説明

音源探査方法および装置

【課題】物体からその表面に流れる流体により発生する騒音の位置を高精度で検出することができるようにする。
【解決手段】音源探査装置は回転羽根車10を回転駆動させて気流を発生させた状態のもとで回転羽根車10から発生する騒音源の位置を検出する。回転羽根車10に向けて流れる気流には粒子が供給され、回転羽根車10の回転方向の位置はフォトセンサ14により検出される。フォトセンサ14からの信号により回転羽根車10の被測定部位Aにレーザ光を照射すると同時に被測定部位Aの対をなす画像を時間差を持ってCCDカメラ17により撮影し、被測定部位Aからの音圧をマイクロフォン18により測定する。撮影された画像に基づいて粒子画像流速測定法により流体速度ベクトルを演算し、このデータと音圧データとに基づいて音圧と流体速度の相互相関計算により音源分布マップを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転送風機や圧縮機における回転羽根車のように空気等の流体が流れる物体に起因した騒音発生源の位置を検出する音源探査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的エネルギーを空気等の流体のエネルギーに変換する流体圧機器としては、送風機、圧縮機および真空ポンプなどがあり、送風機には吐出圧力と吸込圧力との比である圧力比が1.1未満のファンと、圧力比が1.1以上2未満のブロワとがあり、圧縮機は圧力比を2.2以上に空気やガスを加圧する流体圧機器である。これらの流体圧機器はモータにより回転駆動されてモータからの機械的エネルギーを流体のエネルギーに変換するために、ファンブレードなどの回転羽根車つまり回転翼を有している。
【0003】
流体圧機器の作動時には回転羽根車から騒音が発生することになるので、静粛性に優れた流体圧機器を設計するためには、回転羽根車のどの位置から騒音が発生しているかを検出することが必要となっている。回転羽根車などの物体の表面または表面から離間した周辺の空気による騒音源の位置を検出するために音響ホログラフィ法や音響インテンシティ法などが用いられているが、これらの音響ホログラフィ法および音響インテンシティ法は、被測定物が高速で移動や回転しているような場合には、騒音源を正確に検出することは困難であった。
【0004】
特許文献1には、騒音発生源から2つのマイクロフォンに到達する時間差から騒音発生源までの距離を求めることにより音源を探査するようにした技術が記載されている。
【特許文献1】特開2002−333367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この技術では風洞を用いて風速分布がない状態のもとで測定する必要があり、二次元翼の解析に限られて、回転羽根車のように羽根車の径方向内周部と外周部とで風速分布に差のある物体の解析を行うことが困難である。また、従来の回転翼の解析方法には、X−Yの2軸の測定面にマイクロフォンを多数並べることにより二次元座標の音圧を測定する方法があるが、この方法ではマイクロフォンの組立体が大型になったり、また、無指向性マイクロフォンを用いた場合は周辺の音も検知してしまい、音源の探査精度に限度がある。更に、マイクロフォンのみによる音源探査方法では、測定できるのはあくまでも音圧であり、例えば音源位置で起きている流れ現象を捉えることはできない欠点もある。
【0006】
本発明の目的は、物体からその表面または表面から離間した周辺の空間に流れる流体により発生する騒音の位置を高精度で検出することができるようにすることにある。
【0007】
本発明の目的は、回転羽根車からその表面または表面から離間した周辺の空間に流れる流体により発生する騒音の位置と流れ構造を高精度で検出することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の音源探査方法は、回転羽根車を回転駆動させて気流を発生させた状態のもとで前記回転羽根車から発生する騒音源の位置を検出する音源探査方法であって、前記回転羽根車の周辺に粒子発生機から可視化粒子を供給して前記回転羽根車の周辺を可視化粒子で充満させ、前記回転羽根車の位置を検出する位置検出手段からの信号に基づいて前記回転羽根車の被測定部位に光源からの光を照射するとともに光の照射に同期させて前記被測定部位の少なくとも2つで一対をなす画像を時間差を持って撮影手段により複数回撮影し、前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧をマイクロフォンにより測定し、前記撮影手段により撮影された画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算し、前記マイクロフォンにより測定された音圧と前記流体速度ベクトルとのデータに基づいて音圧と気流速度の相互相関計算により音源分布マップを演算し、前記音源分布マップを音源分布マップ出力部に出力することを特徴とする。
