説明

音響システム

【課題】アコースティック楽器の共鳴音を擬似的に発生するための音響システムにおいて、複数の振動板を用いることにより、アコースティック楽器の音により近い共鳴音を発生できるようにすることを目的とする。
【解決手段】響板26とアクチュエータ24からなる2つの音発生部22と、各響板26の板面同士がなす角度に応じて、各響板26上のアクチュエータ24に入力する楽音信号の位相を各々制御可能な位相制御部20とを備え、各楽音信号の位相を変化させることでこれらの響板26を各々最適な状態で振動させ、互いに効果的に共鳴させることができるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽音信号を元にアコースティック楽器の共鳴音を擬似的に発生するための音響システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、予め録音したアコースティック楽器の音を基礎として楽音信号を生成し、この楽音信号を複数のスピーカーから音響出力する方法が知られている。しかしながら、スピーカーは振動体の面積が小さく点音源であるため、複数のスピーカーを並べたとしても、振動体が順に広範囲に振動し互いに共鳴することにより音を発生させるアコースティック楽器のような共鳴音を発生することは不可能であった。
【0003】
そこで、上記問題を解決するために、電子楽器の筐体の1点にアクチュエータを取付け、このアクチュエータに楽音信号を入力して筐体の一部を振動板として振動させることにより、電子楽器にアコースティック楽器の振動板と同じ音響特性を付加し、アコースティック楽器に近似する音響出力を得るための電気音響変換器が提案されている。(例えば特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開平8−111896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の電気音響変換器では、電子楽器の筐体の一部を振動板として、この振動板を振動させているものの、振動するのは1枚の振動板のみであり、実際のアコースティック楽器において弦、振動板、ケース等が互いに振動し、共鳴して発する共鳴音を再現することは困難であった。また、筐体の一部を振動板として使用するため、振動板の位置、角度、形状等は一定であり、振動板を実際のアコースティック楽器と同様に配置するようなことはできなかった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、アコースティック楽器の共鳴音を擬似的に発生するための音響システムにおいて、複数の振動板を用いることにより、アコースティック楽器の音により近い共鳴音を発生できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
係る目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、少なくとも1つのアクチュエータが片面に取り付けられた振動板を複数備え、外部から入力された楽音信号で前記アクチュエータを駆動することにより、前記各振動板を振動させて、アコースティック楽器の共鳴音を擬似的に発生する音響システムであって、前記各振動板の板面同士がなす角度に応じて、前記各振動板のアクチュエータに入力される楽音信号の位相を制御するための位相制御部を備えたことを特徴とする。
【0007】
このように構成された本発明の音響システムにおいては、各振動板を自由な位置、角度で配置できると共に、各振動板の板面同士がなす角度に応じて、アクチュエータに入力する楽音信号の位相を制御することができる。このため、複数の振動板の振動を各振動板毎に制御し互いに最適な位相状態で振動させることにより、互いを共鳴させることで、より複雑な共鳴状態を作り出すことができ、アコースティック楽器の共鳴音に近付けることが可能となる。
【0008】
次に、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の音響システムにおいて、振動板が筐体の一面を構成していることを特徴とする。このようにすると、振動板の振動が筺内の空気に伝わり、この空気振動により、アコースティック楽器の楽器内部の空気振動を模擬でき、複雑な共鳴音を発生できる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の音響システムにおいて、複数の振動板として、アクチュエータの取付面が同方向を向くように配置された2つの振動板を備え、位相制御部は、各振動板のアクチュエータに入力される楽音信号が互いに同相になるように、各アクチュエータに入力される楽音信号の位相を制御することを特徴とする。
【0010】
