説明

面状発熱体

【課題】薄肉でかつ高いPTC特性を有するとともに、高信頼性を有する面状発熱体を提供する。
【解決手段】不織布6と、前記不織布6にカレンダー加工により薄膜状に貼り合わされたPTC抵抗体5と、20mmから250mmの間隔で前記PTC抵抗体5と電気的に接続された一対の電極8と、前記不織布6と前記PTC抵抗体5と前記電極8を両面よりホットメルト接着剤4を介して被覆する2枚のポリエステルフィルム2,3と、前記ポリエステルフィルム2,3の外側の少なくとも一面に接着された熱伝導性部材11とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉で環境に優しく、EV用の暖房やリチウムイオンバッテリー加温に適したPTC特性を有する面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の面状発熱体には、ベースポリマーと、カーボンブラック、金属粉末、グラファイトなどの導電性物質を溶媒に分散して抵抗体インクとして、これを基材に印刷・乾燥して通電により発熱する抵抗体組成物を用いている。特にベースポリマーとして結晶性樹脂を用いてPTC特性を持たせたものが多い(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0003】
図4は従来のPTC特性を持たせた面状発熱体の平面図(a)、x−y線の断面図(b)である。図4に示したように、面状発熱体は、ポリエステルフィルムなどの電気絶縁性の基材50上に、銀ペースト等の導電性ペーストを印刷・乾燥して得られる一対の櫛形状電極51、52と、これにより給電される位置に高分子抵抗体インクを印刷・乾燥して得られる高分子抵抗体53を設け、さらに基材50と同様の材質の被覆材54で櫛形状電極51、52及び高分子抵抗体53を被覆して保護する構成としたものである。
【0004】
基材50及び被覆材54としてポリエステルフィルムを用いる場合には、被覆材54に例えば変性ポリエチレン系の熱融着性樹脂55を予め接着しておき、熱を与えながら加圧する(熱時加圧)ことにより、基材50と被覆材54とを熱融着性樹脂55を介して接合される。これにより、櫛形状電極51、52及び高分子抵抗体53は外界から隔離され、長期信頼性を付与されるのである。
【0005】
PTC特性とは、温度上昇によって抵抗値が上昇し、ある温度に達すると抵抗値が急激に増加する抵抗温度特性(抵抗が正の温度係数を有する意味の英語 Positive Temperature Coefficient の頭文字を取っている)を意味しており、PTC特性を有する高分子抵抗体53は、自己温度調節機能を有する面状発熱体を提供できる。
【0006】
また、抵抗体組成物をインクとしてではなく、結晶性樹脂をベースポリマーとして、これにカーボンブラックやグラファイトなどの導電性物質を混練して作製された混練物を電極ケーブルとともに押し出し成型して形成したものもある。凍結防止用ヒータとして用いられている。図5に従来のケーブル状発熱体の断面図を示した。
【0007】
電極ケーブル55を平行に押し出し機のダイスより引き出しながら、同時にその周囲に抵抗体混練物56を押し出し被覆して、続いてこの周囲に絶縁被覆材57を被覆して構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−13689号公報
【特許文献2】特開平6−96843号公報
【特許文献3】特開平8−120182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の構成では、用いられる抵抗体組成物の比抵抗は通常1000
0Ω・cm以上であり、そのため、例えば、自動車用としてDC駆動の発熱体に用いる場合には、数ミリメートル間隔とする櫛形電極のように非常に近接して給電する構成となっていた。通常、櫛形電極は銀ペーストに印刷・乾燥により形成されるので高価なものとなっていた。
【0010】
一方、押し出し成型による発熱体では、インクに供するものに比べてミリメートル単位の厚肉となるとともに、電極ケーブル間が近接した構成となり面状発熱体と言えるものではなかった。