【0009】
本発明の音源探査方法は、被測定物に流体を流した状態のもとで前記被測定物から発生する騒音源の位置を検出する音源探査方法であって、前記被測定物に向けて流される流体中に可視化粒子を供給して前記被測定物を前記可視化粒子で充満させ、前記被測定物に光源から照射される被測定部位の少なくとも2つで一対をなす画像を撮影手段により複数回撮影し、前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧をマイクロフォンにより測定し、前記撮影手段により撮り込まれた画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算し、前記マイクロフォンにより測定された音圧と前記流体速度ベクトルとのデータに基づいて音圧と気流速度の相互相関計算により音源分布マップを演算し、前記音源分布マップを音源分布マップ出力部に出力することを特徴とする。
【0010】
本発明の音源探査装置は、回転羽根車を回転駆動させて気流を発生させた状態のもとで前記回転羽根車から発生する騒音源の位置を検出する音源探査装置であって、前記回転羽根車の周辺に可視化粒子を供給して前記回転羽根車の周辺を可視化粒子で充満させる粒子発生機と、前記回転羽根車の位置を検出する位置検出手段と、前記位置検出手段からの信号に基づいて前記回転羽根車の被測定部位に光を照射する光源と、光の照射に同期させて前記被測定部位の少なくとも2つで1対をなす画像を時間差を持って複数回撮影する撮影手段と、前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧を測定するマイクロフォンと、前記撮影手段により撮影された画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算する流体速度ベクトル演算部と、前記マイクロフォンにより測定された音圧と前記流体速度ベクトルとのデータに基づいて音圧と流体速度の相互相関計算により音源分布マップを演算するマップ演算部と、前記音源分布マップを出力する音源分布マップ出力部とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の音源探査装置は、被測定物に流体を流した状態のもとで前記被測定物から発生する騒音源の位置を検出する音源探査装置であって、前記被測定物に向けて流される流体中に可視化粒子を供給して前記被測定物を前記可視化粒子で充満させる粒子発生機と、前記被測定物の特定の被測定部位に光を照射する光源と、光の照射に同期させて前記被測定部位の少なくとも2つで一対をなす画像を時間差を持って複数回撮影する撮影手段と、前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧を測定するマイクロフォンと、前記撮影手段により撮影された画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算する流体速度ベクトル演算部と、前記マイクロフォンにより測定された音圧データと前記流体速度ベクトルとに基づいて音圧と流体速度の相互相関計算により音源分布マップを演算するマップ演算部と、前記音源分布マップを音源分布マップ出力部に出力する音源分布マップ出力部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
被測定部位を撮影した画像に基づいてPIV法つまり粒子画像流速測定法により流体速度ベクトルを演算し、撮影時の被測定部位からの音圧のデータと流体速度ベクトルのデータとに基づいて相互相関計算により音源分布マップを演算するようにしたので、音源分布マップにより被測定部位における騒音源の位置を高い精度で検出することができるとともに騒音源における流体の流れ現象や騒音発生メカニズムを判定することができる。
【0013】
