説明

音信号抽出方法、音信号抽出ユニット、異音検査方法及び異音検査装置

【課題】 外乱ノイズを除去して良好なSN比で被検査音を抽出する音信号抽出方法及び音信号抽出ユニット並びにこれらを使用する異音検査方法及び異音検査装置を提供する。
【解決手段】 同じ対象音を複数回採取した各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割し(S53)、複数回採取された各音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較し、全ての音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出し(S54)、複数回採取された音信号のいずれかに係る、検出した信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出する(S55)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力される音信号に含まれる雑音成分を除去し所望の音信号を抽出するための音信号抽出方法および音信号抽出ユニットに関し、特に検査対象の摺動部から生じる被検査音である摩擦音に含まれる雑音成分を除去する音信号抽出方法、音信号抽出ユニットおよびこれらの音信号抽出方法及び音信号抽出ユニットにより抽出した音信号を使用する異音検査方法及び異音検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象が発生する音を採取して、採取された音に含まれる異音を検出して検査対象の異常状態を検査する異音検査は、様々な分野で広く行われている。
特に、カーエアコンのそれぞれの空気吹出口において、吹出口が開状態なる位置と閉状態となる位置の間で開口部に沿って摺動し、空調空気を吹き出す吹出口を選択するフィルムシャッタのような摺動部を有する製品は、傷や付着物等によって、部品同士が摺動する際に異音を生じる。したがって、このような摺動部を有する製品については、摺動部が生じる異音を検出して部品の良否を判定する摩擦異音検査が行われている。
【0003】
摩擦異音検査方法では、検査対象が発生した異音である摩擦音(被検査音)を検出する。この異音は連続する摩擦音であり、その音圧と継続時間との積(即ち音圧値の時間積分値)を求めることにより、検出または異常の有無についての評価を行うことが可能である。
しかし、このような異音検査が行われる工場内には、検査対象の周囲で動作する電動ドライバーの動作音やエアブロー音、または工場内放送などの外乱ノイズ(例えば工場内で発生する)が存在し、異音検出または評価に影響を生じていた。したがって、従来の摩擦異音検査は、外部から到来する外乱ノイズを遮断するために一般に防音ボックス内で行われていた。
【0004】
なお、本発明に関して記載すべき先行技術文献はない。出願人が知っている先行技術が文献公知発明に係るものではないからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の防音ボックスを使用するには大きな設置スペースを必要とするため、例えば工場の製造ラインに構築するのは経済的ではない。また、被検査音信号に含まれる雑音成分を平滑化する手段として、移動平均フィルタやメディアンフィルタがあるが、被検査音である摩擦音に比べて非常に大きな雑音成分が入力された場合、これらフィルタでは雑音成分を十分に除去することができずSN比が悪い。
【0006】
上記問題点を鑑みて、本発明は外乱ノイズを除去して良好なSN比で被検査音を抽出する音信号抽出方法及び音信号抽出ユニット並びにこれらを使用する異音検査方法及び異音検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では同じ被検査音を複数回採取してこれらを比較して同じタイミングで発生する音信号のみを抽出し、これを真正信号として使用する。これは、時間を隔てて複数回採取した被検査音内に、同一タイミングで同じ外乱ノイズが到来する確率は低いという経験則に基づき、複数回採取した被検査音の各音信号を「重ね合わせ」ることにより、その重複部分を真正信号として抽出し重複しない部分を外乱ノイズとして除去することを企図するものである。
さらに本発明では、これら複数回採取した被検査音を複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割し、各音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較する。これにより、時間を隔てて複数回採取した各被検査音内に、異なる周波数帯域特性の雑音が同一タイミングで到来した場合においても雑音成分として識別可能とする。
【0008】
すなわち、本発明の第1形態に係る音信号抽出方法は、同じ対象音を複数回採取した各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割し、複数回採取された各音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較し、全ての音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出し、複数回採取された音信号のいずれかに係る、検出した信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出する。
