靴下
【課題】脚部のむくみ防止や、歩行時の疲労軽減の効果が得られるとともに、歩行時の蹴り出し力をサポートする靴下を提供する。
【解決手段】レッグ部1の平編み領域13の着圧力を、足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部1に、人のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域13よりも着圧力が高いサポート領域14を設けた構成とする。
【効果】腓腹筋に不要な締付力をかけることなく、下側から持ち上げる力が得られるため、腓腹筋の伸縮を補助して、歩行時の蹴り出し力をサポートすることができる。
【解決手段】レッグ部1の平編み領域13の着圧力を、足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部1に、人のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域13よりも着圧力が高いサポート領域14を設けた構成とする。
【効果】腓腹筋に不要な締付力をかけることなく、下側から持ち上げる力が得られるため、腓腹筋の伸縮を補助して、歩行時の蹴り出し力をサポートすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脚部の浮腫みの防止や歩行時の疲労軽減の効果が得られるとともに、歩行時の蹴り出し力をサポートすることができる靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、足底から足挿入開口を形成する上端部にかけて、脚に対する締付圧力を強から弱に変化させた構成の靴下が提案されている。
【特許文献1】特開2005−240222号公報
【0003】
例えば、上記特許文献1には、最も下方に位置する足首部における締付圧力を20hP a〜30hPaの範囲とし、最も上方に位置する脹脛上部における締付圧力を11hPa〜18hPaの範囲とするとともに、足首部と脹脛上部との間の脹脛中部と脹脛下部において、脹脛下部における締付圧力を足首部における締付圧力よりも弱い15hPa〜23hPaの範囲とし、脹脛中部における締付圧力を脹脛下部における締付圧力よりも弱い13hPa〜19hPaの範囲となるように設定した靴下が開示されている。
【0004】
この従来の靴下によれば、足底から足挿入開口を形成する上端部にかけて、脚に対する締付圧力を強から弱に変化させているので、脚の浮腫みの抑制や脚にかかる疲労の回復又は軽減を促進する効果が得られるとされている。
【0005】
また、従来、レッグ部のウェール方向だけでなく、レッグ部の前面の脛側と後面の膨ら脛側のコ−ス方向でも編成方法を異ならせて、静脈血管が多く存在する膨ら脛側を効果的に締め付けるように、脚に対する締付圧力を変化させた構成の靴下も提案されている。
【特許文献2】特開2006−104599号公報
【0006】
例えば、上記特許文献2には、脚部の後面側で第1の着圧を生じさせる第1編組織が配置されると共に、脚部の前面側で前記第1の着圧より弱い第2の着圧を生じさせる第2編組織が配置され、さらに脚部の前記第1編組織と第2編組織との中間部位に前記第1と第2の着圧に対し中間値となる所定着圧を生じさせる第3編組織を配置した構成の靴下が開示されている。
【0007】
この従来の靴下によれば、足の血行促進が図れ、スムーズな血流による疲労軽減等の効果が得られるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、人の下腿部の後ろ側の筋肉は、図3〜図5に示すとおり、腓腹筋30とヒラメ筋40に大別され、腓腹筋30は、内側頭31と外側頭32に別れている。内側頭31は、図3に示すように、大腿骨33の内側上顆から、外側頭32は大腿骨33の外側上顆から起始し、アキレス腱34を経て、踵骨35に至っている。
【0009】
図6は、足関節の底屈(つま先を下げた状態)の動作(b)や、底屈とは逆の背屈(つま先を下げた状態)の動作(a)を図示したものである。腓腹筋30は、図6(b)に示すような、足関節の底屈の動作や、膝関節の屈曲動作に関与する脹脛の筋肉である。
【0010】
この腓腹筋30は、図3に示すように、起始が大腿骨33にある2関節筋であるため、膝が伸展した状態のときに力を発揮し、図6(b)に示す底屈の動作を担っている。
【0011】
これに対して、ヒラメ筋40は、腓腹筋30とは異なり、膝関節の屈曲動作には関与せず、足関節の動作のみに関与している。そして、膝が屈曲した状態のときは、腓腹筋30の力は弱まるため、膝が屈曲した状態での底屈は、専らヒラメ筋40が働いている。
【0012】
図5は、図4のA−A’線における切断面であり、ヒラメ筋40と腓腹筋30の位置関係を示したものである。図5に示すように、腓腹筋30は、ヒラメ筋40よりも外側(皮膚表面に近い側)に位置している。
【0013】
人は歩行するとき、膝関節の屈曲とともに、足の指と指の付け根付近が地面を捉えて蹴り出す動作を行うときに、図6(b)に示すように、足関節の底屈を頻繁に行う。そのため、歩行動作の中でも特に蹴り出しの動作時には、ヒラメ筋40よりも腓腹筋30がよく使われる。
【0014】
そのため、運動や長時間の歩行等により腓腹筋30に乳酸が溜まって伸縮が妨げられると、足関節の底屈に影響を及ぼして蹴り出し力が弱くなるため、快適な歩行や運動に支障を来たすことになる。従って、強い蹴り出し力を得て快適な歩行運動を行うためには、腓腹筋30の伸縮を補助するような着圧構造の靴下が求められる。
【0015】
ところが、前述した従来の靴下の内、先ず、特許文献1に開示された靴下は、レッグ部の上下方向については段階的な着圧力を特定しているものの、レッグ部の前面の脛側から後面の脹脛にかけてのコ−ス方向では着圧力に変化がないため、腓腹筋30を必要以上に締め付け過ぎるという問題があった。
【0016】
また、特許文献2に開示された靴下は、レッグ部のコース方向に異なる着圧が生じるように構成しているものの、専ら血行促進を目的としているため、静脈血管が多く存在する脹脛側に着圧力の高い領域を設けるように構成している。そのため、特許文献2の靴下においては、脹脛側に位置する腓腹筋30を締め付けることは避けられないという問題があった。
【0017】
また、特許文献1、2の靴下は、腓腹筋30自体に余分な締め付けを与えずに、腓腹筋30を下からサポートする効果を得ることも出来なかった。
