説明

鞍乗型車両用油圧緩衝器

【課題】簡素な樹脂成形型(金型)でダストカバーを成形することができる鞍乗型車両用油圧緩衝器を提供することを課題とする。
【解決手段】ダストカバー80の径方向内側面91にピストンロッド61に沿って延びる複数の凹状の凹路92が形成され、この凹路92に対応してダストカバー80の径方向外周面85に凹路92に沿って複数の凸状のガイド部86が形成されている。
【効果】空気を流通させる凹路に対応して外側が凸状になる部分をスプリングガイドとして有効に利用するので、ダストカバーの形状が簡素化でき、簡素な金型(樹脂成形型)でダストカバーを成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストカバーを備える鞍乗型車両用油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両用油圧緩衝器は、ダンパ用のシリンダと、このシリンダに収容されたピストンロッドと、スプリングとを主要素とする。そして、シリンダとピストンロッドとの間にゴミ等が入り噛み込むことがないように、ダストカバーを備えたものが知られている(例えば、特許文献1(図6、図7)参照。)。
【0003】
特許文献1の図6に示される鞍乗型車両用油圧緩衝器(10)(括弧付き数字は特許文献1に記載されている符号を示す。以下同じ。)は、いわゆる倒立タイプの鞍乗型車両用油圧緩衝器(10)であって、シリンダ(11)と、このシリンダ(11)内を摺動するピストンロッド(12)と、シリンダ(11)を囲うと共にスプリングガイド部材(40)を一体的に含むダストカバー(50)を主要とする。
【0004】
ダストカバー(50)は、特許文献1の図7(c)に示されるように、円筒部の外面から外方へ4個のガイド部(42)を突出させ、これらのガイド部(42)でスプリングをガイドし、円筒部の内面から内方へ8個の突起を突出させ、隣り合う突起の間を縦溝状空気通路(44)とし、合計8条の縦溝状空気通路(44)で図面表裏方向へ空気を通過可能にした成形品である。
【0005】
円筒部から内に縦溝状空気通路(44)を形成し、外にガイド部(42)を形成するが、樹脂成形型が複雑になりやすい。特に、図7(c)に示されるように、円筒部とガイド部(42)とは著しく肉厚が異なるため、樹脂成形の際に、ガイド部(42)と円筒部との境界部に引けが出やすい。同様に、縦溝状空気通路(44)と円筒部との境界部に引けが出やすい。
引けがでないように、樹脂成形型に工夫を凝らす必要があり、樹脂成形型が複雑になる。
製造コストの低減が要求される中、簡単な樹脂成形型で製造可能なダストカバーの構造が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3995937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡素な樹脂成形型(金型)でダストカバーを成形することができる鞍乗型車両用油圧緩衝器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体フレームに揺動可能に支持される懸架部材と、この懸架部材に一端が揺動可能に取り付けられているシリンダと、このシリンダ内を摺動するようにして前記車体フレームに一端が揺動可能に取り付けられているピストンロッドと、このピストンロッド側のロッドバネ受け部と前記シリンダ側のシリンダバネ受け部の間に装着されるスプリングと、一端が前記シリンダとの間に隙間を空け、前記ピストンロッドの外周を覆うようにして前記ロッドバネ受け部から前記ピストンロッドに沿って延びるダストカバーと、を備えた鞍乗型車両用油圧緩衝器において、前記ダストカバーの径方向内側面に形成され前記ピストンロッドに沿って延びる凹状の凹路と、この凹路に対応して前記ダストカバーの径方向外周面に形成され前記凹路に沿って延びる凸状のガイド部と、前記ダストカバーに一体的に形成され前記ロッドバネ受け部と前記スプリングとの間にて径方向外側に延びるフランジ部と、このフランジ部の上面に前記凹路と連通して形成され外部へ空気を通す連通路とを備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、凹路の幅は、凹路の深さより大きいことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、凹路は、隙間を形成するダストカバーの開口からピストンロッドの一端に向けて延びるように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、鞍乗型車両用油圧緩衝器は、ダストカバーを備え、このダストカバーは、ダストカバーの径方向内側面に形成されピストンロッドに沿って延びる凹状の凹路と、この凹路に対応してダストカバーの径方向外周面に形成され凹路に沿って延びる凸状のガイド部とを備えている。