説明

音波センサ、音波センサアレイ及び超音波撮像装置

【課題】 光検出方式を用いた音波センサであって、従来にない全く新規な検出原理の音波センサを提供する。
【解決手段】 音波センサ10は、音波によって変位するメンブレン11と、光を伝播させるための第1の導波路16aと、第1の導波路16aを伝播した光が結合しうる光共振器15と、光結合部15から結合した光が伝播する第2の導波路16bとにより構成される。メンブレン11が音波を受信することにより変位すると、第1の導波路16aと光共振器15との光結合係数、あるいは第2の導波路16bと光共振器15との光結合係数の少なくとも一方が変化し、それに応じた光信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的手段により音波を検出する音波センサに関する。本発明の音波センサは、特に超音波を検出するのに適する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波診断装置には圧電素子を用いた超音波センサを用いるのが一般的であった。しかし、圧電素子を用いた超音波センサでは2次元センサの製造が困難であるという問題がある。
【0003】
超音波診断装置で画質の良い3次元画像を得るためには、センサアレイをスキャンさせることなく2次元画像を取得できる2次元センサを用いることが好ましい。したがって、圧電素子を用いるもの以外にも様々な検出原理による、種々の構造をもった超音波センサが開発されている。
【0004】
その中で、光学的手段を用いて超音波を検出する超音波センサとして、以下に示すものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、リング共振器が超音波による圧力を受けることによって、当該リング共振器内の屈折率が変化する超音波センサが記載されている。具体的には、リング共振器内部の屈折率が変化すると、共振周波数も変化するので、共振周波数の変化を利用して超音波を検出しようとするものである。
【特許文献1】特開平10−048039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように超音波検出装置を用いた撮像装置としては、検出精度や設計の自由度の更なる向上等の観点から、様々な方法に基づく超音波センサが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、光検出方式を用いた音波センサであって、従来にない全く新規な検出原理の音波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の音波センサは、該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、光を伝播させるための導波路と、該導波路を伝播した光が結合しうる光結合部とを備え、前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変化する、前記導波路と前記光結合部との光結合係数に応じた光信号を出力することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別の音波センサは、該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、光を伝播させるための第1の導波路と、該第1の導波路を伝播した光が結合しうる光結合部と、該光結合部から結合した光が伝播する第2の導波路とを備え、前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変位する、前記第1の導波路と前記光結合部との光結合係数、あるいは前記第2の導波路と前記光結合部との光結合係数の少なくとも一方に応じた光信号を出力することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の別の音波センサは、該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、光を伝播させるための第1の導波路と、該第1の導波路から結合した光が伝播する第2の導波路とを備え、前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変化する、前記第1の導波路と前記第2の導波路との光結合係数に応じた光信号を出力することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の別の音波センサは、該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、光を伝播させるための第1の導波路と、該第1の導波路を伝播した光が結合しうる第1の光共振器と、前記音波受信部と連結した第2の光共振器とを備え、前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変化する、前記第1の光共振器と前記第2の光共振器との相対距離に応じた光信号を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光結合の変化を利用した、従来にない新規な構成の音波センサ及び新規な超音波検出方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0014】
本発明の音波センサの各実施形態において共通するのは、音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部が、音波を受信する点である。音波により変位する可動部としては、音波センサに支持されたメンブレン(振動膜)が挙げられる。また、メンブレンのように、音波を受信したときにそれ自体が振動可能なものでなく、振動板として剛性の高い物質を用いても、その振動板が音波センサに支持され、音波の受信により可動な構造となっていれば良い。カンチレバーも一例である。可動部をメンブレンとした場合、その音波の圧力によりメンブレンが振動する。このメンブレンの変位を光信号の変化(例えば光強度の変化、あるいは位相の変化)として検出することを特徴とする。
【0015】
本明細書において音波とは、空気中を伝播する弾性波に限らず、気体、液体、固体を問わず、弾性体を伝播するあらゆる弾性波の総称をいう。つまり、人間の可聴周波数を超える周波数の弾性波である超音波をも含む概念である。
【0016】
したがって、本発明の音波センサは、超音波探触子として超音波診断装置(エコー)などに適用することができる。以下、超音波を検出する超音波センサとして本発明を説明するが、本発明の音波センサの検出原理を考慮すれば、検出可能な音波が超音波に限られないことは明らかである。
【0017】
(第1実施形態)
まず、本発明の超音波センサの一実施形態を元に、その構成の説明及び検出原理の説明を行う。図1(a)は、本発明の第1の実施形態にかかる超音波センサを半分に切断した場合の斜視図、図1(b)は、図1(a)と同様の構成の超音波センサの断面図である。
【0018】