【0018】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の靴下では、歩行時の蹴り出し力に関与している腓腹筋に余分な圧力をかけず、且つ、腓腹筋を下側からサポートすることが出来ない点である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するため、本発明の靴下は、
レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けたことを、最も主要な特徴点としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の靴下によれば、腓腹筋に余分な締め付け力をかけずに、下からから上へ持ち上げる方向にサポート力が得られるため、歩行時の蹴り出し力に関与している腓腹筋の伸縮を補助することができる。従って、本発明の靴下を着用すれば、快適な歩行運動を促すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、脚のむくみ防止や疲労軽減が図れるだけでなく、腓腹筋に余分な圧力をかけず、下側からサポートするという目的を、レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けることによって実現した。なお、「着圧力」とは、靴下の編地がコース方向に脚部を締め付ける締付力のことをいう。
【0022】
本発明では、前記サポート領域は、靴下着用者のふくら脛の膨らみを覆う脹脛部に近づくにつれて、着圧力を段階的に弱圧にする方がより望ましい。着圧力を段階的に弱圧にすれば、ふくら脛の膨らみの形状により追従し、サポート領域の編地が突っ張ったりすることもないからである。
【0023】
また、脚の浮腫みを防止し、疲れ難くするためには、レッグ部だけではなく、フット部においても血流を促進する必要がある。そこで、本発明の靴下は、フット部の着圧力を、かかと部からつま先部にかけて段階的に強圧にすることが望ましい。
【0024】
また、人の足の裏には、縦足弓と横足弓からなる足底のアーチ構造があり、バネのような役割を果たして歩行接地時の衝撃を緩和するとともに、体重を足全体に分散させ、体重移動をスムーズにする役目を果たしている。ところが、ハイヒールによるつま先立ちの状態や、硬い革靴を履いた歩行が長時間続くと、縦足弓を維持していた底側踵舟靭帯や長足底靭帯が過伸した状態が継続される結果、縦足弓のアーチが下がってしまい、正常な曲線を保ち難くなる。そのため、縦足弓の縦方向のアーチの形状が保てなくなると、歩行時の衝撃吸収効果が充分に得られないため、正常な歩行運動が行えず、足の疲れや特定部分に痛みが発生する原因となる。
【0025】
そこで、本発明では、腓腹筋だけではなく、足底アーチのサポートも図れるように、フット部の足底中央部から内外のくるぶし部付近前方にかけて、非伸縮性領域を設ける方がより望ましい。非伸縮性領域が足底アーチを上方に引き上げる方向にサポートし、足底アーチの降下を極力防止することができるからである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の靴下及びその製造方法の最良の形態を、図1〜図2、図7〜図11を用いて説明する。図1は、右足用の本発明の靴下を側面方向から見た説明図で、(a)は内側の側面を(b)は外側の側面を表した図、図2(a)は、同靴下を正面の方向から見た説明図、図2(b)は、同靴下を背面の方向から見た説明図、図7〜図9は、本発明の靴下のサポート領域の編み組織の構造の一例を説明する図、図10は、本発明の靴下の脹脛部の編み組織の一例を説明する図、図11は、本発明の靴下のレッグ部を構成する平編みの一例を説明する図である。
【0027】
図1に示すように、本実施例の靴下Sは、靴下編機により編成されたものであり、通常の靴下と同様、レッグ部1とフット部2により構成されている。図1(b)において、レッグ部1は、A−A’線よりも上方の足挿入部11と、B−B’線とC−C’線の間の足首部12と、A−A’線とB−B’線の間の筒状部とで構成される。
【0028】
A−A’線とB−B’線の間の筒状部の前面側は、図1(b)に示すように、脛側部上部16a、脛側部下部16bからなる。他方、後面側は、靴下着用者のふくら脛の膨らみ部分を覆う脹脛部17aと、脹脛部下部17bと、足首部上部17cからなる。図1において、模様を付していない領域は、平編み領域13を表している。
【0029】
そして、本発明において最も特徴的な構成は、レッグ部1の平編み領域13の着圧力を、足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、レッグ部1に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、平編み領域13よりも着圧力が高いサポート領域14を設けた点にある。
【0030】
本発明の靴下は、通常の靴下に比べてより肌に密着することから、着用感を考慮し、肌に優しい天然繊維を用いることが望ましく、かつ、吸放湿性や消臭性を兼ね備えている繊維が最も良い。本実施例の靴下Sは、これらの兼ね備えた繊維素材として、ウール糸を用いている。
【0031】
本実施例の靴下Sは、通常の靴下編機を使用し、表糸と裏糸によって編成されている。裏糸は、編み立て性が良く、着圧力の調整が容易であるFTYを用いることが望ましい。FTYとは、ポリウレタン繊維にナイロン繊維又はポリエステル繊維をカバーリングした一般的に靴下の裏糸と用いられている繊維である。また、靴下全体にゴム糸を編み込むことにより、通常の靴下よりも着圧力を向上させている。
【0032】
そして、レッグ部1の平編み領域13の着圧力を、足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にするための手段として、本実施例の靴下Sでは、ゴム糸の送入量と度目密度を調整する方法を採用し、足首部12から足挿入部11にかけて1コースを1単位として脚部の肌に対する着圧力(締付力)を徐々に弱くしている。また、レッグ部自体の形状も、図1に示すように、足首部12側の径を細くし、足挿入部11側の径を太くして、テーパを設け、足挿入部11側の締め付けを弱くしている。
【0033】
