説明

音響パラメータ測定装置用試料支持体及び音響パラメータ測定装置

【課題】生体組織の音響パラメータの測定を正確に行うことができる音響パラメータ測定装置用試料支持体を提供すること。
【解決手段】試料支持体9は、生体組織8の音響パラメータを求める超音波画像検査装置1に使用される。試料支持体9は、生体組織8を密着させて支持するための第1面91を有し、その反対側に位置しかつ超音波伝達媒体W1を接触させるための第2面92を有する。試料支持体9は、親水性材料であるポリビニルアルコールを用いて形成されており、1.75×10Ns/m以上の音響インピーダンス値を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して生体組織の音響パラメータを測定する音響パラメータ測定装置用試料支持体及び音響パラメータ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の診断を行う装置として、超音波顕微鏡を応用した製品の開発が進められており、高解像度で生体組織の観察が可能なものが実用化されている。光学顕微鏡では生体組織における化学的性質の違いを例えば染色によって区別するのに対し、超音波顕微鏡では物理的性質の違いを無染色で区別することができる。つまり、超音波顕微鏡を用いる場合には、染色を行わなくても生体組織診断を行うことができるといった利点がある。
【0003】
具体的には、超音波顕微鏡を用いる場合、生体組織などの試料に超音波を照射しその反射波を検出することにより、音響パラメータ(音響インピーダンス、音速、減衰などのパラメータ)を算出して、その算出値に応じた超音波像(音響インピーダンス像、音速像、減衰像など)を表示する。本発明者らはパルス励起型の超音波顕微鏡を利用して生体組織の音響インピーダンス像を表示する超音波画像検査装置をすでに提案している(例えば、特許文献1参照)。この超音波画像検査装置では、図9に示されるように、樹脂プレート50(試料支持体)の上面に生体組織51を密着させて支持し、その生体組織51の周縁となる位置にリファレンス部材52を設けている。そして、超音波振動子53から樹脂プレート50を介して生体組織51及びリファレンス部材52に超音波Sを照射する。
【0004】
ここで、リファレンス部材52においてその表面と直交する角度で照射される超音波(入射波)Sと反射波Sとは次式(1)の関係が成り立つ。
【数1】

【0005】
ただし、Zは樹脂プレート50の音響インピーダンスであり、Zはリファレンス部材52の音響インピーダンスである。
【0006】
また、生体組織51においてその表面と直交する角度で照射される超音波Sと反射波Sとは次式(2)の関係が成り立つ。
【数2】

【0007】
ただし、Zは生体組織51の音響インピーダンスである。
【0008】
従って、上記式(1),(2)から生体組織51の音響インピーダンスZは、次式(3)により求められる。
【数3】

【0009】
この超音波画像検査装置において、音響インピーダンスZを測定しながら超音波Sの照射点を二次元走査することにより、二次元の音響インピーダンス像が得られる。音響インピーダンスZは、組織の硬さに関連するパラメータであり、音響インピーダンス像によって生体組織51の性状を観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−78408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した超音波画像検査装置では、樹脂プレート50と生体組織51との界面に空気が入り込まないようにするために、樹脂プレート50上に水滴を置き、その上に生体組織51を載せて観察を行っている。しかしながら、水は表面張力が大きいため、樹脂プレート50と生体組織51との間に1μmから5μ程度の水膜55が介在した状態となる。この水膜55が厚くなると、音響インピーダンスの測定誤差や音響インピーダンス像の画像ボケが生じてしまう。このため、従来では、樹脂プレート50上に水滴を介して生体組織51を載せた後、樹脂プレート50と生体組織51との界面にティッシュ等の吸水材を接触させることで界面の水を吸水材側に吸い上げた後に測定を行っていた。この場合でも、樹脂プレート50と生体組織51との界面において、吸水材を接触させる外縁側の水膜55は薄くなるが、中央部分の水膜55は厚いまま残ってしまうことがあり、測定誤差を解消することは困難であった。
【0012】
上記の方法によって樹脂プレート50上に生体組織51をうまくセットできたときには、音響インピーダンスの測定誤差を5%以下に抑えることができる。ところが、生体組織51のセットは作業者が手作業で行っているため、複数回に一回の割合で生体組織51を正しくセットできず、樹脂プレート50と生体組織51との界面での水膜55が厚くなることがある。この場合には、音響インピーダンスの測定誤差が20%程度になってしまう。