超音波センサ10の基本構成として、基板13の上に振動膜支持部12が形成され、振動膜支持部12は超音波受信部としてのメンブレン11を支持する。基板13、振動膜支持部12、メンブレン11によって内部にキャビティ(cavity)17とする空間が形成される。キャビティ17内には、光源からの入射光を伝播させるための第1の導波路16a、第1の導波路を伝播した光が結合しうる光結合部としての光共振器15、この光共振器15から結合した光が伝播しうる第2の導波路16bが設けられる。光共振器15は光共振器支持部14によって振動膜11の下に固定される。また、導波路16a,16bは、図1(a)においては基板13に埋め込まれた構造であるが、図1(b)においては、導波路支持部18a,18bによって支持されている。
【0019】
メンブレン11が超音波を受信すると、その圧力によりメンブレン11が振動する。本実施形態においては、このメンブレン11の変位により、光共振器15と第1の導波路16aとの相対距離(h1)、及び光共振器15と第2の導波路16bとの相対距離が変化する。これにより、第1の導波路16aと光共振器15との光結合係数、及び第2の導波路16bと光共振器15の光結合係数が変化する。この光結合係数の変化は、検出器によって検出される光の光量または波長に変化をもたらすため、当該光量または波長変化を検出することによって、間接的に超音波を検出することができる。
【0020】
すなわち、超音波センサ10は、超音波の受信によって変化する第1の導波路16aと光共振器15との光結合係数、あるいは第2の導波路16bと光共振器15との光結合係数の少なくとも一方に応じた光信号を出力する。
【0021】
(検出原理の説明)
上記のような相対距離の変化により、光結合係数が変化することの意味を説明する。図1の超音波センサにおいて、第1の導波路16aと光共振器15との相対距離をh1とする。一般に導波路を伝播する光のうち、対向する光共振器に依存する固有の共振波長の波長を持つ光またはその近傍の波長を持つ光は、光共振器と光結合を起こし、光共振器に移る。
【0022】
光結合する光の割合は、導波路と光共振器との相対距離によって変化し、最も光結合の割合が高くなる相対距離が存在する。最も光結合の割合が高い状態をCritical coupling状態という。導波路と光共振器との相対距離が、Critical coupling状態である相対距離よりも小さくなる、つまり近づくとOver coupling状態、相対距離が大きくなる、つまり、遠ざかるとUnder coupling状態となる。
【0023】
本明細書において「光結合係数」とは、入射した光のうち光結合する光の割合を意味し、光学的な定義は以下である。
光結合係数=透過光振幅/隣の導波路の入射光振幅
なお、光振幅は光パワーの平方根と正比例するため、下記の式も成立する。
=透過光パワー/隣の導波路の入射光パワー=結合の透過パワー率
距離h1の変化によって、第1の導波路16aを伝播して光源からセンサ10内に入射した光のうち、光共振器に結合する光の割合が変化する。この作用について、以下説明する。
【0024】
本発明のメンブレン(振動膜)の変位検出を説明するためのグラフを以下に示す。図2は、導波路の光透過パワー率の位相差依存性を示す図である。縦軸が光透過パワー率(単位:dB)、横軸が位相差(単位:nm)である。導波路の光透過パワー率とは、導波路に入射した光のうち光共振器に光結合せず、そのまま導波路を伝播する光の量を示すパラメータである。また、ここで言う位相差とは、光共振器固有の共振波長と光導波路を伝播し超音波センサに入射する光の波長の差を意味する。
【0025】
図2の作成にあたっては、A.Yariv,”Universal relations for coupling of optical power between microresonators and dielectric waveguides,”Electronics Letters,Vol.36,No.4,2000に記載の式を用いて、シミュレーションを行った。シミュレーションの条件を以下に示す。
中心周波数(共振波長)1550nm、Coupling loss=0.998,
Under coupling(Internal loss= 0.98),
Critical coupling(Internal loss=0.998),
Over coupling(Internal loss= 0.999)。
【0026】
Coupling lossとは、導波路と共振器の間に光結合する際に、周辺の自由空間に発散される光の損失である。Internal lossとは、共振器もしくは導波路の媒体内部に伝播される光の損失である。
【0027】
光共振器のInternal loss(内部損失)の大きさにより、導波路と光共振器との結合は、Under coupling, Critical coupling,およびOver couplingの三状態がある。Under couplingの状態では、位相差による光透過パワー率の変化はほとんどない。一方、Over couplingの状態では、位相差の変化に対して光透過パワー率が最大約−10dB程度変化する。Critical couplingの状態では、位相差による光透過パワー率の変化は最も敏感であって、1nmの位相差によって、最大約29dBの光透過パワー率の変化量が発生する。本発明は、このCritical couplingにある透過パワー率対位相差の高敏感特性を用いて、振動膜の変位を検出する。
【0028】
例えば、光共振器15と導波路16aとの初期間隔h1oをCritical couplingの位置に設置し、間隔h1の変化(Δh1=h1−h1o)により、振動膜の変位を検出することができる。
【0029】
図3に、導波路と光共振器の相対距離h1の変化Δh1に対する、光透過パワー率の変化を示す。シミュレーション条件は図2と同じである。つまり、共振波長と同じ波長をもつ光が入射した場合である。縦軸が光透過パワー率(単位:dB)であって、横軸が間隔変化量Δh1(単位:nm)である。図1(b)の中、Δh1の変化により、導波路16と光共振器15との結合は、Under coupling, Critical coupling, およびOver couplingの三領域を形成する。初期間隔h1oをCritical couplingの位置に設置する(即ちΔh1=0の状態)と、光透過パワー率が最小値−29dB程度をとる。Δh1が負値である領域が、Under coupling領域である。Δh1が正値である領域が、Over coupling領域である。Critical couplingの位置の付近は一番感度が高く、5nmの変位量により約17dBの光透過パワー率変化が得られる。
【0030】
上記のように、初期間隔をCritical couplingの位置に設置した場合で、定性的な説明を簡潔に行う。光検出器は第2の導波路16bに接続されているものとする。
【0031】
メンブレン11が超音波を受信していない場合、導波路16aと光共振器15、光共振器15と導波路16bの関係はCritical coupling状態となる。その結果、第1の導波路16aを伝播している光の一部が、光共振器15に光結合する。光共振器15は円盤、リング状などの形状であり、かつ光が光共振器15の辺縁部に伝播して、光のエネルギーは光共振器15内部に閉じこめられる。光共振器15と第2の導波路16bとの相対距離もCritical coupling状態となっているため、第1の導波路16aから光共振器15に移った光は、第2の導波路16bに光結合し、第2の導波路16bを伝播する。伝播した光が検出器で検出される。
