音響構造体および定在波低減パネル
【課題】搬送や設置の負担および製造コストを大きくすることなく、低域から高域までの各モードの定在波を低減する技術的手段を提供する。
【解決手段】音響構造体6の側面21,22,23,24の内側には空洞26−Nがある。複数の音響構造体6を部屋90の壁1と壁2の間に並べて配置した場合、壁1と壁2の間の距離D1とほぼ同じ長さD1の空洞26’−kを有する定在波低減パネル10が形成される。空洞26’−k内に定在波SW1が入射すると、定在波W1とほぼ同じ周波数を有し且つ定在波W1に対して位相が180度回転した定在波SW1’が空洞26’−kから隙間G1およびG2を介して放射される。これにより、定在波SW1が低減する。
【解決手段】音響構造体6の側面21,22,23,24の内側には空洞26−Nがある。複数の音響構造体6を部屋90の壁1と壁2の間に並べて配置した場合、壁1と壁2の間の距離D1とほぼ同じ長さD1の空洞26’−kを有する定在波低減パネル10が形成される。空洞26’−k内に定在波SW1が入射すると、定在波W1とほぼ同じ周波数を有し且つ定在波W1に対して位相が180度回転した定在波SW1’が空洞26’−kから隙間G1およびG2を介して放射される。これにより、定在波SW1が低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響空間における音響障害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
壁に囲まれた音響空間では、平行対面する壁間で音が繰り返し反射することによって定在波が発生し、この定在波がブーミングやフラッターエコーなどの音響障害を発生させることがある。この種の音響障害の発生を防ぐ技術を開示した文献として、たとえば、特許文献1がある。
【0003】
特許文献1に開示された音響構造体は、部屋の内壁や天井などに設置して利用されるものである。この音響構造体は、全体として平面をなすように並列配置された複数の角筒状のパイプを有している。部屋内において発生した音が、この音響構造体のパイプの開口を介してパイプ内の空洞に入射すると、各空洞内において各空洞の共鳴周波数に応じた定在波が発生し、この定在波がパイプの開口から音響空間に向けて放射される。この結果、開口の近傍において、散乱効果および吸音効果が発生し、部屋内における定在波が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−30744号公報
【特許文献2】特開2010−84509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された音響構造体は、壁間の距離が当該音響構造体のパイプよりも著しく長い部屋に設置される場合がある。この場合、音響構造体の設置先の部屋において1次モードや2次モードなどの長い波長を有する定在波が発生し、この定在波が空洞内に入射しても、空洞内において共鳴現象が発生せず、1次モードや2次モードなどの長い波長を有する定在波を低減させることができなかった。一方、部屋における壁間の距離とほぼ同じ長さの空洞を有する音響構造体を部屋内に設置すれば、そのような長い波長を有する定在波を低減させることができる。しかしながら、そのようなあまりに長い空洞を有する音響構造体は、設置先への搬入や設置が容易でないという問題がある。また、想定される各種の部屋の大きさ、形状に合わせて多くの種類の音響構造体を製造すると製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、設置先の音響空間への搬送や設置の負担および製造コストを大きくすることなく、音響空間において発生する低域から高域までの各モードの定在波を低減できるような技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一方向に延在し且つその延在方向の一端および他端が開口している空洞を有する音響構造体であって、当該音響構造体と他の音響構造体とを連結した場合に当該音響構造体の空洞と他の音響構造体の空洞とが繋がって1つの空洞となるように構成されている音響構造体を提供する。
【0008】
本発明によると、音響構造体を適切な個数だけ連結することにより、設置先である音響空間の壁間の距離に相当する長さの連続した空洞を持った定在波低減パネルを構成することができる。従って、部屋の寸法に対応した個別の設計を行う手間が省ける。さらに、搬入や設置の負担および製造コストを大きくすることなく、波長の長い定在波を低減させる技術的手段を音響空間に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の第1実施形態である定在波低減パネルを部屋に設置した状態を下方から見た図である。
【図2】同定在波低減パネルを部屋に設置した状態を側方から見た図である。
【図3】同定在波低減パネルをなす音響構造体の斜視図である。
【図4】定在波低減パネルによる定在波の低減の原理を示す図である。
【図5】この発明の第2実施形態である音響構造体を示す斜視図である。
【図6】この発明の第3実施形態である音響構造体とその設置の態様を示す図である。
【図7】この発明の第4実施形態である音響構造体とその設置の態様を示す図である。
【図8】この発明の第5実施形態である音響構造体とその設置の態様を示す図である。
【図9】吊り下げボルトが立設された音響構造体を示す斜視図である。
【図10】音響構造体と吊持部材とを示す斜視図である。
【図11】この発明の他の実施形態である音響構造体を示す図である。