なお、ゴム糸の送入量は、1コースあたりの送入量が少ないほど着圧力(締付力)が高くなり、度目密度は、密度を高くするほど着圧力(締付力)が高くなるが、ゴム糸の送入量を調整するよりも、度目密度を調整の方が着圧力への影響が高い。そこで、本実施例の靴下Sでは、人の脚部の形状を考慮しつつ、度目密度について重点的に調整を行うこととした。
【0034】
具体的には、足挿入部11から足首部12にかけてゴム糸の送入量は徐々に少なくする一方で、度目密度は徐々に高くしている。このような構造にすることにより、血流を適度に上部へ押し上げる機能を補助する効果が働き、脚の浮腫みを防止し、疲れ難くすることができる。また、引き締まった美しい脚の形状を保つこともできるので、女性用靴下としても好適である。
【0035】
また、脚の浮腫みを防止し、疲れ難くするためには、脚部だけではなく、足裏の血流も促進する必要がある。そこで、本実施例の靴下Sは、上記と同様の方法により、フット部2の着圧力を、かかと部21からつま先部22にかけて段階的に強圧にし、足裏の血行を促進することにより、浮腫み防止効果を高めている。
【0036】
レッグ部1の平編み領域13の着圧力を足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にする構成を採用することにより、立ち仕事をする際の浮腫み防止、歩行運動時の疲労軽減の効果が得られるが、これだけでは、ふくら脛への無意味な圧迫が避けられず、腓腹筋の動きを妨げることになり、蹴り出し力をサポートすることができない。そこで、本発明の靴下は、上記の構成に加え、レッグ部1に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、平編み領域13よりも着圧力が高いサポート領域14を設けたのである。これによって、腓腹筋を過度に締め付けることなく、下からから上へ持ち上げる方向にサポート力が付与されるので、歩行時の蹴り出し力が良好となる。
【0037】
次に、サポート領域14の編み組織について、説明する。本実施例の靴下Sは、靴下S全体としては大きく分けて5つの異なる編み組織の領域が存在する。具体的には、図1において、領域14a、14b、14cはタック編み、領域15はメッシュ編み、領域13は平編みで編成されている。領域14a、14b、14cのタック編みは、糸使いや編成パターンを変えることにより、伸縮性に変化を持たせている。
【0038】
図7〜図11は、領域14a、14b、14c、領域15、領域13の順に、それぞれ編み組織を図示したものである。各図において、Vは、表糸(2/72ウール糸)を、Wは、裏糸(20/75FTY)を、Xは、ゴム糸を、Yは、柄糸(70/2ウーリーナイロン)を表している。
【0039】
領域14aは、図7に示すとおり、表糸V、裏糸W、ゴム糸X、柄糸Yを用い、「2コース平編み・2コースタック編み」を編成単位として編まれており、最も強い着圧力(締付力)が得られる。
【0040】
領域14bは、図8に示すとおり、表糸V、裏糸W、ゴム糸X、柄糸Yを用い、「1コース平編み・1コースタック編み」を編成単位として編まれており、中程度の着圧力(締付力)が得られる。
【0041】
領域14cは、図9に示すとおり、領域14aと同様に「2コース平編み・2コースタック編み」を編成単位としているが、柄糸Yが編み込まれておらず、編み組織の伸縮が制限されないため、結果的に領域14bよりも着圧力(締付力)は弱くなる。
【0042】
領域15は、ふくら脛を覆う部分であり、図10に示すとおり、表糸V、裏糸W、ゴム糸Xからなるメッシュ編みの構造としている。領域13は、図11に示すとおり、一般的な平編みにより編成している。
【0043】
このように、本実施例では、靴下着用者のふくら脛の膨らみを覆う脹脛部15に近づくにつれて、サポート領域14の着圧力を、領域14a、14b、14cの順に段階的に弱圧にし、さらに領域15、領域13の順に着圧力を弱くしたので、サポート領域14の編地が突っ張らず、ふくら脛の膨らみの形状に追従して、ふくら脛部を覆い込むことができる。よって、腓腹を下側から支えるサポート力も、より好適なものとなる。
【0044】
なお、本実施例では、上記の通り領域14a、14b、14c、領域15、領域13の5段階の着圧としたが、本発明では、6段階以上とすることも可能である。但し、6段階以上とすると、編み組織が複雑化し、編み立て効率の低下や不良品の発生を招く可能性が高くなるため、生産性及び品質保証の観点からは、本実施例のように5段階とすることが最も望ましい。
【0045】
なお、靴下編機の性質上、レッグ部1の上下方向の着圧力を段階的に変化させることは比較的容易であるものの、サポート領域14のように、斜めに横断する形で着圧力の高い部分を設けることは、編機に負担をかけることになるため、生産性と不良品の発生に注意する必要がある。
【0046】
図2(a)は、本実施例の靴下Sを正面の方向から見た説明図、図2(b)は、同靴下を背面の方向から見た説明図である。
【0047】
人の足の裏には、縦足弓と横足弓からなる足底のアーチ構造があり、バネのような役割を果たして歩行接地時の衝撃を緩和するとともに、体重を足全体に分散させ、体重移動をスムーズにする役目を果たしている。しかし、ハイヒールによるつま先立ちの状態や、硬い革靴を履いた歩行が長時間続くと、縦足弓を維持していた底側踵舟靭帯や長足底靭帯が過伸した状態が継続される結果、縦足弓のアーチが下がってしまい、正常な曲線を保ち難くなる。そのため、縦足弓の縦方向のアーチの形状が保てなくなると、歩行時の衝撃吸収効果が充分に得られないため、正常な歩行運動が行えず、足の疲れや特定部分に痛みが発生する原因となる。
【0048】
そこで、本実施例では、腓腹筋だけではなく、足底アーチのサポートも図れるように、図1〜図2に示すように、フット部2の足底中央部23から内外のくるぶし部24付近の前方にかけて、非伸縮性領域25を設けている。
【0049】
この非伸縮性領域25は、前述したサポート領域14の中で最も着圧力が高い領域14aと同一の編み組織としている。このような非伸縮性領域25を設けたので、実施例の靴下Sでは、足底アーチを上方に引き上げる方向にサポート力が働き、足底アーチの降下を極力防止することができる。
【0050】
また、本実施例では、サポート領域14は、レッグ部1の脛側部上部16aの中央部16aaを始点として左右に分かれて斜め下方向に延設され、徐々に水平に近づくように曲線を描いてレッグ部1の脹脛部下部17bの中央部17bbで交差し、再び左右に分かれてフット部2の足甲部26の付け根部27まで延設され、非伸縮性領域25と連続している。