【0013】
また、超音波画像検査装置の操作に熟練している作業者であれば、測定誤差が生じない適切な状態に生体組織51をセットする確率を高めることができる。また仮に、測定誤差が生じたとしても、その測定結果を確認することで生体組織51のセット状態が悪かったことを判断することができる。一方、操作に慣れていない作業者は、生体組織51のセットをうまく行えないことが多く、さらに、測定誤差の有無も判断することができない。このため、生体組織51のセット状態を判断できないと、検査装置が使いづらいといった問題が生じていた。
【0014】
さらに、樹脂プレート50上にエコーゼリー(いわゆる超音波伝導性ゼリー)を介在させた状態で生体組織51の観察を行う手法も検討されている。この場合、エコーゼリーの層が水膜55の代わりとなり、界面に空気が入り込まないように生体組織51を密着させることができる。しかしながら、エコーゼリーはゲル状であり非常に柔らかい材質であるため、測定中において生体組織51の重さによりエコーゼリーの層の内側に生体組織51が沈み込んでしまう。このため、超音波の焦点位置がずれて測定誤差が生じることがある。また、生体組織51の音響インピーダンス値は1.4〜1.7×10Ns/m程度であり、エコーゼリーの音響インピーダンス値は1.5×10Ns/m程度である。つまり、エコーゼリーの音響インピーダンス値は生体組織51とほぼ等しく、両者の音響インピーダンス値の差が殆どない。このため、エコーゼリーと生体組織51との界面での超音波の反射波は非常に小さく測定が困難となる。具体的には、生体組織51において、エコーゼリーの音響インピーダンス値(=1.5×10Ns/m)よりも大きい部位と小さい部位とでは反射波信号の位相が反転するため、その位相を考慮した信号処理が複雑となる。また、生体組織51がエコーゼリーの音響インピーダンス値と等しくなると、ノイズ信号と反射波信号との区別が困難となり、測定精度が低下してしまう。
【0015】
さらに、エコーゼリーは生体組織51内部に浸潤しやすく、生体組織51に付着すると、その除去が困難となる。このため、音響インピーダンスの測定に使用した生体組織51を他の検査で再使用することができないといった問題もある。
【0016】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、水膜を介在させることなく生体組織を載置して音響パラメータの測定を正確に行うことができる音響パラメータ測定装置試料支持体、及び音響パラメータ測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、生体組織に向けて超音波を照射するとともに、前記生体組織からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を含んで構成され、前記反射波に基づいて前記生体組織の音響パラメータを求める音響パラメータ測定装置にて使用される試料支持体であって、音響インピーダンス値が1.75×10Ns/m以上である親水性材料を用いて形成され、前記生体組織を密着させて支持するための第1面を有し、その反対側に位置しかつ超音波伝達媒体を接触させるための第2面を有することを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体をその要旨とする。
【0018】
従って、手段1に記載の発明によると、試料支持体において、親水性材料を用いて形成された第1面に生体組織が支持されるため、従来技術のように水膜を介在させなくても生体組織と第1面とが確実に密着する。また、第1面の音響インピーダンス値は1.75×10Ns/m以上であり、生体組織の音響インピーダンス値よりも通常は大きくなることから、両者の値に確実に差を設けることができる。このため、第1面と生体組織との界面で超音波を確実に反射させることができる。この結果、音響インピーダンスの測定誤差を抑えることができ、音響インピーダンスの測定値に応じた鮮明な超音波像を生成することができる。
【0019】
手段2に記載の発明は、前記親水性材料は高分子樹脂材料であり、前記第1面及び前記第2面を有する板状に形成されていることをその要旨とする。
【0020】
手段2に記載の発明のように、親水性材料として高分子樹脂材料を用いる場合、形状寸法や音響インピーダンス値の製造バラツキがない高品質の試料支持体を比較的低コストで大量に製造することが可能となる。
【0021】
また、親水性材料としては、生体組織に対して非浸潤性を有する材料であることが好ましい。この場合、音響パラメータの測定後、生体組織の表面に親水性材料の一部が付着したまま残ることなくその生体組織を試料支持体から取り外すことができる。このため、音響パラメータの測定後の生体組織を他の異なる検査(例えば、病理実験など)に用いることができる。
【0022】
手段3に記載の発明は、手段2において、前記高分子樹脂材料が分子中に水酸基を有するポリマーであることをその要旨とする。