ダストカバーにシリンダが進入する際に、ダストカバー内の空気が凹路を通じてダストカバー外へ排出され、シリンダの円滑な移動が保たれる。
本発明では、凹路の外周面が凸状のガイド部とされ、このガイド部でスプリングをガイドする。ダストカバーの円周部を折り曲げ形状にすることで、円周部に凹路を形成することができる。すなわち、凹路及び凸状のガイド部を形成するにあたり、ダストカバーの肉厚をほとんど変える必要がない。
肉厚が一様であれば、樹脂成形欠陥が出にくいので、樹脂成形型が簡素化できる。
そして凹路と凸路が表裏の関係で一体で成形されるので、構造がシンプルになり、型のコストも低減できる。
さらに、ダストカバーとスプリングガイドが一体に形成されるので、部品点数を削減することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、凹路の幅は、凹路の深さより大きい。空気を流すのに必要な通路面積を、ダストカバーの径方向を大きくせずに凹路の幅方向で確保するので、ダストカバーの径方向の小型化を図ることができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、凹路は、隙間を形成するダストカバーの開口からピストンロッドの一端に向けて延びるように形成されている。凹路がダストカバーの開口からピストンロッドの基端部までの全長に亘って延ばされており、凹路の断面積(空気流路面積)が変化しない。流路面積が一定であるため、空気の流れを良好にすることができる。
加えて、凹状の凹路及び凸状のガイド部が、リブの役割を果たすのでダストカバー全体の剛性を向上させることができる。
さらに、ダストカバーの全長に亘って凹路が形成されるので、射出成形においてスライド型が必要なく、より簡素な金型による成形が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る鞍乗型車両の左側面図である。
【図2】本発明に係る鞍乗型車両用油圧緩衝器の正面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】鞍乗型車両用油圧緩衝器の要部を説明する図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】本発明に係るダストカバーの斜視図である。
【図7】樹脂成形型を説明する図である。
【図8】鞍乗型車両用油圧緩衝器の作用図である。
【図9】ダストカバーの構造的特徴を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとし、図中の矢印(FRONT)は車両前方を表している。
【実施例】
【0016】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、鞍乗型車両10は、ヘッドパイプ11に操舵可能に取付けられるハンドル12と、ヘッドパイプ11の下端に取付けられ左右一対のフロントフォーク13の上端を支持するボトムブリッジ14と、ヘッドパイプ11の上方に配置され車両前方に向かって点灯する前照灯15と、フロントフォーク13に支持され上方がフロントフェンダ16に覆われる前輪17とを備える。
【0017】
また、車体フレーム20において、ヘッドパイプ11から斜め後下方に向かってメインフレーム21が延ばされ、このメインフレーム21の途中の部分から車両後方へ斜め上方にシートレール22が延ばされている。
ヘッドパイプ11、メインフレーム21、シートレール22等から車体フレーム20が構成される。
【0018】
また、メインフレーム21の中間部にエンジンハンガ23が固定され、メインフレーム21の後部にピボットプレート24が固定されている。エンジンハンガ23及びピボットプレート24に、エンジン25及び変速機26から構成されるパワーユニット27が取り付けられる。
