説明

靴下類の製造方法

【課題】 靴下類の必要な箇所のみに所望の機能、例えば滑止め機能を付与することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】 丸編み機によって靴下類を編成するにあたり、靴下類の周方向の一部に、靴下類の編み糸と異なる機能糸を丸編み機の往復回転機能を利用して編み込むことによって機能領域を形成する。機能領域は周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面を構成するように編み込むことによって形成するのがよい。滑止め機能を有する機能糸を編み込むことにより足底部分、踵部分の足底部分に隣接する部位又は爪先部分の足底部分に隣接する部位に滑止め機能を有する領域(20,21,22,23,24)を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は靴下類の製造方法に関し、例えば編み組織によって靴下類の足底部分に滑止め機能を付与できるようにした方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、靴下やストッキング(以下、単に「靴下類」という)を着用してサンダルや靴を履いた場合、編み糸の種類によっては足裏が滑って歩き難いことがあることから、滑止め対策が求められる。
【0003】
そこで、足裏部分にポリウレタン樹脂やシリコン樹脂を点状に分散して固着するようにした靴下類が提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。また、踵部分や足底部分にポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂を含浸させ、あるいはポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂のフィルムを接着するようにした靴下類も提案されている(特許文献4、特許文献5)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−201502号公報
【特許文献2】実用新案登録第第3103570号公報
【特許文献3】実用新案登録第第3093347号公報
【特許文献4】特開2006−37282号公報
【特許文献5】実用新案登録第3057983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜5記載の靴下類では靴下類の足底部分に突起が分散しているので、違和感を感じやすく、又靴下類を編成した後に滑止めの処理を行う必要があり、製造工程が増加し、しかもポリウレタン樹脂やシリコン樹脂を用い後加工する必要があり、コスト高を招来してしまう。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑み、優れた肌触り感を維持しつつ、必要な部位に必要な機能の領域、例えば滑止め機能を有する領域を形成できるようにした靴下類の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明に係る靴下類の製造方法は、丸編み機によって編み糸を編み込んで靴下類を編成するにあたり、靴下類の周方向の一部に、丸編み機の往復回転機能を利用して靴下類の編み糸と異なる機能糸を編み込むことによって機能領域を形成するようにしたことを特徴とする。
【0008】
本発明の特徴の1つは丸編み機の往復回転機能を利用して靴下類の周方向の一部に機能糸を編み込んで機能領域を形成するようにした点にある。これにより、必要な部位、例えば足底部分、踵部分あるいは爪先部分に必要な機能の領域、例えば滑止め機能を有する機能領域を形成でき、又従来のようにポリウレタンやシリコンなどの樹脂加工を行っていないので、靴下類全体の優れた肌触り感が損なわれることはない。本発明は靴下に適用するとその効果が大きいが、最近のストッキングには靴下と同様の編み方で製造されるものがあり、かかるストッキングについては同様に適用できる。
【0009】
丸編み機の往復回転機能とは靴下の踵部分や爪先部分を編成する時に用いる機能であってシリンダーの周方向の一部のニードルを利用し、シリンダーを任意の角度だけ正回転させ逆回転させ、この正逆回転を繰り返して踵部分や爪先部分を半袋状に編成するというものである。丸編み機はシングルシリンダー方式及びダブルシリンダー方式のいずれであってもよい。
【0010】
丸編み機の往復回転機能を単に利用すると、機能領域が隣接する部分に比較して丸く膨らんでしまう。人間の足裏は非常に敏感であり、靴下類の足底部分に非常に小さな小石がまぎれ込み、足裏に当たっていても違和感や苦痛を感じるほどである。従って、靴下類の足底部分、踵部分の足底部分に隣接する部分、爪先部分の足底部分に隣接する部分に膨らみのある機能領域を形成すると、靴下類を履いた人に違和感を与えるおそれがある。
【0011】
そこで、靴下類の編み糸と異なる機能糸を周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面を構成するように編み込むことによって機能領域を形成するのがよい。これにより、靴下類を履く人に違和感を与えるおそれを少なくできる。
【0012】