【0051】
このように、非伸縮性領域25とサポート領域14を一体化すれば、足底アーチの引き上げ力を向上させることができる上、歩行時の足を前方に踏み出す動作の際に、足甲部26の付け根付近27を引き上げる効果も得られ、図6(a)に示すような、背屈(つま先を下げた状態)の動作もサポートできるので、好適である。
【0052】
また、上記のように、非伸縮性領域25とサポート領域14を一体化させる場合、足甲部26の付け根部27の柔軟性が若干損なわれるため、本実施例では、付け根部27にタックを設けている。こうすることにより、靴下Sの周方向に数本の筋が設けられるため、歩行に伴って付け根部27の角度(レッグ部1とフット部2のなす角度)が広くなったり狭くなったりする動作に追従し易くなるので、好適である。
【0053】
さらに進んで、本発明の靴下が歩行時の蹴り出し力をサポートするだけではなく、脚のむくみ抑制効果も有することを確認するために行った試験の方法及び結果について説明する。以下の試験では、図1に示す本発明の靴下の実施品の一例を「実施例」、サポート領域や着圧力を段階的に変化させる構成を有していない従来の靴下の一例を「比較例」としている。むくみ計測試験は、以下の条件及び方法により実施した。
【0054】
(計測条件)
被験者 :20代の事務職員の女性3名(以下、被験者A、B、Cと表示)
計測部位:ふくらはぎ囲、足首囲、インステップ囲(土踏まず付近の周囲長)を測定した。
【0055】
(計測方法)
1) 就業前の朝、素足の状態で上記各計測部位の周囲長を測定(単位mm)。
2) 各被験者が、実施例、比較例の靴下を、それぞれ業務時間中6時間着用後、再度上記計測部位の周囲長を測定(単位mm)。
3) むくみ量として、上記1)と2)の測定値の差異を求めた。被験者A、B、Cについて、実施例と比較例の試験結果は、夫々、以下の表1〜表3に示すとおりとなった。また、測定部位毎に、表1〜表3の結果の平均値を求めたものを、表4とした。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示すとおり、実施例と比較例の差異は、被験者3名の平均値で見ると、ふくらはぎ周囲−1.7mm、足首囲−1.4mm、インステップ囲−4.7mmとなった(いずれも小数第2位を四捨五入)。このことは、本発明の靴下が、従来の靴下と比較して、いずれの部位においても、むくみ抑制効果が高いことを示している。
【0061】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。たとえば、図1の実施例では、サポート領域14の領域14a、14b、14cの形状が、脛側の方が細幅で、脹脛側の方が幅広となるように構成しているが、領域14a、14b、14cの形状はこれに限らない。
【0062】
以上説明したように、本発明の靴下は、レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けたことにより、腓腹筋を締め付けることなく、下側から持ち上げることができるので、腓腹筋の伸縮を補助して歩行時の蹴り出し力をサポートすることができる。従って、本発明の靴下を着用すれば、快適な歩行運動を促すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の靴下は、ハイソックス、オーバー・ニー・ソックス等にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】右足用の本発明の靴下を側面方向から見た説明図で、(a)は内側の側面を(b)は外側の側面を表した図である。
【図2】(a)は、図1の靴下を正面の方向から見た説明図、(b)は、同靴下を背面の方向から見た説明図である。
【図3】人の下腿部の後ろ側の筋肉である腓腹筋の説明図である。
【図4】人の下腿部の後ろ側の筋肉であるヒラメ筋の説明図である。
【図5】図4のA−A’線における切断面であり、ヒラメ筋と腓腹筋の位置関係を示したものである。
【図6】(a)は、足関節の背屈(つま先を下げた状態)の動作の説明図、(b)は、足関節の底屈(つま先を下げた状態)の動作の説明図である。
【図7】実施例の靴下のサポート領域の中で、最も着圧力を強くする領域の編み組織を説明する図である。
【図8】実施例の靴下のサポート領域の中で、中程度の着圧力とする領域の編み組織を説明する図である。
【図9】実施例の靴下のサポート領域の中で、最も着圧力の弱くする領域の編み組織を説明する図である。
【図10】実施例の靴下の脹脛部の編み組織を説明する図である。
【図11】実施例の靴下の平編み領域の編み組織を説明する図である。
【符号の説明】
【0065】
S 靴下
1 レッグ部
11 足挿入部
12 足首部
13 平編み領域
14 サポート領域
14a タック編み領域(2コース平編み・2コースタック編み・柄糸)
14b タック編み領域(1コース平編み・1コースタック編み・柄糸)
14c タック編み領域(2コース平編み・2コースタック編み)
15 脹脛部(メッシュ編み領域)
16a 脛側部上部
16b 脛側部下部
17a 脹脛部
17b 脹脛部下部
17c 足首部上部
2 フット部
21 かかと部
22 つま先部
23 足底中央部
24 くるぶし部
25 非伸縮性領域
26 足甲部
27 付け根部
【技術分野】
【0001】
本発明は、脚部の浮腫みの防止や歩行時の疲労軽減の効果が得られるとともに、歩行時の蹴り出し力をサポートすることができる靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、足底から足挿入開口を形成する上端部にかけて、脚に対する締付圧力を強から弱に変化させた構成の靴下が提案されている。
【特許文献1】特開2005−240222号公報
【0003】
例えば、上記特許文献1には、最も下方に位置する足首部における締付圧力を20hP a〜30hPaの範囲とし、最も上方に位置する脹脛上部における締付圧力を11hPa〜18hPaの範囲とするとともに、足首部と脹脛上部との間の脹脛中部と脹脛下部において、脹脛下部における締付圧力を足首部における締付圧力よりも弱い15hPa〜23hPaの範囲とし、脹脛中部における締付圧力を脹脛下部における締付圧力よりも弱い13hPa〜19hPaの範囲となるように設定した靴下が開示されている。