このようにすると、アクチュエータの取付面が同方向を向くように配置された振動板に同位相の振動が伝達されるので、自由な位置に配置された2つの振動板により1つの振動板の振動状態を模擬することができ、単純に1つの振動板を振動させるよりも、互いを共鳴させることで、より広がりのある共鳴音を発生することができる。
【0011】
一方、請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の音響システムにおいて、複数の振動板として、アクチュエータの取付面が互いに向かい合うように互いに平行に配置された2つの振動板を備え、位相制御部は、各振動板のアクチュエータに入力される楽音信号が逆相になるように、各アクチュエータに入力される楽音信号の位相を制御することを特徴とする。
【0012】
このようにすると、アクチュエータの取付面が互いに向かい合うように互いに平行に配置された2つの振動板に逆位相の振動が伝達されるので、自由な位置に配置された2つの振動板により1つの振動板の振動状態を模擬することができ、単純に1つの振動板を振動させるよりも、互いを共鳴させることで、より広がりのある共鳴音を発生することができる。
【0013】
次に、請求項5に記載の発明は、請求項3又は請求項4に記載の音響システムにおいて、アクチュエータは振動板の一端側に取付けられており、2つの振動板はアクチュエータの位置が互いに逆方向になるように配置されることを特徴とする。
【0014】
このようにすると、アクチュエータの位置が逆方向となり、離れた2箇所から振動が発生するため音をステレオ的に出力することができ、より広がりのある共鳴音を発生することができる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項3〜請求項5の何れかに記載の音響システムにおいて、2つの振動板は面積が異なることを特徴とする。
このようにすると、周波数の低い低音を面積の大きい振動板で主に発生させ、周波数の高い高音を面積の小さい振動板で主に発生させることができるので、めりはりのある音にすることができ、また、より広い音域で音を発生することができる。
【0016】
ここで、本発明の音響システムの振動板は、金属製や、樹脂製であってもよいが、請求項7に記載のように、木製の響板よりなることが好ましい。このようにすれば、木製の響板を使用するアコースティックピアノのような共鳴状態を生成することができる。
【0017】
また、本発明の音響システムの振動板は、どこに配置されてもよいが、請求項8に記載のように、電子楽器の内部に配置されることが好ましい。このようにすれば、電子楽器内部に音響システムが収納されているので、この電子楽器を演奏すると、楽器が音を奏でる感覚を得ることができる。
【0018】
さらに、請求項9に記載の発明は、請求項3に記載の音響システムにおいて、この音響システムは、電子ピアノの楽音信号を元にピアノの共鳴音を擬似的に発生するものであり、振動板は木製の響板であると共に電子ピアノ内部に配置され、アクチュエータは振動板の一端側に取り付けられ、2つの振動板の内の1つである第1振動板は、アクチュエータの取付面が電子ピアノ内部を向き、アクチュエータが左側になるように電子ピアノの下前板の裏側に垂直に配置され、他の1つの振動板である第2振動板は、アクチュエータが右側になるように上前板の裏側に配置されていると共に、第1振動板よりも面積が小さいことを特徴とする。
【0019】
このようにすると、左方下部に配置された第1振動板上のアクチュエータから入力された低音の楽音信号が、面積の大きい第1振動板を振動させることにより、より広がりのある低音が発生され、上方右部に配置された第2振動板上のアクチュエータから入力された高音の楽音信号が、面積の小さい第2振動板を振動させることにより、より広がりのある高音が発生されると共に、各振動板は垂直に配置されているので、響板が垂直に配置され、鍵盤の左方で低音部、右方で高音部を奏でるアップライトピアノの共鳴状態を模擬することができる。
【0020】
一方、請求項10に記載の発明は、請求項4に記載の音響システムにおいて、この音響システムは、電子ピアノの楽音信号を元にピアノの共鳴音を擬似的に発生するものであり、振動板は木製の響板であると共に電子ピアノ内部に配置され、アクチュエータは振動板の一端側に取り付けられ、2つの振動板の内の1つである第1振動板は、第1振動板のアクチュエータの取付面が電子ピアノ内部を向き、アクチュエータが左側になるように電子ピアノの棚板の上部に水平に配置され、他の1つである第2振動板は、アクチュエータが右側になるように屋根の下部に配置されていると共に、第1振動板よりも面積が小さいことを特徴とする。
【0021】