【0009】
また、本発明の第2形態に係る異音検査方法は、同じ検査対象から被検査音を複数回発生させ、この複数回の被検査音を採取してそれぞれの音信号を生成し、複数回採取された各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割し、複数回採取された各音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較し全ての音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出し、複数回採取された音信号のいずれかに係る、検出した信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出し、抽出した周波数帯域信号を使用して、検査対象の異音検査を行う。
【0010】
さらに、本発明の第3形態に係る音信号抽出ユニットは、同じ対象音を複数回採取した各音信号をそれぞれ記憶する記憶手段と、記憶された各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割する信号変換手段と、複数回採取された各音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較し全ての音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出する信号区間検出手段と、複数回採取された音信号のいずれかに係る、検出された信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出する信号抽出手段とを備える。
【0011】
さらにまた、本発明の第4形態に係る異音検査装置は、検査対象から被検査音を発生させる被検査音発生手段と、被検査音発生手段による被検査音の発生と同期して被検査音を採取する音信号採取手段と、同じ被検査音を複数回採取した各音信号をそれぞれ記憶する記憶手段と、記憶された各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割する信号変換手段と、複数回採取された音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較し、全ての音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出する信号区間検出手段と、複数回採取された音信号のいずれかに係る、検出された信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出する信号抽出手段と、抽出した周波数帯域信号を使用して、被検査音の良否判定を行う判定手段とを備える。
【0012】
前記の信号区間の検出は、各音信号ごと及び各周波数帯域ごとに、周波数帯域信号の値の絶対値が所定の閾値以下となる区間が所定長以上連続しない信号区間を選択し、選択された各前記信号区間のうち、全ての前記音信号について選択された信号区間を前記各周波数帯域ごとに検出して行うこととしてよい。
また、前記の信号区間検出手段は、各音信号ごと及び前記各周波数帯域ごとに、周波数帯域信号の値の絶対値が所定の閾値以下となる区間が所定長以上連続しない信号区間を選択する信号区間選択手段を備え、選択された記信号区間のうち、全ての前記音信号について選択された信号区間を各周波数帯域ごとに検出することとしてよい。
【0013】
さらに、前記の音信号の周波数帯域信号への分割は、音信号を離散ウェーブレット変換して行うこととしてよく、前記の信号変換手段は、音信号をその周波数帯域信号へ分割する離散ウェーブレット変換手段であってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、被検査音に含まれる外乱ノイズを除去して良好なSN比で真正音信号を抽出することが可能となる。また、このように雑音が除去された被検査音を異音検査に使用することにより、その検査結果の精度向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付する図面を参照して本発明の実施例を説明する。図1は、本実施例に係る異音検査装置の全体構成図である。以下の説明では、検査対象物の摺動部分を摺動させ、その際に検査対象が発生する摩擦音を採取して、採取された音に含まれる異音を検出して検査対象の異常状態を検査する異音検査装置を例示するが、本発明はこれに限定されることなく、種々の異音検査装置に適用可能である。
【0016】