【0023】
手段3に記載の発明によれば、分子中に水酸基を有するポリマー(例えば、ポリビニルアルコールなどの高分子樹脂材料)を用いることにより、第1面に生体組織を確実に密着させることができる。なお、高分子樹脂材料としては、水酸基以外にアミノ基、硝酸基、硫酸基、酢酸基などの非極性基(親水基)を分子中に有するポリマーを用いてもよい。
【0024】
手段4に記載の発明は、手段1において、前記第2面を有する板状に形成された支持基板と、前記第1面を形成すべく前記親水性材料を用いて前記支持基板上に形成された試料載置層とを備えたことをその要旨とする。
【0025】
手段4に記載の発明によると、板状の支持基板において、一方の表面に第2面が形成され、その反対側の表面上に第1面を有する試料載置層が形成される。このようにすると、比較的柔らかい材質の親水性材料を用いて試料載置層を形成することができ、生体組織の表面に試料載置層の第1面を確実に密着させることができる。また、試料載置層よりも硬い材料を用いて支持基板を形成することにより、支持基板上に試料載置層を介して生体組織を確実に支持することができる。
【0026】
手段5に記載の発明は、手段4において、前記試料載置層は、前記生体組織の表面における凹凸の寸法よりも厚くかつ前記凹凸に追従可能な柔軟性を有するゼラチン層であることをその要旨とする。
【0027】
手段5に記載の発明によれば、生体組織表面の凹凸に追従させた状態で試料載置層の第1面を確実に密着させることができる。従って、生体組織表面に凹凸があったとしてもその生体組織の音響インピーダンスを確実に測定することができる。
【0028】
前記試料載置層を構成するゼラチン層は、ゼラチンの濃度が40%以上であることが好ましい。このようにすると、音響インピーダンス値が1.75×10Ns/m以上である第1面を確実に形成することができる。さらに、ゼラチン層の柔軟性を十分に確保することができる。
【0029】
前記試料載置層としてゼラチン層を用いる場合、前記支持基板は、寒天を用いて形成された寒天基板であることが好ましい。寒天はゼラチン層よりも硬くゼラチン層を確実に支持することができ、ゼラチン層における第1面の平面を保つことができる。また、寒天での音速は、超音波伝達媒体としての水と同程度の音速となるため、生体組織の表面に超音波を収束させる際に生じる収差を抑えることができる。この場合、収差補正のための演算処理を行わなくても生体組織の音響インピーダンス値を正確に求めることが可能となる。
【0030】
また、前記支持基板及び前記試料載置層は光透過性を有していてもよい。光透過性を有する支持基板及び試料載置層にて試料支持体を形成する場合、光学顕微鏡でもその試料支持体を使用することができ、生体組織の超音波像に加えて光学像での観察が可能となる。
【0031】
前記試料載置層の厚さは0.2mm以上であることが好ましい。また、前記試料載置層と前記支持基板とからなる試料支持体の厚さは2.5mm未満であることが好ましい。音響パラメータ測定装置において、支持基板及び試料載置層からなる試料支持体を用いる場合、焦点型超音波振動子から照射される超音波は、生体組織と試料載置層との界面で反射するとともに、支持基板と試料載置層との界面でも反射する。従って、試料載置層の厚さを0.2mm以上とすると、それら界面での各反射波を確実に分離することができる。また、試料支持体の厚さを2.5mm未満とすると、試料載置層の表面に超音波の焦点を確実に合わせることができる。
【0032】
手段6に記載の発明は、手段1乃至5のいずれかに記載の試料支持体と、前記超音波伝達媒体及び前記試料支持体を介して前記第2面側から前記生体組織に超音波を照射するとともに、前記生体組織からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を含んで構成され、前記反射波に基づいて前記生体組織の音響パラメータを求める音響パラメータ測定装置をその要旨とする。
【0033】
手段6に記載の発明によれば、超音波顕微鏡において、試料支持体の第1面に生体組織が密着され支持されており、焦点型超音波振動子により、超音波伝達媒体及び試料支持体を介してその試料支持体の第2面側から生体組織に超音波が照射される。そして、焦点型超音波振動子により、生体組織からの反射波が受信され電気信号に変換される。また、二次元走査手段により、超音波の照射点が二次元的に走査される。本発明の試料支持体における第1面は、親水性材料を用いて形成されているため、従来技術のように水膜を介在させなくても生体組織が確実に密着する。また、第1面の音響インピーダンス値は1.75×10Ns/m以上であり、生体組織の音響インピーダンス値よりも通常は大きくなることから、両者の値に確実に差を設けることができる。このため、第1面と生体組織との界面で超音波を確実に反射させることができる。この結果、音響インピーダンスの測定誤差を抑えることができ、音響インピーダンスの測定値に応じた鮮明な超音波像を生成することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上詳述したように、手段1〜6に記載の発明によると、生体組織の音響パラメータの測定を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一実施の形態の超音波画像検査装置を示す概略構成図。