【0032】
一方、超音波を受信し、メンブレンが変位することで、光共振器15と導波路16a、16bの相対距離が変化すると、Under coupling状態またはOver coupling状態となる。その結果、導波路16aを伝播し超音波センサ10内に入射した光のうち、光共振器15に光結合する光は大幅に減少し、導波路16aを伝播したまま超音波センサ10を出る光が多くなる。したがって、検出器で検出される光量は減ることになる。
【0033】
このようにして、超音波を検出することができる。すなわち、本実施形態においては、超音波を受信することにより生じるメンブレンの変位によって、第1の導波路16aと光共振器15との光結合係数、及び、第2の導波路16bと光共振器15との光結合係数が変化する。
【0034】
検出器の配置は、特に限定されず、第1の導波路16aに接続して設けられても良い。その場合は、上記の説明とは逆に、超音波を受信している場合ほど、検出光量が多くなる。
【0035】
本実施形態は、超音波センサ10の光学要素として、1つの光共振器と2つの光導波路を設けた例である。これらの位置関係は、同様の原理で検出できるものであれば、図1に示したものに限定されない。例えば、メンブレン11に固定されるのが第1の導波路16aと第2の導波路16bで、基板13に固定されるのが光共振器15のような配置でも構わない。しかし、製造プロセスの観点からは、光共振器15がメンブレンに固定されているほうが好ましい。
【0036】
(より好ましい条件)
メンブレン11の変位を確実に検出するため、光共振器支持部14の位置は、メンブレン11の振動モードの節を回避する必要がある。振動モードの節から光共振器支持部14までの距離は、Mode shape波長の1/8以上が望ましいし、Mode shape波長の3/16以上がより望ましい。前記振動モードの節から、光共振器支持部14までの距離は、Mode shape波長の1/4の場合に、最大の変位量が発生する。同等の機械環境、外力条件で
Mode shape波長の1/8の場合、最大変位量の70%位が発生する。同じように、Mode shape波長の3/16の場合、最大変位量の90%位が発生する。
【0037】
さらに、メンブレン11と光共振器15との共振を回避するため、光共振器15の第1共振周波数(Fundamental resonant frequency or The 1st resonant frequency)は、メンブレン11の第2共振周波数より大きいことが望ましい。超音波変換装置の操作帯域は、メンブレン11の第1共振周波数と第2共振周波数の間であって、光共振器15の共振周波数は、メンブレン11の第2周波数より大きくする必要がある。振動膜11の第3共振周波数より大きいことが最も望ましい。
【0038】
光共振器15から導波路16以外のところへ光結合することを抑制するため、光共振器15とメンブレン11との間隔h3は、1倍光波長以上とすることが望ましい。光共振器15と振動膜支持部12との間隔w1も、1倍光波長以上とすることが望ましい。導波路16aと基板13との間隔h2も、1倍光波長以上とすることが望ましい。
【0039】
光エネルギーを閉じこめる効果を高めるため、光共振器15および導波路16a、16bの材料は高誘電率材料(比誘電率εr>2)であることがより望ましい。微細加工しやすいため、Siが最も望ましい材料である。光が光共振器支持部14に漏れないように、光共振器支持部14の材料は低誘電率材料(比誘電率εr<2)であることが望ましい。微細加工しやすいため、SiOが最も望ましい材料である。作製プロセスの観点により、SiとSiOを使用することがより望ましい。このため、図1には、斜線領域がSiOである領域で、その以外の領域がSiであることを示す。導波路支持部18a、18bは、導波路16a、16bを伝播する光が漏れないようにSiOを使って、基板13と接続して導波路を固定する。
【0040】
なお、これらの条件は、他の実施形態においても同様に言えることである。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施形態には、超音波センサ10の光学要素として、1つの光共振器と1つの光導波路を設けた例を示す。図4(a)〜(f)には、本実施形態として考えられる種々の光学要素の位置関係を示した。
【0042】
図4(a)の導波路16aは、光源から入射する光を伝播させるためのものであり、その先には光検出器が設けられる。本実施形態では、超音波を受信することにより生じるメンブレン11の変位によって、導波路16aと光共振器15との相対距離が変化し、その光結合係数が変化する。この光結合係数の変化は、検出器によって検出される光の光量または波長に変化をもたらすため、超音波を検出することができる。
【0043】
すなわち、超音波センサ10は、超音波の受信によって変化する導波路16aと光共振器15との光結合係数(光カップリング係数、光結合の度合い)に応じた光信号を出力する。
【0044】
図4(a)の超音波センサにおいて、導波路16aには光源からの光が伝播し、センサ10内に入射する。メンブレン11が超音波を受信していない場合、つまり初期間隔h1oの場合にCritical Coupling状態であるとすると、導波路16aを伝播している光の多くが、光共振器15に光結合する。光共振器15は円盤、リング状などの形状であり、かつ光が光共振器15の辺縁部に伝播して、光のエネルギーは光共振器15内部に閉じこめられる。よって、検出器で検出される光量は少ない。
【0045】
一方、メンブレン11が超音波を受信し、導波路16aと光共振器15の相対距離(h1)が変化すると、Critical Coupling状態ではなくなり、導波路16aを伝播した光の多くはそのまま光検出器で検出される。
【0046】
このようにして、超音波を検出することができる。
【0047】
光共振器15と導波路16aの位置関係は、同様の原理で検出できるものであれば、図4(a)に示したものに限定されない。
【0048】
図4(b)には、導波路16aを光共振器15の側面に設置した例を示す。導波路16aの支持部を省略しているが、光が漏れないようにSiOを使って基板13と接続して、導波路16aを固定する。このような位置関係でも、メンブレン11の変位によって、導波路16aと光共振器15の相対距離が変化する。
【0049】
この場合、導波路16aと光共振器15の初期相対位置(外力を加えない状態)がCritical couplingに近い状態であることが望ましい。
【0050】
図4(c)には、導波路16aを導波路支持部18aと接続して、メンブレン11に固定した例を示す。光共振器15は光共振器支持部14で基板13に固定する。図4(a)と同じ空間配置で、光共振器15の辺縁部の上に光導波路16aを設置する。
【0051】
この場合、前記図4(b)のように、導波路16aと光共振器15の初期相対位置(外力を加えない状態)がCritical couplingに近い状態であることが望ましい。
【0052】