異音検査装置1は、検査対象物4の摺動部分を摺動させ、検査対象物4から摩擦音を発生させる摺動部3と、摺動部3が検査対象物4の摺動部分を摺動させる時に生成するタイミング信号に同期して、摩擦音を採取しそのアナログ音信号を生成するマイク部2と、マイク部2により生成されたアナログ音信号を、所定の定格の入力信号に増幅する増幅器11と、増幅器11により増幅されたアナログ音信号を所定のサンプリング周期Δtでサンプリングして、ディジタル音信号に変換するアナログディジタル変換器12を備える。
なお、アナログディジタル変換器12は、例えば入力アナログ音信号の各サンプリング周期Δi内の各時刻ti(iは自然数)における信号値をサンプリングして、これを量子化したディジタル信号値の列をディジタル音信号として出力するものであるとしてよい。
【0017】
さらに異音検査装置1は、アナログディジタル変換器12により変換された音信号のうちノイズ成分を除去した真正音信号を抽出する、本発明に係る音信号抽出ユニットであるディジタルフィルタ13を備える。なお、ディジタルフィルタ13は、ノイズ成分を除去した真正音信号そのものを抽出して出力するように構成することとしてもよいが、後述するように真正音信号を複数の周波数帯域信号に分割した各周波数帯域信号を出力するように構成してもよい。
【0018】
さらにまた、異音検査装置1は、ディジタルフィルタ13により抽出された音信号又はその周波数帯域信号に基づいて、例えばその摩擦音の音圧レベルと存続時間の積(時間積分値)が大きいとき、異音であると判断する判定器14と、判定器14の判定結果を表示する表示器15と、判定器14の判定により異音を検出したときにオペレータに警報を行う警報器16などを備える。
【0019】
図2は、図1のディジタルフィルタ13の構成図である。ディジタルフィルタ13は、前段のアナログディジタル変換器12により変換された音信号を入力する入力端と処理済みの音信号を後段の判定器14に出力する出力端とを有する演算器21を備える。演算器21は例えばディジタルシグナルプロセッサ(DSP)などで構成される。
【0020】
演算器21のデータバス22にはフィルタパラメータ記憶部23と、原音記憶部24と、作業領域用記憶部25の各記憶部が接続され、演算器21とデータの授受が可能である。なお、図2にはこれら記憶部を分割して記載したが、これらは単一の記憶素子をして実現してもよい。
【0021】
フィルタパラメータ記憶部23には、ディジタルフィルタ13が動作するために演算器21が使用する各種パラメータが記憶され、後述する所定の閾値Vt、所定長Δt1などのパラメータも、このフィルタパラメータ記憶部23に記憶される。また、原音記憶部24には、アナログディジタル変換器12から逐次入力される音信号が、ディジタルフィルタ13により処理されて判定器14に逐次出力されるまで、一時的に記憶される。
【0022】
作業領域用記憶部25には、演算器21がその動作のために使用する各変数が記憶される。後述のテーブル1及びテーブル2もこの作業領域用記憶部25内に記憶される。
なお、マイク部2は、本発明に係る異音検査装置の音信号採取手段をなし、摺動部3は、本発明に係る異音検査装置の被検査音発生手段をなし、ディジタルフィルタ13は本発明に係る音信号抽出ユニットをなす。
さらに、原音記憶部24は、本発明に係る音信号抽出ユニット及び異音検査装置の記憶手段をなし、演算器21は、本発明に係る音信号抽出ユニット及び異音検査装置の信号変換手段をなし、演算器21と及び前記テーブルが記憶される作業領域用記憶部25は、本発明に係る音信号抽出ユニット及び異音検査装置の信号区間検出手段、信号抽出手段及び信号区間選択手段をなす。
【0023】
図3、図4(A)及び(B)、並びに図5を参照して本発明の実施形態に係る音信号処理方法を以下に説明する。
まず、ステップS51において、摺動部3は、検査対象物4の摺動部分を摺動させて摩擦音を時間を隔てて複数回発生させ、ステップS52において、マイク部2は、これら摩擦音をそれぞれ採取し各アナログ音信号を生成する。このときマイク部2は、検査対象物4の摺動開始時に摺動部3が生成する開始タイミング信号及び摺動停止時に生成する停止タイミング信号を取り込んで、これらのタイミング信号に同期して被検査音の採取開始及び停止をそれぞれ行う。したがって、マイク部2が生成する各音信号に含まれる各回の各被検査音は、それぞれの音信号中の同じ時刻に存在する。
【0024】
そして、これら複数回採取した各音信号は、増幅器11により所定の定格の入力信号に増幅され、アナログディジタル変換器12にてディジタル信号に変換されて、ディジタルフィルタ13内の原音記憶部24に記憶される。なお、以下の説明において簡単のため摺動部3が被検査音を発生させる回数を2回とする。
【0025】
次に、ステップS53において、ディジタルフィルタ13内の演算器21は原音記憶部24に記憶された各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割する。演算器21による各周波数帯域信号への各音信号の分割には、離散ウェーブレット変換を使用してよい。
図4(A)に、第1回目に採取した音信号を離散ウェーブレット変換により各周波数帯域1〜6に分割した各周波数帯域信号の波形図を示し、図4(B)に、第2回目に採取した音信号を離散ウェーブレット変換により各周波数帯域1〜6に分割した各周波数帯域信号の波形図を示す。