このようにすると、左方下部に配置された第1振動板上のアクチュエータから入力された低音の楽音信号が、面積の大きい第1振動板を振動させることにより、より効果的に広低音を発生することができ、上方右部に配置された第2アクチュエータから入力された高音の楽音信号が、面積の小さい第2振動板で振動させることにより、より効果的に高音を発生することができると共に、各振動板は水平に配置されているので、響板が水平に配置され、鍵盤の左方で低音部、右方で高音部を奏でるグランドピアノの共鳴状態を模擬することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施例]
まず、本発明(詳しくは請求項10に記載の発明)の音響システムをグランドピアノ型の電子ピアノに適用した例を説明する。
【0023】
図1は、本実施例のグランドピアノ型の電子ピアノ40の斜視図、図2は本実施例のグランドピアノ型の電子ピアノ40の正面図、図3は本実施例の電子ピアノのケース内部に配置される音発生部22を示す構成図であり、図3(a)は分解図、図3(b)は三面図である。
【0024】
図1に示すように、本実施例の電子ピアノ40では、複数の鍵からなる鍵盤12を備えたグランドピアノ型のケース46の内部に、第1音発生部22a、第2音発生部22bの2つの音発生部22と、鍵盤12を構成する各鍵の押鍵、離鍵に応じて楽音信号を生成し、この楽音信号を音発生部22に出力する制御装置30(但し、図中制御装置は省略してある)とが搭載されている。
【0025】
そして、各音発生部22(詳しくは22a,22b)は、各々、図3(a)に示すように、矩形の響板26(26a,26b)と、響板26の長辺方向の一端側の1点にねじ止めされた(但し図中、ねじ止め部は省略してある)アクチュエータ24(24a,24b)と、一面が開口した直方体の木製の箱28(28a,28b)とから構成されており、箱28は開口面が響板26に合う大きさに形成されている。そして、図3(b)に示すように、響板26は、アクチュエータ24が箱の内側に収まるように箱28の開口面に取り付けられている。
【0026】
そして、上記のように構成された第1音発生部22aは、図1、図2に示すように、棚板44の上部に、第1響板26a(図1中網掛け部)が下方を向き、電子ピアノを正面から見たときに第1響板26aの長辺方向がケース46の幅方向となり、第1アクチュエータ24aが左側にくるように水平にケース46内に固定される。そして、第1響板26aの長辺は、第1音発生部22aがケース46に収まるようにケース46の幅よりも若干小さく形成されている。
【0027】
一方、第2音発生部22bは、屋根42の下部に、第2響板26b(図1中網掛け部)が上方を向き、電子ピアノを正面からみたときに第2響板26bの長辺方向がケース46の幅方向となり、第2アクチュエータ24bが右側にくるように水平に配置され、ケース46内に固定される。そして、第2響板26bの長辺は、第1響板26aの長辺とほぼ同じ長さに形成され、短辺は、第1響板の長さよりも短くなる(例えば1/3倍)ように形成されている。また、各音発生部22を構成する各箱28の奥行きの長さは、第1音発生部22aと、第2音発生部を上記のように配置したときに、ケース46に収まる長さに各々形成されている。
【0028】
尚、本実施例の第1響板26a、第2響板26bは、各々本発明の第1振動板、第2振動板に相当する。そして、本実施例において、アクチュエータ24は、磁気干渉作用により、例えば20Hz〜15000Hzの電気信号を機械振動に変換可能な、電気−機械振動変換器が採用されている。
【0029】
図4は、本実施例の電子ピアノの制御装置30を示す構成図である。
図4に示すように、本実施例の電子ピアノを制御する制御装置30は、CPU4と、適宜作業領域として使用されるRAM6と、制御用のプログラムが記憶されているROM8と、これらを接続するためのバス2と、からなるマイクロコンピュータを中心に構成されている。また、このバス2には、楽音信号を加工するためのDSP10と、楽音信号が記憶されている音源14と、デジタルの楽音信号をアナログの楽音信号に変換するD/A変換部16が接続されている。
【0030】
ここで、CPU4は、RAM6を作業領域として、ROM8に記憶されている制御プログラムを実行し、バス2に接続された鍵盤12を構成する各鍵の押鍵、離鍵に応じて、音源14から楽音信号を読み出すと共に、DSP10によりこの楽音信号を加工し、D/A変換部16に出力する。
【0031】
そして、D/A変換部16においてアナログ信号に変換された楽音信号は、増幅部18にて適当な大きさに増幅された後、位相制御部20に入力され、この位相制御部20を介して、各音発生部22のアクチュエータ24に入力される。そして、アクチュエータ24に入力された楽音信号は振動に変換され、この振動が響板26全体へ伝えられることにより音響出力される。
【0032】
