警告灯の部品構成と接続を図36に示す。残量警告灯の動作は、図36で示すタンク内の液面高さがLOより上のときは警告灯が消灯し、下になったとき点灯する至って簡単な系である。これに使用するサーミスタは、温度により抵抗値が変化する素子で、電子回路や温度計測に幅広く利用されている汎用的な非線形抵抗素子ある。このシステムは、自動車の発進・停止や車体振動による液面の揺れによる警告灯のチラツキを防ぐ機能面と、低価格で高信頼性の品質面が要求されるが、これをサーミスタの非線形特性をうまく利用して解決している。
【0271】
この系の回路図(構造モデル)を図37に示す。
【0272】
図37は、RBが電池の内部抵抗・EOが電池の内部起電力・RLが警告灯の抵抗・RTがサーミスタの抵抗である。そして、これらが直列に接続されている。状態量は、VBが電源電圧・VLが警告灯の端子電圧・VTがサーミスタの端子電圧・IBが3部品共通の電流である。
【0273】
残量警告灯をモデル化するにあたり、サーミスタ抵抗RTが負荷の警告灯抵抗RLを操作する無接点スイッチの働きについて簡単に述べておく。RTとRLの電圧−電流特性とその関係を図38に示す。
【0274】
図38は、抵抗RLの電圧VLは電源電圧VBからの電圧降下と考え、原点を電圧軸上のVB点に移した逆方向の電圧―電流特性で表してある。また、RTとRLの交点は、回路を流れる電流IBとなり、交点の左側がサーミスタに加わる電圧VT、交点の右側からVBまでが警告灯に加わる電圧VLとなる。また、同図のサーミスタ抵抗RTは、低温で大きく高温で小さくなる抵抗特性を持っているので、抵抗値が大きいRT_OFFの交点がOFF状態となり、小さいRT_ONの交点がON状態になるスイッチとして働く。この両者は直列に接続されているので、OFF状態では電流IB_OFFが漏洩電流、VT_OFFがサーミスタによる遮断電圧、VL_OFFが警告灯の消灯電圧となる。同様にON状態では、電流IB_ONが点灯電流、VT_ONがサーミスタの電圧降下、VL_ONが警告灯の点灯電圧となる。
【0275】
またサーミスタは、図37に示されているように常に警告灯を通して電流IBが流れ、VTB又はIB2Tの消費電力WTによって自己発熱を起こし温度上昇を伴う。液位が高い時は、サーミスタが液中にあり発生した熱は周りの液で冷却されてサーミスタ抵抗RTが大きくり、回路電流IBが小さいOFF状態となる。また、液位が下がって空中に出た時は、サーミスタが冷却されないので温度が上昇してサーミスタ抵抗RTが低下し、回路電流IBの増加に伴って消費電力WTが増加して加熱し、更にRTの低下によるIBの増加を招き熱暴走を起こす。この熱暴走は、警告灯の抵抗RLによる回路電流IBの抑制によって、ON状態に遷移するに従いサーミスタの端子電圧VTが小さくなって消費電力WTが低下し、サーミスタの自己発熱と放熱の平衡点でON状態を維持する。ここで警告灯の抵抗RLは図38に示すようにサーミスタとは逆に、電圧が低いときに抵抗が小さく高いときに大きくなる正特性の非線形性を持持っている。残量警告灯は、この両者の静特性と負特性の非線形性を生かして、漏洩電流の少ないOFF状態と電圧降下の少ないON状態を実現している。また前に触れた表示のチラツキについては、ON/OFF間を遷移するサーミスタの温度に対する応答遅れを利用して防止している。
(2)機能モデル
以上の内容を整理してモデル化して機構モデルが組み込まれた機能モデルを図39に示す。
【0276】
図39は、電地が内部抵抗RBを介して起電力E0と端子電圧VBの差で電流を供給する電流源になっている。警告灯の抵抗RLは電圧に依存する機構モデルを持ち、サーミスタ抵抗RTは消費電力WTに依存する機構モデルを持っている。そして、自己発熱による温度上昇Txがサーミスタの出力位差量に包含されている。各機構モデルの詳細は、後で説明する。
【0277】
図39から数学モデルを導くと、次のようになる。
【0278】
電池の数学モデルは、次式となる。
【0279】
【数54】

【0280】
警告灯とサーミスタによる直列回路の各端子電圧は、次のようになる。
【0281】
【数55】

【0282】
【数56】

【0283】
式(54)・式(55)・式(56)を互いに代入して整理した結果は、次のようになる。
【0284】
【数57】

【0285】
【数58】

【0286】
式(57)と(58)から残量警告灯の支配方程式は、以下となる。
【0287】
【数59】

【0288】
ここで、G0は、次式で示す全系の総合コンダクタンスとする。
【0289】
【数60】

【0290】
式(59)は、状態方程式と入出力方程式を持たない観測方程式で構成された定常特性の式である。
(3)機構モデル
(a)警告灯の機構モデル
警告灯には、定格電圧12[V]・定格電力1.4[W]の自動車用白熱電球を使用する。表6にその仕様を示す。
【0291】
【表6】

【0292】
電圧−電流特性は、次式になることが知られている。
【0293】
【数61】

【0294】
式(61)は、VSが特性を設定する基準電圧、ISが基準電圧VSにおける基準電流である。この式から警告等の非線形抵抗の式を導くと次のようになる
【0295】
【数62】

【0296】
式(62)をオーム則で整理した非線形抵抗の式は、次のようになる。
【0297】
【数63】

【0298】
ここでRSは基準電圧VSにおける基準抵抗で式は、次のようになる。
【0299】
【数64】

【0300】
式(64)の非線型抵抗RLを機構モデルで表すと、図40となる。
【0301】
式(63)から警告灯の抵抗RLを電圧・電流の測定値から乗数nを求める。測定結果は図41となり、点線が測定値、実線が計算値である。この結果から、最小二乗法で求めた乗数nは、n≒0.55となり、基準電圧をVS=14[V]とした基準電流はIS=0.102[A]である。
(b)負特性抵抗素子の機構モデル
サーミスタの外観を図42に示し、機構モデルを図43に示す。同図のサーミスタは、液が出入りする3個の穴を上下に開けた円筒形金属ケースに収められている。
【0302】
図43は、サーミスタの特性式から必要な数学モデルを導き、これを基にモデル化した。サーミスタの非線形抵抗特性は、温度に依存性する次式となる。
【0303】
【数65】

【0304】
式(65)は、T0が基準温度、BTがサーミスタ特性を決めるB定数、R0がTにおける基準抵抗、Txが使用温度である。
サーミスタの自己発熱による上昇温度TUは、熱放散係数δTと消費電力WTから次式となる。
【0305】
【数66】

【0306】
図39の機能モデルからサーミスタの消費電力WTは、次のようになる。
【0307】
【数67】

【0308】
式(65)・式(66)・式(67)によってサーミスタの消費電力WTによる温度上昇から抵抗値RTを求めことできるが、この一連の式は温度上昇後の定常状態の式である。そこで、サーミスタの熱時定数(乾燥状態)から、実用状態に近い液中と空中を移動する時の応答特性をモデル化する。この状態は、サーミスタが濡れた状態から乾燥する状態とその逆の状態があるので、立ち上がりの遅れを考慮した、2次遅れの過渡モデルを適用する。2次遅れの式は、前に述べた温度上昇モデルと同様に0〜1の範囲で正規化した、次の離散化式を使用する。
【0309】
【数68】

【0310】
式(68)は、一次遅れの離散化式2個が干渉した2次の応答特性式である。同式のPa・Pbは0〜1の範囲の値を持つ離散系固有値で、Gabは2個の1次遅れの入力を分配する係数で、式は次のようになる。
【0311】
【数69】

【0312】
式(69)は、tsmpが標本化周期、τaとτが時定数である。
【0313】
サーミスタが液中から空中に出る時と空中から液注に入る時では、濡れ方に違いから放熱が異り、当然応答特性も異なる。この点を考慮して式(66)のδTと式(69)のτa、τbを液中と空中で切替える。この2状態を切り替えるスイッチ要素をSWとし、液中をwat、空中をdryの下付き添字で識別した、δTとτa、τbを次式で表す。
【0314】
【数70】

【0315】
式(70)のスイッチ要素は、液中がSW_0=1とSW_1=0、空中がSW_0=0とSW_1=1とする。
(4)シミュレーション結果
残量警告灯のシミュレーションは、機能・機構モデルの式に表7の特性値を与えて行った。その結果を図44と図45に示す。
【0316】
【表7】