【0026】
ステップS54において、演算器21は、後述に例示する方法によって、各音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較する。そして、2つの音信号の双方について周波数帯域信号が存在する信号区間(時間区間)を各帯域ごとに検出する。
図4(A)及び(B)に示す例では、周波数帯域2、4及び5のそれぞれの信号区間61、62及び63には2つの音信号の双方について周波数帯域信号が存在するが、図4(A)に示す周波数帯域3、4及び5のそれぞれの信号区間64、65及び66には、1回目に採取した音信号については周波数帯域信号が存在するが2回目に採取した音信号については周波数帯域信号が存在しない。
【0027】
反対に、図4(B)に示す周波数帯域1の信号区間71、周波数帯域2の信号区間72、周波数帯域3の信号区間73〜75、周波数帯域4の信号区間76、周波数帯域5の信号区間77及び78、並びに周波数帯域6の信号区間79には、2回目に採取した音信号については周波数帯域信号が存在するが1回目に採取した音信号については周波数帯域信号が存在しない。
【0028】
ここで、上述の通り、各音信号に含まれる真正な各被検査音(摺動部3によって発生させた被検査音)はそれぞれの音信号中の同じ時刻に存在し、かつ両者は同じ周波数特性を持つので、真正な各被検査音は複数回取得された全ての音信号について、同時刻に同じ周波数帯に信号成分を含む。したがって、演算器21は、これら2つの音信号の双方について周波数帯域信号が存在する周波数帯域2、4及び5のそれぞれの信号区間61、62及び63を真正な被検査音を含む信号区間として検出する。
【0029】
ステップS55において、演算器21は、ステップS54で検出した各信号区間に存在する各周波数帯域信号のみを、前記2回採取された各音信号のいずれかから抽出する。これによりステップS54で検出した信号区間以外の信号区間に存在する音信号(ノイズ成分)が除去される。このように抽出された周波数帯域信号を図5に示す。演算器21は、抽出した各周波数帯域信号を後段の判定器14に出力することとしてもよく。またはこれら抽出した各周波数帯域信号を離散ウェーブレット逆変換によって音信号に合成(再生)して後段の判定器14に出力することとしてもよい。
【0030】
ステップS56において、判定器14は、ディジタルフィルタ13により抽出された音信号又はその周波数帯域信号に基づいて、例えばその摩擦音の音圧レベルと存続時間の積(時間積分値)が大きい場合には採取した被検査音が異音であると判定し、それ以外の場合には採取した被検査音が正常な摩擦音であると判定する。
【0031】
図6は、上記ステップS54にて、各音信号について同じ周波数帯域の周波数帯域信号同士を比較するため方法の具体例を示すフローチャートである。
上述の通り、アナログディジタル変換器12を経てディジタルフィルタ13に入力されるディジタル音信号は、入力アナログ音信号の各サンプリング周期Δi内の各サンプリング時刻ti(iは自然数)における信号値をサンプリングして、これを量子化したディジタル信号値の列として与えられる。
そして、ステップS53で、これらディジタル変換された各音信号を各周波数帯域成分へと分割して生成された各周波数帯域信号もまた、同様の形式のディジタル信号、すなわち各時刻tiにおける当該周波数帯域における信号強度を示すディジタル信号値の列として与えられる。図7(A)に、ある周波数帯域における周波数帯域信号のタイムチャートを示す。
【0032】
図7(A)に示すように、周波数帯域信号は、サンプリング時刻であるt3、t5、t8、t11、t14、t17、t20、t23、t26、t29、t32、t35、t38及びt41において、その絶対値が所定の閾値Vtを超えるものとする。なおVt=100として以下説明を続ける。
【0033】
また、時刻t2及びt4、時刻t4及びt6、時刻t7及びt9、時刻t10及びt12、時刻t13及びt15、時刻t16及びt18、時刻t19及びt21、時刻t22及びt24、時刻t25及びt27、時刻t28及びt30、時刻t31及びt33、時刻t34及びt36、時刻t37及びt39、時刻t40及びt42は、それぞれ、時刻t3、t5、t8、t11、t14、t17、t20、t23、t26、t29、t32、t35、t38及びt41の、前後のサンプリング時刻である。
これら各時刻と各時刻における周波数帯域信号の信号値とを、下記表1の第1列と第2列とにそれぞれ示す。
【0034】
【表1】

【0035】
まず、図6のステップS81において、各音信号の各周波数帯域について、各サンプリング時刻tiの周波数帯域信号の信号値Vの絶対値が閾値Vtを超えるとき、そのサンプリング時刻tiを含むサンプリング周期Δi(以下単に「区間Δi」と記す)を選択する。選択された区間を図7(B)に示す。各区間Δiの選択状態は、前記作業領域用記憶部25に設けられた2値データテーブル1(以下単に「テーブル1」と記す)に記憶される。テーブル1の内容を、前記表1の第3列及び第4列に示す。
【0036】
