説明

【課題】 なめし剤としてグルタルアルデヒドを用い、再なめしして得られる革は、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する革の提供。
【解決手段】(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程、(3)合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂からなる再なめし剤、並びにさらにアルミニウム化合物を含む再なめし剤を用いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られる革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮なめしを行う前の前処理、なめし剤にグルタルアルデヒドを用いるなめしを行う工程、再なめしを行うことを含む再なめし工程、及び再なめし後の後処理を経て得られる革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物の原皮から私達が使用する皮革を製造する工程は一連の各種の処理工程の組み合わせから成り立っている。動物の原皮を皮革に製造する工程は、(1)皮なめしを行う前の前処理(動物の原皮についている不要な組織や成分を分離除去して皮とする。)、(2)なめし工程(皮をなめし剤で処理し、耐熱性、腐食防止及び柔軟性を付与して革とする。)、(3)再なめし工程(革を再なめし剤で処理した後、染色及び加脂を行い、良好な感触や艶出し及び耐水性を付与する。)、(4)再なめし後の後処理、仕上げ工程(再なめしの後に、革の乾燥及び塗装を行う。)から構成される。
これらの全工程を一貫して行うことが可能であるが、皮なめしを行う前の前処理を他の場所で行い以後の工程のみを行うもの、又はなめし工程までを他の場所で行い以後の工程のみを行うなど、その一部の工程を行うことにより最終の革を得る分業化も進められている。
【0003】
得られる革の品質を高めるためには、前記(2)なめし工程、(3)再なめし工程及び(4)再なめし後の後処理、仕上げ工程の各工程を十分に行うこと及びこれらを有機的に組み合わせて行うことがとりわけ重要である。中でもなめし剤及び再なめし剤として何を選択して使用するかが、得られる革の品質を決めるうえで重要な要素となる。
なめし剤は皮組織中に浸透し、適切な範囲でコラーゲンの分子間に架橋結合を導入するために用いる。架橋が少なすぎると革の耐熱性は向上せず、多すぎると革の繊維の動きは制限され、耐熱性が向上しても革は硬くなり、割れやすくなる。
再なめし剤には、前記なめしとしての作用に加えて、微細な間隙を増大させ、革としてのふくらみ感をまし、暖かい接触感覚を与えることが要求される。再なめし剤による処理のあとに、なめし剤による作用により得られた微細な間隙に加脂剤が作用し、革繊維中の水が油剤で置換することとなり、乾燥しても組織を硬直せず、又繊維間の滑りがよくなり、革に柔軟性を与えることとなる。
なめし剤及び再なめし剤は作用・役割に相違する点があり、両者は同じ物質を再度使用するという方法よりも、なめし剤と異なる再なめし剤を組み合わせて使用するという方法に技術は進められてきた。
革の処理にあたっては、なめし剤、再なめし剤の他に加脂剤に何を使用するかを決定することは、技術上重要な意味を有している。
【0004】
なめし剤は、多くの経験を積み重ねた末に3価のCr錯体を用いる方法に集約された。クロムなめし剤は、耐熱性が増大し、収縮温度差が120℃にもなること、
腐敗や薬品に対する抵抗性を増すこと、なめした後の皮の線維構造を大きく変化させないこと、有機酸で脱クロム化できること、柔軟性や弾力性があること、染色性が良いなどの多くの点が利点であるとされている。
【0005】
クロム系なめし剤は、環境汚染や労働衛生上の問題が危惧され、その代替品として非クロム系なめし剤の採用、そのための新たななめし方法の開発が社会的に求められている。
【0006】
クロム以外のなめし剤を用いる場合には、従来知られているなめし剤を改めて用いることを検討しなおして、なめし剤と再なめし剤を組み合わせ使用して、得られる革に新たな有効性を模索し、なめし工程及び再なめし工程を構築することが検討されている。
従来知られているなめし剤には、鉄、アルミニウム、ジルコニウムなどの金属塩や、植物タンニン、芳香族スルホン酸や芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物などの合成なめし剤、尿素やメラミン等の含窒素塩基化合物とホルムアルデヒドの縮合物やアクリル樹脂などの樹脂を用いる樹脂なめし剤、ジアルデヒド類などがある。
【0007】
クロム系以外のなめし剤としては、グルタルアルデヒドを使用することが有望視されている。
クロム以外のなめし剤を用いるには、なめし剤はクロムなめしに比較して十分な効果は期待できないのであるから、クロムなめし剤と同程度の効果を挙げるには、再なめし剤と組み合わせを工夫することが必要となる。
【0008】
クロムなめしを行った後の再なめし剤には、クロム、アルミニウム又はジルコニウムなどの無機なめし剤、植物タンニン、芳香族スルホン酸や芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物などの合成なめし剤、アミノ化合物とホルムアルデヒドの縮合物や尿素やメラミン等の含窒素塩基化合物とホルムアルデヒドの縮合物やアクリル樹脂などの樹脂なめし剤、グルタルアルデヒドなどを用いることができる(非特許文献1)。
これらの中でも、合成なめし剤の中の芳香族スルホン酸や芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物などの使用(特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10)が有力視されている。
【0009】
ジアルデヒド等のクロム系以外のなめし剤によるなめしの後の再なめし剤には陰イオン芳香族合成タンニン(スルホン化芳香族化合物など)を含むものを用いることが知られている(特許文献11、特許文献12)。又、アクリル酸又はメタクリル酸のホモ共重合体やアクリレートの共重合体などの高分子化合物による処理も知られている(特許文献13)。この発明では再なめし剤にタンニンを用いており、合成タンニンの使用について明確に否定する。