【図2】超音波画像検査装置の電気的な構成を示すブロック図。
【図3】生体組織を載置した試料支持体を示す拡大断面図。
【図4】超音波の走査範囲を示す説明図。
【図5】音響インピーダンス像の生成処理を示すフローチャート。
【図6】音響インピーダンス像を示す説明図。
【図7】別の実施の形態の試料支持体を示す拡大断面図。
【図8】別の実施の形態の試料支持体を示す拡大断面図。
【図9】音響インピーダンスの測定方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は音響パラメータ測定装置としての超音波画像検査装置を示す概略構成図であり、図2は、その超音波画像検査装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0037】
図1に示されるように、本実施の形態の超音波画像検査装置1は、パルス励起型超音波顕微鏡2と、パーソナルコンピュータ(パソコン)3とを備える。パルス励起型超音波顕微鏡2は、試料ステージ4を有する顕微鏡本体5と、試料ステージ4の下方に設置された超音波プローブ6とを備え、その超音波プローブ6がパソコン3と電気的に接続されている。
【0038】
本実施の形態の試料ステージ4は、ユーザの手動操作により、水平方向(即ちX方向及びY方向)に移動できるように構成されている。この試料ステージ4には、生体組織8を載置した試料支持体9が樹脂プレート10を介して設置されている。より詳しくは、樹脂プレート10の略中央部に貫通孔10aが形成されており、その貫通孔10aの上部を塞ぐように試料支持体9が配置されている。生体組織8は、例えば、ラットの小脳から切り出した脳組織であり、300μm〜400μmの厚さを有する。また、樹脂プレート10の貫通孔10aは直径が2mm程度のサイズであり、樹脂プレート10の上面において貫通孔10aの外縁部に接着剤を介して試料支持体9が固定されている。
【0039】
試料支持体9は、親水性の高分子樹脂材料であるポリビニルアルコールを用いて上面91(第1面)及び下面92(第2面)を有する板状に形成された支持基板であって、1.0mm程度の厚さを有している。本実施の形態における試料支持体9は、水を含有させることにより、生体組織8表面の凹凸に追従可能な柔軟性が付与された状態で使用される。試料支持体9は、音響インピーダンス値が2.0×10Ns/mである。また、試料支持体9の上面91において生体組織8のセット部の周縁に、例えばシリコーン樹脂の硬化物からなるリファレンス部材7が設けられている(図3参照)。
【0040】
超音波プローブ6は、プローブ本体12と、超音波トランスデューサ13と、X−Yステージ14とを備える。プローブ本体12は、X−Yステージ14上に設けられており、超音波伝達媒体である水W1を貯留可能な貯留部11をその先端部に有する。超音波トランスデューサ13は、プローブ本体12の略中心部に配置される。プローブ本体12の貯留部11は上部が開口しており、その貯留部11の開口側を上向きにした状態で超音波プローブ6が試料ステージ4の下方に設置されている。X−Yステージ14は、プローブ本体12を試料ステージ4の面方向に沿って二次元的に走査する。
【0041】
超音波トランスデューサ13(焦点型超音波振動子)は、パルス励起されることで試料支持体9の下面92側から生体組織8に対して超音波を照射する。超音波トランスデューサ13が照射する超音波は、超音波伝達媒体W1を介して円錐状に収束されて試料支持体9の上面91(生体組織8の表面)で焦点を結ぶようになっている。なお、超音波トランスデューサ13としては、口径1.2mm、焦点距離1.5mm、中心周波数80MHz、帯域幅50〜105MHz(−6dB)の仕様のものを用いている。
【0042】
図2に示されるように、超音波プローブ6は、超音波トランスデューサ13と、X−Yステージ14と、パルス発生回路21と、受信回路22と、送受波分離回路23と、A/D変換回路25と、エンコーダ26と、コントローラ27とを備える。
【0043】
X−Yステージ14(二次元走査手段)は、超音波の照射点を二次元的に走査させるためのXステージ14X及びYステージ14Yを備えるとともに、それぞれのステージ14X,14Yを駆動するモータ28X,28Yを備えている。これらのモータ28X,28Yとしては、ステッピングモータやリニアモータが使用される。
【0044】