図5は本実施例の電子ピアノの各位相制御部20による楽音信号の位相制御を示す説明図である。
各位相制御部20は入力された楽音信号の位相を制御することにより、各アクチュエータ24に入力される楽音信号の位相差を常に一定とするように制御している。そして、図5に示すように、第1位相制御部20aの移相量をα、第2位相制御部20bの移相量をβとするとβ=α+180°に設定されており、第1位相制御部20aと、第2位相制御部20bとは、楽音信号の位相差が常に180度となるように楽音信号の位相を制御して、夫々第1アクチュエータ24a、第2アクチュエータ24bに出力する。このため、第1アクチュエータ24a、第2アクチュエータ24bには位相が180度異なる逆位相の楽音信号が入力され、各アクチュエータ24から逆位相の振動が各響板26に伝えられる。
【0033】
以上、説明したように、本実施形態の電子ピアノにおいては、2つの音発生部22がグランドピアノ型の電子ピアノのケース46内に搭載されており、音発生部22を構成する第1響板26aと、第2響板26bが互いに対向する(板面同士のなす角度が180度)ように、第1響板26aが、第1アクチュエータ24aの取付面が電子ピアノ内部を向き、電子ピアノを正面から見たときに、第1アクチュエータ24aが左側になるように電子ピアノの棚板44の上部に水平に配置され、第2響板26bが、第2アクチュエータ24bが右側になるように屋根42の下部に配置されている。そして、各アクチュエータ24に入力される楽音信号は位相制御部20にて逆位相になるように制御されている。
【0034】
このため、これらの2つの互いに向かい合う響板26は逆位相で振動するので、1つの響板が振動している状態を模擬することができ、単純に1つの響板を振動させるよりも、互いを共鳴させて、より広がりのある音を発生することができると共に、各アクチュエータ24は互いに離れた位置にあるので、離れた2箇所から振動が発生し、音がステレオ的に出力される。
【0035】
そして、左方下部に配置された第1アクチュエータ24aから入力された低音の楽音信号が、面積の大きい第1響板26aを振動させることにより、第1音発生部22aにて、より効果的に広がりのある低音が発生され、上方右部に配置された第2アクチュエータ24bから入力された高音の楽音信号が、面積の小さい第2響板26bを振動させることにより、第2音発生部22bにて、より効果的に広がりのある高音が発生されるため、よりめりはりのある音とすることができる。
【0036】
また、各響板26は水平に配置されているので、響板が水平に配置され、鍵盤の左方で低音部、右方で高音部を奏でるグランドピアノの共鳴状態を模擬することができる。
一方、木製の響板26は、木製の箱28の一面を構成しているため、響板26の振動が箱内の空気に伝わり、この空気振動により、アコースティックピアノのピアノ内部の空気振動を模擬し、より複雑な共鳴音を発生することができる。
【0037】
そして、共鳴音がケース46内部から発生するので、電子ピアノの使用者は、楽器が音を奏でている感覚を得ることができる。
[第2実施例]
次に、本発明(詳しくは請求項9に記載の発明)の音響システムをアップライトピアノ型の電子ピアノに適用した例を説明する。
【0038】
図6は、本実施例のアップライトピアノ型の電子ピアノ50の斜視図、図7(a)は本実施例のアップライトピアノ型の電子ピアノ50の正面図、図7(b)は本実施例のアップライトピアノ型の電子ピアノ50の側面図、図8は本実施例の電子ピアノの位相制御部20による位相変化を示す説明図である。
【0039】
図6に示すように、本実施例の電子ピアノ50では、複数の鍵からなる鍵盤12を備えたアップライトピアノ型のケース56の内部に、第1実施例と同様に第1音発生部22a、第2音発生部22bの2つの音発生部22と、鍵盤12を構成する各鍵の押鍵、離鍵に応じて楽音信号を生成し、この楽音信号を音発生部22に出力する制御装置30(但し、図中制御装置は省略してある)とが搭載されている。
【0040】
そして、本実施例において、各音発生部22は第1実施例と同様に構成されており、第1音発生部22aは、図6、図7に示すように、下前板54の後方に第1響板26a(図6中網掛け部)が手前側に位置し、電子ピアノを正面から見たときに第1響板26aの長辺方向がケース56の幅方向となり、第1アクチュエータ24aが左側になるように下前板54の後方に垂直にケース56内に固定される。そして、第1響板26aの長辺は、第1音発生部22aがケース56に収まるようにケース56の幅よりも若干小さく形成されている。
【0041】
一方、第2音発生部22bは、上前板52の後方に第2響板26b(図6中網掛け部)が手前側に位置し、電子ピアノを正面から見たときに第2響板26bの長辺方向がケース56の幅方向となり、第2アクチュエータ24bが右側になるように垂直に配置され、且つ、第1響板26aと第2響板26bが同一面状となるようにケース56内に固定される。