又、特許文献14は、ダスティングチ防止の意味合いからポリアクリル酸などを用いることが記載されているが、実施例ではクロムなめしを開示している。タンニン及び/又はアクリル樹脂ベースを含む混合物とコロイド懸濁状態のシリカを含むものによる処理が開示されている(特許文献15)。この有機タンニンとアクリル樹脂の組み合わせが記載されているが、有機タンニン、アクリル樹脂又は有機タンニンとアクリル樹脂の組み合わせについて具体的に処理の内容が不明であり、又、どのような効果が得られるのかも不明である。ポリアスパラギン酸等による再なめしを行うこと(特許文献16)などが知られている。タンニンと皮繊維との親和性を持ち鞣皮力のある植物油又は魚油又は鉱物油との混合液に浸漬する(特許文献17)、たら油で再なめしすること(特許文献18)も行なわれる。これは柔軟な革を得ようとするものである。
【0010】
現在では、クロム以外のなめし剤への転換を図ることに加えて、従来のクロムなめしによるなめし及び再なめし剤による処理により得られる革が有している特性以上の特性が得られることが要求されている。
自動車産業などの革製品を利用する立場からは、単に触覚がよいもの、柔軟性があるものなどの高級感を追求して得られた従来の特性とは相違して、より高度の特性を有する革が要求されている。具体的には自動車用の座席に用いられる革として、使用する状況は革に無理がかからない良好な環境下においてのみ使用されるということではなく、荷重がかけられたときに革の伸びすぎは好ましくなく、かっちりと体の腰の部分固定できるものであり、使用後にはもとの形状に復帰することが要求される。もとの形状への復帰が不十分であると、座面にへこみが残って外観がわるくなり、また、乗降の際の人体との擦れにより座席の土手部(座面両脇の盛り上がった部分)にしわができやすい結果となるくなる。さらには、しわを起点として塗膜はがれが、発生しないものが求められている。
これらの要求に対する解決にあたっては、皮なめしによって得られる革の特性の向上によって解決するのではなく、革に樹脂加工を施すことにより、又は、革の積層により解決しようとしている。本発明者らは、このような手段に頼らずに解決することを考えているものである。
本発明者らは、高級感のある自動車の座席に用いる新しい皮革として、皮が有している以上の独特の弾力性のある柔らかさに加えて使用しても革が有している以上の伸びがなく復元力を有し、経年変化がなく、かつ革のもつ高級感の風合いを有する革を製造することであると理解した。皮が有している以上の、独特の弾力性のある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有するものであり、このような革を得ることを目指して研究を進めることとした。
【特許文献1】米国特許第2941859号
【特許文献2】特開平1−292100号公報
【特許文献3】特開2005−52991号公報。
【特許文献4】特開昭56−28300号公報
【特許文献5】特開55−23193号公報
【特許文献6】特開55−50099号公報、
【特許文献7】特表2001−513831号公報、
【特許文献8】特開2000−119700号公報
【特許文献9】特開平11−158500号公報
【特許文献10】特開平10−101757号公報
【特許文献11】特開平8−232000号公報
【特許文献12】特開平11−158500号公報
【特許文献13】特表平10−508644号公報
【特許文献14】特開2001−187882号公報
【特許文献15】特表2001−503086号公報、特許3834064号)
【特許文献16】特表2001−513129号公報
【特許文献17】特開2001−247900号公報
【特許文献18】特開2005−272725号公報
【非特許文献1】新版皮革科学、平成4年11月25日、日本皮革技術協会発行46頁〜62頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、なめし剤にグルタルアルデヒドを用いてクロムフリーのなめしを実現し、再なめしを行い、次に染色及び加脂処理を行う。得られる革は、なめし剤にグルタルアルデヒドを用いるなめし及び再なめし剤による再なめしを行い、次に染色及び加脂処理を行って得られる革に比較して、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する革を提供することである。又、従来のなめし剤にクロム化合物を用いる場合には得られる革と比較しても、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]前記課題を解決するに当たり、得られる革について評価を行う必要がある。
「皮が有している以上の独特の弾力性のある柔らかさに加えて使用しても革が有している以上の伸びがなく復元力を有し、経年変化がなく、かつ革のもつ高級感の風合いを有する革の出現にあるということ」を評価するうえで、「剛軟度」、及び「最大セット率」を新たに評価基準として定め、これらの測定値によって判断することとする。
[2]「剛軟度」は試験片の革に、単位面積あたり500gの荷重を革に押し付けた状態での革に押し付けられた深さを測定するものであり、柔軟性とともに反発力を測定しようとするものであり、単位はmmで表現される。示す値は柔らかさの指標となる。又、「最大セット率」は試料を直交する革のX軸及びY軸の二方向から取り出して、測定値の大きい方を最大セット率という。セット率は8Kgの荷重をかけて試料が伸びた状態とした後、荷重を取り去って戻した状態に標線の伸びの百分率により表すものであり、復元力を測定しようとするものである。そして、これらは二つの測定値より、革の状態を判断するものであり、両方の結果が満足する範囲になったときに良好な革であると判断する。
[3]次に、前記課題を解決すべく努力し、再なめし剤及び加脂剤について種々の組み合わせについて検討し、得られた革について前記「「剛軟度」及び「最大セット率」をもとに革の状態を判断した。
[4]前記課題を解決することができた、なめし工程は以下の通りである。
(1)皮なめしを行う前の前処理及び(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程を経て得られる革を、(3)合成なめし剤及び樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、次に(4)再なめし後の後処理を行う。
