説明

音響特性測定装置

【課題】試料を破壊することなく、また試料に対して非接触で且つ閉空間において音響特性を測定することのできる装置を提供する。
【解決手段】開口端(5a)側に粒子速度センサ(2)及びマイクロホン(3)を有し、閉口端(5b)側にスピーカ(4)を有する音響管(5)内へ、スピーカ(4)から平面波が発生されるように演算部(8)が所定周波数の信号でスピーカ(4)を駆動する。この時に粒子速度センサ(2)及びマイクロホン(3)からの出力信号に基づき、演算部(8)が開口端(5a)に対して所定間隔を置いて近接配置された試料(6)の音響特性を測定する。粒子速度センサ(2)とマイクロホン(3)は、共に試料(6)から等距離離れて音響管(5)内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響特性測定装置に関し、特に試料(測定対象物)表面の音響インピーダンスなどの音響特性を測定するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両等の開発において振動騒音を開発段階でより早く、より精度よく予測できるCAE(Computer Aided Engineering)技術が望まれている。
【0003】
一般に、車両騒音を予測する場合には、(1)音源、(2)伝達構造、(3)評価点に着目して、これら(1)から(3)のモデル化を行い、理論計算(境界要素法、有限要素法)を行うが、この計算を行う上で各境界条件を正確に測定し、適用する必要がある。
【0004】
例えば、試料表面の音響インピーダンス(Z)を求めるには、2マイクロホン方式による音響測定装置があった(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このような2マイクロホン方式による音響特性の測定では、試料を破壊して音響管の中に詰めると共に、裏から試料を押さえ付けるなどが必要であり、音響管と試料を接触させることが行われてきた。このため、試料が傷ついたり傷んだりするという問題があった。
【0006】
また、このような従来の2マイクロホン方式では、試料に対する入射波と反射波の位相遅れを検出するものであるので、2つのマイクロホン間隔を十分に長くする必要があり、音響管が巨大になるという問題もあった。
【0007】
このように、特許文献1による音響特性測定装置では、試料を破壊する必要があり、また試料に直接接触しなければならず、さらには音響管を長くしなければならないという問題があり、このような問題を解決するため、粒子速度センサとマイクロホンを用いた音響特性測定方式が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0008】
このような非特許文献1の音響特性測定方式を図4により説明する。
【0009】
この音響特性測定装置10は、同図(1)に示すように、開空間における音響特性を測定するため、粒子速度センサ2及びマイクロホン3が共に試料6から等距離dに配置され、これらの出力信号がそれぞれチャネルCH1及びチャネルCH2として演算部8に与えられる。この演算部8は、さらにアンプ7を経由してランダムノイズNをスピーカ4に与えることにより、スピーカ4からの出力音波が長さlの空間を介して粒子速度センサ2及びマイクロホン3に同時に与えられるようになっている。
【0010】
同図(2)は、粒子速度センサ2とマイクロホン3とスピーカ4と試料6の関係を抜き出して示したもので、通常の環境で音響インピーダンスZを測定するには、音源であるスピーカ4と測定対象材料としての試料6の表面の音圧Pと粒子速度Uが必要であり、これらはそれぞれマイクロホン3と粒子速度センサ2によって検出されるので、音響インピーダンスZは、
Z=P/U ・・・式(1)
で求めることができる。
【0011】
この音響インピーダンスZにより音響アドミッタンスβが求められると共に、さらに反射率γや吸音率αも得られる。
【特許文献1】特開2003-83805号公報
【非特許文献1】Teruo Iwase, Koichi Yoshihisa,“Measuring Method of Sound Reflection and Absorption Characteristics Based on the Particle Velocity and its Applications to Measurements on Such as Drainage Pavement of Road Surface”, Inter-noise 2003, p.697-704