【0317】
図44は、サーミスタを液中と空中に出し入れした時のステップ応答である。同図は上から順に、SWが液中と空中の条件判定、VT・VLがサーミスタと警告灯の端子電圧、IBが回路電流、TX・WTがサーミスタ温度と消費電力である。
【0318】
図45は、図44と同じ内容で表した、液面の揺れによりサーミスタが液を被る周期を2[sec]とした再現した応答結果である。同図は、周期内における乾きの時間比率を0[%]〜50[%]〜100[%]で変化させ、50[%]については30[sec]間継続した。
【0319】
図46は、本発明の第3の非線形再現装置の原理説明的な一実施形態を示す図である。尚、この図46は、本発明の第3の非線形特性再現装置の原理を解り易く説明するための図であり、本発明の第3の非線形特性再現装置は、この図46およびその図46の説明に限定されるものではない。
【0320】
図46は、同一物理量の入出力状態量間に状態量を接続・遮断する状態量切替部(スイッチ要素)SWと、この状態量切替部を断続するための信号を生成する論理判定部で構成されている。状態量切替部はf=SWvで表す線形の数学モデルとし、この式のSWに論理判定部から0又は1の非線形な論理値SWLを代入する。論理判定部には、判定するための状態量として、次期標本化時期の推定観測量が入力され、次期モデル状態を決定する論理値が生成される。この論理値を状態切替部のスイッチ要素SWに代入することによって、論理値が0の時は出力状態量がf=0となり、1の時はf=vとなる。
【0321】
図46の論理判定部は、∪がOR、∩がANDの論理演算子である。したがって、論理判定部の論理式は、状態量v1とf1が0以上を1その他は0とし、S1を0・1の論理値とすると、S1またはf1が1でv1が1の時に論理値1を生成し、状態量切替部の出力状態量fと入力状態量vが結合される。
(事例説明)
8.がた・底突きのモデル化例
図47に摸式的ながたの構造モデルを示す。同図は、外筒Bの中に±L0の範囲を持つ可動体Aが組み込まれた例である。そして、可動体Aには速度v1と力f1によるエネルギーが加わり、同様に外筒Bもv2とf2が加わっている。尚、図中のyは外筒Bの中心を0とする可動体Aの相対位置である。
【0322】
図47の構造モデルは、可動体Aが±L0の範囲では可動体Aと外筒Bは互いに独立して動き、これを超えると両者は一体となり剛体として動く。従って、がた(底突き)は、両者を一体にした剛性による接続と開放が基本機能と考えられる。この関係を整理してモデル化すると、図48の機能モデルとなる。
(1)機能モデル
図48は、Kgが接触した時の剛性、Cgが粘性抵抗係数、v1が可動体Aと外筒Bの速度差、xが内部状態量である。同図(a)は機構モデルから非線形な剛性を代入する方法でモデル化し、(b)はスイッチ要素を組み込みKgが接続・開放される構造非線形としてモデル化されている。がたはこのように機構モデルと構造非線形のどちらの方法でもモデル化が可能である。しかし、がたの基本機能は、外筒Aと可動体Bの剛性を接続・開放することから、(b)の構造非線形によるモデル化の方が望ましい。なぜなら、(a)の機構モデルで表わした場合は、機能モデルと支配方程式にスイッチ要素が組み込まれないので、構造的に非線形であることを識別することが困難である。
【0323】
まず、図48(a)の機能モデルは、以下の支配方程式となる。
【0324】
【数71】

【0325】
次に、図48(b)の機能モデルは、次の支配方程式と結合条件式になる。
【0326】
【数72】

【0327】
【数73】

【0328】
(2)機構モデル(間隙モデル)
図48(a)の中にある機構モデルは、次式で表すことができる。
【0329】
【数74】

【0330】
式(74)は、1行目が稼動体Aの相対距離y、2行目が外筒Bの壁と可動体Aの距離Lm、3行目が接続と開放の剛性値Kgである。
【0331】
図48(b)の機構モデルは、次式で表すことができる。
【0332】
【数75】

【0333】
式(75)は、1〜2行目は式(74)と同じ、3行目は外筒Bと可動体Aの接触を判定する条件判定式である。この条件判定は、接触状態をSWY=1とし、非接触状態をSWY=0とする。そして、この条件判定SWYによるスイッチ要素SWYの操作で剛性Kgを接続・開放する。
(3)シミュレーション結果
一つの事例として、図49で示す液体を封入したシリンダーと小穴を設けたピストンの粘性抵抗係数Cgによる衝撃吸収用ダンパーの底突きについて検討する。この図49は、Maがピストン質量・Caが粘性抵抗係数・Mbがシリンダー質量・Cbが粘性抵抗係数である。また外部とは、ピストンとシリンダーに操作力faとfbが作用し、速度vaとvbが出力さる。その他については、図49で示す機能モデルと同じである。
【0334】
図49で示す構造モデルのモデル化は、図48(b)の機能モデルに同図のMa・Ca・Mb・Cbを付加機能として追加することで実現できる。従って、衝撃吸収用ダンパーは図48(b)の機能モデルに、これらの附加機能を追加した図50の機能モデルとなる。尚、図中の各xは内部状態量である。
【0335】
図50の両側に付加機能を追加する結合条件は、それぞれ次式となる。
【0336】
【数76】

【0337】
【数77】

【0338】
式(76)と式(77)にピストン・がたの機能モデル・シリンダーを統合すると、次式となる。
【0339】
【数78】

【0340】
図50の底突きダンパーの機能・機構モデルを表8で示す各特性値でシミュレーションをおこなった、その結果を図51に示す。
【0341】
【表8】

【0342】
図51のシミュレーション結果の速度vaは、速度vbと対比させるために正負を反転して表してある。また、図51のシミュレーションは、操作力を与えたピストンの動きに従ってシリンダーが従動する状態を再現したものである。操作としては、ピストンの操作力faに1[N]を加え、0.15[sec]後に逆方向の捜査力−1[N]を加え、0.3[sec]後に操作力を0にして終了した。この際、シリンダー側の操作力fb[N]は与えていない。シミュレーション結果は、同図の上から順に、ピストンに加えた操作力fa[N]、ピストン速度va[m/sec]とシリンダー速度vb[m/sec]、ピストンとシリンダー間に作用する力f1・f2[N]、シリンダーにおけるピストンの相対位置y[m]である。尚、上から2番目の速度は、実線が駆動側のピストン速度vaで、点線が従動側のシリンダー速度vbを表している。
【0343】
図51において、ピストンとシリンダーの速度va・vbから、両者は約0.03[sec]で接触して底突きを繰り返しながら収束して、約0.08[sec]後に一体となる。接触の瞬間には、衝突の衝撃によって反発力が発生し、両者は接触と離反を繰り返しながら収束することが判る。このことは、両者間に作用する力f1の衝撃荷重と相対位置yの変動からも判る。次に、操作力faを反転するとピストンは、シリンダーの反対側の壁に接触して同様の結果を示している。また、最後に操作力faを除くとピストンがシリンダーが一体となって停止する。
9.摩擦クラッチ
クラッチは、2つの系を滑らかに接続・開放するための基本的な機械要素である。その中で摩擦クラッチ機構は、動作中の系を切り替える機械要素として幅広く利用されている。ここでは、このクラッチの基本的な機能について、モデル化を検討する。
【0344】
クラッチには、常時接続する方式と常時開放する2種類の方式がある。図52は、常時開放する方式のクラッチ構造を模式的に表わした例で、クラッチの押し付け力Ffによって右側の白い角のクラッチ片が左側に押し付けられ、左右の系の間で動力伝達を行う。クラッチには、右側の系からω1・T1の回転エネルギーが加わり、同様に右側の系からもω2・T2が加わっている。この2つの系を接続したクラッチは、クラッチ剛性Kで左右の系が一体となり、両系には同一エネルギーが受け渡しされる。滑り状態ではクラッチの摩擦トルクで左右の系が接続され両者の間には角速度差が生じる。この角速度差と摩擦トルクによって生じる損失は、熱エネルギーとなって消費される。またクラッチが開放された状態では左右の系は切り離され、互いに独立した系となる。
(1)基本機能
次に、クラッチの基本機能について検討を行う。クラッチは、接続・滑り・開放の本来の機能と、2つの系が持つ各パラメータの付加機能に分けることができる。そして、この3つの状態に分けた機能は、以下のように考えることができる。
【0345】
1)接続は、2つの系に速度差が無くクラッチが滑らない状態。
【0346】
2)滑りは、クラッチの摩擦トルクで2つの系を駆動する状態。
【0347】
3)開放は、摩擦トルクが0となり2つの系が切り離された状態。
【0348】
この3状態から摩擦トルクによる滑りが、クラッチの接続と開放を支配していることが判る。この関係を示すと図53となる。
【0349】
図53は、横軸が摩擦トルクTf、縦軸が負荷トルクT1・T2で表したクラッチのトルク伝達特性である。この図で示すTf0は、摩擦によるクラッチの伝達トルクである。この伝達トルクTf0により負荷トルクT1・T2が小さい領域では、左右の系がクラッチ剛性Kで一体となり、クラッチは接続状態となる。その外の領域では、伝達トルクTf0によって負荷トルクT1・T2が供給され、クラッチは滑り状態となる。この伝達トルクTf0は、クラッチの押し付け力Ffで変化し、Tf0=0のとき負荷トルクもT1=T2=0となり、クラッチは開放状態となる。従って、図53における接続と滑りの関係はクラッチを介して2つの系に加わる負荷トルクT1・T2と摩擦トルクTfの大小関係に支配される。例えば、負荷トルクT1・T2が摩擦トルクTfo以下のときは接続し、Tf0以上のときは摩擦トルクTfoで滑りが発生する。この働きからクラッチは、2つの系を一体とするクラッチ剛性K、クラッチの滑りを支配する伝達トルクTfo、この両者の切り替えが基本機能となる。
(2)機能モデル(クラッチモデル)
クラッチの基本機能を元にモデル化した機能・機構モデルを図54に示す。同図は、常時開放する方式のクラッチモデルである。図54(a)はクラッチ剛性Kで接続するクラッチモデルを表し、同図(b)はクラッチ剛性Kを粘性抵抗係数Dに置き換えて、低次元化を行なったクラッチモデルである。両図は、Kが接続時のクラッチ剛性、Dがクラッチ摩擦片の粘性抵抗係数、Tfが摩擦トルク、Tc_がクラッチの剛性トルク、SWCがTc_とTfを切替えるスイッチ要素で構成する機能モデルに、クラッチを操作する機構モデルが組み込まれている。xは内部状態量を示す。粘性抵抗係数Dに置き換えた図54(b)のクラッチモデルは、接続状態で微少な滑りが発生する。また、粘性抵抗係数Dの一般的な特性は線形であるが、この特性を機構モデルで非線形化して、負の粘性抵抗係数を持たすことでクラッチの異常振動や異音(泣き)の現象を再現することが可能である。
【0350】
図54(a)の支配方程式は次式となる。尚、機構モデルの接続条件は省略する。
【0351】
【数79】