テーブル1は、区間Δiと区間Δiに対する選択状態とをそれぞれ記憶するテーブルであり、選択状態は状態「ON」で示され、被選択状態はOFFで示される(後述する他のテーブルについても同様とする)。
図7(A)の例では、区間Δ3〜Δ5、Δ8〜Δ11、Δ14〜Δ17、Δ20〜Δ23、Δ26〜Δ29、Δ32〜Δ35及びΔ38〜Δ41の区間で、信号値Vの絶対値が閾値Vtを超えており、これらの区間が選択される。
【0037】
続くステップS82において、各音信号の各周波数帯域について、周波数帯域信号Vの絶対値が閾値Vt以下となる連続区間であって、かつその区間長が所定長Δt1より短い区間に含まれる区間Δiを選択する。
図7(B)の例では、区間Δ6〜Δ7、Δ12〜Δ13、Δ18〜Δ19、Δ24〜Δ25、Δt36〜Δ37で、信号値の絶対値が閾値Vt以下であり区間長がかつその所定長Δt1より短いため選択される。一方で区間Δ30〜Δ31の区間でも信号値の絶対値が閾値Vt以下であるが区間長が所定長Δt1より長いため、ここでは選択されない。
【0038】
その後ステップS83において、各音信号の各周波数帯域毎に、ステップS81及びS82で選択された区間が合成される。そしてその選択状態は、前記作業領域用記憶部25に設けられた2値データテーブル2(以下単に「テーブル2」と記す)に記憶される。
選択状態を図7(C)に示し、テーブル2の内容を表1の第3列及び第5列に示す。
【0039】
上記S81〜S83までの処理によって、テーブル2には、各音信号の各周波数帯域毎に、各周波数帯域信号の信号が存在する信号区間及び信号が存在しない信号区間とを、それぞれ「ON」及び「OFF」の2値データで表現する区間選択データが形成される。上記S81〜S83までの処理を、それぞれ図4(A)及び図4(B)に例示した2回の音信号に係る周波数帯域信号に適用した結果を図8(A)及び図8(B)に示す。
【0040】
そして、ステップS84において、これら2回の音信号の同じ周波数帯域同士でステップS83で合成した区間同士の論理積を求めることにより、図8(C)に示すとおり2つの音信号の双方に周波数帯域信号が存在する信号区間を各帯域ごとに検出する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、入力される音信号に含まれる雑音成分を除去し所望の音信号を抽出するための音信号抽出方法および音信号抽出ユニットに広く利用可能である。特に検査対象の摺動部から生じる被検査音である摩擦音に含まれる雑音成分を除去する音信号抽出方法、音信号抽出ユニットおよびこれらの音信号抽出方法及び音信号抽出ユニットにより抽出した音信号を使用する異音検査方法及び異音検査装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例に係る異音検査装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施例に係るディジタルフィルタの構成図である。
【図3】本発明の実施例に係る音信号抽出方法のフローチャートである。
【図4】(A)は第1回目に採取した音信号の離散ウェーブレット変換信号の波形図であり、(B)は第2回目に採取した音信号の離散ウェーブレット変換信号の波形図である。
【図5】図4(A)及び(B)に示す信号に基づき本発明により真正信号を抽出した波形図である。
【図6】図3のフローチャートのステップS54を実現するルーチンのフローチャートである。
【図7】図6に示すフローチャートによる離散ウェーブレット変換信号の処理方法の説明図である。
【図8】(A)は図7に示す方法により図4(A)に示す離散ウェーブレット変換信号を処理した信号のタイムチャートであり、(B)は同様に図4(B)に示す離散ウェーブレット変換信号を処理した信号のタイムチャートであり、(C)は(A)及び(B)に示す信号同士の論理積を得た信号のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 異音検査装置
4 検査対象
13 ディジタルフィルタ
21 演算器
22 データバス
23、24、25 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ対象音を複数回採取した各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割し、
前記の複数回採取された各音信号について、同じ周波数帯域の前記周波数帯域信号同士を比較し、全ての前記音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出し、
前記複数回採取された音信号のいずれかに係る、前記の検出した信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出する、
ことを特徴とする音信号抽出方法。
【請求項2】
前記の信号区間の検出は、
前記各音信号ごと及び前記各周波数帯域ごとに、前記周波数帯域信号の値の絶対値が所定の閾値以下となる区間が所定長以上連続しない信号区間を選択し、