(3)の中で、再なめし剤に合成なめし剤及び樹脂からなる混合物を用い、そして、加脂剤を用いることが有効であるというこがわかった。
【0013】
前記(3)の合成なめし剤、樹脂及び加脂剤は、以下の通りである。
I 合成なめし剤には以下のものからなる混合物を用いる。
(1)芳香族スルホン酸及び芳香族スルホン酸との縮合物からなる混合物
この混合物は以下の混合物である。
(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類
(イ)芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物
(2)グリオキザール又はその水溶液
II 樹脂は以下の樹脂からなるものを用いる。
(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマー。
具体的には、(a)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるこれらの化合物のポリマー、(b)これらのポリマーから選ばれるポリマーによる混合物、(c)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるポリマー混合物により形成されるコポリマーをいう。
この樹脂には以下の樹脂を含むことができる。
(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物。
III 加脂剤には、合成油と天然油又は天然成分を混合して得られるものを用いる。
【0014】
又、(3)合成なめし剤、樹脂の組み合わせに、合成なめし剤、樹脂及びアルミ化合物からなる混合物を再なめし剤として再なめしを行い、加脂剤を用いることにより、さらによい革を得ることができる。具体的には、次の通りである。
【0015】
(1)皮なめしを行う前の前処理及び(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程を経て得られる革を、(3)合成なめし剤、樹脂及びアルミニウム化合物からなるなめし剤を用いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、次に(4)再なめし後の後処理を行う。
すなわち、再なめし剤に、合成なめし剤、樹脂及びアルミニウム化合物からなる再なめし剤を用いることが有効である。
【0016】
前記(3)の合成なめし剤、樹脂及びアルミニウム化合物からなる再なめし剤、及び加脂剤は、以下の通りである。
I 合成なめし剤には以下のものからなる混合物を用いる。
(1)スルホン酸との縮合物からなる混合物
この混合物は以下の混合物である。
(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド重縮合物類
(イ)アリールスルホン酸とヒドロキシアリル化合物のメチレン環重合物
(2)グリオキザールの混合物
II 樹脂は以下の樹脂を含むものを用いる。
(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマー
具体的には、(a)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるこれらの化合物のポリマー、(b)これらのポリマーから選ばれるポリマーによる混合物、(c)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるポリマー混合物により形成されるコポリマーをいう。
この樹脂には、以下の樹脂を含むことができる。
(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物
III アルミニウム化合物を用いる。
IV 加脂剤には、合成油と天然油又は天然成分を混合して得られるものを用いる。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明により得られる革は、なめし剤としてクロムを使用しないので、得られる革はクロムフリーであり、従来得られたことがない、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する特性を有する革を得ることができる。
(2)合成なめし剤並びにアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行う場合には、再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された革の一部から取り出された試料が、剛軟度が4.42mm以上4.90mm以下、かつ最大セット率は10.7以上13.9以下の状態を含むものである。
(3)合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらのコポリマーを含む樹脂並びにアルミニウム化合物を用いて、再なめしを行う場合には、再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料が、剛軟度が5.0mm以上、かつ最大セット率は10%以下の状態を含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(1)皮なめしを行う前の前処理及び(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程を経て得られる革を、(3)合成なめし剤及び樹脂からなる再なめし剤を行いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、次に(4)再なめし後の後処理を行う。
【0019】
以下に上記の工程を説明する。
(1)皮なめしを行う前の前処理は以下の通りである。
成牛皮より取り出した原皮を水漬けし、水洗いしたのち取り出し、裏にべ(脂肪や肉)を機械的に除去し、石灰漬けを行って皮表面の毛を溶解させ、皮表面の垢をとり、皮内部に石灰を浸透させて、繊維をほぐした後、皮を銀層(皮の表面)と床(皮の裏面)にバンドナイフを用いて分割する。この工程では表皮のケラチン、下層のエラスチンを取り去ることを目的に処理が行われる。革はコラーゲン線維以外の部分が皮組織から除去された状態となっている。これら処理は従来から行われてきた内容であり、既に公表されている処理手段が適宜採用される。