【0352】
式(79)において、1行目は状態方程式、2と3行目は入出力方程式、4行目はクラッチトルクの観測方程式である。同様に図54(b)の支配方程式は、式(79)から状態方程式と内部状態量を除いた次式となる。
【0353】
【数80】

【0354】
(3)機構モデル(結合判定モデル)
図54の(a)・(b)は、共に同じ機構モデルとなり、クラッチの剛性トルクTc_を推定観測量とする条件判定SWCと伝達トルクTf0を代入量として出力している。機構モデルの内容は、以下のようになる。
【0355】
伝達トルクTf0は、次の摩擦トルクの式から求めることができる。
【0356】
【数81】

【0357】
ここで、μfは摩擦材の動摩擦係数・Afは摩擦面の摺動面積、Rfは摩擦面の平均半径、Ffはクラッチ押付荷重で、Tf0の正負は推定観測量Tc_と一致させる。
【0358】
この例では、クラッチの摩擦トルクTfを動摩擦トルクで表したモデルである。従って、クラッチの挙動を詳細に検討する際は、静摩擦・動摩擦および摩擦熱による摩擦トルク変動などを考慮する必要がある。
【0359】
次に、クラッチの滑りと接続状態を判定する条件判定は、次のようになる。
【0360】
【数82】

【0361】
式(82)において、伝達トルクTf0が剛性トルクTC以上の時はSWC=1にして接続状態とし、逆はSWC=0の滑り状態とする。また、この滑り状態では、流動蓄積要素の内部状態量xkを次式で初期化する。
【0362】
【数83】

【0363】
また、常時接続方式のクラッチモデルでは、条件判定式(82)の比較演算子の判定を逆にした式|Tf0|≦|Tc_|となり、図54のスイッチ要素SWC_0とSWC_1を入れ替わる。
(4)シミュレーション結果
図52で示す構造モデルの左右に慣性モーメントJD・JLと粘性抵抗係数CD・CLの駆動系と負荷系を付加し、これに入力トルクTD・TLと出力角速度ωD・ωLの状態量で外部と接続する。その機能モデルを図55に示す。
【0364】
図55の機能モデルには、図54(a)のクラッチ剛性Kを考慮したクラッチモデルを使用する。xは内部状態量である。図55の支配方程式を次のようになる。
【0365】
【数84】

【0366】
図55の機能モデルに表9の特性値を使用したシミュレーション結果を、図56に示す。尚、同図で示す角速度ωDは、速度ωLと対比するために正負が反転してある。
【0367】
【表9】

【0368】
図56のシミュレーションは、駆動系に0.1[N]のトルクTDを加えると同時にクラッチ摩擦トルクTfを0.25[Nm/sec]で上昇してクラッチを接続し、接続後は1.5[sec]後に、負荷トルクTL=0.145[Nm]を0.5[sec]の期間ステップ状に与えてクラッチを滑らせ、最期の3.5[sec]でクラッチを開放した結果である。図56は上から順に、駆動系のトルクTD[Nm]、クラッチの摩擦トルクTf[Nm](側負荷)、負荷系のトルクTL[Nm]、駆動角速度ωD側と負荷角速度ωL、クラッチのトルクT1を表している。
【0369】
図56において、起動に際しては、駆動系の角速度ωD側が上昇し摩擦トルクTfを増加することによって負荷系の負角速度ωLも上昇する。しかし、途中から駆動系は負荷系に引き続き込まれて角速度ωDが低下し、約0.5[sec]の点で両者が一致して結合状態(エンゲージ)となり両者は一体となって回転が上昇する。この結合までは、摩擦トルクTfによって負荷系が駆動され、クラッチの伝達トルクT1と摩擦トルクTfは同じとなる。エンゲージ後はクラッチ伝達トルクT1がクラッチ剛性によるトルクに置き換わり、急激に低下している。
【0370】
次に外部から負荷系にトルクTLを加えるとクラッチに加わるトルクは、摩擦トルクTf以上になってクラッチが滑り初めωDとωL間に角速度差が発生する。この時のクラッチ負荷トルクT1は再び摩擦トルクTfに置き換わる。この負荷トルクT1を除くとωD・ωL間の角速度差が無くなり、クラッチ結合状態となって再び回転が上昇する。最後に摩擦トルクTfを0にしてクラッチを切ると、駆動系と負荷系は別々に減速して停止する。
10.摩擦ブレーキ
ブレーキは、エネルギーを強制的に吸収する速度調整、慣性モーメントなどの蓄積エネルギーを吸収するため基本的な機械要素の一つである。ブレーキにも多くの種類があるが、ここでは摩擦力を利用したブレーキについて検討する。
【0371】
摩擦ブレーキは、クラッチと同様に摩擦力で制動トルクを制御する。クラッチモデルをブレーキに応用するには、回転していた駆動系と負荷系の片側を固定してクラッチの滑りで消費するエネルギーを制動エネルギーとして駆動系に与えることで実現できる。負荷側の固定には、2通りの方法がある。一つは負荷側に剛性を接続するか、または図55の慣性モーメントMLを大きくする方法で、制動力が取り付け部に与える影響まで検討する時に適用する。今一つは図55の負荷側の慣性モーメントMLと粘性抵抗係数CLを除いて角速度ω2を零にする方法で、ブレーキの制動機能を検討する時に適用する。ここでは、後者のブレーキモデルについて検討する。以下、この点を考慮したブレーキのモデル化を行う。ブレーキ構造を摸式的に表した構造モデルを、図57に示す。同図は、軸の駆動側に角速度ωD・駆動トルクTDを加え、負荷側に角速度ωD・トルクTDを与える。この軸にはブレーキの摩擦トルクTFが制動トルクとして作用する構造になっている。
(1)機能モデル(ブレーキモデル)
ブレーキはクラッチと異なり動力を伝達する機能を持たないので、動力を伝達する駆動軸に制動エネルギーを負荷として加えるモデルとなる。従って、ブレーキモデルは、駆動軸のモデルにクラッチモデルを並列に配した機能モデルとなる。これを機能・機構モデルで表すと図58となる。
【0372】
図58は駆動軸の駆動側に慣性モーメントJDと粘性抵抗係数CDが追加され、負荷側に慣性モーメントJLと粘性抵抗係数CLが追加されている。同図において、ω1とT1はブレーキの角速度と制動トルクである。そして制動エネルギーを生成する機能は、図54(a)のクラッチモデルから右側の入出力状態量ω2とT2が除かれている。また、この機構モデルは、各特性の大半が図54(a)と同一であるが、その中のμfがブレーキパッドの動摩擦係数・Afが摺動面積・Rfが摺動半径・Ffがブレーキ操作荷重に置き換わる。
【0373】
図58で示す駆動側と負荷側の慣性モーメントJD・JLは、内部状態xd’とxL’同じなので、この微分量を加算結合して慣性モーメントをJD+JLにすることができる。慣性モーメントJD・JLを統合したブレーキモデルの支配方程式は、次のようになる。
【0374】
【数85】

【0375】
式(85)は、1〜2行目が状態方程式、3行目が入出力方程式、4〜5行目が観測方程式、6行目が推定観測方程式である。機構モデルについては、クラッチモデルの式(81)〜式(83)と同じである。
(2)シミュレーション結果
図58で示す機能・機構モデルに、表10の特性値を与えて行ったシミュレーション結果を図59に示す。
【0376】
【表10】

【0377】
図59は、上から順に駆動軸の角速度ωD[rad/sec]・制御トルクTf[Nm]・推定観測量Tc_[Nm]・駆動トルクTD[Nm]・条件判定SWCである。
【0378】
シミュレーションの実行は、起動と同時に駆動トルクTD=1[Nm]を与え、0.02[sec]でブレーキ操作荷重Ff=8×104[N]加えて制動を掛け、0.06[sec]でTD=−1[Nm]の逆駆動トルクに切替えた。そして、0.08[sec]でブレーキ操作荷重をFf=2×104[N/sec]の速度でゆっくり降下させて、0.1[sec]でブレーキを切った。
【0379】
図59において、0.02[sec]でブレーキを掛けるとTf<Tc_の状態になるので摩擦トルクTfによって制動トルクが作用して角速度ωDが減速し、Tf>Tc_になった状態で強制的にブレーキによって停止させられる。更に0.06[sec]で駆動トルクを逆転させるとその反力で瞬間的にブレーキの滑りが角速度ωDに現われ、条件判定SWCが瞬断する。また、0.08[sec]から徐々にブレーキをゆるめるとTf<Tc_になった時点からブレーキが滑り始め、角速度ωDも増加(逆方向)し始める。そしてブレーキを切ると加速する。
11.自動復帰機構
自動復帰機構は、図60に示すように、レバーの一部にリターンスプリングのバネのこわさKで停止位置に帰す復帰トルクを与える機構となっている。また、このレバーは、ゴム製スットパーの剛性K・粘性抵抗Dで動作範囲が規制される。この機能・機構モデルは、図61のようになる。
【0380】
図61は、レバーの角速度ωとトルクTの対が入出力状態量として外部と接続されている。その内部特性は、リターンスプリングをこわさKで表し、ゴム製スットパーを剛性Kと非線形粘性係数Dで表してある。これに作用するレバーの回転中心と荷重点までの距離は、図60で示す寸法LとLが図61の係数となっている。また、図中のxは内部状態量を示す。
【0381】
まず、図61の自動復帰機構の支配方程式は、次のようになる。
【0382】
【数86】

【0383】
式(86)は、図61のKとKのバネが並列接続なので、これを一個のバネのこわさに統合して低次元化を行なった一行一列の状態方程式となっている。
【0384】
次に、図61の機能を成立させる機構モデルについて数学モデルを求める。
【0385】
推定回転角θR_は、図60で示すレバー作動範囲θmax[rad]で動きが規制される。この条件判定SWCは、次のようになる。
【0386】
【数87】

