説明

音響レンズ、超音波探触子、および超音波診断装置

【課題】高い周波数の超音波を低損失で収束させることができる音響レンズ、該音響レンズを有する超音波探触子、および該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供する。
【解決手段】中央部の厚みが周辺部の厚みより薄く、一方の面が凹面である第1レンズ体と、超音波の伝播速度が前記第1レンズ体より遅い材料から形成され、中央部の厚みが周辺部の厚みより厚く、一方の面が凸面である第2レンズ体と、対向する凹面と凸面の間に配置され、第1レンズ体の凹面と第2レンズ体の凸面が、超音波の反射を抑制する構造に接合されて配置されることを特徴とする音響レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響レンズ、超音波探触子、および超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を低侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、及び産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
このような医療用超音波診断装置に使用される超音波探触子は、高感度、高解像度の超音波の送受信を行うために、ジルコン酸チタン酸鉛を材料とした圧電素子が一般的に使用される。この場合、送信用圧電素子の振動モードとしては、単一型探触子であるシングル型または複数の探触子を2次元配置したアレイ型探触子がよく使用される。アレイ型は精細な画像を得ることができるので、診断検査のための医療用画像として広く普及している。
【0004】
一方、高調波信号を用いたハーモニックイメージング診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから標準的な診断方法となりつつある。
【0005】
ハーモニックイメージングを行うために十分な超音波信号を得るためには、基本波よりも周波数が高く減衰しやすい高調波をいかに効率的に受信できる設計とするか、が重要となる。
【0006】
一方、超音波探触子には、超音波のビームを収束させて分解能を向上させるため音響レンズが用いられている。音響レンズは被検体(生体)と密着させるので、被検体と密着させやすく、診断に使用する周波数において減衰率の小さい材料が求められている。
【0007】
従来からこのような材料としてシリコーンゴムが主に用いられている。シリコーンゴムは、被検体(生体)より音波の伝播速度(以下、音速ともいう)が遅いので、断面形状の中央部を凸状に形成し、超音波が中央の厚みの厚い部分を通過する時間を、厚みの薄い部分より長くして超音波を収束させるようにしていた。
【0008】
しかしながら、シリコーンゴムは超音波の伝播損失が大きいため、超音波探触子の受信感度を向上させることは難しい。特に、高周波の伝播損失が大きいため、高調波信号を用いたハーモニックイメージングには不向きな材料であると言える。
【0009】
一方、伝播損失の少ない材料としては、例えば樹脂材料であるポリメチルペンテンが知られているが、ポリメチルペンテンは被検体(生体)より音速が速いので、断面形状の中央部を凹状に形成し、超音波を収束させるようにする必要がある。
【0010】
しかしながら、凹状では被検体(生体)の表面との接触性が悪く、鮮明な画像が得られない。
【0011】
そのため、ポリメチルペンテンを用いた凹状の音響レンズの平坦な側を生体接触側、凹側を圧電素子側とし、シリコーンゴムで形成した音響媒体によって凹状の部分を埋めて空気層を介在しないようにする方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
また、従来の超音波探触子では、圧電素子と音響素子の間に音響インピーダンスの異なる層を積層した整合層が設けられているが、整合層の各層の境界で音響インピーダンスが大きく異なるため、超音波の反射が発生し、超音波の送受信感度を低下させる原因になっていた。
【0013】
そのため、圧電素子から離間するにつれて含有割合が変化するように添加物を添加し、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスを徐々に変化させるようにして超音波の送受信感度を向上させた音響整合レンズを備えた超音波プローブが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平6−254100号公報