【0011】
上記従来の技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、薄肉でかつ低比抵抗を有するPTC特性を有し、かつ信頼性の高い面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の面状発熱体は、不織布と、前記不織布にカレンダー加工により薄膜状に貼り合わされたPTC抵抗体と、20mmから250mmの間隔で前記PTC抵抗体と電気的に接続された一対の電極と、前記不織布と前記PTC抵抗体と前記電極を両面よりホットメルト接着剤を介して被覆する2枚のポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの外側の少なくとも一面に接着された熱伝導性部材とからなる。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、カレンダー加工によりPTC抵抗体を薄膜状とするとともに、電極間を広くできるため、インクのように溶剤を使用することなく、すなわち環境に優しく薄肉で、電極使用量を削減できるため低コスト化を実現できる面状発熱体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態における面状発熱体を示す平面図・断面図
【図2】本発明のカレンダー加工を示す概略図
【図3】本発明のラミネート加工を示す概略図
【図4】従来の面状発熱体を示す平面図
【図5】従来のケーブル状発熱体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の面状発熱体は、不織布と、前記不織布にカレンダー加工により薄膜状に貼り合わされたPTC抵抗体と、20mmから250mmの間隔で前記PTC抵抗体と電気的に接続された一対の電極と、前記不織布と前記PTC抵抗体と前記電極を両面よりホットメルト接着剤を介して被覆する2枚のポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの外側の少なくとも一面に接着された熱伝導性部材とからなる。
【0016】
この構成により、カレンダー加工によりPTC抵抗体を薄膜状とするとともに、電極間を広くできるため、インクのように溶剤を使用することなく、すなわち環境に優しく薄肉で、電極使用量を削減できるため低コスト化を実現できる面状発熱体を提供できる。
【0017】
また、本発明の面状発熱体は、不織布として開口部を有するメッシュ状ポリエステル製不織布を用いてなる。
【0018】
この構成により、メッシュ状不織布が開口部を有し、繊維同士が絡まっている(水流交絡)だけであるので、カレンダー加工時のPTC抵抗体の溶融温度での熱収縮を繊維のずれで吸収できるので、仕上がりのきれいなカレンダー品としてPTC抵抗体を提供できるので、ホットメルト接着剤付のポリエステルフィルムを用いたラミネート等の後工程の容
易な面状発熱体を提供できる。
【0019】
また、本発明の面状発熱体は、少なくとも100℃以下の融点を有する低融点結晶性樹脂と100℃以上の融点を有する高融点結晶性樹脂とからなる樹脂組成物と、少なくとも2種類のカーボンブラックからなる導電体と、離型剤と、分散安定剤と、反応性添加剤とからPTC抵抗体を構成してなる。
【0020】
この構成により、低融点結晶性樹脂でPTC特性の発現を、高融点結晶性樹脂で耐熱性を、2種類のカーボンブラックでPTC特性を、離型剤と分散安定剤でカレンダー加工時の離型性とPTC抵抗体混練物のまとまりを、反応性添加剤で樹脂とカーボンブラックとの結合を付与することができて、PTC特性の設定が容易で、かつカレンダー加工に適した抵抗安定性の高い面状発熱体を提供できる。
【0021】
また、本発明の面状発熱体は、樹脂組成物を、低融点結晶性樹脂と高融点結晶性樹脂と無水マレイン酸変性結晶性樹脂とから構成してなる。
【0022】
この構成により、無水マレイン酸変性結晶性樹脂で、低融点結晶性樹脂と高融点結晶性樹脂間とを結合するとともに、低融点および高融点結晶性樹脂とカーボンブラックからなる導電体とを結合して、抵抗値安定性の高い面状発熱体を提供できる。
