説明

音場制御装置及び方法

【課題】所望のエリアで増音し、他のエリアで音圧維持するとともに、音圧維持について均一な周波数特性を与える。
【解決手段】実施形態によれば、制御フィルタ、音量調整部、算出部を備える。制御フィルタは、入力音響信号に対し、主音源と複数の制御音源用の各係数でFIR演算を実行し、各音源用の信号を出力する。音量調整部は、出力された各信号を音量調整して、主音源用スピーカと複数の制御音源用スピーカに供給する。算出部は、各スピーカから第1のエリア及び第2のエリアまでの空間伝播特性と増音率nに基づき、主音源用スピーカ及び複数の制御音源用スピーカから第1のエリアへの合成音圧を、主音源用スピーカのみの場合に比較してn倍又はこれに近くし、かつ、主音源用スピーカ及び複数の制御音源用スピーカから第2のエリアへの合成音圧を、主音源用スピーカのみの場合と同じ又はこれに近くするように、制御フィルタの各係数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音場を制御するための音場制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のエリアで増音し、他のエリアで音圧維持する音場制御技術として、例えば、時間遅延利用によるサウンドスポットや集音装置などが知られている。この技術は、中高音が対象であり、低音は、中高音の増音エリアと音圧維持エリアのいずれにおいても、増音される。また、超音波利用による超指向性パラメトリックスピーカも低音には不向きである。
【0003】
一方、低音を対象にできる音場制御技術も知られている。この技術は、正面のエリアで音圧維持し、周囲のエリアで減音するものである。また、減音において周波数特性が均一でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−13400号公報
【特許文献2】特開2007−121439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、低音について、特定のエリアで増音し、他のエリアで音圧維持することができ、その際、音圧維持について均一な周波数特性を与えることができる制御技術が知られていなかった。
【0006】
本実施形態は、所望のエリアで増音し且つ他のエリアで音圧維持することができるとともに音圧維持について均一な周波数特性を与えることができる音場制御装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、制御フィルタ、音量調整部、算出部を備える。制御フィルタは、入力される音響信号に対し、主音源用係数及び複数の制御音源用係数を用いたFIR演算を実行して、主音源用信号及び複数の制御音源用信号を出力する。音量調整部は、前記制御フィルタから出力された前記主音源用出力信号及び前複数の制御音源用出力信号を、音量調整して、それぞれ、対応する主音源用スピーカ及び複数の制御音源用スピーカに供給する。算出部は、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから第1のエリア及び第2のエリアまでの空間伝播特性、並びに、増音率nに基づいて、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから前記第1のエリアへの合成音圧を、前記主音源用スピーカのみからの到来音圧のn倍又はこれに近くし、かつ、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから前記第2のエリアへの合成音圧を、前記主音源用スピーカのみからの到来音圧と同じ又はこれに近くするように、前記制御フィルタの前記主音源用係数及び前記複数の制御音源用係数を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す図。
【図2】スピーカから各エリアの評価点までの空間伝達特性について説明するための図。
【図3】本実施形態の増音制御の効果を検証するための評価点の概略図。
【図4】本実施形態の増音制御の効果を検証するための計算結果例を示す図。
【図5】本実施形態の増音制御の効果を検証するための計算結果例を示す図。
【図6】本実施形態の増音制御の効果を検証するための実験結果例を示す図。
【図7】本実施形態の音場制御装置の動作例を示すフローチャート。
【図8】本実施形態の音場制御装置の制御フィルタ出力電圧の監視調整機能に関する動作例を示すフローチャート。
【図9】第2の実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す図。
【図10】ローパスカットオフ周波数について説明するための図。
【図11】スピーカ配置例を示す図。
【図12】第3の実施形態の増音制御の効果を検証するための計算結果例を示す図。
【図13】スピーカ配置について説明するための図。
【図14】スピーカ配置例を示す図。
【図15】第3の実施形態の増音制御の効果を検証するための計算結果例を示す図。
【図16】スピーカ配置例を示す図。
【図17】第4の実施形態の音場制御装置の構成例を示す図。
【図18】各スピーカ及びスピーカボックスの共鳴周波数について説明するための図。
【図19】本実施形態のフィルタゲイン過入力帯域検出・帯域カットの効果について説明するための概略図。
【図20】本実施形態の増音制御の効果を検証するための実験結果例を示す図。
【図21】第5の実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す図。
【図22】低音の指向性分布形態を説明するための音場制御の音圧分布計算結果例を示す図。
【図23】本実施形態の増音制御の効果を検証するための実測結果例を示す図。
【図24】本実施形態の増音制御の効果を検証するための実測結果例を示す図。
【図25】第6の実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す図。
【図26】本実施形態の音場制御装置の動作例を示すフローチャート。
【図27】第7の実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す図。
【図28】反響のある実環境で計測した空間インパルス応答実測結果例を示す図。
【図29】反響のない無響室で計測した空間インパルス応答実測結果例を示す図。
【図30】反響の大きな部屋で増音率を変更したときの増音制御の計算結果例を示す図。
【図31】反響の少ない部屋で実験した増音の増音率の違いによる増音制御実測結果例を示す図。
【図32】反響のある実環境で実験した増音制御レイアウトの概要図。
【図33】反響のある実環境で実験した増音の増音率の違いによる増音制御実測結果例を示す図。
【図34】制御前後の音圧レベル実測結果例を示す図。
【図35】反響で増音効果が変動する増音制御について説明するための図。
【図36】本実施形態の音場制御装置の動作例を示すフローチャート。
【図37】従来の技術に係る減音制御について説明するための図。
【図38】従来の技術に係る減音制御における周波数特性の不均一性について説明するための図。
【図39】従来の技術に係る制御が低音を対象とできない点について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る音場制御装置について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
【0010】
本実施形態では、主音源(メインスピーカ)に対して複数の制御音源(制御スピーカ)を利用し、それらに対する制御フィルタを制御するによって、あるエリアでは当該主音源のみの状態(当該制御を行わない状態)に比べて増音するように制御するとともに、他のエリアでは(当該制御の前後を比較したときに)音圧を維持するように制御する。
【0011】
以下では、本実施形態の「あるエリアで増音し、他のエリアで音圧維持する制御」を「増音制御」と呼んで説明するものとする。
【0012】
また、本実施形態において、増音制御の対象とするエリアを「聴取エリア」と呼ぶものとし、音圧維持の制御対象とするエリアを「非聴取エリア」と呼ぶものとする。なお、非聴取エリアは、聴取しないエリアを意味するものではなく、非聴取エリアで聴取するかしないかは任意である。
【0013】
なお、本実施形態において聴取エリアをメインスピーカの正面のエリアとする場合を例に取って説明することがあるが、これに制限されるものではなく、聴取エリアをそれ以外のエリアにすることも可能である。同様に、本実施形態において非聴取エリアをメインスピーカの正面のエリアの周囲とする場合を例に取って説明することがあるが、これに制限されるものではなく、非聴取エリアをそれ以外のエリアにすることも可能である。
【0014】
また、聴取エリア及び非聴取エリアを予め固定する構成も可能であり、また、聴取エリア及び非聴取エリアを可変にする構成も可能である。
【0015】
また、増音の目的に特に制限はない。例えば、ユーザが聴取エリアにおいてのみ大音量(大音響)を楽しむケース、聴取エリアにおいてあるユーザが大音響を楽しみ、非聴取エリアにおいて他のユーザが聴取エリアよりは低レベルの大音響で又は通常の音量で又は通常より低い音量で聞くようなケース、聴力が低下している人などが聴取エリアで増音された音量で聞く一方で、非聴取エリアでは通常の音量で聞くようなケースなど、種々のケースが考えられる。
【0016】
ここで、従来技術に関してより詳しく説明する。
【0017】
前述したように、周囲への音漏れを気にせずに大音量でAV機器を楽しめるスピーカシステムの実現を目的として、TV・AVスピーカの正面のエリアでは音圧を維持し、その周囲のエリアでは減音するようにした従来技術が知られている(図37の1001参照)(この制御を「減音制御」と呼んで説明するものとする)。しかし、減音性能は、実空間になるほど部屋の残響特性の影響を受けやすく、反射のない部屋に比べて大幅に劣化する欠点がある。また、空間エリア内の減音は、日常体験が少ないこともあり、人によって、その効果の期待度が異なる。つまり、AV音響が完全に聞こえないレベルまで低減する消音をイメージしてしまいがちで、例えば5dB程度の減音ではユーザは受け入れにくい。また、たとえ周囲エリアの減音が達成できても、減音制御の効果(減音制御の前後の違い)は周囲エリアにいる人が感じるものであり、正面エリアでAV機器を聴取しているユーザには直接的には実感しにくい。
【0018】
これに対して本実施形態では、聴取エリアで増音、非聴取エリアで音圧維持を実現する。比較のために、聴取エリアをスピーカの正面、非聴取エリアをその周囲とする場合について、増音制御の概要を図37の1002に示す。聴取エリアで増音させるので、制御前後の違いが、ユーザに直接的に実感できるようになる。また、増音は日常体験している効果であり、減音と比べると、人によって期待値の度合いが大幅に異なることはなく、結果的に5dB増加であっても、減音に比べれば、低音の音量増加機能は受け入れやすい。
【0019】
ところで、一見すると、上記従来手法による減音制御により、正面エリアで音圧維持し、周囲エリアで減音する制御フィルタ状態を保った状態で、その減音分だけスピーカアンプのボリュームを上げることによって、正面エリアで増音(すなわち、減音制御における音圧維持+減音分のボリュームアップ)し、周囲エリアで音圧維持(すなわち、減音制御における減音+減音分のボリュームアップ)することが実現できるようにも思われる。
【0020】
しかしながら、この場合に不具合が発生する。すなわち、上記周囲エリアでの「減音制御における減音+減音分のボリュームアップ」における減音のみを考えると、これは音圧の干渉により制御・実現されることから、この状態での周囲エリアでの周波数特性は、室内の残響という制御側で操作できない未知のパラメータの影響を受け、必ずしも帯域全体で均一にはならない(すなわち、「減音制御における減音+減音分のボリュームアップ」)。そのため、この状態で、音圧維持レベルまで増音させるように、アンプのゲインを増加させると、周囲エリアでは不均一な周波数特性が顕著になり、かえって低音と高音の音量のばらつきのほうが気になり、正面が増音できる利点よりも、不均一さによる音質劣化の方が目立つ欠点のほうが顕著になってしまう。
【0021】
図38は、従来技術による周囲エリアにおける減音(音圧変動量)の周波数特性の実測結果である。なお、この測定は、周囲エリア内の測定点として、音源から正面方向に1.5m且つ側面方向に2.8m離れた位置で行われたものである。図38に示されるように、周囲エリアは1.25kHzバンドまでの低音域で約6から14dB近く減少しているが、その効果は一定ではないことが分る。従って、この状態でアンプのゲインを増加させても音質変化分が目立ってしまい、図37の1002のような増音制御とは等価にならない。