【図12】この発明の他の実施形態である音響構造体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である定在波低減パネル10を部屋90の内装天井5側に設けた状態を定在波低減パネル10の下方の床面側から見た図である。また、図2は、この状態を部屋90の側方から見た図である。図3は、定在波低減パネル10をなす複数の音響構造体6の1つを示す斜視図である。図1および図2の例において、定在波低減パネル10の設置先の音響空間である部屋90は、天井スラブ70の下の空間と当該部屋90とを隔てる内装天井5と、この内装天井5と対向する床71と、内装天井5および床71に直交する壁1,2,3,4とにより囲まれている。そして、この部屋90では、対向する一対の壁1および2が距離D1だけ離れており、もう一対の壁3および4が距離D2だけ離れている。
【0011】
図3に示すように、音響構造体6は、互いに向き合った平行な長方形状の側面21および22と、これらの側面21および22の両側において互いに向き合った平行な正方形状の側面23および24とにより囲まれた直方体をなしている。そして、音響構造体6において側面21,22,23,24により囲まれた内側には、側面21,22と平行な4つの仕切面25−M(M=1〜4)により仕切られた5つの空洞26−N(N=1〜5)がある。音響構造体6における空洞26−N(N=1〜5)の延在方向の一端および他端は、開口部となっている。
【0012】
図1および図2に示すように、本実施形態では、i個(図1および図2の例ではi=5)の音響構造体6を隣り合う音響構造体6の空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなるように空洞26−Nの延在方向に連結したものを、1つの音響構造体列11とする。そして、j列(図1および図2の例ではj=4)の音響構造体列11を空洞26−Nの延在方向と交差する方向に沿って結合したものを、定在波低減パネル10とする。この定在波低減パネル10は、壁1および2の各々との間に隙間G1およびG2ができるように内装天井5に沿って配置されている。この定在波低減パネル10をなすj列の音響構造体列11における空洞26’−Nの延在方向の長さ(図1におけるD1方向の長さ)は、j列の音響構造体列11の全てについて同じである。1つの部屋90に定在波低減パネル10として設置する音響構造体6の総数i×jは、i×j個の音響構造体6を部屋90の内装天井5に沿って並べた場合に内装天井5のほぼ全面を占めることができる程度の数にするとよい。
【0013】
以上が、定在波低減パネル10とその定在波低減パネル10をなす音響構造体6の構成の詳細である。この定在波低減パネル10によると、部屋90の壁1,2間の音波の繰り返し反射により発生するn(n=1,2…)次モードの定在波SWn(n=1,2…)を低減させることができる。以下、これらのn(n=1,2…)次モードの定在波SWn(n=1,2…)のうちの最も長い波長λ1を持った1次モードの定在波SW1に着目し、定在波低減パネル10によってこの定在波SW1が低減される理由について説明する。
【0014】
図4に示すように、部屋90において発生する1次モードの定在波SW1の波長λ1は、壁1,2間の距離D1の2倍になる。そして、この1次モードの定在波SW1は、定在波低減パネル10における音響構造体列11と壁1および2の各々との隙間G1,G2を介して音響構造体列11の空洞26’−N内に入射する。ここで、空洞26’−Nの長さD1’が部屋90の壁1,2間の距離D1とほぼ同じである場合、空洞26’−Nの共鳴周波数も定在波SW1の周波数とほぼ同じになる。よって、この場合、空洞26’−N内に定在波SW1が入射すると、空洞26’−N内において共鳴現象が発生する。空洞26’−N内において共鳴現象が発生すると、定在波SW1とほぼ同じ周波数を有し且つ定在波SW1に対して位相が180度回転した定在波SW1’が空洞26’−Nから隙間G1およびG2を介して放射される。これにより、隙間G1およびG2の近傍においては、互いに逆相でほぼ同じ波長λ1,λ1’を有する音波SW1,SW1’同士が打ち消しあう。その結果、部屋90における定在波SW1が低減される。
【0015】
以上説明した実施形態によると、部屋90の定在波SW1を低減させるような空洞26’−Nを有する定在波低減パネル10を、適切な数の音響構造体6を連結することによって簡単に作ることができる。また、本実施形態によると、部屋90のものと異なる様々な形状、大きさの部屋の定在波の低減に最も好適な定在波低減パネル10を、各種の部屋の大きさ、形状に合わせた多くの種類の音響構造体6を準備するのに比べて安いコストで作ることができる。
【0016】
<第2実施形態>
図5は、本発明の第2実施形態である音響構造体6Aを示す斜視図である。この音響構造体6Aは、2つの音響構造体6(図3)を対にし、その対をなす音響構造体6を、各々の空洞26−N(N=1〜5)の延在方向を交差させるように積層したものである。
【0017】
本実施形態では、部屋90の内装天井5に沿って並べた場合に内装天井5のほぼ全面を占めることができる程度の個数の音響構造体6Aを以下の2つの条件を満足するように格子状に連結したものを、定在波低減パネル10として内装天井5の下に固定する。
a1.壁1,2間の向きに沿って隣り合う音響構造体6Aにおける上側の音響構造体6の空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなること。
b1.壁3,4間の向きに沿って隣り合う音響構造体6Aにおける下側の音響構造体6の空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなること。
【0018】