【0004】
この従来の靴下によれば、足底から足挿入開口を形成する上端部にかけて、脚に対する締付圧力を強から弱に変化させているので、脚の浮腫みの抑制や脚にかかる疲労の回復又は軽減を促進する効果が得られるとされている。
【0005】
また、従来、レッグ部のウェール方向だけでなく、レッグ部の前面の脛側と後面の膨ら脛側のコ−ス方向でも編成方法を異ならせて、静脈血管が多く存在する膨ら脛側を効果的に締め付けるように、脚に対する締付圧力を変化させた構成の靴下も提案されている。
【特許文献2】特開2006−104599号公報
【0006】
例えば、上記特許文献2には、脚部の後面側で第1の着圧を生じさせる第1編組織が配置されると共に、脚部の前面側で前記第1の着圧より弱い第2の着圧を生じさせる第2編組織が配置され、さらに脚部の前記第1編組織と第2編組織との中間部位に前記第1と第2の着圧に対し中間値となる所定着圧を生じさせる第3編組織を配置した構成の靴下が開示されている。
【0007】
この従来の靴下によれば、足の血行促進が図れ、スムーズな血流による疲労軽減等の効果が得られるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、人の下腿部の後ろ側の筋肉は、図3〜図5に示すとおり、腓腹筋30とヒラメ筋40に大別され、腓腹筋30は、内側頭31と外側頭32に別れている。内側頭31は、図3に示すように、大腿骨33の内側上顆から、外側頭32は大腿骨33の外側上顆から起始し、アキレス腱34を経て、踵骨35に至っている。
【0009】
図6は、足関節の底屈(つま先を下げた状態)の動作(b)や、底屈とは逆の背屈(つま先を下げた状態)の動作(a)を図示したものである。腓腹筋30は、図6(b)に示すような、足関節の底屈の動作や、膝関節の屈曲動作に関与する脹脛の筋肉である。
【0010】
この腓腹筋30は、図3に示すように、起始が大腿骨33にある2関節筋であるため、膝が伸展した状態のときに力を発揮し、図6(b)に示す底屈の動作を担っている。
【0011】
これに対して、ヒラメ筋40は、腓腹筋30とは異なり、膝関節の屈曲動作には関与せず、足関節の動作のみに関与している。そして、膝が屈曲した状態のときは、腓腹筋30の力は弱まるため、膝が屈曲した状態での底屈は、専らヒラメ筋40が働いている。
【0012】
図5は、図4のA−A’線における切断面であり、ヒラメ筋40と腓腹筋30の位置関係を示したものである。図5に示すように、腓腹筋30は、ヒラメ筋40よりも外側(皮膚表面に近い側)に位置している。
【0013】
人は歩行するとき、膝関節の屈曲とともに、足の指と指の付け根付近が地面を捉えて蹴り出す動作を行うときに、図6(b)に示すように、足関節の底屈を頻繁に行う。そのため、歩行動作の中でも特に蹴り出しの動作時には、ヒラメ筋40よりも腓腹筋30がよく使われる。
【0014】
そのため、運動や長時間の歩行等により腓腹筋30に乳酸が溜まって伸縮が妨げられると、足関節の底屈に影響を及ぼして蹴り出し力が弱くなるため、快適な歩行や運動に支障を来たすことになる。従って、強い蹴り出し力を得て快適な歩行運動を行うためには、腓腹筋30の伸縮を補助するような着圧構造の靴下が求められる。
【0015】
ところが、前述した従来の靴下の内、先ず、特許文献1に開示された靴下は、レッグ部の上下方向については段階的な着圧力を特定しているものの、レッグ部の前面の脛側から後面の脹脛にかけてのコ−ス方向では着圧力に変化がないため、腓腹筋30を必要以上に締め付け過ぎるという問題があった。
【0016】
また、特許文献2に開示された靴下は、レッグ部のコース方向に異なる着圧が生じるように構成しているものの、専ら血行促進を目的としているため、静脈血管が多く存在する脹脛側に着圧力の高い領域を設けるように構成している。そのため、特許文献2の靴下においては、脹脛側に位置する腓腹筋30を締め付けることは避けられないという問題があった。
【0017】
また、特許文献1、2の靴下は、腓腹筋30自体に余分な締め付けを与えずに、腓腹筋30を下からサポートする効果を得ることも出来なかった。
【0018】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の靴下では、歩行時の蹴り出し力に関与している腓腹筋に余分な圧力をかけず、且つ、腓腹筋を下側からサポートすることが出来ない点である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するため、本発明の靴下は、
レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けたことを、最も主要な特徴点としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の靴下によれば、腓腹筋に余分な締め付け力をかけずに、下からから上へ持ち上げる方向にサポート力が得られるため、歩行時の蹴り出し力に関与している腓腹筋の伸縮を補助することができる。従って、本発明の靴下を着用すれば、快適な歩行運動を促すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、脚のむくみ防止や疲労軽減が図れるだけでなく、腓腹筋に余分な圧力をかけず、下側からサポートするという目的を、レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けることによって実現した。なお、「着圧力」とは、靴下の編地がコース方向に脚部を締め付ける締付力のことをいう。
【0022】
本発明では、前記サポート領域は、靴下着用者のふくら脛の膨らみを覆う脹脛部に近づくにつれて、着圧力を段階的に弱圧にする方がより望ましい。着圧力を段階的に弱圧にすれば、ふくら脛の膨らみの形状により追従し、サポート領域の編地が突っ張ったりすることもないからである。
【0023】
また、脚の浮腫みを防止し、疲れ難くするためには、レッグ部だけではなく、フット部においても血流を促進する必要がある。そこで、本発明の靴下は、フット部の着圧力を、かかと部からつま先部にかけて段階的に強圧にすることが望ましい。
【0024】