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の非特許文献1では、開空間における音響特性を測定するものであるため、閉空間における音響特性を測定することはできない。従って、例えば、車内で音響特性を測定する場合に、この開空間における測定方式をそのまま適用した場合には、車内が複雑な形状であるため反射波が複雑に反射してしまい正確に測定することができない。
【0013】
これを回避するため、音響設備の整った測定室などでこれら自動車部品の音響特性を測定する場合には、巨大な測定室を準備すると共に試料を車両から破壊して所定形状にし、所定位置に配置する必要があった。
【0014】
従って、本発明は、試料を破壊することなく、また試料に対して非接触で且つ狭い閉空間において音響測定を測定することのできる音響特性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明に係る音響特性測定装置は、開口端側に粒子速度センサ及びマイクロホンを有し、閉口端内側にスピーカを有する音響管と、該スピーカから平面波が発生されるように所定周波数の信号で該スピーカを駆動し、この時に該粒子速度センサ及びマイクロホンからの出力信号を入力して、該開口端から所定近接間隔を置いて近接配置された試料の音響特性を演算する演算部とを備え、該粒子速度センサ及びマイクロホンが、共に該試料から等距離離れて該音響管内に配置されていることを特徴としている。
【0016】
すなわち本発明では、演算部が所定周波数の信号でスピーカを駆動することにより、音響管内に平面波が発生する。この平面波は音響管を伝わって試料への入射波になるが、この場合、粒子速度センサ及びマイクロホンは試料から等距離の各音響管内に配置されると共に、音響管の閉口端から試料までは近接した間隔(試料の音響特性に影響を及ぼさない範囲で近接した間隔)なので実質的に音響管は両端閉管を構成し、これにより、その試料からの反射波も実質的に入射波と同じ軌跡を辿る定在波となる。
【0017】
したがって、この平面波(入射波及び反射波)が粒子速度センサ及びマイクロホンを通過するとき、上記の図4(2)で説明したように、粒子速度センサ及びマイクロホンからの出力信号により演算部は試料の音響特性を測定することができる。
【0018】
上記の粒子速度センサ及びマイクロホンは、該平面波に対する指向性を有することにより、音響管と試料に間隙があっても、この間隙から侵入して来るような音波を無効にして入射波及び反射波のみに反応して音響特性を得ることができる。
【0019】
なお、上記の該粒子速度センサは、少なくとも2つの熱線であって、両熱線による粒子速度検出方向と該音響管の中心軸とが同じになるように配置されたものを備えたものであればよい。これにより、該粒子速度センサに、該音響管の中心軸方向の指向性(入射波及び反射波のみに対する指向性)が与えられることになる。
【0020】
さらに、上記の所定の周波数は、該音響管の最低次の固有周波数以下である。
【0021】
上記の音響管の長さとしては、好ましくは150mmから300mmであり、その内径は40mmから70mmである。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明に係る音響特性測定装置によれば、2マイクロホン方式を採らないので、音響管を小さくすることができ、例えば自動車内などの狭い閉空間でも扱うことが可能となる。
【0023】
また、従来の2マイクロホン方式を採用した音響特性の測定では、試料を音響管に詰め込む必要があり、試料を破壊する必要があったが、本発明では試料に近接させるだけで測定が出来ることから、試料を非破壊状態で測定が可能であり、また、接触により試料の音響特性が変化してしまうということが無く、より高精度で実際の使用態様に即した音響特性のデータを得ることが可能となる。
【0024】
また、粒子速度センサとマイクロホンを音響管内に配置したことから、取扱い性が高く、使用の際にはこれらセンサ類を音響管が保護することができる。さらには、簡易で小型の構成であるところから、自動車材料や建築材料など、現場でそのまま試料に対して測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明に係る音響特性測定装置1の一実施例を示したものである。この実施例は、図4(1)に示した従来の音響特性測定装置10に対して、粒子速度センサ2とマイクロホン3とスピーカ4を音響管5に設けた点が異なっている。そして、この音響管5は、試料6に対して接触せず一定の近接した間隔Dを置いて配置されると共に、長さLを有している。なお、この間隔Dは、音響管5が、試料の音響特性に影響を及ぼさない範囲でできるだけ近付けることが好ましく、例えば1cm以下である。このように、音響管5を試料6にできるだけ近付けることにより、音響管5は実質的に両端閉管となる。