【0023】
また、本発明の面状発熱体は、樹脂組成物を、0から60%の低融点結晶性樹脂と、30から85%の高融点結晶性樹脂と、15から40%の無水マレイン酸変性結晶性樹脂とから樹脂分を構成してなる。
【0024】
この構成により、低融点結晶性樹脂のPTC特性の発現温度と、高融点結晶性樹脂による耐熱性付与度合いと、無水マレイン酸変性結晶性樹脂による抵抗安定性を調節可能な面状発熱体を提供できる。
【0025】
また、本発明の面状発熱体は、導電体として、1次粒子径が10から30ナノメートルのカーボンブラックAと1次粒子径が60から150ナノメートルのカーボンブラックBとグラファイトを組み合わせて用いてなる。
【0026】
この構成により、抵抗安定性と導電性をカーボンブラックAで、PTC特性をカーボンブラックBで、導電性、PTC特性、および熱伝導性をグラファイトで発揮できる導電体とすることができる。
【0027】
また、本発明の面状発熱体は、グラファイトとして、薄片化グラファイトまたは球状化グラファイトを単独もしくは組み合わせて用いてなる。
【0028】
この構成により、PTC特性を、カーボンブラックだけではなく、グラファイトによっても調節できて、PTC特性の調節幅の広い面状発熱体を提供できる。
【0029】
また、本発明の面状発熱体は、離型剤として反応性シリコーンオイル、分散安定剤としてアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン、反応性添加剤としてカップリング剤を用いてなる。
【0030】
この構成により、反応性シリコーンオイルがカレンダー加工時ロール離型性を付与するとともにPTC抵抗体混練物との親和性を発揮することができる。また、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが、アクリル部を蜘蛛の巣状にPTC抵抗体中に張り巡らせてPTC抵抗体混練物のまとまりを発揮してカレンダー加工適正を高めることができる。さ
らに、カップリング剤により導電体と結晶性樹脂間に化学結合を生じて、抵抗安定性の高い面状発熱体を提供できる。
【0031】
また、本発明の面状発熱体は、電極として、錫メッキ銅集合撚り線、または被覆抵抗体で被覆された錫メッキ銅集合撚り線、ホットメルト接着剤として結晶性ポリエステル樹脂を用いてなる。
【0032】
この構成により、電極として、錫メッキ銅集合撚り線を単独で用いることができれば低コストの電極を提供することができる。また、単独で使用が難しい場合に、被覆抵抗体を仲立ちとしてPTC抵抗体と錫メッキ銅集合撚り線を電気的に接続することができる。
【0033】
また、本発明の面状発熱体は、少なくとも100℃以上の融点を有する高融点結晶性樹脂と、カーボンブラックと導電性繊維とカーボンナノチューブとからなる導電体と、分散安定剤と、反応性添加剤とから被覆抵抗体を構成してなる。
【0034】
この構成により、カーボンナノチューブの高コスト・高導電性と、導電性繊維の難燃性・スパーク発生防止性能・低導電性と、カーボンブラックの低コスト・中導電性のバランスの取れ、PTC特性不要な多被覆抵抗体を提供できる。
【0035】
また、本発明の面状発熱体は、被覆抵抗体として、導電体と反応性添加剤とを予め前熱処理したものを用いてなる。
【0036】
この構成により、導電体と反応性添加剤とを予め前熱処理したことにより、反応性添加剤の反応を終了させることができるので、錫メッキ銅集合撚り線の周囲に被覆抵抗体を押し出し加工する際に、反応時に発生する気泡を消滅させて、表面の綺麗な被覆抵抗体を作製することができる。
【0037】
また、本発明の面状発熱体は、熱伝導性部材として、アルミニウムのフィルム、板材のいずれか、または両方を用いてなる。
【0038】
この構成により、PTC抵抗体の温度分布の均一化を図り、ヒートスポットの発生の無い耐久性に優れた面状発熱体を提供できる。