図4(d)には、導波路16aを導波路支持部18aと接続して、メンブレン11に固定し、光共振器15の側面に導波路16aが配置される例を示した。
【0053】
この場合、前記図4(b)のように、導波路16aと光共振器15の初期相対位置(外力を加えない状態)がCritical couplingに近い状態であることが望ましい。
【0054】
図4(e)には、導波路16aが導波路クラッド層18cを介してメンブレン11に埋め込まれている例を示した。導波路16aの光閉じ込み効果を得るため、導波路クラッド層18cを設けることが好ましい。導波路16a内の光がメンブレン11に漏れないように導波路クラッド層18cは導波路16aの屈折率より低い材料を使用することにより、光閉じ込み効果を確保することができる。たとえば、導波路16aがSiである場合、選択性酸化もしくは、CVD(Chemical Vapor Deposition)法で導波路クラッド層18cをSiOで形成することができる。それで、SiOの屈折率(1.46附近)はSi(3.42附近)より小さいため、その界面が全反射による光閉じ込み効果を確保することができる。光共振器15は光共振器支持部14で基板13に固定される。導波路16aがSiである場合、導波路クラッド層18cはSiOとすることが望ましい。図4(c)と同じ空間配置で、光共振器15の辺縁部の上に光導波路16aを設置する。
【0055】
この場合、前記図4(b)のように、導波路16aと光共振器15の初期相対位置(外力を加えない状態)がCritical couplingに近い状態であることが望ましい。
【0056】
図4(f)には、リング状(もしくは円盤状)の光共振器15が共振器クラッド層14bを介してメンブレン11に埋め込まれている例を示した。光共振器15の光閉じ込み効果を得るため、共振器クラッド層14bを設けることが好ましい。導波路16aは導波路支持部18aで基板13に固定される。光共振器15がSiである場合、共振器クラッド層14bはSiOとすることが望ましい。図4(a)と同じ空間配置で、光共振器15の辺縁部の下に光導波路16aを設置する。
【0057】
この場合、前記図4(b)のように、導波路16aと光共振器15の初期相対位置(外力を加えない状態)がCritical couplingに近い状態であることが望ましい。
【0058】
(第3実施形態)
第3実施形態には、超音波センサ10の光学要素として、2つの光導波路を設けた例を示す。図5に、本実施形態の超音波センサの断面図を示した。
【0059】
図5の導波路16aは、光源から入射する光を伝播させるため第1の導波路であり、その先には検出器が設けられる。導波路16bは、導波路16aから光結合した光が伝播する第2の導波路である。本実施形態では、超音波を受信することにより生じるメンブレン11の変位によって、導波路16aと導波路16bとの相対距離が変化し、その光結合係数が変化する。この光結合係数の変化は、検出器によって検出される光の光量または波長に変化をもたらすため、超音波を検出することができる。
【0060】
ずなわち、超音波センサ10は、超音波の受信により変化する第1の導波路16aと第2の導波路16bとの光結合係数に応じた光信号を出力する。
【0061】
導波路16aと導波路16bの位置関係及び検出器の配置は、同様の原理で検出できるものであれば、図5に示したものに限定されない。
【0062】
(第4実施形態)
第4実施形態には、超音波センサ10の光学要素として、2つの光共振器を設けた例を示す。導波路は、光の検出器との関係によって1つでも2つでも構わない。本実施形態の検出原理は、これまでの第1乃至第3実施形態とは多少異なるため、超音波センサの構成に続いて、検出原理も説明する。
【0063】
図6に、本実施形態において導波路を1つ設けた超音波センサの断面図を示した。基板13上の振動膜支持部12に支持されたメンブレン11が超音波を受信する。基板13には、共振器支持部14aにより第1の光共振器15aが設けられており、その側面には光源から入射する光が伝播する導波路16が設けられる。導波路16は光検出器(不図示)に接続されている。第1の光共振器15aの上部には、メンブレン11に共振器支持部14bにより固定された光共振器15bが設けられる。つまり、光共振器15bはメンブレンの変位と共に動けるが、光共振器15aは基板13に固定され、動くことはない。
【0064】
メンブレン11の振動により、共振器15aと共振器15bの間隔gが変化する。光は、光源から導波路16を経由し、一部の光が光共振器15aに結合して、残る光を光検出器で検出する。
【0065】
本実施形態においては、光結合を起こす光学要素である導波路16と光共振器15aの相対距離が、メンブレンの11の変位によって変化することはない。しかし、メンブレン11が超音波を受信し、変位すると、第1の光共振器15aと第2の光共振器15bの相対距離gが変化するのである。
【0066】
間隔gの変化により、光共振器15aの内部に伝播する光速が変わる。間隔gが小さくなると、光共振器15aの内部に伝播する光速が落ちる。間隔gが大きくなると、光共振器15aの内部に伝播する光速が上がる。
【0067】
導波路16と第1の光共振器15aとの関係は、超音波を受信していない初期状態において、Critical coupling状態であるとする。間隔gが変化することにより、下部の光共振器15aの内部に伝播する光速が変化し、Critical coupling状態が崩れ、Over−couplingもしくはUnder−coupling状態に移行する。その結果、導波路16から出力の光信号が敏感に変化する。要するに、光系の全体Coupling中心周波数が変化(シフト)するのである。
【0068】
すなわち、超音波センサ10は、超音波の受信によって変化する、前記第1の光共振器と前記第2の光共振器との相対距離に応じた光信号を出力する。
【0069】
図7(a)に、本実施形態において導波路を2つ設けた超音波センサの断面図を示した。図7(b)は、図7(a)の超音波センサのうち、2つの導波路16a、16bと、下部の光共振器15aを上部から見た図である。
【0070】
概略原理は、1本の導波路の場合と同じである。光は、光源から光導波路16aを経由し、一部の光が光共振器15aに結合して、残る光を光センサで検出する。残る光は、図7(b)の光出力部1で検出する。図7(b)において矢印で示したのが光の進行経路である。導波路16bがなく、1本の導波路の場合は、実線矢印で示した経路でCritical couplingが発生する。ただし、2本の導波路の場合は、破線矢印で示すように、一部の光のエネルギーが2本目の導波路16bに移るので、Critical coupling発生の状況が変わる。
【0071】
第1の導波路16aと光共振器15aの相対距離をg1、第2の導波路16bと光共振器15aの相対距離をg2とする。特にg1とg2の値が等しい場合、導波路16aのみでCritical couplingが起きている場合と比較して、エネルギーの一部が破線矢印のように第2本目導波路に移るので、Critical couplingが起きないわけである。
【0072】
なお、g2とg1が違う場合(g2>g1の場合)、g2を調整して、Critical couplingが発生する周波数、およびその間隔g1が変化する。従って、導波路16bの機能は、Critical couplingが発生する最適な間隔を調整することである。