本実施形態によると、次のような効果が得られる。部屋90内では、壁1及び2間の方向(X方向)の定在波と、壁4及び5間の方向(Y方向)の定在波と、内装天井5及び床71間の方向(Z方向)の定在波とが発生する。音響構造体6Aによると、これら3種類の定在波のうち、壁1及び2間の方向(X方向)の定在波と壁4及び5間の方向(Y方向)の定在波とが除去(緩和)される。また、通常は、部屋90内における床71には家具や什器が置かれるので、内装天井5及び床71間の方向(Z方向)の定在波は、特別な吸音材を用いなくても比較的容易に除去(緩和)される。従って、部屋90内に音響構造体6Aを備え付けることにより、部屋90内において発生する定在波の全てをほぼ完全に抑制することができる。なお、内装天井5及び床71間の方向(Z方向)の定在波の除去(緩和)を促す物が部屋90内にない場合は、音響構造体6Aにおける壁面を向く面に拡散体(凹凸形状の反射体)や吸音材を適宜設置すればよい。
【0019】
<第3実施形態>
図6(A)は、本発明の第3実施形態である音響構造体6Bを示す斜視図である。この音響構造体6Bの空洞26−N(N=1〜5)は、同寸法の台形状の側面61および62と長短2種類の寸法の長方形状の側面63および64とにより囲まれており、空洞26−N(N=1〜5)の一端および他端の開口面は、長方形状の両側面63および64のうち幅の長い方の側面64と鋭角に交差している。
【0020】
図6(B)に示すように、本実施形態では、奇数個(図6(B)の例では5個)の音響構造体6Bを隣り合う音響構造体6Bの空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなり且つ側面63と側面64の天地が互い違いになるように連結したものを、音響構造体列11とする。そして、一又は複数の音響構造体列11を、壁1,2に最も近い側の音響構造体6Bの側面64を内装天井5に向けて内装天井5の下に固定したものを、定在波低減パネル10とする。
【0021】
本実施形態では、音響構造体列11として連結される各音響構造体6の各々を部屋90の内装天井5の下に固定する場合において、壁1に最も近い側の音響構造体6Bの位置をその音響構造体6Bの側面64の端が壁1に接するようにして位置決めすると、その音響構造体6Bの側面63の端と壁1の間に隙間G1’ができる。また、壁2に最も近い側の音響構造体6Bの位置をその音響構造体6Bの側面64の端が壁2に接するように位置決めすると、その音響構造体6Bの側面64の端と壁2の間に隙間G2’ができる。よって、本実施形態によると、定在波低減パネル10の設置を効率よく行うことができる。また、部屋90の壁面の側から内装天井5が見えないように、定在波低減パネル10を設置することができる。
【0022】
<第4実施形態>
図7(A)は、本発明の第4実施形態である音響構造体6Cを示す斜視図である。この音響構造体6Cの空洞26−N(N=1〜5)は、同寸法の平行四辺形状の側面65および66と同寸法の長方形状の側面67および68とにより囲まれている。そして、空洞26−N(N=1〜5)の一端の開口面は側面67および68のうち一方の側面67と、空洞26−N(N=1〜5)の他端の開口面は側面67および68のうち他方の側面68と各々鋭角に交差している。
【0023】
図7(B)に示すように、本実施形態では、複数個(図7(B)の例では6個)の音響構造体6Cを、隣り合う音響構造体6Cの空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなり且つ側面67と側面68の天地が揃うように連結したものを、音響構造体列11とする。そして、一又は複数の音響構造体列11を部屋90の内装天井5の下に固定したものを定在波低減パネル10とする。
【0024】
本実施形態では、音響構造体列11として連結される各音響構造体6の各々を部屋90の内装天井5の下に固定する場合において、壁1に最も近い側の音響構造体6Bの位置をその音響構造体6Bの側面67の端が壁1に接するようにして位置決めすると、その音響構造体6Bの側面68の端と壁1の間に隙間G1”ができる。よって、本実施形態によると、定在波低減パネル10の設置を効率よく行うことができる。
【0025】
<第5実施形態>
図8は、本発明の第5実施形態である定在波低減パネル90を部屋10の天井側に設けた状態を部屋90の側方から見た図である。本実施形態では、定在波低減パネル10をなすi×j個の音響構造体6が、部屋の内装天井5に対して間隔を空けて設置されている。本実施形態では、i×j個の音響構造体6の各々を、以下に示す態様によって部屋90の内装天井5の下に固定する。
【0026】
第1の態様では、図9に示すように、音響構造体6の側面23における4隅のやや内側に吊り下げボルト40,41,42,43を立設し、この吊り下げボルト40,41,42,43の上端を内装天井5に固定する。この態様では、隣り合う音響構造体6の空洞26−Nの境界部分が密閉されるように、音響構造体6の側面21,22,23,24の端部の外側に環状のゴムなどを巻回するとよい。
【0027】
第2の態様では、図10に示すように、音響構造体6の端部を収容できる程度の収容枠37を持った吊持部材7により音響構造体6の端部を連結する。収容枠37は、上下方向に並ぶ板31および32の間に左右方向に並ぶ板33および34を介在させたものである。ここで、収容枠37における板31と板32の間隔は音響構造体6の側面23,24間の厚さよりも僅かに広くなっており、板33と板34の間隔は音響構造体6の側面21,22間の幅よりも僅かに広くなっている。従って、音響構造体6の端部を収容枠37内に収容することができる。また、収容枠37における上側の板31の端部のやや内側には吊り下げボルト35および36が立設されている。この態様では、複数の吊持部材7を音響構造体6の側面23,24の一辺の長さを空けて内装天井5から吊り下げる。そして、各吊持部材7の収容枠37の一方から1つの音響構造体6の端部を嵌め込み、その収容枠37の他方からもう1つの音響構造体6の端部を嵌め込む。この態様では、収容枠37に両側から嵌め込まれた2つの音響構造体6の空洞26−Nの境界部分が密閉されるように、収容枠37の内側にゴムなどによるシーリングを施すとよい。
【0028】