【0022】
これに対して本実施形態の増音制御では、非聴取エリアで周波数特性を均一に音圧維持した状態で、聴取エリアで増音させる。
【0023】
さらに、その際、従来技術で述べた中高音が対象になる時間遅延法では再生困難な低音域でも増音制御可能になることも利点となる。特に、低音域は壁の遮音性能も著しく低下することから、例えば隣室音漏れ防止などにとっては重要であるといえる。
【0024】
続いて、第1〜第8の実施形態について更に詳しく説明する。
【0025】
以下説明する第1〜第8の実施形態では、薄型テレビ向けのAV音響用スピーカシステムの視聴空間音場を制御する音場制御装置を例にとって説明することがあるが、本実施形態の音場制御装置はこれに制限されるものではない。
【0026】
第1〜第8の実施形態の音場制御装置は、例えば、TV、オーディオ機器或いはAV機器などのような、地上放送又は衛星放送等により、音響信号を含むコンテンツ(例えば、音響信号のみを含むコンテンツ、動画像や静止画像を伴う音響信号を含むコンテンツ、それらに更に他の関連情報を含むコンテンツなど)(以下、単にコンテンツと呼ぶ)を受信する機能、インターネット又はイントラネット若しくはホームネット等のネットワークを介してコンテンツを取得する機能、CD若しくはDVD等の記録媒体に格納されたコンテンツを読み込む機能、内蔵又は外付けのディスク装置等からコンテンツを取得する機能、マイクロフォンにより入力した音声を出力する機能、音声を合成して出力する機能などの機能の全部又は一部を持つ装置(便宜上、コンテンツ処理装置と呼ぶ)に組み込まれたものであっても良いし、コンテンツ処理装置と外部スピーカとの間に挿入される他の装置に組み込まれたものであっても良いし、本音場制御装置が、コンテンツ処理装置と外部スピーカとの間に挿入されて使用されるものであっても良い。
【0027】
各実施形態においては、1つの主音源と2つの制御音源を1セットとした音源群を対象とする増音制御について説明するが、1セットにつき、制御音源を3つ以上用いても構わない(また、1セットにつき、2つ以上の主音源を用いる構成も可能である)。例えば、LチャネルとRチャネルごとにそれぞれ1つの主音源と2つの制御音源からなるセットを設けても良い(この場合、LチャネルとRチャネルごとに別々に増音制御が行われることになる)。
【0028】
第1の実施形態〜第4の実施形態では、主音源・制御音源のセットを1セット備えた音場制御装置を例にとって説明するが、第1の実施形態〜第4の実施形態の音場制御装置が主音源・制御音源のセットを複数セット備えても良い。また、第5の実施形態〜第8の実施形態では、主音源・制御音源のセットをLチャネル用とRチャネル用の計2セット備えた音場制御装置を例にとって説明するが、第5の実施形態〜第8の実施形態の構成において、例えば、モノラル音声を対象として、主音源・制御音源のセットを1セットのみ備える構成も可能である。
【0029】
また、第1の実施形態〜第4の実施形態では、主に増音制御において増音する聴取エリアがスピーカの正面の方向のエリアに静的に固定されている場合を例とって説明するが、第1の実施形態〜第4の実施形態において聴取エリアをスピーカの正面以外のエリアとすることも可能である。また、第5の実施形態では、増音制御において増音する聴取エリアが任意のエリアに静的に固定されている場合を例とって説明する。第6の実施形態〜第8の実施形態では、聴取エリアを動的に変更可能とする場合を例とって説明する。また、第1の実施形態〜第5の実施形態において、聴取エリアを動的に変更可能とすることも可能である。
【0030】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。
【0031】
図1に、本実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す。
【0032】
図1に示されるように、本実施形態の音場制御装置は、音響信号出力部1、空間伝播特性入力部2、制御フィルタ算出部3、制御フィルタ4、音量調整部(アンプ部)8を含む。スピーカ9は、音場制御装置に内蔵されていても良いし、音場制御装置に外付けされるものであっても良い。
【0033】
また、音場制御装置に更にアンプ許容入力電圧判定部6及び増音率変更部7を含んでも良い(図1は、この場合の構成を例示しており、アンプ許容入力電圧判定部6及び増音率変更部7を備えない場合には、制御フィルタ4の出力信号が直接音量調整部8に接続される)。
【0034】
制御フィルタ4には、第1の制御フィルタ(Wp)41、第2の制御フィルタ(Ws1)42、第3の制御フィルタ(Ws2)43が含まれる。
【0035】
音量調整部8には、第1の音量調整部81、第2の音量調整部82、第3の音量調整部83が含まれる。
【0036】
スピーカ9には、第1のスピーカ91、第2のスピーカ92、第3のスピーカ93が含まれる。
【0037】
第1の制御フィルタ41、第1の音量調整部81、第1のスピーカ91は、いずれも、主音源用である。
【0038】
第2の制御フィルタ42、第2の音量調整部82、第2のスピーカ92は、いずれも、第1の制御音源用である。
【0039】
第3の制御フィルタ43、第3の音量調整部83、第3のスピーカ93は、いずれも、第2の制御音源用である。
【0040】
音響信号出力部1は、ソースとなる音響信号を出力する部分である。前述したように、音響信号の取得方法等には、様々なケースが考えられ、いずれのケースについても利用可能である。
【0041】
本実施形態では、聴取エリア増音率としてnが指示されたときに、増音制御をしていない状態に比較して、聴取エリアの音圧をn倍又はこれに近い音圧になるようにし、非聴取エリアの音圧を維持する(すなわち、1倍又はこれに近い音圧にする)。すなわち、聴取エリアでは、主音源(用スピーカ)と二つの制御音源(用スピーカ)からの合成音圧P(i=1〜N)が、主音源のみからの到来音圧のn倍又はこれに近い音圧になり、かつ、非聴取エリアでは、主音源(用スピーカ)と二つの制御音源(用スピーカ)からの合成音圧が、主音源のみからの到来音圧に等しく又はこれに近くなる(つまり、二つの制御音源からの音圧が打ち消されて又は二つの制御音源からの音響エネルギーが最小化されて、主音源からの到来音圧のみ残る)状態になるように制御する(主音源に対する2つの制御音源の振幅・位相を算出する)。この制御は、当該状態を満たす制御フィルタを算出することによって、実現される。
【0042】
制御フィルタを算出するにあたっては、聴取エリア増音率nと、各スピーカから各エリアの幾つかのサンプル点までの空間伝播特性とが使用される。
【0043】
本実施形態では、聴取エリア増音率nと空間伝播特性は、外部から入力される場合を例にとって説明する。
【0044】
空間伝播特性入力部2は、各スピーカ91〜93から聴取エリアまでの空間伝播特性及び各制御音源用スピーカ92,93から非聴取エリアまでの空間伝播特性を入力する(主音源用スピーカ91から非聴取エリアまでの空間伝播特性はなくて構わない)。
【0045】
なお、本実施形態においては、例えば図2に示すように、増音制御する聴取エリアにN点の評価点、音圧維持制御する非聴取エリアにM点の評価点が設けられ、各スピーカから各評価点までの空間伝達特性(放射インピーダンス)が事前に取得されるものとする。ここで、聴取エリア内の評価点jの音圧はP、非聴取エリア内の評価点iの音圧はP、主音源qから聴取エリア内の評価点jまでの放射インピーダンスはFpj、第1の制御音源qs1から聴取エリア内の評価点jまでの放射インピーダンスはFs1j、第2の制御音源qs2から聴取エリア内の評価点jまでの放射インピーダンスはFs2j、第1の制御音源qs1から非聴取エリア内の評価点iまでの放射インピーダンスはZs1i、第2の制御音源qs2から非聴取エリア内の評価点iまでの放射インピーダンスはZs2iでそれぞれ表される。これら予め得られた空間伝播特性が、空間伝播特性入力部2から入力される。なお、後で示す例では、主音源qから非聴取エリア内の評価点iまでの放射インピーダンス(Zpj)は不要となっている。
【0046】
聴取エリア増音率入力部5は、聴取エリア増音率nを入力する。
【0047】
聴取エリア増音率nの入力の方法には種々のバリエーションが考えられる。聴取エリア増音率nは、例えば、ユーザが装置本体若しくはリモート・コントローラ等を操作し又はPC若しくは携帯電話等の汎用の装置を利用するなどして指示しても良い。また、例えば、装置本体若しくはリモート・コントローラ等に音声認識機能或いは画像認識機能などを設け、ユーザの音声又は動作パターンなどによる入力を用いても良い。
【0048】
また、例えば、聴取エリア増音率nとして、連続値を入力できるようにしても良いし、離散値で入力を受け付けるようにしても良い。さらに、入力できるnの上限値を設けても良い(なお、nの下限値は、1、又は、1を超える所定の値としても良い)。
【0049】
また、例えば、本実施形態の「増音制御」のON/OFFと聴取エリア増音率nとを別々に入力するようにしても良いし、聴取エリア増音率nのみを入力するようにしても良い(後者の場合には、聴取エリア増音率n=1の場合に、増音制御をOFFとしても良いし、n=1として増音制御を行っても良い)。
【0050】
また、例えば、入力を簡易にするために、「増音制御」のON/OFFボタンのみ設けても良い(この場合に、ONのときは、予め定められたnの値(例えば、n=2あるいはn=3など)が使用される)。また、例えば、「増音制御」のON/OFFボタンと、予め定められた複数種類のnから選択された値を指示する1又は複数のボタン(例えば、n=2又はn=3を選択するための1つのボタン、n=1.5、2又は3を選択するための3つのボタンなど)を設けて良い。
【0051】
制御フィルタ算出部3は、増音制御する場合には、聴取エリアで増音し、非聴取エリアで音圧維持するように、入力された空間伝播特性から、制御フィルタ4の係数(すなわち、第1の制御フィルタ41の係数Wp、第2の制御フィルタ42の係数Ws1、第3の制御フィルタ43の係数Ws2)を算出し、増音制御しない場合には、主音源のみを使用するように制御フィルタの係数を算出する。制御フィルタの係数は、複素数或いはゲインと位相の組であっても良い。
【0052】
第1の制御フィルタ41、第2の制御フィルタ42及び第3の制御フィルタ43は、それぞれ、制御フィルタ算出部3により算出された係数Wp,Ws1,Ws2でを使用して、FIR演算を実行する。
【0053】
第1の音量調整部81、第2の音量調整部82及び第3の音量調整部83は、それぞれ、主音源、第1の制御音源及び第2の制御音源の音量を調整する。
【0054】
なお、詳しくは第1の実施形態の最後に説明するが、アンプ許容入力電圧判定部6は、制御フィルタ4の制御音源に係る出力電圧が、アンプ許容入力電圧以下であるかどうか判定し、増音率変更部7は、該出力電圧が該アンプ許容入力電圧を超えると判定された場合に、該出力電圧が該アンプ許容入力電圧以下になるように、増音率n、主音源の振幅、又は、それらの両方を調整する。
【0055】
ところで、図1において、主音源の振幅(増音制御していないときの元々の主音源の音量)をユーザが調整するための機能(すなわち、通常のボリューム機能)があっても良く、この部分については、従来と同様であり、図示及び説明を省略している。
【0056】
通常のボリューム機能と本実施形態の増音制御の機能を併用することによって、ユーザは、聴取エリアにおける音量(音圧)を増加したい場合に、幾つかの方法の選択が可能になる。一つは、ボリュームを変えずに、本実施形態の増音制御を利用して増音する方法Aであり、もう一つの方法は、ボリュームを上げるとともに、本実施形態の増音制御を働かせる方法Bであり、更にもう一つは、本実施形態の増音制御を働かせずに、ボリュームを上げる方法Cである。ユーザは、いずれを使用するかを適宜選択することが可能になる。この場合に、聴取エリアにおける音圧を同じにしたときに、非聴取エリアにおいては、音圧に違いが現れ、方法Aのときが最も低い音圧(音量)になり、そして、方法B、方法Cの順に大きくなる。
【0057】
以下、聴取エリアで増音し且つ非聴取エリアで音圧維持を実現する制御フィルタの算出方法について説明する。
【0058】
ここでは、図2に示すように、聴取エリアにN点の評価点、非聴取エリアにM点の評価点を設け、聴取エリアで増音し、非聴取エリアで音圧維持することを考える。
【0059】
非聴取エリアでは第1及び第2の制御音源同士の音響エネルギーを最小化し、聴取エリアでは残った制御音源の総エネルギーと主音源の音響エネルギーを用いて、制御前の主音源の音響エネルギーのn倍を達成するものである。
【0060】
まず、非聴取エリア(音圧維持エリア)について考える。
【0061】
いま、スピーカ側面に配する非聴取エリア内の評価点iの音圧をPとすると、数式(1)となる。
【数1】