【0020】
(2)「なめし」工程は以下の通りである。
前工程で得られた銀層及び床について、前工程の石灰を中和して除去する脱灰(pH調節した水の散布、たんぱく質分解酵素が作用しやすくするための処理を行う。30〜35℃の水、塩化アンモニウム1〜2%含有亜硫酸水素ナトリウムなどを含有した水による処理を行う。)、たんぱく質分解酵素(パンクレアチンなどの酵素を配合したベーチング剤を利用する)存在下に酵解し(分解酵素を含んだ水を浸透させる処理、酵素剤0.8から1.2%、塩化アンモニウム0.5%含有する水による処理)、コラーゲン組織をやわらかくして、酵素を除去して、次になめし剤を用いてなめしを行う(なめし剤を含む水を浸透させる)。
なめし剤にはグルタルアルデヒドを用いる。皮の重量に対して1〜10重量%のグルタルアルデヒドを用いる。pH1.8から5の条件で、20℃から30℃で、8から12時間の処理を行う。温度30℃程度の水になめし剤による処理であり、グルタルアルデヒドを用いたときの熱収縮温度は65〜70℃である。
脱灰、酵解及びなめしの一連の処理は一つのドラム中で時間の経過をかけて行う。なめし処理が終了した後脱水し、目的とする皮の厚度に漉いた後、裏側を削ることにより厚さを調整し(シェービング)、さらに皮周縁の不要部分を切り取る(トリミング)。
【0021】
(3)「再なめし」工程は以下の通りである。
なめし工程より得られた革を、合成なめし及び樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行い、染色し、加脂剤を与えて加脂を行う。再なめし、染色及び加脂は同じドラムの中で各処理を一定時間行う。
【0022】
再なめし剤は、合成なめし及び樹脂からなる混合物であり、以下の通りである。
I 合成なめし剤には以下のものからなる混合物を用いる。
(1)芳香族スルホン酸及びスルホン酸との縮合物からなる混合物
この混合物は以下の混合物である。
(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド重縮合物類
(イ)芳香族スルホン酸、芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物のメチレン環重合物
(2)グリオキザール又はその水溶液
【0023】
上記芳香族スルホン酸は、ベンゼン、フェニルベンゼン、ジフェニルエーテル、ナフタレンからなる芳香族化合物であり、これをスルホン化して得られるモノ又はジスルホン又はその塩であり、再なめし剤として用いることも知られている(ドイツ特許第578578号明細書、米国特許第2315951号明細書、米国特許第3906037号明細書、特開昭56−28300号公報)。
上記芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド重縮合物類は、前記芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドを縮合させて得られるものであり、再なめし剤として用いることも知られている(英国特許第1291784号明細書、ドイツ特許第611671号明細書、特開昭56−28300号公報、特開昭55−23193号公報、特開昭55−50099号公報、特開平3−106859号公報、特開平3−177500号公報、特開平8−232000号公報)。
芳香族スルホン酸とヒドロキシ芳香族化合物とホルムアルデヒドの縮合物は、スルホン化されたフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、スルホン化されたフェノール又はクレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、4、4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンと(ヒドロキシ)アリールスルホン酸とのホルムアルデヒド縮合物、スルホ含有芳香族ヒドロキシ化合物とアラールキルハロゲン化物とのホルムアルデヒド縮合物、フェノールとフェノールスルホン酸との尿素―ホルムアルデヒド縮合物であり、再なめし剤とすることも知られている(特開平8−232000号公報、特開平10−101757号公報)。
グリオキザールについては、CHO基を2個有するアルデヒドである(米国特許第2941859号明細書、特開平8−232000号公報)。
【0024】
II アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂からなる再なめし剤は、具体的には、(a)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるこれらの化合物のポリマー、(b)これらのポリマーから選ばれるポリマーによる混合物、(c)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるポリマー混合物により形成されるコポリマーをいう。
(ア)アクリル酸、メタクリル酸重合体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらのコポリマーの他に(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を含むことができる。
(ア)アクリル酸重合体、メタクリル酸重合体並びにアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルとのコポリマーの作用は以下の通りである。
これらの樹脂は、粘弾性(ゴム)の性質を付与すると同時に、一方で硬く伸びにくくするために性質を付与させるために添加する。
アクリル酸又はメタクリル酸並びにこれらの混合物や、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとアクリル酸及び/又はメタクリル酸を基礎とするポリマーなどについては、なめし剤として用いることは特開昭56−59900号公報、特開昭56−161500号公報等により公知である。これらは、安定性が十分でない場合があり、表面にしわやひび割れが生ずることがあることが指摘されており(特開平4−89900号公報、特開平9−95700公報)、その使用法には、本発明のように組み合わせて使用するなどことが必要となる。