【特許文献2】特開2006−263385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、音響レンズの凹状の部分を埋める音響媒体を設けると、音響レンズと音響媒体との境界で音響インピーダンスが大きく異なるため、超音波の反射が発生し、超音波の送受信感度が低下する問題がある。
【0016】
特に、音響媒体としてシリコーンゴムを用いると、シリコーンゴムによる超音波の伝播損失が大きく高次高調波を利用する場合は受信感度が不十分になってしまうという問題があった。
【0017】
一方、特許文献2に開示されている音響整合レンズは、シリコーンゴムに添加物を添加した3つの整合層の一つに凸曲面を設け超音波を収束させている。しかし、高周波の伝播損失の少ない材料は一般に被検体より音速が速いため、凸曲面では超音波を収束できないのでこのような構成は高い周波数の信号を用いる場合には適用できない。
【0018】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、高い周波数の超音波を低損失で収束させることができる音響レンズ、該音響レンズを有する超音波探触子、および該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、本発明は以下のような特徴を有するものである。
【0020】
1.中央部の厚みが周辺部の厚みより薄く、一方の面が凹面である第1レンズ体と、
超音波の伝播速度が前記第1レンズ体より遅い材料から形成され、中央部の厚みが周辺部の厚みより厚く、一方の面が凸面である第2レンズ体を有し、
前記第1レンズ体の凹面と前記第2レンズ体の凸面が、超音波の反射を抑制する構造に接合されて配置されることを特徴とする音響レンズ。
【0021】
2.前記超音波の反射を抑制する構造は、伝播速度が徐々に変化する薄膜層を前記第1レンズ体と前記第2レンズ体の間に積層させる音響整合層からなる構造であることを特徴とする前記1に記載の音響レンズ。
【0022】
3.前記第1レンズ体および前記音響整合層は、
前記第2レンズ体を形成する母材樹脂に添加物を添加した樹脂材料を用いて形成したことを特徴とする前記2に記載の音響レンズ。
【0023】
4.前記音響整合層は、
母材樹脂に添加した添加物の含有割合の異なる複数の層からなることを特徴とする前記2または3に記載の音響レンズ。
【0024】
5.前記超音波の反射を抑制する構造は、前記第1レンズ体と前記第2レンズ体の接合面の少なくとも1方は表面形状が音軸方向に沿って幅が異なる溝を複数形成している構造であることを特徴とする前記1に記載の音響レンズ。
【0025】
6.前記音響レンズの減衰特性は、
周波数5MHzで10dB/cm以下であることを特徴とする前記1から5の何れか1項に記載の音響レンズ。
【0026】
7.前記音響レンズの形状は、直方体であり、前記第1レンズ体の凹面の反対側の面と前記第2レンズ体の凸面の反対側の面は何れも平面であることを特徴とする前記1から6の何れか1項に記載の音響レンズ。
【0027】
8.前記第1レンズ体の凹面と第2レンズ体の凸面は、前記直方体の対向する2面に設けられていることを特徴とする前記7に記載の音響レンズ。
【0028】
9.被検体に向けての超音波の送信、または被検体からの超音波の反射波の受信の少なくとも一方を行う超音波探触子において、
前記1から8の何れか1項に記載の音響レンズを有し、
前記音響レンズを介して超音波を送信および受信、または送信もしくは受信をすることを特徴とする超音波探触子。
【0029】
10.超音波を被検体に向けて送信し、該被検体から受信した該超音波の反射波に応じて画像を生成する超音波診断装置において、
前記9に記載の超音波探触子を有することを特徴とする超音波診断装置。
【発明の効果】
【0030】
本発明の音響レンズは、中央部の厚みが周辺部の厚みより薄く、一方の面が凹面である第1レンズ体と、中央部の厚みが周辺部の厚みより厚く、一方の面が凸面である第2レンズ体と、を有し、対向する凹面と凸面の間が、超音波の反射を抑制する構造に接合されて配置される。
【0031】
第2レンズ体は、超音波の伝播速度が第1レンズ体より遅い材料から形成され、音響整合層は、超音波の伝播速度と音響インピーダンスが、第1レンズ体と前記第2レンズ体との間で単調に変化するように形成されている。このようにすると、第1レンズ体と第2レンズ体との間の超音波の反射が少なく、低損失で高い周波数の超音波を収束させることができる。
【0032】
したがって、高い周波数の超音波を低損失で収束させることができる音響レンズ、該音響レンズを有する超音波探触子、および該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態の音響レンズ7の斜視図である。
【図2】音響レンズ7の音響整合層8の一部拡大図である。
【図3】音響レンズ7のY軸に直交する面の断面図である。