【0062】
ここで、複素振幅qs1,qs2からなる制御音源の放射インピーダンスZs1i,Zs2iは、数式(2)となる。
【数2】

【0063】
ここで、rS1は第1の制御音源から非聴取エリア内の評価点iまでの距離、rS2は第2の制御音源から非聴取エリア内の評価点iまでの距離、ρは密度、ωは角速度=2πf(周波数)、kは波数=ω/c(c:音速)、jは虚数を示す。
【0064】
非聴取エリアでは、主音源と制御音源の干渉を抑え減音させないために、複素振幅qs1,qs2からなる2つの制御音源がこの音場に与える音響エネルギーUを最小にする。
【数3】

【0065】
s1は複素振幅であることを考慮して数式(4)となり、数式(5)よりqs1とqs2の関係を求める。
【数4】

【0066】
その結果、複素振幅の実部及び虚数部は、それぞれ、数式(6)及び数式(7)となる。
【数5】

【0067】
従って、数式(4)に代入すると、数式(8)を得る。
【数6】

【0068】
ここで、計算をし易くするために数式(9)のように置き換える。
【数7】

【0069】
次に、聴取エリア(増音エリア)について考える。
【0070】
いま、スピーカ正面に配する聴取エリア内の評価点jの音圧を増音させるには、主音源と2つの制御音源の合成音圧が、主音源のみの到来音圧のn倍(n>1)になればよいことから、数式(10)となる。
【数8】

【0071】
数式(10)に数式(9)を代入すると、数式(11)が得られる。
【数9】

【0072】
ここで、複素振幅q,qs1,qs2からなる主音源及び制御音源の放射インピーダンスFpj,Fs1j,Fs2jは、数式(12)となる。
【数10】

【0073】
ただし、LP1jは主音源から聴取エリア内の評価点jまでの距離、LS1jは第1の制御音源から聴取エリア内の評価点jまでの距離、LS2jは第2の制御音源から聴取エリア内の評価点jまでの距離である。
【0074】
従って、数式(11)を満たすためには、この聴取エリアで主音源群と2つの制御音源の合成音からなる数式(13)に示す音響エネルギーQjを最小にすればよい。
【数11】

【0075】
計算をし易くするために数式(13)を数式(14)のように置き換える。
【数12】

【0076】
そこで、上記音響エネルギーをUとすると数式(15)となる。
【数13】

【0077】
s2は複素振幅であることを考慮して数式(16)となり、数式(17)よりqとqs2の関係を求める。
【数14】

【0078】
その結果、複素振幅の実部及び虚数部は、それぞれ、数式(18)及び数式(19)となる。
【数15】

【0079】
従って、数式(18)及び数式(19)を数式(16)に代入すると、聴取エリア実現のための主音源に対する制御音源の最適複素振幅が数式(20)のように求まる。
【数16】

【0080】
このとき、空間任意点Xにおける制御効果については以下のようになる。
【0081】
制御前の音圧は、数式(21−1)となる。
【数17】

【0082】
制御後の音圧は、数式21−2となる。
【数18】

【0083】
従って、任意点Xにおける制御前後の音圧レベル低下量(dB)は、数式(22)となる。
【数19】

【0084】
ここで、制御後の音圧比をあらためて数式(23)とする。
【数20】

【0085】
ここで、非聴取エリア内の評価点(M=9)間では、対象とする低周波数(〜500Hz)では逆位相関係にないことから、M=1,N=1にして、概要をつかむと、数式(23)は、数式(24)となる。
【数21】

【0086】
非聴取エリア内の評価点(1点)の音圧は、数式(25−1)〜(25−3)の関係を満たすことから、数式(24)は、数式(26)になり、制御後も音圧変化はないことが確認できる。
【数22】

【数23】

【0087】
一方、聴取エリアの場合は数式(27−1)〜(27−3)の関係を満たすことから、数式(24)は数式(28)になり、制御後は制御前の主音源の音圧に対してn倍となることが確認できる。
【数24】

【0088】
【数25】

【0089】
以上の導出過程により、増音と音圧維持を両立するための主音源に対する制御音源の最適複素振幅は、あらためて記述すると数式(29)、数式(30)となり、主音源の複素振幅を基準1(Wp=1)として、これに対する第1の制御音源、第2の制御音源はそれぞれ数式(31)、数式(32)となる。
【数26】

【0090】
【数27】

【0091】
【数28】

【0092】
【数29】

【0093】
従って、これを逆フーリエ変換し、得られる時間領域の制御フィルタが、図1の構成例における制御フィルタ4の第1の制御フィルタ(Wp)41、第2の制御フィルタ(Ws1)42、第3の制御フィルタ(Ws2)43にあたり、それぞれ、数式(33)、数式(34、数式(35)となる。
【数30】