各モータ28X,28Yにはコントローラ27が接続されており、該コントローラ27の駆動信号に応答してモータ28X,28Yが駆動される。これらモータ28X,28Yの駆動により、Xステージ14Xを連続走査(連続送り)するとともに、Yステージ14Yを間欠送りとなるよう制御することで、X−Yステージ14の高速走査が可能となっている。
【0045】
また、本実施の形態においては、Xステージ14Xに対応してエンコーダ26が設けられ、エンコーダ26によりXステージ14Xの走査位置が検出される。具体的に、走査範囲(例えば、縦横1.2mmの走査範囲)を300×300個の測定点(ピクセル)に分割した場合、1回のX方向(水平方向)の走査が300分割される。そして、各測定点の位置がエンコーダ26によって検出されパソコン3に取り込まれる。パソコン3はそのエンコーダ26の出力に同期して駆動制御信号を生成して、その駆動制御信号をコントローラ27に供給する。コントローラ27は、この駆動制御信号に基づいてモータ28Xを駆動する。また、コントローラ27は、エンコーダ26の出力信号に基づきX方向の1ラインの走査が終了した時点でモータ28Yを駆動して、Yステージ14YをY方向に1ピクセル分移動させる。
【0046】
さらに、コントローラ27は、駆動制御信号に同期してトリガ信号を生成してパルス発生回路21に供給する。これにより、パルス発生回路21において、そのトリガ信号に同期したタイミングで励起パルスが生成される。その励起パルスが送受波分離回路23を介して超音波トランスデューサ13に供給される結果、超音波トランスデューサ13から超音波が照射される。
【0047】
本実施の形態では、X−Yステージ14の移動に伴って、図4において矢印で示されるように、生体組織8の表面に沿ってX方向及びY方向に二次元的に超音波の走査が順次行われる。
【0048】
超音波トランスデューサ13は、送受波兼用の素子であり、生体組織8で反射した超音波(反射波)を電気信号に変換する。そして、その反射波の信号は、送受波分離回路23を介して受信回路22に供給される。受信回路22は、信号増幅回路を含んで構成されていて、反射波の信号を増幅して出力する。
【0049】
反射波信号は、A/D変換回路25に供給された後、パソコン3に転送される。そして、パソコン3において、生体組織8やリファレンス部材7の反射波信号が抽出される。
【0050】
パソコン3は、CPU31、I/F回路32、メモリ33、記憶装置34、入力装置35、及び表示装置36を備え、それらはバス37を介して相互に接続されている。
【0051】
CPU31は、メモリ33を利用して制御プログラムを実行し、システム全体を統括的に制御する。制御プログラムとしては、X−Yステージ14による二次元走査を制御するためのプログラム、音響インピーダンスを算出するためのプログラム、音響インピーダンス像を表示するためのプログラムなどを含む。
【0052】
I/F回路32は、超音波プローブ6との間で信号の授受を行うためのインターフェース(具体的には、USBインターフェース)である。I/F回路32は、超音波プローブ6に制御信号(コントローラ27への駆動制御信号)を出力したり、超音波プローブ6からの転送データ(A/D変換回路25から転送されるデータなど)を入力したりする。
【0053】
表示装置36は、例えば、LCDやCRTなどのカラーディスプレイであり、生体組織8の画像(音響インピーダンス像)や各種設定の入力画面を表示するために用いられる。入力装置35は、キーボードやマウス装置などであり、ユーザからの要求や指示、パラメータの入力に用いられる。
【0054】
記憶装置34は、磁気ディスク装置や光ディスク装置などであり、制御プログラム及び各種のデータを記憶している。なお、この記憶装置34に記憶されるデータとしては、試料支持体9の音響インピーダンス値やリファレンス部材7の音響インピーダンス値を含む。
【0055】
CPU31は、入力装置35による指示に従い、プログラムやデータを記憶装置34からメモリ33へ転送し、それを逐次実行する。なお、CPU31が実行するプログラムとしては、メモリカード、フレキシブルディスク、光ディスクなどの記憶媒体に記憶されたプログラムや、通信媒体を介してダウンロードしたプログラムでもよく、その実行時には記憶装置34にインストールして利用する。
【0056】
次に、生体組織8の音響インピーダンス像を生成するためにCPU31が実行する処理例について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0057】
まず、超音波プローブ6の初期動作として、CPU31からの指示に基づいてコントローラ27によりモータ28X,28Yが駆動され、走査位置がリファレンス部材7に位置するようにX−Yステージ14が移動される。またこのとき、励起パルスがトランスデューサ13に供給されると、図3に示すように、リファレンス部材7に超音波Sが照射され、その反射波Sが受信回路22で増幅されてA/D変換回路25でデジタルデータに変換される。そして、CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをI/F回路32を介して取得し、そのデータをリファレンス部材7の反射波の強度データとしてメモリ33に記憶する(ステップ100)。