本実施形態では、定在波パネル10における音響構造体列11を内装天井5自体に直接接合するのではなく、吊り下げボルト40,41,42,43や吊持部材7を介して内装天井5の下方に設置する。よって、吊り下げボルト40,41,42,43や吊持部材7の長さ相当の幅を持った音響構造体列11及び内装天井5間の空間に、グラスウールや板状材料などの吸音材を設置することができる。従って、部屋90内においてブーミングを引き起こす定在波を音響構造体6で除去し、定在波を除去した残りの周波数成分を吸音材により調整する、といった態様で利用することもできる。
【0029】
さらに、本実施形態では、内装天井5の下方に空間を設けて音響構造体列11を設置したので、音響構造体列11で構成される遮音層の遮音性能の分だけ、上階からの騒音に対して騒音を低減する効果を有することとなる。
【0030】
以上、この発明の第1から第5実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1から第5実施形態では、複数の音響構造体6を部屋90の内装天井5の下に固定した。しかし、複数の音響構造体6を部屋90の壁1,2,3,4のいずれかにおける内装天井5と床71の間に固定してもよい。
【0031】
(2)上記第1から第5実施形態では、音響構造体6は5つの空洞26−N(N=1〜5)を有していた。しかし、音響構造体6内の空洞の数を4つ以下にしてもよいし、6つ以上にしてもよい。
(3)上記第1から第5実施形態において、音響構造体列11を、対向する壁1,2間に対して直交する姿勢で内装天井5の下に固定する必要はない。たとえば、音響構造体11を、壁1および2に対して空洞26−N(N=1〜5)の延在方向が斜めに交わるようにして内装天井5の下に固定してもよい。
【0032】
(4)上記第1から第5実施形態において、定在波低減パネル10は、複数の音響構造体列11を部屋90の内装天井5に沿って配列したものであった。しかし、1つの音響構造体列11を定在波低減パネル10としてもよい。また、複数の音響構造体列11における隣り合った音響構造体列11同士を接触させた状態で配列したものを定在波低減パネル10としてもよいし、隣り合った音響構造体6同士を離間させた状態で配列したものを定在波低減パネル10としてもよい。
【0033】
(5)上記第3実施形態において、音響構造体6Bの空洞26−N(N=1〜5)の一端および他端の開口面の各々と側面64とがなす角度θ1およびθ2のうち少なくとも一方を45度を超える角度にするとよい。図11(A)は、角度θ1及びθ2の両方を45度を超える角度とした音響構造体6B’であって、側面64の端を部屋90の壁1に接触させるようにして設置したものを、部屋90の壁3の側から見た図である。図11(B)は、音響構造体6B’を部屋90の壁1の側から見た図である。図11(C)は、音響構造体6B’を部屋90の壁面の側から見た図である。図11(A)、図11(B)、及び図11(C)に示すように、この音響構造体10B’では、空洞26−N(N=1〜5)における壁1側の開口面と側面64とがなす角度θ1が45度を超えているため、側面63の端と壁1の間にできる隙間G1’の幅は空洞26−Nの高さhよりも小さくなる。よって、この場合、隙間G1’の面積S1が空洞26−Nにおける空洞26−Nの延在方向に直交する断面の断面積SHよりも隙間G1’の面積S1の方が狭くなり、より大きな吸音効果および散乱効果を得ることができる。この面積S1と面積SHの大小と吸音効果及び散乱効果との関係については、特許文献2(特に、図9)を参照されたい。
【0034】
(6)上記第4実施形態では、複数個の音響構造体6Cを連結した定在波低減パネル10を部屋90の内装天井5の下に固定した。しかし、図12に示すように、複数個の音響構造体6Cを連結した音響構造体列11を、内装天井5を取り去った部屋90’に設け、この定在波低減パネル10によって部屋90’と天井スラブ70の下の空間とを隔てるようにしてもよい。部屋90’の上階(天井スラブ70の上)に別の部屋90”ある場合、部屋90”において発生した床衝撃音(低音域が主体の音)が天井スラブ70の下の空間を介して部屋90’へ伝搬することがある。複数個の音響構造体6Cを連結した音響構造体列11を部屋90’に設けることにより、床衝撃音が音響構造体列11における壁2側の端部と壁2との間にできる隙間G2”から空洞26’−N内に伝搬され、床衝撃音が緩和される。よって、この実施形態によると、部屋90’内で発生した定在波と部屋90”において発生した床衝撃音とを緩和し、部屋90’内において静かな環境を実現することができる。また、部屋90’の階下に別仕様の定在波低減パネルを設置した部屋がある場合、その階下の部屋内においても静かな環境を実現することができる。
【0035】
(7)上記第2実施形態における音響構造体6Aは、2層の音響構造体6を積層したものであった。しかし、3層以上の音響構造体6を積層してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1,2,3,4…壁、5…内装天井、6,6A,6B,6C…音響構造体、7…吊持部材、10…定在波低減パネル、11…音響構造体列、26…空洞、31,32,33,34…板、37…収容枠、21,22,23,24,35,36、61,63,64、65,66,67,68…側面、35,36,40,41,42,43,44,45,46,47…吊り下げボルト、70…天井スラブ、71…床、90…部屋。
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響空間における音響障害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
壁に囲まれた音響空間では、平行対面する壁間で音が繰り返し反射することによって定在波が発生し、この定在波がブーミングやフラッターエコーなどの音響障害を発生させることがある。この種の音響障害の発生を防ぐ技術を開示した文献として、たとえば、特許文献1がある。
【0003】