【0094】
ここで、主音源の複素振幅を基準1(Wp=1)として、数式(31)、数式(32)を使って制御効果を検証した。
【0095】
図3に、3つのスピーカと聴取エリア内の評価点及び非聴取エリア内の評価点との関係を示す((a)は、レイアウトを上から見た図であり、(b)は、横から見た図である)。検証例では、(b)に示すようにスピーカを0.3mの高さに設置し(図中、1003参照)、また、(a)に示すように主音源用スピーカ(図中、1005参照)と二つの制御音源用スピーカ(図中、1006,1007参照)を配置した。ここでは、スピーカの正面のエリアを聴取エリアとし、(a)に示すように、1.5m離れた箇所(図中、1004参照)とこれを中心とする1m×1mの正方形上に、離散9点の評価点を設けた(評価点の高さは、スピーカと同じ0.3mにした)。一方、ここでは、スピーカの正面の聴取エリアの外側のエリアに非聴取エリアを設け、(b)に示すように、高さ1.5m、幅1.5mの正方形上とその中心(図中、1008参照)に離散9点の評価点を設けた。図3からも分るように、離散9点の評価点は、聴取エリアでは評価面に水平に配し、非聴取エリアでは垂直に配した。なお、(b)の評価点1008は、(a)の1009の位置を基準に、右方向に1.25m、下方向に2.5m離れた位置にある。
【0096】
図4に、正面の聴取エリアの増音量を制御前より20dB増加させた場合(対主音源到達音圧:n=10)の計算結果を示す。図4中、1011,1013,1015が制御前であり、1012,1014,1016が制御後である。また、図4中、1021は聴取エリアの9つの評価点を示しており、1022は非聴取エリアの9つの評価点を示している。また、図4中、上側の図で最大値を与える箇所及び下側の図で左側中央の箇所がスピーカ設置箇所に対応している。
【0097】
図4を参照すると、(a)の250Hz、(b)の500Hz、(c)の1000Hzのいずれについても、側面の壁(1022)では音圧維持し、正面では9つの評価点(1021)を含むエリアでは20dB増加し、その周囲でも10dB近く増加していることがわかる。
【0098】
図5に、正面の聴取エリアの増音量を制御前より20dB増加させた状態で、側面の非聴取エリア内の評価面の位置を、図4よりも後方に変えた場合の結果を示す。図5中、1017,1019が制御前であり、1018,1020が制御後である。また、図5中、1023は聴取エリアの9つの評価点を示しており、1024は非聴取エリアの9つの評価点を示している。(b)の500Hz、(c)の1000Hzのいずれについても、評価面の位置を後方に変化させても良好に機能していることがわかる。
【0099】
なお、聴取エリアでの増音の形態に関しては、時間遅延利用による音像を重ね合わせるサウンドスポットなどの技術が良く知られているが、この原理は正面増音評価点に各音源からの到来音圧の振幅と位相がすべて揃うように、行路差だけ時間遅延させた仕組みである。従って、側面で同時に音圧が維持するように、各制御音源同士の複素振幅関係は規定していないことから、同じ条件下で、増音評価点の音圧を増加させた場合(250Hz)は、図39に示す計算結果のように(図中、1031が制御前であり、1032が制御後である)、側面を含み全体にわたって音圧が増加してしまう。もちろん、波長の短い高音域は周囲で音圧を維持したまま、評価点近傍だけ増音できるが、波長が長く壁の遮音性能も効きにくい500Hz以下の低音域には不向きである。この比較からも、本実施形態は、低音で有意な音場制御であると位置付けることができる。
【0100】
続いて、本実施形態の増音制御と、図38に示した従来技術を利用した正面増音・側面維持との違いについて説明する。
【0101】
図6の(a)に本実施形態に従って実施した実験システム構成を示し、(b)にその結果を示す。(b)において、丸プロットが聴取エリアであり、矩形プロットが非聴取エリアである。図38に示した従来技術を利用した場合に周波数特性が不均一になるのに対して、図6の(b)に示されるように、本実施形態の増音制御によれば、制御後も側面の非聴取エリアにおいてその効果は広帯域でほぼ均一であり、従って、周囲でも音質劣化がない状態で音圧維持が実現できている。また、図6の(b)に示されるように、正面の聴取エリアにおいても、低音域においてほぼ均一に増音している。なお、高音域では増音していないが、これは理論上の限界であるが、AV音響を大迫力で聴く場合、一番、臨場感に効くのは低音域であることから、例えば、2.5kHz以上は制御範囲外としてもよい。壁の遮音効果が低い低音だけを対象として、音漏れを気にせずに、低音強調できるシステムを提供できることがこの結果から訴求できる。
【0102】
図7に、本実施形態の音場制御装置の増音制御に関する動作例を示す。
【0103】
最初に、増音率nが所定の初期値に設定される(ステップS1)。初期値は、予め定められた値(例えば、n=2)であっても良いし、本音場制御装置において最後に増音制御が使用されたときの増音率nを初期値としても良いし、他の種々の方法が可能である。
【0104】
次に、空間伝播特性を入力する(ステップS2)。なお、一度入力された空間伝播特性は、その後、異なる空間伝播特性が入力されるまで、維持されるようにしても良い。
【0105】
次に、空間伝播特性及び増音率nに基づいて、制御フィルタを算出する(ステップS3)。
【0106】
次に、算出された値に制御フィルタを設定する(ステップS4)。
【0107】
以下、制御フィルタを変更するイベントが発生するまで、この制御フィルタの状態が維持される。ここでは、このイベントとして増音率nの変更を伴うものについて考える。
【0108】
ステップS5では、増音率nの変更を伴うイベントが発生したかどうか監視する。
【0109】
例えばユーザが増音率nを変更するなどした場合に、該当イベントが検出され(ステップS6)、ステップS3に戻って、制御フィルタが再計算・再設定される。
【0110】
なお、この手順は一例であり、本実施形態の増音制御に関する動作として、様々なバリエーションが可能である。
【0111】
次に、図1の音場制御装置がアンプ許容入力電圧判定部6及び増音率変更部7を備える場合におけるスピーカ及びアンプへの過入力による音のひずみ・音質劣化を防止するための制御フィルタ出力電圧の監視調整機能について説明する。
【0112】
図8に、この機能に関する動作例を示す。
【0113】
アンプ許容入力電圧判定部6は、制御フィルタ4の制御音源に係る出力電圧がアンプ許容入力電圧以下であることを監視する(ステップS11)。そして、該出力電圧が該アンプ許容入力電圧を超えたと判定された場合に(ステップS12)、増音率変更部7が、該出力電圧が該アンプ許容入力電圧以下になるように、制御を行う(ステップS13)。
【0114】
ここで、制御フィルタ4の制御音源に係る出力電圧が、アンプ許容入力電圧を超えるとアンプ許容入力電圧判定部6が判定した場合に増音率変更部7が行う制御には、種々のものが考えられる。なお、減音制御の場合には、その性質上、アンプ許容入力電圧を超えるような状況が発生することは考えにくいので、これは、増音制御に固有のものであると考えられる。
【0115】
以下に、アンプ許容入力電圧以下にするための二つの制御例を示す。
(1)増音率nを変化(縮小)させる方法
(2)基準となる主音源制御フィルタWpの振幅を縮小させる方法
まず、(1)の増音率nを変化(縮小)させる方法について説明する。
【0116】
数式(30)に示した2つの制御音源同士の関係式は、各制御音源から非聴取エリア内の評価点までのそれぞれ伝達特性Zのみによって決まるものであり、増音率n倍とは無関係である。数式(29)に示す第2の制御音源と主音源との関係式で増音率n倍が関係する。特にこの絶対値が主音源に対する振幅音源の振幅の大きさに相当することから、理論上ではn倍の上限はなく、主音源に対して、制御音源の振幅を限りなく大きくすることで、聴取エリアでの増音量も限りなく大きくすることができてしまう。換言すれば、主音源と制御音源を干渉させることで増大させるには限界があることから、それ以上は制御音源自体の振幅を上げることで増音効果を実現している。
【0117】
しかしながら、実際にはアンプやスピーカには入力限界があり、制御音源の振幅増大は過入力によるひずみを発生させる要因になる。ひずみは音質劣化につながることから、過入力を防止する機能を設けるのが好ましい。
【0118】
まず、数式にて示した主音源及び制御音源の放射インピーダンス、すなわち、空間伝播特性の入力および聴取エリア増音率n入力によって、制御フィルタ算出計算が数式(31)〜(35)によって実行され、求められた係数は、FIR演算する制御フィルタ4に固定係数として格納される。そして、音響信号がこの制御フィルタ4を通すことで、増音と音圧維持を両立する制御信号が発生するが、この段階で、すでにアンプ許容入力電圧は既知であることから、上記制御信号の電圧が許容値を超えているかどうか判別することができる。そこで、過入力となれば、例えば、nを変化させた制御フィルタを繰り返し計算し、許容入力に収まるnの上限値を推定する。なお、その際に、聴取エリア増音率nは大きすぎる警告を出すようにしても良い。上限値が求まれば、その制御フィルタを固定したまま、音響信号を受けて制御を実行する。アンプ許容範囲に収まり、その結果、スピーカから適切な制御音源を発生させることができる。
【0119】
なお、聴取エリア増音率nを入力する方法のバリエーションとして、例えば、nを上記アンプ入力上限値から逆算し、小、中、大の3段階にn値を割り振り、リモコン操作で入力、切り替えるなどの方法も考えられる。
【0120】
ところで、一般にランダム音源やM系列音源、さらに、音楽、音声といった音響信号はどれも広い周波数帯域の信号であることから、過入力ひずみによる倍音成分が発生しても、音響信号に埋もれてしまい、非線形歪み成分を見つけることは難しい。
【0121】
そこで、音響信号部にて周期音を発生し、制御フィルタを通して、制御後の音響信号を算出し、時間波形あるいはそれをFFT分析により周波数領域の信号に変換し、周期音以外の倍調成分が発生しているかどうかを確認し、過入力判定を行っても良い。なお、この作業は、実際に音を発生させずに判定できる利点がある。
【0122】
次に、(2)の基準となる主音源制御フィルタWpの振幅を縮小させる方法について説明する。
【0123】
過入力電圧回避のために増音率nを縮小すると増音効果量も鈍ることから、過入力判定後の動作において、制御フィルタ算出部3上で主音源用スピーカに対する第1の制御フィルタ(Wp)の振幅を縮小する方法も可能である。制御音源スピーカに対する第2の制御フィルタ(Ws1)及び第3の制御フィルタ(Ws2)は、第1の制御フィルタ(Wp)の振幅に依存するため、所望の増音率を維持したまま音響信号を許容電圧内に収めることが可能となる。
【0124】
非制御時の再生音量から全体的に低下してしまうが、聴取エリアと非聴取エリアの音圧差を顕著に実現することができる。
【0125】
アンプ許容入力電圧判定部6では、時系列音響信号の電圧を検出し、許容入力電圧に収まるよう、増音率n又は主音源制御フィルタ(Wp)の振幅を縮小させる。
【0126】
許容入力電圧値は、アンプ(音量調整部)やスピーカの仕様により決定される。
【0127】
なお、上記の(1)の制御と、(2)の制御を組み合わせて実施することも可能である。
【0128】
以上説明したように、本実施形態によれば、聴取エリアで増音、非聴取エリアで音圧維持できる。また、従来技術を利用した場合のような不均一な周波数特性を改善することができる。そして、例えば、ユーザは、聴取エリアで、周囲への音漏れを気にせずに、大音量でTV・AV音響等を楽しむことができる。また、増音制御の前後で、聴取エリアの聴取者が、その増音効果を直接体感することができる。また、例えば、非聴取エリアでは、聴取エリアよりは低レベルの大音響で又は通常の音量で又は通常より低い音量でTV・AV音響等を楽しむことも、非聴取エリアでは、音を低くして聴取しないことも可能になる。
【0129】
(第2の実施形態)
続いて、第2の実施形態について説明する。
【0130】
以下、これまでの各実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0131】
図9に、本実施形態の音場制御装置の構成例を示す。
【0132】
図9の構成例は、第1の実施形態の音場制御装置の構成例に加えて、更に、ローパスフィルタ11及び遅延回路12を含むものである。なお、第1の実施形態と同様、アンプ許容入力電圧判定部6及び増音率変更部7を含まない構成も可能である。
【0133】
第1の実施形態において、数式を使って示したように、制御音源の振幅は主音源の振幅よりも大きくすることで、増音効果を実現するものである。従って、仮に、制御音源が主音源よりも離れた配置条件下では、制御後には制御音源の振幅が大きいことから、音像が主音源から制御音源に移動してしまうように感じられ、特に音像定位の観点からは劣化が否めなくなる可能性がある。そこで、主音源と制御音源を一体配置することで、音像の分離効果が見立たなくするように構成すると好ましい。
【0134】
本実施形態では、主音源と制御音源を一体配置するにあたって、制御上限周波数(=ローパスカットオフ周波数)fを考慮する(図10参照)。いま、dをスピーカ間隔、cを音速とすると、(d≦c/2f)を満たす場合は、制御音源の振幅が主音源よりも大きくても、主音源と制御音源が一体音源であるように認識され、音像移動感を感じずに、増音(特に低音強調)を体感できる。
【0135】
本実施形態の音場制御装置は、第1の実施形態の音場制御装置において、音響信号出力部の後段で制御フィルタ4の前段に(ただし、図9に示されるように制御音源に係る音響信号に関して)、ローパスカットオフ周波数fをもつローパスフィルタ11を設け、(d≦c/2f)を満たすスピーカ間隔dに2つの制御音源用スピーカを納めるようにする。例えば、主音源用スピーカと第1の制御音源スピーカと第2の制御音源スピーカをこの順に一直列線状に配置し、主音源用スピーカと第1の制御音源スピーカとの間隔をdにし、かつ、第1の制御音源スピーカと第2の制御音源スピーカとの間隔をdにしても良い(図9参照)。
【0136】
なお、遅延回路12は、ローパスフィルタ11が音響信号に対して与える遅延と同じ遅延を主音源に関する音響信号に与えるものである。
【0137】
さて、間隔d(d≦c/2f)で配置する主音源用スピーカ及び2つの制御音源用スピーカをテレビ等の画像表示装置に適用する際には、例えば、図11の(a)に示すように、画像表示装置1041のベゼル1040の両側の枠の中央に主音源用スピーカ1051を配置し、その上下に間隔dで第1及び第2の制御音源スピーカ1052,1053を配置しても良いし、また、例えば、(b)に示すように、ベゼル1040の下側の枠の隅角に主音源用スピーカ1051を配置し、それらから一直線上にそれぞれ間隔dで第1及び第2の制御音源スピーカ1052,1053を配置しても良い。
【0138】
(第3の実施形態)
続いて、第3の実施形態について説明する。
【0139】
以下、これまでの各実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0140】
本実施形態は、第2の実施形態において、主音源用スピーカ及び2つの制御音源用スピーカの配置構成について、主音源用スピーカと第1の制御音源スピーカと第2の制御音源スピーカを直列線状に配置するのではなく、それら全てのスピーカ間隔が相互にdの範囲に入るような三角形状に配置するものである。これによって、正面方向の音圧を更に増大させることが可能である。
【0141】
ここで、図12に、本実施形態に従って実施した計算結果を示す。(a)は、スピーカを三角形状配置(図中、1061参照)、直列配置(図中、1062参照)、ノーマル配置(図中、1063参照)にしたときの聴取エリアの評価点M5(図6参照)の音圧特性を示し、(b)は、スピーカをノーマル配置、直列配置、三角形状配置にしたときの非聴取エリアの評価点の音圧特性を示す。
【0142】
なお、ここでの配置は、図6(a)の配置図において、聴取エリアの評価点の高さを1mとし、非聴取エリアの評価点を、評価点M5−M6の延長線上でM5から1.8mの位置にとったものである。
【0143】
直列配置は、図13の(a)に示すように、3つのスピーカを一直列線状に配置し、主音源用スピーカと第1の制御音源スピーカとの間隔dを0.184mとし、かつ、第1の制御音源スピーカと第2の制御音源スピーカとの間隔dを0.184mとしたものである。また、三角形状配置は、図13の(b)に示すように、主音源用スピーカと第1の制御音源スピーカと第2の制御音源スピーカを、一辺がd=0.184mの正三角形の各頂点に配置したものである(なお、主音源用スピーカの座標を(0,0,1)、第1の制御音源スピーカの座標を(0.184,0,1)とすると、第2の制御音源スピーカの座標は(0.092,0,1.1593)となる)。なお、ノーマル配置は、増音制御をしない場合、すなわち、主音源用スピーカのみの場合である。