(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物について
メラミンとホルムアルデヒドの縮合物からなる樹脂を用いることについては
特開昭63−89600号公報、特開昭57−186400号公報などにより
公知である。
又、再なめし剤を用いるなめしは、20〜50℃、時間は30分から1時間30分程度である。
III 加脂剤には、合成油と天然油、合成油と天然油成分の混合物を用いる。
加脂剤による処理は、25から50℃程度の処理温度下に、1から6時間処理を行う。
【0025】
シェービング革に対して用いる合成なめしと樹脂の使用量は以下の通りである(メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を含む場合、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を含まない場合はこれを除外すればよい。)。
シェービング革重量100重量%に対して、合成なめし50〜70重量%:樹脂35〜43重量%であり、合成なめしは、(ア)ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50:(イ)アリールスルホン酸とヒドロキシアリル化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43(ウ)グリオキザール0.10〜0.15(重量比、総計で1.00であり)であり、
樹脂は、(ア)アククリル酸又はメタクリル酸及びこれらの混合物並びにアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとのコポリマー0.67〜0.72:(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.33〜0.28(重量比、総計で1.00であり)であり、前記加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%である。
【0026】
(4)革加工工程の再なめし後の後処理工程は以下の通りである。
再なめし後の後処理として、乾燥・仕上げ作業(乾燥・塗装)を行うものである。乾燥する前に湿潤仕上げ作業を行い染色・加脂され濡れた状態の革を一度乾燥することにより加脂剤や染料の固着を強めて染色堅ろう性、耐水性及び柔軟性を持たせる。そして革を平板状にして革表面のしわを伸ばす。このしわ延ばし作業が組み込まれている点が特徴である。
中和、再なめし、染色及び加脂後の革の水分は、およそ70〜80%であり、水分を搾り出して、ロールセッターにより革を伸ばして、脱水する。水分は50〜60%とする。その後に、25〜50℃で、がら干し乾燥を行い、10〜5%に乾燥させる。この乾燥にはガラス張り乾燥や真空乾燥を採用することもある。味いれにより乾燥した状態に対して、水分を与えて調製する。
ステーキングにより革の柔らかさを調整する。このためにはバイブレーションステーキングを行う。
ステーキングの後に、空うちにより革の線維をほぐし、皮を柔らかくする。
次にトグルにより革をネットに固定して引っ張るネット張り乾燥を行う。
これらの操作を念入りに行う場合には味入れ、ステーキング、空うち、トグル張りを行うネット張り乾燥の操作を繰り返して行うことができる。
次に、乾燥で硬くなった縁部、トグルのはさみ跡、極端に薄い部分の切り取りを行い革の形を整えるトリミングを行う。
革の表面に塗装及び着色を行い、革の表面を保護すると共に、美観を高める仕上げを行う。
仕上げには、セミアニリン仕上げを採用する。着色剤として染料と顔料を併用する。バインダーにタンパク質系(カゼインを主成分とする)や合成樹脂(エマルジョン又は水溶性タイプ)を配合して用いることができ、銀面の傷や不均一さをカバーして皮表面の銀面模様を残す。したがって、小さな傷を目立たせないようにすることができ、無色又は染料による着色剤による着色皮膜を形成する。塗装方法にはロータリースプレーマシンを用いる。
【0027】
合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行うことにより得られる革は、なめし剤としてクロムを使用しないので、得られる革はクロムフリーであり、従来得られたことがない、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する特性を有する革を得ることができる。この特性を、再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料について測定すると、剛軟度及び最大セット率を測定すると、剛軟度4.42mm以上4.90mm以下、かつ最大セット率10.7以上13.9以下の状態を含むものであり、その特性を確認することができる。
これらの数値は以下の実施例4及び5の結果より得られる(図4)。
【0028】
前記一連の工程を以下のようにすると、さらに本発明の課題に合致する革を得ることができる。具体的には以下の通りである。
【0029】
(1)皮なめしを行う前の前処理及び(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程を経て得られる革を、(3)合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂及びアルミニウム化合物からなるなめし剤を用いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、次に(4)再なめし後の後処理を行う。
前記アルミニウム化合物を含まない場合の(1)、(2)及び(4)と同様である。
【0030】
前記(3)の合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸重合体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、及びこれらのコポリマーを含む樹脂及びアルミニウム化合物からなる再なめし剤を用い、又加脂剤は、以下の通りである。
I合成なめし剤には以下のものからなる混合物を用いる。