被測定物としては、その周囲に流体が流れるものであれば、固定物体とすることもでき、ファンブレードなどの回転羽根車とすることもできる。回転羽根車を被測定物とするときには、所定の回転毎に被測定部位の画像を撮影するとともに撮影時の被測定部位からの音圧を測定することにより、経時的変化による音源分布マップにより騒音源の位置を高い精度で検出することができる。
【0014】
水などの液体中に配置された被測定物に沿って流れる液体に起因した騒音源の位置を探査する場合には、画像撮影時の音圧を測定するためには、水中マイクロフォンなどを使用することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の一実施の形態である音源探査装置を示す概略斜視図であり、図2は図1の音源探査装置の制御回路を示すブロック図である。
【0016】
被測定物は送風機に使用されるファンブレードつまり回転羽根車10であり、この回転羽根車10は測定室内に配置されたサーボモータ11の主軸12に取り付けられて回転駆動されるようになっている。回転羽根車10はサーボモータ11により矢印Rで示す方向に回転駆動され、矢印Bで示す方向に空気流を発生させる。回転羽根車10の回転方向の位置を検出するために、回転羽根車10には反射フィルム13が貼り付けられ、この反射フィルム13に向けて光を照射する発光素子と、反射フィルム13からの反射光を受光する受光素子とが設けられたフォトセンサ14が回転羽根車10に対向して配置されており、フォトセンサ14の受光素子が反射フィルム13からの反射光を受光することにより回転羽根車10における各部位の回転方向の位置が検出される。
【0017】
測定室内には可視化粒子発生機としての煙発生機15から煙が供給されるようになっており、この煙発生機15により生成された煙の微小粒子Pは、平均粒子径が1μmの煙粒子であって、矢印Sで示すように回転羽根車10に向かう気流に供給され、回転羽根車10の周辺や近傍でほぼ均一に満遍なく満たされる。
【0018】
回転羽根車10の被測定部位Aに向けてレーザ光を照射するために被測定部位Aに対向させてレーザ発光装置16が光源として配置されている。このレーザ発光装置16としては、イットリウムアルミニウムガーネットを母体とし、Ndイオンを活性触媒とするYAGレーザが用いられており、レーザ発光装置16は2つのレーザ光発生ヘッド部を有し、相互に例えば5μS(秒)の時間差を持ってレーザ光を被測定部位Aに向けて照射する。レーザ発光装置16からレーザ光が照射されたときにおける被測定部位Aの画像を撮り込むために被測定部位Aに対向して撮影手段としてのCCDカメラ17が配置されている。
【0019】
被測定部位Aからの音圧を検出するために被測定部位Aに対向してマイクロフォン18が配置されている。このマイクロフォン18は風圧の影響を受けないように、回転羽根車10の負圧側に回転羽根車10から25〜50mmの距離に配置されている。
【0020】
マイクロフォン18は音源と思われる被測定部位Aの位置を定めるためにも使用することができる。被測定部位Aの位置を定めるには、3軸方向に移動するテーブルにマイクロフォン18を装着し、回転羽根車10を例えば2000rpmで回転させてマイクロフォン18からの信号により音圧を計算する。音圧Pa(パスカル)は、以下の式(1)により算出される。
【0021】
【数1】

ただし、Nは測定点数であり、Xiはマイク電圧値、xバーはマイク電圧平均値であり、Cは電圧値から音圧パスカルへの変換係数である。
【0022】
マイクロフォン18により多数の部位からの音圧を測定することによって、音圧が最も大きい部位を大まかに被測定領域つまり被測定部位Aとして設定することができる。
【0023】
図2に示すように、フォトセンサ14からの出力信号はパルスジェネレータ19に送られるようになっており、回転羽根車10の回転に伴ってフォトセンサ14の前方を反射フィルム13が通過すると、フォトセンサ14からの検出信号がパルスジェネレータ19に送られる。パルスジェネレータ19からはレーザ発光装置16とCCDカメラ17とにトリガー信号が送られるとともに、マイクロフォン18からのアナログ信号をデジタル信号に変換するためのA/Dコンバータ20にもトリガー信号が送られる。被測定部位Aがレーザ発光装置16に対向する位置となったときには、トリガー信号に基づいて、レーザ発光装置16に設けられた2つのレーザ光発生ヘッド部から5μSの時間差を持ってレーザ光が被測定部位Aに向けて照射され、この時間差における2つの画像を一対とした被測定部位Aの画像がCCDカメラ17に撮り込まれる。
