説明

音源方向推定装置

【課題】集音部の位置変化にかかわらず、音源の方向を高精度に推定することができる音源方向推定装置を提供する。
【解決手段】音源方向推定装置1は、音源からの音を受ける複数のマイクロホン2と、各マイクロホン2の移動速度を検出する速度センサ4と、ECU5とを備えている。ECU5は、マイクロホン2Aで受けた音波信号の位相を計算する位相計算部6Aと、移動速度に基づいて、位相計算部6Aにより位相を求めてから各マイクロホン2の位置が変化した時にマイクロホン2Aで受けた音波信号の位相を算出する遅延位相算出部7Aと、遅延位相算出部7Aにより得られた位相と位相計算部6Aにより得られた位相との差(位相差)を算出する位相差算出部8Aと、位相差算出部8Aにより得られた位相差と移動速度とを用いて、音源の方向を算出する音源方向算出部9Aとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源(例えば走行音を発する車両等)の方向を推定する音源方向推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の音源方向推定装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、接近車両の発する音波が自車両に搭載された2つのマイクロホン(集音部)に到達する時の信号到達時間差を計算し、その到達時間差から接近車両の到来方向を求めるようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−92767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、音波が2つのマイクロホンに到達する時の信号到達時間差は、マイクロホンの位置変化によって変わってくる。しかし、上記従来技術においては、マイクロホンの位置変化については全く考慮されていない。このため、自車両の移動によりマイクロホンの位置が変化したときは、音源の方向を正確に推定することができない。
【0005】
本発明の目的は、集音部の位置変化にかかわらず、音源の方向を高精度に推定することができる音源方向推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の音源方向推定装置は、音源からの音を受ける集音部と、集音部の位置変化を検出する位置変化検出手段と、位置変化検出手段により検出された集音部の位置変化に応じた、集音部で受けた音の位相差を算出する位相差算出手段と、位相差算出手段により算出された位相差と集音部の位置変化に関する情報とに基づいて、音源の方向を算出する音源方向算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
このような本発明の音源方向推定装置においては、音源からの音を受ける集音部の位置変化を検出し、この集音部の位置変化に応じた、集音部で受けた音の位相差を算出し、当該位相差と集音部の位置変化に関する情報とに基づいて、音源の方向を算出する。これにより、集音部の位置が変化しても、その位置変化による影響を排除し、音源の方向を精度良く推定することができる。
【0008】
好ましくは、位置変化検出手段は、集音部の移動速度を検出する手段を有し、音源方向算出手段は、音源の周波数をf、音速をc、集音部の移動速度をv、集音部の位置変化時間をΔt、位相差をΘ(Δt)−Θ(0)としたときに、集音部の移動方向と集音部に対する音源の方向とがなす角度θを、θ=cos−1[(c/v){(Θ(Δt)−Θ(0))/2πfΔt}−1]により算出する。この場合には、集音部で受けた音の位相差と集音部の位置変化に関する情報とに基づいて、音源の方向を簡単に且つ確実に算出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、集音部の位置変化にかかわらず、音源の方向を高精度に推定することができる。これにより、例えば自車両の走行時に他車両が接近してくる場合でも、他車両の到来方向を高精度に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係わる音源方向推定装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示したECUの機能ブロックを示す図である。
【図3】マイクロホンアレーの位置変化を示す概念図である。
【図4】マイクロホンの配列方向とマイクロホンアレーの移動方向と音源方向との関係を示す概念図である。
【図5】図2に示したECUの変形例の機能ブロックを示す図である。
【図6】図2に示したECUの他の変形例の機能ブロックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係わる音源方向推定装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明に係わる音源方向推定装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の音源方向推定装置1は、車両に搭載され、走行音を発する接近車両の到来方向を推定する装置である。