【図4】Z軸方向の距離と音響インピーダンスの関係を示すグラフである。
【図5】Z軸方向の距離と音速の関係を示すグラフである。
【図6】第1の実施形態の音響レンズの製造方法の一例を説明する説明図である。
【図7】第1の実施形態の超音波探触子のヘッド部の構成を示す断面図である。
【図8】実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図9】実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図10】第2の実施形態の音響レンズ7の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0035】
図1は、第1の実施形態の音響レンズ7の斜視図、図2は、音響レンズ7の音響整合層8の一部拡大図である。
【0036】
以降の説明では図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X方向は音響レンズ7を接合する超音波探触子1(図1には図示せず)のエレベーション方向(ダイシングを行う方向)であり、Y方向は音響レンズ7の長手方向、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0037】
本実施形態の音響レンズ7の外観は図1のように直方体である。第1レンズ体21の凹面と反対側のZ軸と直交するZ軸負方向側の面は、平面であり図示せぬ圧電素子と接合する面である。また、第2レンズ体20の凸面と反対側のZ軸と直交するZ軸正方向側の面は、平面であり図示せぬ被検体と接触する面である。
【0038】
このように、被検体と接触する面が平面になっているので、被検体の表面との接触性が良く被検体と音響レンズ7を容易に密着させることができる。
【0039】
第1の実施形態では、本発明の超音波の反射を抑制する構造として音響整合層8を用いる例を説明する。音響レンズ7は、中央部の厚みが周辺部の厚みより薄く、一方の面が凹面である第1レンズ体21と、中央部の厚みが周辺部の厚みより厚く、一方の面が凸面である第2レンズ体20と、図1のように対向する凹面と凸面が接合される音響整合層8とから構成される。
【0040】
第2レンズ体20は、超音波の伝播速度(以下、音速ともいう)が第1レンズ体21より遅い材料から形成されている。
【0041】
また、本実施形態では、第1レンズ体21と第2レンズ体20は、何れも周波数5MHzの超音波の伝播損失が10dB/cm以下の材料から形成されている。
【0042】
周波数5MHzの超音波の伝播損失が10dB/cm以下の材料としては、例えばポリエチルペンテン、スチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどの重合体または共重合体を用いることができる。
【0043】
例えば、第1レンズ体21は、質量比5.8%のスチレンと質量比0.4%のジビニルベンゼンに親油性酸化亜鉛ナノ粒子を質量比93.7%の割合で添加した樹脂液を熱重合させて形成することができる。また、第2レンズ体20は、スチレンとジビニルベンゼンとを質量比95:5の割合で架橋した共重合体から形成することができる。
【0044】
この例では、第1レンズ体21を構成する材料の音速は3600m/s、第2レンズ体20を構成する材料の音速は2350m/sであり、第2レンズ体20は第1レンズ体21より音速が遅い材料から形成されている。
【0045】
また、この例では、第1レンズ体21を構成する材料の音響インピーダンスは22.0Pa・s・m−1、第2レンズ体20を構成する材料の音響インピーダンスは2.5Pa・s・m−1である。
【0046】
圧電素子の音響インピーダンスは、一般に24〜36Pa・s・m−1程度であり、接合する第1レンズ体21の音響インピーダンスを、この例のように近い値にすると接合面で発生する超音波の反射を抑制することができる。また、被検体である人体の音響インピーダンスは、1.8Pa・s・m−1程度であり、接触する第2レンズ体20の音響インピーダンスを、この例のように近い値にすると同様に接触面で発生する超音波の反射を抑制することができる。
【0047】
音響整合層8は、音響インピーダンスが異なる第1レンズ体21と第2レンズ体20との境界で発生する超音波の反射を抑制するために設けたものであり、本実施形態では図2の拡大図に示すように層8a、8b、8c、8d、8e、8fの6層から構成されている。
【0048】
前述のように、第1レンズ体21と、第2レンズ体20を構成する材料の音響インピーダンスは大きく異なっているので、このように6層を設け、超音波の伝播速度(音速)と音響インピーダンスが、第1レンズ体21と第2レンズ体20との間で単調に変化するようにしている。