ここで、丸編み機の往復回転機能を利用して機能領域を周囲の部分又は隣接する部分と同一の面に編成すると、靴下類の大きさや用いる編み糸の種類によって周囲の部分又は隣接する部分に比較して少し膨らんでしまうことがある。請求の範囲における「同一の面」とは幾何学的に同一の形状の面ばかりでなく、上述のように少し膨らんだ実質的に同一の面も含んでいる(以下では説明の便宜上、単に「実質的に同一の面」と記す)。
【0013】
丸編み機の往復回転機能を利用して機能領域を周囲の又は隣接する部分と実質的に同一の面に構成するためには、編み目の数を少しずつ漸増させ又は漸減させ、例えば2コース毎に1目又は2目ずつ漸増させ漸減させ、あるいは機能領域を足底部分、踵部分あるいは爪先部分に幅方向に大きく延びて形成するなどの工夫が必要であるが、用いる糸の特性や靴下類の大きさなどに応じて適宜選択する必要がある。例えば、女性用靴下の場合には図5に示されるような形状に機能領域を編成することによって機能領域を周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面に構成することができるが、勿論、編み目の増減を工夫することによって他の形状を採用しても機能領域を周囲の又は隣接する部分と実質的に同一の面に構成することができる。
【0014】
機能糸は靴下類の編み糸に代えて編み込むようにしてもよく、編み糸に添えて編み込むようにすることもできる。機能糸には滑止め機能を有する糸、例えばポリウレタンを芯糸とするカバリング糸、好ましくはナイロンやポリエステルを巻き付けたナイロン巻きポリウレタン糸やポリエステル巻きポリウレタン糸などを用いて滑止め領域を形成すればその効果が大きいが、勿論、他の機能糸、例えば消臭機能、殺菌機能あるいは芳香機能を有する機能糸を採用することもできる。
【0015】
機能領域、例えば滑止め領域は足底部分に形成するのがよく、この場合1つの滑止め領域でもよく、複数の滑止め領域を形成することもできる。
【0016】
また、滑止め領域は足底部分だけでなく、踵部分の足底部分に隣接する部位や爪先部分の足底部分に隣接する部位に形成するようにしてもよい。
【0017】
靴下類の編み糸の材質については特に限定されず、綿糸、綿アクリル混紡糸、毛糸、毛アクリル混紡糸、絹糸、絹アクリル混紡糸、麻糸、麻アクリル混紡糸、ナイロン糸等、靴下に採用される編み糸を用いることができる。靴下類の編み組織についても特に限定されず、プレーティング編みや平編みなどを採用することができる。また、靴下類は編み糸と弾性糸を組合わせて編成することもできる。弾性糸にはゴム糸、ナイロン糸、ポリエステル糸、ポリウレタンカバードヤーン、コアヤーンを用いることができる。
【0018】
機能領域は靴下類の周方向の一部に形成されていればよく、例えば靴下類の足底部分、踵部分又は爪先部分の全幅に延びて形成するようにしてもよく、又幅方向の一部に延びて形成するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図5は本発明に係る靴下類の製造方法の好ましい実施形態を示し、これは靴下に適用した例である。靴下10は基本的に履口部分11、レッグ部分12、足甲部分13、足底部分14、踵部分15及び爪先部分16からなっている。
【0020】
靴下10は例えばシングルシリンダー方式の丸編み機を用いて編成され、履口部分11から足甲部分13及び足底部分14の先端側に向けて筒状に編成され、踵部分15及び爪先部分16は丸編み機の往復回転機能によって編成され、爪先部分16の終端縁と足甲部分13の先端縁との間の開口はリンキング又はロッソなどによって縫製されている(図1中、17が縫製箇所である)。
【0021】
また、足底部分14には滑止め領域20が全幅に延びて形成されるとともに、滑止め領域21、22が幅方向の一部に延びて形成され、又踵部分15の足底部分14に隣接する部位及び爪先部分16の足底部分14に隣接する部位には滑止め領域23、24が全幅に延びて形成されている。
【0022】
この滑止め領域20〜24は丸編み機の往復回転機能を利用し、靴下10の編み糸に代え、滑止め機能を有する機能糸を隣接する部分と実質的に同一の面を構成するように編み込むことによって編成することができる。
【0023】
次に、製造方法について説明する。丸編み機には図3に示される針釜(シリンダー)30が設けられ、針釜30の周囲には多数の編針(ニードル)31、例えば220本の編針31が上下動自在に支持され、針釜30が正方向に回転(正回転)され逆方向に回転(逆回転)され、所定の回転位置で編針31が持ち上げられ、編み糸を引っ掛けて編成するようになっている。
【0024】
丸編み機によって本例の靴下を製造する場合、まず履口部分11から爪先部分16に向けて靴下10が筒状に編成されるが、そのとき針釜30は360°正回転される(図4の(a)(e)参照)。
【0025】
靴下10を筒状に編成している際に、踵部分15までくると、針釜30は丸編み機の往復回転機能によって正回転され逆回転され( 図4の(b)(c)(d) 参照)、この正回転及び逆回転が繰り返されるとともに、例えば用いる編針31が110本〜64本に減少された後、64本〜106本に増加されて半袋状の部分が編成され、これによって踵部分15が編成される。
【0026】
爪先部分16までくると、同様に、針釜30は往復回転機能によって正回転及び逆回転が繰り返されるとともに、例えば用いる編針31が110本〜64本というように減少され、連続して編針31が64本〜106本というように増加され、これによって爪先部分16が編成され、爪先部分16の終端縁と足甲部分13の先端縁との間の開口はリンキング又はロッソなどによって縫製される。