選択された各前記信号区間のうち、全ての前記音信号について選択された信号区間を前記各周波数帯域ごとに検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の音信号抽出方法。
【請求項3】
前記の音信号の周波数帯域信号への分割を離散ウェーブレット変換により行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の音信号抽出方法。
【請求項4】
同じ検査対象から被検査音を複数回発生させ、
前記の複数回の被検査音を採取してそれぞれの音信号を生成し、
前記の複数回採取された各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割し、
前記複数回採取された各音信号について同じ周波数帯域の前記周波数帯域信号同士を比較し、全ての前記音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出し、
前記複数回採取された音信号のいずれかに係る、前記の検出した信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出し、
前記抽出した周波数帯域信号を使用して、前記検査対象の異音検査を行うことを特徴とする異音検査方法。
【請求項5】
前記の信号区間の検出は、
前記各音信号ごと及び前記各周波数帯域ごとに、前記周波数帯域信号の値の絶対値が所定の閾値以下となる区間が所定長以上連続しない信号区間を選択し、
選択された各前記信号区間のうち、全ての前記音信号について選択された信号区間を前記各周波数帯域ごとに検出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の異音検査方法。
【請求項6】
前記の音信号の周波数帯域信号への分割を離散ウェーブレット変換により行うことを特徴とする請求項4又は5に記載の雑音削除方法。
【請求項7】
同じ対象音を複数回採取した各音信号をそれぞれ記憶する記憶手段と、
前記の記憶された各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割する信号変換手段と、
前記の複数回採取された各音信号について同じ周波数帯域の前記周波数帯域信号同士を比較し、全ての前記音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出する信号区間検出手段と、
前記複数回採取された音信号のいずれかに係る、前記の検出された信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出する信号抽出手段と、
を備えることを特徴とする音信号抽出ユニット。
【請求項8】
前記信号区間検出手段は、
前記各音信号ごと及び前記各周波数帯域ごとに、前記周波数帯域信号の値の絶対値が所定の閾値以下となる区間が所定長以上連続しない信号区間を選択する信号区間選択手段を備え、
選択された各前記信号区間のうち、全ての前記音信号について選択された信号区間を前記各周波数帯域ごとに検出することを特徴とする請求項7に記載の音信号抽出ユニット。
【請求項9】
前記信号変換手段は、音信号をその周波数帯域信号へ分割する離散ウェーブレット変換手段であることを特徴とする請求項7又は8に記載の音信号抽出ユニット。
【請求項10】
検査対象から被検査音を発生させる被検査音発生手段と、
前記被検査音発生手段による被検査音の発生と同期して前記被検査音を採取する音信号採取手段と、
同じ被検査音を複数回採取した各音信号をそれぞれ記憶する記憶手段と、
前記の記憶された各音信号のそれぞれを、複数の周波数帯域についての各周波数帯域信号に分割する信号変換手段と、
前記の複数回採取された音信号について同じ周波数帯域の前記周波数帯域信号同士を比較し、全ての前記音信号について周波数帯域信号が存在する信号区間を各周波数帯域ごとに検出する信号区間検出手段と、
前記複数回採取された音信号のいずれかに係る、前記の検出された信号区間に存在する周波数帯域信号を抽出する信号抽出手段と、
前記抽出した周波数帯域信号を使用して、前記被検査音の良否判定を行う判定手段と、
を備えることを特徴とする異音検査装置。
【請求項11】
前記信号区間検出手段は、
前記各音信号ごと及び前記各周波数帯域ごとに、前記周波数帯域信号の値の絶対値が所定の閾値以下となる区間が所定長以上連続しない信号区間を選択する信号区間選択手段を備え、
選択された各前記信号区間のうち、全ての前記音信号について選択された信号区間を前記各周波数帯域ごとに検出することを特徴とする請求項10に記載の異音検査装置。
【請求項12】
前記信号変換手段は、音信号をその周波数帯域信号へ分割する離散ウェーブレット変換手段であることを特徴とする請求項10又は11に記載の異音検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−17582(P2006−17582A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195728(P2004−195728)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】