【0144】
さて、上記のように間隔d(d≦c/2f)で配置する主音源用スピーカ及び2つの制御音源用スピーカをテレビ等の画像表示装置に適用する際には、例えば図14に示すように((a)はテレビ等の画像表示装置の全体的な外観の図であり、(b)はベゼル隅角の部分の詳細に示した図である)、画像表示装置1080のベゼル1081隅角に主音源スピーカ1091を配置し、近傍のベゼル枠上に第1及び第2の制御音源スピーカを配置1092,1093し、3つのスピーカの配置関係を相互に間隔dの三角形形状に配置される構成とする。なお、その際に、第1及び第2の制御音源スピーカがいずれもベゼル枠上で不均等に配置されるように(例えば、スピーカの中心が、ベゼル枠の中央からずれた位置に配置されるように)しても良い。
【0145】
例として、図14のスピーカ三角形状配置と図11の(a)のスピーカ直列配置をそれぞれ適用した幅1.02の42インチ相当のテレビについて、図6と同じ評価点を用いた増音制御効果の計算結果を、図15に示す。図中、1095が三角配置であり、1096が直列配置であり、1097がノーマル配置である。なお、ここでは、d=0.04mとし、三角形状配置において、主音源用スピーカの座標は(−0.49,0,1)、第1の制御音源スピーカの座標は(−0.45,0,1)、第2の制御音源スピーカの座標は(−0.47,0,1.0693)であり、直列配置において、主音源用スピーカの座標は(−0.49,0,1)、第1の制御音源スピーカの座標は(−0.45,0,1)、第2の制御音源スピーカの座標は(−0.41,0,1)である。また、ノーマル配置は、主音源用スピーカのみの場合である。
【0146】
図15を参照すると、2kHz以下の帯域では三角配置と直列配置の音圧差は微々たるものであるが、2kHz以上の帯域では周波数が高くなるにつれて増音量の差が広がる傾向にあり、直列線状配置よりも三角形状配置の方が、増音性能が高いことが示される。この配置の際、ベゼル上に直角三角形状に配置するより、音源間隔がほぼ等しくなるように正三角形形状に配置した方が望ましいため、第1の制御音源スピーカと第2の制御音源スピーカはベゼル幅に対し不均等に配置される。
【0147】
ところで、既存のスピーカをそのまま装着しただけでは、スピーカ寸法形状によっては、(d≦c/2f)を満たす間隔dに三角形状に配置するのは困難な場合も想定される。そのような場合は、ベゼル表面上にスピーカを配置するのではなく、図16の(a)に示すように、テレビの筐体1101の内部にスピーカ1111〜1113を配置し、スピーカ前面部にダクト1102を装着し、ダクトを介して、テレビベゼル面1103の表面上にd間隔の三角形状配置をとした開口部1104と連結することで、図16の(b)に示すように、開口部1104の出口を仮想音源として用いることで三角形状配置を満たすようにしても良い。
【0148】
(第4の実施形態)
続いて、第4の実施形態について説明する。
【0149】
以下、これまでの各実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0150】
図17に、本実施形態の音場制御装置の構成例を示す。
【0151】
図17の構成例は、第1の実施形態の音場制御装置がアンプ許容入力電圧判定部6及び増音率変更部7を含む場合の構成例から、増音率変更部7を省き、フィルタゲイン過入力帯域検出・帯域カット部(信号調整部)13を追加したものである。なお、増音率変更部7をも備える構成や、アンプ許容入力電圧判定部6及び増音率変更部7を省く構成も可能である。
【0152】
制御フィルタの導出において、スピーカ91〜93のそれぞれのf0(最低共振周波数)やスピーカを取り付けるスピーカボックス筐体14の低次モード共鳴の影響により、制御フィルタ上の低帯域に過大な振幅ゲインが設定されてしまう場合があり、この状態のまま音波を再生すると、スピーカから異音が発生し又はスピーカが破損してしまう可能性がある。
【0153】
図18は、実際のスピーカにおける任意の地点までの空間伝播特性の一例であり、図19は、制御フィルタws1のゲイン(上側)と位相(下側)の特性である((a)が帯域カット前であり、(b)が帯域カット後である)。
【0154】
図18に示されるように主音源用スピーカの共鳴周波数(図中、1201参照)、第1の制御音源用スピーカの共鳴周波数(図中、1202参照)、第2の制御音源用スピーカの共鳴周波数(図中、1203参照)、スピーカボックスの共鳴周波数(図中、1204参照)がズレており、このズレ周波数におけるゲインさがそのまま制御フィルタのゲイン差に繋がってしまう(図19(a)の1206,1207参照)。異なる種類のスピーカを組み合わせると、f0も異なるため、制御フィルタ上にスピーカ過入力となるゲインが現れやすくなってしまう。ここで、第1の実施形態でも示すように、ゲインが許容範囲になるように増幅倍率nを下げると、全帯域の増音効果が鈍くなる。そこで、本実施形態では、フィルタゲイン過入力帯域検出・帯域カット部13により、例えば図19(b)に示すように、該当する帯域を検出して除去するようにしている。
【0155】
スピーカにはそれぞれ固体差が存在しているため、空間伝播特性入力部2でスピーカ仕様のf0以下をカットするよりも、制御フィルタ算出後にカットしたほうが少しでも制御可能な帯域を残すという意味では無駄が少ない。また、スピーカをマウントするボックス筐体のモード共鳴は、箱内部の容積分断により移動させることや、吸音材処理により減少させることは可能であるが、消滅するわけではないので、伝達関数上に影響が残ってしまう場合が多い。これにより、帯域を検出・除去することが望ましい。
【0156】
制御フィルタ算出部3は、周波数領域において(スピーカから聴取又は非聴取エリアまでの)空間伝播特性を用いて、制御フィルタを計算し、それを逆フーリエ変換することで、時間領域の制御フィルタ4へ変換することから、その中間にフィルタゲイン過入力帯域検出・帯域カット部13を配し、周波数領域におけるフィルタ振幅の閾値を設定し、その閾値を超えた帯域に対し、ゲインをカットする。閾値は、アンプ(音量調整部)やスピーカの仕様により、適宜決定する。
【0157】
図20に、第4の実施効果を検証した実験結果を示す。(a)は、聴取エリアで測定した音圧特性を示す。図中、1208は、聴取エリアの評価点M5(図6参照)の増音制御後、1209は、その増音制御前である。(b)は、非聴取エリアで測定した増音制御前後の音圧特性を示す。
【0158】
なお、本実施形態は、第2の実施形態と第3の実施形態の一方又は両方と組み合わせて実施することが可能である。
【0159】
続いて、第5〜第8の実施形態について説明する。
【0160】
第5〜第8の実施形態では、例として、ステレオ音響信号を用い、これまで説明してきた主音源及び複数の制御音源を1組として、右チャネル側ステレオ音響信号の低音域用に1組と、左チャネル側ステレオ音響信号の低音域用に1組の計2組を備えるとともに、右チャネル側低音ステレオ音響信号と左チャネル側低音ステレオ音響信号にそれぞれ増音制御を実施するとともに、ステレオ音響信号の中高音域用には複数の(アレイ状の)スピーカを用いて指向性制御を実施するようにした音場制御装置を例にとりつつ説明する。各チャネルごとの低音に対する増音制御については、これまでの説明がすべて妥当する。
【0161】
さて、第5〜第8の実施形態では、例えば大型TVを家族複数人で視聴する場合に、聴覚特性が低下している人(例えば、高齢者や聴覚障害者など)(以下、高齢者等)がいても、その位置近くだけの音量を増大させても、周囲他の視聴者には通常の音量を提供するようなスピーカシステムを例にとって説明する。
【0162】
また、簡単なリモコン操作での実現が(特に高齢者等や操作になれていない人には)望まれる。高齢者等自身がリモコン大音量調整しても周囲では過剰音量にならないような自動音量調整システム、あるいは、ユーザが好みの視聴音量に操作してもその場にいる高齢者等には自動的に好適な大音量で伝わるようなリモコン調整システムなどが望まれる。
【0163】
これを実現する上で、低音域から高音域まで広帯域にわたり豊かな音質を実現することが望まれる。従来技術は中高音域が対象であり、迫力のある、波長の長い低音域には不向きである。家庭内のTV・AV音響システムに収まる寸法下では、原理的に中高音域同様の鋭い指向性を実現することはできない。
【0164】
そこで、上記寸法下においても、視聴空間音場を対象に、低音域で鋭い指向性が得られる技術が望まれる。
【0165】
さらに、TVは、高齢者から子供まで幅広い年齢層で日常的に利用するものであり、高級AV機器のような複雑な機能は不向きであり、簡便な操作での調整が望まれる。従って、音響機器につきものの、設置環境による音響効果のばらつきについても、ユーザ側に設置環境の音響特性を計測し、補正することは回避できるのが望ましい。
【0166】
ここで、第5〜第8の実施形態の概要を説明する。第5〜第8の実施形態では、低音域については、ほぼ逆位相関係にある制御スピーカを左右メインスピーカのわきに配して、これらを位相干渉させることで、迫力感のある約1kHz〜2kHz以下の低音域に指向性をつけて所定の位置に音をガイドする制御フィルタを実現できるようにする。
【0167】
制御スピーカもメインスピーカと一体配置のため、TV正面視聴位置では、一般的なステレオ配置(三角形)を満たし、制御後もステレオ定位感を維持できる。
【0168】
音の指向性の向きをTVななめ方向に変えた場合でも、低音域は波長が長いため、音像定位位置の劣化はなく、ななめ視聴位置から見て中央定位を感じることができる。さらに、音質向上、明瞭性向上に対しては、寄与する中高音域を、中央に配したスピーカ群にて、低音増音量と合致するように振幅・位相・時間遅延量を調整することで、増音したい方向に対して低音から高音域までバランスよい音質を提供することができる。
【0169】
音像定位感については、中高音域は波長が短いため、特にななめ視聴位置では低音に比べて厳しくなるものの、すでに低音域で定位感を維持できているため、仮に中央のスピーカがモノラル再生であっても定位感の劣化にはつながらない。むしろ、高音域まで再生帯域が伸びることで音質が豊かになるメリットがある。
【0170】
従って、大型TV実装サイズ下でも、低音用と高音用のスピーカをうまく構成することで、それぞれの特徴である迫力感、定位感、音質感を組み合わせた指向性制御が可能となる。
【0171】
(第5の実施形態)
第5の実施形態について説明する。
【0172】
以下、これまでの各実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0173】
図21に、本実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す。
【0174】
図21に示されるように、本実施形態の音場制御装置は、L側(左チャンネル側)のステレオ音響信号出力部101L及びR側(右チャンネル側)のステレオ音響信号出力部101R、L側の低音制御部として、L側の低音用制御フィルタ演算部102L、L側の音量調整部(アンプ部)103L、R側の低音制御部として、R側の低音用制御フィルタ演算部102R、R側の音量調整部(アンプ部)103R、中高音制御部として、ステレオ信号合成・バランス調整部105、中高音用制御フィルタ・時間遅延演算部106、中高音用の音量調整部(アンプ部)107を含む。なお、図中、200は、スピーカボックスの例である。また、中高音用のスピーカは8台を例示しているが、この台数に制限されるものではない。
【0175】
L側の主音源用スピーカ(メインスピーカ)141L及びL側の制御スピーカ群142L,143L、R側の主音源用スピーカ141R及びR側の制御スピーカ群142R,143R、並びに、中高音用の(アレイ状の)スピーカ群181〜188は、音場制御装置に内蔵されていても良いし、音場制御装置に外付けされるものであっても良い。
【0176】
ステレオ音響信号出力部101Lは、ソースとなるL側音響信号を出力する部分である。
【0177】
低音用制御フィルタ演算部102Lは、ステレオ音響信号出力部101LからのL側の低音域の振幅位相を抽出調整する。
【0178】
音量調整部103Lは、低音用制御フィルタ演算部102Lから出力される各スピーカ用の信号を増幅する。
【0179】
主音源用スピーカ141L及び制御スピーカ群142L,143Lは、音量調整部103Lから出力される各スピーカ用の信号を音に変える。主音源用スピーカ141L及び制御スピーカ群142L,143Lが1組となり、第1〜第4の実施形態で説明した増音制御が可能である。
【0180】
同様に、ステレオ音響信号出力部101Rは、ソースとなるR側音響信号を出力する部分である。
【0181】
低音用制御フィルタ演算部102Rは、ステレオ音響信号出力部101RからのR側の低音域の振幅位相を抽出調整する。
【0182】
音量調整部103Rは、低音用制御フィルタ演算部102Rから出力される各スピーカ用の信号を増幅する。
【0183】
主音源用スピーカ141R及び制御スピーカ群142R,143Rは、音量調整部103Rから出力される各スピーカ用の信号を音に変える。主音源用スピーカ141R及び制御スピーカ群142R,143Rが1組となり、第1〜第4の実施形態で説明した増音制御が可能である。
【0184】
一方、ステレオ信号合成・バランス調整部105は、ステレオ音響信号出力部101L,101Rから出力されるL側及びR側ステレオ音響信号を合成・バランス調整する。
【0185】
中高音用制御フィルタ・時間遅延演算部106は、ステレオ信号合成・バランス調整部105の出力信号から、中高音域の振幅位相を抽出調整する。
【0186】
音量調整部107は、中高音用制御フィルタ・時間遅延演算部106から出力される各スピーカ用の信号を増幅する。
【0187】
スピーカ群181〜188は、それぞれ、音量調整部107から出力される各スピーカ用の信号を音に変える。
【0188】
本実施形態では、低音域の音については、L側とR側で独立して増音制御を利用して、特定のエリアを増音するとともに、中高音域の音は、例えば時間遅延法などによって、該特定のエリアの方向に指向性をつけるように制御することによって、低音域から高音域まで広帯域にわたり良好な指向性を確保した増音効果を実現することができる。
【0189】
なお、本実施形態において、低音域を増音制御する際の増音率nを固定しても良いし、第1〜第4の実施形態のように増音率nをユーザにより指示可能にしても良い。また、指向性の方向(低音を増音する方向であり且つ中高音の指向性の方向)を、固定しても良いし、ユーザにより指示可能にしても良い。
【0190】
さて、本実施形態において、ステレオ音響信号出力部101L,101Rは、例えば音声・音楽などのTVコンテンツ音であり、この中から低音域の振幅位相を抽出する。この際の低音域は、例えば低音主体の音場制御技術で実現可能な2kHz以下の帯域である。そして、抽出した低音帯域の時系列音響信号に対して、低音用制御フィルタ演算部102L,102Rでは、FIRフィルタ演算を実行し、その制御信号を音量調整部103L,103Rにて増幅し、制御スピーカ群142L,143L,142R,143Rから出力する。なお、メインスピーカ141L,141Rへの信号に対しては、低音用帯域カットは不要であるが、制御スピーカ群142L,143L,142R,143Rの演算出力信号と同期を取るための演算遅延は必要となり、これらを合わせて低音用制御フィルタ演算部102L,102Rで処理を行なう。
【0191】
なお、フィルタは、図2に示す、音場制御後に増音する聴取エリア(可聴エリア)と、音圧を維持する非聴取エリア(非可聴エリア)までの空間伝達関数F及びZを使って、数式(36)の関係を構成する。
【0192】
音を増幅する方向に聴取エリアを設定し、メインスピーカと2つの制御音源の合成音圧がメインスピーカだけを鳴らしたときの到来音圧に対してn倍増音するように、非聴取エリアでは2つの制御音源同士の音響エネルギーを最小化することで、制御後も音圧維持する。
【0193】
そして、上記2つのエリアを段階的に移動させることで、低音域でも指向性が実現できる。なお、このとき数式(36)の複素数αの位相はほぼ逆位相になることから、2つの制御スピーカをほぼ逆位相関係に設定することが低音指向性の必要条件となる。
【数31】