特許文献1に開示された音響構造体は、部屋の内壁や天井などに設置して利用されるものである。この音響構造体は、全体として平面をなすように並列配置された複数の角筒状のパイプを有している。部屋内において発生した音が、この音響構造体のパイプの開口を介してパイプ内の空洞に入射すると、各空洞内において各空洞の共鳴周波数に応じた定在波が発生し、この定在波がパイプの開口から音響空間に向けて放射される。この結果、開口の近傍において、散乱効果および吸音効果が発生し、部屋内における定在波が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−30744号公報
【特許文献2】特開2010−84509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された音響構造体は、壁間の距離が当該音響構造体のパイプよりも著しく長い部屋に設置される場合がある。この場合、音響構造体の設置先の部屋において1次モードや2次モードなどの長い波長を有する定在波が発生し、この定在波が空洞内に入射しても、空洞内において共鳴現象が発生せず、1次モードや2次モードなどの長い波長を有する定在波を低減させることができなかった。一方、部屋における壁間の距離とほぼ同じ長さの空洞を有する音響構造体を部屋内に設置すれば、そのような長い波長を有する定在波を低減させることができる。しかしながら、そのようなあまりに長い空洞を有する音響構造体は、設置先への搬入や設置が容易でないという問題がある。また、想定される各種の部屋の大きさ、形状に合わせて多くの種類の音響構造体を製造すると製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、設置先の音響空間への搬送や設置の負担および製造コストを大きくすることなく、音響空間において発生する低域から高域までの各モードの定在波を低減できるような技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一方向に延在し且つその延在方向の一端および他端が開口している空洞を有する音響構造体であって、当該音響構造体と他の音響構造体とを連結した場合に当該音響構造体の空洞と他の音響構造体の空洞とが繋がって1つの空洞となるように構成されている音響構造体を提供する。
【0008】
本発明によると、音響構造体を適切な個数だけ連結することにより、設置先である音響空間の壁間の距離に相当する長さの連続した空洞を持った定在波低減パネルを構成することができる。従って、部屋の寸法に対応した個別の設計を行う手間が省ける。さらに、搬入や設置の負担および製造コストを大きくすることなく、波長の長い定在波を低減させる技術的手段を音響空間に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の第1実施形態である定在波低減パネルを部屋に設置した状態を下方から見た図である。
【図2】同定在波低減パネルを部屋に設置した状態を側方から見た図である。
【図3】同定在波低減パネルをなす音響構造体の斜視図である。
【図4】定在波低減パネルによる定在波の低減の原理を示す図である。
【図5】この発明の第2実施形態である音響構造体を示す斜視図である。
【図6】この発明の第3実施形態である音響構造体とその設置の態様を示す図である。
【図7】この発明の第4実施形態である音響構造体とその設置の態様を示す図である。
【図8】この発明の第5実施形態である音響構造体とその設置の態様を示す図である。
【図9】吊り下げボルトが立設された音響構造体を示す斜視図である。
【図10】音響構造体と吊持部材とを示す斜視図である。
【図11】この発明の他の実施形態である音響構造体を示す図である。
【図12】この発明の他の実施形態である音響構造体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である定在波低減パネル10を部屋90の内装天井5側に設けた状態を定在波低減パネル10の下方の床面側から見た図である。また、図2は、この状態を部屋90の側方から見た図である。図3は、定在波低減パネル10をなす複数の音響構造体6の1つを示す斜視図である。図1および図2の例において、定在波低減パネル10の設置先の音響空間である部屋90は、天井スラブ70の下の空間と当該部屋90とを隔てる内装天井5と、この内装天井5と対向する床71と、内装天井5および床71に直交する壁1,2,3,4とにより囲まれている。そして、この部屋90では、対向する一対の壁1および2が距離D1だけ離れており、もう一対の壁3および4が距離D2だけ離れている。
【0011】
図3に示すように、音響構造体6は、互いに向き合った平行な長方形状の側面21および22と、これらの側面21および22の両側において互いに向き合った平行な正方形状の側面23および24とにより囲まれた直方体をなしている。そして、音響構造体6において側面21,22,23,24により囲まれた内側には、側面21,22と平行な4つの仕切面25−M(M=1〜4)により仕切られた5つの空洞26−N(N=1〜5)がある。音響構造体6における空洞26−N(N=1〜5)の延在方向の一端および他端は、開口部となっている。
【0012】
図1および図2に示すように、本実施形態では、i個(図1および図2の例ではi=5)の音響構造体6を隣り合う音響構造体6の空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなるように空洞26−Nの延在方向に連結したものを、1つの音響構造体列11とする。そして、j列(図1および図2の例ではj=4)の音響構造体列11を空洞26−Nの延在方向と交差する方向に沿って結合したものを、定在波低減パネル10とする。この定在波低減パネル10は、壁1および2の各々との間に隙間G1およびG2ができるように内装天井5に沿って配置されている。この定在波低減パネル10をなすj列の音響構造体列11における空洞26’−Nの延在方向の長さ(図1におけるD1方向の長さ)は、j列の音響構造体列11の全てについて同じである。1つの部屋90に定在波低減パネル10として設置する音響構造体6の総数i×jは、i×j個の音響構造体6を部屋90の内装天井5に沿って並べた場合に内装天井5のほぼ全面を占めることができる程度の数にするとよい。