【0049】
【表1】

【0050】
図2の例では、音響整合層8の各層は、第1レンズ体21からの距離が遠い層ほど音響インピーダンスが低く、音速の遅い樹脂材料から形成され、第2レンズ体20の音響インピーダンスと音速に近づくように構成されている。具体的には表1のように、音響インピーダンスは、第1レンズ体21の22.0Pa・s・m−1、層8aの18.9Pa・s・m−1、・・・層8fの4.2Pa・s・m−1、第2レンズ体20の2.5Pa・s・m−1、というように単調に減少している。
【0051】
また、音速も、第1レンズ体21の3600m/s、層8aの3340m/s、・・・・層8fの2410m/s、第2レンズ体20の2350m/sというように単調に減少している。
【0052】
このようにすると、各層間で音速と音響インピーダンスの変化が少なくなり、境界で発生する超音波の反射を抑制することができる。
【0053】
層8a〜8fは、後に詳しく説明するように、スチレンとジビニルベンゼンに親油性酸化亜鉛ナノ粒子を添加する割合を各層毎に変えた樹脂液を熱重合させて形成することができる。各層の厚みは数μm程度である。
【0054】
なお、音響整合層8の層数は6層に限られるものではなく、より多層にしても良いし、第1レンズ体21と第2レンズ体20の音響インピーダンスの差が小さければ1層でも良い。
【0055】
図3、図4、図5を用いて、本発明の音響レンズ7が超音波を収束させる原理を説明する。図3は、音響レンズ7のY軸に直交する面の断面図、図4は、Z軸方向の距離と音響インピーダンスの関係を示すグラフ、図5は、Z軸方向の距離と音速の関係を示すグラフである。
【0056】
図3の矢印S1は、音響レンズ7のX軸方向の幅の中央を進行する超音波を示し、矢印S2は、音響レンズ7のX軸方向の幅の周辺部を進行する超音波を示している。また、面20aは被検体に接しているものとする。
【0057】
図3の21aは圧電素子と接合する面、20aは被検体と接触する面である。Z1は、矢印S1で示すように進行する超音波が、音響整合層8に到達する位置の面21aからの距離、Z2は、矢印S2で示すように進行する超音波が、音響整合層8に到達する位置の面21aからの距離である。
【0058】
図4にS1で示す音響レンズ7の中央では、面21aからZ1までは第1レンズ体21の音響インピーダンスR1であり、音響整合層8に相当する区間では距離に応じて徐々に減少し、第2レンズ体20の音響インピーダンスR2になる。また、S2で示す周辺部では、面21aからZ2までは第1レンズ体21の音響インピーダンスR1であり、音響整合層8に相当する区間では距離に応じて徐々に減少し、第2レンズ体20の音響インピーダンスR2になる。なお、図4では音響インピーダンスが連続的に減少しているように図示しているが、実際には層毎に異なる音響インピーダンスになる。
【0059】
同様に、図5にS1で示す音響レンズ7の中央では、面21aからZ1までは第1レンズ体21の音速V1であり、音響整合層8に相当する区間では距離に応じて徐々に減少し、第2レンズ体20の音速V2になる。また、S2で示す周辺部では、面21aからZ2までは第1レンズ体21の音速V1であり、音響整合層8に相当する区間では距離に応じて徐々に減少し、第2レンズ体20の音速V2になる。なお、図5では音速が連続的に減少しているように図示しているが、実際には層毎に異なる音速になる。
【0060】
このように、周辺部を進行するS2で示す超音波は、中央を進行するS1で示す超音波よりも音速V2の領域を進む距離が短く、音速V2より速い音速V1の領域を進む距離が長いので同時に面21aに入射したS1で示す超音波よりも早く面20aに接する被検体に達する。
【0061】
S2で示す周辺部を進行する超音波は、中央を進行する超音波より早く被検体に入射しているので、その時間差の分だけ多くの距離を進行し、距離fで中央部を進行するS1で示す超音波と収束する。
【0062】
焦点距離は、第1レンズ体21と第2レンズ体20の音速差、および凹面と凸面の曲率を変更することにより所望の値に設定することができる。
【0063】
このように本実施形態の音響レンズ7は、超音波が面21aに入射する位置に応じて、面21aから面20aまで進行する時間が異なるように構成し、面20aから放射する超音波を所定の距離に収束させている。このことにより、被検体より音速が速い樹脂材料を用いても、被検体と接触する面を被検体に密着させやすい平面形状にすることができる。
【0064】
また、本実施形態の音響レンズ7は、周波数5MHzで10dB/cm以下の樹脂材料から形成されているので、高調波信号の減衰が少なく、高調波信号を利用するアレイ型超音波探触子に好適である。
【0065】