【0387】
式(87)の条件判定は、SWC=1の条件成立でレバーが強制停止し、SWC=0の条件不成立で自由に回転する。
【0388】
最期に、レバーを強制停止させるゴム製ストッパは、試行的な試験から圧縮と伸び方向で作用力が異なることが判明した。そこで、これを減衰抵抗係数Dの非線形性で表すことにした。この非線形性は、レバーによる圧縮方向はゴムの荷重が作用するが、引っ張り方向は伸びの遅れからあまり作用しないことが原因と推定できる。実際には、ゴムの圧縮剛性Kも変形量に応じて非線形となるが、この剛性は線形と見なしてモデル化した。減衰抵抗係数Dの非線形の考え方を図示すると図62となる。
【0389】
図62は、レバーが接触した状態の圧縮方向の減衰抵抗係数をDC_H、伸び方向の減衰抵抗係数をDC_Lとし、たわみ量では減衰抵抗係数が変化しないことを想定した図である。この減衰抵抗係数の方向性は、レバーの正回転と逆回転を圧縮と伸び方向に関連付けて判定し、減衰抵抗係数DC_H・DC_Lを切り替えることでモデル化できる。この条件判定SWCDは、次式となる。
【0390】
【数88】

【0391】
式(88)において、ωR_は正転と逆転の回転方向を判断し、θR_との積が正のときは圧縮、負のとき伸びと判断する。減衰抵抗係数DC_H・DC_Lの切りかえは、同時に1と0の状態を持たないSWCD_0とSWCD_1の切り替えスイッチ要素で行ない、判定が不成立のときはSWCD_0=1で圧縮側、成立のときSWCD_1=1で伸び側とする。
12.空振り機構
空振り機構は、外部から行う手動操作とアクチェータによる自動操作の干渉を防止する機構である。この空振り機構の動作説明図を、図63に示す。
【0392】
図63は、モータで駆動されるレバーがスライダーに設けられた幅Lの穴に貫通して結合する。同図は、Xが図60で示すレバー停止位置を基準にしたレバーの移動量、Xがスライダの推定移動量、Yが両者間の相対距離である。ここで、X・Xは推定移動量である。尚、図63の動作については、後で述べる。図63の機能モデルは、図64のようになる。
【0393】
図64は、Kがスライダ押し側の圧縮剛性、Mがスライダ質量、Dが粘性抵抗係数、Lが図60で示すレバーとスライダの接触位置でレバー回転角によるLの変化は無視する。同図は、角速度ωとトルクTが減速機構と結合し、出力速度vと負荷荷重Fが外部のドアーラッチ機構と結合する。xは内部状態量である。
【0394】
まず、図64の支配方程式は、次のようになる。
【0395】
【数89】

【0396】
式(89)の上側は、支配方程式で、1〜2行目が状態方程式、3〜4行目が入出力方程式、3行目が推定観測方程式である。同式下側は、質量Mの推定蓄積位差量の式で、1行目が内部蓄積観測量xss、2行目がスライダーの推定移動量Vssである。尚、Samp_tは、標本化周期である。
【0397】
図64の上側にある機能モデルの数学モデルを導くと以下のようになる。
【0398】
まず、レバー位置の推定観測量VFF_は、減速機能の回転角から、次式で導ける。
【0399】
【数90】

【0400】
次に、スライダー移動量Xは、質量Mの位差系に移動距離Vssが包含されているので、これをX=Vssとする。また、レバー移動量Xは式(90)となる。この移動距離Vssと式(90)からレバーとスライダーの相対位置は、次式となる。
【0401】
【数91】

【0402】
空振り機構の図63は、スライダーがアンロック側の状態で、レバーをロック側に押す時の状態を表している。同図は、上の図が押し始めた時、中の図が穴の幅Lの中心にレバー停止位置がある時、下の図がレバーをロック側に押し切った時の状態を表している。この図から、式(91)の絶対値|Y|がLの範囲内にある時、レバーは空振りしてスライダーが動かない。この空振りの条件判定SWFは、次式となる。
【0403】
【数92】

【0404】
最期に、式(92)からスライダーは、SWF=1の条件成立でレバーがスライダを押し、SWF=0の条件不成立で引き側になってレバーが空振りする。この時のスライダーの移動量Xは、スライダーの推定速度vs_相対位置Yから押しと空振りの方向を判断する。この条件判定SWPは、次式となる。
【0405】
【数93】

【0406】
図65は本発明の第4の非線形特性再現装置の一実施形態のブロック線図を示し、図66は図65に示す非線形特性再現装置の判定状態が図示してある。両図の各変数は、(k−1)が前の標本化時期、(k)が現在の標本化時期、(k+1)が次期標本化時期、以下+nで現在から将来のn次期標本化時期を表し、このkを添え字とする状態量vは、各時期の観測量を表す。また、図中のΔvは現在と次期標本化時期間の推定観測量の変動幅、Vsは現在の観測量v(k)と判定値VTHとの偏差、tsmpは標本化周期である。図65の安定状態判定部は、偏差Vsが変動幅Δvより小さい時は判定値を1とし、その逆は0とする。
【0407】
従来は、指定された安定幅(不感帯)の範囲内に観測量があることで判定するため、標本化周期の変更や変動の激しい観測量などによって安定判断が不安定となる。ここで提案する安定幅(不感帯)を設けない判定法では、標本化周期や状態量の変動による不安定性が防止できる。
【0408】
また、図67に示すように、上昇用の判定値VTH1と下降用の判定値VTH2を設けることで、状態量の上昇・下降に対しヒステリシスを持たし、より安定な判定も可能である。
【0409】
図68は、本発明の第5の非線形再現装置の原理説明的な一実施形態を示す図である。尚、この図68は、本発明の第5の非線形特性再現装置の原理を解り易く説明するための図であり、本発明の第5の非線形特性再現装置は、この図68およびその図68の説明に限定されるものではない。
【0410】
図68は、状態量S2・S3で生成した定常状態の変動値が0から1の応答範囲を持つ正規化応答部に入力され、正規化応答部の非線形な応答特性によって、定常状態の変動値が時刻暦で変化する非線形な応答値として再現される。その再現結果は、特性生成部に入力され状態量変換部の特性Rの変化に変換して代入され、緩慢な応答特性を全系の線形モデルの中で再現(反映)する。
【0411】
この時刻暦応答を再現する装置によって、線形モデル内の複雑な過渡特性を支配する固有値から、緩慢な挙動をするエネルギー損失による温度上昇の影響や外気温度・気圧などの環境変化に対する影響を支配する固有値を、全系の線形モデルから除外して独立させることができる。ここで除外できる緩慢な過渡応答範囲は、線形モデル内の電気系や機械系の固有値を刺激しない範囲に限られる。
(事例説明)
13.温度上昇のモデル化例
ここでは、比較的ゆっくりした過渡的な変化を非線形として再現するモデル化を試みる。
(1)正規化1次応答モデル
時間経過により変化する特性の多くは、1次又は2次の応答特性として表すことが多い。そこで、1次と2次の応答遅れを0〜1の範囲に正規化した、無単位量の係数と考えた離散化式を用いる。1次応答の一般式は、次のようになる。
【0412】
【数94】

【0413】
【数95】

【0414】
式(94)のP1は離散化した1次遅れの固有値で、0〜1の範囲で収束し、1以上で発散する。また、τは系の時定数、tsmpは離散化の標本化周期、kの添えは標本化時期を示す。
【0415】
式(94)において、z1(k+1)とz1(k)は内部状態量、u1(k)とy1(k)は入出力状態量、q1は入力状態量の係数、c1は出力状態量の係数である。同式の定常状態は、z1(k+1)=z1(k)=u1(k)となり、入出力状態量間には差が発生しない。従って、式(94)上側の状態方程式は、入力状態量の係数q1を次式にすることで正規化できる。
【0416】
【数96】

【0417】
式(94)のq1に式(96)を代入し、出力方程式の各係数をc1=1・d1=0にして出力方程式を省略した、次の標本化周期の一次応答(正規化)は、次のようになる。
【0418】
【数97】

【0419】
(2)正規化2次応答モデル
同様に2次応答も2個の1次応答の干渉として整理すると、次式のようになる。尚、途中の整理過程は省略し結果のみ示す。
【0420】
【数98】

【0421】
ここで、paとpbは式(95)に対応した固有値、gabは2個の1次応答間の干渉度合いを表す係数で、以下の式で表すことが出来る。
【0422】
【数99】

【0423】
式(99)は、τaとτbが時定数、tsmpが標本化周期である。
(3)温度上昇モデル
例として、モータの巻線抵抗の温度依存性についてモデル化する。モータなどに電力を加えれば、巻線抵抗の消費電力PMによる自己加熱が主因で、温度が上昇する。この温度上昇TUは、モータの熱放散係数をδMとすると次式で表すことができる。
【0424】
【数100】

【0425】
式(100)から温度上昇TUは、巻線抵抗の消費電力PMによって決まり、温度が上昇して電流が減少すると消費電力の低下を招く。その結果、機械的な出力が減少する。モータ電流IM・巻線抵抗RMとすると、その消費電力PMは次式で表すことができる。
【0426】
【数101】

【0427】
次に、式(100)で発生した温度が定常になるまでの過程は、1次遅れの応答になることが知られている。そこで、式(100)の温度上昇TUを目標値とする温度上昇の応答は、式(97)と式(100)から次式で表すことができる。尚、式中のτMは熱時定数である。
【0428】
【数102】

【0429】
次に、温度係数αW・基準温度TMS・基準抵抗RMSの特性を持つ巻線の温度Txにおける巻線抵抗RMは、次式となる。尚、Txは、式(102)で表す推定温度Tx(K+1)である。
【0430】
【数103】