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0040】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における面状発熱体を示す平面図(a)と断面図(b)である。なお、断面図(b)では、わかりやすいように積層状態を示している。実際はこれら全て熱融着された一体物となる。
【0041】
図1において、面状発熱体1は、2枚のポリエステルフィルム、例えば、188μm厚みの厚肉ポリエステルフィルムA2と50μm厚みの薄肉ポリエステルフィルムB、どちらもTダイ押し出し法によりホットメルト接着剤4として結晶性ポリエステル樹脂(商品名「バイロン GM920」、融点110℃、東洋紡績(株)製)が55マイクロメートルの厚みで設けられている。
【0042】
PTC抵抗体5は、カレンダー加工により薄膜状に約100μmの厚みでメッシュ状ポリエステル製不織布6に貼り合わされており、このPTC抵抗体カレンダー品7のPTC抵抗体5と、電極8としての被覆抵抗体9で押し出し加工により被覆された錫メッキ銅集
合撚り線10が電気的に接続される。具体的には、ラミネート加工によりホットメルト接着剤付ポリエステルフィルムA2とホットメルト接着剤付ポリエステルフィルムB3の間に約40mmの間隔で一対の電極8を配置して、この電極8とPTC抵抗体5が近接された状態でラミネートされることにより実現される。ラミネート機のゴムロール温度は180℃〜200℃の間の設定であり、この温度では、ホットメルト接着剤4、PTC抵抗体5、被覆抵抗体9は溶融しており、錫メッキ銅集合撚り線10と被覆抵抗体9とPTC抵抗体5は熱融着されるとともに、その周囲はホットメルト接着剤付のポリエステルフィルム2および3で被覆される。11は熱伝導性部材としてのアルミ板であり、接着剤でポリエステルフィルムAに貼り合わされている。
【0043】
図2はカレンダー加工の状態を示している。6本の150℃に設定されたカレンダーロール12を設けて、頭頂部のカレンダーロール12AとBの間に溶融したPTC抵抗体5を投入する。溶融プロセスは、熱ロールや押し出し機により行われる。
【0044】
投入されたPTC抵抗体5は、カレンダーロール12B・C・D・Eを経て、その間に次第に膜厚が薄くなり、最終のカレンダーロール12Fに至り約100μm厚みとなるように調節される。この安定した状態で、下部からメッシュ状ポリエステル製不織布6をタッチロール13でカレンダーロール12Fに押し当てることにより、PTC抵抗体5の薄膜をカレンダーロール12からメッシュ状ポリエステル製不織布6に転写して、メッシュ状ポリエステル製不織布6に一部食い込んだ形でPTC抵抗体5の薄膜が形成される。これを冷却して一定速度で巻き取る形でPTC抵抗体5のカレンダー品14が作製される。
【0045】
図3は、ラミネート加工の状態を示している。15はシリコンゴム被覆のラミネートロールで約180℃に設定されている。ホットメルト接着剤付ポリエステルフィルムA2をラミネートロール15の下部に、ホットメルト接着剤付ポリエステルフィルムB3はラミネートロール15の上に設けて、そこからラミネートロール15に引き込む構成としている。ラミネートロール15との接触面はポリエステルフィルム、その反対面はホットメルト接着剤である。
【0046】
このホットメルト接着剤付ポリエステルフィルムA2とB3間に電極8を一定間隔で投入し、その電極8とポリエステルフィルムA2の間にPTC抵抗体5が電極8と接触するようにカレンダー品14を投入し、その状態で2本のラミネートロール15の間に導入する。そして、ラミネートロール15の線圧でポリエステルフィルムA2とB3間にホットメルト接着剤を介してPTC抵抗体5と電極8が密封された状態、すなわち、ラミネート品16を得ることができる。なお、ラミネート温度はラミネート速度に関係しており、ラミネート速度が増すとラミネートロール温度を高く設定する必要がある。また、ホットメルト接着剤を予め溶融するために、図3のホットメルト接着剤付ポリエステルフィルムB3で図示したように、ラミネートロールに沿わして溶融した状態でラミネートロールの線圧部分に導入することで安定した品質のラミネート品16と面状発熱体1を得ることができる。
【0047】