(1)スルホン酸及びスルホン酸との縮合物からなる混合物
この混合物は以下の混合物である。
(ア)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド重縮合物類
(イ)アリールスルホン酸とヒドロキシアリル化合物のメチレン環重合物
(2)グリオキザールの混合物
II アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂からなる再なめし剤は、具体的には、(a)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるこれらの化合物のポリマー、(b)これらのポリマーから選ばれるポリマーによる混合物、(c)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれるポリマー混合物により形成されるコポリマーをいう。
(ア)アクリル酸、メタクリル酸重合体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらのコポリマーの他に(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物からなる樹脂を含むことができる。
III アルミニウム化合物を用いる。
IV 加脂剤には、合成油と天然油又は天然成分を混合して得られるものを用いる。
【0031】
上記合成なめし剤、樹脂の詳細については前記の場合と同様である。
アルミニウム化合物に関しては以下の通りである。
具体的には、アルミニウムシリケート及びそのナトリウム塩、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、明礬などのアルミニウム塩混合物を挙げることができる。
【0032】
シェービング革に対して用いる合成なめし、樹脂、アルミニウム化合物及び加脂剤の使用量は以下の通りである(メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を含む場合、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物を含まない場合はこれを除外すればよい。)。
シェービング革重量100重量%に対して、合成なめし50〜70重量%:樹脂35〜43重量%であり、合成なめしは、(ア)ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50:(イ)アリールスルホン酸とヒドロキシアリル化合物とメチレン環重合物0.38〜0.43:(ウ)グリオキザール0.10〜0.15(重量比、総計で1.00であり)であり、樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマー0.67〜0.72:(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.33〜0.28(総計で1.00であり)であり、アルミニウム含有量はシェービング革重量100重量%に対して、0.7〜4.0重量%であり、加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%である。
【0033】
得られる革は、なめし剤としてクロムを使用しないので、得られる革はクロムフリーであり、従来得られたことがない、柔軟性を有し、皮が有している以上の独特の弾力性ある柔らかさに加えて、革が有している以上の伸びがなく、復元力を有する特性を有する革を得ることができる。特に、合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、若しくはこれらのコポリマーを含む樹脂並びにアルミニウム化合物を含む再なめし剤により処理する結果、一層良好な特性のものが得られる。此の特性を、再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料について測定すると、剛軟度及び最大セット率を測定すると、剛軟度が5.0mm以上であり、かつ最大セット率が10%以下である状態の革を得る事ができる。これらの数値は以下の実施例の記載及びその記載を整理して得られる(図5)。
【0034】
本発明では得られる皮革の試験は以下のようにして行なう。
[1]試験片の取り出しは以下の通りである。
(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)なめし工程、(3)再なめし工程及び(4)再なめし後の後処理を経て得られる革全体を半裁して得られる主要部を適宜分割して試験片を取り出す。端部は不規則な結果が出ることが考えられるので端部を適宜切り取って試験片を取り出すことが有効である。
試験片を取り出す場合には、特定の一方の方向(例えば横軸)から取り出す場合と他の一方の方向(例えば縦軸)から取り出す場合がある。分割に仕方には4、6及び8、9、12等の分割が考えられる。図1では9分割の場合を例示している。
【0035】
[2]試験片の調整
各部位から取り出された試験片は温度20±2℃、相対湿度65±5%RHにたもたれた状態で少なくとも48時間以上この状態保つ。
【0036】
[3]定荷重セット率の測定方法
(1)縦250mm×横50mmの試験片を切り出す(図1)。試験片を背線に平行方向(X方向)及び垂直方向(Y方向)から、1枚づつ採取する。得られた結果について大きいほうの値を最大セット率とする。
(2)上下端より50mmを、革をつかむ部分とする。残った中央部の中心に長さ100mmの線を引く(図2)。
(3)革の下部に8Kgの荷重を10分間にわたりかけて荷重時の線の長さlmmを測定する(定荷重伸びを意味する)。
(4)荷重を取り去り、10分間放置し、再度前記線の長さを測定する。
その結果を、lmmとする。
(5)セット率(%)=l−100として算出される。
セット率が小さい値となることは試験片が伸びにくい性質を有していることを表している。
前記したように測定値はX方向及びY方向の両方の値がある。このX方向及びY方向の中のより長い定荷重測定の結果を最大セット率と呼ぶ。
最大セット率の目標値は、10%以下である。最大セット率の算出にあっては3個の試験片について測定し平均値を算出して最大セット率とする。