【0024】
サーボモータ11、レーザ発光装置16、CCDカメラ17およびマイクロフォン18にはそれぞれ図示しない駆動制御部から電力が供給されるようになっており、パルスジェネレータ19からの信号によりレーザ発光装置16とCCDカメラ17とA/Dコンバータ20の作動が制御される。サーボモータ11には回転数を制御するためのパルス信号を発生するエンコーダが設けられており、ここからの信号がコントローラ21に送られてサーボモータ11の回転数は精密に制御される。コントローラ21は、制御信号を演算するマイクロプロセッサCPUと、制御プログラム、演算式、データ等が格納されるメモリであるROMと、一時的にデータを格納するメモリであるRAMとを有するとともに、信号の入出力ポート等を有している。
【0025】
コントローラ21にはCCDカメラ17による撮影信号とA/Dコンバータ20を介してデジタル信号化されたマイクロフォン18による測定信号とが送られるようになっており、それぞれのデータがコントローラ21内のデータ記録部に格納されるようになっている。
【0026】
図3はフォトセンサ14からの信号に基づくCCDカメラ17とマイクロフォン18の作動タイミングを示すタイムチャートである。図3に示すように、フォトセンサ14が反射フィルム13を検出してから遅れ時間T1が経過したらパルスジェネレータ19は第1回目のパルス信号を出力し、第1回目のパルス信号が出力した後に5μmが経過したら第2回目のパルス信号を出力する。これらのパルス信号に基づいてレーザ発光装置16に組み込まれた2つのレーザ発生ヘッド部からは5μmの時間差でレーザ光が照射され、CCDカメラ17にはこの時間差における2つの画像A1,A2を取り込み、それぞれの画像データはコントローラ21内のRAM等のメモリに格納される。
【0027】
フォトセンサ14がオンすると、A/Dコンバータ20に作動信号が送られて所定のT2時間にわたりマイクロフォン18により測定されたアナログ信号の音圧データをA/Dコンバータ20でデジタル信号に変換し、コントローラ21のメモリに格納する。T2時間は例えば626μSに設定されており、カメラ撮影時における被測定部位Aからの音圧が測定される。ただし、この時間T2は5〜2000μSの間の任意の時間に設定することができる。マイクロフォン18は回転羽根車10に対して上述したように所定の距離だけ離れて配置されているので、回転羽根車10からマイクロフォン18に騒音が到達するまでにはT3時間がかかり、CCDカメラ17により測定されたときの画像から発生した騒音はT3時間後の音圧に対応する。マイクロフォン18を被測定部位Aから30mm離すと、この遅れ時間T3は87μSとなる。
【0028】
回転羽根車10はサーボモータ11により回転駆動されており、フォトセンサ14からの信号により被測定部位Aがレーザ光照射位置となる毎に対をなす画像を取り込むとともにマイクロフォン18により音圧を測定する。例えば、回転羽根車10を2000rpmの速度で回転させた場合には、フォトセンサ14からの信号により被測定部位Aがレーザ光照射位置となる毎に対をなす画像を撮り込んでから、約0.2S経過直後のフォトセンサ14からの信号により被測定部位Aがレーザ光照射位置となる毎に対をなす画像を撮り込む動作を繰り返し、複数回、例えば合計1500個の画像を撮影してそのデータをメモリに格納する。それぞれの画像撮影時における1500個の音圧データも同様にしてメモリに格納される。
【0029】
メモリに格納された対をなす2つの画像A1,A2のデータに基づいて、PIV(Particle Image Velocimetry)つまり粒子画像流速測定法により被測定部位Aにおける流体速度ベクトルがコントローラ21における流体速度ベクトル演算部により演算される。流体速度ベクトルは対をなす2画像からu(軸方向)とv(半径方向)の二次元方向のベクトルについて演算される。
【0030】
この粒子画像流速測定法は、空気や水などの流体についての公知の速度計測法であり、流体と同じ速度で運動する微小粒子つまり可視化粒子を流れの中に混入し、その粒子の速度を画像計測法の手法で測定することにより流体自体の速度と方向の分布つまり流体速度ベクトルを求めることができる。粒子画像流速測定法には、二次元PIV法と三次元PIV法とがあり、二次元PIV法には、時間差撮影された2枚の粒子画像から測定点を中心とする画像を切り出して、粒子の平均移動量を流れの速度とする相互相関PIV法等がある。