【0431】
式(103)は、次の標本化時期の巻線抵抗値を与える式である。尚、雰囲気温度を考慮する時は、その温度を式(103)の温度項に追加する。
(4)機能モデル
以上の関係を整理したてモデル化した機構モデルを組み込んだ機能モデルは、図69となる。
【0432】
図69の機能モデルは、供給要素と流動損失特性の基本機能要素が組み合わせてある。また、機構モデルは、モータの巻線抵抗の消費電力PMを機構モデルに与え、機構モデルから温度上昇による巻線抵抗RMの更新値を機能モデルに与えている。また、同図の巻線抵抗RMの出力位差量には、温度上昇Txが温度エネルギーとして蓄積されている。
【0433】
図69の機能モデルは、次の支配方程式となる。
【0434】
【数104】

【0435】
(5)シミュレーション結果
図69の機能モデルについて表11の特性値でシミュレーションを行なった結果は、図70になる。
【0436】
シミュレーションは、0[sec]で12[V]の電圧を加えて1500[sec]で切った時の結果である。この時の電流は、モータの回転が固定されたロック状態を想定して入力電圧VMiを0[V]にした。図70において、電源ON後の温度上昇によって目標値TUが低下するのは、温度上昇によって巻線の抵抗値が増加し、消費電力が低下するためである。そして、時間の経過と共にTUとTxが一致して加熱と放熱がバランスした定常状態になっている。
【0437】
【表11】

【0438】
14.正特性サーミスタ
(1) 過負荷保護機能の概要
モータは、機械系の出力に接続される機器によって過負荷と強制停止が起こる。このときモータの巻線抵抗には、起動電流に近い過大電流が流れ、これが長時間続くとモータは加熱し焼損する。この過負荷については、モータのトルクと電流がモータ定数Mに比例することから、この電流を検出して抑制する機能があれば焼損が防止できる。その方法には、過電流で溶断する簡単なフューズから電子的に遮断する複雑な方法まで色々あるが、ここでは、自動車用小型モータに良く使われる正特性抵抗素子1個でモータの過電流を検出して焼損を防止する方法について検討する。尚、ここでは、この正特性抵抗素子を正特性サーミスタと呼ぶことにし、その外観形状を図71に示す。
【0439】
正特性サーミスタは、温度が低いとき抵抗値が小さく、高いときに大きくなる非線形特性を持っている。この特性から、モータ電流が許容範囲内のときは正特性サーミスタの抵抗値が小さく、過負荷では過大電流による自己加熱で抵抗値が増加して電流が抑制される。この働きは、温度依存性を持つ正特性サーミスタの非線形抵抗特性を利用して、過電流の検出と同時に遮断する無接点式スイッチとなっている。
(2) 過負荷保護の機能モデル
モータに正特性サーミスタを直列に接続して、直接モータ電流I(I)を流す過電流保護の機能モデルは、図72となる。
【0440】
図72は、抵抗Rが正特性サーミスタの非線形抵抗、tが静特性サーミスタの温度、tが周囲温度である。同図で示す過負荷保護特性の機構モデルは、正特性サーミスタが過電流を検出して抑制する非線形抵抗値を生成し、これをRに代入する。また、この機能モデルは、VとIがモータと接続し、VとIが電源側の操作スイッチと接続する。
【0441】
図72の過負荷保護の機能モデルは、次の支配方程式となる。
【0442】
【数105】

【0443】
(3) 正特性抵抗素子の機構モデル
モータの過負荷保護を行なう正特性サーミスタの非線形抵抗特性は、図73の温度―抵抗比特性で表すことができる。
【0444】
図73において、正特性サーミスタの温度tに対する抵抗比の関係は、低温側に比べて高温側の変化が激しいため、抵抗比を対数で表してある。特性は、25[℃]の基準温度の抵抗比を1とし、抵抗比が2倍になる温度を抵抗変態点として特性が定義される。図中の網掛で示す領域は、使用する正特性サーミスタの公差範囲である。この時の正特性サーミスタの温度特性は、図73で示すように低温側は負特性を示し、抵抗変態点付近から上の高温側では正特性となる複合特性になっている。モデル化にあたっては、この複合された2つの特性を合成した近似式で表すことにする。
【0445】
低温側の抵抗比は、温度の逆数で表される負特性サーミスタの一般式から、以下のようになる。
【0446】
【数106】

【0447】
高温側の抵抗比は、式(106)で示す温度項を反比例から比例にした、正特性の近似式で表すことにする。式は次のようになる。
【0448】
【数107】

【0449】
式(106)と式(107)により、正特性サーミスタの非線形抵抗の近似式は、以下のようになる。
【0450】
【数108】

【0451】
ここで、tは、正特性サーミスタの温度[℃]
は、温度tにおける抵抗値[Ω]
PSは、基準温度25[℃]における基準抵抗値
ΨP_L、ΨP_Hは、低温側と高温側の抵抗比
PLは、抵抗比が1になる基準温度[℃]
PHは、高温側に遷移する抵抗変態点の温度[℃]。
PLは、負特性サーミスタのB特性に相当する定数[K]
PHは、正特性サーミスタのB特性と仮定した定数[K]
素子メーカが公開している正特性サーミスタの特性値を表12に示す。この特性を式(106)と式(107)に適用した抵抗特性を、図73のハッチングされた太線で示す。
【0452】
【表12】

【0453】
図73において、モータ巻線が損傷しない抵抗変態点の100[℃]付近までは抵抗変化も少なく低抵抗となっているが、モータに過負荷電流が流れると正特性サーミ抵抗の消費電力Pが増加して、そのジュール熱で自己加熱を起こす。この自己加熱は、更に正特性サーミスタの温度上昇tPUを伴い、抵抗変態点付近から抵抗値が急激に増加して更に加熱が進む。しかし、急激な抵抗値増加でモータ電流は減少し、正特性サーミスタの加熱と放熱の平衡点で安定し温度tに落ち着く。この時の電流は、モータが焼損する上限に対し少ない値を維持する。
【0454】
次に、過負荷保護を支配している正特性サーミスタの自己加熱と放熱については、前で述べたモータ巻線と同様に温度上昇tPU[deg]を熱放散定数δ[W/deg]から求める。また温度上昇tPU[deg]の途中経過は、正特性サーミスタの熱時定数τから求め、これに周囲温度t[℃]を加えたものが正特性サーミスタに蓄積される温度t[℃]となる。また、tは雰囲気温度[℃]である。これらの関係を機構モデルで表すと図74になる。
【0455】
(4) モータロック状態の定常機能モデル
ここでは、モータ回転が強制的に停止したときの、モータロック状態の過電流と正特性サーミスタの挙動を検討し、過負荷保護特性の実用性を検証する。モータロック状態の条件を織り込んだ定常機能モデルを、図75に示す。
【0456】
図75において、R・Rはロック電流I0_Lによる自己加熱で抵抗値が変化し、その他は変化しない。同図のブラシ電圧降下EMBについては、モータが停止状態なのでEMB=0とすべきであるが、停止中も電機子が微振動を起こすのでブラシ電圧降下を考慮する。また、同図は、誘起電圧Vwを発生しないので、直列接続の各電気抵抗が直接電池に接続されて、モータには過大なロック電流I0_Lが流れる。
【0457】
図75の機能モデルの数学モデルは、次式となる。
【0458】
【数109】

【0459】
式(109)は、電源がON状態なので操作スイッチはSWE=SWA=1となっている。
【0460】
(5) シミュレーション結果
図75の機能モデルと各機構モデルを表13のパラメータで行ったシミュレーション結果を図76に示す。尚、表13のモータ巻線抵抗の熱放散係数δ・熱時定数τと正特性サーミスタの熱放散係数δと熱時定数τについては、重点をモータ電流の精度においた同定で求めた。
【0461】
【表13】