【0073】
(超音波センサアレイ)
本発明の超音波センサを利用した超音波センサアレイの一例を図8に示す。超音波センサアレイ30は、超音波センサ10を複数配列し、アレイ化したものである。まず光源1からの出射された光が、分光器2に入る。分光器2に入った光は、導波路16を伝播しそれぞれの超音波センサ10へ入射する。超音波センサ10においては、既に説明したように、超音波を受信することで超音波センサ10内に設けられた光共振器などの光学素子に光結合する度合いが変化する。超音波センサ10から出た光は、光導波路16を伝播して分光器3に集まる。超音波センサアレイ20への光伝送は、分光器2と分光器3で変調する。分光器2、3は制御器5で制御する。分光器3からの検出光は、光センサ4(検出器)で検出する。このような構成で各々の超音波センサのメンブレン変位量を検出することができる。
【0074】
図8に示した一例は、光共振器と1つの導波路により超音波センサ10を構成した第2の実施形態を利用するものである。図8では2つの分光器の位置関係上、導波路16が各超音波センサ10内で折れ曲がっているように描かれている。しかし、分光器の位置関係に制限はないため、超音波センサ10を貫通するように導波路16を設けることも可能である。
【0075】
2本の光導波路を用いる場合は、超音波センサからの検出用の光導波路が別の光導波路で伝送する。
【0076】
(超音波撮像装置)
本発明の超音波センサを利用した超音波撮像装置のブロック図を図9に示す。この超音波撮影装置は、超音波探触子90と、送信回路系93と、受信回路系92とを含んでいる。超音波探触子90は、本発明の超音波センサアレイ30と超音波送信部99で構成される。送信回路系93が発生する駆動信号に基づいて超音波が発生し、超音波送信部99から被検体に向けて送信する。被検体から反射される超音波を本発明の超音波センサアレイ30で検出し、検出信号を受信回路部92へ出力する。送信回路系93と、受信回路系92と、変位信号処理系95と、断層信号処理系94と、画像処理系96とはシステム制御部97で制御する。受信回路系92には、受信した超音波信号を光信号に変換する光検出素子(検出器)および光源が含まれている。光検出素子で光信号を電気信号に変換して、変位信号処理系95および上記断層信号処理系94へ出力する。
【0077】
断層信号処理系94は、入力される検出信号を処理し、アナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換器が含まれている。この信号処理動作により、検出信号に基づく複数の面データが形成される。
【0078】
画像処理系96は、断層信号処理系94および変位信号系95から入力される複数の面データに基づいて、2次元データ又は3次元データを再構成する。さらに、補間、レスポンス変調処理、階調処理などの処理を施し、処理されたデータを記憶する。画像表示部98は、例えば、CRTやLCDなどのディスプレイ装置であり、これらの処理を施された画像データに基づいて画像を表示する。
【0079】
(製造方法)
図10〜13には、本発明にかかる超音波センサの製造工程を4つ例示する。
【0080】
下記のプロセス説明を簡潔にするため、“パターニング”というプロセスは、フォトリソグラフィー法で適切な厚さのフォトレジストを塗布、Bake、露光、現像して、フォトレジストの下にある下地材料をエッチングする工程、およびその後フォトレジストを除去する工程を含むものとする。
【0081】
(製造方法1)
図10は、第1実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す。
【0082】
まず図10(a)に、Double SOI基板21を洗浄して、準備する。Double SOI基板の概略作製方法を以下説明する。二枚SOI(Silicon On Insulator)基板のDevice層を対向に接合して、その後、片面のHandling層をエッチングし、Double SOI基板21が出来上がる(KST World Corp.)。その中、Top Device層23が光共振器15となるため、光伝播およびプロセス作製によるサイズの調整については、後で詳しく説明する。
【0083】
Middle Device層22がメンブレン11となるので、超音波を受信する入力機械Impedanceのため、その厚さは約0.2〜5μmであることが望ましい。第1酸化膜25が光共振器支持部14となる。前記の説明によりメンブレンと光共振器との光結合を回避するため、第1酸化膜25の厚さは、0.2〜4μmが好ましい。
【0084】
図10(b)において、上記図10(a)のDouble SOI基板を熱酸化して、この後ウェットエッチングで熱酸化膜をパターニングする。次に上記パターニングされた酸化膜をエッチングマスクとして、Top Device層のSiをドライエッチングでパターニングする。このようなパターニング工程を2回して、図10(b)に示すように光共振器15の初期形状27を形成する。ドライエッチングの選択性とエッチング速度により、前記エッチングマスク用の酸化膜の厚さは、約10〜3000nm程度が望ましいし、約50〜500nmが最も望ましい。このエッチングマスクは熱酸化膜に限らず、LPCVD法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition、低圧化学蒸気堆積法)、PECVD法(Plasma Enhenced Chemical Vapor Deposition、 プラズマ強化化学蒸気堆積法)で成膜したSilicon酸化膜も使える。
【0085】
光共振器15の初期形状27の内部に光が伝播するためには、Carrier Lossの低減により、好ましい抵抗率が100 Ohm−cm以上、より好ましい抵抗率が1000 Ohm−cm以上、最も好ましい抵抗率が10000 Ohm−cm以上である。光共振器15の初期形状27の厚さは、約20〜3000 nmが望ましいし、約200〜1000nmが最も望ましい。
【0086】
Top Device層23は初期形状27と同じ材料であり、抵抗率も同じであること要求される。光共振器15と導波路16との初期間隔と、前記光共振器の初期形状27の厚さと、または前記エッチングマスク用の熱酸化膜の厚さとの合計は、前記Top Device層23の厚さとなる。
【0087】
前記の説明のように光結合初期状態の設計のため、光共振器15と導波路16との初期間隔は、10〜3000nmが望ましいし、50〜1600nmがより望ましい。そのため、前記Top Device層23の厚さは、40〜9000nmが望ましいし、200〜2000nmがより望ましく、300〜1000nmが最も望ましい。
【0088】
次に図10(c)において、LPCVD法(低圧化学蒸気堆積法)でSiN膜29(Silicon窒化膜)を成膜して、ドライエッチングでパターニングする。その後、フッ酸を含む液で第1酸化膜25をエッチングする。このウェットエッチングの後、純水、アセトン、メタノールの順でエッチャントを置換し、二酸化炭素を用いる超臨界乾燥法(Supercritical drying method)で基板を乾燥する。以降の説明を簡潔にするため、下記の“超臨界乾燥工程”は、純水、アセトン、メタノールの順でエッチャントを置換する予備工程、かつ二酸化炭素を用いる超臨界乾燥法を含むものとする。