【0031】
図1に示す音源探査装置においては、2つの画像A1,A2のデータに基づいてPIV法により二次元の流体速度ベクトルを演算するようにしているが、CCDカメラ17を2台用いることにより円周方向を含めた三次元の流体速度ベクトルを演算することができる。これが三次元PIV法である。
【0032】
上述のように1500個の画像に基づいてメモリ内に格納された流体速度ベクトルのデータとそれぞれの撮影時の音圧のデータとに基づいてコントローラ21のマップ演算部において、音圧と流体速度の相互相関計算を行って音源分布マップを演算する。軸方向の相互相関計算(Rup)は以下の式(2)により行われ、半径方向の相互相関計算(Rvp)は以下の式(3)により行われる。
【0033】
【数2】

【0034】
【数3】


式(2)(3)において、uiは任意軸方向速度、uバーは軸方向の平均速度、piは任意の音圧、pバーは音圧の平均、Vtは翼先端速度、viは任意半径方向速度、vバーは半径方向速度の平均をそれぞれ示し、u′は軸方向速度変動、v′は半径方向の速度変動、p′は音圧変動、Vtは翼先端周速度をそれぞれ示す。prmsは音圧の直流成分を除いた実行値を示し、式(1)により算出される。
【0035】
このようにして得られた音源分布マップは、被測定部位Aにおいて流体速度つまり気流速度と音圧との相関性の高低分布を示す画像であり、コントローラ21から音源分布マップ出力部22に取り出される。音源分布マップ出力部22としては、音源分布マップを画面に表示するディスプレイ、音源分布マップを印刷するプリンタ、または音源分布マップのデータを格納するCDR等の記憶媒体があり、音源分布マップに示された流体流速と音圧との相関性の高低分布に基づいて作業者が音源の位置を判定することができる。
【0036】
このような音源分布マップを回転翼つまり回転羽根車10の複数の部位について求めると、回転羽根車10についての騒音発生状態と発生メカニズムを高精度に判定することができる。
【0037】
上述した音源探査装置によって音源を探査する手順について説明すると、暗室などのように外部から光が入り込まないようにした測定室において、回転羽根車10の音源と推測される複数の位置に対向させてマイクロフォン18を用いて回転羽根車10から発生する騒音を測定する。そのときには、フォトセンサ14からの基準位置信号により所定時間、例えば626μSにわたりサンプリングしてコントローラ21において音圧を計算する。このようにして最も音圧レベルの高い領域を調べてその部位を測定すべき特定の被測定部位Aと設定する。音圧は上記式(1)により算出される。
【0038】
次いで、被測定部位Aに向けてレーザ光が到達するようにレーザ発光装置16を配置するとともに被測定部位Aに向けてCCDカメラ17を配置し、回転羽根車10を回転させるとともに煙発生機15から回転羽根車10により生成される気流に向けて可視化微粒子である煙を供給して測定室内に煙を充満させる。この状態のもとで、レーザ発光装置16に設けられた2つのレーザ光発光ヘッド部から5μSの時間差でレーザ光を被測定部位Aに向けて照射し、その画像をCCDカメラ17により撮影し、その撮影に同期させて撮影時における被測定部位Aからの音圧をマイクロフォン18により測定する。
【0039】
回転羽根車10は例えば2000rpmの速度で回転し、約0.2S毎に被測定部位Aの画像をCCDカメラ17により撮影するとともに撮影に同期させて撮影時の音圧を測定する。約0.2S毎にレーザ光を照射するようにしたのは、一度の照射から次の照射までのレーザ発光装置16の充電時間に0.2S程度が必要のためである。このようにして、例えば1500回の画像撮影とそれぞれの画像撮影時の被測定部位Aからの音圧の測定とを行った。
【0040】
CCDカメラ17により撮り込まれた一対の画像に基づいてコントローラ21の流体速度ベクトル演算部において粒子画像流速測定法により流体速度ベクトルu,vを演算するとともに、コントローラ21の音圧演算部においてマイクロフォン18により測定された騒音ノイズに基づいて音圧を演算する。これらの演算を全て撮り込まれた画像と測定された音圧とについて行う。次いで、これらの流体速度ベクトルのデータと音圧のデータとに基づいて上述した相互相関計算により音源分布マップを作成する。
【0041】