また、人の足の裏には、縦足弓と横足弓からなる足底のアーチ構造があり、バネのような役割を果たして歩行接地時の衝撃を緩和するとともに、体重を足全体に分散させ、体重移動をスムーズにする役目を果たしている。ところが、ハイヒールによるつま先立ちの状態や、硬い革靴を履いた歩行が長時間続くと、縦足弓を維持していた底側踵舟靭帯や長足底靭帯が過伸した状態が継続される結果、縦足弓のアーチが下がってしまい、正常な曲線を保ち難くなる。そのため、縦足弓の縦方向のアーチの形状が保てなくなると、歩行時の衝撃吸収効果が充分に得られないため、正常な歩行運動が行えず、足の疲れや特定部分に痛みが発生する原因となる。
【0025】
そこで、本発明では、腓腹筋だけではなく、足底アーチのサポートも図れるように、フット部の足底中央部から内外のくるぶし部付近前方にかけて、非伸縮性領域を設ける方がより望ましい。非伸縮性領域が足底アーチを上方に引き上げる方向にサポートし、足底アーチの降下を極力防止することができるからである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の靴下及びその製造方法の最良の形態を、図1〜図2、図7〜図11を用いて説明する。図1は、右足用の本発明の靴下を側面方向から見た説明図で、(a)は内側の側面を(b)は外側の側面を表した図、図2(a)は、同靴下を正面の方向から見た説明図、図2(b)は、同靴下を背面の方向から見た説明図、図7〜図9は、本発明の靴下のサポート領域の編み組織の構造の一例を説明する図、図10は、本発明の靴下の脹脛部の編み組織の一例を説明する図、図11は、本発明の靴下のレッグ部を構成する平編みの一例を説明する図である。
【0027】
図1に示すように、本実施例の靴下Sは、靴下編機により編成されたものであり、通常の靴下と同様、レッグ部1とフット部2により構成されている。図1(b)において、レッグ部1は、A−A’線よりも上方の足挿入部11と、B−B’線とC−C’線の間の足首部12と、A−A’線とB−B’線の間の筒状部とで構成される。
【0028】
A−A’線とB−B’線の間の筒状部の前面側は、図1(b)に示すように、脛側部上部16a、脛側部下部16bからなる。他方、後面側は、靴下着用者のふくら脛の膨らみ部分を覆う脹脛部17aと、脹脛部下部17bと、足首部上部17cからなる。図1において、模様を付していない領域は、平編み領域13を表している。
【0029】
そして、本発明において最も特徴的な構成は、レッグ部1の平編み領域13の着圧力を、足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、レッグ部1に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、平編み領域13よりも着圧力が高いサポート領域14を設けた点にある。
【0030】
本発明の靴下は、通常の靴下に比べてより肌に密着することから、着用感を考慮し、肌に優しい天然繊維を用いることが望ましく、かつ、吸放湿性や消臭性を兼ね備えている繊維が最も良い。本実施例の靴下Sは、これらの兼ね備えた繊維素材として、ウール糸を用いている。
【0031】
本実施例の靴下Sは、通常の靴下編機を使用し、表糸と裏糸によって編成されている。裏糸は、編み立て性が良く、着圧力の調整が容易であるFTYを用いることが望ましい。FTYとは、ポリウレタン繊維にナイロン繊維又はポリエステル繊維をカバーリングした一般的に靴下の裏糸と用いられている繊維である。また、靴下全体にゴム糸を編み込むことにより、通常の靴下よりも着圧力を向上させている。
【0032】
そして、レッグ部1の平編み領域13の着圧力を、足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にするための手段として、本実施例の靴下Sでは、ゴム糸の送入量と度目密度を調整する方法を採用し、足首部12から足挿入部11にかけて1コースを1単位として脚部の肌に対する着圧力(締付力)を徐々に弱くしている。また、レッグ部自体の形状も、図1に示すように、足首部12側の径を細くし、足挿入部11側の径を太くして、テーパを設け、足挿入部11側の締め付けを弱くしている。
【0033】
なお、ゴム糸の送入量は、1コースあたりの送入量が少ないほど着圧力(締付力)が高くなり、度目密度は、密度を高くするほど着圧力(締付力)が高くなるが、ゴム糸の送入量を調整するよりも、度目密度を調整の方が着圧力への影響が高い。そこで、本実施例の靴下Sでは、人の脚部の形状を考慮しつつ、度目密度について重点的に調整を行うこととした。
【0034】
具体的には、足挿入部11から足首部12にかけてゴム糸の送入量は徐々に少なくする一方で、度目密度は徐々に高くしている。このような構造にすることにより、血流を適度に上部へ押し上げる機能を補助する効果が働き、脚の浮腫みを防止し、疲れ難くすることができる。また、引き締まった美しい脚の形状を保つこともできるので、女性用靴下としても好適である。
【0035】
また、脚の浮腫みを防止し、疲れ難くするためには、脚部だけではなく、足裏の血流も促進する必要がある。そこで、本実施例の靴下Sは、上記と同様の方法により、フット部2の着圧力を、かかと部21からつま先部22にかけて段階的に強圧にし、足裏の血行を促進することにより、浮腫み防止効果を高めている。
【0036】
レッグ部1の平編み領域13の着圧力を足挿入部11から足首部12にかけて上下方向に段階的に強圧にする構成を採用することにより、立ち仕事をする際の浮腫み防止、歩行運動時の疲労軽減の効果が得られるが、これだけでは、ふくら脛への無意味な圧迫が避けられず、腓腹筋の動きを妨げることになり、蹴り出し力をサポートすることができない。そこで、本発明の靴下は、上記の構成に加え、レッグ部1に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、平編み領域13よりも着圧力が高いサポート領域14を設けたのである。これによって、腓腹筋を過度に締め付けることなく、下からから上へ持ち上げる方向にサポート力が付与されるので、歩行時の蹴り出し力が良好となる。
【0037】
次に、サポート領域14の編み組織について、説明する。本実施例の靴下Sは、靴下S全体としては大きく分けて5つの異なる編み組織の領域が存在する。具体的には、図1において、領域14a、14b、14cはタック編み、領域15はメッシュ編み、領域13は平編みで編成されている。領域14a、14b、14cのタック編みは、糸使いや編成パターンを変えることにより、伸縮性に変化を持たせている。