【0026】
粒子速度センサ2とマイクロホン3は、音響管5の開口端5aの側で且つ管内に挿入設置されると共に試料6に対してほぼ等距離に設けられている。また、スピーカ4は、音響管5の閉口端5bに取り付けられ、開口端5aに対して音波を出力するように固定された密閉型スピーカである。
【0027】
なお、このような密閉型スピーカ4の代わりに、図2に示すように、フレキシブルチューブ9を用いて、スピーカ4を音響管5の開口端5bに接続するようにしてもよい。この場合、スピーカ4を音響管5から別の位置に配置できるので、試料6が狭い場所にある場合にも測定が容易となる。
【0028】
また、マイクロホン3にはコンデンサ型などが採用できる。
【0029】
ここで、粒子速度センサ2及びマイクロホン3で測定される音波は、試料6に対する入射波及び反射波の両方を用いる。このためには入射波と反射波ができるだけ同じ音圧モードを有する定在波であることが好ましいので、スピーカ4からは平面波を発生する必要がある。このため、演算部8からアンプ7を経由してスピーカ4に与えられる信号は、所定の周波数信号である。
【0030】
すなわち、測定に用いる入射波は、音響管5の最低次の固定周波数を上限周波数とした音波とすることにより、音響管5内での入射波及び反射波を平面波とすることができ、この平面波の入射波及び反射波を測定することで、音響特性を求めることができる。
【0031】
この上限周波数に関しては、音響管5が両端閉管の場合、音響管5の断面が円形で、半径をa、音速cとすると上限周波数Fcは、
Fc=0.586c/2a ・・・式(2)
で与えられる。
【0032】
また、断面形状が長方形の場合には、その長辺方向の長さをbとすると、
Fc=c/2b ・・・式(3)
で与えられることが知られている(「騒音防止設計とシミュレーション」1987年4月18日応用技術出版(株)発行参照。)。
【0033】
なお、図1及び図2に示した実施例では、上記のとおり、音響管5と試料6との間隔はD=1cm以下で非常に近接しており、実質的に音響管5が両端閉管構造となっているため、上記の式(2)又は式(3)で与えられる固有周波数以下であれば平面波を発生することができる。
【0034】
また、粒子速度センサ2とマイクロホン3は、音響管5内に生じる入射波及び反射波の、音響管5の断面方向の平面波を測定するものであるから、音響管5の長手方向の長さが分かれば、円柱形状であっても各柱形状のいずれであっても柱状であればよい。
【0035】
このように、演算部8によって駆動されたスピーカ4から発生された平面波が入射波又は反射波として粒子速度センサ2及びマイクロホン3を通過することにより、粒子速度センサ2及びマイクロホン3の出力信号は演算部8にチャネルCH1及びCH2として与えられる。そして、図4(2)に関して上述したように、演算部8は上記の式(1)に示す如く、音響特性としての、音響アドミッタンス、音響インピーダンス、反射率、又は吸音率を算出する。演算部8では、高速フーリエ解析(FFT)などによりこれらの音響特性を求めることができる。
【0036】
ここで、粒子速度センサ2及びマイクロホン3は、該平面波に対して、指向性を有する。この指向性は、入射波の方向及び反射波の方向双方に対する指向性である。
【0037】
すなわち、入射波は、粒子速度センサ2及びマイクロホン3を通過して試料6に当てられるが、この入射波に対する試料6からの反射波は、音響管5内の粒子速度センサ2及びマイクロホン3に送られる部分と、間隔Dから抜け出て行く部分とに分けられ、間隔Dから抜け出て行く部分がある反面、音響管5の周囲から何らかの音波が漏れ込んで来る。
【0038】
しかしながら、この漏れ込んで来た音波は試料6の音響特性とは何の関係も無いことから、粒子速度センサ2及びマイクロホン3はこれを検出しないようにする必要がある。
【0039】
このため、粒子速度センサ2及びマイクロホン3は、入射波の方向及び反射波の方向双方に対する指向性(互いに逆方向の指向性)を有することで、入射波と試料6からの反射波のみを検出することができる。