図4(A)は粒子画像流速測定法により得られた速度分布の一例を示す速度分布図であり、図4(B)は流体速度ベクトルのデータと音圧のデータとに基づいて相互相関計算により得られた音源分布マップの一例を示すマップ図である。図4(A)において、濃淡の濃い部分は流体の速度が高いことを示している。この速度分布図には流体の速度をも矢印で表示することができるが、図4(A)においては矢印の標記は省略されている。図4(B)において、濃度の濃い部分は、流体速度と音圧との相関性が高いことを示しており、相関性の高さから、濃度が濃い領域は音源であることを示す。音源の判定は、音源分布マップをディスプレイに表示したり、プリンタにより印字することにより行うことができる。このように、マイクロフォン18により測定される音圧と、PIV法による微粒子の流れを測定した物体表面に沿う流体の速度ベクトルとに基づいてこれらの相互相関計算により音源の位置を判定することができるので、騒音源の位置を高い精度で検出することができる。しかも、音源の流れ現象や発生メカニズムを判定することができる。
【0042】
コントローラ21のマイクロプロセッサは、上述した流体速度ベクトル演算部、音圧演算部およびマップ演算部等の機能部を有しており、それぞれはコントローラ21に送られたデータに基づいてROMに格納された演算式により演算される。図2に示したコントローラ21は、送り込まれた流体速度ベクトルのデータと音圧のデータとを格納する記録部と、それぞれのデータに基づいて演算する機能を有しているが、サーボモータ11、レーザ発光装置16、CCDカメラ17およびマイクロフォン18に対する駆動信号をも供給する機能をコントローラ21に備えるようにしても良い。
【0043】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した実施の形態においては回転羽根車10からの音源位置を検出するようにしているが、回転することなく、固定された状態のものを被測定物としてその表面から発生する音源の位置を検出するようにしても良い。また、図示する実施の形態においては、被測定物に流れる気流に起因した音源の位置を検出するようにしているが、液体の中に配置される物体を被測定物としてそこから発生する音源の位置を検出するようにしても良い。
【0044】
また、式(2)(3)の音圧の項については、マイクロフォンによる音圧以外に、音響粒子速度も含めても良い。流体速度の項(u,v)については、通常の速度(m/s)だけでなく、乱流境界層から発生する二重極子音(壁面圧力変動)や四重極子音(気流乱れ)などとする場合も入れることができる。
【0045】
例えば、二重極子音uIdおよび四重極子音uIqは以下の各式であらわされる。これらの式において、ρは密度、rは音源からの距離、aは音速、Lは音源の代表長さ、uは流体速度を示す。
【0046】
さらに、流体速度の項は、流体速度から求めた渦度ω、歪み速度eij、レイノルズ応力τ、乱流強度qを求めるようにしても良い。
【0047】
【数4】


【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施の形態である音源探査装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1の音源探査装置の制御回路を示すブロック図である。
【図3】フォトセンサからの信号に基づくCCDカメラとマイクロフォンの作動タイミングを示すタイムチャートである。
【図4】(A)は粒子画像流速測定法により得られた速度分布の一例を示す速度分布図であり、(B)は流体速度ベクトルのデータと音圧のデータとに基づいて相互相関計算により得られた音源分布マップの一例を示すマップ図である。
【符号の説明】
【0049】
10 回転羽根車(被測定物)
11 サーボモータ
13 反射フィルム
14 フォトセンサ
15 煙発生機(粒子発生機)
16 レーザ発光装置(光源)
17 CCDカメラ(撮影手段)
18 マイクロフォン
19 パルスジェネレータ
20 A/Dコンバータ
21 コントローラ
22 音源分布マップ出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転羽根車を回転駆動させて気流を発生させた状態のもとで前記回転羽根車から発生する騒音源の位置を検出する音源探査方法であって、
前記回転羽根車の周辺に粒子発生機から可視化粒子を供給して前記回転羽根車の周辺を可視化粒子で充満させ、