【0019】
ピボットプレート24に懸架部材31の前端部が上下に揺動可能に設けられ、この懸架部材31の後端部に後輪32が回転可能に設けられている。変速機26の駆動スプロケット33と、後輪32に取り付けられる被動スプロケット34とにチェーン35が掛け渡され、エンジン25の出力は、チェーン35を介して後輪に伝達される。
さらに、懸架部材31の後部とシートレール22の間に後輪32への衝撃を吸収する鞍乗型車両用油圧緩衝器50が設けられている。
【0020】
後輪32の上方にてシートレール22に燃料タンク36が設けられ、燃料タンク36の前方にてシートレール22に収納ボックス37が設けられ、この収納ボックス37及び燃料タンク36の上方が、乗車用シート38で開閉可能に覆われている。
車体フレーム20には、車体フレーム20、エンジン25、燃料タンク36及び収納ボックス37を覆う車体カバー40が取り付けられる。
【0021】
車体カバー40は、メインフレーム21の車幅方向を覆うフロントサイドカバー41と、運転者の脚部を覆うと共にフロントサイドカバー41の前部に配置されるレッグシールド42と、ヘッドパイプ11の前方を覆うフロントトップカバー43と、ヘッドパイプ11の後方を覆うと共にメインフレームの上方を覆うメインフレームトップカバー44と、フロントサイドカバー41の下部に連なるアンダーカバー45と、燃料タンク36及び収納ボックス37の車幅方向を覆うリヤサイドカバー46とで構成される。
【0022】
また、リヤサイドカバー46の後端部にブレーキランプ47が設けられ、このプレーキランプ47の下方にてリヤサイドカバー46に後輪32を覆うリヤフェンダ48が設けられている。
【0023】
次に鞍乗型車両用油圧緩衝器50の構造を説明する。
図2に示されるように、鞍乗型車両用油圧緩衝器50は、いわゆる正立タイプの鞍乗型車両用油圧緩衝器50であって、シリンダ51と、このシリンダ51内を摺動するピストンロッド(詳細後述)と、このピストンロッド側のロッドバネ受け部62とシリンダ51側のシリンダバネ受け部52の間に装着されるスプリング53と、ロッドバネ受け部62からシリンダ51の軸に沿って延びるダストカバー80(詳細後述)とを備える。
【0024】
懸架部材(図1、符号31)に懸架側取付部材54が揺動可能に取り付けられ、この懸架側取付部材54にシリンダ51が設けられ、このシリンダ51の下部にシリンダバネ受け部52が設けられている。また、車体フレーム(図1、符号20)に車体側取付部材63が揺動可能に取り付けられ、この車体側取付部材63にロッドバネ受け部62が設けられている。
【0025】
次に鞍乗型車両用油圧緩衝器50を断面図に基づいて説明する。
図3に示されるように、シリンダ51では、懸架側取付部材54に外筒55及び内筒56が同心円状に設けられ、内筒56の上端にピストンロッド61をガイドするロッドガイド57が内筒56を塞ぐようにして設けられ、このロッドガイド57の上方にて外筒55の内側にピストンロッド61の摺動によりオイルが漏れないようにシールするオイルシール58が設けられ、このオイルシール58の上方にて外筒55の上端にエンドプレート59が設けられている。
【0026】
また、車体側取付部材63の下部にピストンロッド61の一端が取り付けられ、シリンダ51内にピストンロッド61の他端が進入し摺動するようにして支持されている。ピストンロッド61の他端にピストン64が設けられ、このピストン64の外周に内筒56との間をシールするシール部材65が設けられている。
【0027】
ピストン64の下方に、ピストン64、内筒56及び底部66で囲われる下部オイル室67が設けられている。ピストン64の上方に、ピストン64、内筒56及びロッドガイド57で囲われる上部オイル室68が設けられている。ピストン64には、下部オイル室67と上部オイル室68のオイルを流通させる通孔71、71が設けられ、この通孔71、71にピストンロッド61の伸縮時に減衰力を発生させるバルブ72、72が設けられている。
【0028】
バルブ72は、バルブストッパ73により支持されるバルブスプリングにより通孔71を閉じる方向に付勢される。鞍乗型車両用油圧緩衝器50は、縮む場合にはバルブ72を押し開くことにより減衰力を発生し。伸びる場合にはバルブ72に設けた小孔の流路抵抗により減衰力を発生する。