【0462】
図76の上側は、正特性サーミスタの電流I0_L[A]・電圧V[V]を細く濃い線の実測データと太く薄い線の計算結果を表し、これに消費電力W[W]の計算結果が追加されている。2番目は、モータロック電流Io_L[A]の実測値と計算結果の電流偏差ΔIERR[A]である。3番目は、正特性サーミスタの温度t[℃]と抵抗R[Ω]の計算結果である。4番目は、モータの巻線温度t[℃]、巻線抵抗R[Ω]、消費電力Wの計算結果で、巻線抵抗R[Ω]については基準温度25[℃]の抵抗RMS[Ω]との差で表してある。図中の縦の点線は、t=100[℃]の抵抗変態点を示し、この点を境に各特性が急激に変化している。この結果から、非線形モデルの同定結果は、実測データと良く一致していることがわかる。
【0463】
図76の結果について解釈を加える。正特性サーミスタの挙動は、14.5[sec]のところで抵抗変態点に達し、ここから電流が急激に下がり電圧は上昇している。これは、この抵抗変態点を境にモータの過電流が遮断され始めることを意味する。この時の遮断状態(右端の値)は、電流Io_L=0.21[A]・電圧V=9.65[V]・抵抗R=45.9[Ω]となり約92倍増加している。また消費電力Wは、電流は減少するが電圧が高いので、正特性サーミスタの温度t=134.2[℃]を維持するための電力W=2.14[W]が供給されている。モータ巻線の状態は、巻線の最高温度がt=71.7[℃]で抵抗変態点から右側の遮断領域では温度t=32.7[℃]・消費電力W=0.144[W]に低下し、巻線の焼損を防止することが判る。
【0464】
熱放散係数δ・熱時定数τと熱放散係数δ・熱時定数τの同定は、前に述べたモータ特性と同じ方法で行った。この時の概要を述べると、以下のようになる。図76におけるロック電流I0_Lが強制停止後徐々に低下するのはモータ巻線の熱放散係数δと熱時定数τの影響による。また抵抗変態点に達する時間は、正特性サーミスタの熱放散係数δと熱時定数τに強く支配されている。両者を±10[%]変化した時の抵抗変態点に達する時間は、δが15.8(+9.2%)〜13.1(−9.4%)[sec]、τが16.24(+12.3%)〜12.8(−11.5%)[sec]である。参考としてモータ巻線の場合を示すと、δが14.36(−0.7%)〜14.56(+0.7%)、τが14.16(−2.1%)〜14.84(2.6%)[sec]となり抵抗変態点に対する影響が少ないことがわかる。尚、( )は、図76の抵抗変態点の時刻14.5[sec]に対する%値である。
【0465】
ここで行った同定は、前に述べた機能モデルの同定に対し、その内部特性を決定する機構モデルの同定を行ったこととなる。この方法は、非線形要素を含む機能・機構モデルを独立したモデルとして個別に同定できることを意味する。
(非線形を含む機能モデルの処理手順)
これまでに述べた内容を整理し、機能モデルとこれに組み込まれた機構モデルによるシミュレーションを実行する基本手順について、簡単に触れておく。
【0466】
まず、線形機能モデル(支配方程式)に組み込まれる非線形パラメータとスイッチ要素の機構モデル(数学モデル)は、事前に計算してその結果を代入して更新する。従って、処理手順は、最初に機構モデルを実行して代入量を求め、次に線形機能モデルを実行する。この手順を処理フローで示すと、図77となる。
【0467】
図77は、小規模な機能モデルの支配方程式を離散化して実行する時の基本的な処理の流れである。図中の計算開始から終了までの繰り返しは、標本化周期を単位として行ない、この中で推定観測量の予測計算を行なう。実際に運用されるコンピュータソフトウエアは、標準化された実行環境のソフトウエアモジュール中に、全系の機能・機構モデルモジュールが入れ子方式で組み込まれる。この時の各機構モデルは、標準関数として用意された機構モデル用モジュールを、使用目的に応じて呼び出しながら実行する。
【0468】
ここでは、計算の実行の準備として初期化を行なった後、計算が開始される(ステップa)。
【0469】
この計算では、次期標本化時期用の、非線形パラメータとスイッチ要素の機構モデルについて計算する。具体的には、非線形パラメータ算出のための機構モデルについて計算を実行し(ステップb)、条件判定を実行し(ステップc)、蓄積要素等の、線形機能モデル実行前の初期化を行なう(ステップd)。
【0470】
次に、上記のようにして求めた非線形パラメータやスイッチ要素の状態等を機能モデルへ代入し(ステップe)、上記の次期標本化時期に関し、機能モデルを実行する(ステップf)。
【0471】
さらに次にも標本化周期が続くときは(ステップg)、ステップhに移り、今計算した標本化周期の計算結果から、次の標本化周期の推定観測量の予測計算を行ない、その計算により求められた推定観測量が機構モデルに渡される。
【0472】
機構モデルではその推定観測量に基づいて、その推定観測量に対応する標本化時期に関する非線形パラメータ等の計算が実行され、機能モデルに渡される。
【0473】
これらの過程を繰り返すことで、非線形系を含む系の再現(シミュレーション)が行なわれる。
(参考資料)
1.モデル化の記号
(1)線形モデルの記号
モデルを表すブロック線図は、一般的なブロック線図の規則を踏襲し、これに図78に示す記号を加えてモデル化する。図78で示す記号は、主に線形のモデルで使用する。
(2)非線形モデルの記号
雑多の種類がある非線形のモデル化には、それぞれに応じた表現法あるが、要は、非線形性の内容・性質・働きなどをモデル化する規則と方法を明らかにして視覚的に理解し、かつ数学モデルに変換可能な表現であればモデル化の目的を満たす。図79に非線形のモデル化に使用する代表的な記号を示す。
(3)非線形の信号
(1)操作量
操作量とは、位差量・流動量以外の絶対値・符号・状態量の自乗などの変換された物理量と、スイッチ演算子などを操作する0(False)と1(True)などの論理的な信号を指す。ただし、入れ子構造にした機構モデルから組み込み相手の機能モデルのスイッチ要素を操作する場合は、次の代入量で表わすことが望ましい。尚、速度を積分した位置や変位なども、これで表わす場合がある。
【0474】
(2)代入量
代入量とは、機構モデルからパラメータに値を代入する線を指す。代入量の信号線名は、これらの非線形パラメータの変数名と同一名称にできる。この代入量によって機能モデルから機構モデルを独立させることができる。そして、この代入量の切り替が、非線形パラメータと機構モデルを入れ子方式にする。
(4)論理演算子
スイッチ要素には論理演算子を使用し、この操作に条件判定・推定観測量などを使用する。
【0475】
(a)推定観測量
条件判定などで一つ先の標本化周期の状態量を観測する記号がある。この記号が指定された状態量は、現時点(k)の支配方程式を実行後、内部状態量の従属変数を独立変数に代入して再度推定観測方程式を実行し、次の標本化時期(k+1)の状態量を推定する。この推定観測量が,ここで提案するモデル化手法で非線形要素をモデル化するために必要な概念の一つである。
(b)論理演算子
スイッチ要素に使用する論理演算子については、後で詳しく説明する。本論文では、スイッチ演算子を総称してスイッチ要素と呼ぶ。
(5)非線形演算子
非線形演算子は、機能モデルに組み込む機構モデルのモデル化を行うための記号で、主に観測量又は操作量の変換に使用する。
【0476】
(a)絶対値
状態量・操作量の符号を除いた絶対値を取り出す。数学モデルでは、blabs(A)などの表現で記述する。
【0477】
(b)符号
状態量・操作量から正負(±)の符号を取り出す。数学モデルでは、b=sign(a)などの表現で記述する。
【0478】
(c)2乗
状態量・操作量を2乗した値の操作量を生成する。この記号は、2個以上の入力を乗算する記号と同じで、1入出力のときは2乗記号となる。
【0479】
(d)初期化(積分)
初期化は、条件判定またはスイッチ要素を介して積分記号の値を初期化する。初期化の実行時期は、機構モデルやスイッチ要素を実行する前に行うが、実行後に行う場合もある。代表的な初期化の方法を、図80に示す。同図は、(a)の条件が不成立の時に積分値xを0にリセット、(b)の条件が成立した時に積分値xをBに初期化、(c)の条件が不成立の時に積分値xをBに初期化する方法である。これらの数学モデルは、以下のようになる。
【0480】
【数110】

【0481】
初期化のモデルには、積分記号と(a)の条件判定又は(b)・(c)のスイッチ記号の間に、条件判定で操作できない加算記号などのモデルを組み込んではならない。
【0482】
(e)条件判定
条件判定は、図79で示す推定観測量の記号で観測された次の標本化時期の観測量や、機構モデル内で生成された操作量からスイッチ要素の操作量を生成する記号で、条件判定式には、大小関係・等値関係・論理演算などの演算子を使用する。演算結果は、成立したとき1(true)を不成立のとき0(false)の操作量を出力する。この場合の操作量又は代入量を示す白抜きの矢印には、操作変数名がつけられる。また、本論文では、条件判定の数学モデルを、C言語など一般的に使用されているIF文で記述する。
(6)関数式
状態量・操作量の関数値を操作量として取り出す指定を行う。例えば関数名sin()の枠内にAを入力しBを出力する指定は、B=sin(A)の数学モデルを意味する。
(7)操作
モデルを外部から操作する信号を生成する。例えば、スイッチの操作などがある。
(8)ON−OFFスイッチ
一般的なON−OFFスイッチの働きを、電気系で使用される接点式開閉器と対応させて示すと、図81になる。
【0483】
同図の左側(a)に示すNOスイッチ(Normal Open Switch)は常時OFFのスイッチで、右(b)に示すNCスイッチ(Normal Close Switch)は常時ONのスイッチである。図81(a)のNOスイッチ要素の数学モデルは、次のようになる。
【0484】
【数111】

【0485】
図81(b)のNOスイッチ要素の数学モデルは、次のようになる。
【0486】
【数112】

【0487】
式(111)と(112)の上側が条件判定式、下側が状態量を操作するスイッチ要素の式である。式(111)のNOスイッチは、条件判定式OPが成立した時スイッチ要素SWONが1になりONにする。成立しない時はSWONが0になりOFFにする。また、式(112)のNCスイッチは、式(111)とは逆に条件判定式OPが不成立の時SWOFFが1になってスイッチONにし、成立した時SWONが0になりスイッチOFFにする。
(9)論理積・論理和
論理積(AND)と論理和(OR)は、ファジー演算のMini−Max法の論理積と論理和に対応する論理演算である。論理積は、入力された状態量の最小値を選択して出力する機能をもつ記号で、図82と図83が2入力論理積と論理和をスイッチ要素と対比して表した例である。
【0488】
図82において、論理積の内部には出力を共通にするNOスイッチ要素群とその中の最小状態量を選択する条件判定を持ち、図83において、論理和は最大状態量を選択する条件判定を持つ。両者は、条件判定の判定式以外、同一モデルである。
【0489】
図82(b)の論理積の数学モデルは、次のようになる。
【0490】
【数113】