【0038】
図7〜図11は、領域14a、14b、14c、領域15、領域13の順に、それぞれ編み組織を図示したものである。各図において、Vは、表糸(2/72ウール糸)を、Wは、裏糸(20/75FTY)を、Xは、ゴム糸を、Yは、柄糸(70/2ウーリーナイロン)を表している。
【0039】
領域14aは、図7に示すとおり、表糸V、裏糸W、ゴム糸X、柄糸Yを用い、「2コース平編み・2コースタック編み」を編成単位として編まれており、最も強い着圧力(締付力)が得られる。
【0040】
領域14bは、図8に示すとおり、表糸V、裏糸W、ゴム糸X、柄糸Yを用い、「1コース平編み・1コースタック編み」を編成単位として編まれており、中程度の着圧力(締付力)が得られる。
【0041】
領域14cは、図9に示すとおり、領域14aと同様に「2コース平編み・2コースタック編み」を編成単位としているが、柄糸Yが編み込まれておらず、編み組織の伸縮が制限されないため、結果的に領域14bよりも着圧力(締付力)は弱くなる。
【0042】
領域15は、ふくら脛を覆う部分であり、図10に示すとおり、表糸V、裏糸W、ゴム糸Xからなるメッシュ編みの構造としている。領域13は、図11に示すとおり、一般的な平編みにより編成している。
【0043】
このように、本実施例では、靴下着用者のふくら脛の膨らみを覆う脹脛部15に近づくにつれて、サポート領域14の着圧力を、領域14a、14b、14cの順に段階的に弱圧にし、さらに領域15、領域13の順に着圧力を弱くしたので、サポート領域14の編地が突っ張らず、ふくら脛の膨らみの形状に追従して、ふくら脛部を覆い込むことができる。よって、腓腹を下側から支えるサポート力も、より好適なものとなる。
【0044】
なお、本実施例では、上記の通り領域14a、14b、14c、領域15、領域13の5段階の着圧としたが、本発明では、6段階以上とすることも可能である。但し、6段階以上とすると、編み組織が複雑化し、編み立て効率の低下や不良品の発生を招く可能性が高くなるため、生産性及び品質保証の観点からは、本実施例のように5段階とすることが最も望ましい。
【0045】
なお、靴下編機の性質上、レッグ部1の上下方向の着圧力を段階的に変化させることは比較的容易であるものの、サポート領域14のように、斜めに横断する形で着圧力の高い部分を設けることは、編機に負担をかけることになるため、生産性と不良品の発生に注意する必要がある。
【0046】
図2(a)は、本実施例の靴下Sを正面の方向から見た説明図、図2(b)は、同靴下を背面の方向から見た説明図である。
【0047】
人の足の裏には、縦足弓と横足弓からなる足底のアーチ構造があり、バネのような役割を果たして歩行接地時の衝撃を緩和するとともに、体重を足全体に分散させ、体重移動をスムーズにする役目を果たしている。しかし、ハイヒールによるつま先立ちの状態や、硬い革靴を履いた歩行が長時間続くと、縦足弓を維持していた底側踵舟靭帯や長足底靭帯が過伸した状態が継続される結果、縦足弓のアーチが下がってしまい、正常な曲線を保ち難くなる。そのため、縦足弓の縦方向のアーチの形状が保てなくなると、歩行時の衝撃吸収効果が充分に得られないため、正常な歩行運動が行えず、足の疲れや特定部分に痛みが発生する原因となる。
【0048】
そこで、本実施例では、腓腹筋だけではなく、足底アーチのサポートも図れるように、図1〜図2に示すように、フット部2の足底中央部23から内外のくるぶし部24付近の前方にかけて、非伸縮性領域25を設けている。
【0049】
この非伸縮性領域25は、前述したサポート領域14の中で最も着圧力が高い領域14aと同一の編み組織としている。このような非伸縮性領域25を設けたので、実施例の靴下Sでは、足底アーチを上方に引き上げる方向にサポート力が働き、足底アーチの降下を極力防止することができる。
【0050】
また、本実施例では、サポート領域14は、レッグ部1の脛側部上部16aの中央部16aaを始点として左右に分かれて斜め下方向に延設され、徐々に水平に近づくように曲線を描いてレッグ部1の脹脛部下部17bの中央部17bbで交差し、再び左右に分かれてフット部2の足甲部26の付け根部27まで延設され、非伸縮性領域25と連続している。
【0051】
このように、非伸縮性領域25とサポート領域14を一体化すれば、足底アーチの引き上げ力を向上させることができる上、歩行時の足を前方に踏み出す動作の際に、足甲部26の付け根付近27を引き上げる効果も得られ、図6(a)に示すような、背屈(つま先を下げた状態)の動作もサポートできるので、好適である。
【0052】
また、上記のように、非伸縮性領域25とサポート領域14を一体化させる場合、足甲部26の付け根部27の柔軟性が若干損なわれるため、本実施例では、付け根部27にタックを設けている。こうすることにより、靴下Sの周方向に数本の筋が設けられるため、歩行に伴って付け根部27の角度(レッグ部1とフット部2のなす角度)が広くなったり狭くなったりする動作に追従し易くなるので、好適である。
【0053】
さらに進んで、本発明の靴下が歩行時の蹴り出し力をサポートするだけではなく、脚のむくみ抑制効果も有することを確認するために行った試験の方法及び結果について説明する。以下の試験では、図1に示す本発明の靴下の実施品の一例を「実施例」、サポート領域や着圧力を段階的に変化させる構成を有していない従来の靴下の一例を「比較例」としている。むくみ計測試験は、以下の条件及び方法により実施した。
【0054】
(計測条件)
被験者 :20代の事務職員の女性3名(以下、被験者A、B、Cと表示)
計測部位:ふくらはぎ囲、足首囲、インステップ囲(土踏まず付近の周囲長)を測定した。
【0055】
(計測方法)
1) 就業前の朝、素足の状態で上記各計測部位の周囲長を測定(単位mm)。
2) 各被験者が、実施例、比較例の靴下を、それぞれ業務時間中6時間着用後、再度上記計測部位の周囲長を測定(単位mm)。
3) むくみ量として、上記1)と2)の測定値の差異を求めた。被験者A、B、Cについて、実施例と比較例の試験結果は、夫々、以下の表1〜表3に示すとおりとなった。また、測定部位毎に、表1〜表3の結果の平均値を求めたものを、表4とした。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示すとおり、実施例と比較例の差異は、被験者3名の平均値で見ると、ふくらはぎ周囲−1.7mm、足首囲−1.4mm、インステップ囲−4.7mmとなった(いずれも小数第2位を四捨五入)。このことは、本発明の靴下が、従来の靴下と比較して、いずれの部位においても、むくみ抑制効果が高いことを示している。