【0058】
その後、CPU31からの指示に基づいてコントローラ27によりモータ28X,28Yが駆動され、X−Yステージ14による二次元走査が開始される。CPU31は、エンコーダ26の出力に基づいて測定点の座標データを取得する(ステップ110)。そして、超音波照射ステップでは、図3に示すように、生体組織8に超音波Sが照射され、その反射波Sが受信回路22で増幅されてA/D変換回路25でデジタルデータに変換される。CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをI/F回路32を介して取得し、そのデータを生体組織8の反射波の強度データとして座標データに関連付けてメモリ33に記憶する(ステップ120)。
【0059】
その後、CPU31は、得られたリファレンス部材7及び生体組織8での反射波S,Sの強度と、リファレンス部材7及び試料支持体9の音響インピーダンスZ,Zの値とを用いて、上記の式(3)に対応した演算処理を行い測定点での音響インピーダンスZを算出する。そして、CPU31は、算出された音響インピーダンスZを測定点の座標データに関連付けてメモリ33に記憶する(ステップ130)。
【0060】
その後、CPU31は、算出した音響インピーダンスZに基づいて音響インピーダンス像を生成するための画像処理を行う。詳しくは、CPU31は、音響インピーダンスZを用いてカラー変調処理を行い、音響インピーダンスZの大きさに応じた画像データを生成し、該画像データをメモリ33に記憶する(ステップ140)。これの具体例を挙げると、音響インピーダンスZの値が大きくなるほど赤色系の色調を強くし、音響インピーダンスZの値が小さくなるほど青色系の色調を強くするような画像処理を行う。
【0061】
CPU31は、全ての測定点での処理が終了し、1画面分の画像データが取得されたか否かを判断する(ステップ150)。ここで、全データが取得されていない場合、CPU31は、ステップ110に戻って、ステップ110〜150の処理を繰り返し実行する。そして、全データが取得された場合には、該データを表示装置36に転送して、図6に示すような音響インピーダンス像40(超音波像)を表示させた後、図5の処理を終了する。なお、図6の音響インピーダンス像40では、生体組織8における音響インピーダンスの違いを色の濃淡で示しているが、実際には、音響インピーダンス値に応じて色分けされたカラー画像として表示される。
【0062】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0063】
(1)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、ポリビニルアルコールからなる試料支持体9を用いている。ポリビニルアルコールは、親水性の高分子樹脂材料であるため、従来技術のように水膜を介在させなくても試料支持体9の上面91に生体組織8を密着させることができる。この場合、測定の準備作業として従来技術のように試料支持体9の上面に水滴を落とす必要がないため、測定の準備作業を簡素化することができる。また、試料支持体9の音響インピーダンス値が2.0×10Ns/mであり、生体組織8の音響インピーダンス値よりも確実に大きくなる。ゆえに、両者の値に0.2×10Ns/mよりも大きい差を設けることができる。このため、試料支持体9の上面91と生体組織8との界面で超音波を確実に反射させることができる。この結果、音響インピーダンスの測定誤差を抑えることができ、音響インピーダンスの測定値に応じた鮮明な音響インピーダンス像40を生成することができる。
【0064】
(2)本実施の形態の試料支持体9は、高分子樹脂材料であるポリビニルアルコールを用いて形成されるので、形状寸法(厚さや平坦度など)及び音響インピーダンス値の製造バラツキがない高品質の試料支持体9を比較的低コストで大量に製造することができる。また、試料支持体9を形成するポリビニルアルコールは、生体組織8に対して非浸潤性を有する材料であるため、音響インピーダンスの測定後、生体組織8の表面にポリビニルアルコールの一部が付着したまま残ることなく、生体組織8を試料支持体9から確実に取り外すことができる。このため、音響インピーンダンスの測定後の生体組織8を他の異なる検査(例えば、病理実験など)に用いることができる。
[第2の実施の形態]
【0065】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図7に基づき説明する。図7には、本実施の形態における試料支持体41の断面図を示している。本実施の形態の試料支持体41も、第1の実施の形態と同様に、起型超音波顕微鏡2の試料ステージ4における樹脂プレート10に設置された状態で使用される。