【0194】
図22に、聴取エリアと非聴取エリアの評価点の位置を変えたときの音場を計算した一例を示す。(a)は、スピーカシステム1400から左側に増音評価点(聴取エリア)(図中、1401参照)を、正面に音圧維持点(非聴取エリア)(図中、1402参照)を設定した例であり、(b)は、スピーカシステム1400から左側に音圧維持点(非聴取エリア)(図中、1403参照)を、正面に増音評価点(聴取エリア)(図中、1404参照)を設定した例である。なお、図22の(b)は、スピーカ正面から1.8m地点を中心に前後左右0.5m間隔に評価点を9点配置した状態を例示している。
【0195】
(a)の設定例の場合は、左側が増音し、正面から右側にかけて音圧維持から減少にかわり、左側向きに低音指向性がついている(図中、1411が、+3dBの線であり、1412が、−3dBの線である)。また、(b)の設定例の場合は、正面から右側が増音し、左側が音圧維持している(図中、1413が、+1dBの線であり、1414が、+3dBの線である)。
【0196】
このように設定位置を変更することで、指向性の向き、聴取エリアの大きさを任意に設定することが可能となる。
【0197】
一方、中高音域については、波長の長い低音域と比べて、1個のスピーカを無指向性点音源とは仮定できなくなり、指向性音源となる。従って、数式(37)に示すピストン音源の指向性基本原理式によって、指向特性を概算する。P(θ、R)は音源からの距離R(m)、角度θ(rad)での音圧、D(θ)は指向係数である。
【数32】