このラミネート品を高温熱処理、冷熱サイクル処理をして、端子処理、t=0.5mmおアルミニウム板を接着剤で貼り合わせて面状発熱体とする。
【0048】
PTC抵抗体5は、結晶性樹脂として、エチレン・メタアクリル酸メチル共重合体(商品名「アクリフト WH206」、融点86℃、住友化学(株)製))10重量%と、低密度ポリエチレン(商品名「ペトロセン 208」、融点 111℃、東ソー(株)製)15重量%と、無水マレイン酸変性結晶性樹脂として、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「アドマー NF−539」、融点125℃、三井化学(株)製)10重量%で構成し、これに、3種類の導電体として、カーボンブラック(商品名「プリ
ンテックスL」、1次粒子径21nm、デグサ社製)と、カーボンブラック(商品名「#10B」、1次粒子径79nm、三菱化学(株)製)と、薄片化グラファイト(商品名「UP−10」、日本黒鉛(株)製)とを組み合わせて61重量%と、離型剤として、反応性シリコーンオイル(商品名「X−22−4741」、信越シリコーン(株)製)1.5重量%、分散安定剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にアクリル変性を施した添加剤(商品名「メタブレンA3000」、三菱レイヨン(株)製)2.5重量%、反応性添加剤としてチタニウム系カップリング剤(商品名「プレンアクトKR−44」、味の素ファインテクノ(株)製)1.0重量%とをニーダーで混練して作製した。なお、上記実施例では、薄片化グラファイトを用いたが、高いPTC特性が要求される場合には球状化グラファイトを組みわせて用いても良い。
【0049】
また、被覆抵抗体9は、高密度ポリエチレン(商品名「ニポロンハード 5700」、融点130℃、東ソー(株)製)33重量%と、無水マレイン酸変性結晶性樹脂として、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「アドマー NF−539」、融点125℃、三井化学(株)製)14重量%で構成し、導電体として、カーボンブラック(商品名「プリンテックスL」、1次粒子径21nm、デグサ社製)と、導電性ウィスカ(商品名「MPT−256」、石原産業(株)製)と、カーボンナノチューブ(商品名「CNT NC7000」、ベルギー製)を組み合わせて50重量%、分散安定剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にアクリル変性を施した添加剤(商品名「メタブレンA3000」、三菱レイヨン(株)製)2.5重量%、反応性添加剤としてチタニウム系カップリング剤(商品名「プレンアクトKR−44」、味の素ファインテクノ(株)製)0.5重量%とをニーダーで混練して作製した。なお、反応性添加剤と導電体とは予め分散熱前処理して混練に供することで、発泡の少ない押し出し品とすることができる。
【0050】
上記実施の形態において、得られた面状発熱体1の面積抵抗は25Ω□(20℃、難燃性のPTC抵抗体5の膜厚100マイクロメートル)であった。300mm×350mm四角の面積に難燃性電極3間隔100mmで2列の配置構成とした場合(難燃性電極3間隔100mmで長さ600mmに相当)の比抵抗は、約0.25Ω・cmであった。
【0051】
カレンダー加工での膜厚は最低でも75マイクロメートル、ロールコーター加工では10マイクロメートルと見ている。また、比抵抗としては、本実施例の難燃性PTC抵抗体で用いたカーボンブラック・グラファイト系では0.03Ω・cmが下限と見ている。したがって、0.1Ω・cm以下の比抵抗の実現には金属粉の添加が不可欠となるが、金属粉では高充填しないと導通を確保できない。カレンダー加工に用いる樹脂コンパウンドには適用できないと考える。ロールコーター加工に用いる抵抗体インクでは十分適用が可能である。
【0052】