又、「最大セット率」は試料を直交する革のX軸及びY軸の二方向から取り出して、測定値の大きい方を最大セット率という。セット率は8Kgの荷重をかけて試料が伸びた状態とした後、荷重を取り去って戻した状態に標線の伸びの百分率により表すものであり、復元力を測定しようとするものである。
【0037】
[4]剛軟度(BLC)の測定方法
半裁の9つのゾーンの中央で測定する(図1)。
剛軟度試験にはST300皮革剛軟度試験機を用いる(図3)。
操作レバー4を下方に向かって押し付けて、同時に作動ボタン1を押して、頂部アーム2を作動させる。この動作により捕獲機構からの圧力を解除し、頂部アーム2は上方に向かって跳ね上がる。
テスター内に測定用の革を置き、底部の固定手段5を完全に覆うようにする。
操作レバー4を下に押し付けて頂部アーム2を引き下げる。頂部アーム2が固定されている間は、この動作により荷重用のプランジャー6は完全に収縮している。動作が完全であればカチという音が聞き取れる。革はテスターに固定される。
操作レバー4を開放する。これには荷重用のプランジャー6(500gの錘を働かせている)を縮小されている空気制動子の作用により制御された状態で革に向かって引き下げる。
荷重用のプランジャー6は革を押し付ける。押し付けによる深さダイアル7で読み取る。
読み取りが終了した時点で、作動ボタン1を押し付けて、頂部アーム2を持ち上げて革を取り除く。
剛軟度(BLCとも言う)は500gの荷重をかけたときの革の柔軟性及び反発力を測定しているものである。剛軟度の目標値は、5.0mm以上である。
「剛軟度」は試験片の革に、単位面積あたり500gの荷重を革に押し付けた状態での革に押し付けられた深さを測定するものであり、柔軟性とともに反発力を測定しようとするものであり、単位はmmで表現される。示す値は柔軟性と復元力の指標となる。
以下に種々の条件下に得られた革の状態を測定し、その結果により良好な条件を定め、そのときの革の状態を述べる。
【実施例1】
【0038】
以下のなめし剤を用いて再なめしを行った。なめし剤以外の処理条件は、上記の条件にしたがった。
「再なめし」の工程のなめし剤の組成には以下の通りのものを用いた。
【表1】

【0039】
加脂剤には以下のものを用いた。
【表2】

加脂剤の使用量は、従来の再なめしの工程の経験から処理する革重量100重量%に対する割合であり、15〜19重量%の範囲が良好であると言う経験に基づいて算出したものである。
【0040】
上記なめし剤1から4を用いて、その際になめし剤4においてはアルミニウムについては別に添加して、再なめしを行い、得られた革について、剛軟度及びセット率を測定し、各なめし剤及びアルミニウムの効果を確認した。
得られた革については、得られた結果をまとめたもののうち最良のものを示した。
再なめしの処理条件及びセット率,BLCの結果は以下の通りである。
【表3】

【表3−1】

【0041】
テスト1(再なめし剤1は植物なめしのみを用いた場合(樹脂を含有しない))、テスト2(再なめし剤2は合成なめしのみを用いた場合(樹脂を含有しない))場合である。いずれも樹脂を含有しない。
テスト3(植物なめし、合成なめし及び樹脂を含む場合)、テスト4(合成なめしに樹脂の組み合わせ)について最大セット率とBLCを測定した結果である。
テスト1はBLC値が3.67であり、低い結果である。最大セット率は、7.6であり、その点では問題がないが、BLC値が低すぎる。本発明ではBLC値と最大セット率の両方の結果が良好な範囲となることが必要である。
テスト2はBLC値が4.22であり、低い結果である。最大セット率は、10.6であり、その点では問題がないが、BLC値が低すぎる。本発明ではBLC値と最大セット率の両方の結果が良好な範囲となることが必要である。
テスト1及び2は再なめしに従来から用いられてきた植物なめし及び合成なめしを用いた場合の結果を示しているものであり、従来例である。
テスト3は、植物なめし及び合成なめし、これに樹脂を含有する再なめし剤を用いた場合である。テスト3はテスト1及び2と比較して樹脂を含有するからBLC値では4.47と高い結果を得ているが、最大セット率は13.9であり、低い結果となっている。本発明ではBLC値と最大セット率の両方の結果が良好な範囲となることが必要である。
テスト4(なめし剤4)、テスト5(なめし剤4)テスト8(なめし剤4)、テスト9(なめし剤4)、テスト10(なめし剤4)、テスト11(なめし剤4)は、なめし剤に、合成タンニン及び樹脂を用いた場合の結果を示している。テスト1から3と対比すると
いずれもBLC値と最大セット率の両方の結果では、良好な結果となっている。
テスト4のBLC値は4.78であり、最大セット率は11.1
テスト5のBLC値は4.90であり、最大セット率は11.5
テスト8のBLC値は4.70であり、最大セット率は10.7
テスト9のBLC値は4.90であり、最大セット率は12.0
テスト10のBLC値は4.72であり、最大セット率は13.9
テスト11のBLC値は4.42であり、最大セット率は12.4
である。
アルミニウムを含有するテスト6及び7の結果を加えて、図4に結果を示した。実際に得られた数値により、テスト4、5、8、9、10及び11の結果とテスト3の結果を比較すると、BLC値(剛軟度)が4.42mm以上4.90mm以下まで(Bで表示)、かつ最大セット率は10.7以上13.9以下(Aで表示)については、本発明の合成なめしと樹脂からなるなめし剤による効果の結果であるということができる(なお、なめし剤と樹脂を組み合わせて用いること自体は本発明の完成前に公知であったものではなく、本発明の効果を明白にするために示したものである。この点から見て上記A及びBで示される値は本発明の実施例から得られる結果である。)。
【0042】
アルミニウム化合物を添加してアルミニウムを含有する状態で処理する場合の結果は以下の通りである。
テスト5(No56)はアルミニウム0重量%、テスト6(No61)はアルミニウム3.0重量%及びテスト7(No82)はアルミニウム5.0重量%を含有する場合の最大セット率、及びBLCについては、以下の通りである。