【0491】
図83(b)の論理和の数学モデルは、次のようになる。
【0492】
【数114】

【0493】
2.線形モデルの基本機能要素
(1)状態量
状態量は、次の流動量と位差量に分けることができる。
1)位差量とは、電圧・速度・流速などのエネルギーを運ぶ媒質の移動量や多さを表す状態量を指す。
2)流動量とは、電流・力・流体圧力などの単位量の媒質が有するエネルギーの強さや量を表す状態量を指す。
【0494】
この流動量と位差量は、その対がエネルギーとなる組み合わせで使用する。例えば、電圧と電流の積が電力になり、速度と力の積が仕事率になることをモデル化に利用する。このことは、機能モデルの根幹がエネルギー原理にあり、系のモデルを位差量と流動量で表し、両者に関係する物理法則がモデル上で全て表せることを意味する。
【0495】
この位差・流動量は、その積分値をエネルギーの多さや強さの蓄積量とし、例えば機械系の移動位置と力積などに対応する。更に、熱力学のエントロピーを構成する内部エネルギーとして、気体の圧縮や抵抗損失などの熱エネルギーに関係する温度なども蓄積量となる。ここでは、これらを総称して蓄積状態量呼ぶ。また、位差量とその蓄積量で接続される系を位差系と呼び、同様に流動量の系を流動系と呼び、両者は互いに双対関係となる。この両系は、機械や電気理論の根幹であり、機械工学では流動系の力(圧力)を基本にして位差系の速度またはその積分量の距離(位置)を結果として扱い、電気工学では位差系の電圧を基本にして流動系の電流を結果として扱う理論体系と見ることができる。ここで述べるモデル化手法は、この位差・流動系を等価に扱い両者間の双対性を利用して、各工学分野の理論や法則を相互乗り入れして垣根を取り払う手法となっている。
(2)パラメータ
(a)特性
特性は、流動量と位差量を関係付けるものであり、系の性質を表す。エネルギーを蓄積する蓄積特性と電気抵抗や粘性減衰のようにエネルギー損失を伴う損失特性の2種類に分けられる。また、この特性は、位差量と流動量の積で表すエネルギー(運動エネルギ−)を生成し、同時に内部に生成された熱や位置などのエネルギーを生成する。この内部エネルギーは、温度や距離に変換して出力状態量に持たすことができる。尚、多次元空間で置かれる特性は、内部に作用方向を指定する座標情報を持つ。
【0496】
1)蓄積特性は、インダクタンスやばねこわさのように、流動量の変化をエネルギーとして蓄え位差量に変えるものと、電気容量や質量のように位差量の変化をエネルギーとして蓄え流動量に変えるものに分けられる。
【0497】
2)損失特性は、電気容量の漏洩抵抗や流体による粘性抵抗のように位差量に依存する損失を流動量に変えるものと、電気抵抗や材料圧縮による内部減衰のように流動量に依存する損失を位差量に変えるものに分けられる。
【0498】
(b)係数
係数とは、流動量同士または位差量同士を関係付ける数や量のことで、次の4種類に分けられる。
【0499】
1)変圧器巻数比や歯車比のように、同一の物理単位系同志を関係付ける無単位量。尚、数学モデル上に表れる値が1の係数の場合、要素間の直結を意味する。
【0500】
2)モータのトルク定数と速度定数・タイヤ半径・ピストン断面積など、異なる物理単位系同士を関係付ける有単位量。また、タイヤの回転と並進運動のように異なる物理単位系が直交する場合は、物理係数に座標変換の機能を必要とする。
【0501】
3)多次元座標空間で運動するリンク機構や車の運動などの状態量の座標系を変換する無単位量。
【0502】
4)損失率や制御系のゲインのように、対となる位差量または流動量の片側に係数を掛けてエネルギーの増減を伴う無単位量。
【0503】
上記1)〜3)の係数は、対となる位差量と流動量の双方に同一係数を掛け、エネルギーの増減を伴わないように変換する。この位差量と流動量に共通の意味を持つ係数を適用する変換係数の概念は、機能モデルの特長の一つであり、この概念が物理単位系を超えたモデル化、および同じモデル内に異なる物理単位系を同居させることを可能にする理由の一つである。また、蓄積特性や損失特性に対し、この係数は2乗で作用する重み係数の働きを持っている。
【0504】
(c)スイッチ要素
スイッチ要素とは、機能モデル内部の状態量を接続・開放する論理要素で、これが組み込まれた機能モデルは、モデル構造を変化させる非線形モデルとなる。この要素の係数値は、1(true)と0(false)または1・0・−1の無単位量で状態量を断続する特殊用法の係数と考えることができる。
(d)側負荷
側負荷とは、モデル内部で状態量の生成または吸収する働きをし、位差量と流動量に対応した2種類がある。この側負荷は、対にならない単独の位差量または流動量を全て側負荷とし、系内部から未拘束の状態量を排除する意味を持っている。
【0505】
1)電池の内部電圧・ダーオードの電圧降下・機器の周囲温度のように、位差量に対応したもの
2)摩擦トルク・クラッチの伝達トルク・一定の電流を供給する電流源のように、流動量に対応したもの
3)側負荷の働きは、電池の内部電圧のように状態量を生成する発生源と、摩擦トルクのように状態量を吸収する吸収源に分かれる。この両者はモデルに組み込まれることで生成または吸収の働きがきまる。
4)特殊な用途として、運転者などの操作や指示を信号として表す場合がある。
【0506】
以上説明したように、本発明によれば、製品や部品の非線形な挙動や振る舞いをモデル化して再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0507】
【図1】走行抵抗の機能・機構モデルを示す図である。
【図2】動摩擦力と走行抵抗の機能・機構モデルを示す図である。
【図3】走行抵抗の機能モデルを示す図である。
【図4】機構モデルの階層化(包含関係)を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態としての非線形特性再現装置が実現されたコンピュータの外観斜視図である。
【図6】図5に示すコンピュータのハードウェア構成図である。
【図7】記憶媒体に記憶された非線形特性再現プログラムの構成を示す模式図である。
【図8】記憶媒体に記憶された非線形特性再現プログラムの構成を示す模式図である。
【図9】記憶媒体に記憶された非線形特性再現プログラムの構成を示す模式図である。
【図10】記憶媒体に記憶された非線形特性再現プログラムの構成を示す模式図である。
【図11】記憶媒体に記憶された非線形特性再現プログラムの構成を示す模式図である。
【図12】本発明の第1の非線形特性再現装置の原理説明的な一実施形態を示す図である。
【図13】流動蓄積要素の非線形パラメーターを示す図である。
【図14】円錐バネの構造と荷重特性を示す図である。
【図15】円錐バネの機能モデルを示す図である。
【図16】空気圧シリンダーの構造モデルを示す図である。
【図17】空気圧シリンダーの機能モデルを示す図である。
【図18】空気圧シリンダーのシミュレーション結果を示す図である。
【図19】空気圧シリンダーのP−V・v−V線図を示す図である。
【図20】揺動機構の構造モデルを示す図である。
【図21】揺動機構の機能モデルを示す図である。
【図22】揺動機構の機能モデルを示す図である。
【図23】揺動機構のシミュレーション結果を示す図である。
【図24】非線形伝達係数Φbの角度特性を示す図である。
【図25】摩擦の構造モデルを示す図である。
【図26】摩擦の機能モデルを示す図である。
【図27】摩擦のシミュレーション結果を示す図である。
【図28】可変慣性モーメントの構造モデルを示す図である。
【図29】可変慣性モーメントの機能・機構モデルを示す図である。
【図30】可変慣性モーメントのシミュレーション結果を示す図である。
【図31】本発明の第2の非線形特性再現装置の原理説明的な一実施形態を示す図である。
【図32】ゼネバ機構の構造モデルを示す図である。
【図33】ゼネバ機構の機能・機構モデルを示す図である。
【図34】ゼネバ機構のシミュレーション結果(その1)を示す図である。
【図35】ゼネバ機構のシミュレーション結果(その2)を示す図である。
【図36】残量警告灯の構成を示す図である。
【図37】残量警告灯の電気回路を示す図である。
【図38】抵抗変化による無接点スイッチの特性を示す図である。
【図39】残量警告灯の機能モデルを示す図である。
【図40】残量警告灯の機能モデルを示す図である。
【図41】警告灯の電圧−電流特性モデルを示す図である。
【図42】サーミスタの外観形状を示す図である。
【図43】サーミスタの機構モデルを示す図である。
【図44】残量警告灯のステップ応答特性を示す図である。
【図45】液面揺動の応答特性を示す図である。
【図46】本発明の第3の非線形特性再現装置の原理説明的な一実施形態を示す図である。
【図47】がたの構造モデルを示す図である。
【図48】がたの機能・機構モデルを示す図である。
【図49】衝撃吸収用ダンパーの構造モデルを示す図である。
【図50】衝撃吸収用ダンパーの機能・機構モデルを示す図である。
【図51】衝撃吸収用ダンパーのシミュレーション結果を示す図である。
【図52】クラッチの構造モデルを示す図である。
【図53】クラッチのトルク伝達特性を示す図である。
【図54】クラッチ機能・機構モデルを示す図である。
【図55】シミュレーション用のクラッチモデルを示す図である。
【図56】クラッチのシミュレーション結果を示す図である。
【図57】ブレーキの構造モデルを示す図である。
【図58】ブレーキの機能モデルを示す図である。
【図59】ブレーキのシミュレーション結果を示す図である。
【図60】自動復帰機構の構成を示す図である。
【図61】自動復帰機構の機能モデルを示す図である。
【図62】減衰抵抗係数の非線形特性を示す図である。
【図63】空振り機構の構造を示す図である。
【図64】空振り機構の機能モデルを示す図である。
【図65】本発明の第4の非線形特性再現装置の一実施形態のブロック線図である。
【図66】図65に示す非線形特性再現装置の判定状態を示す図である。
【図67】図65に示す非線形特性再生装置の、ヒステリシスを持たせたときの判定状態を示す図である。
【図68】本発明の第5の非線形特性再現装置の原理説明的な一実施形態を示す図である。
【図69】巻線温度上昇の機能モデルを示す図である。
【図70】巻線温度上昇のシミュレーション結果を示す図である。
【図71】正特性サーミスタの外観形状を示す図である。
【図72】過負荷保護の機能モデルを示す図である。
【図73】正特性サーミスタの抵抗比特性を示す図である。
【図74】正特性サーミスタの機能モデルを示す図である。
【図75】モータロックの機能モデルを示す図である。
【図76】モータロックのシミュレーション結果を示す図である。
【図77】機能・機構モデルの実行順を示す図である。
【図78】機能モデルの主な記号を示す図である。
【図79】非線形の記号を示す図である。
【図80】積分量(記号)の初期化を示す図である。
【図81】ON-OFFスイッチを示す図である。
【図82】論理積のモデルを示す図である。
【図83】論理和のモデルを示す図である。
【符号の説明】
【0508】
10 コンピュータ
11 本体部
11a FD装填口
11b CDROM装填口
12 表示部
12a 表示画面
13 キーボード
14 マウス
51 フロッピィディスク
52 CDROM
53 ハードディスク
110 バス
111 CPU
112 RAM
113 ハードディスクコントローラ
114 フロッピィディスクドライブ
115 CDROMドライブ
116 マウスコントローラ
117 キーボードコントローラ
118 ディスプレイコントローラ