【0042】
また、制御装置30は第1実施例と同様に構成されており、制御装置30を構成する位相制御部20は、入力された楽音信号の位相を制御することにより、アクチュエータ24に入力される楽音信号の位相差を常に一定とするように制御している。そして、本実施例においては、図8に示すように、第1位相制御部20aの移相量をα、第2位相制御部20bの移相量をβとするとβ=αに設定されており、第1位相制御部20aと、第2位相制御部20bとは、楽音信号の位相差が常に0度となるように楽音信号の位相を制御して、夫々第1アクチュエータ24a、第2アクチュエータ24bに出力する。このため、第1アクチュエータ24a、第2アクチュエータ24bには常に同位相の楽音信号が入力され、各アクチュエータ24から同位相の振動が各響板26に伝えられる。
【0043】
このように構成された、本実施例の電子ピアノにおいては、同方向を向き、同一面状に配置された2つの各響板26が同位相で振動するので、1つの響板の振動状態を模擬することができ、単純に1つの響板を振動させるよりも、互いを共鳴させて、より広がりのある音を発生することができる。
【0044】
また、各響板26は垂直に配置されているので、響板が垂直に配置され、鍵盤の左方で低音部、右方で高音部を奏でるアップライトピアノの共鳴状態を模擬することができる。
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0045】
本実施例では、2つの音発生部22の響板26が同方向を向く(響板26の板面同士がなす角度が0度)か、又は対向する(響板26の板面同士なす角度が180度)となるように配置し、アップライトピアノ型とグランドピアノ型の電子ピアノの例を別々に説明したが、電子ピアノのケース内部に音発生部22を回転させる機構を設け、各角度に応じて位相制御部20の移相量が切り替わるように構成してもよい。このようにすると、1つの電子ピアノでアップライトピアノとグランドピアノ両方の音感を得ることができる。
【0046】
さらに、響板26の板面同士のなす角度を0度、180度以外にも自由に変更可能な構成とし、位相制御部20の移相量が、響板26の板面同士のなす角度に応じてより細かく切り替わるように構成してもよい。また、位相制御部20の少なくとも1つを可変移相器とすることで、アクチュエータ24に出力される楽音信号の位相を、使用者がより細かく制御できるようにしてもよい。
【0047】
そして、本実施例では、第1音発生部22a、第2音発生部22bに入力する楽音信号は同じ信号としたが、例えば低音の楽音信号は第1音発生部22aに振幅の大きい楽音信号を入力し、第2音発生部22bには振幅の小さい楽音信号を入力しても良い。このようにすると、低い周波数の信号で発生される低音が主に第1音発生部22aから、第2響板26bより大きい第1響板26aを振動させて効果的に発せられるためより、アコースティック楽器の音に近い共鳴状態を得ることができる。そして、第1響板26aを振動させる第1アクチュエータ24aが電子ピアノの左下付近、つまり低音を奏でる鍵盤の近くに位置するため、よりアコースティック楽器に近い感覚を奏者に与えることができる。
【0048】
また、本実施例では、第1音発生部22aと第2音発生部22bは、各々電子ピアノのケースに固定するようにしたが、第1音発生部22aと第2音発生部22bの箱28を互いに結合させてもよい。このようにすると、振動の伝播が複雑になり、より複雑な共鳴状態を生成することができる。
【0049】
そして、本実施例では音発生部22を電子ピアノのケース内部に搭載したが、音発生部22を単体で構成することにより、自由に配置できるようにし、位相制御部20として可変移相器を用いることで使用者が自由に位相を制御できるようにしてもよい。このようにすれば、ギター等のピアノ以外の楽器の楽音信号を位相制御部20に入力可能となり、音発生部22を置き換える毎に位相制御部20にて楽音信号の位相を変化させることができるので、使用者の好みに合わせて音を発生させることができる。
【0050】
また、本実施例では、位相制御部20を増幅部18の次に備え、アナログ信号を位相制御するようにしたが、D/A変換部16の前に位相制御部20を接続し、デジタル信号を制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1実施例のグランドピアノ型電子ピアノを示す斜視図である。
【図2】第1実施例のグランドピアノ型電子ピアノを示す正面図である。
【図3】音発生部の構成を示す構成図である。
【図4】電子ピアノの制御装置の構成を示す構成図である。
【図5】第1実施例の位相制御部による楽音信号の位相制御を示す説明図である。