テスト6(No61)では、最大セット率8.5であり、BLCは5.3であり、この結果は最大セット率目標値10.0以下、BLC目標値5.0以上を超えている結果である。アルミニウム含有量0%である場合テスト5(No56)(BLCは4.90であり、最大セット率は11.5)及びアルミニウム5重量%を含有する場合テスト7(No82)(最大セット率は12.4、及びBLCは4.77)及び前記テスト6(No61)の場合について、最大セット率及びBLCの結果を曲線で結ぶと図5の通りである。BLCの目標値5.0以上の範囲及び最大セット率の範囲10.0以下を求めてみると、最大セット率のアルミニウム含有量の範囲0.7から4.0の範囲であれば、BLC目標値も満たしていることがわかる。
以上の結果よりアルミニウム含有量の範囲が0.7から4.0の範囲にあれば最大セット率10.0以下であり、BLC目標値5.0以上となる範囲であると求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】革の試料を取り出す部分の説明
【図2】セット率の測定試料を示す図
【図3】皮革剛軟度試験機を示す図
【図4】再なめし剤1から4の最大セット率とBLCを比較した図
【図5】なめし剤4を用いて、アルミニウムの含有量の適切な値の範囲を算出することを示す図
【符号の説明】
【0044】
1:作動ボタン
2:頂部アーム
3:頂部革固定手段
4:操作レバー
5:底部革固定手段
6:荷重用プランジャー
7:ダイアル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程、(3)合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマーを含む樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られることを特徴とする革。
【請求項2】
(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)グルタルアルデヒドをなめし剤として用いてなめしを行う工程、(3)合成なめし剤、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物、若しくはこれらのコポリマーを含む樹脂並びにアルミニウム化合物を含む再なめし剤を用いて再なめしを行い、染色後、更に加脂剤により処理し、(4)再なめし後の後処理を経て得られることを特徴とする革。
【請求項3】
前記合成なめし剤は、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒド縮合物、及び芳香族スルホン酸と芳香族フェノール縮合物、並びにグリオキザールからなる混合物から構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の革。
【請求項4】
前記樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸重合体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー、及びこれらのコポリマー、並びにメラミンとホルムアルデヒドの重縮合物から構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の革。
【請求項5】
前記加脂剤に合成油と天然油又は天然成分を混合して用いることを特徴とする請求項1又は2記載の革。
【請求項6】
シェービング革重量100重量%に対して、合成なめし50〜70重量%:樹脂35〜43重量%であり、合成なめしは、(ア)ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50:(イ)アリールスルホン酸とヒドロキシアリル化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43(ウ)グリオキザール0.10〜0.15(重量比、総計で1.00であり)であり、樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマー0.67〜0.72:(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.33〜0.28(重量比、総計で1.00であり)であり、前記加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であることを特徴とする請求項1記載の革。
【請求項7】
再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料が、剛軟度4.42mm以上4.90mm以下、かつ最大セット率10.7以上13.9以下の状態を含むことを特徴とする請求項6記載の革。
【請求項8】
シェービング革重量100重量%に対して、合成なめし50〜70重量%:樹脂35〜43重量%であり、合成なめしは、(ア)ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒド縮合物類0.45〜0.50:(イ)アリールスルホン酸とヒドロキシアリル化合物のメチレン環重合物0.38〜0.43:(ウ)グリオキザール0.10〜0.15(重量比、総計で1.00であり)であり、樹脂は、(ア)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのポリマー及びこれらの混合物並びにこれらのコポリマー0.67〜0.72:(イ)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物0.33〜0.28(総計で1.00であり)であり、アルミニウム含有量はシェービング革重量100重量%に対して、0.7〜4.0重量%であり、加脂剤はシェービング革重量100重量%に対して15〜19重量%であることを特徴とする請求項2記載の革。
【請求項9】
再なめし後の後処理を経て得られる革の一部から取り出された試料が、剛軟度5.0mm以上であり、かつ最大セット率が10%以下の状態を含むことを特徴とする請求項8記載の革。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−7480(P2009−7480A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170395(P2007−170395)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】