【0198】
ここで、θは角度(rad)、uは振動速度(m/s2)、aは振動半径(m)、jは複素数、ωは角周波数(rad/sec)、ρは空気密度(kg/m3)、cは音速(m/s2)、J1は1次のベッセル関数である。
【0199】
この特性をもとに、中央に配したスピーカ群(181〜188)に対して、それぞれに時間遅延制御あるいは振幅位相制御を実施することで、ビーム状の指向制御を実現する。
【0200】
ステレオ音響信号出力部101L,101Rからの信号をステレオ信号合成・バランス調整部105にて、スレテオ音声をモノラルにミキシング処理を行ない、スピーカ群(181〜188)へ入力する信号間で遅延時間を変えることで、一方向に音の向きを制御させたり、個々の信号を各々FIR演算処理することで振幅・位相を個々に調整し、前方や後方に音の焦点をつくる凹型や凸型指向性を行うことできる。
【0201】
そして、低音域の出力時刻との同期、タイムアライメント処理も実施することで、エコーを回避し、所定の位置に低音域から高音域まで広帯域で指向性のついた音響を提供することが可能となる。
【0202】
図23及び図24は、この低音の音場増音制御と中高音のビーム状指向性制御によるハイブリッド型マルチスピーカ指向制御システムの効果を確認した実測結果である。
【0203】
スピーカ正面1.8mを増音させるように指向性をつけた場合の制御効果を図23に示す。まず、正面については、増音制御OFFに対して、低音域で音場制御のみ(正面1.8m増音率2倍、そこから1.8mはなれた側面では音圧維持)を実施した場合は2kHzまでの低音域で増音している。そして、2kHz以上で増音効果が向上する高音域向けのビーム制御も行うことで、さらに、2kHz以上の高帯域まで、広帯域で均一に増音していることがわかる。
【0204】
一方、この場合の側面の制御効果について図24に示す。制御前のOFFの結果かほぼ、ビーム制御のみの結果に等しく、重なっている。これに対して、増音制御は多少の反響の影響で500hz付近増加しているが、正面と比べて2kHz以下の帯域全体に増音せずに維持している。そして、中高音域は正面では大幅増音したが、この側面では全く変化せずに、音圧維持しているのがわかる。これにより、わずか1.8m程度の距離差であるが、低音から高音まで広帯域で指向性制御が実現していることがわかる。
【0205】
以上説明したように、本実施形態によれば、低音域で増音制御を、中高音域では時間遅延法などの指向性制御を利用して、低音域から高音域まで広帯域にわたり豊かな音質の音響を特定のユーザ位置に対して指向性をつけて提供することができる。そして、例えば、ユーザは、聴取エリアで、周囲への音漏れを気にせずに、大音量でTV・AV音響等を楽しむことができる。また、増音制御の前後で、聴取エリアの聴取者のみが、その効果(増音効果)を直接体感することができる。また、例えば、聴取エリアよりは低レベルの大音響で又は通常の音量で又は通常より低い音量でTV・AV音響等を楽しむことも、非聴取エリアでは、音を低くして聴取しないことも可能になる。あるいは、大型TVを家族複数人で視聴する場合には、聴覚特性低下の高齢者等がいても、その位置近くだけ音量を上げても、周囲他の視聴者には通常の音量で提供することができる。
【0206】
(第6の実施形態)
続いて、第6の実施形態について説明する。
【0207】
以下、これまでの各実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0208】
指向性の向きの調整について、一般ユーザであればリモコン操作により、音量調整同様、変えることはそれほど手間ではない。むしろ、音の方向を振りながら確認するほうが、確かではある。しかしながら、TVは子供から高齢者までが楽しむものであり、操作方法はできるだけ簡単な方が利便性は高い。そこで、本実施形態では、例えば内蔵マイクやカメラなどを利用して推定したユーザ位置(視聴位置)を目標に、スピーカ音量を増加させるスピーカ指向性制御システムを実現する。
【0209】
図25に、本実施形態の音場制御装置の構成例を示す。
【0210】
図25の構成例は、図21の構成例(第5の実施形態)に加えて、更に、視聴位置推定用情報入力部120及び視聴位置推定部125、並びに、視聴位置増音量設定部126、低音用制御フィルタ算出部127、中高音用制御フィルタ算出部128を含む。
【0211】
視聴位置推定用情報入力部120は、例えば、マイク1、カメラ2、リモコン3又は視聴位置手動設定部4の全部又は一部を含んでも良い。
【0212】
視聴位置推定部125は、視聴位置推定用情報入力部120からの情報(例えば、マイク1から入力された音声、カメラ2から入力された画像、リモコン3から送信された信号の全部又は一部)をもとに、視聴位置を推定する。なお、この推定には、従来の技術を使用して構わない。また、ユーザが、視聴位置手動設定部4から視聴位置を手動で設定しても良い(なお、例えば、表示画面に表示された部屋レイアウトを示す画像上を移動するカーソルで、視聴位置を指示する方法、また、例えば、スピーカからの方向や距離などを具体的に入力する方法など、種々の方法が可能である)。
【0213】
視聴位置の推定にあたっては、例えばスピーカ群を内蔵する画像表示装置の中心或いはスピーカ群の中心等(以下、基準点)からみた方向のみ推定しても良いし(距離情報も必要な場合には、例えば、予め設定された値を用いる)、基準点からみた方向及び距離を推定しても良い。この場合に、推定値として、連続値を使用しても良いし、離散値を使用しても良い。
【0214】
なお、視聴位置を推定する範囲(視聴位置推定範囲)を、予め制限しても良い。例えば、上記基準点からみて正面を中心とする予め定められた角度の範囲内にいる人のみを、視聴位置の推定の対象としても良い。増音して聞く者は、視聴位置推定範囲の所望の場所で聞き、増音しないで聞く者は、視聴位置推定範囲の外の所望の場所で聞くようにする。この視聴位置推定範囲は、ユーザが適宜設定或いは選択できるようにすると好ましい。
【0215】
視聴位置増音量設定部126は、推定された視聴位置での好適な増音量ρ(周囲に対する相対増音量)を予め定める。
【0216】
低音用制御フィルタ算出部127は、視聴位置推定部125による推定結果と視聴位置増音量設定部126による増音量の設定値から、視聴位置での低音域の増音量を確保するように、(基本的には、第1の実施形態と同様に)低音用制御フィルタを算出する。
【0217】
なお、本実施形態の増音量ρを、そのまま或いは予め固定された変換を施して第1〜実施形態等の増音率nとして使用しても良いが、例えば、増音量ρに対し、状況に応じて結果が変わり得る何らかの演算(例えば、聴取者の年齢或いは聴覚能力等を考慮した補正演算)を施して、増音率nを算出しても良い。
【0218】
例えば、年齢が高くなるほど、(聴覚が低くなるので)nの値が大きくなるようにしても良い。年齢等の情報は、例えば、予め登録しておいても良いし、また、リモコン等で随時変更できるようにしても良いし、また、例えば、音声認識又は画像認識を利用しても良い。
【0219】
ρからnへの変換は、例えば、視聴位置増音量設定部126で行っても良いし、低音用制御フィルタ算出部127で行っても良い。
【0220】
中高音用制御フィルタ算出部128は、中高音域の増音量を確保するように、(例えば、時間遅延法などによって)中高音用制御フィルタを算出する。
【0221】
本実施形態では、視聴位置推定部125による推定結果と視聴位置増音量設定部126による増音量の設定値から、視聴位置での所望の増音量を確保するために必要な低音用制御フィルタと中高音用制御フィルタの算出、音量調整を行う。すなわち、該推定した視聴位置を、低音域に関する増音制御における聴取エリアとし、また、該推定した視聴位置を、中高音域に関する指向性制御における指向性の方向として、低音の増音制御および中高音の指向性制御を実行する。これにより、推定した(例えばTVを視聴している)ユーザの位置に好適な増音量を提供することが可能となる。
【0222】
さて、本実施形態において、視聴位置推定部125で、視聴位置が特定できれば、その位置に、低音向け音場制御技術では図2に示す聴取エリアの評価点を設定すればよい。一方、中高音域向けビーム制御は、その位置に、指向性がつくように、中央のスピーカ間の時間遅延量を設定すればよい。
【0223】
そして、増音量については、例えば、所望の増音量を視聴位置増音量設定部126で予め設定することで、低音向け音場制御では数式(36)に示した上記フィルタの増音率nを自動的に算出し、中高音域向けビームでは、上記中高音用制御フィルタ・時間遅延演算部106或いは音量調整部107で増音率を算出し、所望の増音量に応じた音量をスピーカから提供できるようになる。
【0224】
なお、設定量の目安については、種々の検討が可能である。
【0225】
部屋のレイアウト・大きさ、視聴位置は、ユーザですべて異なることから、ユーザの視聴位置に応じてユーザが決めてもよい。あるいは、良く知られている20代基準の年代別の聴力レベルや聴覚試験の結果、補聴器使用者であれば、補聴器補正特性などを参考にしてもよい。特に聴力特性は年代によっても、また、低音域と高音域でもその感度が大きく異なることから(年代による感度差は、高音域で顕著であるが、低音域でも最大で10dB前後存在する)、低音の音場制御と中音域のビーム制御の増音量に変化を与えてもよい。
【0226】
なお、本実施形態においても、第1の実施形態等と同様、増音率nをユーザが指示できるようにすることも可能である。
【0227】
図26に、本実施形態の音場制御装置の増音制御に関する動作例を示す。
【0228】
ここでは、増音率nはユーザが指示しない場合を例にとって説明する。
【0229】
視聴位置を所定の初期値に設定される(ステップS1)。初期値は、予め定められた値(例えば、表示装置の正面方向の所定の距離など)であっても良いし、本音場制御装置において最後に増音制御が使用されたときの視聴位置の推定結果を初期値としても良いし、他の種々の方法が可能である。
【0230】
次に、推定した視聴に対する増音量を設定する(ステップS22)。
【0231】
次に、制御フィルタを算出する(ステップS23)。
【0232】
次に、算出された値に制御フィルタを設定する(ステップS24)。
【0233】
以下、推定された視聴位置を変更するイベントが発生するまで、この制御フィルタの状態が維持される。ここでは、このイベントとして推定された視聴位置の変更を伴うものについて考える。
【0234】
ステップS25では、推定された視聴位置の変更を伴うイベントが発生したかどうか監視する。
【0235】
例えばユーザが視聴位置を変更するなどした場合に、該当イベントが検出され(ステップS26)、ステップS22に戻って、増音量の再設定、制御フィルタの再計算・再設定が行われる。
【0236】
なお、この手順は一例であり、本実施形態の増音制御に関する動作として、様々なバリエーションが可能である。
【0237】
また、増音率nをユーザが指示可能とする場合には、ステップS21において、図7の手順例と同様に、増音率nを所定の初期値に設定し、ステップS25において、図7の手順例と同様に、増音率nの変更を伴うイベントが発生したかどうかをも監視すれば良い。
【0238】
(第7の実施形態)
続いて、第7の実施形態について説明する。
【0239】
本実施形態の概要を説明する。本実施形態では、設置環境による音響効果のばらつきについては、反響のある実環境においてもロバストなプリセット制御手法を実現できるようにする。
【0240】
中高音域は中央のスピーカ群によるビーム状の指向制御が実現し、個々のスピーカの振幅・位相・時間遅延特性は予め算出することから、設置環境、つまり、室内反響特性による効果劣化も少ない。これに対して、波長の長い低音域は上記指向性制御では原理的に実装条件下では指向性がつかないことから、逆位相に近い2つの制御スピーカをメイン音源に音圧干渉させることで対処する。
【0241】
しかし、室内反響が大きくなるほど、視聴位置では所望の増音量は維持しつつも、位相干渉利用のために、その周囲でも増音し出してしまう。そこで、反響に応じて制御フィルタの増音率を調整することで劣化分を抑制し、所望の音量に近い音量を提示する仕組みを導入する。具体的には、直接波成分が大きな無響室で予め作成した制御フィルタを用いて、倍率調整することで、反響の大きな実環境でも反響波に比べて直接波成分のみを強調し、室内特性にロバストなプリセット制御を導入する。
【0242】
本実施形態は、第6の実施形態における設置環境による増音効果のばらつきを更に検討したもので、反響のある実環境においてもロバストなプリセット制御を実現するものである。
【0243】
以下、これまでの各実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0244】
図27に、本実施形態に係る音場制御装置の構成例を示す。
【0245】
図27の構成例は、図25の構成例(第6の実施形態)に加えて、更に、フィルタ選択部140、室内反響特性推定部142、低音強調倍率算出部143を含む。なお、室内特性手動設定部141を設けて、室内特性を手動で設定可能としても良い。
【0246】
なお、図27の構成例では、中高音域に関する部分の記載を省略してが、中高音域に関する部分は図21や図25の構成例と同様で構わない。
【0247】
また、リモコン3として、齢者等用のリモコンを用意すると好ましい。
【0248】
フィルタ選択部140は、予め複数の視聴位置と増音率nとの組についてそれぞれ無響室にて作成したおいた複数の増音制御フィルタを含み、視聴位置推定部125による推定結果(推定された視聴位置)と、低音強調倍率算出部143により求められた低音強調倍率(増音率)nとをもとに、該予め無響室にて作成した複数の増音制御フィルタの中から、該推定された視聴位置に聴取エリアを創出するための最適な制御フィルタW(n)を選択する。
【0249】
なお、予め無響室にて作成した複数の増音制御フィルタは、フィルタ選択部140の外部に保持しても良い。
【0250】
室内反響特性推定部142は、例えば、視聴位置推定用情報入力部120からの情報(例えば、マイク1から入力された音声、カメラ2から入力された画像、リモコン3から送信された信号、主音源用スピーカ(メインスピーカ)141L,141Rから出力される音の全部又は一部)からの入力をもとに、室内反響特性αを推定する。あるいは、室内特性手動設定部141からの入力をもとに、室内反響特性αを得ても良い。
【0251】
低音強調倍率算出部(増音率算出部)143は、室内反響特性αの推定値と、増音量ρの設定値から、視聴位置での低音強調倍率(増音率)nを算出する。
【0252】
なお、本実施形態では、低音用制御フィルタ算出部127は、フィルタ選択部140により選択された制御フィルタW(n)によって、好適な視聴位置での増音量を実現する。
【0253】
一般に、部屋は反響のある音響特性を示す。図28は実際の部屋のインパルス応答特性であり、図29の無響室のインパルス応答特性と比べると、直接波に反射・反響波が重畳していることがわかる。これは、数式(36)に示した音場制御の制御フィルタのFやZの空間伝達特性を逆フーリエ変換した空間特性に相当する。
【0254】
反響のある部屋での反響分を含んだ空間伝達特性は数式(38)で表すことができる。
【数33】