【0066】
図7に示されるように、試料支持体41は、ポリスチレンなどの樹脂材料を用いて板状に形成された支持基板42と、親水性材料であるゼラチンを用いて支持基板42上に形成されたゼラチン層43(試料載置層)とからなる。
【0067】
ゼラチン層43は、生体組織8よりも音響インピーダンス値が大きくなるようゼラチンの濃度を調整して形成されている。具体的には、ゼラチン層43は、ゼラチンの濃度が40%であり、音響インピーダンス値が1.82×10Ns/mである。また、ゼラチン層43の厚さは0.3mm程度であり、支持基板42の厚さは0.7mm程度である。
【0068】
試料支持体41において、ゼラチン層43の上面43a(第1面)に生体組織8が載置されるとともに、生体組織8のセット部の周縁にリファレンス部材7が設けられる。そして、支持基板42の下面42a(第2面)側に超音波伝達媒体W1を介して超音波トランスデューサ13が配置されるようになっている。
【0069】
本実施の形態の試料支持体41では、比較的柔らかい材質のゼラチン層43上に生体組織8を載置しているので、生体組織8表面の凹凸に追従させた状態でゼラチン層43の第1面43aを確実に密着させることができる。また、ゼラチン層43よりも硬い樹脂材料を用いて支持基板42を形成しているので、支持基板42上にゼラチン層43を介して生体組織8を確実に支持することができる。従って、本実施の形態の試料支持体41を用いた場合でも、生体組織8の音響インピーダンスを正確に測定することができる。
【0070】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0071】
・上記第1の実施の形態では、親水性の高分子樹脂材料であるポリビニルアルコールを用いて試料支持体9を形成していたが、これに限定されるものではない。音響インピーダンス値が生体組織8の音響インピーダンス値よりも大きな材料であれば、他の親水性材料を用いて試料支持体9を形成してもよい。また、図8に示されるように、ポリビニルアルコールからなる試料支持体9において、その下面92(第2面)側を疎水性皮膜45で被覆した構造としてもよい。ここで、ポリビニルアルコールからなる試料支持体9は、水に浸かると膨潤して強度が弱くなる。これに対して、図8の試料支持体9は、水W1を接触させる下面92側が疎水性皮膜45で保護されるので、その強度を十分に保つことができる。なお、疎水性皮膜45は試料支持体9の下面92に化学処理を施すことによって形成してもよいし、樹脂塗料などをコーティングすることによって形成してもよい。
【0072】
・上記第2の実施の形態において、試料支持体41を構成する支持基板42は、ポリスチレンを用いて形成されるものであったが、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの他の樹脂基板を用いて形成されていてもよい。また、樹脂基板以外に、寒天からなる寒天基板を支持基板42として用いてもよい。なおこの場合、十分な強度を確保するために寒天基板の厚さは2mm程度とすることが好ましい。また、試料支持体41を構成する試料載置層としては、ゼラチン層43以外にグルコマンナン、デンプン、キチン、キトサンなどの多糖類を用いて形成してもよい。
【0073】
・上記各実施の形態では、生体組織8の表面の音響インピーダンスZを測定してその表面画像として音響インピーダンス像40を表示せるものであったが、これに限定されるものではない。例えば、密度や体積弾性率などの音響パラメータを測定して、それら音響パラメータに応じた超音波像を表示させるように構成してもよい。
【0074】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0075】
(1)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記親水性材料は、前記生体組織に対して非浸潤性を有する材料であることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0076】
(2)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記第1面上にリファレンス部材を有することを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0077】
(3)手段1乃至3のいずれかにおいて、前記超音波伝達媒体は水であり、前記第2面側は疎水性皮膜で被覆されていることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0078】
(4)手段2において、前記高分子樹脂材料が、分子中に水酸基を有するポリビニルアルコールであることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0079】