【0013】
図1において、音源方向推定装置1は、接近車両の走行音を受けて電気信号に変換する複数のマイクロホン2(図2等参照)からなるマイクロホンアレー(集音部)3と、自車両の車速を検出する速度センサ4と、マイクロホンアレー3及び速度センサ4と接続されたECU(Electronic Control Unit)5とを備えている。各マイクロホン2は、自車両の幅方向に一定間隔dで並ぶように設置されている(図4参照)。なお、各マイクロホン2の配列方向としては、必ずしも自車両の幅方向でなくても良い。また、各マイクロホン2は一定間隔で配列されていなくても良く、各マイクロホン2の間隔が分かっていれば良い。
【0014】
ECU5は、CPU、ROMやRAM等のメモリ、入出力回路等により構成されている。ECU5は、図2に示すように、位相計算部6A,6Bと、遅延位相算出部7A,7Bと、位相差算出部8A,8Bと、音源方向算出部9A,9Bと、到達時間差算出部10と、音源方向算出部11と、音源方向補正部12とを有している。
【0015】
位相計算部6Aは、隣接するマイクロホン2のうちの一方(マイクロホン2Aとする)の出力信号に対して高速フーリエ変換(FFT)等を行い、マイクロホン2Aで受けた音波信号の位相を計算する。
【0016】
遅延位相算出部7Aは、速度センサ4の検出値に基づいて、位相計算部6Aにより音波信号の位相を求めてからマイクロホンアレー3の位置が変化した時にマイクロホン2Aで受けた音波信号の位相を算出する。このとき、図3に示すように、自車両(マイクロホンアレー3)の移動速度をv、自車両(マイクロホンアレー3)の移動時間をΔtとすると、マイクロホンアレー3の移動距離はv・Δtとなる。
【0017】
位相差算出部8Aは、遅延位相算出部7Aにより得られた音波信号の位相と位相計算部6Aにより得られた音波信号の位相との変化量(位相差)を算出する。
【0018】
音源方向算出部9Aは、位相差算出部8Aにより得られた音波信号の位相差と速度センサ4の検出値とを用いて、音源(ここでは走行音を発する接近車両)の方向を算出する。このとき、音源方向算出部9Aは、図4に示すように、マイクロホン2の配列方向ベクトルと音源方向ベクトルとのなす角度をθ、マイクロホンアレー3の移動方向ベクトルと音源方向ベクトルとのなす角度をθとしたときに、これらの角度θ,θを算出する。
【0019】
具体的には、音源の周波数をf、音速をcとすると、マイクロホン2で受音した音波信号の位相Θ(t)は、下記式で表される。
Θ(t)=2πft+2πft{vcos(θ)/c} …(1)
【0020】
(1)式について、t=0の時にマイクロホン2で受音した音波信号の位相(初期位相)と、マイクロホンアレー3の移動により微小時間Δtだけ経過した時にマイクロホン2で受音した音波信号の位相との差(位相差)を求めると、
Θ(Δt)−Θ(0)=2πfΔt{1+vcos(θ)/c} …(2)
となる。
【0021】
(2)式をθについて解くと、
cosθ=(c/v){(Θ(Δt)−Θ(0))/2πfΔt}−1
θ=cos−1[(c/v){(Θ(Δt)−Θ(0))/2πfΔt}−1]
が得られる。
【0022】
このように2つの時刻での音波信号の位相差を求めることにより、音源方向と自車両(マイクロホンアレー3)の進行方向とがなす角度θが得られる。また、マイクロホンアレー3の進行方向と各マイクロホン2の配列方向とは直交するため、下記式により音源方向と各マイクロホン2の配列方向とがなす角度θが得られる。
θ+θ=π/2
θ=π/2−θ
【0023】
図2に戻り、位相計算部6Bは、隣接するマイクロホン2のうちの他方(マイクロホン2Bとする)の出力信号に対してFFTを行い、マイクロホン2Bで受けた音波信号の位相を計算する。
【0024】
遅延位相算出部7Bは、速度センサ4の検出値に基づいて、位相計算部6Aにより音波信号の位相を求めてからマイクロホンアレー3の位置が変化した時にマイクロホン2Bで受けた音波信号の位相を算出する。
【0025】
位相差算出部8Bは、遅延位相算出部7Bにより得られた音波信号の位相と位相計算部6Bにより得られた音波信号の位相との変化量(位相差)を算出する。
【0026】
音源方向算出部9Bは、位相差算出部8Bにより得られた音波信号の位相差と速度センサ4の検出値とを用いて、音源の方向を算出する。この時の算出方法は、上記の音源方向算出部9Aと同様である。
【0027】
到達時間差算出部10は、各マイクロホン2の空間的な位置ずれを利用して、音源からマイクロホン2Aへの音の到達時間と音源からマイクロホン2Bへの音の到達時間との差(到達時間差)を算出する。
【0028】
音源方向算出部11は、到達時間差算出部10により算出されたマイクロホン2A,2Bに対する到達時間差に基づいて、音源の方向を算出する。
【0029】
音源方向補正部12は、音源方向算出部9A,9B,11により算出された各音源方向に基づいて、最終的な音源の方向を求める。このとき、例えば音源方向算出部9A,9B,11により算出された各音源方向の平均値をとって最終的な音源の方向とする。これにより、雑音(騒音等)の影響による音源方向の算出結果のずれを補正することが可能となる。なお、音源方向の補正手法としては、特に平均値には限定はされない。そして、音源方向補正部12は、最終的に得られた音源の方向を画面表示や音声等により出力してドライバに呈示する。