さらに、樹脂材料から形成されているので、被検体と接触する面が磨耗しにくい。そのため、シリコーンゴムから成る音響レンズのように、超音波探触子を使用する際に塗布するゼリー状物質を使用後にふき取る際に音響レンズ面が徐々に磨耗し、フォーカス位置が当初の設計から合わなくなるという問題がおこりにくい。
【0066】
加えて、樹脂材料はガスや液体を透過しにくいので、音響レンズ7の被検体と接する側の面から消毒用ガス、または液体が侵入して、超音波探触子の特性が劣化することも少ない。
【0067】
なお、本実施形態では、面20aを圧電素子と接合する面、面21aを被検体と接触する面として説明したが、面21aを圧電素子と接合する面、面20aを被検体と接触する面として用いても超音波を収束させることができる。
【0068】
次に、第1の実施形態の音響レンズの製造方法を説明する。
【0069】
図6は、第1の実施形態の音響レンズの製造方法の一例を説明する説明図である。
【0070】
<樹脂基材の製造工程>
図6(a)は、第2レンズ体20を形成する樹脂基材25の一例である。樹脂基材25は、図3(a)に示すように一方の面が凸面になった蒲鉾状である。樹脂基材の大きさに特に限定はないが、一例としては、幅W1=10mm、奥行きL=100mm、高さH1=5mm、凸面の曲率半径10mmである。
【0071】
樹脂基材25を形成する材料には、各種樹脂材料を用いることができるが、超音波の減衰特性は、周波数5MHzで2dB/cm以下の樹脂材料が好ましい。例えば、メチルペンテン、スチレン、メチルメタクリレート、カーボネート、プロピレンなどの重合体または共重合体を用いることができる。
【0072】
樹脂基材25は、例えば金型に樹脂材料を注型して作製する。
【0073】
<積層工程>
樹脂基材25の凸面に、樹脂基材25より高い音響インピーダンスと所定の音速が得られる割合で添加物を添加した樹脂液−1を所定の厚みwになるよう塗布した後、加熱硬化を行う。次に、さらに速い所定の音速が得られる割合で添加物を添加した樹脂液−2を所定の厚みwになるよう塗布した後、加熱硬化を行う。このように順次樹脂液の塗布と、加熱硬化を繰り返し、音響整合層8を構成する層8f〜8aを順に形成する。最後に樹脂液−7を塗設厚みが所定の厚みになるまで塗布と、加熱硬化を繰り返し図6(b)のように第1レンズ体21になる部分を形成する。
【0074】
母材の樹脂材料の音速を変えるため樹脂材料に添加する添加剤としては、例えば酸化亜鉛、アルミニウム、酸化アルミニウム、ジュラルミン、チタン、窒化ケイ素、炭化ボロン、モリブデン等が用いられる。これらの添加剤は、母材の樹脂材料に均一に添加し、母材と添加剤界面で音響不整合を生じないよう、波長に対して充分小さい粉末の状態で用いられることが好ましく、その粒径は10μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下であることが好ましい。
【0075】
<切断、研磨工程>
図6(b)のように樹脂材料を順次積層した物を、幅W2、高さH3の直方体になるように、第1レンズ体21の面と側面を切断し、切断面の研磨を行い、図6(c)に示すような音響レンズ7を得る。
【0076】
切断法としては、ダイシングソー、レーザーカッター、超音波カッター、高圧水カッターなどを用いることができる。
【0077】
図7は、第1の実施形態の超音波探触子のヘッド部の構成を示す断面図である。
【0078】
本実施形態では、単一の圧電素子で送受信を行うシングル型超音波探触子に本発明を適用した例を説明するが、特に限定されるものではなく送信用圧電素子と受信用圧電素子とを別体とし、超音波の送信時と受信時における動作を分離したアレイ型超音波探触子にも適用できる。
【0079】
以降の説明では図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X方向は超音波探触子1のエレベーション方向(ダイシングを行う方向)であり、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。また、Z軸方向は積層方向である。
【0080】
図7に示す超音波探触子1は、バッキング材5の上に第1電極15、送受信素子層2、第2電極14、音響レンズ7の順に積層されている。
【0081】
以降、積層順に各構成要素を説明する。
【0082】
(送受信素子層)
送受信素子層2は、ジルコン酸チタン酸鉛などの圧電材料から成る圧電素子であり、互いに厚み方向に対向する両面にそれぞれ第2電極14、第1電極15を備えている。送受信素子層2の厚みは320μm程度である。
【0083】