【0027】
上述のようにして踵部分15、足底部分14及び爪先部分16を編成している際に、丸編み機の往復回転機能を利用するとともに、靴下類の編み糸に代え又は編み糸とともに機能糸、例えばナイロン巻きポリウレタン糸を用い、周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面を構成するように編み込み、滑止め領域20〜24を形成する。用いる編針31の本数は例えば滑止め領域20の場合には図5に示されるように、84本から2コース毎に2目ずつ109本まで増加させた後、109本から2コース毎に2目ずつ84本まで減少させることによって周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面に構成することができる。なお、最初のコース及び最後のコースは針釜30の編み始めの位置及び編み終わりの位置との関係で編み目がほぼ半分となる。
【0028】
また、滑止め領域21、22の場合には滑止め領域20よりも小さいが滑止め領域20と相似形状とすることによって周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面に構成することができる。
【0029】
さらに、滑止め領域23、24の場合には滑止め領域20の半分の形状を採用することによって周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面に構成することができる。なお、滑止め領域20〜22の場合には前後方向に大きな長さを確保するために図5に示される形状又はその相似形状としているが、前後方向に短くてもよい場合には滑止め領域23、24と同様の形状を採用することができる。
【0030】
以上のように、丸編み機を用い、踵部分15や爪先部分16を編成する際に用いる往復回転機能を活用し、滑止め領域20〜24を編成するようにしたので、必要な部位に滑止め領域20〜24を周囲の部分又は隣接する部分と実質的に同一の面に編成でき、又靴下類全体の優れた肌触り感が損なわれることはない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る靴下類の製造方法の好ましい実施形態によって製造された靴下の1例を示す斜視図である。
【図2】上記靴下の底面図である。
【図3】丸編み機における針釜の1例を示す図である。
【図4】往復回転機能を説明するための図である。
【図5】滑止め領域の編み方の1例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0032】
10 靴下 11 履口部分
12 レッグ部分 13 足甲部分
14 足底部分 15 踵部分
16 爪先部分
20〜24 滑止め領域(機能領域)
30 針釜 31 編針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸編み機によって編み糸を編み込んで靴下類を編成するにあたり、
靴下類の周方向の一部に、丸編み機の往復回転機能を利用して靴下類の編み糸と異なる機能糸を編み込むことによって機能領域を形成するようにしたことを特徴とする靴下類の製造方法。
【請求項2】
靴下類の編み糸と異なる機能糸を周囲の部分又は隣接する部分と同一の面を構成するように編み込むことによって機能領域を形成するようにした請求項1記載の靴下類の製造方法。
【請求項3】
靴下類の足底部分に、滑止め機能を有する機能糸を編み込むことによって滑止め機能を有する機能領域を形成するようにした請求項1記載の靴下類の製造方法。
【請求項4】
靴下類の踵部分の足底部分に隣接する部位に、滑止め機能を有する機能糸を編み込むことによって滑止め機能を有する機能領域を形成するようにした請求項1記載の靴下類の製造方法。
【請求項5】
靴下類の爪先部分の足底部分に隣接する部位に、滑止め機能を有する機能糸を編み込むことによって滑止め機能を有する機能領域を形成するようにした請求項1記載の靴下類の製造方法。
【請求項6】
靴下類の足底部分、踵部分の足底部分に隣接する部位又は爪先部分の足底部分に隣接する部位に、滑止め機能を有する機能糸を足底部分と同一の面を構成するように編み込むことによって滑止め機能を有する機能領域を形成するようにした請求項3ないし5のいずれかに記載の靴下類の製造方法。
【請求項7】
靴下類の足底部分、踵部分又は爪先部分の全幅に延びて機能領域を形成するようにした請求項3ないし6のいずれかに記載の靴下類の製造方法。
【請求項8】
靴下類の足底部分、踵部分又は爪先部分の幅方向の一部に延びて機能領域を形成するようにした請求項3ないし6のいずれかに記載の靴下類の製造方法。
【請求項9】
滑止め機能を有する機能糸がポリウレタンを芯糸とするカバリング糸である請求項3ないし8のいずれかに記載の靴下類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−75236(P2008−75236A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329066(P2006−329066)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(505239622)田中繊維株式会社 (2)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】