【0013】
以上が、定在波低減パネル10とその定在波低減パネル10をなす音響構造体6の構成の詳細である。この定在波低減パネル10によると、部屋90の壁1,2間の音波の繰り返し反射により発生するn(n=1,2…)次モードの定在波SWn(n=1,2…)を低減させることができる。以下、これらのn(n=1,2…)次モードの定在波SWn(n=1,2…)のうちの最も長い波長λ1を持った1次モードの定在波SW1に着目し、定在波低減パネル10によってこの定在波SW1が低減される理由について説明する。
【0014】
図4に示すように、部屋90において発生する1次モードの定在波SW1の波長λ1は、壁1,2間の距離D1の2倍になる。そして、この1次モードの定在波SW1は、定在波低減パネル10における音響構造体列11と壁1および2の各々との隙間G1,G2を介して音響構造体列11の空洞26’−N内に入射する。ここで、空洞26’−Nの長さD1’が部屋90の壁1,2間の距離D1とほぼ同じである場合、空洞26’−Nの共鳴周波数も定在波SW1の周波数とほぼ同じになる。よって、この場合、空洞26’−N内に定在波SW1が入射すると、空洞26’−N内において共鳴現象が発生する。空洞26’−N内において共鳴現象が発生すると、定在波SW1とほぼ同じ周波数を有し且つ定在波SW1に対して位相が180度回転した定在波SW1’が空洞26’−Nから隙間G1およびG2を介して放射される。これにより、隙間G1およびG2の近傍においては、互いに逆相でほぼ同じ波長λ1,λ1’を有する音波SW1,SW1’同士が打ち消しあう。その結果、部屋90における定在波SW1が低減される。
【0015】
以上説明した実施形態によると、部屋90の定在波SW1を低減させるような空洞26’−Nを有する定在波低減パネル10を、適切な数の音響構造体6を連結することによって簡単に作ることができる。また、本実施形態によると、部屋90のものと異なる様々な形状、大きさの部屋の定在波の低減に最も好適な定在波低減パネル10を、各種の部屋の大きさ、形状に合わせた多くの種類の音響構造体6を準備するのに比べて安いコストで作ることができる。
【0016】
<第2実施形態>
図5は、本発明の第2実施形態である音響構造体6Aを示す斜視図である。この音響構造体6Aは、2つの音響構造体6(図3)を対にし、その対をなす音響構造体6を、各々の空洞26−N(N=1〜5)の延在方向を交差させるように積層したものである。
【0017】
本実施形態では、部屋90の内装天井5に沿って並べた場合に内装天井5のほぼ全面を占めることができる程度の個数の音響構造体6Aを以下の2つの条件を満足するように格子状に連結したものを、定在波低減パネル10として内装天井5の下に固定する。
a1.壁1,2間の向きに沿って隣り合う音響構造体6Aにおける上側の音響構造体6の空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなること。
b1.壁3,4間の向きに沿って隣り合う音響構造体6Aにおける下側の音響構造体6の空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなること。
【0018】
本実施形態によると、次のような効果が得られる。部屋90内では、壁1及び2間の方向(X方向)の定在波と、壁4及び5間の方向(Y方向)の定在波と、内装天井5及び床71間の方向(Z方向)の定在波とが発生する。音響構造体6Aによると、これら3種類の定在波のうち、壁1及び2間の方向(X方向)の定在波と壁4及び5間の方向(Y方向)の定在波とが除去(緩和)される。また、通常は、部屋90内における床71には家具や什器が置かれるので、内装天井5及び床71間の方向(Z方向)の定在波は、特別な吸音材を用いなくても比較的容易に除去(緩和)される。従って、部屋90内に音響構造体6Aを備え付けることにより、部屋90内において発生する定在波の全てをほぼ完全に抑制することができる。なお、内装天井5及び床71間の方向(Z方向)の定在波の除去(緩和)を促す物が部屋90内にない場合は、音響構造体6Aにおける壁面を向く面に拡散体(凹凸形状の反射体)や吸音材を適宜設置すればよい。
【0019】
<第3実施形態>
図6(A)は、本発明の第3実施形態である音響構造体6Bを示す斜視図である。この音響構造体6Bの空洞26−N(N=1〜5)は、同寸法の台形状の側面61および62と長短2種類の寸法の長方形状の側面63および64とにより囲まれており、空洞26−N(N=1〜5)の一端および他端の開口面は、長方形状の両側面63および64のうち幅の長い方の側面64と鋭角に交差している。
【0020】
図6(B)に示すように、本実施形態では、奇数個(図6(B)の例では5個)の音響構造体6Bを隣り合う音響構造体6Bの空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなり且つ側面63と側面64の天地が互い違いになるように連結したものを、音響構造体列11とする。そして、一又は複数の音響構造体列11を、壁1,2に最も近い側の音響構造体6Bの側面64を内装天井5に向けて内装天井5の下に固定したものを、定在波低減パネル10とする。
【0021】