【0255】
ここで、αは部屋の特性を示す一指標の平均吸音率α、Vは部屋の容積、Sは部屋の表面積、cは音速、ψ(Xmic)は部屋の任意観測点Xmicにおけるモード関数、ψ(Xqp)は音源位置Xqpにおけるモード関数、ωは角周波数、ρは空気密度、jは虚数、ωrは部屋の寸法で決まる共鳴周波数、Mrはモーダルマスである。
【0256】
従って、反響が大きいほど、すなわち、平均吸音率が小さいほど、部屋のサイズで決まる共鳴周波数ωrでは特に音圧が増大、反響波が発生しやすくなる。その結果、数式(39)で表される図29に示した反射のない無響室の空間特性と比べると、空間を伝わる振幅と位相が複雑になり、仮に2つの制御音源を逆位相関係に設置しても、無響室ほど干渉低下しなくなる。
【数34】

【0257】
低音域の音場制御では、ほぼ逆位相にある2つの制御音源同士のエネルギーを最小化することで、非聴取エリアでは音圧維持を実現することを基本原理としていることから、反響が大きい部屋では、制御音源同士のエネルギーが小さくならずに、音圧維持精度が劣化してしまう。
【0258】
例えば、平均吸音率が約α=0.4のときの増音制御の計算結果では反響が大きくなり、平均吸音率約α=1.2のときの増音制御の計算結果と比べて、聴取エリアでは増音するが、非聴取エリアでは音圧維持せずに、増音劣化する。
【0259】
従って、平均吸音率が小さくなり、反響が大きくなるほど、聴取エリアと非聴取エリアとの間の相対音圧差の増音量が低下していく(例えば、聴取エリアと非聴取エリアとで聞き比べたときに、増音の効果が少なく感じられる)。
【0260】
そこで、その対策として、反響の大きなときは、増音倍率を増加させるようにしても良い。
【0261】
図30は、倍率2倍から4倍に変更したときの計算結果を示す((a)が増音率n=2倍のとき、(b)が増音率n=4倍のときである)。倍率変更後の制御結果は、制御前と比べて、増音量が増加していることがわかる。
【0262】
また、この効果を実測した。図31は、音場制御で正面を増音(聴取エリア)、側面を音圧維持(非聴取エリア)とする制御フィルタで実施したときの、反響のない半無響室で実測した、増音の増音率の違いによる増音制御結果である。縦軸は制御前後の音圧増加量である。(a)に示されるように、増音率n=2倍のときは、反響がないことから正面では20log(n)(dB)=6dB増加し、側面ではほぼ音圧維持し、その差分の増音量はほぼ6dBとなる。そして、(b)に示されるように、n=3倍では、20log(n)=9.5dB増加する。ただし、音倍率が2倍以上になると、基準となるメインスピーカのみの到来音圧に対して、制御スピーカの音圧が大きくなる(倍率n=2ではメインスピーカと制御スピーカとが同じ音圧になる)ために、側面の非聴取エリアでのわずかな干渉ずれが拡大し、その結果、周波数帯域のところどころに、わずかな増音劣化が現れはじめる。図中では630Hzバンド付近で2dB増音劣化している。しかし、この劣化分を含めても、両者の差分の増音量は6dB以上あり、倍率を上げたほうが、聴取エリアと非聴取エリアとの音圧差がつき、指向性をつけたい方向の増音量を大きくできることがわかる。
【0263】
これに対して、反響のある部屋(図34)において、図32のレイアウトでの増音制御効果は、図33となる。図33の(a)が増音率n=2倍のときの聴取エリア(ここでは正面)及び非聴取エリア(ここでは側面)の増音制御効果を示し、(b)が増音率n=4倍のときの聴取エリア(正面)及び非聴取エリア(ここでは側面)を示す。また、図34の(a)は、図33(a)に示される聴取エリア(正面)の増音制御効果のもととなる聴取エリア(正面)の制御前後の音圧レベルを示し、図34の(b)は、図33(a)に示される非聴取エリア(側面)の増音制御効果のもととなる非聴取エリア(側面)制御前後の音圧レベルを示す。図34(c)及び(d)と、図33(b)との関係も同様である。
【0264】
図33(a)に示されるように、増音率2倍でも、非聴取エリアでは増音劣化がはじまり、6dB増音を確保できない。これに対して、図33(b)に示されるように、増音率3倍では、正面と側面の差分増音量は増加していることがわかる。なお、この反響特性においては、倍率3倍は最適とはいえず、9.5dB以上の大幅増加を得るために更に増幅倍率を増加させるようにしても良い。
【0265】
以上から、反響特性と増音量と増音率の傾向は、図35となる。図35は、反響小及び反響大と増音倍率n=2及びn=3の4つの組み合わせについて、それぞれ、増音と音圧維持の効果の比較をまとめたものである(なお、ここでは、高齢者の推定位置を増音し、その周囲を音圧維持する例で示しているので、高齢者位置・増音エリアが聴取エリアに対応し、周囲・維持エリアが非聴取エリアに対応する)。例えば、反響小でn=2の場合には、周囲は音圧が維持されているが、反響小でn=3になると、音圧維持対象のエリアでも2dBの増音がみられ、その結果、増音エリアと音圧維持エリアとの差が7dBになり、3倍を割ってしまうことが分かる。一方、反響大の場合には、n=2でもすでに、反響のために、音圧維持の劣化がみられ、n=3になると、反響による劣化分がより大きくなる。
【0266】
図35のように、目標増音量に対して、反響特性がわかれば、これに応じて、最適な増音率を設定することができる。例えば、増音対象とするエリアと音圧維持対象とするエリアとの間の倍率をより大きくしたい(所望のnにより近づけたい)場合には、nをさらに大きい値にとる方法がある。
【0267】
本実施形態では、高齢者等の視聴位置での好適な増音量ρを予め定める増音量設定部126と、室特性α推定値と、増音量ρ設定値から視聴位置での低音強調倍率nを算出する倍率算出部141と、倍率n値を前記制御フィルタ選択部138に入力することで好適な視聴位置での増音量を実現する低音用制御フィルタ算出部127を含む。
【0268】
なお、ここで、さらに制御フィルタ選択部138で選択する数式(36)の制御フィルタにおける空間伝達特性FやZは、反響波の数式(37)よりも、できるだけ直接波主体の数式(38)で構成されるほうが、反響の影響を受けにくくなり。そこで、事前に無響室で測定した空間伝達特性FやZを使い、これを数式(36)に代入したものを固定フィルタと使用するプリセット方式を提案する。反響特性に応じて倍率nのみ変化させることで、反響の大きな室内でも、直接波のみを制御し、反響の影響を受けにくくして、所望の増音量を達成することが可能となる。
【0269】
一方、中高音域の制御については、中央のスピーカ群による指向制御が実現し、個々のスピーカの振幅・位相・時間遅延特性は予め算出することから、設置環境、つまり、室内反響特性による効果劣化も少ない。
【0270】
図36に、本実施形態の音場制御装置の増音制御に関する動作例を示す。
【0271】
ここでは、増音率nはユーザが指示しない場合を例にとって説明する。
【0272】
視聴位置を所定の初期値に設定される(ステップS31)。初期値は、予め定められた値(例えば、表示装置の正面方向の所定の距離など)であっても良いし、本音場制御装置において最後に増音制御が使用されたときの視聴位置の推定結果を初期値としても良いし、他の種々の方法が可能である。
【0273】
次に、室内反響特性を推定する(ステップS32)。
【0274】
次に、推定した視聴に対する増音量ρを設定する(ステップS33)。
【0275】
次に、低音強調倍率nを算出する(ステップS34)。
【0276】
次に、制御フィルタを算出する(ステップS35)。
【0277】
次に、算出された値に制御フィルタを設定する(ステップS36)。
【0278】
以下、推定された視聴位置を変更するイベントが発生するまで、この制御フィルタの状態が維持される。ここでは、このイベントとして推定された視聴位置の変更を伴うものについて考える。
【0279】
ステップS37では、推定された視聴位置の変更を伴うイベントが発生したかどうか監視する。
【0280】
例えばユーザが視聴位置を変更するなどした場合に、該当イベントが検出され(ステップS38)、ステップS33に戻って、増音量ρの再設定、低音強調倍率nの再計算、制御フィルタの再計算・再設定が行われる。
【0281】
なお、この手順は一例であり、本実施形態の増音制御に関する動作として、様々なバリエーションが可能である。
【0282】
また、増音率nをユーザが指示可能とする場合には、ステップS31において、図7の手順例と同様に、増音率nを所定の初期値に設定し、ステップS37において、図7の手順例と同様に、増音率nの変更を伴うイベントが発生したかどうかをも監視すれば良い。
【0283】
本実施形態によれば、室内の反響特性による低音増音効果の劣化を軽減することができる。そして、例えば、高齢者等にとって所望の音量になるようにリモコン音量を大きめに調整しても、その高齢者等のリモコン操作・視聴位置においては大音量になっても、周囲では過剰音量にはならないように自動的にTV音量が調節される機能を実現することができる。
【0284】
(第8の実施形態)
続いて、第8の実施形態について説明する。
【0285】
以下、これまでの各実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0286】
本実施形態は、第6、第7の実施形態の音量調整部において、高雑音・反響下で、所望の増音量(周囲に対する高齢者等の位置の相対音量差)を確保するために、増大させた倍率nによって起こるTV自体の音量増大(絶対音量)を抑制するために、倍率nの大きさに応じてスピーカに入力する音響信号の音量を低減させることで、過剰音量を回避する。これは、図34を参照すると、音量調整部にて音量を小さくすることに相当する。倍率nと、音量調整部による音量の低下量との関係は、例えば、予め設定しても良いし、他の種々の方法も可能である。
【0287】
また、上述の実施形態の中で示した処理手順に示された指示は、ソフトウェアであるプログラムに基づいて実行されることが可能である。汎用の計算機システムが、このプログラムを予め記憶しておき、このプログラムを読み込むことにより、上述した実施形態の音場制御装置による効果と同様な効果を得ることも可能である。上述の実施形態で記述された指示は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フレキシブルディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD±R、DVD±RWなど)、半導体メモリ、またはこれに類する記録媒体に記録される。コンピュータまたは組み込みシステムが読み取り可能な記録媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した実施形態の音場制御装置と同様な動作を実現することができる。もちろん、コンピュータがプログラムを取得する場合または読み込む場合はネットワークを通じて取得または読み込んでもよい。
また、記録媒体からコンピュータや組み込みシステムにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)や、データベース管理ソフト、ネットワーク等のMW(ミドルウェア)等が本実施形態を実現するための各処理の一部を実行してもよい。
さらに、本実施形態における記録媒体は、コンピュータあるいは組み込みシステムと独立した媒体に限らず、LANやインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶または一時記憶した記録媒体も含まれる。
また、記録媒体は1つに限られず、複数の媒体から本実施形態における処理が実行される場合も、本実施形態における記録媒体に含まれ、媒体の構成は何れの構成であってもよい。
【0288】
なお、本実施形態におけるコンピュータまたは組み込みシステムは、記録媒体に記憶されたプログラムに基づき、本実施形態における各処理を実行するためのものであって、パソコン、マイコン等の1つからなる装置、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であってもよい。
また、本実施形態におけるコンピュータとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本実施形態における機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0289】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0290】
1,101L,101R…音響信号出力部、2…空間伝播特性入力部、3…制御フィルタ算出部、4…制御フィルタ、41…第1の制御フィルタ、42…第2の制御フィルタ、43…第3の制御フィルタ、5…聴取エリア増音率入力部、6…アンプ許容入力電圧判定部、7…増音率変更部、8,107,103L、103R…音量調整部、81…主音源用音量調整部、82,83…制御音源用音量調整部、9…スピーカ、91,141L、141R…主音源用スピーカ、92,93,142L,143L、142R,143R…制御音源用スピーカ、93…第3のスピーカ、11…ローパスフィルタ、12…遅延回路、13…フィルタゲイン過入力帯域検出・帯域カット部、14,200…スピーカボックス、102L,102R…低音用制御フィルタ演算部、105…ステレオ信号合成・バランス調整部、106…中高音用制御フィルタ・時間遅延演算部、181〜188…中高音スピーカ群、120…視聴位置推定用情報入力部、125…視聴位置推定部、126…視聴位置増音量設定部、127…低音用制御フィルタ算出部、128…中高音用制御フィルタ算出部、140…フィルタ選択部、141…室内特性手動設定部142…室内反響特性推定部、143…低音強調倍率算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される音響信号に対し、主音源用係数及び複数の制御音源用係数を用いたFIR演算を実行して、主音源用信号及び複数の制御音源用信号を出力する制御フィルタと、
前記制御フィルタから出力された前記主音源用出力信号及び前複数の制御音源用出力信号を、音量調整して、それぞれ、対応する主音源用スピーカ及び複数の制御音源用スピーカに供給する音量調整部と、
前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから第1のエリア及び第2のエリアまでの空間伝播特性、並びに、増音率nに基づいて、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから前記第1のエリアへの合成音圧を、前記主音源用スピーカのみからの到来音圧のn倍又はこれに近くし、かつ、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから前記第2のエリアへの合成音圧を、前記主音源用スピーカのみからの到来音圧と同じ又はこれに近くするように、前記制御フィルタの前記主音源用係数及び前記複数の制御音源用係数を算出する算出部とを備えたことを特徴とする音場制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記第2のエリアへ伝わる前記複数の制御音源用スピーカの音響エネルギーを最小化することによって、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから前記第2のエリアへの合成音圧を、前記主音源用スピーカのみからの到来音圧と同じ又はこれに近づけるための前記主音源用係数及び前記複数の制御音源用係数を算出することを特徴とする請求項1に記載の音場制御装置。
【請求項3】
前記制御フィルタの前段に、制御上限周波数をfとするローパスフィルタを更に備え、
所定の形で配置された前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカのスピーカ間隔を、d(ここで、d≦c/2f、cは音速)にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の音場制御装置。
【請求項4】
一つの前記主音源用スピーカ及び二つの前記制御音源用スピーカを一組とし、
前記主音源用スピーカ及び前記制御音源用スピーカを、スピーカ間隔を相互にdとする三角形状に配置したことを特徴とする請求項3に記載の音場制御装置。
【請求項5】
前記主音源用スピーカ及び前記制御音源用スピーカは、画像表示装置のベゼル枠に配置されたものであり、
前記主音源用スピーカは、前記ベゼルの隅角に配置されたことを特徴とする請求項4に記載の音場制御装置。
【請求項6】
前記制御音源用スピーカは、前記ベゼル枠の中央からずれた位置に配置されたことを特徴とする請求項5に記載の音場制御装置。
【請求項7】
前記主音源用スピーカ及び前記制御音源用スピーカは、画像表示装置の内部に配置され、ダクトを介して、該画像表示装置のベゼル表面のそれぞれの開口部に連結されたものであり、
前記主音源用スピーカ及び前記制御音源用スピーカに係る前記開口部が、間隔dの三角形状に配置されたことを特徴とする請求項4に記載の音場制御装置。
【請求項8】
前記制御フィルタからの出力電圧が、前記音量調整部への許容入力電圧以下であるか判定する判定部と、
前記出力電圧が、前記許容入力電圧を超えると判定された場合に、前記出力電圧が、前記許容入力電圧以下になるように、前記増音率又は前記主音源の振幅を変更する変更部とを更に備えたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の音場制御装置。
【請求項9】
前記制御フィルタのゲインについて、過入力となる周波数帯域成分を検出して、該過入力となる周波数帯域成分を除去する信号調整部を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の音場制御装置。
【請求項10】
前記音響信号は、右チャンネル音響信号及び左チャンネル音響信号を含むステレオ音響信号であり、
前記音場制御装置は、前記制御フィルタ、前記音量調整部及び前記算出部を一組として、前記右チャンネル音響信号から抽出される低音域音響信号用及び前記左チャンネル音響信号から抽出される低音域音響信号用にそれぞれ一組ずつ備え、
前記音場制御装置は、更に、前記右チャンネル音響信号及び前記左チャンネル音響信号から得られる中高音に係る音響信号を、前記第1のエリアに指向性をもつように、中高音用のスピーカ群から出力させる中高音制御部を備えたことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の音場制御装置。
【請求項11】
視聴位置を推定する視聴位置推定部を更に備え、
前記視聴位置推定部により推定された前記視聴位置を含むエリアを、前記第1のエリアとすることを特徴とする請求項10に記載の音場制御装置。
【請求項12】
視聴位置での増音量を予め設定する増音量設定部と、
室内反響特性を推定する室内反響特性推定部と、
前記室内反響特性及び前記増音量から、視聴位置での増音率nを算出する増音率算出部と、
前記視聴位置推定部により推定された視聴位置及び前記増音率算出部により算出された増音率nをもとに、予め無響室にて作成した複数の増音制御フィルタのうちから、該視聴位置を前記第1のエリアとするために最適な制御フィルタを選択するフィルタ選択部と更に備えたことを特徴とする請求項11に記載の音場制御装置。
【請求項13】
前記音量調整部は、前記スピーカに供給する前記出力信号を音量調整するにあたって、前記増音率nの大きさに応じて、より低く音量調整することを特徴とする請求項12に記載の音場制御装置。
【請求項14】
前記増音率を入力する増音率入力部を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の音場制御装置。
【請求項15】
制御フィルタと音量調整部と算出部とを備えた音場制御装置の音場制御方法であって、
前記制御フィルタが、入力される音響信号に対し、主音源用係数及び複数の制御音源用係数を用いたFIR演算を実行して、主音源用信号及び複数の制御音源用信号を出力するステップと、
前記音量調整部が、前記制御フィルタから出力された前記主音源用出力信号及び前複数の制御音源用出力信号を、音量調整して、それぞれ、対応する主音源用スピーカ及び複数の制御音源用スピーカに供給するステップと、
前記算出部が、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから第1のエリア及び第2のエリアまでの空間伝播特性、並びに、増音率nに基づいて、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから前記第1のエリアへの合成音圧を、前記主音源用スピーカのみからの到来音圧のn倍又はこれに近くし、かつ、前記主音源用スピーカ及び前記複数の制御音源用スピーカから前記第2のエリアへの合成音圧を、前記主音源用スピーカのみからの到来音圧と同じ又はこれに近くするように、前記制御フィルタの前記主音源用係数及び前記複数の制御音源用係数を算出するステップとを有することを特徴とする音場制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2012−156865(P2012−156865A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15364(P2011−15364)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】