【0040】
図3は、粒子速度センサ2の構造を拡大して示したものである。図示のように、粒子速度センサ2は音響管5の内部に突き出た熱線21及び22を有しており、これらの熱線21及び22によって検出した温度差に基づいて粒子速度センサ2は粒子速度を検出する。この場合、熱線21及び22の配置により決定される粒子速度検出方向と、音響管5の中心軸(スピーカ4と開口部5aとを結ぶ軸)とが平行するように配置されている。これによって粒子速度センサ2は、上述した入射波と反射波の双方に対する指向性を有する。この場合、粒子速度センサ2の熱線21及び22は、入射波の進行方向の速度を検出するものであれば良く、2本に限定する必要はない。
【0041】
このように、粒子速度センサ2とマイクロホン3とにより試料6の音響特性を測定する場合に、粒子速度センサ2の粒子速度検出方向を、音響管5内に入射したスピーカ4の入射波の進行方向に合わせたことで、マイクロホン3と粒子速度センサ2とを音響管5内に配置した閉空間を移動する平面波による音響特性の測定を可能にしている。
【0042】
これにより、従来の2マイクロホン方式や開空間で音響特性を測定する場合と比較して、巨大な測定室などの測定空間を必要とせず、また試料6を破壊せずに非接触で音響管5の片側近傍に配置させるだけで簡易且つ非破壊で測定が可能となるので、簡易で小型の構成となり、自動車材料や建築材料など、現場でそのまま試料に対して測定することが可能となっている。
【0043】
なお、粒子速度センサ2とマイクロホン3は、音響管5に一体構成で設けてもよい。
【0044】
また、現場で試料の調査・計測を行う場合、この大きさの音響管を採用することで、小型化が可能となり、500Hz〜5kHz程度の音に対して測定が可能となる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づき、当業者によって種々の変更が可能なことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る音響特性測定装置の一実施例を示したブロック図である。
【図2】本発明に係る音響特性測定装置の別の実施例を示したブロック図である。
【図3】本発明に係る音響特性測定装置に用いられる粒子速度センサの構造を概略的に示した図である。
【図4】従来例(非特許文献1)として知られている音響特性装置を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1 音響特性測定装置
2 粒子速度センサ
3 マイクロホン
4 スピーカ
5 音響管
5a 開口端
5b 閉口端
6 試料(測定対象材料)
7 アンプ
8 演算部
9 フレキシブルチューブ
21, 22 熱線
図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口端側に粒子速度センサ及びマイクロホンを有し、閉口端側にスピーカを有する音響管と、
該スピーカから平面波が発生されるように所定周波数の信号で該スピーカを駆動し、この時に該粒子速度センサ及びマイクロホンからの出力信号を入力して、該開口端から所定近接間隔を置いて配置された試料の音響特性を演算する演算部とを備え、
該粒子速度センサ及びマイクロホンが、共に該試料から等距離離れて該音響管内に配置されていることを特徴とした音響特性測定装置。
【請求項2】
請求項1において、
該粒子速度センサ及びマイクロホンが、該平面波に対する指向性を有することを特徴とした音響特性測定装置。
【請求項3】
請求項1において、
該粒子速度センサが、少なくとも2つの熱線であって、両熱線による粒子速度検出方向と該音響管の中心軸とが平行するように配置されたものを備えていることを特徴とした音響特性測定装置。
【請求項4】
請求項1において、
該所定周波数が、該音響管の最低次の固有周波数以下であることを特徴とした音響特性測定装置。
【請求項5】
請求項1において、
該音響管の長さが150mmから300mmであり、その内径が40mmから70mmであることを特徴とした音響特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−292667(P2007−292667A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122481(P2006−122481)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】