【0030】
以上において、速度センサ4は、集音部3の位置変化を検出する位置変化検出手段を構成する。ECU5の位相計算部6A,6B、遅延位相算出部7A,7B及び位相差算出部8A,8Bは、位置変化検出手段により検出された集音部3の位置変化に応じた、集音部3で受けた音の位相差を算出する位相差算出手段を構成する。音源方向算出部9A,9Bは、位相差算出手段により算出された位相差と集音部3の位置変化に関する情報とに基づいて、音源の方向を算出する音源方向算出手段を構成する。
【0031】
以上のように本実施形態にあっては、マイクロホンアレー3の移動によって2つの時刻において同じマイクロホン2で受音した各音の位相差を算出し、当該位相差に基づいて音源の方向を算出するようにしたので、自車両の走行によりマイクロホンアレー3の位置が変化しても、その位置変化による影響を排除し、音源の方向を精度良く推定することができる。
【0032】
このとき、マイクロホン2Aで受音した各音の位相差に基づいて得られた音源方向と、マイクロホン2Bで受音した各音の位相差に基づいて得られた音源方向と、音源からマイクロホン2A,2Bへの音の到達時間差に基づいて得られた音源方向とに基づいて、最終的な音源の方向を求めるので、音源方向の推定精度をより向上させることができる。
【0033】
図5は、図2に示したECU5の変形例を示す機能ブロック図である。同図において、ECU5は、上記の到達時間差算出部10に代えて、位相差算出部20を有している。位相差算出部20は、位相計算部6Aにより得られた音波信号の位相と位相計算部6Bにより得られた音波信号の位相との変化量(位相差)を算出する。そして、音源方向算出部11は、位相差算出部20により算出された位相差に基づいて、音源の方向を算出する。その他の構成については、図2に示したものと同様である。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、複数のマイクロホン2からなるマイクロホンアレー3を使用したが、図6に示すように、使用するマイクロホン2は1つであっても良い。この場合には、上記の位相計算部6A,6B、遅延位相算出部7A,7B、位相差算出部8A,8B及び音源方向算出部9A,9Bに相当する位相計算部6、遅延位相算出部7、位相差算出部8及び音源方向算出部9をECU5に設けることにより、自車両の走行によりマイクロホン2の位置が変化しても、音源の方向を高精度に推定することができる。
【0035】
また、上記実施形態では、速度センサ4によりマイクロホン2の位置変化を検出するようにしたが、マイクロホン2の位置変化の検出に用いるセンサとしては、特に速度センサ4には限られず、加速度センサや位置センサ等としても良い。
【0036】
さらに、上記実施形態の音源方向推定装置1は、自動車等の車両に搭載されるものであるが、本発明は、車両以外の移動体にも適用可能である。この場合、移動体の種類等によっては、ECUを移動体の外部に設置しても良い。
【符号の説明】
【0037】
1…音源方向推定装置、2…マイクロホン(集音部)、3…マイクロホンアレー(集音部)、4…速度センサ(位置変化検出手段)、5…ECU、6A,6B,6…位相計算部(位相差算出手段)、7A,7B,7…遅延位相算出部(位相差算出手段)、8A,8B,8…位相差算出部(位相差算出手段)、9A,9B,9…音源方向算出部(音源方向算出手段)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの音を受ける集音部と、
前記集音部の位置変化を検出する位置変化検出手段と、
前記位置変化検出手段により検出された前記集音部の位置変化に応じた、前記集音部で受けた音の位相差を算出する位相差算出手段と、
前記位相差算出手段により算出された位相差と前記集音部の位置変化に関する情報とに基づいて、前記音源の方向を算出する音源方向算出手段とを備えることを特徴とする音源方向推定装置。
【請求項2】
前記位置変化検出手段は、前記集音部の移動速度を検出する手段を有し、
前記音源方向算出手段は、前記音源の周波数をf、音速をc、前記集音部の移動速度をv、前記集音部の位置変化時間をΔt、前記位相差をΘ(Δt)−Θ(0)としたときに、前記集音部の移動方向と前記集音部に対する前記音源の方向とがなす角度θを、
θ=cos−1[(c/v){(Θ(Δt)−Θ(0))/2πfΔt}−1]
により算出することを特徴とする請求項1記載の音源方向推定装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−252852(P2011−252852A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128207(P2010−128207)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】