【0089】
次に図10(d)において、低圧水素雰囲気で基板をアニールする。アニール条件は、温度が800〜1200℃、圧力が0.1〜760Torrであることが望ましい。最も望ましいアニール条件は、温度1000〜1150℃、圧力1〜100Torrである。
【0090】
以降の水素アニールプロセスの説明を簡潔にするため、以降の水素アニールプロセスの条件は、この図10(d)の条件と同じである。上記水素アニールにより、水素に接触する前記光共振器の初期形状27の表面にあるSi原子のMigrationが活発になってReflow効果が発生し、初期形状27の辺縁が丸くなる。この円い辺縁部があるため、辺縁内部に伝送する光の損失が大幅に低減して、共振効率、即ち品質係数(Quality Factor)が大幅に大きくなって、メンブレンの変位を光共振器で検出する性能がよくなる。次に加熱したリン酸を含む液、もしくはドライエッチングでSiN膜29を除去する。上記のSiN膜29の機能は、水素アニールする際に水素Barrier膜として、その後の接合工程に必要な表面平坦性、かつ光共振器15の中心部のSi形状を保持することである。ただし、プロセス上よく制御すれば、このSiN膜29はなくても光共振器15を形成することも可能である。
【0091】
一方、図10(e)のように別の一枚SOI基板31を用意して、洗浄後にドライエッチングでDevice layer32をパターニングする。次にフッ酸を含む液でBOX(Buried Oxide)層33をエッチングする。次に前記超臨界乾燥工程に従って光導波路35が形成する。この後、前記のように水素アニールを施してもいいし、施さなくても光伝送できる。図面を簡潔するため、図10(e)に光導波路35の支持部を省略するが、実際には紙面垂直方向に延びる光導波路35の下に支持する。
【0092】
次に、図10(f)のように、前記図10(d)の基板を反転して図10(e)の基板の上にアライメントして接合する。アライメントの目的は、光共振器15の辺縁部と光導波路35を上下をそろえることである。アライメント精度については、5μm以下が望ましく、1μm以下がより望ましい。最も望ましいは、100nm以下である。ちなみに、接合強度の観点から、接合温度は、室温から1200℃までの範囲が望ましく、100℃から800℃までの範囲がより望ましく、さらには電子回路の整合性により、300℃から400℃までの範囲が最も望ましい。以降の接合プロセスの説明を簡潔にするため、以降の接合プロセスの条件は、この図10(f)の条件と同じである。
【0093】
次に図10(g)では、Handling層26(Si)をアルカリ性エッチャントでウェットエッチングする。ウェットエッチングは、片面エッチング治具(例えばドイツSilicet社製ケミカルエッチング用ウェハホルダー)を使って、基板の裏面にあるHandling層34を保護し、損傷しないようにする。アルカリ性エッチャントを用いる場合、Handling層26(Si)対第2酸化膜24(SiO)のエッチング選択性が高いから、ウェットエッチングは第2酸化膜24(SiO)に到達したら自動的に停止する。その後、第2酸化膜24(SiO)をフッ酸を含む液を用いてエッチングする。フッ酸を含む液を用いる場合、Silicon酸化膜対Siliconのエッチング選択性が高いから、第2酸化膜24を完全に除去して、かつMiddle Device層22を損傷しないようにエッチングすることができる。次に純水洗浄、かつ乾燥して本発明の実施形態1の超音波センサが完成する。以降のプロセス説明を簡潔するため、以降のHandling層およびBOX層を除去するプロセスは、特に他の方法を説明しない限り、この図10(g)のプロセス説明と同じとする。
【0094】
大面積の素子アレイを作製する際には、前記図10(f)の接合の不完全を防ぐため、最後図10(g)に示す素子を大気圧、もしくは加圧の状態で高温アニールすると良い。この工程は“Post annealing”といわれる。この工程により、大気圧、もしくは加圧でMiddle Device層22を押し込んで、Top Device層(Silicon)23とDevice層(Silicon)32の再接合ができる。また、大面積の接合均一性、および素子のCavity17封止が向上する。Post annealing温度は、室温から1200℃までの範囲が望ましく、100℃から800℃までの範囲がより望ましく、さらに電子回路の整合性により、300℃から400℃までの範囲が最も望ましい。
【0095】
(製造方法2)
図11は、第4実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す。
【0096】
この製造工程と図10に示す製造工程とを比較すると、光共振器支持部14がSiliconであり、特に2つ光共振器を用いることが特徴である。
【0097】
先ず図11(a)に一枚SOI基板を洗浄し、準備する。その後、図11(b)に示すように、酸化膜48を成膜し、パターニングして、エッチングマスクとしてDevice層43をパターニングする。
【0098】
次にもう一枚SOI基板を使って、図11(b)にパターニングされたSOI基板に接合する。注意すべきは、図11(c)に示すように両方の基板のDevice層同士を接合することである。次に図11(d)に示すようにHandling層46とBOX層45を除去する。(図11(d)は、図11(c)をひっくり返して表示している。)この除去するプロセスは、前記図10(g)にあるプロセスと同じである。次に水素アニールを施し、光共振器15と、光共振器支持部14と、接合および水素アニール後の振動膜支持部47が形成する(図11(e))。この水素アニール工程は、前記図10(d)と同じである。
【0099】
次に、もう一枚SOI基板を用意し、図11(f)、(g)、(h)、(i)の順にプロセスを進んで、このSOI基板上に光導波路35、およびもう一つ光共振器36が形成する。上記図11(f)、(g)、(h)、(i)の詳細プロセス内容は、図10(a)、(b)、(c)、(d)と同じである。
【0100】
次に図11(e)に示した基板を反転し、図11(i)に示した基板の上に接合して、図11(j)に示す基板断面を形成する。ここでは2つの光共振器を精密にアライメントすることが望ましい。詳細の接合プロセス条件は、前記図10(f)と同じである。その後、図11(k)に示すようにHandling層49とBOX層44を除去する。プロセスの詳細は、前記図10(g)と同じである。
【0101】
(製造方法3)
図12は、第1実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す。(製造方法1)に示した方法とは異なる。
【0102】
光共振器同士、もしくは光共振器と光導波路の間の光結合は、本発明の超音波センサの性能に大きな影響を与えるため、前記の製造方法1においてはアライメント工程が重要である。これは接合によるアライメントである。
【0103】