【0029】
ロッドガイド57とバルブストッパ73の間に、ピストンロッド61が最も伸びたときのストロークを規制するリバウンドスプリング74が設けられている。また、ピストンロッド61の基端部に、ピストンロッド61が最も縮んだときのストロークを規制するストッパラバー75が設けられている。
【0030】
次にダストカバー80について説明する。
図4に示されるように、ダストカバー80の内側に、ダストカバー80、車体側取付部材63及びシリンダ51で囲まれ空気が入り込んでいるカバー内空間81を有する。
また、ロッドバネ受け部62とスプリング53との間に径方向外側に延びるフランジ部82、82が、ダストカバー80に一体的に形成されている。
【0031】
フランジ部82、82の上面83、83にカバー内空間81の空気を外部へ通す連通路84、84が形成されている。ダストカバー80の径方向外周面85、85にスプリング53をガイドするガイド部86が形成されている。
ダストカバー80下端の開口87には、シリンダ51が挿入されている。ダストカバー80とシリンダ51との間に僅かな隙間88、88を有する。
【0032】
次にダストカバー80を断面図に基づいて説明する。
図5に示されるように、シリンダ51及びピストンロッド61の外周を覆うようにしてダストカバー80が設けられている。シリンダ51の全周に亘りダストカバー80との間に隙間88が形成されている。
【0033】
ダストカバー80の径方向内側面91にピストンロッド61に沿って延びる複数の凹状の凹路92が形成され、この凹路92に対応してダストカバー80の径方向外周面85に凹路92に沿って複数の凸状のガイド部86が形成されている。
凹路92の幅Wは、凹路92の深さLより大きい。
【0034】
図4に戻って、凹路92はピストンロッド61に沿って延びており、フランジ部82の上面83にて連通路84と連通して形成されている。また、凹路92は、隙間88を形成するダストカバー80の開口87からピストンロッド61の一端に向けて延びるように形成されている。
【0035】
次にダストカバー80を斜視図に基づいて説明する。
図6に示されるように、ダストカバー80は、径方向内側面91において円周方向等間隔に4本の凹路92を有する。凹路92は、図上下方向に直線的に形成されている。さらにこれらの凹路92に連通して連通路84が径方向外側に延ばされている。
【0036】
連通路84の底面93とフランジ部82の上面83との間には立ち壁部94が形成されている。凹路94の底面95と径方向内側面91との間にも立ち壁部94が形成されている。すなわち、連通路84の立ち壁部94と凹路94の立ち壁部94とは同一面である。
【0037】
なお、径方向内側面91及び凹路92の底面95には、若干のテーパが形成されていても差し支えない。これにより、ダストカバー80の材質を樹脂製とした場合、射出成形時の金型からの型抜きを容易にすることができる。
【0038】
次にダストカバー50の金型について説明する。
図7に示されるように、ダストカバー用の樹脂成形型としての金型100は、下型101及び上型102から構成されている。下型101は、固定側型板103と、この固定側型板103に凹状に形成されたキャビティ側の面104と、このキャビティ側の面104の底に形成された位置決め凹部105とを有する。
【0039】
キャビティ側の面104は、ダストカバー(図6、符号80)の径方向外周面(図6、符号85)に対応した形状を呈する。キャビティ側の面104のうちガイド部(図6、符号86)に対応した面106は、図上下方向に直線的に延びており、型抜きを容易にすることができる。
【0040】
上側102は、可動側型板107と、この可動側型板107に凸状に形成されたコア側の面108と、このコア側の面108の先端に形成された位置決め凸部111とを有する。位置決め凸部111は、型締めした際に位置決め凹部105に嵌るので、射出成形時に上型102のコア側の面108を確実に固定することができる。
【0041】
コア側の面108は、ダストカバー80の径方向内側面(図6、符号91)に対応した形状を呈する。コア側の面108のうち凹路(図6、符号92)に対応した面112は、図上下方向に直線的に延びており、型抜きを容易にすることができる。なお、ガイド部に対応した面106及び凹路に対応した面112は、抜き勾配を有する。