第2電極14、第1電極15は、図示せぬコネクタにより図4には図示せぬケーブル33と接続され、ケーブル33を介して送信回路42と接続する。第2電極14、第1電極15に電気信号を入力すると圧電素子が振動し、送受信素子層2からZ軸正方向に超音波を送信するように構成されている。
【0084】
第2電極14、第1電極15は、金、銀、アルミなどの金属材料を用いて、送受信素子層2の両面に蒸着法やフォトリソグラフィー法を用いて成膜する。
【0085】
また、第2電極14、第1電極15は、図4には図示せぬケーブル33を介して受信回路43とも接続する。
【0086】
送受信素子層2が被検体で反射した超音波の反射波を受信して振動すると、反射波に応じて第2電極14、第1電極15の間に電気信号が発生する。第2電極14、第1電極15の間に発生した電気信号は、ケーブル33を介して受信回路43で受信され、画像処理部44で画像化される。
【0087】
バッキング材5の上に、第2電極14と第1電極15とが形成された送受信素子層2を接着剤により接着して図7のように積層する。また、必要に応じて送受信素子層2と音響レンズ7の間に、その中間の音響インピーダンスを有する中間層を設けてもよい。
【0088】
積層後、送受信素子層2から超音波放射方向と反対の方向に向かってダイシングを行い、バッキング材5と第1電極15の接着層からさらにZ軸負方向に100μmの深さまでダイシングを行う。ダイシングによりできた溝部に、シリコン樹脂などから成る充填剤を充填した後、最上層に音響レンズ7を接着する。
【0089】
これ以外にも、音響レンズ7まで積層した後にダイシングを行い、溝部をシリコン樹脂などで充填したのちに音響レンズ7の上部と同様の材料からなる表面保護層を接着する態様でも良い。
【0090】
音響レンズ7は、送受信素子層2から送信された超音波を所定の距離に収束させる。
【0091】
(超音波診断装置および超音波探触子の各構成および動作)
図8は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図9は、実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0092】
超音波診断装置100は、図略の生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、受信した被検体で反射した超音波の反射波(エコー、超音波信号)から被検体内の内部状態を超音波画像として画像化し、表示部45に表示する。
【0093】
超音波探触子1は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子1は、図8に示すように、ケーブル33を介して超音波診断装置本体31と接続されており、送信回路42、受信回路43と電気的に接続されている。
【0094】
送信回路42は、制御部46の指令により、超音波探触子1へケーブル33を介して電気信号を送信し、超音波探触子1から被検体に対して超音波を送信させる。
【0095】
受信回路43は、制御部46の指令により、超音波探触子1からケーブル33を介して、被検体内からの超音波の反射波に応じた電気信号を受信する。
【0096】
画像処理部44は、制御部46の指令により、受信回路43が受信した電気信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する。
【0097】
表示部45は、液晶パネルなどから成り、制御部46の指令により、画像処理部44が画像化した超音波画像を表示する。
【0098】
操作入力部41は、スイッチやキーボードなどから構成され、ユーザが診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するために設けられている。
【0099】
制御部46は、CPU、メモリなどから構成され、操作入力部41の入力に基づいてプログラムされた手順により超音波診断装置100各部の制御を行う。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例]
(音響レンズの作製)
実施例では、図1と同じ構成のX軸方向の幅W=7mm、Z軸方向の高さH=7mm、Y軸方向の長さL=100mm、の直方体で、焦点距離f=40mmの音響レンズを図6で説明した手順で作製した。また、層8a〜8fの厚みはそれぞれ3μmとした。
【0102】
<樹脂基材の製造工程>
スチレンとジビニルベンゼンとを質量比95:5の割合で架橋した共重合体を材料として金型に注型し、図6(a)に示すようなL=100mm、W1=10mm、H1=5mmの蒲鉾状の樹脂基材25を作製した。樹脂基材25の音速Vと音響インピーダンスRを測定したところそれぞれ3600m/sec、22.0Ps・s・m−1であった。
【0103】
<樹脂液製造工程>