(5)手段2において、前記高分子樹脂材料が分子中に非極性基を有するポリマーであることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0080】
(6)技術的思想(5)において、前記非極性基が、水酸基、アミノ基、硝酸基、硫酸基、酢酸基であることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0081】
(7)手段2または3において、前記高分子樹脂材料は、光透過性を有することを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0082】
(8)手段4または5において、前記支持基板及び前記試料載置層は光透過性を有することを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0083】
(9)手段4または5において、前記試料載置層の厚さは0.2mm以上であり、前記試料載置層に前記支持基板を重ね合わせた合計の厚さは2.5mm未満であることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0084】
(10)手段5において、前記ゼラチン層におけるゼラチンの濃度が40%以上であることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【0085】
(11)手段5において、前記支持基板は、寒天を用いて形成された寒天基板であることを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【符号の説明】
【0086】
1…音響パラメータ測定装置としての超音波画像検査装置
2…超音波顕微鏡としてのパルス励起型超音波顕微鏡
8…生体組織
9,41…試料支持体
13…焦点型超音波振動子としての超音波トランスデューサ
14…二次元走査手段としてのX−Yステージ
42a,92…第2面としての下面
43a, 91…第1面としての上面
…超音波
…反射波
…音響パラメータとしての音響インピーダンス
W1…音波伝達媒体としての水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に向けて超音波を照射するとともに、前記生体組織からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を含んで構成され、前記反射波に基づいて前記生体組織の音響パラメータを求める音響パラメータ測定装置にて使用される試料支持体であって、
音響インピーダンス値が1.75×10Ns/m以上である親水性材料を用いて形成され、前記生体組織を密着させて支持するための第1面を有し、その反対側に位置しかつ超音波伝達媒体を接触させるための第2面を有することを特徴とする音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【請求項2】
前記親水性材料は高分子樹脂材料であり、前記第1面及び前記第2面を有する板状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【請求項3】
前記高分子樹脂材料が分子中に水酸基を有するポリマーであることを特徴とする請求項2に記載の音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【請求項4】
前記第2面を有する板状に形成された支持基板と、前記第1面を形成すべく前記親水性材料を用いて前記支持基板上に形成された試料載置層とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【請求項5】
前記試料載置層は、前記生体組織の表面における凹凸の寸法よりも厚くかつ前記凹凸に追従可能な柔軟性を有するゼラチン層であることを特徴とする請求項4に記載の音響パラメータ測定装置用試料支持体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の試料支持体と、前記超音波伝達媒体及び前記試料支持体を介して前記第2面側から前記生体組織に超音波を照射するとともに、前記生体組織からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を含んで構成され、前記反射波に基づいて前記生体組織の音響パラメータを求める音響パラメータ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−226788(P2011−226788A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93767(P2010−93767)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【Fターム(参考)】