【0042】
以上に述べた鞍乗型車両用油圧緩衝器50の作用を次に述べる。
図8(a)に示されるように、鞍乗型車両用油圧緩衝器50に衝撃が加えられると、シリンダ51が、矢印(1)のように上昇することで、カバー内空間81の容積が小さくなる。
【0043】
すると、(b)に示されるように、カバー内空間81の空気は、矢印(2)のように凹路92及び連通路84から外部へ排出される。さらに、カバー内空間81の空気は、矢印(3)のように隙間88からも外部へ排出される。これにより、鞍乗型車両用油圧緩衝器50は、カバー内空間81の空気の圧縮による抵抗を受けることなく、適切に伸縮することができる。
【0044】
次にダストカバー80の効果を説明する。
図9(a)は比較例のダストカバーの断面図であり、油圧緩衝器200は、シリンダ201の外側にダストカバー202が配置され、このダストカバー202の外側にスプリング203が配置されている。
【0045】
ダストカバー202は、ベースとなる円弧状の円筒部204と、円筒部204の内側に形成されシリンダ201に臨む内側凸部205と、円筒部204の外側に形成されスプリング203をガイドするガイド部206と、円筒部204の内面207と隣合う内側凸部205、205に囲まれ空気を通す空気通路208とからなる。
【0046】
シリンダ201の外径はd1であり、シリンダ201の外面からスプリング203の内径までの距離はW1であり、スプリング203の外径はD1である。
ダストカバー202は、内周方向に突出した内側凸部205と外周方向に突出したガイド部206とを有するので、W1が大きくなる。結果、シリンダ201の外径d1が小さくするか、または、スプリング203の外径を大きくする必要がある。
【0047】
さらに、円筒部204における、内側凸部205とガイド部206の基端部は肉厚になる。このため、射出成形の際、ひけが生じやすくなる。製品の精度を良くするためには、金型の調整が必要になり、調整のコストが高くなる。
【0048】
図9(b)は実施例のダストカバー80の断面図であり、鞍乗型車両用油圧緩衝器50は、シリンダ51の外側にダストカバー80が配置され、このダストカバー80の外側にスプリング53が配置されている。
【0049】
シリンダ51の外径はd2であり、シリンダ51の外面からスプリング53の内径までの距離はW2であり、スプリング53の外径はD2である。
ダストカバー80は、凹路92に対応する位置にガイド部86があるため、W2を小さくすることができる。結果、シリンダ51の外径d2を大きくし、シリンダ51の能力を向上させることができる。または、スプリング53の外径D2を小さくし、鞍乗型車両用油圧緩衝器50の径方向の小型化を図ることができる。
【0050】
さらに、ガイドカバー80の肉厚が略均一であるので、射出成形の際、ひけが生じ難くなる。結果、金型の調整を容易にすることができ、調整のコストの低減を図ることができる。
【0051】
以上に述べた鞍乗型車両用油圧緩衝器50の作用効果を以下に記載する。
図4に示されるように、鞍乗型車両用油圧緩衝器50は、ダストカバー80を備え、このダストカバー80は、ダストカバー80の径方向内側面に形成されピストンロッド61に沿って延びる凹状の凹路92と、この凹路92に対応してダストカバー80の径方向外周面85に形成され凹路92に沿って延びる凸状のガイド部86とを備えている。ダストカバー80にシリンダ51が進入する際に、ダストカバー80内の空気が凹路92を通じてダストカバー80外へ排出され、シリンダ51の円滑な移動が保たれる。
【0052】
本発明では、凹路92の外周面が凸状のガイド部86とされ、このガイド部86でスプリング53をガイドする。ダストカバー80の円周部を折り曲げ形状にすることで、円周部に凹路92を形成することができる。すなわち、凹路92及び凸状のガイド部86を形成するにあたり、ダストカバー80の肉厚をほとんど変える必要がない。
肉厚が一様であれば、樹脂成形欠陥が出にくいので、図7に示す樹脂成形型100が簡素化できる。
そして凹路92と凸路が表裏の関係で一体で成形されるので、構造がシンプルになり、型のコストも低減できる。
さらに、ダストカバー80とガイド部86が一体に形成されるので、部品点数を削減することができる。