スチレンとジビニルベンゼンに添加剤の親油性酸化亜鉛ナノ微粒子と熱重合開始剤とを表2の質量比で混合した樹脂液−1〜7を作製した。
【0104】
【表2】

【0105】
表2に示す樹脂液−1〜7に含まれる添加剤の質量比は、表1の音響インピーダンスR〜Rが得られるように、添加剤を母材の樹脂材料に添加する体積割合Pを求め、質量比に換算して求めた。
【0106】
なお、表2の酸化亜鉛は、親油性酸化亜鉛ナノ微粒子(デグサ社製VP AdNano Z805)であり、平均粒径は250nmである。また、熱重合開始剤はアゾビスイソブチロニトリルを用いた。
【0107】
<積層工程>
樹脂基材25の凸面に樹脂液−1をディップ塗布法を用いて厚さ3μmになるように塗布し、直ちに強熱乾燥して架橋強化し、層8aを形成した。同様に、樹脂液−2〜6についても同じ手順で塗布及び加熱硬化を行い、層8b〜8fを形成した。
【0108】
第2レンズ体20は、層8fの上に樹脂液−7の塗布及び加熱硬化を繰り返し、図6(b)のような形状にした。塗設厚みは最大6mmになるようにした。
【0109】
<切断、研磨工程>
積層工程で得られた積層物を、幅W2=7mm、高さH3=7mmの直方体になるように、第1レンズ体21の面と側面を切断し、切断面の研磨を行い、図6(c)に示すような音響レンズ7を得た。
【0110】
(超音波探触子の作製)
試作した超音波探触子1は、次のように作製した。
【0111】
送受信素子層2は、ジルコン酸チタン酸鉛を材料として、X方向の長さ10mm、Y方向の長さ55mm、Z方向の長さ(厚み)320μmのシート状にラップ仕上げで作製した。
【0112】
次に、送受信素子層2の両面に、金を真空蒸着して0.3μm厚の第2電極14と第1電極15とを作製した。
【0113】
バッキング材5の上に、第2電極14と第1電極15とが形成された送受信素子層2を接着剤により接着して図7のように積層する。積層後、送受信素子層2からZ軸負方向に向かってダイシングを行い、バッキング材と第4電極の接着層からさらにZ軸負方向に100μmの深さまでダイシングを行った。
【0114】
最後に最上層に、音響レンズ7を接着し、実施例、実施例2の超音波探触子1を各5個作製した。
【0115】
[比較例]
(音響レンズの作製)
X軸方向の幅W=6mm、Y軸方向の幅L=100mm、Z軸方向に曲率半径10mmの凸面形状のレンズ面を有する焦点距離40mmの音響レンズを、シリコーンゴムを成型して作製した。Z軸方向の最大幅H=460μmである。
【0116】
(超音波探触子の作製)
実施例と同じ手順で各層を積層し、最後に最上層に、シリコーンゴムから成る音響レンズを接着し、比較例の超音波探触子1を5個作製した。
【0117】
[評価方法]
実施例と比較例のそれぞれの超音波探触子の焦点距離と減衰量を測定し、平均値を求めた。焦点距離の測定は水中ハイドロフォン法で行い、減衰量の測定はシングアラウンド法で行った。
【0118】
また、実施例と比較例の音響レンズ表面を不織布ワイパー(BEMCOT M−3II(商品名)、旭化成(株)製)に50gの荷重をかけて500回の摩擦試験を行った後、再度焦点距離を測定した。
【0119】
[結果]
【0120】
【表3】

【0121】
摩擦試験を行う前の実施例、比較例の焦点距離は表3のようにどちらも40mmであった。
【0122】
減衰量は表3に示すように、実施例の超音波探触子の中央では、周波数5MHzで1.2dB、周波数15MHzで8.3dB、端部では周波数5MHzで2.3dB、周波数15MHzで12.1dBであった。
【0123】
一方、比較例は、表3に示すように減衰量が周波数5MHzで4.1dB、周波数15MHzで21、3dBであり、周波数5MHzで約3dB、周波数15MHzで9dBも実施例より減衰が多くなっている。このように、本発明では、周波数5MHzで10dB/cm以下の減衰特性が得られることが確認できた。また、同一の焦点距離で、伝播損失の少ない音響レンズが得られることが確認できた。
【0124】
摩擦試験を行った後の実施例の焦点距離は表3のように変化が無かったが、比較例の焦点距離は12mm遠方に変化していた。このことから、本発明の音響レンズは対摩耗性に優れ、耐久性が高いことが確認できた。
【0125】
次に、本発明の超音波の反射を抑制する構造として、第1レンズ体21と第2レンズ体20の接合面の少なくとも1方に表面形状が音軸方向に沿って幅が異なる溝を複数形成する例を説明する。
【0126】
図10は、第2の実施形態の音響レンズ7の断面図である。
【0127】
図10(a)の例では、対向する第1レンズ体21の凹面と第2レンズ体20の凸面にそれぞれ溝71、72が設けられ、互いの溝71、72が接合している。
【0128】