本製造工程は、光共振器と光導波路とのアライメント精度を向上させるため、接合によるアライメントを使わず、フォトリソグラフィーでアライメントする。例えば、ステッパーを用いて、光共振器と光導波路をパターニングする。このため、アライメント精度が1μm以下とすることができ、さらに100 nm以下とすることも可能である。
【0104】
先ず図12(a)に一枚SOI基板を洗浄し、準備する。その後、図12(b)に示すようにDevice層32をパターニングして、光共振器の臨時Silicon支持部51を形成する。この光共振器の臨時Silicon支持部51は、柱状、もしくはリング状である。その後に光共振器の臨時Silicon支持部51を完全に熱酸化する。そのため、熱酸化のプロセス時間の観点から、光共振器の臨時Silicon支持部51の幅は、5μm以下が望ましく、3μm以下がより望ましい。
【0105】
次に図12(c)に示すようにSiN膜52を成膜し、パターニングする。その後、熱酸化を行なって、前記光共振器の臨時Silicon支持部51を完全に酸化して、光共振器の臨時SiO支持部53が形成する。
【0106】
図12(d)に示すように前記光共振器の臨時Silicon支持部51だけはSiN膜52に覆われないため、そのSilicon表面だけが熱酸化する。これは「選択性酸化」といわれる。次にSiN膜52を除去し、Device層32を図12(e)に示すようにパターニングし、エッチングされる形状はDevice層54とする。次にDevice層54を図12(f)に示すようにパターニングし、光導波路35とDevice層55が形成する。
【0107】
次に、もう一枚SOI基板のDevice層56を熱酸化して、熱酸化膜56が形成して、その後に上記図12(f)に示す基板の上に接合して、図12(g)に示す断面構造ができる。接合プロセス条件は、前記図10(f)と同じである。
【0108】
次に図12(h)に示すようにHandling層59とBOX層58を除去して、Device層57をドライエッチングでパターニングしてDevice層60になる。前記Device層57をパターニングする際に、ステッパーを用いることで、光導波路35とのアライメント精度を向上させることができる。Handling層59とBOX層58を除去する方法は、前記図10(g)に説明する方法と同じである。特に図12(g)に示すように熱酸化膜56と光共振器の臨時SiO支持部53およびDevice層55との均一な密接を向上するため、前記図10(g)に説明するPost annealing方法を利用する。
【0109】
次にもう一枚SOI基板を用いて、そのDevice層をパターニングして、前記図12(h)に示す基板と接合する。この工程は、図12(i)に示すように、パターニングされるDevice層61とDevice層60との接合である。詳細の接合プロセス条件は、前記図10(f)と同じである。
【0110】
次に図12(j)に示すようにHandling層63とBOX層62を除去して、Device層61をドライエッチングでパターニングしてDevice層64になる。上記Handling層63とBOX層62を除去する方法は、前記図10(g)に説明する方法と同じである。Device層64をドライエッチングして、小孔70が形成する。小孔70はメンブレン11の中心を対称軸とする溝形状が望ましく、円形の穴がもっとも望ましい。小孔70が円形の穴である場合、直径が2μm以下が望ましく、1μm以下がより望ましく、0.5μm以下が最も望ましい。
【0111】
次に、フッ酸を含む蒸気を小孔70に通らせて、酸化膜56と光共振器の臨時SiO支持部53をエッチングする。このエッチングは、フッ酸を含むエッチャントを使用することも可能であるが、このようなウェットエッチングをする後、純水でRinseし、前記超臨界乾燥工程が施すことが必要である。この場合、完全に純水を置換することが難しいし、残留する液体が小孔70から完全に飛ばすことが時間かかるため、フッ酸を含む蒸気でエッチングすることが望ましい。
【0112】
次に水素アニールを施し、光共振器15と、光共振器支持部14と、光導波路35と、接合後の振動膜支持部64が図12(k)に示すように形成する。この水素アニール工程は、前記図10(d)と同じであって、水素が小孔70に通って光共振器15と光導波路35の辺縁部を丸くする。
【0113】
最後にメンブレン11の表面にある小孔70を封止する封止膜65を設けて、超音波センサが完成する。この封止膜65は、CVD法(Chemical Vapor Deposition、化学蒸気堆積法)、もしくはPVD法(Physical Vapor Deposition、化学蒸気堆積法)で成膜するSiN膜、もしくはSilicon膜、もしくはSiO膜である。本製造方法によれば、接合アライメントを用いず、フォトリソグラフィー法によるアライメントが可能となるため、アライメント精度が向上する。
【0114】
(製造方法4)
図13は、第4実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す。前記製造方法2とは異なり、図12に示したようにフォトリソグラフィー法によりアライメントを行う方法である。
【0115】
先ず図13(a)に示すように一枚SOI基板を洗浄し、準備する。次に前記図13(a)の基板のDevice層32をパターニングして、図13(b)に示すようにDevice層61を形成する。次に前記図13(b)の基板を熱酸化して、図13(c)に示すようにDevice層69と熱酸化膜38を形成する。
【0116】
一方、もう一つSOI基板を使って、前記図11(b)と同じプロセスでこのDevice層を図13(d)のようにDevice層43と熱酸化膜48を形成する。次に図13(c)に完成した基板を反転して、図13(d)に完成した基板の上に接合して、図13(e)に示す接合後の基板断面が出来る。次に図13(f)に示すように、Handling層34とBOX層33を除去する。接合の均一性を向上するため、その除去工程の直後にPost annealingを施すことが望ましい。
【0117】
次に図13(g)に示すようにステッパーおよびドライエッチングを用いてDevice層69をパターニングする。ステッパーでアライメントすることにより、上部の光共振器15と、下部の光共振器36および光導波路35とのアライメント精度が1μm以下とでき、さらに100nm以下とすることも可能である。上部の光共振器15は、光共振器の臨時SiO支持部81を介して、下部の光共振器36と連結する。光共振器の臨時SiO支持部81の両側は、間隔調整部78、79があって、上下の光共振器の間隔を調整し、光結合の初期状態を制御する。
【0118】
次にもう一枚SOIを用意し、そのDevice層をパターニングして、図13(h)に示すような基板断面構造を形成する。次に図13(h)に完成した基板を反転し、図13(g)に完成した基板の上に接合して、図13(i)に示すような基板断面構造を形成する。次に、図13(j)に示すように前記基板のHandling層26とBOX層71を除去し、Post annealing工程を施してメンブレン11を形成する。
【0119】