200,300,400,500,600 記憶媒体
210,310,410,510,610 非線形特性再現プログラム
220 状態量変換部
230 非線形特性再生部
320 線形モデル部
330 非線形モデル部
331a,331b,331n 非線形変換部
420 論理判定部
430 状態量切替部
520 状態変動推定部
530 状態偏差検出部
540 安定状態判定部
550 状態量切替部
610 非線形特性再現プログラム
620 線形モデル部
621 状態量変換部
630 非線形モデル部
631 緩慢変化再生部
631a 定常値設定部
631b 正規化応答部
632 特性生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に線形変換する状態量変換部を含む、線形系の特性を再現する線形モデル部と、
前記線形モデル部から、所定の第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量を取得し該推定観測量に基づいて前記変換パラメータを生成して前記状態量変換部に設定する非線形モデル部とを備え、
前記非線形モデル部が、
前記線形モデル部から前記第1の観測状態量と同一もしくは異なる所定の第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測値を取得し、該第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、相対的に緩慢な挙動変化を示す第1の非線形系の特性が反映された緩慢変化状態量を生成する緩慢変化再生部と、
前記線形モデル部から取得した前記第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量と、前記緩慢変化再生部で生成された前記緩慢変化状態量とに基づいて、相対的に急激な挙動変化を示す第2の非線形系の特性が反映された変換パラメータを生成して前記状態量変換部に設定する特性生成部とを有するものであることを特徴とする非線形特性再現装置。
【請求項2】
前記緩慢変化再生部は、
前記第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、前記緩慢変化状態量の、前記線形モデル部の状態が現状のまま継続したとした場合の無限時間経過後の定常値を求める定常値設定部と、
前記定常値設定部で求められた前記緩慢変化状態量の定常値と、既知の、前記第1の非線形系における前記緩慢変化状態量の、正規化された時間変化特性とに基づいて、該第1の非線形系の特性が反映された、前記特性生成部に渡す緩慢変化状態量を生成する正規化応答部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の非線形特性再現装置。
【請求項3】
前記非線形特性再現装置が、温度変化に応じて抵抗値が変化する素子を有する系の特性を再現する装置であって、
前記状態量変換部は、抵抗値を表わす変換パラメータが設定され該抵抗値を持つ素子に印加された電圧と該素子に流れる電流との間の変換を行なうものであり、
前記定常値設定部は、前記素子で消費されるエネルギーの、次期標本化時期における推定観測量に基づいて、該素子の温度の、該素子で消費されるエネルギーが現状のまま継続したとした場合の無限時間経過後の定常値を求めるものであり、
前記正規化応答部は、前記定常値設定部で求められた、前記素子の温度の定常値と、既知の、前記素子で消費されるエネルギー変化に対する該素子の温度の時間変化を表わす正規化されたステップ応答曲線とに基づいて、前記素子の温度を求めるものであり、
前記特性生成部が、前記正規化応答部で求められた温度に基づいて前記素子の抵抗値を表わす変換パラメータを生成して前記状態量変換部に設定するものであることを特徴とする請求項2記載の非線形特性再現装置。
【請求項4】
前記正規化応答部が、さらに周囲温度の観測量にも基づいて、前記素子の温度を求めるものであることを特徴とする請求項3記載の非線形特性再現装置。
【請求項5】
第1の状態量を第2の状態量に線形変換する線形抵抗損失部を含む、線形系の特性を再現する線形特性再現部と、
前記線形特性再現部から、所定の第1あるいは第2の状態量の次期標本化時期の推定観測量を取得し該推定観測量に基づいて変換パラメータを生成する非線形抵抗生成部とを備え、
前記非線形抵抗生成部は、前記線形特性再現部から、相互に非線形の関係にある第1の状態量および第2の状態量のうちの少なくとも一方の状態量あるいは該状態量から導出される状態量の、次期標本化時期の推定観測量を取得して、前記第1の状態量と前記第2の状態量との間の、該次期標本化時期における変換に用いられる変換パラメータを求め、前期線形特性再現部の線形抵抗損失部に設定することを特徴とする非線形抵抗再現装置。
【請求項6】
複数の前記線形特性再現部の線形抵抗損失部が、第1の状態量である電流を共有し第2の状態量である電圧を個別に生成する構成において、
前記第1の状態量である電圧あるいは第2の状態量である電流の次期標本化時期の推定観測量に基づいて、前記線形特性再現部が該次期標本化時期における変換に用いられる変換パラメータを導出して、線形特性再現部の線形抵抗部に設定することを特徴とする請求項5記載の非線形抵抗再現装置。
【請求項7】
前記線形特性再現部から取得した前記第1の状態量もしくは第2の状態量から導出した推定観測量を取得し、該第2の状態量もしくは推定観測量が、相対的に緩慢な挙動変化を示す前記非線形抵抗生成部において、非線形系の特性が緩慢に変化する状態量を反映された緩慢変化状態量を生成する緩慢変化再生部と、
前記線形特性再現部から取得した前記第1の状態量もしくは第2の状態量の次期標本化時期の推定観測量と、前記緩慢変化再生部で生成された前記緩慢変化状態量とに基づいて、相対的に急激な挙動変化を示す特性が反映された変換パラメータを生成して前記線形特性再現部の線形抵抗部に設定する特性生成部を有することを特徴とする請求項5記載の非線形抵抗再現装置。
【請求項8】
前記緩慢変化再生部は、
前記第2の状態量もしくは推定観測量に基づいて、前記緩慢変化状態量の、前記線形特性再現部の状態が現状のまま継続したとした場合の無限時間経過後の前記緩慢変化状態量の定常値を求める定常値設定部と、
前記定常値設定部で求められた前記緩慢変化状態量の定常値と、非線形系における既知の前記緩慢変化状態量の、正規化された時間変化特性とに基づいて、非線形系の特性が反映された、前記緩慢変化再生部に渡す緩慢変化状態量を生成する正規化応答部とを備えたことを特徴とする請求項7記載の非線形抵抗再現装置。
【請求項9】
前記非線形抵抗再現装置が、温度変化に応じて抵抗値が変化する素子を有する系の特性を再現する装置であって、
前記緩慢変化再生部は、抵抗値を表わす変換パラメータが設定され該抵抗値を持つ素子に印加された電圧と該素子に流れる電流との間の変換を行なうものであり、
前記定常値設定部は、前記素子で消費されるエネルギーの、次期標本化時期における推定観測量に基づいて、該素子の温度の、該素子で消費されるエネルギーが現状のまま継続したとした場合の無限時間経過後の定常値を求めるものであり、
前記正規化応答部は、前記定常値設定部で求められた、前記素子の温度の定常値と、既知の、前記素子で消費されるエネルギー変化に対する該素子の温度の時間変化を表わす正規化されたステップ応答曲線とに基づいて、前記素子の温度を求めるものであり、
前記緩慢変化再生部が、前記正規化応答部で求められた温度に基づいて前記素子の抵抗値を表わす変換パラメータを生成して前記線形特性再現部の線形抵抗部に設定するものであることを特徴とする請求項8記載の非線形抵抗再現装置。
【請求項10】
前記正規化応答部が、さらに周囲温度の観測量にも基づいて、前記素子の温度を求めるものであることを特徴とする請求項9記載の非線形抵抗再現装置。
【請求項11】
コンピュータを、非線形系を含む系の特性を再現する非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムが記憶された非線形特性再現プログラム記憶媒体において、
前記コンピュータを、
設定された変換パラメータに基づいて、第1の状態量を第2の状態量に線形変換する状態量変換部を含む、線形系の特性を再現する線形モデル部と、
前記線形モデル部から、所定の第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量を取得し該推定観測量に基づいて前記変換パラメータを生成して前記状態量変換部に設定する非線形モデル部とを有し、
前記非線形モデル部が、
前記線形モデル部から前記第1の観測状態量と同一もしくは異なる所定の第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測値を取得し、該第2の観測状態量の観測量もしくは推定観測量に基づいて、相対的に緩慢な挙動変化を示す第1の非線形系の特性が反映された緩慢変化状態量を生成する緩慢変化再生部と、
前記線形モデル部から取得した前記第1の観測状態量の次期標本化時期の推定観測量と、前記緩慢変化再生部で生成された前記緩慢変化状態量とに基づいて、相対的に急激な挙動変化を示す第2の非線形系の特性が反映された変換パラメータを生成して前記状態量変換部に設定する特性生成部とを有する非線形特性再現装置として動作させる非線形特性再現プログラムを記憶してなることを特徴とする非線形特性再現プログラム記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【図75】
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【図76】
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【図77】
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【図78】
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【図79】
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【図80】
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【図81】
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【図82】
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【図83】
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【公開番号】特開2007−149124(P2007−149124A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38595(P2007−38595)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【分割の表示】特願2000−111256(P2000−111256)の分割
【原出願日】平成12年4月12日(2000.4.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成11年4月25日 社団法人日本機械学会発行の「日本機械学会論文集C編第65巻632号」に発表
【出願人】(599149407)
【出願人】(597118371)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】