今回、得られたPTC抵抗体5はPTC特性を有し、温度が上昇すると抵抗値が上昇し、所定の温度になるように自己温度調節機能を有するようになり、温度コントロールが不要で安全性の高い面状発熱体1としての機能を有するようになる。自動車用座席に組み込まれるカーシートヒータや自動車用の輻射ヒータとして用いることができる。PTC特性を有する面状発熱体として速熱性と省エネ性を、従来のチュービングヒーターを発熱体とするものに比べて発揮することができる。チュービングヒーターを発熱体とするものは、温度制御器を必要として、ON−OFF制御で通電を制御して発熱温度を制御している。ON時のヒータ線温度は約80℃まで上昇するため、座席表皮材とはある程度の距離をおいて配置する必要があるのに対して、本発明の面状発熱体では、発熱温度が40℃〜60℃の範囲に自己制御されるので、座席表皮材近傍に近接して配置することができる。発熱温度が低く、身体との接触暖房として用いて、放熱ロスを低減できることによる省エネ性を実現できる。
【0053】
また、本実施例で得た面状発熱体1を、80℃耐熱性評価、150℃耐熱性評価、−20℃と50℃のヒートサイクル評価を実施した。その結果、それぞれ、500時間、200時間、200回後も抵抗値変化率はいずれも初期の30%以内であった。さらに、150℃耐熱性評価での死に際が高抵抗化するという安全性を確保できた。耐熱性評価での安定性の要因としては、安定化剤として用いているチタニウム系カップリング剤の導電体表面への結合による導電体の安定化効果と、加工助剤による溶融張力の向上効果、さらにホットメルト接着剤4のPTC抵抗体5中への浸透、一部相溶化が起因していると考えられた。
【0054】
導電体としては、できるだけ少ない添加量で所定の抵抗値を達成することが求められるが、そうした導電体は一般的には導電性カーボンブラックと呼ばれるもので、1次粒子径が約20nm以下でストラクチャー(葡萄の房のように1次粒子の集合体のことをいう。吸油量で相関付けられている。)の発達した構造のものであるが、そうした導電性カーボンブラックでは一方で、PTC特性を発現しにくいという欠点を有していた。これは、導電性カーボンブラックではストラクチャーが発達して、結晶性樹脂の温度による比容積の変化(これがPTC特性発現の主因と言われている)によってもストラクチャーの導電パスが切断されにくいことによるといわれている。一方で、1次粒子径の大きいカーボンブラックは優れたPTC特性を有することを発明者らは知見として得ていた。また、グラファイトとして、前述したカーボンブラックよりもさらに粒子径が大きい、球状グラファイトを用いている。これらの複数の導電体を組み合わせることで、厚みが約300マイクロメートル以下で、面積抵抗が100Ω□以下、比抵抗が1Ω・cm以下の抵抗を有するとともに、PTC特性の1指標となる20℃の抵抗値の対する50℃の抵抗値の比が2.5以上、20℃の抵抗値の対する80℃の抵抗値の比が7以上の抵抗体組成物とすることができた。
【0055】
こうした低抵抗でありながら優れたPTC特性を発揮できたメカニズムの詳細は不明であるが、結晶性樹脂と複数の導電体を組み合わせたことによる新規な導電パスの形成と、難燃性ホットメルトの存在が関係していると考えている。
【0056】
なお、上記実施例では、安定化剤として、チタニウム系カップリング剤を用いたが、これに限定するものではない。アルミニウム系カップリング剤、シランカップリング剤や、有機過酸化物等の化学架橋剤を用いることができる。また、モンタン酸部分けん化エステルなどのワックス、さらには他のワックス等の可塑剤や分散剤を必要に応じて用いても良いことは言うまでもない。
【0057】
ホットメルト材の材質としては、ポリエステル系を用いたが、これに限定するものではない。ウレタン系(ウレタン系熱可塑性エラストマー)やナイロン系(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)等、を用いても良い。
【0058】
また、導電体の形状としては特に言及しなかったが、球状、不定形以外に、ウィスカーや繊維形状のものと組み合わせても良い。
【0059】