【0053】
図5に示されるように、凹路92の幅Wは、凹路92の深さLより大きい。空気を流すのに必要な通路面積を、ダストカバー80の径方向を大きくせずに凹路92の幅方向で確保するので、ダストカバー80の径方向の小型化を図ることができる。
【0054】
図4に示されるように、凹路92は、隙間88を形成するダストカバー80の開口87からピストンロッド61の一端に向けて延びるように形成されている。凹路92がダストカバー80の開口87からピストンロッド61の基端部までの全長に亘って延ばされており、凹路92の断面積(空気流路面積)が変化しない。流路面積が一定であるため、空気の流れを良好にすることができる。
【0055】
加えて、凹状の凹路92及び凸状のガイド部86が、リブの役割を果たすのでダストカバー80全体の剛性を向上させることができる。
さらに、ダストカバー80の全長に亘って凹路92が形成されるので、射出成形においてスライド型が必要なく、図7に示すようにより簡素な金型100による成形が可能になる。
【0056】
尚、本発明に係る鞍乗型車両用油圧緩衝器50は、実施の形態ではダストカバー80の凹路92を4本としたが、これに限定されず、2本、6本等適宜本数を変更しても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の鞍乗型車両用油圧緩衝器は、鞍乗型車両に好適である。
【符号の説明】
【0058】
10…鞍乗型車両、20…車体フレーム、31…懸架部材、50…鞍乗型車両用油圧緩衝器、51…シリンダ、52…シリンダバネ受け部、53…開スプリング、61…ピストンロッド、62…ロッドバネ受け部、80…ダストカバー、82…フランジ部、83…上面、84…連通路、85…径方向外周面、86…ガイド部、87…開口、88…隙間、91…径方向内側面、92…凹路、W…凹路の幅、L…凹路の深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレーム(20)に揺動可能に支持される懸架部材(31)と、この懸架部材(31)に一端が揺動可能に取り付けられているシリンダ(51)と、このシリンダ(51)内を摺動するようにして前記車体フレーム(20)に一端が揺動可能に取り付けられているピストンロッド(61)と、このピストンロッド(61)側のロッドバネ受け部(62)と前記シリンダ(51)側のシリンダバネ受け部(52)の間に装着されるスプリング(53)と、一端が前記シリンダ(51)との間に隙間(88)を空け、前記ピストンロッド(61)の外周を覆うようにして前記ロッドバネ受け部(62)から前記ピストンロッド(61)に沿って延びるダストカバー(80)と、を備えた鞍乗型車両用油圧緩衝器(50)において、
前記ダストカバー(80)の径方向内側面(91)に形成され前記ピストンロッド(61)に沿って延びる凹状の凹路(92)と、
この凹路(92)に対応して前記ダストカバー(80)の径方向外周面(85)に形成され前記凹路(92)に沿って延びる凸状のガイド部(86)と、
前記ダストカバー(80)に一体的に形成され前記ロッドバネ受け部(62)と前記スプリング(53)との間にて径方向外側に延びるフランジ部(82)と、
このフランジ部(82)の上面(83)に前記凹路(92)と連通して形成され外部へ空気を通す連通路(84)とを備えていることを特徴とする鞍乗型車両用油圧緩衝器。
【請求項2】
前記凹路の幅(W)は、前記凹路の深さ(L)より大きいことを特徴とする請求項1記載の鞍乗型車両用油圧緩衝器。
【請求項3】
前記凹路(92)は、前記隙間(88)を形成する前記ダストカバー(80)の開口(87)から前記ピストンロッド(61)の一端に向けて延びるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鞍乗型車両用油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−141004(P2012−141004A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293387(P2010−293387)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】