【図6】第2実施例のアップライトピアノ型電子ピアノを示す斜視図である。
【図7】第2実施例のアップライトピアノ型電子ピアノを示す正面図及び側面図である。
【図8】第2実施例の位相制御部による楽音信号の位相制御を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
2…バス、4…CPU、6…RAM、8…ROM、10…DSP、12…鍵盤、14…音源、16…D/A変換部、18…増幅部、20…位相制御部、20a…第1位相制御部、20b…第2位相制御部、22…音発生部、22a…第1音発生部、22b…第2音発生部、24…アクチュエータ、24a…第1アクチュエータ、24b…第2アクチュエータ、26…響板、26a…第1響板、26b…第2響板、28…箱、30…制御装置、40…電子ピアノ、42…屋根、44…棚板、46…ケース、50…電子ピアノ、52…上前板、54…下前板、56…ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアクチュエータが片面に取り付けられた振動板を複数備え、外部から入力された楽音信号で前記アクチュエータを駆動することにより、前記各振動板を振動させて、アコースティック楽器の共鳴音を擬似的に発生する音響システムであって、
前記各振動板の板面同士がなす角度に応じて、前記各振動板のアクチュエータに入力される楽音信号の位相を制御するための位相制御部を備えたことを特徴とする音響システム。
【請求項2】
前記振動板は筐体の一面を構成していることを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
【請求項3】
前記複数の振動板として、前記アクチュエータの取付面が同方向を向くように配置された2つの振動板を備え、
前記位相制御部は、前記各振動板のアクチュエータに入力される楽音信号が互いに同相になるように、各アクチュエータに入力される楽音信号の位相を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の音響システム。
【請求項4】
前記複数の振動板として、前記アクチュエータの取付面が互いに向かい合うように平行に配置された2つの振動板を備え、
前記位相制御部は、前記各振動板のアクチュエータに入力される楽音信号が逆相になるように、各アクチュエータに入力される楽音信号の位相を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の音響システム。
【請求項5】
前記アクチュエータは前記振動板の一端側に取付けられており、前記2つの振動板は前記アクチュエータの位置が互いに逆方向になるように配置されることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の音響システム。
【請求項6】
前記2つの振動板は面積が異なることを特徴とする請求項3〜請求項5の何れかに記載の音響システム。
【請求項7】
前記振動板は木製の響板よりなることを特徴とする請求項1〜請求項6の何れかに記載の音響システム。
【請求項8】
前記振動板は電子楽器内部に配置されることを特徴とする請求項1〜請求項7の何れかに記載の音響システム。
【請求項9】
当該音響システムは、電子ピアノの楽音信号を元にピアノの共鳴音を擬似的に発生するものであり、
振動板は木製の響板であると共に電子ピアノ内部に配置され、
前記アクチュエータは前記振動板の一端側に取り付けられ、
前記2つの振動板の内の1つである第1振動板は、アクチュエータの取付面が電子ピアノ内部を向き、該アクチュエータが左側になるように電子ピアノの下前板の裏側に垂直に配置され、
他の1つの振動板である第2振動板は、アクチュエータが右側になるように上前板の裏側に配置されていると共に、前記第1振動板よりも面積が小さいことを特徴とする請求項3に記載の音響システム。
【請求項10】
当該音響システムは、電子ピアノの楽音信号を元にピアノの共鳴音を擬似的に発生するものであり、
前記振動板は木製の響板であると共に電子ピアノ内部に配置され、
前記アクチュエータは前記振動板の一端側に取り付けられ、
前記2つの振動板の内の1つである第1振動板は、該第1振動板のアクチュエータの取付面が電子ピアノ内部を向き、アクチュエータが左側になるように前記電子ピアノの棚板の上部に水平に配置され、
他の1つである第2振動板は、アクチュエータが右側になるように屋根の下部に配置されていると共に、前記第1振動板よりも面積が小さいことを特徴とする請求項4に記載の音響システム。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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