次に光共振器の臨時SiO支持部81を除去するため、図13(k)に示すようにメンブレン11をドライエッチングでパターニングして、小孔70が形成する。その後、前記図12(k)と同じようにフッ酸を含む蒸気を小孔70を通らせ、光共振器の臨時SiO支持部81を除去しながら、BOX層67をエッチングして、図13(k)に示すような基板断面構造を作製する。ここでは、共振器の臨時SiO支持部81を除去するが、下部の光共振器36の支持部37を残す必要があることに注意する。
【0120】
次に水素アニールを施し、光共振器15、36と、光共振器支持部14、37と、光導波路35と、接合後の振動膜支持部75とが図12(k)に示すように形成する。この水素アニール工程は、前記図10(d)と同じであって、水素が小孔70に通って光共振器15、36と光導波路35の辺縁部を丸くする。
【0121】
最後にメンブレン11の表面にある小孔70を封止する封止膜65を設けて、超音波センサが完成する。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】(a)本発明の第1の実施形態にかかる超音波センサを半分に切断した場合の斜視図である。(b)図1(a)と同様の構成の超音波センサの断面図である。
【図2】導波路の光透過パワー率の位相差依存性を示す図である。
【図3】導波路と光共振器の相対距離h1の変化Δh1に対する、光透過パワー率の変化を示す図である。
【図4】(a)〜(f)本発明の第2の実施形態にかかる超音波センサの断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態にかかる超音波センサの断面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態において導波路を1つ設けた超音波センサの断面図である。
【図7】(a)本発明の第4の実施形態において導波路を2つ設けた超音波センサの断面図である。(b)図7(a)の超音波センサのうち、2つの導波路16a、16bと、下部の光共振器15aを上部から見た図である。
【図8】本発明の超音波センサを利用した超音波センサアレイの一例を示す模式図である。
【図9】本発明の超音波センサを利用した超音波撮像装置のブロック図である。
【図10】第1実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す図である。
【図11】第4実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す図である。
【図12】第1実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す図である。
【図13】第4実施形態の超音波センサ製造工程の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1 光源
2 分光器
3 分光器
4 光センサ
5 制御器
10 超音波センサ
11 メンブレン
12 振動膜支持部
13 基板
14 共振器支持部
15 光共振器
15a 第1の光共振器
15b 第2の光共振器
16 導波路
16a 第1の導波路
16b 第2の導波路
17 キャビティ
18a,b 導波路支持部
18c 導波路クラッド層
30 超音波センサアレイ
90 超音波探触子
92 受信回路系
93 送信回路系
94 断層信号処理系
95 変位信号処理系
96 画像処理系
97 システム制御部
98 画像表示部
99 超音波送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波センサであって、
該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、
光を伝播させるための導波路と、
該導波路を伝播した光が結合しうる光結合部とを備え、
前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変化する、前記導波路と前記光結合部との光結合係数に応じた光信号を出力することを特徴とする音波センサ。
【請求項2】
前記光結合部が、光共振器であることを特徴とする請求項1に記載の音波センサ。
【請求項3】
前記音波受信部と前記結合部とが連結しており、前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって、前記結合部が変位することを特徴とする請求項1又は2に記載の音波センサ。
【請求項4】
前記音波受信部と前記導波路とが連結しており、前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって、前記導波路が変位することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波センサ。
【請求項5】
音波センサであって、
該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、
光を伝播させるための第1の導波路と、
該第1の導波路を伝播した光が結合しうる光結合部と、
該光結合部から結合した光が伝播する第2の導波路とを備え、
前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変位する、前記第1の導波路と前記光結合部との光結合係数、あるいは前記第2の導波路と前記光結合部との光結合係数の少なくとも一方に応じた光信号を出力することを特徴とする音波センサ。
【請求項6】
音波センサであって、
該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、
光を伝播させるための第1の導波路と、
該第1の導波路から結合した光が伝播する第2の導波路とを備え、
前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変化する、前記第1の導波路と前記第2の導波路との光結合係数に応じた光信号を出力することを特徴とする音波センサ。
【請求項7】
音波センサであって、
該音波によって変位する可動部を含み構成される音波受信部と、
光を伝播させるための第1の導波路と、
該第1の導波路を伝播した光が結合しうる第1の光共振器と、
前記音波受信部と連結した第2の光共振器とを備え、
前記音波受信部が音波を受信することにより生じる前記音波受信部の変位によって変化する、前記第1の光共振器と前記第2の光共振器との相対距離に応じた光信号を出力することを特徴とする音波センサ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の音波センサを複数配列した音波センサアレイ。
【請求項9】
超音波を送信するための信号をうけて超音波を発する超音波送信部と、請求項8に記載の音波センサアレイにより構成される超音波探触子と、
前記音波センサアレイにより受信した超音波を画像に変換するための画像処理部を有する超音波撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−53031(P2009−53031A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219925(P2007−219925)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】