本実施形態では、音響構造体列11として連結される各音響構造体6の各々を部屋90の内装天井5の下に固定する場合において、壁1に最も近い側の音響構造体6Bの位置をその音響構造体6Bの側面64の端が壁1に接するようにして位置決めすると、その音響構造体6Bの側面63の端と壁1の間に隙間G1’ができる。また、壁2に最も近い側の音響構造体6Bの位置をその音響構造体6Bの側面64の端が壁2に接するように位置決めすると、その音響構造体6Bの側面64の端と壁2の間に隙間G2’ができる。よって、本実施形態によると、定在波低減パネル10の設置を効率よく行うことができる。また、部屋90の壁面の側から内装天井5が見えないように、定在波低減パネル10を設置することができる。
【0022】
<第4実施形態>
図7(A)は、本発明の第4実施形態である音響構造体6Cを示す斜視図である。この音響構造体6Cの空洞26−N(N=1〜5)は、同寸法の平行四辺形状の側面65および66と同寸法の長方形状の側面67および68とにより囲まれている。そして、空洞26−N(N=1〜5)の一端の開口面は側面67および68のうち一方の側面67と、空洞26−N(N=1〜5)の他端の開口面は側面67および68のうち他方の側面68と各々鋭角に交差している。
【0023】
図7(B)に示すように、本実施形態では、複数個(図7(B)の例では6個)の音響構造体6Cを、隣り合う音響構造体6Cの空洞26−N同士が繋がって1つの空洞26’−Nとなり且つ側面67と側面68の天地が揃うように連結したものを、音響構造体列11とする。そして、一又は複数の音響構造体列11を部屋90の内装天井5の下に固定したものを定在波低減パネル10とする。
【0024】
本実施形態では、音響構造体列11として連結される各音響構造体6の各々を部屋90の内装天井5の下に固定する場合において、壁1に最も近い側の音響構造体6Bの位置をその音響構造体6Bの側面67の端が壁1に接するようにして位置決めすると、その音響構造体6Bの側面68の端と壁1の間に隙間G1”ができる。よって、本実施形態によると、定在波低減パネル10の設置を効率よく行うことができる。
【0025】
<第5実施形態>
図8は、本発明の第5実施形態である定在波低減パネル90を部屋10の天井側に設けた状態を部屋90の側方から見た図である。本実施形態では、定在波低減パネル10をなすi×j個の音響構造体6が、部屋の内装天井5に対して間隔を空けて設置されている。本実施形態では、i×j個の音響構造体6の各々を、以下に示す態様によって部屋90の内装天井5の下に固定する。
【0026】
第1の態様では、図9に示すように、音響構造体6の側面23における4隅のやや内側に吊り下げボルト40,41,42,43を立設し、この吊り下げボルト40,41,42,43の上端を内装天井5に固定する。この態様では、隣り合う音響構造体6の空洞26−Nの境界部分が密閉されるように、音響構造体6の側面21,22,23,24の端部の外側に環状のゴムなどを巻回するとよい。
【0027】
第2の態様では、図10に示すように、音響構造体6の端部を収容できる程度の収容枠37を持った吊持部材7により音響構造体6の端部を連結する。収容枠37は、上下方向に並ぶ板31および32の間に左右方向に並ぶ板33および34を介在させたものである。ここで、収容枠37における板31と板32の間隔は音響構造体6の側面23,24間の厚さよりも僅かに広くなっており、板33と板34の間隔は音響構造体6の側面21,22間の幅よりも僅かに広くなっている。従って、音響構造体6の端部を収容枠37内に収容することができる。また、収容枠37における上側の板31の端部のやや内側には吊り下げボルト35および36が立設されている。この態様では、複数の吊持部材7を音響構造体6の側面23,24の一辺の長さを空けて内装天井5から吊り下げる。そして、各吊持部材7の収容枠37の一方から1つの音響構造体6の端部を嵌め込み、その収容枠37の他方からもう1つの音響構造体6の端部を嵌め込む。この態様では、収容枠37に両側から嵌め込まれた2つの音響構造体6の空洞26−Nの境界部分が密閉されるように、収容枠37の内側にゴムなどによるシーリングを施すとよい。
【0028】
本実施形態では、定在波パネル10における音響構造体列11を内装天井5自体に直接接合するのではなく、吊り下げボルト40,41,42,43や吊持部材7を介して内装天井5の下方に設置する。よって、吊り下げボルト40,41,42,43や吊持部材7の長さ相当の幅を持った音響構造体列11及び内装天井5間の空間に、グラスウールや板状材料などの吸音材を設置することができる。従って、部屋90内においてブーミングを引き起こす定在波を音響構造体6で除去し、定在波を除去した残りの周波数成分を吸音材により調整する、といった態様で利用することもできる。
【0029】
さらに、本実施形態では、内装天井5の下方に空間を設けて音響構造体列11を設置したので、音響構造体列11で構成される遮音層の遮音性能の分だけ、上階からの騒音に対して騒音を低減する効果を有することとなる。
【0030】
以上、この発明の第1から第5実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1から第5実施形態では、複数の音響構造体6を部屋90の内装天井5の下に固定した。しかし、複数の音響構造体6を部屋90の壁1,2,3,4のいずれかにおける内装天井5と床71の間に固定してもよい。
【0031】
(2)上記第1から第5実施形態では、音響構造体6は5つの空洞26−N(N=1〜5)を有していた。しかし、音響構造体6内の空洞の数を4つ以下にしてもよいし、6つ以上にしてもよい。
(3)上記第1から第5実施形態において、音響構造体列11を、対向する壁1,2間に対して直交する姿勢で内装天井5の下に固定する必要はない。たとえば、音響構造体11を、壁1および2に対して空洞26−N(N=1〜5)の延在方向が斜めに交わるようにして内装天井5の下に固定してもよい。
【0032】
(4)上記第1から第5実施形態において、定在波低減パネル10は、複数の音響構造体列11を部屋90の内装天井5に沿って配列したものであった。しかし、1つの音響構造体列11を定在波低減パネル10としてもよい。また、複数の音響構造体列11における隣り合った音響構造体列11同士を接触させた状態で配列したものを定在波低減パネル10としてもよいし、隣り合った音響構造体6同士を離間させた状態で配列したものを定在波低減パネル10としてもよい。