【0061】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。たとえば、図1の実施例では、サポート領域14の領域14a、14b、14cの形状が、脛側の方が細幅で、脹脛側の方が幅広となるように構成しているが、領域14a、14b、14cの形状はこれに限らない。
【0062】
以上説明したように、本発明の靴下は、レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けたことにより、腓腹筋を締め付けることなく、下側から持ち上げることができるので、腓腹筋の伸縮を補助して歩行時の蹴り出し力をサポートすることができる。従って、本発明の靴下を着用すれば、快適な歩行運動を促すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の靴下は、ハイソックス、オーバー・ニー・ソックス等にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】右足用の本発明の靴下を側面方向から見た説明図で、(a)は内側の側面を(b)は外側の側面を表した図である。
【図2】(a)は、図1の靴下を正面の方向から見た説明図、(b)は、同靴下を背面の方向から見た説明図である。
【図3】人の下腿部の後ろ側の筋肉である腓腹筋の説明図である。
【図4】人の下腿部の後ろ側の筋肉であるヒラメ筋の説明図である。
【図5】図4のA−A’線における切断面であり、ヒラメ筋と腓腹筋の位置関係を示したものである。
【図6】(a)は、足関節の背屈(つま先を下げた状態)の動作の説明図、(b)は、足関節の底屈(つま先を下げた状態)の動作の説明図である。
【図7】実施例の靴下のサポート領域の中で、最も着圧力を強くする領域の編み組織を説明する図である。
【図8】実施例の靴下のサポート領域の中で、中程度の着圧力とする領域の編み組織を説明する図である。
【図9】実施例の靴下のサポート領域の中で、最も着圧力の弱くする領域の編み組織を説明する図である。
【図10】実施例の靴下の脹脛部の編み組織を説明する図である。
【図11】実施例の靴下の平編み領域の編み組織を説明する図である。
【符号の説明】
【0065】
S 靴下
1 レッグ部
11 足挿入部
12 足首部
13 平編み領域
14 サポート領域
14a タック編み領域(2コース平編み・2コースタック編み・柄糸)
14b タック編み領域(1コース平編み・1コースタック編み・柄糸)
14c タック編み領域(2コース平編み・2コースタック編み)
15 脹脛部(メッシュ編み領域)
16a 脛側部上部
16b 脛側部下部
17a 脹脛部
17b 脹脛部下部
17c 足首部上部
2 フット部
21 かかと部
22 つま先部
23 足底中央部
24 くるぶし部
25 非伸縮性領域
26 足甲部
27 付け根部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けたことを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記サポート領域は、靴下着用者のふくら脛の膨らみを覆う脹脛部に近づくにつれて、着圧力を段階的に弱圧にしたことを特徴とする請求項1記載の靴下。
【請求項3】
フット部の着圧力を、かかと部からつま先部にかけて段階的に強圧にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の靴下。
【請求項4】
フット部の足底中央部から内外のくるぶし部付近前方にかけて、非伸縮性領域を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の靴下。
【請求項5】
前記サポート領域は、前記レッグ部の脛側部上部を始点として、前記レッグ部の脹脛部下部で交差し、前記フット部の足甲部の付け根部まで延設され、前記非伸縮性領域と連続していることを特徴とする請求項4記載の靴下。
【請求項1】
レッグ部の平編み領域の着圧力を、足挿入部から足首部にかけて上下方向に段階的に強圧にするとともに、前記レッグ部に、靴下着用者のふくら脛の膨らみを下側から囲むように、前記平編み領域よりも着圧力が高いサポート領域を設けたことを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記サポート領域は、靴下着用者のふくら脛の膨らみを覆う脹脛部に近づくにつれて、着圧力を段階的に弱圧にしたことを特徴とする請求項1記載の靴下。
【請求項3】
フット部の着圧力を、かかと部からつま先部にかけて段階的に強圧にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の靴下。
【請求項4】
フット部の足底中央部から内外のくるぶし部付近前方にかけて、非伸縮性領域を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の靴下。
【請求項5】
前記サポート領域は、前記レッグ部の脛側部上部を始点として、前記レッグ部の脹脛部下部で交差し、前記フット部の足甲部の付け根部まで延設され、前記非伸縮性領域と連続していることを特徴とする請求項4記載の靴下。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−100981(P2010−100981A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275757(P2008−275757)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(592154411)岡本株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(592154411)岡本株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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