さらに、本発明の面状発熱体は、難燃性に言及しなかったが、難燃剤をPTC抵抗体やホットメルト接着剤に添加して、難燃性を付与することが可能であることはいうまでもない。面状発熱体を別の難燃性部材、例えば金属板などに貼り合わせて、あるいは挟み込んで用いる場合には、別の難燃性部材の難燃性の効果が大きく、面状発熱体を難燃性にする必要が無いこともありうる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明にかかる面状発熱体は、薄肉で環境にやさしく、EV用の暖房や
バッテリー加温に適したPTC特性を有する。
【符号の説明】
【0061】
1 面状発熱体
2 ポリエステルフィルムA
3 ポリエステルフィルムB
4 ホットメルト接着剤
5 PTC抵抗体
6 メッシュ状ポリエステル製不織布
7 PTC抵抗体カレンダー品
8 電極
9 被覆抵抗体
10 錫メッキ銅集合撚り線
11 熱伝導性部材
12 カレンダーロール
14 カレンダー品
15 ラミネートロール
16 ラミネート品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と、前記不織布にカレンダー加工により薄膜状に貼り合わされたPTC抵抗体と、20mmから250mmの間隔で前記PTC抵抗体と電気的に接続された一対の電極と、前記不織布と前記PTC抵抗体と前記電極を両面よりホットメルト接着剤を介して被覆する2枚のポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの外側の少なくとも一面に接着された熱伝導性部材とからなる面状発熱体。
【請求項2】
不織布として開口部を有するメッシュ状ポリエステル製不織布を用いてなる請求項1記載の面状発熱体。
【請求項3】
少なくとも100℃以下の融点を有する低融点結晶性樹脂と100℃以上の融点を有する高融点結晶性樹脂とからなる樹脂組成物と、少なくとも2種類のカーボンブラックからなる導電体と、離型剤と、分散安定剤と、反応性添加剤とからPTC抵抗体を構成してなる請求項1記載の面状発熱体。
【請求項4】
樹脂組成物を、低融点結晶性樹脂と高融点結晶性樹脂と無水マレイン酸変性結晶性樹脂とから構成してなる請求項2記載の面状発熱体。
【請求項5】
樹脂組成物を、0から60%の低融点結晶性樹脂と、30から85%の高融点結晶性樹脂と、15から40%の無水マレイン酸変性結晶性樹脂とから樹脂分を構成してなる請求項2、および3記載の面状発熱体。
【請求項6】
導電体として、1次粒子径が10から30ナノメートルのカーボンブラックAと1次粒子径が60から150ナノメートルのカーボンブラックBとグラファイトを組み合わせて用いてなる請求項2記載の面状発熱体。
【請求項7】
グラファイトとして、薄片化グラファイトまたは球状化グラファイトを単独もしくは組み合わせて用いてなる請求項6記載の面状発熱体。
【請求項8】
離型剤として反応性シリコーンオイル、分散安定剤としてアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン、反応性添加剤としてカップリング剤を用いてなる請求項3記載の面状発熱体。
【請求項9】
電極として、錫メッキ銅集合撚り線、または被覆抵抗体で被覆された錫メッキ銅集合撚り線、ホットメルト接着剤として結晶性ポリエステル樹脂を用いてなる請求項1記載の面状発熱体。
【請求項10】
少なくとも100℃以上の融点を有する高融点結晶性樹脂と、カーボンブラックと導電性繊維とカーボンナノチューブとからなる導電体と、分散安定剤と、反応性添加剤とから被覆抵抗体を構成してなる請求項9記載の面状発熱体。
【請求項11】
被覆抵抗体として、導電体と反応性添加剤とを予め前処理したものを用いてなる請求項10記載の面状発熱体。
【請求項12】
熱伝導性部材として、アルミニウムのフィルム、板材のいずれか、または両方を用いてなる請求項1記載の面状発熱体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−227034(P2012−227034A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94607(P2011−94607)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】