前記回転羽根車の位置を検出する位置検出手段からの信号に基づいて前記回転羽根車の被測定部位に光源からの光を照射するとともに光の照射に同期させて前記被測定部位の少なくとも2つで一対をなす画像を時間差を持って撮影手段により複数回撮影し、
前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧をマイクロフォンにより測定し、
前記撮影手段により撮影された画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算し、
前記マイクロフォンにより測定された音圧と前記流体速度ベクトルとのデータに基づいて音圧と気流速度の相互相関計算により音源分布マップを演算し、
前記音源分布マップを音源分布マップ出力部に出力することを特徴とする音源探査方法。
【請求項2】
被測定物に流体を流した状態のもとで前記被測定物から発生する騒音源の位置を検出する音源探査方法であって、
前記被測定物に向けて流される流体中に可視化粒子を供給して前記被測定物を前記可視化粒子で充満させ、
前記被測定物に光源から照射される被測定部位の少なくとも2つで一対をなす画像を撮影手段により複数回撮影し、
前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧をマイクロフォンにより測定し、
前記撮影手段により撮り込まれた画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算し、
前記マイクロフォンにより測定された音圧と前記流体速度ベクトルとのデータに基づいて音圧と気流速度の相互相関計算により音源分布マップを演算し、
前記音源分布マップを音源分布マップ出力部に出力することを特徴とする音源探査方法。
【請求項3】
回転羽根車を回転駆動させて気流を発生させた状態のもとで前記回転羽根車から発生する騒音源の位置を検出する音源探査装置であって、
前記回転羽根車の周辺に可視化粒子を供給して前記回転羽根車の周辺を可視化粒子で充満させる粒子発生機と、
前記回転羽根車の位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段からの信号に基づいて前記回転羽根車の被測定部位に光を照射する光源と、
光の照射に同期させて前記被測定部位の少なくとも2つで1対をなす画像を時間差を持って複数回撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧を測定するマイクロフォンと、
前記撮影手段により撮影された画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算する流体速度ベクトル演算部と、
前記マイクロフォンにより測定された音圧と前記流体速度ベクトルとのデータに基づいて音圧と流体速度の相互相関計算により音源分布マップを演算するマップ演算部と、
前記音源分布マップを出力する音源分布マップ出力部とを有することを特徴とする音源探査装置。
【請求項4】
被測定物に流体を流した状態のもとで前記被測定物から発生する騒音源の位置を検出する音源探査装置であって、
前記被測定物に向けて流される流体中に可視化粒子を供給して前記被測定物を前記可視化粒子で充満させる粒子発生機と、
前記被測定物の特定の被測定部位に光を照射する光源と、
光の照射に同期させて前記被測定部位の少なくとも2つで一対をなす画像を時間差を持って複数回撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によるそれぞれの撮影時における前記被測定部位からの音圧を測定するマイクロフォンと、
前記撮影手段により撮影された画像に基づいて粒子画像流速測定法などにより流体速度ベクトルを演算する流体速度ベクトル演算部と、
前記マイクロフォンにより測定された音圧データと前記流体速度ベクトルとに基づいて音圧と流体速度の相互相関計算により音源分布マップを演算するマップ演算部と、
前記音源分布マップを音源分布マップ出力部に出力する音源分布マップ出力部とを有することを特徴とする音源探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−64692(P2008−64692A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244697(P2006−244697)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】