【0033】
(5)上記第3実施形態において、音響構造体6Bの空洞26−N(N=1〜5)の一端および他端の開口面の各々と側面64とがなす角度θ1およびθ2のうち少なくとも一方を45度を超える角度にするとよい。図11(A)は、角度θ1及びθ2の両方を45度を超える角度とした音響構造体6B’であって、側面64の端を部屋90の壁1に接触させるようにして設置したものを、部屋90の壁3の側から見た図である。図11(B)は、音響構造体6B’を部屋90の壁1の側から見た図である。図11(C)は、音響構造体6B’を部屋90の壁面の側から見た図である。図11(A)、図11(B)、及び図11(C)に示すように、この音響構造体10B’では、空洞26−N(N=1〜5)における壁1側の開口面と側面64とがなす角度θ1が45度を超えているため、側面63の端と壁1の間にできる隙間G1’の幅は空洞26−Nの高さhよりも小さくなる。よって、この場合、隙間G1’の面積S1が空洞26−Nにおける空洞26−Nの延在方向に直交する断面の断面積SHよりも隙間G1’の面積S1の方が狭くなり、より大きな吸音効果および散乱効果を得ることができる。この面積S1と面積SHの大小と吸音効果及び散乱効果との関係については、特許文献2(特に、図9)を参照されたい。
【0034】
(6)上記第4実施形態では、複数個の音響構造体6Cを連結した定在波低減パネル10を部屋90の内装天井5の下に固定した。しかし、図12に示すように、複数個の音響構造体6Cを連結した音響構造体列11を、内装天井5を取り去った部屋90’に設け、この定在波低減パネル10によって部屋90’と天井スラブ70の下の空間とを隔てるようにしてもよい。部屋90’の上階(天井スラブ70の上)に別の部屋90”ある場合、部屋90”において発生した床衝撃音(低音域が主体の音)が天井スラブ70の下の空間を介して部屋90’へ伝搬することがある。複数個の音響構造体6Cを連結した音響構造体列11を部屋90’に設けることにより、床衝撃音が音響構造体列11における壁2側の端部と壁2との間にできる隙間G2”から空洞26’−N内に伝搬され、床衝撃音が緩和される。よって、この実施形態によると、部屋90’内で発生した定在波と部屋90”において発生した床衝撃音とを緩和し、部屋90’内において静かな環境を実現することができる。また、部屋90’の階下に別仕様の定在波低減パネルを設置した部屋がある場合、その階下の部屋内においても静かな環境を実現することができる。
【0035】
(7)上記第2実施形態における音響構造体6Aは、2層の音響構造体6を積層したものであった。しかし、3層以上の音響構造体6を積層してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1,2,3,4…壁、5…内装天井、6,6A,6B,6C…音響構造体、7…吊持部材、10…定在波低減パネル、11…音響構造体列、26…空洞、31,32,33,34…板、37…収容枠、21,22,23,24,35,36、61,63,64、65,66,67,68…側面、35,36,40,41,42,43,44,45,46,47…吊り下げボルト、70…天井スラブ、71…床、90…部屋。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延在し且つその延在方向の一端および他端が開口している空洞を有する音響構造体であって、当該音響構造体と他の音響構造体とを連結した場合に当該音響構造体の空洞と他の音響構造体の空洞とが繋がって1つの空洞となるように構成されていることを特徴とする音響構造体。
【請求項2】
各々の空洞の延在方向を交差させた状態で請求項1に記載の音響構造体を2層以上積層してなることを特徴とする音響構造体。
【請求項3】
前記音響構造体において空洞が開口している端部の開口面と前記音響構造体の空洞を囲む側面のうちの一側面とが鋭角をなすことを特徴とする請求項1または2に記載の音響構造体。
【請求項4】
音響空間の境界面の端から端までの全面または一面を占める程度の個数の請求項1に記載の音響構造体を複数連結した音響構造体列を前記音響空間の境界面に沿って1または複数列配置してなることを特徴とする定在波低減パネル。
【請求項1】
一方向に延在し且つその延在方向の一端および他端が開口している空洞を有する音響構造体であって、当該音響構造体と他の音響構造体とを連結した場合に当該音響構造体の空洞と他の音響構造体の空洞とが繋がって1つの空洞となるように構成されていることを特徴とする音響構造体。
【請求項2】
各々の空洞の延在方向を交差させた状態で請求項1に記載の音響構造体を2層以上積層してなることを特徴とする音響構造体。
【請求項3】
前記音響構造体において空洞が開口している端部の開口面と前記音響構造体の空洞を囲む側面のうちの一側面とが鋭角をなすことを特徴とする請求項1または2に記載の音響構造体。
【請求項4】
音響空間の境界面の端から端までの全面または一面を占める程度の個数の請求項1に記載の音響構造体を複数連結した音響構造体列を前記音響空間の境界面に沿って1または複数列配置してなることを特徴とする定在波低減パネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−242558(P2011−242558A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113701(P2010−113701)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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