このようにすると、第1レンズ体21と第2レンズ体20の間の音響インピーダンスを、第1レンズ体21から第2レンズ体20に向けてZ軸方向に連続的に変化するようにできる。
【0129】
図10(b)は、図10(a)の変形例であり、対向する第1レンズ体21の凹面と第2レンズ体20の凸面にそれぞれ溝71、72を設け、互いの溝71、72の間に音響整合材73を充填して接合した例である。
【0130】
図10(c)の例では、対向する第2レンズ体20の凸面にだけ溝71を設け、第1レンズ体21の凹面には溝を設けていない。第1レンズ体21の凹面と溝71の間に音響整合材73を充填して接合した例である。
【0131】
音響整合材73は、第1レンズ体21と第2レンズ体20の中間の音響インピーダンスを持つ材料から形成する。例えば、表2で説明したような添加物の割合を変えた樹脂液を用いれば良い。
【0132】
図10(b)、(c)の例でも同様に、第1レンズ体21と第2レンズ体20の間の音響インピーダンスを、第1レンズ体21から第2レンズ体20に向けてZ軸方向に連続的に変化するようにできる。
【0133】
以上このように、本発明によれば、高い周波数の超音波を低損失で収束させることができる音響レンズ、該音響レンズを有する超音波探触子、および該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0134】
1 超音波探触子
2 送受信素子
5 バッキング材
7 音響レンズ
8 音響整合層
14 第2電極
15 第1電極
20 第2レンズ体
21 第1レンズ体
25 樹脂基材
31 超音波診断装置本体
33 ケーブル
41 操作入力部
42 送信回路
43 受信回路
44 画像処理部
45 表示部
46 制御部
100 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部の厚みが周辺部の厚みより薄く、一方の面が凹面である第1レンズ体と、
超音波の伝播速度が前記第1レンズ体より遅い材料から形成され、中央部の厚みが周辺部の厚みより厚く、一方の面が凸面である第2レンズ体を有し、
前記第1レンズ体の凹面と前記第2レンズ体の凸面が、超音波の反射を抑制する構造に接合されて配置されることを特徴とする音響レンズ。
【請求項2】
前記超音波の反射を抑制する構造は、伝播速度が徐々に変化する薄膜層を前記第1レンズ体と前記第2レンズ体の間に積層させる音響整合層からなる構造であることを特徴とする請求項1に記載の音響レンズ。
【請求項3】
前記第1レンズ体および前記音響整合層は、
前記第2レンズ体を形成する母材樹脂に添加物を添加した樹脂材料を用いて形成したことを特徴とする請求項2に記載の音響レンズ。
【請求項4】
前記音響整合層は、
母材樹脂に添加した添加物の含有割合の異なる複数の層からなることを特徴とする請求項2または3に記載の音響レンズ。
【請求項5】
前記超音波の反射を抑制する構造は、前記第1レンズ体と前記第2レンズ体の接合面の少なくとも1方は表面形状が音軸方向に沿って幅が異なる溝を複数形成している構造であることを特徴とする請求項1に記載の音響レンズ。
【請求項6】
前記音響レンズの減衰特性は、
周波数5MHzで10dB/cm以下であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の音響レンズ。
【請求項7】
前記音響レンズの形状は、直方体であり、前記第1レンズ体の凹面の反対側の面と前記第2レンズ体の凸面の反対側の面は何れも平面であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の音響レンズ。
【請求項8】
前記第1レンズ体の凹面と第2レンズ体の凸面は、前記直方体の対向する2面に設けられていることを特徴とする請求項7に記載の音響レンズ。
【請求項9】
被検体に向けての超音波の送信、または被検体からの超音波の反射波の受信の少なくとも一方を行う超音波探触子において、
請求項1から8の何れか1項に記載の音響レンズを有し、
前記音響レンズを介して超音波を送信および受信、または送信もしくは受信をすることを特徴とする超音波探触子。
【請求項10】
超音波を被検体に向けて送信し、該被検体から受信した該超音波の反射波に応じて画像を生成する超音波診断装置において、
請求項9に記載の超音波探触子を有することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−166399(P2011−166399A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26229(P2010−26229)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】